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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/33 20060101AFI20230703BHJP
   G01N 21/03 20060101ALI20230703BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G01N21/33
G01N21/03 B
G01N21/01 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020548533
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036481
(87)【国際公開番号】W WO2020066769
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018185495
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025499(JP,A)
【文献】特開2016-080431(JP,A)
【文献】特開平07-043296(JP,A)
【文献】特開2007-232742(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0066561(KR,A)
【文献】特開2015-114260(JP,A)
【文献】米国特許第10030086(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/74
G01N 21/84 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定流体が流れる流路を有する測定セルと、前記測定セルへの入射光を発する光源と、前記測定セルから出射した光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記被測定流体の吸光度および濃度を演算する演算部と、前記測定セル内の前記被測定流体の温度を測定する温度センサとを有し、前記演算部は、前記光検出器の検出信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則に基づいて流体濃度を求めるように構成されている装置を用いて行う濃度測定方法であって、
前記被測定流体として温度が上昇するにつれて二量体に対する単量体の割合が増加するガスを前記測定セル内に流す工程と、
前記被測定流体によって吸光される波長の光を前記光源から前記測定セルへ入射させるとともに、前記測定セルから出射した前記光の強度を前記光検出器によって測定する工程と、
前記温度センサによって測定された温度に基づいて、二量体に対する単量体の割合が変化することによって生じる温度による前記被測定流体の吸光度の変化を補正するための補正係数を決定する工程と、
前記補正係数と、前記光検出器の出力とに基づいて、前記被測定流体の濃度を演算する工程と
を含む、濃度測定方法。
【請求項2】
前記被測定流体は、トリメチルアルミニウムである、請求項1に記載の濃度測定方法。
【請求項3】
前記測定セルへ入射させる光の波長は、前記トリメチルアルミニウムによって吸収されやすい220nm~240nmの範囲以外の波長である、請求項2に記載の濃度測定方法。
【請求項4】
前記測定セルへ入射させる光の波長は、250nm以上300nm以下である、請求項3に記載の濃度測定方法。
【請求項5】
前記トリメチルアルミニウムを含むガスの前記測定セル内での温度が、室温以上150℃以下である、請求項2から4のいずれかに記載の濃度測定方法。
【請求項6】
前記補正係数は、被測定流体の温度ごとの補正係数が格納されたテーブルを用いて決定される、請求項1から5のいずれかに記載の濃度測定方法。
【請求項7】
前記被測定流体の濃度を演算する工程は、補正したランベルト・ベールの式であるAλ=α・β(T)・L・Cに基づいて濃度を演算する工程を含み、ここで、Aλは前記被測定流体の吸光度、αは吸光係数、β(T)は前記補正係数、Lは前記測定セルの光路長、Cは濃度である、請求項1から6のいずれかに記載の濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定方法に関し、特に、測定セル内を通過した光の強度を検出することによって流体の濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機金属(MO)等の液体材料や固体材料から形成された原料ガスを半導体製造装置へと供給するガス供給ラインに組み込まれ、ガス供給ラインを流れるガスの濃度を測定するように構成された濃度測定装置(いわゆるインライン式濃度測定装置)が知られている。
【0003】
この種の濃度測定装置では、流体が流れる測定セルに、入射窓を介して光源から所定波長の光を入射させ、測定セル内を通過した透過光を受光素子で受光することにより吸光度を測定する。また、測定された吸光度から、ランベルト・ベールの法則に従って流体の濃度を求めることができる(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
なお、本明細書において、内部に導入された流体の濃度を検出するために用いられる種々の透過光検出構造を広く、測定セルと呼ぶことにする。測定セルには、ガス供給ラインから分岐して別個に配置されたセル構造だけでなく、特許文献1~3に示されるようなガス供給ラインの途中に設けられたインライン式の透過光検出構造も含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-219294号公報
【文献】国際公開第2018/021311号
【文献】特開2018-25499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
測定セル内の流体濃度を吸光度に基づいて測定するためには、流体が吸収できる波長の光を入射させる必要がある。しかしながら、本発明者の知見によれば、測定セル内の温度によって、同じガス種であっても吸光特性が変化する可能性があり、このために濃度測定の精度が低下するおそれがあることがわかった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、より測定精度が向上した濃度測定方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態による濃度測定方法は、被測定流体が流れる流路を有する測定セルと、前記測定セルへの入射光を発する光源と、前記測定セルから出射した光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて前記被測定流体の吸光度および濃度を演算する演算部と、前記測定セル内の前記被測定流体の温度を測定する温度センサとを有し、前記演算部は、前記光検出器の検出信号に基づいて、ランベルト・ベールの法則に基づいて流体濃度を求めるように構成されている装置を用いて行う濃度測定方法であって、前記被測定流体として温度によって分子構造が変化するガスを前記測定セル内に流す工程と、前記被測定流体によって吸光される波長の光を前記光源から前記測定セルへ入射させるとともに、前記測定セルから出射した前記光の強度を前記光検出器によって測定する工程と、前記温度センサによって測定された温度と、前記光検出器の出力とに基づいて、前記被測定流体の濃度を演算する工程とを含む。
【0009】
ある実施形態において、前記被測定流体は、トリメチルアルミニウムである。
【0010】
ある実施形態において、前記測定セルへ入射させる光の波長は、前記トリメチルアルミニウムによって吸収されやすい220nm~240nmの範囲以外の波長である。
【0011】
ある実施形態において、前記測定セルへ入射させる光の波長は、250nm以上300nm以下である。
【0012】
ある実施形態において、前記トリメチルアルミニウムを含むガスの前記測定セル内での温度が、室温以上150℃以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、流体の温度変化が生じたときにもより正確に濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る濃度測定装置の全体構成を示す模式図である。
図2】TMAlの温度による透過率の違いを示すグラフである。
図3】TMAlの温度による透過率の違いを示すグラフである。
図4】TMAlの二量体および単量体を説明するための図である。
図5】TMAl濃度と吸光度との関係が温度ごとに異なることを示すグラフである。
図6】TMAl濃度測定の例示的なフローを示すフローチャートである。
図7】二芯式の濃度測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態で用いられる濃度測定装置100の全体構成を示す模式図である。濃度測定装置100は、ガス供給ラインに組み込まれる測定セル4を有する高温ガスユニット50と、高温ガスユニット50と離間して配置され光源1および演算部8などを含む電気ユニット52とを備えている。高温ガスユニット50と電気ユニット52とは、光ファイバ10aおよびセンサケーブル10bによって接続されている。
【0017】
高温ガスユニット50は、被測定流体の種類によって例えば100℃~150℃程度にまで加熱される可能性があるが、これと離間する電気ユニット52は典型的には室温(クリーンルーム雰囲気)に維持されている。電気ユニット52には、濃度測定装置100に動作制御信号を送信したり、濃度測定装置100から測定濃度信号を受信したりする外部制御装置54が接続されている。なお、ここでは「高温ガスユニット」としているが、必ずしも高温で使用するとは限らず、常温(室温:例えば25℃)や常温以下で流体となっているガスを用いる場合は、加熱しない状態で使用する場合もある。
【0018】
高温ガスユニット50には、被測定流体の流入口4a、流出口4bおよびこれらの間を長手方向に沿って延びる流路4cを有する測定セル4が設けられている。測定セル4の一方の端部には、流路4cに接する透光性の窓部(透光性プレート)3が設けられている。また、測定セル4の他方の端部には、入射した光を反射させるための反射部材5が設けられている。なお、本明細書において、光とは、可視光線のみならず、少なくとも赤外線、紫外線を含み、任意の波長の電磁波を含み得る。また、透光性とは、測定セル4に入射させる前記の光に対する内部透過率が濃度測定を行い得る程度に十分に高いことを意味する。
【0019】
測定セル4の窓部3は、窓押さえ部材30によってセル本体40に固定されている。窓押さえ部材30には、光ファイバ10aが接続されたコリメータ6が取り付けられている。コリメータ6は、コリメータレンズ6aを有しており、光源1からの光を測定セル4に平行光として入射させることができ、また、コリメータ6は、反射部材5からの反射光を受光し、これを光ファイバ10aに伝送することができる。コリメータ6は、測定セル4を流れる被測定対象のガスが高温のときにも破損なく高精度に濃度測定を行えるように設計されている。
【0020】
本実施形態では、高温ガスユニット50において、測定セル4内を流れる被測定流体の圧力を検出するための圧力センサ20が設けられている。また、測定セル4には、被測定流体の温度を測定するための温度センサ11(ここでは測温抵抗体)が設けられている。圧力センサ20および温度センサ11の出力は、センサケーブル10bを介して電気ユニット52に入力される。温度センサ11は、複数が設けられていてもよい。また、温度センサ11としては、測温抵抗体以外にも、サーミスタや熱電対などを用いることもできる。
【0021】
電気ユニット52には、測定セル4内に入射させる光を発する光源1と、測定セル4から出射した光を受光する測定光検出器7と、測定光検出器7から出力される、受光した光の強度に応じた検出信号に基づいて被測定流体の濃度を演算するように構成された演算部8と、光源1からの参照光を受光する参照光検出器9とが設けられている。
【0022】
本実施形態では、測定光検出器7と参照光検出器9とがビームスプリッタ12を挟んで対向して配置されている。ビームスプリッタ12は、光源1からの光の一部を参照光検出器9に入射させ、また、測定セル4からの検出光を測定光検出器7に入射させる。測定光検出器7および参照光検出器9を構成する受光素子としては、例えばフォトダイオードやフォトトランジスタが好適に用いられる。
【0023】
演算部8は、例えば、回路基板上に設けられたプロセッサやメモリなどによって構成され、入力信号に基づいて所定の演算を実行するコンピュータプログラムを含み、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現され得る。
【0024】
濃度測定装置100において、光源1と測定セル4とは、導光部材である光ファイバ10aによって接続されている。光源1からの光は、光ファイバ10aによって測定セル4の窓部3に導光される。また、光ファイバ10aは、反射部材5によって反射された光を測定光検出器7に導光する機能も兼ね備えている。光ファイバ10aは、入射光用の光ファイバと検出光用の光ファイバとを含むものであってもよいし、光ファイババンドルの態様で提供されるものであってもよい。また、後述するように、別の態様において、入射光を測定セル4に導光するための光ファイバと、測定セル4から出射した光を導光するための光ファイバとは、別個に設けられていてもよい。
【0025】
本実施形態では、測定セル4の流入口4aと流出口4bとが流路4cの両側(紙面における流路4cの右側と左側)に配置され、ガス供給ラインに組み込まれたときに、濃度測定装置100は全体として水平方向にガスを流すように構成されている。一方、流路4cは、ガス供給ラインにおける全体の流れ方向に直交する方向に延びている。本明細書では、このような構成を、縦型の測定セル4と呼んでおり、縦型の測定セル4を用いれば、ガス供給ラインに組み込まれたときに省スペース化を実現できるとともに、メンテナンスがしやすいという利点が得られる。なお、図示する測定セル4では、流入口4aが反射部材5の近傍に配置され、流出口4bが窓部3の近傍に配置されているが、他の態様において、流入口4aが窓部3の近傍に配置され、流出口4bが反射部材5の近傍に配置されていてもよく、また流路4cは必ずしも全体の流れ方向に対して直交する方向に延びなければならないと言う事はない。
【0026】
窓部3としては、紫外光等の濃度測定に用いる検出光に対して耐性および高透過率を有し、機械的・化学的に安定なサファイアが好適に用いられるが、他の安定な素材、例えば石英ガラスを用いることもできる。測定セル4のセル本体40(流路形成部)は例えばSUS316L製であってよい。
【0027】
測定セル4の窓部3の反対側の端部に配置された反射部材5は、押さえ部材32によって、ガスケット(図示せず)を介して、セル本体40の下面に設けられた取り付け凹部の支持面に固定されている。反射部材5の反射面は、入射光の進行方向または流路の中心軸に対して垂直になるように設けられており、反射光は入射光と実質的に同じ光路を通って窓部3へと反射される。
【0028】
反射部材5は、例えば、サファイアプレートの裏面にスパッタリングによって反射層としてのアルミニウム層が形成された構成を有している。反射部材5は、サファイアプレートの裏面に反射ミラーが配置された態様であってもよい。また、反射部材5は、反射層として誘電体多層膜を含むものであってもよく、誘電体多層膜を用いれば、特定波長域の光(例えば近紫外線)を選択的に反射させることができる。誘電体多層膜は、屈折率の異なる複数の光学被膜の積層体(例えば、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜との積層体)によって構成されるものであり、各層の厚さや屈折率を適宜選択することによって、特定の波長の光を反射したり透過させたりすることができる。
【0029】
また、誘電体多層膜は、任意の割合で光を反射させることが出来るため、例えば、入射光が反射部材5によって反射される際、入射した光を100%反射するのではなく、一部(例えば10%)は透過するようにし、反射部材5の下部(流路4cに接する面とは反対側の面)に設置した光検出器または光検出器に接続された光学機器によって、透過した光を受光することもでき、透過した光を参照光として利用し、参照光検出器9の代替とすることも可能である。
【0030】
以上に説明した測定セル4において、測定セル4内を往復する光の光路長は、窓部3と反射部材5との距離の2倍によって規定することができる。濃度測定装置100において、測定セル4に入射され、その後、反射部材5によって反射された光は、測定セル4内の流路4cに存在するガスによって、ガスの濃度に依存して吸収される。そして、演算部8は、測定光検出器7からの検出信号を周波数解析することによって、当該吸収波長λでの吸光度Aλを測定することができ、さらに、以下の式(1)に示すランベルト・ベールの法則に基づいて、吸光度Aからガス濃度Cを算出することができる。
Aλ=-log10(I/I0)=αLC ・・・(1)
【0031】
上記の式(1)において、I0は測定セルに入射する入射光の強度、Iは測定セル内のガス中を通過した光の強度、αはモル吸光係数(m2/mol)、Lは光路長(m)、Cは濃度(mol/m3)である。モル吸光係数αは物質によって決まる係数である。
【0032】
なお、上記式における入射光強度I0については、測定セル4内に吸光性のガスが存在しないとき(例えば、紫外光を吸収しないパージガスが充満しているときや、真空に引かれているとき)に測定光検出器7によって検出された光の強度を入射光強度I0と見なしてよい。
【0033】
測定セル4の光路長Lは、上記のように、窓部3と反射部材5との距離の2倍として規定することができるので、光入射窓と光出射窓とを測定セルの両端部に備える従来の濃度測定装置に比べて、2倍の光路長を得ることができる。これにより、小型化したにも関わらず、測定精度を向上させることができる。また、濃度測定装置100では、測定セル4の片側に設けた1つの窓部3を介して1つの光学機器のみを用いて光入射および受光を行うので、部品点数を削減することができる。
【0034】
さらに、濃度測定装置100では、圧力センサ20が設けられており、測定セル4内のガスの圧力を測定することができる。したがって、圧力センサ20からの出力に基づいて、光検出器の出力によって測定された吸光度を所定圧力(例えば、1気圧)のときの吸光度に補正することができる。そして、補正した吸光度に基づいて、特許文献3に記載の濃度測定装置と同様に、ランベルト・ベールの法則から、被測定流体の濃度を演算により求めることができる。このように、演算部8が、測定光検出器7および圧力センサ20を用いて被測定流体の濃度を演算するので、濃度測定をより精度よく行うことができる。また、測定セル4を流れるガスの温度を測定する温度センサ11を設けているので、温度による補正を含む濃度検出を実行することもできる。
【0035】
以下、濃度測定装置100を用いて、被測定流体としてのトリメチルアルミニウム(TMAl)ガスの濃度を測定する方法について説明する。
【0036】
図2は、アルゴンガス中に約1%のTMAlが含まれたガスにおける温度による透過率の違いを示すグラフである。なお、透過率は、入射光強度I0と透過光強度Iの比(I/I0)によって規定され、上記の式(1)からわかるように、透過率(I/I0)を用いて吸光度Aλを規定することができる。透過率100%は、測定セル4における光の吸収が生じなかったことを意味し、透過率0%は、測定セル4において光が完全に吸収されたことを意味する。
【0037】
図2には、測定セルへの入射光の波長と透過率との関係が、測定セル内のガスの温度(T1:室温、T2:40.0℃、T3:59.8℃、T4:80.2℃、T5:99.6℃、T6:120.0℃、T7:139.4℃)のそれぞれについて示されている。
【0038】
また、図3(a)~(d)は、25℃、50℃、80℃、100℃における、TMAl混入ガス(濃度約1%)と、TMAl非混入ガス(具体的には100%N2ガス)とを切り替えて流したときの入射光強度I0と透過光強度Iの差(I0-I)に対応する出力を示すグラフである。
【0039】
図2および図3からわかるように、TMAlの透過率特性は、温度によって大きく異なるものとなる。具体的には、温度が高い程、吸光の程度が増大し、また、吸光のピーク波長が長波長側へとシフトする。
【0040】
このことは、図4に示すように、TMAlが、室温では3中心2電子結合(Three-Center Two-Electron Bond)による二量体D(dimer)として安定状態を呈するのに対して、温度が上昇するにつれて二量体が分解して単量体M(monomer)の割合が増加することに起因するものと考えられる。高温では、ガス中に含まれるTMAlの単量体の割合が増加するために、特に220~240nmの波長域で紫外線の吸収が大きくなるものと考えられる。なお、TMAlの二量体の分子式は、[Al(CH33]2で表され、その分子量は144.18であり、単量体分子式および分子量はAl(CH33および72.09である。
【0041】
このため、ピーク吸光波長域である220~240nmを用いた場合には、温度を考慮しないで吸光度から濃度を測定しようとすると、正確に濃度を求めることが困難である。したがって、本実施形態では、TMAlの濃度測定を行うときには、ピーク吸収波長から長波長側にずらした波長域の紫外光を入射させることにより、温度依存性が低減した状態で、濃度測定を行うようにしている。
【0042】
より具体的には、想定されるTMAlガス温度が室温~150℃程度であるとき、ピーク吸収波長付近の220nm~240nmではなく、例えば250nm~260nmの紫外光、特に、255nm近辺の紫外光を用いるようにしている。このようにすれば、ガス温度による吸光特性の変化の影響を受けにくくすることができる。また、吸光特性の温度による影響をより受けにくくするために、より波長が長い260nm~300nm(例えば、280nmまたは300nm)の紫外光を用いてもよい。
【0043】
また、上記のように、250nm~260nmの紫外光を用いた場合にも、図2からわかるように、同じ約1%濃度のTMAlガスであっても、温度が高いほど透過率が低くなり(すなわち吸光度が高くなり)、室温と約140℃とでは、透過率に20%程度の差が生じることがわかる。また、260nm~300nmの紫外線を用いた場合も、程度は小さくなるものの、依然として温度による透過率の差異が発生する。このため、温度センサ11から得られる測定温度を用いて、温度による透過率または吸光度の補正を行ったうえで、濃度を演算により求めることが好適である。
【0044】
上記の補正を行うためには、吸光度あるいは吸光係数の補正係数を温度ごとに定めておき、温度センサ11の出力に基づいて決定した補正係数で、検出光強度の測定から得られた吸光度を補正することによって補正後の吸光度を求めるようにすればよい。補正後の吸光度からは、ランベルト・ベールの式にしたがって濃度を求めることができる。
【0045】
上記の補正係数は、温度の関数として与えられていてもよいし、各温度ごとの補正係数がテーブルに格納されていてもよい。補正係数は、例えば、典型的な濃度測定温度である140℃での係数を1とすると、140℃より低温では1よりも大きい値に設定され、140℃より高温では1未満の値に設定される。
【0046】
また、図5に示すように、TMAl濃度と吸光度Aλ=-log10(I/I0)との関係(グラフの傾き)を温度ごとまたは温度の関数として設定しておき、温度に応じて多点補正を施すことによって、温度に対応した濃度測定を行うことが可能である。より具体的には、測定された温度に基づいて傾きを補正した線形式に従って、検出光強度および測定温度に基づいて濃度Cを演算により求めることが可能である。
【0047】
図6は、本実施形態による濃度測定方法を示す例示的なフローチャートである。
【0048】
まず、図6のステップS1に示すように、測定セル4にTMAlを含むガスが流れていない状態(例えば、100%アルゴンガスが流れている状態または測定セル内が真空引きされている状態)で、光源1から波長250nm~300nmの紫外光を測定セルへと入射させるとともに、測定光検出器7によって測定セル内を通過した光の強度を検出し、これを入射光強度I0に設定する。
【0049】
次に、ステップS2に示すように、測定セル4に、温度によって分子構造が変化するガスである、TMAlを含むガスを流す。そして、ガスが安定して流れている状態において、ステップS3に示すように、光源1から測定セル4に上記と同じ波長の紫外光を入射させるとともに、測定光検出器7によって測定セル4を通過した光の強度Iを検出する。また、ガスが安定して流れている状態において、温度センサ11を用いて、測定セル4を流れるガスの温度Tも測定される。
【0050】
次に、ステップS4に示すように、吸光度Aλを、Aλ=-log10(I/I0)から求めるともに、測定温度Tに基づいて補正係数β(T)を決定する。
【0051】
その後、ステップS5に示すように、測定により得られた吸光度Aλおよび補正係数β(T)に基づいて、補正したランベルト・ベールの式(Aλ=α・β(T)・LC)から、濃度Cを演算によって求める。
【0052】
以上、本発明の実施形態による濃度測定装置を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、測定に用いられる光としては、紫外領域以外の波長領域の光も利用可能である。また、本発明においてはTMAlにおける吸光度の補正について示したが、温度の上昇に伴い、二量体が分解して単量体になるような材料(温度によって分子構造が変化する材料)であれば同様の傾向が出るものと推定されるため、同様の補正により吸光度を求める事が出来る。
【0053】
また、上記には図1に示したように、入射光と出射光とを1本の光ファイバ10aで導光する装置を説明したが、二芯式の濃度測定装置を用いることも好適である。このような二芯式の濃度測定装置は、例えば、特許文献図8等)に記載されている。
【0054】
図7に示すように、二芯式の濃度測定装置では、測定セル4と、電気ユニット52とが、入射光ファイバ10cと出射光ファイバ10dとによって接続されている(ここでは、測定セル4に設けた温度センサおよびこれに接続されるセンサケーブル等は省略している)。発光素子13A、13Bからの光は、入射用ファイバ10cによって導光され、窓部3を介して測定セル4に入射される。また、反射部材5によって反射され測定セル4から出射した測定光は、出射光ファイバ10dによって導光され、測定光検出器7で受光される。このように入射光と出射光とを別経路で導光することによって、迷光の影響を低減し得る。また、図7に示すように、窓部3の窓面法線方向をコリメータの光軸方向から例えば1~5°程度傾けて配置することによっても迷光の発生を低減し得る。測定セル4のガス流入口とガス流出口とは、図1に示した態様とは異なり、測定セル4の同じ側面に設けられていてもよい。
【0055】
また、上記には反射部材を用いる反射型の濃度測定装置を説明したが、反射部材を用いることなく、測定セルの一端側から入射光を入射させ、測定セルの他端側から測定光を取り出すように構成された透過型の濃度測定装置を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の実施形態にかかる濃度測定方法は、温度によって分子構造が変化するガスの濃度を測定するために好適に利用される。
【符号の説明】
【0057】
1 光源
3 窓部
4 測定セル
4a 流入口
4b 流出口
4c 流路
5 反射部材
6 コリメータ
7 測定光検出器
8 演算部
9 参照光検出器
10a 光ファイバ
10b センサケーブル
11 温度センサ
20 圧力センサ
100 濃度測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7