(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】高性能タイヤのための官能化樹脂
(51)【国際特許分類】
C08L 45/00 20060101AFI20230703BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230703BHJP
C08G 61/08 20060101ALI20230703BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230703BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230703BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20230703BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20230703BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20230703BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20230703BHJP
C08L 15/02 20060101ALI20230703BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20230703BHJP
C08L 23/20 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C08L45/00
B60C1/00 A
C08G61/08
C08K3/013
C08K3/36
C08K5/5415
C08L7/00
C08L9/02
C08L9/06
C08L15/02
C08L23/16
C08L23/20
(21)【出願番号】P 2019017314
(22)【出願日】2019-02-01
(62)【分割の表示】P 2016536782の分割
【原出願日】2014-08-11
【審査請求日】2019-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-09
(32)【優先日】2013-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509004675
【氏名又は名称】エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】ブロック エドワード ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート イアン シー
(72)【発明者】
【氏名】ディアス アンソニー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユエン ジュ
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】藤井 勲
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-336152(JP,A)
【文献】特開2013-075994(JP,A)
【文献】特開2013-124341(JP,A)
【文献】特開平11-322957(JP,A)
【文献】特開2012-022317(JP,A)
【文献】特開2003-158019(JP,A)
【文献】特表2002-536468(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0058275(US,A1)
【文献】国際公開第2014/133028(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0002382(US,A1)
【文献】特開2005-041945(JP,A)
【文献】特表2009-520050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0281021(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 45/00
C08F 32/08
C08G 61/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエン(DCPD)ポリマーを、ビニルモノマー又はビニレンモノマーと反応させて得られる官能化樹脂であって、
前記DCPDポリマーが、300~1,000g/molの範囲のGPCにより決定されるMwを有し、
前記ビニルモノマー又はビニレンモノマーが下記式
【化1】
(式中、
各Xは、「-Si(OR
2
)(OR
3
)(OR
4
)」により表される基であり、
各R
2
、R
3
、およびR
4
は、独立に、水素、C
1
-C
20
アルキル基、または芳香族基であり、
各R
1
は、独立に、水素原子またはC
1
-C
40
アルキル基であり、
各Arは、独立に、芳香族基であり、
各nは、独立に、0~40であり、
前記「-Si(OR
2
)(OR
3
)(OR
4
)」で表される基は、ケイ素原子から3~9炭素離れた位置で、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、又はチオール基により置換されていてもよい)
のうちの1つにより表される、官能化樹脂を含むタイヤトレッド組成物。
【請求項2】
(a)15~50PHRの範囲内の官能化樹脂、
(b)100PHRのジエンエラストマー、および
(c)50~150PHRの範囲内の無機充填剤、
を含む、請求項
1に記載のタイヤトレッド組成物。
【請求項3】
20~50PHRの範囲内の官能化樹脂を含む、請求項
2に記載のタイヤトレッド組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤がシリカを含む、請求項
2に記載のタイヤトレッド組成物。
【請求項5】
ジエンエラストマーが、ブチルゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項
2に記載のタイヤトレッド組成物。
【請求項6】
前記ジエンエラストマーが、臭素化ブチルゴム、又は塩素化ブチルゴムである、請求項
2に記載のタイヤトレッド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年12月5日に出願された米国出願第61/912,115号、および2014年2月19日に出願されたEP 14155670.4に基づく優先権を主張し、これらの開示は、ここにそれらの全体が参照により組み込まれる。
本発明は、高性能タイヤにおける使用のためのジシクロペンタジエンベース樹脂のメタセシス触媒による官能化に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能タイヤのトレッドは、きわめて優れた牽引およびハンドリング特性を有することが期待される。一般に、タイヤトレッドは、これらの所望の特性を達成するため、高配合量の充填剤および樹脂が配合されている。
乗用車用タイヤにおいて、牽引性を増加させるために、相溶性樹脂がトレッドを形成するために典型的には使用される。これらの樹脂は、牽引性全体を増加させるが、これらの相溶性樹脂から形成されるトレッドコンパウンドは、ハードドライビング中の高速または高温での牽引性およびハンドリング性の減少という弱点を有する傾向にある。
レースカー用タイヤは、高軟化点非相溶性樹脂および樹脂ブレンドを添加することにより、高速および高温で乗用車用タイヤに観察される問題を解決した。たとえば、高温で高いタンジェントデルタ(損失弾性率の貯蔵弾性率に対する比)値とともに高いG’(貯蔵弾性率)値を有する樹脂パッケージを使用することが、高速および高温でのタイヤ性能を改善することが観察された。しかしながら、非相溶性樹脂を添加することはタイヤの耐用年数を減少させるので、高性能乗用車用タイヤのために非相溶性樹脂を使用することは、乗用車用タイヤの安定性および耐用年数に対する要求の増加とレースカー用タイヤのそれとの対立ゆえに実行可能な選択肢ではない。
【0003】
本発明は、高性能乗用車用タイヤにおいて観察される牽引性およびハンドリング性問題を、ルテニウム触媒開環交差メタセシスを使用してジシクロペンタジエン(DCPD)ベース樹脂をシリカまたはカーボンブラックと反応可能な基で官能化することにより解決する。この樹脂の官能基は、単一の樹脂を使用して、非抽出性で、安定的な形態を提供し、広範な転移を示す高性能タイヤトレッドの形成に使用可能な、安定的な非相溶性樹脂系の形成を可能にする。
本開示の関連先行技術には、米国公開第2013-0296475号、2013年3月11日出願の米国整理番号第13/822,103号、米国公開第2010-0113703号、米国特許第6,300,449号、2012年9月24日出願の米国仮出願第61/705,057号、米国公開第2009-0104429号、米国特許第6,844,409号、米国特許第6,436,476号、米国公開第2012-0058275号、およびHongyu Cui & Michael R. Kessler, Glass Fiber Reinforced ROMP-based Bio-renewable Polymers: Enhancement of the Interface with Silane Coupling Agents, COMPOSITES SCIENCE AND TECHNOLOGY, 72, 1264-1272 (2012)が含まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、DCPDベースポリマー主鎖および下記官能基
(i)シリル基、
(ii)シロキシ基、または
(iii)アルコキシシリル基
のうちの少なくとも1つを含む官能化樹脂組成物および前記組成物の製造方法に関する。
【0005】
本発明はさらに、DCPDに由来する単位を含むポリマーとビニルモノマーまたはビニレンモノマーとを接触させることにより得られる反応生成物であって、ビニルモノマーまたはビニレンモノマーが、下記式(I)
【化1】
(式中、
各Xは、独立に、-SiR
2R
3R
4、-O-SiR
2R
3R
4、または-Si(OR
2)(OR
3)(OR
4)であり、
各R
2、R
3、およびR
4は、独立に、水素、C
1-C
20アルキル基、または芳香族基であり、
各R
1は、独立に、水素原子またはC
1-C
40アルキル基であり、
各Arは、独立に、芳香族基であり、
各nは、独立に、0~40である)
のうちの1つにより表される、反応生成物に関する。
【0006】
本発明はさらに、前述の官能化樹脂組成物を含むタイヤトレッド組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】動的機械熱分析(DMTA)によって得られる、温度の一定範囲にわたる比較材料および本発明の材料の4%歪みでのタンジェント(tan)デルタ値の代表的な図である。この図はtanデルタ値を示し、表6は標準化データを含むことに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ジシクロペンタジエンと、シリカまたはカーボンブラックと反応可能な官能基を含むビニルモノマーまたはビニレンモノマーとに由来する単位を接触させることにより得られる官能化ジシクロペンタジエンベース樹脂を含むメタセシス触媒反応生成物に関する。ビニルまたはビニレンモノマーは、下記式(I)
【化2】
(式中、
各Xは、独立に、シリル、シロキシ、またはアルコキシシリルであり、
各R
1は、独立に、水素原子またはC
1-C
40アルキル基であり、
各Arは、独立に、芳香族基であり、
各nは、独立に、0~40である)
のうちの1つにより表される。
本発明はさらに、耐久性、牽引性、ハンドリング性、および抽出性特性の改善を示す、官能化ジシクロペンタジエンベース樹脂を含む高性能タイヤトレッド組成物に関する。
【0009】
定義
「PHR」という用語は、ゴム100部当たりの部を意味し、当技術分野において一般的な尺度であり、組成物の成分は、すべてのエラストマー(ゴム)成分の総量に対して測定される。所定の配合において1、2、3、またはそれ以上の異なるゴム成分が存在するかどうかにかかわらず、すべてのゴム成分についての総PHRまたは部が、常に100PHRと定義される。すべての他の非ゴム成分は、ゴムの100部に対する比が示され、PHRで表現される。
本明細書において使用される「エラストマー」という用語は、本明細書に参照により組み込まれるASTM D1566の定義と一致する任意のポリマーまたはポリマーの組合せを指す。本明細書において使用される「エラストマー」という用語は、「ゴム」という用語と互換的に使用できる。
【0010】
官能化樹脂
ジシクロペンタジエンに由来する単位
「ジシクロペンタジエンに由来する単位」という文言は、置換DCPD、たとえばメチルDCPDまたはジメチルDCPDに由来する単位を含む。
好ましくは、ジシクロペンタジエンに由来する単位を含むポリマー(「DCPDポリマー」とも呼ばれる)は、150~10,000g/mol(GPCにより決定)、より好ましくは200~5,000g/mol、最も好ましくは300~1,000g/molの範囲内のMwを有する。
【0011】
好ましくは、DCPDポリマーは、100mol%以下のジシクロペンタジエンに由来する単位、より好ましくは5~90mol%の範囲内のDCPDに由来する単位、最も好ましくは5~70mol%の範囲内のDCPDに由来する単位を含む。
好ましくは、DCPDポリマーは、モノマー混合物中のモノマーの質量で15%以下のピペリレン成分、15%以下のイソプレン成分、15%以下のアミレン成分、20%以下のインデン成分、60%~100%の範囲内の環式成分、および20%以下のスチレン成分を含むモノマー混合物から製造される。
【0012】
環式成分は、一般に、C5およびC6-C15環式オレフィン、ジオレフィンの蒸留留分または合成混合物、ならびに蒸留留分からのダイマー、コダイマーおよびトリマー等である。環式物には、シクロペンテン、シクロペンタジエン、DCPD、シクロヘキセン、1,3-シクロヘキサジエン、および1,4-シクロヘキサジエンが含まれるが、これに限定されない。好ましい環式物は、シクロペンタジエンである。DCPDは、エンド型またはエキソ型のいずれかであってもよい。環式物は、置換されていてもされていなくてもよい。好ましい置換環式物には、C1-C40直鎖状、分枝状、または環式アルキル基、好ましくは1つまたは複数のメチル基で置換されているシクロペンタジエンおよびDCPDが含まれる。好ましくは、環式成分は、シクロペンタジエン、シクロペンタジエンダイマー、シクロペンタジエントリマー、シクロペンタジエン-C5コダイマー、シクロペンタジエン-ピペリレンコダイマー、シクロペンタジエン-C4コダイマー、シクロペンタジエン-メチルシクロペンタジエンコダイマー、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンダイマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
好ましくは、DCPDポリマーは、1.5より大きい屈折率を有する。好ましくは、DCPDポリマーは、80℃以上(リングアンドボール、ASTM E-28により測定)、より好ましくは80℃~150℃、最も好ましくは100℃~150℃の軟化点を有する。
好ましくは、DCPDポリマーは、-30℃~100℃のガラス転移温度(Tg)(TA Instrumentsモデル2920マシンを使用してASTM E 1356により測定)を有する。
好ましくは、DCPDポリマーは、Brookfield Thermosel粘度計および50~25,000mPa・秒の27番スピンドルを177℃で使用して規定温度(典型的には、120℃~190℃)で測定されるブルックフィールド粘度(ASTM D-3236)を有する。
【0013】
好ましくは、DCPDポリマーは、オレフィン不飽和、たとえば、1H-NMRにより決定されるインターポリマーにおける水素の総モル数に対して、少なくとも1mol%のオレフィン水素を含む。あるいは、DCPDポリマーは、ポリマーにおける水素の総モル数に対して、1~20mol%の芳香族水素、好ましくは2~15mol%の芳香族水素、より好ましくは2~10mol%の芳香族水素、好ましくは少なくとも8mol%の芳香族水素を含む。
好ましくは、DCPDポリマーは、WO 2012/050658に記載のポリマーである。
【0014】
本発明において有用なDCPDポリマーの例には、Baton Rouge、LAのExxonMobil Chemical Companyにより販売されているEscorez(登録商標) 8000シリーズの樹脂が含まれる。本発明において有用なDCPDポリマーのさらなる例には、ドイツのArakawa Europeにより販売されているArkon(登録商標)シリーズの樹脂が含まれる。本発明において有用なDCPDポリマーのさらなる例には、Longview、TXのEastman Chemical Companyにより販売されているEastotac(登録商標)シリーズの樹脂が含まれる。
【0015】
ビニルおよびビニレンモノマー
本明細書において有用なビニルおよびビニレンモノマーには、式(I)
【化3】
(式中、
各X
1は、独立にシリル、シロキシ、アルコキシシリル、またはC
1-C
20アルキル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、またはオクタデシルであり、
各R
1は、独立に、水素原子またはC
1-C
40アルキル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、またはオクタデシルであり、
各Arは、独立に、芳香族基、好ましくはフェニルまたはベンジルであり、
各nは、独立に、0~40、好ましくは1~30、好ましくは5~20である)
により表されるものが含まれる。
【0016】
好ましくは、各シリル基は、式-SiR2R3R4を有し、各シロキシ基は、式-O-SiR2R3R4を有し、各アルコキシシリル基は、式Si(OR2)(OR3)(OR4)を有し、式中、各R2、R3、およびR4は、独立に、水素、C1-C20アルキル基、または芳香族基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、フェニル、またはベンジルである。本発明の一態様において、シリル、シロキシまたはアルコキシシリル基は、ケイ素原子から3~9炭素離れたアミン、ヒドロキシル、エポキシ、またはチオール官能基を含む。
【0017】
アルケンメタセシス触媒
アルケンメタセシス触媒は、第1のオレフィン(典型的にはビニル)と第2のオレフィン(典型的にはビニルまたはビニレン)との間の反応を触媒し、典型的にはエチレンが除去された生成物を生成する化合物である。
【0018】
好ましくは、本明細書において有用なアルケンメタセシス触媒は、下記式(II)
【化4】
(式中、
Mは、第8族金属であり、好ましくはRuまたはOs、好ましくはRuであり、
X
2およびX
3は、独立に、任意のアニオン性リガンド、好ましくはハロゲン(好ましくは塩素)、アルコキシドもしくはトリフレートであり、または、X
2およびX
3は、ジアニオン基を形成するよう結合してもよく、30個以下の非水素原子の単一の環または30個以下の非水素原子の多核環系を形成してもよく、
LおよびL
1は、独立に、中性2電子供与体、好ましくは、ホスフィンまたはN-複素環カルベンであり、LとL
1は、30個以下の非水素原子の単一の環または30個以下の非水素原子の多核環系を形成するよう結合してもよく、
LとX
2は、多座配位モノアニオン基を形成するよう結合してもよく、30個以下の非水素原子の単一の環または30個以下の非水素原子の多核環系を形成してもよく、
L
1とX
3は、多座配位モノアニオン基を形成するよう結合してもよく、30個以下の非水素原子の単一の環または30個以下の非水素原子の多核環系を形成してもよく、
R
5およびR
6は、独立に、水素またはC
1-C
30置換または非置換ヒドロカルビル(好ましくはC
1-C
30置換もしくは非置換アルキルまたは置換もしくは非置換C
4-C
30アリール)であり、
R
6とL
1またはX
3は、30個以下の非水素原子の単一の環または30個以下の非水素原子の多核環系を形成するよう結合してもよく、
R
5とLまたはX
2は、30個以下の非水素原子の単一の環または30個以下の非水素原子の多核環系を形成するよう結合してもよい)
により表される。
【0019】
好ましいアルコキシドには、アルキル基が、フェノール、置換フェノール(フェノールが1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、または5個以下のC1-C12ヒドロカルビル基で置換されていてもよい)またはC1-C10ヒドロカルビル、好ましくはC1-C10アルキル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、またはフェニルであるものが含まれる。
【0020】
好ましいトリフレートは、下記式(III)
【化5】
(式中、R
7は、水素またはC
1-C
30ヒドロカルビル基、好ましくはC
1-C
12アルキル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル、またはフェニルである)
により表される。
【0021】
好ましいN-複素環カルベンは、下記式(IV)
【化6】
(式中、
各R
8は、独立に1個から40個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、ブチル(イソブチルおよびn-ブチルを含む)、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロへキシル、オクチル、シクロオクチル、ノニル、デシル、シクロデシル、ドデシル、シクロドデシル、メシチル、アダマンチル、フェニル、ベンジル、トルリル(tolulyl)、クロロフェニル、フェノール、置換フェノール、またはCH
2C(CH
3)
3であり、
各R
9は、水素、ハロゲン、またはC
1-C
12ヒドロカルビル基、好ましくは水素、臭素、塩素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、またはフェニルである)
により表される。
【0022】
あるいは、式(IV)のカルベンに結合したN基のうちの1つは、S、O、またはP原子、好ましくはS原子と置き換えられる。
【0023】
他の有用なN-複素環カルベンには、Hermann, W.A.Chem.Eur.J., 1996, 2, pp.772 and 1627、Enders, D.et al., Angew.Chem.Int.Ed., 1995, 34, p.1021、Alder R.W., Angew.Chem.Int.Ed., 1996, 35, p.1121、およびBertrand, G.et al., Chem.Rev., 2000, 100, p.39に記載の化合物が含まれる。
【0024】
好ましくは、アルケンメタセシス触媒は、トリシクロヘキシルホスフィン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン][3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン][1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロ-イミダゾール-2-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン][(フェニルチオ)メチレン]ルテニウム(II)ジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)-3-フェニル-1H-インデン-1-イリデンルテニウム(II)ジクロリド、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン[2-(i-プロポキシ)-5-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド、および[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]-[2-[[(4-メチルフェニル)イミノ]メチル]-4-ニトロフェノリル]-[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン]ルテニウム(II)クロリドのうちの1種または複数である。より好ましくは、触媒は、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン[2-(i-プロポキシ)-5-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリドおよび/またはトリシクロヘキシルホスフィン[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン][1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリドである。
【0025】
官能化プロセス
反応物(DCPDポリマーを含む)は、典型的には、20℃~200℃(好ましくは50℃~160℃、好ましくは60℃~140℃)の温度および0~1000MPa(好ましくは0.5~500MPa、好ましくは1~250MPa)の圧力で、0.5秒~10時間(好ましくは1秒~5時間、好ましくは1分~1時間)の滞留時間の間、反応容器において組み合わされる。
好ましくは、装入されたDCPDポリマーの1モル当たり、0.00001~1.0モル、より好ましくは0.0001~0.05モル、最も好ましくは0.0005~0.01モルの範囲内の触媒が、反応器に装入される。
【0026】
好ましくは、装入されたDCPDポリマーの1モル当たり、0.01~10モルの範囲内のビニルまたはビニレンモノマー、より好ましくは0.05~5.0モル、最も好ましくは0.5~2.0モルの範囲内のビニルまたはビニレンモノマーが、反応器に装入される。
【0027】
このプロセスは、好ましくは溶液プロセスであるが、バルクまたは高圧プロセスであってもよい。均質プロセスが好ましい。(均質プロセスは、生成物の少なくとも90質量%が反応媒体において可溶性であるプロセスと定義される。)バルク均質プロセスが特に好ましい。(バルクプロセスは、反応器への全供給における反応物濃度が70体積%以上であるプロセスと定義される。)あるいは、溶媒または希釈剤は、反応媒体中に存在しないかまたは添加されない(触媒もしくは他の添加剤の担体として使用される少量、または反応物に典型的に見出される量、たとえばプロピレンにおけるプロパンを除く)。
【0028】
このプロセスに好適な希釈剤/溶媒には、非配位性の不活性液が含まれる。例には、直鎖および分枝鎖炭化水素、たとえばイソブタン、ブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカン、およびそれらの混合物;環式および脂環式炭化水素、たとえばシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘプタン、およびそれらの混合物、たとえば市販品に見出せるもの(Isopar(商標));過ハロゲン化炭化水素、たとえば過フッ素化C4-C10アルカン、クロロベンゼン、ならびに芳香族およびアルキル置換芳香族化合物、たとえばベンゼン、トルエン、メシチレン、およびキシレンが含まれる。好ましい一実施形態において、脂肪族炭化水素溶媒、たとえばイソブタン、ブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカン、およびそれらの混合物;環式および脂環式炭化水素、たとえばシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘプタン、およびそれらの混合物が好ましい。別の一実施形態において、溶媒は芳香族ではなく、好ましくは、芳香族は、溶媒の質量に対して、1質量%未満で、好ましくは0.5質量%で、好ましくは0質量%で溶媒中に存在する。
あるいは、このプロセスはスラリープロセスである。本明細書において使用される「スラリー重合プロセス」という用語は、担持触媒が用いられ、担持触媒粒子上でモノマーが重合される重合プロセスを意味する。担持触媒に由来するポリマー生成物の少なくとも95質量%は、固体粒子としての粒状形態である(希釈剤中に溶解していない)。
好ましくは、このプロセスの供給濃度は、溶媒の60体積%以下、より好ましくは40体積%以下、最も好ましくは20体積%以下である。
【0029】
このプロセスは、バッチプロセス、セミバッチプロセスまたは連続プロセスであってもよい。本明細書において使用される連続的という用語は、中断または停止なしに機能する系を意味する。たとえば、ポリマーを生成する連続プロセスは、反応物が1つまたは複数の反応器内に連続的に導入され、ポリマー生成物が連続的に引き出されるものであると考えられる。
有用な反応容器は反応器(連続撹拌タンク型反応器、バッチ反応器、反応押出機、管またはポンプを含む)を含む。
好ましくは、このプロセスの生産性は、1時間当たり、触媒1mmol当たり、少なくとも200gの官能化DCPDポリマー、好ましくは少なくとも5,000g/mmol/時間、好ましくは少なくとも10,000g/mmol/時間、好ましくは少なくとも300,000g/mmol/時間である。
【0030】
本発明はさらに、DCPDを反応器内に導入することおよびDCPDを加熱して重合させること、DCPDポリマーを含有する反応器流出物を得ること、溶媒、未使用のモノマーおよび/または他の揮発物を除去しても(たとえば洗い流しても)よいこと、DCPDポリマーを得ること、DCPDポリマー、ビニルまたはビニレンモノマーおよびメタセシス触媒を反応帯(たとえば反応器、押出機、管および/またはポンプ)内に導入すること、官能化DCPDポリマーを含有する反応器流出物を得ること、溶媒、未使用のモノマーおよび/または他の揮発物(たとえば本明細書に記載のもの)を除去しても(たとえば洗い流しても)よいこと、ならびに官能化DCPDポリマー(たとえば本明細書に記載のもの)を得ることを含む、官能化DCPDポリマーを生成するプロセス、好ましくは直列プロセス、好ましくは連続プロセスに関する。
【0031】
本明細書において調製されるメタセシス生成物をさらに、反応条件完了後またはその間に水素化できる。
水素化は、石油樹脂を水素化するために一般に使用される任意の既知の触媒の存在下で達成できる。水素化工程において使用できる触媒には、第10族金属、たとえばニッケル、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、コバルトおよび白金、ならびに第6族金属、たとえばタングステン、クロムおよびモリブデン、ならびに第11族金属、たとえばレニウム、マンガン、および銅が含まれる。これらの金属は、単独でまたは2種以上の金属と組み合わせて、金属形態または活性化形態で使用でき、直接にまたは固体支持体、たとえばアルミナまたはシリカアルミナ上に担持されて使用できる。好ましい触媒は、米国特許第4,629,766号に記載の、120~300m2/gの範囲のフレッシュ触媒表面積を有し、2質量%~10質量%のニッケルおよび10質量%~25質量%のタングステンを含有する、ガンマアルミナ支持体上に硫化ニッケル-タングステンを含むものである。水素化は、20~300気圧、好ましくは150~250気圧の水素圧力で実施される。
【0032】
高性能タイヤトレッド組成物
好ましくは、本発明により生成される官能化DCPDベースポリマーは、高性能タイヤトレッド組成物を形成するために使用できる。
好ましくは、高性能タイヤトレッド組成物は、本発明により生成される官能化DCPDベースポリマーを、ジエンエラストマーおよび無機充填剤とブレンドすることにより形成される。好ましくは、官能化DCPDベースポリマーは、5~100PHR、より好ましくは15~50PHR、最も好ましくは20~50PHRの範囲内で存在する。ジエンエラストマーは、2種以上のエラストマーのブレンドを含んでいてもよい。個々のエラストマー成分は、様々な従来の量で存在していてもよく、タイヤトレッド組成物における総ジエンエラストマー含有量は、配合物において100PHRとして表現される。好ましくは、無機充填剤は、50~150PHR、より好ましくは50~100PHR、最も好ましくは60~90PHRの範囲内で存在する。
【0033】
ジエンエラストマー
本明細書において使用される「ジエンエラストマー」という用語は、2つの炭素二重結合を含む炭化水素モノマーから合成される任意の粘弾性ポリマーを指すことが意図されている。
好ましいジエンエラストマーの例には、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、分枝(「星状分枝」)ブチルゴム、ハロゲン化星状分枝ブチルゴム、ポリ(イソブチレン-co-p-メチルスチレン)、汎用ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、高cis-ポリブタジエン、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、星状分枝ポリイソブチレンゴム、およびそれらの混合物が含まれるが、これに限定されない。これらのジエンエラストマーのブレンドは、反応器ブレンドおよび/または溶融混合物であってもよい。特に好ましいジエンエラストマーには、ポリブタジエンゴムおよびスチレン-ブタジエンゴムが含まれる。好ましくは、スチレン-ブタジエンゴムは、25質量%のスチレン含有量を有する。好ましいスチレン-ブタジエンゴムは、LanxessによりBuna(商標)VSL 5025-2の商品名で市販されている。
【0034】
無機充填剤
好ましい充填剤の例には、炭酸カルシウム、クレイ、マイカ、シリカ、シリケート、タルク、二酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、デンプン、木粉、カーボンブラック、またはそれらの混合物が含まれるが、これに限定されない。充填剤は、任意のサイズであってもよく、典型的には、たとえばタイヤ業界では、0.0001μm~100μmの範囲であってもよい。
本明細書において使用される「シリカ」という用語は、溶液法、パイロジェニック法等の方法により処理された、任意のタイプもしくは粒径のシリカまたは別のケイ酸誘導体、あるいはケイ酸、たとえば、未処理の沈降シリカ、結晶シリカ、コロイドシリカ、ケイ酸アルミニウムまたはカルシウム、ヒュームドシリカ等を指すことが意図される。沈降シリカは、従来のシリカ、セミ高分散シリカ、または高分散シリカでありうる。
【0035】
カップリング剤
好ましくは、高性能タイヤトレッド組成物は、少なくとも1種のシランカップリング剤をさらに含む。本明細書において使用される「カップリング剤」という用語は、さもなければ相互作用しない2種間の安定的な化学的および/または物理的相互作用を促進可能な任意の試剤を指すことが意図されている。好ましいカップリング剤には、ジエンエラストマーマトリックスと、シリカおよび/またはアルミナに由来する無機充填剤との間の安定的な相互作用を促進することのできる多硫化アルコキシシランが含まれる。特に好ましい多硫化アルコキシシランは、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドであり、これは、DegussaによりX50Sの商品名でカーボンブラック上に50質量%担持された形態で市販されている。
【0036】
架橋剤、硬化剤、硬化パッケージ、および硬化プロセス
エラストマー組成物およびそれらの組成物から製造される製品は、一般に、少なくとも1種の硬化パッケージ、少なくとも1種の硬化剤、少なくとも1種の架橋剤の補助により製造されるか、かつ/またはエラストマー組成物を硬化するプロセスを経る。本明細書において使用される少なくとも1種の硬化パッケージは、業界において一般に理解されているとおり、ゴムに硬化特性を付与可能な任意の材料または方法を指す。
【0037】
処理
本発明のタイヤトレッド組成物は、当業者に知られている任意の従来の手段により配合(混合)できる。混合は、単一の工程または複数の段階で生じてもよい。たとえば、成分は、典型的には、少なくとも2つの段階、すなわち、少なくとも1つの非生成段階とそれに続く生成混合段階で混合される。最終硬化剤は、典型的には、従来「生成」混合段階と呼ばれる最終段階で混合される。生成混合段階において、混合は典型的には、前の非生成混合段階の混合温度よりも低い温度、または最終温度で生じる。エラストマー、ポリマー添加剤、シリカおよびシリカカップラー、および使用される場合にはカーボンブラックは、一般に、1つまたは複数の非生成混合段階で混合される。「非生成」および「生成」混合段階という用語は、ゴム混合技術分野の当業者によく知られている。最も好ましくは、ポリマーは、まず110~130℃で30秒~2分間混合され、続いてシリカ、シリカカップラーおよび他の成分が添加され、これらの組合せが、最も好ましくは140以下~160℃の漸増温度で30秒~3または4分間さらに混合される。最も望ましくは、シリカは、部分的に、最も好ましくは2分の1混合され、その後残り半分が混合される。
【0038】
静的機械特性
本発明の官能化樹脂から形成されるタイヤトレッド組成物は、ISO 37:2011に従った応力/歪み分析によって測定される優れた静的機械特性を示し、耐久性の改善を示す。
好ましくは、タイヤトレッド組成物の300%の歪みでの貯蔵弾性率(G’)は、1000psiよりも大きく、より好ましくは1200psiよりも大きく、最も好ましくは1300psiよりも大きい。
好ましくは、タイヤトレッド組成物の最大抗張力は、1500psiよりも大きく、より好ましくは1700psiよりも大きく、最も好ましくは1900psiよりも大きい。
好ましくは、タイヤトレッド組成物の極限伸びは、300%よりも大きく、より好ましくは400%よりも大きく、最も好ましくは450%よりも大きい。
【0039】
抽出性
本発明の官能化樹脂から形成されるタイヤトレッド組成物は、未架橋材料の抽出に対するより低い感受性を示し、樹脂マトリックスの寿命の改善を示す。
好ましくは、シクロヘキサンへの24時間の曝露後にタイヤトレッド組成物から抽出される未架橋材料のパーセンテージは、40%未満、より好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満である。
【0040】
動的機械特性
本発明の官能化樹脂から形成されるタイヤトレッド組成物は、ASTM D7605に従った100℃での動的機械分析(DMA)によって測定される優れた動的機械特性を示し、耐久性、牽引性、およびハンドリング性の改善を示す。
好ましくは、14%の歪みでの貯蔵弾性率(G’)は、125kPaよりも大きく、より好ましくは150kPaよりも大きく、より好ましくは175kPaよりも大きく、最も好ましくは190kPaよりも大きい。
好ましくは、45%の歪みでの貯蔵弾性率(G’)は、100kPaよりも大きく、より好ましくは125kPaよりも大きく、より好ましくは150kPaよりも大きく、最も好ましくは170kPaよりも大きい。
好ましくは、14%の歪みでのtanデルタは、100よりも大きく、より好ましくは125よりも大きく、より好ましくは150よりも大きく、最も好ましくは165よりも大きい。
図1は、本発明の材料(DCPD-F)および比較材料(DCPD-H2)について、4%の歪みでの20~120℃の温度範囲にわたるtanデルタを示す。この図は、高性能タイヤがハードドライビング中に動作する温度範囲と相関する高温で、比較材料に対して本発明の材料により示される広範なtanデルタ転移の改善を実証する。
【実施例】
【0041】
例1において使用されるルテニウム触媒は、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン[2-(i-プロポキシ)-5-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリドである。
【0042】
(例1)
(DCPD-Fの調製)
【化7】
グローブボックスにおいて、250mL丸底フラスコにEscorez(商標)E8400樹脂(30g)、トルエン(150mL)、および撹拌子を装入した。撹拌しながら、溶液を60℃まで加熱した。すべての樹脂が溶解したのち、アリルトリエトキシシラン(64mL)を添加し、続いてルテニウム触媒(1.7g)を添加した。60℃で18時間撹拌したのち、混合物を室温まで冷却し、窒素流下で揮発物を除去した。
【0043】
(例2)
(タイヤトレッド組成物C1~C5およびE1~E2の調製)
比較タイヤトレッド組成物C1~C5および本発明のタイヤトレッド組成物E1~E2を、第1に、40PHRの表1に示す樹脂タイプを表2に列挙する成分(すべての量をPHRで示す)とBanbury(商標)ミキサーで混合することにより得た。
【0044】
この第1の混合サイクルは以下のとおりである。1)ミキサー回転速度を25RPM、温度を120℃に設定した;2)ポリマーを添加し、30秒間混合する;3)総量の半分のシリカを添加し、5分30秒間混合する;4)ミキサー回転速度を152RPMまで漸増させる;5)残りのシリカおよびすべての他の成分を添加し、1分30秒間混合する;6)151~153℃の範囲のバッチ温度でバッチを除去し、ポリマーの添加からの総混合時間は7分30秒である。
【表1】
【表2】
【0045】
得られた化合物を冷却し、次に同じBanbury(商標)ミキサーで硬化剤と表3に示す量(すべての量をPHRで示す)でブレンドした。この第2の周期は以下のとおり実施した。1)ミキサー回転速度を35RPMに、温度を70℃に設定した;2)第1の周期からの化合物を添加し、30秒間混合する;3)硬化剤を添加し、6分30秒間混合する;4)バッチを除去し、化合物の添加からの総混合時間は7分である。
【0046】
【0047】
(例3)
(C
1~C
5およびE
1~E
2の静的機械特性)
比較材料および本発明の材料の静的機械応力/歪み特性(抗張力、破断点伸び、弾性率の値)を決定するため、組成物C
1~C
5およびE
1~E
2をまず、160℃でt90+適切な成形遅れ時間に相当する5分間、プラーク内へと圧縮成形および硬化させた。ドッグボーン形状の標本を、イギリス標準打抜き型を使用してこれらのプラークから打ち抜いた(タイプ2)。次に、ISO 37:2011に従って応力/歪み測定を実施した。
これらの応力/歪み測定の結果を表4に要約する。
【表4】
本発明の材料E1およびE2は、300%で比較材料よりも大きな弾性率を示し、耐久性の改善を実証する。
【0048】
(例4)
(C1~C5およびE1~E2の抽出性)
組成物C1~C5およびE1~E2からの未架橋材料(たとえば、低分子ポリマー、抗酸化剤、硬化断片、油、ワックス、樹脂)の抽出性を、各組成物をシクロヘキサン溶媒に24時間曝露し、その後、樹脂マトリックスから吸い出された遊離低分子材料の量を測定することにより決定した。本発明のおよび比較タイヤトレッド組成物の2回の抽出性試験の平均からの結果を、表5に要約する。
【表5】
【0049】
本発明の材料E1およびE2は、比較材料よりもはるかに減少した抽出性レベルを示し、樹脂マトリックスの寿命および恒久性の増加を示す。理論に縛られることを望まないが、E1およびE2の抽出性の改善(すなわち減少)は、樹脂マトリックスとシリカとの間の共有結合形成を可能にする本組成物の官能化材料により生じると考えられる。
【0050】
(例5)
(C1~C5およびE1~E2の動的機械特性)
C1~C5およびE1~E2の動的機械特性を、ASTM D7605に従って100℃で動的機械分析(DMA)によって測定した。
【0051】
本発明の材料および比較材料の動的機械特性を表6に要約する。
【表6】
【0052】
本発明の材料E1およびE2は、大きな14%でのG’、14%でのtanデルタ、および45%でのG’、を示し、比較材料に対する耐久性、牽引性およびハンドリング性の改善を実証する。
(付記1)
ジシクロペンタジエン(DCPD)ベースポリマー主鎖および下記官能基
(i)シリル基、
(ii)シロキシ基、または
(iii)アルコキシシリル基
のうちの少なくとも1つを含む官能化樹脂組成物。
(付記2)
シリル基が、式-SiR
2R
3R
4を有し、シロキシ基が、式-O-SiR
2R
3R
4を有し、アルコキシシリル基が、式-Si(OR
2)(OR
3)(OR
4)を有し、各R
2、R
3、およびR
4が、独立に、水素、C
1-C
20アルキル基、または芳香族基である、付記1に記載の官能化樹脂組成物。
(付記3)
シリル、シロキシまたはアルコキシシリル基が、ケイ素原子から3~9炭素離れたアミン、ヒドロキシル、エポキシ、またはチオール官能基を含む、付記1に記載の官能化樹脂組成物。
(付記4)
DCPDベースポリマーが、
(i)60~100質量%の範囲内の環式成分、
(ii)15質量%以下のピペリレン由来成分、
(iii)15質量%以下のアミレン由来成分、
(iv)15質量%以下のイソプレン由来成分、
(v)20質量%以下のスチレン由来成分、および
(vi)20質量%以下のインデン由来成分
を含むモノマー混合物から調製される、付記1に記載の官能化樹脂組成物。
(付記5)
DCPDに由来する単位を含むポリマーとビニルモノマーまたはビニレンモノマーとを接触させることにより得られる反応生成物であって、ビニルモノマーまたはビニレンモノマーが、下記式
(式中、
各Xは、独立に、-SiR
2R
3R
4、-O-SiR
2R
3R
4、または-Si(OR
2)(OR
3)(OR
4)であり、
各R
2、R
3、およびR
4は、独立に、水素、C
1-C
20アルキル基、または芳香族基であり、
各R
1は、独立に、水素原子またはC
1-C
40アルキル基であり、
各Arは、独立に、芳香族基であり、
各nは、独立に、0~40である)
のうちの1つにより表される、反応生成物。
(付記6)
DCPDに由来する単位を含むポリマーとビニルモノマーまたはビニレンモノマーとが、メタセシス触媒の存在下で接触させられる、付記5に記載の反応生成物。
(付記7)
メタセシス触媒がルテニウム触媒である、付記6に記載の反応生成物。
(付記8)
メタセシス触媒が、トリシクロヘキシルホスフィン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン][3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン][1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロ-イミダゾール-2-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン][(フェニルチオ)メチレン]ルテニウム(II)ジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)-3-フェニル-1H-インデン-1-イリデンルテニウム(II)ジクロリド、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン[2-(i-プロポキシ)-5-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド、[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]-[2-[[(4-メチルフェニル)イミノ]メチル]-4-ニトロフェノリル]-[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン]ルテニウム(II)クロリド、ならびにそれらのフッ化物および臭化物誘導体、または上記のうちの任意のものの混合物を含む、付記7に記載の反応生成物。
(付記9)
触媒反応生成物がその後水素化される、付記6に記載の反応生成物。
(付記10)
付記1に記載の官能化樹脂組成物を含むタイヤトレッド組成物。
(付記11)
(i)5~100PHRの範囲内の官能化樹脂組成物、
(ii)100PHRのジエンエラストマー、および
(iii)50~150PHRの範囲内の無機充填剤
を含む、付記10に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記12)
20~50PHRの範囲内の官能化樹脂組成物を含む、付記11に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記13)
無機充填剤がシリカを含む、付記11に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記14)
ジエンエラストマーが、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、分枝(「星状分枝」)ブチルゴム、ハロゲン化星状分枝ブチルゴム、ポリ(イソブチレン-co-p-メチルスチレン)、汎用ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレン-ブタジエンゴム、高cis-ポリブタジエン、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、星状分枝ポリイソブチレンゴム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、付記11に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記15)
ジエンエラストマーが、ポリブタジエンゴムとスチレン-ブタジエンゴムとの混合物を含む、付記14に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記16)
カーボンブラックをさらに含む、付記11に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記17)
多硫化アルコキシシランカップリング剤をさらに含む、付記11に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記18)
硬化される、付記11に記載のタイヤトレッド組成物。
(付記19)
DCPDに由来する単位を含むポリマーとビニルモノマーまたはビニレンモノマーとを接触させることを含む、官能化DCPDベース樹脂組成物の調製方法であって、ビニルモノマーまたはビニレンモノマーが、下記式
(式中、
各Xは、独立に、-SiR
2R
3R
4、-O-SiR
2R
3R
4、または-Si(OR
2)(OR
3)(OR
4)であり、
各R
2、R
3、およびR
4は、独立に、水素、C
1-C
20アルキル基、または芳香族基であり、
各R
1は、独立に、水素原子またはC
1-C
40アルキル基であり、
各Arは、独立に、芳香族基であり、
各nは、独立に、0~40である)
のうちの1つにより表される、方法。
(付記20)
DCPDに由来する単位を含むポリマーとビニルモノマーまたはビニレンモノマーとが、メタセシス触媒の存在下で接触させられる、付記19に記載の方法。
(付記21)
メタセシス触媒がルテニウム触媒である、付記20に記載の方法。
(付記22)
メタセシス触媒が、トリシクロヘキシルホスフィン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン][3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン][1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロ-イミダゾール-2-イリデン]ルテニウム(II)ジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン][(フェニルチオ)メチレン]ルテニウム(II)ジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)-3-フェニル-1H-インデン-1-イリデンルテニウム(II)ジクロリド、1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデン[2-(i-プロポキシ)-5-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド、[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]-[2-[[(4-メチルフェニル)イミノ]メチル]-4-ニトロフェノリル]-[3-フェニル-1H-インデン-1-イリデン]ルテニウム(II)クロリド、ならびにそれらのフッ化物および臭化物誘導体、または上記のうちの任意のものの混合物を含む、付記21に記載の方法。
(付記23)
DCPDに由来する単位を含むポリマーとビニルモノマーまたはビニレンモノマーとを、メタセシス触媒の存在下で接触させた後の水素化をさらに含む、付記20に記載の方法。
(付記24)
DCPDに由来する単位を含むポリマーが、
(i)60~100質量%の範囲内の環式成分、
(ii)15質量%以下のピペリレン由来成分、
(iii)15質量%以下のアミレン由来成分、
(iv)15質量%以下のイソプレン由来成分、
(v)20質量%以下のスチレン由来成分、および
(vi)20質量%以下のインデン由来成分
を含むモノマー混合物から調製される、付記19に記載の方法。