(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】トーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価する方法及び手段
(51)【国際特許分類】
G02C 11/00 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
G02C11/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018183339
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-10
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
【住所又は居所原語表記】7500 Centurion Parkway, Jacksonville, FL 32256, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ジャクンダ・パットン
(72)【発明者】
【氏名】ランガナート・ラージャ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・サイツ
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ストレイカー
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド・スクータック
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・トカルスキー
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0287067(US,A1)
【文献】特表2018-510384(JP,A)
【文献】特表2013-501252(JP,A)
【文献】特開2015-229022(JP,A)
【文献】特開2014-104053(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0122832(KR,A)
【文献】特開2009-031725(JP,A)
【文献】特開2017-003991(JP,A)
【文献】特開2003-126040(JP,A)
【文献】特表2013-515282(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0119250(US,A1)
【文献】特開2013-070941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼上のトーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価する方法であって、前記方法が、
ユーザーに、マクロレンズを有するカメラと、アイカップアタッチメントと、を含む電子装置、及び可視基点マーカーを有する少なくとも第1コンタクトレンズを提供する工程
であって、前記アイカップアタッチメントは、前記ユーザーによる正しい方向付けを支援する翼型素子を備え、プラスチック材料で製造されたものであり、前記可視基点マーカーは、90度及び270度に位置付けられた2個の+印の基点と、0度及び180度に位置付けられた2個の-印の基点と、を含む、第1コンタクトレンズを提供する工程と、
前記ユーザーに、前記第1コンタクトレンズの装用中に、前記電子装置を用いて少なくとも6時間の長期間にわたって一定の時間間隔で各眼を
最低2枚撮影するように指示する工程と、
画像処理ソフトウェアを用いて眼上の前記第1コンタクトレンズの写真を分析して、
内眼角と外眼角、前記-印の基点の位置を少なくとも識別し、前記内眼角と
前記外眼角とを結ぶ基準線に対する、
前記可視基点マーカーを有する前記第1コンタクトレンズの角度を測定し、前記長期間にわたる前記第1コンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付ける工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記長期間にわたる、計算され、特徴付けられた前記第1コンタクトレンズの前記回転データの分布を基準ベンチマークとして用いる工程と、
前記ユーザーに、マクロレンズを有するカメラと、アイカップアタッチメントと、を含む電子装置、及び前記第1コンタクトレンズとは異なる第2コンタクトレンズを提供する工程であって、前記第2コンタクトレンズが可視基点マーカーを含
み、前記アイカップアタッチメントは、前記ユーザーによる正しい方向付けを支援する翼型素子を備え、プラスチック材料で製造されたものであり、前記可視基点マーカーは、90度及び270度に位置付けられた2個の+印の基点と、0度及び180度に位置付けられた2個の-印の基点と、を含む、第2コンタクトレンズを提供する、工程と、
前記ユーザーに、前記第2コンタクトレンズの装用中に、前記電子装置を用いて前記長期間にわたって一定の時間間隔で各眼を
最低2枚撮影するように指示する工程と、
画像処理ソフトウェアを用いて写真を分析して、
内眼角と外眼角、前記-印の基点の位置を少なくとも識別し、前記内眼角と
前記外眼角とを結ぶ基準線に対する、
前記可視基点マーカーを有する前記第2コンタクトレンズの角度を測定し、前記長期間にわたる前記第2コンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付ける工程と、
前記第2コンタクトレンズの、計算され、特徴付けられたコンタクトレンズの前記回転データを、基準ベンチマークとして機能する、前記第1コンタクトレンズの回転データと比較する工程と、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
眼上でのトーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価するシステムであって、前記システムが、
カメラを含む携帯型電子装置と、
前記携帯型電子装置に取り付けるように構成されているマクロレンズと、
画像に取り込み可能な基点マーキングを含むコンタクトレンズ
であって、前記基点マーキングは、90度及び270度に位置付けられた2個の+印の基点と、0度及び180度に位置付けられた2個の-印の基点と、を含む、コンタクトレンズと、
前記携帯型電子装置に取り付けられたアイピースであって、前記コンタクトレンズを装用したユーザーの眼から固定の位置において前記携帯型電子装置の前記カメラを方向付けるように構成されている、アイピース
であって、前記アイピースは、前記ユーザーによる正しい方向付けを支援する翼型素子を備え、プラスチック材料で製造されたものである、アイピースと、
を備え、前記画像が
、少なくとも6時間の長期間にわたって一定の時間間隔で各眼を最低2枚撮影され、画像処理ソフトウェアを用いて分析されて、
内眼角と外眼角、前記-印の基点の位置を少なくとも識別し、前記内眼角と
前記外眼角とを結ぶ基準線に対する、
前記基点マーキングを有する前記コンタクトレンズの角度を測定して、少なくとも6時間の長期間にわたる前記コンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付ける、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は2017年9月29日出願の米国特許仮出願第62/565437号の利益を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、眼上でのトーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価する方法を対象とし、より具体的には、コンタクトレンズ装用者が、マクロレンズを備えるカメラと、特注の三次元印刷されたアイカップアタッチメントと、を有する電子装置を用いて自身の眼を撮影できるようにする方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
近視(myopia)又は近眼(nearsightedness)は、眼の視力障害又は屈折障害であり、網膜に到達する前に像からの光線が一点に集束する。近視は、概して、眼球(eyeball)又は眼球(globe)が長すぎるため、又は角膜のドームの傾斜が急すぎるために生じる。マイナスの屈折力の球面レンズを利用して、近視を矯正することができる。遠視(Hyperopia)又は遠眼(farsightedness)は、眼の視覚障害又は屈折障害であり、網膜に到達した後か、又は網膜の後方で像からの光線が一点に集束する。遠視は、概して、眼球(eyeball)又は眼球(globe)が短すぎるか、又は角膜のドームが平らすぎるために生じる。遠視を矯正するために、正のパワーを持つ球面レンズが利用され得る。乱視は、視力障害又は屈折障害であり、眼が点物体に焦点を合わせて、点像にすることができないため、個体の視野がぼやけてしまう。乱視は、角膜又は他の眼屈折面の不均一な曲率により生じ、したがって、屈折面の曲率は、角度経線によって異なる。乱視ではない角膜は回転対称であるが、乱視の個体においては、角膜は回転対称ではない。換言すると、角膜は、別の経線よりも1つの経線でより湾曲しているか、傾斜がより急であり、それによって、単点焦点ではなく2線焦点として点物体に焦点を合わせる。遠視を解決するために、球面レンズではなく円柱レンズが利用され得る。
【0004】
トーリックレンズは、相互に垂直な2つの主経線で2つの異なる度数を有する光学素子である。トーリックレンズの各主経線は、対応する平面内での眼の屈折異常を矯正する。主経線に沿った矯正レンズの度数は、主経線ごとに異なるレンズ面の曲率を用いて設定される。最適な視覚矯正のために、臨床的にシリンダー軸とも呼ばれる、矯正レンズの方向が、好ましくは眼に対して維持される。トーリックレンズを、眼鏡、眼内レンズ、及びコンタクトレンズにおいて利用してもよい。眼鏡に使用されるトーリックレンズは、眼に対して固定位置に保持されることにより、常に最適な視力補正を与える。しかしながら、トーリックコンタクトレンズは、眼上で回転する傾向があるので、準最適な視力矯正を一時的に提供する場合がある。結果的に、トーリックコンタクトレンズは、装用者が瞬きするか、注視方向が変わるときに、眼上でコンタクトレンズを比較的安定的に保つ機構も含む。
【0005】
視覚ゾーンの非回転対称の補正特性、波面補正特性、又は分散を、円柱レンズ、二焦点レンズ、多焦点レンズ等のコンタクトレンズの1つ又は2つ以上の表面に与えることによって、ある特定の視覚欠陥の矯正を達成することができることが知られている。特定の病状、例えば、虹彩若しくはその一部での疾患を治療するための印刷パターン、マーキング、及び/又は基点などある特定の表面的特徴部が、装用者の眼に対して特定の方向で配置されることが求められることも知られている。トーリックコンタクトレンズの使用は、有効であるために、レンズが眼上にある間は特定の方向で維持される必要があるという点で問題がある。コンタクトレンズが最初に眼上に定置されると、自らを自動的に位置付けするか、又は自動位置付けし、その後、その位置を経時的に維持しなければならない。しかしながら、いったんコンタクトレンズが位置付けられると、瞬き中、及び注視方向を変える間、まぶたによって力がコンタクトレンズ上に加えられるため、時間と共に変動する傾向がある。
【0006】
典型的には、トーリックコンタクトレンズの機械的特性を変更することによって眼上でのコンタクトレンズの方向を維持することができる。例えば、コンタクトレンズの裏面に対する前面の傾斜、劣性のコンタクトレンズ周辺部の肥厚化、コンタクトレンズの表面上でのくぼみ又は隆起の形成、及びコンタクトレンズの縁の切断などプリズム安定化は、眼上での方向を維持するために全て利用されている方法である。トーリックコンタクトレンズの方向が時間と共に変動することは、乱視用ソフトコンタクトレンズ装用者の視力の質に直接影響を及ぼす。視力の質が貧弱であることは、トーリックレンズ装用者が使用を止める主な理由である。
【0007】
先行研究は、より小さい瞼裂、より緊密なレンズフィット性、より弱度の近視、及びより遅い再配向速度が、トーリックレンズのより優れた回転安定性と相関することを示唆している。
【0008】
回転不安定性(瞬き時の安定性、眼球のむき運動時の安定性)を定量化するための現在の臨床試験方法は、概ね適切に制御されておらず(例えば、瞬きの数及び頻度、並びに眼球のむき運動のサイズ及び角度)、「現実世界」の条件におけるレンズの安定性を反映しないことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、自然な装用条件下でトーリックレンズの回転安定性を定量化する、改良された試験方法は、レンズ性能のより有意な評価を可能にするであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
トーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価する本方法及び本手段の利点は、回転安定性を定量化するための現在の臨床試験方法に伴う欠点を克服する。
【0011】
本発明は、自己撮影を用いて眼上でのレンズの回転を追跡する新規の試験方法及び装置、並びに結果データの分布を特徴付けることを対象とする。より具体的には、本発明は、コンタクトレンズ装用者が、マクロレンズ(例えば、Olloclip(登録商標)Macro Pro Lens Set 7xレンズ)を備えるiPhoneなどカメラと、特注の三次元印刷されたアイカップアタッチメントと、を備える電子装置を用いて自身の眼を撮影できるようにする新規の方法及び手段を対象とする。このアイカップアタッチメントは、眼から好適かつ再現性のある距離にカメラを位置付けて、システムが確実にレンズの詳細に適切に焦点を合わせることができるように設計されている。アイカップアタッチメントはまた、迷光を遮断し、環境光を拡散させるように機能する。加えて、アイカップアタッチメントは、写真取り込み中にカメラが確実に正しい方向に保持されるようにする。
【0012】
トーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価する方法及び手段は、利用しやすく、かつ安価な、コンタクトレンズの所望の回転安定性を確保する方法を提供する。この装置を使用すると、患者がアイケアの専門家に出向く必要がない。加えて、非常に正確な結果を達成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の上述及び他の特徴と利点は、添付図面に例証されるような、本発明の好ましい実施形態の以下のより詳しい記載から明白となるであろう。
【
図1】本発明による、カメラと、マクロレンズと、アイカップアタッチメントと、を有する例示的な電子装置の模式図である。
【
図2】本発明による、基点マーキングスキームを備える例示的なコンタクトレンズの模式図である。
【
図3】本発明による、カメラと、マクロレンズと、アイカップアタッチメントと、を有する例示的な電子装置を用いて撮影した、眼上の基点マーキングスキームを備える例示的なコンタクトレンズの画像である。
【
図4】本発明による、眼上の基点マーキングスキームを備える例示的なコンタクトレンズの画像であり、基準線に対するレンズ角度の計算を示す。
【
図5】本発明による、試料評価期間における相対的なレンズ回転の分布を示す。
【
図6】本発明による、眼ごとのレンズ回転データの標準偏差のボックスプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
コンタクトレンズ又はコンタクトは、単に、眼上に設置されるレンズである。コンタクトレンズは、医療用デバイスとみなされ、視力の矯正のため、及び/又は美容若しくは他の治療上の理由で装用されてもよい。コンタクトレンズは、1950年代以降、視力を改善するために商用的に利用されてきた。初期のコンタクトレンズは、硬質材料から作成又は製作され、比較的高価で壊れやすかった。それに加えて、これら初期のコンタクトレンズを製作していた材料は、コンタクトレンズを通して結膜及び角膜まで十分に酸素を透過させることができず、そのことによって潜在的に多数の臨床上の副作用を引き起こす可能性があった。これらのコンタクトレンズは依然として利用されているが、最初の快適性が低いため、全ての患者に適しているわけではない。その後のこの分野における発展によって、ヒドロゲル系のソフトコンタクトレンズがもたらされ、今日では非常に一般的で広く利用されている。具体的には、今日利用可能なシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、酸素透過性が非常に高いというシリコーンの利益を、既に明らかとなっているハイドロゲルの快適性及び臨床的性能とを組み合わせている。本質的に、これらのシリコーンヒドロゲル系コンタクトレンズは、初期の硬質材料から製造されたコンタクトレンズより、酸素透過率が高く、装用が概ねより快適である。コンタクトレンズの設計及びシリコーンヒドロゲルの材料選択は、装用者のまぶたのレンズに対してレンズの非常に快適なレンズの相互作用をもたらす。
【0015】
現在利用可能なコンタクトレンズは、依然として、視力矯正の費用効果の高い手段である。近視若しくは近目、遠視若しくは遠目、乱視、及び、老眼、すなわち、遠近調節する水晶体の能力の損失を含めて、視覚障害を矯正するために、薄いプラスチックレンズが目の角膜にかぶせて装着される。コンタクトレンズは、多様な形態で入手可能であり、様々な機能性をもたらすべく多様な材料から製造されている。ソフトコンタクトレンズは、通常、水と組み合わされた軟質のポリマー材料から製造される。終日装用ソフトコンタクトレンズは、1日使い捨て型、再使用型、又は連続装用型であってもよい。1日使い捨て型のコンタクトレンズは通常、1日にわたって装用され、その後、捨てられ、再使用型の使い捨てレンズは通常、数日にわたって再装用され、連続装用型の使い捨て型コンタクトレンズは通常、最大30日の期間にわたって装用される。着色ソフトコンタクトレンズは、種々の機能性を得るために種々の材料を使用する。例えば、識別用着色コンタクトレンズは、落としたコンタクトレンズを発見する際に装用者を支援するために、明るい色合いを用いるものであり、強調用着色コンタクトレンズは、装用者の生来の眼色を強調することを意図した半透明の色合いを有するものであり、着色カラーコンタクトレンズは、装用者の眼の色を変化させることを意図した、より暗く不透明な色合いを備え、光フィルタリング着色コンタクトレンズは、特定の色を強調する一方で他の色を弱めるように機能する。硬質ガス透過性ハードコンタクトレンズは、シロキサン含有ポリマーから製造されるものであるが、軟質コンタクトレンズよりも硬質であり、したがって、その形状を保ち、より耐久性の高いものである。二重焦点コンタクトレンズは、老眼である患者専用に設計されるものであり、軟質及び硬質の両方の種類で入手可能である。トーリックコンタクトレンズは、乱視を有する患者専用に設計され、同様にソフト及びハードの両方の種類で入手可能である。上記の様々な態様を組み合わせたコンビネーションレンズ、例えばハイブリッドコンタクトレンズもまた入手可能である。
【0016】
本発明にしたがって、自己撮影を用いてレンズの回転を追跡する新規の試験方法を評価し、結果データを特徴付ける研究が考案された。この研究の結果は、実世界の条件下でトーリックコンタクトレンズの安定性を定量化することが実現可能であることを実証する。回転安定性に加えて、様々な活動、若しくは眼球運動中に、及び/又は別のコンタクトレンズ設計の性能と定量的に比較するために、レンズの移動が調査され得ることに留意することが重要である。この研究は、患者及びアイケア専門家によって用いられるシステム及び方法と同一のものを用いた。この研究の詳細な説明は、システムの詳細な説明の後に行う。
【0017】
上記のように、本発明は、コンタクトレンズ装用者が、カメラと、マクロレンズと、アイカップアタッチメントと、を有する携帯型電子装置を用いて自身の眼を撮影できるようにする方法及び手段を対象とする。
図1は、電子装置102と、マクロレンズ104と、アイカップアタッチメント106と、を備えるシステム100を示す。
【0018】
カメラを備える携帯型電子装置102は、下記のように十分な解像度の画像を取り込むために現在使用可能である、任意の好適な装置であってよい。カメラを備える携帯型電子装置の例としては、電話、スマートフォン(例えば、iPhone)、タブレット型コンピューティングデバイス(例えば、iPad)、高解像度ウェブカメラ、並びに無線及び/又はBluetooth接続機能付きデジタルカメラ及びビデオカメラが挙げられ、これら全ては、静止画像又は動画を取り込むために、少なくともカメラオプションを備える。本発明による例示的な実施形態では、携帯型電子装置102は、iPhone、より具体的にはiPhone 6 Plusを備えるが、別の例示的な実施形態では、他のスマートフォンブランド及びモバイル機器が上記のように用いられてよい。
【0019】
マクロレンズは、最も一般的に言うと、記録媒体に物体の実物大画像を再生できる光学素子である。真のマクロレンズは、その最も近い焦点設定において1.0×、つまり1:1の倍率を提供する。本質的に、マクロレンズは、小さな物体を極めて大きく拡大することができる。本発明では、任意の好適なマクロレンズ104が用いられてよく、好ましくはカメラに容易に接続でき、かつ軽量である。本発明では、Olloclip(登録商標)Macro Pro Lens Set 7xレンズ104が、iPhone 6 Plus 102で用いられる。このマクロレンズは、本質的にiPhoneをデジタル顕微鏡又は縁なし透明ルーペへと変換する。Olloclip(登録商標)Macro Pro Lens Set 7xレンズ104は、iPhone 102への取り付けに必要な全ての部品を伴う。
【0020】
アイカップアタッチメント、つまりアイピース106は、ユーザーの眼から好適な距離に電子装置102のカメラを位置付けて、確実にカメラが、レンズの詳細に適切に焦点を合わせ、迷光を遮断し、環境光を拡散させることができ、画像の取り込み中に、カメラが確実に正しい方向に保持されるように設計される。各画像は、好ましくは、同一地点から撮影されるべきであり、したがって、アイピース106は、距離及び方向を維持する必要がある。アイピース106は、ユーザーによる正しい方向付けを支援する、翼型素子108を備える。アイピース106は、好ましくは、例えばポリマーなど軽量材料、又はアルミニウムなど軽量金属で製造され、機械加工、射出成形、及び様々な形態の三次元印刷プロセスなど任意の種類のプロセスによって製造されてよい。本発明による例示的な実施形態では、アイピース106は、三次元印刷プロセスを用いてプラスチック材料で製造され、眼の周囲の敏感な皮膚と接触して配置するのに十分に平滑化される。換言すると、アイピース106は、好ましくは、好ましい触覚反応を促進する。例示的な実施形態では、アイピース106は、レンズ104への取り付け用ねじ部を有するが、任意の好適な取り付け手段が用いられてよい。
【0021】
基点マーキングを有するコンタクトレンズは、
図1に示すシステム100を用いて撮影される。コンタクトレンズ及びプロセスの詳細な説明は、以下の研究の説明で行う。トーリックソフトコンタクトレンズの回転安定性を測定するための現在の臨床的方法は、期間が短く、変動しがちであり、実世界での性能を反映しないことがある。以下の研究セットは、自己撮影によって、実世界の条件下でトーリックコンタクトレンズの安定性を定量化する方法の実現可能性を調べた。この研究のコンタクトレンズのパラメータを以下の表1に示す。
【0022】
【0023】
研究用レンズは、Johnson & Johnson Vision Careから入手可能なACUVUE OASYS(登録商標)1-Day for ASTIGMATISMブランドのコンタクトレンズで用いられる安定化設計と同一の設計を特徴とし、
図2に示す白色の基点印刷パターンを用いて製造された。研究用コンタクトレンズ200は、90度及び270度に位置付けられた2個の+印の基点と、0度及び180度に位置付けられた2個の-印の基点と、を含む。
図1のシステム100を用いて取り込まれた、研究用コンタクトレンズ設計の画像例を、
図3に示す。容易にわかるように、4個の基点のうち3個が明確に見える。
【0024】
研究には、19才~35才の健康な、常用的ソフトコンタクトレンズ装用者12人(つまり、24個の眼)が参加した。被験者には、第1眼位で画像を取り込み、取り込み直後に各画像を確認して合格品質を確保するための詳細なトレーニング及び指示が与えられた。タイマーアプリ「Timer+」が用いられ、30分間隔で警告音を鳴らして、新たな取り込みセッションを通知した。つまり、30分ごとにアラームが鳴らされて、装置を用いて両眼の画像を収集することを患者に思い出させた。被験者は両眼にレンズを装用し、
図1のシステム100を用いて、少なくとも6時間の装用期間にわたる取り込みセッションごとに、片眼につき最低2枚の画像を取り込むように指示された。装用期間の終了後、画像は、標準的なUSBコネクタを用いてiPhoneからコンピュータへと転送された。次いで画像は、MATLAB(The MathWorks,Inc)で記述された特注の画像処理ソフトウェアアプリケーションを用いて、経験のある調査員によって分析された。水平レンズ基点(-印で示す)及び眼角など写真内の特定の特徴部の位置を識別するために、写真ごとに、画像処理ソフトウェアが用いられた。ソフトウェアは、これらの特徴部の識別された位置を用いて、眼角間角度に対する基点の角度を計算した。
【0025】
眼ごとに、各セッションの第1合格画像が分析された。画像は、両眼角がフレーム内に入り、画像の焦点が合っていてレンズ基点及び眼角が見えるように十分に露光し、かつ眼がカメラに向かって固定されている場合、合格とみなされた。画像が分析されて、
図4に示すように、眼角間角度に対する0度及び180度の-印基点の角度として定義されるレンズの回転角度θを測定した。
【0026】
探索的解析が実施されて、相対的なレンズ回転データの分布を特徴付けた。写真品質の不良(露光不足、焦点が甘い、固定の変動)により、1人の被験者の両眼が分析から除外された。合計で、11人の被験者、つまり22個の眼からの273枚の画像が分析された。被験者の人口統計を以下の表2にまとめる。
【0027】
【0028】
眼ごとの取り込みセッションの合計数は、11~14の範囲であり、中央値は12であった。全ての眼の相対レンズ回転データをまとめたヒストグラムは、これらのデータが、
図5に示すように正規分布であることを示唆した。
【0029】
該当する眼のレンズ回転データ点の標準偏差(SD)を計算することにより、眼ごとの経時的なレンズ方向の変動が定量化された。分析に含まれた全ての眼のSDのボックスプロットを
図6に示す。このSDは0.9度~5.4度の範囲であり、平均標準偏差は2.4度(中央値2.2度)であった。
【0030】
この研究における良好な写真の取得及び分析は、トーリックレンズの回転安定性を評価するためのこの新規の試験方法の実現可能性を裏付ける。加えて、データは、この設計のトーリックレンズの方向のばらつきが正規分布に従うことを示唆する。2.4度の平均標準偏差を所与とすると、この研究で用いられたトーリック設計を装用する平均的な眼では、レンズが、その平均回転位置のおよそ±5度(2×SD)内に95%の時間存在することが推測され得る。
【0031】
回転安定性は、装用者が実行している活動又は作業、及び眼の生理学的状態に応じて異なる傾向にある。
【0032】
他のレンズに対してあるレンズを比較するベンチマークとしてあるレンズを用いてよいことに留意することは重要である。より具体的には、第1コンタクトレンズの画像が分析されて、例えば、内眼角と外眼角とを結ぶ基準線に対する、可視基点マーキングを有する第1コンタクトレンズの角度を測定し、所定の期間、又は長期間にわたるコンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付けてよい。第1コンタクトレンズのこの分布は、ベンチマークとして用いられてよい。このプロセスは、第2コンタクトレンズでも繰り返され、結果がベンチマークと比較されてよい。
【0033】
この研究に伴う潜在的な限界は、眼球回旋を考慮しない、眼角間角度に対するレンズの方向を測定したことであった。これは、例えば、結膜血管又は虹彩特徴部などをランドマークとして用いて、より洗練された画像分析を用いることにより今後の研究で対応され得る。加えて、今後の研究は、この方法を用いて、様々な活動中のトーリックレンズの安定性を研究すること、又は別の安定化設計の相対的安定性を比較することができる。
【0034】
しかしながら、この研究の結果は、マクロレンズを備えるデジタルカメラと、アイカップと、を備える装置を、特注の印刷されたトーリックレンズと共に用いて、自然の装用条件下のトーリックレンズの安定性を評価することの実現性を裏付ける。
【0035】
研究用レンズで用いられたまぶた安定化設計は、6時間の装用期間を通じて良好な回転安定性を実証した。
【0036】
図示及び説明されたものは、最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられるが、説明及び図示した特定の設計及び方法からの変更がそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、説明し例証した特定の構成に限定されないが、添付の特許請求の範囲に含まれ得る全ての修正と一貫するように構成されているべきである。
【0037】
〔実施の態様〕
(1) 眼上のトーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価する方法であって、前記方法が、
レンズ装用者に、マクロレンズを有するカメラと、アイカップアタッチメントと、を含む電子装置、及び可視基点マーカーを有する、少なくとも第1コンタクトレンズを提供する工程と、
レンズ装用者に、コンタクトレンズ装用中に、前記電子装置を用いて長期間にわたって一定の時間間隔で各眼を撮影するように指示する工程と、
画像処理ソフトウェアを用いて眼上の前記コンタクトレンズの写真を分析して、内眼角と外眼角とを結ぶ基準線に対する、可視基点マーカーを有する前記第1コンタクトレンズの角度を測定し、前記長期間にわたる前記コンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付ける工程と、を含む、方法。
(2) 前記長期間にわたる、計算され、特徴付けられたコンタクトレンズの前記回転データの分布を基準ベンチマークとして用いる工程と、
レンズ装用者に、マクロレンズを有するカメラと、アイカップアタッチメントと、を含む電子装置、及び前記第1コンタクトレンズとは異なる第2コンタクトレンズを提供する工程であって、前記第2コンタクトレンズが可視基点マーカーを含む、工程と、
レンズ装用者に、前記第2コンタクトレンズの装用中に、前記電子装置を用いて長期間にわたって一定の時間間隔で各眼を撮影するように指示する工程と、
画像処理ソフトウェアを用いて写真を分析して、内眼角と外眼角とを結ぶ基準線に対する、可視基点マーカーを有する前記第2コンタクトレンズの角度を測定し、前記長期間にわたる前記コンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付ける工程と、
前記第2コンタクトレンズの、計算され、特徴付けられたコンタクトレンズの前記回転データを、基準ベンチマークとして機能する、前記第1コンタクトレンズの回転データと比較する工程と、を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 眼上でのトーリックコンタクトレンズの回転安定性を評価するシステムであって、前記システムが、
カメラを含む携帯型電子装置と、
前記携帯型電子装置に取り付けるように構成されているマクロレンズと、
前記携帯型電子装置に取り付けられたアイピースであって、コンタクトレンズ装用者の眼から固定の位置において前記携帯型電子装置の前記カメラを方向付けるように構成されている、アイピースと、
画像に取り込み可能な基点マーキングを含むコンタクトレンズと、を備え、前記画像が、画像処理ソフトウェアを用いて分析されて、内眼角と外眼角とを結ぶ基準線に対する、基点マーカーを有する前記コンタクトレンズの角度を測定して、長期間にわたる前記コンタクトレンズの回転データの分布を計算し、特徴付ける、システム。