(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】シアン酸エステル化合物、樹脂組成物、硬化物、単層樹脂シート、積層樹脂シート、プリプレグ、金属箔張積層板、プリント配線板、封止用材料、繊維強化複合材料、及び接着剤
(51)【国際特許分類】
C07C 261/02 20060101AFI20230703BHJP
C09D 179/00 20060101ALI20230703BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20230703BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230703BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230703BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C07C261/02 CSP
C09D179/00
C08G73/06
B32B27/40
C08J5/24
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2020513237
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015069
(87)【国際公開番号】W WO2019198626
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018077026
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中西 講平
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】片桐 俊介
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-074366(JP,A)
【文献】米国特許第05723067(US,A)
【文献】特開2004-256687(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060418(WO,A1)
【文献】赤塚正樹 ほか,放熱性の優れた高次構造制御エポキシ樹脂の開発,電学論A,2003年,Vol.123, No.7,pp.687-692
【文献】KOERNER,H. et al.,Probing electric field response of LC thermosets via time-resolved X-ray and dielectric spectroscopy,Polymer,2011年,Vol.52, No.10,pp.2206-2213,DOI:10.1016/j.polymer.2011.03.039
【文献】三村研史,高熱伝導複合材料,ネットワークポリマー,2014年,Vol.35, No.2,pp.76-83
【文献】中村祥子 ほか,シアネートエステル樹脂の低温物性,日本物理学会 2016年秋季大会 要旨集,2016年,p.1546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、シアン酸エステル化合物。
【化1】
(式(1)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【請求項2】
前記式(1)で表されるシアン酸エステル化合物が、下記式(2)で表される、請求項1に記載のシアン酸エステル化合物。
【化2】
(式(2)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【請求項3】
前記式(2)で表されるシアン酸エステル化合物が、下記式(3)で表される、請求項2に記載のシアン酸エステル化合物。
【化3】
【請求項4】
下記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載のシアン酸エステル化合物。
【化4】
(式(4)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【請求項5】
下記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して、下記式(1)で表されるシアン酸エステル化合物を得るシアネート化工程を有する、シアン酸エステル化合物の製造方法。
【化5】
(式(4)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【化6】
(式(1)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシアン酸エステル化合物を含む、樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン化合物、及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される1種以上をさらに含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
充填材をさらに含む、請求項6又は7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
シート状成形体用である、請求項6~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
【請求項11】
請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物をシート状に成形してなる、単層樹脂シート。
【請求項12】
支持体と、
前記支持体の片面又は両面に配された、請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、
を有する、積層樹脂シート。
【請求項13】
基材と、
前記基材に含浸又は塗布された、請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、
を有する、プリプレグ。
【請求項14】
請求項11に記載の単層樹脂シート、請求項12に記載の積層樹脂シート、及び、請求項13に記載のプリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
前記単層樹脂シート、前記積層樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種の片面又は両面に配された金属箔と、
を有し、
前記単層樹脂シート、前記樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む、金属箔張積層板。
【請求項15】
絶縁層と、
前記絶縁層の片面又は両面に形成された導体層と、
を有し、
前記絶縁層が、請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、プリント配線板。
【請求項16】
請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、封止用材料。
【請求項17】
請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、強化繊維と、を含む、繊維強化複合材料。
【請求項18】
請求項6~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン酸エステル化合物、樹脂組成物、硬化物、単層樹脂シート、積層樹脂シート、プリプレグ、金属箔張積層板、プリント配線板、封止用材料、繊維強化複合材料、及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機、パーソナルコンピューター等に広く用いられている半導体の高集積化、微細化はますます加速している。これに伴い、プリント配線板に用いられる半導体パッケージ用積層板に求められる諸特性はますます厳しいものとなっている。求められる特性として、例えば、低吸水性、吸湿耐熱性、難燃性、低誘電率、低誘電正接、低熱膨張率、耐熱性、耐薬品性、高めっきピール強度等の特性が挙げられる。
【0003】
従来から、耐熱性や電気特性に優れるプリント配線板用樹脂として、シアン酸エステル化合物が知られており、近年シアン酸エステル化合物にエポキシ樹脂、ビスマレイミド化合物などを併用した樹脂組成物が半導体プラスチックパッケージ用などの高機能のプリント配線板用材料などに幅広く使用されている。
例えば、特許文献1においては、特定構造のシアン酸エステル化合物と、その他の成分とからなる樹脂組成物が低吸水性、低熱膨張率などの特性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の樹脂組成物は、低吸水性及び低熱膨張率などの特性について良好な物性を有しているといえるものの、熱伝導率の観点からは、依然として改良の余地を有するものである。例えば、プリント配線板のような絶縁材料や、その他の樹脂シートとしたとき、これらの熱伝導率が十分でないと、放熱性が要求される用途には適用し難い。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れた熱伝導性を発現する、シアン酸エステル化合物、樹脂組成物、硬化物、単層樹脂シート、積層樹脂シート、プリプレグ、金属箔張積層板、プリント配線板、封止用材料、繊維強化複合材料、及び接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、特定構造を有するシアン酸エステル化合物により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
下記式(1)で表される、シアン酸エステル化合物。
【化1】
(式(1)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
[2]
前記式(1)で表されるシアン酸エステル化合物が、下記式(2)で表される、[1]に記載のシアン酸エステル化合物。
【化2】
(式(2)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
[3]
前記式(2)で表されるシアン酸エステル化合物が、下記式(3)で表される、[2]に記載のシアン酸エステル化合物。
【化3】
[4]
下記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して得られる、[1]~[3]のいずれかに記載のシアン酸エステル化合物。
【化4】
(式(4)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
[5]
下記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して、下記式(1)で表されるシアン酸エステル化合物を得るシアネート化工程を有する、シアン酸エステル化合物の製造方法。
【化5】
(式(4)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【化6】
(式(1)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
[6]
[1]~[4]のいずれかに記載のシアン酸エステル化合物を含む、樹脂組成物。
[7]
[1]~[4]のいずれかに記載のシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン化合物、及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される1種以上をさらに含む、[6]に記載の樹脂組成物。
[8]
充填材をさらに含む、[6]又は[7]に記載の樹脂組成物。
[9]
シート状成形体用である、[6]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]
[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
[11]
[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物をシート状に成形してなる、単層樹脂シート。
[12]
支持体と、
前記支持体の片面又は両面に配された、[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物と、
を有する、積層樹脂シート。
[13]
基材と、
前記基材に含浸又は塗布された、[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物と、
を有する、プリプレグ。
[14]
[11]に記載の単層樹脂シート、[12]に記載の積層樹脂シート、及び、[13]に記載のプリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
前記単層樹脂シート、前記積層樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種の片面又は両面に配された金属箔と、
を有し、
前記単層樹脂シート、前記樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含む、金属箔張積層板。
[15]
絶縁層と、
前記絶縁層の片面又は両面に形成された導体層と、
を有し、
前記絶縁層が、[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、プリント配線板。
[16]
[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、封止用材料。
[17]
[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物と、強化繊維と、を含む、繊維強化複合材料。
[18]
[6]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、接着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた熱伝導性を発現する、シアン酸エステル化合物、樹脂組成物、硬化物、単層樹脂シート、積層樹脂シート、プリプレグ、金属箔張積層板、プリント配線板、封止用材料、繊維強化複合材料、及び接着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1で得られたEster-Bpの
1H-NMRチャートである。
【
図2】
図2は、実施例1で得られたEsBp-CNの
1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
[シアン酸エステル化合物]
本実施形態のシアン酸エステル化合物は、下記式(1)で表される。このような構造を有することにより、本実施形態のシアン酸エステル化合物は、優れた熱伝導性を発現することができる。
【化7】
(式(1)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【0013】
上記アルキル基の具体例としては、以下に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-エチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。上記ハロゲン原子の具体例としては、以下に限定されないが、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0014】
本実施形態において、より良好な熱伝導率を発現する観点から、式(1)中のRが水素原子であることが好ましく、より好ましくは、Rが水素原子であると共にnが4である。
【0015】
本実施形態において、より良好な熱伝導率を発現する観点から、式(1)で表されるシアン酸エステル化合物が、下記式(2)で表されることが好ましい。
【化8】
(式(2)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【0016】
本実施形態において、さらに良好な熱伝導率を発現する観点から、式(2)で表されるシアン酸エステル化合物が、下記式(3)で表されることが好ましい。
【化9】
【0017】
[シアン酸エステル化合物の製造方法]
本実施形態のシアン酸エステル化合物の製造方法としては、特に限定されるものではないが、下記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して、上記式(1)で表されるシアン酸エステル化合物を得るシアネート化工程を有するものであることが好ましい。すなわち、本実施形態のシアン酸エステル化合物は、好ましくは、下記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して得られるものである。さらに換言すると、本実施形態のシアン酸エステル化合物は、式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物のシアネート化物であることが好ましい。
【0018】
【化10】
(式(4)中、Rは、各々独立に水素原子、炭素数1~6の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、又はハロゲン原子を示す。nは1~4の整数を示す。)
【0019】
上記式(4)において、アルキル基及びハロゲン原子は、上記式(1)におけるものと同様とすることができ、より良好な熱伝導率を発現する観点から、Rが水素原子であることが好ましく、より好ましくは、Rが水素原子であると共にnが4である。
【0020】
本実施形態において、より良好な熱伝導率を発現する観点から、式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物は、下記式(4-1)で表されることが好ましい。
【化11】
【0021】
本実施形態において、さらに良好な熱伝導率を発現する観点から、式(4-1)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物は、下記式(4-2)で表されることが好ましい。
【化12】
【0022】
式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物の合成方法としては、特に限定されないが、例えば、置換若しくは非置換の4-ヒドロキシ安息香酸メチルに対して、4-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールを反応させることによって合成することができる。上記において、式(4-1)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物を合成する場合、置換若しくは非置換の4-ヒドロキシ安息香酸メチル、及び4-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールを原料として選択すればよく、式(4-2)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物を合成する場合、非置換の4-ヒドロキシ安息香酸メチル、及び4-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールを原料として選択すればよい。具体的には、後述する実施例に記載の方法等により、合成することができる。
【0023】
次に、上記のようにして得られた式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化する工程について述べる。
【0024】
<シアネート化工程>
シアネート化工程は、ヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化して、上記式(1)で表される構造を有するシアン酸エステル化合物を得る工程である。具体的には、上記式(4)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物が有するヒドロキシ基をシアネート化して、上記式(1)で表される構造を有するシアン酸エステル化合物を得る工程である。
【0025】
シアネート化工程におけるヒドロキシ置換芳香族化合物をシアネート化する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。具体的には、ヒドロキシ置換芳香族化合物とハロゲン化シアンを、溶媒中で、塩基性化合物存在下で反応させる方法、溶媒中、塩基の存在下で、ハロゲン化シアンが常に塩基より過剰に存在するようにして、ヒドロキシ置換芳香族化合物とハロゲン化シアンを反応させる方法(米国特許第3553244号明細書参照)や、塩基として3級アミンを用い、これをハロゲン化シアンよりも過剰に用いながら、溶媒の存在下、ヒドロキシ置換芳香族化合物に3級アミンを添加した後、ハロゲン化シアンを滴下する、或いは、ハロゲン化シアンと3級アミンを併注滴下する方法(特許第3319061号明細書参照)、連続プラグフロー方式で、ヒドロキシ置換芳香族化合物、トリアルキルアミン及びハロゲン化シアンを反応させる方法(特許第3905559号明細書参照)、ヒドロキシ置換芳香族化合物とハロゲン化シアンとを、4級アミンの存在下、非水溶液中で反応させる際に副生するtert-アンモニウムハライドを、カチオン及びアニオン交換対で処理する方法(特許第4055210号明細書参照)、ヒドロキシ置換芳香族化合物に対して、水と分液可能な溶媒の存在下で、3級アミンとハロゲン化シアンとを同時に添加して反応させた後、水洗分液し、得られた溶液から2級若しくは3級アルコール類又は炭化水素の貧溶媒を用いて沈殿精製する方法(特許第2991054号明細書参照)、更には、ヒドロキシ置換芳香族化合物、ハロゲン化シアン、及び3級アミンを、水と有機溶媒との二相系溶媒中、酸性条件下で反応させる方法(特許第5026727号明細書参照)等により、本実施形態のシアン酸エステル化合物を得ることができる。
【0026】
得られたシアン酸エステル化合物は、NMR等の公知の方法により同定することができる。シアン酸エステル化合物の純度は、液体クロマトグラフィー又はIRスペクトル法等で分析することができる。シアン酸エステル化合物中のジアルキルシアノアミド等の副生物や残存溶媒等の揮発成分は、ガスクロマトグラフィーで定量分析することができる。シアン酸エステル化合物中に残存するハロゲン化合物は、液体クロマトグラフ質量分析計で同定することができ、また、硝酸銀溶液を用いた電位差滴定又は燃焼法による分解後イオンクロマトグラフィーで定量分析することができる。シアン酸エステル化合物の重合反応性は、熱板法又はトルク計測法によるゲル化時間で評価することができる。
【0027】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態のシアン酸エステル化合物を含む。このように構成されているため、本実施形態の樹脂組成物は、優れた熱伝導性を発現することができる。なお、本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態のシアン酸エステル化合物を一種単独で含むものであってもよいし、本実施形態のシアン酸エステル化合物を二種以上含むものであってもよい。
【0028】
本実施形態において、樹脂組成物中における本実施形態のシアン酸エステル化合物の含有量は、特に限定されないが、より優れた熱伝導性を得る観点から、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上である。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、本実施形態のシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物(以下、「シアン酸エステル化合物(A)」ともいう。)、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン化合物、及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される1種以上を含むことができる。以下、これらの各成分について説明する。
【0030】
〔シアン酸エステル化合物(A)〕
シアン酸エステル化合物(A)としては、本実施形態のシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物であって、かつ、シアン酸エステル基で少なくとも1個置換された芳香族部分を分子内に有する化合物であれば、特に限定されない。シアン酸エステル化合物を用いた樹脂組成物は、硬化物とした際に、ガラス転移温度、低熱膨張性、めっき密着性等に優れた特性を有する。
【0031】
シアン酸エステル化合物(A)の例としては、以下に限定されないが、下記式(5)で表されるものが挙げられる。
【0032】
【0033】
上記式(5)中、Ar1は、芳香環を表す。複数ある場合は互いに同一であっても異なっていてもよい。上記芳香環としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及び、2つのベンゼン環が単結合したものが挙げられる。Raは各々独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシル基、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~12のアリール基とが結合された基を示す。Raにおける芳香環は置換基を有していてもよく、Ar1及びRaにおける置換基は任意の位置を選択できる。pはAr1に結合するシアナト基の数を示し、各々独立に1~3の整数である。qはAr1に結合するRaの数を示し、Ar1がベンゼン環のときは4-p、ナフタレン環のときは6-p、2つのベンゼン環が単結合したもののときは8-pである。tは平均繰り返し数を示し、0~50の整数であり、シアン酸エステル化合物(A)は、tが異なる化合物の混合物であってもよい。Xは、複数ある場合は各々独立に、単結合、炭素数1~50の2価の有機基(水素原子がヘテロ原子に置換されていてもよい。)、窒素数1~10の2価の有機基(例えば-N-R-N-(ここでRは有機基を示す。))、カルボニル基(-CO-)、カルボキシ基(-C(=O)O-)、カルボニルジオキサイド基(-OC(=O)O-)、スルホニル基(-SO2-)、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子のいずれかを示す。
【0034】
上記式(5)のRaにおけるアルキル基は、直鎖もしくは分枝の鎖状構造、及び、環状構造(例えばシクロアルキル基等)のいずれを有していてもよい。
また、上記式(5)におけるアルキル基及びRaにおけるアリール基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシル基、又はシアノ基等で置換されていてもよい。
アルキル基の具体例としては、以下に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-エチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
アリール基の具体例としては、以下に限定されないが、フェニル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、フェノキシフェニル基、エチルフェニル基、o-,m-又はp-フルオロフェニル基、ジクロロフェニル基、ジシアノフェニル基、トリフルオロフェニル基、メトキシフェニル基、及びo-,m-又はp-トリル基等が挙げられる。
アルコキシル基としては、以下に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、及びtert-ブトキシ基が挙げられる。
上記式(5)のXにおける炭素数1~50の2価の有機基の具体例としては、以下に限定されないが、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、ジメチルメチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、トリメチルシクロヘキシレン基、ビフェニルイルメチレン基、ジメチルメチレン-フェニレン-ジメチルメチレン基、フルオレンジイル基、及びフタリドジイル基等が挙げられる。該2価の有機基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシル基、シアノ基等で置換されていてもよい。
上記式(5)のXにおける窒素数1~10の2価の有機基の例としては、以下に限定されないが、-N-R-N-で表される基、イミノ基、ポリイミド基等が挙げられる。
【0035】
また、上記式(5)中のXの有機基として、以下に限定されないが、例えば、下記式(6)又は下記式(7)で表される構造であるものが挙げられる。
【0036】
【化14】
(上記式(6)中、Ar
2は芳香環を示し、uが2以上の場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。上記芳香環としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基及びビフェニルテトライル基が挙げられる。Rb、Rc、Rf、及びRgは各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、トリフルオロメチル基、又はフェノール性ヒドロキシ基を少なくとも1個有するアリール基を示す。Rd及び、Reは各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシル基、又はヒドロキシ基のいずれか一種から選択される。uは0~5の整数を示す。)
【0037】
【化15】
(式(7)中、Ar
3はフェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基を示し、vが2以上の場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。Ri、及びRjは各々独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、ベンジル基、炭素数1~4のアルコキシル基、ヒドロキシ基、トリフルオロメチル基、又はシアナト基が少なくとも1個置換されたアリール基を示す。vは0~5の整数を示すが、シアン酸エステル化合物(A)は、vが異なる化合物の混合物であってもよい。)
【0038】
さらに、式(5)中のXとしては、以下に限定されないが、例えば、下記式で表される2価の基が挙げられる。
【0039】
【化16】
(上記式中、zは4~7の整数を示す。Rkは各々独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0040】
式(6)のAr2及び式(7)のAr3の具体例としては、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、2,4’-ビフェニレン基、2,2’-ビフェニレン基、2,3’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、3,4’-ビフェニレン基、2,6-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、1,6-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、1,3-ナフチレン基、1,4-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基が挙げられる。
式(6)のRb、Rc、Rd、Re、Rf及びRg、並びに式(7)のRi、Rjにおけるアルキル基及びアリール基は、上記式(5)のRaにおけるアルキル基及びアリール基と同義である。
【0041】
上記式(5)で表されるシアン酸エステル化合物の具体例としては、以下に限定されないが、シアナトベンゼン、1-シアナト-2-,1-シアナト-3-,又は1-シアナト-4-メチルベンゼン、1-シアナト-2-,1-シアナト-3-,又は1-シアナト-4-メトキシベンゼン、1-シアナト-2,3-,1-シアナト-2,4-,1-シアナト-2,5-,1-シアナト-2,6-,1-シアナト-3,4-又は1-シアナト-3,5-ジメチルベンゼン、シアナトエチルベンゼン、シアナトブチルベンゼン、シアナトオクチルベンゼン、シアナトノニルベンゼン、2-(4-シアナフェニル)-2-フェニルプロパン(4-α-クミルフェノールのシアネート)、1-シアナト-4-シクロヘキシルベンゼン、1-シアナト-4-ビニルベンゼン、1-シアナト-2-又は1-シアナト-3-クロロベンゼン、1-シアナト-2,6-ジクロロベンゼン、1-シアナト-2-メチル-3-クロロベンゼン、シアナトニトロベンゼン、1-シアナト-4-ニトロ-2-エチルベンゼン、1-シアナト-2-メトキシ-4-アリルベンゼン(オイゲノールのシアネート)、メチル(4-シアナトフェニル)スルフィド、1-シアナト-3-トリフルオロメチルベンゼン、4-シアナトビフェニル、1-シアナト-2-又は1-シアナト-4-アセチルベンゼン、4-シアナトベンズアルデヒド、4-シアナト安息香酸メチルエステル、4-シアナト安息香酸フェニルエステル、1-シアナト-4-アセトアミノベンゼン、4-シアナトベンゾフェノン、1-シアナト-2,6-ジ-tert-ブチルベンゼン、1,2-ジシアナトベンゼン、1,3-ジシアナトベンゼン、1,4-ジシアナトベンゼン、1,4-ジシアナト-2-tert-ブチルベンゼン、1,4-ジシアナト-2,4-ジメチルベンゼン、1,4-ジシアナト-2,3,4-ジメチルベンゼン、1,3-ジシアナト-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3-ジシアナト-5-メチルベンゼン、1-シアナト又は2-シアナトナフタレン、1-シアナト4-メトキシナフタレン、2-シアナト-6-メチルナフタレン、2-シアナト-7-メトキシナフタレン、2,2’-ジシアナト-1,1’-ビナフチル、1,3-,1,4-,1,5-,1,6-,1,7-,2,3-,2,6-又は2,7-ジシアナトシナフタレン、2,2’-又は4,4’-ジシアナトビフェニル、4,4’-ジシアナトオクタフルオロビフェニル、2,4’-又は4,4’-ジシアナトジフェニルメタン、ビス(4-シアナト-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-シアナト-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-シアナト-5-ビフェニルイル)プロパン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-シアナト-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)イソブタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)-2,2-ジメチルプロパン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-3,3-ジメチルブタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)ヘキサン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)オクタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2-メチルペンタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2-メチルヘキサン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2,2-ジメチルペンタン、4,4-ビス(4-シアナトフェニル)-3-メチルヘプタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2-メチルヘプタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2,2-ジメチルヘキサン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2,4-ジメチルヘキサン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2,2,4-トリメチルペンタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-シアナトフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-シアナトフェニル)ビフェニルメタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-シアナト-3-イソプロピルフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-シアナトフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-シアナトフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-シアナトフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、1,3-ビス[2-(4-シアナトフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-シアナトフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4-[ビス(4-シアナトフェニル)メチル]ビフェニル、4,4-ジシアナトベンゾフェノン、1,3-ビス(4-シアナトフェニル)-2-プロペン-1-オン、ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、ビス(4-シアナトフェニル)スルフィド、ビス(4-シアナトフェニル)スルホン、4-シアナト安息香酸-4-シアナトフェニルエステル(4-シアナトフェニル-4-シアナトベンゾエート)、ビス-(4-シアナトフェニル)カーボネート、1,3-ビス(4-シアナトフェニル)アダマンタン、1,3-ビス(4-シアナトフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、3,3-ビス(4-シアナトフェニル)イソベンゾフラン-1(3H)-オン(フェノールフタレインのシアネート)、3,3-ビス(4-シアナト-3-メチルフェニル)イソベンゾフラン-1(3H)-オン(o-クレゾールフタレインのシアネート)、9,9’-ビス(4-シアナトフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-シアナト-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-シアナト-5-ビフェニルイル)フルオレン、トリス(4-シアナトフェニル)メタン、1,1,1-トリス(4-シアナトフェニル)エタン、1,1,3-トリス(4-シアナトフェニル)プロパン、α,α,α’-トリス(4-シアナトフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、1,1,2,2-テトラキス(4-シアナトフェニル)エタン、テトラキス(4-シアナトフェニル)メタン、2,4,6-トリス(N-メチル-4-シアナトアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(N-メチル-4-シアナトアニリノ)-6-(N-メチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ビス(N-4-シアナト-2-メチルフェニル)-4,4’-オキシジフタルイミド、ビス(N-3-シアナト-4-メチルフェニル)-4,4’-オキシジフタルイミド、ビス(N-4-シアナトフェニル)-4,4’-オキシジフタルイミド、ビス(N-4-シアナト-2-メチルフェニル)-4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタルイミド、トリス(3,5-ジメチル-4-シアナトベンジル)イソシアヌレート、2-フェニル-3,3-ビス(4-シアナトフェニル)フタルイミジン、2-(4-メチルフェニル)-3,3-ビス(4-シアナトフェニル)フタルイミジン、2-フェニル-3,3-ビス(4-シアナト-3-メチルフェニル)フタルイミジン、1-メチル-3,3-ビス(4-シアナトフェニル)インドリン-2-オン、及び、2-フェニル-3,3-ビス(4-シアナトフェニル)インドリン-2-オンが挙げられる。
【0042】
また、上記式(5)で表される化合物の別の具体例としては、以下に限定されないが、フェノールノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂(公知の方法により、フェノール、アルキル置換フェノール又はハロゲン置換フェノールと、ホルマリンやパラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド化合物とを、酸性溶液中で反応させたもの)、トリスフェノールノボラック樹脂(ヒドロキシベンズアルデヒドとフェノールとを酸性触媒の存在下に反応させたもの)、フルオレンノボラック樹脂(フルオレノン化合物と9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類を酸性触媒の存在下に反応させたもの)、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂及びビフェニルアラルキル樹脂(公知の方法により、Ar’-(CH2Y)2(Ar’はフェニル基を示し、Yはハロゲン原子を示す。以下、この段落において同様。)で表されるようなビスハロゲノメチル化合物とフェノール化合物とを酸性触媒若しくは無触媒で反応させたもの、Ar’-(CH2OR)2で表されるようなビス(アルコキシメチル)化合物とフェノール化合物とを酸性触媒の存在下に反応させたもの、又は、Ar’-(CH2OH)2で表されるようなビス(ヒドロキシメチル)化合物とフェノール化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの、あるいは、芳香族アルデヒド化合物とアラルキル化合物とフェノール化合物とを重縮合させたもの)、フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂(公知の方法により、キシレンホルムアルデヒド樹脂とフェノール化合物とを酸性触媒の存在下に反応させたもの)、変性ナフタレンホルムアルデヒド樹脂(公知の方法により、ナフタレンホルムアルデヒド樹脂とヒドロキシ置換芳香族化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの)、フェノール変性ジシクロペンタジエン樹脂、ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂(公知の方法により、フェノール性ヒドロキシ基を1分子中に2つ以上有する多価ヒドロキシナフタレン化合物を、塩基性触媒の存在下に脱水縮合させたもの)等のフェノール樹脂を、上述と同様の方法によりシアネート化したもの等、並びにこれらのプレポリマー等が挙げられる。
【0043】
また、シアン酸エステル化合物(A)の例としては、下記式(8)で表されるものも挙げられる。
【化17】
(式(8)中、Ar
4は芳香環を表し、複数ある場合は互いに同一であっても異なっていてもよい。R
1は各々独立にメチレン基、メチレンオキシ基、メチレンオキシメチレン基又はオキシメチレン基を表し、これらが連結していてもよい。R
2は一価の置換基を表し、各々独立に水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R
3は各々独立に水素原子、炭素数が1~3のアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチレン基を表し、mは1以上の整数を表し、nは0以上の整数を表す。シアン酸エステル化合物(A)は、m及びnが異なる化合物の混合物であってもよい。各繰り返し単位の配列は任意である。lはシアナト基の結合個数を表し、1~3の整数である。xはR
2の結合個数を表し、Ar
4の置換可能基数から(l+2)を引いた数を表す。yはR
3の結合個数を表し、Ar
4の置換可能基数から2を引いた数を表す。)
【0044】
上記式(8)におけるAr4としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が例示されるが、これらに特に限定されない。
式(8)のR2及びR3におけるアルキル基は、直鎖若しくは分枝の鎖状構造、及び、環状構造(例えばシクロアルキル基等)の何れを有していてもよい。
また、式(8)のR2及びR3におけるアリール基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシ基、シアノ基等で置換されていてもよい。
前記アルキル基の具体例としては、以下に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-エチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
前記アリール基の具体例としては、フェニル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、フェノキシフェニル基、エチルフェニル基、o-,m-又はp-フルオロフェニル基、ジクロロフェニル基、ジシアノフェニル基、トリフルオロフェニル基、メトキシフェニル基、o-,m-又はp-トリル基等が挙げられる。更にアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
【0045】
式(8)で表されるシアン酸エステル化合物の具体例としては、フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂(公知の方法により、キシレンホルムアルデヒド樹脂とフェノール化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの)、変性ナフタレンホルムアルデヒド樹脂(公知の方法により、ナフタレンホルムアルデヒド樹脂とヒドロキシ置換芳香族化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの)等のフェノール樹脂を後述と同様の方法によりシアネート化したもの等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのシアン酸エステル化合物は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
上記したシアン酸エステル化合物(A)は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
上記した中でも、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフチレンエーテル型シアン酸エステル化合物、キシレン樹脂型シアン酸エステル化合物、アダマンタン骨格型シアン酸エステル化合物が好ましく、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物が特に好ましい。
【0048】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば、公知のものを適宜使用することができ、その種類は特に限定されない。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、キサンテン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ブタジエンなどの二重結合をエポキシ化した化合物、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂のなかでは、難燃性、耐熱性の観点から、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が好ましい。また、より熱伝導性を高める観点から、本実施形態の樹脂組成物は、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂及びイソシアヌル酸型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。前記ナフタレン型エポキシ樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、DIC株式会社製、商品名HP-4710、商品名HP-4700、商品名HP-4032D等が挙げられる。前記ビフェニル型エポキシ樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、三菱ケミカル株式会社製、商品名YX4000、商品名YL6121H、商品名YX7399等が挙げられる。前記トリフェニルメタン型エポキシ樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、日本化薬株式会社製、商品名EPPN-501H、商品名EPPN-501HY、商品名EPPN-502H等が挙げられる。前記イソシアヌル酸型エポキシ樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、日産化学工業株式会社製、商品名TEPIC-S、商品名TEPIC-VL等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
(マレイミド化合物)
マレイミド化合物としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば、一般に公知のものを使用できる。例えば、4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル)プロパン、3,3-ジメチル-5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ポリフェニルメタンマレイミド、ノボラック型マレイミド、ビフェニルアラルキル型マレイミド、及びこれらマレイミド化合物のプレポリマー、もしくはマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマー等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのマレイミド化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。この中でも、ノボラック型マレイミド化合物、ビフェニルアラルキル型マレイミド化合物が特に好ましい。
【0050】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂としては、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有するフェノール樹脂であれば、一般に公知のものを使用できる。その具体例としては、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールE型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ビスフェノールS型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック型フェノール樹脂、グリシジルエステル型フェノール樹脂、アラルキルノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、ナフトール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、多官能ナフトール樹脂、アントラセン型フェノール樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、ポリオール型フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、水酸基含有シリコーン樹脂類等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのフェノール樹脂の中では、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、水酸基含有シリコーン樹脂が難燃性の点で好ましい。これらのフェノール樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
(オキセタン樹脂)
オキセタン樹脂としては、一般に公知のものを使用できる。例えば、オキセタン、2-メチルオキセタン、2,2-ジメチルオキセタン、3-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキセタン等のアルキルオキセタン、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン、3,3-ジ(トリフルオロメチル)パーフルオキセタン、2-クロロメチルオキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、ビフェニル型オキセタン、OXT-101(東亞合成製商品名)、OXT-121(東亞合成製商品名)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのオキセタン樹脂は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0052】
(ベンゾオキサジン化合物)
ベンゾオキサジン化合物としては、1分子中に2個以上のジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物であれば、一般に公知のものを用いることができる。例えば、ビスフェノールA型ベンゾオキサジンBA-BXZ(小西化学製商品名)、ビスフェノールF型ベンゾオキサジンBF-BXZ(小西化学製商品名)、ビスフェノールS型ベンゾオキサジンBS-BXZ(小西化学製商品名)、P-d型ベンゾオキサジン(四国化成工業製商品名)、F-a型ベンゾオキサジン(四国化成工業製商品名)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのベンゾオキサジン化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0053】
(重合可能な不飽和基を有する化合物)
重合可能な不飽和基を有する化合物としては、一般に公知のものを使用できる。例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物、メチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価又は多価アルコールの(メタ)アクリレート類、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類、及びベンゾシクロブテン樹脂、が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの不飽和基を有する化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。なお、上記「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートを包含する概念である。
【0054】
(充填材)
本実施形態の樹脂組成物は、熱膨張特性、寸法安定性、難燃性、熱伝導率、誘電特性などの観点から、充填材を含有することが好ましい。本実施形態における充填材は、より良好な熱伝導性を得る観点から、熱伝導率が3W/(m・K)以上であることがより好ましい。本実施形態において、充填材の熱伝導率は、5W/(m・K)以上であることがより好ましく、10W/(m・K)以上であることがさらに好ましく、15W/(m・K)以上であることがよりさらに好ましく、20W/(m・K)以上であることが一層好ましく、25W/(m・K)以上であることがより一層好ましく、30W/(m・K)以上であることがとりわけ好ましい。
本実施形態で用いられる充填材の熱伝導率としては、日本熱物性学会編「熱物性ハンドブック」等を参照して確認することができ、当該充填材の熱伝導率として既知の値を採用することができる。本実施形態において、樹脂組成物に含まれる充填材の全量に対して50質量%以上の充填材が3W/(m・K)以上の熱伝導率を有していることが好ましく、75質量%以上の充填材が3W/(m・K)以上の熱伝導率を有していることがより好ましい。
上述した充填材としては、公知のものを適宜使用することができ、3W/(m・K)以上の熱伝導率を有している充填材についても、3W/(m・K)未満の熱伝導率を有する充填材についても、種類は特に限定されない。特に、積層板用途において一般に使用されている充填材を、充填材として好適に用いることができる。充填材の具体例としては、天然シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、中空シリカ等のシリカ類、ホワイトカーボン、チタンホワイト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム等の酸化物、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水和物、酸化モリブデンやモリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、アルミナ、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、E-ガラス、A-ガラス、NE-ガラス、C-ガラス、L-ガラス、D-ガラス、S-ガラス、M-ガラスG20、ガラス短繊維(Eガラス、Tガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等のガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラスなど無機系の充填材の他、スチレン型、ブタジエン型、アクリル型などのゴムパウダー、コアシェル型のゴムパウダー、並びにシリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、シリコーン複合パウダーなど有機系の充填材などが挙げられる。充填材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上述した中でも、結晶シリカ、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ベーマイト及びアルミナが好ましく、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素が特に好ましい。これらの充填材を使用することで、樹脂組成物の熱伝導性がより向上する傾向にある。
本実施形態において、組成物中における充填材の充填量は、特に限定されないが、より優れた熱伝導性を与える観点から、40vol%以上が好ましく、50vol%以上がより好ましく、60vol%以上がさらに好ましく、70vol%以上がよりさらに好ましい。また、上記充填量は、成形性の観点から、90vol%以下が好ましく、より好ましくは85vol%以下である。
【0055】
ここで充填材を樹脂組成物に含有させるにあたり、シランカップリング剤や湿潤分散剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に用いられるものを好適に用いることができ、その種類は特に限定されない。シランカップリング剤として、具体的には、以下に限定されないが、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、 N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、[3-(6-アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)-プロピル]トリメトキシシランなどのアミノシラン系、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、[8-(グリシジルオキシ)-n-オクチル]トリメトキシシランなどのエポキシシラン系、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリメトキシ(7-オクテン-1-イル)シラン、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シランなどのビニルシラン系、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシランなどのメタクリルシラン系、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアクリルシラン系、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン系、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレートシラン系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプトシラン系、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのウレイドシラン系、p-スチリルトリメトキシシランなどのスチリルシラン系、N-[2-(N-ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]コハク酸無水物などの酸無水物系、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、p-トリルトリメトキシシランなどのフェニルシラン系、及びトリメトキシ(1-ナフチル)シランなどのアリールシラン系が挙げられる。シランカップリング剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、湿潤分散剤としては、一般に塗料用に用いられているものを好適に用いることができ、その種類は特に限定されない。湿潤分散剤としては、好ましくは、共重合体ベースの湿潤分散剤が用いられ、市販品であってもよい。市販品の具体例としては、以下に限定されないが、ビックケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk-110、111、161、180、BYK-W996、BYK-W9010、BYK-W903、BYK-W940などが挙げられる。湿潤分散剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
(硬化促進剤)
また、本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、硬化速度を適宜調節するための硬化促進剤を含有していてもよい。この硬化促進剤としては、シアン酸エステル化合物やエポキシ樹脂等の硬化促進剤として一般に使用されているものを好適に用いることができ、その種類は特に限定されない。硬化促進剤の具体例としては、以下に限定されないが、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄、オクチル酸ニッケル、オクチル酸マンガン等の有機金属塩類、フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のフェノール化合物、1-ブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類及びこれらのイミダゾール類のカルボン酸若しくはその酸無水類の付加体等の誘導体、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等のアミン類、ホスフィン系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホニウム塩系化合物、ダイホスフィン系化合物等のリン化合物、エポキシ-イミダゾールアダクト系化合物、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシカーボネート等の過酸化物、又はアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。硬化促進剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
(他の添加剤)
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、所期の特性が損なわれない範囲において、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類などの種々の高分子化合物、難燃性化合物、並びに各種添加剤等を併用することができる。これらは一般に使用されているものであれば、特に限定されるものではない。難燃性化合物の具体例としては、以下に限定されないが、4,4’-ジブロモビフェニル等の臭素化合物、リン酸エステル、リン酸メラミン、リン含有エポキシ樹脂、メラミン及びベンゾグアナミンなどの窒素化合物、オキサジン環含有化合物、並びに、シリコーン系化合物等が挙げられる。また、各種添加剤としては、以下に限定されないが、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、流動調整剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等が挙げられる。これらは、所望に応じて1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
(有機溶剤)
なお、本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、有機溶剤を含有することができる。この場合、本実施形態の樹脂組成物は、上述した各種樹脂成分の少なくとも一部、好ましくは全部が有機溶剤に溶解又は相溶した態様(溶液又はワニス)として用いることができる。有機溶剤としては、上述した各種樹脂成分の少なくとも一部、好ましくは全部を溶解又は相溶可能なものであれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されるものではない。有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の脂環式ケトン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶媒、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、メトキシプロピオン酸メチル、ヒドロキシイソ酪酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類などの極性溶剤類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等の無極性溶剤が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物は、常法にしたがって調製することができ、本実施形態のシアン酸エステル化合物、及び上述したその他の任意成分を均一に含有する樹脂組成物が得られる方法であれば、その調製方法は特に限定されない。例えば、本実施形態のシアン酸エステル化合物、及び上述したその他の任意成分を溶剤に順次配合し、十分に撹拌することで本実施形態の樹脂組成物を容易に調製することができる。
【0060】
なお、樹脂組成物の調製時に、各成分を均一に溶解或いは分散させるための公知の処理(撹拌、混合、混練処理など)を行うことができる。例えば、充填材の均一分散にあたり、適切な撹拌能力を有する撹拌機を付設した撹拌槽を用いて撹拌分散処理を行うことで、樹脂組成物に対する分散性が高められる。上記の撹拌、混合、混練処理は、例えば、ボールミル、ビーズミルなどの混合を目的とした装置、または、公転・自転型の混合装置などの公知の装置を用いて適宜行うことができる。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物は、上述したように、特に熱伝導性に優れているため、シート状成形体への用途に供することがとりわけ好ましい。
【0062】
〔硬化物〕
本実施形態の硬化物は、本実施形態の樹脂組成物を硬化させてなるものである。硬化物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を溶融又は溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、熱や光などを用いて通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、特に限定されないが、硬化が効率的に進み、かつ得られる硬化物の劣化を防止する観点から、120℃から300℃の範囲内が好ましい。光硬化の場合、光の波長領域は、特に限定されないが、光重合開始剤等により効率的に硬化が進む100nmから500nmの範囲で硬化させることが好ましい。
【0063】
本実施形態の樹脂組成物は、プリプレグ、単層樹脂シート、積層樹脂シート、金属箔張積層板、プリント配線板、及び半導体パッケージの構成材料として用いることができる。例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を基材に含浸又は塗布し乾燥することでプリプレグを得ることができる。
また、支持体として剥離可能なプラスチックフィルムを用い、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、そのプラスチックフィルムに塗布し乾燥することでビルドアップ用フィルム又はドライフィルムソルダーレジストを得ることができる。ここで、溶剤は、20℃~150℃の温度で1~90分間乾燥することで除去することができる。
また、本実施形態の樹脂組成物は溶剤を除去した状態(未硬化の状態)で使用することもできるし、必要に応じて半硬化(Bステージ化)の状態にして使用することもできる。
【0064】
〔樹脂シート〕
本実施形態の積層樹脂シートは、支持体と、該支持体の片面又は両面に配された上記樹脂組成物と、を有する。積層樹脂シートの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、上記の本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を支持体に塗布し乾燥することで得ることができる。
【0065】
ここで用いる支持体としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム、ポリイミドフィルム等の有機系のフィルム基材、銅箔、アルミ箔等の導体箔、ガラス板、SUS板、FRP等の板状のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0066】
塗布方法としては、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等で支持体上に塗布する方法が挙げられる。
【0067】
また、本実施形態の単層樹脂シートは、上記樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。単層樹脂シートの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、上記積層樹脂シートの製法において、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を支持体上に塗布して乾燥させた後に、積層樹脂シートから支持体を剥離又はエッチングする方法が挙げられる。なお、上記の本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、支持体を用いることなく単層樹脂シート(樹脂シート)を得ることもできる。
【0068】
なお、本実施形態の単層樹脂シート又は積層樹脂シートの作製において、溶剤を除去する際の乾燥条件は、特に限定されないが、低温であると樹脂組成物中に溶剤が残り易く、高温であると樹脂組成物の硬化が進行することから、20℃~170℃の温度で1~90分間が好ましい。
【0069】
また、本実施形態の単層或いは積層シートの樹脂層の厚みは、本実施形態の樹脂組成物の溶液の濃度と塗布厚みにより調整することができ、特に限定されないが、一般的には塗布厚みが厚くなると乾燥時に溶剤が残り易くなることから、0.1~500μmが好ましい。
【0070】
以下、本実施形態のプリプレグについて詳述する。本実施形態のプリプレグは、基材と、該基材に含浸又は塗布された上記樹脂組成物とを有するものである。本実施形態のプリプレグの製造方法は、本実施形態の樹脂組成物と基材とを組み合わせてプリプレグを製造する方法であれば、特に限定されない。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を基材に含浸又は塗布させた後、120~220℃の乾燥機中で、2~15分程度乾燥させる方法等によって半硬化させることで、本実施形態のプリプレグを製造することができる。このとき、基材に対する樹脂組成物の付着量、すなわち半硬化後のプリプレグの総量に対する樹脂組成物の含有量(充填材を含む。)は、20~99質量%の範囲であることが好ましい。
【0071】
本実施形態のプリプレグを製造する際に用いられる基材としては、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものであってもよい。そのような基材としては、例えば、ガラス繊維、クォーツ等のガラス以外の無機繊維、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等の有機繊維、液晶ポリエステル等の織布が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。基材の形状としては、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、及びサーフェシングマット等が知られており、これらのいずれであってもよい。基材は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。織布の中では、特に超開繊処理や目詰め処理を施した織布が、寸法安定性の観点から好適である。さらに、液晶ポリエステル織布は、電気特性の面から好ましい。さらに、基材の厚さは、特に限定されないが、積層板用途であれば、0.01~0.2mmの範囲が好ましい。
【0072】
本実施形態の金属箔張積層板は、本実施形態の単層樹脂シート、本実施形態の積層樹脂シート、及び、本実施形態のプリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種と、前記単層樹脂シート、前記積層樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種の片面又は両面に配された金属箔と、を有し、前記単層樹脂シート、前記積層樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選ばれる少なくとも1種に含まれる樹脂組成物の硬化物を含むものである。プリプレグを用いる場合の具体例としては、前述のプリプレグ1枚に対して、又はプリプレグを複数枚重ねたものに対して、その片面又は両面に銅やアルミニウムなどの金属箔を配置して、積層成形することにより作製することができる。ここで用いられる金属箔は、プリント配線板材料に用いられているものであれば、特に限定されないが、圧延銅箔及び電解銅箔等の銅箔が好ましい。また、金属箔の厚さは、特に限定されないが、2~70μmであると好ましく、3~35μmであるとより好ましい。成形条件としては、通常のプリント配線板用積層板及び多層板の作製時に用いられる手法を採用できる。例えば、多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、又はオートクレーブ成形機などを用い、温度180~350℃、加熱時間100~300分、面圧20~100kg/cm2の条件で積層成形することにより本実施形態の金属箔張積層板を製造することができる。また、上記のプリプレグと、別途作製した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板を作製することもできる。多層板の製造方法としては、例えば、上述したプリプレグ1枚の両面に35μmの銅箔を配置し、上記条件にて積層形成した後、内層回路を形成し、この回路に黒化処理を実施して内層回路板を形成する。さらに、この内層回路板と上記のプリプレグとを交互に1枚ずつ配置し、さらに最外層に銅箔を配置して、上記条件にて好ましくは真空下で積層成形する。こうして、多層板を作製することができる。
【0073】
本実施形態の金属箔張積層板は、更にパターン形成することにより、プリント配線板として好適に用いることができる。プリント配線板は、常法に従って製造することができ、その製造方法は特に限定されない。以下、プリント配線板の製造方法の一例を示す。まず、上述した金属箔張積層板を用意する。次に、金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路を形成することにより、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を施し、次いで、その内層回路表面に上述したプリプレグを所要枚数重ねる。さらに、その外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成する。さらに、外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成することで、プリント配線板が製造される。
【0074】
上記の製造例で得られるプリント配線板は、絶縁層と、この絶縁層の片面又は両面に形成された導体層とを有し、絶縁層が上述した本実施形態の樹脂組成物を含む構成となる。例えば、上述した本実施形態のプリプレグ(基材及びこれに含浸又は塗布された本実施形態の樹脂組成物)、上述した本実施形態の金属箔張積層板の樹脂組成物の層(本実施形態の樹脂組成物からなる層)が、本実施形態の樹脂組成物を含む絶縁層を構成するものとすることができる。
【0075】
〔封止用材料〕
本実施形態の封止用材料は、本実施形態の樹脂組成物を含む。封止用材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、封止材料用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで封止用材料を製造することができる。なお、混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【0076】
〔繊維強化複合材料〕
本実施形態の繊維強化複合材料は、本実施形態の樹脂組成物と、強化繊維とを含む。強化繊維としては、一般的に公知のものを用いることができ、特に限定されない。その具体例としては、Eガラス、Dガラス、Lガラス、Sガラス、Tガラス、Qガラス、UNガラス、NEガラス、球状ガラス等のガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維などが挙げられる。強化繊維の形態や配列については、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。また、強化繊維の形態としてプリフォーム(強化繊維からなる織物基布を積層したもの、又はこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物や編組物などの繊維構造物)を適用することもできる。
【0077】
これら繊維強化複合材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。その具体例としては、リキッド・コンポジット・モールディング法、レジン・フィルム・インフュージョン法、フィラメント・ワインディング法、ハンド・レイアップ法、プルトルージョン法等が挙げられる。このなかでも、リキッド・コンポジット・モールディング法の一つであるレジン・トランスファー・モールディング法は、金属板、フォームコア、ハニカムコア等、プリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができることから、種々の用途に対応可能であるため、比較的、形状が複雑な複合材料を短時間で大量生産する場合に好ましく用いられる。
【0078】
〔接着剤〕
本実施形態の接着剤は、本実施形態の樹脂組成物を含む。接着剤の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、接着剤用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで接着剤を製造することができる。なお、混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]シクロヘキサン環含有骨格シアン酸エステル化合物(以下、EsBp-CNと略記する。)の合成
下記式(3)で表されるEsBp-CNを後述のようにして合成した。
【化18】
【0081】
<シクロヘキサン環含有骨格ビスフェノール(以下、「Ester-Bp」と略記する。)の合成>
まず、下記式(4-2)で表されるEster-Bpを下記の方法にて合成した。
【化19】
【0082】
アルゴン吹き込み口、ジムロート冷却管、ディーンスターク装置、温度計を備えた100mL四口フラスコに、アルゴン気流下にて4-ヒドロキシ安息香酸メチル62.0g(0.407mol)、4-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール78.3g(0.407mol)、ジブチルスズオキシド2.54g(10.2mmol)、o-ジクロロベンゼン310gを加えた。アルゴン気流下、内温147℃で還流させながら24時間加熱攪拌した。室温まで冷却後、反応液にメタノール10gを加え、析出した固体を吸引ろ過で回収した。回収した固体をメタノール40g、次いでイソプロパノール40gで洗浄した後、60℃で減圧乾燥し、白色固体を得た。
1H-NMR測定を行い、式(4-2)で表されるEster-Bpを確認した。
式(4-2)で表されるEster-Bpの
1H-NMRの帰属を以下に示す。
1H-NMRチャートを
図1に示す。
【0083】
1H-NMR(400MHz、DMSO-d6、内部標準テトラメチルシラン(TMS))δ(ppm):10.20(s、1H、-OH)、9.21(s、1H、-OH)、7.81(d、2H、ArH)、7.04(d、2H、ArH)、6.85(d、2H、ArH)、6.68(d、2H、ArH)、4.87(m、1H、-CH-)、2.48(m、1H、-CH-)、2.08(m、2H、-CH2-)、1.82(m、2H、-CH2-)、1.57(m、4H、-CH2-)
【0084】
<EsBp-CNの合成>
アルゴン吹き込み口、温度計を備えた5L四口フラスコに、アルゴン気流下にて上記方法で得られたEster-Bp110.5g(0.354mol)、テトラヒドロフラン3.3Lを加えた。更に臭化シアン104.9g(0.991mol)を添加した後、ドライアイス・アセトンバスで内温を-30℃に調整した。内温が-20℃を超えないようにトリエチルアミン107.4g(1.06mol)を10分かけて滴下し、-20℃で2時間攪拌した。室温まで昇温した後、反応溶液をろ過した。得られたろ液を減圧濃縮(30℃、20mmHg)した。得られた固体にヘキサン300mLを加えて、析出した固体をろ過で回収した。回収した固体をクロロホルム1Lに溶解し、2.5%食塩水1Lで3回、水1Lで1回洗浄した後、30℃で減圧濃縮した。得られた淡黄色オイルにヘキサン600mLを加え、懸濁攪拌した後、固体をろ過回収して減圧乾燥(40℃、<1mmHg)し、目的とするシアン酸エステル化合物EsBp-CN114.7gを得た。
1H-NMR測定を行い、式(3)で表されるEsBp-CNを確認した。
シアン酸エステル化合物EsBp-CNの
1H-NMRの帰属を以下に示す。
1H-NMRチャートを
図2に示す。
【0085】
1H-NMR(400MHz、DMSO-d6、内部標準TMS)δ(ppm):8.13(d、2H、ArH)、7.61(d、2H、ArH)、7.47(d、2H、ArH)、7.38(d、2H、ArH)、4.99(m、1H、-CH-)、2.67(m、1H、-CH-)、2.16(m、2H、-CH2-)、1.87(m、2H、-CH2-)、1.68(m、4H、-CH2-)
【0086】
<硬化性樹脂組成物の調製及び硬化物の作製>
[実施例2]
実施例1で得られたシアン酸エステル化合物EsBp-CN100質量部を加熱溶融して、硬化性樹脂組成物を得た。
得られた硬化性樹脂組成物を金型に充填し、真空熱プレス(220℃、90分間、プレス圧力3MPa)により硬化物を作製した。
【0087】
[実施例3]
実施例1で得られたシアン酸エステル化合物EsBp-CN100質量部とオクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商標ニッカオクチックス亜鉛、金属含有量18%)0.05質量部とを加熱溶融して、硬化性樹脂組成物を得た。
得られた硬化性樹脂組成物を金型に充填し、真空熱プレス(220℃、90分間、プレス圧力3MPa)により硬化物を作製した。
【0088】
[比較例1]
EsBp-CNを100質量部用いる代わりに、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン(三菱ガス化学株式会社製、TAと略記)を100質量部用いたこと以外は、実施例3と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
得られた硬化性樹脂組成物を金型に充填し、真空熱プレス(220℃、90分間、プレス圧力2MPa)により硬化物を作製した。
【0089】
[比較例2]
EsBp-CNを100質量部用いる代わりに、1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン(三菱ガス化学株式会社製、E-CNと略記)を100質量部用いた以外は、実施例3と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
得られた硬化性樹脂組成物を金型に充填し、真空熱プレス(220℃、90分間、プレス圧力2MPa)により硬化物を作製した。
【0090】
[比較例3]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、850-S)64.3質量部、フェノールノボラック樹脂(明和化成工業株式会社製、DL-92)35.7質量部、2-フェニルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)0.2質量部とを加熱溶融して、硬化性樹脂組成物を得た。
得られた硬化性樹脂組成物を金型に充填し、真空熱プレス(190℃、30分間、プレス圧力2MPa)により樹脂硬化物を作製した。
【0091】
<充填材含有硬化物の作製>
以下に充填材含有硬化物の作製に用いた充填材を示す。
AA-03:アルミナ粒子、住友化学株式会社製、熱伝導率30W/m・K
AA-3:アルミナ粒子、住友化学株式会社製、熱伝導率30W/m・K
AZ35-75:アルミナ粒子、新日鉄住金マテリアル株式会社マイクロンカンパニー製、熱伝導率30W/m・K
AZ10-75:アルミナ粒子、新日鉄住金マテリアル株式会社マイクロンカンパニー製、熱伝導率30W/m・K
【0092】
[実施例4]
実施例1で得られたシアン酸エステル化合物EsBp-CN100.0質量部、オクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商標ニッカオクチックス亜鉛、金属含有量18%)0.05質量部、アルミナ粒子(新日鉄住金マテリアル株式会社マイクロンカンパニー製、AZ35-75)191.6質量部、アルミナ粒子(新日鉄住金マテリアル株式会社マイクロンカンパニー製、AZ10-75)191.6質量部、アルミナ粒子(住友化学株式会社製、AA-03)95.8質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社、LS-2940)4.8質量部を混合し、メチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社、試薬特級)で希釈してワニスを作製した。
作製したワニスを、アプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP、厚さ18μm)粗面に塗工し、130℃で10分間乾燥してBステージ樹脂組成物付銅箔を得た。Bステージ樹脂組成物を銅箔から剥離し、乳鉢で粉砕した。得られた樹脂組成物粉末を金型に充填し、真空熱プレス(220℃、90分間、プレス圧力10MPa)により充填材含有硬化物(充填材65体積%含有)を得た。
【0093】
[実施例5]
実施例1で得られたシアン酸エステル化合物EsBp-CN100.0質量部、オクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商標ニッカオクチックス亜鉛、金属含有量18%)0.05質量部、アルミナ粒子(新日鉄住金マテリアル株式会社マイクロンカンパニー製、AZ35-75)156.0質量部、アルミナ粒子(新日鉄住金マテリアル株式会社マイクロンカンパニー製、AZ10-75)156.0質量部、アルミナ粒子(住友化学株式会社製、AA-03)78.0質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社、LS-2940)3.9質量部を混合し、メチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社、試薬特級)で希釈してワニスを作製した。
作製したワニスを、アプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP、厚さ18μm)粗面に塗工し、130℃で10分間乾燥してBステージ樹脂組成物付銅箔を得た。Bステージ樹脂組成物を銅箔から剥離し、乳鉢で粉砕した。得られた樹脂組成物粉末を金型に充填し、真空熱プレス(220℃、90分間、プレス圧力10MPa)により充填材含有硬化物(充填材55体積%含有)を得た。
【0094】
[比較例4]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、850-S)64.3質量部、フェノールノボラック樹脂(明和化成工業株式会社製、DL-92)35.7質量部、2-フェニルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)0.2質量部、アルミナ粒子(住友化学株式会社製、AA-3)400質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、LS-2940)4.0質量部を混合し、メチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)で希釈してワニスを作製した。
作製したワニスを、アプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP、厚さ18μm)粗面に塗工し、120℃で20分間乾燥してBステージ樹脂組成物付銅箔を得た。粗面が樹脂組成物に向くよう銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP、厚さ18μm)をBステージ樹脂組成物付銅箔に重ね、真空熱プレス(190℃、30分間、プレス圧力5MPa)により両面銅箔付硬化物を作製した。両面銅箔付硬化物から両面の銅箔を剥離し、充填材含有硬化物(充填材55体積%含有)を得た。
【0095】
[比較例5]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、850-S)64.3質量部、フェノールノボラック樹脂(明和化成工業株式会社製、DL-92)35.7質量部、2-フェニルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)0.2質量部、アルミナ粒子(住友化学株式会社製、AA-3)233.3質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、LS-2940)2.3質量部を混合し、メチルエチルケトン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)で希釈してワニスを作製した。
作製したワニスを、アプリケーターを用いて銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP、厚さ18μm)粗面に塗工し、120℃で20分間乾燥してBステージ樹脂組成物付銅箔を得た。粗面が樹脂組成物に向くよう銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-VLP、厚さ18μm)をBステージ樹脂組成物付銅箔に重ね、真空熱プレス(190℃、30分間、プレス圧力5MPa)により両面銅箔付硬化物を作製した。両面銅箔付硬化物から両面の銅箔を剥離し、充填材含有硬化物(充填材41体積%含有)を得た。
【0096】
<硬化物の評価>
上記のようにして得られた各硬化物について、熱伝導率の測定を行った。
【0097】
<硬化物の熱伝導率>
得られた硬化物の熱拡散係数は、1cm角の大きさに加工した硬化物をキセノンフラッシュ法熱拡散率測定装置(NETZSCH製、LFA447 NanoFlash)中の試料ホルダにセットし、25℃、大気中の条件下で測定を行うことによって求めた。
硬化物の比熱は、DSC(セイコーインスツル株式会社製、EXSTAR6000 DSC6220)を用い、JIS K7123(プラスチックの比熱容量測定方法)に従って求めた。
硬化物の密度は、水中置換法により、密度測定機(メトラー・トレド株式会社製、MS-DNY-43)を用いて求めた。
求めた熱拡散係数、比熱、密度から、硬化物の熱伝導率を下記式により求めた。
【0098】
式:λ=α・Cp・ρ
〔λ:熱伝導率(W/m・K)、α:熱拡散係数(m2/s)、Cp:比熱(J/g・K)、ρ:密度(kg/m3)〕
【0099】
また、上記実施例2、比較例3、及び比較例4で得られた充填材含有硬化物の熱伝導率から、充填材含有硬化物における樹脂部分の熱伝導率を、下式(9)を用いて換算して求めた。
式(9):1-φ=[(λc-λf)/(λm-λf)]×(λm/λc)1/3
〔φ:フィラーの体積充填率(体積%)、λc:充填材含有硬化物の熱伝導率(W/m・K)、λf:アルミナの熱伝導率(30W/m・K)、λm:充填材含有硬化物における樹脂部分の熱伝導率(W/m・K)〕
【0100】
測定結果を下記の表1及び表2に示す。なお、表1及び表2中、「-」の記載部分は該当する原料の配合がないことを意味する。
【0101】
【0102】
【0103】
表1及び表2からも明らかなように、本実施形態のシアン酸エステル化合物を含む硬化性樹脂組成物の硬化物は、従来品のシアン酸エステル化合物を用いたものに比して、優れた熱伝導性を有することが確認された。
また、表2からも明らかなように、本実施形態の樹脂組成物からなる充填材含有硬化物の熱伝導率から前述の換算により求められる樹脂部分の熱伝導率(実施例4及び実施例5)は、充填材を含まない樹脂硬化物の熱伝導率(実施例2及び実施例3)よりも高い値を示した。一方、汎用のエポキシ樹脂を用いた充填剤含有硬化物の熱伝導率から前述の換算により求められる樹脂部分の熱伝導率(比較例4及び比較例5)は、充填材を含まない樹脂硬化物の熱伝導(比較例3)と同等であった。以上の結果から、式(1)で表されるシアン酸エステル化合物は、充填材の存在下、熱伝導性がさらに向上することが証明された。
【0104】
本出願は、2018年4月12日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018-077026)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。