IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日野自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ホイルシリンダ 図1
  • 特許-ホイルシリンダ 図2
  • 特許-ホイルシリンダ 図3
  • 特許-ホイルシリンダ 図4
  • 特許-ホイルシリンダ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ホイルシリンダ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/22 20060101AFI20230703BHJP
   F16J 1/00 20060101ALI20230703BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20230703BHJP
   F16J 15/3236 20160101ALI20230703BHJP
   F16D 121/04 20120101ALN20230703BHJP
   F16D 125/06 20120101ALN20230703BHJP
【FI】
F16D65/22
F16J1/00
F16J15/3204 101
F16J15/3236
F16D121:04
F16D125:06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019163119
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021042774
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明
(72)【発明者】
【氏名】岸田 英晃
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-019632(JP,U)
【文献】実開昭62-050332(JP,U)
【文献】特開2000-081059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
F16J 1/00-1/24
F16J 15/3204-15/3236
F16D 121/04
F16D 125/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイルブレーキに配置されるシリンダと、
前記シリンダの内部を摺動するピストンと、
を備え、
前記シリンダは、前記シリンダの内周面に、前記シリンダの内部にブレーキ液を注入するユニオン孔部と、気泡を排出するブリーダ孔部とを有し、
前記ピストンは、ピストンカップと、前記ピストンの外周面で前記ピストンカップを収容する縮径部と、前記縮径部における前記ピストンのピストン頂部の側で前記縮径部に収容された前記ピストンカップを係止するフランジ部とを有し、
前記シリンダのシリンダ軸に平行な断面による断面視で、
前記フランジ部は、前記フランジ部における前記縮径部の側に前記フランジ部における前記ピストンの前記外周面の側に至るほど前記ピストン頂部の側に接近するように傾斜したテーパ面を含み、
前記テーパ面は、前記ユニオン孔部及び前記ブリーダ孔部と対向しており
前記テーパ面の、前記ピストンの前記外周面の側の先端は、前記シリンダ軸の軸線方向における前記ユニオン孔部及び前記ブリーダ孔部の一方側先端と他方側先端との間に位置している、
ホイルシリンダ。
【請求項2】
前記シリンダは、前記シリンダ軸を上下方向に向けつつホイルブレーキに配置され、
前記ピストンは、前記ピストン頂部を下方に向けつつ前記シリンダの内部を摺動する、請求項1に記載のホイルシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイルシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
液圧式の車両用ドラムブレーキに用いられるホイルシリンダが提案されている。例えば、特許文献1には、ピストンのピストンカップを収容するシール溝とピストン頂部近傍の大径部との間に大径部より小さい径の中径軸部が形成され、中径軸部の外周の環状空間部をシール溝に連通させたホイルシリンダが開示されている。中径軸部には、半径方向に延在する貫通孔が形成されている。ピストン頂部にピストンスプリングの一端を支承する受け凹部が形成され、受け凹部と貫通孔とが連通している。ピストン頂部近傍の液圧室にブレーキ液を注入するユニオン孔部が開口し、シール溝にブリーダ孔部が開口する。
【0003】
液圧室とシール溝とが、貫通孔と受け凹部にて連通され、シリンダ内部のブレーキ液は、必ず液圧室とシール溝の双方を通って、ブリーダ孔部から外部へ排出されて行く。これにより、特許文献1のホイルシリンダでは、ブレーキ液の交換やエア抜き等のメンテナンス時において、ユニオン孔部を介してブレーキ液が注入され、ブリーダ孔部を介してブレーキ液が外部へ排出される際に、シール溝の中に残留した気泡が排出され易くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平7‐19632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のホイルシリンダにおいても、ホイルシリンダのシール溝及びピストンカップに気泡が残留することがある。ホイルシリンダの内部に残留した気泡が多いと、ブレーキ作動時のブレーキペダルのロスストロークが大きく、ブレーキフィーリングが悪い欠点がある。
【0006】
そこで本発明は、ホイルシリンダの内部に残留する気泡の量を低減できるホイルシリンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ホイルブレーキに配置されるシリンダと、シリンダの内部を摺動するピストンとを備え、シリンダは、シリンダの内周面に、シリンダの内部にブレーキ液を注入するユニオン孔部と、気泡を排出するブリーダ孔部とを有し、ピストンは、ピストンカップと、ピストンの外周面でピストンカップを収容する縮径部と、縮径部におけるピストンのピストン頂部の側で縮径部に収容されたピストンカップを係止するフランジ部とを有し、シリンダのシリンダ軸に平行な断面による断面視で、フランジ部は、フランジ部における縮径部の側にフランジ部におけるピストンの外周面の側に至るほどピストン頂部の側に接近するように傾斜したテーパ面を含み、テーパ面は、ユニオン孔部及びブリーダ孔部と対向しているホイルシリンダである。
【0008】
この構成によれば、ホイルブレーキに配置されるシリンダとシリンダの内部を摺動するピストンとを備え、シリンダはシリンダの内周面にシリンダの内部にブレーキ液を注入するユニオン孔部と気泡を排出するブリーダ孔部とを有し、ピストンはピストンカップとピストンの外周面でピストンカップを収容する縮径部と縮径部におけるピストンのピストン頂部の側で縮径部に収容されたピストンカップを係止するフランジ部とを有するホイルシリンダにおいて、シリンダのシリンダ軸に平行な断面による断面視で、フランジ部はフランジ部における縮径部の側にフランジ部におけるピストンの外周面の側に至るほどピストン頂部の側に接近するように傾斜したテーパ面を含み、テーパ面はユニオン孔部及びブリーダ孔部と対向している。このため、ユニオン孔部から注入されるブレーキ液はテーパ面により縮径部及びピストンカップの各部を循環するように誘導され、縮径部及びピストンカップの各部を循環したブレーキ液の流れにより巻き込まれ、掻きだされた気泡はテーパ面を介してブリーダ孔部から排出され易くなるため、ホイルシリンダの内部に残留する気泡の量を低減できる。
【0009】
この場合、シリンダは、シリンダ軸を上下方向に向けつつホイルブレーキに配置され、ピストンは、ピストン頂部を下方に向けつつシリンダの内部を摺動することが好適である。
【0010】
この構成によれば、シリンダはシリンダ軸を上下方向に向けつつホイルブレーキに配置され、ピストンはピストン頂部を下方に向けつつシリンダの内部を摺動するため、縮径部及びピストンカップからブレーキ液内を浮上する気泡が抜けにくく、縮径部及びピストンカップにブレーキ液内を浮上する気泡が残留し易い配置であるにも関わらず、ユニオン孔部から注入されるブレーキ液はテーパ面により縮径部及びピストンカップの各部を循環するように誘導され、縮径部及びピストンカップの各部を循環したブレーキ液の流れにより巻き込まれ、掻きだされた気泡はテーパ面を介してブリーダ孔部から排出され易くなるため、ホイルシリンダの内部に残留する気泡の量を低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のホイルシリンダによれば、ホイルシリンダの内部に残留する気泡の量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るホイルブレーキを示す側面図である。
図2図1のα線による断面視である。
図3】(A)は図2のβ線による断面視であり、(B)は図2のγ線による断面視である。
図4】従来のホイルシリンダのシリンダ軸を含む断面による断面視である。
図5】(A)は図4のδ線による断面視であり、(B)は図4のε線による断面視である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るホイルシリンダについて、図面を用いて詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態のホイルシリンダ10は、ホイルブレーキ1に配置されるシリンダ11と、シリンダ11の内部を摺動するピストン12とを備える。ホイルブレーキ1は、デュアル・ツー・リーディング型のドラムブレーキとして構成されている。図中にZ軸方向の正方向を上方向として示し、Z軸方向の負方向を下方向として示すように、ホイルブレーキ1は、上下方向に一対のブレーキシュー2を備える。ブレーキシュー2のそれぞれには、ブレーキドラム3に当接されるライニング4が固定されている。
【0014】
図1及び図2に示すように、シリンダ11は、シリンダ軸11aを上下方向に向けつつホイルブレーキ1に配置されている。ホイルシリンダ10のそれぞれは、シリンダ11に、上下方向に一対のピストン12を備える。ホイルシリンダ10のそれぞれの一方のピストン12は、ピストン頂部12pを下方に向けつつシリンダ11の内部を摺動し、ホイルシリンダ10のそれぞれの他方のピストン12は、ピストン頂部12pを上方に向けつつシリンダ11の内部を摺動する。なお、上下方向、上方及び下方とは、必ずしも鉛直方向に平行な方向を意味せず、例えば、鉛直方向から45°~60°以内の角度で傾斜していてもよい。
【0015】
ピストン12のピストン外端部12eは、ブレーキシュー2の端部に連結されている。シリンダ11の内部をピストン12が上下方向に摺動することにより、ピストン外端部12eに連結されたブレーキシュー2が上下方向に移動し、ブレーキシュー2に固定されたライニング4がブレーキドラム3に当接させられることにより、ホイルブレーキ1は制動力を生じる。シリンダ11は円筒形状を有し、ピストン12は円柱形状を有する。シリンダ11及びピストン12は、シリンダ軸11aを対称軸とする線対称の形状を有する。
【0016】
図2に示すように、シリンダ11は、シリンダ11の内周面11iに、シリンダ11の内部にブレーキ液Fを注入するユニオン孔部13と、気泡Bを排出するブリーダ孔部14とを有する。ホイルシリンダ10では、ブレーキ作動時にユニオン孔部13からシリンダ11の内部にブレーキ液Fが注入されることにより、ピストン12はシリンダ11の内部を摺動する。
【0017】
また、ホイルシリンダ10では、ブレーキ液Fの交換やエア抜き等のメンテナンス時において、ユニオン孔部13を介してブレーキ液Fが注入され、ブリーダ孔部14を介してブレーキ液Fが外部へ排出される際に、ブリーダ孔部14からブレーキ液Fと共にホイルシリンダ10の内部に残留した気泡Bが排出される。
【0018】
ピストン12は、ピストンカップ15と、ピストン12の外周面12oでピストンカップ15を収容する縮径部12rと、縮径部12rにおけるピストン12のピストン頂部12pの側で縮径部12rに収容されたピストンカップ15を係止するフランジ部12fとを有する。
【0019】
図2図3(A)及び図3(B)に示すように、シリンダ11のシリンダ軸11aに平行な断面による断面視で、フランジ部12fは、フランジ部12fにおける縮径部12rの側にフランジ部12fにおけるピストン12の外周面12oの側に至るほどピストン頂部12pの側に接近するように傾斜したテーパ面12tを含む。テーパ面12tは、ユニオン孔部13及びブリーダ孔部14と対向している。
【0020】
なお、テーパ面12tはユニオン孔部13及びブリーダ孔部14と対向しているとは、例えば、ユニオン孔部13及びブリーダ孔部14におけるブレーキ液F及び気泡Bの流域の少なくとも一部でブレーキ液F及び気泡Bが流れる方向と、テーパ面12tとが直交ではない角度で交差していることを意味する。シリンダ11のシリンダ軸11aに平行な断面による断面視で、テーパ面12tとシリンダ11の内周面11iとのなす角度は、例えば、45°以上である。
【0021】
図4図5(A)及び図5(B)に示すように、例えば、従来のフランジ部12fにテーパ面を有していないホイルシリンダ100では、ブレーキ液の交換やエア抜き等のメンテナンス時において、ユニオン孔部13から注入されるブレーキ液Fは、ピストン12の縮径部12r及びピストンカップ15の各部まで循環せず、ピストン頂部12p及びフランジ部12fの近傍を循環し、そのままブリーダ孔部14から排出される。
【0022】
そのため、縮径部12r及びピストンカップ15の各部に気泡Bが残留し、ブレーキ作動時のブレーキペダルのロスストロークが大きく、ブレーキフィーリングが悪い欠点がある。この傾向は、ピストン頂部12pを下方に向けつつシリンダ11の内部を摺動するピストン12において、縮径部12r及びピストンカップ15からブレーキ液F内を浮上する気泡Bが抜けにくいために顕著である。
【0023】
一方、本実施形態では、図3に示すように、ホイルブレーキ1に配置されるシリンダ11とシリンダ11の内部を摺動するピストン12とを備え、シリンダ11はシリンダ11の内周面11iにシリンダ11の内部にブレーキ液Fを注入するユニオン孔部13と気泡Bを排出するブリーダ孔部14とを有し、ピストン12はピストンカップ15とピストン12の外周面12oでピストンカップ15を収容する縮径部12rと縮径部12rにおけるピストン12のピストン頂部12pの側で縮径部12rに収容されたピストンカップ15を係止するフランジ部12fとを有するホイルシリンダ10において、シリンダ11のシリンダ軸11aに平行な断面による断面視で、フランジ部12fはフランジ部12fにおける縮径部12rの側にフランジ部12fにおけるピストン12の外周面12oの側に至るほどピストン頂部12pの側に接近するように傾斜したテーパ面12tを含み、テーパ面12tはユニオン孔部13及びブリーダ孔部14と対向している。
【0024】
このため、ユニオン孔部13から注入されるブレーキ液Fはテーパ面12tにより縮径部12r及びピストンカップ15の各部を循環するように誘導され、縮径部12r及びピストンカップ15の各部を循環したブレーキ液Fの流れにより巻き込まれ、掻きだされた気泡Bはテーパ面12tを介してブリーダ孔部14から排出され易くなるため、ホイルシリンダ10の内部に残留する気泡Bの量を低減できる。
【0025】
また、本実施形態では、シリンダ11はシリンダ軸11aを上下方向に向けつつホイルブレーキ1に配置され、ピストン12はピストン頂部12pを下方に向けつつシリンダ11の内部を摺動するため、縮径部12r及びピストンカップ15からブレーキ液F内を浮上する気泡Bが抜けにくく、縮径部12r及びピストンカップ15にブレーキ液F内を浮上する気泡Bが残留し易い配置であるにも関わらず、ユニオン孔部13から注入されるブレーキ液Fはテーパ面12tにより縮径部12r及びピストンカップ15の各部を循環するように誘導され、縮径部12r及びピストンカップ15の各部を循環したブレーキ液Fの流れにより巻き込まれ、掻きだされた気泡Bはテーパ面12tを介してブリーダ孔部14から排出され易くなるため、ホイルシリンダ10の内部に残留する気泡Bの量を低減できる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。本実施形態においては、シリンダ11はシリンダ軸11aを上下方向に向けつつホイルブレーキ1に配置され、ピストン12はピストン頂部12pを下方に向けつつシリンダ11の内部を摺動する態様を中心に説明したが、例えば、シリンダ11はシリンダ軸11aを左右方向に向けつつホイルブレーキ1に配置され、ピストン12はピストン頂部12pを左右方向に向けつつシリンダ11の内部を摺動する態様においても、本発明は効果を奏する。
【0027】
また、上記実施形態では、ホイルシリンダ10がデュアル・ツー・リーディング型のドラムブレーキとして構成されたホイルブレーキ1に配置される態様を中心に説明したが、例えば、リーディング・トレーリング型、ツー・リーディング型、ユニ・サーボ型及びデュオ・サーボ型のドラムブレーキとして構成されたホイルブレーキに配置されてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…ホイルブレーキ、2…ブレーキシュー、3…ブレーキドラム、4…ライニング、10…ホイルシリンダ、11…シリンダ、11a…シリンダ軸、11i…内周面、12…ピストン、12p…ピストン頂部、12e…ピストン外端部、12o…外周面、12r…縮径部、12f…フランジ部、12t…テーパ面、13…ユニオン孔部、14…ブリーダ孔部、15…ピストンカップ、100…ホイルシリンダ、F…ブレーキ液、B…気泡。
図1
図2
図3
図4
図5