(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】単結晶合成ダイヤモンド材料
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20230630BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20230630BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20230630BHJP
C23C 16/56 20060101ALI20230630BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C30B29/04 A
C30B33/02
C23C16/27
C23C16/56
C30B25/02
(21)【出願番号】P 2021548142
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2020058945
(87)【国際公開番号】W WO2020201208
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-17
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】エドモンズ アンドリュー マーク
(72)【発明者】
【氏名】マーカム マシュー リー
(72)【発明者】
【氏名】コラード ピエール-オリヴィエ フランソワ マーク
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506356(JP,A)
【文献】国際公開第2015/199180(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/100023(WO,A1)
【文献】特開2008-179505(JP,A)
【文献】特表2015-505810(JP,A)
【文献】特表2013-514959(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012529(WO,A1)
【文献】特表2016-505494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C23C 16/00-16/56
C01B 32/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶化学蒸着CVDダイヤモンド材料であって、
総窒素濃度が少なくとも5ppmであり、かつ
総単一置換窒素N
sに対する中性単一置換窒素N
s
0の比率が少なくとも0.7である
単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項2】
前記総単一置換窒素N
sに対する中性単一置換窒素N
s
0の比率が少なくとも0.8である、請求項1に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項3】
前記総窒素濃度が、少なくとも10ppm及び少なくとも15ppmのいずれかから選択される、請求項1又は2に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項4】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の厚さが、100nm~4mm、200nm~1mm、又は500nm~50μmのいずれかから選択される、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項5】
前記単結晶ダイヤモンド材料が、均一な歪みを有するため、少なくとも1×1mmの範囲にわたって、少なくとも90%の点が、200kHz未満のNV共鳴の歪み誘起シフト係数を示し、前記範囲にある各点は50μm
2の分解領域である、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項6】
前記範囲が、前記単結晶ダイヤモンド材料の中央70%の中にあり、かつ前記範囲内では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する点が1000個より多く連続しない、請求項の5に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項7】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の総量が、少なくとも0.04mm
3、0.07mm
3、及び0.1mm
3のいずれかから選択される、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項8】
請求項1~
7のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料の第1の層と、前記第1の層より総窒素濃度が低い単結晶ダイヤモンド材料の第2の層とを含む単結晶ダイヤモンド複合体。
【請求項9】
単結晶ダイヤモンド材料の前記第2の層が、IIa型HPHT単結晶ダイヤモンド、アニールしたHPHT単結晶ダイヤモンド、天然単結晶ダイヤモンド、及びCVD単結晶ダイヤモンドのいずれかを含む、請求項
8に記載の単結晶ダイヤモンド複合体。
【請求項10】
請求項1~
7のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法であって、
化学蒸着反応器内の基板ホルダーの上方に単結晶ダイヤモンド基板を配置するステップ、
プロセスガスを前記反応器に供給するステップであって、前記プロセスガスが60~200ppmの窒素、炭素含有ガス、及び水素を含み、前記水素ガス中の水素原子に対する前記炭素含有ガス中の炭素原子の比率が0.5~1.5%であるステップ、並びに
単結晶ダイヤモンド基板の表面で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるステップ
を含む方法。
【請求項11】
前記水素ガス中の水素原子に対する前記炭素含有ガス中の炭素原子の比率が1.0%以下である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記基板ホルダーの上方に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置するステップを更に含む、請求項
10又は
11に記載の方法。
【請求項13】
前記ダイヤモンド材料を照射及びアニールして、前記ダイヤモンド材料中のNV
-欠陥の数を増加させるステップを更に含む、請求項
10~
12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記単結晶ダイヤモンド基板の総窒素濃度が5ppm未満である、請求項
10~
13のうちいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶合成ダイヤモンド材料、具体的には、化学蒸着(CVD)法を用いて製造した単結晶合成ダイヤモンド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ダイヤモンド材料における点欠陥、特に、量子スピン欠陥及び/又は光学活性欠陥は、例えば発光タグ、磁気測定器、核磁気共鳴(NMR)及び電子スピン共鳴(ESR)装置などのスピン共鳴装置、磁気共鳴イメージング(MRI)用のスピン共鳴イメージング装置、量子通信及び量子計算用の量子情報処理装置、磁気通信装置、並びにジャイロスコープを含む様々なイメージング、検知、及び処理用途において使用するために提案されてきた。
【0003】
ある種の欠陥は、それが負電荷状態にあるとき、検知及び量子処理用途に特に有用であることがわかっている。例えば、合成ダイヤモンド材料中の負電荷を帯びた窒素-空孔欠陥(NV-)は、以下のような望ましい特徴を備えていることから、有用な量子スピン欠陥として大きな関心を集めてきた。
(i)その電子スピン状態は高忠実度でコヒーレントに操作でき、かつ極めて長いコヒーレンス時間を有する(横緩和時間T2及び/又はT2
*を用いて定量化及び比較し得る)、
(ii)その電子構造により、欠陥を光ポンピングして電子基底状態にすることができ、非極低温であっても、こうした欠陥を特定の電子スピン状態に置くことができる。これにより、小型化が望ましい特定の用途について、高価でかさばる極低温冷却装置の必要性をなくすことができる。更に欠陥は、すべてが同じスピン状態を有する光子の供給源として機能できる、並びに
(iii)その電子構造は、光子を通して欠陥の電子スピン状態を読み取ることができる発光性及び非発光性電子スピン状態を含む。これは、磁気測定、スピン共鳴分光法、及びイメージングなどの検知用途で用いられる合成ダイヤモンド材料から情報を読み取るのに好都合である。更にこれは、長距離量子通信及び拡張可能な量子計算のための量子ビットとしてNV-欠陥を用いるための重要な要素である。こうした結果から、NV-欠陥は固体状態量子情報処理(QIP)の競争力のある候補となる。
【0004】
ダイヤモンド中のNV-欠陥は、炭素空孔に隣接する置換窒素原子からなる。その2個の不対電子は電子基底状態においてスピン三重項(3A)を形成し、縮退したms=±1副準位はms=0準位から2.87GHz離れている。NV-欠陥の電子構造では、光ポンピングすると、ms=0副準位が高い蛍光率を示す。対照的に、ms=±1準位で欠陥を励起すると、非放射一重項状態(1A)にクロスオーバーした後、続いてms=0に緩和する確率が高い。結果として、スピン状態を光学的に読み取ることができ、ms=0状態は「明るく」、ms=±1状態は暗い。外部磁場又は歪み場を印加する場合、スピン副準位ms=±1の縮退がゼーマン効果によって分裂する。これにより、印加磁場/歪み場の大きさ及びその方向に依存して、共鳴線の分裂が生じる。この依存性を利用し、マイクロ波(MW)及び光学検出磁気共鳴(ODMR)分光法を用いて共鳴スピン転移を探索することにより磁気測定を行い、印加磁場の大きさ、及び任意で印加磁場の方向を測定することができる。
【0005】
合成ダイヤモンド材料中のNV-欠陥は、以下を含む様々な方法で形成できる。
(i)合成ダイヤモンド材料の成長中の形成であって、窒素原子及び空孔が、成長中に窒素-空孔対として結晶格子に取り込まれる形成、
(ii)ダイヤモンド材料合成後の、成長工程中に取り込まれた天然の窒素及び空孔欠陥からの形成であって、成長後に、空孔欠陥が結晶格子内を移動して天然の単一置換窒素欠陥と対をなすような温度(約800℃)で材料をアニールすることによる形成、
(iii)ダイヤモンド材料合成後の、成長工程中に取り込まれた天然の窒素欠陥からの形成であって、合成ダイヤモンド材料を照射して空孔欠陥を導入した後に、空孔欠陥が結晶格子内を移動して天然の単一置換窒素欠陥と対をなすような温度で材料をアニールすることによる形成、
(iv)ダイヤモンド材料合成後の形成であって、ダイヤモンド材料合成後に窒素欠陥を合成ダイヤモンド材料に埋め込み、次いで、天然の空孔欠陥が結晶格子内を移動して、埋め込まれた単一の置換型窒素欠陥と対をなすような温度で材料をアニールすることによる形成、並びに
(v)ダイヤモンド材料合成後の形成であって、合成ダイヤモンド材料を照射して空孔欠陥を導入し、照射前又は照射後に窒素欠陥を合成ダイヤモンド材料に埋め込み、次いで、空孔欠陥が結晶格子内を移動して、埋め込まれた単一の置換型窒素欠陥と対をなすような温度で材料をアニールすることによる形成。
【0006】
先行技術において、多種多様な磁気測定用途に使用するための多種多様なダイヤモンド材料が開示されており、磁気測定などの用途向けの窒素含有量が少ない単結晶化学蒸着(CVD)ダイヤモンド材料を開示した国際公開第2010/010352号及び国際公開第2010/010344号、並びに磁気測定などの用途向けの、照射及びアニールした単結晶CVDダイヤモンド材料を開示した国際公開第2010/149775号などがある。一部の量子用途では、NV中心の濃度が高い材料を製造することが望ましい。従って、出発物質として窒素濃度の高いCVDダイヤモンド材料が必要となる。高濃度(数ppm以上)の窒素をCVDダイヤモンド材料に取り込むことはできるが、このようなダイヤモンド材料は、通常、空孔クラスターなどの内因性欠陥、並びにNVH及び場合によってはH関連欠陥などの外因性欠陥が存在するため褐色であることから、窒素濃度の高いCVDダイヤモンド材料の使用には課題がある。褐色呈色は、材料の透明性が損なわれるため望ましくない。また、内因性及び外因性欠陥によって、このような材料中で生成されたNV中心のコヒーレンス時間(T2又はT2
*)が短くなり、このような材料をベースとするセンサーの性能に悪影響を及ぼす可能性がある。比較的高濃度の窒素が取り込まれていながらも、褐色呈色及び褐色呈色に伴う欠陥が低く抑えられたダイヤモンド材料を製造することが望ましい。しかし、これは矛盾する要件であり、窒素の取り込みを増大させ、同時に褐色呈色を増強させないことは難しい。米国特許第7,172,655号明細書は、単結晶ダイヤモンド材料の褐色度合いを低減するアニーリング技術を出願している。褐色は約1600℃超のアニーリング温度で最も完全に除去でき、これには一般にダイヤモンド安定化圧力が必要となる。しかしながら、そのような処理は高価で複雑な工程であり、石の亀裂などによって収率に深刻な影響が及ぶ可能性がある。更に、欠陥拡散のため、このようなアニーリング手段は、窒素凝集の回避や欠陥位置の制御が重要となり得る高性能電子デバイスの製作と必ずしも整合性があるわけではない。従って、CVD法を用いて、褐色ではないが所望の高濃度のNs
0を保持するダイヤモンド材料を直接合成できることが望ましいと考えられる。国際公開第2011/076643号は、褐色呈色に伴う欠陥を、ただし比較的低い窒素濃度で低減するために、酸素含有種の存在下でCVDダイヤモンドを合成する方法を開示している。また酸素含有プラズマは比較的不安定な可能性があり、主に水素をベースとするプロセスガス混合物から形成されたプラズマと比べてアークを形成しがちである。これは低圧でプラズマを形成することによって防ぐことができるが、これによりダイヤモンドの成長にかかる時間と費用が増大する。
【発明の概要】
【0007】
褐色呈色は弱いが、NV中心を形成するよう高い窒素濃度を有するダイヤモンド材料及びダイヤモンド材料の製造方法を提供することが望ましい。第一の態様に従って、総窒素濃度が少なくとも5ppmであり、かつ総単一置換窒素(Ns)に対する中性単一置換窒素(Ns
0)の比率が少なくとも0.7である単結晶CVDダイヤモンド材料が提供される。そのようなダイヤモンドは、窒素濃度が比較的高いにも関わらず、褐色呈色の度合いが比較的小さいことが観察される。選択肢として、総単一置換窒素(Ns)に対する中性単一置換窒素(Ns
0)の比率は少なくとも0.8である。総窒素濃度は、好ましくは少なくとも10ppm及び任意で少なくとも15ppmのいずれかから選択される。単結晶CVDダイヤモンド材料の厚さは、任意で、100nm~4mm、200nm~1mm、又は500nm~50μmのいずれかから選択される。選択肢として、単結晶ダイヤモンド材料は、20℃の温度で、光学的複屈折が低く、小さな歪みを示すため、少なくとも3×3mmの範囲にわたって測定された試料において、分析した範囲の98%で、試料が一次(first order)に留まり(δがπ/2を超えない)、かつ試料厚さにわたって平均した遅軸と速軸に平行な偏光の屈折率の差の平均値であるΔn[平均]の最大値が5×10-5を超えない。選択肢として、単結晶ダイヤモンド材料は、均一な歪みを有するため、少なくとも1×1mmの範囲にわたって、少なくとも90%の点が、200kHz未満のNV共鳴の歪み誘起シフト係数を示し、この範囲にある各点は50μm2の分解領域である。さらなる選択肢として、NV共鳴の歪み誘起シフト係数は、150kHz未満、100kHz未満、50kHz未満、及び25kHz未満のいずれかから選択される。さらなる選択肢として、この範囲は単結晶ダイヤモンド材料の中央70%の中にあり、かつこの範囲内では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する点が1000個より多く連続しない。任意で、この範囲内では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する点が500個より多く連続しない。選択肢として、単結晶CVDダイヤモンド材料の総量は、少なくとも0.04mm3、0.07mm3、及び0.1mm3のいずれかから選択される。単結晶CVDダイヤモンド材料を照射及びアニールした後、室温で測定したNV-欠陥の濃度とデコヒーレンス時間T2
*の積は、少なくとも2.0ppm.μs、好ましくは2.5ppm.μs、好ましくは3ppm.μs、好ましくは5ppm.μsである。
【0008】
第2の態様に従って、第1の態様に記載する単結晶CVDダイヤモンド材料の第1の層と、第1の層より総窒素濃度が低い単結晶ダイヤモンド材料の第2の層とを含む単結晶ダイヤモンド複合体が提供される。単結晶ダイヤモンド材料の第2の層は、任意で、IIa型HPHT単結晶ダイヤモンド、アニールしたHPHT単結晶ダイヤモンド、天然単結晶ダイヤモンド、及びCVD単結晶ダイヤモンドのいずれかを含む。
【0009】
第3の態様に従って、上述の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法が提供される。
方法は、
化学蒸着反応器内の基板ホルダーの上方に単結晶ダイヤモンド基板を配置するステップ、
プロセスガスを反応器に供給するステップであって、プロセスガスが60~200ppmの窒素、炭素含有ガス、及び水素を含み、水素ガス中の水素原子に対する炭素含有ガス中の炭素原子の比率が0.5~1.5%であるステップ、並びに
単結晶ダイヤモンド基板の表面で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるステップ
を含む。
選択肢として、水素ガス中の水素原子に対する炭素含有ガス中の炭素原子の比率が1.0%以下である。選択肢として、方法は、基板ホルダーの上方に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置して、生産工程を更に効率的にするステップを更に含む。選択肢として、方法は、ダイヤモンド材料を照射及びアニールして、ダイヤモンド材料中のNV-欠陥の数を増加させるステップを更に含む。単結晶ダイヤモンド基板は、任意で、総窒素濃度が5ppm未満である。選択肢として、方法は、単結晶ダイヤモンド基板の表面で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させる前に、ダイヤモンド基板にマスキングするステップを更に含む。さらなる選択肢として、炭素含有ガス中の炭素は、少なくとも99%の12C、少なくとも99.9%の12C、及び少なくとも99.99%の12Cのいずれかを含む。
【0010】
第4の態様に従って、ダイヤモンドを分析する方法が提供され、方法は、ダイヤモンドの光学特性を測定するステップであって、測定がC*又はL*のいずれかを含むステップ、並びに測定した光学特性をNsに対するNs
00の比率に経験的にマッピングするステップを含む。
次に、非限定的な実施形態を、例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】単結晶CVDダイヤモンドを作製する例示的なステップを示すフローチャート。
【
図2】プロセスガス中のH
2に対するCH
4の比率と、得られた合成CVDダイヤモンド中の置換窒素量との関係を示すグラフ。
【
図3】プロセスガス中のH
2に対するCH
4の比率と、総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率との関係を示すグラフ。
【
図4】総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率に対するL
*値を示すグラフ。
【
図5】総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率に対するc
*値を示すグラフ。
【
図6】2種類の組成物を有するダイヤモンドを含む複合ダイヤモンド材料を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
正電荷を帯びた置換窒素(Ns
+)は、空孔クラスターなどの欠陥、sp3結合の歪み、及びNVHなどの外因性欠陥の存在を示す。これらの欠陥は、単結晶ダイヤモンドで見られる褐色の大きな原因となっている。一方で、Ns
0欠陥は、通常、褐色を生じる欠陥を伴わない。しかしながら、ダイヤモンド結晶格子に取り込まれている窒素の濃度が高まるに従って、望ましくない褐色を生じる欠陥濃度も高まる。上述のように、そのような材料中で生成されたNVのコヒーレンス時間(T2/T2
*)の短縮を抑えるために、褐色を弱めることが望ましい。更に、褐色が強まると光吸収が高くなり、励起光源が吸収されるため、ダイヤモンド中のNV中心を励起するよう光がダイヤモンドを透過する効率が低下する。同様に、褐色が強まると光信号が吸収されるため、CVDダイヤモンド材料を透過する光信号の検出が難しくなる。ダイヤモンド格子内の置換窒素濃度が高いと、前述のように、その後のアニーリングによって空孔が置換窒素に移動し、NV中心が形成されるため望ましい。本発明者らは、窒素濃度が高く褐色が弱いという相反する要件に取り組み、色特性が改善された高窒素CVDダイヤモンド材料を製造した。
【0013】
図1には、単結晶CVDダイヤモンドを作製する例示的なステップを示すフローチャートを示す。以下の番号は、
図1に示す番号に対応している。
S1.単結晶ダイヤモンド基板を基板ホルダー上に配置し、次いで、CVD反応器内に配置する。一般的な手順では、複数の単結晶ダイヤモンド基板が基板ホルダー上に配置されることに留意されたい。
S2.プロセスガスをCVD反応器に供給する。プロセスガスは、60~200ppmの窒素、炭素含有ガス、及び水素を含む。水素ガス中の水素原子に対する炭素含有ガス中の炭素原子の比率は0.5~1.5%である。この比率は1.0%未満であってよい。
S3.プロセスガスのプラズマを反応器内で形成し、単結晶CVDダイヤモンド材料を基板の表面で成長させる。このような工程により、総窒素濃度が少なくとも5ppmであり、かつ総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率が少なくとも0.7である単結晶CVDダイヤモンド材料が形成される。驚くべきことに、これにより、褐色呈色は弱いが、窒素が高濃度に取り込まれた材料が得られることがわかっている。
【0014】
単結晶CVDダイヤモンドの4つの実施例は、炭素含有プロセスガス及び水素としてメタンを使用し、酸素の非存在下で、896MHzのマイクロ波CVD反応器で試行した。メタンに対する水素の比率を変化させ、各試行で圧力と出力密度を同じレベルに保ち、公称基板温度である約1000℃にした。ダイヤモンドマトリックスへの窒素の取り込み効率は、メタンに対する水素の比率の増加に伴って向上したことがわかった。また、メタンに対する水素の比率が増加すると、総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率が増加し、それにより、褐色呈色が弱いダイヤモンドが製造されたこともわかった。基板は、国際公開2011/076643号に記載する技術を用いて、CVD単結晶ダイヤモンドに包含される可能性のある欠陥を最小限に抑えるよう慎重に作製した。基板をタングステン基板キャリアに設置した後で、基板キャリアをCVD反応器内に置き、CVD単結晶ダイヤモンドを成長させた。合成環境中のガスの濃度は、原料ガスをCVD反応器に注入する前に、プロセスガス中のガス濃度を変化させて調整した。従って、本明細書に記載するプロセスガス中のガス濃度の比率は、CVD反応器に注入する前のプロセスガス成分によって決定し、合成環境下で測定されたものではない。成長温度とマイクロ波出力条件は、国際公開第2010/010352号に記載のものと同様であった。850℃超の基板キャリア温度で単結晶CVDダイヤモンドの4つの実施例を成長させた条件を表1に示す。
【表1】
CVD合成ダイヤモンド材料を成長させた後、材料の光学検査と特性決定をしやすいよう、試料を処理して基板を除去し、自立型ダイヤモンドプレートを作製した。水素ガス中の水素に対する炭素含有ガス中の炭素の比率を上表に示す。水素ガス中の水素に対する炭素含有ガス中の炭素の比率は、使用されている炭素含有ガスの種類、及び炭素含有ガスの分子中の炭素原子数によって変化する。プロセスガス中のCH
4/H
2の比率が低下すると、ダイヤモンド格子に取り込まれる置換窒素の量は増加する。
【0015】
図2は、プロセスガス中のH
2に対するCH
4の比率と、得られた合成CVDダイヤモンド中の置換窒素量との関係を示すグラフである。本発明の合成CVDダイヤモンド材料中に存在するN
s
0の濃度は、紫外可視分光分析で270nmピークを用いて測定し得る。紫外可視分光分析の技術は当技術分野で周知である。合成CVDダイヤモンド材料中のN
s
0の濃度は、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて、1332cm
-1及び1344cm
-1の波数で赤外吸収ピークを測定することによって検出し得る。1cm
-1の分解能を持つ分光計を使用すると、1332cm
-1及び1344cm
-1でのピークのcm
-1単位の吸収係数値と、正に帯電した中性状態の単一窒素の濃度との間の変換係数はそれぞれ5.5と44である。ただし、1332cm
-1のピークから得られる値は上限のみであることに注意する必要がある。従って、FTIRを用いてN
s
0とN
s
+の両方を測定できる。別法として、総窒素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて測定し得る。SIMSはダイヤモンド中の窒素の検出下限値が約0.1ppmであり、その使用については当技術分野で周知である。CVD法で製造される合成ダイヤモンドでは、固体中に存在する窒素の大部分が中性単一置換窒素(N
s
0)の形態であるため、総窒素濃度のSIMS測定では必然的にN
s
0の濃度の上限が得られるが、通常、実際の濃度の合理的な推定値も得られる。別法として、N
s
0の量は電子常磁性共鳴(EPR)を用いて測定し得る。EPRを用いる測定では、特定の常磁性欠陥(例えば、中性単一置換窒素欠陥(N
s
0))の存在量は、その中心から発生するすべてのEPR吸収共鳴線の積分強度に比例する。これにより、マイクロ波出力飽和の影響を防止又は修正するよう注意が払われている場合、積分強度を、標準試料で観察されたものと比較することによって欠陥の濃度を決定することができる。連続波EPRスペクトルは磁界変調を用いて記録するため、EPR強度、従って欠陥濃度を決定するには、二重積分が必要となる。二重積分、ベースライン補正、積分の有限限界などに関連するエラーを最小限に抑えるために、特に重複するEPRスペクトルが存在する場合は、スペクトルフィッティング法を用いて、対象の試料に存在するEPR中心の積分強度を決定する。これには、実験スペクトルを、試料に存在する欠陥のシミュレートされたスペクトルに適合させ、シミュレーションから各積分強度を決定することが含まれる。窒素濃度が低い場合、EPR信号の線幅に近い、又はそれを超える変調振幅を用いて、良好な信号/ノイズ比を実現する必要があることが多く、これにより、±5%よりも優れた再現性でN
s濃度を決定できる。実施例2は14ppmのN
s、実施例3は16ppmのN
s、及び実施例4は22ppmのN
sを含有していた。これらの値は、他の形態のN
sが極めて少量存在すると仮定して、上述のように、FTIRで測定したN
s
0とN
s
+の濃度の組み合わせを用いて得た。プロセスガス中のH
2に対するCH
4の比率が低下すると、総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率は増加する。つまり、H
2に対するCH
4の比率が低下するのに伴い、総N
sの割合としてのN
s
0の相対量が増加する。
【0016】
図3は、プロセスガス中のH
2に対するCH
4の比率と、総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率との関係を示す。実施例2の比率は0.73、実施例3は0.81、実施例4は0.85であった。比較例1の比率は約0.55であった。置換窒素をNV中心に変換することが望ましい用途では、総N
sに対するN
s
0の比率が高いことが求められる。比較例1の比率は実施例2~4よりもはるかに低かった。N
sの総量の一部であるN
s
0の量が多くなると、合成CVDダイヤモンド材料の色がより良好となることがわかっている。本明細書で使用する「より良好な色」とは、褐色呈色の度合いが低下することを意味する。これは吸収を低下させるのに役立つ。つまり、デバイスのNV
-中心を、情報を失うことなく、より適切に検出する(interrogate)ことができる。更に、N
sの総量の一部であるN
s
0の割合が高くなると、NV中心のT
2
*が良好になると考えられている。これは、常磁性電荷状態を有する欠陥が少ないため、デコヒーレンス時間がそれほど短縮されないことが理由である可能性がある。
【0017】
次に色について考えると、物体の知覚色は、物体の透過率/吸光度スペクトル、照明源のスペクトル出力分布、及び観察者の目の応答曲線に依存する。後述するCIE L
*a
*b
*色度座標(従って色相角)は、以下に説明する方法で導き出している。ダイヤモンドの平行平板のCIE L
*a
*b
*色度座標は、標準D65照明スペクトル及び目の標準(赤色、緑色、及び青色)応答曲線を使用し、以下の関係を用いて、その透過率スペクトル(1nmのデータ間隔で350nm~800mの範囲)から導き出している。
S
λ=波長λでの透過率
L
λ=照明のスペクトル出力分布
x
λ=目の赤色応答関数
y
λ=目の緑色応答関数
z
λ=目の青色応答関数
X=Σ
λ[S
λ x
λ L
λ]/Y
0
Y=Σ
λ[S
λ y
λ L
λ]/Y
0
Z=Σ
λ[S
λ z
λ L
λ]/Y
0
上式で、Y
0=Σ
λ y
λ L
λ
L
*=116(Y/Y
0)
1/3-16=明度 (Y/Y
0>0.008856の場合)
a
*=500[(X/X
0)
1/3-(Y/Y
0)
1/3] (X/X
0>0.008856、Y/Y
0>0.008856の場合)
b
*=200[(Y/Y
0)
1/3-(Z/Z
0)
1/3] (Z/Z
0>0.008856の場合)
C
*=(a
*2+b
*2)
1/2=彩度
h
ab=arctan(b
*/a
*)=色相角
L
*、即ち明度はCIE L
*a
*b
*色空間の第三次元を形成する。特定の光学的吸収性を有するダイヤモンドでは、明度及び彩度は光路長の変化に伴って変化する。これは、L
*がy軸に沿ってプロットされ、C
*がx軸に沿ってプロットされた色調図で示すことができる。前段落で説明した方法も、所与の吸収係数スペクトルを有するダイヤモンドのL
*C
*座標が光路長によってどのように変わるかを予測するのに用いることができる。C
*(彩度)の数は10C
*単位の彩度範囲に分割することができる。L
*値は測定した範囲にわたってN
s
0と無関係だが、N
s
+の増加に伴ってL
*が減少することが観察された。総N
sは通常N
s
0で構成され、残りの大部分はN
s
+であるため、
図4に示すように、L
*はN
sに対するN
s
0の比率の増加とともに増加することが観察されている。L
*値が大きいほど材料が明るいことを示しており、従って、N
sに対するN
s
0の比率が高いダイヤモンドは、N
sに対するN
s
0の比率が低いダイヤモンド材料よりも褐色度が低いことになる。
図5に示すように、c
*値とN
s
0/N
sの比率との間に強い関係も観察された。c
*値の低さは褐色度合いが低いことを示している。この関係は、比較例1(破線で囲まれた点)では成り立たなかったが、N
sに対するN
s
0の値が0.70超の場合には成り立ったことがわかる。C
*又はL
*とN
s
0/N
sの比率との相関関係は、N
s
0/N
sの比率の指標を得るための迅速な方法として使用できることに留意すべきである。C
*又はL
*は、例えば、値のルックアップテーブルを提供することによって、又はC
*若しくはL
*の値をN
s
0/N
sの比率に関連付ける方程式に当てはめることによって、経験的にN
s
0/N
sの比率にマッピングできる。
【0018】
上述のように製造された材料を処理して、Ns
0中心の一部をNV中心に変換することができ、これは検知又は量子計算などの用途に有用である。NV中心は、通常は、照射とアニーリングによって形成される。アニーリングは、照射中又は照射後に行ってよい。NV中心は、以下のような望ましい特徴を有していることから、有用な量子スピン欠陥として大きな関心を集めた。
(i)その電子スピン状態は、極めて長いコヒーレンス時間(横緩和時間T2を用いて定量化及び比較し得る)を有するため、高忠実度でコヒーレントに操作できる、
(ii)その電子構造により、欠陥を光ポンピングして電子基底状態にすることができ、非極低温であっても、こうした欠陥を特定の電子スピン状態に置くことができる。これにより、小型化が望ましい特定の用途について、高価でかさばる極低温冷却装置の必要性をなくすことができる。更に欠陥は、すべてが同じスピン状態を有する光子の供給源として機能できる、並びに
(iii)その電子構造は、光子を通して欠陥の電子スピン状態を読み取ることができる発光性及び非発光性電子スピン状態を含む。これは、磁気測定、スピン共鳴分光法、及びイメージングなどの検知用途で用いられる合成ダイヤモンド材料から情報を読み取るのに好都合である。更にこれは、長距離量子通信及び拡張可能な量子計算のための量子ビットとしてNV-欠陥を用いるための重要な要素である。こうした結果から、NV-欠陥は、固体状態量子情報処理(QIP)の競争力のある候補となる。
【0019】
量子用途に適した材料を製造する上での問題は、NV-などの量子スピン欠陥が、デコヒーレンスを起こすのを防ぐこと、又は少なくともシステムがデコヒーレンスを起こすまでの時間を長引かせること(即ち「デコヒーレンス時間」を延長すること)である。T2時間が長いと、量子ゲートのアレイの操作に多くの時間を当てることでき、より複雑な量子計算を行うことができるため、量子計算などの用途に望ましい。検知用途でも、電気的・磁気的環境の変化に対する感度を高めるため、T2時間が長いことが望ましい。T2
*は不均一なスピン-スピン緩和時間であり、環境との相互作用を含むためT2よりも短い。検知用途では、T2
*は直流磁界の検知に関連するコヒーレンス時間であるのに対し、T2を測定又は利用する方法では交流の関与しか検出できない。量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間を増大させる方法の1つは、合成ダイヤモンド材料中の他の点欠陥の濃度を、量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間の減少をもたらすダイポール結合及び/又は歪みが起こらないほどに低くすることである。しかしながら、薄板状の材料(例えば、板状材料の厚さが100μm未満)の場合、極めて長いデコヒーレンス時間を実現するには、これではまだ不十分であることがわかっている。量子スピン欠陥自体の濃度を低下させることにより、個々の量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間を増加させることができる。しかしながら、これにより個々の量子スピン欠陥の感度は高まるが、量子スピン欠陥数の減少により材料の全体的な感度が低下する。多くの量子検知用途について重要だと考えられるのは、NV-欠陥濃度とNV-欠陥のデコヒーレンス時間T2
*との積である。好ましくは、この積は、室温で少なくとも2.0ppm.μsであるものとする。Nsに対するNs
0の比率が高いと、積値が向上する。発明者らは積の理論上の最大値を認識していないが、現在、約10ppm.μsの積が実現可能と考えられている。
【0020】
[NV
-]とT
2
*の積を測定するために、更に試料を作製した。試料5は、合成後、14.2ppmの[N
s
0]を含有していた。これに電子線を照射してアニールすると、[NV
-]が2.5ppmになり、T
2
*(後述のラムゼー法を用いて室温で測定)が1.0μsとなった。従って、実施例5の[NV]とT
2
*の積は2.5ppm.μsであった。実施例6は、合成後、12.7ppmの[N
s
0]を含有していた。これに電子線を照射してアニールすると、[NV
-]が2.6ppmになり、T
2
*(後述のラムゼー法を用いて室温で測定)が1.1μsとなった。従って、実施例6の[NV]とT
2
*の積は2.9ppm.μsであった。T
2
*の値は、ラムゼーパルスシーケンスによって決定した。NV発光における最も単純な共鳴減衰(自由誘導減衰又は「FID」)は所望の特性減衰時間T
2
*を有する単一指数関数であろう。しかしながら、背景ノイズからの減衰の可視性を改善するには、マイクロ波周波数をNVの共振周波数(ODMR周波数走査で観察される線位置)からわずかに離調させるのが一般的である。これにより振動が追加され、ショットノイズとの区別が容易になる。しかしながら、NVの場合、選択したRF出力レベルに応じて、
14Nの超微細相互作用(
14Nは核スピン1を持つ)により、単一のNV
-欠陥(又は共通に整列したNV
-欠陥の一群)に対する複数の共鳴線を観察し得る。従って、実験的に観察されるFIDは、一般に次の式で表される減衰に当てはめられる。
【表2】
上式で、τは自由行列の時間間隔(free procession time interval)、εは適合の質を改善するための要素(ε=1.0が理想)、β
mは各超微細寄与の重み付け(β
1,2,3=1/3が理想)、δはNV線位置からの離調である。決定したFID曲線を上記等式の数式に最小二乗適合させることで、T
2
*の最適値を決定できる。これをNV
- T
2
*値とし、不確実性は適合性の質によって定義する。
【0021】
照射とアニーリングの方式を変更すると、ダイヤモンド中の[NV
-]濃度を増加させられることが知られており、実施例5及び6と同様の材料を更に照射及びアニールすると、T
2
*が減少することなく[NV
-]が増加し、また、そのような方策を用いた[NV
-]とT
2
*の積が高くなる可能性がある。NV
-中心を用いる検知用途では、単結晶合成CVDダイヤモンド材料は約100nm~約4mmの範囲の厚さで成長し得るが、通常は、500nm~50μmの間の厚さに成長する可能性がある。更に、単結晶合成CVDダイヤモンド材料を検知用途に使用する場合、
図6に示すように、固体置換窒素濃度がはるかに低い更なるダイヤモンド材料の上に成長させてもよい。
図6は、総窒素濃度が少なくとも5ppm、かつ総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率が少なくとも0.70である、上述のように成長させたダイヤモンドの第1の層2と、第1の層2よりも総窒素濃度が低いダイヤモンドの第2の層3とを有する複合ダイヤモンド1を示す。これは、1つの層を他の層の上に成長させる、又はマイクロ波反応器の原料ガスを変更して、異なる濃度の窒素を含む層を作製することで実現し得る。これの利点は、ダイヤモンド3の第2の層が第1の層と同じ条件下で成長しないため、第2の層に純度の低いダイヤモンドを成長させる、又はより迅速に成長させるという、より安価な成長方式を使用し得ることである。従って、この複合ダイヤモンド1は、照射及びアニールしたNV
-中心が利用できる高窒素層を有するが、全体的な厚さは、取り扱いが容易で機械的強度が得られるものとなっている。この技術のさらなる利点は、第1の層を十分に薄くすることで、複合ダイヤモンド1の厚さ全体を見たときに、生成されたNV
-中心を効果的に分離できることである。第2の層3は、例えば、CVDダイヤモンド、HPHTダイヤモンド、天然ダイヤモンド、又はアニールCVD、HPHT、若しくは天然ダイヤモンドから形成し得る。同様に、マスキングを用いた成長技術を用いて、総窒素濃度が少なくとも5ppm、かつ総単一置換窒素(N
s)に対する中性単一置換窒素(N
s
0)の比率が少なくとも0.70であるダイヤモンドの第1の表面領域と、第1の表面領域よりも総窒素濃度が低い、隣接する第2の表面領域とを有する材料を得ることができる。例えば、前述の第2の層を成長させ、第2の層の上にマスクを置いて、第1の層を成長させることができ、それにより第2の層上の、マスクによって露出した領域にのみ第1の層が成長する。更にマスキングにより、表面の各部分で異なる種類のダイヤモンドを有する複雑な層を構築することができる。
【0022】
欠陥が少ないため、材料の光学複屈折は、通常、20℃の温度で、少なくとも3×3mmの範囲にわたって測定された試料において、分析した範囲の98%で、試料が一次に留まり(δがπ/2を超えない)、かつ試料厚さにわたって平均した遅軸と速軸に平行な偏光の屈折率の差の平均値であるΔn[平均]の最大値が5×10-5を超えないものとなる。この複屈折の測定については、国際公開第2004/046427号に記載されている。第1の層の歪みを測定するために、“Imaging crystal stress in diamond using ensembles of nitrogen-vacancy centers”(Kehayias et.al.,Phys.Rev.B 100,174103)に記載の技術を用いる。本論文は、上述のような窒素-空孔(NV)中心の薄い表面層を含むダイヤモンドに対する、ミリメートルスケールの視野を持つマイクロメートルスケールの解像度の定量的応力イメージング法を説明している。応力テンソル要素をNVの光学検出磁気共鳴(ODMR)スペクトルから2次元視野で再構成し、応力の不均一性がNVの磁気測定性能にどのように影響するかを調べる。第1の層の表面の一部は、少なくとも1×1mmの範囲にわたって撮像される。この範囲内では、少なくとも90%の点が、200kHz未満のNV共鳴の歪み誘起シフト係数を示している。この範囲にある各点は50μm2の分解領域である。これにより、歪みの均一性が示される。第1の層の表面には、局所領域の歪みを引き起こす可能性のある不連続性や損傷が存在し得る。一実施形態では、単結晶試料の端部の方に高歪み領域が生じることがないよう、この範囲は表面の範囲の中央70%内に位置する。この範囲内では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する隣接点が1000個を超えて連続しない。更なる実施形態では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する隣接点が500個を超えて連続しないことがある。
【0023】
NV-中心が必要とされる一部の用途では、13Cは非ゼロ核スピンを持つため、13Cの存在がダイヤモンドの特性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、原料ガスには、炭素の少なくとも99%が12C、炭素の少なくとも99.9%が12C、又は炭素の少なくとも99.99%が12Cである炭素含有ガスを使用することが好ましとされ得る。本発明により、NV中心を利用する場合、窒素が高濃度に取り込まれているが、それでも検知用途に用いるのに許容可能な程度の褐色呈色を有する合成CVDダイヤモンドを製造することができる。水素ガス中の水素原子に対する炭素含有供給源中の炭素の比率を制御することにより褐色呈色を制御することができ、これが更に、得られるCVD合成ダイヤモンドに取り込まれる総Nsに対するNs
0の比率に影響を及ぼすことがわかっている。総Nsに対するNs
0の比率はダイヤモンドの色に影響を及ぼし、この比率が高いと、褐色呈色が弱くなる。添付の特許請求の範囲に記載する本発明について、実施形態を参照して説明してきた。しかしながら、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細の様々な変更が可能であること、並びに、例示的な法を説明してきたが、添付の特許請求の範囲のダイヤモンド材料を得るために他の方法を使用し得ることが当業者には理解されよう。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 単結晶化学蒸着CVDダイヤモンド材料であって、
総窒素濃度が少なくとも5ppmであり、かつ
総単一置換窒素N
s
に対する中性単一置換窒素N
s
0
の比率が少なくとも0.7である
単結晶CVDダイヤモンド材料。
2. 前記総単一置換窒素N
s
に対する中性単一置換窒素N
s
0
の比率が少なくとも0.8である、上記1に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
3. 前記総窒素濃度が、少なくとも10ppm及び少なくとも15ppmのいずれかから選択される、上記1又は2に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
4. 前記単結晶CVDダイヤモンド材料の厚さが、100nm~4mm、200nm~1mm、又は500nm~50μmのいずれかから選択される、上記1~3のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
5. 20℃の温度で、光学的複屈折が低く、小さな歪みを示すため、少なくとも3×3mmの範囲にわたって測定された試料において、分析した範囲の98%で、試料が一次に留まり(δがπ/2を超えない)、かつ前記試料厚さにわたって平均した遅軸と速軸に平行な偏光の屈折率の差の平均値であるΔn
[平均]
の最大値が5×10
-5
を超えない、上記1~4のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
6. 前記単結晶ダイヤモンド材料が、均一な歪みを有するため、少なくとも1×1mmの範囲にわたって、少なくとも90%の点が、200kHz未満のNV共鳴の歪み誘起シフト係数を示し、前記範囲にある各点は50μm
2
の分解領域である、上記1~5のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
7. 前記NV共鳴の歪み誘起シフト係数が、150kHz未満、100kHz未満、50kHz未満、及び25kHz未満のいずれかから選択される、上記6に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
8. 前記範囲が、前記単結晶ダイヤモンド材料の中央70%の中にあり、かつ前記範囲内では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する点が1000個より多く連続しない、上記の6又は7に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
9. 前記範囲内では、150kHzを超えるNV共鳴線の歪み誘起シフト係数を有する点が500個より多く連続しない、上記の8に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
10. 前記単結晶CVDダイヤモンド材料の総量が、少なくとも0.04mm
3
、0.07mm
3
、及び0.1mm
3
のいずれかから選択される、上記1~9のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
11. 前記単結晶CVDダイヤモンド材料が照射及びアニールされており、NV
-
欠陥の濃度とデコヒーレンス時間T
2
*
との積が、少なくとも2.0ppm.μs、好ましくは2.5ppm.μs、好ましくは3ppm.μs、好ましくは5ppm.μsである、上記1~10のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
12. 上記1~11のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料の第1の層と、前記第1の層より総窒素濃度が低い単結晶ダイヤモンド材料の第2の層とを含む単結晶ダイヤモンド複合体。
13. 単結晶ダイヤモンド材料の前記第2の層が、IIa型HPHT単結晶ダイヤモンド、アニールしたHPHT単結晶ダイヤモンド、天然単結晶ダイヤモンド、及びCVD単結晶ダイヤモンドのいずれかを含む、上記12に記載の単結晶ダイヤモンド複合体。
14. 上記1~11のうちいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法であって、
化学蒸着反応器内の基板ホルダーの上方に単結晶ダイヤモンド基板を配置するステップ、
プロセスガスを前記反応器に供給するステップであって、前記プロセスガスが60~200ppmの窒素、炭素含有ガス、及び水素を含み、前記水素ガス中の水素原子に対する前記炭素含有ガス中の炭素原子の比率が0.5~1.5%であるステップ、並びに
単結晶ダイヤモンド基板の表面で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるステップ
を含む方法。
15. 前記水素ガス中の水素原子に対する前記炭素含有ガス中の炭素原子の比率が1.0%以下である、上記14に記載の方法。
16. 前記基板ホルダーの上方に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置するステップを更に含む、上記14又は15に記載の方法。
17. 前記ダイヤモンド材料を照射及びアニールして、前記ダイヤモンド材料中のNV
-
欠陥の数を増加させるステップを更に含む、上記14~16のうちいずれか一項に記載の方法。
18. 前記単結晶ダイヤモンド基板の総窒素濃度が5ppm未満である、上記14~17のうちいずれか一項に記載の方法。
19. 前記単結晶ダイヤモンド基板の表面で前記単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させる前に、前記ダイヤモンド基板にマスキングするステップを更に含む、上記14~18のうちいずれか一項に記載の方法。
20. 前記炭素含有ガス中の炭素が、少なくとも99%の
12
C、少なくとも99.9%の
12
C、及び少なくとも99.99%の
12
Cのいずれかを含む、上記14~20のうちいずれか一項に記載の方法。
21. ダイヤモンドを分析する方法であって、
前記ダイヤモンドの光学特性を測定するステップであって、前記測定がC
*
又はL
*
のいずれかを含むステップ、並びに
前記測定した光学特性をN
s
に対するN
s
0
の比率に経験的にマッピングするステップ
を含む方法。