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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
H02M3/155 P
H02M3/155 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018248171
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020108316
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-236435(JP,A)
【文献】特開2015-201937(JP,A)
【文献】特開2010-022136(JP,A)
【文献】特開2012-070514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0210782(US,A1)
【文献】特開2005-184964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のオンデューティ比Dを変化させることにより、直流の入力電圧を直流の出力電圧に変換する電力変換回路と、
前記出力電圧と設定出力電圧との偏差に基づいて第1制御量を出力するフィードバック制御部と、
前記入力電圧と設定入力電圧との偏差に基づいて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力するフィードフォワード制御部と
を備え、
前記フィードフォワード制御部は、
前記第1制御量に基づいて、前記電力変換回路が降圧動作を行おうとしているのか昇圧動作を行おうとしているのかを判定する判定部と、
前記電力変換回路が降圧動作を行おうとしていると判定した場合、前記入力電圧と前記設定入力電圧とに基づいて前記第1制御量の補正を行い、前記第2制御量として出力する降圧側制御量補正部と、
前記電力変換回路が昇圧動作を行おうとしていると判定した場合、前記入力電圧と前記設定入力電圧とに基づいて前記第1制御量の補正を行い、前記第2制御量として出力する昇圧側制御量補正部と
前記降圧側制御量補正部又は前記昇圧側制御量補正部から出力された前記第2制御量に基づいて、前記第2制御量と前記スイッチング素子のオンデューティ比Dとの間の関係を示す関数を設定し、この関数に従って、降圧動作又は昇圧動作をするための前記スイッチング素子のオンデューティ比Dを定める関数設定部と
を備えることを特徴とする、電力変換装置。
【請求項2】
前記電力変換回路は、前記降圧動作の実行時には前記入力電圧に対する前記出力電圧の比がオンデューティ比Dとなり、前記昇圧動作の実行時には前記入力電圧に対する前記出力電圧の比が、オフデューティ比(1-D)の逆数である1/(1-D)に等しい値となる特性を有する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換回路は、
入力端子と基準電圧端子の間に直列に接続される第1スイッチ及び第2スイッチを含み、前記第1スイッチは前記入力端子と前記第2スイッチとの間に接続され、前記第2スイッチは前記第1スイッチと前記基準電圧端子との間に接続される、第1スイッチ群と、
出力端子と前記基準電圧端子の間に直列に接続される第3スイッチ及び第4スイッチを含み、前記第3スイッチは前記出力端子と前記第4スイッチとの間に接続され、前記第4スイッチは前記第3スイッチと前記基準電圧端子との間に接続される、第2スイッチ群と、
前記第1スイッチ群の中間ノードと前記第2スイッチ群の中間ノードとの間に接続されるインダクタと、
を備え、
前記オンデューティ比Dは、前記第1スイッチ群に対するオンデューティ比であるDと、前記第2スイッチ群に対するオンデューティ比であるDとを有し、
前記第1スイッチ群は、前記降圧動作の実行時に、第1の関数に従って前記第2制御量に基づき設定されたオンデューティ比DによりPWM動作し、前記第2スイッチ群は、前記昇圧動作の実行時に、前記第1の関数とは異なる第2の関数に従って前記第2制御量に基づき設定されたオンデューティ比DによりPWM動作する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1の関数は、前記第2制御量と前記オンデューティ比Dが比例する関係を与える関数であり、
前記第2の関数は、前記第2制御量をPとした場合、前記第2制御量と前記オンデューティ比Dとに、D=1-1/Pの関係を与える関数である、請求項3に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理システムは、チャンバ内に一対の電極を備えており、その一対の電極に対し高周波電源から高周波電力を供給してプラズマを発生させるよう構成されている。このような高周波電源には、直流/直流電力変換回路(以下、DC/DCコンバータ)と直流/高周波電力変換回路(以下、DC/RF変換回路)を備え、DC/DCコンバータから出力する直流電力の電圧値を変化させることによって、DC/RF変換回路から出力する高周波電力の電力値を変化させる方式を採用したものがある。なお、本明細書では、電力変換を司る電気回路を電力変換回路と称し、電力変換回路と制御部とを含み電力の変換を司る装置を電力変換装置と称する。
【0003】
このような電力変換回路に入力される商用電源からの商用電力はリプル成分を含んでいることがある。このようなリプル成分の存在は、出力電圧の電圧値の不安定化を招く。商用電源の電圧値自体が不安定で、このため入力電圧の変動が無視できない場合もあり、このような入力電圧値自体の不安定も、出力電圧の不安定化に繋がる。
【0004】
このような入力電圧の変動の影響はフィードバック制御では応答が遅く、完全にその影響を除去することは困難である。このため、入力電圧を検知してフィードフォワード制御を行うことにより、リプル成分も含めた入力電圧の変動の影響を除去する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1は、降圧コンバータ又は昇圧コンバータの入力電圧を検知してフィードフォワード制御を行う技術に関するものであり、昇圧及び降圧を1つの回路内で実行することが可能な昇降圧コンバータに適用可能なものではない。昇降圧コンバータにおい
ては、昇圧動作時と降圧動作時とで回路の伝達関数が異なる。このため、フィードフォワード制御を適用する場合において、昇圧動作及び降圧動作のそれぞれに対し異なる制御が必要となるが、その制御方法は確立されていない。例えば、入力電圧のリプル成分が大きいと、出力電圧指令が入力電圧に対し高くなったり低くなったりすることが生じ得るが、この場合に、昇圧動作時と降圧動作時とで適宜制御内容を切り替えて制御を実行することに関して、有効な方法は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-184964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、昇降圧コンバータを有する電力変換装置において、リプル成分を含めた入力電圧の変動の影響を除去し、出力電圧を安定化させることができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る電力変換装置は、スイッチング素子のオンデューティ比Dを変化させることにより、直流の入力電圧を直流の出力電圧に変換する電力変換回路と、スイッチング素子のオンデューティ比Dを変化させることにより、直流の入力電圧を直流の出力電圧に変換する電力変換回路と、前記出力電圧と設定出力電圧との偏差に基づいて第1制御量を出力するフィードバック制御部と、前記入力電圧と設定入力電圧との偏差に基づいて前記第1制御量を補正した第2制御量を出力するフィードフォワード制御部とを備える。前記フィードフォワード制御部は、前記第1制御量に基づいて、前記電力変換回路が降圧動作を行おうとしているのか昇圧動作を行おうとしているのかを判定する判定部と、前記電力変換回路が降圧動作を行おうとしていると判定した場合、前記入力電圧と前記設定入力電圧とに基づいて前記第1制御量の補正を行い、前記第2制御量として出力する降圧側制御量補正部と、前記電力変換回路が昇圧動作を行おうとしていると判定した場合、前記入力電圧と前記設定入力電圧とに基づいて前記第1制御量の補正を行い、前記第2制御量として出力する昇圧側制御量補正部と、前記降圧側制御量補正部又は前記昇圧側制御量補正部から出力された前記第2制御量に基づいて、降圧動作又は昇圧動作をするための前記スイッチング素子のオンデューティ比Dを定める関数設定部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、昇降圧コンバータを有する電力変換装置において、リプル成分を含めた入力電圧の変動の影響を除去し、出力電圧を安定化させることができる電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置100の全体構成を示すブロック図である。
図2】DC/DCコンバータ102としての昇降圧チョッパ10の回路構成図である。
図3】第1の実施の形態の昇降圧チョッパ10の動作について説明するグラフである。
図4】フィードフォワード制御部107の詳細な構成の一例を説明する回路図である。
図5】フィードバック制御のみが実行され、フィードフォワード制御が実行されない場合の入力電圧Vin、オンデューティ比D、Dの時間的変化を示すグラフの一例である。
図6】フィードフォワード制御が実行される場合の入力電圧Vin、オンデューティ比D、Dの時間的変化を示すグラフの一例である。
図7】第1の実施の形態の変形例の電力変換装置の回路構成の一例を示す回路図である。
図8】第2の実施の形態を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0012】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置100の全体構成を示すブロック図である。この電力変換装置100は、交流電力、例えば商用電源の交流電力を直流に変換するとともに、更に所望の電圧値の直流電圧に変換する機能を有する直流電源回路である。この電力変換装置100は、検出出力電圧と設定出力電圧との差分をフィードバックして出力電圧の安定化を図るフィードバック機能を備えるとともに、入力電圧を監視して制御に反映するフィードフォワード機能とを備えている。
【0014】
この高周波電源100は、AC/DCコンバータ101、DC/DCコンバータ102、フィードバック制御部106、フィードフォワード制御部107、関数設定部108、及び電圧検出器109を備えている。AC/DCコンバータ101は、交流電力、例えば商用電源の交流電力を直流電力(直流電圧Vin)に変換するための回路である。AC/DCコンバータ101は、図示は省略するが、例えば複数個の半導体素子をブリッジ接続してなる整流回路と、整流された電流(脈流)を平滑化する平滑化回路とを備えることができる。
【0015】
また、DC/DCコンバータ102は、AC/DCコンバータ101が出力した直流の入力電圧Vinを、更に異なる電圧値の直流の出力電圧Voutに変換する電力変換回路である。後述するように、DC/DCコンバータ102は、フィードバック制御部106、及びフィードフォワード制御部107での制御により定まるオンデューティ比D(D及びD)に従い昇降圧比を変化させて入力直流電圧を所望の昇降圧比で降圧又は昇圧する。DC/DCコンバータ102の回路構成としては、後述する図2に示すものがあるが、その回路構成は一例であり、スイッチング素子のオンデューティ比D(D及びD)の制御により昇降圧比を変化させることが可能なものであればよい。なお、オンデューティ比Dは、降圧動作時の降圧比率に応じて変化するスイッチング素子のオンデューティ比であり、後述する図2の例では、nMOSトランジスタQ1及びQ2に対するオンデューティ比となる。また、オンデューティ比Dは、昇圧動作時の昇圧比率に応じて変化するスイッチング素子のオンデューティ比である。後述する図2の例では、nMOSトランジスタQ3及びQ4に対するオンデューティ比となる。
【0016】
フィードバック制御部106は、検出出力電圧Vout_det及び設定出力電圧Vout_setを比較して、その偏差に基づいて第1制御量P1(昇降圧比となる0~1.0(100%)、1.0(100%)~2.0(200%)に相当する制御量)を出力する。そのため、第1制御量P1は、オンデューティ比D(D及びD)に対応する値を有する。検出出力電圧Vout_detは、前述の出力電圧Voutを電圧検出器109で検出した検出電圧であり、出力電圧Voutと略等しい電圧である。また、設定出力電圧Vout_setは、出力電圧Voutの目標値である。
【0017】
また、フィードフォワード制御部107は、第1制御量P1の入力を受けるとともに、検出入力電圧Vin_det及び設定入力電圧Vin_setを比較して、その偏差に従った第2制御量P2(P21、P22)を出力する。検出入力電圧Vin_detは、前述の入力電圧Vinを電圧検出器109で検出した検出電圧であり、入力電圧Vinと略等しい電圧である。設定入力電圧Vin_setは、入力電圧Vin_outの基準値であり、例えば商用電力の実効電圧値(100V)に設定され得る。そのため、設定入力電圧Vin_setを設計値とすることができ、例えばプログラム内に組み込むことが可能である。そのため、必ずしも外部から入力する必要はない。
【0018】
また、関数設定部108は、第2制御量P2(P21、P22)の大きさに従って、第2制御量P2とオンデューティ比D、Dとの間の関数を選択(設定)し、この関数と第2制御量P2に従ってオンデューティ比D、Dを決定する。関数は、例えば第2制御量P2が所定値未満であれば第1の関数を選択し、第2制御量P2が所定値以上であれば第2の関数を選択することができる。
【0019】
図2は、DC/DCコンバータ102としての昇降圧チョッパ10(電力変換回路)の回路構成図である。この昇降圧チョッパ10は、入力端子T1に入力された直流の入力電圧Vinを昇圧又は降圧して、出力端子T2から直流の出力電圧Voutを出力する回路である。昇降圧チョッパ10は、フィードフォワード制御部107から出力される第2制御量P2(昇降圧比となる0~1.0(100%)、1.0(100%)~2.0(200%)に相当する制御量)に基づいて関数設定部108で決定されるオンデューティ比D、Dが変化することにより、出力電圧Voutを変化させることができる。
【0020】
昇降圧チョッパ10は、一例として、降圧用スイッチング回路11と、昇圧用スイッチング回路12と、インダクタ13と、キャパシタ14(キャパシタンスC)とを備える。出力端子T2には、一例として、負荷15(抵抗R)が接続される。
【0021】
降圧用スイッチング回路11は、nMOSトランジスタQ1及びQ2を有する。nMOSトランジスタQ1及びQ2は、入力端子T1と接地端子T3との間に直列に、中間ノードN1を介して接続される。昇圧用スイッチング回路12は、nMOSトランジスタQ3及びQ4を有する。nMOSトランジスタQ3及びQ4は、出力端子T2と接地端子T3との間に直列に、中間ノードN2を介して接続される。なお、MOSトランジスタに代えて、バイポーラトランジスタ等の他のスイッチング素子を用いることもできる。
【0022】
昇降圧チョッパ10が降圧動作を行う場合においては、降圧スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1及びQ2は、与えられたオンデューティ比Dに従って交互に導通状態となっていわゆるPWM制御(Pulse Width Modulation)される。一方、昇圧スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3は常に導通状態に維持され、nMOSトランジスタQ4は常に非導通状態に維持される(オンデューティ比Dは0に設定される)。
【0023】
昇降圧チョッパ10が昇圧動作を行う場合においては、昇圧スイッチング回路12中のnMOSトランジスタQ3及びQ4は、与えられたオンデューティ比Dに従って交互に導通状態となっていわゆるPWM制御(Pulse Width Modulation)される。一方、降圧スイッチング回路11中のnMOSトランジスタQ1は常に導通状態に維持され、nMOSトランジスタQ2は常に非導通状態に維持される(オンデューティ比Dは1に設定される)。
【0024】
インダクタ13は、中間ノードN1とN2の間に接続される。また、キャパシタ14は、出力端子T2と接地端子T3との間に接続される。
【0025】
次に、第1の実施の形態の昇降圧チョッパ10の動作について図3を参照して説明する。この昇降圧チョッパ10は、第2制御量P2に従って動作し、第2制御量P2が0~1.0の間では降圧動作を実行し、第2制御量P2が1.0~2.0の間では昇圧動作を行うよう構成されている。
【0026】
降圧動作においては、オンデューティ比Dは第2制御量P2に正比例する値、例えば第2制御量P2と等しい値に設定され(D=P2)、オンデューティ比Dは0に設定される。また、昇圧動作においては、オンデューティ比Dは第2制御量P2から1を減算した値に設定され(D=P2-1)、オンデューティ比Dは1に設定される。
【0027】
図2の昇降圧チョッパ10の降圧動作時の伝達関数Gd(s)は、キャパシタ14の容量C、インダクタ13のインダクタンスL、及びオンデューティ比Dを用いて下記の[数1]によって表現される。また、昇降圧チョッパ10の昇圧動作時の伝達関数Gb(s)は、キャパシタ14の容量C、インダクタ13のインダクタンスL、及びオンデューティ比Dを用いて以下の[数2]によって表される。
【0028】
【数1】
【数2】
【0029】
直流成分のみを考慮して[数1]、[数2]でs=0とすると、[数1]、[数2]は次の[数3]、[数4]のように表現される。すなわち、図2の昇降圧チョッパ10は、降圧動作の実行時には入力電圧Vinに対する出力電圧Voutの比がオンデューティ比Dとなり、昇圧動作の実行時には入力電圧Vinに対する出力電圧Voutの比が、オフデューティ比(1-D)の逆数である1/(1-D)に等しい値となる特性を有する。
【0030】
【数3】
【数4】
【0031】
次に、フィードフォワード制御部107の詳細な構成の一例を図4の回路図を参照して説明する。フィードフォワード制御部107は、判定部1071と、降圧側制御量補正部1072と、昇圧側制御量補正部1073とを備えることができる。
【0032】
判定部1071は、第1制御量P1に基づいて、DC/DCコンバータ102が降圧動作をしようとしているのか、それとも昇圧動作をしようとしているのかを判定する。第1制御量P1は、前述の通り検出出力電圧Vout_detと設定出力電圧Vout_setとの偏差を表す制御量である。上述したように、第1制御量P1は、昇降圧比となる0~1.0(100%)、1.0(100%)~2.0(200%)に相当する制御量であるので、第1制御量P1の値を判定することで、DC/DCコンバータ102が降圧動作をしようとしているのか、それとも昇圧動作をしようとしているのかを判定することができる。
【0033】
降圧側制御量補正部1072及び昇圧側制御量補正部1073は、DC/DCコンバータ102が降圧動作をしようとしているのか、それとも昇圧動作をしようとしているのかにより、いずれか一方が選択的に動作するよう構成されている。
【0034】
降圧動作をしようとしている場合には、昇圧側制御量補正部1073は動作せず、降圧側制御量補正部1072のみが動作する。降圧側制御量補正部1072は、第2制御量P2=P21を出力する。第2制御量P21は、第1制御量P1に対応するオンデューティ比Dに検出入力電圧Vin_detと設定入力電圧Vin_setの比(Vin_set/Vin_det)を乗算することにより演算される。例えば、検出入力電圧Vin_detが300V、設定入力電圧Vin_setが200Vである場合、比Vin_set/Vin_detは2/3となる。第1制御量P1に対応するオンデューティ比Dにこの比を補正量として乗算することによって、第2制御量P2を演算することができる。前述したように、オンデューティ比D、Dは第1制御量P1に対応している。従って、降圧側制御量補正部1072は、検出入力電圧Vin_detと設定入力電圧Vin_setとに基づいて第1制御量P1の補正を行い、第2制御量P2(P21)として出力していることになる。
【0035】
昇圧動作をしようとしている場合には、降圧側制御量補正部1072は動作せず、昇圧側制御量補正部1073のみが動作する。昇圧側制御量補正部1073は、第2制御量P2=P22を出力する。第2制御量P22は、第1制御量P1に対応するオフデューティ比(1-D)の逆数1/(1-D)に、前述の比(Vin_set/Vin_det)を乗算することにより演算される。前述したように、オンデューティ比D、Dは第1制御量P1に対応している。従って、昇圧側制御量補正部1073は、検出入力電圧Vin_detと設定入力電圧Vin_setとに基づいて第1制御量P1の補正を行い、第2制御量P2(P22)として出力していることになる。
【0036】
関数設定部108は、第2制御量P2(降圧動作時における第2制御量P21、又は昇圧動作時における第2制御量P22)と、オンデューティ比D又はDの間の関係を表す関数を保持している。関数は、降圧動作時と昇圧動作時とで異なる関数が用意されている。関数設定部108は、入力された第2制御量P21、P22と当該関数(降圧時、昇圧時)に従ってオンデューティ比D又はDを演算・出力する。
【0037】
関数設定部108は、第2制御量P21又はP22の値を判定し、その値の大小によって昇圧用の関数又は降圧用の関数を選択し、オンデューティ比D及びDを演算・出力する。例えば、第2制御量P21又はP22が、0≦P21(又はP22)<1.0であれば、関数設定部108は降圧用の関数を選択して、オンデューティ比D及びDを演算・出力する。また、第2制御量P21又はP22が、1.0≦P21(又はP22)<2.0であれば、関数設定部108は昇圧用の関数を選択して、オンデューティ比D及びDを演算・出力する。すなわち、フィードバック制御部106から出力される第1制御量P1に対して、入力電圧Vinの変動の影響を除去するように補正した第2制御量P2を導出することができる。また、降圧動作時と昇圧動作時では、動作させるスイッチング素子が異なるので、第2制御量P2に基づきオンデューティ比D及びDを演算・出力するようにしている。
【0038】
図5、及び図6を参照して、第1の実施の形態の電力変換装置の効果を説明する。図5は、出力電圧Voutに基づくフィードバック制御のみが実行され、入力電圧Vinを入力としたフィードフォワード制御が実行されない場合の入力電圧Vin、デューティ比D、Dの時間的変化を示すグラフの一例である。入力電圧Vinに従うフィードフォワード制御が実行されないため、デューティ比D、Dは時間とともに変化せず不変である。このため、200V/360Hzの入力電圧Vinに、例えば30Vのリプル成分が重畳している場合、出力電圧Voutにもこれに対応するリプル成分が発生する。このように、入力電圧Vinのリプル成分は、フィードバック制御のみでは十分に抑制することができない。なお、ここで入力電圧Vinの周波数が、一例として360Hzとされている。これは、商用周波数が60Hzの三相交流の電圧を整流する際に、負の半波の極性を反転させて正の半波とし、更に三相交流であるため、周波数が60×2×3=360Hzとなるためである。
【0039】
一方、図6に一例として示すように、第1の実施の形態では、入力電圧Vinに基づくフィードフォワード制御がなされ、入力電圧Vinの変化に従い、デューティ比D、Dの値も変化する。これにより、出力電圧Voutは略一定値に維持することができ、リプル成分を効果的に除去することができる。
【0040】
図7は、第1の実施の形態の変形例の電力変換装置の回路構成の一例である。この変形例は、三相交流電源を電源とし、AC/DCコンバータ101は、この三相交流電源を入力されて直流電源に変換する三相AC/DCコンバータである。また、DC/DCコンバータ102の後段には、インバータ111と、電荷転送型のAC/DCコンバータ112が接続されている。インバータ111は、nMOSトランジスタQ5~Q8をブリッジ接続して構成され、nMOSトランジスタQ5、Q8と、nMOSトランジスタQ6、Q7とが相補的に導通/非導通状態で切り替えられる。AC/DCコンバータ112は、トランス1041と、電荷転送回路1042とを備えている。電荷転送回路1042は、キャパシタと電荷転送素子としてのダイオードを交互に接続して構成される。トランス1041に入力される交流電力の向きが変わる毎に、電荷転送回路1042内で電荷が転送され、キャパシタ1043の蓄積電荷が増加し、これにより出力電圧Voutが増加する。
【0041】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、昇降圧コンバータを備えた電力変換装置において、1つのフィードフォワード制御部により、リプル成分を含めた入力電圧の変動の影響を効果的に除去し、出力電圧を安定化させることができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態の電力変換装置について、図8を参照して説明する。この第2の実施の形態の電力変換装置の全体的な構成は、第1の実施の形態と略同一である(図1図2図4)。ただし、この第2の実施の形態では、昇圧動作時において関数設定部108で採用される第2制御量P2とデューティ比Dの関数が、第1の実施の形態とは異なる。この異なる関数が採用されることにより、第2の実施の形態は、第2制御量P2の変化に対し、電力変換装置の昇降圧比を線形に変化させる(昇降圧比が第2制御量P2に比例する)ことができる。
【0043】
第2の実施の形態では、図8に示すように、昇圧動作時において、第2制御量P2とデューティ比DとがD=1-1/P2を満たすよう、デューティ比Dを変化させる。第2制御量P2とデューティ比Dがこのような関係とされることにより、昇降圧比と第2制御量P2とを比例関係とすることができる。降圧動作時は、第1の実施の形態の場合と同様、昇降圧比と第2制御量P2は比例関係とすることができる。従って、第2の実施の形態では、降圧動作時、昇圧動作時の両方において、第2制御量P2と昇降圧比を比例関係(1次関数的な関係)に維持することができる。このように、本実施の形態に係る昇降圧チョッパ10によれば、出力直流電圧の変化を線形にすることができ、これにより出力直流電圧の制御を安定的に行うことが可能になる。
【0044】
上記の第2制御量P2とデューティ比D、Dとの間の関係を示す関数に関しては、上記の関数は一例であり、これに限定されるものではない。第2制御量P2とデューティ比D、Dとの間の関係を示す関数は、昇降圧チョッパ10の伝達関数によって決定されるものである。すなわち、昇降圧チョッパ10の伝達関数の値が、第2制御量P2との関係において比例して増加するよう、第2制御量P2とデューティ比D、Dとの関数が決定される。
【0045】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
11…降圧用スイッチング回路、 12…昇圧用スイッチング回路、 13…インダクタ、 14…キャパシタ、 15…負荷、 Q1~Q4…nMOSトランジスタ、 T1、T2、T3…端子、 101…AC/DCコンバータ、 102…DC/DCコンバータ、 106…フィードバック制御部、 107…フィードフォワード制御部、 108…関数設定部、 1071…判定部、 1072…降圧側制御量補正部、 1073…昇圧側制御量補正部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8