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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】熱成形装置および熱成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/14 20060101AFI20230703BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20230703BHJP
   B29C 51/12 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B29C51/14
B29C51/10
B29C51/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019166149
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021041639
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/022810(WO,A1)
【文献】特開平08-156092(JP,A)
【文献】特開2017-061065(JP,A)
【文献】特開2019-051681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上枠と下枠とにより密閉して形成される成形室で、第1シート部材と第2シート部材とにより形成される多層シート部材を、成形基材の形状に沿って賦形すると同時に前記成形基材に接着する熱成形装置において、
熱成形工程を制御する制御プログラムを記憶した制御手段を備えること、
前記成形室の内部において、前記下枠の側から前記上枠の側に向かって、前記成形基材、前記第1シート部材、前記第2シート部材の順に配置され、前記成形室は第2シート部材によって、前記上枠側の第1空間と、前記下枠側の第2空間に分割されていること、
前記第1空間には、少なくとも前記第2シート部材を加熱するヒータと、前記第1空間を減圧する第1減圧手段と、前記第1空間を加圧する加圧手段と、を備えること、
前記第2空間には、前記第2シート部材の表面に対して垂直方向に、前記成形基材が配置される初期位置から前記第2シート部材が配置される第2シート保持位置までの間を動作可能であって、前記成形基材を前記下枠の側から保持する下基材と、前記第1シート部材の外周部を保持することで、前記第1シート部材を前記第2シート部材に対して平行に保持し、前記第1シート部材が配置される第1シート保持位置から前記第2シート保持位置までの間を動作可能な保持部材と、前記第2空間を減圧する第2減圧手段と、を備えること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記制御プログラムは、
前記第1減圧手段により前記第1空間を減圧し、前記第2シート部材を前記ヒータに密着させることで、前記ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させ、
前記第1空間を減圧した状態を維持し、前記第2減圧手段により前記第2空間を減圧した状態で、前記下基材を前記初期位置から前記第1シート保持位置まで動作させ、前記成形基材を前記第1シート部材の表面に押し付けることで、第1シート部材を、前記成形基材の形状にならって賦形すると同時に前記成形基材に接着し、
前記第2空間を減圧した状態を維持し、前記下基材をさらに前記第2シート保持位置まで動作させるとともに、前記保持部材を前記第2シート保持位置まで動作させ、前記加圧手段により前記第1空間を加圧しながら、前記成形基材と、前記成形基材に接着された前記第1シート部材とを、前記ヒータに加熱されて軟化した前記第2シート部材の表面に押し付けることで、前記第2シート部材を、前記第1シート部材に積層させ、前記成形基材の形状にならって賦形すると同時に接着すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記制御プログラムは、
前記第1減圧手段により前記第1空間を減圧し、前記第2シート部材を前記ヒータに密着させることで、前記ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させ、
前記第1空間を減圧した状態を維持し、前記第2減圧手段により前記第2空間を減圧した状態で、前記保持部材を前記第2シート保持位置まで動作させ、前記第1シート部材と前記第2シート部材とを積層することで前記多層シート部材を形成し、
前記第2空間を減圧した状態を維持し、前記下基材を前記初期位置から前記第2シート保持位置まで動作させ、前記加圧手段により前記第1空間を加圧しながら、前記成形基材を前記多層シート部材の表面に押し付けることで、前記多層シート部材を、前記成形基材の形状にならって賦形すると同時に前記成形基材に接着すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の熱成形装置において、
前記保持部材は、前記成形基材を前記第1シート部材に投影した場合の前記成形基材の外形の近傍で、前記第1シート部材の外周を保持していること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項5】
請求項1に記載の熱成形装置を用いて、前記第1シート部材と前記第2シート部材とにより形成される前記多層シート部材を、前記成形基材の形状に沿って賦形すると同時に前記成形基材に接着する熱成形方法において、
前記第1減圧手段により前記第1空間を減圧し、前記第2シート部材を前記ヒータに密着させることで、前記ヒータにより前記第2シート部材を加熱し、軟化させる第1工程と、
前記第1空間を減圧した状態を維持し、前記第2減圧手段により前記第2空間を減圧した状態で、前記下基材を前記初期位置から前記第1シート保持位置まで動作させ、前記成形基材を前記第1シート部材の表面に押し付けることで、第1シート部材を、前記成形基材の形状にならって賦形すると同時に前記成形基材に接着する第2工程と、
前記第2空間を減圧した状態を維持し、前記下基材をさらに前記第2シート保持位置まで動作させるとともに、前記保持部材を前記第2シート保持位置まで動作させ、前記加圧手段により前記第1空間を加圧しながら、前記成形基材と、前記成形基材に接着された前記第1シート部材とを、前記ヒータに加熱されて軟化した前記第2シート部材の表面に押し付けることで、前記第2シート部材を、前記第1シート部材に積層させ、前記成形基材の形状にならって賦形すると同時に接着する第3工程と、
を有することを特徴とする熱成形方法。
【請求項6】
請求項1に記載の熱成形装置を用いて、前記第1シート部材と前記第2シート部材とにより形成される前記多層シート部材を、前記成形基材の形状に沿って賦形すると同時に前記成形基材に接着する熱成形方法において、
前記第1減圧手段により前記第1空間を減圧し、前記第2シート部材を前記ヒータに密着させることで、前記ヒータにより前記第2シート部材を加熱し、軟化させる第1工程と、
前記第1空間を減圧した状態を維持し、前記第2減圧手段により前記第2空間を減圧した状態で、前記保持部材を前記第2シート保持位置まで動作させ、前記第1シート部材と前記第2シート部材とを積層することで前記多層シート部材を形成する第2工程と、
前記第2空間を減圧した状態を維持し、前記下基材を前記初期位置から前記第2シート保持位置まで動作させ、前記加圧手段により前記第1空間を加圧しながら、前記成形基材を前記多層シート部材の表面に押し付けることで、前記多層シート部材を、前記成形基材の形状にならって賦形すると同時に前記成形基材に接着する第3工程と、
を有することを特徴とする熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上枠と下枠とにより形成される成形室で、多層シート部材を、成形基材の形状に沿って賦形すると同時に成形基材に接着する熱成形装置および熱成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンのケースや、自動車の加飾パーツ等の成形基材の表面にコーティングや加飾を行う場合、加熱されたコーティング部材や加飾シート等のシート部材を、熱成形することで、成形基材の表面に接着することが行われている。
【0003】
当該シート部材には、複数の機能性フィルムを積層した多層シート部材が用いられることが多い。例えば、コーティング部材であれば、スマートフォンのケースが傷付くことを防止するためのハードコート層と、成形基材とシート部材を接着するための接着層を有し、加飾シートであれば、加飾フィルムの層と、接着層を有することが考えられる。そして、熱成形を行う際には、予め多層に形成されたシート部材を用いることが一般的である。そして、予め多層に形成されたシート部材を用い、特許文献1に開示されるような熱成形装置により、成形基材にシート部材を接着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4491049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
現在は、多層シート部材を生産可能な技術を有するメーカーのみが多層シート部材を生産しているため、既存の多層シート部材の中から選定を行い、用いることがほとんどであり、機能性フィルムの組み合わせの自由度に限界がある。そのため、既存の多層シート部材に、希望する機能性フィルムの組み合わせのものが存在しない場合、当該希望する機能性フィルムを一枚づつ成形基材に接着し、積層していく必要があった。そのため、熱成形を行う回数が、機能性フィルムの枚数分となり、生産効率が悪いものであった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能であるとともに、生産効率の向上を図ることが可能な熱成形装置および熱成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の熱成形装置および熱成形方法は、次のような構成を有している。
(1)上枠と下枠とにより密閉して形成される成形室で、第1シート部材と第2シート部材とにより形成される多層シート部材を、成形基材の形状に沿って賦形すると同時に成形基材に接着する熱成形装置において、熱成形工程を制御する制御プログラムを記憶した制御手段を備えること、成形室の内部において、下枠の側から上枠の側に向かって、成形基材、第1シート部材、第2シート部材の順に配置され、成形室は第2シート部材によって、上枠側の第1空間と、下枠側の第2空間に分割されていること、第1空間には、少なくとも第2シート部材を加熱するヒータと、第1空間を減圧する第1減圧手段と、第1空間を加圧する加圧手段と、を備えること、第2空間には、第2シート部材の表面に対して垂直方向に、成形基材が配置される初期位置から第2シート部材が配置される第2シート保持位置までの間を動作可能であって、成形基材を下枠の側から保持する下基材と、第1シート部材の外周部を保持することで、第1シート部材を第2シート部材に対して平行に保持し、第1シート部材が配置される第1シート保持位置から第2シート保持位置までの間を動作可能な保持部材と、第2空間を減圧する第2減圧手段と、を備えること、を特徴とする。
【0008】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、制御プログラムは、第1減圧手段により第1空間を減圧し、第2シート部材をヒータに密着させることで、ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させ、第1空間を減圧した状態を維持し、第2減圧手段により第2空間を減圧した状態で、下基材を初期位置から第1シート保持位置まで動作させ、成形基材を第1シート部材の表面に押し付けることで、第1シート部材を、成形基材の形状にならって賦形すると同時に成形基材に接着し、第2空間を減圧した状態を維持し、下基材をさらに第2シート保持位置まで動作させるとともに、保持部材を第2シート保持位置まで動作させ、加圧手段により第1空間を加圧しながら、成形基材と、成形基材に接着された第1シート部材とを、ヒータに加熱されて軟化した第2シート部材の表面に押し付けることで、第2シート部材を、第1シート部材に積層させ、成形基材の形状にならって賦形すると同時に接着すること、を特徴とする。
【0009】
(3)(1)に記載の熱成形装置において、制御プログラムは、第1減圧手段により第1空間を減圧し、第2シート部材をヒータに密着させることで、ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させ、第1空間を減圧した状態を維持し、第2減圧手段により第2空間を減圧した状態で、保持部材を第2シート保持位置まで動作させ、第1シート部材と第2シート部材とを積層することで多層シート部材を形成し、第2空間を減圧した状態を維持し、下基材を初期位置から第2シート保持位置まで動作させ、加圧手段により第1空間を加圧しながら、成形基材を多層シート部材の表面に押し付けることで、多層シート部材を、成形基材の形状にならって賦形すると同時に成形基材に接着すること、を特徴とする。
【0010】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の熱成形装置において、保持部材は、成形基材を第1シート部材に投影した場合の成形基材の外形の近傍で、第1シート部材の外周を保持していること、を特徴とする。
【0011】
(5)(1)に記載の熱成形装置を用いて、第1シート部材と第2シート部材とにより形成される多層シート部材を、成形基材の形状に沿って賦形すると同時に成形基材に接着する熱成形方法において、第1減圧手段により第1空間を減圧し、第2シート部材をヒータに密着させることで、ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させる第1工程と、第1空間を減圧した状態を維持し、第2減圧手段により第2空間を減圧した状態で、下基材を初期位置から第1シート保持位置まで動作させ、成形基材を第1シート部材の表面に押し付けることで、第1シート部材を、成形基材の形状にならって賦形すると同時に成形基材に接着する第2工程と、第2空間を減圧した状態を維持し、下基材をさらに第2シート保持位置まで動作させるとともに、保持部材を第2シート保持位置まで動作させ、加圧手段により第1空間を加圧しながら、成形基材と、成形基材に接着された第1シート部材とを、ヒータに加熱されて軟化した第2シート部材の表面に押し付けることで、第2シート部材を、第1シート部材に積層させ、成形基材の形状にならって賦形すると同時に接着する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
(6)(1)に記載の熱成形装置を用いて、第1シート部材と第2シート部材とにより形成される多層シート部材を、成形基材の形状に沿って賦形すると同時に成形基材に接着する熱成形方法において、第1減圧手段により第1空間を減圧し、第2シート部材をヒータに密着させることで、ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させる第1工程と、第1空間を減圧した状態を維持し、第2減圧手段により第2空間を減圧した状態で、保持部材を第2シート保持位置まで動作させ、第1シート部材と第2シート部材とを積層することで多層シート部材を形成する第2工程と、第2空間を減圧した状態を維持し、下基材を初期位置から第2シート保持位置まで動作させ、加圧手段により第1空間を加圧しながら、成形基材を多層シート部材の表面に押し付けることで、多層シート部材を、成形基材の形状にならって賦形すると同時に成形基材に接着する第3工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱成形装置および熱成形方法は、上記構成を有することにより次のような作用・効果を有する。
(1),(2)に記載の熱成形装置および(5)に記載の熱成形方法によれば、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能であるとともに、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0014】
下基材を初期位置から第1シート保持位置まで動作させれば、下基材に保持された成形基材が第1シート部材に押し付けられ、第1シート部材は、成形基材の形状に沿って賦形されるとともに、成形基材に接着される。そして、下基材を第1シート保持位置から第2シート保持位置までさらに動作させるとともに、保持部材を第2シート保持位置まで動作させれば、成形基材と、成形基材に接着された第1シート部材とが、第2シート部材に押し付けられ、第2シート部材は、第1シート部材に積層され、成形基材の形状に沿って賦形されるとともに、成形基材に接着される。このように、成形基材上に接着される第1シート部材と第2シート部材とにより多層シート部材が形成されることとなる。
【0015】
例えば、第1シート部材にハードコート層を形成するフィルム、第2シート部材に接着層を形成するフィルムなどを選定することが可能であり、様々な機能性フィルムの組み合わせの多層シート部材を、成形基材の表面に形成することが可能である。よって、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能である。さらに、熱成形を行うとともに、機能性フィルムの自由な組み合わせで多層シート部材を形成可能であるため、従来の熱成形装置のように、機能性フィルムを一枚づつ成形基材に接着し、積層していく必要がなく、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0016】
また、例えば、第2シート部材が、ポリカーボネート等の、加熱によりガスが発生するフィルムである場合、第1シート部材と第2シート部材の間に、ガスが残留し、気泡が発生するおそれがあるが、第2空間は、第2減圧手段により真空状態とすることができるため、ガスが残留せず、第1シート部材と第2シート部材の接着が確実に行われる。
【0017】
(1),(3)に記載の熱成形装置および(6)に記載の熱成形方法によれば、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能であるとともに、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0018】
保持部材を第2シート保持位置まで動作させれば、保持部材に保持された第1シート部材が、第2シート保持位置まで移動され、ヒータに加熱されて軟化した第2シート部材が、第1シート部材と接着されることで、多層シート部材が形成される。
さらに、下基材を初期位置から第2シート保持位置まで動作させれば、下基材に保持された成形基材が多層シート部材に押し付けられ、多層シート部材は、成形基材の形状に沿って賦形されるとともに、成形基材に接着される。
例えば、第1シート部材にハードコート層、第2シート部材に接着層などを選定することが可能であり、様々な機能性フィルムの組み合わせの多層シート部材を、成形基材の上に形成することが可能である。よって、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能である。さらに、熱成形を行うとともに、多層シート部材を形成可能であるため、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0019】
また、第2空間は、第2減圧手段により真空状態とすることができるため、多層シート部材を形成するに際し、第1シート部材と第2シート部材の間にガスが残留しない。
【0020】
(4)に記載の熱成形装置によれば、保持部材は、成形基材を第1シート部材に投影した場合の成形基材の外形の近傍で、第1シート部材の外周を保持しているため、第2シート部材の大きさが、成形基材とほぼ同じ大きさとなり、第2シート部材の節約となり、コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態に係る熱成形装置による第1工程を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る熱成形装置による第2工程を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る熱成形装置による第3工程を示す図である。
図4】熱成形装置の下枠の平面図である。
図5】成形基材に第1シート部材と第2シート部材とが積層された状態を説明する図である。
図6】第1シート部材の保持状態を説明する図である
図7】(A)および(B)は、第1シート部材の保持状態の変形例を示す図である。
図8】第1の実施形態に係る熱成形装置の構成を示すブロック図である。
図9】第1の実施形態に係る制御プログラムのフローチャートである。
図10】第2の実施形態に係る熱成形装置の構成を示すブロック図である。
図11】第2の実施形態に係る制御プログラムのフローチャートである。
図12】第2の実施形態に係る熱成形装置による第2工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
本発明の熱成形装置および熱成形方法の第1の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
第1の実施形態に係る熱成形装置1は、昇降手段(図示せず)によって図1中の上下に移動可能な上枠11と、固定側である下枠12とからなっている。上枠11と、下枠12とが、後述する保持治具22を介して当接することで、密閉された成形室23が形成され、成形室23内において、下基材14に保持された成形基材U1に対して、多層シート部材S1(図5参照)の被覆が行われる。
【0024】
多層シート部材S1は、第1シート部材S11および第2シート部材S12からなる。
図1に示すように、下枠12の側から上枠11の側に向かって、成形基材U1、第1シート部材S11、第2シート部材S12の順に配置され、図2に示すように、成形基材U1が第1シート部材S11が配置される第1シート保持位置まで動作されることで、成形基材U1の表面に第1シート部材S11を接着し、さらに図3に示すように、第1シート部材S11が接着された成形基材U1が、第2シート部材S12が配置される第2シート保持位置まで動作されることで、第2シート部材S12を、第1シート部材S11が接着された成形基材U1に接着する。
このように、熱成形装置1では、成形基材U1の表面に、第1シート部材S11、第2シート部材S12が順に積層されることで、多層シート部材S1が形成される。
【0025】
成形基材U1の表面に多層シート部材S1を被覆することにより形成されたものが熱成形品であり、熱成形品としては、例えばスマートフォンのケースや、自動車のインパネ等に用いられる加飾パーツが一例として挙げられる。
【0026】
成形基材U1は、例えば、有頂筒状の形状を有する。ただし、形状はこれに限定されるものでなく、図1に示すように、第1シート部材S11が熱成形装置1に設置されたときに、成形基材U1が第1シート部材S11に接触しないような高さ寸法の設定が必要な他には、特に制限はない。また、成形基材U1の材料には、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂が適用される。ただし、これらに限定されるものでなく、熱硬化樹脂、鉄、石など接着層が適応可能な素材を採用することも可能である。
【0027】
第1シート部材S11は、例えば、多層シート部材S1を成形基材U1に接着するための接着層を構成するシートであり、光学粘着シート(OCA)が用いられる。そして、第2シート部材S12は、例えば、ハードコート層を構成するシートであり、ポリカーボネートが用いられる。なお、JIS(日本工業規格)における包装用語では、厚さ250μm以上の薄板状のプラスチック材をシートとし、厚さ250μm未満の膜状のプラスチック材をフィルムとして規定されている。しかし、本実施形態において、第1シート部材S11および第2シート部材S12は特に厚みが規定されるものではなく、JISにおいてはフィルムと規定されるものであっても良い。
【0028】
第2シート部材S12は、保持治具22により四方の外周部を挟持固定されている。そして、第2シート部材S12は、成形室23を、上枠11側の第1空間231と、下枠12側の第2空間232に分割しており、それぞれの空間は気密に保たれている。
【0029】
第1空間231には、加熱面13aにより第2シート部材S12を加熱するヒータ13が上下動可能に配設されている。図1に示すのがヒータ13の下限位置であって、図2および図3に示すのがヒータ13の上限位置である。
熱成形装置1の使用中は、ヒータ13は常時動作状態にあり、第2シート部材S12を加熱する時には、ヒータ13は、初期位置である上限位置から、下限位置に位置される。そして、加熱が完了した後、第1シート部材S11と第2シート部材S12の賦形および接着を行う時には、図中上方へ移動され、再度上限位置に位置される。
【0030】
さらに、第1空間231には、上枠11に設けられた、複数の通気孔(不図示)を介して、加圧手段としてのコンプレッサ27および第1減圧手段としての真空ポンプ28が接続されている。コンプレッサ27は、通気孔を介して、第1空間231に圧縮空気を供給することができ、第1空間231を加圧した状態にすることができる。そして、真空ポンプ28は、通気孔を介して、第1空間231を真空吸引し、中真空状態(100Pa以下)まで減圧することができる。なお、熱成形装置1の使用中は、真空ポンプ28は常時動作状態にあり、真空ポンプ28と第1空間231との間に配設されるバルブ33を開閉することにより、第1空間231の真空吸引の実施と停止の切換えを行う。
【0031】
第2空間232には、成形基材U1を保持する下基材14と、第1シート部材S11を保持する保持部材16と、が配設されている。
【0032】
下基材14は、成形基材U1を図1中の下向から保持しているため、成形基材U1の図中上方の表面に、第1シート部材S11および第2シート部材S12が接着可能となっている。また、下基材14は、テーブル15の中央部に固定されている。
【0033】
テーブル15は、板状に形成されており、上面は、後述する保持部材16の被押圧面16bを押圧する押圧面15aとなっている。さらに、後述するシャフト17が挿通される挿通孔15bが、テーブル15の上下に貫通されている。
【0034】
また、テーブル15は昇降装置21により、上下動可能となっており、テーブル15の動作に合わせて下基材14も上下動可能である。テーブル15および下基材14の上下動は、図1に示す初期位置から、図2に示す第1シート保持位置を経由し、図3に示す第2シート保持位置までの間で行われる。
【0035】
保持部材16は、平板状で、楕円状の外形をなし、第1シート部材S11の賦形時に成形基材U1が通過する貫通孔16aを有している。そして、保持部材16の図1中の上面は、第1シート部材S11を保持する保持面16cとなっている。本実施形態における第1シート部材S11はOCAであり、粘着性を有するため、第1シート部材S11は、保持面16cに貼り付けられることで、第1シート部材S11自身の粘着力によって保持されている(図6参照)。
【0036】
第2シート部材S12が保持される位置は、図4に示すように、成形基材U1の外形近傍である。これにより、第2シート部材S12の大きさを成形基材U1に近い大きさとすることができ、第2シート部材S12の節約となるため、コストを抑えることができる。
【0037】
なお、第1シート部材S11の粘着力が弱い場合には、図2示す第1シート部材S11の接着時に、成形基材U1に第1シート部材S11が上方に引っ張られ、保持部材16から剥がれてしまうおそれがある。そのようなおそれがある場合には、例えば図7(A)に示すように、下方保持部材24Aと上方保持部材24Bとにより第1シート部材S11を挟持し、ボルト30およびナット31により固定するものとしても良い。その他にも、例えば図7(B)に示すように、下方保持部材25Aと上方保持部材25Bとにより第1シート部材S11を挟持し、クリップ26を用いて固定するものとしても良い。
【0038】
また、保持部材16の下面は、テーブル15の押圧面15aに当接する被押圧面16bとなっている。テーブル15が、第1シート保持位置から、さらに上方に動作すると、テーブル15の押圧面15aが、被押圧面16bに当接し、保持部材16が上方に押し上げられる。これにより、保持部材16は、テーブル15の動作に追従するようにして、第2シート保持位置に向かって、上方に動作される。
【0039】
さらにまた、図1乃至4に示すように、保持部材16の被押圧面16bには、4本のシャフト17が接続されている。シャフト17は、テーブル15の挿通孔15bに、挿通される。シャフト17の外径は、挿通孔15bの内径よりも細く、シャフト17は、挿通孔15b内で上下に移動可能である。
【0040】
4本のシャフト17は、テーブル15の下面側の端部において、2本ずつブロック体18により接続されている。そして、シャフト17の同軸上であって、ブロック体18の上面と、テーブル15の下面の間には、スプリング19が取り付けられており、スプリング19は、ブロック体18を下方に付勢している。そして、この付勢力により、保持部材16がテーブル15に近づく方向に付勢されている。
【0041】
ブロック体18は、下面が下枠12の底面に設けられた位置決めブロック20に当接することで、保持部材16の下限位置を定めている。
テーブル15が図1に示す下限位置にあるとき、スプリング19は、圧縮された状態にあり、ブロック体18を位置決めブロック20に押し付けている。この状態から、テーブル15が昇降装置21により上方に動作されると、テーブル15の押圧面15aが、保持部材16の被押圧面16bに当接するまでは、スプリング19の付勢力によって、ブロック体18が位置決めブロック20に当接した状態、即ち、保持部材16は下限位置の状態が維持されるため、成形基材U1に、第1シート部材S11を接着することができる。
【0042】
さらに、第2空間232には、下枠12に設けられた複数の通気孔(不図示)を介して、第2減圧手段としての真空ポンプ29が接続されている。真空ポンプ29は、通気孔を介して、第2空間232を真空吸引し、中真空状態(100Pa以下)まで減圧することができる。なお、熱成形装置1の使用中は、真空ポンプ29は常時動作状態にあり、真空ポンプ29と第2空間232との間に配設されるバルブ34を開閉することにより、第2空間232の真空吸引の実施と停止の切換えを行う。
【0043】
さらに、熱成形装置1は、図8に示すように、ヒータ13と、昇降装置21と、コンプレッサ27と、バルブ33,34と、に接続された制御手段32を備えている。
【0044】
制御手段32は、CPU321と、ROM322と、を備えている。ROM322は、制御プログラム322aを記憶しており、CPU321は、制御プログラム322aに従って、ヒータ13の上下動の制御と、昇降装置21によるテーブル15の上下動の制御と、コンプレッサ27および真空ポンプ28,29による第1空間231および第2空間232の圧力の制御と、を行う。
【0045】
次に、熱成形装置1を用いた熱成形方法について説明する。
まず、上枠11を上昇させ、下枠12から離間させた状態で、作業者は、成形基材U1を下基材14に配置し、第1シート部材S11を保持部材16に配置し、第2シート部材S12を保持治具22に配置する。ここで、第1シート部材S11は、予め保持部材16の大きさに合わせて切り取られたものを配置する。また、第2シート部材S12も、予め保持治具22に配置可能な大きさに合わせて切り取られたものを配置する。
【0046】
成形基材U1と第1シート部材S11と第2シート部材S12の配置が完了した後、上枠11を下降させ、上枠11と下枠12を保持治具22を介して当接させることで、密閉された成形室23を形成し、熱成形装置1を動作させる。
【0047】
熱成形装置1が動作されると、制御手段32のCPU321は制御プログラム322aを実行する。
【0048】
制御プログラム322aは、まず第1工程として、真空ポンプ28により第1空間231を減圧し、第2シート部材S12をヒータ13に密着させることで、前記ヒータにより第2シート部材を加熱し、軟化させる。
【0049】
詳しく説明すると、制御プログラム322aは、まず、ヒータ13を下限位置まで下降させる(ステップ41)。そして、バルブ33を開弁することで、真空ポンプ28と第1空間231を連通させ、真空ポンプ28による第1空間231の真空吸引を行う(ステップ42)。第1空間231が真空吸引されることで、第1空間231は、減圧されて中真空状態となる。すると、図1に示すように、第2シート部材S12が第1空間231側に吸引され、ヒータ13の加熱面13aに密着されるため、第2シート部材S12の、ヒータ13による加熱が確実に行われる。
【0050】
次に、制御プログラム322aは、第2工程として、第1空間231を減圧した状態を維持し、真空ポンプ29により第2空間232を減圧した状態で、下基材14を初期位置から第1シート保持位置まで動作させ、成形基材U1を第1シート部材S11の表面に押し付けることで、第1シート部材S11を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着する。
【0051】
詳しく説明すると、制御プログラム322aは、第1空間231を中真空状態に維持したまま、バルブ34を開弁することで、真空ポンプ29と第2空間232を連通させ、真空ポンプ29による第2空間232の真空吸引を行う(ステップ43)。第2空間232の真空吸引を行うことで、第2空間232を減圧し、中真空状態とする。このとき、第2空間232内の圧力は、第1空間231内の圧力と同等の圧力まで減圧される。第1空間231内と、第2空間232内の圧力が同等にされることで、加熱されて軟化した第1シート部材S11が、成形室23内でドローダウンしてしまうことを抑えることができる。
【0052】
第1空間231と、第2空間232が同等の圧力となった後、ヒータ13は、図2に示すように、上方へ移動される(ステップ44)。そして、昇降装置21を動作させ(ステップ45)、テーブル15を上方に移動させることで、下基材14を初期位置から第1シート保持位置まで動作させる。下基材14が第1シート保持位置まで動作すると、図2に示すように、成形基材U1が第1シート部材S11に押し付けられ、第1シート部材S11を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着することができる。
【0053】
さらに、制御プログラム322aは、第3工程として、第2空間232を減圧した状態を維持し、下基材14をさらに第2シート保持位置まで動作させるとともに、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させ、コンプレッサ27により第1空間231を加圧しながら、成形基材U1と、成形基材U1に接着された第1シート部材S11とを、ヒータ13に加熱されて軟化した第2シート部材S12の表面に押し付けることで、第2シート部材S12を、第1シート部材S11に積層させ、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に接着する。
【0054】
詳しく説明すると、制御プログラム322aは、昇降装置21の動作により下基材14が、初期位置から第1シート保持位置までの所定の距離を移動したと判断すると(ステップ46:YES)、コンプレッサ27を動作させる(ステップ47)。なお、下基材14が所定の距離を移動していない場合は(ステップ46:NO)、下基材14が第1シート保持位置まで到達しておらず、成形基材U1に第1シート部材S11の接着が完了していない状態であるため、制御プログラム322aは、そのまま昇降装置21を動作させ続ける。
【0055】
コンプレッサ27が動作されることで、第1空間231が加圧される。そして、昇降装置21はステップ45から動作され続けているため、テーブル15が、さらに上方に動作され、下基材14が、第1シート保持位置から第2シート保持位置まで動作される。このとき、テーブル15の動作に伴い、テーブル15の押圧面15aが、保持部材16の被押圧面16bに当接すると、保持部材16は、テーブル15に押し上げられて、上方へ動作される。そのため、成形基材U1と、成形基材U1に接着された第1シート部材S11とが、共に第2シート保持位置へ移動される。これにより、第1シート部材S11が接着された成形基材U1が、ヒータ13に加熱されて軟化した第2シート部材S12の表面に押し付けられ、第2シート部材S12が、第1シート部材S11に積層され、成形基材U1の形状にならって賦形されると同時に接着される。なお、コンプレッサ27による第1空間231の加圧は、成形基材U1と、成形基材U1に接着された第1シート部材S11とが、共に第2シート保持位置に達した時点から開始されるものとしても良い。
【0056】
第1空間231を加圧状態とし、第2空間232を中真空状態とすることで、第2シート部材S12は、成形基材U1に確実に密着されるため、第1シート部材S11と第2シート部材S12との間の接着面に気泡が残留するおそれが低減される。
【0057】
また、第2シート部材S12にポリカーボネートを用いると、第1工程で加熱された時にガスが発生し、第1シート部材S11と第2シート部材S12との間の接着面に気泡が残留するおそれがあるが、第2空間232が中真空状態としていることで、発生したガスも真空ポンプ29に吸引され、気泡が残留するおそれが低減される。
【0058】
そして、制御プログラム322aは、昇降装置21の動作により下基材14が、第1シート保持位置から第2シート保持位置までの所定の距離を移動したと判断し(ステップ48:YES)、第3工程まで完了されると、昇降装置21を停止させ(ステップ49)、テーブル15の上方への移動を停止させる。なお、下基材14が所定の距離を移動していない場合は(ステップ48:NO)、下基材14が第2シート保持位置まで到達しておらず、成形基材U1に第2シート部材S12の接着が完了していない状態であるため、制御プログラム322aは、そのまま昇降装置21を動作させ続ける。
【0059】
第1シート部材S11と第2シート部材S12の接着が完了した熱成形品は、熱成形装置1から取り出され、第1シート部材S11と第2シート部材S12の、それぞれのシート部材の、成形基材U1と接着されていない部分がトリミングされる。
【0060】
以上のように、熱成形を行うとともに、多層シート部材S1を形成可能であるため、生産効率の向上を図ることが可能である。
また、本実施例においては、第1シート部材S11としてOCA、第2シート部材S12としてポリカーボネートを例に挙げているが、これに限定されるものでなく、様々な機能性フィルムの組み合わせの多層シート部材を、成形基材U1の表面に形成することが可能である。よって、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能である。
【0061】
以上説明したように、第1の実施形態の熱成形装置1および熱成形方法によれば、
(1)上枠11と下枠12とにより密閉して形成される成形室23で、第1シート部材S11と第2シート部材S12とにより形成される多層シート部材S1を、成形基材U1の形状に沿って賦形すると同時に成形基材U1に接着する熱成形装置1において、熱成形工程を制御する制御プログラム322aを記憶した制御手段32を備えること、成形室23の内部において、下枠12の側から上枠11の側に向かって、成形基材U1、第1シート部材S11、第2シート部材S12の順に配置され、成形室23は第2シート部材S12によって、上枠11側の第1空間231と、下枠12側の第2空間232に分割されていること、第1空間231には、少なくとも第2シート部材S12を加熱するヒータ13と、第1空間231を減圧する真空ポンプ28と、第1空間231を加圧するコンプレッサ27と、を備えること、第2空間232には、第2シート部材S12の表面に対して垂直方向に、成形基材U1が配置される初期位置から第2シート部材S12が配置される第2シート保持位置までの間を動作可能であって、成形基材U1を下枠12の側から保持する下基材14と、第1シート部材S11の外周部を保持することで、第1シート部材S11を第2シート部材S12に対して平行に保持し、第1シート部材S11が配置される第1シート保持位置から第2シート保持位置までの間を動作可能な保持部材16と、第2空間232を減圧する真空ポンプ29と、を備えること、を特徴とし、(2)(1)に記載の熱成形装置1において、制御プログラム322aは、真空ポンプ28により第1空間231を減圧し、第2シート部材S12をヒータ13に密着させることで、ヒータ13により第2シート部材S12を加熱し、軟化させ、第1空間231を減圧した状態を維持し、真空ポンプ29により第2空間232を減圧した状態で、下基材14を初期位置から第1シート保持位置まで動作させ、成形基材U1を第1シート部材S11の表面に押し付けることで、第1シート部材S11を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着し、第2空間232を減圧した状態を維持し、下基材14をさらに第2シート保持位置まで動作させるとともに、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させ、コンプレッサ27により第1空間231を加圧しながら、成形基材U1と、成形基材U1に接着された第1シート部材S11とを、ヒータ13に加熱されて軟化した第2シート部材S12の表面に押し付けることで、第2シート部材S12を、第1シート部材S11に積層させ、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に接着すること、または、(5)(1)に記載の熱成形装置1を用いて、第1シート部材S11と第2シート部材S12とにより形成される多層シート部材S1を、成形基材U1の形状に沿って賦形すると同時に成形基材U1に接着する熱成形方法において、真空ポンプ28により第1空間231を減圧し、第2シート部材S12をヒータ13に密着させることで、ヒータ13により第2シート部材S12を加熱し、軟化させる第1工程と、第1空間231を減圧した状態を維持し、真空ポンプ29により第2空間232を減圧した状態で、下基材14を初期位置から第1シート保持位置まで動作させ、成形基材U1を第1シート部材S11の表面に押し付けることで、第1シート部材S11を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着する第2工程と、第2空間232を減圧した状態を維持し、下基材14をさらに第2シート保持位置まで動作させるとともに、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させ、コンプレッサ27により第1空間231を加圧しながら、成形基材U1と、成形基材U1に接着された第1シート部材S11とを、ヒータ13に加熱されて軟化した第2シート部材S12の表面に押し付けることで、第2シート部材S12を、第1シート部材S11に積層させ、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に接着する第3工程と、を有することを特徴とするので、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能であるとともに、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0062】
下基材14を初期位置から第1シート保持位置まで動作させれば、下基材14に保持された成形基材U1が第1シート部材S11に押し付けられ、第1シート部材S11は、成形基材U1の形状に沿って賦形されるとともに、成形基材U1に接着される。そして、下基材14を第1シート保持位置から第2シート保持位置までさらに動作させるとともに、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させれば、成形基材U1と、成形基材U1に接着された第1シート部材S11とが、第2シート部材S12に押し付けられ、第2シート部材S12は、第1シート部材S11に積層され、成形基材U1の形状に沿って賦形されるとともに、成形基材U1に接着される。このように、成形基材U1上に接着される第1シート部材S11と第2シート部材S12とにより多層シート部材S1が形成されることとなる。
【0063】
例えば、第1シート部材S11にハードコート層を形成するフィルム、第2シート部材S12に接着層を形成するフィルムなどを選定することが可能であり、様々な機能性フィルムの組み合わせの多層シート部材S1を、成形基材U1の表面に形成することが可能である。よって、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能である。さらに、熱成形を行うとともに、多層シート部材S1を形成可能であるため、従来の熱成形装置のように、機能性フィルムを一枚づつ成形基材に接着し、積層していく必要がなく、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0064】
また、例えば、第2シート部材S12が、ポリカーボネート等の、加熱によりガスが発生するフィルムである場合、第1シート部材S11と第2シート部材S12の間に、ガスが残留し、気泡が発生するおそれがあるが、第2空間232は、真空ポンプ29により真空状態とすることができるため、ガスが残留せず、第1シート部材S11と第2シート部材S12の接着が確実に行われる。
【0065】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の熱成形装置1において、保持部材16は、成形基材U1を第1シート部材S11に投影した場合の成形基材U1の外形の近傍で、第1シート部材S11の外周を保持していること、を特徴とするので、第2シート部材S12の大きさが、成形基材U1とほぼ同じ大きさとなり、第2シート部材S12の節約となり、コストを抑えることができる。
【0066】
<第2の実施形態>
次に、本発明の熱成形装置および熱成形方法の第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態に係る熱成形装置1は、成形基材U1に対し、第1シート部材S11、第2シート部材S12の順に接着することで、成形基材U1の表面に多層シート部材S1を形成していたが、第2の実施形態に係る熱成形装置1は、図12に示すように、まず、第1シート部材S11と第2シート部材S12とを接着して多層シート部材S1を形成し、その後に、成形基材U1に多層シート部材S1を接着する。
【0067】
第2の実施形態における熱成形装置1の構成について説明すると、第2の実施形態における熱成形装置1は、保持部材16を上下動させる昇降装置62(図10参照)を有し、保持部材16は、テーブル15とは独立して、第1シート保持位置から、第2シート保持位置との間を上下動可能である。なお、保持部材16は、独立して上下動可能であるため、スプリング19は用いられない。
【0068】
そして、昇降装置62は、図10に示すように制御手段32に接続されており、制御手段32のCPU321は、ROM322に記憶された制御プログラム322bに従って、ヒータ13の上下動の制御と、昇降装置21によるテーブル15の上下動の制御と、昇降装置62による保持部材16の上下動の制御と、コンプレッサ27および真空ポンプ28,29による第1空間231および第2空間232の圧力の制御を行う。
その他の構成は、第1の実施形態に係る熱成形装置1と同様である。
【0069】
次に、熱成形装置1を用いた熱成形方法について説明する。
成形基材U1、第1シート部材S11、第2シート部材S12の配置方法は、第1の実施形態と同様である。
【0070】
成形基材U1と第1シート部材S11と第2シート部材S12の配置が完了した後、上枠11を下降させ、上枠11と下枠12を保持治具22を介して当接させることで、密閉された成形室23を形成し、作業者は熱成形装置1を動作させる。
【0071】
熱成形装置1が動作されると、制御手段32のCPU321は制御プログラム322bを実行する。
【0072】
制御プログラム322bは、まず第1工程として、真空ポンプ28により第1空間231を減圧し、第2シート部材S12をヒータ13の加熱面13aに密着させることで、ヒータ13により第2シート部材S12を加熱し、軟化させる。この第1工程(図11のステップ51~52)は、第1の実施形態に係る制御プログラム322aの実行の際に行われる第1工程(図9のステップ41~42)と同様である。
【0073】
次に、制御プログラム322bは、第2工程として、第1空間231を減圧した状態を維持し、真空ポンプ29により第2空間232を減圧した状態で、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させ、第1シート部材S11と第2シート部材S12とを積層することで多層シート部材S1を形成する。
【0074】
詳しく説明すると、制御プログラム322bは、第1空間231の中真空状態を維持したまま、バルブ34を開弁することで、真空ポンプ29による第2空間232の真空吸引を行う(ステップ53)。真空ポンプ29が動作されることで、第2空間232は、減圧されて中真空状態となる。このとき、第2空間232内の圧力は、第1空間231内の圧力と同等の圧力まで減圧される。これは、第1の実施形態と同様に、加熱されて軟化した第1シート部材S11のドローダウンを防ぐ目的である。
【0075】
第1空間231と、第2空間232が同等の圧力となった後、ヒータ13は、図12に示す位置に上昇される(ステップ54)。そして、昇降装置62を動作させることで(ステップ55)、保持部材16を、図12に示すように、第2シート保持位置まで動作させる。保持部材16が第2シート保持位置まで動作されることで、第1シート部材S11が、第2シート部材S12と密着し、お互いに接着される。第1シート部材S11と第2シート部材S12とが接着されることで、多層シート部材S1が形成される。
【0076】
第2シート部材S12にポリカーボネートを用いると、加熱時にガスが発生し、第1シート部材S11と第2シート部材S12との間の接着面に気泡が残留するおそれがあるが、第2空間232が中真空状態としていることで、発生したガスも真空ポンプ29に吸引され、気泡が残留するおそれが低減される。
【0077】
さらに、制御プログラム322bは、第3工程として、第2空間232を減圧した状態を維持し、下基材14を初期位置から第2シート保持位置まで動作させ、コンプレッサ27により第1空間231を加圧しながら、成形基材U1を多層シート部材S1の表面に押し付けることで、多層シート部材S1を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着する。
【0078】
詳しく説明すると、制御プログラム322bは、昇降装置62の動作により保持部材16が第2シート保持位置までの所定の距離を移動したと判断すると(ステップ56:YES)、昇降装置62を停止させ(ステップ57)、保持部材16を第2シート保持位置に位置させた状態を維持する。なお、保持部材16が所定の距離を移動していない場合は(ステップ56:NO)、保持部材16が第2シート保持位置まで到達しておらず、第1シート部材S11と第2シート部材S12の接着が完了していない状態であるため、制御プログラム322bは、そのまま昇降装置62を動作させ続ける。
【0079】
昇降装置62が停止されると、制御プログラム322bは、昇降装置21を動作させ(ステップ58)、テーブル15を上方に移動させることで、下基材14を初期位置から第2シート保持位置まで動作させる。次にコンプレッサ27を動作させ(ステップ59)、第1空間231を加圧する。下基材14が第2シート保持位置まで動作すると、図3に示すように、成形基材U1が多層シート部材S1に押し付けられ、多層シート部材S1を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着することができる。なお、コンプレッサ27による第1空間231の加圧は、下基材14が、第2シート保持位置に達した時点から開始されるものとしても良い。
【0080】
この際、第1空間231を加圧状態とし、第2空間232を中真空状態とすることで、多層シート部材S1は、成形基材U1に確実に密着されるため、多層シート部材S1と成形基材U1との間の接着面に気泡が残留するおそれが低減される。
【0081】
そして、制御プログラム322bは、昇降装置21の動作により下基材14が、初期位置から第2シート保持位置までの所定の距離を移動したと判断し(ステップ60:YES)、第3工程まで完了されると、昇降装置21を停止させ(ステップ61)、テーブル15の上方への移動を停止させる。なお、下基材14が所定の距離を移動していない場合は(ステップ60:NO)、下基材14が第2シート保持位置まで到達しておらず、成形基材U1と多層シート部材S1の接着が完了していない状態であるため、制御プログラム322bは、そのまま昇降装置21を動作させ続ける。
【0082】
多層シート部材S1の接着が完了した熱成形品は、熱成形装置1から取り出され、多層シート部材S1の、成形基材U1と接着されていない部分がトリミングされる。
【0083】
以上説明したように、第2の実施形態の熱成形装置1および熱成形方法によれば、
(3)(1)に記載の熱成形装置1において、制御プログラム322bは、真空ポンプ28により第1空間231を減圧し、第2シート部材S12をヒータ13に密着させることで、ヒータ13により第2シート部材S12を加熱し、軟化させ、第1空間231を減圧した状態を維持し、真空ポンプ29により第2空間232を減圧した状態で、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させ、第1シート部材S11と第2シート部材S12とを積層することで多層シート部材S1を形成し、第2空間232を減圧した状態を維持し、下基材14を初期位置から第2シート保持位置まで動作させ、コンプレッサ27により第1空間231を加圧しながら、成形基材U1を多層シート部材S1の表面に押し付けることで、多層シート部材S1を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着すること、または、(6)(1)に記載の熱成形装置1を用いて、第1シート部材S11と第2シート部材S12とにより形成される多層シート部材S1を、成形基材U1の形状に沿って賦形すると同時に成形基材U1に接着する熱成形方法において、真空ポンプ28により第1空間231を減圧し、第2シート部材S12をヒータ13に密着させることで、ヒータ13により第2シート部材S12を加熱し、軟化させる第1工程と、第1空間231を減圧した状態を維持し、真空ポンプ29により第2空間232を減圧した状態で、保持部材16を第2シート保持位置まで動作させ、第1シート部材S11と第2シート部材S12とを積層することで多層シート部材S1を形成する第2工程と、第2空間232を減圧した状態を維持し、下基材14を初期位置から第2シート保持位置まで動作させ、コンプレッサ27により第1空間231を加圧しながら、成形基材U1を多層シート部材S1の表面に押し付けることで、多層シート部材S1を、成形基材U1の形状にならって賦形すると同時に成形基材U1に接着する第3工程と、を有することを特徴とするので、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能であるとともに、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0084】
保持部材16を第2シート保持位置まで動作させれば、保持部材16に保持された第1シート部材S11が、第2シート保持位置まで移動され、ヒータ13に加熱されて軟化した第2シート部材S12が、第1シート部材S11と接着されることで、多層シート部材S1が形成される。
【0085】
さらに、下基材14を初期位置から第2シート保持位置まで動作させれば、下基材14に保持された成形基材U1が多層シート部材S1に押し付けられ、多層シート部材S1は、成形基材U1の形状に沿って賦形されるとともに、成形基材U1に接着される。
【0086】
例えば、第1シート部材S11にハードコート層を形成するフィルム、第2シート部材S12に接着層を形成するフィルム等を選定することが可能であり、様々な機能性フィルムの組み合わせの多層シート部材S1を、成形基材U1の表面に形成することが可能である。よって、機能性フィルムの自由な組み合わせを実現可能である。さらに、熱成形を行うとともに、多層シート部材S1を形成可能であるため、生産効率の向上を図ることが可能である。
【0087】
また、第2空間232は、真空ポンプ29により真空状態とすることができるため、多層シート部材S1を形成するに際し、第1シート部材S11と第2シート部材S12の間にガスが残留しない。
【0088】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。
例えば、第2シート部材S12の、保持治具22への配置は、作業者が行うこととしているが、搬送装置により自動的に配置されるものとしても良い。また、第2シート部材S12は、予め切り取られたものを配置することとしているが、ロールから繰り出し装置により、成形室23内に搬送されるものとしても良い。
【符号の説明】
【0089】
1 熱成形装置
11 上枠
12 下枠
13 ヒータ
14 下基材
16 保持部材
23 成形室
27 コンプレッサ
28 真空ポンプ
29 真空ポンプ
231 第1空間
232 第2空間
S1 多層シート部材
S11 第1シート部材
S12 第2シート部材
U1 成形基材
図1
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