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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】マスクの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20230703BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20230703BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230703BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230703BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20230703BHJP
   C23G 1/14 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
B08B3/08 A
C23G1/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019114753
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021001363
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】598006336
【氏名又は名称】アルバックテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】門脇 豊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敏伸
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 仁栄
(72)【発明者】
【氏名】池 正訓
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06277799(US,B1)
【文献】特開2018-021093(JP,A)
【文献】特開2002-159923(JP,A)
【文献】特開平11-106897(JP,A)
【文献】特開平11-172479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
B08B 3/08
C23G 1/14
H05B 33/10
H10K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクに付着した堆積物を除去するマスクの洗浄方法であって、
洗浄液としてキレート剤を含むエッチング溶液を用い、
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程を少なくとも備え
前記マスクの本体が化学耐食性の低い鉄系材料であり、
前記マスクに付着した堆積物がIZO、ITO、IGZO、ZnOから選択される酸化膜材料であり、
前記エッチング溶液として、アルカリ領域でZnやInの溶解性を備える溶液を用い、
前記キレート剤は、分子構成元素が、C,O,H,及びNaから構成され、主鎖以外にCを含まないものを用いる、ことを特徴とするマスクの洗浄方法。
【請求項2】
前記キレート剤が、ヒドロキシカルボン酸のグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)である、
ことを特徴とする請求項に記載のマスクの洗浄方法。
【請求項3】
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程において、
前記洗浄液の温度が50℃以上60℃以下の範囲内である、ことを特徴とする請求項1に記載のマスクの洗浄方法。
【請求項4】
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程は、
前記洗浄液のベースとなる純水を洗浄容器内に用意する工程Aと、
前記工程Aの洗浄液にアルカリ性(alkaline)の第一薬液を投入する工程Bと、
前記工程Bの洗浄液にグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)からなる第二薬液を投入する工程Cと、
前記工程Cの洗浄液を攪拌する工程Dと、
前記工程Dの洗浄液を所定の温度に加熱保持する工程Eと、
前記工程Eの洗浄液に前記マスクを浸漬し、80kHz~12kHzの周波数で超音波洗浄(Ultrasonic cleaning)を行う工程Fとを、
順に備えることを特徴とする請求項1に記載のマスクの洗浄方法。
【請求項5】
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程は、
前記工程Fの洗浄液から取り出した前記マスクに対して純水を用いリンスすることにより薬液を除去する工程Gと、
前記工程Gを経た前記マスクに対して純水を用い再度リンスすることによりコンタミを除去する工程Hと、
前記工程Hを経た前記マスクを乾燥する工程Iとを、
さらに順に備えることを特徴とする請求項に記載のマスクの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライ成膜法において用いるマスクの洗浄方法に係る。マスクに付着した堆積物を洗浄液に浸漬し、マスクから堆積物を除去する際に、マスクを構成する部材の溶損を防ぐことが可能な、マスクの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機膜は、有機半導体や有機薄膜太陽電子、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)など、多くの有機デバイスを構成する薄膜として活用されている。このような有機デバイスにおいては、透明導電膜からなる電極が形成される。その際には、マスクを用いて所望のパターンからなる電極を、所定の基板(や予め形成された被膜)上に作製するためにスパッタ法に代表される成膜法が好適に用いられている。
【0003】
スパッタ法においては、成膜チャンバ内において、スパッタリングされたターゲットから飛翔したスパッタ粒子を、マスクの本体に設けた開口部を通過させ、基板上に堆積させることにより、所望のパターンを有する透明導電膜からなる電極が形成される。このような開口部を備えたマスクは、オープンマスク(open mask)とも呼称される。
【0004】
このため、マスクにおいて開口部以外の本体外面には、スパッタ粒子が付着し、成膜回数(すなわち、成膜バッチ数)の増加に伴い、その堆積物が厚膜化する。極度に厚膜化すると、マスクに付着した堆積物はマスクの本体から離脱・剥離し、成膜空間へ放出され、成膜環境を汚染し、ひいては被処理体上に落下・付着して、透明導電膜からなる電極に悪影響を及ぼす虞があった。
【0005】
これを解消するため、従来より、成膜回数(成膜バッチ数)に応じてマスクの洗浄、すなわち、マスクに付着した堆積物を除去するための洗浄処理が行われていた。通常、安価であることから、マスクの洗浄処理にはウェット方式が採用されている(特許文献1)。
マスクに付着した堆積物が透明導電膜の場合は、酸性のエッチング溶液を用いことにより、マスクの本体から透明導電膜の除膜が可能である。
【0006】
有機ELは近年、さらなる大画面化が進み、被処理体(基板)の大型化すなわち大面積化が求められており、これに伴い大型のマスクが要求されている。有機EL材料と同様に、透明導電膜をなす電極材料も、マスクの開口部を通して基板に成膜する。しかしながら、成膜プロセスの温度によってマスクが大きく熱膨張すると、マスクが大型(大面積)であればあるほど成膜位置のズレが大きく生じ、正確な位置に電極パターンが形成できない。
【0007】
ゆえに、マスクには、「熱膨張が小さいこと」が求められる。また大面積になった場合、「できるだけ軽量であること」も重要なファクターである。つまり、マスクの本体を構成する部材には、「伸びても重くてもいけない」という制約が課せられており、インバー[Invar]やSUS430などの部材が好適に使用されている。
【0008】
上述した「除去する対象の付着した堆積物」としては、たとえば、IZOや、ITO、IGZO、ZnOなどの酸化膜材料からなる透明導電膜が挙げられる。
ここで、IZOは酸化インジウム酸化亜鉛[indium zinc oxide]を、ITOは酸化スズドープ酸化インジウム[In2O3-SnO2]を、IGZOはインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)から構成される物質を、ZnOは酸化亜鉛[Zinc oxide]を、それぞれ意味する。
【0009】
前述したように、このような堆積物が付着したマスクの本体を、酸性エッチング溶液に浸漬すれば、マスクの本体から堆積物を除去することは可能である。しかしながら、マスクの本体を構成する材料(インバー[Invar]やSUS430)は、化学耐食性の低い鉄系材料であり、マスクの本体が酸性エッチング溶液に溶損しやすい(すなわち、マスクの本体にダメージが発生する)という問題があることを、本発明者らは見出した。
そこで、本発明者らは、マスクの本体に付着した堆積物の除去が可能であり、かつ、マスクの本体の溶損が抑制できる、マスクの洗浄方法の開発を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-095897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、マスクの本体に付着した堆積物の除去が可能であり、かつ、マスクの本体の溶損が抑制できるマスクの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、マスクに付着した堆積物を除去するマスクの洗浄方法であって、
洗浄液としてキレート剤を含むエッチング溶液を用い、前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程を少なくとも備え、前記マスクの本体が化学耐食性の低い鉄系材料であり、前記マスクに付着した堆積物がIZO、ITO、IGZO、ZnOから選択される酸化膜材料であり、前記エッチング溶液として、アルカリ領域でZnやInの溶解性を備える溶液を用い、前記キレート剤、分子構成元素が、C,O,H,及びNaから構成され、主鎖以外にCを含まないものを用いる、
ことを特徴とする。
【0014】
前記マスクの洗浄方法においては、
前記キレート剤が、ヒドロキシカルボン酸のグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)である、ことが好ましい。
【0015】
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程においては、
前記洗浄液の温度が50℃以上60℃以下の範囲内である、ことが好ましい。
【0016】
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程は、
前記洗浄液のベースとなる純水を洗浄容器内に用意する工程Aと、
前記工程Aの洗浄液にアルカリ性(alkaline)の第一薬液(溶液)を投入する工程Bと、
前記工程Bの洗浄液にグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)からなる第二薬液(溶液)を投入する工程Cと、
前記工程Cの洗浄液を攪拌する工程Dと、
前記工程Dの洗浄液を所定の温度に加熱保持する工程Eと、
前記工程Eの洗浄液に前記マスクを浸漬し、80kHz~12kHzの周波数で超音波洗浄(Ultrasonic cleaning)を行う工程Fとを、
順に備えることが好ましい。
【0017】
前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程は、
前記工程Fの洗浄液から取り出した前記マスクに対して純水を用いリンスすることにより薬液を除去する工程Gと、
前記工程Gを経た前記マスクに対して純水を用い再度リンスすることによりコンタミを除去する工程Hと、
前記工程Hを経た前記マスクを乾燥する工程Iとを、
さらに順に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るマスクの洗浄方法は、マスクに付着した堆積物を除去するために、洗浄液としてキレート剤を含むエッチング溶液を用いているので、キレート剤がキレート効果によって、堆積物から溶解した元素(たとえばZn,In)及びそのイオン(Ion)を取り込む。この作用により、溶解が飽和(Saturate)するという現象が防止できる。
また、前記キレート剤として、分子構成元素が、C,O,H,及びNaから構成され、主鎖以外にCを含まないものを用いることにより、マスクの本体に対する残渣の影響が軽減される。ゆえに、マスクの本体の溶損が抑制される。
したがって、本発明は、上述した2つの問題(すなわち、堆積物の溶解が途中で停止し、堆積物が全て除去できない問題、及び、マスクの本体の溶損が生じるという問題)を同時に解消することが可能な、マスクの洗浄方法の提供に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るマスクの洗浄方法の効果を示すグラフ。
図2】本発明に係るマスクの洗浄方法の流れ図。
図3】亜鉛(Zn)の電位-pH図。
図4】インジウム(In)の電位-pH図。
図5】錫(Sn)の電位-pH図。
図6】マスクに堆積物が付着した状態を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0021】
図6は、マスクに堆積物が付着した状態を説明する模式図である。
図6は、符号10は透明導電膜用のターゲット(たとえばITO)であり、符号20はターゲット10からスパッタリングされて飛翔したスパッタ粒子を表している。
マスク30の本体に設けた開口部を通過したスパッタ粒子20は、基板40上に堆積することにより、たとえば所望のパターンを有する透明導電膜50からなる電極が形成される。図5においては、マスク30の本体どうしの間にある空間が、マスク30の本体に設けた開口部を表している。
【0022】
その際に、マスク30において、開口部以外の本体外面には、スパッタ粒子が付着する。符号60が、このマスク30に付着した堆積物を表している。この堆積物60は、成膜回数(すなわち、成膜バッチ数)の増加に伴い、厚膜化が進行する。
【0023】
そして、マスク30に付着した堆積物60が、極度に厚膜化すると、成膜雰囲気に対する事件が生じる。すなわち、マスク30の本体から堆積物60が離脱・剥離し、成膜空間へ放出され、成膜環境を汚染する。その結果、被処理体である基板40に対して、離脱・剥離した堆積物60が落下・付着する現象が発生する。このような堆積物60からなる落下・付着物が、基板40上に形成された透明導電膜50に混入すると、透明導電膜50からなる電極は、その導電性が劣化したり、あるいは、その表面プロファイルが粗面化するなど、膜の諸特性が低下する問題が発生する。
【0024】
本発明者らは、上記の問題を解決するため、図3に示す「亜鉛(Zn)の電位-pH図」、図4に示す「インジウム(In)の電位-pH図」、及び、図5に示す「錫(Sn)の電位-pH図」から、以下のメカニズムが機能するのでないか着想した。
(a1)Zn,Inの水酸化物は、Alkaline領域で溶解性を有する。
(a2)しかし、溶解度積が小さいため溶解が飽和(Saturate)してしまう。
(a3)そこで、アルカリ溶液にChelate効果を有する材料を添加してはどうか。
(a4)これにより、溶解したZn,In,Ionを取り込みが可能になるのでは。
(a5)その結果、飽和(Saturate)が防止できるのはないか。
【0025】
具体的には、Alkaline濃度が「1~10%」、Alkaline種類が「NaOH、KOH」、sodium gluconate濃度が「0.1~5%」、処理液温度が「25~60℃」とした場合、
図4に基づき、
[Sn2+][OH-]2=6.3×10-27(mol/l)3 (25℃、イオン強度0の場合)
と算出された。
このような作用は、ITO材料にも有効と予想した。
【0026】
図1は、本発明(マスクの洗浄方法)の効果を示すグラフである。これは、マスク30に付着した堆積物60に適用した結果である。
ここでは、洗浄液としては、純水に、アルカリ溶液(第一薬液)としてKOHと、キレート材(第二薬液)としてグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)とを投入し、攪拌したものを用いた。試料としては、マスクの本体(Open mask材料)がInvarであり、堆積物がIZO膜であるものを用いた。
【0027】
図1は、堆積物が付着する前後におけるマスクの本体の重量変化を評価した結果を表している。図1より、堆積物が付着する前(Before:0.8238g)であり、堆積物が付着した後(After:0.8237g)であることから、マスクの本体は溶解していないことが分かった。その際、IZO膜の除去率が90%以上であることが確認された。
【0028】
大面積マスクの洗浄に適用するために、処理液には次の2点が求められる。
(b1)安価な処理液であること。
(b2)安全性が高い。
キレート材(第二薬液)として用いたグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)は、食品にも使用されているものであり、上記2点の条件を満足している。
【0029】
上述した作用・効果を確かめるため、表1に示す5の処理条件(実験例1~5)を行った。実験例1~5の試料としては、図1で評価した試料と同じものを用いた。
実験例1は、処理液が5%KOHであり、処理液の温度が50℃の場合である。実験例1のねらいは、母材(マスクの本体)保護である。
実験例2は、処理液が10%KOHであり、処理液の温度が50℃の場合である。実験例1のねらいは、母材(マスクの本体)保護である。
実験例3は、処理液が5%KOHと、Al(NO3)3とからなり、処理液の温度が50℃の場合である。実験例3のねらいは、酸化性付与である。
実験例4は、処理液が5%KOHと、Al(NO3)3と、H2O2からなり、処理液の温度が50℃の場合である。実験例4のねらいは、酸化性付与である。
実験例5は、処理液が5%KOHと、1%グルコン酸ナトリウム(表1でが「G.A.」と略記)であり、処理液の温度が50℃の場合である。実験例5のねらいは、キレート効果確認である。
実験例6は、処理液が10%KOHと、1%グルコン酸ナトリウム(表1でが「G.A.」と略記)であり、処理液の温度が50℃の場合である。実験例6のねらいは、キレート効果確認である。
【0030】
実験例1~5の処理条件、及び、ねらいと共に、評価結果を表1に纏めて示した。表1において、除膜性とは、マスクの本体から堆積膜が除去される比率であり、○印は90%以上の場合を、×印は90%より低い場合を表す。母材損耗とは、マスクの本体の重量変化であり、○印は図1に示すように重量変化が無い場合を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1より、以下の点が明らかとなった。
(c1)処理液がKOHのみの場合は、母材損耗は達成できるが、除膜性が不十分である(実験例1、2)。
(c2)処理液がKOHとAl(NO3)3とからなる場合は、母材損耗は達成できるが、除膜性が不十分である(実験例3)。
(c3)処理液がKOHとAl(NO3)3とH2O2とからなる場合は、母材損耗は達成できるが、除膜性が不十分である(実験例4)。
(c4)処理液がKOHとグルコン酸ナトリウムとからなる場合は、母材損耗が達成できると共に、除膜性も十分にある(実験例5、6)。
【0033】
以上の評価結果より、処理液(洗浄液)としてキレート剤を含むエッチング溶液を用いていることにより、キレート剤がキレート効果によって、堆積物から溶解した元素(たとえばZn,In)及びそのイオン(Ion)を取り込むことができ、この作用によって、溶解が飽和(Saturate)するという現象が防止できることが確認された。
すなわち、実験例5、6によれば、酸性エッチング溶液で除膜可能であるが、Open mask材料(Invar)の溶損が起こるという課題が解決できることが分かった。その解決法は、アルカリ(Alkaline)溶液を基本とし、sodium gluconateを添加することで、母材溶損を抑え、IZO膜の除膜が可能となるものである。これにより、Open mask材料の溶損を抑え、約1hrでIZO膜の除膜が可能となる効果が得られる。
【0034】
このような効果を得るためには、前記キレート剤として、分子構成元素が、C,O,H,及びNaから構成され、主鎖以外にCを含まないものを用いることが好ましい。これにより、マスクの本体に対する残渣の影響が軽減され、マスクの本体の溶損が抑制される。
したがって、本発明は、前述した課題である2つの問題(すなわち、堆積物の溶解が途中で停止し、堆積物が全て除去できない問題、及び、マスクの本体の溶損が生じるという問題)を同時に解消することが可能な、マスクの洗浄方法をもたらす。
【0035】
本発明は、以下のメカニズムにより達成された。
(d1)Zn,Inの水酸化物は、Alkaline領域で溶解性を有する。
(d2)しかし、溶解度積が小さいため溶解が飽和(Saturate)してしまう。
(d3)そこで、Chelate効果を有する材料を添加した。
(d4)これにより、溶解したZn,In,Ionを取り込み。
(d5)その結果、飽和(Saturate)を防止できる。
【0036】
本発明における好適な処理条件は、以下のとおりである。
・Alkaline濃度:1~10%
・Alkaline種類:NaOH、KOH
・sodium gluconate濃度:0.1~5%
・処理液温度:25~60℃
【0037】
本発明が適用される基材(マスクの本体)としては、インバー(Invar)、SUS430などの化学耐食性の低い鉄系材料が例示される。
【0038】
本発明が適用されるキレート(Chelate)材としては、アミノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、無機系が挙げられる。
・今回のアルカリ領域(ph14以上を含む)では、ヒドロキシカルボン酸のsodium gluconateが、ph領域において有効である。
・Chelate材の主鎖以外にCを含まず、基材に対する残渣の影響が最も少ない。分子構造元素はC、O、H、Naであり、Naは最終精密洗浄でIonとなって除去可能のため。
・無機系は使用例が多いが、りん酸Ionはコンタミ(Contami)元素として注目されるため、本発明では好ましくない。
【0039】
本発明の処理手順(マスクを洗浄液に浸漬する工程の手順)は、以下のとおりである。
・純水→Alkaline投入→sodium gluconate投入→攪拌→加温(~60℃)
→U.S.(80-120kHz)→純水Rinse(薬液除去)→純水Rinse(Contami除去)→乾燥
本発明に係るマスクの洗浄方法の流れ図(図2)を参照し、各処理工程の詳細については、以下に説明する。
【0040】
すなわち、前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程は、
前記洗浄液のベースとなる純水を洗浄容器内に用意する工程Aと、
前記工程Aの洗浄液にアルカリ性(alkaline)の第一薬液を投入する工程Bと、
前記工程Bの洗浄液にグルコン酸ナトリウム(sodium gluconate)からなる第二薬液を投入する工程Cと、
前記工程Cの洗浄液を攪拌する工程Dと、
前記工程Dの洗浄液を所定の温度に加熱保持する工程Eと、
前記工程Eの洗浄液に前記マスクを浸漬し、80kHz~12kHzの周波数で超音波洗浄(Ultrasonic cleaning:U.S.とも略記する)を行う工程Fとを、
順に備える。
【0041】
上述した工程A~工程Eは、たとえば、以下の条件が選択される。
工程A:純水(たとえば半導体洗浄グレード)を用いる。
工程B:半導体洗浄グレードのNaOH溶液を投入する。
工程C:純度95%以上のグルコン酸ナトリウムを用いる。
工程D:循環ポンプで攪拌する。
工程E:加熱ヒーター等を用いて処理液を所定の温度に加温する。
工程F:循環ポンプを動かしながら洗浄槽に具備されたU.S.80kHzを照射する。
【0042】
また、前記マスクを前記洗浄液に浸漬する工程は、
前記工程Fの洗浄液から取り出した前記マスクに対して純水を用いリンスすることにより薬液を除去する工程Gと、
前記工程Gを経た前記マスクに対して純水を用い再度リンスすることによりコンタミを除去する工程Hと、
前記工程Hを経た前記マスクを乾燥する工程Iとを、
さらに順に備える。
【0043】
上述した工程G~工程Iは、たとえば、以下の条件が選択される。
工程G:純水浸漬または純水シャワーによる薬液除去を行う。
工程H:純水U.S.によるリンス処理(2~3槽)を行う。
工程I:HFE(Hydro Fluoro Ether)またはIPA(Isopropyl Alcohol)を用いた
水分除去およびマスク乾燥を行う。
【0044】
本発明に係るマスクの洗浄方法は、工程A~工程Iからなるマスクを洗浄液に浸漬する工程を備えることにより、上述した本発明の効果が達成される。
【0045】
上述した実験例では、堆積膜がIZO膜の場合について詳述したが、本発明はIZO膜に限定されるものではない。堆積膜がITO膜、IGZO膜、ZnO膜の場合にも、本発明は有効である。
堆積膜を形成する成膜法には依存しない。成膜法としては、スパッタ法、蒸着法、CVD法などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、マスクの洗浄方法に広く適用できる。特に、開口部を備えるマスク(Open mask)に有効であるが、本発明はマスク以外の部品(成膜装置の内部に配置され、堆積膜が付着し、除去する効果が期待される部品)、たとえば、シャワープレートやシャッターなどの部品の洗浄にも使用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6