IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローム アンド ハース カンパニーの特許一覧

特許7305615ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20230703BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20230703BHJP
   C08F 285/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C08L33/12
C08L51/06
C08F285/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020502316
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 US2018041953
(87)【国際公開番号】W WO2019018219
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-03
(31)【優先権主張番号】62/535.519
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】クルツ、カルロス、エー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィリス、モリス
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-238704(JP,A)
【文献】特開2004-263034(JP,A)
【文献】特開2016-169259(JP,A)
【文献】特開2005-200502(JP,A)
【文献】特表2013-531115(JP,A)
【文献】特表2017-538021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0362367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08F251-289
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物であって、
(a)前記ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物の総重量に基づいて、30~90重量%のメチルメタクリレートポリマーであって、
(i)前記メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、50~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および
(ii)前記メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、0~50重量%の共重合性モノマー、の重合構造単位を含む、メチルメタクリレートポリマーと、
(b)前記ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、10~70重量%の多段アクリル衝撃改質剤であって、
(i)前記多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、50~99重量%のコアシェルポリマーであって、
(A)前記コアシェルポリマーの総重量に基づいて、50~99.9重量%のコアポリマーであって、前記コアポリマーの総重量に基づいて、(1)98.2~99.8重量%のC-C12アルキルアクリレートモノマー、および(2)0.2~1.8重量%の架橋剤の重合構造単位を含む、コアポリマーと、
(B)前記コアシェルポリマーの総重量に基づいて、0.1~50重量%のシェルポリマーであって、前記シェルポリマーの総重量に基づいて、(1)95~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(2)0~重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、シェルポリマーと、を含むコアシェルポリマーと、
(ii)前記多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、1~50重量%のオーバーポリマーであって、
(A)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、50~99.95重量%のメチルメタクリレートモノマー、
(B)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、0.05~2重量%の連鎖移動剤、および
(C)0~49.95重量の共重合性モノマー、の重合構造単位を含む、オーバーポリマーと、を含む、多段アクリル衝撃改質剤と、を含む、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物。
【請求項2】
前記多段アクリル衝撃改質剤の前記コアポリマーの前記C-C12アルキルアクリレートモノマーが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェノキシ-エチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、およびアクリロニトリルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記多段アクリル衝撃改質剤の前記コアポリマーの前記C-C12アルキルアクリレートモノマーが、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記オーバーポリマーの前記共重合性モノマーが、ブチルアクリレートを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記多段アクリル衝撃改質剤の前記オーバーポリマーの前記連鎖移動剤が、ブチル3-メルカプトプロピオネート、n-ドデシルメルカプタン、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、t-ノニルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、イソオクチル3-メルカプトプロピオネート、ペンタフェニルエタン、4-メチルベンゼンチオール、4,4′-チオ-ビス-ベンゼンチオール、メルカプトエタノール、3-メルカプトプロピオン酸、およびグリセロールメルカプタンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記連鎖移動剤が、ブチル3-メルカプトプロピオネートおよびドデシルメルカプタンのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記オーバーポリマーが、1,000~300,00g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記多段アクリル衝撃改質剤が、150~250nmの粒径を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物を含む製造品であって、
(a)前記ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、30~90重量%のメチルメタクリレートポリマーであって、
(i)前記メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、50~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および
(ii)前記メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、0~50重量%の共重合性モノマー、の重合構造単位を含む、メチルメタクリレートポリマーと、
(b)前記ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、10~70重量%の多段アクリル衝撃改質剤であって、
(i)前記多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、50~99重量%のコアシェルポリマーであって、
(A)前記コアシェルポリマーの総重量に基づいて、50~99.9重量%のコアポリマーであって、前記コアポリマーの総重量に基づいて、(1)98.4~99.8重量%のC-C12アルキルアクリレートモノマー、および(2)0.2~1.8重量%の架橋剤の重合構造単位を含む、コアポリマーと、
(B)前記コアシェルポリマーの総重量に基づいて、0.1~50重量%のシェルポリマーであって、前記シェルポリマーの総重量に基づいて、(1)95~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(2)0~重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、シェルポリマーと、を含むコアシェルポリマーと、
(ii)前記多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、1~50重量%のオーバーポリマーであって、
(A)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、50~99.95重量%のメチルメタクリレートモノマー、
(B)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、0.05~2重量%の連鎖移動剤、および
(C)0~49.95重量の共重合性モノマー、の重合構造単位を含む、オーバーポリマーと、を含む、多段アクリル衝撃改質剤と、を含む、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物を含む製造品。
【請求項10】
ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物であって、
(a)前記ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、50~70重量%のメチルメタクリレートポリマーであって、
(i)前記メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、90~99重量%のメチルメタクリレートモノマー、および
(ii)前記メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、1~10重量%の共重合性モノマー、の重合構造単位を含む、メチルメタクリレートポリマーと、
(b)前記ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、30~50重量%の多段アクリル衝撃改質剤であって、
(i)前記多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、65~95重量%のコアシェルポリマーであって、
(A)前記コアシェルポリマーの総重量に基づいて、90~98重量%のコアポリマーであって、前記コアポリマーの総重量に基づいて、(1)ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される99~99.6重量%のC-C12アルキルアクリレートモノマー、ならびに(2)0.4~1.0重量%のアリルメタクリレートの重合構造単位を含む、コアポリマーと、
(B)前記コアシェルポリマーの総重量に基づいて、2~10重量%のシェルポリマーであって、前記シェルポリマーの総重量に基づいて、(1)95~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(2)0~5重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、シェルポリマーと、を含むコアシェルポリマーと、
(ii)前記多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、5~35重量%のオーバーポリマーであって、
(A)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、84.5~97.5重量%のメチルメタクリレートモノマー、
(B)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、ブチル3-メルカプトプロピオネート、ドデシルメルカプタン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される0.5~1.5重量%の連鎖移動剤、ならびに
(C)前記オーバーポリマーの総重量に基づいて、1~15重量%のブチルアクリレートモノマー、の重合構造単位を含む、オーバーポリマーと、を含む、多段アクリル衝撃改質剤と、を含む、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物を含む製造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、メチルメタクリレートポリマーと、コアシェルポリマーおよびオーバーポリマーを含む多段アクリル衝撃改質剤とを含有する、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(メチルメタクリレート)(「PMMA」)は、優れた耐候性、剛性、耐擦傷性および耐UV性、ならびに流動特性を備えた高く評価されているプラスチックである。透明または不透明な材料として、多くの色合いおよび色相で加工することができることから、その潜在的な用途に柔軟性および幅広さが加えられる。これらの特性の結果として、PMMAは、サイディングおよびプロファイル用のキャップストック材料から、サイネージおよび自動車部品まで、多くの分野で適用されている。このような魅力的な特質にもかかわらず、PMMAは、脆性材料であり、例えば40または50重量%のマトリックスという高い添加量で、ゴム状の衝撃改質剤を使用する必要がある。このような添加量レベルであっても、他の材料と比較して、PMMAではわずかな衝撃の増加しか見られない。また、衝撃改質剤の存在により、系の光沢およびメルトフローが大幅に減少する(その処理性に重大な影響を及ぼす)。
【0003】
業界では、PMMA樹脂組成物に使用するために、様々な衝撃改質剤が利用されている。例えば、US2016/0340505は、アクリルコポリマー、耐擦傷性の改質剤、およびポリ(メチルメタクリレート)樹脂を含有する高光沢ポリ(メチルメタクリレート)-アクリルコポリマー組成物を開示している。しかしながら、先行技術は、高レベルの光沢および流動性を維持しながら高い衝撃性能を提供する、本発明によるPMMA樹脂組成物を開示していない。
【0004】
したがって、望ましい光沢およびメルトフロー特徴を維持しながら衝撃強度における改善を提供するアクリル衝撃改質剤を含有するPMMA樹脂組成物を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物を提供し、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物は、(a)ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、30~90重量%のメチルメタクリレートポリマーであって、(i)メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、50~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(ii)メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、0~50重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、メチルメタクリレートポリマーと、(b)ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、10~70重量%の多段アクリル衝撃改質剤であって、(i)多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、50~99重量%のコアシェルポリマーであって、(A)コアシェルポリマーの総重量に基づいて、50~99.9重量%のコアポリマーであって、コアポリマーの総重量に基づいて、(1)98.2~99.8重量%のC-C12アルキルアクリレートモノマー、および(2)0.2~1.8重量%の架橋剤の重合構造単位を含む、コアポリマーと、(B)コアシェルポリマーの総重量に基づいて、0.1~50重量%のシェルポリマーであって、シェルポリマーの総重量に基づいて、(1)50~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(2)0~50重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、シェルポリマーと、を含むコアシェルポリマーと、(ii)多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、1~50重量%のオーバーポリマーであって、(A)オーバーポリマーの総重量に基づいて、50~99.95重量%のメチルメタクリレートモノマー、(B)オーバーポリマーの総重量に基づいて、0.05~2重量%の連鎖移動剤、および(C)0~49.95重量の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、オーバーポリマーと、を含む、多段アクリル衝撃改質剤と、を含む。
【0006】
本発明の別の態様は、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物を含む製造品を提供し、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物は、(a)ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、30~90重量%のメチルメタクリレートポリマーであって、(i)メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、50~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(ii)メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、0~50重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、メチルメタクリレートポリマーと、(b)ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、10~70重量%の多段アクリル衝撃改質剤であって、(i)多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、50~99重量%のコアシェルポリマーであって、(A)コアシェルポリマーの総重量に基づいて、50~99.9重量%のコアポリマーであって、コアポリマーの総重量に基づいて、(1)98.2~99.8重量%のC-C12アルキルアクリレートモノマー、および(2)0.2~1.8重量%の架橋剤の重合構造単位を含む、コアポリマーと、(B)コアシェルポリマーの総重量に基づいて、0.1~50重量%のシェルポリマーであって、シェルポリマーの総重量に基づいて、(1)50~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(2)0~50重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、シェルポリマーと、を含むコアシェルポリマーと、(ii)多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、1~50重量%のオーバーポリマーであって、(A)オーバーポリマーの総重量に基づいて、50~99.95重量%のメチルメタクリレートモノマー、(B)オーバーポリマーの総重量に基づいて、0.05~2重量%の連鎖移動剤、および(C)0~49.95重量の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、オーバーポリマーと、を含む、多段アクリル衝撃改質剤と、を含む。
【0007】
別の態様では、本発明は、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物を提供し、ポリ(メチルメタクリレート)樹脂組成物は、(a)ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、50~70重量%のメチルメタクリレートポリマーであって、(i)メ
チルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、90~99重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(ii)メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、1~10重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、メチルメタクリレートポリマーと、(b)ポリ(メチルメタクリレート)樹脂の総重量に基づいて、30~50重量%の多段アクリル衝撃改質剤であって、(i)多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、65~95重量%のコアシェルポリマーであって、(A)コアシェルポリマーの総重量に基づいて、90~98重量%のコアポリマーであって、コアポリマーの総重量に基づいて、(1)ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される99~99.6重量%のC-C12アルキルアクリレートモノマー、ならびに(2)0.4~1.0重量%のアリルメタクリレートの重合構造単位を含む、コアポリマーと、(B)コアシェルポリマーの総重量に基づいて、2~10重量%のシェルポリマーであって、シェルポリマーの総重量に基づいて、(1)95~100重量%のメチルメタクリレートモノマー、および(2)0~5重量%の共重合性モノマーの重合構造単位を含む、シェルポリマーと、を含むコアシェルポリマーと、(ii)多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、5~35重量%のオーバーポリマーであって、(A)オーバーポリマーの総重量に基づいて、84.5~97.5重量%のメチルメタクリレートモノマー、(B)オーバーポリマーの総重量に基づいて、ブチル3-メルカプトプロピオネート、ドデシルメルカプタン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される0.5~1.5重量%の連鎖移動剤、ならびに(C)オーバーポリマーの総重量に基づいて、1~15重量%のブチルアクリレートモノマーの重合構造単位を含む、オーバーポリマーと、を含む、多段アクリル衝撃改質剤と、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本発明者らは、驚くべきことに、メチルメタクリレートポリマーと、コアシェルポリマーおよびオーバーポリマーを含有する多段アクリル衝撃改質剤とを含有する、ポリ(メチルメタクリレート)(「PMMA」)樹脂組成物が、光沢およびメルトフロー特徴を維持しながら衝撃強度における大幅な改善を提供することを発見した。
【0009】
本明細書で使用する場合、用語「ポリマー」は、同じ種類または異なる種類にかかわらず、モノマーを重合することによって調製されたポリマー化合物を指す。総称「ポリマー」には、用語「ホモポリマー」、「コポリマー」、「ターポリマー」、および「樹脂」が含まれる。本明細書で使用する場合、所定のモノマーの用語「重合構造単位」は、重合後のモノマーの残存物を指す。本明細書で使用する場合、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレートもしくはメタクリレートまたはそれらの組み合わせのいずれかを指し、用語「(メタ)アクリル」は、アクリルもしくはメタクリルまたはそれらの組み合わせのいずれかを指す。本明細書で使用する場合、用語「置換された」は、少なくとも1つの付着した化学基、例えば、アルキル基、アルケニル基、ビニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、他の官能基、およびそれらの組み合わせを有することを指す。
【0010】
本明細書で使用する場合、用語「オーバーポリマー」は、多段アクリル衝撃改質剤の最も外側のポリマーを指し、そのうちの20重量%未満のオーバーポリマーが衝撃改質剤の下部にあるコアシェルポリマーの上にグラフト化される。コアシェルポリマー上にグラフト化されるオーバーポリマーの量は、例えば、コア、コア-シェル、およびコア-シェルオーバーポリマー粒子から抽出された可溶性材料の比較によって決定することができる。このような方法には、例えば、好適な溶媒による各々の可溶性部分の抽出および不溶性材料(すなわち、グラフト化)からの可溶性材料(すなわち、非グラフト化)の単離(遠心分離による)が含まれる。次に、各部分を乾燥させて秤量する。固形物の量に基づいて、乾燥材料の重量を抽出前の初期固形物の重量で割ることによって、可溶性材料(すなわち、非グラフト化)の割合を計算することができる。
【0011】
本明細書で使用する場合、用語「分子量」もしくは「重量平均分子量」または「M」は、ASTM D5296-11(2011)に準拠するポリスチレン較正標準に対するアクリルポリマーのゲル浸透クロマトグラフィー(「GPC」)によって、テトラヒドロフラン(「THF」)を移動相および希釈剤として使用して測定されるポリマーの重量平均分子量を指す。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「粒径」は、Brookhaven BI-90 Particle Sizerを使用して測定されるエマルション(コ)ポリマー粒子の重量平均粒子径を意味する。
【0013】
本発明のPMMA樹脂組成物は、メチルメタクリレートポリマーおよび多段アクリル衝撃改質剤を含む。メチルメタクリレートポリマーは、PMMA樹脂組成物の総重量に基づいて、30~90重量%、好ましくは40~80重量%、およびより好ましくは50~70重量%の量で、PMMA樹脂組成物中に存在する。メチルメタクリレートポリマーは、メチルメタクリレートモノマー、および任意選択でメチルメタクリレートモノマーと共重合性であるモノマーの重合構造単位を含む。メチルメタクリレートポリマーは、エマルション重合、塊状重合、または溶液重合によって調製することができる。ある特定の実施形態では、メチルメタクリレートポリマーは、メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、50~100重量%、好ましくは90~99重量%、およびより好ましくは95~98重量%の量で、メチルメタクリレートモノマーの重合構造単位を含む。好適な共重合性モノマーには、例えば、芳香族ビニル化合物(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、およびクロロスチレン)、アクリル酸エステル(例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレート)、およびメチルメタクリレート以外のアルキルメタクリレートが含まれる。ある特定の実施形態では、メチルメタクリレートポリマーは、メチルメタクリレートポリマーの総重量に基づいて、0~50重量%、好ましくは1~10重量%、およびより好ましくは2~5重量%の量で、共重合性モノマーの重合構造単位を含む。
【0014】
本発明のPMMA樹脂組成物の多段アクリル衝撃改質剤は、コアシェルポリマーおよびオーバーポリマーを含む。多段アクリル衝撃改質剤は、PMMA樹脂組成物の総重量に基づいて、10~70重量%、好ましくは20~60重量%、およびより好ましくは30~50重量%の量で、PMMA樹脂組成物中に存在する。コアシェルポリマーは、多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、50~99重量%、好ましくは65~95重量%、およびより好ましくは70~90重量の量で、多段アクリル衝撃改質剤中に存在する。オーバーポリマーは、多段アクリル衝撃改質剤の総重量に基づいて、1~50重量%、好ましくは5~35重量%、およびより好ましくは10~30重量%の量で、多段アクリル衝撃改質剤中に存在する。
【0015】
多段アクリル衝撃改質剤のコアシェルポリマーは、コアポリマーおよびシェルポリマーを含む。コアポリマーは、コアシェルポリマーの総重量に基づいて、50~99.9重量%、好ましくは80~99重量%、およびより好ましくは90~98重量%の量で、コアシェルポリマー中に存在する。シェルポリマーは、コアシェルポリマーの総重量に基づいて、0.1~50重量%、好ましくは1~20重量%、およびより好ましくは2~10重量%の量で、コアシェルポリマー中に存在する。ある特定の実施形態では、多段アクリル衝撃改質剤は、コアポリマーとシェルポリマーとの間に1つ以上の中間層ポリマーを含む。
【0016】
コアシェルポリマーのコアポリマーは、1つ以上のC-C12アルキルアクリレートモノマーおよび1つ以上の架橋剤を含む。好適なC-C12アルキルアクリレートモノマーには、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェノキシ-エチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、およびアクリロニトリルが含まれる。ある特定の実施形態では、コアポリマーのC-C12アルキルアクリレートモノマーは、ブチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートのうちの1つ以上を含む。ある特定の実施形態では、コアポリマーは、コアポリマーの総重量に基づいて、98.2~99.8重量%、好ましくは98.6~99.7重量%、およびより好ましくは99~99.6重量%の量で、C-C12アルキルアクリレートモノマーの重合構造単位を含む。ある特定の実施形態では、コアポリマーは、コアポリマー中のC-C12アルキルアクリレートモノマーの総量に基づいて、50~100重量%、好ましくは60~90重量%、およびより好ましくは70~80重量%の量で、ブチルアクリレートの構造単位と、0~50重量%、好ましくは10~40重量%、およびより好ましくは20~30重量%の量で、2-エチルヘキシルアクリレートの構造単位とを含む。好適な架橋剤には、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ジ(エチレングリコール)ジアクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、ペンタエリスリトールメタクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、およびジビニルベンゼンが含まれる。ある特定の実施形態では、架橋剤は、アリルメタクリレートを含む。ある特定の実施形態では、コアポリマーは、コアポリマーの総重量に基づいて、0.2~1.8重量%、好ましくは0.3~1.4重量%、およびより好ましくは0.4~1重量%の量で、架橋剤の構造単位を含む。
【0017】
コアシェルポリマーのシェルポリマーは、メチルメタクリレートモノマー、および任意選択により、メチルメタクリレートモノマーと共重合性であるモノマーを含む。ある特定の実施形態では、シェルポリマーは、シェルポリマーの総重量に基づいて、50~100重量%、好ましくは75~100重量%、およびより好ましくは95~100重量%の量で、メチルメタクリレートモノマーの重合構造単位を含む。好適な共重合性モノマーには、例えば、芳香族ビニル化合物(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、およびクロロスチレン)、アクリル酸エステル(例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレート)、およびメチルメタクリレート以外のアルキルメタクリレートが含まれる。ある特定の実施形態では、シェルポリマーは、シェルポリマーの総重量に基づいて、0~50重量%、好ましくは0~25重量%、およびより好ましくは0~5重量%の量で、共重合性モノマーの重合構造単位を含む。
【0018】
ある特定の実施形態では、多段アクリル衝撃改質剤は、コアとシェルとの間に1つ以上の中間層をさらに含み、これらの各々は、独立して、コアおよびシェルポリマー全体について上述のモノマー組成物の重合構造単位を含有する。多段アクリル衝撃改質剤は、例えば、1、2、3、4、または5つの中間層を含有し得る。ある特定の実施形態では、1つ以上の中間層は、Tが第1の中間層全体の幅にわたって最小から最大まで転移するように、サブ層間に組成勾配を含有する。ある特定の実施形態では、計算されたTは、-50℃、-40℃、-30℃、-25℃、-15℃、または0℃の下限から、70℃、55℃、35℃、または15℃の上限に転移する。理論に縛られることを望むものではないが、組成勾配は、第1の中間層を調製するために使用されるエマルション重合過程中のモノマーの適切な選択ならびに添加の方式およびタイミングによって達成されると考えられる。モノマーを一度に全てではなく、段階的にエマルション重合反応器(または反応容器)に添加し、1つの層を隣接する層に相互貫入させて第1の中間層にわたってT勾配を生じさせる間に、多段重合過程が使用され得る。
【0019】
多段アクリル衝撃改質剤のオーバーポリマーは、メチルメタクリレートモノマー、連鎖移動剤、および任意選択によりメチルメタクリレートモノマーと共重合性モノマーを含む。ある特定の実施形態では、オーバーポリマーは、オーバーポリマーの総重量に基づいて、50~99.95重量%、好ましくは74.9~98.5重量%、およびより好ましくは84.5~97.5重量%の量で、メチルメタクリレートモノマーの重合構造単位を含む。好適な連鎖移動剤には、例えば、ブチル3-メルカプトプロピオネート、n-ドデシルメルカプタン、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、t-ノニルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、イソオクチル3-メルカプトプロピオネート、ペンタフェニルエタン、4-メチルベンゼンチオール、4,4′-チオ-ビス-ベンゼンチオール、メルカプトエタノール、3-メルカプトプロピオン酸、およびグリセロールメルカプタンが含まれる。ある特定の実施形態では、連鎖移動剤は、ブチル3-メルカプトプロピオネートおよびドデシルメルカプタンのうちの1つ以上を含む。ある特定の実施形態では、オーバーポリマーは、オーバーポリマーの総重量に基づいて、0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1.8重量%、およびより好ましくは0.5~1.5重量%の量で、連鎖移動剤の構造単位を含む。好適な共重合性モノマーには、例えば、芳香族ビニル化合物(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、およびクロロスチレン)、アクリル酸エステル(例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレート)、およびメチルメタクリレート以外のアルキルメタクリレートが含まれる。ある特定の実施形態では、共重合性モノマーは、ブチルアクリレートを含む。ある特定の実施形態では、シェルポリマーは、シェルポリマーの総重量に基づいて、0~49.95重量%、好ましくは0.5~25重量%、およびより好ましくは1~15重量%で、共重合性モノマーの重合構造単位を含む。ある特定の実施形態では、オーバーポリマーは、1,000~300,000g/モル、5,000~100,000g/モル、およびより好ましくは10,000~50,000g/モルの重量平均分子量(M)を有する。
【0020】
ある特定の実施形態では、多段アクリル衝撃改質剤は、Brookhaven BI-90 Particle Sizerで測定された、100~400nm、好ましくは120~300nm、より好ましくは140~250nm、およびさらにより好ましくは150~220nmの範囲の粒径を有する。
【0021】
本発明のポリマー組成物に含有されるポリマーを調製するのに好適な重合技術には、例えば、米国特許第6,710,161号に開示されているようなエマルション重合および溶液重合、好ましくはエマルション重合が含まれる。水性エマルション重合過程は、典型的には、水性反応媒体中に少なくとも1つのモノマーならびに様々な合成アジュバント、例えばフリーラジカル源、緩衝剤、および還元剤を含有する水性反応混合物中で行われる。ある特定の実施形態では、調節剤としても知られる連鎖移動剤を、分子量を制限するために使用してもよい。水性反応媒体は、水性反応混合物の連続流体相であり、水性反応媒体の重量に基づいて、50重量%を超える水、および任意選択により1つ以上の水混和性溶媒を含有する。好適な水混和性溶媒には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、エチレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、およびジアセトンアルコールが含まれる。ある特定の実施形態では、水性反応媒体は、水性反応媒体の重量に基づいて、90重量%を超える水、好ましくは95重量%を超える水、およびより好ましくは98重量%を超える水を含有する。
【0022】
全ての段階、つまりコアゴム、第1のシェル段階、および第2のシェル段階が連結している典型的な3段階ポリマーを製造するために、グラフトリンカーとしても機能し得る架橋剤を、ゴムコアの最初の合成時にゴムコアに十分な量で添加する。架橋剤および/またはグラフトリンカーは、少なくとも2つの二重結合を含有し、それらの一部が重合ゴム鎖と反応するため、ゴム段階重合が終了した後、未反応の反応性不飽和結合が残ると予想される。ゴム合成が完了した後に十分な不飽和結合が存在する場合、第1のシェル段階モノマーを添加することができ、ゴムコアの利用可能な不飽和部位と反応してグラフト化が発生する。代替として、架橋剤およびグラフト連結剤を重合ゴムに別々にかつ適切に添加して、架橋およびグラフト化を得ることができる。第2のシェル段階は、第1のシェル段階の上に重合され得る。第2の段階は、第1の段階の残留フリーラジカルおよび/または第1の段階へのグラフト連結モノマーの添加を介して第1の段階に化学結合することができ、後者は、第1の段階の架橋を回避するが第2のシェル段階をその上にグラフト化させる十分な量である。
【0023】
対照的に、オーバーポリマーを含むコアシェル構造は、ゴムコアおよび第1のシェル段階の同じ手順に従う。しかしながら、グラフトリンカーは、第1のシェル段階に添加されず、実際には可能な範囲で、第1のシェル段階の重合が終了した後、残留二重結合もフリーラジカルも存在しないことが確認されているため、第1のシェル段階と第2のシェルとの間の化学的連結のいかなる潜在的な部位も回避される。さらに、連鎖移動剤を第2のシェル段階のモノマーミックスに添加することによって、成長ポリマー鎖の末端にフリーラジカルを捕捉し、新しい鎖を開始することにより、グラフト化を最小限に抑えるため、これらの鎖の末端にあるフリーラジカルがゴムコアの第1のシェル質量のいかなる反応性部位にも挿入されないようにし、その分子量を制御する。
【0024】
本発明の組成物は、PMMA樹脂処理の技術分野で知られている配合方法によって容易に調製される。例えば、本発明のメチルメタクリレートポリマーおよび多段アクリル衝撃改質剤は、好適な要素を備えた単軸または二軸スクリューを含む様々な種類の押出機、ならびに遊星型押出機または連続配合混錬機を使用してブレンドおよび処理され得る。操作は、例えば、ペレットを製造する最初の配合工程と、その後の射出成形デバイス、シートまたはプロファイルを製造する二次押出機等の最終部品を形成する追加工程とに分割され得る。代替として、例えば、ダイを配合押出機の端部に適合させることによって、単一の操作で最終部品を製造することができる。
【0025】
本発明のポリマー組成物は、例えば、熱安定剤、潤滑油、可塑剤、酸化防止剤、UV吸収剤および光安定剤、染料、顔料、難燃剤、ならびに熱、老朽化、または光もしくは風化への曝露によって引き起こされる変色または劣化を防止、低減、または被覆するための他の添加剤を含む、他の任意選択の原料も含有してもよい。このような原料によって提供される所望の特性を達成するのに有効な任意選択の原料の量は、当業者によって容易に決定することができる。
【0026】
上述のように、本発明のPMMA樹脂組成物は、例えば、シート、熱成形シート、射出成形品、ブロー成形品、フィルム、プロファイル、テープ等を含む最終使用用途を有する。したがって、本発明は、本明細書に記載のPMMA樹脂組成物を含む製品も提供する。
【0027】
ここで、本発明のいくつかの実施形態を、以下の実施例において詳細に説明する。
【実施例
【0028】
実施例1
例示的および比較の多段アクリル衝撃改質剤の調製
本発明による例示的多段アクリル衝撃改質剤および比較多段アクリルは、コアポリマーおよびシェルポリマーを含有し、例示的多段アクリル衝撃改質剤については、オーバーポリマーを含有し、その量および成分を表1に列挙する。
【表1】
【0029】
例示的多段アクリル衝撃改質剤P-E1の場合、脱イオン(DI)水(1974.5g)、セクエストレン(0.04g)、およびピロリン酸四ナトリウム(1.7g)を、機械式スターラ、窒素ガス散布、温度計、コンデンサ、加熱マントル、および温度コントローラを備えた5Lの四つ口丸底フラスコに装填した。反応器の内容物を、窒素散布下で45分間54℃に加熱した。混合容器内で、ブチルアクリレート、BA(932.5g)、2-エチルヘキシルアクリレート、2-EHA(310.6g)、およびアリルメタクリレート、ALMA(8.71g)を混合することによって、コアポリマーモノマーミックスを調製した。DI水(81.86g)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(70%水溶液2.44g)を混合することによって、触媒溶液を別々に調製した。DI水(82.61g)およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(1.69g)の活性化剤溶液を調製した。最初に散布の45分後に窒素散布を窒素掃引に切り替え、次にポリマーシードまたは「プリフォーム」(150.0g)を反応器に添加することによって、エマルション重合を実行した。
【0030】
コアポリマーモノマーミックスを4つの部分(10.9%、10.9%、39.1%、および39.1%)に分けた。コアモノマーミックスの第1の部分(10.9%、136g)を50℃の反応器にショットとして添加した。次に、上記の活性化剤溶液および触媒溶液11.08gを3分間かけて反応器に添加した。ポリステップA-18(25%溶液11.05g)を、活性化剤/触媒添加の60分後に添加した。コアモノマーミックスの部分2(10.9%、136g)を53.1℃の反応器にショットとして添加した。次に、上記の活性化剤溶液および触媒溶液2.75gを1分間かけて反応器に添加した。ポリステップA-18(25%溶液18.36g)を、活性化剤/触媒添加の60分後に添加した。コアモノマーミックスの部分3(39.1%、489.9g)を50℃の反応器にショットとして添加した。次に、上記の活性化剤溶液および触媒溶液9.99gを1分間かけて反応器に添加した。ポリステップA-18(25%溶液18.36g)を、活性化剤/触媒添加の60分後に添加した。コアモノマーミックスの部分4(39.1%、489.9g)を56℃の反応器にショットとして添加した。次に、上記の活性化剤溶液および触媒溶液9.99gを10分間かけて反応器に添加した。ポリステップA-18(25%溶液11.05g)を、活性化剤/触媒添加の60分後に添加した。
【0031】
20分後、メチルメタクリレートのシェルモノマーミックス(111.34g)を52℃の反応器にショットとして添加した。次に、上記の活性化剤溶液および触媒溶液11.43gを3分間かけて反応器に添加した。
【0032】
オーバーポリマーモノマーエマルションを、DI水88.2g、ポリステップA-18、14.11g、メチルメタクリレート317.4g、ブチルアクリレート35.27g、およびブチル3-メルカプトプロピオネート(BMP)3.53gの原材料とともに、以下の順序で攪拌容器において調製した。オーバーポリマーエマルション重合を、モノマーエマルションを45分(10.19g/分)かけて供給することによって実行し、残りの活性化剤溶液(36.22g、0.48g/分で供給)と残りの触媒溶液(36.22g、0.48g/分で供給)との両方を75分の供給時間で同時に供給開始した。反応器の開始温度は56℃であった。供給中、温度を最大65℃まで上昇させ、その時点で残りの供給について温度を維持した。
【0033】
供給完了後、反応を10分間保持した。保持後、反応器を室温まで冷却し、次に充填した。
【0034】
P-E2からP-E8の例示的多段アクリル衝撃改質剤を、表1に列挙したモノマーの量を適切に変更して、実質的に上述のように調製した。比較多段アクリル衝撃改質剤P-C1を、オーバーポリマーエマルション重合を省略したことを除いて、実質的に上述のように調製した。
【0035】
実施例3
例示的および比較の多段アクリル衝撃改質剤の粒径特性化
実施例1で調製した、本発明による例示的多段アクリル衝撃改質剤および比較多段アクリル衝撃改質剤を、表2に示すように、粒径について評価した。
【表2】
【0036】
粒径分布を、2000uPモジュールを備えたMalvern Mastersizer 2000 Analyzerを使用して光散乱によって決定した。約0.5gのポリマーエマルション試料を、脱気したDI水(希釈剤)中の5mLの0.2重量%活性Triton405に予備希釈した。予備希釈した試料を、希釈剤が充填された2000uPモジュール10に滴加しながら、モジュールを1100rpmでポンプ供給した。赤色光のオブスキュレーションは、4~8%になるように目標設定された。ミー散乱モジュール(粒子実屈折率1.48およびゼロの吸収:ゼロの吸収での希釈剤実屈折率1.330)を使用して試料を分析した。「通常の感度」を有する汎用(球形)分析モデルを使用して、回折パターンを分析し、それらを粒径分布に変換した。
【0037】
実施例3
例示的および比較の多段アクリル衝撃改質剤の単離
実施例1で調製した例示的および比較の多段アクリル衝撃改質剤を、噴霧乾燥または凝固により単離した。
【0038】
噴霧乾燥をNiro Atomizer Mobile Minor Spray Dryerで実行した。噴霧乾燥機を、180℃の入口温度と65℃の出口温度を使用して操作した。粉末を乾燥機の底で回収した。
【0039】
代替として、最初にラテックスを30重量%固形物濃度に希釈して次に32℃に加熱することによって、エマルションの凝固を行った。別の容器で、塩化カルシウムの0.37重量%溶液9000グラムを連続的にかき混ぜ、32℃に加熱した。安定した攪拌を維持しながら、分散液を、電解質溶液を含有した容器にゆっくりと注いだ。数分後、塩化カルシウムの5.26重量%溶液135グラムを容器に添加して混合物を作製した。1分遅れた後に、高分子量PMMA分散液の10%固形物405grを混合物に添加した。得られた凝固スラリーを60℃に加熱し、この温度で5分間保持した。スラリーを冷却し、遠心分離機に通してスラリーを脱水および洗浄した。次に、スラリーを真空オーブンで60℃で一晩乾燥させた。
【0040】
実施例4
架橋度および抽出可能材料のための例示的および比較の多段アクリル衝撃改質剤の特性化
例示的多段アクリル衝撃改質剤P-E1および比較多段アクリル衝撃改質剤P-C1を、2つの試料間の分子構造の違いを決定するために、コアポリマー、シェルポリマー、およびオーバーポリマーの膨潤比を特性化することによって評価した。抽出可能な可溶性材料の量に比例する値を有する各連続ポリマー部分(コア、コア+シェル、コア+シェル+オーバーポリマー)の膨潤比を内部方法で測定し、この方法では、既知の固形物レベルを有する約1グラムの既定量のエマルションを、一晩振とうされるバイアル内で、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒約10ml中で膨潤させる。その後、分散液を試験管に注ぎ、超遠心分離機に入れて2時間振とうした。不溶性部分は、管の底部に追いやられる。ポリマー構築物の可溶性部分を含有する上澄み液を注ぎ出し、一定の重量が達成されるまで、中程度の熱の下、真空オーブンで乾燥させ、秤量する。溶媒で膨潤した不溶性部分を最初に秤量し、次に不溶性部分と同じ条件下で乾燥させ、再度秤量する。次に、膨潤比を、乾燥前の不溶性部分の重量を乾燥後の同じ部分の重量で割ることによって計算する。固形物の量に基づいて、可溶性材料の割合を、乾燥材料の重量をエマルション中の固形物の重量で割ることによって計算する。
【0041】
例示的多段アクリル衝撃改質剤P-E1のコア、コア+シェル、およびコア+シェル+オーバーポリマーの膨潤比測定の結果を表3に示す。
【表3】
【0042】
比較多段アクリル衝撃改質剤C-E1のコアおよびコア+シェルの膨潤比測定の結果を表4に示す。
【表4】
【0043】
表4のデータは、比較多段アクリル衝撃改質剤P-C1中の可溶物の大半がコアポリマーに由来することを実証し、これは、シェルポリマー(剛性シェル材料)の大部分が構造にグラフト化されていることを示す。表3の例示的多段アクリル衝撃改質剤P-E1は、シェルポリマーがコアポリマーにグラフト化されていることを示すが、オーバーポリマーを含有する完全な多段アクリル衝撃改質剤(すなわち、コア+シェル+オーバーポリマー)を試験すると、オーバーポリマーは大量の可溶性材料を生成する。前の段階からの可溶物の寄与分を差し引くと、約17重量%の総可溶性材料が得られ、これにより、オーバーポリマーの大部分(コア/シェル構造の80部あたり約20部で使用されると考えると、約85%)がグラフト化されないことが確立される。ゆえに、添加剤が配合されている場合、線状ポリマー材料は、自由にマトリックス内に流動する。
【0044】
実施例5
例示的および比較のPMMA樹脂組成物の調製
本発明による例示的PMMA樹脂組成物および比較PMMA樹脂組成物を、60重量%のメチルメタクリレートポリマー(Evonik Industriesから入手可能なPlexiglas 6N)を、40重量%の実施例1で調製したそれぞれの多段アクリル衝撃改質剤(すなわち、P-E1~P-E8およびP-C1)とブレンドすることによって調製した。全てのブレンドを、中せん断スクリューおよびL/D28を備えたAmerican Leistritz Micro27Lab Extruderを使用して調製した。190-190-200-200-200-200-200℃の温度プロファイルを使用し、スクリュー速度は140rpmであった。ペレットおよび粉末の乾燥ブレンドを15lb/時で押出機に供給した。押出機ストランドを、水槽を通して冷却し、ペレット化した。
【0045】
実施例6
例示的および比較のPMMA樹脂組成物の衝撃強度、メルトフローレート、および光沢の特性化
実施例5で調製した、本発明による例示的PMMA樹脂組成物および比較PMMA樹脂組成物を、衝撃強度、メルトフローレート、および光沢について評価した。例示的PMMA樹脂組成物はまた、衝撃改質剤が市販の比較品であることを除いて、実施例5の手順に従って調製されたPMMA樹脂組成物と比較された。
【0046】
衝撃強度を、プラスチックのノッチ付きアイゾット試験用のASTM規格D-256に従って評価した。アイゾッドバーを、Arburg All Rounder 270C射出成形機を使用して調製した。ペレットを、射出成形前に、60℃の真空下で一晩乾燥させた。射出成形機の温度プロファイルは210-235-250-260-260℃である一方で、金型を54.4℃の温度に保持した。
【0047】
メルトフローレートを、ASTM規格D-1238に従って評価した。使用条件は、250℃および3.8Kgであった。
【0048】
光沢を、ASTM規格D-523に従って、押し出されたテープストリップで測定した約0.76mmの厚さを有するテープを製造するために、押出ペレットを上記のように乾燥し、実験室押出機で処理した。押出機は、5cm幅のストリップを出力するように設計されたダイを備えたSystem5、RS-5000単軸押出機であった。ゾーン1を185℃の温度に設定し、ゾーン2および3、ならびにダイを195℃に設定した。スクリューを、40RPMの速度で回転するようにプログラムし、90ボルト(DC)および1.3アンペアで動作するBaldor Industrial Motorによって駆動される下流のプラーが、30ユニットの回転速度を生成した。プラーのローラーを、出力50%に設定したVariacでモータを調整することによってさらに制御した。これらの条件に従って作製されたストリップの平均厚さは28~30ミルであった。ストリップに沿った5つの異なる点で60度の鏡面光沢を測定の結果を平均して、平均偏差および標準偏差を求めた。
【0049】
衝撃強度、メルトフロー、および光沢の特性化の結果を表5に示す。
【表5】
【0050】
結果によって、オーバーポリマーを有する多段アクリル衝撃改質剤を含有する、本発明に従い調製された例示的PMMA樹脂組成物が、許容レベルの衝撃強度を維持しながら、オーバーポリマーを含有しないPMMA樹脂と比較して、メルトフローおよび光沢における実質的な増加を提供することが実証された。