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特許7304911体細胞変異遺伝子によりコードされるHLA拘束性エピトープ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】体細胞変異遺伝子によりコードされるHLA拘束性エピトープ
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230630BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230630BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230630BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230630BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230630BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K39/395 N
A61P35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021072976
(22)【出願日】2021-04-23
(62)【分割の表示】P 2017549815の分割
【原出願日】2016-03-23
(65)【公開番号】P2021121190
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】62/136,843
(32)【優先日】2015-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/186,455
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506321481
【氏名又は名称】ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ボーゲルステイン バート
(72)【発明者】
【氏名】キンズラー ケネス ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】チョウ シビン
(72)【発明者】
【氏名】ディアズ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】パパドポウロス ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】スコラ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス ジャッキー
(72)【発明者】
【氏名】ウォン マイケル エス.
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-533986(JP,A)
【文献】特開2004-187676(JP,A)
【文献】J.Mol.Biol., 2004, Vol. 335, pp. 177-192
【文献】The Journal of Clinical Investigation,2004年08月,Vol.114, No.4,pp. 468-471
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 39/00-39/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト白血球抗原(HLA)分子と細胞内タンパク質の一部であるペプチドとの複合体に特異的に結合する抗体可変領域を含む、単離された分子であって、
該ペプチドが変異残基を含み、
該単離された分子が、HLA分子が前記複合体中にないときにはHLA分子に特異的に結合せず、
該単離された分子が、野生型形態での前記ペプチドに特異的に結合せず、かつ
該タンパク質が、G12V変異を有するKRASであり、該変異残基を含むペプチドが、SEQ ID NO: 4(KLVVVGAVGV)であり、該ペプチドの野生型形態が、SEQ ID NO: 3(KLVVVGAGGV)であり、該抗体可変領域がscFvであり、かつ該scFvが、SEQ ID NO: 21~24または37から選択される配列を含むか、または
該タンパク質が、L858R変異を有するEGFRであり、該ペプチドの野生型形態が、SEQ ID NO:10(KITDFGLAK)であり、該抗体可変領域がscFvであり、かつ該scFvがSEQ ID NO: 39を含む
前記単離された分子。
【請求項2】
前記複合体がβ-2-ミクログロブリン分子をさらに含む、請求項1記載の単離された分子。
【請求項3】
前記複合体中にないペプチドには結合しない、請求項1~2のいずれか一項記載の単離された分子。
【請求項4】
前記HLA分子がHLA-A2またはHLA-A3である、請求項2記載の単離された分子。
【請求項5】
前記抗体可変領域が、膜貫通領域および細胞内ドメインを含むキメラタンパク質の一部として発現し、キメラ抗原受容体(CAR)を形成する、請求項1~4のいずれか一項記載の単離された分子。
【請求項6】
前記抗体可変領域が、CD3に特異的に結合するscFvを含むキメラタンパク質の一部として発現する、請求項1~4のいずれか一項記載の単離された分子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の単離された分子を含む、がんを有する対象を処置するための医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CA 43460およびCA 062924のもとで国立衛生研究所(National Institutes of Health)により与えられた政府支援により行われた。政府は本発明におけるある一定の権利を有する。
【0002】
発明の技術分野
本発明は抗体作製の分野に関連する。具体的には、一本鎖または他のタイプの抗体分子中に抗体可変領域を含む構築物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
癌は、発癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子の配列変異の結果である(1)。理論的には、体細胞変異は任意の正常細胞では実質的には見られないことから、体細胞変異は理想的な治療標的である(2)。これらの変異のタンパク質産物は概して、野生型(wt)形態とはわずかしか、多くの場合1つのアミノ酸しか異なっていないが、この差異は効果的なターゲティングにとって十分である。タンパク質が酵素、例えばBRAFによってコードされる酵素であるとき、結果として生じる構造変化は、特異的酵素阻害剤の結合のためのポケットを提供することができる(3-5)。抗体は、現代の治療剤の最も成功したタイプの1つであり、1つのアミノ酸または1つのアミノ酸の修飾だけが異なるタンパク質を特異的に認識できることが示されている(5-11)。しかしながら、臨床で用いられる全ての抗体は、細胞内タンパク質ではなく、細胞表面または分泌タンパク質に対して向けられている。細胞内タンパク質は、抗体などの巨大分子にとってアクセスしやすいものではないが、残念なことに、変異遺伝子によってコードされる異常なエピトープの大部分は細胞表面上には存在しない(2)。
【0004】
ウイルス成分などの細胞内抗原は免疫系によって認識することができるが、この認識は、細胞表面上でヒト白血球抗原(HLA)分子と複合体形成した、タンパク質分解処理されたペプチドの認識に基づく(12)。実際、癌における変異遺伝子により作り出されたエピトープ(以下、変異関連ネオ抗原についてMANAと称する)の10%から20%は、共通HLA型に結合すると予測される(12)。さらに、そのようなペプチド-HLA複合体に結合できるT細胞の例が、患者ならびに実験動物において見いだされている(13-16)。
【0005】
MANAに対してインビボで生じるT細胞応答の大部分は、「プライベート」である、すなわち、個別の患者またはマウスの癌に存在するが、患者において共通に見いだされるものではなく、腫瘍性成長を促進しない、パッセンジャー変異によってコードされる変異エピトープに対して向けられる(2)。そのような標的を抗原とする免疫剤は、特定のMANAを抱える個別の患者の処置にとってのみ有用である(16-20)。
【0006】
当技術分野において、癌を含むがこれに限定されない疾患に対する新たな治療剤、診断剤、および分析剤を特定する持続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの局面によれば、抗体可変領域を含む単離された分子が提供される。抗体可変領域は、ヒト白血球抗原(HLA)分子、β-2-ミクログロブリン分子、およびタンパク質の一部であるペプチドの複合体に特異的に結合する。ペプチドは、タンパク質の細胞内エピトープ内にある変異残基を含む。本分子は、HLA分子が複合体中にないとき、HLA分子に特異的に結合しない。本分子はまた、野生型形態でのペプチドに特異的に結合しない。任意で、本分子は、HLA複合体内に提示されないとき、ペプチドに特異的に結合しない。この単離された分子は、癌細胞を検出もしくはモニターする、または癌を処置するために用いることができる。
【0008】
本発明の別の局面によれば、(a)ヒト白血球抗原(HLA)分子、(b)β-2-ミクログロブリン分子、および(c)タンパク質のペプチド部分の第1の形態の複合体に特異的に結合するscFvまたはFabまたはTCRを核酸ライブラリーから選択するための方法が提供される。第1の形態は変異体残基を含み、この変異体残基はタンパク質の細胞内エピトープ内にある。scFvまたはFabまたはTCRは、HLA分子が複合体中にないとき、HLA分子に特異的に結合しない。scFvまたはFabまたはTCRは、その野生型形態でのペプチドに特異的に結合しない。方法は、(b)HLAおよび(c)β-2-ミクログロブリンに結合した(a)ペプチド部分の第2の形態を含む競合複合体の存在下で前記複合体に結合するscFvまたはFabまたはTCRについて正の選択を行う工程を含む。第2の形態は、野生型形態、および第1の形態とは異なる変異残基を有するペプチドからなる群より選択される。該工程の任意の連続的実行を通じて、該複合体および競合複合体の量は、関連複合体に対する競合複合体の比率が増大するように変化させうる。
【0009】
本発明のさらに別の局面によれば、タンパク質のペプチド部分の第1の形態に特異的に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体を核酸ライブラリーから選択するための方法が提供される。第1の形態は、タンパク質の細胞内エピトープ内にある変異残基を含む。scFvまたはFabまたはTCRは、その野生型形態でのペプチドに特異的に結合しない。方法は、野生型形態および第1の形態とは異なる変異残基を有するペプチドからなる群より選択されるペプチド部分の第2の競合形態の存在下で、第1の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程を含む。
【0010】
これらのおよび他の態様は、本明細書を読んだ当業者に明らかになり、通常は細胞内にあるが、疾患状態では特定の細胞の表面上に提示されるエピトープにアクセスするための物質による技術を提供する。
[本発明1001]
ヒト白血球抗原(HLA)分子とタンパク質の一部であるペプチドとの複合体に特異的に結合する抗体可変領域を含む単離された分子であって、
該ペプチドは変異残基を含み、かつ該変異残基はタンパク質の細胞内エピトープ内にあり、
前記分子は、HLA分子が前記複合体中にないときにはHLA分子に特異的に結合せず、かつ
前記分子は、野生型形態での前記ペプチドに特異的に結合しない、
前記単離された分子。
[本発明1002]
前記複合体がβ-2-ミクログロブリン分子をさらに含む、本発明1001の単離された分子。
[本発明1003]
scFvである、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1004]
Fabである、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1005]
前記タンパク質が発癌性タンパク質である、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1006]
発癌性タンパク質が上皮成長因子受容体(EGFR)である、本発明1005の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1007]
発癌性タンパク質がL858R変異を有する、本発明1006の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1008]
発癌性タンパク質がT790M変異を有する、本発明1006の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1009]
発癌性タンパク質がABLである、本発明1005の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1010]
発癌性タンパク質がbcr/ABL融合タンパク質である、本発明1005の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1011]
発癌性タンパク質がE225K変異を有する、本発明1009の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1012]
発癌性タンパク質がβカテニンである、本発明1005の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1013]
発癌性タンパク質がS45F変異を有する、本発明1012の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1014]
発癌性タンパク質がP53である、本発明1005の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1015]
発癌性タンパク質がR248W変異を有する、本発明1014の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1016]
発癌性タンパク質がR248Q変異を有する、本発明1014の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1017]
発癌性タンパク質がKRASである、本発明1005の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1018]
発癌性タンパク質がG12変異を有する、本発明1017の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1019]
発癌性タンパク質がG12V変異を有する、本発明1017の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1020]
発癌性タンパク質がG12C変異を有する、本発明1017の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1021]
発癌性タンパク質がG12D変異を有する、本発明1017の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1022]
前記タンパク質が腫瘍抑制因子である、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1023]
前記複合体中にないペプチドには結合しない、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1024]
HLA分子がHLA-A2である、本発明1002の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1025]
HLA分子がHLA-A3である、本発明1002の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1026]
検出可能な標識に結合している、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1027]
治療剤に結合している、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1028]
膜貫通領域および細胞内ドメインを含むキメラタンパク質の一部として発現し、キメラ抗原受容体(CAR)を形成する、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1029]
CD3に特異的に結合するscFvを含むキメラタンパク質の一部として発現する、本発明1001の抗体可変領域を含む単離された分子。
[本発明1030]
ヒト白血球抗原(HLA)分子とタンパク質のペプチド部分の第1の形態との複合体に特異的に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体を核酸ライブラリーから選択する方法であって、
第1の形態は変異残基を含み、かつ該変異残基はタンパク質の細胞内エピトープ内にあり、
scFvまたはFabまたはT細胞受容体は、HLA分子が前記複合体中にないときにはHLA分子に特異的に結合せず、かつscFvまたはFabまたはTCRは、野生型形態での前記ペプチドに特異的に結合せず、
HLAおよびβ-2-ミクログロブリンに結合された前記ペプチド部分の第2の形態を含む競合複合体の存在下で前記複合体に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程であって、第2の形態は、野生型形態および第1の形態とは異なる変異残基を有するペプチドからなる群より選択される、工程
を含む、前記方法。
[本発明1031]
前記複合体がβ-2-ミクログロブリン分子をさらに含む、本発明1030の方法。
[本発明1032]
a. 折り畳まれていないヒト白血球抗原(HLA)に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について負の選択を行う工程;
b. HLA、β-2-ミクログロブリンおよびペプチドの複合体に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程;
c. HLAおよびβ-2-ミクログロブリンに結合された野生型形態のペプチドを含む競合複合体の存在下で前記複合体に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程;
d. 野生型ペプチドを含むHLA単量体に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について負の選択を行う工程;
e. 前記複合体に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程
を含む、本発明1031の方法。
[本発明1033]
工程(a)および(b)、(a)および(c)、ならびに(d)および(e)の組が複数回実施される、本発明1032の方法。
[本発明1034]
各組の正の選択工程および負の選択工程の後に、残っているscFvまたはFabまたはT細胞受容体を増幅させる、本発明1033の方法。
[本発明1035]
工程(c)を連続して実施する過程で、前記複合体および競合複合体の量を、前記複合体に対する競合複合体の比率が増大するように変化させる、本発明1033の方法。
[本発明1036]
ライブラリーが合成ライブラリーを含む、本発明1030の方法。
[本発明1037]
ライブラリーが合成オリゴヌクレオチドライブラリーを含む、本発明1030の方法。
[本発明1038]
ライブラリーがファージディスプレイライブラリーである、本発明1030の方法。
[本発明1039]
ライブラリーがリボソームディスプレイライブラリーである、本発明1030の方法。
[本発明1040]
ライブラリーが酵母ディスプレイライブラリーである、本発明1030の方法。
[本発明1041]
正の選択を行う工程のために用いられる複合体が細胞の表面上に提示される、本発明1029の方法。
[本発明1042]
本発明1027の単離された分子を対象に投与する工程を含む、癌を有するかまたは腫瘍を切除した対象を処置する方法。
[本発明1043]
対象からのサンプルを本発明1001の単離された分子と接触させる工程、および
サンプル中の構成成分への単離された分子の結合を検出する工程
を含む、サンプル中の癌細胞を検出する方法。
[本発明1044]
単離された分子が検出可能な標識に結合している、本発明1043の方法。
[本発明1045]
本発明1001の単離された分子と対象を接触させる工程、および
対象の特定の器官への単離された分子の結合を検出する工程
を含む、ヒトにおいて癌細胞を検出する方法。
[本発明1046]
単離された分子が検出可能な標識に結合している、本発明1045の方法。
[本発明1047]
タンパク質のペプチド部分または全長タンパク質の第1の形態に特異的に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体を核酸ライブラリーから選択する方法であって、
第1の形態が変異残基を含み、scFvまたはFabまたはTCRが野生型形態での前記ペプチドまたは全長タンパク質に特異的に結合せず、
前記ペプチド部分または全長タンパク質の第2の競合形態の存在下で、第1の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程であって、第2の形態が、野生型形態および第1の形態とは異なる変異残基を有するペプチドまたは全長タンパク質からなる群より選択される、工程
を含む、前記方法。
[本発明1048]
a. 折り畳まれていない第1の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について負の選択を行う工程;
b. 折り畳まれた第1の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程;
c. 第2の形態の存在下で第1の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程;
d. 第2の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について負の選択を行う工程;
e. 第1の形態に結合するscFvまたはFabまたはT細胞受容体について正の選択を行う工程
を含む、本発明1047の方法。
[本発明1049]
工程(a)および(b)、(a)および(c)、ならびに(d)および(e)の組が複数回実施される、本発明1048の方法。
[本発明1050]
各組の正の選択工程および負の選択工程の後に、残っているscFvまたはFabまたはT細胞受容体を増幅させる、本発明1049の方法。
[本発明1051]
工程(c)を連続して実施する過程で、第1の形態および第2の形態の量を、第1の形態に対する第2の形態の比率が増大するように変化させる、本発明1049の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】MANAbodyの作製。競合的ファージ選択を中心に強調表示した、MANAbody作製の工程の略図である。
図2A】変異単量体に対するファージおよび精製scFvの選択的結合。図示したペプチド、β-2-ミクログロブリン、およびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を、さまざまな希釈でファージクローンまたは精製scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗M13抗体(ファージ用)または抗Flagタグ抗体(scFv用)でELISAした。(図2A) KRAS(G12V)-HLA-A2結合物質向けの最終選択段階後に収集および拡大したファージクローンの選択的結合。クローンD10を赤色矢印により強調表示する。
図2B】変異単量体に対するファージおよび精製scFvの選択的結合。図示したペプチド、β-2-ミクログロブリン、およびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を、さまざまな希釈でファージクローンまたは精製scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗M13抗体(ファージ用)または抗Flagタグ抗体(scFv用)でELISAした。(図2B)さまざまな単量体に対するファージクローンD10の選択的結合。****、P<0.0001、1:80の希釈でKRAS(G12V)-HLA-A2を他の全ての単量体に対して比較した。wtまたは指定した変異ペプチドおよびHLA分子を有する折り畳まれた単量体をX軸上に示す。ELA:陰性対照ペプチド、単量体無し:単量体を付着させずにストレプトアビジンでコートしたウェル。
図2C】変異単量体に対するファージおよび精製scFvの選択的結合。図示したペプチド、β-2-ミクログロブリン、およびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を、さまざまな希釈でファージクローンまたは精製scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗M13抗体(ファージ用)または抗Flagタグ抗体(scFv用)でELISAした。(図2C)さまざまな単量体に対する精製D10 scFvの選択的結合。****、P<0.0001、1μg/mLの希釈でKRAS(G12V) HLA-A2を他の全ての単量体に対して比較した。wtまたは指定した変異ペプチドおよびHLA分子を有する折り畳まれた単量体をX軸上に示す。ELA:陰性対照ペプチド、単量体無し:単量体を付着させずにストレプトアビジンでコートしたウェル。
図2D】変異単量体に対するファージおよび精製scFvの選択的結合。図示したペプチド、β-2-ミクログロブリン、およびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を、さまざまな希釈でファージクローンまたは精製scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗M13抗体(ファージ用)または抗Flagタグ抗体(scFv用)でELISAした。(図2D)さまざまな単量体に対するファージクローンC9の選択的結合。****、P<0.0001、1:900の希釈でEGFR(L858R)-HLA-A3を他の全ての単量体に対して比較した。wtまたは指定した変異ペプチドおよびHLA分子を有する折り畳まれた単量体をX軸上に示す。ELA:陰性対照ペプチド、単量体無し:単量体を付着させずにストレプトアビジンでコートしたウェル。
図2E】変異単量体に対するファージおよび精製scFvの選択的結合。図示したペプチド、β-2-ミクログロブリン、およびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を、さまざまな希釈でファージクローンまたは精製scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗M13抗体(ファージ用)または抗Flagタグ抗体(scFv用)でELISAした。(図2E)さまざまな単量体に対する精製C9 scFvの選択的結合。****、P<0.0001、1μg/mLの希釈でEGFR(L858R)-HLA-A3他の全ての単量体に対して比較した。wtまたは指定した変異ペプチドおよびHLA分子を有する折り畳まれた単量体をX軸上に示す。ELA:陰性対照ペプチド、単量体無し:単量体を付着させずにストレプトアビジンでコートしたウェル。
図3A】細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対する候補のファージクローンまたは精製D10 scFvの選択的結合。T2またはT2A3細胞を図示したペプチドでパルスし、次いで、D10ファージと一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA、LLG:陰性対照ペプチド;C9ファージに対して、KRAS(WT)を陰性対照ペプチドとして用いた。
図3B】細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対する候補のファージクローンまたは精製D10 scFvの選択的結合。T2またはT2A3細胞を図示したペプチドでパルスし、次いで、精製D10 scFvと一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA、LLG:陰性対照ペプチド;C9ファージに対して、KRAS(WT)を陰性対照ペプチドとして用いた。
図3C】細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対する候補のファージクローンまたは精製D10 scFvの選択的結合。T2またはT2A3細胞を図示したペプチドでパルスし、次いで、C9ファージと一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA、LLG:陰性対照ペプチド;C9ファージに対して、KRAS(WT)を陰性対照ペプチドとして用いた。
図3D】scFv媒介性の補体依存性細胞死滅。T2細胞をパルスした、またはパルスしない、または表示したペプチドでパルスした後に、10%ウサギ補体、および抗V5抗体にプレコンジュゲートしたD10 scFvまたはD10-7 scFvと一緒にT2細胞をインキュベートすることによって、CDCアッセイを実施した。CellTiter-Glo(登録商標)を用いて、細胞の生存率を評価した。*** P<0.001、0.66 nM(X軸上の-0.18)抗体濃度でKRAS(G12V)/D10-7を他の全ての点に対して比較した;ns、有意差なし(P=0.488)、0.66 nM抗体濃度でKRAS(WT)/D10-7をパルスなし/D10-7に対して比較した。
図4A】D10 MANAbodyの選択的親和性。KRAS(G12V)-HLA-A2に対するD10 MANAbodyの選択的結合。表示したペプチドおよびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を、さまざまな希釈でのD10 MANAbodyと一緒にインキュベートし、続いて、抗ヒトIgG抗体でELISAした。***、P<0.0001、1μg/mLの希釈でKRAS G12V HLA-A2を他の全ての単量体に対して比較した。
図4B】D10 MANAbodyの選択的親和性。細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対するD10 MANAbodyの選択的結合。T2細胞をパルスしない、または表示したペプチドでパルスし、次いで、D10 MANAbodyまたはアイソタイプ対照抗体と一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。
図5】ファージミド中のscFv/M13 pIIIオープンリーディングフレームの直線的表示。pelB、pelBペリプラズム分泌シグナル;VLおよびVH、scFvの軽鎖および重鎖;myc、mycタグ;TEV、TEVプロテアーゼ切断認識配列;M13 pIII、M13 pIIIコートタンパク質。
図6】競合的選択のフローチャート。選択工程は10ラウンドの選択および増幅からなり、3段階:濃縮段階(図6A;ラウンド1~3)、競合段階(図6B;ラウンド4~8)、および最終選択段階(図6C;ラウンド9~10)に分けられた。各競合ラウンドで用いられる野生型(WT)競合的単量体に対する変異(MUT)単量体の比率を示す。
図7】種々の選択段階後のファージの結合。表示したペプチドおよびHLA分子を有する折り畳まれた単量体を異なる希釈でのファージ(まとめて)と一緒にインキュベートし、続いて、抗M13抗体でELISAした。(図7A)濃縮段階後に収集したファージの結合。(図7B)最終選択段階後に収集したファージの結合。KRAS(G12V)、G12V変異を有するKRASペプチド;KRAS(WT)、野生型KRASペプチド。
図8】精製D10 scFvは、HLA分子と複合体形成していないKRASペプチド、または変性単量体に結合しない。ビオチン化KRASペプチド単独、未変性の単量体、または熱変性単量体をさまざまな希釈での精製scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗Flagタグ抗体でELISAした。KRAS(G12V)、G12V変異を有するKRASペプチド;KRAS(WT)、野生型KRASペプチド;単量体なし、単量体を付着させずにストレプトアビジンでコートしたウェル。
図9】さまざまな単量体に対する精製D10-7 scFvの選択的結合。表示したペプチド、β-2ミクログロブリン、およびHLA分子を有する折り畳まれた単量体をさまざまな希釈でのD10-7 scFvと一緒にインキュベートし、続いて、抗Flagタグ抗体でELISAした。棒グラフの下の列にペプチドを示し、単量体に結合したHLAタンパク質の種類をペプチドの下の列に示す。****、P<0.0001、0.037μg/mL希釈でKRAS(G12V)-HLA-A2を他の全ての単量体に対して比較した。
図10】C9ファージをもたらす改変競合的選択のフローチャート。選択工程は9ラウンドの選択および増幅からなり、これらは3つの段階:濃縮段階(ラウンド1~5)、競合段階(ラウンド6~8)、および最終選択段階(ラウンド9)に分けられた。各競合ラウンドで用いられる野生型(WT)競合単量体に対する変異(MUT)単量体の比率を示す。
図11A】W6/32抗体染色により評価したペプチド搭載効率。T2またはT2A3細胞を表示したペプチドでパルスしないまたはパルスし、次いで、W6/32抗体と一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA:対照ペプチド。図11A:KRAS(G12V)。
図11B】W6/32抗体染色により評価したペプチド搭載効率。T2またはT2A3細胞を表示したペプチドでパルスしないまたはパルスし、次いで、W6/32抗体と一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA:対照ペプチド。図11B:KRAS(WT)。
図11C】W6/32抗体染色により評価したペプチド搭載効率。T2またはT2A3細胞を表示したペプチドでパルスしないまたはパルスし、次いで、W6/32抗体と一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA:対照ペプチド。図11C:EGFR(L858R)。
図11D】W6/32抗体染色により評価したペプチド搭載効率。T2またはT2A3細胞を表示したペプチドでパルスしないまたはパルスし、次いで、W6/32抗体と一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA:対照ペプチド。図11D:EGFR(WT)。
図11E】W6/32抗体染色により評価したペプチド搭載効率。T2またはT2A3細胞を表示したペプチドでパルスしないまたはパルスし、次いで、W6/32抗体と一緒にインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。ELA:対照ペプチド。図11E:ELA対照。
図12】細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対するD10ファージの選択的結合。T2細胞を表示したペプチドでパルスし、次いで、D10ファージまたは対照としてC9ファージと一緒に、またはファージなしでインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。KRAS(G12V)、G12V変異を有するKRASペプチド;KRAS(WT)、野生型KRASペプチド;ELA、無関係のペプチド。
図13】細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対するC9ファージの選択的結合。T2A3細胞を表示したペプチドでパルスし、次いで、C9ファージと一緒にまたはファージなしでインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。EGFR(L858R)、L858R変異を有するEGFRペプチド;EGFR(WT)、野生型EGFRペプチド;KRAS(WT)、野生型KRASペプチド。
図14】W6/32抗体媒介性の補体依存性細胞死滅。CDCアッセイを、T2細胞を表示したペプチドでパルスしたまたはパルスしなかった後に、W6/32抗体および10%ウサギ補体と一緒にT2細胞をインキュベートすることによって実施した。CellTiter-Glo(登録商標)を用いて、細胞の生存率を評価した。
図15】細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞に対するD10 MANAbodyの選択的結合。T2細胞を表示したペプチドでパルスし、次いで、D10 MANAbodyと一緒にまたはなしでインキュベートし、その後、フローサイトメトリーにより染色細胞を分析した。対照抗体(7A)も用いた。
図16】バクテリオファージ上に提示されたβカテニンS45F特異的scFvを用いる酵素結合免疫吸着測定法を示す。CTNNB1 S45F scFv候補(E10):ファージELISA(正規化済み)。凡例は使用したファージの希釈を示す。使用した単量体およびファージクローンをX軸上に表示した。*は同じ配列を示す。E10またはG7発現ファージを用いるELISA。scFvは両方とも、WTより有意に多い変異エピトープ(CTNNB1 S45F)への結合を示す。E10またはG7発現ファージを用いるELISA。scFvは両方とも、WTより有意に多い変異エピトープ(CTNNB1 S45F)への結合を示す。scFvは両方とも、野生型複合体と比較すると、変異エピトープHLA-A3複合体への結合の増大を示す。実施例11を参照。
図17】E10 CTNNB S45Fファージ染色のフローサイトメトリーよるアッセイの結果を示す。ファージクローンはCTNNB S45Fペプチドでパルスした細胞に特異的である。scFvは、CTNNB1(βカテニン)S45F変異に対して向けられる。W6/32データは、b2m(陰性対照)と比較して抗体結合の増大を示し、変異型および野生型ペプチドがT2A3細胞株上に存在するHLA-A3複合体上に提示可能であることを示す。E10ファージ染色は、scFvが対照ペプチド(600~800 MFU)と比較してS45Fエピトープ(80,400k MFU)に特異的に結合することを示す。1~5と標示された列は、変異型および野生型βカテニンエピトープの両方とも、細胞表面HLA-A3複合体上に提示可能であることを実証する。6~9と標示された列は、表示したペプチドでパルスしたT2A3細胞に結合したE10ファージの平均蛍光強度(MFI)を示す。E10ファージは変異ペプチドを特異的に認識し、野生型または対照(K3WT)ペプチドのいずれかでパルスした細胞表面提示複合体には結合しない。ヒストグラムは、E10ファージの特異性の代替表示を提供する。実施例11を参照。
図18】補体依存性細胞傷害アッセイ(CDC)の結果を示す。E10(CTNNB1 S45F HLA-A3) scFv:抗V5コンジュゲートを用いるT2A3細胞に対するCTG(Cell Titer Glo(商標))によるCDC。S45Fでパルスした細胞による条件下で一連のE10:V5コンジュゲートで見られる相対的ルシフェラーゼ単位の減少は、βカテニンS45F変異を提示する細胞の特異的殺傷を実証する。このアッセイは、単一の抗体濃度のみを用いている(10μg/ml)点を除いて、Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Aug 11;112(32):9967-72に記載されているように実行される。T2A3細胞を、ペプチドでパルスしない、または野生型もしくは変異βカテニンペプチドのいずれかでパルスしたままにした。補体血清のみと一緒にインキュベートすると、ペプチドでパルスした細胞はCDC依存性細胞死を起こした。実施例11を参照。
図19】EGFR T790M 9-merおよび10-merの組み合わせのヒット(14種類):ファージ上清および沈殿したファージのELISA。2回の実験(ファージ上清および沈殿したファージのELISA)をそれぞれ左および右に示す。凡例は試験した単量体(HLA型)を示し;データは、この変異を示すと予測される9および10アミノ酸エピトープの両方に対するファージの高い特異性を実証する。図は、示したようにファージ上清または沈殿したファージのいずれかのELISA試験の結果を示す。D3E6、D2D8およびD2D6を含むある特定のファージクローンを、上清試験後にさらに分析した。3種類全ての候補について高い特異性が観察された。EGFR T790対照ペプチドは生物学的に関連した(野生型)対照ではなく、むしろ、競合的パニングに用いられたT790M 9-merに極めて類似する配列であった。実施例12および13を参照。
図20】表中に1~7と標示したサンプルの結果を示す表であり、変異EGFR T790Mエピトープ(9-merおよび10-mer)の両方とも細胞表面HLA-A2複合体上に提示されることを実証する。表中の8~10と標示された列は、表示したペプチドでパルスしたT2細胞に結合したD3E6ファージの平均蛍光強度(MFI)を示す。D3E6ファージは、変異ペプチドを特異的に認識し、対照ペプチドでパルスした細胞表面提示複合体には結合しない。実施例12および13を参照。
図21】変異EGFR T790Mエピトープ(9-merおよび10-mer)の両方とも細胞表面HLA-A2複合体上に提示されることを実証するヒストグラムである。D3E6ファージの特異性を示す代替表示である。D3E6ファージは、変異790ペプチドでパルスした細胞を染色するが、野生型でパルスした細胞は染色せず、かつELA(HLA-A2陰性対照ペプチド)を染色しない。実施例12および13を参照。
図22】D3E6、D2D8、およびD2D6クローンが変異ペプチドを特異的に認識し、対照ペプチドでパルスした細胞表面提示複合体に結合しないというさらなる確認を提供する表である。実施例12および13を参照。
図23】D3E6、D2D8、およびD2D6クローンが変異ペプチドを特異的に認識し、対照ペプチドでパルスした細胞表面提示複合体に結合しないというさらなる確認を提供するフローサイトメトリーである。図23:T2細胞のEGFR T790Mクローン1(「D3E6」)染色。実施例12および13を参照。
図24】D3E6、D2D8、およびD2D6クローンが変異ペプチドを特異的に認識し、対照ペプチドでパルスした細胞表面提示複合体に結合しないというさらなる確認を提供するフローサイトメトリーである。図24:T2細胞のEGFR T790Mクローン2(「D2D8」)染色。実施例12および13を参照。
図25】D3E6、D2D8、およびD2D6クローンが変異ペプチドを特異的に認識し、対照ペプチドでパルスした細胞表面提示複合体に結合しないというさらなる確認を提供するフローサイトメトリーである。図25:T2細胞のEGFR T790Mクローン3(「D2D6」)染色。実施例12および13を参照。
図26】沈殿したファージを試験したELISAの結果を示す。HLA-A2中のKRAS G12Vに対する高い特異性がF10候補で観察された。凡例は用いたファージの希釈を示す。用いた単量体をX軸上に示す。実施例10を参照。
図27】F10親和性成熟変異体が、野生型対照と比較してT2細胞上でパルスした変異KRASエピトープを特異的に認識できることを示す、フローサイトメトリーからの結果のヒストグラムを提供する。実施例10を参照。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明者らは、共通に変異した発癌遺伝子のペプチド産物に結合した共通HLA型を含む複合体を選択的に標的とする抗体可変領域を作製および特定するためのアプローチを開発した。これらのHLA-ペプチド複合体は、もっぱら癌細胞または他の疾患関連細胞の表面上に限って存在すると予測されることから、それらを標的とする抗体は原理的には、治療目的またはモニタリング目的のために用いることができる。抗体可変領域を特定するためのこれらの同じアプローチはまた、T細胞受容体を特定するためにも用いることもできる。
【0013】
発癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子における変異は腫瘍形成を促進し、それらのタンパク質産物は正常細胞には存在しない治療標的を形成する。しかしながら、そのような変異エピトープのほぼ全ては、細胞の内部、細胞質または核のいずれかに位置し、変異体に対して向けられる免疫療法を複雑なものにする。本明細書に記載の抗体可変領域およびT細胞受容体は、細胞の表面上に提示される形態を標的とすることによって、細胞内に位置する細胞内標的のシールドを克服する。それにもかかわらず、本明細書に記載の方法およびアプローチは、単に腫瘍抑制因子および発癌遺伝子に対して用いられるだけでなく、パッセンジャー変異(発癌の促進因子ではない)、ならびに体細胞突然変異の産物であるかまたは体細胞突然変異の結果として細胞表面上に発現される他のタンパク質に対しても用いられうる。
【0014】
標的とされうる細胞内タンパク質の例には、これらに限定される訳ではないが、EGFR、KRAS、NRAS、HRAS、p53、PIK3CA、ABL1、βカテニン、およびIDH1/2が含まれる。最大の適用可能性を有するために、癌集団で広く見られる変異を選択することが望ましい。そのような変異の例には、残基EGFR L858、KRAS G12、KRAS G13、HRAS G12、NRAS G12、HRAS Q61、NRAS Q61、IDH1 R132、βカテニン S45、IDH2 R140、およびIDH2 R172のものが含まれる。共通変異体には、EGFR L858R、KRAS G12V、KRAS G12C、KRAS G12D、HRAS Q61P、NRAS Q61P、HRAS Q61R、NRAS Q61R、HRAS Q61K、NRAS Q61K、EGFR T790M、IDH1 R132H、βカテニン S45F、IDH2 R140Q、およびIDH2 R172Kが含まれる。その一方で、細胞内にあるエピトープをコードするプライベートなまたは個人的な疾患特異的変異であっても、scFvまたはFabまたはT細胞受容体の標的となりうる。
【0015】
作製およびスクリーニングすることができるライブラリーには、有用な特異的結合分子、scFv、Fab、およびTCRなどを生成する任意のライブラリーが含まれる。結合分子のレパートリーの複雑さは非常に高いことが好ましい。ライブラリーは、M13ファージ、リボソーム、および酵母を含むがこれに限定される訳ではない、任意の適したベクター系において作製されうる。Fabライブラリーについては、Lee et al., J Mol Biol. “High-affinity human antibodies from phage-displayed synthetic Fab libraries with a single framework scaffold,” 2004 Jul 23;340:1073-93を参照。T細胞受容体ライブラリーについては、Kieke et al., “Selection of functional T cell receptor mutants from a yeast surface-display library,” Proc Natl Acad Sci U S A. 1999; 96: 5651-5656を参照。リボソーム提示ライブラリーについては、Stafford et al., Protein Eng Des Sel. “In vitro Fab display: a cell-free system for IgG discovery.” 2014; 27:97-109を参照。ライブラリーは、例えば、合成オリゴヌクレオチド、合成トリマー、または合成デオキシリボヌクレオチドを用いて作製されうる。各オプションによって、混合物にバイアスをかけることが可能になり、究極のライブラリー組成物にバイアスがかけられる。
【0016】
ライブラリー中の望ましいscFvまたはFabまたはTCRの希少さは、一部には所望の標的の性質によるものである。望ましい標的は、HLA分子、β-2-ミクログロブリンタンパク質、およびペプチドの複合体を含む。しかしながら、この複合体全体のうち、望ましいscFvまたはFabまたはTCRは、変異残基、最も可能性が高いのは1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換を含む特定のエピトープのみを認識する。さらに、それは、該残基が野生型である同じ高分子複合体は特異的に認識しない。この極めて狭い焦点のために、膨大な量のライブラリーの多様性に加えて、強力な選択工程が必要とされる。競合複合体の存在下で実施される、望ましいscFvまたはFabまたはT細胞受容体に対する正の選択工程が考案されている。競合複合体は、HLAおよびβ-2ミクログロブリンに結合したペプチドの野生型形態を含む。あるいは、競合複合体は、例えば、1つまたは複数のさらなる変異残基を有するペプチドまたは変異ペプチドと同じ残基に代替の野生型ではない残基を有するペプチドなど、変異ペプチドに高度に類似した配列を有するペプチドを含みうる。正の選択作用物質は、HLA、β-2-ミクログロブリン、および「変異」ペプチドを含む。任意で、競合的選択工程が繰り返し実施される。工程が繰り返し実施されるにつれて、正の選択作用物質に対する競合複合体の比率が増大しうる。任意で、競合的パニングに続いて、競合複合体を用いる負の選択工程が実施される。任意で、競合的複合体および/または正の選択作用物質が、選択工程のために細胞の表面上に提示または発現されうる。本発明の代替的な局面において、このタイプの選択工程は、HLA/β-2ミクログロブリン複合体の一部ではないタンパク質またはペプチドにおいて1つのアミノ酸の差異を認識する結合分子をパニングするために用いられうる。さらなるオプションにおいて、ペプチドは細胞内エピトープではない。
【0017】
変異残基を有するペプチドを提示するために用いられるHLA分子は、任意のHLA遺伝子(A、B、C、E、F、およびG)およびこれらの遺伝子のアレル由来でありうる。より多く見られる遺伝子およびアレル、HLA-A2、HLA-A3、およびHLA-B7などは、いくつかのグループのヒト患者間でより広範な利用が見いだされる。用いられうる他のHLA遺伝子はHLA DP、DM、DOA、DOB、DQ、およびDRである。
【0018】
(1)HLA分子、(2)β-2-ミクログロブリン、および(3)変異残基(完全に未変性なタンパク質における細胞内エピトープ内に見いだされる)を含むペプチドの複合体に特異的に結合する有用な分子が特定されると、それらは、さまざまな目的でさまざまな誘導体において用いることができる。本分子は検出可能な標識に結合または付着させることができる。検出可能な標識は、これらに限定される訳ではないが、放射性核種、発色団、酵素、および蛍光分子を含む当技術分野において公知の標識でありうる。そのような分子は、例えば、抗腫瘍療法をモニターするかもしくはサンプル中の癌細胞を検出する、または癌を診断するために、用いることができる。本分子は代替的に、治療剤に結合、コンジュゲート、または付着させることができる。そのような治療剤は、同定されたscFvまたはFabまたはT細胞受容体の手段によってタンパク質を発現する細胞を特異的に標的とすることができる。有用に作製されうる特定された分子の別の誘導体は、キメラ抗原受容体(CAR)である。この誘導体は、単一のタンパク質の一部として、抗体可変領域、ヒンジ領域、膜貫通領域、および細胞内ドメインを含む、特定された分子を含む。例えば、Curran et al., “Chimeric antigen receptors for T cell immunotherapy: current understanding and future directions,” J. Gene Med 2012; 14: 405-415を参照。有用な分子のCDR配列は、実施例に記載されているように、インタクトな抗体に組み込まれ、MANAbodyを形成しうる。あるいは、有用な分子はインタクトな抗体分子の一部ではない。有用な分子はまた、抗CD3 scFvなどの別のscFv/抗体を有するキメラタンパク質の一部として含まれ、二重特異性標的化剤を形成しうる。そのようなキメラタンパク質は腫瘍に対するT細胞を標的とするために用いられ、抗腫瘍活性を誘導しうる。
【0019】
当技術分野において公知の任意の診断技術、特に任意の免疫学的診断技術を、これら有用な分子と併用することができる。それらは、例えば、組織サンプルまたは組織ホモジネートであるサンプルに対して用いることができる。それらは、免疫組織化学的検査、ELISA、免疫沈降、免疫ブロットなどにおいて用いることができる。検出は、免疫複合体を特定するために付着させるまたは用いられる検出可能な標識によって決まる。任意の検出技術を用いることができる。治療的投与は、抗体または特異的結合分子を投与するのに適した任意の公知の手段を用いて達成されうる。投与は、末梢循環系、または、例えば、腫瘍内、脊髄内、脳内、腹腔内などへの注射または注入による可能性がある。
【0020】
本発明者らは、HLA-β-2ミクログロブリン複合体内に包埋された変異ペプチドに選択的に結合するscFvを作製するための手法を確立している。この手法を用いて、本発明者らは、2種類のHLA型(それぞれA2およびA3)と複合体形成させたときに、2つの共通に変異した発癌遺伝子(KRASおよびEGFR)の産物に対するscFvを得た。これらのscFvは、細胞の表面上のペプチド-HLA複合体に結合し、補体が存在するとこれらの細胞を殺傷することができる。scFvを、Fc領域を含む完全な二価抗体に変換すると、親和性を喪失することがある(46, 47)。しかしながら、本発明者らはD10 scFv配列を用いる完全な抗体を成功裏に作製し、このMANAbodyはscFvの特異性を保持した(図4B図15)。本発明者らはまだ、HLA-A3と複合体形成した変異EGFRペプチドに対して向けられたC9 scFvを用いるMANAbodyの作製を試みていない。
【0021】
TCRmimicと名付けられた他の抗体は、以前にペプチド-HLA複合体に対して作製されている(48-49)。本発明者らの研究の第1の重要な局面は、1つのアミノ酸によってのみ異なるペプチドを含有するHLA複合体を区別して認識する抗体ベースの試薬の作製である。本発明者らの研究の第2の重要な局面は、相違するペプチドをヒト癌において共通して見つけることである。
【0022】
癌の診断と治療の両方における最大の課題は、特異性--癌細胞を認識または殺傷するが正常細胞はそうしない試薬を開発すること--である。特異性の相対的欠如は現在、キメラ抗原受容体および二重特異性抗体などの強力な免疫治療剤のより広範な実行の大きな障害になる(57-60)。この状況において、癌ドライバー遺伝子のコードタンパク質を変更する特定の体細胞変異は、癌細胞を正常細胞と区別するという比類なき生化学的特徴になる。本明細書に記載の作業の強みは、臨床的に関連性を有する(細胞表面)という状況においてこれらの変更されたタンパク質を認識する高度に特異的な試薬の作製の実行可能性を実証することである。これは、そのような試薬のさらなる探索、および適した診断用および治療用の担体へのそれらの組み入れの準備を整える。
【0023】
上記開示は概して本発明を説明する。本明細書に開示の全ての参考文献は参照により明示的に組み入れられる。より完全な理解は、以下の特定の実施例への参照によって得ることができ、それらは、例示のみを目的として本明細書において提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0024】
実施例1
材料および方法
細胞株
T2細胞(ATCC、Manassas, VA)を10%FBS(GE Hyclone, Logan, Utah, USA)、1%ペニシリン ストレプトマイシン(Life Technologies)、および20 IU/mL組換えヒトIL-2(Proleukin(商標), Prometheus Laboratories)と一緒にRPMI-1640(ATCC)中で37℃にて5%CO2下で培養した。T2A3細胞(Eric LutzおよびLiz Jaffeeからの好意による提供, JHU)を、T2細胞と同じ条件だが500μg/mL Geneticin(Life Technologies)および1×非必須アミノ酸 (Life Technologies)も添加した条件下で増殖させた。
【0025】
ファージディスプレイライブラリー構築
オリゴヌクレオチドを、混合し分割したプール縮重オリゴヌクレオチド合成を用いてDNA2.0(Menlo Park, CA)にて合成した。オリゴヌクレオチドをpADL-10bファージミド(Antibody Design Labs, San Diego, CA)に組み込んだ。このファージミドは、F1起点、ならびに非誘導性の発現を制限するためのlacオペレーターおよびlacリプレッサーからなる転写抑制ユニットを含む。pelBペリプラズム分泌シグナルを有するscFvを合成し、lacオペレーターの下流にサブクローニングした。mycエピトープタグ、続いてTEVプロテアーゼ切断認識配列を可変重鎖の直ぐ下流に配置し、インフレームに全長M13 pIIIコートタンパク質配列が続いた。(図5)ごく一部のライゲーションした産物の形質転換から入手した45のランダムクローンをサンガー法で配列決定することによって、クローニングの成功を確認した。クローンのうち24個は予想配列またはサイレント変異を含み、4個はフレームワーク領域内にインフレーム変異を含み、17個は1つまたは複数の塩基対の欠失を含んでおり、53%の合成およびクローニング成功割合を示した。このことは後に、以下で説明するようなその後のライブラリー電気穿孔によって確認された。
【0026】
10 ngのライゲーション産物を10μLのエレクトロコンピテントSS320細胞(Lucigen, Middleton, WI)および14μLの再蒸留水(ddH2O) と氷上で混合した。この混合物を、Gene Pulserエレクトロポレーションシステム(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて電気穿孔し、Recovery Media(Lucigen)中で60分間37℃にて回復させた。60 ngのライゲーション産物で形質転換した細胞をプールし、カルベニシリン(100μg/mL)および2%グルコースを追加した2×YT培地を含む24-cm×24-cmプレート上にプレーティングした。細胞を37℃にて6時間増殖させ、一晩4℃に置いた。各シリーズの電気穿孔の形質転換効率を決定するために、アリコートを採取し、段階希釈により力価を測定した。プレート上に増殖した細胞を、5~15の最終OD600で2%グルコースを加えたカルベニシリン(100μg/mL)を有する850 mLの2×YT培地内にこすり取った。850 mL培養液のうち2 mLを採取し、約1:200で希釈し、0.05~0.07の最終OD600に達した。残りの培養液に対して、150 mLの滅菌グリセロールを添加し、その後、急速冷凍(snap freezing)し、グリセロールストックを作製した。希釈した細菌を0.2~0.4のOD600に増殖させ、1のMOIでM13K07ヘルパーファージ(NEB, Ipswich, MAまたはAntibody Design Labs)に感染させ、37℃にて30分間回復させ、その後、さらに30分間37℃にて振とうした。培養液を遠心分離し、細胞をカルベニシリン(100μg/mL)およびカナマイシン(50μg/mL)を伴う2×YT培地中で再懸濁し、ファージ産生のために30℃にて一晩増殖させた。次の朝、細菌培養液を50 mL Falconチューブに等分し、最初に3000 gで次いで12000 gで2回ペレット形成させ、清澄な上清を得た。ファージを含んだ上清を、1:4のPEG/NaCl:上清比率での20% PEG-8000/2.5 M NaCl溶液により氷上で40分間沈降させた。沈降後、各50 mL培養からのファージを12,000 gで40分間遠心分離し、1 mL量の1×TBS、2 mM EDTAで再懸濁した。複数のチューブからのファージをプールし、再沈降させ、15%グリセロール中に1×1013 cfu/mLの平均力価に再懸濁した。得られた形質転換体の総数は5.5×109であると判定された。ライブラリーを等分し、15%グリセロール中に-80℃にて保管した。
【0027】
完全なファージライブラリーの次世代シーケンシング
ライブラリーからのDNAを、CDR-H3領域に隣接する以下のプライマー
を用いて増幅した。追加の分子バーコード配列をこれらのプライマーの5’末端に組み込み、異なるファージ配列の一義的な計数を容易にした。PCR増幅および配列決定のためのプロトコールは(1)において以前に公開される。カスタムSQLデータベースを用いて配列を加工および翻訳し、Microsoft Excelを用いてヌクレオチド配列とアミノ酸翻訳の両方を分析した。
【0028】
ペプチドおよびHLA-単量体
HLA-A2に結合すると予測されるwt KRASペプチド
、HLA-A2に結合すると予測される変異KRAS(G12V)ペプチド
、HLA-A2に結合すると予測される変異KRAS(G12C)ペプチド
、HLA-A2に結合すると予測される変異KRAS(G12D)ペプチド
、HLA-A3に結合すると予測される変異KRAS(G12V)ペプチド
、HLA-A3に結合すると予測される変異KRAS(G12C)ペプチド
、HLA-A3に結合すると予測される変異EGFR(L858R)ペプチド
、HLA-A3に結合すると予測されるwt EGFRペプチド
、HLA-A3に結合すると予測されるwt KRASペプチド
、ならびに陰性HLA-A2対照ペプチドELA
およびLLG
を、Peptide 2.0(Chantilly, VA)により>90%の純度で合成した。ペプチドを10 mg/mLでDMSO中に再懸濁し、-80℃で保管した。HLA-A2および HLA-A3単量体を、ペプチドおよびβ-2ミクログロブリンと一緒に組換えHLAを再折り畳みすることによって合成し、ゲル濾過により精製し、ビオチン化した(Fred Hutchinson Immune Monitoring Lab, Seattle, WA)。折り畳まれたHLAのみを認識するW6/32抗体(BioLegend, San Diego, CA)を用いるELISAを実施することによって、選択前に、単量体が折り畳まれていることを確認した(59)。折り畳まれたHLAおよび折り畳まれていないHLAの両方を認識するウサギ抗HLA-A抗体EP1395Y(Abcam, Cambridge, MA)を、ELISAプレートへの折り畳まれていない単量体の結合のための対照として用いた。
【0029】
変異KRAS-HLA-A2に結合するファージの選択
HLAおよびβ-2-ミクログロブリンタンパク質を含むビオチン化単量体を、MyOne T1ストレプトアビジン磁気ビーズ(Life Technologies, Carlsbad, CA)またはストレプトアビジンアガロース(Novagen, Millipore, Darmstadt, Germany)のいずれかにコンジュゲートした。ビオチン化単量体を25μLのMyOne T1ビーズまたは100μLのストレプトアビジンアガロースのいずれかと一緒にブロッキングバッファー(PBS、0.5% BSA、0.1%アジ化ナトリウム)中で室温(RT)にて1時間インキュベートした。初回のインキュベーション後、複合体を1 mlブロッキングバッファーで3回洗浄し、100μLブロッキングバッファーで再懸濁した。
【0030】
濃縮段階:選択の濃縮段階はラウンド1~3から構成される。ラウンド1では、ライブラリーの250倍のカバー率を示す、1.4×1012のファージ(140μL)を、25μlの洗浄したネイキッドなMyOne T1ビーズおよびMyOne T1ビーズにコンジュゲートした1μg(100μL)の熱変性HLA-A2の混合物中で30分間インキュベートした。熱変性後、ペプチドまたはβ-2-ミクログロブリンではなく、ビオチン化HLA分子のみがMyOne T1に結合できることに留意されたい。この工程は、「負の選択」と呼ばれ、ビオチン化単量体の全ての調製物にわずかに存在する、ストレプトアビジンまたは変性モノマーのいずれかを認識する任意のファージを取り除くのに必要である。この負の選択後、ビーズをDynaMag-2磁石(Life Technologies)で固定し、未結合のファージを含む上清を、変異KRAS-HLA-A2単量体に対する正の選択のために移した。単量体の量をラウンド1の1μgからラウンド2では500 ngに、ラウンド3では250 ngに低減させ、ファージを30分間インキュベートした。溶出前に、ビーズを、ラウンド1から3においてそれぞれ0.05%、0.1%、および0.25%のTween-20を含む1 mlの1×TBSで10回洗浄した。ビーズを1 mLの0.2 Mグリシン、pH 2.2で再懸濁することによって、ファージを溶出した。10分のインキュベーションの後、溶液を150μLの1 M Tris、pH 9.0の添加によって中和した。溶出したファージを用いて、中期対数増殖期のSS320の10 mL培養液に感染させ、M13K07ヘルパーファージ(4のMOI)および2%グルコースを添加した。次いで、細菌を前に記載したようにインキュベートし、次の朝にファージをPEG/NaClで沈殿させた。
【0031】
競合段階:競合段階(ラウンド4から8)では、負の選択は、同じ熱変性HLA-A2単量体およびストレプトアビジンでコートしたネイキッドな磁気ビーズを組み込んだが、1μgの未変性HLA-A3単量体は組み込まなかった。負の選択後、ビーズを磁石で単離し、未結合のファージを含む上清を競合選択のために移した。これは、ストレプトアビジンでコートしたアガロースビーズ(Novagen EMD Millipore, Darmstadt, Germany)にコンジュゲートしたwt KRAS-HLA-A2単量体の存在下で、磁性ストレプトアビジンでコートした磁気MyOne T1ビーズにコンジュゲートした変異KRAS-HLA-A2単量体と一緒にファージをコインキュベートすることによって実施された。変異単量体対wt単量体の比率は、1:1~1:32へと各ラウンド2倍で低下し、wt単量体の量を1μgで一定に保った。溶出前に、ビーズを、0.5%Tween-20を含む1 mlの1×TBSで10回洗浄した。濃縮段階について上述したように、ファージを溶出および使用して、中期対数増殖期のSS320細胞を感染させた。
【0032】
最終選択段階:最終選択段階(ラウンド9~10)では、各1μgの変性および未変性KRAS-(WT)-HLA-A2単量体を負の選択に用いて、残存wt単量体結合ファージを取り除いた。上記濃縮段階で説明したように、負の選択後、ビーズを磁石で固定し、未結合ファージを含む上清を、62.5 ngの変異KRAS-HLA-A2単量体による正の選択のために移した。
【0033】
変異EGFR-HLA-A3に結合するファージの選択
これは、変異KRAS-HLA-A2に結合するファージの単離について上述したように実施したが、以下の改変を行った。選択は2.5×1012の投入ファージにより開始し、投入ファージの数は選択の過程にわたって低下した(下記参照)。初期のラウンドでscFv-pIII融合タンパク質の発現を向上させるために、IPTGを利用してlacオペロンを抑制解除した。IPTGを、ラウンド3を通じて10μMの初回濃度で加え、続いて、残りの6ラウンドの選択では5μMに低下させた。加えて、ラウンド1から8では、ストレプトアビジン磁気ビーズ(MyOne T1)にコンジュゲートした2μgの熱変性ビオチン化HLA-A2およびHLA-A3ならびに25μLのストレプトアビジンでコートしたネイキッドな磁気ビーズにより、負の選択を実施した。競合段階では、変異単量体対wt単量体の比率は1:2から1:64へと徐々に低減し、加えたファージの量は2.5×1012から10×106へと徐々に減少した。
【0034】
親和性成熟
D10の親和性成熟を以下のようにAxioMxで実施した。簡単に説明すると、D10 scFv配列(SEQ ID NO:37)を合成し、エラープローンPCRに基づく突然変異誘発用の鋳型として用いた。結果として生じる突然変異誘発ライブラリーは、3ラウンドの選択および増幅を受け、ここで、ファージは、KRAS(WT)-HLA-A2単量体に対する負の選択を受け、その後、KRAS(G12V)-HLA-A2単量体に対する正の選択およびその後の増幅を受けた。選択および増幅に続いて、可能性のあるファージを単離し、配列決定し、ELISAを介して試験した。より高い親和性のD10変異体を特定する。8クローンを、KRAS(WT)-HLA-A2結合がなくKRAS(G12V)-HLA-A2へのより高い親和性を有するとして特定し、そのうち1クローンD10-7(SEQ ID NO:38)をさらなる特性解析のために選択した。
【0035】
ELISA
ストレプトアビジンでコートした96ウェルプレート(Thermo Scientific, Walthan, MA)を、ブロッキングバッファー(0.5% BSA、2 mM EDTA、および0.1%アジ化ナトリウムを有するPBS)中でビオチン化単量体の200 nM溶液で4℃にて一晩コートした。プレートを1×TBST(TBS+0.05%Tween-20)で簡単に洗浄した。ファージを1×TBSTで指定した希釈に段階的に希釈し、100μLを各ウェルに添加した。ファージをRTで1時間インキュベートし、続いて、しっかりと洗浄した(噴霧ボトル(Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて1×TBSTで6回洗浄)。結合したファージを、1×TBSTで1:2000に希釈した100μLのウサギ抗M13抗体(Pierce, Rockford, IL)と一緒にRTで1時間インキュベートし、続いて、さらに6回洗浄し、1×TBSTで1:10,000に希釈した100μLの抗ウサギIgG-HRP(Jackson Labs, Bar Harbor, Maine)と一緒にRTで45分間インキュベートした。1×TBSTによる最後6回の洗浄の後、100μLのTMB基質(Biolegend, San Diego, CA)をウェルに添加し、反応を1 N HClまたは2 N硫酸で停止させた。450 nmでの吸光度をSpectraMax Plus 384プレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)またはSynergy H1 Multi-Mode Reader(BioTek, Winooski, VT)で測定した。
【0036】
モノクローナルファージELISAを、最終選択段階から得られたファージの限界希釈によって形質導入されたSS320細胞の個々のコロニーを選択することによって実施した。個々のコロニーを、100μg/mLカルベニシリンおよび2%グルコースを含む200μlの2×YT培地内に播種し、37℃で3時間増殖させた。次いで、細胞を、1.6×107 M13K07ヘルパーファージ(Antibody Design Labs, San Diego, CA)に4のMOIにてディープウェル96ウェルプレート中で感染させ、振とうなしで37℃にて30分間インキュベートし、続いて30分間振とうした。細胞をペレット状にし、カルベニシリン(100μg/mL)およびカナマイシン(50μg/mL)を含む300μLの2×YT培地で再懸濁し、30℃で一晩増殖させた。上述のように、細胞をペレット状にし、ファージを含んだ上清をELISAに用いた。精製scFvによるELISAを、1μg/mLの出発濃度からの段階希釈および検出のための1:2000に希釈した抗Flag-HRP抗体(Abcam)の使用によって、本質的に上記のように実施した。全長D10 MANAbodyによるELISAを、1μg/mLの出発濃度からの段階希釈および二次抗体として1:2000に希釈した抗ヒトIgG-HRP抗体(Life Technologies)によって、同様に実施した。単量体を100μL ddH2O内で希釈し、続いて、100℃にて5分ヒートブロックインキュベーションすることによって、単量体熱変性を最初に実施した。
【0037】
scFv産生
プライマーを、scFvコード領域全体を増幅するように設計した。Gateway(商標)定方向クローニング配列をフォワードプライマーに加え、Gateway(商標)エントリーベクター内へのサブクローニングを容易にし、かつAviTag(商標)配列をリバースプライマーに加え、組換えscFvの今後のビオチン化を可能にした。クローンを配列検証し、C末端V5およびHisエピトープタグ(Life Technologies)を含むpET-DEST42デスティネーションベクターに組み換えた。
【0038】
組換えプラスミドで形質転換したBL21 DE3 Gold細胞を1リットルのバッチ中で1.0のOD600まで増殖させ、およそ20℃に冷却し、500μM IPTGで誘導した。タンパク質を20℃にて一晩発現させた。次の朝、細菌をペレット状にし、ペリプラズム抽出バッファー(50 mM Tris pH 7.4、20%スクロース、1 mM EDTA、5 mM MgCl2)で再懸濁し、1/10量の1 mg/mlリゾチームの存在下で氷上にて30分間インキュベートした。細胞を12,000 gにて30分間ペレット状にした後、上清を22μMフィルター(Millipore)を通過させ、1 ml Ni-NTA樹脂(Qiagen)と一緒に1時間インキュベートした。上清およびビーズ混合物を自然落下式カラムの上にロードし、洗浄し、イミダゾールの量の増加によって溶出した。各アリコートからのサンプルをSDSポリアクリルアミドゲル上で泳動し、純粋なタンパク質を含む画分を1×PBS pH 7.4中で4℃にて一晩透析した。ELISAを標準プロトコールに従って実施し、抗V5 HRP抗体(Life Technologies)を用いてscFv結合能力および特異性を保証した。
【0039】
あるいは、scFv配列をAxioMx Inc.に提供し、ペリプラズム局在配列ならびにN末端FlagタグおよびC末端Hisタグを含むベクター内にサブクローニングした。次いで、scFvをニッケルクロマトグラフィーにより精製した。
【0040】
抗体産生
scFv配列を組換え抗体発現のためにトラスツズマブ(4D5)配列上に移植した。コドン最適化、合成、サブクローニングおよびタンパク質産生のために、重鎖および軽鎖両方の配列をGeneartに提供した(Geneart, Life Technologies, Carlsbad, CA)。Expi293(商標)細胞培養系を用いるタンパク質発現および抗体分泌のために、IgGシグナル配列が各鎖上に含められた。72時間のタンパク質発現の後に、1リットル培養液からの抗体をカラムクロマトグラフィで精製し、17 mL PBS中に溶出し、等分し、8.25 mg/mLで輸送した。
【0041】
T2およびT2A3細胞染色
ペプチドパルスのために、T2およびT2A3細胞を50 mL PBSで1回、および血清を含まない50 mL RPMI-1640で1回洗浄し、その後、50μg/mLペプチドおよび10μg/mLヒトβ-2ミクログロブリン(ProSpec, East Brunswick, NJ)を含む無血清RPMI-1640中で1 mL当たり5×105細胞で37℃にて4時間または一晩インキュベートした。パルスした細胞をペレット状にし、染色バッファー(0.5% BSA、2 mM EDTA、および0.1%アジ化ナトリウムを含むPBS)で1回洗浄し、染色バッファーで再懸濁した。ファージ染色を約1×109ファージにより200μlの合計量で4℃にて30分間実施し、続いて、6℃にて5分間500 gで遠心することによって染色バッファーで3×4 mLリンスした。細胞を200μL染色バッファーで再懸濁し、氷上で30分間1μLのウサギ抗M13抗体(Pierce, Rockford, IL)で染色し、続いて、4 mL染色バッファーで3回リンスした。次いで、細胞を200μL染色バッファーで再懸濁し、氷上で30分間1μLの抗ウサギAlexa Fluor 488(商標)(Life Technologies)でインキュベートし、分析前にさらに3回リンスした。scFv染色を1μgのscFvにより100μL染色バッファー中で氷上にて30分間実施し、続いて、4℃にて染色バッファーで3回リンスした。次いで、細胞を1μLのマウス抗V5-FITC(Life Technologies, Grand Island, NY)により氷上にて30分間染色し、続いて、6℃にて染色バッファーで3回リンスした。抗体染色を、細胞を100μL染色バッファーで再懸濁することによって実施し、1μgヤギ抗ヒト抗体(Life Technologies)により氷上にて30分間ブロックし、続いて、4℃にて3回リンスした。細胞を200μL染色バッファーで再懸濁し、5μgのD10抗体(またはアイソタイプ対照)により氷上にて30分間染色し、続いて、3回リンスした。細胞を200μL染色バッファーで再懸濁し、2μLヤギ抗ヒトPE抗体(Life Technologies)により氷上にて30分間染色し、続いて、3回リンスした。ペプチドパルスを、パルスしたT2またはT2A3細胞を5μLのW6/32-PE(Bilegend)と一緒に100μLの染色バッファー中でインキュベートし、続いて3回洗浄することによって評価した。染色したT2およびT2A3細胞を、FACSCaliburまたはLSRIIフローサイトメーター(Becton Dickinson, Mansfield, MA)を用いて分析した。
【0042】
T2細胞補体依存性細胞傷害
scFvを抗V5マウスモノクローナル抗体(Life Technologies, Grand Island, NY)に2:1のモル比で4℃にて一晩コンジュゲートさせた。コンジュゲートしたscFvまたは対照抗HLA抗体W6/32(Bio-X-Cell)を無血清RPMI-1640で氷上にて段階的に希釈した。氷冷したddH20によって再懸濁した幼若ウサギ補体(Cedarlane)を段階希釈した抗体コンジュゲートに添加し、その後、60μLを96ウェルプレートに移した。20,000細胞を含む追加の40μLの予冷却したペプチドパルスT2細胞をプレートに移し、緩やかに混合した。全ての場合において、10%の最終補体濃度をアッセイに用いた。プレートを37℃で1時間インキュベートし、続いて、製造者の説明書に従って、CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay(Promega)により読み取った。3種類の細胞サブタイプ(異なるペプチドまたはβ-2ミクログロブリン-対照のみでパルスした細胞)のそれぞれをルシフェラーゼシグナルの最大値(抗体なしの対照)に対して最初に正規化し、続いて、100%から減ずることによって、細胞死を計算した。特異的細胞死は、所与の3種類の細胞サブタイプそれぞれに対するW6/32抗体による処理の後に観察された最大細胞死によって割った特定の抗体濃度での細胞死として定義される。
【0043】
細胞死(%)=100-(100×ルシフェラーゼシグナル/ルシフェラーゼシグナルMax)
【0044】
【0045】
親和性およびkoff測定
AlphaScreen(登録商標)親和性測定を以下のようにAxioMx Inc.で実施した。ビオチン化KRAS(G12V)-HLA-A2単量体、ビオチン化されていないKRAS(G12V)-HLA-A2単量体、およびFlagでタグ付けしたD10 scFvを、680 nmの励起波長を有するストレプトアビジンでコートしたドナービーズおよび抗Flag抗体にコンジュゲートされたアクセプタービーズを含む溶液に同時に添加した。アクセプタービーズの刺激はドナービーズの近さに依存し、両ビーズが接近したときに520~620 nmの間の励起をもたらす。KRAS(G12V)-HLA-A2に対するD10 scFvのEC50、およびその結果の親和性は、競合するビオチン化されていない単量体の量を変化させ、結果として生じる吸光度を測定することによって決定された。
【0046】
限られた量の抗原を保存し、新たなscFvのスクリーニングを促進するために、本発明者らは、off-rate ELISAベースの動的アッセイを開発し、scFv/単量体解離のkoff、およびその結果の半減期を測定した。100μLの各ビオチン化単量体の20 nM溶液を、ストレプトアビジンでコートした96ウェルストリッププレート(R&D Systems)にコンジュゲートさせた。洗浄後、D10 scFv、D10-7 scFv、またはC9 scFvの37.0 nM、9.3 nM、または2.3 nM溶液の100μLをプレートに添加し、単量体でコートしたウェル上で22℃にて2時間平衡化した。さまざまな時点で、プレートの1つのストリップを取り外し、しっかり洗浄し、全ての時点が完了するまで22℃で振とうしながら2リットルの1×TBSTに入れた。0時点の後、最初のストリップを洗浄した時から合計16時間のscFv解離を考慮して、全てのストリップをプレート上に再構成し、抗Flag-HRP抗体およびTMB基質を用いて、前に記載したように、ELISAを行った。指数関数(At=Aoe-kt)をバックグラウンド減算後に生じるデータ点に適用し、一次反応式t1/2=ln(2)/kを用いることによって、半減期を決定した。D10 MANAbodyのoff-rateの推定は、以下を例外として上記のように行った:100μLの10 nM単量体を1:2のストレプトアビジン複合体対単量体比率を可能にするようにプレート上にコートし、低濃度(1.8 nM)の抗体を用い、かつアッセイを32時間の時点まで行った。
【0047】
統計データ
統計解析は全て、Prism 5(GraphPad Software)により行われた。別段の指示がない限り、エラーバーは3回の技術的反復の標準偏差を表す。統計的優位性は、対応のない両側t検定により行われた。
【0048】
実施例2
scFvベースのファージディスプレイに基づくscFvライブラリーの設計および構築
本発明者らは、マウスにおいて変異KRASペプチドに対する抗体を作製しようと試みるこれらの試験を始めた(この選択の根拠を下記に説明する)。マウス免疫後にモノクローナル抗体を導き出す通常のアプローチを用いると、MANAと特異的に反応する抗体は同定されなかったことから、これらの努力は失敗した。本発明者らはそのために、MANAbodyを作製するためのファージディスプレイアプローチに転じた(図1)。ファージディスプレイライブラリーの設計は、公開された研究(22)で利用されている原理に従い、いくつかの特別な特徴を含んだ。ライブラリーのフレームワークは、ERBB2によってコードされるタンパク質に対して作製された(23)、ヒト化4D5抗体(トラスツズマブ)のscFv配列に基づいた。このフレームワークは、そのファージに対する安定性および可溶性scFv、Fab、または抗体への変換の容易性(22, 24)を理由として選択された。ヒト化4D5の高分解能結晶構造によって、抗原結合において最も重要な役割を果たす高可変性の相補性決定領域(CDR)内の残基が特定されている(25)。これによって、本発明者らが、骨格残基ではなく抗原結合について最も重要な残基に対する可変性に集中することが可能になった。本発明者らのライブラリーでは、アミノ酸置換は、4つのCDR、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3における定義されたパラトープ残基に限定された(26)。本発明者らは、以前に抗原結合において重大な役割を果たすことが実証されたかまたは天然に生じる抗体において濃縮されたCDR内の特定のアミノ酸を含むようにライブラリーを傾向付けた。1つの重要なランダム化はCDR-L3にて行われ、セリンおよびチロシン、以前にライブラリー設計の必要最低限のアプローチを促進することが示された2つのアミノ酸の混合物を含んだ(26, 27)。重鎖のCDRは抗原結合多様性においてより重要な役割を果たすことが示されており(28-30)、そのため、本発明者らは軽鎖CDRではなく重鎖CDRにおいてより多くの縮重を導入した。加えて、多様性を向上させようとした位置では、より一般的に用いられるIUBヌクレオチド(NNKおよびNNS縮重コドンと表される)をDMTコドンによって置換した;これによって望まない残基が除去された。全ての場合において、本発明者らは、システインまたは停止コドンを生じさせる配列の取り込みを最小化することを目的とした縮重ヌクレオチド混合物を利用した。最後に、本発明者らは、CDR-H3において長さの多型を導入し、7アミノ酸のステムループ結合長の多様性を可能にした。これらの変化は、5×1013の計算上の理論的ライブラリー複雑性をもたらした。
【0049】
合成したオリゴヌクレオチドライブラリーをscFv発現のためにファージミドベクター内にクローン化した。このscFvはmycタグを保有し、タバコエッチ病ウイルス(TEV)切断部位を通じてバクテリオファージM13 pIIIコートタンパク質と融合させた(図5)。この設計は、ファージ粒子からのscFvの精製を容易にし、その後のファージ選択工程時に、TEV切断によって達成される代替の溶出法を提供した。ライブラリー合成後、サンガー法によって45クローンを配列決定した。配列決定によって、フレームワーク領域内に変異が存在せずCDR内に予測されるアミノ酸が存在することによって定義される、53%のライブラリー成功率が示された。ライブラリー多様性を、ライブラリー構築時に達成される形質転換効率に基づき計算し、5.5×109の推定多様性が得られた。ライブラリーの品質をさらに評価するために、ライブラリーを超並列シーケンシングに供した(31)。この解析によって、3,785,138の特有のクローン(分析した全クローンの46.5%)が明らかになった。配列決定した領域は、系統的に変化したCDR-H3のみを含み、他の3種類のCDR(CDR-L3、CDR-H1、およびCDR-H2)は含まなかった。そのため、特有のクローンの割合(46.5%)は多様性の最小推定値を表す。配列のランダムサブセットの翻訳によって、予想アミノ酸分布ならびにCDR-H3における長さの多様性がさらに示された。
【0050】
実施例3
選択的に反応するファージクローンを特定するための標的選択および競合戦略
本発明者らは、特定の変異の頻度およびHLAアレルへのその予測される結合の強度に基づきMANAbody標的を選択した。KRASは、ヒト癌において最も一般的な変異遺伝子の1つであり、膵臓腺癌、直腸結腸腺癌、および肺腺癌で特によく見られる変異を有する。G12V変異を含む関連ペプチドは、多くの民族で最も一般的なHLAアレルであるHLA-A2に高い親和性で結合することが予測された(32)ことから、本発明者らは標的としてG12V変異を選択した。このインシリコでの予測は、NetMHC v3.4アルゴリズムを用いて行われた(33-35)。加えて、決定的な変異残基(コドン12にあるV)が、他のペプチドHLA複合体の構造的研究(36)に基づき、HLAタンパク質の表面上に露出されると予測された。ペプチドKLVVVGAVGV(SEQ ID NO:4)は、8位にあるバリン残基(V)がG12V変異を示し、通常の手段により化学的に合成された。変異アレルの産物に対応するペプチドは、以下「変異ペプチド」と呼び、wtアレルの産物を表すペプチドを「wtペプチド」と称する。次いで、変異KRASペプチドを、HLA-A2 およびβ-2-ミクログロブリンの複合体(単量体)に折り畳んだ[KRAS(G12V)-HLA-A2]。wt KRAS配列に対応する2つのペプチドも合成し、HLA-A2またはHLA-A3と一緒に折り畳み、それぞれKRAS(WT)-HLA-A2およびKRAS(WT)-HLA-A3単量体を形成した。他のコドン12変異に対応するさらなる変異KRAS単量体も構築した。多くの場合では、精製およびその後の実験を容易にするために、単量体をビオチン化した(材料および方法を参照)。
【0051】
ファージディスプレイ選択工程は、10ラウンドの選択および増幅からなり、3つの異なる段階:濃縮段階(ラウンド1~3)、競合段階(ラウンド4~8)、および最終選択段階(ラウンド9~10)に分けられた(図6)。これらの段階の全体的な目的は、KRAS(WT)-HLA-A2またはHLA単独よりKRAS(G12V)-HLA-A2によく結合したクローンの回収を最大化することであった。濃縮段階の各ラウンドにおいて、熱変性したビオチン化HLA-A2単量体による負の選択の後に、KRAS(G12V)-HLA-A2による正の選択が続いた(図6Aおよび材料および方法)。次に続く各ラウンド(ラウンド2および3)では、KRAS(G12V)-HLA-A2単量体の量を低減させ、より強い結合物質を濃縮した。
【0052】
本試験で記載した新たな競合段階は、本発明者らが濃縮段階後にライブラリー中に存在することを期待した、希少な変異KRAS-(G12V)--HLA-A2結合物質がKRAS(WT)-HLA-A2結合物質および頻度がより高いpan-HLA結合物質と比較して濃縮されることを目的とした。競合段階の各ラウンドは、変性HLA-A2および未変性HLA-A3単量体を用いる負の選択により始めた(図6B)。次いで、ファージを、ストレプトアビジン磁気ビーズに結合させたKRAS(G12V)-HLA-A2およびストレプトアビジンアガロースビーズに結合させたKRAS(WT)-HLA-A2と一緒に同時にインキュベートした。KRAS(WT)-HLA-A2に結合するファージは磁気ビーズ捕捉工程において回収されないことから、KRAS(WT)-HLA-A2は競合体として機能した (図6B)。さらに、競合段階の各ラウンドにおいて、高親和性結合物質を濃縮する試みの中で、利用したKRAS(G12V)-HLA-A2の量を、KRAS(WT)-HLA-A2の量と同じだが、徐々に減少させた。最終選択段階では、各ラウンドを、過剰な変性および未変性KRAS(WT)-HLA-A2単量体を用いるストリンジェントな負の選択により開始し、KRAS(G12V)-HLA-A2単量体による正の選択を続けた(図6C)。
【0053】
実施例4
選択したファージクローンの評価
本発明者らは酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて、ペプチド-HLA複合体へのファージの結合を評価した。濃縮段階(図6A)後、選択したファージ(まとめて)は、HLA-A2と複合体形成したwt KRASペプチドと比較して変異体への優先性、またはHLA-A3に結合されたKRASペプチドと比較してHLA-A2に結合されたKRASペプチドへの優先性を示さなかった(図7A)。最終選択段階(図6C)後にのみ、HLA-A2に結合された変異KRASに対する特異性が生じた。具体的には、これらのファージは、KRAS(WT)-HLA-A2またはKRAS(WT)-HLA-A3よりKRAS(G12V)-HLA-A2によく結合した(図7B)。これらのファージを限界希釈によってクローン化し、96ウェルプレート形式で拡大させた。1つのクローン(D10; SEQ ID NO:37)は、KRAS(G12V)-HLA-A2単量体に対する実質的な結合を示した(図2A)。D10クローンは試験した他の全ての単量体へは結合せず、KRAS(G12V)-HLA-A2に高い特異性を有した(図2B)。
【0054】
M13 pIIIから分離したD10 scFvを生成するために、D10ファージから一本鎖DNA(ssDNA)を精製した。scFv部分をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、配列決定し、6×Hisタグに加えてFlagまたはV5エピトープタグのいずれかを含む原核生物発現ベクター内にクローン化した。これはD10 scFvの高レベルの発現およびアフィニティ精製を容易にした。D10 scFv:pIII融合タンパク質を発現するファージと同様に、精製D10 scFvは、高い特異性でKRAS(G12V)-HLA-A2と相互作用した(図2C)。重要なことには、D10 scFvは、KRAS(WT)-HLA-A2、KRAS(WT)-HLA-A3、またはHLA-A2に結合された他のKRAS変異体(KRAS G12CまたはKRAS G12D)に対して、バックグラウンドを上回るいずれの結合も示さなかった。加えて、D10 scFvは、HLAタンパク質と複合体形成しなかったとき、KRASペプチドに結合しなかった(図8)。これらの結果は、HLAの状況においてペプチドに結合されたscFvの選択の成功を実証する。
【0055】
親和性成熟
KRAS(G12V)-HLA-A2に対するD10 scFvの親和性は、親和性測定のAlphaScreen(登録商標)法(37)を用いて、49 nMであると推定された。本発明者らは次に、親和性成熟D10に進んだ。簡単に説明すると、エラープローンPCRを通じて突然変異を誘発したD10 scFvのライブラリーを最初のD10 scFv配列から作製し、3ラウンドのKRAS(G12V)-HLA-A2および KRAS(WT)-HLA-A2単量体に対する選択に供した。クローンの評価によって、KRAS(G12C)-HLA-A2に結合する新たに獲得した能力を示す一方で、変異KRASエピトープと野生型KRASエピトープとを区別する能力を依然として維持する、候補物質、D10-7を得た(図9)。D10-7およびD10をそれらのKRAS(G12V)-HLA-A2への相対的結合について比較するために、本発明者らは、off-rateに基づくアッセイを用いてkoff値を測定した。親和性測定とは異なり、これらのアッセイは、同じ試験内で複数のscFvの迅速な比較を可能にし、よって、複数のクローンの相対的結合のより直接的な比較をもたらす(38)。off-rate測定は、D10 scFv(5.7×10-6 sec-1)と比較して、親和性成熟したD10-7 scFvでは解離速度定数のほぼ2分の1の減少(3.2×10-6 sec-1)を示した。これらのscFvに対するKRAS(WT)-HLA-A2単量体の測定可能な結合は生じず、KRAS(G12V)-HLA-A2のkoffはKRAS(WT)-HLA-A2より少なくとも200分の1の低さであったことが実証された。HLA-A2と複合体形成した変異対野生型ペプチドへのこれらのscFvの結合の大きな差異はまた、下記の他のアッセイでも明らかであった。
【0056】
実施例5
異なるMANAに結合できるファージの特定
このアプローチが他のMANAに適用可能かどうかを判定するために、本発明者らは、異なるHLAアレルと複合体形成した変異EGFRペプチドに特異的なscFvを特定しようと努力した。EGFR L858R変異は、肺腺癌の約10%で見いだされ、この癌のタイプにおける全てのEGFR変異の約40%を占める(39)。コドン858は、EGFRタンパク質の細胞外または膜ドメインではなく細胞質ドメイン中にあり、正常には細胞表面上に見ることはできないはずである(40)。この変異を含むペプチド(KITDFGRAK; SEQ ID NO:9)は、NetMHC v3.4アルゴリズムによって分析すると、HLA-A3アレルに高親和性で結合すると予測された。このペプチド-HLA複合体に特異的なscFvを特定するために、本発明者らは、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)の濃度の低下を用いて、その後のラウンドでscFv発現を低減させる、選択および増幅の改変スキームを採用した。加えて、各選択段階におけるラウンドの数を、望ましくないファージの除去ではなく、望ましいファージの濃縮に有利に働くように調整した(図6と比較して図9、材料および方法も参照)。これらの改変によって、本発明者らは、HLA-A3に結合されたwt EGFRを含むさまざまな対照単量体と比較して、HLA-A3と複合体形成させた変異EGFRペプチド[EGFR(L858R)-HLA-A3]への選択的結合を示したファージクローン(C9; SEQ ID NO:39)を得ることができた(図2D)。このクローンから生じたC9 scFvは、EGFR(L858R)-HLA-A3に対して類似の選択的結合を示した(図2E)。HLA-A3に結合された変異EGFRペプチドの推定koffは、wtペプチドのkoffより1桁低いものであった(それぞれ、2.6×10-6 sec-1対3.0×10-5 sec-1の値)。
【0057】
実施例6
細胞表面上に変異ペプチドを提示する細胞への選択的結合
本発明者らは次に、D10およびC9 scFvが細胞の表面上にある変異KRASおよびEGFRペプチド-HLA複合体に結合するかどうかを判定することを試みた。T2細胞株は、TAP1およびTAP2ペプチド輸送体のための遺伝子を含む欠損のために内在性HLA関連ペプチド抗原の提示を欠く、Epstein-Barrウイルスで形質導入したヒトリンパ芽球細胞株に由来した(41)。T2A3は、HLA-A3導入遺伝子の安定発現を伴うT2の改変バージョンである(42, 43)。T2およびT2A3細胞は、外因性HLA結合ペプチドの添加によって安定化することができる低レベルのHLAを発現し、よって、特異的HLA結合ペプチドとの相互作用をアッセイするためのプラットフォームとして機能することができる(44, 45)。本発明者らは最初に、T2細胞をKRAS(G12V)、KRAS(WT)、または陰性対照ペプチドでパルスした。搭載効率を評価するために、本発明者らは、いずれかのHLA結合ペプチドによって安定化したHLA分子を標的とするW6/32抗体を用いた。野生型ペプチドと変異ペプチドとの間のペプチド搭載の効率は、抗W6/32染色によって示唆されるように比較できた(図11)。D10ファージとのインキュベーション後のフローサイトメトリーによるパルスした細胞の分析は、KRAS(G12V)ペプチドでパルスした細胞へのD10ファージの結合を明らかにした一方で、KRAS(WT)または対照ペプチドでパルスした細胞に対する(バックグラウンドと比較して)わずかな結合を観察したことを示した(図3A、図 S8)。D10ファージではなく精製D10 scFvによる類似の実験は、細胞表面上に提示されたKRAS(G12V)への選択的結合を確認した(図3B)。本発明者らはまた、変異EGFR(L858R)、EGFR(WT)、または陰性対照ペプチドでT2A3細胞をパルスし、フローサイトメトリーによりC9ファージの結合を評価した。ここでもまた、EGFR(L858R)ペプチドでパルスした細胞へのC9ファージの結合を明らかにした一方で、EGFR(WT)または対照ペプチドでパルスした細胞への結合は観察されなかった(図3C図13)。ファージまたはscFvが反応に含まれなかったとき、または細胞がペプチドで負荷されなかったときは、バックグラウンド蛍光のみが観察された(図3A~3C、図12および13)。
【0058】
本発明者らは次に、変異KRAS(G12V)ペプチドでパルスしたT2細胞がD10 scFvにより標的とされ、補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイで殺傷されるかどうかを判定しようと努力した。陽性対照として、本発明者らはKRAS(G12V)またはKRAS(WT)ペプチドでT2細胞をパルスし、W6/32抗体を用いてCDCアッセイを実施した。予想したように、抗体は、補体の存在下でペプチドでパルスしたT2細胞を効率的に殺傷した(図14)。本発明者らは次いで、D10 scFvおよび親和性成熟させたD10-7 scFvを試験し、CDCアッセイにおいて補体を固定するFc領域を含む抗V5エピトープタグ抗体に両方をコンジュゲートさせた。両方のscFvとも用量依存的にKRAS(G12V)でパルスしたT2細胞を死滅させ、親和性成熟させたD10-7 scFvは死滅効率に顕著な改善を示した(D10-7では0.79 nMのEC50に対しD10では11.2 nMのEC50、図3D)。これに対して、KRAS(WT)でパルスしたまたは外因性ペプチドでパルスしなかった細胞は、わずかな細胞死のみを示した。
【0059】
実施例7
全長MANAbodyの作製
免疫療法試薬の臨床応用は概して、scFv成分だけではなく、Fcドメインを含む完全抗体を利用する。完全抗体の別の特質は、当初一価のscFvの二価性の結果として達成されるより高い結合性である。D10 scFvから完全MANAbodyを作製するために、本発明者らは、臨床で使用されるヒト化4D5抗体トラスツズマブの定常領域の上にD10 scFv配列を移植した。D10 MANAbodyの高レベルの発現を哺乳動物細胞において達成した(Expi293細胞培養液1リットル当たり139ミリグラムのタンパク質)。D10 scFvと同様に、D10 MANAbodyは、ELISAにより評価したように、KRAS(G12V)-HLA-A2と相互作用した(図4A)。KRAS(WT)-HLA-A2単量体または試験したいずれかの他の単量体への結合は観察されなかった。D10 MANAbodyはまた、KRAS(WT)または陰性対照ペプチドでパルスしたものと比較して、変異KRAS(G12V)ペプチドでパルスしたT2細胞の比較的強力な染色も示した(図4B図15)。最後に、全長D10 MANAbodyの観察された半減期は、その一価の解離について評価したときのそのscFv誘導体のものと同様であった。このように、D10 MANAbodyは、D10 scFvで通常観察される高い特異性および低い解離速度を保持した。
【0060】
実施例8
ファージパニングプロトコールの改変
前に記載したファージ選択法の変化形を実施し、追加のHLA-ペプチド複合体(CTNNB1 S45FおよびEGFR T790M)に対する抗体を特定した。CTNNB1はタンパク質βカテニンをコードする遺伝子名である。これらの名称は本文書において互換的に用いられる。
【0061】
第1の変更は、スクリーニングされる特定のHLAアレルを発現する細胞株由来の細胞の包含である。しかしながら、これらの細胞は、関心対象の関連変異を含まない。本発明者らは、各ラウンドの最初に行われる負の選択工程(本発明者らが変性HLAおよびネイキッドなストレプトアビジンビーズに対するファージを調べる工程と同じ工程)にこれらの細胞を加えた。細胞は、最初の2ラウンドまたはスクリーニング期間の間にこの工程に加えることができる。この工程の目的は、本発明者らの変異エピトープに類似するHLA-エピトープ配列に結合する任意のファージを取り除くことである。
【0062】
本発明者らはまた、濃縮段階、競合段階および最終選択段階のラウンド数を変更することによって、本発明者らが前には検出しなかった抗体を同定できることも実証する。具体的には、0または1ラウンドの濃縮段階を行い、続いて、最大で5ラウンドの競合選択を行った。しかしながら、競合選択の第2ラウンド後に開始する場合、それぞれの日にファージのアリコートを負の選択に移行させた(これは両方とも、ファージ選択のラウンド数を減らし、その後のパニングのラウンドでは存在しなかったscFv候補を本発明者らが同定するのを可能にする)。
【0063】
2、3、および4ラウンドの競合選択の後、ファージを連続した2ラウンドの負の選択に供し、合計で4から8ラウンドの選択を受けたファージを生じさせた。
【0064】
これらの変更は、βカテニン/CTNNB1(S45F)-HLA-A3およびEGFR T790M-HLA-A2変異ならびに潜在的にはp53変異に対するscFv候補の同定をもたらした。
【0065】
実施例9
KRAS G12V-HLA-A2クローンF10
F10クローンのファージ選択を、変異[KRAS(G12V)-HLA-A2]および野生型[KRAS(WT)-HLA-A2]単量体を用いた点を除いて、C9ファージ選択で記載したように行った。これは、複数のscFv候補が所定のHLA複合体について特定できることを実証する。
【0066】
F10クローン:
【0067】
実施例10
KRAS F10クローンの親和性成熟
KRAS D10クローンと同様に、F10 scFvもまた効果的な親和性成熟を受けることができ、変異体はKRAS野生型と比較してKRAS変異体に対してその特異性を保持する。
【0068】
KRAS(wt)-HLA-A2シグナルは、F10 scFvと同じように、バックグラウンド近くに残る(これはN末端エピトープタグを包含しているためである)。F10親和性成熟変異体は、顕著な結合(平均蛍光強度の131倍もの増加)を示す。
【0069】
F10親和性成熟誘導体のscFv配列:
【0070】
実施例11
CTNNB1(S45F)-HLA-A3発癌性変異(TTAPFLSGK; SEQ ID NO:27)。CTNNB1(βカテニン)のタンパク質産物の残基45での変異は、発癌遺伝子において2番目に最も一般的である。(S→F変異は最も多く見られるアミノ酸変化である)。S45Fに対する抗体の特定はまた、S45Pに対する抗体誘導体が可能であることを示唆する。加えて、最も一般的なCTNNB1変異であるT41A変異もまた、同じアミノ酸コーディネート(ATAPSLSGK; SEQ ID NO:36)でHLA-A3に結合すると予測される。これは、この変異を標的とすることも実現可能であることを実証する。
【0071】
βカテニン/CTNNB1 S4F5およびEGFR T790M変異のためのパニングに対する変更を以下に記載する。これは、競合ベースのスクリーニングに固有の柔軟性を実証する。
【0072】
E10 scFv配列
【0073】
W6/32データは、b2m(陰性対照)と比較した抗体結合の増大を示し、ペプチドがHLA-A3複合体によって提示されることを示す。E10ファージ染色は、scFvが対照ペプチド(600~800 MFI)と比較してS45Fエピトープに特異的に結合する(80,400k MFI)ことを示す。
【0074】
ファージクローンE10は、CTNNB S45Fペプチドでパルスした細胞に特異的である。
【0075】
実施例12
EGFR T790M
EGFR T790M変異は、2番目に最も頻度が高いEGFR変異(L858Rの次)である。これは、耐性突然変異として抗EGFR治療に反応して高い頻度で現れることから、重要な変異である。加えて、文献におけるエビデンスは、T790M変異が内因的に加工され、HLA-A2複合体によって(9および10アミノ酸ペプチド両方として)腫瘍細胞上に提示されることを示唆する。
【0076】
9アミノ酸変異エピトープは以下である:
(SEQ ID NO:28;変異残基T→Mは下線を引き太字にしている)。
【0077】
10アミノ酸変異エピトープは以下である:
(SEQ ID NO:29;変異残基T→Mは下線を引き太字にしている)。
【0078】
実施例13
ファージ選択
上述のようにファージ選択を行った。2および3および4日の競合的選択(続いて、2日の負の選択)から(異なるscFv配列を有する)潜在的候補を特定した。これらの候補をD2D6、D3E6、D2D8と称する。D3E6はこのコホートの中で最も有望であるように見えた。
【0079】
D3E6 scFv配列は以下である。
【0080】
D2D6 scFv配列は以下である。
【0081】
D2D8 scFv配列は以下である。
【0082】
実施例14
p53 R248Wクローン
TP53は癌において最も一般的な変異遺伝子である。本発明者らは、p53 R248W変異に結合する能力を有するscFvを入手している。本発明者らは現在、それらの特異性を試験しているが、このエピトープに対する抗体が入手する可能性があることを実証する。別の一般的な変異p53 R248Qは、WがQに変わっている以外、配列は同一であり、同じようにHLA-A2に結合する。
【0083】
クローンD2F2配列
【0084】
実施例15
ABL1 E255K変異(KVYEGVWKK;SEQ ID NO:26)
ABL1は全CMLの約30%で変異している。E255K変異は、イマチナブ(imatinab)およびニロチナブ(nilotinab)に対する薬剤耐性を付与する。この変異はエピトープ内の1位に存在すると予測される。これは、抗体またはTCRが変異体と野生型とを区別するのを非常に困難にする。しかしながら、変異エピトープに対するHLA-A3の予測親和性は、予測される野生型親和性より10倍高い(29 nM対228 nM)。加えて、異なるN末端アミノ酸を有するエピトープのタンパク質プロセシングは、異なる切断産物をもたらし、よって、内因性の提示に影響を与える可能性がある。これは、変異および野生型の両方のエピトープ(1位に変異を有する)のscFv認識がインビボでの変異エピトープ特異性を妨げない可能性があることを示唆する。
【0085】
参考文献
引用された各参考文献の開示は、本明細書に明示的に組み入れられる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【配列表】
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