(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】解析システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20230703BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20230703BHJP
【FI】
A61B5/16 130
G16H50/30
(21)【出願番号】P 2021204818
(22)【出願日】2021-12-17
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】518097143
【氏名又は名称】株式会社オー
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】谷本 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】志村 哲祥
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520427(JP,A)
【文献】特表2016-538927(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042512(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16-5/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置とウェアラブルデバイスとを含む解析システムであって、
前記ウェアラブルデバイスは、
青色スペクトルの照度を測定する青色光照度測定部と、
全光域スペクトルの照度を測定する全光照度測定部と、を備え、
前記情報処理装置は、
前記ウェアラブルデバイスが測定した照度の時間変動を解析して、前記ウェアラブルデバイスを装着したユーザの薄明下メラトニン分泌開始時刻(dim light melatonin onset;DLMO)を推定する解析部と、
前記DLMOを表示する表示部と、を備え、
前記解析部は、所定の基準時刻T1と、前記青色スペクトルにおける暗期終了時刻T2と、前記全光域スペクトルにおける暗期終了時刻T3とを説明変数として、T1+αT2+βT3(α及びβは0以上1以下の実数)で示される時刻をDLMOとして推定する、
解析システム。
【請求項2】
前記情報処理装置は、
前記解析部が推定したDLMOに基づいて、前記ユーザが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定する時刻推定部をさらに備え、
前記表示部は、前記開始時刻の所定時間前に、前記開始時刻に開始すべき活動の内容を前記開始時刻とともに表示する、
請求項
1に記載の解析システム。
【請求項3】
前記情報処理装置は、
体内時計の調整時間を前記ユーザから取得する取得部をさらに備え、
前記時刻推定部は、前記調整時間と前記DLMOとに基づいて、前記ユーザの体内時計を前記取得部が取得した調整時間分だけ調整するために前記ユーザが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定し、
前記表示部は、前記開始時刻の所定時間前に、前記開始時刻に開始すべき活動の内容を前記開始時刻とともに表示する、
請求項
2に記載の解析システム。
【請求項4】
前記解析システムは、
前記ユーザの健康を管理する医療従事者が使用する医療従事者端末をさらに含み、
前記情報処理装置は、
前記解析部が推定したDLMOを通信ネットワークを介して前記医療従事者端末に送信する通信部をさらに備える、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の解析システム。
【請求項5】
前記解析システムは、
前記ユーザの職場における前記ユーザの管理者が使用する管理者端末をさらに含み、
前記解析部は、所定期間における前記照度の時間変動の大きさを算出し、
前記通信部は、
前記解析部が算出した前記時間変動の大きさが所定の閾値を超えることを条件として、前記管理者端末に前記ユーザを特定するためのユーザ情報を送信する、
請求項
4に記載の解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は解析システムに関し、特に、薄明下メラトニン分泌開始時刻(Dim Light Melatonin Onset;以下、「DLMO」と記載する。)を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地球の自転周期は24時間であることから、ヒトを含めて地球上の生物の多くは概ね24時間の明暗周期で活動を同期させていることが知られており、この周期は概日リズム(circadian rhythm)と呼ばれている。ヒトは概日リズムに基づいて睡眠と覚醒とを制御していると言われている。特許文献1には、対象(被験者であるユーザ)に露光することでその対象の概日リズムを予想するための技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒトの覚醒と睡眠には脳内の松果体において生合成されるメラトニンが関係していることも知られている。上記の技術では、ヒトの概日リズムを予想するために対象のDLMOも利用しているが、一般にメラトニンを検出するためには対象の唾液や血液等が必要であり、メラトニン検出は対象にかかる負担が大きい。
【0005】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、DLMOの推定を簡略化するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、情報処理装置とウェアラブルデバイスとを含む解析システムである。このシステムにおいて、前記ウェアラブルデバイスは、照度を測定する照度測定部を備え、前記情報処理装置は、前記ウェアラブルデバイスが測定した照度の時間変動を解析して、前記ウェアラブルデバイスを装着したユーザの薄明下メラトニン分泌開始時刻(dim light melatonin onset;DLMO)を推定する解析部と、前記DLMOを表示する表示部と、を備える。
【0007】
前記照度測定部は、少なくとも青色スペクトルの照度を測定する青色光照度測定部を備えてもよく、前記解析部は青色スペクトルの照度の変動に基づいて前記DLMOを推定してもよい。
【0008】
前記照度測定部は、全光域スペクトルの照度を測定する全光照度測定部をさらに備えてもよく、前記解析部は、前記青色スペクトルの照度の変動と前記全光域スペクトルの照度の変動とに基づいて前記DLMOを推定してもよい。
【0009】
前記解析部は、所定の基準時刻T1と、前記青色スペクトルの照度と全光域スペクトルの照度とのそれぞれが所定の条件を満たす時刻T2及び時刻T3とに基づいて、T1+αT2+βT3(α及びβは0以上1以下の実数)で示される時刻をDLMOとして推定してもよい。
【0010】
前記情報処理装置は、前記解析部が推定したDLMOに基づいて、前記ユーザが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定する時刻推定部をさらに備えてもよく、前記表示部は、前記開始時刻の所定時間前に、前記開始時刻に開始すべき活動の内容を前記開始時刻とともに表示してもよい。
【0011】
前記情報処理装置は、体内時計の調整時間を前記ユーザから取得する取得部をさらに備えてもよく、前記時刻推定部は、前記調整時間と前記DLMOとに基づいて、前記ユーザの体内時計を前記取得部が取得した調整時間分だけ調整するために前記ユーザが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定してもよく、前記表示部は、前記開始時刻の所定時間前に、前記開始時刻に開始すべき活動の内容を前記開始時刻とともに表示してもよい。
【0012】
前記解析システムは、前記ユーザの健康を管理する医療従事者が使用する医療従事者端末をさらに含んでもよく、前記情報処理装置は、前記解析部が推定したDLMOを通信ネットワークを介して前記医療従事者端末に送信する通信部をさらに備えてもよい。
【0013】
前記解析システムは、前記ユーザの職場における前記ユーザの管理者が使用する管理者端末をさらに含んでもよく、前記解析部は、所定期間における前記照度の時間変動の大きさを算出してもよく、前記通信部は、前記時間変動の大きさが所定の閾値を超えることを条件として、前記管理者端末に前記ユーザを特定するためのユーザ情報を送信してもよい。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、DLMOの推定を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に係る解析システムの概要を説明するための図である。
【
図2】実施の形態に係る情報処理装置及びウェアラブルデバイスの機能構成を模式的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係る解析部が使用する重回帰式を定めるために行われた実験データの一部を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係る情報処理装置の表示部の表示画面の一例を模式的に示す図である。
【
図5】実施の形態に係る情報処理装置が実行する解析処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施の形態の概要>
本願の発明者は、DLMOの推定の対象となる複数のユーザそれぞれが生活の中で暴露される光の強度を照度データとして蓄積するとともに、各ユーザの唾液におけるメラトニン濃度の経時変化を測定し、唾液中のメラトニンから既知の手法に基づいてDLMOを算出した。本願の発明者は、照度データの時間変動から抽出されるいくつかの特徴点を説明変数としてユーザのDLMOを重回帰分析した結果、照度データからDLMOを精度よく推定できることを見出した。なお、推定方法の詳細は後述する。
【0018】
本願の発明者は、ユーザの睡眠スケジュールに関する設問の回答から主観的真夜中(Subjective-Midnight;SM)として知られる指標を推定し、SMを基準とすることにより、照度データを未取得の状態でも初期値として十分な精度でDLMOを推定できることも見出した。
【0019】
実施の形態に係る解析システムは、ユーザの生活環境において暴露される光の照度の時間変動をウェアラブルデバイスで測定し、測定したデータを解析することによってユーザのDLMOを推定する。
【0020】
図1は、実施の形態に係る解析システムSの概要を説明するための図である。実施の形態に係る解析システムSは、情報処理装置1と、DLMOの測定対象であるユーザUが装着するためのウェアラブルデバイス2とを含んでいる。情報処理装置1とウェアラブルデバイス2とは、例えば近距離無線通信を介して通信可能な態様で接続している。また、情報処理装置1は、インターネット等の通信ネットワークNを介して、ユーザUの健康を管理する医療従事者Dが使用する医療従事者端末3や、ユーザUの職場におけるユーザUの管理者Mが使用する管理者端末4とも通信可能な態様で接続している。
【0021】
図1は、ウェアラブルデバイス2が腕時計型のデバイスである場合の例を示している。しかしながら、ウェアラブルデバイス2は、ウェアラブルデバイス2を装着しているユーザUが暴露する光の照度を計測して蓄積し、情報処理装置1に送信できればどのような態様であってもよく、例えば、指輪型、メガネ型、帽子型、コンタクトレンズ型、皮膚埋め込み型、衣服型、マスク型のデバイスであってもよい。
【0022】
図1に示すように、ユーザUは、実施の形態に係るウェアラブルデバイス2を装着した状態で生活する。ユーザUに照射される光の照度は、ユーザUが置かれる環境(例えば、ユーザUが快晴時に外出しているか、曇りの日に窓辺で仕事しているか、夜間に照明の下で食事をしているか、夜間に消灯して就寝しているか等)に応じて時々刻々と変化する。そこで、ユーザUはウェアラブルデバイス2を装着してユーザUの活動とともに変化する照度の時間変動を測定させる。
【0023】
情報処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサやメモリ等の計算リソースを備える装置であり、一例としてはスマートホンである。情報処理装置1は、ウェアラブルデバイス2が測定した1日分の照度の時間変動を解析して、あらかじめ実験によって定められた重回帰式を用いることにより、ユーザUのDLMOを推定する。情報処理装置1は、推定したDLMOを情報処理装置1の表示部に表示する。これにより、ユーザUは、単にウェアラブルデバイス2を装着して生活するだけで、自身のDLMOの推定値を知ることができる。
【0024】
また、情報処理装置1は、ユーザUのDLMOの推定値やウェアラブルデバイス2が測定した照度の解析結果をユーザUの健康を管理する医療従事者Dが使用する医療従事者端末3や、ユーザUの職場におけるユーザUの管理者Mが使用する管理者端末4にも送信してもよい。これにより、情報処理装置1は、医療従事者Dや管理者MがユーザUの生活リズムの乱れやその予兆を把握する機会を提供することができる。
【0025】
<実施の形態に係る情報処理装置1及びウェアラブルデバイス2の機能構成>
図2は、実施の形態に係る情報処理装置1及びウェアラブルデバイス2の機能構成を模式的に示す図である。情報処理装置1は、記憶部10、通信部11、表示部12、及び制御部13を備える。また、ウェアラブルデバイス2は、例えば腕時計型のデバイスであり、通信部20と照度測定部21とを備える。照度測定部21は、全光照度測定部210、青色光照度測定部211、赤色光照度測定部212、及び緑色光照度測定部213を備える。図示はしないが、ウェアラブルデバイス2は、ユーザUの動きを測定するための加速度センサを備えていてもよい。
【0026】
図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図2に示していないデータの流れがあってもよい。
図2において、各機能ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、
図2に示す機能ブロックは単一の装置内に実装されてもよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてもよい。機能ブロック間のデータの授受は、データバス、通信ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてもよい。
【0027】
記憶部10は、情報処理装置1を実現するコンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)や情報処理装置1の作業領域となるRAM(Random Access Memory)、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、当該アプリケーションプログラムの実行時に参照される種々の情報を格納するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置である。
【0028】
通信部11は、情報処理装置1が外部の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、携帯電話通信モジュール、Wi-Fi(登録商標)モジュール、Bluetooth(登録商標)モジュール等の無線通信モジュール等で実現されている。情報処理装置1が据え置き型の計算機である場合には、通信部11は有線LAN(Local Area Network)モジュールであってもよい。
【0029】
以下、情報処理装置1が外部の機器と通信する場合、通信部11を介することを前提として通信部11の記載は省略する。同様に、ウェアラブルデバイス2の通信部20はウェアラブルデバイス2が外部の機器と通信するためのインタフェースである。ウェアラブルデバイス2が外部の機器と通信する場合、通信部20を介することを前提として通信部20の記載は省略する。
【0030】
表示部12は、情報処理装置1がユーザUに情報を提示するためのインタフェースであり、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)等の既知の表示モジュールで実現されている。情報処理装置1がスマートホンの場合ユーザUから入力を受け付ける入力インタフェースとしても機能する。
【0031】
制御部13は、情報処理装置1のCPUやGPU等のプロセッサであり、記憶部10に記憶されたプログラムを実行することによって解析部130、時刻推定部131、及び取得部132として機能する。
【0032】
なお、
図2は、情報処理装置1がスマートホン等の単一の装置で構成されている場合の例を示している。しかしながら、情報処理装置1は、例えばクラウドコンピューティングシステムのように複数のプロセッサやメモリ等の計算リソースによって実現されてもよい。この場合、制御部13を構成する各部は、複数の異なるプロセッサの中の少なくともいずれかのプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0033】
ユーザUに装着されたウェアラブルデバイス2の照度測定部21はユーザUが暴露している光の照度を測定する。情報処理装置1の解析部130は、ウェアラブルデバイス2が測定した照度の時系列データを取得する。解析部130は、取得した照度の時間変動を解析して、ウェアラブルデバイス2を装着したユーザUのDLMOを推定する。解析部130が推定するDLMOは、例えば「21時55分」のように具体的な時刻である。表示部12は、解析部130が推定したDLMOを表示する。
【0034】
(DLMOの推定方法の詳細)
以下、解析部130が実行するDLMOの推定方法の詳細を説明する。
【0035】
実施の形態に係る解析部130は、ウェアラブルデバイス2から取得した照度の時間変動を示すデータから複数の特徴量を取得し、それらの特徴量を説明変数とする重回帰式により、DLMOを推定する。解析部130が使用する重回帰式は実験によってあらかじめ定められている。
【0036】
図3(a)-(b)は、実施の形態に係る解析部130が使用する重回帰式を定めるために行われた実験データの一部を模式的に示す図である。具体的には、
図3(a)はある被験者が装着したウェアラブルデバイス2によって測定された7日分の照度(全光域スペクトル)を示すグラフであり、
図3(b)はある被験者から検出されたメラトニン分泌量の1日における変動を示すグラフである。
【0037】
本願の発明者は、複数の被験者に関する照度の時間変動を示すデータそれぞれについて、10[lx]から300[lx]の間のいくつかの閾値を設定し、各閾値における暗期開始時刻、暗期終了時刻、明暗期中間時刻等の時刻を特徴量として取得した。また、全光域スペクトルのみならず、青色スペクトル、赤色スペクトル、緑色スペクトルについても複数の閾値を設定し、暗期開始時刻、暗期終了時刻、明暗期中間時刻等の時刻を特徴量として取得した。さらに、本願の発明者は、各スペクトルにおける対数照度の重心時刻も特徴量として取得した。
【0038】
本願の発明者は、照度の時間変動から抽出した各特徴量(時刻)について、その時刻が含まれる日のメラトニン分泌量の変動を示すグラフから、二つの異なる手法それぞれを用いてDLMOを特定した。具体的に、一つ目の手法は、メラトニンの分泌量が3[pg/ml]の濃度を超えた時点(より正確には、採取した2時点の間で直線を描き、メラトニンの分泌量が3[pg/ml]を超える時点)をDLMOとする手法である。二つ目の手法は、上述した3k法と呼ばれる手法であり、ランニング段階でまず3時点のメラトニン濃度を測定し、そのベースラインからメラトニンの濃度の変動に関する標準偏差の2倍分の分泌量を超えた時点をDLMOとする方法である。
【0039】
本願の発明者は、複数の特徴量についてDLMOとの相関を調べ、全光域スペクトルにおける暗期終了時刻(明期開始時刻)、青色スペクトルにおける明期終了時刻(暗期開始時刻)、対数照度の日中の青色スペクトルにおける重心時刻がDLMOの推定に特に重要な特徴量であり、中でも、青色スペクトルにおける明期中間時刻が重要な特徴量であることを見出した。
【0040】
そのため、ウェアラブルデバイス2の照度測定部21は、青色スペクトルの照度を測定する青色光照度測定部211を備えている。解析部130は青色スペクトルの照度の変動に基づいてユーザUのDLMOを推定する。具体的には、解析部130は、50[lx]を閾値として青色スペクトルの明期中間時刻をT1(直近の過去7日間の平均値)、青いスペクトルの対数照度の重心時刻をT2(直近の過去7日間の平均値)、DLMOをTdとしたときに、Tdを以下の式(1)に基づいて推定できることを見出した。
Td=T1×0.97+T2×0.417―0.618 (1)
【0041】
ここで、T1、T2は、0時~24時までの時刻を24時間表記で示すとともに、時間を1から24の整数、分を0以上1未満の小数点で表すものとする。例えば、午前9時30分は「9.5」、午後4時48分は「16.8」で表す。すなわち、小数点以下の値を60倍した数字が時刻における「分」を表す。例えば、式(1)において、T1が16時、T2が14時である場合、Tdは、16×0.97+14×0.417-0.618=20.74(20時44分24秒)がDLMOと推定できる。
【0042】
照度測定部21が全光域スペクトルの照度を測定する全光照度測定部210を備えており、全光域スペクトルの照度の変動を使用できる場合、解析部130は、青色スペクトルの照度の変動と全光域スペクトルの照度の変動とに基づいてDLMOをさらに精度よく推定することができる。
【0043】
具体的には、解析部130は、以下の式(2)を利用することでDLMOをさらに精度よく推定することができる。
Td=11.327+T3×0.913+T4×0.177 (2)
ここで、T3は全光域スペクトルにおいて50[lx]を閾値とした場合の暗期終了時刻(明期開始時刻)を表し、T4は青色スペクトルにおいて50[lx]を閾値とした場合の暗期終了時刻(明期開始時刻)を示す。式(1)におけるT1、T2と同様に、式(2)におけるT3、T4も直近の過去7日分の平均値である。
【0044】
このように、解析部130は、所定の基準時刻Tsと、青色スペクトルの照度と全光域スペクトルの照度とのそれぞれが所定の条件を満たす時刻Ta及び時刻Tbとに基づいて、Tx+αTa+βTb(α及びβは0以上1以下の実数)で示される時刻をDLMOとして推定することができる。
【0045】
さらに、情報処理装置1は、ユーザUに暴露されている1日分の照度データを取得するたびに、式(1)及び式(2)に含まれるT1~T4の値を更新する。これにより、情報処理装置1は、DLMO推定のための重回帰式の説明変数の値にユーザUの近況の状況を反映させることができるので、DLMOの推定精度を維持することができる。
【0046】
式(1)及び式(2)は、ユーザUがウェアラブルデバイス2を7日間以上装着し、7日間以上の照度データが蓄積されていることを前提としている。本願の発明者は、ユーザUがウェアラブルデバイス2を装着している期間が7日未満である場合、解析部130は、ユーザUのアンケートから取得したSM(主観的真夜中)を利用する以下の式(3)を用いてDLMOを推定することができることを実験により見出した。
【0047】
Td=17.212+T5×0.714+T6×0.218 (3)
ここで、T5はSMを示し、T6は緑色スペクトルにおいて50[lx]未満であった連続期間(ただし連続しない1分だけ50[lx]を超えた瞬間的露光はカウントしない)が終わった時刻を示す。
【0048】
MSに代えてMSFsc(睡眠負債が調整された休日における睡眠時間帯の中間時刻)を用いる場合、解析部130は以下の式(4)を用いてDLMOを推定することもできる。
Td=16.194+T7×0.759+T8×0.194 (4)
ここで、T7は、全光域スペクトルにおいて10[lx]未満であった連続期間(ただし連続しない1分だけ10[lx]を超えた瞬間的露光はカウントしない)が終わった時刻を示し、T8はMSFscである。
【0049】
なお、ユーザUが一度もウェアラブルデバイス2を装着したことがなく、照度データが存在しない場合には、上記式(1)~(4)と比較して精度は落ちるものの、解析部130は以下の式(5a)又は(5b)を用いてDLMOを推定することができることも本願の発明者は実験により見出した。
Td=T5-6.54 (5a)
Td=T8―7.04 (5b)
式(5a)は、SMの6.54時間前がDLMOの推定時刻であり、式(5b)はSMFscの7.04時間前がDLMOの推定時刻であることを示している。
【0050】
以上説明したように、情報処理装置1は、ユーザUが暴露する光の照度を解析することにより、ユーザUのDLMOを推定することができる。DLMOはユーザUの概日リズムにおいても重要な指標であり、情報処理装置1は、DLMOに基づいてユーザUの生活リズムに関する種々の提案をすることも可能である。
【0051】
このため、実施の形態に係る時刻推定部131は、解析部130が推定したDLMOに基づいて、ユーザUが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定する。ここで「複数の活動」とは、何らかの目的に向けてユーザUが定期的に実行すべき活動であり、例えば投薬のタイミングや体内時計の調整、理想的な時刻における着床、食事、運動、仕事、勉強等である。これらの時刻は、DLMOを起点とする相対的な時刻としてあらかじめ情報処理装置1の記憶部(不図示)に記録されている。表示部12は、時刻推定部131が特定した開始時刻の所定時間前に、開始時刻に開始すべき活動の内容を開始時刻とともに表示する。
【0052】
時刻推定部131が上記の活動を開始する時刻を求めるために、ユーザUから情報を取得する必要がある場合もある。例えば、ユーザUが体内時計を調整することを目的とする場合、時刻推定部131はユーザUから調整時間を具体的に取得する必要がある。
【0053】
そこで、取得部132は、体内時計の調整時間をユーザUから取得する。時刻推定部131は、調整時間とDLMOとに基づいて、ユーザUの体内時計を取得部132が取得した調整時間分だけ調整するためにユーザUが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定する。表示部12は、開始時刻の所定時間前に、開始時刻に開始すべき活動の内容を開始時刻とともに表示する。
【0054】
図4は、実施の形態に係る情報処理装置1の表示部12の表示画面の一例を模式的に示す図であり、具体的には、ユーザUが時差調整のために体内時計を調整することを目的とする提案の一例を示している。
図4に示す例では、表示部12は、時差調整をするために16時15分以降は光を浴びないことを示すメッセージや、ユーザUが起床すべき時刻を表示する。これにより、ユーザUは、表示部12に表示された開始時刻及び活動の内容を開始時刻の前に確認して、活動をするための準備をすることができる。
【0055】
ここで、情報処理装置1がユーザUに提示する投薬するタイミング等はあくまでも参考情報であり、医師等の医療従事者Dが管理すべき事柄である。そこで、情報処理装置1は、解析部130が推定したDLMOを通信ネットワークを介して医療従事者端末3に送信する。また、情報処理装置1は、時刻推定部131が算出した活動開始時刻及び活動内容も管理者端末4に送信してもよい。これにより、医療従事者は、ユーザUの投薬のタイミングの決定と行った医療行為ないしそれに準ずる行為を遠隔から実施することができる。
【0056】
さらに、ユーザUが暴露している照度データは、ユーザUの生活のリズムを反映するデータと言える。例えば、ユーザUが着床する時間が乱れている場合は生活のリズムが乱れており、ユーザUが担う仕事のパフォーマンスにも影響を及ぼす可能性がある。
【0057】
そこで、解析部130は、所定期間における照度の時間変動の大きさを算出する。ここで、「所定期間」とは、ユーザUの生活のリズムが乱れているか否かを判定するために定められた照度データ中のリズム判定基準期間である。所定の期間は、時刻推定部131によって管理され、変更可能である。例えば、時刻推定部131は、過去7日間のユーザUの就寝時刻及び起床時刻を算出し、それらの時刻を含む期間(例えば前後1時間)を所定の期間として定める。ユーザUの生活のリズムが一定である場合は、生活のリズムが乱れている場合と比較して、所定の期間における照度の変化は小さいと考えられる。なぜなら、ユーザUの生活のリズムが乱れており就寝時刻が安定しない場合、就寝時刻を含む所定期間内で消灯している場合としていない場合が混在するからである。同様に、ユーザUの起床時刻が安定しない場合、ユーザUが照明を点灯させる時刻や外出する時刻が安定せず、起床後にユーザUが強い光に暴露される時刻も安定しないからである。
【0058】
情報処理装置1は、解析部130が算出した変動の大きさが所定の閾値を超えることを条件として、管理者端末4にユーザUを特定するためのユーザ情報を送信する。これにより、ユーザUの職場におけるユーザUの管理者Mは、ユーザUの生活のリズムが乱れていることに客観的なデータを持って認識することができる。管理者Mは、必要に応じて、ユーザUに担当させるべき仕事の量を調整したり、ユーザUとの面談を設定したりする機会を得ることができる。
【0059】
<情報処理装置1が実行する解析方法の処理フロー>
図5は、実施の形態に係る情報処理装置1が実行する解析処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【0060】
ウェアラブルデバイス2の照度測定部21は、ウェアラブルデバイス2を装着したユーザUが暴露している光の照度を測定する(S2)。照度測定部21は、測定した照度をウェアラブルデバイス2の記憶部に記録する(S4)。
【0061】
ウェアラブルデバイス2は、あらかじめ定められた照度データの送信タイミング(例えば、1日1回、1時間に1回等)となるまでの間(S6のNo)、照度の測定と記録を継続する。あらかじめ定められたデータの送信タイミングとなると(S6のYes)、ウェアラブルデバイス2は、照度の時間変動を示すデータを情報処理装置1に送信する(S8)。
【0062】
情報処理装置1は、ウェアラブルデバイス2が計測した照度の時間変動を示すデータを受信する(S10)。情報処理装置1の解析部130は、ウェアラブルデバイス2が測定した照度の時間変動を解析して、ウェアラブルデバイス2を装着したユーザUのDLMOを推定する(S12)。
【0063】
時刻推定部131は、解析部130が推定したDLMOに基づいて、ユーザUが行うべき1又は複数の活動の開始時刻を特定する(S14)。時刻推定部131が特定した開始時刻の所定時間前(例えば30分前)である通知時刻になるまでの間(S16のNo)、情報処理装置1はステップS10に戻ってステップS10からステップS14までの処理を繰り返す。
【0064】
時刻推定部131が特定した開始時刻の所定時間前(例えば30分前)である通知時刻となると(S16のYes)、表示部12は、開始時刻に開始すべき活動の内容を開始時刻とともに表示する(S18)。
【0065】
<実施の形態に係る解析システムSが奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係る解析システムSによれば、ユーザUのDLMOの推定を簡略化することができる。
【0066】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果をあわせ持つ。
【符号の説明】
【0067】
1・・・情報処理装置
10・・・記憶部
11・・・通信部
12・・・表示部
13・・・制御部
130・・・解析部
131・・・時刻推定部
132・・・取得部
2・・・ウェアラブルデバイス
20・・・通信部
21・・・照度測定部
210・・・全光照度測定部
211・・・青色光照度測定部
212・・・赤色光照度測定部
213・・・緑色光照度測定部
3・・・医療従事者端末
4・・・管理者端末
S・・・解析システム
N・・・通信ネットワーク