(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】押下検出装置および押下検出方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20230703BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G06F3/041 600
G06F3/041 520
G01L5/00 L
(21)【出願番号】P 2019219487
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊一
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127874(JP,A)
【文献】特開2015-207034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0370909(US,A1)
【文献】特開2012-027875(JP,A)
【文献】特開2012-181703(JP,A)
【文献】特許第6593565(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押下対象に対して加わる押下力を
所定周期で検出する押下力検出部と、
前記押下力検出部により
所定周期で検出された押下
力に基づいて、
押下力とは異なる指標である確定
値を決定し、確定値が第1閾値を下回った状態から第1閾値以上となる第1事象を検出すると共に、確定値が第1閾値を上回った後、確定値のピーク値に基づいて定められる第2閾値以下となる第2事象を検出する判定部とを備え、
押下力が急峻に上昇するとは、単位時間あたりに一定量を超えて押下力が上昇することであり、
押下力が急峻に下降するとは、単位時間あたりに一定量を超えて押下力が下降することであり、
前記判定部は、
押下力に基づいて確定
値を決定する際、
前記第1事象を検出する前の第1状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに確定値が
押下力に従って上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したとき
、および、押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を
押下力に従った値に決定する一方、
前記第1事象を検出した後、前記第2事象を検出する前の第2状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに確定値が
押下力に従って上昇することを抑制
し、押下力が急峻に下降したときに確定値が
押下力に従って下降することを抑制
し、押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を押下力に従った値に決定し、
前記判定部は、前記第2事象を検出する際、
所定周期で到来する各タイミングにおいて確定値、ピーク値および第2閾値を決定すると共に、決定した確定値と決定した第2閾値との比較結果に基づいて前記第2事象を検出する一方、
ピーク値および第2閾値の決定に際し、前記第1事象を検出したタイミングから現時点のタイミングに至るまでの確定値の最大値をピーク値として決定すると共に、決定したピーク値について値を低減させる所定方法により第2閾値を決定する
ことを特徴とする押下検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第2事象を検出した後の第3状態のときは、
押下力が急峻に下降したときに確定値を押下力
に従った値に決定し、
押下力が急峻に上昇したときに、確定値が押下力に従って上昇することを抑制するか、または、確定値を押下力に従った値に決定し、
押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を押下力に従った値に決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の押下検出装置。
【請求項3】
前記判定部は、
押下力が急峻に上昇したときに確定値が
押下力に従って上昇することを抑制する際、確定値の単位時間あたりの上昇に向かう変化量に制限を加える一方、
押下力が急峻に下降したときに確定値が
押下力に従って下降することを抑制する際、確定値の単位時間あたりの下降に向かう変化量に制限を加える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の押下検出装置。
【請求項4】
前記押下力検出部は、所定周期で押下対象に対する押下力を示す測定値を検出し、
前記判定部は、
前記押下力検出部により所定周期で検出される測定値に基づいて、所定周期で確定値を決定する一方、
一のタイミングで前記押下力検出部により検出された測定値が、当該一のタイミングよりも1つ前の周期のタイミングである前のタイミングで自身が決定した確定値に増加基準量を加えた値よりも小さい場合、当該一のタイミングに係る測定値を当該一のタイミングに係る確定値として決定し、当該一のタイミングに係る測定値が、当該前のタイミングに係る確定値に増加基準量を加えた値以上の場合、当該値を当該一のタイミングに係る確定値として決定することによって、押下力が急峻に上昇したときに確定値が
押下力に従って上昇することを抑制し、また、
当該一のタイミングで前記押下力検出部により検出された測定値が、当該前のタイミングで自身が決定した確定値から減少基準量を引いた値よりも大きい場合、当該一のタイミングに係る測定値を当該一のタイミングに係る確定値として決定し、当該一のタイミングに係る測定値が、当該前のタイミングに係る確定値から減少基準量を引いた値以下の場合、当該値を当該一のタイミングに係る確定値として決定することによって、押下力が急峻に下降したときに確定値が
押下力に従って下降することを抑制する
ことを特徴とする請求項3に記載の押下検出装置。
【請求項5】
前記押下対象は、車両に設けられたタッチ式の入力装置であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の押下検出装置。
【請求項6】
押下対象に対して加わる押下力を
所定周期で検出する押下力検出部と、前記押下力検出部により
所定周期で検出された押下
力に基づいて、
押下力とは異なる指標である確定
値を決定し、確定値が第1閾値を下回った状態から第1閾値以上となる第1事象を検出すると共に、確定値が第1閾値を上回った後、確定値のピーク値に基づいて定められる第2閾値以下となる第2事象を検出する判定部とを有する押下検出装置による押下検出方法であって、
押下力が急峻に上昇するとは、単位時間あたりに一定量を超えて押下力が上昇することであり、
押下力が急峻に下降するとは、単位時間あたりに一定量を超えて押下力が下降することであり、
前記第1事象を検出する前の第1状態のときに、前記押下検出装置の前記判定部が
、押下力が急峻に上昇したときに確定値が
押下力に従って上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したとき
、および、押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を
押下力に従った値に決定する第1ステップと、
前記第1事象を検出した後、前記第2事象を検出する前の第2状態のときに、前記押下検出装置の前記判定部が、押下力が急峻に上昇したときに確定値が
押下力に従って上昇することを抑制
し、押下力が急峻に下降したときに確定値が
押下力に従って下降することを抑制
し、押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を押下力に従った値に決定する第2ステップと
を含み、
前記判定部は、前記第2ステップにおいて前記第2事象を検出する際、
所定周期で到来する各タイミングにおいて確定値、ピーク値および第2閾値を決定すると共に、決定した確定値と決定した第2閾値との比較結果に基づいて前記第2事象を検出する一方、
ピーク値および第2閾値の決定に際し、前記第1事象を検出したタイミングから現時点のタイミングに至るまでの確定値の最大値をピーク値として決定すると共に、決定したピーク値について値を低減させる所定方法により第2閾値を決定する
ことを特徴とする押下検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押下検出装置および押下検出方法に関し、特に、ユーザの押下操作を検出する押下検出装置および押下検出方法に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザが押下対象に対して行った押下操作を検出する押下検出装置において、押下対象に加わる振動の影響を低減してユーザの押下操作を検出するものが知られている。押下対象に加わる振動とは、例えば、押下対象が車両に設けられた対象物(一例としてタッチパネル)である場合において、車両の振動に由来して押下対象に加わる振動である。
【0003】
なお、特許文献1には、スマートフォン等の携帯端末の側部であって、ユーザが筐体を把持したときに押圧力が伝わる位置に押圧センサを設け、タッチパネルから出力される信号が無効とされているときに、押圧センサにより所定の態様で押圧検出値が検出されている場合(典型的にはユーザが携帯端末を把持している場合)にのみ当該信号が有効となるようにし、これにより携帯端末の誤動作を防止する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、ユーザの押下操作の検出の際は、押下操作に伴う押下力に基づく確定値(押下操作の判定に利用される値。押下力自体の値の場合もある)が第1閾値以上となる第1事象、および、確定値が第1閾値以上となった後、第2閾値以下となる第2事象の検出が行われる。第1事象の検出は、ユーザによる意図的な押下対象の押し込みを検出するために行われ、また第2事象の検出は、ユーザによる意図的な押し込みの解除を検出するために行われ、通常、第1事象の検出および第2事象の検出に応じて何らかのイベントが発生する。
【0006】
ユーザは、第1事象の検出前の第1状態においては、指(指以外の物体でもよいが、指とする)を押下対象に対して押し込もうとする一方、第2状態では、指を押下対象から離していく。従って、第1状態においては、ユーザにより意図的な指の押し込みがあったときに、第1事象が検出されるようにすることが求められる一方、第2状態においては、ユーザが意図的に指を押下対象から離していったときに、第2事象が検出されるようにすることが求められる。これらの要求に応じないと、ユーザが考えていた態様と異なる態様でイベントが発生し、ユーザが不快感を覚える事態になり得るからである。
【0007】
このように、第1状態と第2状態とでは要求が異なるため、各状態において、各状態の要求に対応した適切な処理を行って要求に応える必要がある。しかしながら、従来、このような観点で処理を実行する技術はなかった。例えば、上述した特許文献1には、第1状態と第2状態との双方で、各状態の要求に応じた処理を行う技術については一切記載されていない。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、押下力に基づく確定値が第1閾値以上となる前の第1状態と、第1閾値以上となった後、第2閾値以下となる前の第2状態との双方で、各状態の要求に応じた処理を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、押下力に基づいて確定値を決定し、確定値が第1閾値を下回った状態から第1閾値以上となる第1事象を検出すると共に、確定値が第1閾値を上回った後、確定値のピーク値に基づいて定められる第2閾値以下となる第2事象を検出する。そして、本発明では、確定値を決定する際、第1事象を検出する前の第1状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに確定値が押下力に従って上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したとき、および、押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を押下力に従った値に決定する一方、第1事象を検出した後、第2事象を検出する前の第2状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに確定値が押下力に従って上昇することを抑制し、押下力が急峻に下降したときに確定値が押下力に従って下降し、押下力が急峻に上昇も下降もしていないときに確定値を押下力に従った値に決定するようにしている。また本発明は、第2事象を検出する際、所定周期で到来する各タイミングにおいて確定値、ピーク値および第2閾値を決定すると共に、決定した確定値と決定した第2閾値との比較結果に基づいて第2事象を検出する一方、ピーク値および第2閾値の決定に際し、第1事象を検出したタイミングから現時点のタイミングに至るまでの確定値の最大値をピーク値として決定すると共に、決定したピーク値について値を低減させる所定方法により第2閾値を決定する。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明によれば、第1状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに、確定値が急峻に上昇することが抑制される。このため、押下対象に対して加わる振動に起因して、検出される押下力が急峻に上昇した場合であっても、確定値が第1閾値以上となりにくく、誤検出(ユーザの意図に反して、第1事象が検出されること)を抑制でき、ユーザにより意図的な指の押し込みがあった場合に第1事象が検出される確率を高めることができる。
【0011】
また、本発明によれば、第1状態のときは、押下力が急峻に下降したときには確定値が急峻に下降する。ここで、第1状態では、ユーザが意図せず押下対象が押下され(例えば、偶然、何らかの物体が当たった場合)、すぐに押下が解除されたり、また、ユーザが誤って押下対象を押下操作したものの、すぐに押下を解除したりすることがある。これを踏まえ、本発明の上記構成によれば、第1状態において、押下対象に対する押下が解除された場合に、押下力の下降に準じて急峻に確定値を下降させることができる。なお、押下対象に対して加わる振動に起因して、押下力が急峻に下降した場合、これに準じて確定値も急峻に下降することになるが、これにより何らかの誤検出が発生することはなく、問題はない。
【0012】
また、本発明によれば、第2状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに、確定値が急峻に上昇することが抑制される。このため、押下対象に振動が加わった場合に、ピーク値が、振動が加わってなかった場合における仮のピーク値と乖離した値となることを抑制できる。これにより、押下対象に振動が加わった場合であっても、ピーク値に基づいて定められる第2閾値を、振動が加わっていない場合の第2閾値に準じた適切な値とすることができる。
【0013】
また、本発明によれば、第2状態のときは、押下力が急峻に下降したときに、確定値が急峻に下降することが抑制される。このため、振動に起因して押下力が急峻に下降した場合であっても、確定値が第2閾値以下となりにくく、誤検出(ユーザの意図に反して、第2事象が検出されること)を抑制でき、ユーザにより意図的な指の離間があった場合に第2事象が検出される確率を高めることができる。
【0014】
以上の通り、本発明によれば、第1状態と第2状態との双方で、各状態の要求に応じた処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】表示入力装置が車両の車室に設けられた様子を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る押下検出装置を適用した演算処理装置および表示入力装置の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る押下検出装置を適用した演算処理装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る判定部の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る押下検出装置1(
図4)に接続された表示入力装置2(特許請求の範囲の「タッチ式の入力装置」に相当)が車両の車室に設けられた様子を示す図である。
図2は、表示入力装置2の正面図である。
【0017】
表示入力装置2は、画像を表示する機能、および、タッチ操作によるユーザの入力を受け付ける機能を備える装置(いわゆるタッチスクリーン)である。
図2で示すように、表示入力装置2の前面には、ユーザのタッチ操作を検出可能な最大の領域である接触検出可能領域3が形成されている。接触検出可能領域3は、画像が表示される最大の領域と等しい。更に表示入力装置2の前面において、接触検出可能領域3と、この接触検出可能領域3を囲む枠状の枠状部材4の前面の領域とを含む領域には押下検出可能領域5が形成されている。押下検出可能領域5は、表示入力装置2の前面の全域と等しい。接触検出可能領域3および押下検出可能領域5については後に詳述する。
【0018】
図3は、本実施形態に係る押下検出装置1を含む演算処理装置8および表示入力装置2(特に表示入力装置2)の構成例を模式的に示す図である。
図3で示すように、表示入力装置2は、タッチパネル9、表示パネル10および押下力検出センサ11を備えて構成されている。
図3は、タッチパネル9、表示パネル10および押下力検出センサ11の関係を明確にし、更にこれらの部材と接触検出可能領域3および押下検出可能領域5との関係を明確にすることを目的とする図であり、表示入力装置2の各部材を単純化して模式的に表している。
図3において図中で上に向かう方向が表示入力装置2の前面側である。
【0019】
図3で示すように、表示入力装置2の前面において、タッチパネル9の前面の全域に対応する領域には、タッチパネル9により接触を検出可能な接触検出可能領域3が形成されている。タッチパネル9は、所定周期で接触検出可能領域3に対する接触を検出し、その接触位置の座標(ただし、接触が検出されていない場合はそのことを表す座標)を示す接触位置情報を演算処理装置8に出力する。タッチパネル9は、演算処理装置8の電源がオンされている間、所定周期で継続して接触の検出および接触位置情報の出力を実行する。
【0020】
タッチパネル9の裏面側には表示パネル10が設けられている。表示パネル10は、演算処理装置8により生成される画像を表示するものであり、例えば液晶パネルまたは有機ELパネル等により構成される。
【0021】
タッチパネル9および表示パネル10の周囲には、これら部材を囲むように枠状部材4が設けられており、タッチパネル9および表示パネル10は枠状部材4に支持されている。
【0022】
表示入力装置2において、表示パネル10の裏面側には押下力検出センサ11が設けられている。
図3で示すように、押下力検出センサ11の前面の全域に相当する領域は、接触検出可能領域3(タッチパネル9の前面の全域)と、接触検出可能領域3を囲む枠状部材4の前面の領域とを含む。つまり、押下力検出センサ11の前面の全域は、表示入力装置2の前面の全域に等しい。表示入力装置2の前面の全域には、押下検出可能領域5が形成されている。
【0023】
押下力検出センサ11は、所定周期で、押下検出可能領域5に加わる押下力を検出し、押下力を示す押下力情報を演算処理装置8に出力する。押下力検出センサ11は、演算処理装置8の電源がオンされている間、所定周期で継続して押下力の検出および押下力情報の出力を実行する。
【0024】
本実施形態に係る押下検出装置1は、接触検出可能領域3に対する接触を検出したときにすぐにその接触を有効とするのではなく、接触検出可能領域3に対する接触に加えて押下検出可能領域5に加わる押下力を検出し、接触検出可能領域3に対する接触があり、かつ、押下力に基づく確定値(後述)が閾値以上となったときに初めて、その接触が有効であると判定する。このため、接触検出可能領域3を押し込むように押下する押下操作をユーザが行った場合にのみ接触が有効となる。これにより、ユーザに確実な操作を要求し、誤操作の発生を抑制することができる。また、表示入力装置2は、車両に設けられている。従って、車両に発生した振動が表示入力装置2に伝わることになるが、本実施形態に係る押下検出装置1は、振動による影響を低減しつつ押下操作の判定を実行する。
【0025】
以下、押下検出装置1の構成および処理について詳述する。なお、説明の便宜のため、表示パネル10には、複数のタッチ操作可能なオブジェクトが表示されたGUIが表示されており、ユーザによる押下操作はオブジェクトを選択するために行われるものとする。また、以下の説明ではユーザによる押下操作はユーザの指で行われるものとする。ただし、指ではないもの(例えば、棒状の部材)で押下操作が行われてもよいことは勿論である。
【0026】
図4は、本実施形態に係る押下検出装置1を含む演算処理装置8の機能構成例を示すブロック図である。
図4に示すように、本実施形態に係る演算処理装置8は、その機能構成として、接触検出部13、押下力検出部14、判定部15、処理実行部16および表示制御部17を備えている。このうち、接触検出部13、押下力検出部14および判定部15により、本実施形態に係る押下検出装置1が構成される。
【0027】
上記各機能ブロック13~17は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック13~17は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
【0028】
接触検出部13は、タッチパネル9から所定周期で入力する接触位置情報に基づいて、接触検出可能領域3に対する接触の有無を検出すると共に、接触検出可能領域3に対する接触がある場合には、その接触位置を検出し、検出した接触位置を示す検出接触位置情報を処理実行部16に出力する。
【0029】
押下力検出部14は、押下力検出センサ11から所定周期で入力する押下力情報に基づいて、押下検出可能領域5に対して加わる押下力を示す測定値を検出する。つまり、押下力検出部14により検出される測定値は、押下力検出センサ11により検出された実際の押下力そのものを示す値である。押下力検出部14は検出した測定値を判定部15に出力する。
【0030】
判定部15は、接触検出部13により接触検出可能領域3に対する接触が検出されている状態のときに、測定値に基づく確定値が第1閾値を下回った状態から第1閾値以上となった場合、そのこと(第1事象)を検出し、更にその後、確定値が第2閾値以下となった場合に、そのこと(第2事象)を検出する。特に、判定部15は、第1事象を検出する前の第1状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したときに確定値を急峻に下降させる。一方、判定部15は、第1事象を検出した後、第2事象を検出する前の第2状態のときは、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したときに確定値が急峻に下降することを抑制する。以下、判定部15の処理について詳述する。
【0031】
まず、判定部15の基本的な処理を説明する。
図5は、判定部15の基本的な処理を説明するため、時間の経過を横軸とし、測定値および確定値の大きさ(単位は[N]とする)を縦軸とする図表上のグラフによって測定値および確定値の推移を示す図である。なお、図面の見やすさのため、測定値と確定値とをずらして描画している。
【0032】
上述したように、判定部15は、押下力検出部14から所定周期で測定値を入力する。所定周期で入力した測定値を上記図表にプロットすると、
図5で示すように、測定値(押下力)の経時的変化を示す波形(
図5において実線で示す波形)が形成される。また、判定部15は、測定値を入力する度に、入力した測定値を利用して確定値を決定する(確定値を決定する方法は後に詳述する)。所定周期で決定した確定値を上記図表にプロットすると、
図5で示すように、確定値の経時的変化を示す波形(
図5において二点鎖線で示す波形)が形成される。このように、判定部15は、押下力検出部14により検出された測定値(押下力)の経時的変化に基づいて、確定値の経時的変化を決定する。なお、
図5は、測定値の経時的変化に基づいて確定値の経時的変化が決定されることを説明することを目的とした図であり、測定値と確定値の関係は厳密に正確なものではない。
【0033】
図5を参照し、以下では、判定部15にゼロ[N]以下を示す測定値が入力されている状態を「非押下状態」いい、ゼロ[N]を上回る測定値が入力されている状態を「押下状態」という。押下状態は、換言すれば押下力検出センサ11によりゼロ[N]を上回る押下力が検出されている状態であるが、押下力の発生理由は、ユーザによる押下操作だけとは限らず、表示入力装置2に影響する振動や、ユーザが意図せず押下検出可能領域5に何らかの物体が当たった場合等があり得る。
図5の例では、タイミングTAよりも前、および、タイミングTBよりも後が非押下状態であり、タイミングTAとタイミングTBとの間が押下状態である。
【0034】
判定部15は、測定値ではなく確定値を用いて第1判定および第2判定を行う。すなわち、判定部15は、非押下状態の間は、測定値の値をそのまま確定値とする(従って、確定値≦「0[N]」)一方、後述する第1判定処理を行わない。そして、非押下状態のときに「0[N]」を上回る値の確定値を決定すると(=「0[N]」を上回る測定値が入力されると)、判定部15は、押下状態となったことを認識し、確定値が固定値の第1閾値TH1を下回った状態から第1閾値TH1以上となったか否かを監視する。この監視する処理を「第1判定処理」という。確定値が第1閾値TH1を下回った状態から第1閾値TH1以上となった場合、判定部15は、第1事象(=確定値が第1閾値TH1を下回った状態から第1閾値TH1以上となったこと)を検出する。
【0035】
図5の例では、タイミングTCにおいて確定値が第1閾値TH1以上となっているため、判定部15はタイミングTCで第1事象を検出する。以下、押下状態が開始されてから第1事象が検出されるまでの状態を「第1状態」という。
図5の例では、タイミングTAとタイミングTCとの間が第1状態である。
【0036】
第1事象を検出した後、判定部15は、所定周期で確定値を決定すると共に、確定値の決定と同期してピーク値および第2閾値TH2を決定する。詳述すると、判定部15は、第1事象を検出したタイミングから現時点のタイミングに至るまでの各周期において、最も大きな値の確定値をピーク値として決定する。従って、例えば、判定部15は、今回のタイミングで決定した確定値が、今回のタイイングよりも1つ前の周期のタイミングのピーク値よりも大きい場合には、今回のタイミングで決定した確定値を現時点のピーク値とする。一方、判定部15は、今回のタイミングで決定した確定値が、今回のタイミングよりも1つ前の周期のタイミングのピーク値よりも小さい場合には、今回のタイミングよりも1つ前の周期のタイミングのピーク値を今回のタイミングのピーク値とする。
【0037】
また、判定部15は、決定したピーク値から予め定められた量だけ引いた値を第2閾値TH2とする。つまり、第2閾値TH2は固定値ではなく、ピーク値により値が定まる変動値である。このような方法で第2閾値TH2を決定することにより、理想的にはユーザによる押し込みがピークに達した後、指を表示入力装置2から離していく過程で、確定値が第2閾値TH2以下となるようにすることができる。なお、ピーク値に基づく第2閾値TH2の決定方法は、本実施形態で例示する方法に限られず、例えば、ピーク値に一定の係数(一例として「0.8」)を乗じたものを第2閾値TH2とするようにしてもよい。
【0038】
判定部15は、所定周期で確定値、ピーク値および第2閾値TH2を決定しつつ、以下の処理を実行する。すなわち、判定部15は、確定値が第2閾値TH2を上回った状態から第2閾値TH2以下となったか否かを監視する。この監視する処理を「第2判定処理」という。確定値が第2閾値TH2を上回った状態から第2閾値TH2以上となった場合、判定部15は、第2事象(=確定値が第2閾値TH2を上回った状態から第2閾値TH2以下となったこと)を検出する。
【0039】
図5の例では、タイミングTDにおいて確定値が第2閾値TH2以下となっているため、判定部15はタイミングTDで第2事象を検出する。以下、判定部15により第1事象が検出されてから第2事象が検出されるまでの状態を「第2状態」という。
図5の例では、タイミングTCとタイミングTDとの間が第2状態である。
【0040】
第2事象を検出した後、判定部15は、確定値が「0[N]」以下となったか否かを監視する。この監視する処理を「第3判定処理」という。確定値が「0[N]」以下となった場合、判定部15は、第3判定処理を停止し、再び確定値が「0[N]」を上回ったか否かを監視する。
【0041】
図5の例では、タイミングTBにおいて確定値が「0[N]」以下となっているため、タイミングTBで非押下状態となる。以下、判定部15により第2事象が検出されてから、非押下状態となるまでの状態を「第3状態」という。
図5の例では、タイミングTDとタイミングTBとの間が第3状態である。
【0042】
なお、本実施形態では、第3状態では、判定部15により第1判定処理が実行されず、第3状態において確定値が第1閾値TH1以上となった場合であっても第1事象は検出されない。これは、振動、指の震え等により、第3状態のときに確定値が第1閾値TH1を超えることがあり得るため、このような場合に、ユーザが押下操作を意図的に行っていないのにもかかわらず、第1事象が検出されることを防止するためである。
【0043】
また、本実施形態では、第3状態となった後、一旦、非押下状態とならない限り、再び、第1判定処理が行われない。これは、以下の理由による。すなわち、通常、押下操作は、接触検出可能領域3が他の手段で押下されていない状態で行われる。また、ユーザが連続して押下操作する場合であっても、通常、指を接触検出可能領域3から完全に離した後、新たに押下操作を開始する。これを踏まえ、第3状態となった後、非押下状態とならない限り第1判定判定が行われないようにすることにより、通常の態様で押下操作が行われた場合以外のケースで、第1事象が検出される可能性を低減している。
【0044】
以上が判定部15の基本的な処理である。後に明らかとなる通り、接触検出部13により接触検出可能領域3に対する接触が検出されているときに、判定部15により第1事象が検出された場合、ユーザのオブジェクトの選択が確定し(=接触が有効となり)、そのオブジェクトに所定のアクションが発生する。所定のアクションは、オブジェクトの選択が確定したことがユーザに伝わるようなものであればどのようなものでもよく、一例として、瞬間的にオブジェクトの大きさが変化したり、オブジェクトが震えたりするアクションである。その後、判定部15により第2事象が検出された場合、指の離間(リリース)が有効となり、表示パネル10に表示されていた画面が選択されたオブジェクトに対応する画面に切り替わる。
【0045】
そして、第1状態、第2状態および第3状態のそれぞれについて、要求される事項が異なっている。すなわち、第1状態では、オブジェクトを選択するための押下操作を行うユーザは、オブジェクトの選択が確定していない(対応するアクションが発生していない)との認識の下、指を表示入力装置2に対して押し込んでいく。これを踏まえ、第1状態では、ユーザにより意図的な指の押し込みがあったときに、第1事象が検出されるようにすることが求められる。
【0046】
また、第2状態では、ユーザは、オブジェクトの選択が確定したとの認識の下、表示入力装置2から指を離していく。これを踏まえ、第2状態では、ユーザが意図的に指を表示入力装置2から離していったときに、第2事象が検出されるようにすることが求められる。また、第2閾値TH2がピーク値に基づいて定められる変動値であるという特徴があり、第2状態では、このことに対応する処理を実行することも求められる。
【0047】
また、第3状態では、ユーザの指の接触検出可能領域3からの離間に応じてできるだけ速やかに非押下状態に移行し、新たに押下操作が行われた場合に、それに応じて第1判定処理が行われるような状態としておくことが求められる。なお、非押下状態は、第1~第3判定処理が行われないため、その分処理負荷が小さく、その点でも、ユーザの指の離間に応じて速やかに非押下状態に移行することが求められる。
【0048】
本実施形態に係る判定部15は、第1~第3状態の各状態の要求を踏まえ、各状態において以下の方法で確定値を決定する。以下、第1~第3状態のそれぞれについて、判定部15の処理を詳述する。
【0049】
<第1状態>
第1状態において、判定部15は、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したときに確定値を急峻に下降させる。以下、確定値を決定するときのこの方法を「第1設定方法」という。
【0050】
第1状態において、判定部15が、押下力が急峻に上昇したときに、確定値が急峻に上昇することを抑制することによって以下の効果を奏し、第1状態の要求に応えることができる。すなわち、表示入力装置2に対して加わる振動に起因して、押下力検出センサ11に検出される押下力が急峻に上昇した場合であっても、確定値が第1閾値TH1以上となりにくく、誤検出(ユーザの意図に反して、第1事象が検出されること)を抑制でき、ユーザにより意図的な指の押し込みがあった場合に第1事象が検出される確率を高めることができる。
【0051】
また、第1状態において、判定部15が、押下力が急峻に下降したときに確定値を急峻に下降させることによって以下の効果を奏し、第1状態の要求に応えることができる。ここで、第1状態では、ユーザが意図せず押下検出可能領域5が押下され(例えば、偶然、何らかの物体が当たった場合)、すぐに押下が解除されたり、また、ユーザが誤って押下操作したものの、すぐに押下を解除したりすることがある。これを踏まえ、判定部15が上記処理を行うことにより、押下操作以外のイレギュラーな方法で押下検出可能領域5が押下され、すぐに解除されたときに、押下の解除に応じて急峻に確定値を下降させ、すぐに非押下状態へ移行させることができる。なお、表示入力装置2に対して加わる振動に起因して、押下力が急峻に下降した場合、これに準じて確定値も急峻に下降することになるが、これにより何らかの誤検出が発生することはなく、問題はない。
【0052】
判定部15は、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制するにあたって、確定値の単位時間あたりの上昇に向かう変化量に制限を加える。詳述すると、判定部15は、測定値を入力する度に以下の処理を実行する。すなわち、測定値を入力したタイミングをタイミングNと表現し、このタイミングNよりも1つ前の周期のタイミングをタイミングN-1と表現するとする。判定部15は、押下力検出部14からタイミングNで入力した測定値が、タイミングN-1で自身が決定した確定値に、予め定められた増加基準量Zを加えた値よりも小さい場合、タイミングNで入力した測定値を、タイミングNの確定値として決定する。一方、判定部15は、タイミングNで入力した測定値が、タイミングN-1で確定した確定値に増加基準量Zを加えた値以上の場合、「タイミングN-1で確定した確定値に増加基準量Zを加えた値」をタイミングNの確定値として決定する。
【0053】
図6は、時間の経過を横軸とし、測定値および確定値の大きさを縦軸とする図表上のグラフによって測定値および確定値の推移を示す図である。
図6の横軸には、判定部15が確定値を決定する周期(=押下力検出部14が測定値を検出する周期)に従って目盛りが付けられている。以下、量として表される増加基準量Zが「2[N]」であるものとし、
図6を用いて判定部15の処理を具体的に説明する。
【0054】
図6を参照し、タイミングT0において測定値および確定値が「0[N]」であるとする。この場合、判定部15は、タイミングT1における上限値を「2[N]」と決定する。タイミングT1における上限値とは、タイミングT1において確定値がとり得る最大の値のことを意味し、各タイミングにおいて確定値が上限値を超えることはできない。またタイミングT1における上限値は、タイミングT0における確定値(「0[N]」)+増加基準量Z(「2[N]」)によって定められる。
【0055】
図6を参照し、タイミングT1において、「1[N]」を示す測定値を入力すると、判定部15は、確定値を「1[N]」と決定する。タイミングT1で入力した測定値(「1[N]」)が、タイミングT1における上限値(「2[N]」)よりも小さいからである。
【0056】
次いで、判定部15は、タイミングT2における上限値を「3[N]」と決定する。タイミングT2における上限値は、タイミングT1における確定値(「1[N]」)+増加基準量Z(「2[N]」)によって定められる。
【0057】
タイミングT2において、「5[N]」を示す測定値を入力すると、判定部15は、確定値をタイミングT2における上限値(「3[N]」)と同じ「3[N]」と決定する。タイミングT2で入力した測定値(「5[N]」)が、タイミングT2における上限値(「3[N]」)以上だからである。
【0058】
次いで、判定部15は、タイミングT3における上限値を「5[N]」と決定する。タイミングT3における上限値は、タイミングT2における確定値(「3[N]」)+増加基準量Z(「2[N]」)によって定められる。
【0059】
タイミングT3において、「2[N]」を示す測定値を入力すると、判定部15は、確定値を「2[N]」と決定する。タイミングT3で入力した測定値(「2[N]」)が、タイミングT3における上限値(「5[N]」)よりも小さいからである。
【0060】
以上の方法で確定値が決定されることにより、押下力が急峻に上昇したときに、確定値が急峻に上昇することを抑制することが可能である。
図7、
図8、
図9の各図は、時間の経過を横軸とし、測定値の大きさを縦軸とする図表上のグラフによって測定値(
図9では測定値および確定値)の推移を示す図である。
【0061】
今、表示入力装置2に対して全く振動の影響がなかったとする。この場合において、ユーザが押下操作を行った場合、測定値は理想的には、
図7で示すように、押下操作が開始されたタイミングS0を起点として時間の経過に従って徐々に上昇していき、ある程度の時間が経過したタイミングS1で第1閾値TH1に至る。これは、接触(タッチ操作)が有効となる(本実施形態においては、確定値が第1閾値TH1以上となる)ためには、押し込むように押下操作を行う必要があることをユーザが認識しており、この認識の下、ユーザは、接触が有効となるまで接触位置を押し込むような操作をするからである。
【0062】
ここでユーザが押下操作を開始してから、測定値が第1閾値TH1に至る前に表示入力装置2に対して振動が加わったとする。一般に振動に起因して表示入力装置2に加わる押下力の波形は高周波であり、この場合、振動に起因して測定値が急峻に増加し、第1閾値TH1を超えることがある。
【0063】
図8は、
図7の例において振動が発生した場合の測定値の推移を示している。
図8の太線は、タイミングU0からタイミングU1(ただし、タイミングS0<タイミングU0<タイミングU1<タイミングS1)の間に、振動に起因して押下力検出センサ11に加わった押下力の波形(ただし説明の都合に合わせて単純化したもの)を表している。
図8の例では、振動が原因で、タイミングU0から測定値が急峻に増大し、タイミングU0付近で測定値が第1閾値TH1に至っている。
【0064】
仮に本発明を適用せず、測定値をそのまま第1閾値TH1と比較して押下操作の判定を行った場合、タイミングU0付近で接触が有効と判定されることになる。この場合、押し込むように押下操作を行って初めて接触が有効になると認識しているユーザが、通常と異なる態様で接触の有効/無効に関する処理が行われているとの印象を抱き、不具合が発生したと誤って認識してしまう可能性がある。
【0065】
図9は、
図8の場合に、本実施形態の判定部15により決定される確定値の推移を記した図である。なお
図9では、図面の見やすさのため、確定値の値を少しだけ底上げし、確定値と測定値とが同じ値であっても、ずれた位置にプロットされるようにしている。一方で本実施形態によれば、一周期の間に増加基準量Z以上に増加するほど測定値が急峻に増加している場合には、今回のタイミングの確定値の、前のタイミングの確定値に対する増加量は、増加基準量Zに制限される。このため、
図9のタイミングU0付近からタイミングU1付近で示すように、振動に起因して測定値が急峻に変移した場合であっても、確定値は急峻に変化せず、確定値が振動に起因して第1閾値TH1を超えてしまう可能性を低減することができる。
【0066】
なお、第1状態では、判定部15は、第2状態における判定部15の処理の説明にて説明する、減少基準量Yを用いた確定値の急峻な下降の抑制を行わない。これにより、押下力が急峻に下降したときに確定値を急峻に下降させる。
【0067】
<第2状態>
第2状態において、判定部15は、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したときに確定値が急峻に下降することを抑制する。以下、確定値を決定するときのこの方法を「第2設定方法」という。
【0068】
第2状態において、判定部15が、押下力が急峻に上昇したときに、確定値が急峻に上昇することを抑制することによって以下の効果を奏し、第2状態の要求に応えることができる。すなわち、第2閾値TH2は、ピーク値基づいて定められる変動値である。これを踏まえ、第2状態において表示入力装置2に振動が加わった場合に、ピーク値が、振動が加わってなかった場合における仮のピーク値と乖離した値となることを抑制できる。これにより、表示入力装置2に振動が加わった場合であっても、ピーク値に基づいて定められる第2閾値TH2を、振動が加わっていない場合の第2閾値TH2に準じた適切な値とすることができる。
【0069】
また、第2状態において、判定部15が、押下力が急峻に下降したときには確定値の急峻な下降を抑制することによって以下の効果を奏し、第2状態の要求に応えることができる。すなわち、振動に起因して押下力が急峻に下降した場合であっても、確定値が第2閾値TH2以下となりにくい。また、ユーザの押下操作の手ブレに起因して押下力が急峻に下降した場合であっても、確定値が第2閾値TH2以下となりにくい。これにより、誤検出(ユーザの意図に反して、第2事象が検出されること)を抑制でき、ユーザにより意図的な指の離間があった場合に第2事象が検出される確率を高めることができる。
【0070】
判定部15は、確定値の単位時間あたりの上昇に向かう変化量に制限を加え、かつ、確定値の単位時間あたりの下降に向かう変化量に制限を加えることにより、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したときに確定値が急峻に下降することを抑制する。
【0071】
詳述すると、判定部15は、測定値を入力する度に以下の処理を実行する。すなわち、測定値を入力したタイミングをタイミングNと表現し、このタイミングNよりも1つ前の周期のタイミングをタイミングN-1と表現するとする。判定部15は、押下力検出部14からタイミングNで入力した測定値が、タイミングN-1で自身が決定した確定値に、予め定められた増加基準量Zを加えた値よりも小さく、かつ、タイミングN-1で決定した確定値から、予め定められた減少基準量Yを引いた値よりも大きい場合、タイミングNで入力した測定値を、タイミングNの確定値として決定する。一方、判定部15は、タイミングNで入力した測定値が、タイミングN-1で決定した確定値に増加基準量Zを加えた値以上の場合、「タイミングN-1で決定した確定値に増加基準量Zを加えた値」をタイミングNの確定値として決定する。また、判定部15は、タイミングNで入力した測定値が、タイミングN-1で決定した確定値から減少基準量Yを引いた値以下の場合、「タイミングN-1で決定した確定値から減少基準量Yを引いた値」をタイミングNの確定値として決定する。
【0072】
上記処理が行われることにより、一周期の間に増加基準量Z以上、増加するほど測定値が急峻に上昇している場合には、今回のタイミングの確定値の、前のタイミングの確定値に対する増加量は、増加基準量Zに制限される。また、一周期の間に減少基準量Y以上、減少するほど測定値が急峻に下降している場合には、今回のタイミングの確定値の、前のタイミングの確定値に対する減少量は、減少基準量Yに制限される。
【0073】
<第3状態>
第3状態において、判定部15は、押下力が急峻に下降したときに確定値を急峻に下降させる。これにより以下の効果を奏し、第2状態の要求に応えることができる。すなわち、上述したように、第3状態では、ユーザの指の接触検出可能領域3からの離間に応じてできるだけ早く非押下状態に移行し、新たに押下操作が行われた場合に、それに応じて第1判定処理が行われるような状態としておくことが求められる。そして、上記処理が行われることにより、ユーザによる押下の解除に応じて急峻に確定値を下降させることができ、第3状態の要求に応えることができる。
【0074】
なお、本実施形態では、判定部15は、第3状態において、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制する。これを踏まえ、判定部15は、第1設定方法で、押下力が急峻に上昇したときに確定値が上昇することを抑制すると共に、押下力が急峻に下降したときに確定値を急峻に下降させる。ただし、第3状態において、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制しないようにしてもよい。
【0075】
さて、判定部15は、接触検出部13により接触検出可能領域3に対する接触が検出されている状態のときに、第1事象を検出した場合、第1通知を処理実行部16に出力する。従って、第1事象を検出した場合であっても、接触検出部13により接触が検出されていない場合には、第1通知の出力は行われない。一方、判定部15は、第1通知を出力した場合において、第2事象を検出した場合、第2通知を処理実行部16に出力する。
【0076】
処理実行部16は、判定部15から第1通知を入力した場合、第1通知を入力した時点で接触検出部13から入力されている検出接触位置情報に基づいて接触位置を認識する。次いで、処理実行部16は、表示パネル10のGUIにおいて、接触位置に表示されているオブジェクトの選択を確定し、そのオブジェクトについて所定のアクションを発生させることを表示制御部17に指示する。また、処理実行部16は、判定部15から第2通知を入力した場合、選択を確定したオブジェクトに対応する画面への切り替えを表示制御部17に指示する。
【0077】
表示制御部17、所定のオブジェクトについて所定のアクションを発生させることの指示が処理実行部16からあった場合、表示パネル10を制御して、当該所定のアクションを発生させる。また、表示制御部17、所定のオブジェクトに対応する画面へ切り替えることの指示が処理実行部16からあった場合、表示パネル10を制御して、画面の切り替えを実行する。
【0078】
次に、本実施形態に係る押下検出装置1の動作例についてフローチャートを用いて説明する。
図10は、非押下状態から押下状態となった後の判定部15の動作を示すフローチャートである。
【0079】
図10で示すように、判定部15は、非押下状態から押下状態となったことを検出すると(ステップSA1)、確定値を決定する方法を第1設定方法とする(ステップSA2)。次いで、判定部15は、確定値が「0[N]」以下となったか否かを監視しつつ(ステップSA3)、確定値が第1閾値TH1以上となったか否かを監視する(ステップSA4)。確定値が「0[N]」以下となった場合(ステップSA3:YES)、判定部15は、フローチャートの処理を終了する。確定値が「0[N]」以下となった時点で、押下状態から非押下状態へ移行する。
【0080】
確定値が第1閾値TH1以上となった場合(ステップSA4:YES)、判定部15は、第1事象を検出する(ステップSA5)。次いで、判定部15は、第1通知_を処理実行部16に出力する(ステップSA6)。次いで、判定部15は、確定値を決定する方法を第2設定方法とする(ステップSA7)。次いで、判定部15は、随時、ピーク値および第2閾値TH2を決定すると共に、確定値が第2閾値TH2以下となったか否かを監視する(ステップSA8)。
【0081】
確定値が第2閾値TH2以下となった場合(ステップSA8:YES)、判定部15は、第2事象を検出する(ステップSA9)。次いで、判定部15は、第2通知を処理実行部16に出力する(ステップSA10)。次いで、判定部15は、確定値を決定する方法を第1設定方法とする(ステップSA11)。次いで、判定部15は、確定値が「0[N]」以下となったか否かを監視する(ステップSA12)。確定値が「0[N]」以下となった場合(ステップSA12:YES)、判定部15は、フローチャートの処理を終了する。確定値が「0[N]」以下となった時点で、押下状態から非押下状態へ移行する。
【0082】
以上、本実施形態を説明したが、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0083】
例えば、上記実施形態では、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制する方法について具体的な例(増加基準量Zを用いる方法)を例にして説明したが、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制する方法は、例示した方法に限られない。一例として、判定部15が、1つ前のタイミングで確定した確定値よりも、今回入力した測定値の方が大きい場合、一律に係数(例えば、「0.8」)を乗じるようにしてもよい。また、ローパスフィルタ、その他のフィルタを組み合わせて用いた方法により、押下力が急峻に上昇したときに確定値が急峻に上昇することを抑制するようにしてもよい。押下力が急峻に下降したときに確定値が急峻に下降することを抑制する方法についても同様である。
【0084】
また、上記実施形態では、第3状態のとき、判定部15は、第1設定方法で確定値を決定した。この点に関し、第3状態のとき、判定部15が、第2設定方法で確定値を決定する構成でもよい。この場合、第3状態において、押下力が急峻に下降したときに確定値が急峻に下降することが抑制されるため、非押下状態へ移行するタイミングが遅延することが想定されるが、誤検出が発生するわけではなく、許容される。
【0085】
例えば、上記実施形態では、押下対象が、車両に設けられた表示入力装置2であった。しかしながら、本発明が適用される押下検出装置1が押下操作を検出する押下対象は車両に設けられた表示入力装置2に限られない。一例として、車両以外の場所に設けられた表示入力装置2であってもよい。このほか、車内か車外かにかかわらず、スマートフォンやタブレット端末等であってもよく、ユーザによって押下される機械的構造の押下スイッチ(いわゆる押しボタン)であってもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、増加基準量Z(変形例においては減少基準量Y)は固定値であった。しかしながら、振動のレベルや振動の頻度を検出し、増加基準量Zを動的に変更する構成でもよい。
【0087】
また、上記実施形態において、押下検出装置1の機能ブロックが実行すると説明した処理の一部または全部を、押下検出装置1と外部装置とが協働して実行する構成としてもよい。この場合、押下検出装置1と外部装置とが協働して「押下検出装置」として機能する。一例として、判定部15の処理の一部または全部を、押下検出装置1とネットワークを介して通信可能なクラウドサーバが実行する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 押下検出装置
2 表示入力装置
14 押下力検出部
15 判定部