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特許7305283スレッド溝深さが漸減するインプラントフィクスチャ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】スレッド溝深さが漸減するインプラントフィクスチャ
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019215214
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021083748
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】江▲高▼ 恵一
(72)【発明者】
【氏名】堀 弘二
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0166358(US,A1)
【文献】特開2013-031555(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0186800(US,A1)
【文献】特表2019-503236(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0147880(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0206406(US,A1)
【文献】特表2017-506951(JP,A)
【文献】特開2010-188062(JP,A)
【文献】国際公開第2013/057756(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054650(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101522131(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨に埋植される埋植部を有する歯科用インプラントフィクスチャであって、
顎骨に埋植される埋植部は円錐台形状をしている円錐台部と、円錐台部の下底に円柱形状の円柱部を有し、埋植部の円錐台部と円柱部は同一回転軸上に連接され、
少なくとも円錐台部から円柱部の他端部に掛けてリード及びピッチが同じであり位相の異なる2条、3条または4条のスレッド溝を有し、
円柱部の少なくともひとつの第1のスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて漸減する第1の漸減深度形状をしており、
円柱部の他の第2 のスレッド溝の深さが前記スレッド溝の漸減深度形状とは異なる第2の漸減深度形状もしくは一定の深度である一定深度形状であることを特徴とする歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項2】
顎骨に埋植される埋植部を有する歯科用インプラントフィクスチャであって、
顎骨に埋植される埋植部は円錐台形状をしている円錐台部と、円錐台部の下底に円柱形状の円柱部を有し、埋植部の円錐台部と円柱部は同一回転軸上に連接され、
少なくとも円錐台部から円柱部の他端部に掛けてリード及びピッチが同じであり位相の異なる2条、3条または4条のスレッド溝を有し、
円柱部の少なくともひとつの第1のスレッド溝から構成される谷径が円柱部の円錐台部側から多端部側に掛けて漸増する第1の漸増谷径形状をしており、
円柱部の他の第2のスレッド溝の谷径が前記谷径形状とは異なる第2の漸増谷径形状もしくは一定の谷径である一定谷径形状であることを特徴とする歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項3】
スレッド溝を有する円柱部の外形が一定であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項4】
円錐台部に有するすべてのスレッド溝は同一深度形状となることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項5】
円柱部の他端部に有するすべてのスレッド溝は同一深度形状及び同一谷径形状となることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項6】
円柱部の円錐台形状への移行部分において、全スレッド溝は同一のスレッド深さであることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項7】
円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の第1の漸減深度形状もしくは第1の漸増谷径形状の谷底を繋ぐ線は、円柱部の軸を含む面上において、円錐台部側の軸に交わる直線をなすことを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項8】
円柱部において、前記最も深さが異なる位置でのスレッド溝の深さの比が5:6~5:18であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項9】
全スレッド溝のねじ山の先端側フランク角が2~20°であり、後端側フランク角が40~60°であることを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項10】
埋植部の円柱部の他端部に円柱部と同軸の円状の溝を有することを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項11】
埋植部の円柱部の他端部に円柱部と同軸の円柱状のカフ部を有することを特徴とする請求項1または2記載の歯科用インプラントフィクスチャ。
【請求項12】
請求項1から11記載のいずれかの歯科用インプラントフィクスチャと一体もしくは分けられたアバットメントから構成される歯科用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用インプラント治療で用いられるインプラントフィクスチャに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラント治療は、ウ蝕や歯周病、又は外傷などによって失われた歯牙の欠損部位に対して行われる歯科治療の一つである。
【0003】
通常、歯科用インプラント治療の主たる施術は、顎骨に歯科用インプラントの外径と略同一又はこれよりわずかに小さい孔にインプラントドリルで形成し、次いで、そのドリル孔に歯科用インプラントを槌打し又はねじ込んで歯科用インプラントを埋入して所望する顎骨位置に埋植することにより行われる。
【0004】
歯科用インプラントの施術方式としては、歯科用インプラントを埋植後、その歯科用インプラントを口腔内へ露出をさせないように歯肉を縫合し、歯科用インプラントとその周囲及び、顎骨内への挿入を容易にし埋植直後の顎骨との固定を得るためにその外面に螺旋状のスレッドを形成したインプラントフィクスチャである場合にはスレッド溝とドリル孔との間隙に新生骨ができ固定が得られるまでの治癒期間を設け、治癒期間の後に補綴物(歯冠)を装着する2回法施術、及び、埋植した歯科用インプラントを露出をさせてその周りの歯肉を縫合する1回法施術等がある。
【0005】
歯科用インプラントの仕様としては1ピースタイプが施術が最も簡便で物理学的な強度も優位である。また、施術方式としては、歯科用インプラントを埋植直後に上部構造となる咬合部位の補綴物まで装着することで全治療を完了させる1回法施術は、合計施術時間及び日数を短縮化することができる点や、術者及び患者の金銭的及び精神的負担を軽減することができる点で優位である。ところが、1ピースタイプ及び1回法施術を適用できる症例は、顎骨の骨質及び骨量が十分にあること、口腔衛生状態が良好であること、並びに施術部位に高い咬合圧がかからない部位及び歯列であること等の口腔内条件が揃わなければ実施できないことから、症例に合わせて歯科用インプラントの仕様及び施術方式が適宜選択されているのが現状である。
【0006】
また歯科用インプラントに用いられるインプラントフィクスチャにおいては先端から後端まで外径が略一定であるストレートタイプや先端から後端に従って外径が大きくなる先細りのテーパータイプなどがあるが、特にインプラント治療後の審美性が重要視される前歯部などの症例においてはインプラントフィクスチャを埋入しながら周囲骨との位置関係によって埋入深さを微調整する為、埋入深度を調整しやすいストレートタイプを選択するなど、インプラントフィクスチャの形状も症例に合わせて適宜選択される。
【0007】
インプラントフィクスチャは顎骨内への挿入を容易にするため及び埋植直後の顎骨との固定を得るために、その外面に螺旋状のスレッドを形成したものが広く用いられている。
【0008】
近年、より簡便に使用できるように歯科用インプラントの技術開発が進められ、また、表面性状や形状等を改良した製品が上市されているが、どれも一長一短がある。
【0009】
特許文献1では、顎骨に埋入する先端側から後端側に向かってスレッド溝の谷径が漸増するとともに、山径が略一定のインプラントフィクスチャが開示されている。しかしながら、その先端側から中腹部においてはドリル孔とスレッド溝の間隙が大きく、治癒期間が長く要してしまう問題があった。
【0010】
特許文献2では、ねじ山が平坦面を形成しており、その平坦面上及びねじ谷部にそれぞれ螺旋溝を有する歯科用インプラントが開示されている。治癒期間を経過した後においては当該溝に沿って新生骨が形成されインプラントフィクスチャと周囲骨との強固な固定を得られる一方で、埋植直後においては当該溝はドリル孔とインプラントフィクスチャの間隙となり、治癒期間は長く要することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-65760号公報
【文献】特許05167341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
インプラント治療において、特に抜歯窩に対してインプラントフィクスチャを埋植する際においては理想的なドリル孔を得られない場合もあり、その様な場合に備え、インプラントフィクスチャは高い穿孔性を有していることが望まれていた。
【0013】
上記のような高い穿孔性と埋植直後の固定性を得る為にはスレッド溝を深くすれば良いが、一方で治癒期間を短くする為にはスレッド溝を浅くする必要があり、これらの課題を同時に解決できるインプラントフィクスチャが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、顎骨に埋植される埋植部を有する歯科用インプラントフィクスチャであって、
顎骨に埋植される埋植部は円錐台形状をしている円錐台部と、円錐台部の下底に円柱形状の円柱部を有し、埋植部の円錐台部と円柱部は同一回転軸上に連接され、
少なくとも円錐台部から円柱部の他端部に掛けてリード及びピッチが同じであり位相の異なる2条、3条または4条のスレッド溝を有し、
円柱部の少なくともひとつの第1のスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて漸減する第1の漸減深度形状をしており、
円柱部の他の第2のスレッド溝の深さが前記スレッド溝の漸減深度形状とは異なる第2の漸減深度形状もしくは一定の深度である一定深度形状であることを特徴とする歯科用インプラントフィクスチャである。
【0015】
本発明は、顎骨に埋植される埋植部を有する歯科用インプラントフィクスチャであって、
顎骨に埋植される埋植部は円錐台形状をしている円錐台部と、円錐台部の下底に円柱形状の円柱部を有し、埋植部の円錐台部と円柱部は同一回転軸上に連接され、
少なくとも円錐台部から円柱部の他端部に掛けてリード及びピッチが同じであり位相の異なる2条、3条または4条のスレッド溝を有し、
円柱部の少なくともひとつの第1のスレッド溝から構成される谷径が円柱部の円錐台部側から多端部側に掛けて漸増する第1の漸増谷径形状をしており、
円柱部の他の第2のスレッド溝の谷径が前記谷径形状とは異なる第2の漸増谷径形状もしくは一定の谷径である一定谷径形状であることを特徴とする歯科用インプラントフィクスチャである。
【0016】
スレッド溝を有する円柱部の外形が一定であることが好ましい。円錐台部に有するすべてのスレッド溝は同一深度形状となることが好ましい。円柱部の他端部に有するすべてのスレッド溝は同一深度形状及び同一谷径形状となることが好ましい。円柱部の円錐台形状への移行部分において、全スレッド溝は同一のスレッド深さであることが好ましい。円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の第1の漸減深度形状及び又は第1の漸増谷径形状は円柱部の中腹まで有し、円柱部の中腹から他端部にかけて、一定深度形状及び又は一定谷径形状となることが好ましい。
【0017】
円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の第1の漸減深度形状もしくは第1の漸増谷径形状の谷底を繋ぐ線は、円柱部の軸を含む面上において、円錐台部側の軸に交わる直線をなすことが好ましい。円柱部において、前記最も深さが異なる位置でのスレッド溝の深さの比が5:6~5:18であることが好ましい。全スレッド溝のねじ山の先端側フランク角が2~20°であり、後端側フランク角が40~60°であることが好ましい。埋植部の円柱部の他端部に円柱部と同軸の円状の溝を有することが好ましい。埋植部の円柱部の他端部に円柱部と同軸の円柱状のカフ部を有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャと一体もしくは分けられたアバットメントから構成される歯科用インプラントであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
埋入時には高い穿孔性を有し、埋植直後の固定性を満足しながらも、スレッド溝の間隙が新生骨で固定され補綴物を装着するまでの治癒期間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態側面図である。
図2図1に示すインプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面の断面図である。
図3図1に示すインプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面の断面部分拡大図である。
図4】本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態の一つの円柱部の軸を含む面の断面部分拡大図である。
図5】本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態の一つの側面図である。
図6】本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態の一つの側面図である。
図7】本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態の一つの側面図である。
図8】本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態の一つの円柱部の軸を含む面の断面部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。また、その他の任意の構成要素を備え得るものである。
【0021】
本発明は歯科用インプラントフィクスチャであり、インプラントフィクスチャを有する歯科用インプラントに用いることができる。歯科用インプラントの第1の仕様としては、インプラントフィクスチャとアバットメントとが一体とされた1ピースタイプに用いることができる。歯科用インプラントの第2の仕様としては、歯根の代替部位となるインプラントフィクスチャと、歯冠支台の代替部位となるアバットメントとの2部品からなり、インプラントフィクスチャにアバットメントを結合して使用される2ピースタイプがある。歯科用インプラントの第3の仕様としては、インプラントフィクスチャ、アバットメント、及びスクリュの3部品からなり、スクリュを用いてインプラントフィクスチャにアバットメントを固定する3ピースタイプがある。
歯科用インプラントの第1から第3の仕様の1から3ピースタイプのいずれにも用いることができる。
歯科用インプラントフィクスチャと一体とされたアバットメントから構成される歯科用インプラントは第1の仕様の1ピースタイプの歯科用インプラントである。
歯科用インプラントフィクスチャと分けられたアバットメントから構成される歯科用インプラントは第2または3の仕様の2または3ピースタイプの歯科用インプラントである。
【0022】
本発明のインプラントフィクスチャの用途は、特に制限はない。例えば欠損歯牙の代替として用いられる前記の歯科用インプラントであってもよく、あるいは歯列矯正用ワイヤの固定元等として用いられる暫間インプラントであってもよく、更に、これら以外の任意の用途に用いられる歯科用インプラントであってもよい。
【0023】
特に1回法施術に供する第1の仕様である1ピースタイプの歯科用インプラントに用いた場合には、埋植直後に上部構造となる咬合部位の補綴物まで装着する為、埋植直後からインプラントフィクスチャには咬合による負荷が掛かる可能性が高く、埋植直後からインプラントフィクスチャは顎骨に強固に固定され得る本発明の好ましい態様である。
一方、2回法施術に供する第2から第3の仕様の2または3ピースタイプの歯科用インプラント場合には、インプラントフィクスチャと新生骨による固定を短期間で得ることができ、患者にとっては治癒期間は短くすることが可能であり、本発明の好ましい態様である。
本発明の歯科用インプラントフィクスチャの直径(太さ)は3.0~5.0mmであり、長さは7.0~17.0mmであり、スレッドのリードは0.6~2.4mmであり、ピッチは0.6~1.2mmである。
歯科用インプラントフィクスチャの直径(太さ)とは、円柱部の外径を意味し、長さとは1ピースタイプではアバットメント部分を含まない部分である埋植部分の長さであり、2または3ピースタイプでは円柱部及び円錐台部を含む一つのピースの部分である埋植部分の長さを意味する。
【0024】
本発明の歯科用インプラントフィクスチャは、口腔内で利用するインプラントフィクスチャであり、顎骨に埋植される埋植部を有する。歯科用インプラントフィクスチャの埋植部は顎骨に埋植される部分であり、スレッド溝を有する部分であることが好ましい。術式や用途によっては埋植部のスレッド溝を超えて顎骨に埋植されることがあるが、インプラントフィクスチャの端部まで顎骨に埋植されることが好ましい。
埋植部は円錐台形状をしている円錐台部と、円柱形状の円柱部から構成されている。円錐台形状の上底及び下底の内、広い方を下底とし、円錐台部の下底と円柱の底面側が連続した一体形状として構成される。
埋植部の円錐台部と円柱部の接続状況は同一回転軸上で連接されていることが好ましい。
本発明のインプラントフィクスチャの円錐台部は先細りの円錐台形状が好ましいが、円柱状やドーム状等のさまざまな形状をなしうる。
【0025】
円錐台部から円柱部に掛けて、リード及びピッチを有するスレッド溝を有している。これら、リード及びピッチを有するスレッド溝を有する円錐台部から円柱部の部分が埋植部を成すことが好ましい。円錐台部から円柱部の他端部に掛けてリード及びピッチを有するスレッド溝を有し埋植部であることが好ましい。円錐台部の上底からリード及びピッチを有するスレッド溝を有していることが好ましい。
埋植部に有するそれぞれのスレッド溝のリード及びピッチが同じであることが好ましく、いずれの部分であっても常に同じリード及びピッチであることが好ましい。スレッド溝のリード及びピッチが同じであることで、顎骨に埋植時に、顎骨を痛めることなく埋植することができる。
更に、位相の異なる2条、3条または4条のスレッド溝であることが好ましい。2条、3条または4条のスレッド溝とすることでスレッドのピッチを広げることなくリードを長くすることができ、顎骨との固定性を損なうことなく埋植時の施術時間を短縮することができる。
【0026】
本発明の歯科用インプラントフィクスチャが有するスレッド溝の深さとは、歯科用インプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面上において、円柱部の円柱面からスレッド溝の底までの、円柱部の軸に垂直な直線距離である。
本発明のインプラントフィクスチャが有する第1のスレッド溝の深さが、漸減する第1の漸減深度形状を有していることが好ましい。漸減とは徐々に溝が浅くなっていくことを指し、その状態を第1の漸減深度形状としている。第1の漸減深度形状における漸減状態は、円錐台部側から他端部側に向けて第1のスレッド溝が進むにつれて、第1のスレッド溝の深さが浅くなっている状態である。徐々に溝が浅くなっていくこととは一定の割合で浅くなっていくことが好ましい。
歯科用インプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面上において、円柱部の軸と、一定の割合で浅くなっていく第1の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線は円錐台部側の軸に交わる直線をなし、その角度は0.05~7°である。好ましくは0.1~5°である。
この第1の漸減深度形状はスレッド溝全体で構成される必要はなく、スレッド溝の一部でよい。
円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて漸減する第1の漸減深度形状をしている。第1のスレッド溝は円錐台部から円柱部の他端部に掛けて有するが、漸減する第1の漸減深度形状を成す部分は、少なくとも円柱部に有しており、円柱部の途中から構成していても良く、円柱部の途中で終了することが好ましい。

漸減する第1の漸減深度形状を成す部分は、円錐台部側の円柱部の移行部から円柱部の他端部方向にかけて、構成していることが好ましい。漸減する第1の漸減深度形状を成す部分の第1の対応としては、スレッド溝の円柱部の他端部方向の終端に亘っていることが好ましい。漸減する第1の漸減深度形状を成す部分の第2の対応としては、円錐台部方向から円柱部の中腹付近で終了することが好ましく、円柱部の中央で終了することが更に好ましい。また、漸減する第1の漸減深度形状を成す部分の第3の対応としては、円柱部の他端部から、1.5mm以上離れた位置で終了することが好ましい。
【0027】
円柱部の他の第2のスレッド溝とは漸減する第1の漸減深度形状を成す第1のスレッド溝以外の少なくとも1つのスレッド溝のことである。
この漸減する第1の漸減深度形状を成すスレッド溝以外の第2のスレッド溝には、第2の漸減深度形状もしくは一定の深度である一定深度形状をなすものがある。
第2の漸減深度形状とは、漸減する第1の漸漸減深度形状とリード及びピッチ、位相が同じである。
【0028】
第2の漸減深度形状と第1の漸減する漸減深度形状の異なる部分は、
漸減する漸減深度形状がなす第1のスレッド溝の漸減範囲を円錐台部方向に超えて漸減する第2の漸減深度形状であるか、
漸減する第1の漸減深度形状がなす第1のスレッド溝の漸減範囲を他端部方向に超えて漸減する第2の漸減深度形状であるか、
漸減する第1の漸減深度形状がなす第1のスレッド溝の漸減範囲を円錐台部方向に達せず漸減する第2の漸減深度形状であるか、
漸減する第1の漸減深度形状がなす第1のスレッド溝の漸減範囲を他端部方向に達せず漸減する第2の漸減深度形状であるか、
円柱部の軸を含む面上において、第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線は円錐台部側の軸に交わる直線をなし、その軸と第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線がなす角度とその軸と漸減深度形状の谷底を繋ぐ線がなす角度が異なるか、
円柱部の軸を含む面上において、第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線は、円錐台部側の軸に交わる直線と軸に平行な直線の複数の直線から構成することができる。これらの内1つ以上が異なることが好ましい。
これらの構成を組み合わせることで、歯科用インプラントを埋植する際の穿孔性や埋植直後の固定性を損なうことなく骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、治癒期間を短くすることができる。
【0029】
円柱部の軸と漸減する第1の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線がなす角度は0.05~7°であることが好ましい。円柱部の軸と第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線がなす角度は0~7°であることが好ましい。
漸減する第1の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線と第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線がなす角度は0.05~5°であることが好ましい。
【0030】
一定の深度である一定深度形状とは、歯科用インプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面上において、円柱部の軸と第2の漸減深度形状の第2のスレッド溝の底で構成される直線が並行である形状である。
円柱部の他の第2のスレッド溝は一定の深度である一定深度形状であることが好ましい。
【0031】
2条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸減する第1の漸減深度形状を有する第1のスレッド溝が1条と、他の第2のスレッド溝が1条有する。
3条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸減する第1の漸減深度形状を有する第1のスレッド溝が2条と、他の第2のスレッド溝が1条有することが好ましい。骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、治癒期間を短くすることができる。
3条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸減する第1の漸減深度形状を有する第1のスレッド溝が1条と、他の第2のスレッド溝が2条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性が向上する。
4条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸減する第1の漸減深度形状を有する第1のスレッド溝が3条と、他の第2のスレッド溝が1条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性を向上させ、より固定性が向上する。
4条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸減する第1の漸減深度形状を有する第1のスレッド溝が2条と、他の第2のスレッド溝が2条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性を向上させ、骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、治癒期間を短くすることができる。
4条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸減する第1の漸減深度形状を有する第1のスレッド溝が1条と、他の第2のスレッド溝が3条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性を向上させ、骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、より治癒期間を短くすることができる。
【0032】
円柱部の少なくともひとつの第1のスレッド溝から構成される谷径とは、歯科用インプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面上において、第1のスレッド溝の底から円柱部の軸までの、円柱部の軸に垂直な直線の距離を意味する。
本発明のインプラントフィクスチャが有する第1のスレッド溝から構成される第1の谷径が、漸増する第1の漸増谷径形状を有していることが好ましい。漸増とは徐々に谷径が大きくなっていくことを指し、その状態を漸増谷径形状としている。漸増谷径形状における漸増状態は、円錐台部側から他端部側に向けてスレッド溝が進むにつれて、谷径が大きくなっている状態である。徐々に谷径が大きくなっていくこととは一定の割合で大きくなっていくことが好ましい。第1の漸増谷径形状はスレッド溝全体で構成される必要はなく、スレッド溝の一部でよい。
円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の第1の谷径が円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて漸増する第1の漸増谷径形状をしている。第1のスレッド溝は円錐台部から円柱部の他端部に掛けて有するが、漸増する第1の漸増谷径形状を成す部分は、少なくとも円柱部に有しており、円柱部の途中から構成していても良く、円柱部の途中で終了することが好ましい。漸増する第1の漸増谷径形状を成す部分は、円錐台部側の円柱部の移行部から円柱部の他端部方向にかけて、構成していることが好ましい。漸増する第1の漸増谷径形状を成す部分は、円錐台部方向から円柱部の中腹付近で終了すること好ましく、円柱部の中央で終了することが更に好ましく、円柱部の他端部から、2mm以上離れた位置で終了することが好ましい。
【0033】
円柱部の他の第2の谷径とは漸増する第1の漸増谷径形状を成す谷径以外の谷径のことである。
この漸増する漸増谷径形状を成す第1の谷径以外の第2の谷径には、第2の漸増谷径形状もしくは一定の深度である一定深度形状をなすものがある。
第2の漸増谷径形状とは、漸増する漸増谷径形状とリード及びピッチ、位相が同じである。
【0034】
第2の漸増谷径形状と漸増する第1の漸増谷径形状の異なる部分は、
漸増する漸第1の増谷径形状がなす第1の谷径の漸増範囲を円錐台部方向に超えて漸増する第2の漸増谷径形状であるか、
漸増する第1の漸増谷径形状がなす第1の谷径の漸増範囲を多端部方向に超えて漸増する漸増谷径形状である第2の漸増谷径形状であるか、
漸増する第1の漸増谷径形状がなす第1の谷径の漸増範囲を円錐台部方向に達せず漸増する第2の漸減深度形状であるか、
漸増する第1の漸増谷径形状がなす第1の谷径の漸増範囲を他端部方向に達せず漸増する第2の漸減深度形状であるか、
円柱部の軸を含む面上において、第2の漸増谷径形状の谷底を繋ぐ線は円錐台部側の軸に交わる直線をなし、その軸と第2の漸増谷径形状の谷底を繋ぐ線がなす角度とその軸漸増谷径形状の谷底を繋ぐ線がなす角度が異なるか、
円柱部の軸を含む面上において、第2の漸増谷径形状の谷底を繋ぐ線は、円錐台部側の軸に交わる直線と軸に平行な直線の複数の直線から構成することが好ましい。
これらの構成を組み合わせることで、歯科用インプラントフィクスチャを埋植する際の穿孔性や埋植直後の固定性を損なうことなく骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、治癒期間を短くすることができる。これらの内1つ以上が異なる必要がある。
【0035】
一定の深度である一定谷径形状とは、歯科用インプラントフィクスチャの円柱部の軸を含む面上において、円柱部の軸と第2の漸増谷径形状のスレッド溝の底で構成される直線が並行である形状である。
円柱部の他の第2の谷径は一定の谷径である一定谷径形状であることが好ましい。
【0036】
2条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸増する漸増谷径形状を有する第1の谷径が1条と、他の第2の谷径が1条有する。
3条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸増する漸増谷径形状を有する谷径が2条と、他の第2の谷径が1条有することが好ましい。骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、治癒期間を短くすることができる。
3条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸増する漸増谷径形状を有する第1の谷径が1条と、他の第2の谷径が2条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性が向上する。
4条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸増する漸増谷径形状を有する第1の谷径が3条と、他の第2の谷径が1条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性を向上させ、より固定性が向上する。
4条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸増する漸増谷径形状を有する第1の谷径が2条と、他の第2の谷径が2条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性を向上させ、骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、治癒期間を短くすることができる。
4条のスレッド溝を有する歯科用インプラントフィクスチャにおいては、円柱部に漸増する漸増谷径形状を有する第1の谷径が1条と、他の第2の谷径が3条有することが好ましい。歯科用インプラントフィクスチャの穿孔性を向上させ、骨孔とスレッド溝の間隙を小さくでき、より治癒期間を短くすることができる。
スレッド溝を2条、3条または4条とし、そのうち少なくとも1つのスレッド溝が高い穿孔性を有していれば必要十分な穿孔性が得られること、及び少なくとも1つのスレッド溝で新生骨による固定が得られれば咬合圧に耐えるに必要な固定が得られることを見出した。
【0037】
本発明の歯科用インプラントフィクスチャの外径を先細りのテーパとするかインプラントフィクスチャの外径をストレートにすることができる。ストレートとは顎骨に埋入する先端付近まで円柱部と同一の外径であり、先端は半球形状または面取りまたはR形状とすることが好ましい。
スレッド溝を有する円柱部の外形が一定であることが好ましい。一定とは円柱部の軸を含む面上において、外形を繋ぐ直線が円柱部の軸と平行であることである。
本発明の歯科用インプラントフィクスチャの円柱部の外径は円柱部の中心をなす軸から垂直方向に等距離の曲面であることが好ましい。曲面は円柱部の中心をなす軸と平行である。本構成をとることで、施術中にインプラントフィクスチャの埋入深さを微調整することができる。
本発明の歯科用インプラントフィクスチャを円柱部の軸に平行な面において、円柱部の外形を構成する直線が、いずれの面においても軸に平行であることが好ましい。
【0038】
円錐台部に有するすべてのスレッド溝は同一深度形状とすることが好ましい。穿孔性の高い形状で一定の深度深さとすることで、高い穿孔性を得ることができる。
円柱部の他端部に有するすべてのスレッド溝は同一深度形状及び又は同一谷径形状とすることが好ましく、同一深度形状及び同一谷径形状とすることが好ましい。他端部においては穿孔性は重要では無いので、全てのスレッド溝は可能な限り浅いほうが良い。スレッド溝を浅くすることで埋入直後の固定性を向上させることができ、骨孔とスレッド溝の間隙を小さくなるので治癒期間を短くすることができる。
【0039】
円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の第1の漸減深度形状及び又は第1の漸増谷径形状は円柱部の中腹まで有することが好ましい。円柱部の中腹から他端部にかけて有する第1のスレッド溝は、同一深度形状及び又は同一谷径形状となることが好ましい。
円柱部に有する少なくともひとつの第1のスレッド溝の谷径が円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて漸増する第1の漸増谷径形状をなしているが、円柱部の中腹から他端部にかけて一定の変化しない谷径形状をなすことが好ましい。本構成により埋入直後の固定性を向上させることができ、骨孔とスレッド溝の間隙を小さくなるので治癒期間を短くすることができる。
【0040】
円錐台部においては、全スレッド溝が同一で一定のスレッド深さであることが好ましい。
一定のスレッド深さとは、円錐台部における外径を結ぶ直線とスレッド溝の谷径を結ぶ直線が平行であることを意味する。本構成により、インプラントフィクスチャの先端が骨孔に穿孔し始める際、インプラントフィクスチャの中心軸に対し軸対象の位置でドリル孔と複数箇所で接触するので安定性が向上し、埋植位置及び埋植角度を安定させることができる。
【0041】
軸に垂直な円柱部の面の中で、複数のスレッド溝の深さの内、最も異なる深さのスレッド溝を有する面において、その最も異なるスレッド溝の深さの比が5:6~5:18であることが好ましい。スレッド溝の深さの比とは、円柱部の軸に垂直な同一面上における最も浅いスレッド溝の深さと最も深いスレッドの深さの比であり、最も深さの比が異なる位置とは円柱部における深さの比が最大になる円柱部の軸上の位置であり、最も浅いスレッド溝の深さを5とした場合に、最も深いスレッド溝の深さが6~18であることが好ましい。更に7~13であることが好ましい。
スレッド溝の深さの測定は、インプラントフィクスチャの円柱部の軸線に垂線に測定する。
スレッド溝は、第1の漸減深度形状を成すスレッド溝及び第2の漸減深度形状を成すスレッド溝の深さは、いずれのスレッド溝であっても、円柱部の円錐台部との移行部ではそれぞれ0.15~0.4mmであり、他端部側では0.15~0.35mm及び0.1~0.3mmである。
【0042】
全スレッド溝のねじ山の先端側フランク角が2~20°であり、後端側フランク角が40~60°であることが好ましい。更に好ましくは先端側フランク角が2~10°であり、後端側フランク角が45~60°である。本角度の構成は円柱部の軸線の垂線となす角である。先端側フランク角は隣り合うスレッド溝で構成されるねじ山の円錐台部方向に有する傾斜と円柱部の軸線の垂線でなす角のことである。また、後端側フランク角は隣り合うスレッド溝で構成されるねじ山の円柱部の他端部方向に有する傾斜と円柱部の軸線の垂線でなす角のことである。先端側フランク角も後端側フランク角も鋭角である。先端側フランク角と後端側フランク角の角度差は35~55°であることが好ましい。また、先端側フランク角と後端側フランク角の角度の和は45~70°であることが好ましい。
【0043】
埋植部の円柱部の他端部に円柱部と同軸の円状の溝を有することが好ましい。円状の溝はスレッド溝と交わることがない様に構成することが好ましい。
円状の溝は円柱部の全周に形成し、1条以上あればよく、同心円状に2条または3条形成するとより好ましい。円状の溝の深さは0.03~0.1mmであることが好ましい。
インプラントフィクスチャを顎骨に埋植した後に、顎骨とインプラントフィクスチャの隙間に侵入する口腔内の細菌を円状の溝で止め、スレッド溝への侵入を防ぐことができる。
【0044】
インプラントフィクスチャの円柱部の他端部に円柱部と同軸のカフ部を有することが好ましい。その場合、前記円状の溝は歯肉を貫通し且つ歯肉と接触するカフ部(8)とスレッド溝を有する円柱部の間に位置することが好ましい。
カフ部(8)の外面は、上述したような粗面である必要はなく、公知の表面性状を適宜選択して用いることができる。例えば平滑面や鏡面であることが好ましい。また、カフ部(8)の形状も特に制限はないが、円柱部と同直径の円柱状であることが好ましく、0.5~7°の逆テーパ形状であることがより好ましい。逆テーパ形状とは端部に近づくに従い細くなる形状である。
またカフ部(8)の長さは0.1~3.0mm、好ましくは0.3~1.5mmの範囲から選択し得る。
【0045】
図面に示した本発明の歯科用インプラントフィクスチャを説明する。
図1には、3ピースタイプの本発明のインプラントフィクスチャ(1)を記載している。図2には、図1に示したインプラントフィクスチャの円柱部(3)の軸を含む面の断面図を示している。図3には、図2に示した断面図の円柱部(3)の円錐台形状(2)への移行部の部分拡大図を示している。
アバットメントを接続するための構造が、円柱部(3)の他端部から、インプラントフィクスチャ内部にかけて設けられている。
図1のインプラントフィクスチャ(1)は顎骨に埋植される埋植部を有し、顎骨に埋植される埋植部は円錐台形状をしている円錐台部(2)、円錐台部の下底に円柱形状の円柱部(3)、円錐台部から円柱部の他端部に掛けてリード及びピッチが同じであり位相の異なる2条のスレッド溝(4)から成る。
図1のインプラントフィクスチャは太さ4mm、長さ11mm、リード1.2mm、ピッチ0.6mmのものである。更に、円錐台部の上底は平坦面を形成している。
第1のスレッド溝が円柱部の円錐台形状への移行部分から他端部に掛けて浅くなるように構成されており、もう一方の第2のスレッド溝は円柱部の円錐台形状への移行部分から円柱部の他端部にかけて溝の深さが一定に構成されている。
図4は、図1から~3とは異なり、本発明のインプラントフィクスチャの好適な実施形態の一つの円柱部の軸を含む面の断面部分拡大図であり、第1のスレッド溝が円柱部の円錐台形状への移行部分から他端部に掛けて浅くなるように構成されており、もう一方の第2のスレッド溝は円柱部の円錐台形状への移行部分から円柱部の中央に掛けて一定の割合で溝が浅くなるように構成され、円柱部の中央から他端部に掛けて溝の深さが一定に構成された形状をしている。
【0046】
図3に示すように円柱部の円錐台部側から他端部まで一定のスレッド深さである一定深度形状とした場合、円柱部全域に掛けて浅いスレッド溝を有するインプラントフィクスチャとなるので、より治癒期間を短縮することができる。
より具体的には、1つのスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて、連続的に漸減する第1の漸減深度形状を成し、漸減深度形状の谷底を繋ぐ線と円柱部の軸となす角度(100)は0.4°である。
他の第2のスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線と円柱部の軸とが平行である。図1のインプラントフィクスチャは第1の漸減する漸減深度形状のスレッド溝によって穿孔性が維持されインプラントフィクスチャの埋植を容易にすることができ、また、第2の漸減深度形状のスレッド溝によって、顎骨との間隙を狭め、治癒期間を短縮することができる。
【0047】
図4には1つの第1のスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から他端部側に掛けて連続的に漸減する第1の漸減深度形状を成し、第1の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線と円柱部の軸となす第1の角度(100)は0.4°である。他の第2のスレッド溝の深さが円柱部の円錐台部側から円柱部の中腹まで、第1の角度(100)より大きい、第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線と円柱部の軸となす第2の角度(101)で連続的に漸減し、中腹部から他端部側に掛けて第2のスレッド溝の深さが一定である第2の漸減深度形状とした。円柱部の軸と第2の漸減深度形状の谷底を繋ぐ線がなす角は2.4°である。
【0048】
前記第1の漸減深度形状を成す第1のスレッド溝は、円錐台部側では深いスレッド溝を形成し、埋植時には高い穿孔性を得ることができ、他端部側の浅いスレッド溝によりドリル孔とスレッド溝の間隙が小さくなり比較的短い治癒期間で新生骨による固定が得られるように構成されている。
前記第2の漸減深度形状を成す第2のスレッド溝は、円錐台部から中腹部では深いスレッド溝を形成し、埋植時には高い穿孔性を得ることができる一方で、円柱部の中腹から他端部までの領域においては第1のスレッド溝よりも更にスレッド溝が浅くなっており、円柱部の中腹から他端部までの領域において短い治癒期間で新生骨による固定が得ることができる。
【0049】
本発明のインプラントフィクスチャ(1)は図2のように歯科用補綴物を支持する機構部(5)を内部に有するもの、及び図5にて図示するような当該機構部を外部に有するものを採用することができる。
【0050】
また本発明のインプラントフィクスチャは、図6及び図7にて示されるように他端部付近に同心円の溝(6)を有することもできる。歯科用インプラントを埋植した後の多くの症例では、顎骨表面から内部方向に向かって1mm程度の骨吸収(退縮)が起こることが確認されているが、この骨吸収の原因の1つとして細菌が顎骨表面側から歯科用インプラントとの境界に侵入し顎骨が浸食されることが知られており、同心円の溝(6)は骨吸収の原因となる細菌がスレッド部に侵入するのを防ぐために有効である。
【0051】
前記同心円の溝(6)は他端部(3)とスレッド溝(4)の終端部の間に位置し、インプラントフィクスチャの外周に凹で形成してもよいし微小な凸で形成した複数のねじ山で形成されてもよいが、少なくともインプラントフィクスチャの外周上に1条以上の溝を設ければよい。
【0052】
円錐台部の穿孔性を向上させる為には、円錐台部(2)付近にセルフタップ溝(7)があるとより効果的である(図6図7)。ドリル孔に挿入する際に有効にセルフタップ溝(7)が機能する為には、少なくともセルフタップ溝(7)の長さは円錐台部(2)の長さ以上であることが好ましい。
【0053】
またインプラントフィクスチャを望ましい角度で正確に埋入する為には、インプラントフィクスチャをドリル孔に挿入する際に、セルフタップ溝の側面におけるねじ山の切り欠きとドリル孔が複数箇所且つインプラントフィクスチャの中心軸に対し軸対象の位置で接触することが好ましく、即ちセルフタップ溝(7)の本数はねじの条数の約数であることが好ましい。
【0054】
スレッド溝(4)によって形成されるねじ山のフランク角は一般ねじと同じ30°とすることもできるが、フランク角を最適に選択することで更に穿孔性を向上させることができる。埋植時に小さめに開けたドリル孔に対しインプラントフィクスチャを螺進させる際、図8のように周囲の骨を押し広げる力の反力(104)がインプラントフィクスチャのねじ山に加わる。反力(104)によりねじ山の先端側の面が受ける分力(105)よりもねじ山の後端側の面が受ける分力(107)が大きければ、インプラントフィクスチャは骨から下向きの力を受け螺進しやすくなる。即ち前記スレッド溝により形成されるねじ山の先端側フランク角(102)よりも後端側フランク角(103)を大きくすれば良い。インプラントフィクスチャとして好ましいスレッド溝の深さ、リード及びピッチに鑑みた場合、先端側フランク角(102)は2~20°であることが好ましく、後端側フランク角(103)は40~60°であることが好ましい。
【0055】
また第1のスレッド溝と第2のスレッド溝はそれぞれ異なる先端側フランク角(102)及び後端側フランク角(103)を有してもよいが、加工性を考慮すれば第1のスレッド溝と第2のスレッド溝は同一の先端側フランク角(102)及び後端側フランク角(103)であることがより好ましい。
【0056】
インプラントフィクスチャ(1)の材料は、特に制限はなく、インプラントフィクスチャの材料として公知の材料を適宜選択して使用することができる。例えば純チタンやTi-6Al-4V合金に代表されるような金属材料またはアルミナやジルコニアに代表されるセラミック材料等を挙げることができる。
【0057】
インプラントフィクスチャ(1)の製造方法も特に制限はなく、インプラントフィクスチャの製造に用いられる公知の製造方法を適宜選択することができる。インプラントフィクスチャ(1)の外面は、例えば切削加工で作製することができる。一般的な精密加工プログラム(CAD)を用いて切削加工(CAM)するだけで作製した表面性状は、通常、算術平均表面粗さRaが0.2μm程度または十点平均粗さRzが2.0μm程度であり、この表面粗さの値は加工痕のみに依存する。このような表面性状は、顎骨とのオッセオインテグレーションには不向きである。Ra又はRzが大きい値であっても、表面凹凸の高低差が単純に大きいだけでは細胞のマクロファージ(増殖)には不向きであり、早期のオッセオインテグレーションを得ることは難しい。
【0058】
よって、顎骨内に埋植されるインプラントフィクスチャの表面は、良好なオッセオインテグレーションを得るために、適度な粗面であることが必要である。具体的には、Raが1.15~4.05μm且つRzが5.0~40μmであることがより好ましい。
【0059】
このような表面を得るための表面処理方法は、特に制限はなく、公知の表面処理方法を適宜選択して使用することができるが、例えば放電加工、サンドブラスト、酸処理、アルカリ処理、陽極酸化処理、ハイドロキシアパタイト溶射、チタン溶射または、リン酸カルシウム等の被覆処理等を例示することができる。
【0060】
また図6は、インターナル嵌合タイプの本実施形態1の歯科用インプラントフィクスチャにカフ部(8)を設けた例であるが、図7のように、エクスターナル嵌合タイプの本実施形態1の歯科用インプラントフィクスチャにカフ部(8)を同様に設けることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の歯科用インプラントは、顎骨の状態及び口腔内環境に関わらず広範囲に適用することができ、1回法施術及び2回法施術においてそれぞれ求められる歯科用インプラントの要件も兼ね備えており、様々な症例への対応を可能としながらも、短い治癒期間での施術が可能であり患者にとっても有用である。従って、本発明は歯科用インプラントの分野に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 インプラントフィクスチャ
2 円錐台部
3 円柱部
4 スレッド溝
5 歯科用補綴物を支持する機構部
6 同心円の溝
7 セルフタップ溝
8 カフ部
100、101 スレッド溝の傾斜角
102 先端側フランク角
103 後端側フランク角
104 インプラントフィクスチャが受ける反力
105、106 ねじ山の先端側の面が受ける分力
107、108 ねじ山の後端側の面が受ける分力

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8