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特許7305361還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230703BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P21/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019015692
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020120630
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠
(72)【発明者】
【氏名】楠原 史朗
(72)【発明者】
【氏名】三井田 聡司
(72)【発明者】
【氏名】牧野 譲
(72)【発明者】
【氏名】松井 彰久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅彦
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188177(JP,A)
【文献】特表2005-512584(JP,A)
【文献】特開2006-197834(JP,A)
【文献】Ann Ig, 2014年,Vol.26,p.205-212,doi:10.7416/ai.2014.1978
【文献】International Dairy Journal, 2015年,Vol.45,p.41-47,http://dx.doi.org/10.1016/j.idairyj.2015.01.015
【文献】食品群名/食品名: 乳類/<牛乳及び乳製品>/(粉乳類)/脱脂粉乳,食品詳細表示, 出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂),https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=13_13010_7&MODE=4&WEIGHT=100&TYPE=print, 検索日:2020年5月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型グルタチオン産生細菌であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)をL-シスチンが添加された乳培地で培養し、増殖曲線が対数期から静止期に至る前に、前記培養された培養物に酸を添加してpH4.1~4.5に調整するものであり、
前記乳培地が、20%以上の無脂乳固形分(SNF)を含むものであることを特徴とする還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法。
【請求項2】
前記ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)とラクトバチルス属細菌とを、前記L-シスチンが添加された乳培地で混合培養することを特徴とする請求項1に記載の還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法。
【請求項3】
前記培養物に添加する酸が有機酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法。
【請求項4】
前記乳培地は、前記L-シスチンが0.002~0.004%(w/w)の濃度で添加されていることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法。
【請求項5】
前記ラクトバチルス属細菌がラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)であることを特徴とする請求項に記載の還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法。
【請求項6】
培地中濃度が0.002~0.004%(w/w)となるようにL-シスチンを添加した無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)含有乳培地に、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)とラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)とを接種し、12~18時間培養した後の保存前の培養物に、乳酸を添加してpH4.3±0.1に調整することを特徴とする請求項に記載の還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型グルタチオン高含有乳酸菌培養物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝機能向上作用、免疫賦活作用等の他、抗酸化作用を有することが知られているグルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンからなるトリペプチドであり、酸化型及び還元型が存在する。酸化型は、2分子の還元型グルタチオンがジスルフィド結合によってつながった分子であり、還元型グルタチオン(GSH)はチオール基を有しており、フリーラジカルや過酸化物などの活性酸素種を還元して消去することができる。
【0003】
この還元型グルタチオンについては、所定量のシスチンを添加した乳培地で、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)を培養すると、還元型グルタチオンを高濃度で含有する培養物を得る製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この提案では、無脂乳固形分(SNF;Solids Not Fat)は10~20%であり、培養温度30~34℃、培養時間12~24時間の条件が記載され、シスチン0.002~0.004%を添加した培地では、還元型グルタチオン生産量が大きくなることが記載されており、更に具体的には、還元型グルタチオン量は、21日間保存しても5~32%程度しか減少しない(特許文献1、表1参照)ことが開示されている。
【0005】
また、pH3~4の発酵乳に、乳酸でpH3~4に調整した副原料を添加する発酵乳の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。これにより、微生物の産生する多糖類の濃度が高く、風味が良好な発酵乳食品を得ることができる効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-188177号公報
【文献】特開2014-027943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、本出願人は、この特許文献1の技術に基づいて、新規な製品を種々検討していたところ、還元型グルタチオン産生細菌を高い無脂乳固形分(SNF)を含む乳培地で培養したところ、乳酸菌培養物の保存中に、菌体内で蓄積された還元型グルタチオン(以下、「GSH」とも記す)が菌体外に放出されて酸化型グルタチオン(以下、「GSSG」とも記す)に変化し、得られた乳酸菌培養物中のGSH量を維持することができないという新たな問題を確認するに至った。
【0008】
この現象は、還元型グルタチオン産生細菌単菌のみの培養だけでなく、還元型グルタチオン産生細菌と他の細菌との混合培養においても、高い無脂乳固形分(SNF)を含む乳培地であれば、同様に菌体内で蓄積された還元型グルタチオン(GSH)が菌体外に放出されて酸化型グルタチオンに変化することが確認された。
【0009】
本発明は、高い菌体内還元型グルタチオン(GSH)を維持することができる乳酸菌培養物及びその製造法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法は、ストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌であるストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)をL-シスチンが添加された乳培地で培養し、増殖曲線が対数期から静止期に至る前に、前記培養された培養物に酸を添加してpH4.1~4.5に調整するものであり、
前記乳培地が、20%以上の無脂乳固形分(SNF)を含むものであることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法は、前記ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)とラクトバチルス属細菌とを、前記L-シスチンが添加された乳培地で混合培養することを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法は、前記培養物に添加する酸が有機酸であることを特徴とするものである。
また、本発明に係る還元型グルタチオン含有乳酸菌培養物の製造法は、培地中濃度が0.002~0.004%(w/w)となるようにL-シスチンを添加した無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)含有乳培地に、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)とラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)とを接種し、12~18時間培養した後の保存前の培養物に、乳酸を添加してpH4.3±0.1に調整することを特徴とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、菌体内還元型グルタチオン(GSH)量が高く、保存性も良い乳酸菌培養物を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ストレプトコッカス属細菌(ST-1)単菌発酵乳と、ラクトバチルス属細菌(LcS)との混合培養発酵乳との菌体内GSH量の変化を示す線図である。
図2】菌体内外GSH量及びGSSG量の推移を示す説明図である。
図3】乳酸添加の有無による菌体内外GSH量及びGSSG量の保存性の相違を示す説明図である。
図4】乳酸添加による菌体内GSH量とその保存性の相違を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の還元型グルタチオン高含有乳酸菌培養物は、シスチン含有乳培地におけるストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌培養物の酸添加によるpH調整物である。酸添加によって、菌体内で蓄積された還元型グルタチオン(GSH)が菌体外に移行することを阻害するため、高い菌体内GSH量を維持することができる。
【0020】
本発明のストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌としては、還元型グルタチオン産生能を有するストレプトコッカス属細菌であれば特に限定されるものではないが、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophlus)、ストレプトコッカス・アガラクティア(Streptococcus agalactiae)等のストレプトコッカス属細菌が挙げられ、これらは、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
これらの中でも、特にストレプトコッカス・サーモフィルスが好ましい。ストレプトコッカス・サーモフィルスとしては、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001、ストレプトコッカス・サーモフィルスATCC 19258等を用いることができるが、これらの中でも還元型グルタチオン含量が高くなるため、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001(FERM BP-7538、寄託日:平成13年(2001年)1月31日)が好適に用いられる。
【0022】
ストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌は単独又は複数の同属の細菌で培養されてもよいが、製品化に際して他の属の乳酸菌と混合培養して還元型グルタチオン産生以外の好ましい性能を製品に持たせてもよい。例えば、ストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス属細菌、ラクトバチルス属微生物等が挙げられる。特に、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT9029(FERM BP-1366、寄託日:昭和62年(1987年)5月18日)をストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌と共に混合培養することにより、良好なヨーグルト飲料を得ることができて好ましい。
【0023】
還元型グルタチオン産生乳酸菌を培養する際には、培養した発酵物の食品への適応性が高いという点で乳培地が好適に用いられる。この乳培地としては、牛乳、山羊乳、羊乳、豆乳などの動物及び植物由来の液状乳、または脱脂粉乳、全粉乳などの粉乳、濃縮乳から還元した乳などをそのまま或いは水で希釈したものを用いることができる。
【0024】
本発明の乳培地には、還元型グルタチオンを産生させるために、シスチンを添加する。本発明で用いられるシスチンには、L-シスチン、D-シスチン及びこれらの混合物が含まれるが、L-シスチンが好ましく用いられる。乳培地中のシスチンの添加量は、通常0.001~0.01%(w/w)、好ましくは0.001~0.006%(w/w)である。
【0025】
また、乳培地の無脂乳固形分(SNF)は、高濃度(20%(w/w) 以上、または20%~25%(w/w) )に含まれると、乳酸菌培養物の保存中に、菌体内還元型グルタチオン(GSH)が菌体外に放出されて酸化型グルタチオン(GSSG)に変化し、有効量の菌体内GSH量を維持することができないという新たな問題が発生した。尚、この状態で単に培養をやめて10℃の冷蔵庫で保存しても、菌体外へのGSHの放出をとめることができず、やはり菌体内GSH量を維持することができなかった。
【0026】
また、還元型グルタチオン産生細菌と他の細菌との混合培養においても、高い無脂乳固形分(SNF)を含む乳培地であれば、同様に菌体内で蓄積された還元型グルタチオン(GSH)が菌体外に放出されて酸化型グルタチオン(GSSG)に変化することが確認された。
【0027】
本発明の培養物に酸を添加してpHを調整したpH調整物では、無脂乳固形分(SNF)が20%(w/w) 以上でも、乳酸菌培養物の保存中に、菌体内で蓄積された還元型グルタチオンが菌体外に放出され難く、菌体内で蓄積された還元型グルタチオン(GSH)が菌体外に移行することを阻害するため、高い菌体内GSHを維持することができる。具体的には、菌体内GSH量として、2000ng/mL以上であり、好ましくは2500ng/mL以上であり、より好ましくは3000ng/mL以上である。また、菌体内GSH、菌体内GSSG、菌体外GSH、菌体外GSSGの総量に対する菌体内GSHの割合は、30%以上であり、好ましくは40%以上であり、より好ましくは55%以上である。さらに、菌体内GSH、菌体内GSSG、菌体外GSH、菌体外GSSGの総量に対する菌体外GSH量の割合は、40%以下であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下である。
【0028】
尚、酸の添加によって培地のpHが急激に酸性側へ移行するが、好ましいpH調整物としては、通常24時間後に到達するであろうpHまで調整すればよい。具体的には、pH4.1~4.5に調整されるものであればよい。また、中和滴定法による乳酸酸度が19.0±2.0となるように酸を添加すればよい。
【0029】
pH調整を行う酸については、ストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌の菌体内で蓄積された還元型グルタチオンが菌体外に放出されることを防ぐために、酸性とするために添加されるものであればよい。酸については、種々の酸を添加することが可能であるが、有機酸が食品の添加物として多く認められるため好ましく、乳酸が還元型グルタチオン産生細菌自体が産生する酸と同じものであるため、より好ましい。
【0030】
本発明のpH調整については、ストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌が菌体内に充分に還元型グルタチオンが蓄積され、尚且つ、蓄積された還元型グルタチオンが菌体外へ移行する前に行われるのが最適である。多くの場合、還元型グルタチオン産生細菌の菌体内に還元型グルタチオンが充分に蓄積されるのは、ほぼピーク時、即ち、増殖曲線が対数期から静止期に至る前である。
【0031】
より詳しくは、ストレプトコッカス属還元型グルタチオン産生細菌をシスチン含有乳培地で12~20時間培養し、増殖曲線が対数期から静止期に至る前に、培養された培養物に酸を添加してpHを調整するものである。
【0032】
尚、酸を用いて急激にpHを下げたpH調整物については、風味確認を不特定多数の人間が行った結果、培養12時間で乳酸を添加して急激にpHを下げたものは、培養24時間のものに比べて後味がよく、さっぱり感があり、乳酸添加による急激なpH調整については、風味を悪化させるものではないことが判っている。
【0033】
本発明のpH調整には、菌体内で蓄積された還元型グルタチオンが菌体外へ放出するのを阻害するが、この還元型グルタチオンの菌体外への放出は、冷蔵状態での保存で、酸の添加後7日間も阻害し続け菌体内への還元型グルタチオンの蓄積を充分に維持させることができる。
【0034】
本発明に示された還元型グルタチオン高含有乳酸菌培養物は、菌体内に還元型グルタチオンが蓄積されるため、培養物自体をヨーグルト食品、ヨーグルト飲料等として供したり、培養物自体や菌体を集菌して、これを乾燥することにより、食品やサプリメント剤等として供与してもよい。この場合、保存安定性は培養物自体の液体での保存と比べて遙かに高い利点もある。
【実施例
【0035】
図1はストレプトコッカス属細菌(ST-1)単菌発酵乳と、ラクトバチルス属細菌(LcS)との混合培養発酵乳との菌体内GSH量の変化を示す線図である。図2は菌体内外GSH量及びGSSG量の推移を示す説明図である。図3は乳酸添加の有無による菌体内外GSH量及びGSSG量の保存性の相違を示す説明図である。図4は乳酸添加による菌体内GSH量とその保存性の相違を示す説明図である。
【0036】
実施例1
先ず、SNF濃度が高いと乳酸菌発酵物中の菌体内グルタチオン量がSNF濃度の低いものと比べて少なくなることを検証した。具体的には、本実施例1では、供試菌株として、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2001(以下、「ST-1」とも記す)及びラクトバチルス・カゼイYIT9029(以下、「LcS」とも記す)を用いた。ST-1のみ又は両菌の凍結保存菌液を10%(w/w)脱脂粉乳水溶液(ST-1は0.01%(v/v)、LcSは0.5%(v/v))に接種し、37℃で22時間前培養した。
【0037】
先ず、これら単菌と両菌との2種の前培養液25mLを、L-シスチン濃度を変えて添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)16%(w/w)及び22.7%(w/w)、L-シスチン0~0.006%)10Lに接種し、34.5±0.5℃でpHが4.4未満に到達するまで撹拌培養を行って各々の乳酸菌発酵物を得た。乳酸菌発酵物中の菌体内の還元型グルタチオン含量を測定した。結果を次の表1に示す。表1からSNFが20%以上の場合、菌体内還元型グルタチオン量はSNFが16%の場合に比べ、低いことが判明した。
【0038】
尚、菌体内の還元型グルタチオンの測定法としては、次の通りに行った。先ず、検体1mLを10mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)9mLで希釈した。この溶液600μLを遠心分離(20,000g、4℃、10min)した後、上清を除去し菌体を回収した。これにφ0.1mmガラスビーズ(1,000mg)とホウ酸緩衝液(2mM EDTA、100mMホウ酸緩衝液、pH8.0) 800μLを加え、振とう(6.5/ms、60s)して菌体を破砕後、遠心分離(20,000g、4℃、10min)して上清を回収した。
【0039】
この上清200μLに1mM 4-(アミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(ABD-F)添加100mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)300μLを添加し、60℃で15分間誘導体化反応を行った。10分間氷冷後、 0.1N 塩酸を200μL添加し、孔径0.45μmのフィルターで遠心ろ過(10,000g、4℃、2min)したものを、HPLC/蛍光検出法で分析、定量した。
【0040】
【表1】
【0041】
次に、菌体内GSH量の培養時間に対する変化を検証した結果を図1に示す。即ち、ST-1単菌及びST-1とLcSとの混合菌を用いて、L-シスチンを0.002%添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF) 16%(w/w)及び22.7%(w/w))10Lに接種し、撹拌培養を行い乳酸菌発酵物を経時的に摂取して、乳酸菌発酵物中の菌体内の還元型グルタチオン含量を測定した。図1に示す通り、菌体内GSH量は、培養12時間をピークにして徐々に低下していることが判った。
【0042】
実施例2
本実施例では、グルタチオンの経時変化を示す。具体的には、供試菌株として、実施例1と同様に、ST-1単菌及びST-1とLcSとの混合菌を用いた。ST-1のみ又は両菌の凍結保存菌液を10%(w/w)脱脂粉乳水溶液に(ST-1は0.01%(v/v)、LcSは0.5%(v/v))接種し、37℃で24時間前培養した。
【0043】
得られた前培養液5mLを、3Lジャーファーメンター中の、L-シスチンを濃度0.002%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)) 2LにST-1単菌又はST-1とLcSとの混合菌を接種し、34℃で26時間撹拌培養して乳酸菌発酵物を得た。
【0044】
これら各乳酸菌発酵物は培養6時間目より2時間おきに回収し、菌体内外の還元型・酸化型グルタチオン量を測定した。結果を図2及び表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
尚、菌体内の還元型及び酸化型グルタチオンの測定方法は、次の通りである。即ち、検体lmLを10mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)9mLで希釈した。この溶液600μLを遠心分離(20,000g、4℃、10min)した後、上清を除去し菌体を回収した。これにφ0.lmmガラスビーズ(1,000mg)と2mM EDTA添加100mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)800μLを加え、FastPrep-24(MP Biomedicals)で振とう(6.5/ms、60s)して菌体を破砕後、遠心分離(20,000g、4℃、10min)して上清を回収した。
【0047】
上清200μLに精製水または還元剤(5mM TCEP、ナカライテスク)10μLを添加し、これに2mM EDTA添加100mMホウ酸緩衝液(pH8.0)290μLとlmM 4-(アミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(ABD-F)添加100mMホウ酸緩衝液(pH8.0)300μLを添加し、60℃で15分間誘導体化反応を行った。10分間氷冷後、0.1N塩酸を200μL添加し、孔径0.45μmのフィルターで遠心ろ過(10,000g、4℃、2min)したものを、HPLC/蛍光検出法で分析、定量した。
【0048】
また、菌体外の還元型及び酸化型グルタチオンの測定方法は、次の通りである。即ち、検体1mLを10mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)9mLで希釈した溶液600μLを遠心分離(20,000g、4℃、10min)した後、上清を回収した。上清200μLに精製水または還元剤(5mM TCEP、ナカライテスク)10μLを添加し、これに0.5mM 4-(アミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(ABD-F)添加400mMホウ酸緩衝液(pH8.0)590μLを添加し、60℃で20分間誘導体化反応を行った。15分間氷冷後、0.4N塩酸200μLを添加したものをHPLC/蛍光検出法で分析、定量した。
【0049】
図2及び表2に示す通り、培養時間毎の菌体内GSH量の推移については、18時間までの菌体内GSH量が多くなってはいるが、それ以降は、菌体内GSHの量が減少することが判った。
【0050】
実施例3
本実施例では、培養時間の短縮により菌体内GSH高含有な菌液が得られること、及び乳酸の培養後添加によりそれを高く維持できることを示す。具体的には、供試菌株として、ST-1とLcSとの混合菌を用いた。10%(w/w)脱脂粉乳水溶液に、ST-1を0.01%(v/v)及びLcSを0.5%(v/v)接種し、37℃で24時間前培養した。
【0051】
得られた前培養液0.25mLを、300mLコルベン中へ、L-シスチンを濃度0.002%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w))100mLに接種し、34℃で12時間静置培養して乳酸菌発酵物を得た。培養終了後に乳酸をpH4.3±0.1となるよう添加し、4℃で最大7日間保存した。保存前後の乳酸菌発酵物について、菌体内の還元型グルタチオン量を実施例1と同様の方法により測定し、保存後の残存率を算出した。
【0052】
【表3】
【0053】
乳酸菌発酵物中のLcSの生菌数をセファロチン添加BCP培地(最終濃度2μg/mL)培地で測定した。ST-1の生菌数は、ST-1・LcSの総生菌数からLcSの生菌数を差し引いて算出した。結果を表3に示す。表3に示す通り、乳酸を添加したものが菌体内還元型グルタチオン量の残存率が乳酸を添加しなかったものよりも圧倒的に大きかった。
【0054】
実施例4
本実施例では、乳酸添加の有無によるグルタチオンの経時変化を示す。具体的には、実施例1と同様に、ST-1単菌及びST-1とLcSとの混合菌を用いた。ST-1のみ又は両菌の凍結保存菌液を10%(w/w)脱脂粉乳水溶液に(ST-1は0.01%(v/v)、LcSは0.5%(v/v))接種し、37℃で24時間前培養した。
【0055】
得られた前培養液0.25mLを、300mLコルベン中へ、L-シスチンを濃度0.002%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w))100mLに接種し、34℃で12時間静置培養して乳酸菌発酵物を得た。得られた乳酸菌発酵物の1つをサンプリングして、10℃で保存した。サンプリング時、保存2日、保存7日目の菌体内外の還元型・酸化型グルタチオン量を実施例2と同様に測定した。
【0056】
また、他の乳酸発酵物は、培養終了後に乳酸をpH4.3±0.1となるよう添加した後に、サンプリングして、1つ目と同様に10℃で保存した。サンプリング時、保存2日目、保存7日目の菌体内外の還元型・酸化型グルタチオン量を実施例2と同様に測定した。結果を図3に示す。
【0057】
図3に示す通り、乳酸を添加して急激にpHを低減させたものでは、保存2日目、保存7日目共に菌体内の還元型グルタチオン量が乳酸を添加していないものと比べて圧倒的に保存されていることが示された。また、10℃保存7日目において、乳酸無添加の場合、菌体内GSH、菌体内GSSG、菌体外GSH、菌体外GSSGの総量に対する菌体内GSHの割合は20.2%であり、菌体外GSHの割合は48.1%であった。一方、10℃保存7日目において、乳酸添加の場合、菌体内GSH、菌体内GSSG、菌体外GSH、菌体外GSSGの総量に対する菌体内GSHの割合は60.6%であり、菌体外GSHの割合は13.6%であり、両者に顕著な相違が見られた。
【0058】
実施例5
本実施例では、乳酸以外の酸にも菌体内GSHの維持効果があることを示す。具体的には、供試菌株として、ST-1を用いた。10%(w/w)脱脂粉乳水溶液にそれぞれ0.Ol%(v/v)接種し、37℃で24時間前培養した。この前培養液0.25mLを、300mLコルベン中の、L-シスチンを濃度0.004%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w))100mLに接種し、34℃で12時間静置培養して乳酸菌発酵物を得た。
【0059】
培養終了後に無機酸(塩酸、リン酸)もしくは有機酸(乳酸、クエン酸、コハク酸)を添加し、10℃で最大7日間保存した。保存前後の乳酸菌発酵物について、菌体内の還元型グルタチオン(GSH)量を実施例1と同様の方法により測定し、保存後の残存率を算出した。結果を表4に示す。表4の結果から、無機酸よりも、有機酸の方が酸を添加することにより、菌体内還元型グルタチオンの残存率が高くなることが判明した。また、特に乳酸を添加した場合に効果が高いことが判明した。
【0060】
【表4】
【0061】
実施例6
本実施例では、培養を18時間行った乳酸菌発酵物及びそれを用いて得た発酵乳製品が乳酸の後添加により菌体内GSH高含有かつ高保存性となることを示す。具体的には、供試菌株として、ST-1及びLcSを用いた。
【0062】
両菌の凍結保存菌液を10%(w/w)脱脂粉乳水溶液に(ST-1は0.01%(v/v)、LcSは0.5%(v/v))接種し、37℃で21時間前培養した。この前培養液25mLを、L-シスチンを添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)、L-シスチン0.004%)10Lに接種し、34℃で18時間撹拌培養を行った後、乳酸をpH4.3±0.1となるよう添加し乳酸菌発酵物を得た。
【0063】
また、当該乳酸菌発酵物 530gを均質化後、シロップ(ファインリカー(FL):製品あたり7.36%(w/w)、乳酸カルシウム:製品あたり0.055%(w/w)、クリーム:製品あたり1.5%(w/w))と混合し、1000gの発酵乳製品を得た。乳酸菌発酵物は5℃で7日間、発酵乳製品は10℃で21日間保存した。
【0064】
保存前後の乳酸菌発酵物と発酵乳製品について、菌体内の還元型グルタチオン量を実施例1と同様の方法により測定し、残存率を算出した。その結果、乳酸を添加することにより、シロップを混合した発酵乳飲料でも菌体内GSH量が残存することが判明した。
【0065】
実施例7
本実施例は、pH調整の時期について検討した。具体的には、実施例4と同様に調整した。即ち、ST-1及びLcSの凍結保存菌液を10%(w/w)脱脂粉乳水溶液に(ST-1は0.01%(v/v)、LcSは0.5%(v/v))接種し、37℃で21時間前培養した。
【0066】
前培養液25mLを、L-シスチンを濃度0.004%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)) 10Lに接種し、34℃で18時間撹拌培養して乳酸菌発酵物を得た。培養終了後に乳酸をpH4.3±0.1、中和滴定法による乳酸酸度が19.0±2.0となるよう添加した後に、サンプリングして、10℃で7日間保存し、菌体内の還元型・酸化型グルタチオン量を測定した(乳酸後添加)。
【0067】
比較例として、前培養液を添加する前のL-シスチンを濃度0.004%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)) 10LのpHを乳酸を添加して6.0に調整した後、ST-1とLcSとの混合菌液25mLを接種し、34℃で32時間(中和滴定法による乳酸酸度が19.0±2.0になるまで)撹拌培養した乳酸菌発酵物(乳酸後添加)と、L-シスチンを濃度0.004%(w/w)となるように添加した乳培地(無脂乳固形分(SNF)22.7%(w/w)) 10Lに、ST-1とLcSとの混合菌液を接種し、34℃で32時間(中和滴定法による乳酸酸度が19.0±2.0になるまで)撹拌培養した乳酸菌発酵物(現行処方)を調製し、培養終了後にサンプリングして、10℃で7日間保存し、菌体内の還元型・酸化型グルタチオン量を測定した。
【0068】
結果を図4に示す。図4に示す通り、乳酸の添加によるpH調整は、18時間培養後に行うことが還元型グルタチオンの産生量が多く、また、7日間の保存後も還元型グルタチオンの蓄積量が多いことが確認された。
図1
図2
図3
図4