(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】L-アミノ酸を生産する大腸菌変異株またはコリネバクテリウムグルタミカム変異株、およびそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230630BHJP
C12P 13/22 20060101ALI20230630BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230630BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20230630BHJP
C12R 1/19 20060101ALN20230630BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/22 A
C12P13/22 C
C12N15/31
C12R1:15
C12R1:19
(21)【出願番号】P 2021537857
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 KR2019017934
(87)【国際公開番号】W WO2020138815
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0169847
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518431347
【氏名又は名称】デサン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ヒ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・イル・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ソ・キム
(72)【発明者】
【氏名】チョル・ミン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ジョ・シン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-125893(JP,A)
【文献】国際公開第2010/090330(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02098597(EP,A1)
【文献】国際公開第2009/116566(WO,A1)
【文献】特表2006-525793(JP,A)
【文献】特開2017-216881(JP,A)
【文献】特開2000-189177(JP,A)
【文献】MARTINEZ, Juan Andres, et al.,frontiers in Bioengineering and Biotechnology,2015年,Vol. 3, Article 145,pp. 1-16
【文献】ZHANG, Shanshan, et al.,bioRxiv,2018年04月30日,pp. 1-24
【文献】VARGAS-TAH, Alejandra, et al.,frontiers in Bioengineering and Biotechnology,2015年,Vol. 3, Article 116,pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、
およびrht
Cからなる群から選択される1つ以上の遺伝子を過発現することでL-アミノ酸生産能が向上した変異株であって、前記変異株が、大腸菌(Escherichia coli)またはコリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であり、前記L-アミノ酸は、L-トリプトファンおよびL-フェニルアラニンからなる群から選択される、変異株。
【請求項2】
前記yicLは配列番号1の塩基配列、ydiNは配列番号2の塩基配列、ydhKは配列番号3または配列番号37の塩基配列、aaeBは配列番号4の塩基配列、yeeAは配列番号5の塩基配列、rhtCは配列番号6の塩基配
列からなるものである、請求項1に記載の変異株。
【請求項3】
(a)請求項1に記載の変異株を培地で培養するステップと、
(b)前記変異株または培地からL-アミノ酸を回収するステップと、を含む、L-アミノ酸の生産方法であって、前記L-アミノ酸は、L-トリプトファンおよびL-フェニルアラニンからなる群から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-アミノ酸生産能が向上した大腸菌変異株またはコリネバクテリウムグルタミカム変異株、およびそれを用いたL-アミノ酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-トリプトファン(L-tryptophan)は必須アミノ酸の1つであり、生体内におけるタンパク質の重合や、ニコチン酸アミドなどのビタミンの合成に必要であって、アミノ酸類強化剤、飼料添加剤、輸液剤などの医薬原料および健康食品素材などに広く用いられている。L-フェニルアラニン(L-phenylalanine)は必須アミノ酸の1つであり、生体内で非必須アミノ酸であるチロシン;ドーパミン、ノルエピネフリン、アドレナリンなどの神経伝達物質;皮膚色素であるメラニンなどの前駆体として用いられ、食品、化粧品、医薬原料などに広く用いられている。その他に、L-チロシン、L-グルタミン、L-リジン、L-アルギニン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-スレオニン、L-ヒスチジン、L-セリン、L-シトルリンなどの種々のL-アミノ酸が、食品、化粧品、医薬品などの様々な分野で広く用いられている。
【0003】
かかるL-アミノ酸は、自然状態で得られた微生物菌株、またはその菌株のL-アミノ酸生産能が向上するように変形した変異株を用いて、発酵法により工業的に生産されている。変異株としては、大腸菌、コリネバクテリウムなどの微生物に対する栄養要求株(auxotroph)や調節部位変異株が用いられており、1980年代からは、遺伝子の組換え技術が急激に発達し、代謝過程とその調節機序が詳しく糾明されていて、これに伴い、多くの研究者らが遺伝子の組み換え技法により優れた組換え菌株を開発し、大きい成果を達成している。
【0004】
遺伝子の組換え技術を用いる際に、アミノ酸の生合成に関与する酵素の活性を増加させるか、または、生産されたL-アミノ酸によるフィードバックを抑えることで、アミノ酸の生産能を向上させることができる。また、アミノ酸排出遺伝子の発現を調節することで、アミノ酸生産能を改善することができる。米国特許登録第5,972,663号には、大腸菌などの種々の菌株の遺伝子mex、bmr、qacAなどを人為的に過発現させることで、L-システイン、L-シスチン、N-アセチルセリン、チアゾリジン誘導体の生産能を向上させることが記載されており、ヨーロッパ特許登録第1016710号には、エシェリキア属菌株の遺伝子yahN、yeaS、yfiK、yggAを人為的に過発現させることで、L-グルタミン酸、L-リジン、L-スレオニン、L-アラニン、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-アルギニン、L-バリン、L-イソロイシンの生産能を向上させることが記載されており、韓国特許登録第10-1023925号には、エシェリキア属菌株の遺伝子yddGを人為的に過発現させることで、L-トリプトファン、L-フェニルアラニンの生産能を向上させることが記載されている。
【0005】
このような従来の研究に基づいて、本発明者らは、エシェリキア属菌株およびコリネバクテリウム属菌株内のL-アミノ酸排出遺伝子の発現を調節することで、種々のL-アミノ酸の生産能が向上したL-アミノ酸生産変異株を製造し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許登録第5,972,663号
【文献】欧州特許登録第1016710号
【文献】韓国特許登録第10-1023925号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決するために、
本発明は、yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、およびemrDからなる群から選択される1つ以上の遺伝子を過発現することで、L-アミノ酸生産能が向上した大腸菌(Escherichia coli)変異株を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、およびemrDからなる群から選択される1つ以上の遺伝子を過発現することで、L-アミノ酸生産能が向上したコリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記変異株を培地で培養するステップと、前記変異株または培地からL-アミノ酸を回収するステップと、を含む、L-アミノ酸の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一具体例に係るL-アミノ酸を生産する変異株は、yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、およびemrDからなる群から選択される1つ以上の遺伝子を過発現することで、L-アミノ酸生産能が向上した大腸菌変異株またはコリネバクテリウムグルタミカム変異株であってもよい。
【0011】
従来技術として、エシェリキア属変異株のアミノ酸排出遺伝子yddGを過発現するように調節することで、芳香族アミノ酸であるL-トリプトファンおよびL-フェニルアラニンの生産を向上させていた。しかし、本発明者らが、前記遺伝子yddGがL-アミノ酸の生産能に及ぶ影響を確認した結果、遺伝子yddGが除去された菌株で、依然としてL-トリプトファンおよびL-フェニルアラニンが発現されることを確認した(実験例1参照)。このことから、本発明者らは、アミノ酸の生産に、遺伝子yddG以外に他の遺伝子が関与するということを認知し、新しいアミノ酸排出遺伝子を選別して、優れたL-トリプトファン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-グルタミン、L-リジン、L-アルギニン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-スレオニン、L-ヒスチジン、L-セリン、L-シトルリンなどのL-アミノ酸の生産能が向上したL-アミノ酸生産変異株を製造した。
【0012】
本発明の一具体例によると、アミノ酸排出関連遺伝子は、配列番号1~7の塩基配列で表される遺伝子のうち1つの遺伝子であってもよい。具体的には、配列番号1の塩基配列で表される遺伝子yicL、配列番号2の塩基配列で表される遺伝子ydiN、配列番号3または配列番号37の塩基配列で表される遺伝子ydhK、配列番号4の塩基配列で表される遺伝子aaeB、配列番号5の塩基配列で表される遺伝子yeeA、配列番号6の塩基配列で表される遺伝子rhtC、配列番号7または配列番号39の塩基配列で表される遺伝子emrDであってもよい。
【0013】
また、前記アミノ酸排出関連遺伝子は、配列番号8~14のアミノ酸配列で表されるタンパク質をコードする遺伝子のうち1つの遺伝子であってもよい。具体的には、配列番号8のアミノ酸配列で表されるyicLタンパク質、配列番号9のアミノ酸配列で表されるydiNタンパク質、配列番号10または配列番号38のアミノ酸配列で表されるydhKタンパク質、配列番号11のアミノ酸配列で表されるaaeBタンパク質、配列番号12のアミノ酸配列で表されるyeeAタンパク質、配列番号13のアミノ酸配列で表されるrhtCタンパク質、配列番号14のアミノ酸配列で表されるemrDタンパク質であってもよい。
【0014】
本発明の一具体例によると、変異株は、母菌株(parent strain)として、エシェリキア属菌株(Escherichia sp.)またはコリネバクテリウム属菌株(Corynebacterium sp.)から選択されてもよい。
【0015】
エシェリキア属菌株は、L-グルタミン酸、L-リジン、L-スレオニン、L-システインなどの種々のL-アミノ酸の生産に広く用いられており、特に、L-トリプトファン生産性が高いと知られている。前記母菌株は、入手が容易であり、かつ便宜性の良い大腸菌(Escherichia coli)であることが好ましい。
【0016】
コリネバクテリウム属菌株は、L-グルタミン酸、L-リジンなどのL-アミノ酸生産性が高い一方、副産物の生成が少ないという利点があり、酸素不足や糖枯渇のような制限された環境でもアミノ酸の安定的な生産が可能である。前記母菌株は、アミノ酸の生産に主に用いられるコリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であることが好ましい。
【0017】
かかる母菌株は、自然状態で得られた野生型(wild type)菌株であってもよく、または、野生型菌株の遺伝子が既に人為的に操作された菌株であってもよい。
【0018】
本明細書において、「L-アミノ酸生産大腸菌変異株」および「L-アミノ酸生産コリネバクテリウムグルタミカム変異株」は、母菌株に比べてL-アミノ酸を高濃度で生産するように突然変異させた微生物を意味する。この際、微生物の突然変異の誘発は、該当分野において広く公知された様々な手段により行われることができ、物理的もしくは化学的な突然変異の誘発方法のうち1つの方法を用いることができる。例えば、化学的突然変異原として、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(N-Methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine;NTG)、ジエポキシブタン(diepoxybutane)、エチルメタンスルホネート(ethylmethane sulfonate)、マスタード(mustard)化合物、ヒドラジン(hydrazine)、および亜硝酸(nitrous acid)が使用可能であるが、これらの化合物に制限されるものではない。また、物理的突然変異原として、紫外線およびガンマ放射線が使用可能であるが、これに制限されるものではない。突然変異の誘発時に、母菌株は、特定の大きさの生存個体群を残す程度の濃度で、突然変異原による影響を受ける。前記大きさは、突然変異原の種類によって変わり、突然変異原が一定の殺生率で生存個体群内で誘発する突然変異の量に依存する。例えば、NTGの場合、殺生率は出発個体群の10%~50%であり、亜硝酸による突然変異の発生は、出発個体群の0.01%~0.1%である。
【0019】
本発明の一具体例によると、前記L-アミノ酸は、L-トリプトファン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-グルタミン、L-リジン、L-アルギニン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-スレオニン、L-ヒスチジン、L-セリン、およびL-シトルリンからなる群から選択されてもよいが、これに限定しない。
【0020】
本発明の一具体例によると、L-アミノ酸生産大腸菌変異株およびコリネバクテリウムグルタミカム変異株は、前記アミノ酸排出遺伝子により形質転換(transformation)されるか、前記菌株の染色体上で強力なプロモーター(promoter)の制御下で、前記アミノ酸排出遺伝子の複写体(copy)数が増幅して前記遺伝子を過発現(overexpression)するものであることができる。本発明の一具体例によると、前記アミノ酸排出に関連する7個の遺伝子のうち1つ以上の遺伝子を、プロモーターを含む細菌のプラスミドに挿入して母菌株に導入することで、母菌株に比べて前記アミノ酸排出遺伝子が過発現され、L-アミノ酸の生産能が向上した突然変異菌株を得ることができる。
【0021】
このような変異株を用いて、高濃度のL-アミノ酸を高い収率で生産することができる。具体的に、L-アミノ酸の生産方法は、前記変異株を培地で培養するステップと、前記変異株または培地からL-アミノ酸を回収するステップと、を含むことができる。
【0022】
本明細書において、「培地」は、本発明の大腸菌変異株およびコリネバクテリウムグルタミカム変異株の培養に用いられるものであって、前記変異株が、L-アミノ酸、例えば、L-トリプトファン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-グルタミン、L-リジン、L-アルギニン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-スレオニン、L-ヒスチジン、L-セリン、またはL-シトルリンを高い収率で生産するように、炭素源、窒素源、および無機塩類を含む培地を意味する。
【0023】
前記培地における炭素源としては、例えば、ブドウ糖、砂糖、クエン酸塩、果糖、乳糖、麦芽糖、または糖蜜のような糖および炭水化物;大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ヤシ油などのようなオイルおよび脂肪;パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸;グリセロール;エタノールのようなアルコール;酢酸のような有機酸が含まれてもよいが、これに制限されない。これらの物質は、個別的にまたは混合物として用いられてもよい。好ましくは、前記大腸菌変異株の培地はブドウ糖を含んでもよい。また、好ましくは、前記コリネバクテリウムグルタミカム変異株の培地は、ブドウ糖、糖蜜、またはブドウ糖および糖蜜を含んでもよく、最も好ましく、前記培地は、炭素源として、ブドウ糖100重量部に対して5~60重量部の糖蜜を含んでもよい。
【0024】
前記培地における窒素源としては、例えば、ペプトン、肉類抽出物、酵母抽出物、乾燥された酵母、トウモロコシ浸漬液、大豆かす、ウレア、チオウレア、アンモニウム塩、硝酸塩、およびその他の有機または無機窒素を含む化合物が使用できるが、これに制限されない。また、前記培地における無機塩類としては、マグネシウム、マンガン、カリウム、カルシウム、鉄、亜鉛、コバルトなどを含む化合物が使用できるが、これに制限されない。
【0025】
一方、前記培地に使用可能なリン源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウム、または相応するナトリウム-含有塩が含まれてもよいが、これに制限されない。また、培養培地には、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩が含まれてもよい。前記化合物は、個別的にまたは混合物として用いられてもよいが、これに制限されるものではない。
【0026】
また、前記炭素源、窒素源、および無機塩類の成分の他に、アミノ酸、ビタミン、核酸、およびそれに関連する化合物が、本発明の培地にさらに添加されてもよい。前記原料は、培養過程で培地に、適した方式により回分式または連続式に添加されてもよい。
【0027】
一方、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような基礎化合物、またはリン酸または硫酸のような酸化合物を適切な方式により用いて、培地のpHを調節することができる。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて、気泡の生成を抑えることができる。好気状態を維持するために、培地内に酸素または酸素-含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。
【0028】
本明細書において、「培養」は、微生物を適切に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。本発明における微生物の培養方法は、当業界で広く公知されている大腸菌(Escherichia coli)、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の培養方法を用いて行うことができる。具体的に、前記培養方法の例としては、回分培養(batch culture)、連続培養(continuous culture)、および流加培養(fed-batchculture)が含まれるが、これに制限されるものではない。
【0029】
培養時の温度は、通常、20℃~45℃であってもよいが、これに制限されるものではない。培養は、所望のL-トリプトファン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-グルタミン、L-リジン、L-アルギニン、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-スレオニン、L-ヒスチジン、L-セリン、L-シトルリンのようなL-アミノ酸の最大生成量が得られるまで続く。このような培養は、通常、10~160時間行うことができるが、これに制限されるものではない。生成されたL-アミノ酸は、培養培地中に排出されるか、前記変異株内に含まれていてもよい。
【0030】
前記変異株または変異株を培養した培地からL-アミノ酸を回収するステップは、当業界で広く公知された様々な方法、例えば、遠心分離、濾過、アニオン交換クロマトグラフィー、結晶化、およびHPLCなどを用いてもよいが、これに制限されるものではない。
【発明の効果】
【0031】
本発明によるL-アミノ酸を生産する大腸菌変異株またはコリネバクテリウムグルタミカム変異株は、母菌株に比べて向上したL-アミノ酸の生産能を発揮することができ、高濃度のL-アミノ酸を高い収率で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るL-アミノ酸生産大腸菌変異株またはコリネバクテリウムグルタミカム変異株、およびそれを用いたL-アミノ酸の生産方法についてより詳細に説明する。しかし、このような説明は、本発明の理解のために例示的に提示されたものにすぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明により制限されるものではない。
【0033】
実験例1-1.遺伝子yddG欠失変異株の製造
L-アミノ酸の生産において遺伝子yddGが及ぶ影響を確認するために、菌株の遺伝子yddGを欠失させた変異株を製造した。
【0034】
母菌株としては、L-トリプトファンを生産する大腸菌W0G菌株(受託番号:KFCC11660P)、L-フェニルアラニンを生産する大腸菌MWTR42菌株(受託番号:KFCC10780)を使用し、実験方法としては、文献[One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products,Datsenko KA,Wanner BL.,Proc Natl Acad Sci USA.2000 Jun 6;97(12):6640-5]を参考して遺伝子yddG欠失変異株を製造した。
【0035】
先ず、遺伝子yddGの破壊のためのDNA断片を製造するために、各母菌株の染色体とpKD13プラスミドを鋳型とし、下記表1のプライマーを用いて重合酵素連鎖反応法(PCR)を行った。この際、PCR条件は、(i)変性(denaturation)ステップ:95℃で30秒、(ii)結合(annealing)ステップ:58℃で30秒、および(iii)拡張(extension)ステップ:72℃で2分とし、総30回行った。前記PCRの結果物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した後、所望の大きさのバンドを得た。このバンドの断片を用いて、さらに前記PCR条件と同様にoverlap PCRを行うことで、遺伝子yddG破壊のための1つのDNA断片を製造した。前記DNA断片を各母菌株に形質転換し、カナマイシンの入った固体培地に塗抹して37℃で24時間培養した。ここで得られたコロニー(colony)は、さらに前記PCR条件と同様にPCRを行った。
【0036】
【0037】
その結果、各コロニーで、遺伝子yddGが欠失されたことを確認した。
【0038】
そして、大腸菌W0G菌株で遺伝子yddGが欠失された変異株をW1G菌株と命名し、大腸菌MWTR42菌株で遺伝子yddGが欠失された変異株をMWTR5菌株と命名した。
【0039】
実験例1-2.遺伝子yddG欠失変異株の、L-トリプトファン、L-フェニルアラニン生産能の確認
W0GおよびW1G菌株のL-トリプトファン生産能、MWTR42およびMWTR5菌株のL-フェニルアラニン生産能を確認した。
【0040】
下記表2のような組成を有するそれぞれの培地10mLが入ったフラスコに、各菌株を1%ずつ接種し、37℃で200rpmで70時間振盪培養した。各培養液に対してOD610nmで吸光度を測定し、L-トリプトファンまたはL-フェニルアラニンの生産量を比較した。その結果は、下記表3のとおりである。
【0041】
【0042】
【0043】
上記の表3に示されたように、遺伝子yddGが欠失された変異株(W1G菌株、MWTR5菌株)は、それぞれL-トリプトファン、L-フェニルアラニンを依然として生産することが確認された。すなわち、芳香族アミノ酸の排出遺伝子として知られたyddGを除去しても各変異株のL-アミノ酸生産能が維持されることから、yddG以外にも、アミノ酸の排出に関与する遺伝子が存在することが分かった。
【0044】
実験例2-1.遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrD増幅変異株の製造
遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDがそれぞれ挿入された大腸菌変異株を製造した。
【0045】
母菌株としては、L-トリプトファンを生産する大腸菌W0G菌株(受託番号:KFCC11660P)を使用した。
【0046】
先ず、W0G菌株を鋳型とし、下記表4のプライマーを用いて各遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDをPCRにより増幅させた後、制限酵素SacI、XbaIで処理して準備した。
【0047】
塩基配列分析結果、yicL遺伝子の塩基配列は配列番号1の塩基配列、ydiN遺伝子の塩基配列は配列番号2の塩基配列、ydhK遺伝子の塩基配列は配列番号3または配列番号37の塩基配列、aaeB遺伝子の塩基配列は配列番号4の塩基配列、yeeA遺伝子の塩基配列は配列番号5の塩基配列、rhtC遺伝子の塩基配列は配列番号6の塩基配列、emrD遺伝子の塩基配列は配列番号7または配列番号39の塩基配列であることが確認された。
【0048】
ベクターpTrc99Aを制限酵素SacI、XbaIで処理して切断し、その間に、準備された各遺伝子を挿入して発現ベクターpTrc99A::yicL、pTrc99A::ydiN、pTrc99A::ydhK、pTrc99A::aaeB、pTrc99A::yeeA、pTrc99A::rhtC、pTrc99A::emrDを製造した。各発現ベクターをW0G菌株に形質転換させ、各遺伝子が増幅された変異株W0G/pTrc99A::yicL、W0G/pTrc99A::ydiN、W0G/pTrc99A::ydhK、W0G/pTrc99A::aaeB、W0G/pTrc99A::yeeA、W0G/pTrc99A::rhtC、W0G/pTrc99A::emrDを製造した。
【0049】
【0050】
実験例2-2.遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrD増幅変異株のL-トリプトファン生産能の確認
W0GにベクターpTrc99Aのみが挿入されたW0G/pTrc99Aおよび変異株W0G/pTrc99A::yicL、W0G/pTrc99A::ydiN、W0G/pTrc99A::ydhK、W0G/pTrc99A::aaeB、W0G/pTrc99A::yeeA、W0G/pTrc99A::rhtC、W0G/pTrc99A::emrDのL-トリプトファン生産能を確認した。
【0051】
前記表2のような組成を有するそれぞれの培地10mLが入ったフラスコに、各菌株を1%ずつ接種し、34℃で200rpmで72時間振盪培養した。各培養液に対してOD610nmで吸光度を測定し、L-トリプトファンの生産量を比較した。その結果は下記表5のとおりである。
【0052】
【0053】
前記表5に示されたように、各遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDが増幅された大腸菌変異株は、対照群に比べてL-トリプトファン生産能が増加したことが確認された。
【0054】
実験例3-1.遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrD増幅変異株の製造
遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDがそれぞれ挿入された大腸菌変異株を製造した。
【0055】
W0G菌株の代わりに、L-フェニルアラニンを生産する大腸菌MWTR42菌株(受託番号:KFCC10780)を使用したことを除き、前記実験例2-1と同様の方法により発現ベクターを製造した。各発現ベクターをMWTR42菌株に形質転換させ、各遺伝子が増幅された変異株MWTR42/pTrc99A::yicL、MWTR42/pTrc99A::ydiN、MWTR42/pTrc99A::ydhK、MWTR42/pTrc99A::aaeB、MWTR42/pTrc99A::yeeA、MWTR42/pTrc99A::rhtC、MWTR42/pTrc99A::emrDを製造した。
【0056】
実験例3-2.遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrD増幅変異株のL-フェニルアラニン生産能の確認
MWTR42にベクターpTrc99Aのみが挿入されたMWTR42/pTrc99Aおよび変異株MWTR42/pTrc99A::yicL、MWTR42/pTrc99A::ydiN、MWTR42/pTrc99A::ydhK、MWTR42/pTrc99A::aaeB、MWTR42/pTrc99A::yeeA、MWTR42/pTrc99A::rhtC、MWTR42/pTrc99A::emrDのL-フェニルアラニン生産能を確認した。
【0057】
前記実験例2-2と同様の方法によりL-フェニルアラニンの生産量を比較し、その結果は下記表6のとおりである。
【0058】
【0059】
前記表6に示されたように、各遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDが増幅された大腸菌変異株は、対照群に比べてL-フェニルアラニン生産能が増加したことが確認された。
【0060】
実験例4-1.遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrD増幅変異株の製造
遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDがそれぞれ挿入されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株を製造した。
【0061】
母菌株としては、L-トリプトファンを生産するコリネバクテリウムグルタミカムDW28G(受託番号:KTCT13769BP)を使用した。
【0062】
先ず、前記実験例2-1で製造された発現ベクターpTrc99A::yicL、pTrc99A::ydiN、pTrc99A::ydhK、pTrc99A::aaeB、pTrc99A::yeeA、pTrc99A::rhtC、pTrc99A::emrDを鋳型とし、下記表7のプライマーを用いて各遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDをPCRにより増幅させた後、リン酸化(5’-phosphorylation)処理して準備した。ベクターpEKOを制限酵素Eco53KIで処理して切断し、その間に、準備された各遺伝子を挿入して発現ベクターpEKO::yicL、pEKO::ydiN、pEKO::ydhK、pEKO::aaeB、pEKO::yeeA、pEKO::rhtC、pEKO::emrDを製造した。各発現ベクターをDW28G菌株に形質転換させ、各遺伝子が増幅された変異株DW28G/pEKO::yicL、DW28G/pEKO::ydiN、DW28G/pEKO::ydhK、DW28G/pEKO::aaeB、DW28G/pEKO::yeeA、DW28G/pEKO::rhtC、DW28G/pEKO::emrDを製造した。
【0063】
【0064】
実験例4-2.遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrD増幅変異株のL-トリプトファン生産能の確認
DW28GにベクターpEKOのみが挿入されたDW28G/pEKOおよび変異株DW28G/pEKO::yicL、DW28G/pEKO::ydiN、DW28G/pEKO::ydhK、DW28G/pEKO::aaeB、DW28G/pEKO::yeeA、DW28G/pEKO::rhtC、DW28G/pEKO::emrDのL-トリプトファン生産能を確認した。
【0065】
培地として下記表8の組成を使用したことを除き、前記実験例2-2と同様の方法によりL-トリプトファンの生産量を比較した。その結果は下記表9のとおりである。
【0066】
【0067】
【0068】
前記表9に示されたように、各遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDが増幅されたコリネバクテリウムグルタミカム変異株は、対照群に比べてL-トリプトファン生産能が増加したことが確認された。
【0069】
結果的に、本発明では、アミノ酸排出遺伝子yicL、ydiN、ydhK、aaeB、yeeA、rhtC、emrDの過発現を誘導することで、母菌株に比べてL-トリプトファンまたはL-フェニルアラニンの生産能が向上した大腸菌変異株およびコリネバクテリウムグルタミカム変異株を得、このような変異株を用いて高濃度のL-トリプトファンまたはL-フェニルアラニンを高い収率で得ることができることを確認した。
【0070】
以上、本発明について、その好ましい実施例を中心に説明した。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明が、本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現可能であることを理解することができる。よって、ここで開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されるべきである。本発明の範囲は、上述の説明ではなく特許請求の範囲に現れており、それと同等範囲内の全ての差異は本発明に含まれると解釈すべきである。
【配列表】