(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタリング源及びコーティングシステム装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
C23C14/35 C
(21)【出願番号】P 2020530554
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018081799
(87)【国際公開番号】W WO2019110288
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-01
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517137767
【氏名又は名称】エリコン サーフェイス ソリューションズ アーゲー,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Surface Solutions AG,Pfaffikon
【住所又は居所原語表記】SCHWEIZ Pfaffikon CH-8808 Churerstrasse 120
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ツェーガー、 オスマール
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-512311(JP,A)
【文献】特開昭55-128580(JP,A)
【文献】特開2006-291357(JP,A)
【文献】米国特許第04826584(US,A)
【文献】米国特許第06375814(US,B1)
【文献】特開平08-199354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0219550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(2)をコーティングするためのマグネトロンスパッタリング源(1)であって、
前側にターゲット表面を有するターゲット(5)と、
前記ターゲット(5)の裏側にあるマグネトロン装
置(511、512)であって、内側磁石アセンブリ(512)と外側磁石アセンブリ(511)との間で前記ターゲット表面にループ形状の侵食ゾーン(20)を形成するために、前記ターゲット表面の近くに磁場を生成するためのマグネトロン装置(511、512)と
を含み、
前記侵食ゾーン(20)は、距離(d)を有する2つの平行なトラック(26)を有する中間セクションと、それぞれが前記平行なトラック(26)の隣接する端部を接続し、前記距離(d)の方向に前記距離(d)よりも大きいループ幅(w)を有する2つの湾曲した端部ループセクション(27)とを含み、
前記端部ループセクションをカバーする2つの幅の広い部分と前記中間セクションをカバーする1つの幅の狭い部分とを有する前記侵食ゾーンの主要形状をもたらし、
前記ターゲット(5)は細長い平板の装置として形成され、間に矩形の中央ゾーン(52)を有する2つの矩形の端部ゾーン(51、53)を含み、前記端部ゾーン(51、53)は前記中央ゾーン(52)よりも幅が広い、マグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項2】
前記
端部ループセクション(27)の形状は、矩形、三角形、菱形、円形、長円形、楕円形の基本形状の1つ又は組み合わせを含む、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項3】
前記平行なトラック
のそれぞれが直線状である、請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項4】
前記中間セクション及び前記
端部ループセクション(27)の少なくとも1つが、前記主要形状に沿った蛇行型二次形状を含む、請求項1、2又は3のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項5】
前記中間セクションにおける第1の蛇行振幅(Ma60)が、前記端部ループセクション(27)における第2の蛇行振幅(Ma70、Ma-max)よりも小さい、請求項4に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項6】
前記第1の蛇行振幅(Ma60)は、前記第1の蛇行振幅(Ma60)よりも大きくかつ前記第2の蛇行振幅(Ma70、Ma-max)よりも小さい蛇行振幅を有する少なくとも一つの蛇行を経て、前記第2の蛇行振幅(Ma70、Ma-max)に徐々に変化する、請求項
5に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項7】
前記中間セクションにおける第1の蛇行方向(d1)が、前記端部ループセクション(27)における第2の蛇行方向(d2)とは異なる、請求項4、5又は6に記載のマグネトロンスパッタリング源
(1)。
【請求項8】
前記端部ゾーン(51、53)及び前記中央ゾーン(52)は、バックプレート上に別々に取り付けられている、請求項
1に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタリング源(1)を含むコーティングシステム装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善されたコーティング厚さの均一性を達成し、特にターゲットの利用時間にわたってコーティング均一性のドリフトを低く維持するための新規なマグネトロンスパッタリング源の設計に関する。本発明はまた、そのようなマグネトロンスパッタリング源を含むコーティングシステム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングプロセス中、グロー放電プラズマにおけるガスイオンの発生は、ガス原子と電子の衝突によって引き起こされる。ターゲットに十分に高い負電圧を印加すると、ターゲットの前でグロー放電プラズマが維持され、正に帯電したガス種(アルゴンイオンなど)が高エネルギーでターゲット表面に加速される。このイオン衝撃は、ターゲット材料のノックオフ又はスパッタリングを引き起こし、したがって固体ターゲット材料の気相への変換を引き起こす。
【0003】
大きな長さ寸法の基板をコーティングする場合、又は多数の小さい基板を同時にコーティングしなければならない場合には、矩形ターゲットの使用が最も適している。物理蒸着(PVD)又はプラズマ支援化学蒸着(PACVD又はPECVD)の分野では、基板に薄いコーティング膜を堆積させるために矩形のスパッタリングカソードが使用される。マグネトロンスパッタリングの場合、ターゲット表面の近くにプラズマ電子を誘導して「集中」させるためにターゲット表面の近くに磁場が形成され、その結果、プロセスガスのイオン化が局所的に高まる。プラズマのシース内の電場によって加速されたターゲット表面へのイオンのフラックスは、ターゲット材料の侵食を引き起こす。ターゲット表面領域に局在する電子の程度は、磁場の局所的な強度とその方向によって決まる。ターゲット表面の侵食ゾーンは、磁力線がターゲット表面に平行又はほぼ平行な領域に局在する。磁場は、侵食ゾーンがターゲット表面にしばしば「侵食レーストラック」又は単に「レーストラック」と呼ばれる連結形状を形成するように配置される。これは、
図1aに概略的に示されている。
【0004】
本出願の文脈において、スパッタリング中にプラズマに曝されるターゲット表面は第2の表面又は前面と呼ばれ、磁石システムに向けられる反対側のターゲット表面は第1の表面又は裏側と呼ばれる。第2のターゲット表面の磁場は、通常、ターゲットの裏側、すなわち第1の表面に配置された矩形形状の永久磁石の平坦な磁石システムから生じる。最も単純な場合、このような磁石システムは、第1の表面に向けられた第1の極を有する複数の永久磁石を有することができる内側磁石アセンブリ111と、ターゲットの第1の表面に向けられた第2の極を有する外側磁石アセンブリ112とを含む。第1の極がN極の場合、第2の極はS極である。第1の極がS極の場合、第2の極はN極である。
【0005】
このような典型的な磁石システムは、
図1bに概略的に示されており、第1の極を有する少なくとも1つの永久磁石及び第2の極を有する少なくとも1つの永久磁石から磁場を生成する。磁力線が第2の表面に平行又はほぼ平行であるターゲットの第2の表面上の領域は、プラズマ電子がターゲット表面の近くでドリフト電流にトラップされる磁場トンネルとして作用する連結パターンを形成する。このような磁石の配置では、ターゲット表面上のレーストラック又は侵食ゾーン10は、このような磁場トンネルの第2のターゲット表面への投影の典型的な形状を有する。
【0006】
【0007】
以下の
図4は、既知のコーティングシステムの典型的な構成を示す。被コーティング部品(基板2)は、その長さ寸法に垂直にスパッタリング源1を通過している。スパッタリング源ターゲット5の長さの制限のために、コーティングの均一性の問題が生じる。矩形スパッタリング源の両端の領域でスパッタリング源を通過する部品のコーティング厚さは、より中央でスパッタリング源を通過する部品に比べて小さい。
【0008】
コーティング厚さの均一性を改善するための一般的な方法は、ターゲット表面の磁場を強化するために、時としてスパッタリング源の端部でより強力な又はより大きな磁石が使用され、より強い侵食を引き起こし、より高密度の蒸気フラックスをもたらす。
【0009】
しかしながら、これらの領域における磁場の強化により、ターゲットのスパッタリング侵食の増大がターゲットの端部ゾーンで行われる。この影響により、ターゲットの直線部分と曲がった端部ゾーンに沿って異なる侵食プロファイルが発生する。
【0010】
ターゲットの利用率は、レーストラックの最大深さを有する領域によって決定される。ターゲットは、この最大深さがターゲットの材料厚さより小さい場合にのみ使用できる。矩形ターゲットの利用率を高めるために、マグネトロンスパッタ源の侵食ゾーンの幅を拡大するいくつかの方法が報告されている。
【0011】
特許文献1は、対向する矩形ターゲットのレーストラックを広げることによって、平面基板上のコーティング厚さの均一性を高めるためのアプローチを開示している。この効果を得るために、特許文献1では第2のプレートが使用され、ターゲットの裏側に棒状の磁石の列を示し、全ての個々の磁石は同じ極性を有し、長さ方向にずらして整列される。加えて、特許文献1は、隣接する列の磁石がターゲット長さの長さ方向に同じ「高さ」位置にないように、第1の列の磁石を隣接する列の磁石から横方向及び縦方向にずらして配置することを必要とする。
【0012】
特許文献2は、矩形ターゲット用のバッキングプレートを開示し、バッキングプレートは互いに対向する内側及び外側の極を有する磁石アセンブリを示し、これにより内側の磁石は棒形状であり、ターゲット/バッキングプレートの中心線に沿って細長く、前記中心の棒から直角に外側に延びる等間隔の舌状部を示す。対応する外側の磁石は、内側の磁石に等距離で対向するように形成され、ターゲット上に対応する蛇行形状の侵食ゾーンを形成するように磁力線が矩形ターゲットをトンネルする。特許文献2は、侵食ゾーンを楕円形から蛇行形状に広げることにより、ターゲットの中央部分6においてターゲット材料の利用率及びスパッタリング収率を実質的に高めることができると述べている。
【0013】
対応する磁石アセンブリを有する例示的なレーストラックを以下の
図2bに示す。ターゲットの長さ方向に垂直な同じ極性の隣接する磁石間の距離は、ターゲット表面上のレーストラックの結果として生じる蛇行線の距離を決定し、
図2aでは蛇行周期Mpと呼ばれる。ターゲット長さに直交する曲がったレーストラック部分の拡張は、蛇行振幅Maで表現できることが分かる。
【0014】
特許文献3は、特許文献2と同様に、ターゲットの裏側の磁石配置の曲線部分の増加によりカソード表面のレーストラックを広げることにより、矩形カソードのスパッタリング効率を高めることを提案している。内側及び外側の磁石対は、これにより磁石ヨークを介して結合される。特許文献3は、ターゲットの裏側の蛇行形状、ジグザグ形、又はくし形の磁石配置によって磁気回路を形成することを述べているが、これにより矩形ターゲットの横方向及び長さ方向のスパッタリング収率が向上する。
【0015】
特許文献4は、第1の磁気極性を有する内側極と、第1の極と反対の磁気極性を有する外側極とを有する、矩形ターゲットの裏側で使用するためのマグネトロンを開示している。特許文献4は、例えば蛇行又は螺旋としてのマグネトロンの配置を覆う、対向する磁極のための幾何学的アセンブリのいくつかの例を提示しており、これは、プラズマをより幅が広いターゲット領域に分散させると説明されている。特許文献4はさらに、矩形ターゲットの裏側の磁場パターンを周期的に移動させてターゲットの侵食領域の均一性を改善する横方向走査方法を開示している。このアプローチは、ターゲットの機械的動作及び液体冷却を可能にするための多大な労力、ならびに他のアプローチと比較してスパッタ源及びマグネトロンアセンブリ全体のかなり大きな寸法を必要とする。
【0016】
マグネトロンアセンブリの伸長が本質的に矩形ターゲットと同じ長さである最先端のマグネトロンスパッタリング源では、ターゲットの横方向又は幅方向にターゲットのレーストラックゾーンを増大させることに全体的な焦点が置かれている。
【0017】
しかしながら、このようなマグネトロンカソードの長さにわたるより高いコーティング厚さの均一性に対する継続的な要求は、特にターゲットの全利用又は寿命にわたって達成することが困難であり、信頼性があり、経済的かつ大量生産可能な堆積装置の必要性を伴う。矩形スパッタリング源の長さの方向に延びるように配置された基板に均一なコーティングを行うために、基板がスパッタリング源の長さに対して垂直にスパッタリング源を通過する場合、コーティング材料蒸気の増強されたフラックスをスパッタリング源の長さの両端部ゾーンで生成しなければならない。
【0018】
図4は、マグネトロンスパッタ源1の一般的な構成を示しており、構成は、ターゲット5と、ターゲットの裏側にあるマグネトロンアセンブリとを示し、ターゲットの長さL及び幅W方向に本質的に同じ寸法を有する。ターゲット5は、回転スピンドル3aに取り付けられた1つ以上の基板2に対向し、回転スピンドル3aにより、基板2は、ターゲット5の前のコーティング蒸気4を繰り返し通過する。代替方法として、
図4bは、ターゲット5の前を1回又は複数回往復運動して通過する基板2の直線運動の状況を示している。
【0019】
ターゲットと磁石アレイとの間に一般に配置されるターゲットの冷却手段、ならびにターゲットの任意選択のバッキングプレートは、本発明の焦点ではないが、当業者に知られており、したがって更に詳細には説明しない。
【0020】
コーティングの均一性を改善する手段のない標準的なマグネトロン装置111、112(
図1b参照)では、スパッタリング源を通過する基板上の結果として生じるコーティング厚さは、スパッタリング源の長さ方向の中央位置で最大に達し、スパッタリング源の両端に向かう基板位置で減少が観察される。この状況を
図6の実線(標準)で例示する。
【0021】
明らかに、ほとんどの用途において、スパッタリング源の長さの方向の広い範囲にわたって均一なコーティング厚さが望まれる。これは、コーティング厚さの平均コーティング厚さからの偏差が、被コーティング面にわたって特定の値を超えてはならないことを意味する。コーティング厚さの均一性の向上は、コーティングされた部品の品質尺度の改善、又は部品を標準的な均一性でコーティングできる使用可能な長さを延長するために有益に使用できることを意味する。いずれの方法も、コーティングシステムの利用者に経済的利益をもたらす。さらに重要な要素は、ターゲット上のレーストラックの均一な侵食深さである。ターゲットの利用又は寿命は、レーストラック内の侵食が最も深い位置によって決定されるため、ターゲット材料の全体的な利用率は、ターゲットを横切るレーストラック全体にわたって侵食のより良好な均一性を達成するためのあらゆる手段によって改善される。これは、特に高価なターゲット材料の場合、又は長持ちするターゲットを必要とする量産コーティングシステムの場合に重要である。
【0022】
本発明の主要な本質は、被コーティング部品の表面の均一なコーティングとターゲットのレーストラック全体にわたる均一な侵食深さの両方を達成する手段を提供することである。
【0023】
改善されたコーティング厚さの均一性を達成するために、いくつかの既知の可能性が存在する。
【0024】
a)スパッタリング源のサイズ:
スパッタリング源のサイズは、基板をコーティングすることができる範囲の長さよりも実質的に大きく(例えば、ターゲット長さ方向により長く)することができる。しかしながら、このアプローチは、堆積装置全体のサイズをかなり大きくし、コーティング蒸気のより大きな部分が基板を越えた領域に堆積し、したがって失われるため、コーティング蒸気の利用率を減少させる。
【0025】
b)異なる強度の永久磁石の使用:
代替方法として、より強力な磁石(異なるタイプ又はより高密度の配置)をスパッタリング源の端部ゾーン7に使用して、中央ゾーン6と比較してこれらの端部ゾーンのスパッタリングターゲットの表面により強い磁場を生成することができる。これにより、侵食率が増大し、中央ゾーンと比較してこれらの端部ゾーンからのコーティング材料フラックスが大きくなる。このようにして、端部ゾーン7の近くでスパッタリング源を通過する基板のコーティング厚さの減少を低減することができ、被コーティング基板の均一性が改善される。しかしながら、ターゲットの利用又は寿命は最も深い侵食を有するレーストラック領域によって決定されるので、このアプローチは、ターゲット材料の正味の利用率が低下するため、かなりの欠点を有する。最大侵食深さに達すると、ターゲットを使い果たしたと見なさなければならない。バッキングプレート(ほとんどの場合、良好な冷却効率のために銅で作られている)に接着されたターゲット材料の場合、最も高い侵食率を有する位置での侵食がバッキングプレートに接着されたターゲット材料の厚さに達すると、ターゲットは使い果たされる。完全なターゲット(機械的安定性のために金属に限定される)の場合、ターゲット材料の残りの厚さがターゲットの裏側を流れる冷却液からの圧力に対して依然として機械的安定性を保証する特定の最小値に達したとき、ターゲットを使い果たしたと見なさなければならない。この場合も、最小ターゲット材料厚に関する基準は、侵食率が最も高い位置に適用される。
【0026】
ターゲット表面での侵食率とその分布は、他のパラメータの中でも、ターゲット材料、プロセスガス圧力、ターゲット組成、局所磁場などに強く左右される。したがって、均一なコーティング厚さのための最適パラメータは、異なるプロセス及びコーティング材料に対して異なり得る。一般的に、その長さにわたってかなり改善された均一性を有するマグネトロンスパッタリングカソードの場合、端部ゾーン内の局所的な位置における侵食率は、直線状の中央ゾーンよりも30%から最大100%大きい可能性があり、中央ゾーンと比較してターゲット端部ゾーンに、それに応じてより深く、時にはさらに狭い侵食深さプロファイルを残す(比較のために
図1c参照)。このため、ターゲットの大部分の侵食深さが最大許容深さよりもはるかに低いときにターゲットを交換しなければならない。その結果、スパッタリングターゲットをより頻繁に交換しなければならず、ターゲットを交換するためのメンテナンス作業がより頻繁になり、工業的利用のための生産性が低下する。さらに、未使用で高純度の、このため通常はかなり高価なターゲット材料の交換は、経済的に重要である。高価な材料の場合、使用済みターゲットのリサイクルは経済的に実行可能であるかもしれないが、常に追加コストに結びついている。ターゲット材料の利用率を効果的に改善する1つの方法は、端部ゾーンにおけるより大きな侵食を補償するために、端部ゾーンにおいてターゲット材料をより厚くすることである。このアプローチにより、ターゲットの利用時間と全体的なターゲット材料利用率の両方を増加させることができる。
【0027】
しかしながら、磁場強度を増加させることにより端部ゾーンにおける侵食率を増大させることで、更なる望ましくない副次的影響がある。局所的な侵食率は、ターゲットへの侵食の深さと共に変化する。一方、ターゲットの背後にある永久磁石からの磁場は磁石からの距離と共に減少するため、磁場強度は侵食レーストラックの深さが増加するにつれて侵食ゾーンにおいて強くなる。侵食がターゲット内に深く入り込むと、磁場の増加によりプラズマが高密度になり、これらのゾーンにおける侵食率が局所的に増加する。一方、ターゲット表面に本質的に平行な磁力線の幅は侵食レーストラックの深さと共に減少し、レーストラックの侵食幅を狭め、レーストラックからの有効なコーティング材料蒸気フラックスに悪影響を及ぼす。全体として、中央ゾーンと比較した端部ゾーンにおける侵食率の変化から、新しいターゲット用に最適化されている被コーティング部品の均一性は、ターゲットの侵食深さが増加するにつれて、すなわち、ターゲットの利用時間と共に最適化されたレベルから外れる。したがって、新しいターゲット用に最適化されたマグネトロンの構成は、生成時間にわたって安定した信頼できる堆積条件を提供することができない。これらのゾーンからの材料蒸気フラックスの狭まりを引き起こす、ターゲットへの侵食溝の形状のような他の影響は、ターゲットの利用時間にわたってドリフトする均一性に別の寄与をする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】欧州特許出願公開第297235号明細書
【文献】欧州特許出願公開第242826号明細書
【文献】特開2001-348663号公報
【文献】欧州特許出願公開第1553207号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
したがって、本発明の目的は、上述の制限を克服することを可能にするが、それでもなお矩形ターゲットの長さにわたってコーティング厚さの均一性を高める、マグネトロンスパッタ源を提供することである。本発明の目的は、改善されたコーティング厚さの均一性を達成し、特にターゲットの利用時間にわたって均一性のドリフトを低く維持するための新規なマグネトロンスパッタリング源の設計である。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の第1の態様によれば、基板をコーティングするためのマグネトロンスパッタリング源が提供され、このスパッタリング源は、前側(第2の表面)にターゲット表面を有するターゲットと、ターゲットの裏側(第1の表面)にあるマグネトロン装置であって、内側磁石アセンブリと外側磁石アセンブリとの間でターゲット(第2の)表面にループ形状の侵食ゾーンを画定するために、ターゲット表面の近くに磁場を生成するためのマグネトロン装置とを含み、侵食ゾーンは、距離(d)を有する2つの平行なトラックを有する中間セクションと、それぞれが平行なトラックの隣接する端部を接続し、距離(d)の方向に方向(d)よりも大きいループ幅(w)を有する2つの湾曲した端部ループセクションとを含み、端部ループセクションから基板への増大したコーティング材料フラックスを提供する。
【0031】
したがって、ターゲットの利用期間にわたってより安定した均一性を得るためにレーストラックの湾曲部の端部ゾーンにおいてレーストラック溝を特に拡幅することは、困難な課題である。特に、侵食溝の形成は、異なるターゲット材料及び異なるプロセスガス圧力及び組成を有するスパッタリングプロセスに対してある程度異なるので、この取り組みを複数のターゲット材料に対して行わなければならないことを考えれば。
【0032】
発明者は、利用期間にわたるコーティング厚さの均一性の安定のために、ターゲット全体の長さLにわたってレーストラックのほぼ同じ局所侵食率を維持しながら、矩形ターゲットの端部ゾーン7からの有効なコーティング材料フラックスを増加させることが非常に望ましいことを見出した。
【0033】
したがって、本発明は、
ターゲットの長さ方向及び幅方向において、ターゲット及びターゲットの背後のマグネトロンアセンブリの実質的に同じ全体寸法と、
単純な永久磁石アレイを有する矩形ターゲットのためのマグネトロンと比較して、ターゲットの長さに沿って測定される改善されたコーティング厚さの均一性と、
ターゲットの利用又は寿命にわたって改善された安定したコーティング厚さの均一性と、
ターゲットの全長及び幅にわたって、特にターゲットの両端部ゾーンにおいても、ターゲット表面のレーストラックにおける侵食深さの改善された均一性と、
等しい永久磁石の使用による低コストのマグネトロン設計と、
上記の目標を達成するために既存のマグネトロンスパッタ源を新しいマグネトロン設計で変更する可能性と
を可能にする、矩形ターゲット用のマグネトロン設計を提案する。
【0034】
主なアイデアは、スパッタリング源を通過する基板の動きの方向と実質的に同じターゲット上の方向において、ターゲットの端部ゾーンにおける侵食ゾーンの幅を中央ゾーンに対して拡張することである。このようにして、ターゲットの侵食率を局所的に増加させることなく、これらの端部ゾーンにおける基板への必要な有効コーティング材料フラックスを増加させる。これを達成するために、マグネトロンの永久磁石の配置は、例えば、より多くの又はより強い永久磁石を使用することによって、これらの端部ゾーンにおける磁場強度を必ずしも高めることなく、これらのゾーンにおける拡張された幅をカバーするようにこれらの端部ゾーンにおいて拡幅されなければならない。材料ターゲットの形状は、端部ゾーンをカバーする2つの幅の広い部分と幅の狭い中央部分とを有する「二重T字形状」に適合させることができる。
【0035】
本発明の第2の態様は、このようなマグネトロンスパッタリング源を含むコーティングシステム装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本発明のマグネトロンは、以下により詳細に説明され、本発明のいくつかの実施例及び実施形態は、添付の図面において例示のために提供される。
【
図1】既知のマグネトロンスパッタリングゾーン(レーストラック)
(a)、対応するマグネトロン装置(b)、及び対応する侵食深さ(c)を示す。
【
図2】侵食ゾーン(a)及び対応するマグネトロン装置(b)を有する別の既知のマグネトロンスパッタリング源を示す。
【
図3】既知の侵食ゾーンの形状(a)及び対応する侵食深さ(b)を示す。
【
図4】回転基板装置(a)及び平面基板装置(b)を有する既知のコーティングシステムを示す。
【
図5】侵食ゾーン(a)と、対応するマグネトロン装置(b)と、別のターゲット装置上に示される侵食ゾーン(c)とを含む、本発明によるマグネトロンスパッタリング源の第1の実施形態を示す。
【
図6】コーティングされた基板のコーティング厚さ図を示す。
【
図7】侵食ゾーン(a)と、対応するマグネトロン装置(b)と、代替的なターゲット上に示される侵食ゾーン(c)とを含む、本発明のマグネトロンスパッタリング源の第2の実施形態。
【
図8】蛇行型侵食ゾーンの形状(a)と対応するマグネトロン装置(
b)とを示す、本発明のマグネトロンスパッタリング源の第3の実施形態を示す。
【
図9】異なる蛇行型侵食ゾーン(a)と対応するマグネトロン装置(b)とを含む、本発明のマグネトロンスパッタリング源の第4の実施形態を示す。
【
図10】さらに異なる侵食ゾーン(a)と対応するマグネトロン装置(b)とを含む、本発明のマグネトロンスパッタリング源の第5の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図5、
図7、
図8、
図9及び
図10に示す実施形態を説明する前に、いくつかの一般的な実施形態を以下において説明する。ループセクションの形状が以下の基本形状、矩形、三角形、菱形円形、長円形楕円形の1つ又は組み合わせを含み、侵食ゾーンの二重T字形の主要形状をもたらす、マグネトロンスパッタリング源の実施形態がある。これら及び他の好適なループセクションの全てが、拡幅された端部ゾーンを可能にし、これらのゾーンで拡張された幅をカバーする。形状はまた、被コーティング基板の形状に合わせて選択又は配置され得る。
【0038】
二重T字形の主要形状の2つの端部ゾーンを異なるように設計することも可能である。例えば、一方の端部ゾーンは三角形の基本形状を有し、他方の端部ゾーンは円形の形状を有する。これは非対称のターゲットのコーティングに有益な場合がある。
【0039】
中間セクションにおける平行なトラックが2つの直線的な侵食セクションを含む実施形態がある。これにより、この領域の平行で直線的な磁場トンネルによるターゲット表面へのイオンの束の均一な分布が可能になる。
【0040】
更なる実施形態によれば、中間セクション及びループセクションの少なくとも1つが主要形状に沿った蛇行型二次形状を含む、スパッタリングマグネトロン源が提供される。このような蛇行型二次形状は、ターゲット材料のより効果的な使用を可能にする。
【0041】
更なる実施形態によれば、中間セクションにおける第1の蛇行方向は、端部ビューセクションにおける第2の蛇行方向とは異なる。このアプローチは、端部ゾーンの長さを調節する際により柔軟性を示す。
【0042】
更なる実施形態によれば、中間セクションにおける蛇行型二次形状の第1の蛇行振幅は、ループセクションにおける蛇行型二次形状の第2の蛇行振幅(大きい)とは異なる(小さい)。第1の蛇行振幅は、第1の蛇行振幅よりも大きくかつ第2の蛇行振幅よりも小さい蛇行振幅を有する少なくとも1つの蛇行を経て、第2の蛇行振幅に徐々に変化してもよい。
【0043】
別の実施形態によれば、ターゲット表面は細長いプレート装置として形成され、矩形の中央ゾーンを間に有する2つの矩形の端部ゾーン又は端部セクションを含み、端部ゾーンは中央ゾーンよりも幅が広い。これは、スパッタリング源の製造中の材料を節約する。
【0044】
端部ゾーン及び中央ゾーンがバックプレート上に別々に取り付けられる実施形態では、より一層の柔軟性を得ることができる。
【0045】
更なる実施形態では、内側及び外側磁石アセンブリは、侵食ゾーンの侵食深さを侵食ゾーンに沿って等しく維持するように設計及び配置されている。これにより、コーティングプロセス中にスパッタリング源材料を均等に消費することができる。
【0046】
本発明の全ての実施形態について、磁石アセンブリの裏側にある磁石ヨークが優先的に使用されるが、当業者は本発明に従ってこのような磁石ヨークを実施する方法を知っているので、本明細書ではこれ以上説明しない。
【0047】
全ての実施形態について、ターゲット表面上の磁場は通常、矩形形状の永久磁石の平坦なアレイによって形成される。このアレイは、スパッタリングターゲットの背後、すなわち堆積中にプラズマに面していない方向に配置される。永久磁石は、ターゲット表面に「二重T字形」のレーストラックを得るために、様々な実施形態に対応するアレイに常に配置される。磁力線は、一方の極性の第1の磁石の表面を出て、第1の磁石の隣にある反対の極性の磁石の表面に入る。反対の極性の第1の磁石と第2の磁石との間では、磁力線は、特定の幅にわたってターゲット表面に対して平行又はほぼ平行である。異なるサイズの永久磁石を使用する代わりに、より小さな等しい形状の磁石のスタックを使用して、磁場を生成する磁石形状の所望のサイズをマグネトロンに適合させることができる。
【0048】
全ての実施形態において、端部ゾーン70の長さの延長は、ターゲット全長の最大30%である。「二重T字形」を形成する磁石アセンブリの遷移は、幅の広い端部ゾーン70から幅の狭い中央ゾーン60に向かって段階的又は漸進的であり得る。
【0049】
本発明のマグネトロンの設計を矩形ターゲットの裏側に適用する場合、全体的な矩形ターゲット形状を維持することは、機械的安定性(例えば、ターゲットの裏側の冷却水圧力を含む)の点で有益であるが、ターゲットの中央部分が特定の条件下で完全に使い果たされる可能性があることは明らかである。バッキングプレートに接着されたターゲット材料の場合、ターゲット材料は3つの部分、すなわち1つの幅の狭い中央ゾーン部分と2つの幅の広い端部ゾーン部分とにタイル化することができる。
【0050】
代替方法として、所与の寸法(長さ及び幅)を有する既存のターゲットの場合、端部ゾーン70の幅を拡幅する必要はないが、中央ゾーンに対応する磁石アセンブリの幅を狭くして、スパッタリング源を通過する基板の端部ゾーン及び中央ゾーンにおける全コーティング蒸気フラックスの間で同じ比率を得ることができる。これにより、ターゲットに「二重T字形」の侵食ゾーンが生じ、端部ゾーンでのみコーティング蒸気材料フラックスが増強される。
【0051】
本発明の第1の実施形態では、標準的な矩形マグネトロンスパッタリング源は、本発明の方法で、中央ゾーン6にある本質的に2つの直線的な侵食セクション26からなるレーストラックと、侵食端部ゾーンの幅Wが拡張されたループセクション27を形成する端部ゾーン7にある湾曲したレーストラックとを形成する侵食ゾーン20を示すように適合させることができる。
図5aは、適切に「適合された」マグネトロンスパッタリング源のための完全なターゲットのレーストラック20の形状を示す。
図5bは、ターゲットにそのようなレーストラックの「二重T字形」を形成するための、ターゲットの背後の永久磁石の概略的な配置を示す。アセンブリの内側磁石512及び外側磁石511、501、502、503は、反対の極性を示す。
図5cは、幅の広い端部ゾーン51、53と、その間の幅の狭い中央ゾーン52とを使用することによりマグネトロンアセンブリの「二重T字形」に従ってターゲット形状を適合させることによりターゲット材料の量を最小限に抑える対応する方法を示す。端部ゾーン51、53及び中央ゾーン52は矩形形状である。それらは、別々に(
図5c)又は一体的に(
図5a)配置することができる。端部ゾーン7及び中央ゾーン6は、同じ幅で設計することもでき、いくつかの実施形態では、ターゲット5(
図5a)を一体的に形成している。ターゲット材料は、例えば、既存のスパッタ源に適合するように、及び/又は既存のスパッタ堆積プラントの冷却手段に適合するように、バックプレートに接着することができる。
【0052】
本発明のこの実施形態の別の実施例を
図7a)から
図7b)に示す。レーストラックは、「二重T字形の」レーストラック20を得るために、幅の広い端部ループセクション27から、ターゲットの長さ寸法に対して2つの平行なトラック26を有する幅の狭い中間セクションへと遷移している。端部ゾーン7、53内のループセクション27は、中央ゾーン6、52内のレーストラック20に、ターゲット5の長さ寸法に対して傾斜した直線経路28によって接続され、それにより端部ゾーン7、51、53内の幅の広いループセクション27、28の、中央ゾーン6、52内の平行なトラック26への漸進的な遷移を形成する。この形状のレーストラック(侵食ゾーン20)の場合、端部ゾーンの長さが長くなっている。したがって、この遷移経路28の長さの選択によって、コーティングの均一性をさらに改善することができる。
図7bは、
図7aに示されるようなレーストラック形状をもたらす、内側磁石512及び外側磁石511を有する永久磁石の構成を示す。しかしながら、ターゲット上のレーストラック20の長さがそれ以上増加しないので、ターゲットの所与の長さ寸法及び幅寸法に対して、端部ゾーンを形成する全侵食材料蒸気フラックスを任意に増大させることはできない。
【0053】
幅の広い端部ゾーン及び幅の狭い中心ゾーンを使用するという本発明の概念は、特許文献2のスパッタリング源のような既知の蛇行型レーストラックのスパッタリングマグネトロン源のコーティング厚さ分布を改善するために特に適用できる。
【0054】
別の実施形態において、本発明は、例えば、それぞれMp60及びMp70と呼ばれる、中央ゾーン60及び端部ゾーン70の蛇行周期長を変更せずに中央ゾーン60における蛇行振幅Ma60を減少させることによって実現することができる(
図8a参照)。これは、磁石の中心線から両側から垂直に延びる永久磁石の長さを短くし、中心線磁石に向かって反対の極性の「フレーム」を構成する両側の線上の線磁石から中央ゾーン内への範囲を短くすることによって達成することができる。
図8bは、
図8aに示すようなレーストラックの形状を作り出すスパッタリングターゲットの背後の永久磁石の配置を概略的に示す。この実施例では、端部ゾーン70は、中央ゾーン60よりも大きな振幅Ma70を有する2つの蛇行期間を示し、端部ゾーン70がターゲットの幅方向に広がっている。
【0055】
これらの端部ゾーンには離散数の周期しか収容できないので、これらの端部ゾーンからの有効コーティング蒸気フラックスの良好な調整は、例えば、中央ゾーンにおける狭い蛇行振幅Ma60から端部ゾーンにわたる広い振幅Ma70への2段階の遷移によって達成することができる。より多くの蛇行周期を含むことによってターゲットの中央ゾーン60から端部ゾーン70に向かう蛇行振幅Maの漸進的な遷移が得られ、それにより最大蛇行振幅Ma-maxはターゲットの最も外側の領域に配置される。
図9aは、ターゲットの全長において端部に向かって蛇行振幅が漸進的に変化するレーストラック形状を示し、
図9bは、ターゲット上にそのようなレーストラック形状を生成する永久磁石の対応する配置を概略的に示す。当分野の専門家は、レーストラックの形状及び対応するコーティング厚さの分布を改善するために、本発明の発見に従って磁石配置をどのように調整するかを知る。
【0056】
本発明の別の実施形態では、端部ゾーンにおける蛇行振幅Ma70は、ターゲットの長さ方向に延び、幅方向に延びる中央ゾーンの蛇行振幅Ma60よりも長い。この状況は、
図10aに例示的に示されており、端部ゾーン70は、この場合も「二重T字形」のレーストラックを示す。この場合、スパッタリングゾーンも幅方向に効果的に広げられる。このアプローチは、端部ゾーンの長さを調節する際により柔軟性を示す。したがって、蛇行振幅Maは、中央ゾーン60に対するターゲット端部ゾーン70からのコーティング蒸気フラックス率を「調整」又は最適化するための効果的な手段である。
図10bは、スパッタリングターゲットの背後にある永久磁石の配置を概略的に示しており、上記の発見と関係している。
【0057】
本発明の別の実施形態では、マグネトロンアセンブリ全体にわたって一定の蛇行周期Mpを実現するために、同じ極性を有する磁石の長さを選択しなければならない。磁石の長さは、同じ断面を有するより小さい磁石を使用し、それらを積み重ねて所望の長さを得ることによって調節することができる。
【0058】
中央ゾーン60の長さ、したがって両端部ゾーン70の長さは、コーティングシステムの特定の形状に対して最適化されなければならないパラメータである。重要なパラメータは、ターゲットからのスパッタリング材料蒸気フラックスを通過するときのターゲット表面から部品の距離である(ターゲットと基板の距離)。ターゲットの長さが90cm、ターゲットの幅が28cm、部品がスピンドル上で回転し、ターゲットから部品表面までの最小距離が14cmの典型的な例では、端部ゾーンの長さは10~25cmの範囲であり、中央ゾーンの長さは40~70cmである。蛇行周期の選択は、主にターゲット表面から永久磁石の距離によって決まる。厚さが14mmの典型的なターゲットの場合、ターゲットの背後の水冷手段はさらに12mmを必要とし、ターゲット上の侵食レーストラック表面から永久磁石前面までの合計距離が26mmになる。反対方向に分極された永久磁石を有する磁石配置は、
図4に示されるようなコーティングシステムにおいてスパッタコーティング率を達成するのに十分な高い磁場強度をターゲット表面上のレーストラックにおいて得るために、永久磁石の分離がターゲット表面からの距離と同様のサイズでなければならないことを必要とする。この事実を考慮すると、合理的な最小蛇行周期長は、ターゲット表面から永久磁石の距離の2倍程度でなければならない。上記の例に従えば、最小蛇行周期は少なくとも50mm程度である。
【0059】
直線及び/又は蛇行レーストラック型のマグネトロンスパッタリング源及びそれらの可能な組み合わせのための上記のすべての例は、永久磁石の配置がレーストラック領域においてターゲットの表面平面に平行な磁場の局所的な強度を本質的に変化させず、中央ゾーン60及び端部ゾーン70の両方においてレーストラック内の侵食率がほぼ等しくなるという共通点を有する。結果として、コーティング均一性と侵食均一性の両方の改善された安定性が、ターゲットの利用時間にわたって得られる。
【0060】
この後者の性能品質は、シャドウイングマスクの調整のような、コーティングの均一性に関する是正措置のために容易にアクセスすることができず、非生産的な割り込みシステムの利用をもたらす、自動イン線コーティングシステムで使用されるスパッタリング源にとって特に重要である。
【0061】
レーストラックの侵食ゾーンを狭めることによりスパッタリング源の中央ゾーンにおける有効コーティング蒸気フラックスを減少させると、ターゲットに印加される特定のスパッタリング電流に対する総コーティング率が明らかに低くなる。印加されるスパッタリング電流は、ターゲット表面のすべてのレーストラック領域の合計であるため、中央ゾーンにおけるスパッタリング電流束を犠牲にして、より多くの総スパッタリング電流束(又は電力束)が端部ゾーンにシフトされる。スパッタリング源がターゲットの冷却限界で動作していない限り、使用される電源もその極限電力で動作していないと仮定すると、低い総コーティング率を補償するために総スパッタリング電力(又は電流)を適宜増加させることができる。
【0062】
侵食レーストラック幅又は蛇行振幅を制限することにより中央ゾーンからのコーティング蒸気フラックスを減少させることは、もはや矩形ターゲットの全幅を蒸気フラックス生成のための侵食に利用できなくするので、この中央ゾーンにおけるターゲット材料利用の減少と見なすことができる。その結果、ターゲット材料の全体的な材料利用率は、このようなマグネトロンスパッタリング源では減少する。この欠点を克服するための可能な方法は、ターゲット材料の表面を3つのセグメントにタイル化されたターゲットを使用することである。3つのセグメントは、バッキングプレートに接着されている、中央ゾーン6、60及び2つの端部ゾーン7、70に対応する。ターゲット材料中央ゾーン60の幅は、この領域内のレーストラック26の幅のみをカバーするように縮小することができる。矩形形状の完全なターゲットの場合、不均一性が最適化されたスパッタリング源と比較して、利用率は幾分悪くなるように見える。しかしながら、コーティングを生成するには狭い範囲の均一性が要求されるので、最適化されたスパッタリング源を用いてより均一なコーティング領域を得ることができ、材料の使用において全体的により良好な効率が得られる。さらに、完全なターゲットを用いたコーティング材料の総使用量は、バッキングプレート上の接着されたターゲット材料を用いた場合よりも常に低いため、完全なターゲットは通常、特に均一性要件を通過しない部品のスクラップコストに比べて材料使用率がわずかな運転コスト要因である比較的安価な材料に対してのみ使用される。
【0063】
原則として、ターゲットの幅及び/又は長さ方向における蛇行振幅の変化、又は本発明の異なる実施形態の組み合わせは、該当する場合に以下の基準が満たされる限り、本発明の焦点となる。
・単位長さあたりの強度が等しく、分極がその長さ寸法に垂直な永久磁石のみが、本発明のマグネトロンスパッタリング源のアセンブリに使用される。
・反対の極性の磁石は、ターゲット表面のレーストラック内の磁場の同等の垂直断面プロファイル及び強度分布を実現するために、本質的に等しい距離で組み立てられる。
・磁石アセンブリは、ターゲットを通って延び、全体的な「二重T字形」を囲む磁場を生じ、ターゲット上の対応する「二重T字形」のレーストラックにおける侵食の局所化を引き起こす。
・等しい極性の隣接する磁石間の蛇行周期Mpは、中央ゾーン60及び端部ゾーン70において一定である。
・蛇行振幅Maは、中央ゾーン60における蛇行振幅Ma60の下限と、端部ゾーン70における上限Ma-maxとの間で変更することができ、振幅Ma60の下限は0であることができ(すなわち、直線形状のレーストラック)、上限Ma-maxはターゲットの幅からレーストラック自体の幅を引いたものの半分であることができる(レーストラックは重なり合うことができない)。
・最大蛇行振幅Ma-max(マグネトロンアセンブリの最も長い蛇行振幅)は端部ゾーン70に位置する。
【0064】
第2の表面又は前側を有する、マグネトロンスパッタリング源の本発明の使用済み板状材料基板が開示された。
・第2の表面は、侵食の深さが最大となる中央トレンチ線を有するトレンチとして閉じた侵食ゾーンを含み、中央トレンチ線の各点で局所的なトレンチの深さが定義される。
・侵食トレンチのトレンチ縁は、侵食深さが中央侵食深さの10%である線によって定義される。
・トレンチ幅は、中央トレンチ線の周囲に配置されたトレンチ縁の距離として定義される。
・トレンチ線全体に沿った局所的なトレンチの深さは実質的に等しい。
・中央トレンチ線は、x方向と垂直なy方向平面とにまたがる平面内に延びる。
・中央トレンチ線の各点は平面内のy方向の無限ストライプに形成することができ、そのx方向の幅はトレンチの幅に対応し、各点はストライプの中心線上にある。
【0065】
本発明の基板は、ストリップ内に延びる中央トレンチ線の断片の長さの合計が中央トレンチ線の任意の点で定義される全てのストライプについて実質的に同じであることを特徴とする。
【0066】
本発明の更なる実施形態及び変形例は、特許請求の範囲内で当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0067】
1 スパッタリング源
2 基板
3a 回転スピンドル
4 コーティング蒸気
5 ターゲット
6 中央部分/中央ゾーン
7 端部ゾーン
10 侵食ゾーン/レーストラック
11 ループセクション/ループ形状レーストラックセクション
12 侵食セクション/トラック
13 ループセクション/ループ形状レーストラックセクション
20 侵食ゾーン/レーストラック
26 侵食セクション/トラック
27 ループセクション/ループ形状レーストラックセクション
28 (遷移)経路
50 マグネトロン装置
51 端部ゾーン
52 中央ゾーン
53 端部ゾーン
60 中央ゾーン
70 端部ゾーン
100 コーティングシステム装置
111 内側磁石アセンブリ
112 外側磁石アセンブリ
501 外側磁石
502 外側磁石
503 外側磁石
511 外側磁石(アセンブリ)
512 内側磁石(アセンブリ)
C 中心線
d 距離
d1 第1の蛇行方向
d2 第2の蛇行方向
Ma 蛇行振幅
Ma60 蛇行振幅
Ma70 蛇行振幅
Ma-max 最大蛇行振幅
Mp 蛇行周期
Mp60 蛇行周期長
Mp70 蛇行周期長
W 幅