(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】紫外線LED用光学部材
(51)【国際特許分類】
H01L 33/58 20100101AFI20230703BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20230703BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230703BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20230703BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20230703BHJP
G02B 3/02 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H01L33/58
H01L33/56
C08J5/00 CEW
C08J5/00 CFH
G02B1/04
G02B3/00 A
G02B3/02
(21)【出願番号】P 2022543564
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034382
(87)【国際公開番号】W WO2022075048
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2020168700
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田崎 益次
(72)【発明者】
【氏名】伊東 由多
(72)【発明者】
【氏名】川口 武
(72)【発明者】
【氏名】富澤 延行
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105475(JP,A)
【文献】特開2012-138422(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158813(WO,A1)
【文献】特開2019-207956(JP,A)
【文献】特開2014-129549(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110915006(CN,A)
【文献】特開2020-009858(JP,A)
【文献】特開2016-186063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
C08J 5/00,5/18
C08J 7/00
G02B 1/04
G02B 3/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノオルガノシロキシ単位であるM単位、ジオルガノシロキシ単位であるD単位、トリオルガノシロキシ単位であるT単位、シロキシ単位であるQ単位のうち、前記T単位と前記D単位との少なくとも何れかを主鎖である主骨格に有している三次元架橋加熱硬化シリコーン樹脂である有機樹脂製
の自立形状乃至立体形状で、前記加熱硬化シリコーン樹脂100質量部に対し、波長200~300nmの吸収特性を示しつつ白金含有触媒、鉛含有触媒、チタン含有触媒、アルミ含有触媒から選ばれる金属触媒と、アミン系触媒、有機化合物との少なくとも何れかの有機系及び/又は無機系の硬化触媒を0.3質量部以上は含まない光学部材を有することによって、
ショアD硬度が40~95であって、厚さ5mmでの波長200~300nmの平均透過率が50%以上
、かつ波長250~280nmにおいて透過率を何れかが少なくとも90%とする光学特性を示すことを特徴とする紫外線LED用光学部材。
【請求項2】
前記光学部材が、200~250nmの少なくとも何れかの波長での透過率を少なくとも60%とする光学特性を示すことを特徴とする請求項1の紫外線LED用光学部材。
【請求項3】
前記加熱硬化シリコーン樹脂は、縮合重合シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項4】
前記縮合重合シリコーン樹脂は、前記T単位からなるT樹脂、前記M単位と前記T単位と前記Q単位とを組み合わせて有するMTQ樹脂、前記M単位と前記D単位と前記T単位と前記Q単位とを組み合わせて有するMDTQ樹脂、前記D単位と前記T単位とを組み合わせて有するDT樹脂、及び前記D単位と前記T単位と前記Q単位とを組み合わせて有するTDQ樹脂から選ばれる何れかのT単位含有三次元架橋シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項
3に記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項5】
前記光学部材が、波長200~300nmの前記平均透過率を70%以上とする光学特性を示すことを特徴とする請求項1~
4の何れかに記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項6】
前記光学部材が、厚みを最大で
10mmとすることを特徴とする請求項1~
5の何れかに記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項7】
前記有機樹脂製の前記光学部材のみからなるレンズ、レンズシート、レンズアレイ、フィルム、又は導光板;
前記有機樹脂と同種の又は異種の樹脂製の又は石英ガラス製の成形光学基材の少なくとも一部を覆う前記有機樹脂製の前記光学部材からなる被膜、又は被覆部材;若しくは
有機樹脂製で光学素子の封止材
であることを特徴とする請求項1~
6の何れかに記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項8】
前記光学部材が、コロナ処理面、プラズマ処理面、紫外線照射処理面、分子接着剤処理面の何れかの改質処理面を有していることを特徴とする請求項1~
7の何れかに記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項9】
前記成形光学基材と、前記光学部材との接合面の少なくとも何れかが、コロナ処理面、プラズマ処理面、分子接着剤処理面の何れかの改質処理面を有していることを特徴とする請求項
7に記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項10】
立方体成形光学基材、長方体成形光学基材、球体成形光学基材、半球体成形光学基材、プリズム体成形光学基材、球面レンズ成形光学基材、及び非球面レンズ成形光学基材から選ばれる前記成形光学基材と、それの少なくとも一部を覆う前記光学部材とからなることを特徴とする請求項
7に記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項11】
レンズであることを特徴とする請求項
7~
10の何れかに記載の紫外線LED用光学部材。
【請求項12】
前記加熱硬化シリコーン樹脂中、前記T単位と前記Q単位との分岐構造が60%であることを特徴とする請求項1~11の何れかに記載の紫外線LED用光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線波長領域でも高い透過率を有する光学部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で紫外線が活用されてきており、特に短波長の紫外線を照射する紫外線LED(UV-LED)が開発されている。
【0003】
一般的に紫外線の波長領域として、UVA(紫外線A波:波長400~315nm)、UVB(紫外線B波:波長315~280nm)、UVC(紫外線C波:波長280~100nm)に区分されている。太陽光線のうち、エネルギーの高いUVCはオゾン層に吸収されて地表には到達しないが、UVA・UVBは地表に到達し、日光浴によるビタミンDの活性化、洗濯物干しや布団干しの際の滅菌、光合成などに有用である反面、日焼け、炎症、シミ、皺、皮膚がん発症などの影響があることが知られている。
【0004】
このような紫外線の特性を利用して、工業的、日用的に人工紫外線が各種用途に用いられている。例えば、殺菌・滅菌、浄水・空気清浄の分野ではUVCの波長が使用され、医療や農業の分野ではUVBの波長が使用され、樹脂の硬化や接着、印刷や塗装の分野ではUVAの波長が使用されている。
【0005】
従来、それら紫外線の光源として、水銀を用いた紫外線ランプが使用されてきたが、環境問題や消費電力等により紫外線LEDへ切り替えが進んでいる。
【0006】
紫外線LEDは、多波長を照射する紫外線ランプ光源に比べ放射波長幅が狭くて、特定波長での電力効率が高く省エネルギー化に資することができるばかりか、点灯速度が速く、電源のON/OFFの切り替えによる劣化がなく、高寿命・高メンテナンス性のため使い勝手がよく、小型化・軽量化・自由な設計ができ、水銀不使用で環境負荷がかからず環境に優しいというメリットがある反面、紫外線ランプに比べて大幅に出力が低いうえ、しかも光量当たりの価格が高いというデメリットがあった。
【0007】
そこで、LED装置やLED素子の光の取り出し効率を安定的に向上させるために、特許文献1に、実装基板と、前記実装基板上に配置されており、紫外線を放射する発光素子と、前記実装基板上に配置され前記発光素子を囲んでいる枠状のスペーサと、前記発光素子を覆うように前記スペーサ上に配置されており、前記発光素子から放射される紫外線を透過するカバーと、前記発光素子と前記カバーとの間に配置されている合成石英のようなレンズと、を備え、前記実装基板の厚さ方向において前記レンズが空間のみを介して前記発光素子と対向しており、前記スペーサは、前記厚さ方向及び前記厚さ方向に直交する平面内における前記レンズの位置決めを行う位置決め構造を有する発光装置が、開示されている。
【0008】
また特許文献2に、深紫外光を発光する光源と、前記深紫外光が照射されることにより、前記深紫外光の透過率が上昇する性質を有する材料によって形成された、前記深紫外光の配光を制御するための光束制御部材とを有する発光装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-207956号公報
【文献】特開2020-9858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
紫外線LED装置には、特許文献1のように、主に紫外線領域で高い透過率を有する合成石英などの無機材料により光学部材が形成されているが、その製造方法は困難で設計の自由度が低く、光学部材が高価になってしまう。
【0011】
また、特許文献2のように、開示されている深紫外線外光の透過率が上昇する性質を有する材料によって形成された光束制御部材を有する発光装置では、紫外線領域例えば波長200~250nmの透過率が低く不十分であった。
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、紫外線領域の透過率が高く、長期間の使用によっても安定しており信頼性に優れた紫外線LED用光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた紫外線LED用光学部材は、モノオルガノシロキシ単位であるM単位、ジオルガノシロキシ単位であるD単位、トリオルガノシロキシ単位であるT単位、シロキシ単位であるQ単位のうち、前記T単位と前記D単位との少なくとも何れかを主鎖である主骨格に有している三次元架橋加熱硬化シリコーン樹脂である有機樹脂製の自立形状乃至立体形状で、前記加熱硬化シリコーン樹脂100質量部に対し、波長200~300nmの吸収特性を示しつつ白金含有触媒、鉛含有触媒、チタン含有触媒、アルミ含有触媒から選ばれる金属触媒と、アミン系触媒、有機化合物との少なくとも何れかの有機系及び/又は無機系の硬化触媒を0.3質量部以上は含まない光学部材を有することによって、ショアD硬度が40~95であって、厚さ5mmでの波長200~300nmの平均透過率が50%以上、かつ波長250~280nmにおいて透過率を何れかが少なくとも90%とする光学特性を示すことを特徴とする。
【0014】
紫外線LED用光学部材は、前記光学部材が、200~250nmの少なくとも何れかの波長での透過率を少なくとも60%とする光学特性を示すことが好ましい。
【0015】
紫外線LED用光学部材は、前記有機樹脂が、例えばシリコーン樹脂又はフッ素樹脂であるというものである。
【0016】
紫外線LED用光学部材は、前記有機樹脂が、縮合重合シリコーン樹脂であると好ましい。
【0017】
紫外線LED用光学部材は、前記縮合重合シリコーン樹脂が、モノオルガノシロキシ単位であるM単位、ジオルガノシロキシ単位であるD単位、トリオルガノシロキシ単位であるT単位、シロキシ単位であるQ単位のうち、前記T単位と前記D単位との少なくとも何れかを有していると、一層好ましい。
【0018】
紫外線LED用光学部材は、前記縮合重合シリコーン樹脂は、前記T単位からなるT樹脂、前記M単位と前記T単位と前記Q単位とを組み合わせて有するMTQ樹脂、前記M単位と前記D単位と前記T単位と前記Q単位とを組み合わせて有するMDTQ樹脂、前記D単位と前記T単位とを組み合わせて有するDT樹脂、及び前記D単位と前記T単位と前記Q単位とを組み合わせて有するTDQ樹脂から選ばれる何れかのT単位含有三次元架橋シリコーン樹脂であると、なお一層好ましい。
【0019】
紫外線LED用光学部材は、前記光学部材が、波長200~300nmの前記平均透過率を70%以上とする光学特性を示すものであると、一層好ましい。
【0020】
紫外線LED用光学部材は、前記光学部材が、200~250nmの少なくとも何れかの波長での前記透過率を少なくとも70%とするものであると、なお一層好ましい。
【0021】
紫外線LED用光学部材は、前記光学部材が、波長250~280nmにおいて透過率を何れかが少なくとも90%とするものであると、一層好ましい。
【0022】
紫外線LED用光学部材は、前記光学部材が、厚みを最大で5mmとするものであってもよい。
【0023】
紫外線LED用光学部材は、前記有機樹脂製の前記光学部材のみからなるレンズ、レンズシート、レンズアレイ、フィルム、又は導光板;前記有機樹脂と同種の又は異種の樹脂製の又は石英ガラス製の成形光学基材の少なくとも一部を覆う前記有機樹脂製の前記光学部材からなる被膜、又は被覆部材;若しくは有機樹脂製で光学素子の封止材であるものが、挙げられる。
【0024】
紫外線LED用光学部材は、前記有機樹脂が、縮合重合シリコーン樹脂であって、硬化触媒を、前記縮合重合シリコーン樹脂100質量部に対して0.3質量部以上含まないものであることが、好ましい。
【0025】
紫外線LED用光学部材は、前記光学部材が、コロナ処理面、プラズマ処理面、紫外線照射処理面、分子接着剤処理面の何れかの改質処理面を有しているものであってもよい。
【0026】
紫外線LED用光学部材は、前記成形光学基材と、前記光学部材との接合面の少なくとも何れかが、コロナ処理面、プラズマ処理面、分子接着剤処理面の何れかの改質処理面を有していると、一層好ましい。
【0027】
紫外線LED用光学部材は、立方体成形光学基材、長方体成形光学基材、球体成形光学基材、半球体成形光学基材、プリズム体成形光学基材、球面レンズ成形光学基材、及び非球面レンズ成形光学基材から選ばれる前記成形光学基材と、それの少なくとも一部を覆う前記光学部材とからなるものであってもよい。
【0028】
紫外線LED用光学部材は、レンズとして用いられることが好ましい。
紫外線LED用光学部材は、例えば前記加熱硬化シリコーン樹脂中、前記T単位と前記Q単位との分岐構造が60%であるというものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の紫外線LED用光学部材によれば、好ましくは、D単位及びT単位、又はT単位のみを有する縮合重合シリコーン樹脂であることにより、成形性を兼ね備えつつ紫外線領域の波長200~300nmの平均透過率が50%以上、とりわけ70%以上の光学部材を得ることができる。
【0030】
本発明の紫外線LED用光学部材によれば、波長200~300nmの波長を高い透過率で透過させつつ、集光、散光、拡散、又は導光させるレンズ、レンズシート、レンズアレイ、フィルム、又は導光板として用いることができる。また、この本発明の紫外線LED用光学部材は、成形光学基材を覆う被膜、又は被覆部材として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明を適用する紫外線LED用光学部材の一例を示す概要図である。
【
図2】本発明を適用する紫外線LED用光学部材と、本発明を適用外の紫外線LED用光学部材とについて、透過性評価試験の結果である、200~800nmの波長に対する透過率を示す図である。
【
図3】本発明を適用する別な紫外線LED用光学部材について、透過性評価試験の結果である、200~800nmの波長に対する透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0033】
本発明の紫外線LED用光学部材は、有機樹脂製からなる、好ましくはシリコーン樹脂又はフッ素樹脂、より好ましくは縮合重合シリコーン樹脂製からなる光学部材を有するという紫外線LED用光学部材である。
【0034】
紫外線LED用光学部材は、光学部材が、波長200~300nmの平均透過率を50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より一層好ましくは80%以上であることがよく、波長200~250nmの平均透過率が50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上であることがよく、また波長250~280nmにおいて厚さ5mmでの透過率を何れかが少なくとも90%になっているというものである。
【0035】
紫外線LED用光学部材は、紫外線領域の波長200~300nmの平均透過率が50%以上となればよく、厚みは最小で0.01mm、最大で10mm以下、好ましくは最大で5mmとすることがよい。
【0036】
ここでの平均透過率とは、波長200~300nm又は波長200~250nmの特定波長領域の透過率の平均値を示す。例えば、分光光度計で測定する連続波長の0.1nm乃至5nm毎好ましくは1nm毎の透過率を平均するものであってもよい。
【0037】
この紫外線LED用光学部材は、光学部材のベースポリマーとして、このようなシリコーン樹脂が、下記化学式で示されるT単位(Tユニット:3官能性のオルガノシルセスキオキサン単位:R1SiО3/2単位)、D単位(Dユニット:2官能性のジオルガノシロキサン単位:R2SiО2/2単位)、M単位(Mユニット:1官能性のトリオルガノシロキシ単位:R3SiO1/2)、及びQ単位(Qユニット:4官能性単位:SiO4/2)(何れもRは、具体的にはアルキル基例えばメチル基、又はアリール基例えばフェニル基を示す)のうち、全T・D・M・Q単位の合計モル比に対して、T単位又はD単位若しくはT単位とD単位とを組み合わせたT・D単位の合計のモル比が、50モル%を超えることによりT単位繰返構造又はD単位繰返構造若しくはDT構造を主構造として有する縮合重合シリコーン樹脂を用いることにより、波長200~300nmの平均透過率を50%以上とする高い透過率を有する光学特性を有するものである。
【0038】
【0039】
または、この紫外線LED用光学部材は、光学部材のベースポリマーとして、このようなフッ素樹脂が、アモルファス構造となるフッ素樹脂であることにより、波長200~300nmの平均透過率が50%以上とする高い透過率を有する光学特性となる。
【0040】
一般的にシリコーンゴム又はシリコーンレジンは、紫外線領域(特にUV-B、UV-C)の透過率が低く、紫外線LED用の光学部材として使用されていなかった。
【0041】
一方、Q構造のみからなるものは、所謂ガラス構造に近く、機械的強度が強い反面、樹脂のような成形が困難である。
【0042】
それに対し、T単位繰返し構造を有しつつ、前記T単位からなるT樹脂、M単位とT単位とQ単位とを組み合わせて有するMTQ樹脂、M単位とD単位とT単位とQ単位とを組み合わせて有するMDTQ樹脂、D単位とT単位とを組み合わせて有するDT樹脂、及びD単位とT単位とQ単位とを組み合わせて有するTDQ樹脂から選ばれる何れかのT単位を主体としたT単位含有三次元架橋シリコーン樹脂、好ましくはDT樹脂とする三次元架橋シリコーン樹脂であるベース樹脂からなる紫外線LED用光学部材は、石英ガラスや合成石英ガラスと異なり、成形性と透過性に優れている。
【0043】
また、M単位とQ単位とから形成されたMQ樹脂は、非常に強固であるため機械的強度は良好であるが、皮膜が脆いため自立膜どころか立体的形状の形成が困難であるのに対し、T樹脂、MTQ樹脂、MDTQ樹脂、DT樹脂、TQ樹脂、及びTDQ樹脂は、MQ樹脂と比較して、皮膜の柔軟性が向上し、追随性を有した強固な自立膜の形成のみならず立体的形状の形成が可能であり、樹脂由来の強固性も有している。
【0044】
光学部材のベース材は、有機樹脂からなる、好ましくはシリコーン樹脂又はフッ素樹脂、より好ましくは縮合重合シリコーン樹脂の硬化性のシリコーン樹脂であり、分岐構造(T単位又はQ単位)が60%以上で、硬化させた後のショアDによる硬度が40~95、好ましくは45~90、より好ましくは50~85であることにより、上記特定の光学特性を示すようになる。
【0045】
光学部材のベース材料としては、T構造のみから構成されたシリコーン樹脂(T単位の比率が100%)、DT構造を主構造として有していれば、T単位の比率は、D単位に対して、好ましくは70%~99%、より好ましくは80%~99%、より一層好ましくは90%~99%とするというものである。
【0046】
とりわけ、光学部材のベース材料としては、縮合重合シリコーン樹脂であり、特にDT構造から構成されT単位の比率が高いシリコーン樹脂を用いて成形されていると、他のシリコーンゴムやシリコーン樹脂例えば付加重合シリコーン樹脂や付加重合シリコーンゴム、ラジカル重合シリコーン樹脂やラジカル重合シリコーンゴムで成形された光学部材より、紫外線領域の高い透過率と成形性を両立することができる。その場合、T単位の比率は、D単位に対して、好ましくは70%~99%、より好ましくは80%~99%、より一層好ましくは90%~99%とするというものである。また、T構造のみから構成されたシリコーン樹脂でも紫外線領域の高い透過率と成形性を両立することができる。このように、紫外線LED用光学部材が上記特定の光学特性を示す要因の一つは、光学部材がT単位の構造を主構造とするものであってもよいというものである。
【0047】
このような縮合重合シリコーン樹脂からなる光学部材を有する紫外線LED用光学部材は、D単位及び/又はT単位に結合した一部のアルキル基等のSi―C結合となる有機官能基が、エネルギー照射処理等により脱離し、Q構造及び/又はガラス構造(Si=O構造又はSi-OH構造)を有することとなる結果、そのSi基が無機化して、紫外線領域の波長を吸収する要因とされるSi―C結合等を改質又は除去、減少させることにより、紫外線領域でも高い透過率とすることができると推察される。その結果、可視領域の透過率を維持したまま、紫外線領域でも高い透過率のまま安定した特性の光学部材とすることができる。このように、紫外線LED用光学部材が上記特定の光学特性を示す要因の一つは、光学部材が、ビニル基のような付加重合性の官能基を有さない縮合重合シリコーン樹脂からなっていることが好ましいというものである。
【0048】
紫外線LED用光学部材の光学部材を形成するために用いられるシリコーン樹脂原材料組成物は、付加重合シリコーンの構造式にあるようなC-C結合やC=C結合などの紫外線を吸収する要因を除く観点から、縮合硬化できる縮合重合型のシリコーン樹脂が好ましい。
【0049】
より具体的には、下記化学構造式のような主鎖である主骨格にSi-O-Siのシロキサン結合を有するポリオルガノシロキサン(シリコーンレジン)が、挙げられる。下記化学構造式中、Xは、脂肪族不飽和基を含まない1価の非置換基または置換炭化水素基のような有機官能基である。Xの例としては、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基、プロピル基、ペンチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基;トリル基、キシリル基などのアリール基;クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3-トリフルオロプロピル基などの置換炭化水素基が含まれる。この時、Xがフェニル基である場合、紫外線領域の透過率を低減させることから、フェニル基を除くことが好ましい。Xは、1種類でもよいし、複数種類でもよい。また、Xの大部分は、又はその全てがメチル基が好ましい。O-Rは、アルコキシシリル基を示す。
【0050】
【化2】
【化3】
(式中、-O-Rはアルコキシシリル基、-Xはメチル基等の有機官能基を示す)
【0051】
このような原材料の縮合重合シリコーン樹脂は、波長200~300nmの吸収特性を示す白金含有触媒や鉛含有触媒、チタン含有触媒、アルミ含有触媒で例示される金属触媒やりん酸触媒、アミン系触媒、特に有機化合物からなる有機系及び/又は無機系の硬化触媒を、前記シリコーン樹脂100質量部に対し0.3質量部以上、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上含まないことが好ましい。それにより、金属触媒のような硬化触媒が紫外線を吸収する要因を低減又は除去できることから、紫外線LED用光学部材が、波長200~300nmの平均透過率を高めることができる。
【0052】
一方、アモルファスフッ素樹脂は、ペルフルオロ(4-ビニルオキシ-1-ブテン)を環化重合させて、下記化学式のような繰返し構造を有する非結晶フッ素樹脂「サイトップ(CYTOP)」(AGC株式会社製の商品名)が挙げられ、具体的にはCYTOP Aタイプ(末端官能基:-COOH)、同Mタイプ(末端官能基-CONH~Si(OR)n)、同Sタイプ(末端官能基-CF3)(何れも同社製)が挙げられる。
【0053】
【化4】
(式中、nはフッ素樹脂中の繰返し単位数を示す)
【0054】
また、紫外線LED用光学部材、とりわけ光学部材は、原材料の種類や、紫外線LED用光学部材の形状・表面の凹凸性や平滑性の大小又は広狭・硬軟・厚さに関わらず、射出成形(LIMS)や、型成形、押圧用金型・ローラーなどを用いたスタンプ成形、噴霧や塗布のような塗工によって、三次元架橋したシリコーン樹脂へと重合させて、最大の厚さが10mm以下、好ましくは最大の厚さが5mm以下の厚膜乃至板、又は立体形状に形成することができる。
【0055】
このような紫外線LED用光学部材は、光学部材が、前記縮合シリコーン樹脂製で前記の光学特性を有するものであれば特に限定されない。紫外線LED用光学部材1は、光学部材2のみからなるもので、例えば
図1(a)・(b)に示すように、レンズ、例えば両凸レンズ、平凸レンズ(同図(a)参照)、凸メニスカスレンズのような凸レンズ;両凹レンズ、平凹レンズ、凹メニスカスレンズのような凹レンズ;非球面レンズ;シリンドリカルレンズ(同図(b)参照);トロイダルレンズ;フレネルレンズであってもよく、シート状でそれらの形状となったレンズシートであってもよく、それらのレンズが多数配列されたレンズアレイであってもよく、フィルムであってもよく、導光板であってもよい。
【0056】
紫外線LED用光学部材は、コロナ処理、プラズマ処理、分子接着剤のいずれかの表面改質処理をされていることにより、又は接着剤によりLED装置や光学基材、基板、ガラス面、LED素子、別成形光学部材等に接着することができる。
【0057】
紫外線LED用光学部材は、レンズであることにより紫外線LEDからの光を集光、散光、拡散、又は導光させることができ、光の照射先の光の強度や光の照射面積を調整することができる。この時の紫外線LEDからの光は、紫外線LEDのピーク波長が200~360nm、好ましくは220~300nm、より好ましくは220~280nmであるとよい。ここでのピーク波長とは、最も強度の高い波長を示す。
【0058】
また、紫外線LED用光学部材は、前記シリコーン樹脂と同種の又は異種の樹脂製又は石英ガラス製の成形光学基材を覆っているものであってもよく、具体的には前記シリコーン樹脂製の被膜、若しくは被覆部材、例えばコーティング層又は梨地被覆層、若しくは集光性又は光拡散性の被覆部材で、成形光学基材を覆っているハイブリッドレンズであってもよい。
【0059】
即ち、紫外線LED用光学部材は、前記縮合シリコーン樹脂で成形してもよいが、石英ガラスなどの紫外線領域でも透過率の高い特性を持つ、立体形状や板状の部材を支持体とする成形光学基材上に、前記有機樹脂製の光学部材と石英ガラスとの接着や貼り合わせ、前記有機樹脂を石英ガラスにコーティングし成形、又は前記有機樹脂製の光学部材と石英ガラスを分子接着するなどにより組み合わせて使用するとよく、10mm以上の厚みのある紫外線LED用光学部材を得ることもできる。
【0060】
具体的には、紫外線LED用光学部材は、立方体成形光学基材、長方体成形光学基材、球体成形光学基材、半球体成形光学基材、プリズム体成形光学基材、球面レンズ成形光学基材、及び非球面レンズ成形光学基材から選ばれる前記成形光学基材と、それの少なくとも一部を覆う前記光学部材とからなるハイブリッドレンズが挙げられる。
【0061】
より具体的には、紫外線LED用光学部材1は、
図1(c)・(d)に示すように、立方体状又は直方体状の石英ガラス製の成形光学基材3上を、平凸レンズ、フレネルレンズのような光学部材2で覆ったハイブリッド型レンズや、同図(e)に示すように、球状の石英ガラスの成形光学基材3の周囲を、下側で直方体状となりつつ上側で成形光学基材3の球面の上半球に沿って凸メニスカスレンズ形状となるように被覆して、覆ったハイブリッド型レンズや、同図(f)に示すように、半球状レンズ、凸レンズ、凹レンズ、非球面レンズ、シリンドリカルレンズ、トロイダルレンズ、又はフレネルレンズ(同図(f)の代表例として平凸レンズ)である成形光学基材3上を、その面上に沿って膜状の光学部材2で被覆したハイブリッド型レンズであってもよい。
【0062】
紫外線LED用光学部材は、前記透過率を満たすのであれば、光拡散性や波長変換性、熱伝導性を有する有機又は無機フィラーを含んだり、別途層を設けてもよい。
【0063】
紫外線LED用光学部材は、光学部材の成形後にエネルギー照射処理、好ましくは紫外線照射処理を有してもよく、例えば、波長360nm以下の紫外線、好ましくは200~360nmの紫外線、より好ましくは260~300nmの紫外線を照射するとよい。その時の紫外線の照射エネルギーは、0.04kJ/cm2以上、好ましくは0.12kJ/cm2以上、より好ましくは0.21kJ/cm2以上、また、5kJ/cm2以上、40kJ/cm2以上、80kJ/cm2以上、120kJ/cm2以上であれば紫外線領域の透過率を向上させることができる。照射エネルギーは下記式で算出される。
照射エネルギー[kJ/cm2]=照射強度[mW/cm2]×照射時間[s]
【実施例】
【0064】
以下、本発明を適用する紫外線LED用光学部材と、本発明を適用外の紫外線LED用光学部材とを作製し、対比した。
【0065】
(実施例1)
実施例1の紫外線LED用光学部材の光学部材原材料として、白色固体状(フレーク状)の有機官能基の全てがメチル基であるシリコーンレジン(製品番号YR3370、モメンティブ社製)を用いて、紫外線LED用光学部材の試験サンプルを作製した。
試験サンプルの成形方法は以下の通りである。
原材料(YR3370)の4gを計量し、円形平板状となる型へ投入して加熱硬化させることにより、厚さ1~2mmの実施例1の試験サンプルを得た。
【0066】
(実施例2)
実施例2の紫外線LED用光学部材の光学部材原材料として、白色固体状(フレーク状)の有機官能基の全てがメチル基であるシリコーンレジン(製品番号YR3370、モメンティブ社製)を用いて、紫外線LED用光学部材の試験サンプルを作製した。
試験サンプルの成形方法は以下の通りである。
原材料(YR3370)の10gを計量し、円形平板状となる型へ投入して加熱硬化させることにより、厚さ5mmの実施例2の試験サンプルを得た。
【0067】
(実施例3)
実施例3の紫外線LED用光学部材の光学部材原材料として、アモルファスフッ素樹脂(製品番号CTX-809SP2、AGC株式会社製)を用いて、紫外線LED用光学部材の試験サンプルを作製した。
試験サンプルの成形方法は以下の通りである。
原材料(CTX-809SP2)の1gを計量し、平板状となる型へ投入して加熱硬化させることにより、厚さ0.05mmの実施例3の試験サンプルを得た。
【0068】
(実施例4)
実施例4紫外線LED用光学部材の光学部材原材料として、縮合重合シリコーン樹脂であって白色固体状(フレーク状)の有機官能基の全てがメチル基であるシリコーンレジン(製品番号YR3370、モメンティブ社製)を用いて、紫外線LED用光学部材の試験サンプルを作製した。
試験サンプルの成形方法は以下の通りである。
原材料(YR3370)の20gを計量し、円形平板状となる型へ投入して加熱硬化させることにより、厚さ9.5mmの実施例4の試験サンプルを得た。
【0069】
(比較例)
比較例の紫外線LED用光学部材の光学部材原材料として、実施例1のシリコーンレジンYR3370に代えて、耐久性に優れ微細形状作成できる中粘性・中硬度の2成分形混合比1:1の速硬化光学成型用であって市販の付加重合型のシリコーン樹脂(製品番号MS1001、ダウ・東レ株式会社製)を用いて、4g計量し、円形平板状となる型へ投入して加熱硬化させることにより、厚さ1~2mmの比較例の試験サンプルを得た。
【0070】
(透過率測定)
実施例1~2、及び比較例の試験サンプルについて、分光光度計UV-3600Plus及び積分球ユニット(製品番号ISR-1503、株式会社島津製作所製)を用いて波長200~800nmの透過率測定を行った。
【0071】
透過率測定の結果について、下記表1、及び
図2~3に示す。
【0072】
表1、
図2~3から明らかな通り、実施例1の縮合重合シリコーン樹脂製からなる光学部材では、深紫外線領域である波長200~300nmの平均透過率が80%以上と高く、波長200~250nmの平均透過率でも80%以上と高いことが分かった。実施例2の縮合重合シリコーン樹脂製からなる光学部材では、深紫外線領域である波長200~300nmの平均透過率が78%以上と高く、波長200~250nmの平均透過率でも65%以上と高いことが分かった。実施例3のアモルファスフッ素樹脂製からなる光学部材では、深紫外領域でも約90%以上と高い透過率を有していた。実施例4の縮合重合シリコーン樹脂製からなる光学部材では、深紫外線領域である波長200~300nmの平均透過率が50%以上となっており、特に波長280nmの透過率が90%以上となっていた。しかし、比較例の付加重合シリコーン樹脂製からなる光学部材では、深紫外線領域である波長200~300nmの平均透過率が約30%程度と低く、波長200~250nmの平均透過率では約10%程度とかなり低い透過率となっていた。
【0073】
【0074】
表1及び
図2~3に示す通り、縮合重合シリコーン樹脂からなる光学部材は、赤外領域となる波長800nmから深紫外線200nmまで高い透過率を有することができていた。それにより、石英ガラスのように、紫外線領域でも高い透過率を有し、成形性が良く、コストも安価な紫外線LED用光学部材を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の紫外線LED用光学部材は、紫外線波長領域とりわけ深紫外領域でも高い透過率を必要とする殺菌・滅菌、浄水・空気清浄の分野の光学部材として、及び/又は紫外線波長とりわけ深紫外領域の波長を集光、散光、拡散、又は導光、発光素子の光取り出し効率を向上させる光学分野での光学部材として用いることができる。また、成形性が良く、コストも安価で石英ガラスのように、紫外線領域でも高い透過率を有する紫外線LED用光学部材ができる。
【符号の説明】
【0076】
1は紫外線LED用光学部材、2は光学部材、3は成形光学基材である。