(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】樹脂製のバルブボディおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16K 27/04 20060101AFI20230703BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230703BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230703BHJP
B29C 45/33 20060101ALI20230703BHJP
B26F 1/16 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
F16K27/04
B29C45/14
B29C45/26
B29C45/33
B26F1/16
(21)【出願番号】P 2019206640
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 浩一
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-280301(JP,A)
【文献】特開昭62-32016(JP,A)
【文献】特開平9-85852(JP,A)
【文献】特開2003-211486(JP,A)
【文献】特開2009-101554(JP,A)
【文献】特開平9-192815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 27/00-27/12
B29C 45/14
B29C 45/26
B29C 45/33
B26F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブスプールが摺動するバルブボアが鋳抜きピンによって形成される樹脂製のバルブボディにおいて、
前記バルブボアは、前記バルブボディに埋め込まれた金属フレームに形成した円筒孔と、前記円筒孔と同心の鋳抜きピンとの間隙に充填した樹脂材料で形成した、
ことを特徴とする樹脂製のバルブボディ。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製のバルブボディにおいて、
前記金属フレームは、相互に突き合わせて形成される2枚の金属板であり、
前記円筒孔は、前記一方の金属板に形成した第1半筒部と、他方の金属板に形成した第2半筒部とを突き合わせて形成した孔である、
ことを特徴とする樹脂製のバルブボディ。
【請求項3】
バルブスプールを摺動可能に装着するバルブボアを有する樹脂製バルブボディの製造方法において、
一対の金型が型開き状態で、円筒孔を有する金属フレームを前記一対の金型で形成するキャビティ空間に設置する金属フレーム設置工程と、
前記一対の金型を閉じる型締め工程と、
スライドピンを有するスライド型を、前記スライドピンが前記キャビティ空間内の円筒孔に挿入されるように配置するスライド型配置工程と、
前記キャビティ空間内に溶融した樹脂材料を充填する材料充填工程と、
前記キャビティ空間内に充填した前記樹脂材料を冷却により固化する冷却固化工程と、
前記樹脂材料を冷却固化した後、前記スライド型を離脱させ前記バルブボアの内周面を形成する穴加工工程と、
前記一対の金型を開いて成形品である樹脂製のバルブボディを取り出す型開き工程と、を有する、
ことを特徴とする樹脂製のバルブボディの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製のバルブボディおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋳造品の射抜き穴の成形精度を向上するため、鋳抜きピンを回転する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、鋳造品の冷却速度や肉厚を考慮しておらず、射抜き穴の成形精度が向上しなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、鋳造品の射抜き穴の成形精度が向上した樹脂製のバルブボディおよび製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂製のバルブボディおよびその製造方法では、バルブスプールが摺動するバルブボアは、バルブボディに埋め込まれた金属フレームに形成した円筒孔と、前記円筒孔と同心の鋳抜きピンとの間隙に充填した樹脂で形成するようにした。
【発明の効果】
【0007】
よって、樹脂製のバルブボディのバルブスプールが摺動するバルブボアの射抜き穴の成形精度を向上することできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される樹脂製のバルブボディの全体を示す図である。
【
図2】実施形態1のバルブボアの外周面を形成する金属フレームを示す図である。
【
図3】実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造するダイカストマシンを示す図である。
【
図4】実施形態1の樹脂製バルブボディのロアボディを製造するダイカストマシンの金型を示す分解斜視図である。
【
図6】実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造する樹脂ダイカスト方法の動作例を示すタイムチャート1である。
【
図7】実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造する樹脂ダイカスト方法の動作例を示すタイムチャート2である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の樹脂製のバルブボディとその製造方法を実現する最良の形態を、図
面に示す実施形態1に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0010】
実施形態1における樹脂製のバルブボディの製造方法は、自動変速機に付設されるコントロールバルブのバルブボディの製造に適用されるものである。
以下、実施形態1の構成を、「バルブボディ構成」と「ダイカストマシン構成」と[樹脂ダイカスト方法の動作作用]に分けて説明する。
【0011】
[樹脂製のバルブボディ構成]
図1は、本発明が適用される樹脂製のバルブボディの全体を示す図である。
図1に基づいて、樹脂製のバルブボディ構成を説明する。
【0012】
バルブボディ1は、樹脂材料A(バルブボディ材料、
図3等参照)で形成され、樹脂ダ
イカスト方法により製造される。
樹脂材料Aは、例えばPES(polyethersulfone)である。
樹脂製のバルブボディ1は、アッパーボディ11とロアボディ12を有する。
アッパーボディ11とロアボディ12のそれぞれに油圧回路を構成する油路15が形成
されている。なお、油圧回路は、自動変速機作動油(ATF)の回路である。
ロアボディ12は、バルブボア13を有する。バルブボア13には、バルブスプール14が摺動可能に挿着される。なお、アッパーボディ11とロアボディ12の間には、不図示のオリフィスプレートが設けられる。
【0013】
図2は、実施形態1のバルブボアの外周面を形成する金属フレームを示す図である。
図2に基づいて、金属フレーム構成を説明する。
【0014】
金属フレーム100は、樹脂製のバルブボディ1のロアバルブボディ12に埋め込まれ、バルブスプール14が摺動するバルブボア13の外周面を形成する。
金属フレーム100は、例えば、鉄で形成され、プレス成形により形成される第1金属板(一方の金属板)101と第2金属板(他方の金属板)102を相互に突き合わせて構成される。
第1金属板101は3個の第1半筒部101aを有し、第2金属板102は3個の第2半筒部102aを有して、各半筒部101a、102aを対向して、相互に突き合わせることにより、3個の円筒孔100aを形成する。
【0015】
[ダイカストマシン構成]
図3は、実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造するダイカストマシンを示す図であり、
図4は、実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造するダイカストマシンの金型を示す分解斜視図であり、
図5は、実施形態1のスライド型を示す図である。
図3~
図5に基づいて、ダイカストマシン構成を説明する。
なお、ダイカストマシン2は、樹脂製のバルブボディ1のロアボディ12を成形するものとする。
【0016】
ダイカストマシン2は、樹脂ダイカスト方法に用いられる。
ダイカストマシン2は、金型3を有する。
【0017】
金型3は、金型3の可動側キャビティ71と固定側キャビティ51に囲まれた空間であり、金属フレーム100が配置されるキャビティ空間S内に溶融した樹脂材料Aが射出され、ロアボディ12を成形する。
金型3は、固定枠4に固定された固定型5と、可動枠6に固定された可動型7と、スラ
イド型8と、を有する。
なお、金型3には、不図示のガスを抜くためのガス抜き孔が適宜設けられている。
【0018】
固定枠4は、鋳込み口41を有し、固定型5は、固定側キャビティ51と、湯口52
と、固定型開口部53と、を有する。
固定側キャビティ51は、固定型5のロアボディ12部分にあたる彫り込み面(空間)をいう。湯口52は、鋳込み口41と固定側キャビティ51を連結する。固定型開口部53には、スライド型8の一部が嵌合される。
【0019】
可動枠6は、固定型5の合わせ面に対し垂直方向Xに往復移動可能に設けられて
いる。このため、可動型7は、可動枠6と共に動作する。
ここで、「垂直方向X」とは、可動枠6が固定型5へ移動して金型3を閉じる型締め方向X1と、可動枠6が固定型5から遠ざかり金型3を開く型開き方向X2と、である。
なお、可動枠6の移動は、不図示の油圧シリンダにより行われ、油圧シリンダは可動枠コントローラにより制御される。
可動型7は、可動側キャビティ71と、可動型開口部73と、を有する。可動側キャビティ71は、可動型7のロアボディ12部分にあたる彫り込み面(空間)をいう。可動型開口部73には、スライド型8の残りの一部が嵌合される。
【0020】
スライド型8は、垂直方向X(型締め方向X1)とは直交する直交方向Y(上下方向)にスライド可能に設けられている。
ここで、「直交方向Y」とは、スライド型8が下方へ動く下方向Y1と、スライド型8が上方へ動く上方向Y2と、である。
なお、スライド型8の移動は、不図示の油圧シリンダにより行われ、油圧シリンダはスライド型コントローラにより制御される。
【0021】
スライド型8は、スライド型本体81と、3個のドリル溝付きスライドピン(鋳抜きピン)82と、モータ83と、を有する。
スライド型本体81は、固定型開口部53と可動型開口部73で構成される金型開口部33内に嵌合される。
ドリル溝付きスライドピン82は、固定側キャビティ51と可動側キャビティ71に囲まれた空間であるキャビティ空間S内に配置される。
さらに、ドリル溝付きスライドピン82は、固定側キャビティ51と可動側キャビティ71に囲まれた空間であるキャビティ空間S内に配置された金属フレーム100の第1金属板101と第2金属板102が相互につき合わせることにより形成された円筒孔100a内に配置される。
【0022】
スライド型本体81の上部には、3個のモータ83が設けられ、スライド型本体81の下部には、3個のモータ83に対応して3個のドリル溝付きスライドピン82が設けられている。
3個のドリル溝付きスライドピン82は、それぞれドリル溝82aを有する。ドリル溝82aにより形成されるエッジ刃は、バルブボア13の穴加工を行う。ドリル溝82aは、エッジ刃の削りカスを排出する。
ここで、エッジ刃は、バルブボア13の内周面成形加工のためのものであり、バルブボア13の内周面の後加工精度の刃が設定されている。後加工に要求される精度は、ミクロン単位の精度である。
3個のモータ83は、それぞれモータ軸83aを有する。モータ83は、モータ軸83aを介して、スライド型本体81の内部にてドリル溝付きスライドピン82に接続される。このため、ドリル溝付きスライドピン82は、モータ83の駆動により回転される。なお、モータ83の駆動は不図示のモータコントローラにより制御される。
【0023】
[樹脂ダイカスト方法の動作作用]
図6は、実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造する樹脂ダイカスト方法の動作例を示すタイムチャート1であり、
図7は、実施形態1の樹脂製のバルブボディのロアボディを製造する樹脂ダイカスト方法の動作例を示すタイムチャート2である。
図6と
図7に基づいて、樹脂ダイカスト方法の概要について説明する。
なお、
図6と
図7では、固定枠4と可動枠6の図示を省略している。
【0024】
樹脂ダイカスト方法は、ダイカストによるロアボディ12の製造方法として、金属フレーム設置工程(時刻T1)と、型締め工程およびスライド型配置工程(時刻T2)と、材料充填工程(時刻T3)と、冷却固化工程(時刻T3~時刻T4)と、穴加工工程(時刻T4)と、型開き前工程(時刻T5)と、型開き工程(成形品取出工程、時刻T6)と、を有する。以下、順に説明する。
【0025】
金属フレーム設置工程(時刻T1)では、
図6に示すように、可動型7が型開き方向X2へ移動され、型開き状態で金属フレーム100が、可動型キャビティ71と固定型キャビティ51に囲まれた空間であるキャビティ空間S内に設置される工程である。
型締め工程(時刻T2)では、可動型7が型締め方向X1へ移動され、固定型5へ型締めされる工程である。
スライド型配置工程(時刻T2)では、
図6に示すように、型締め状態で、スライド型8が可動型開口部73と固定型開口部53で形成された金型開口部33を介して、スライド型本体81の一部が金型開口部33に嵌合し、ドリル溝付きスライドピン82の一部が、固定側キャビティ51と可動側キャビティ71に囲まれた空間であるキャビティ空間S内に配置され、さらに、キャビティ空間S内に配置されたドリル溝付きスライドピン82の一部は、キャビティ空間S内に配置された金属フレーム100の第1金属板101と第2金属板102が相互に突き合わせることにより、形成された円筒孔100a内に配置される工程である。この際、スライド型本体81の上部が、金型開口部33よりも上方に配置されている。
【0026】
材料充填工程(時刻T3)では、まず、スライド型8がさらに下方向Y1へ移動され、金型開口部33にスライド型本体81全体が嵌合され、バルブボア13となる位置であるキャビティ空間S内に配置された金属フレーム100の第1金属板101と第2金属板102が相互につき合わせることにより、形成された円筒孔100a内に、ドリル溝付きスライドピン82全体が、同心状態で確実に挿入された状態になる。
なお、このとき、固定型5と可動型7とスライド型本体81のそれぞれの上面が面一になる。
換言すると、バルブボア13の穴加工前である成形品形状のキャビティ空間Sが作り出される。ここで、キャビティ空間Sは、固定側キャビティ51と可動側キャビティ71に囲まれた空間に、バルブボア13となる位置である固定側キャビティ51と可動側キャビティ71に囲まれた空間内に配置された金属フレーム100の第1金属板101と第2金属板102が相互につき合わせることにより形成された円筒孔100a内に、ドリル溝付きスライドピン82全体が確実に挿入された空間である。
【0027】
その後、溶融された樹脂材料Aが、鋳込み口41から湯口52を通じて、キャビティ空間S内に充填される。詳述すると、溶融された樹脂材料Aは、鋳込み口41に流し込まれる。鋳込み口41の樹脂材料Aは、不図示の鋳込みピストンにより湯口52へ押し込まれる。これにより、湯口52から加圧された樹脂材料A(圧入樹脂材料)がキャビティ空間S内へ充填される工程である。
冷却固化工程(時刻T3~時刻T4)では、材料充填工程によりキャビティ空間S内へ樹脂材料Aが充填された後、キャビティ空間S内の樹脂材料Aが冷却により固化される工程である。
ここで、「固化」と判断される固化温度とは、材料流動性が無くなる温度であって、材料が熱により変形(熱変形)しない温度である。換言すると、固化温度は、材料そのものの材料強度が出る温度である。固化温度は、材料の線膨張係数と金型温度との関係で設定する。
【0028】
穴加工工程(時刻T4)では、
図7に示すように、冷却固化工程により樹脂材料Aが冷却固化された後、型締め状態すなわち樹脂材料Aが固定型5と可動型7により固定された状態で、モータ83によりドリル溝付きスライドピン82が回転される。
即ち、型締め状態で、エッジ刃によりバルブボア13の穴加工が行われる。この際、ドリル溝82aによりエッジ刃の削りカスが排出される。更に、ドリル溝付きスライドピン82は、モータ83により回転されながら、スライド型本体81の上方向Y2への移動と共に樹脂材料Aから引き抜かれる。即ち、ドリル溝付きスライドピン82による穴加工と、ドリル溝付きスライドピン82の引き抜きと、が同時に行われる工程である。
ここで、金属材料よりも樹脂材料Aは、ドリル溝82aにより形成されるエッジ刃にて削るときにかかる抵抗が小さい。
このため、樹脂材料Aの温度が材料そのものの材料強度が出る温度まで冷却され、ドリル溝82aに冷却固化された樹脂材料Aが埋まっても、エッジ刃による穴加工が可能である。
型開き前工程(時刻T5)では、穴加工工程により穴加工が行われドリル溝付きスライドピン82が引き抜かれた後の状態である。
即ち、スライド型8がバルブボア13加工済みの成形品(ロアボディ12)から取り外され、キャビティ空間S内に金属フレーム100が埋め込まれた成形品(ロアボディ12)が有る状態である。
型開き工程(成形品取出工程、時刻T6)では、型開き前工程の後、可動型7が型開き方向X2へ移動され、固定型5から型開きされる。金型3が型開きされた後、成形品であるロアボディ12が取り出される。そして、再び、金属フレーム設置工程に戻り、新たなロアボディ12が製造される。
【0029】
このように、金属フレーム設置工程で、型開き状態で金属フレーム100が、キャビティ空間S内に配置され、材料充填工程で、バルブボア13となる位置であるキャビティ空間S内に配置された金属フレーム100の第1金属板101と第2金属板102を相互につき合わせることにより形成された円筒孔100a内に、ドリル溝付きスライドピン82が確実に挿入された状態で、キャビティ空間S内へ樹脂材料Aが充填され、材料充填工程から冷却固化工程おいて、バルブボア13の外周面が金属フレーム100の円筒孔100aの内周面により成形され、円筒孔100aと同心状態のドリル溝付きスライドピン82の外周面により、バルブボア13の内周面が成形される。
すなわち、バルブボア13の外周面は金属フレーム100の円筒孔100aの内周面により、正確な外径となり、バルブボア13の内周面は円筒孔100aと同心状態で挿入されたドリル溝付きスライドピン82により、正確な内径となり、バルブボア径の真円度が確保できる均一な厚みのバルブボア13が成形できる。
【0030】
さらに、均一な厚みのバルブボア13の内周面を、円筒孔100aと同心状態のドリル溝付きスライドピン82を回転させることにより、エッジ刃で形成するようにした。
また、樹脂材料Aが冷却固化した後であってもドリル溝付きスライドピン82を抜くことができるので、熱によるバルブボア13の形状の変形が抑制される。
これにより、バルブボア13の真円度をより向上することができる。
従って、金型3からロアボディ12が取り出された後に、樹脂ダイカスト方法とは別のバルブボア13の後加工が不要となり、加工コストを節約することできる。
【0031】
この結果、ドリル溝付きスライドピン82を抜く際のバルブボア13の真円度の向上と後加工(仕上げ加工)の加工コスト低減との両立を図ることができ、寸法精度の高い軽量な樹脂製のバルブボディ(ロアボディ12)を制作することができる。
ここで、「加工コスト」とは、加工の工数と費用である。費用は、加工を人間が行う場合にはその人件費、加工を機械が行う場合には工作機器等の設備費用である。費用には、後加工によって削られた分の材料費も含まれる。
【0032】
さらに、穴加工工程は、ドリル溝付きスライドピン82を回転させながら引き抜くことによりバルブボア13の穴加工が行われる。即ち、穴加工工程では、ドリル溝付きスライドピン82による穴加工と、ドリル溝付きスライドピン82の引き抜きと、が同時に行われる。
従って、金型3から成形品であるロアボディ12を取り出すまでの時間を短縮できるとともに、ドリル溝付きスライドピン82により穴加工が行われるため、従来のようにスライドピンを抜くための抜き勾配が不要となるので、抜き勾配分の材料費も節約できる。
【0033】
バルブボア13の真円度すなわち加工精度は、ミクロン単位の精度が要求される。この
ため、従来の方法のように、鋳抜き孔形成工程後に後加工を行う場合、加工精度に応える
ためには位置決め等の時間を要する。仮に位置決めを間違うと、成形品そのものを廃棄す
ることになり、鋳抜き孔形成工程分のコスト(工数と費用)が無駄になる。
これに対し、均一な厚みのバルブボア13の内周面を、樹脂ダイカスト方法の穴加工工程にて、樹脂材料Aが固定型5と可動型7により固定された状態でドリル溝付きスライドピン82によるバルブボア13の穴加工を行うようにしている。
換言すると、固定型5と可動型7が治具の役割を果たす。一方、型開き後に穴加工が行われると、成形品であるロアボディ12を治具で固定する作業が必要である。また、固定する際、成形品であるロアボディ12と治具の位置関係がずれる場合がある。
このため、型開き状態で穴加工工程が行われるよりも、型締め状態で穴加工工程が行われた方が、ドリル溝付きスライドピン82による穴加工の精度を高めることができる。
従って、型開き状態で穴加工工程が行われるよりも、型締め状態で穴加工工程が行われた方が、よりバルブボア13の真円度を向上できる。
これにより、位置決め等の時間を要しないし、エッジ刃により加工精度に応えることができるので、バルブボア径を精度良く管理できる。
【0034】
さらに、実施形態1では、バルブボディ材料は樹脂材料Aである。そして、冷却固化工程では、樹脂材料Aの流動性が無くなる温度まで冷却により固化される。即ち、樹脂材料Aは流動性が無くなるまで冷却固化されているので、ドリル溝付きスライドピン82を回転させて引き抜いても、熱による変形がより抑制される。
従って、樹脂材料Aを用いた場合、より一層、バルブボア13の真円度を向上できる。
【0035】
以上説明したように、実施形態1の樹脂製のバルブボディおよびその製造方法にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0036】
(1)金属フレーム100の円筒孔100aの内周面にて、バルブボア13の外周面を形成し、金属フレーム100の円筒孔100aと同心状態のドリル溝付きスライドピン82の外周面にて、バルブボア13の外周面を形成するようにした。
よって、バルブボア径の真円度が確保できる均一な厚みのバルブボア13を形成することができる。
【0037】
(2)均一な厚みのバルブボア13の内周面を、円筒孔100aと同心状態のドリル溝付きスライドピン82を回転させることにより、エッジ刃で形成するようにし、樹脂材料Aが冷却固化した後であってもドリル溝付きスライドピン82を抜くことができるようにした。
よって、熱によるバルブボア13の形状の変形が抑制され、バルブボア13の真円度を向上することができるとともに、金型3からロアボディ12が取り出された後に、樹脂ダイカスト方法とは別のバルブボア13の後加工が不要となり、加工コストを節約することができ、寸法精度の高い軽量な樹脂製のバルブボディ(ロアボディ12)を製造することができる。
【0038】
(3)穴加工工程では、ドリル溝付きスライドピン82による穴加工と、ドリル溝付きスライドピン82の引き抜きとを同時に行うようにした。
よって、金型3から成形品であるロアボディ12を取り出すまでの時間を短縮できるとともに、ドリル溝付きスライドピン82により穴加工が行われるため、従来のようにスライドピンを抜くための抜き勾配が不要となるので、抜き勾配分の材料費も節約できる。
【0039】
(4)樹脂材料Aが固定型5と可動型7により固定された状態でドリル溝付きスライドピン82によるバルブボア13の穴加工を行うようにした。
よって、位置決め等の時間を要しないし、エッジ刃により加工精度に応えることができるので、バルブボア径を精度良く管理できるので、よりバルブボア13の真円度を向上できる。
【0040】
(5)金属フレーム100は、プレス成形で形成した2枚の第1金属板101、第2金属板102により構成し、第1金属板101に形成した第1半筒部101aと第2金属板102に形成した第2半筒部102aとを相互に突き合わせることにより、円筒孔100aを形成するようにした。
よって、簡易な方法により、安価に円筒孔100aを形成することができる。
【0041】
(6)バルブスプール14をストローク可能に挿着するバルブボア13を有する樹脂製のバルブボディ(ロアボディ12)の製造方法において、金属フレーム設置工程(時刻T1)と、型締め工程およびスライド型配置工程(時刻T2)と、材料充填工程(時刻T3)と、冷却固化工程(時刻T3~T4)と、穴加工工程(時刻T4)と、型開き前工程(時刻T5)と、型開き工程(成形品取出工程、時刻T6)とを有するようにした。
金属フレーム設置工程(時刻T1)は、金型3が型開き状態で、金属フレーム100を、可動型キャビティ71と固定型キャビティ51に囲まれた空間内に配置する工程である。
型締め工程(時刻T2)は、金型3を閉じる工程で、スライド型配置工程(時刻T2)は、型締め後、バルブボア13となる金属フレーム100の円筒孔100aの内部位置にスライド型8のドリル溝付きスライドピン82の一部を挿入する工程である。
材料充填工程(時刻T3)は、スライド型8のドリル溝付きスライドピン82を、さらに、下方向Y1へ移動し、金型開口部33にスライド型本体81全体が嵌合され、バルブボア13となる位置である円筒孔100a内に、ドリル溝付きスライドピン82全体が、同心状態で確実に挿入された状態になった後、キャビティ空間S内に溶融したバルブボディ材料(ロアボディ12の樹脂材料A)を充填する工程である。
冷却固化工程(時刻T3~時刻T4)は、キャビティ空間S内に充填したバルブボディ材料(樹脂材料A)を冷却により固化する工程である。
穴加工工程(時刻T4)は、バルブボディ材料(樹脂材料A)を冷却固化した後、ドリル溝付きスライドピン82を回転させて引き抜きながらバルブボア13の穴加工を行う工程である。
型開き前工程(時刻T5)は、スライド型8がバルブボア13加工済みの成形品(ロアボディ12)から取り外される工程であり、キャビティ空間S内に金属フレーム100が埋め込まれた成形品(ロアボディ12)が有る状態である。
型開き工程(成形品取出工程、時刻T6)は、型開き前工程の後、可動型7が型開き方向X2へ移動され、固定型5から型開きされる。金型3が型開きされた後、成形品であるロアボディ12が取り出される工程である。
【0042】
よって、冷却固化工程(時刻T3~時刻T4)では、バルブボア13が、金属フレーム100の円筒孔100a内周面とドリル溝付きスライドピン82の外周面により、形状が保持されて、冷却固化することで、バルブボア径の真円度が確保できる均一な厚みとすることができる。
【0043】
また、穴加工工程(時刻T4)では、冷却固化工程後に、均一な厚みのバルブボア13からドリル溝付きスライドピン82を回転させて抜くことで、熱によるバルブボア13の形状の変形が抑制され、バルブボア13の真円度の向上と後加工の加工コスト低減との両立を図る寸法精度の高い軽量な樹脂製のバルブボディ(ロアボディ12)を制作することができる。
【0044】
さらに、穴加工工程(時刻T4)では、ドリル溝付きスライドピン82による穴加工と、ドリル溝付きスライドピン82の引き抜きとを同時に行うようにしたことで、金型3から成形品であるロアボディ12を取り出すまでの時間を短縮できる。
【0045】
また、穴加工工程(時刻T4)では、樹脂材料Aが固定型5と可動型7により固定された状態でドリル溝付きスライドピン82によるバルブボア13の穴加工を行うようにしたことで、位置決め等の時間を要しないし、エッジ刃により加工精度に応えることができるので、バルブボア径を精度良く管理できるので、よりバルブボア13の真円度を向上できる。
【0046】
冷却固化工程(時刻T3~時刻T4)では、樹脂材料Aの流動性が無くなる温度まで冷却により固化するので、樹脂材料Aを用いた場合、より一層、バルブボア13の真円度を向上できる。
【0047】
以上、本発明の樹脂製のバルブボディ及びその製造方法を実施形態1に基づき説明して
きたが、具体的な構成については、この実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0048】
実施形態1では、バルブスプール14をストローク可能に挿着するバルブボア13を有するロアボディ12を製造する例を示した。しかし、これに限られない。要するに、バルブスプールをストローク可能に挿着するバルブボアを有するバルブボディを製造するものであれば良い。
また、金属フレーム100は、鉄で形成され、プレス成形により形成される第1金属板101と第2金属板102を相互に突き合わせて構成することで説明したが、アルミ等の材料により、鋳造で形成してもよい。
【0049】
実施形態1では、材料充填工程にて、材料充填前に、スライド型8を下方向Y1へ移動し、金型開口部33にスライド型本体81全体を嵌合する例を示した。
しかし、これに限られない。例えば、スライド型配置工程又は型締め工程にて、スライド型を下方向へ移動し、金型開口部33にスライド型本体81全体を嵌合しても良い。
要するに、材料充填前までに、スライド型8を下方向へ移動し、金型開口部33にスライド型本体81を嵌合すれば良い。
【0050】
実施形態1では、穴加工工程は、ドリル溝付きスライドピン82を回転させながら引き抜くことでバルブボア13の穴加工を行う例を示した。
しかし、これに限られない。例えば、穴加工工程は、ドリル溝付きスライドピン82を回転させた穴加工工程が終了した後、ドリル溝付きスライドピン82を引き抜いても良い(スライドピン引き抜き工程)。
また、ドリル溝付きスライドピン82は、ドリル溝を有さない円筒形状に形成して、回転させずに引き抜いてもよい。
【0051】
実施形態1では、金型3を閉じた型締め状態で穴加工工程が終了した後、金型3を開いて成形品であるロアボディ12を取り出す型開き工程を行う例を示した。
しかし、これに限られない。例えば、穴加工工程の前に金型3の固定型5と可動型7を開き、その後、型開き状態で治具等を使用して、穴加工工程を行っても良い。
【0052】
実施形態1では、本発明の樹脂製のバルブボディおよびその製造方法を、(樹脂)ダイカスト方法及びダイカストマシン2とする例を示した。しかし、これに限られない。例えば、本発明の樹脂製のバルブボディおよびその製造方法を、重力による圧力の鋳造方法及び鋳造装置としても良い。
要するに、本発明の樹脂製バルブボディおよびその製造方法は、鋳造により製造するものであれば良い。
【0053】
実施形態1では、本発明の樹脂製のバルブボディおよびその製造方法を、自動変速機に付設されるコントロールバルブのバルブボディの製造に適用する例を示した。そして、実施形態1では、バルブボディ1の油圧回路を、変速機作動油(ATF)の回路とする例を示した。
しかし、これに限られない。要するに、本発明の樹脂製のバルブボディおよびその製造方法は、バルブスプールをストローク可能に挿着するバルブボアを有するバルブボディに適用されれば良い。
【符号の説明】
【0054】
1 バルブボディ
11 アッパーボディ(バルブボディ)
12 ロアボディ(バルブボディ)
13 バルブボア
14 バルブスプール
82 ドリル溝付きスライドピン(鋳抜きピン)
100 金属フレーム
101 第1金属板(一方の金属板)
101a 第1半筒部
102 第2金属板(他方の金属板)
102a 第2半筒部