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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】魚釣り用擬似餌
(51)【国際特許分類】
   A01K 85/00 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
A01K85/00 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020073267
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021168621
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】513025554
【氏名又は名称】株式会社マイクロン
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】成田 慶彦
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-074937(JP,A)
【文献】特開平03-292841(JP,A)
【文献】特開2002-291376(JP,A)
【文献】特開2001-069877(JP,A)
【文献】特開平10-323144(JP,A)
【文献】特開平10-225247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0261309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 85/00 - 85/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマーポリアクリル酸塩を含有する樹脂材料で形成された成形体であり、
魚釣り用擬似餌全体に対して、前記スチレン系熱可塑性エラストマーを5~23質量%、前記ポリアクリル酸塩を4~25質量%含有し、
さらに、パラフィン系軟化剤を、前記スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して300~1100質量部含有することを特徴とする魚釣り用擬似餌。
【請求項2】
形状が水生動物を模したものであることを特徴とする請求項1に記載の魚釣り用擬似餌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣り用擬似餌に関する。さらに詳しくは、いわゆるワーム(ソフトルアーとも呼ばれる。)に属する魚釣り用擬似餌に関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣りにあっては、釣り対象である泳魚(以下、単に「魚」とする場合もある。)の餌となる魚や虫の形状を模したり、魚介類や虫等の生き物の形状の本体外面に何らかの装飾を施したりして、本物の餌に似せた形状を備え、水中における餌の動き、反射光、色や模様等を再現することで魚を誘うように構成された擬似餌(魚釣り用擬似餌)を使用する方法が知られている。
【0003】
そのような擬似餌(疑似餌とも呼ばれる。)の一形態として、合成樹脂やゴム等の軟質樹脂により形成されたワーム(ソフトルアーとも呼ばれる。)が知られている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照。)。かかるワームは、硬質樹脂で形成されたハードルアーと比較して、水流に応じた変形や微細な動きを再現しやすいという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3057225号公報
【文献】特開2005-102517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軟質樹脂等により形成されているワームは、魚に対して、水中での水流に合わせた動きに加えてそれ自体の形状が変わる動きをするため、かかる2つの動きが融合したアピールを魚に対して行うことができる。そして、釣り師(釣り人)は、かかるワームを、実際に生きているようにさまざまなアクションを付けて操ることにより、魚に対してアピールすることで、魚を誘き寄せ、釣ることができる。
【0006】
そのため、ワームに代表される魚釣り用擬似餌は、水中でできる限り本物の餌に見えることが望ましい。一般に、ワームはその形状や着色により生餌等の本物の餌を模した外観とした上で釣り糸ないし釣り針に取り付けて、海水や淡水といった魚が泳ぐ水中で使用される。これまでの擬似餌は、水中において本物の餌と近い外観にするため、その形状はもとより、表面への着色や模様、光沢等の形成、及びそれらの塗装に力をいれていたが、水生動物等特有の表面のヌルヌル感までは再現できていないため、水中で魚が本物の餌のように感じず、魚に対してアピールできていない可能性があった。
【0007】
本発明の目的は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、水生動物等特有の表面のヌルヌル感を再現し、水中での外観を本当の餌に近づけることができる釣り用擬似餌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明に係る魚釣り用擬似餌は、
スチレン系熱可塑性エラストマーポリアクリル酸塩を含有する樹脂材料で形成された成形体であり、
魚釣り用擬似餌全体に対して、前記スチレン系熱可塑性エラストマーを5~23質量%、前記ポリアクリル酸塩を4~25質量%含有し、
さらに、パラフィン系軟化剤を、前記スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して300~1100質量部含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る魚釣り用擬似餌は、前記した本発明において、形状が水生動物を模したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る魚釣り用擬似餌は、軟質樹脂と吸水性樹脂を含有する樹脂材料で形成された成形体であるので、擬似餌の表面に吸水性を付与させることが可能となり、魚釣り用擬似餌が水中に投入された際に、表面がゲル状化し、吸水性樹脂によるヌルヌル感を擬似餌の表面に形成させ、本物の餌の表面状態を擬似的(疑似的)に再現することができる。その結果、水中での魚釣り用擬似餌の外観を本物の餌により近づけることができることとなり、擬似餌の魚に対してのアピール度が高まり、魚も釣れ易くなり、釣り師(釣り人)の釣りに対する意欲も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る魚釣り用擬似餌の一態様を示した斜視図である。
図2図1において、釣り糸と釣り針を取り付けた状態を示した斜視図である。
図3図2の魚釣り用擬似餌を縦方向に切断して、内部構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
【0018】
(I)魚釣り用擬似餌1の形状等:
図1は、本発明に係る魚釣り用擬似餌1の一態様を示した斜視図、図2は、図1において、釣り糸2と釣り針3を取り付けた状態を示した斜視図、図3は、図2の魚釣り用擬似餌1を縦方向に切断して、内部構造を示した図、をそれぞれ示す。図1ないし図3中、1は魚釣り用擬似餌、11は釣り糸通過部(釣り糸・釣り針取付部)、2は釣り糸、3は釣り針、をそれぞれ示す。
【0019】
図1ないし図3に示した魚釣り用擬似餌1(以下、単に「擬似餌1」とする場合もある。)は、形状として、耳E、胴体B、触腕W及び足Lを備えたイカを模したものとした例を示している。また、かかる擬似餌1は、釣り糸・釣り針取付部11として、耳Eの天面から底に向かって、釣り糸2が通過可能な貫通孔からなる釣り糸通過部11が形成されている。なお、図1ないし図3において、足Lの全部には符号を付していない。また、図1ないし図3は、塗装等によるイカの表面の模様等は形成されていない状態を示している。
【0020】
魚釣り用擬似餌1の形状としては、図1等に示したイカ以外であってもよく、例えば、イカ以外に魚、エビ、カニ、ザリガニ、イソメ、ゴカイ、マムシ、ボケ(スナモグリ)、貝類(アケミ貝、カラス貝、フジツボ、アサリ(むき身)等。)、ミミズ、毛虫、ヒル、カエル、トカゲ等に代表される水生動物を模した形状、巻き虫等の虫(これらの中にも水生動物となるものも存在する。)等の動物を模した形状、あるいは水生動物や動物とは関連しない形状等、魚釣りの餌として一般的に使用されている所定の形状であれば特に制限はない。本発明にあっては、水の中に入れた際に生じる表面のヌルヌル感を生かすため、形状が水生動物を模したものとすることが好ましい。
【0021】
なお、魚釣り用擬似餌1の形状としては、ワーム(ソフトルアー)の形状として従来公知の、例えば、グラブ型、魚型、ストレート型、カーリーテール型、シャッドテール型、ピンテール型、フラクラブ型、リーチ型、スティックベイト型、パドルテール型、クロー・ホグ型、クローフィッシュ型、チューブ型、スイム(リアル)ベイト型、虫(バグ)型、リザート型及びフロッグ型等の形状等から選択するようにしてもよい。
【0022】
本発明に係る魚釣り用擬似餌1の大きさは、特に制限はなく、釣りの対象となる魚等の種類や大きさ等により決定され、一般的な魚釣り用の餌(擬似餌含む。)に適用される長さとすることができるが、例えば、魚釣り用擬似餌1の長さを10~1000mm程度とすることが好ましく、20~500mm程度とすることが特に好ましいが、この範囲には限定されない。
【0023】
(II)魚釣り用擬似餌1の構成等:
以下、魚釣り用擬似餌1の構成等(構成材料を含む。)を説明する。魚釣り用擬似餌1を構成する材料としては、本発明にあっては、擬似餌1が軟質樹脂と吸水性樹脂を含有する樹脂材料で形成された成形体であり、擬似餌1に適当な弾力、伸縮性、柔軟性等を備えるようにするため、軟質樹脂が使用される。なお、本発明における軟質樹脂には、後記する吸水性樹脂に属するものは含まない。
【0024】
軟質樹脂としては、例えば、熱可塑性エラストマー、エラストマー、ゲル状のゴム、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、軟質ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、軟質ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。
【0025】
軟質樹脂としては、成形性、コストに加えて、魚釣り用擬似餌1を水中で動きやすくさせたり、それ自体の形状を変形させやすくする程度の軟らかさを与えることができるという点で、熱可塑性エラストマーを使用することが好ましい。本発明にあっては、熱可塑性エラストマーとしては、水素添加(水添)のものも含め、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、(水素添加)スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、(水素添加)スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、(水素添加)スチレン-エチレン-プロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、(水素添加)スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、(水素添加)スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等のスチレン系熱可塑性エラストマーを使用することが特に好ましい。
【0026】
また、これ以外に、エチレン-プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)、前記したスチレン系熱可塑性エラストマー以外のオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、Syn-1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、Trans-1,4-ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を使用するようにしてもよい。
【0027】
また、例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリイソブチレンゴム、ポリクロロプレンゴム(CR)、フッ素系ゴム、ネオプレンゴム、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS)、ブタジエン-アクリロニトリルコアシェルゴム(NBR)、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレンコアシェルゴム(AABS)、ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-シロキサン等のシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプの粒子状弾性体(軟質ゴム)、あるいはこれらを変性したゴム等を挙げることができる。
【0028】
また、軟質樹脂としては、シリコーンゲル、アクリル樹脂ゲル等のゲル(ゲル材料)等を用いてもよい。以上挙げた軟質樹脂は、その1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
魚釣り用擬似餌1に対する軟質樹脂の含有量は、使用される軟質樹脂の種類、吸水性樹脂の種類、必要とされる強度の程度等により適宜決定することができ、概ね、含有量を魚釣り用擬似餌1全体に対して5質量%以上とすることが好ましく、5~23質量%とすることがより好ましい。含有量が5質量%より少ないと、擬似餌1の強度を維持することができない場合がある一方、含有量が23質量%より多いと、擬似餌1に軟らかさを付与するのが難しい場合がある。軟質樹脂の含有量は、魚釣り用擬似餌1全体に対して7~20質量%とすることがさらに好ましく、8~18.5質量%とすることが特に好ましい。
【0030】
本発明にあっては、成形体である魚釣り用擬似餌1の構成材料として、前記した軟質樹脂と吸水性樹脂を含有してなる。擬似餌1の構成材料として軟質樹脂と吸水性樹脂を組み合わせて用いることにより、擬似餌1が所定の形状に成形されて成形体とされた際に、吸水性樹脂がベース材料となる軟質樹脂ないしは擬似餌1の構成材料全体に分散し、擬似餌1の表面等に吸水性を付与することができる。
【0031】
本発明のごとく、魚釣り用擬似餌1の表面に吸水性を付与させた場合、擬似餌1を水の中に入れることにより表面がゲル状化し、擬似餌1の表面にヌルヌル感(「滑り(ぬめり)」と同意。)を形成させることができる。ここで、魚釣りの餌となる水生動物等は、水の中においてタンパク質等からなるヌルヌル感を表面に形成しており、かかるヌルヌル感が釣り餌の外観を左右する。
【0032】
つまり、従来品にあっては、表面への着色や模様、光沢等の形成、及びそれらの塗装に力を入れている一方、水の中に入れた際の表面のヌルヌル感を再現することは難しかった。加えて、釣りの対象となる魚は、魚釣り用擬似餌1の反射光により誘き寄せられる習性があると考えられているが、表面のヌルヌル感が形成されていない場合の反射光は、魚にとって自然ではなく、魚へのアピール度も低くなってしまうと考えられる。
【0033】
本発明では、魚釣りにおいて本物の餌となる水生動物等の表面のヌルヌル感に着目し、魚釣り用擬似餌1が軟質樹脂と吸水性樹脂を含有する樹脂材料で形成された成形体である場合に、魚釣り用擬似餌1のベース材料となる軟質樹脂ないしは擬似餌1の構成材料全体に吸水性樹脂を分散させて、擬似餌1の表面に吸水性を付与させている。これにより、魚釣り用擬似餌1が水中に投入された際には表面のゲル化により吸水性樹脂によるヌルヌル感を擬似餌1の表面に形成することができ、本物の餌の表面状態を擬似的に再現することが可能となる。そして、水中での魚釣り用擬似餌1の外観も、本物の餌により近づき、魚に対してのアピール度が高まり、誘き寄せられる魚も多くなり、魚も釣れ易くなると考えられる。
【0034】
吸水性樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリアクリル酸系塩(ポリアクリル酸系塩の架橋体を含む。)、ポリアクリルアミド、澱粉-アクリロニトリルグラフト共重合物の加水分解物、カルボキシメチルセルロース架橋体、アクリル酸(塩)-ビニルアルコール共重合物、ポリオキシエチレン架橋体、ポリアルキレンオキシド単位を含む熱可塑性樹脂等が挙げられる。本発明は、この中で、吸水性樹脂としてポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸系塩を使用することが好ましい。
【0035】
一般に、アクリル酸の重合体はカルボキシル基を多数持つため非常に親水性が高く、吸水性樹脂としては、ポリアクリル酸系塩を含有することが好ましい。また、必要により網目構造に架橋させ、ナトリウム塩の形とすると高い吸水性を持つゲルとなり、優れた特性を示すことから、ポリアクリル酸ナトリウムを使用することが特に好ましい。ポリアクリル酸ナトリウムは架橋体となっているもの(ポリアクリル酸ナトリウム架橋体)を使用するようにしてもよい。
【0036】
かかるポリアクリル酸ナトリウムは高吸水性樹脂(高吸水性高分子)としても知られており、少量の添加で多量の水を吸収することができるため、水中に入れることで魚釣り用擬似餌1の表面を好適にゲル化することができ、本発明の目的に適している。
【0037】
吸水性樹脂は、液状、粉末状(パウダー状、顆粒状を含む。)等のものを使用することができ、粉末状のものを用いることが好ましい。粉末状とすることにより、表面積も大きくなり、吸水能がさらに向上し、また、魚釣り用擬似餌1が軟質樹脂と吸水性樹脂を含有する樹脂材料で形成されるにあたり、ベース材料となる軟質樹脂ないしは魚釣り用擬似餌1の構成材料全体に良好に分散することになる。平均粒径は、特に制限はないが、例えば1~1000μmであることが好ましく、また、形状は球形状、板形状、造流体、不定形状等の公知の形状のものを使用することができる。
【0038】
魚釣り用擬似餌1に対する吸水性樹脂の含有量は、使用される軟質樹脂の種類、吸水性樹脂の種類、必要とされる表面のヌルヌル感(滑り)の程度等により適宜決定することができ、概ね、魚釣り用擬似餌1全体に対して1質量%以上とすることが好ましく、1~30質量%含有することがより好ましい。含有量が1質量%より少ないと、擬似餌1の表面に吸水性を付与することができず、水中でヌルヌル感が発生しない場合があり、その結果、擬似餌1が本当の餌に見えにくくなる場合がある。一方、含有量が30質量%より多いと、吸水性樹脂は比較的高価であるため、コストが高くなる場合があったり、擬似餌1の強度等に影響を与える場合がある。
【0039】
なお、前記の範囲で吸水性樹脂1を含有させることにより、本発明の効果は奏されるが、魚釣り用擬似餌1を水中に入れた場合にその表面を適度にゲル化し、表面に適度なヌルヌル感を付与するためには、概ね、魚釣り用擬似餌1全体に対して吸水性樹脂を好ましくは4~14質量%(より好ましくは5~10質量%)含有させればよいと考えられる。その一方、吸水性樹脂の含有量を多くすることにより、吸水性樹脂のコストが若干上がる一方で、表面のゲル化の度合いが高くなることに加え、表面をゲル化できる時間が増え、本発明の効果を長く持続できるというメリットがあり、求めるゲル化の度合いやその時間に応じて、吸水性樹脂の含有量を決定することができる。以上を総合的に勘案すると、吸水性樹脂の含有量は、魚釣り用擬似餌1全体に対して4~25質量%とすることがさらに好ましく、5~20質量%とすることが特に好ましい。
【0040】
また、軟質樹脂に対する吸水性樹脂の含有量は、概ね、軟質樹脂100質量部に対して5~200質量部とすることが好ましく、5~160質量部とすることがより好ましく、20~160質量部とすることがさらに好ましく、25~160質量部とすることが特に好ましい。
【0041】
魚釣り用擬似餌1の構成材料としては、軟化オイルを含有することが好ましい。軟化オイルは、ベース材料として熱可塑性エラストマー(特に、スチレン系熱可塑性エラストマー等。)を軟化させる機能等を備えるものであり、含有により擬似餌1に適度な柔軟性を与えることができる。また、含有量を調整することにより、擬似餌1の軟らかさ(柔らかさ)を調整することができる(含有量を多くするほど、擬似餌1に軟らかさを付与することができる。)。
【0042】
軟化オイルとしては、熱可塑性エラストマー等を軟化させることが可能な従来公知の軟化オイルを使用することができるが、例えば、炭化水素油として知られる流動パラフィンやパラフィンオイル(以下、総称して「パラフィン系軟化剤」とする場合もある。)、ナフテン系オイル(ナフテン系軟化剤)、及び芳香族系オイル(芳香族系軟化剤)等を使用することができる。これらの中では、スチレン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーとの親和性が良好で、ブリードが起きにくいという観点から、流動パラフィンやパラフィンオイル等のパラフィン系軟化剤を使用することが好ましい。
【0043】
軟化オイルを使用する場合における軟質樹脂に対する含有量は、特に制限はなく、必要とされる軟らかさに加えて、前記した軟質樹脂や吸水性樹脂の種類や含有量により適宜決定すればよいが、成形体である魚釣り用擬似餌1の柔軟性等を考慮して、軟質樹脂100質量部に対して軟化オイルを300~1100質量部とすることが好ましい。軟化オイルの含有量は、魚釣り用擬似餌1の柔軟性等を左右し、添加するほど成形体である擬似餌1は軟らかくなるため、かかる範囲内で、所望の軟らかさ(硬さ)となるように調整すればよい。軟化オイルの含有量は、軟質樹脂100質量部に対して軟化オイルを350~1050質量部とすることがより好ましく、370~1050質量部とすることがさらに好ましく、400~1000質量部とすることがさらになお好ましく、500~900質量部とすることが特に好ましい。
【0044】
なお、軟化オイルを使用する場合の魚釣り用擬似餌1に対する含有量は、魚釣り用擬似餌1全体に対して軟化オイルを55~85質量%とすることが好ましく、60~85質量%とすることがさらに好ましく、65~85質量%とすることが特に好ましい。
【0045】
使用可能なパラフィン系軟化剤としては、市販品として、例えば、ダフニー(登録商標)オイル同KP8、同KP15、同KP32、同KP68、同KP100、CP12N、同CP15N、同CP32N、(以上、流動パラフィン、芳香族環炭素数0%)、ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW32(芳香族環炭素数0%)、同PW90(芳香族環炭素数0%)、同W150(芳香族環炭素数0%)、ダイアナフレシアP32、同P90、同P150、同W8、同K8、同S10(以上、出光興産(株)製)、JOMO(登録商標)プロセスP200、同P300、同P400、同P500(以上、JXTGエネルギー(株)製)等が挙げられる。軟化オイルは、その1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
また、前記した構成材料には、さらに、発泡剤を添加することが好ましい。発泡剤を添加することにより、魚釣り用擬似餌1の軟らかさ、弾力性等が適度のものとなる。加えて、魚釣り用擬似餌1を水中で浮かせたい場合には、発泡剤を適量で加えることにより、擬似餌1を好適に浮かせることができる。発泡剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、無機系の熱分解型化学発泡剤、有機系の熱分解型化学発泡剤等の化学発泡剤、物理発泡剤等を使用することができる。
【0047】
魚釣り用擬似餌1における発泡剤の含有量は、特に制限はなく、求められる発泡の度合い、軟らかさ、浮かせる状態等に応じて適宜決定することができるが、例えば、擬似餌1全体に対して発泡剤を0.1~1.0質量%とすることが好ましく、0.1~0.5質量%とすることが特に好ましい。
【0048】
なお、魚釣り用擬似餌1の構成材料としては、前記した材料に加えて、本発明の目的及び効果を妨げない範囲で、前記した樹脂材料以外の熱可塑性樹脂等の樹脂材料、顔料、香料、集魚剤、集魚エキス(ガルプ汁)、アミノ酸等の魚の好むような臭いを発する成分、無機安定剤等の安定剤、滑剤、耐衝撃改良剤、加工助剤、結晶核剤、補強剤、着色剤、難燃剤、架橋剤、架橋性モノマー、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル等のオイル成分(軟化オイルとなるものを除く。)、ブロッキング防止剤、離型剤、香料、充填剤、カップリング剤、架橋剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0049】
(III)魚釣り用擬似餌の製造方法等:
魚釣り用擬似餌1の製造方法としては、例えば、従来公知の射出成形(インジェクション)法により、前記した構成材料を混合した樹脂組成物を加熱混練して溶融状態として、かかる溶融状態の樹脂組成物(溶融樹脂)を、擬似餌1の形状に対応して形成された図示しない金型内に射出して注入する。次いで、注入された溶融樹脂を冷却固化させることにより成形体とし、魚釣り用擬似餌1を簡便に製造することができる。
【0050】
なお、図1ないし図3に示すように、魚釣り用擬似餌1に釣り糸通過部11等の釣り糸2や釣り針3を取り付ける部分(釣り糸・釣り針取付部11)を形成するにあっては、かかる部分が形成されるような金型として、成形と一緒に形成するようにしてもよく、後加工によりかかる部分を形成するようにしてもよい。
【0051】
また、魚釣り用擬似餌1に、釣り針3等を含む所定の部材をあらかじめ取り付ける場合には、かかる釣り針3等の部材を成形時に金型内に配置しておく従来公知のインサート成形等を用いて、所定の部材の一部または全部を埋め込んで取り付けるようにしてもよい。この場合、例えば、射出成形により図示しない縦割りの2つの金型を使用し、かかる2つの金型の間に釣り針3等の所定の部材を挿入して、金型を閉じた後、溶融樹脂を射出して成形を実施して成形体とすればよい。
【0052】
成形された魚釣り用擬似餌1には、本物の餌と近い外観にするため、塗装等により表面に着色や模様、所望の光沢等を形成するような塗装を施してもよく、従来公知の塗装、加工法等により実施することができる。このようにして得られた本発明の魚釣り用擬似餌1は、釣り糸2ないし釣り針3を取り付けて一体化された状態で、一般的な魚釣り用の餌や魚釣り用の擬似餌と同様、海水や淡水といった水の中に投入される釣りの餌として使用される。
【0053】
(IV)本発明の効果:
以上説明した本発明に係る魚釣り用擬似餌1は、軟質樹脂と吸水性樹脂を含有する樹脂材料で形成された成形体であるので、擬似餌1の表面に吸水性を付与させることが可能となり、魚釣り用擬似餌1が水中に投入された際に、表面がゲル状化し、吸水性樹脂によるヌルヌル感を擬似餌1の表面に形成させ、本物の餌の表面状態を擬似的に再現することができる。その結果、水中での魚釣り用擬似餌1の外観を本物の餌により近づけることができることとなり、擬似餌1の魚に対してのアピール度が高まり、魚も釣れ易くなり、釣り師(釣り人)の釣りに対する意欲も向上する。
【0054】
(V)実施形態の変形:
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0055】
例えば、前記した実施形態では、魚釣り用擬似餌1の形状として図1ないし図3に示したイカを模したものを例として挙げたが、擬似餌1の形状としては特に制限はなく、前記したイカ以外の種々の形状、及びそれ以外の形状を適宜選定することができる。
【0056】
また、前記した実施形態では、魚釣り用擬似餌1として、釣り糸2が通過可能な釣り糸通過部(釣り糸・釣り針取付部)11を形成した態様を例に挙げて説明したが、擬似餌1には釣り糸・釣り針取付部11として釣り針を直接取り付ける部分(図示しない)を形成する等、釣り糸2や釣り針3を取り付ける部分の構成等は任意である。また、魚釣り用擬似餌1に対して釣り糸・釣り針取付部11を形成せず、釣り糸2で縛る、釣り針3を刺す等の適当な手段で、釣り糸2や釣り針3を直接擬似餌1に取り付けるようにしてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造等としてもよい。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例、参考例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
参考例1、参考例2、実施例~実施例12、比較例1]
軟質樹脂としてスチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体:SEBS)(セプトン(登録商標):株式会社クラレ)、吸水性樹脂としてポリアクリル酸塩であるポリアクリル酸ナトリウム(粉末状)(アクアリック(登録商標):日本触媒株式会社)、軟化オイルとしてパラフィン系軟化剤である流動パラフィン(後記)、顔料(ピンク)、及び発泡剤(セルマルク(登録商標):三協化成株式会社)を、含有量を表1に示すようにした構成材料(参考例1、参考例2、実施例~実施例12、比較例1)として、図1に示した、外観がイカを模した形状の魚釣り用擬似餌を射出成形法により成形して成形体とした。
【0059】
なお、成形は、射出成形機におけるスクリューのヒーターを90℃→120℃→140℃→200℃の順(4段階)で構成材料を加熱混練し、射出時の樹脂温度が 150℃前後となるように各構成について適宜調整して成形した。また、顔料は全ての実施例、参考例、比較例とも共通の含有量であり、発泡剤は実施例12のみ添加し、比較例1は吸水性樹脂を添加していない。また、表1中、上段は各成分の含有量(魚釣り擬似餌全体に対する[質量%])であり、下段は軟質樹脂100質量部に対する質量部を、吸水性樹脂及び軟化オイルについて載せている(表1中、「-」は、含有しないことを示している。)。ここで、軟質樹脂及び軟化オイルの[質量%]で表した含有量のうち一部(参考例1、参考例2、実施例5、実施例6、実施例11及び比較例1)、並びに吸水性樹脂の[質量部]で表した含有量は、小数点第3位を四捨五入した数値である。
【0060】
表1の組成は、魚釣り用擬似餌全体を100質量%とした場合、吸水性樹脂(比較例1を除く。)、顔料、発泡剤(実施例12のみ。)について表1に示した質量%とした上で、魚釣り用擬似餌全体からこれら吸水性樹脂、顔料、発泡剤を引いた残部について、軟質樹脂を100質量%とした場合の軟化オイルを表1に示した質量部とした割合として、表1に示した質量%となるように配合している。例えば、実施例4であれば、全体を仮に100kg(100質量%)とした場合、吸水性樹脂を8kg(8質量%)、顔料を0.38kg(0.38質量%)とし、残量である91.62kgを、軟質樹脂100質量部に対して軟化オイルを500質量部の割合(軟質樹脂15.27kg(15.27質量%)、軟化オイル76.35kg(76.35質量%))として配合したものである。
【0061】
そして、得られた魚釣り用擬似餌の釣り糸通過部に釣り針の付いた釣り糸を通し、図2及び図3に示した魚釣り用擬似餌として評価サンプル(サンプル)とした。
【0062】
なお、軟化オイルとして使用される流動パラフィン(パラフィン系軟化剤)は、ダフニー(登録商標)オイル KP-8と同 KP-32(いずれも出光興産株式会社)をKP-8/KP-32=7/3の割合で混合したものを用いている。
【0063】
[試験例1]
水中での表面状態の確認:
前記の方法で得られたサンプルを水中に入れて、「サンプルの表面状態」について以下の評価基準を用いて比較・評価した。1点以上を合格とした。材料の構成及び評価結果を表1に示す。
【0064】
(評価基準)
評 価 内 容
3 : 表面が非常にゲル化して、かなりのヌルヌル感がある。
2 : 表面が適度にゲル化して、適度なヌルヌル感がある。
1 : 表面がある程度ゲル化して、ヌルヌル感がある(2よりはない)。
0 : 表面がゲル化せず、ヌルヌル感がない。
【0065】
なお、前記の評価において、「2」は表面のゲル化の度合い及びヌルヌル感(滑り)も適度であり、「1」は、許容範囲内において「2」に比べてゲル化及びヌルヌル感は劣る。「3」は、「2」に比べてゲル化及びヌルヌル感の度合いは増すが、「2」が「3」に対して劣るというわけではなく、「3」の方がヌルヌル感について相対的に高いだけである。
【0066】
(材料の構成及び結果)
【表1】
【0067】
表1に示したように、魚釣り用擬似餌の構成材料としてスチレン系熱可塑性エラストマーとポリアクリル酸ナトリウムを含有した樹脂材料で形成した成形体である参考例1、参考例2、実施例ないし実施例12については、水の中に入れることで表面がゲル化し、表面にヌルヌル感が形成されていた(評価も合格とした。)。なお、水中での見え方も、参考例1、参考例2、実施例ないし実施例12のものは、表面のヌルヌル感があるせいか、本物のイカのように見える印象だった。
【0068】
また、実施例8ないし実施例11は、実施例4に対して軟化オイルの含有量を変化させたものである。軟化オイルの含有量が増えるにつれて魚釣り用擬似餌が軟らかくなる(実施例10→実施例4→実施例8→実施例9→実施例11の順で軟らかくなる(実施例10が一番硬く、実施例11が一番軟らかい。)が、いずれも評価は「2」であり、ヌルヌル感は変わらないという結果であった。
【0069】
実施例12は実施例4に対して発泡剤を0.3%含有させたものであるが、実施例4と同様評価は「2」でありヌルヌル感は変わらず、発泡剤の添加により水に浮くものであった。
【0070】
一方、ポリアクリル酸ナトリウムを含有しない比較例1は、表面にヌルヌル感がなく(評価も「1」と不合格。)、水の中での見え方も作り物という感じがした。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、ワーム等の魚釣り用擬似餌として、釣り師(釣り人)の釣りに対する意欲を高めることができる等の理由で、産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0072】
1 …… 釣り用擬似餌
11 …… 釣り糸通過部(釣り糸・釣り針取付部)
2 …… 釣り糸
3 …… 釣り針
E …… 耳
B …… 胴体
W …… 触腕
L …… 足
図1
図2
図3