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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】アクスルケース構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20230703BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20230703BHJP
   F16H 57/038 20120101ALI20230703BHJP
【FI】
F16H57/04 B
F16H57/037
F16H57/038
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018083790
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019190569
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】濱田 紀彦
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】平城 俊雅
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-56405(JP,U)
【文献】特開2016-94104(JP,A)
【文献】特開2017-203266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/037
F16H 57/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に膨出されディファレンシャルギヤ機構を収容する膨出部を有するアクスルケースと、該膨出部の内部において該ディファレンシャルギヤ機構を挟んで車幅方向に間隔を隔てて配置され、該膨出部の内面と隙間を隔てて取り付けられる一対のセパレータとを備え、これらのセパレータの間にオイルを貯留するよう構成したアクスルケース構造であって、
前記セパレータは、前記膨出部の内面に固定される固定セパレータ板と、該固定セパレータ板の下端にヒンジシャフトを介して車幅方向に揺動可能に取り付けられる可動セパレータ板と、前記可動セパレータ板を車幅方向外方へ揺動するように付勢するバネとを有し、
前記膨出部の内面に、前記可動セパレータ板の車幅方向内方への揺動を許容する一方、該可動セパレータ板の車幅方向外方への揺動を規制する座部を有し、
前記固定セパレータ板は、前記膨出部の内面に対して溶接によって固定され、該溶接は、該膨出部の上下方向中間領域においてのみ行われていて、
前記ヒンジシャフトは、前記固定セパレータ板及び前記可動セパレータ板に対して前記膨出部の内面によって車両前後方向に抜け止めされることを特徴とするアクスルケース構造。
【請求項2】
前記固定セパレータ板は、ドライブシャフトが回転可能に挿通される孔を有する請求項1に記載のアクスルケース構造。
【請求項3】
前記セパレータは、前記可動セパレータ板に錘を有する請求項1又は2に記載のアクスルケース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディファレンシャルギヤ機構を収容するアクスルケースの膨出部に一対のセパレータを備え、これらのセパレータの間にオイルを貯留するよう構成した、アクスルケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アクスルケースに収容されたディファレンシャルギヤ機構の焼き付きを防止するべく、ディファレンシャルギヤ機構にオイルを供給できるようにした技術が知られている。例えば特許文献1には、アクスルケースに貯留したオイルをリングギヤの回転によって跳ね上げるとともに、跳ね上がったオイルをドライブピニオンギヤに導くように構成した、オイルはねかけ潤滑構造が示されている。
【0003】
また、図5に示すように、ディファレンシャルギヤ機構105を収容するアクスルケース101の膨出部104に一対のセパレータ107を設け、これらのセパレータ107の間にオイルOを貯留するよう構成したアクスルケース構造も知られている。このようなアクスルケース構造を用いる場合は、セパレータ107によって、アクスルケース101に収容したオイルOをディファレンシャルギヤ機構105の周辺に溜めることができるため、ディファレンシャルギヤ機構105に対する潤滑や冷却が効果的に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-315456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上述したセパレータ107には、図5図6に示すように、ドライブシャフト106が回転可能に挿通される孔113が設けられていて、この孔113とドライブシャフト106との間には隙間があいている。またセパレータ107は、膨出部104の車幅方向の内面に対して溶接によって固定されているが、セパレータ107の周囲において溶接された以外の部位(図6において二点鎖線で示す部位)では、膨出部104の内面に対して僅かな隙間(一例として0.5~0.8mm程度)があいているところがある。このため、図7(a)に示すように車両の旋回が繰り返されると、セパレータ107の間に収容されていたオイルOは、遠心力によってこれらの隙間から外側に流出し、図7(b)に示すようにセパレータ107の外方に溜まってしまう。なお、溜まったオイルOはセパレータ107と膨出部104の内面との間の隙間を通って徐々にセパレータ107の内方に戻っていくものの、時間を要するため、この間はディファレンシャルギヤ機構105に対するオイルOが不足して潤滑や冷却が十分に行われなくなる可能性がある。
【0006】
このような不具合の対策として、アクスルケース101に収容するオイルOの量を増やすことが挙げられる。しかし、ディファレンシャルギヤ機構用のオイルは高価であり、量が増えるとコストアップにつながることになる。またオイルの量が増えると車両の重量も増すため、燃費の悪化を招くことにもなる。
【0007】
更に、アクスルケース101の製造工程では機械加工が行われており、その際に発生する切削粉等をアクスルケース101内から取り除く必要がある。切削粉等を除去するには、例えば図8に示すように、アクスルケース101の車幅方向外側からノズルを挿入して洗浄液を噴出させ、これによって洗浄液とともにアクスルケース101の中央部から排出する作業を行う。しかし、切削粉等がセパレータ107で堰き止められるため、除去に手間がかかるという問題もある。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決することを課題とするものであり、車両の旋回が繰り返される状況でもセパレータの外方に溜まったオイルを素早く内方へ戻し、ディファレンシャルギヤ機構に対して十分にオイルを供給することができるうえ、オイルの量は必要最小限に抑えることができ、またアクスルケース内から切削粉等も除去しやすいアクスルケース構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上下方向に膨出されディファレンシャルギヤ機構を収容する膨出部を有するアクスルケースと、該膨出部の内部において該ディファレンシャルギヤ機構を挟んで車幅方向に間隔を隔てて配置され、該膨出部の内面と隙間を隔てて取り付けられる一対のセパレータとを備え、これらのセパレータの間にオイルを貯留するよう構成したアクスルケース構造であって、前記セパレータは、前記膨出部の内面に固定される固定セパレータ板と、該固定セパレータ板の下端にヒンジシャフトを介して車幅方向に揺動可能に取り付けられる可動セパレータ板と、前記可動セパレータ板を車幅方向外方へ揺動するように付勢するバネとを有し、前記膨出部の内面に、前記可動セパレータ板の車幅方向内方への揺動を許容する一方、該可動セパレータ板の車幅方向外方への揺動を規制する座部を有し、
前記固定セパレータ板は、前記膨出部の内面に対して溶接によって固定され、該溶接は、該膨出部の上下方向中間領域においてのみ行われていて、
前記ヒンジシャフトは、前記固定セパレータ板及び前記可動セパレータ板に対して前記膨出部の内面によって車両前後方向に抜け止めされることを特徴とするアクスルケース構造である。
【0010】
前記アクスルケース構造において、前記固定セパレータ板は、ドライブシャフトが回転可能に挿通される孔を有することが好ましい。
【0013】
また前記セパレータは、前記可動セパレータ板に錘を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクスルケース構造においては、座部によって可動セパレータ板の車幅方向外方への揺動が規制されるため、オイルをディファレンシャルギヤ機構の周辺に集めることができる。また、車両の旋回等によってオイルが固定セパレータ板や可動セパレータ板の外方へ流出しても、可動セパレータ板は車幅方向内方へ揺動するため、外方に溜まったオイルを素早く内方へ戻すことができる。このため、ディファレンシャルギヤ機構への潤滑及び冷却効果を維持しつつ、収容するオイルの量を抑制することができる。また、アクスルケースの製造工程で発生する切削粉等も、可動セパレータ板を揺動させることで取り除きやすくなるため、除去作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従うアクスルケース構造の一実施形態を示した斜視図、及びセパレータの斜視図、並びにセパレータの分解斜視図である。
図2図1に示したアクスルケース構造の断面図である。
図3図2に示すA-Aに沿う断面図である。
図4図1に示すアクスルケース構造における車両旋回時とその後のオイルの挙動について説明する図である。
図5】従来のアクスルケース構造を示した断面図である。
図6図5に示すB-Bに沿う断面図である。
図7】従来のアクスルケース構造における車両旋回時とその後のオイルの挙動について説明する図である。
図8】従来のアクスルケースの内側から切削粉を排出する状況について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に従うアクスルケース構造の一実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態のアクスルケース構造は、図1図3に示す形状になるアクスルケース1を備えている。アクスルケース1は、平板状の板金をプレス加工によって所定の形状にした上側アクスルケース2と下側アクスルケース3によって形成されるものであり、上側アクスルケース2と下側アクスルケース3を向き合わせ、溶接によって両者を一体化している。アクスルケース1の中央部には、上下方向に膨出させた膨出部4が設けられている。
【0019】
膨出部4には、図2に示すようにディファレンシャルギヤ機構5が収容される。またディファレンシャルギヤ機構5に対して車幅方向両側には、不図示の車輪につながるドライブシャフト6が設けられている。
【0020】
また膨出部4の内部には、ディファレンシャルギヤ機構5を挟んで車幅方向に間隔を隔てて配置される一対のセパレータ7が設けられている。セパレータ7は、膨出部4の内面に固定される固定セパレータ板8と、固定セパレータ板8に揺動可能に取り付けられる可動セパレータ板9と、ヒンジシャフト10を備えている。本実施形態の固定セパレータ板8は、その下端に間隔をあけて設けられた一対の外側軸孔11を備えている。また可動セパレータ板9は、その上端において、隣り合う外側軸孔11の間に収まる内側軸孔12を備えている。そして、外側軸孔11と内側軸孔12にヒンジシャフト10を挿通させるとともに、外側軸孔11と内側軸孔12の何れか一方でヒンジシャフト10を抜け止め保持することによって、可動セパレータ板9は固定セパレータ板8に対して揺動可能に取り付けられている。また固定セパレータ板8の中央部には、ドライブシャフト6を回転可能に挿通させる孔13が設けられている。なお、孔13は、ドライブシャフト6に対して隙間があく大きさで形成されている。
【0021】
セパレータ7は、図1に示すように膨出部4における車幅方向外方寄りにおいて、膨出部4の内面に対して固定セパレータ板8を溶接することによって固定されている。本実施形態の固定セパレータ板8は、図3に示すように、膨出部4の上下方向中間領域(概ね、上側アクスルケース2と下側アクスルケース3の合わせ目を中心として、セパレータ7が取り付けられる部分においての膨出部4の上下方向長さの7割程度の領域)で、孔13の近傍において、上側アクスルケース2で形成される膨出部4の内面に対して2箇所、下側アクスルケース3で形成される膨出部4の内面に対して2箇所の合計4箇所で溶接されている。なお、セパレータ7の周囲において溶接された以外の部位(図3において二点鎖線で示す部位)では、膨出部4の内面に対して僅かな隙間があいているところがある。
【0022】
膨出部4の内面に固定された際、図2に示すように可動セパレータ板9の下端は、可動セパレータ板9の自重によって膨出部4の内面(アクスルケース1の中央に向かって上下方向に膨出する傾斜面)に当接している。すなわち、膨出部4の内面に対して可動セパレータ板9の下端が当接する部位は、可動セパレータ板9の車幅方向内方への揺動を許容する一方、可動セパレータ板9の車幅方向外方への揺動を規制する座部14として機能する。なお、本実施形態の座部14は、ドレンボス15が設けられる部位よりも上方に位置している。
【0023】
またセパレータ7は、上述したように膨出部4における車幅方向外方寄りに取り付けられるため、図1に示すようにセパレータ7の側縁は、膨出部4における車両前後方向の内面に対して接近した位置にある。このため、仮に外側軸孔11と内側軸孔12の何れか一方によるヒンジシャフト10への抜け止めが機能しなくなる状況になっても、ヒンジシャフト10は、膨出部4の車両前後方向の内面によって抜け止めされるため、固定セパレータ板8から可動セパレータ板9やヒンジシャフト10が脱落することはない。
【0024】
また、図8を参照しながら説明した切削粉等の除去作業を行う場合、本実施形態のセパレータ7は、可動セパレータ板9が車幅方向内方へ揺動する。このためセパレータ7付近に溜まった切削粉等は、ノズルによって噴出させた洗浄液とともにアクスルケース1の中央部から簡単に排出される。
【0025】
そしてこのように構成される本実施形態のアクスルケース構造を適用した車両においては、図2に示すように、一対のセパレータ7によってオイルOをディファレンシャルギヤ機構5の周辺に溜めておくことができる。
【0026】
また、図4(a)に示すように車両の旋回が繰り返されると、オイルOには遠心力が働くため、ドライブシャフト6と孔13との隙間やセパレータ7と膨出部4の内面との隙間からオイルOが外側に流出する。ここで可動セパレータ板9は、図4(b)に示すように車幅方向内方へ揺動するため、セパレータ7の外側に流出したオイルOを素早く内方に戻すことができる(図4(c)参照)。このため、車両の旋回が繰り返される状況でも、ディファレンシャルギヤ機構5に対してオイルOを十分に供給できるため、潤滑性能や冷却性能が維持される。
【0027】
なお、車両の重量がアクスルケース1に加わる際、アクスルケース1は、ドライブシャフト6につながる車輪からの反力を受けて下向きに凸をなすように曲げられるため、アクスルケース1の上面には圧縮力が作用し、下面には伸張力が作用することになる。これに対して本実施形態の固定セパレータ板8は、アクスルケース1の中立軸に近い位置である膨出部4の上下方向中間領域で溶接されている。このため、溶接した部位に加わる応力は小さくなるため、溶接した部位を起点とした損傷を防止することができる。
【0028】
以上、本発明に従うアクスルケース構造の一実施形態について説明したが、本実施形態は一例に過ぎず、本発明には特許請求の範囲に従う範疇で種々の変更を加えたものも含まれる。例えば本実施形態の可動セパレータ板9は、自重によって座部14に当接するものであったが、この可動セパレータ板9を車幅方向外方へ揺動するように付勢するバネ(例えばヒンジシャフト10と同心に設けられる巻きバネ)を設けてもよい。このようなバネを設ける場合は、可動セパレータ板9を揺動させる力をコントロールすることができる。また、可動セパレータ板9に錘を設けることによっても、これを揺動させる力をコントロールすることができる。なお、可動セパレータ板9に錘を設けるにあたっては、可動セパレータ板9をより効果的に揺動させるべく、可動セパレータ板9の下端に設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0029】
1:アクスルケース
4:膨出部
5:ディファレンシャルギヤ機構
6:ドライブシャフト
7:セパレータ
8:固定セパレータ板
9:可動セパレータ板
10:ヒンジシャフト
13:孔
14:座部
O:オイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8