(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】画材組成物
(51)【国際特許分類】
A63H 33/00 20060101AFI20230703BHJP
G09B 19/10 20060101ALI20230703BHJP
C09D 5/06 20060101ALI20230703BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230703BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230703BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20230703BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A63H33/00 F
G09B19/10 D
A63H33/00 304Z
C09D5/06
C09D7/61
C09D7/63
C09D1/00
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2019121893
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2019062418
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】今井 英志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠人
【審査官】右田 純生
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-299132(JP,A)
【文献】特開2004-339463(JP,A)
【文献】特開2001-183972(JP,A)
【文献】特開2002-356366(JP,A)
【文献】特開2017-061677(JP,A)
【文献】特開平03-290473(JP,A)
【文献】特開昭50-108030(JP,A)
【文献】特開昭60-053983(JP,A)
【文献】特開2004-102163(JP,A)
【文献】特許第6485722(JP,B1)
【文献】国際公開第2003/067558(WO,A1)
【文献】特許第5170820(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 33/00
G09B 19/10
C09D 5/00- 5/46
C09D 7/00- 7/80
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画材組成物であって、少なくとも基材と溶剤と増粘剤を含む粘土基材に対して、剥離剤と保湿剤が添加されており、
前記溶剤が水であり、前記剥離剤が、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であってHLB10~20のもの、またはカゼインのアルカリ中和物のいずれか一方、または両方であることを特徴とする画材組成物。
【請求項2】
剥離剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、またはカゼインナトリウムのいずれか一方、または両方である請求項1に記載の画材組成物。
【請求項3】
保湿剤が、ソルビトールまたはソルビトールとグリセリンの混合物である請求項1または2に記載の画材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバスに対して指で貼り付けたり伸ばしたりして絵を描くことができる粘土状の新しい画材組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、キャンバスに絵を描くための画材として、油絵具、水彩絵具、クレヨン、色鉛筆、油性や水性ペン等、様々なものがある。また、これらは、幼児のお絵かきツールとして学校や家庭でも広く利用されている。
【0003】
しかしながら、従来の画材では手や服や、その他の周辺部が汚れることがあり、また幼児が使用する場合には、絵具等が付着した手で触れた部分が二次的に汚れるという問題もあった。また、絵具を除きクレヨンや色鉛筆等では、複数の色を混ぜて新しい色を発現させるということができないので、新しい色作りをしながらお絵かきをするという楽しみを味わうことはできなかった。
【0004】
一方、特許文献1に示されるように、着色性や発色性に優れた工作用粘土や、特許文献2に示されるように、彫塑用であるとともに紙等に押し付けることで立体的な絵を描くこともできる工作用粘土等、拡大された用途を有する粘土が提案されている。しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の工作用粘土では、手にベタツキ感を与えるため使い勝手が悪いという問題点や、キャンバスとなるポリプロピレン製の平板との密着性が弱いため絵の状態を保持することが難しいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-330445号公報
【文献】特許第5170820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決して、平滑性のある非吸収面であるキャンバスに対して指で貼り付けたり伸ばしたりして自由に絵を描くことができ、また、複数の色を混ぜ合わせることで新しい色を任意に作り出すことができ、更には、手や服や、その他の周辺部を汚すことがなく安心してお絵かきして遊ぶことができる粘土状の新しい画材組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の画材組成物は、少なくとも基材と溶剤と増粘剤を含む粘土基材に対して、剥離剤と保湿剤を添加したことを特徴とするものである。
【0008】
さらに、前記溶剤が水であり、前記剥離剤が、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であってHLB10~20のもの、またはカゼインのアルカリ中和物のいずれか一方、または両方であることを特徴とし、これを請求項1に係る発明とする。
【0009】
また、その他の好ましい実施形態によれば、剥離剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、またはカゼインナトリウムのいずれか一方、または両方であるのが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0010】
また、その他の好ましい実施形態によれば、保湿剤が、ソルビトールまたはソルビトールとグリセリンの混合物であるのが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、粘土状の画材組成物であって、少なくとも基材と溶剤と増粘剤を含む粘土基材に対して、剥離剤と保湿剤を添加したものとしたので、手にベタツクことをなくすのと、キャンバスとの密着性を向上して絵の状態を安定保持することの二つを達成するので、キャンバスに対して指で貼り付けたり伸ばしたりして自由に絵を描くことができる。また、固形の絵具であるため手や周辺を汚すことがなく、幼児が安心してお絵かきして遊ぶことができ、また複数の色を混ぜ合わせて新しい色を任意に作り出すことができるため楽しく遊ぶことができる。
【0012】
また、請求項1に係る発明では、前記剥離剤を、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であってHLB10~20のもの、またはカゼインのアルカリ中和物のいずれか一方、または両方としたので、離型効果を発揮して手にベタツクことをなくすことができる。
【0013】
また、請求項2に係る発明では、前記剥離剤を、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、またはカゼインナトリウムのいずれか一方、または両方としたので、優れた離型効果を発揮することができる。
【0014】
また、請求項3に係る発明では、前記保湿剤を、ソルビトールまたはソルビトールとグリセリンの混合物としたので、保湿効果を発揮してポリプロピレンからなる平板のキャンバスとの密着性を向上して絵の状態を安定して保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の画材でお絵かきする様子を示す説明図である。
【
図2】本発明の画材を指で貼り付ける様子を示す説明図である。
【
図3】本発明の画材で新色を作成する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明の画材組成物は、粘土状の組成物であって粘土基材に対して剥離剤と保湿剤を添加したものである。また、前記粘土基材は、少なくとも基材と溶剤と増粘剤を含むものである。
【0017】
前記粘土基材を構成する基材としては、従来から粘土の材料として公知の材料を挙げることができる。例えば、タルク、カオリン、珪藻土、ベントナイト、陶土、長石粉、珪石粉等の粘度鉱物、パルプ粉、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム/商品名:超微粒子(エスカロン)「#2300」、「#2000」、「#1500」、「#800」、「#200」、「#100」、汎用品A、特級、一級、特級#3、表面処理品SCPシリーズ「E-#2300」、「E-#2010」、「E-#810」、「E-#110」、「E-#45」、カルシーFシリーズ「#2000」、「#6402」、「#9860」/三共精粉株式会社)、砂状炭酸カルシウム/商品名:「Gシリーズ」/三共精粉株式会社、粒状炭酸カルシウム/商品名:「Kシリーズ」、「寒水砕石」/三共精粉株式会社など)、硫酸カルシウム(石膏)、リン酸カルシウム/商品名:「ヒドロキシアパタイト」、「球形HAP」、「HAP-100」、「HAP-200」、「β-TCP-100」、「α-TCP」、「TTPC」/太平化学産業株式会社など)、リン酸水素カルシウム等を挙げることができ、これらの基材から任意に選択することができる。また、単独で用いても、二種以上を混合して用いることが出来、画材組成物全体量に対し好ましくは、30~70重量%を用いることが出来る。
【0018】
溶剤としては、水を用いるが、水道水、蒸留水、精製水、純水、井戸水、軟水、硬水等、いずれでもよい。水は、粘土全体量に対し、好ましくは、10~90%重量%を用いることが出来る。
また、増粘剤としては、水溶性の高分子化合物を用いることができ、ポリアクリル酸ナトリウム/商品名:「アクアリック」/日本触媒株式会社など、カルボキシメチルセルロースナトリウム/商品名:「サンローズF1400MC」、「サンローズ F800HC」、「サンローズ F350HC」、「サンローズFJ08HC」/日本製紙株式会社など、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガム、アガロース、マンノース、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、グアガム、カラギーナン、ペクチン、ジュランガム、プルラン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の単体または混合物を用いることが出来、画材組成物全体量に対し、好ましくは1~30重量%を用いることが出来る。
【0019】
前記粘土基材に対して、剥離剤と保湿剤を添加する。
本発明は、キャンバスに対して指で貼り付けたり伸ばしたりして自由に絵を描くことができる新しい画材組成物を提供するものであるため、手へのベタツキ感をなくす必要があり、またキャンバスとなるポリプロピレン製の平板との密着性を確保する必要がある。そこで、本発明者はベタツキ感の低減と密着性の確保の両者を満足させることができる添加剤について研究した結果、特定の剥離剤と保湿剤とを併用して添加することで、両者を満足させることができることを見出した。
【0020】
前記保湿剤は、指で貼り付けたり伸ばしたりを自由に行うことができる粘土状の画材組成物とするために、一定の保湿効果と柔軟性を確保するために添加する成分である。具体的には保湿剤として、例えば、グリセリン/商品名:「精製グリセリン」、「食品添加物グリセリン」、「日本薬局方グリセリン」、「化粧品用濃グリセリン」、「化粧品用グリセリン」(坂本薬品工業株式会社))、ジグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール(商品名:「ソルビトールS」、「ソルビトールC」、「ソルビトールF」、「ソルビトールSG」、「ソルビトールSP」、「ソルビトールFP」、「ソルビトールFP 50M」、「ソルビトールFP 100M」、「ソルビトールTBS」、「ウエトン」(物産フードサイエンス株式会社))、エリスリトール(商品名:「エリスリトールF」、「エリスリトール50M」、「エリスリトール顆粒AR」(物産フードサイエンス))、マンニトール/商品名:「マンニトール」(株式会社 三菱商事フードテック株式会社)、トレハロース/商品名:「トレハロース」(株式会社 林原)、マルチトール/商品名:「マルチトール」(三菱フードテック株式会社)などが挙げられ、単独で用いても、二種以上を混合して用いることが出来、画材組成物全体量に対し好ましくは、1~30重量%を用いることが出来る。中でもソルビトールは、保湿効果が高く好ましい。また、ソルビトールとグリセリンを併用すると、保湿効果と柔軟性の確保ができる為、より好ましい。
【0021】
前記剥離剤は、指で貼り付けたり伸ばしたりして絵を描く際に、画材が手にベタベタと付着するのを防止するためと、キャンバスとの密着性を向上するために添加するものである。具体的には界面活性剤を用い、当該界面活性剤としては、特に多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物が好ましい。また、カゼインのアルカリ中和物も好ましく、いずれか一方、または両方を用いることができる。
【0022】
この界面活性剤のHLB値は、10~20の範囲が好ましく、最も好ましくは、10~17の範囲である。ここで、HLB値とは界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを表す数値であり、界面活性剤は疎水基部分の疎水性に対して、親水基の親水性が大きければ大きいほどHLB値が大きく、一般的に水に溶けやすい性質となり、逆の場合は水に溶けにくい性質となる。即ち、本発明ではHLB値が10以上の界面活性剤を用いることによって、画材の親水性が増加して画材の表面全体が薄い水の膜で覆われることとなり、手のベタツキを防止することができる。これと同時に、表面の薄い水の膜が分子間力でキャンバスとなる非吸収面であるポリプロピレン製の平板との密着性を確保することとなり、絵具が剥がれ落ちることを防止するものと考えられる。前記の分子間力は、平滑面同士を重ね合わせた際に、働きやすくなるところ、手の表面は、指紋により凹凸が存在する。また、手の表面にある角質層は、画材表面の水を吸収する。前記理由から、画材を手のひらで触っても、水による前記の分子間力が働きにくく、手と画材との間には、密着力が働かず、ベタツキが生じないことが考えられる。
特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、他の構造の界面活性剤と比較し、水への溶解性が高く、画材と画材に付着した水との界面張力を低下させる効果が高く、前記膜を薄く形成させることができる。分子間力は、水の膜厚が薄いほど強く働く傾向がある為、前記手へのベタツキ低減と、平板への密着効果が高いと考えられる。なお、平板はポリプロピレンに限定されることはなく、非吸収面で平滑なものであれば良い。例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの汎用プラスチックや、ソーダ石灰ガラス、硼珪酸ガラス、アルミ珪酸ガラス、珪酸ガラス、石英ガラスや、光学系ガラス、セラミック系ガラスなどのガラス類、撥水紙などの特殊用紙が考えられる。
【0023】
前記界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物が用いられ、中でも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、さらに環境や、安全性などの観点から、食品添加用のものが望ましい。具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル(デカグリセリンモノステアリン酸エステル/商品名:「SYグリスターMSW-7S」HLB=13.4/阪本薬品工業株式会社、デカグリセリントリステアリン酸エステル/商品名:「SYグリスターTS-7S」HLB=10.0/阪本薬品工業株式会社、デカグリセリンモノオレイン酸エステル/商品名:「SYスリスターMO-7S」HLB=12.9/阪本薬品工業株式会社、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル/商品名:「SYグリスターMCA-750」HLB=11.6/阪本薬品工業株式会社、デカグリセリンモノカプリル酸エステル/商品名:「SYグリスターMCA-750」HLB=16.1/阪本薬品工業株式会社、デカグリセリンモノミスチリン酸エステル/商品名:「SYグリスターMM-750」HLB=15.7/阪本薬品工業株式会社))、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ラウリン酸エステル/商品名:「リョートーシュガーエステル」HLB=16.0/三菱ケミカルフーズ株式会社、ショ糖ミリスチン酸エステル/商品名:「リョートーシュガーエステル」HLB=16.0/三菱ケミカルフーズ株式会社、ショ糖パルミチン酸エステル/商品名:「リョートーシュガーエステル」HLB=15.0/三菱ケミカルフーズ株式会社、ショ糖ステアリン酸エステル/商品名:「リョートーシュガーエステル」HLB=11.0/三菱ケミカルフーズ株式会社、ショ糖オレイン酸エステル/商品名:「リョートーシュガーエステル」HLB=15.0/三菱ケミカルフーズ株式会社))、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート/商品名:「エマゾール L-120V」/食品添加物用/HLB=16.7/花王株式会社、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート/商品名:「エマゾールS-120V」/食品添加物用/HLB=14.9/花王株式会社、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート/商品名:「エマゾールO-120V」/食品添加物用/HLB=15.0/花王株式会社、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート/商品名:「レオドール TW-O106V」HLB=10.0/花王株式会社、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート/商品名:「レオドール TW-P120」/HLB15.6/花王株式会社、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート/商品名:「レオドールTW-S120V」/ HLB14.9/花王株式会社、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート/商品名:「レオドール TW- S320V」/HLB10.5/花王株式会社)、等の1種または2種以上を用いることができ、その配合量は、画材組成物全体量に対し、好ましくは0.01~20重量%を用いることが出来る。
【0024】
前記カゼインのアルカリ中和物とは、カゼインを苛性ソーダ、炭酸ソーダなどのアルカリを加えて水溶液とし、噴霧乾燥機などを用いて乾燥・粉末としたもので、カゼインナトリウム/商品名:「カゼインナトリウムLW」/Arla・Foods・amba社、カゼインカルシウム/商品名:「Tatua130」・タツアジャパン株式会社、カゼインカリウム/商品名:「Tatua500」・タツアジャパン株式会社、カゼインマグネシウム/商品名:「Tatua600」・タツアジャパン株式会社等があり、特にカゼインナトリウムが好ましい。
カゼインのアルカリ中和物は水溶性であり、前記の多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物と同様に、粘土基材表面を親水化する作用がある。それによって、画材の親水性が増加して画材の表面全体が薄い水の膜で覆われることとなり、手のベタツキを防止することができる。これと同時に、表面の薄い水の膜が分子間力でキャンバスとなる非吸収面であるポリプロピレン製の平板との密着性を確保することとなり、絵具が剥がれ落ちることを防止するものと考えられる。
このため、カゼインナトリウムを画材組成物に添加することで手のベタツキ防止と基材への密着性の両方を達成することができる。カゼインの配合量は、画材組成物全体量に対し、好ましくは0.01~20重量%である。
【0025】
また、カゼインのアルカリ中和物と、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であってHLB10~20のものとを併用させて使用することも可能であり、併用することで界面膜の強度が増し、親水化の安定度が高くなる為、画材表面の水分乾燥性が抑制される。よって、前記の併用により、手へのベタツキの低減と平板への密着性向上効果の両立に加え、保湿性向上の効果を奏することとなる。
【0026】
その他に、食用の色素剤を添加して任意の色彩を有する画材とすることもできる。また、防腐剤や防カビ剤や抗菌剤を添加することもでき、更には、子供が好きなフルーツや食べ物の臭い成分を添加することもできる。
【0027】
本発明に用いられる色素としては、食用赤色2号(C.I.Number : C.I.16185、Color Index Name : Acid Red 27)、食用赤色3号(C.I.Number : C.I.45430、Color Index Name : Acid Red 51)、食用赤色40号(C.I.Number : C.I.16035、Color Index Name : Food Red 17)、食用赤色102号(C.I.Number : C.I.16255、Color Index Name : Acid Red 18)、食用赤色104号(C.I.Number : C.I.45410、Color Index Name : Acid Red 92)、食用赤色105号(C.I.Number : C.I.45440、Color Index Name : Acid Red 94)、食用赤色106号(C.I.Number : C.I.45100、Color Index Name : Acid Red 52)、食用黄色4号(C.I.Number : C.I.19140、Color Index Name : Acid Yellow 23)、食用黄色5号(C.I.Number : C.I.15985、Color Index Name : Food Yellow 3)、食用緑色3号(C.I.Number : C.I.42053、Color Index Name : Food Green 3)、食用青色1号(C.I.Number : C.I.42090、Color Index Name : Food Blue 2)、食用青色2号(C.I.Number : C.I.73015、Color Index Name : Acid Blue 74)などの食用染料色素や、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用緑色3号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキなどの食用顔料色素や、ベニコウジ色素(Monascus Color)、β-カロテン(beta-Carotene )、ラック色素(Laccaic Acid)、コチニール色素(Cochineal Extract)、パプリカ色素(Paprika Oleoresin)、ビートレッド(Beet Red)、アントシアニン色素(Anthocyanins)、クチナシ色素(Gardenia Extract)、ベニバナ色素(Carthamus Extract)、ウコン色素(Turmeric Oleoresin)、アナトー色素(Annatto Extracts)、クロロフィル(Chlorophylls)、カキ色素(Japanese Persimmon Color)、タマリンド色素(Tamarind Color)、カラメル色素(Caramel)などの天然色素、また、従来公知の顔料で例えば、アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、チタン白、パール顔料、酸化鉄・アルミニウム粉・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。前記着色剤は、1又は2以上を用いることができ、画材組成物全体量に対し好ましくは0.001~20重量%を用いることができる。
【0028】
本発明に用いられる防腐・防カビ剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン3-オン、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルスルフォニル)、ピリジン、安息香酸ナトリウムなど、安息香酸やソルビン酸やデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物、1,3-ジメチロール5,5-ジメチルヒダントイン、1又は3-モノメチロール5,5ジメチルヒダントイン、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメイト、1,3-ブチレングリコール等公知の防腐カビ剤を単独或いは混合して任意に使用することが出来、画材組成物全体量に対し好ましくは0.001~20重量%を用いることができる。
【0029】
(実施例)
以下に、本発明の実施例について説明する。
表1に示す組成となるように画材組成物を作成した。各成分を以下に示す。
炭酸カルシウム:「超微粒子エスカロン#200」(三共精粉株式会社製)
水:水道水
ポリアクリル酸ナトリウム:「アクアリックFH-G」(日本触媒株式会社製)
CMC:「サンローズFJ08HC」(日本製紙株式会社製)
ソルビトール:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製)
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:「エマゾールS-120V」又は「エマゾールL-120V」(花王株式会社製)
カゼインナトリウム:「カゼインナトリウムLW」(Arla Foods amba社製)
【0030】
<実施例1~5>
水、保湿剤、剥離材をディスパーにて攪拌し、液材を作成した。それとは別に、炭酸カルシウム「超微粒子エスカロン#200」、「カルシーF#9860」(三共精粉株式会社製)、ポリアクリル酸ナトリウム「アクアリックFH-G」(日本触媒株式会社製)、CMC「サンローズFJ08HC」(日本製紙株式会社製)、食用色素を縦型市販のミキサー(愛工舎製:型式ASMシリーズ)に投入し、素材のプレミキシングを行った。プレミキシングを行った前記素材に、前記液材を投入し、再度縦型ミキサーの攪拌を行って、本発明の画材組成物を作成した。
剥離材及び保湿剤は、実施例によって異なる為、以下組み合わせを示す。
<実施例1>
剥離材 ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート
(商品名:「エマゾールS-120V」/食品添加物用/HLB=14.9/花王株式会社製)
1.0%重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<実施例2>
剥離材 ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート
(商品名:「エマゾールL-120V」/食品添加物用/HLB=16.7/花王株式会社製)
1.0%重量部
保湿剤 ソルビトール
(「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<実施例3>
剥離材 デカグリセリントリステアリン酸エステル
(商品名:「SYグリスターTS-7S」HLB=10.0/阪本薬品工業株式会社)
1.0%重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」 物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<実施例4>
剥離材 ショ糖ラウリン酸エステル
(商品名:「リョートーシュガーエステル」HLB=16.0/三菱ケミカルフーズ株式会社) 1.0重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」 物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<実施例5>
剥離材 カゼインナトリウム
(商品名:「カゼインナトリウムLW」Arla Foods amba社製) 3.5%重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<実施例6>
剥離剤1 カゼインナトリウム
(商品名:「カゼインナトリウムLW」 Arla Foods amba社製) 3.5%重量部
剥離剤2 ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート
(商品名:「エマゾールS-120V」/食品添加物用/HLB=14.9/花王株式会社製)
1.0%重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<実施例7>
剥離材 ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート
(商品名:「エマゾール S-120V」/食品添加物用/HLB=14.9/花王株式会社製) 1.0%重量部
保湿剤1 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
保湿剤2 グリセリン
(商品名:「食品添加物グリセリン」(阪本薬品工業社製) 5.0%重量部
<実施例8>
剥離剤1 カゼインナトリウム
(商品名:「カゼインナトリウムLW」 Arla Foods amba社製) 3.5%重量部
剥離材 ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート
(商品名:「エマゾール S-120V」/食品添加物用/HLB=14.9/花王株式会社製) 1.0%重量部
保湿剤1 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
保湿剤2 グリセリン
(商品名:「食品添加物グリセリン」(阪本薬品工業社製) 5.0%重量部
【0031】
<比較例1~3>
実施例1~5と同様にして、比較例1~3の画材組成物を調整した。なお、比較例1では、剥離材にHLB8.6のソルビタンモノラウレート(商品名:「レオドールSP-L10」HLB=8.6/花王株式会社製)を用いた。比較例2では、剥離材に、ジメチルシリコーンオイル(商品名:「KF-96」/信越化学工業株式会社製)を用いた。比較例3では、剥離材を用いなかった。
剥離材と保湿剤の組合わせに関しては、比較例により異なる為、以下組み合わせを示す。
<比較例1>
剥離材 ソルビタンモノラウレート
(商品名:「レオドールSP-L10」HLB=8.6/花王株式会社製) 1.0%重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<比較例2>
剥離材 ジメチルシリコーンオイル
(商品名:「KF-96」/信越化学工業株式会社製) 1.0%重量部
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
<比較例3>
剥離剤 添加なし
保湿剤 ソルビトール
(商品名:「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製) 10.0%重量部
【0032】
得られた画材組成物を用いて、キャンバスであるポリプロピレン製の平板10の上に、工作用粘土を扱うように適当な大きさに切り取った画材組成物1をペタペタと置き、次に、筆で絵をかく代わりに、指で画材組成物1を伸ばしながら絵を書きあげていく(
図1と
図2を参照)。このようにして書いた絵は、肉厚で立体感があり、また色彩も豊富であり、粘土状の画材を用いた絵として可愛らしいものとなった。更に、
図3に示されるように、着色した画材組成物1aと着色した画材組成物1bとを混ぜ合わせることで、新しい色の画材組成物1cを作り出すことがで、混色の原理を体験することもでき る。
また、お絵かきの際に、子供の手がベタついたり、服が汚れたりすることはなく、また周囲が汚れることもないので、親は安心して遊ばせておくことができた。
【0033】
実施例・比較例について以下の条件で試験を行った。
保湿性
(試験方法)
得られた画材組成物を10g採取し、採取直後と、20℃60%環境下に3時間放置した後の、材料の硬度をE型硬度計で測定した。保湿性が充分でない場合は、水分が乾燥し、硬度が著しく上昇する。3時間後の硬度上昇が0~10未満であれば◎、10~30未満であれば○、30以上~40であれば×とした。
PP板への密着性
(試験方法)
得られた画材組成物を1g採取し、20℃60%環境下にて、PP板へ手で押し付ける。押し付けた画材組成物を再度剥がすことを試みて、密着性を官能評価した。再度剥がそうとしても、画材組成物がPP版と強く密着し全く剥がれない場合は◎、再度剥がそうとしても、画材組成物がPP版から殆ど剥がれない場合は○、再度剥がそうとすると、画材組成物がPP版から簡単に剥がれた場合は×とした。
手へのベタツキ
(試験方法)
得られた画材組成物を10g採取し、直後に20℃60%環境下にて、手のひらで一定圧力で繰り返し数回握る。繰り返し握った際のベタツキ感を官能評価する。ベタツキを全く感じなかった場合は◎、ベタツキをほとんど感じなかった場合は○、ベタツキがしっかりと感じられた場合は×とした。
柔軟性
(試験方法)
得られた画材組成物を10g採取し、直後に20℃60%環境下にて、造形を試みる。
柔軟性が充分で、造形が非常に容易であった場合は◎、柔軟性が充分で、造形が容易であった場合には○、柔軟性が不十分で、造形がうまくいかなかった場合は×とした。
実施例で用いた剥離材は、いずれも粘土状の画材組成物として優れていることが確認できた。明細書中で前述したように、本発明の効果は、画材表面を親水化し、表面に薄い膜を形成させることで発生することを考慮すると、用いる剥離材のHLB値は、今回用いた16.7より大きくても、今回の実施例同様に画材表面に親水性を付与させることが可能であり、本実施例と同様の効果を奏することが考えられる。
また、剥離剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:「エマゾール L-120V」HLB=16.7/花王株式会社製)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(商品名:「エマゾールS-120V」HLB=14.9/花王株式会社製)を用いた場合は、PP板への密着性、手へのベタツキにおいて、優れている傾向があることが確認できた。さらに、剥離剤として、カゼインナトリウム(商品名:「カゼインナトリウムLW」 Arla Foods amba社製)を添加した場合においても、PP板への密着性、手へのベタツキについて優れた効果を奏することが確認出来た。また、前記のポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(商品名:「エマゾールS-120V」HLB=14.9/花王株式会社製)と、カゼインナトリウム(商品名:「カゼインナトリウムLW」 Arla Foods amba社製)とを併用することで、保湿性、PP版への密着性、手へのベタツキについて、優れた効果が発揮されることが判った。また、保湿剤としてソルビトール(「ソルビトールS」(物産フードサービス株式会社製)とグリセリン(商品名:「食品添加物グリセリン」/阪本薬品工業社製の混合物を用いた場合は、基材に柔軟性が付与され、保湿性、PP板への密着性、手へのベタツキ、柔軟性について、優れていることが確認できた。
【0034】
(比較例)
剥離剤として、HLB10未満の界面活性剤(ソルビタンモノラウレート)
(商品名:「レオドールSP-L10」HLB=8.6/花王株式会社製)を用いた場合は手へのベタツキがあり悪かった(比較例1を参照)。また、剥離剤として、剥ジメチルシリコーンオイル(商品名:「KF-96」/信越化学工業株式会社製)を用いた場合はPP板への密着の度合いが悪く、画材としては不適であった(比較例2を参照)。また、剥離剤を添加しないものは手へのベタツキがあり悪かった(比較例3を参照)。
【0035】
【0036】
以上の説明からも明らかなように、本発明は粘土状の画材組成物であって、少なくとも基材と溶剤と増粘剤を含む粘土基材に対して、剥離剤と保湿剤を添加したことにより、手にベタツクことをなくすのと、キャンバスとの密着性を向上して絵の状態を安定保持することの二つを達成することができ、キャンバスに対して指で貼り付けたり伸ばしたりして自由に絵を描くことができる新しい画材を提供することができる。また、固形の絵具であるため手や周辺を汚すことがなく、幼児が安心してお絵かきして遊ぶことができ、また複数の色を混ぜ合わせて新しい色を任意に作り出すことができるため楽しく遊ぶことができる。
【符号の説明】
【0037】
1 画材組成物
1a 着色した画材組成物
1b 着色した画材組成物
1c 新しい色の画材組成物
10 ポリプロピレン製の平板