(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】溶媒としての使用のための、再生可能な高度にイソパラフィン化された蒸留物
(51)【国際特許分類】
C07C 9/16 20060101AFI20230630BHJP
C07C 9/22 20060101ALI20230630BHJP
C07C 7/04 20060101ALI20230630BHJP
C07C 6/08 20060101ALI20230630BHJP
C07C 1/213 20060101ALI20230630BHJP
C10G 3/00 20060101ALI20230630BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230630BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230630BHJP
【FI】
C07C9/16
C07C9/22
C07C7/04
C07C6/08
C07C1/213
C10G3/00 Z
C09D7/20
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020536621
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2018086111
(87)【国際公開番号】W WO2019129625
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-09-21
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンドベルグ、カティ
(72)【発明者】
【氏名】レメ、ビルピ
(72)【発明者】
【氏名】ノルティオ、イェンニ
(72)【発明者】
【氏名】カルボ、アンナ
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503855(JP,A)
【文献】特表2011-526640(JP,A)
【文献】特表2018-519374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 9/22
C07C 7/04
C07C 9/16
C07C 1/213
C07C 6/08
C10G 3/00
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
91.0wt%以上のi-パラフィンを含み、および150℃~260℃の範囲にある沸点を有する溶媒組成物であって、前記溶媒組成物が、再生可能な原料に由来
し、
前記溶媒組成物中の総計のi-パラフィンに対して、55.0wt%より多い、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンを含み、
C5~C15パラフィンの含有量が、前記溶媒組成物の全体に対して、95wt%以上である溶媒組成物。
【請求項2】
C5~C15パラフィンの含有量が、前記溶媒組成物の全体に対して、96wt%以上、または97wt%以上、または98wt%以上、または99wt%以上である請求項1記載の溶媒組成物。
【請求項3】
C5~C16パラフィンの含有量が、前記溶媒組成物の全体に対して、9
6wt%以上である請求項1または2記載の溶媒組成物。
【請求項4】
-50℃以下である氷点、および/または、85℃以下であるアニリン点を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の溶媒組成物。
【請求項5】
21.5以上であるカウリブタノール(KB)価を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の溶媒組成物。
【請求項6】
前記溶媒組成物中のi-パラフィンの含有量が、92.0wt%以上、または93.0wt%以上、または94.0wt%以上、95.0wt%以上、96.0wt%以上、97.0wt%以上、97.5wt%以上、または98.0wt%以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の溶媒組成物。
【請求項7】
前記溶媒組成物中の総計のi-パラフィンに対して
、60.0wt%より多い、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンを含む請求項1~6のいずれか1項に記載の溶媒組成物。
【請求項8】
C5~C16パラフィンの含有量が
、99wt%以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の溶媒組成物。
【請求項9】
コーティング、塗料、ラッカー、ニス、ワニス、インク、接着剤、シーラント剤、樹脂、プラスチック、洗浄用組成物、色素分散物、抗酸化剤、殺生物剤、殺虫剤、エアフレッシュナー、作物防疫組成物、洗剤、グリース除去組成物、ドライクリーニング組成物、化粧品、パーソナルケア組成物、歯科用印象材、ワクチン、食品原料成分、香料組成物、香水、天然オイル抽出、油田化学品、掘削液組成物、抽出プロセス組成物、エラストマーのための可塑剤、製紙用化学品、潤滑油、機能液、変圧器油、金属加工組成物、圧延液または切削液、水処理組成物、木材処理組成物、建築用化学品、離型剤材料、爆発物、鉱業用化学品、またはこれらの組み合わせ中の溶媒としての、請求項1~8のいずれか1項に記載の溶媒組成物の使用。
【請求項10】
前記溶媒組成物が、塗料中の溶媒として、または、コーティング中の溶媒として使用される請求項9記載の使用。
【請求項11】
医薬組成物を製造するための溶媒としての請求項1~8のいずれか1項に記載の溶媒組成物の使用。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の溶媒組成物を製造するための方法であって、以下の工程:
(i)再生可能な原料を提供する工程;
(ii)異性化された原料を提供するために、前記再生可能な原料を水素化処理および/または異性化する工程;
(iii)前記異性化された原料を蒸留し、それによって、150℃~260℃、または160℃~250℃、または170℃~240℃の範囲で沸騰する留分を得る工程であって、前記留分が溶媒組成物として、任意にはさらなる精製の後に、回収される工程
を含む方法。
【請求項13】
前記再生可能な原料が、ワックス、脂肪、またはオイルである請求項
12記載の方法。
【請求項14】
前記再生可能な原料が、植物(藻類および菌類を含む)由来、動物(魚類を含む)由来、または微生物由来の脂肪またはオイル、または、野菜のオイル/脂肪、動物のオイル/脂肪、食品工業からの廃棄物オイル/脂肪、藻類オイル/脂肪および/または微生物オイル、または、パーム油、菜種油、藻類オイル、ヤトロファオイル、大豆油、料理油、植物油、動物性脂肪および/または魚の脂肪である請求項
12または
13記載の方法。
【請求項15】
水素化処理および/または異性化する前記工程(ii)が、前記再生可能な原料を水素化処理する工程(ii-1)、および、前記水素化処理する工程(ii-1)で得られた水素化処理された材料を異性化する工程(ii-2)を含む請求項
12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
異性化が、異性化段階および再異性化段階を含むプロセス中で行われ、前記再異性化段階が、少なくとも200℃の沸騰開始点を有する留分を再異性化することを含み、前記留分が、前記異性化段階において得られる生成物の分留によって得られて異性化段階へと戻される請求項
12~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能な、高度にイソパラフィン化された(i-paraffinic)溶媒組成物、その使用、およびその製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒使用においては、より少ないVOC(揮発性有機化合物、volatile organic carbon)への集約およびより安全な代替品へと向かう傾向、ならびに、確立された化石系溶媒組成物を再生可能な原料から得られる溶媒組成物(再生可能な溶媒組成物)によって置換するという傾向がある。しかしながら、従来技術においては、好ましい全溶媒特性、例えば良好な低温特性および高い溶解力などを再生可能な溶媒組成物で達成することは困難であることが見出されていた。
【0003】
特許文献1は、320°F~650°Fの範囲で沸騰するC8~C20のn-パラフィンおよびi-パラフィンの混合物を含む、高純度溶媒組成物を記載している。
【0004】
特許文献2は、主にC14およびC15のパラフィンからなるパラフィン系溶媒組成物に関する。
【0005】
しかしながら、これらの溶媒組成物における溶解力と低温特性とのあいだのバランスは、依然として、改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第876444号明細書
【文献】国際公開第2015/101837号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、独立クレームに規定される。さらに、有益な実施形態が従属クレームに示されている。特には、本発明は、一またはそれ以上の以下の事項に関する:
1. 91.0wt%以上のi-パラフィン(イソパラフィン)を含み、および150℃~260℃の範囲にある沸点を有する溶媒組成物であって、前記溶媒組成物が、再生可能な原料に由来する溶媒組成物。
2. 160℃~250℃、好ましくは170℃~240℃の範囲にある沸点を有する上記1記載の溶媒組成物。
3. 前記溶媒組成物中の総計のi-パラフィンに対して、50.0wt%より多い、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンを含む上記1または2記載の溶媒組成物。
4. C5~C16パラフィンの含有量が、前記溶媒組成物の全体に対して、90wt%以上、好ましくは95wt%以上、96wt%以上、97wt%以上、98wt%以上、または99wt%以上である上記1~3のいずれかに記載の溶媒組成物。
5. -50℃以下、好ましくは-60℃以下、より好ましくは-65℃以下、-68℃以下、-70℃以下、または-72℃以下である氷点を有する上記1~4のいずれかに記載の溶媒組成物。
6. 85℃以下、好ましくは83℃以下、81℃以下、80℃以下、79℃以下、または78℃以下であるアニリン点を有する上記1~5のいずれかに記載の溶媒組成物。
7. 21.5以上、好ましくは22.0以上、23.0以上、24.0以上、25.0以上、26.0以上、または27.0以上であるカウリブタノール(KB)価を有する上記1~6のいずれかに記載の溶媒組成物。
8. 前記溶媒組成物中のi-パラフィンの含有量が、92.0wt%以上、好ましくは93.0wt%以上、より好ましくは94.0wt%以上、95.0wt%以上、96.0wt%以上、97.0wt%以上、97.5wt%以上、または98.0wt%以上である上記1~7のいずれかに記載の溶媒組成物。
9. 前記溶媒組成物中のi-パラフィンの含有量が、100wt%以下、好ましくは99.8wt%以下、99.5wt%以下、99.2wt%以下、または99.0wt%以下である上記1~8のいずれかに記載の溶媒組成物。
10. 前記溶媒組成物中の総計のi-パラフィンに対して、55.0wt%より多い、好ましくは60.0wt%より多い、65.0wt%より多い、または70.0wt%より多い、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンを含む上記1~9のいずれかに記載の溶媒組成物。
11. C5~C15パラフィンの含有量が、溶媒組成物の全体に対して80wt%以上、好ましくは85wt%以上、90wt%以上、95wt%以上、96wt%以上、97wt%以上、98wt%以上、または99wt%以上である上記1~10のいずれかに記載の溶媒組成物。
12. C5~C16パラフィンの含有量が、溶媒組成物の全体における全てのC5~C16パラフィンに対して、55wt%以上、好ましくは58wt%以上、60wt%以上、62wt%以上、64wt%以上、65wt%以上、または66wt%以上である上記1~11のいずれかに記載の溶媒組成物。
13. C5~C15のi-パラフィンの含有量が、溶媒組成物の全体における全てのC5~C15パラフィンに対して、50wt%以上、好ましくは、55wt%以上、58wt%以上、60wt%以上、62wt%以上、64wt%以上、または65wt%以上である上記1~12のいずれかに記載の溶媒組成物。
14. コーティング、塗料、ラッカー、ニス、ワニス、インク、接着剤、シーラント剤、樹脂、プラスチック、洗浄用組成物、色素分散物、抗酸化剤、殺生物剤、殺虫剤、エアフレッシュナー、作物防疫組成物、洗剤、グリース除去組成物、ドライクリーニング組成物、化粧品、パーソナルケア組成物、医薬組成物、歯科用印象材、ワクチン、食品原料成分、香料組成物、香水、天然オイル抽出、油田化学品、掘削液組成物、抽出プロセス組成物、エラストマーのための可塑剤、製紙用化学品、潤滑油、機能液、変圧器油、金属加工組成物、圧延液または切削液、水処理組成物、木材処理組成物、建築用化学品、離型剤材料、爆発物、鉱業用化学品、またはこれらの組み合わせ中の溶媒としての、上記1~13のいずれかに記載の溶媒組成物の使用。
15. 前記溶媒組成物が、塗料中の溶媒として使用される上記14記載の使用。
16. 前記溶媒組成物が、コーティング中の溶媒として使用される上記14記載の使用。
17. 上記1~13のいずれかに記載の溶媒組成物を製造するための方法であって、以下の工程:
(i)再生可能な原料を提供する工程;
(ii)異性化された原料を提供するために、前記再生可能な原料を水素化処理および/または異性化する工程;
(iii)前記異性化された原料を蒸留し、それによって、150℃~260℃、好ましくは160℃~250℃、および最も好ましくは170℃~240℃の範囲で沸騰する留分を得る工程であって、前記留分が溶媒組成物として、任意にはさらなる精製の後に、回収される工程
を含む方法。
18. 前記再生可能な原料が、ワックス、脂肪、またはオイルである上記17記載の方法。
19. 前記再生可能な原料が、植物(藻類および菌類を含む)由来、動物(魚類を含む)由来、または微生物由来の脂肪またはオイル、特には、野菜のオイル/脂肪、動物のオイル/脂肪、食品工業からの廃棄物オイル/脂肪、藻類オイル/脂肪および/または微生物オイル、例えば、パーム油、菜種油、藻類オイル、ヤトロファオイル、大豆油、料理油、植物油、動物性脂肪および/または魚の脂肪である上記17または18記載の方法。
20. 水素化処理および/または異性化を行う前記工程(ii)が、ジェット燃料の製造に最適化されている条件下で行われる上記17~19のいずれかに記載の方法。
21. 水素化処理および/または異性化する前記工程(ii)が、前記再生可能な原料を水素化処理する工程(ii-1)、および、前記水素化処理する工程(ii-1)で得られた水素化処理された材料を異性化する工程(ii-2)を含む上記17~20のいずれかに記載の方法。
22. 異性化が、異性化段階および再異性化段階を含むプロセス中で行われる上記17~21のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明が、ここで、具体的な実施形態を参照して詳細に説明される。実施形態の任意の特徴は、別の実施形態の任意の特徴と、そのような組み合わせが矛盾をもたらさない限り組み合わされてもよいことに留置すべきである。
【0009】
本発明は、91.0wt%以上のi-パラフィンを含み、および150℃~260℃の範囲にある沸点を有する溶媒組成物であって、再生可能な原料に由来する溶媒組成物に関する。溶媒組成物が、160℃以上、より好ましくは170℃以上である沸点(沸騰が開始する点)を有することが好ましい。溶媒組成物が、250℃以下、より好ましくは240℃以下である沸点(沸騰が終了する点)を有することが好ましい。沸点は、特に好ましくは、160℃~250℃、より好ましくは170℃~240℃の範囲にある。
【0010】
本発明の発明者らは、卓越した溶媒特性および低い沸点を有しているにもかかわらず、室温での中程度の蒸気圧を有している留分が、高度に異性化された生物学的原料から得られ得ることを発見した。本発明の溶媒組成物はさらに、比較的低い揮発性をもちつつ、良好な低温特性を提供する。本発明における沸点/沸騰温度および沸騰範囲とは、他に特定されていない限り、大気圧(1atm、1013mbar)下での沸騰温度/範囲を意味する。
【0011】
公知の製造ラインにおいて生物学的原料から得られる溶媒留分は、通常、260℃を超える高沸点を有し、および/または、これらの低沸点留分の異性化度は比較的低い。本発明は、150℃~260℃で沸騰し、および、高いi-パラフィン含有量を有する溶媒留分が、高収率で、再生可能な材料から抽出され得るという発見に基づく。特には、驚くべきことに、製造プロセスがジェット燃料油グレードの燃料の製造に最適化されている場合に、低沸点範囲にあるイソアルカンの相対的含有量が、非常に高いことが発見された。本発明の溶媒組成物は、したがって、この製造ラインから良好な収率で抽出され得る。
【0012】
本発明において、「xxx℃~yyy℃の範囲において沸騰(boiling in a range of xxx℃ to yyy℃)」、「xxx℃~yyy℃の範囲にある沸点/沸騰温度を有する(having a boiling point/boiling temperature in the range of xxx℃ to yyy℃)」との表現は、それぞれ、材料(組成物)がxxx℃である沸騰開始点、および、yyy℃である沸騰終点を有することを意味している。沸点は、EN ISO 3405法にしたがって測定され得る。
【0013】
本発明において、i-パラフィン(イソパラフィン)は、異性化パラフィン、すなわち、炭素鎖中に少なくとも一つの枝分かれ構造をもつパラフィンである。一方、n-パラフィン(直鎖パラフィン)は、直鎖の炭素鎖、すなわち分岐のない(しかし、任意には枝分かれ構造をもたない環状パラフィンを含む)炭素鎖を有するパラフィンである。本発明の意味におけるパラフィンは、飽和の炭化水素化合物(炭素原子および水素原子からなる)であり、環状(例えば単環式、二環式など)であってもよいが、好ましくは非環状である。他に特定されていない場合、用語パラフィンは、n-パラフィンおよびi-パラフィンの両方を含む。
【0014】
本発明の溶媒組成物は、91.0wt%以上のi-パラフィン(組成物全体を100%とした場合に)を含む。i-パラフィンの含有量は、例えばガスクロマトグラフィー(GC)などの適切な方法を用いて測定され得る。n-パラフィンおよびi-パラフィンの構成成分分布は、FID型検出器を用いてガスクロマトグラフィーによって同定され得る。FIDクロマトグラム中の炭化水素のエリア%は、構成成分のwt%と等しい。構成成分は、モデル化合物(n-パラフィン)のクロマトグラムに基づいて同定される。個々の構成成分の定量化の限界は、0.01wt%である。本発明の溶媒組成物は、液体組成物であり、および、好ましくは、160℃~250℃、より好ましくは170℃~240℃の範囲にある沸点を有する。
【0015】
溶媒組成物中のi-パラフィンの含有量は、94.0wt%以上、95.0wt%以上、96.0wt%以上、97.0wt%以上、97.5wt%以上、または98.0wt%以上であり得る。
【0016】
溶媒組成物は、好ましくは、溶媒組成物中の総計のi-パラフィンに対して、50.0wt%より多い、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンを含む。溶媒組成物中の総計のi-パラフィンに対する、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンの含有量は、特に好ましくは、55.0wt%より多く、60.0wt%より多く、65.0wt%より多く、または70.0wt%より多い。
【0017】
発明者らは、溶媒組成物の特性が、i-パラフィンの含有量が増加するについて向上されることを発見した。とりわけ、低温特性は、メチル分岐度が増加するにつれて顕著に向上され得る。
【0018】
さらに、発明者らは、高いi-パラフィン含有量を有する、および特には高いメチル分岐度を有するような組成物が、高い収率で生物学的原料から製造され得ることを発見した。本発明における、ジメチル化された、トリメチル化された、またはより多くメチル化されたi-パラフィンとは、それぞれ、炭素鎖中に、2つ、3つまたは3より多い数のメチル分岐を有する、または端的に、一より多くのメチル分岐を有するi-パラフィンを意味する。
【0019】
溶媒組成物中のC5~C16パラフィンの含有量は、好ましくは、溶媒組成物の全体に対して(100%として)、好ましくは90.0wt%以上である。C5~C16パラフィンの含有量は、92wt%以上、93wt%以上、94wt%以上、95wt%以上、または96wt%以上であり得る。パラフィン含有量は、例えばガスクロマトグラフィーなどの任意の適切な方法を用いて測定され得る。
【0020】
この範囲内のC5~C16パラフィン(すなわち、5~16個の炭素原子を有するパラフィン)の含有量を有していることは、組成物の沸点と蒸気圧とのあいだの良好なバランスを提供し、そして、さらに、良好な低温特性を提供する。上述されているように、本明細書におけるパラフィンは、n-パラフィンおよびi-パラフィンの両方を意味する。
【0021】
溶媒組成物中のC5~C15パラフィンの含有量は、好ましくは、溶媒組成物の全体に対して(100%として)、好ましくは80.0wt%以上である。C5~C15パラフィンの含有量は、85wt%以上、90wt%以上、92wt%以上、93wt%以上、94wt%以上、95wt%以上または96wt%以上であり得る。パラフィン含有量は、例えばガスクロマトグラフィーなどの任意の適切な方法を用いて測定され得る。
【0022】
高いC5~C15パラフィンの含有量を有していることは、さらに、溶媒特性を向上させる。
【0023】
溶媒組成物は、好ましくは、-50℃以下、または-60℃以下である氷点を有する。氷点は、さらに、-65℃以下、-68℃以下、-70℃以下、または-72℃以下であり得る。通常、氷点は、-100℃またはそれより高く、および、-90℃またはそれより高いであろう。氷点は、IP 529:2015にしたがって測定され得る。
【0024】
溶媒組成物は、好ましくは、85℃以下であるアニリン点を有する。アニリン点はさらに、84℃以下、好ましくは83℃以下、81℃以下、80℃以下、79℃以下、または78℃以下であり得る。アニリン点は、ISO 2977:1997に従って測定され得る。溶媒のアニリン点がより低くなると、より良好な溶解特性を有するようになり、およびしたがって、例えばブレンド中の添加物の安定性が向上されるなどして、種々の応用においてより良好な有用性を有するようになる。
【0025】
溶媒組成物は、好ましくは、21.5以上であるカウリブタノール(KB)価を有する。KB価は、さらに、22.0以上、好ましくは23.0以上、24.0以上、25.0以上、26.0以上、または27.0以上であり得る。KB価は、ASTM D 1133:2013にしたがって決定され得る。より高いKB価は、より良好な溶解力、すなわち溶媒がある材料をより良好に溶解させること、を意味する。
【0026】
本発明の溶媒組成物において、i-パラフィンの含有量(溶媒組成物の全体に対する)が、94.0wt%以上、95.0wt%以上、96.0wt%以上、97.0wt%以上、97.5wt%以上、または98.0wt%以上であることが好ましい。一般的に、i-パラフィンの含有量は、100wt%であってもよい(すなわち、組成物がi-パラフィンからなる)が、含有量は、通常、より低く、および、99.8wt%以下、99.5wt%以下、99.3wt%以下、99.2wt%以下、99.1wt%以下、または99.0wt%以下であり得る。
【0027】
i-パラフィンの含有量が高くなると、より良好な溶媒特性(とりわけ低温特性)が予期され得る。しかしながら、非常に高いi-パラフィンの含有量を得ることは、通常より困難なことであるため、i-パラフィンの含有量100%を達成することは、通常、経済的な視点から効率的ではない。
【0028】
C5~C16パラフィンの含有量が、溶媒組成物の全体に対して95wt%以上であることがさらに好ましい。含有量は、さらに、好ましくは96wt%以上、97wt%以上、98wt%以上、または99wt%以上であり得る。本発明の発明者らは、驚くべきことに、C5~C16の範囲にあるi-パラフィンが、卓越した溶媒特性、とりわけ、溶媒力と低温特性とのあいだの良好なバランスを示すことを発見した。
【0029】
本発明の溶媒組成物において、C5~C16のi-パラフィンの含有量は、好ましくは、溶媒組成物の全体における全てのC5~C16パラフィンに対して、55wt%以上、より好ましくは58wt%以上、60wt%以上、62wt%以上、64wt%以上、65wt%以上、または66wt%以上である。C5~C16の範囲にあるi-パラフィンの含有量が高くなると(C5~C16の範囲にある全てのパラフィンに対して)、溶媒組成物全体の低温特性がより良好になる。
【0030】
本発明の溶媒組成物において、C5~C15のi-パラフィンの含有量は、好ましくは、溶媒組成物の全体における全てのC5~C15パラフィンに対して、50wt%以上、より好ましくは、55wt%以上、58wt%以上、60wt%以上、62wt%以上、64wt%以上、または65wt%以上である。溶媒組成物の低温特性は、この範囲内にあることでさらに向上され得る。
【0031】
その好ましい組成物、および低温特性と溶解力とのあいだの良好なバランスのおかげで、本発明の溶媒組成物は、広範な範囲の応用へと適用可能である。具体的には、溶媒組成物は、コーティング、塗料、ラッカー、ニス、ワニス、インク、接着剤、シーラント剤、樹脂、プラスチック、洗浄用組成物、色素分散物、抗酸化剤、殺生物剤、殺虫剤、エアフレッシュナー、作物防疫組成物、洗剤、グリース除去組成物、ドライクリーニング組成物、化粧品、パーソナルケア組成物、医薬組成物、歯科用印象材、ワクチン、食品原料成分、香料組成物、香水、天然オイル抽出、油田化学品、掘削液組成物、抽出プロセス組成物、エラストマーのための可塑剤、製紙用化学品、潤滑油、機能液、変圧器油、金属加工組成物、圧延液または切削液、水処理組成物、木材処理組成物、建築用化学品、離型剤材料、爆発物、鉱業用化学品、またはこれらの組み合わせ中の溶媒として適用され得る。最も好ましくは、溶媒組成物は、塗料中の溶媒として、または、コーティング中の溶媒として(コーティング組成物中の溶媒として)使用され得る。本発明の溶媒組成物は、上述の適用例における唯一の溶媒として使用され得るが、溶媒組成物は、共溶媒として、すなわち一またはそれ以上の他の溶媒と組み合わされて、使用されてもよい。
【0032】
本発明の溶媒組成物は、組成物が再生可能な原料に由来している限り、任意の適切な方法によって製造され得る。本発明により好ましい、溶媒組成物を製造するための適切な方法は、以下の工程:
(iv)再生可能な原料を提供する工程;
(v)異性化された原料を提供するために、再生可能な原料を水素化処理および/または異性化する工程;
(vi)異性化された原料を蒸留し、それによって、150℃~260℃、好ましくは160℃~250℃、より好ましくは170℃~240℃の範囲で沸騰する留分を得る工程であって、該留分が溶媒組成物として、任意にはさらなる精製の後に、回収される工程
を含む。
【0033】
本発明において、異性化(異性化する工程)は、異性化度を増加させる、すなわち、より低い分岐度を有する炭素鎖の含有量に対する、より高い分岐度を有する炭素鎖の含有量を増加させる任意の方法を含む。例えば、異性化は、触媒の存在下、および、水素の存在または非存在下での触媒的異性化を含んでいてもよく、および、クラッキングを含んでいてもよい。
【0034】
本発明において、任意の再生可能な原料が、再生可能な原料として使用され得る。例えば、再生可能な原料は、ワックス、脂肪、またはオイルであってもよく、および、遊離脂肪酸(または複数の遊離脂肪酸)(そ(れら)の塩を含む)または脂肪酸エステル(または複数の脂肪酸エステル)であってもよい。
【0035】
再生可能な原料は、好ましくは、脂肪またはオイル、より好ましくは、植物(藻類および菌類を含む)由来、動物(魚類を含む)由来、または微生物由来の脂肪またはオイル、ならびに、特には、野菜のオイル/脂肪、動物のオイル/脂肪、食品工業からの廃棄物オイル/脂肪、藻類オイル/脂肪、および微生物オイル、例えば、パーム油、菜種油、藻類オイル、ヤトロファオイル、大豆油、料理油、植物油、動物性脂肪および/または魚の脂肪などである。再生可能な原料は、再生可能な供給源由来である化合物の混合物であってもよい。
【0036】
通常、再生可能な原料は、ヘテロ原子を(炭素原子および水素原子に加えて)含み得、再生可能な原料は、特には、酸素原子を含み得る。再生可能な原料がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子を除去するために、および、炭化水素材料、好ましくは、n-パラフィンまたはn-パラフィンとi-パラフィンとの混合物を製造するために、水素化処理が行われることが好ましい。水素化処理はまた、異性化が促進されてi-パラフィンを優勢的に(炭化水素製品の50wt%より多く)製造するように行われ得る。
【0037】
本発明の溶媒組成物を調製するための方法において、水素化処理および/または異性化を行う工程(ii)は、好ましくは、ジェット燃料の製造に最適化されている条件下で行われる。このような条件は、特には、主に、高い分岐度を有する低沸点(例えば130℃~300℃など)のパラフィンを結果としてもたらす条件である。様々なプロセス条件、例えば、水素化処理および/または異性化段階における触媒のタイプおよび量(またはWHSV)、水素化処理および/または異性化段階の温度、および生成物のポストプロセッシング(例えば、部分的な生成物のリサイクルまたは生成物の部分的な任意の再異性化など)などが、上記を達成するために改変され得る。
【実施例】
【0038】
本発明が、実施例を参照してさらに説明される。しかしながら、本発明を実施例に示されている例示的な実施形態に限定することを意図しているものではないことが留意されるべきである。
【0039】
実施例1
パーム油が再生可能な原料として使用された。パーム油は、触媒としてNiMoを用いて、および、47barの圧力、0.5h-1であるWHSVのもと、および330℃の反応温度で、連続流式固定床反応塔中での水素化脱酸素化に付された。オイルに対する水素の比は、毎リットルオイルフィードあたり1000ノルマルリットルH2(1000Nl/l)であった。水素化処理生成物は、酸素化合物を含まない有機液相(主にn-パラフィン;「油相」とも称される)を与えるように、ガス状成分および水から分離された。
【0040】
上記で得られた油相は、37barの圧力、1.3h-1であるWHSVのもと、および330℃の反応温度で、Pt-SAPO触媒を用いて連続流式固定床反応塔中で異性化に付された。オイルに対する水素の比は、毎リットルオイルフィードあたり300ノルマルリットルH2であった。
【0041】
異性化ステージから得られた生成物(異性化された原料)は、170℃~260℃の範囲で沸騰する(沸騰開始点:170℃;沸騰終点:260℃)、本発明による溶媒組成物が得られるように分留(蒸留による)に付された(収率:異性化された原料の約40wt%)。
【0042】
評価
高度に異性化された再生可能な材料、および、93wt%の異性度をもち、かつ170℃~330℃の範囲で沸騰する材料の2つの異なるフィード原料が、170℃~240℃の範囲で沸騰する溶媒生成物を得るために蒸留された。170℃~240℃の範囲で沸騰する組成物の溶解力特性は、最初のフィード材料に対して明らかに向上した。同様に、93%の異性化度をもつ材料から得られたi-パラフィン留分(同じ範囲で沸騰する)と比較して顕著な向上が観察される。
【0043】
アニリン点およびカウリブタノール(KB)価が、本発明の溶媒の溶解性挙動を評価するために、それぞれ、ISO2977:1997およびASTMD1133:2013にしたがって測定された。表1は、実験からの発見をまとめている。
【0044】
石油製品および炭化水素溶媒のアニリン点は、等容量のアニリンおよびサンプルの均一な溶液のための最低温度を示す。効果的な可溶化特性を有する芳香族炭化水素が最も低い値を示し、および、パラフィン系が最も高い値を示す。アニリン点は、分子量が増大するにつれて、高くなる傾向がある。表1から見てとれるように、最も良好なアニリン点レベルは、高度にi-パラフィン化された生成物から170℃~240℃の留分を取り出した場合で得られた。
【0045】
カウリブタノール価は、塗料およびラッカー配合物において使用される、炭化水素溶媒の相対的な溶解力の測定に関連する。カウリブタノール価は、ノルマルブチルアルコール中にカウリ樹脂の20g標準溶液が添加された場合に定義された濁度を達成するために必要な溶媒の、定義された規格に対して較正された25℃でのミリリットル体積である。溶媒のKB価が高くなるほど、相対的な溶解力は良好になる。
【0046】
表1は、高度にi-パラフィン化された留分(170℃~240℃)のKB価が、最初のフィード材料と比較して明らかに向上されていること、および、93%の異性化度をもつ、NEXBTLプロセスから5%の収率で得られるi-パラフィン系留分と比較した場合においても、向上されていることを示している。
【0047】
表1は、i-パラフィン含有量、総計のi-パラフィンのうちのジメチル化されたおよびより高いメチル化度の成分(di+成分)、170℃~240℃の範囲で沸騰する高度にi-パラフィン化された溶媒組成物のアニリン点およびKB価ならびに参照の溶媒組成物との比較およびフィード材料の特性との比較をまとめている。
【0048】
【0049】
上記から明らかであるように、狭い温度範囲内で沸騰し、かつ高いi-パラフィン含有量を有する本発明の溶媒組成物は、従来のi-パラフィン系溶媒組成物よりもはるかに優れている。理論に縛られることを望むものではないが、狭い沸騰点範囲と組み合わされた高いi-パラフィン含有量が、低沸点成分でさえも主にi-パラフィンの形で存在していることを確実としているため、本発明の溶媒組成物の向上された特性が達成されていると考えられる。すなわち、従来の、おおよそ同じ総体的i-パラフィン含有量を有するi-パラフィン溶媒中のi-パラフィン系の含有量において、i-パラフィン系の比(i-パラフィンの相対的な量)は、低い沸騰範囲(より小さな炭素数に対応する)と比較して、より高い沸騰範囲(より大きな炭素数に対応する)において著しいことが発見された。換言すると、従来の溶媒組成物は、本発明の溶媒組成物と比較して、はるかにより多い相対量の所定の小さな炭素数を有するn-パラフィンを含んでいる。本発明の溶媒組成物における小さな炭素数のn-パラフィン(特にはC5~C10のn-パラフィン)の少ない含有量が、良好な溶解力と組み合わされた良好な低温特性の要因であると推察される。