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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】モータ、過給機及び過給機の組立方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/18 20060101AFI20230703BHJP
   F02B 37/10 20060101ALI20230703BHJP
   F02B 39/10 20060101ALI20230703BHJP
   F04D 29/00 20060101ALI20230703BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20230703BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H02K5/18
F02B37/10 Z
F02B39/10
F04D29/00 B
H02K7/14 B
H02K1/18 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018119183
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019047715
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】15/690,919
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西村 英高
(72)【発明者】
【氏名】辻 剛志
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-131083(JP,A)
【文献】国際公開第2012/050063(WO,A1)
【文献】特開2015-169073(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011076532(DE,A1)
【文献】特開平06-245414(JP,A)
【文献】特開2015-158161(JP,A)
【文献】特開2016-046844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/18
F02B 37/10
F02B 39/10
F04D 29/00
H02K 7/14
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容されるステータと、
前記ステータの内部で回転するモータロータと、を備え、
前記ハウジングは、
前記ハウジングの内周面に形成され、前記ステータを固定する第一ステータ固定部と、
前記ハウジングの内周面において、前記第一ステータ固定部に対して前記ハウジングの軸方向に間隔を空けた位置に形成され、前記第一ステータ固定部よりも小さな内径を有した第二ステータ固定部と、を備え、
前記ステータは、
前記ステータの外周面に形成され、前記第一ステータ固定部に嵌め合う第一被固定部と、
前記ステータの外周面において、前記第一被固定部に対して前記ステータの軸方向に間隔を空けた位置に形成され、前記第一被固定部よりも小さな外径を有して前記第二ステータ固定部に嵌め合う第二被固定部と、
前記ステータの前記第一被固定部側の一端に設けられ、外周側に張り出すフランジ部と、を備え
前記第一ステータ固定部と前記第一被固定部との第一嵌め合い部と、前記第二ステータ固定部と前記第二被固定部との第二嵌め合い部との間に、前記第一嵌め合い部及び前記第二嵌め合い部よりも前記ハウジングの内周面と前記ステータの外周面との間のクリアランスが大きい大クリアランス部が形成されており、
前記大クリアランス部における前記ハウジングの内径と前記ステータの外径とは、JIS規格における穴の公差域クラスH9と軸の公差域クラスc9の関係となるすきま嵌めとなる寸法にそれぞれ形成されており、
前記大クリアランス部における前記ハウジングと前記ステータとの間に放熱グリースが配設されたことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記ハウジングの内周面は、
前記ハウジングの一端部側から他端部側に向かって所定長にわたり、一定の内径で形成されている第一内周面と、
前記第一内周面に対し、前記ハウジングの前記他端部に近接した部分に形成されている第二内周面と、を備え、
前記第一ステータ固定部は、前記ハウジングの前記第一内周面に形成され、
前記第二ステータ固定部は、前記ハウジングの前記第二内周面に形成され、
前記ハウジングは、前記ハウジングの一端部側から前記第二ステータ固定部に至るまでに1つのみ設けられ、前記第一内周面から前記第二内周面に向かって、その内径が漸次縮小するようにテーパ状に形成された縮径面をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
空気を圧縮するコンプレッサ部と、
前記コンプレッサ部に接続されたロータ軸と、
前記ロータ軸の端部に前記モータロータが接続された請求項1に記載のモータと、
を備えることを特徴とする過給機。
【請求項4】
請求項に記載の過給機の組立方法であって、
前記モータロータを前記ロータ軸に接続して取り付けるロータ取付工程と、
前記ハウジングを前記ロータ軸と同心に固定支持させるハウジング取付工程と、
前記ハウジングの前記第一ステータ固定部側から前記第二ステータ固定部側に向かって、前記ステータを前記ハウジングの内部に挿入して組み込むステータ取付工程と、
を備えていることを特徴とする過給機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ、過給機及び過給機の組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過給機は、内燃機関の燃焼用空気を圧縮し、密度の高い空気を燃焼室内へ送り込む。過給機は、燃焼用空気を圧縮するコンプレッサ部と、内燃機関の排気ガスが保有するエネルギによって駆動され、コンプレッサ部の駆動源になるタービン部とが同軸に設けられている。
【0003】
このような過給機において、モータを備えた電動アシスト過給機が知られている。電動アシスト過給機は、例えば内燃機関が低負荷状態にあり、排気ガス量が十分ではない場合にモータに通電し、モータの駆動力によってコンプレッサ部の駆動を加勢(アシスト)する。
【0004】
特許文献1には、タービンのロータ軸を吸入空気導入路側へ延長した軸延長部に設けられたモータロータと、モータロータの周囲に設けられたステータと、を備えた電動アシスト過給機のモータが開示されている。このモータは、モータロータがタービンのロータ軸の軸延長部に取り付けられることで、過給機本体を支持する軸受(ロータ軸の軸受)によって支持されている。このようなモータは、モータロータ自体は軸受を持たず、いわゆるモータオーバハング構造を採用している。
【0005】
モータオーバハング構造のモータのステータは、過給機本体に支持された筒状のハウジングに収容される。過給機を組み立てる際には、モータロータをロータ軸に取り付けた後、ハウジングを過給機本体に固定し、この後に、ステータをハウジングの内側に挿入(圧入)し、所定の嵌め合いでハウジングに固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-86817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ステータをハウジングの内側に挿入するときに、ステータとハウジングとの間に摩擦が生じるため、ステータの取り付けに手間がかかる。摩擦低減のために、ステータとハウジングとの嵌め合いを緩くすると、ステータのモータロータに対する位置決め精度が低下したり、ステータとハウジングとの間の熱伝導性低下によるモータの性能低下を招いたりする場合がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ステータの位置決め精度、及びステータとハウジングとの間の熱伝導性を確保しつつ、組立性を向上させることのできるモータ、過給機及び過給機の組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様に係るモータは、円筒形状のハウジングと、前記ハウジングの内部に収容されるステータと、前記ステータの内部で回転するモータロータと、を備え、前記ハウジングは、前記ハウジングの内周面に形成され、前記ステータを固定する第一ステータ固定部と、前記ハウジングの内周面において、前記第一ステータ固定部に対して前記ハウジングの軸方向に間隔を空けた位置に形成され、前記第一ステータ固定部よりも小さな内径を有した第二ステータ固定部と、を備え、前記ステータは、前記ステータの外周面に形成され、前記第一ステータ固定部に嵌め合う第一被固定部と、前記ステータの外周面において、前記第一被固定部に対して前記ステータの軸方向に間隔を空けた位置に形成され、前記第一被固定部よりも小さな外径を有して前記第二ステータ固定部に嵌め合う第二被固定部と、前記ステータの前記第一被固定部側の一端に設けられ、外周側に張り出すフランジ部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ハウジング内に収容されるステータは、第一ステータ固定部と第一被固定部との嵌め合い、及び、第二ステータ固定部と第二被固定部との嵌め合いによって、ステータの軸方向に間隔を空けた二個所で位置決め固定される。また、ステータとハウジングとが確実に密着し、ステータからハウジングへの熱伝導性が低下するのを抑えることができる。
第二ステータ固定部及び第二被固定部は、第一ステータ固定部及び第一被固定部よりも小径である。これにより、ステータをハウジング内に挿入する際、ハウジングの第一ステータ固定部側から第二ステータ固定部側に向かってステータを挿入すれば、ステータがハウジングに干渉することを抑制しつつ、ステータを容易にハウジングに組み付けることができる。
ここで、前記ハウジングの内周面は、前記ハウジングの一端部側から他端部側に向かって所定長にわたり、一定の内径で形成されている第一内周面と、前記第一内周面に対し、前記ハウジングの前記他端部に近接した部分に形成されている第二内周面と、を備え、前記第一ステータ固定部は、前記ハウジングの前記第一内周面に形成され、前記第二ステータ固定部は、前記ハウジングの前記第二内周面に形成され、前記ハウジングは、前記ハウジングの一端部側から前記第二ステータ固定部に至るまでに1つのみ設けられ、前記第一内周面から前記第二内周面に向かって、その内径が漸次縮小するようにテーパ状に形成された縮径面をさらに備えてもよい。
【0011】
上記第1態様において、前記第一ステータ固定部と前記第一被固定部との第一嵌め合い部と、前記第二ステータ固定部と前記第二被固定部との第二嵌め合い部との間に、前記第一嵌め合い部及び前記第二嵌め合い部よりも前記ハウジングの内周面と前記ステータの外周面との間のクリアランスが大きい大クリアランス部が形成されている
【0012】
この構成によれば、ステータをハウジング内に挿入する際、ハウジングの第一ステータ固定部側から第二ステータ固定部側に向かってステータを挿入すると、ステータの第二被固定部がハウジングの第一ステータ固定部側を通過した後、第一被固定部が第一ステータ固定部に嵌め合い、第二被固定部が第二ステータ固定部に嵌め合うまでの間、ステータがハウジングに干渉することを抑制することができる。
【0013】
上記第1態様において、前記大クリアランス部における前記ハウジングの内径と前記ステータの外径とは、JIS規格における穴の公差域クラスH9と軸の公差域クラスc9の関係となるすきま嵌めとなる寸法にそれぞれ形成されている
【0014】
この構成によれば、ステータをハウジング内に挿入する際、ステータがハウジングに干渉することを抑制することができる。
【0015】
上記第1態様において、前記大クリアランス部における前記ハウジングと前記ステータとの間に放熱グリースが配設されている
【0016】
この構成によれば、放熱グリースによって、大クリアランス部においても、ステータとハウジングとの間での熱伝導性を高めることができる。また、大クリアランス部に放熱グリースが配設されることで、放熱グリースの粘度によるステータの挿入抵抗を抑えることができる。
【0017】
本発明の第2態様に係る過給機は、空気を圧縮するコンプレッサ部と、前記コンプレッサ部に接続されたロータ軸と、前記ロータ軸の端部に前記モータロータが接続された上記第1態様のモータと、を備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ハウジング内に収容されるステータは、第一ステータ固定部と第一被固定部との嵌め合い、及び、第二ステータ固定部と第二被固定部との嵌め合いによって、ステータの軸方向に間隔を空けた二個所で位置決め固定される。
また、ステータをハウジング内に挿入する際、ステータがハウジングに干渉することを抑制しつつ、ステータを容易にハウジングに組み付けることができる。
【0019】
本発明の第3態様に係る過給機の組立方法は、上記第2態様の過給機の組立方法であって、前記モータロータを前記ロータ軸に接続して取り付けるロータ取付工程と、前記ハウジングを前記ロータ軸と同心に固定支持させるハウジング取付工程と、前記ハウジングの前記第一ステータ固定部側から前記第二ステータ固定部側に向かって、前記ステータを前記ハウジングの内部に挿入して組み込むステータ取付工程と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ハウジング内に収容されるステータは、第一ステータ固定部と第一被固定部との嵌め合い、及び、第二ステータ固定部と第二被固定部との嵌め合いによって、ステータの軸方向に間隔を空けた二個所で位置決め固定される。
また、ステータをハウジング内に挿入する際、ステータがハウジングに干渉することを抑制しつつ、ステータを容易にハウジングに組み付けることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ステータの位置決め精度、及びステータとハウジングとの間の熱伝導性を確保しつつ、組立性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る過給機の構成を示す縦断面図である。
図2図1に示す過給機のモータ周辺部を拡大した図である。
図3】本発明の一実施形態に係る過給機において、モータのハウジングを支持するサポート部材を、モータロータの軸線方向から見た側面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る過給機の組立方法において、モータのハウジングを取り付けた状態を示す縦断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るモータのステータ及びハウジングの概略形状を示す拡大断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る過給機の組立方法の流れを示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る過給機の組立方法において、ロータ取付工程でモータロータを取り付けた状態を示す縦断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る過給機の組立方法において、ハウジング取付工程で、ガイドバーを用いてハウジングを取り付ける状態を示す縦断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る過給機の組立方法において、ステータ取付工程で、ステータをハウジングに挿入して取り付けた状態を示す縦断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る過給機の組立方法において、ステータ取付工程で、ステータをハウジングに挿入する途中の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態に係るモータ、過給機及び過給機の組立方法について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の過給機10は、軸受台13と、軸受台13の一方の側に設けられたタービン部10Tと、軸受台13の他方の側に設けられたコンプレッサ部10Cと、モータ30と、を備えている。
【0024】
過給機10は、タービン部10T側に、ガス入口ケーシング11と、ガス出口ケーシング12と、を備えている。過給機10は、コンプレッサ部10C側に、空気案内ケーシング14を備えている。これらのガス入口ケーシング11、ガス出口ケーシング12、軸受台13及び空気案内ケーシング14は、ボルト(図示せず)によって一体に締結されている。
【0025】
過給機10は、中心軸回りに回転自在に設けられたロータ軸15を備えている。ロータ軸15は、軸受台13内に設けたスラスト軸受16及びラジアル軸受17、18によって回転自在に支持されている。ロータ軸15は、一端部にタービン部10Tを構成するタービン19を備え、他端部にコンプレッサ部10Cを構成するコンプレッサ羽根車20を備えている。
【0026】
タービン19は、外周部に多数のブレード19aを有している。このブレード19aは、ガス入口ケーシング11に設けられた排気ガス導入路22と、ガス出口ケーシング12に設けられた排気ガス排出路23との間に配置されている。
【0027】
コンプレッサ羽根車20は、外周部に多数のブレード20aを有している。ブレード20aは、空気案内ケーシング14に設けられた吸入空気導入路24の下流側に配置されている。吸入空気導入路24は、コンプレッサ羽根車20を介して渦室25に接続されている。渦室25は、図示しない圧縮空気導入路を介してエンジンの燃焼室に接続されている。
【0028】
また、過給機10は、吸入空気導入路24の上流側にサイレンサ26を備えている。サイレンサ26は、吸入空気を通過させることで空気流を整流するフィルタ機能と、空気吸入によって発生する騒音を吸収する消音機能とを有している。このサイレンサ26は、中間ピース27を介して空気案内ケーシング14に支持されている。
【0029】
モータ30は、ロータ軸15に接続されている。このモータ30は、ロータ軸15を吸入空気導入路24側へ延長して取り付ける構造、すなわち、モータ30が専用の軸受を持たないモータオーバハング構造となっている。従って、モータ30及び後述するモータ30のモータロータ31は、ロータ軸15を支持するスラスト軸受16及びラジアル軸受17、18によって支持された構造となる。
【0030】
図2は、上述したモータ30の周辺部を拡大した図である。
図2に示すように、モータ30は、モータロータ31と、ステータ32と、ハウジング33と、を主な構成要素とする。
モータロータ31は、外周面に永久磁石を備える円柱形状の部材である。モータロータ31は、一端部がロータ軸15の端部とフランジ結合によって接続されている。詳しくは、モータロータ31は、ロータ軸15の吸入空気導入路24側となる端部に設けたフランジ31aを、モータロータ31のコンプレッサ羽根車20側となる端部に設けたフランジ15aに突き合わせ、複数のボルト・ナット34で締結される。これにより、モータロータ31は、ロータ軸15に連結されている。
【0031】
ステータ32は、円筒形状のハウジング33内に収納設置されている。このステータ32の中空部には、軸中心部を通るモータロータ31が非接触の状態で配設されている。
【0032】
ハウジング33は、外周面に、連結バー35bの一端部側を固定するボルト穴33aを備えた台座33bと、放熱フィン33cとを備えている。
【0033】
図3図4に示すように、ハウジング33は、サポート部材35を介して空気案内ケーシング14に支持されている。
サポート部材35は、リング状のフランジ部35aと、複数(本実施形態では4本)の連結バー35bとを備えている。フランジ部35aには、複数(本実施形態では6個)のボルト穴35cが円周方向に等ピッチで設けられている。フランジ部35aは、ボルト穴35cを通して、ボルト36で空気案内ケーシング14に固定される。連結バー35bは、フランジ部35aとハウジング33の外周部とを連結するよう設けられている。連結バー35bは、ハウジング33にボルト36で連結されている。これら複数の連結バー35bによって、ハウジング33は、フランジ部35aの軸中心位置に保持される。
【0034】
また、図1に示すように、ハウジング33の吸入空気導入路24側となる端部には、キャップ37が六角穴付ボルト38によって固定して取り付けられている。このキャップ37は、サイレンサ26よりもコンプレッサ羽根車20側に位置している。すなわち、モータ30は、ロータ軸15の軸延長部がサイレンサ26に到達しない大きさまで小型化されている。
【0035】
図5に示すように、ハウジング33は、内周面に、第一内周面33fと、第二内周面33gと、縮径面33hと、を有している。第一内周面33fは、ハウジング33の内周面において、吸入空気導入路24側となる端部33dからロータ軸15の端部側に向かって所定長にわたり、一定の内径D1で形成されている。第二内周面33gは、ハウジング33の内周面において、第一内周面33fに対し、ロータ軸15の端部に近接した部分に形成されている。第二内周面33gは、第一内周面33fよりも小さな内径D2で形成されている。縮径面33hは、第一内周面33fと第二内周面33gとの間に形成されている。縮径面33hは、第一内周面33fから第二内周面33gに向かって、縮径面33hの内径が漸次縮小するようにテーパ状に形成されている。
このようなハウジング33の内周面には、第一ステータ固定部131と、第二ステータ固定部132と、が形成される。第一ステータ固定部131は、ハウジング33において、内径D1を有した第一内周面33fにおいて、吸入空気導入路24側の端部33dに近い部位に形成されている。第二ステータ固定部132は、内径D1よりも小さな内径D2を有した第二内周面33gに形成されている。これにより、第二ステータ固定部132は、第一ステータ固定部131に対してハウジング33の軸方向に間隔を空けた位置に形成されている。
【0036】
ステータ32は、コアにコイルが巻き回されたステータ本体101と、ステータ本体101を収容するステータケース102と、を備える。
ステータケース102は、有底円筒状をなし、一端には、外周側に張り出すフランジ部102aが一体に形成されている。
【0037】
このようなステータ32のステータケース102は、外周面に、第一外周面102fと、第二外周面102gと、縮径面102hと、を備えている。第一外周面102fは、フランジ部102a側から、ハウジング33の第一内周面33fよりも短い所定長にわたり、一定の外径D11で形成されている。第二外周面102gは、第一外周面102fに対し、フランジ部102aからハウジング33の軸方向に離間した部分に形成されている。第二外周面102gは、第一外周面102fよりも小さな外径D12で形成されている。縮径面102hは、第一外周面102fと第二外周面102gとの間に形成されている。縮径面102hは、第一外周面102fから第二外周面102gに向かって、縮径面102hの外径が漸次縮小するようにテーパ状に形成されている。
このようなステータ32のステータケース102の外周面には、第一被固定部121と、第二被固定部122とが形成されている。第一被固定部121は、ステータケース102の外周面において、外径D11を有した第一外周面102fに形成されている。第二被固定部122は、ステータケース102の外周面において、外径D11よりも小さな外径D12を有した第二外周面102gに形成されている。
【0038】
ステータ32をハウジング33に嵌め込んだ状態で、第一被固定部121は、第一ステータ固定部131に径方向で対向して嵌め合う。また、第二被固定部122は、第二ステータ固定部132に径方向で対向して嵌め合う。このようにして、ステータ32は、第一ステータ固定部131と第一被固定部121との第一嵌め合い部111と、第二ステータ固定部132と第二被固定部122との第二嵌め合い部112とで、ハウジング33に固定される。ここで、第一ステータ固定部131と第一被固定部121との第一嵌め合い部111と、第二ステータ固定部132と第二被固定部122との第二嵌め合い部112とは、後述する大クリアランス部113に対比し、ステータ32とハウジング33との間のクリアランスが小さい小クリアランス部である。第一嵌め合い部111と、第二嵌め合い部112とは、JIS規格における中間嵌め、もしくは寸法差の小さいすきま嵌め(例えばJIS規格における穴の公差域クラスH7と軸の公差域クラスf7の関係)となるように、第一ステータ固定部131の内径D1と第一被固定部121の外径D11、第二ステータ固定部132の内径D2と第二被固定部122の外径D12とが、それぞれ寸法設定される。
【0039】
また、ステータ32とハウジング33との間には、第一嵌め合い部111と、第二嵌め合い部112との間に、しまり嵌めの第一嵌め合い部111及び第二嵌め合い部112よりも、ハウジング33の内周面とステータ32の外周面との間のクリアランスが大きい大クリアランス部113が形成されている。ここで、大クリアランス部113において、ハウジング33の内径とステータ32の外径とは、すきま嵌めとなる寸法(寸法差が大きいすきま嵌め(例えばJIS規格における穴の公差域クラスH9と軸の公差域クラスc9の関係)。具体例を挙げれば、片側で、例えば0~0.1mm。)にそれぞれ形成されている。
このような大クリアランス部113には、ハウジング33とステータ32との間に放熱グリースが配設される。この大クリアランス部113は、放熱グリースの粘度によるステータ32の挿入抵抗が過大とならず、かつ放熱グリースを介したステータ32とハウジング33との間の熱伝導を良好に行うことができるように形成するのが好ましい。
【0040】
以下では、上述した構成の過給機10の組立方法について説明する。
図6に示すように、この過給機10の組立方法は、ロータ取付工程S1と、ハウジング取付工程S2と、ステータ取付工程S3と、を備える。
【0041】
図7に示すように、ロータ取付工程S1では、コンプレッサ羽根車20の組み付けが完了した後、ロータ軸15の端部に対してモータロータ31をフランジ結合によって接続させるとともに、モータロータ31の外周側に保護筒40を装着させる。なお、ロータ取付工程S1の開始時においては、モータロータ31をフランジ結合させる際の作業性を確保するため、空気案内ケーシング14が取り付けられていない状態としてもよい。
【0042】
ロータ軸15とモータロータ31とは、互いのフランジ15a,31aを所定の状態に接合した後、複数のボルト・ナット34を用いて連結する。
こうしてロータ軸15にモータロータ31が接続された後には、後工程の作業を容易にするため、モータロータ31に保護筒40を装着するのが好ましい。この保護筒40は、易滑性を有するとともに磁性のない材料が望ましく、ナイロンやポリエチレンなどプラスチック系材料を利用できる。好適な材料の一例として、例えばMC901(製品名)相当のナイロン(ポリアミド樹脂)を用いることができる。さらに、保護筒40は、モータロータ31を完全に収容するとともに、後述する第2工程において所定位置に組み付けられるハウジング33のサイレンサ26側の端部よりもサイレンサ26の方向へ突出する長さを有している。
【0043】
また、作業中に用いられる工具やボルトがモータロータ磁石部に引き付けられ接触した際にモータロータ31を保護するため、保護筒40の外側には、例えばナイロン等の帯状部材41を巻き付けておくことが望ましい。
なお、ロータ軸15にモータロータ31を接続させた後に、空気案内ケーシング14を所定位置に固定し設置することとしてもよい。
【0044】
次に、ハウジング取付工程S2を実行する。
ハウジング取付工程S2では、まず、図3図4に示すように、ハウジング33とサポート部材35とを連結して一体化したステータ・サポートユニットHSを、ロータ軸15の軸心と同心となるように空気案内ケーシング14の所定位置に取り付ける。
【0045】
ここで、ハウジング33の内周面に、放熱グリースを薄く塗布しておくのが好ましい。この放熱グリースは、運転時の放熱性向上に貢献するとともに、ステータ32を組み込む工程においては、滑りをよくしてスムーズな挿入にも貢献する。なお、図2に示すように、ハウジング33には、過剰な放熱グリースを押し出して排出するためのグリース排出口33tが形成されている。
【0046】
ステータ・サポートユニットHSを空気案内ケーシング14に取り付ける際には、モータロータ31の強力な永久磁石に金属部材が引き寄せられて、くっ付いて固着化したり破損することが懸念される。このため、例えば図8に示すように、位置決め及びスライド用ガイドの機能を有する治具として、ガイドバー50を使用するのが望ましい。
【0047】
ガイドバー50は、フランジ部35aを空気案内ケーシング14に固定するボルト36と同径のネジ部51を一端に有する棒状部材である。ガイドバー50は、ボルト36をねじ込む空気案内ケーシング14のボルト穴14aにネジ部51をねじ込んで使用される。なお、このガイドバー50は、空気案内ケーシング14に取り付けた状態において、ネジ部51と反対側の先端部がモータロータ31の永久磁石から磁力の影響を受けないようにするため、十分な長さを有している。
【0048】
このようなガイドバー50は、ステータ・サポートユニットHSを組み付ける際に、複数本をボルト穴14aにねじ込んで取り付ける。例えば上下2か所のボルト穴14aを利用して2本のガイドバー50を取り付ければ、ステータ・サポートユニットHSの安定した位置決め及びスライドが可能となるが、3本又はそれ以上のガイドバー50を使用すればより一層安定する。
ガイドバー50の設置完了後は、ステータ・サポートユニットHSの適所に設けたアイボルト(不図示)等を利用してステータ・サポートユニットHSを吊り上げ、フランジ部35aのボルト穴35cにガイドバー50の先端部を挿入して位置決めする。この後、ステータ・サポートユニットHSをガイドバー50に沿ってスライドさせ、空気案内ケーシング14の設置面まで移動させる。このとき、ステータ・サポートユニットHSは、モータロータ31に接近して磁力を受けるが、ガイドバー50に保持されているため引き寄せられることはない。
【0049】
こうして所定の取付位置に移動したステータ・サポートユニットHSは、ガイドバー50がねじ込まれていないボルト穴35c,14aに順次ボルト36をねじ込むことで仮止めされる。この後、ガイドバー50を取り外し、ボルト36をボルト穴35c,14aにねじ込むとともに、全てのボルト36を所定量締めこむことで、ステータ・サポートユニットHSの固定が完了する。この結果、ステータ・サポートユニットHSは、フランジ部35aの中心及びハウジング33がロータ軸15の軸心と一致した位置に保持される。
【0050】
次に、ステータ取付工程S3を実行する。
図9に示すように、このステータ取付工程S3では、最初に保護筒40の外周に巻き付けた帯状部材41がステータ32に干渉しないよう、帯状部材41を取り除く。
この後、ロータ軸15の軸心と同心のハウジング33をガイドにして、ステータ32をハウジング33の内部へ滑り込ませるようにして組み込む。すなわち、ハウジング33の内径及びステータ32の外径は略一致しているので、ステータ32が半径方向に位置ずれすることなくハウジング33の内周面に導かれて挿入される。
このとき、第二ステータ固定部132の内径D2及び第二被固定部122の外径D12は、第一ステータ固定部131の内径D1及び第一被固定部121の外径D11よりも小さい。これにより、図10に示すように、ステータ32をハウジング33内に挿入する際、ハウジング33の第一ステータ固定部131側から第二ステータ固定部132側に向かってステータ32を挿入すれば、ステータ32がハウジング33に干渉することを避けることができる。また、ハウジング33の内周面には放熱グリースが塗布されているので、ステータ32の滑りがよくなりスムーズな挿入が可能となる。
【0051】
また、モータロータ31には保護筒40が装着されているので、挿入されるステータ32とモータロータ31とが接触することはない。仮にステータ32がモータロータ31に引き寄せられた場合でも、保護筒40の存在によって接触時の衝撃からモータロータ31を保護できて破損を防止する。さらに、ステータ32とモータロータ31は、保護筒40の板厚で離れているので、くっついたモータロータ31は固着には至らずに剥がしやすくなる。
こうしてステータ32をハウジング33内の所定位置に組み込んだ後には、モータロータ31の外周から保護筒40を引き抜いて取り外す。なお、モータ30には、モータロータ31の外周面とステータ32の内周面との間に所定の隙間が設けられているので、保護筒40の肉厚を隙間以下にすることで、ステータ32を組み付けた後でも容易に抜き出すことが可能である。
【0052】
この後、図1に示すように、ステータ32を挿入したハウジング33の先端部にキャップ37を取り付けて六角穴付ボルト38で固定する。この結果、ステータ32はハウジング33内の所定位置に保持され、モータ30の組み付けは完了する。
さらに、サイレンサ26の取り付けが行われる。これには、中間ピース27を空気案内ケーシング14に取り付けた後、中間ピース27にサイレンサ26を取り付ける。なお、サイレンサ26を中間ピース27に取り付ける前には、モータ30側の付属の配線を束ね、所定の配線通路に入れ込んでおく。
これにより、過給機10の組立が完了する。
【0053】
なお、メンテナンスのためにハウジング33の取り外し工程が発生した場合には、上記とは逆の手順で作業を行うことにより、ステータ32を、ハウジング33から容易に取り外すことが可能となる。
【0054】
上述したようなモータ30、過給機10、過給機10の組立方法によれば、ハウジング33内に収容されるステータ32は、第一ステータ固定部131と第一被固定部121との第一嵌め合い部111、及び、第二ステータ固定部132と第二被固定部122との第二嵌め合い部112によって、ステータ32の軸方向に間隔を空けた二個所で、精度良く位置決め固定される。また、第一嵌め合い部111と第二嵌め合い部112とで、ステータ32とハウジング33とが確実に密着するので、ステータ32とハウジング33との間で高い熱伝導性が確保される。これにより、ハウジング33によるステータ32の冷却性能を確保し、モータ30の性能を高く発揮することができる。
また、第二ステータ固定部132の内径D2及び第二被固定部122の外径D12は、第一ステータ固定部131の内径D1及び第一被固定部121の外径D11よりも小さい。これにより、ステータ32をハウジング33内に挿入する際、ハウジング33の第一ステータ固定部131側から第二ステータ固定部132側に向かってステータ32を挿入すれば、ステータ32がハウジング33に干渉することを抑制しつつ、ステータ32を容易にハウジング33に組み付けることができる。
したがって、ステータ32の位置決め精度を確保しつつ、組立性を向上させることができる。
【0055】
また、第一嵌め合い部111と第二嵌め合い部112との間に、大クリアランス部113が形成されている。また、大クリアランス部113において、ハウジング33の内径D1とステータ32の外径D12とは、すきま嵌めとなる寸法にそれぞれ形成されている。
これにより、ステータ32をハウジング33内に挿入する際、ステータ32の第二被固定部122がハウジング33の第一ステータ固定部131側を通過した後、第一被固定部121が第一ステータ固定部131に嵌め合い、第二被固定部122が第二ステータ固定部132に嵌め合うまでの間、ステータ32がハウジング33に干渉することを抑制することができる。
【0056】
また、大クリアランス部113に放熱グリースが配設されることで、大クリアランス部113においても、ステータ32とハウジング33との間での熱伝導性を確保することができる。また、放熱グリースによって、ステータ32のハウジング33への挿入を、より一層容易に行うことができる。
【0057】
なお、上記実施形態において、過給機10は、モータ30を備えた電動アシスト過給機であるが、これに限らず、本発明は、発電機能を有する過給機にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 過給機
10C コンプレッサ部
10T タービン部
15 ロータ軸
30 モータ
31 モータロータ
32 ステータ
33 ハウジング
33f 第一内周面
33g 第二内周面
33h 縮径面
101 ステータ本体
102 ステータケース
102a フランジ部
102f 第一外周面
102g 第二外周面
102h 縮径面
111 第一嵌め合い部
112 第二嵌め合い部
113 大クリアランス部
121 第一被固定部
122 第二被固定部
131 第一ステータ固定部
132 第二ステータ固定部
D1、D2 内径
D11、D12 外径
S1 ロータ取付工程
S2 ハウジング取付工程
S3 ステータ取付工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10