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特許7305546前立腺の病変におけるCopaifera属オレオレジンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】前立腺の病変におけるCopaifera属オレオレジンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20230703BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A61K36/48
A61P13/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019551555
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2018057076
(87)【国際公開番号】W WO2018172380
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】1752284
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500033483
【氏名又は名称】ピエール、ファーブル、メディカマン
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】クリステル、フィオリニ-ピュイバレ
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】Phytochemistry Letters,2014年,Vol. 10,p. 65-75
【文献】Molecules,2012年,Vol. 17,p. 3866-3889
【文献】Pharmaceutical Biology,2011年,Vol. 49, Issue 3,p. 306-313
【文献】Materials Science and Engineering C,2016年,Vol. 64,pp. 310-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.officinalis及びC.multijugaからなる群から選択されたCopaifera属種のオレオレジンを有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含むことを特徴とする、良性前立腺肥大症の治療及び/又は予防のための医薬組成物。
【請求項2】
C.officinalis及びC.multijugaからなる群から選択されたCopaifera属種のオレオレジンの、ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを含む不揮発性画分を有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含む、良性前立腺肥大症の治療及び/又は予防のための医薬組成物であって、
前記不揮発性画分が、水蒸気蒸留によって精油を完全に又は部分的に除去した後に取得される不揮発性画分であり、
前記不揮発性画分が、90重量%以上のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを含むことを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項3】
経口又は静脈内投与に適した形態であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺の疾患、特に良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の予防及び/又は治療へのCopaifera(コパイフェラ)属オレオレジン(oleoresin)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Copaifera属には35種が挙げられ、その全ては熱帯アメリカ、すなわち、メキシコ、北アルゼンチン及び大部分はブラジル原産の樹木である。この地域には、20を超える種が存在し、最も豊富であるのがC.officinalis、C.reticulata、C.multijugaである。Copaifera officinalisは、ブラジル、コロンビア及びベネズエラで主に見られる樹木である。それは、赤褐色の樹木であり、25mまで成長する。葉は、複葉であり、2~10枚の小葉を伴う偶数羽状であり、互生又は亜対生であり、微突頭であり、基部では不規則な円形である。それらは、長さ3~8cm及び幅2~4cmである。概して無柄である白い花は、7~14cmの花序に一群となっている。果実は、成熟時には直径20~25mmの膨らんだ小さな鞘で、無毛で、卵形の種を含む微突頭である。
【0003】
オレオレジンは、種々のCopaifera属種(Copaifera species)の樹皮に切り込みを入れることで採取される物質である。二次材と髄との合流する分泌管(anastomosed secretory channels of the secondary wood and the marrow)に見られるため、その抽出には、樹木から自然に流れ出ていけるように、幹に非常に深く切り込みを入れる必要がある。
【0004】
蒸気蒸留又は水蒸気蒸留の後、オレオレジンからは、香水業において有名な、Copaiba(コパイバ)の精油を取得できる。
【0005】
Copaibaのオレオレジンは、ブラジルの先住民によって16世紀以来、医学分野において使用されている。それは、創傷の治療及び傷痕の除去のため、解熱剤、尿路の殺菌剤として、白帯下及び淋病に対しての、伝統的なブラジルの医薬として長い歴史を有している。一般的な強壮剤と考えられており、その適応症は、以下のとおりであり、性感染症、呼吸器疾患、喘息、リウマチ、二次的な皮膚病変、潰瘍であった。低用量において、それは、胃に直接作用する賦活薬である。Copaibaのオレオレジンは、炎症によって引き起こされる過剰な粘液の分泌を抑制する。現在、Copaibaのオレオレジンは、ブラジルの薬局でカプセルとして販売されており、そこでは、体内の炎症及び胃潰瘍の全ての型に適応とされている。局所に適用した際、それは、強力な殺菌剤及び抗炎症治癒剤であり、非常に困難な創傷の治癒に役立つ。Copaibaのオレオレジンは、関節痛、軽い捻挫、血腫、腱炎に非常に効果的であるといわれている。オレオレジンは、皮膚に直接適用される。また、オレオレジンは、痛みのある又は炎症した筋肉及び関節のマッサージオイルとして使用される。
【0006】
先行技術によって、シャペロンタンパク質(例えば、HSP27等)が、癌組織において、化学薬剤による化学療法に対する抵抗性に寄与していることが明らかにされており、結果として、Copaifera属のオイル由来のハードウィッキ酸がHSP27を阻害することが記載されている。この主題に関する研究は、Copaifera属のオイル中に他のシャペロン阻害剤を同定することを目的としている(Phytochemistry Letters,10(2014);65-75)。そのような文書の一つは、オイルの非酸性画分(non-acidic fraction)及び酸性細画分(acidic subfraction)の唯一つ(ジテルペン酸もジテルペン酸エステルも含まない画分)が、抗増殖活性を有することを示している。残りの細画分(すなわち酸性の画分)は、抗シャペロン活性を示す。結果として、この文書は、上記化学薬剤療法に対する癌細胞の抵抗性に対抗するために、非常に特定の場合、すなわち、Copaifera属のオイルと化学薬剤による化学療法との組み合わせを対象にしている。この文書は、Copaifera属のオイル由来のハードウィッキ酸が、抗癌剤である抗腫瘍剤との組み合わせにおいて活性を有して、抗癌剤に対する抵抗性に寄与している代表物であるシャペロンタンパク質を阻害することのみを結論付けている。
【0007】
また、必要に応じて蒸留されたCopaibaのオレオレジンは、化粧品並びに、石鹸、風呂の気泡剤、洗剤及びクリームの製造、並びに香水の固定剤として使用されている。オレオレジンは、食品産業において香味剤として使用されることもある。また、Copaibaのオレオレジンは、芸術家にとっての材料として、とりわけ油絵の具の配合及び装飾陶磁器に使用される。
【0008】
オレオレジンは、無色で粘りの少ない液体であり、時間とともに、油性の粘度を帯びて、緑がかった黄色になる。その粘度及び色は、由来となる樹木及びそこで見られる精油に依存して、僅かに変化する。そのにおいは強く不快であり、その風味は苦く刺激性がある。オレオレジンは、水に不溶性であり、アルコール及びエーテルに完全に可溶性である。
【0009】
C.officinalisのオレオレジンは、それらの揮発性によって区別される二つの画分からなる。つまり、各画分は、異なる化合物によって特徴付けされる:
オレオレジンの50~90%に相当する「揮発性の」精油は、大部分がセスキテルペンからなる。これらのセスキテルペンの中で、大部分のゲルマクレンD、(E)-β-カリオフィレン、β-及びδ-エレメン、α-イランゲン、α-グルジュネン、α-フムレンは区別することができる。少数部分のセスキテルペンは、α-クベベン、α-コパエン、7-エピ-セスキツジェン、シス-及びトランス-α-ベルガモテン、セスキサビネン-A及び-B、4αH,10αH-グアイア-1(5),6-ジエン、アロ-アロマデンドレン、γ-ウウロレン(uurolene)、α-アモルフェン、β-セリネン、ビシクロセスキフェランドレン(bicycliosesquiphyllandrene)、α-ムウロレン、β-ビサボレン、γ-カジネン、δ-カジネン、シス-カラメン、ゾナレン、カキナ-1’4-ジエン(cakina-1’4-diene)、α-カジネン、α-カラコレン、セリナ-3,7(11)-ジエン、ゲルマクレンBである。この揮発性オイルは、非常に透明で無色であり、非常に顕著なにおい及び味である。
オレオレジンの10~50%に相当する「不揮発性の」画分は、大部分は以下に示すジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルからなる。つまり、コパール酸、コパイフェロール酸、アガテンジオール酸ジメチルエステル、アガト酸、3β-ヒドロキシアンチコパール酸メチルエステル、ハードウィッキ酸、7α-アセトキシハードウィッキ酸である。この蒸留残渣は、芳香のある暗褐色の粘稠液である。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、Copaifera属オレオレジンが特に有利な抗-5α-還元酵素の活性を有することを示した。
【0011】
5α-還元酵素阻害剤の役割は、前立腺の病態生理学、とりわけ良性前立腺肥大症及び前立腺癌において確立されている(Rittmaster,Journal of Andrology,vol.18,no.6,1997)。
【0012】
前立腺は、男性の泌尿生殖器系における最も大きな外分泌腺である。それは、生殖管と尿路との交点に位置している。精嚢に沿って、前立腺は、精液の合成及び放出に必須の役割を果たしている。前立腺は、その平滑筋部を通して、排尿制御サイクルに非常に間接的に寄与している。最後に、前立腺は、男性の性的な応答に関与している血管及び神経の束(vascular and nerve pedicles)に囲まれている。加齢に伴う前立腺の解剖学的な変化は、生活の質の低下につながる排尿障害及び性機能不全の原因となり得ることもある。
【0013】
前立腺は、3つの重要な疾患、すなわち、前立腺炎、前立腺腫又は良性前立腺肥大症、及び前立腺癌の患部となり得る。しかしながら、今日まで、5α-還元酵素が良性前立腺肥大症及び前立腺癌に関与していることが明らかにされているのみである。
【0014】
良性前立腺肥大症は、加齢によって促進されるありふれた状態であり、慢性的な排尿障害の原因となる前立腺腫の進行に関与している。良性前立腺肥大症は、前立腺の肥大によって特徴付けられる。肥大した前立腺は、膀胱を押しながら尿道を圧迫して、結果として、頻尿及び排尿に関する様々な問題(尿勢低下、尿線途絶、痛み、その他の問題)を引き起こす。ほとんど全ての男性は、加齢とともに良性前立腺肥大症となる傾向がある。実際、60歳の男性の50%以上が良性前立腺肥大症であり、80歳以上では90%である。しかしながら、彼らの全員がそれに苦しむわけではなく、泌尿器症状に悩まされるのは、二人に一人である。この病状の原因は、はっきりとは解明されておらず、おそらく遺伝的素因が存在しているが、他の因子も関与している。また一方で、尿路感染、急性尿閉、膀胱結石及び腎障害等の様々な合併症の可能性があるため、この病状は軽んじるべきではない。
【0015】
前立腺癌は、ありふれた疾患であり、先進国において二番目に多い男性の癌である。遺伝的素因が存在しているであろう。ほとんどの前立腺癌は、非常に緩やかに進行する。大抵、腫瘍は前立腺内に局在したままであり、健康への影響は限られているが、時には、泌尿器障害又は勃起不全を引き起こす。しかしながら、いくらかの前立腺癌は、より速く進行して、拡散することもある。腺癌が、前立腺癌の最もありふれた形態である。それは、症例の約95%に相当する。癌の重症度は、腫瘍の程度及び癌細胞の種類に依存する。
【0016】
テストステロンは、その代謝物の一つであるジヒドロテストステロンを通して、前立腺の成長を促進する。テストステロンは、5α-還元酵素の作用によってジヒドロテストステロンに変換される。ジヒドロテストステロンは、アンドロゲン受容体に高い結合親和性を有する。テストステロンと比較して、ジヒドロテストステロンは、前立腺細胞の転写活性を2~10倍に刺激する。Ex vivoにおいて、ジヒドロテストステロンは、前立腺腫瘍の増殖に対して、テストステロンよりもはるかに強力な刺激作用を有する。良性前立腺肥大症の兆候を示す男性において、5α-還元酵素の阻害によって、前立腺の縮小、症状及び尿量の改善、並びに急性尿閉のリスク低減を示す。
【0017】
5α-還元酵素には二つのアイソフォーム、5αR1及び5αR2が存在しており、それらは二つの異なる遺伝子、SRD5A1及びSRD5A2によってそれぞれコードされており、別々の染色体に位置している。5αR2アイソザイムは、主に男性の生殖組織、精嚢、精巣上体及び前立腺において見られる。一方で、5αR1アイソザイムは、主に肝臓及び皮膚において見られる。5αR2は、前立腺組織において高濃度で存在しており、テストステロンに高い親和性を有する。フィナステリド(finasteride)は、強力な5αR2阻害剤であり、69nMの50%阻害濃度(IC50)を有するが、5αR1の阻害においては、よりずっと低い効果であり、360nMのIC50である。対照的に、デュタステリド(dutasteride)は、5αR1及び5αR2の両方を同様に阻害して、それぞれ6nM及び7nMのIC50である。デュタステリドは、フィナステリドより効果的であるようで、血清中のジヒドロテストステロンの平均レベルをそれぞれ94.7% vs 70.8%減少させた。前立腺内における、ジヒドロテストステロンのより大幅な減少が、デュタステリドによって観察され、これにより、5αR1が、前立腺内のジヒドロテストステロンの合成に寄与しているであろうことが示唆された。前立腺癌の阻害における5α-還元酵素の役割は、動物モデルで報告されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施形態によれば、本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するためのCopaifera属オレオレジンに関する。
【0019】
第2実施形態において、本発明は、第1実施形態に記載の使用のためのCopaifera属オレオレジンであって、オレオレジンが、C.officinalis、C.multijuga、C.reticulataからなる群から選択されたCopaifera属種に由来することを特徴とする、Copaifera属オレオレジンに関する。
【0020】
第3実施形態において、本発明は、第1又は第2実施形態に記載の使用のためのオレオレジンのジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル画分であって、90重量%以上のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを含むことを特徴とする、ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル画分に関する。
【0021】
本発明の第4実施形態は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するための医薬組成物であって、第1又は第2実施形態に記載のCopaifera属オレオレジン又は第3実施形態に記載の画分を有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含むことを特徴とする、医薬組成物に関する。上記オレオレジン又は上記画分は、上記組成物における唯一の有効成分であることが有利である。
【0022】
本発明の第5実施形態は、第4実施形態に記載の使用のための医薬組成物であって、オレオレジンが、C.officinalis、C.multijuga、C.reticulataからなる群から選択されたCopaifera属種に由来することを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0023】
本発明の第6実施形態は、第4又は第5実施形態に記載の使用のための医薬組成物であって、第3実施形態に記載の画分を有効成分として含むことを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0024】
また、本発明の第7実施形態は、第4~第6実施形態のいずれかに記載の使用のための医薬組成物であって、経口又は静脈内投与に適した形態であることを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0025】
本発明のオレオレジン又は画分は、本発明の使用のための医薬組成物において、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための唯一の有効成分であることが有利である。
【0026】
本発明の他の実施形態は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品の製造のための、上記実施形態のいずれかに記載のCopaifera属オレオレジン又は画分の使用に関する。
【0027】
また、本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌を治療及び/又は予防する方法であって、上記実施形態のいずれかに記載のCopaifera属オレオレジン又は画分を有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含む、又は、それらからなる医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することを含む方法に関する。
【0028】
本発明の方法によれば、上記オレオレジン又は上記画分は、上記組成物における唯一の抗癌活性成分であることが有利である。
【0029】
本発明の目的において、「Copaifera属オレオレジン(Copaifera oleoresin)」は、Copaifera属種の1又は複数の樹木の滲出液であって、大部分がセスキテルペン化合物から構成される揮発性画分と、大部分がジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルから構成される不揮発性画分とを含む滲出液を意味する。
【0030】
本発明の目的において、「Copaifera属オレオレジンのジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル画分」は、とりわけ水蒸気蒸留によって精油を完全に又は部分的に除去、好ましくは完全に除去した後に取得されるオレオレジンの「不揮発性」画分を意味する。この不揮発性画分は、80重量%以上、好ましくは80~90重量%のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを含む。
【0031】
また、ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルの混合物は、Copaifera属オレオレジン、又はCopaifera属オレオレジンの「不揮発性」画分から、とりわけ液液抽出によって取得可能であり、液液抽出は、抽出及び抽出溶媒の除去後に取得される液体画分の総重量を基準として、50~100重量%、好ましくは60~100重量%、さらに好ましくは80~100重量%のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル濃度を有する混合物が取得されるまで行われる。抽出及び溶媒の除去後に取得される、この液体画分は、上記混合物を表す。
【0032】
ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルの混合物は、コパイン酸、コパイフェロール酸、アガテンジオール酸ジメチルエステル、アガト酸、3β-ヒドロキシアンチコパール酸メチルエステル、ハードウィッキ酸、7α-アセトキシハードウィッキ酸からなる群から選択された2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、又は7種以上のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを含む。
【0033】
【表1】
【0034】
ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルの混合物は、下記のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル、すなわち、コパイン酸、コパイフェロール酸、アガテンジオール酸ジメチルエステル、アガト酸、3β-ヒドロキシアンチコパール酸メチルエステル、ハードウィッキ酸、7α-アセトキシハードウィッキ酸の全てを含むことが好ましい。
【0035】
本発明の実施形態において、オレオレジンは、重量パーセントにおいて、上記7種のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを7.5~40重量%、又は好ましくは10~30重量%含む。
【0036】
本発明の実施形態において、オレオレジンは、ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルが富化されたオレオレジンであってもよく、そのような富化されたオレオレジンの上記7種のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルの含有量は、48~90重量%、好ましくは60~90重量%、さらに好ましくは60~85重量%である。
【0037】
本発明の目的において、「富化されたレジン」という語は、オレオレジンが、該オレオレジンの他の化合物及び分子と比較して、これら7種のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルの含有量を濃縮するために設計された方法によって処理されていることを意味する。結果として、ジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルと他の分子との比率は、増加方向に調整され、天然産物又は樹木から抽出された産物とは異なる比率を示す。
【0038】
【表2】
【0039】
本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するためのCopaifera属オレオレジンに関する。
【0040】
特定の実施形態によれば、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するためのオレオレジンは、Copaifera officinalis、Copaifera multijuga、又はCopaifera reticulataからなる群から選択されたCopaifera属種に由来する。Copaifera officinalis種に由来するオレオレジンが好ましい。
【0041】
本発明の同等に有利な実施形態によれば、オレオレジンのジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル画分のみが、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用される。使用されるオレオレジンの画分は、90重量%以上、有利には92重量%以上、さらに有利には95重量%以上のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルからなる。
【0042】
本発明の主題の一つは、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の予防及び/又は治療のための医薬品の製造のための、Copaifera属オレオレジンの使用に関する。
【0043】
好ましい実施形態によれば、本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の予防及び/又は治療のための医薬品の製造のための、Copaifera officinalis、C.multijuga、又はC.reticulataに由来するオレオレジンの使用に関する。
【0044】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の予防及び/又は治療のための医薬品の製造のための、Copaifera officinalisのオレオレジンの使用に関する。
【0045】
特定の実施形態によれば、本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品の製造のための、90重量%以上、好ましくは92重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルからなるCopaifera属オレオレジンのジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル画分の使用に関する。
【0046】
本発明によれば、「治療」は、前立腺肥大症又は前立腺腫の進行の阻止、さらに好ましくは退縮、さらに一層好ましくは消失を意味する。
【0047】
本発明によれば、「予防」は、前立腺肥大症及び前立腺腫の進行の予防又は遅延を意味する。
【0048】
本発明の治療又は予防は、ヒト及び動物におけるものを意味する。
【0049】
さらに本発明は、Copaifera属オレオレジン及び医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0050】
本発明において、「医薬的に許容可能な」は、医薬組成物の調製に有用であり、一般に安全であり、無毒であり、生物学的にもその他の点でも不適切でなく、そして、ヒトの医薬的使用に許容可能であることを意味する。
【0051】
ここで使用される際、「医薬的に許容可能な賦形剤」という語は、いかなる補助剤又は賦形剤(例えば、溶媒、可溶化剤、保存料、乳化剤、増粘剤、展着剤、水への固定剤、着色料、香味剤、甘味料)を含み、これらの賦形剤の使用は当業者に周知である。
【0052】
さらに本発明は、医薬品として使用するための医薬組成物に関する。
【0053】
さらに本発明は、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するための医薬組成物であって、本発明のCopaifera属オレオレジン又は本発明のCopaifera属オレオレジンのジテルペン酸及び/若しくはジテルペン酸エステル画分を有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含むことを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0054】
本発明の特定の実施形態によれば、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するための上記組成物は、C.officinalis、C.multijuga、C.reticulataからなる群から選択されたCopaifera属種に由来するオレオレジンを有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含む。
【0055】
本発明の他の実施形態によれば、良性前立腺肥大症及び/又は前立腺癌の治療及び/又は予防のための医薬品として使用するための上記組成物は、90重量%以上、好ましくは92重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルを含むオレオレジンのジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステル画分を有効成分として含むとともに、医薬的に許容可能な1種以上の賦形剤を含む。
【0056】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物への投与に適切な形態に製剤化することができる。投与量は、関係する治療及び病状によって変化する。これらの組成物は、経口投与、舌下投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、局所投与又は直腸投与されるように設計される。この場合において、有効成分は、通常の医薬担体と混合された単位剤形として、動物及びヒトへ投与することができる。適切な単位剤形には、経口剤形(例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口液剤若しくは懸濁剤等)、舌下及び口腔剤形、皮下、局所、筋肉内、静脈内、鼻腔内又は眼内剤形並びに直腸剤形を含む。
【0057】
錠剤形態の固形組成物が調剤される際、主な有効成分は、医薬担体(例えば、ゼラチン、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアゴム、シリカ、又は類似物等)と混合される。錠剤は、スクロース又は他の適切な材料によってコーティングされていてもよいし、持続又は遅延した活性を有し、継続的に所定量の有効成分を放出するように処理されていてもよい。
【0058】
カプセル剤は、希釈した有効成分を混合して、結果として生じる混合物を軟カプセル又は硬カプセルに注入して取得される。
【0059】
シロップ又はエリキシル剤形の製剤は、甘味料、防腐剤、香味剤及び適切な着色料と組み合わせられた有効成分を含んでいてもよい。
【0060】
水に分散可能な散剤又は顆粒剤は、味覚調整剤又は甘味料に加えて、分散若しくは湿潤剤又は懸濁化剤と混合された有効成分を含んでいてもよい。
【0061】
直腸投与には、直腸の温度で融解する結合剤(例えば、ココアバター又はポリエチレングリコール等)と調合された座薬が、使用される。
【0062】
非経口(静脈内、筋肉内等)、鼻腔内又は眼内投与には、医薬品に適合する分散剤及び/又は湿潤剤を含む、水性懸濁液、等張食塩水又は滅菌注射剤溶液が、使用される。
【0063】
また、有効成分は、場合により1種以上の添加担体とともに、マイクロカプセルとして製剤化することもできる。
【0064】
本発明の医薬組成物は、経口又は静脈内投与に適切な形態であることが有利である。
【0065】
本発明の組成物は、前立腺癌の治療又は予防のために、前立腺切除、放射線治療、及び/又はホルモン療法と組み合わせて、同時に、別々に又は連続的に投与することができる。
【実施例
【0066】
下記の例によって、本発明を、その範囲を限定することなく説明する。
【0067】
例1:ヒト毛乳頭由来の線維芽細胞の5α-還元酵素活性に対する、異なる化合物の効果
【0068】
この試験の目的は、5α-還元酵素に対する、種々の化合物の潜在的な阻害活性を評価することであった。
【0069】
材料及び方法
試験は、ドナーの毛乳頭由来のヒト細胞で行われる。毛乳頭は前立腺組織と同様に5αR2アイソフォームを有するため、このモデルは魅力的である。細胞を24穴プレートに播種して、標準培養条件下で(37℃及び5% CO)、L-グルタミン(2mM)、ペニシリン(50U/mL)、ストレプトマイシン(50μg/mL)及びウシ胎児血清(10%)を添加したDMEM培養培地で24時間培養する。その後、培地を、L-グルタミン(2mM)、ペニシリン(50U/mL)、ストレプトマイシン(50μg/mL)及びウシ胎児血清(1%)を添加したDMEM解析用培地と交換する。この解析用培地は、24時間の前培養のために、試験される産物及び参照として使用する化合物、フィナステリド(10μM)を含み得るが、対照条件では含み得ない。その後、細胞を、試験又は参照用産物を含むが、対照条件では含まず、かつ、[C14]-テストステロンを含む解析用培地で処理して、これらの条件で24時間培養した。培養後、上清をテストステロン代謝解析用に回収した。全ての試験を、3回行った。ステロイド分子を、クロロホルム/メタノール混合物を使用して上清から抽出した。有機層を回収して、異なる分子種(テストステロン代謝物)を、ジクロロメタン、酢酸エチル及びメタノールを含む溶媒系を使用した薄層クロマトグラフィーによって分離した。オートラジオグラフィーをクロマトグラフィーの際に行い、変換されたテストステロンを、濃度測定解析によって評価した。
【0070】
このようにして、テストステロンのジヒドロテストステロンへの代謝物は、5α-還元酵素活性を反映して、ジヒドロテストステロン/テストステロン比率によって評価される。
【0071】
結果
第一群の試験は、Copaifera officinalisのオレオレジンの効果を強調するものである(下記表3)。驚くべきことに、本発明者らは、Copaifera officinalisのオレオレジンによる5α-還元酵素の阻害は、有意で再現可能な活性であることを明らかにし、この阻害はさらに、濃度依存的であるようである。フィナステリドによるこの酵素の強力な阻害は、これら全ての試験を実際に有効なものにする。
【0072】
【表3】
【0073】
試験したオレオレジンを、例2に記載の方法によって調製した。
【0074】
比較として、Serenoa repensの抽出物もまた、これらの試験の一つとして試験した。Serenoa repensの抽出物は、saw palmettoの果実由来であり、とりわけ良性前立腺肥大症の治療において、最もよく研究されており、単体又は組み合わせて最もよく処方されているファイトニュートリエント(phytonutrient)である(Gordon AE,Am.Fam.Physician,67(06),1281-1283,2003)。10μg/mLにおいて、Serenoa repensの抽出物は、5α-還元酵素の有意な阻害を誘導しないが、一方で、20μg/mLにおいて、この抽出物は、統計的有意性に達する23%の阻害を誘導する(対照に対してp<0.05)。
【0075】
第二群の試験を、5α-還元酵素に対する阻害活性が、不揮発性画分によって担われているか、あるいは、精油に相当する揮発性画分によって担われているかを評価するために行った。結果を、下記表4にまとめる。揮発性及び不揮発性画分の調製を、非極性溶媒としてジエチルエステルを使用する例4に記載の方法によって行った。
【0076】
【表4】
【0077】
Copaifera officinalisのオレオレジンの活性は、不揮発性画分によって担われていることが明らかとなり、揮発性画分の活性は全く検出されなかった。5α-還元酵素の阻害は、不揮発性画分において14%のみであるが、この減少は、統計的有意性に達する(p<0.05)。
【0078】
第三群の試験を行って、他のCopaifera属種、とりわけC.multijugaもまた、5α-還元酵素の阻害に関する有利な活性を有することを示した。本発明者らは、阻害活性を担う不揮発性画分に着目した。結果を、下記表5にまとめる。
【0079】
【表5】
【0080】
揮発性及び不揮発性画分の調製を、非極性溶媒としてジエチルエステルを使用する例4に記載の方法によって行った。
【0081】
これらの結果は、いくつかのCopaifera属種は有益であるということを明確に示している。実際、C.multijuga種の不揮発性画分は、10μg/mLにおいて5α-還元酵素の31%の阻害に達する。
【0082】
これら全ての結果によって、Copaifera属オレオレジンが5α-還元酵素に対して非常に有利な阻害活性を有するという結論に至る。この活性は、オレオレジンの不揮発性画分によって担われている。最後に、本発明者らはまた、この活性はいくつかのCopaifera属種に見られることを明らかにしている。
【0083】
例2:オレオレジンの調製
Copaifera officinalis及び/又はCopaifera multijuga及び/又はCopaifera reticulataの樹木の幹の樹皮に、切り込みを入れてオレオレジンを回収する。その後、窒素下で、これを破砕して安定化する。
【0084】
活性物質は、Copaifera officinalis及び/又はCopaifera multijuga及び/又はCopaifera reticulataの幹由来の100%自然のままのオレオレジンである。
【0085】
Copaifera officinalisのオレオレジンのLCMS分析
それぞれの試料を、標準的な直線的な勾配を使用するUHPLC-QTOFMSによって分析した。
【0086】
Waters社製Acquity UHPLCシステムによる分離
-カラム 100×2.1mm,1.7μm,プレカラムを有するAcquity BEH C18
-移動相:
移動相A:LCMSグレードの水+0.1%ギ酸
移動相B:LCMSグレードのアセトニトリル+0.1%ギ酸
-勾配:
【0087】
【表6】
取得(Acquisitions):
UV 220nm
【0088】
【表7】
【0089】
例3:不揮発性画分の調製
例2によって取得したオレオレジンを、10倍容量の水に懸濁して、100℃で4時間加熱して、水蒸気蒸留する。揮発性の精油を、濃縮によって回収する。水蒸気蒸留の後、蒸留残渣を回収する。凍結乾燥又は他の乾燥方法による乾燥の後、残渣は不揮発性画分を構成する。
【0090】
例4:不揮発性画分の別の方法による調製
例2によって取得されたCopaifera属オレオレジンは、8~10倍容量の水不混和性脂溶性溶媒(例えば、ジエチルエーテル、酢酸エチル等)に希釈する。この溶液を、5%水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を使用した液液抽出によって抽出する。操作を、4~5倍溶量の5%NaOHを使用して3回繰り返す。下相(塩基性水相)を、1Nの塩酸(HCl)の添加によって酸性化した後、水不混和性非極性溶媒(例えば、ジエチルエーテル、酢酸エチル等)を使用して液液抽出によって抽出する。酢酸エチル相を、水で洗浄した後、NaSO上で乾燥する。ロータリーエバポレーター又は他の乾燥方法による溶媒の除去の後、取得される乾燥残渣は、本発明のジテルペン酸及び/又はジテルペン酸エステルの混合物に相当する。
【0091】
【表8】