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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】半透膜
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20230703BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 71/62 20060101ALI20230703BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 31/765 20060101ALN20230703BHJP
   A61P 7/08 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
A61M1/18 500
A61M1/18 527
A61M1/36 165
B01D71/52
B01D71/62
B01D71/68
A61K31/765
A61P7/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021116983
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013070
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 伸也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 耕資
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018193(JP,A)
【文献】特開2009-125265(JP,A)
【文献】国際公開第2013/022012(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203927(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/064936(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
A61M 1/36
B01D 71/52
B01D 71/62
B01D 71/68
A61K 31/765
A61P 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体、および、ポリビニルピロリドンを含み、
前記スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体は、下記式(1)で表される疎水性セグメントの繰返し単位と下記式(2)で表される親水性セグメントの繰返し単位とを共重合成分として含み、
【化1】

【化2】

前記式(1)の構成比率(モル比)が0.50~0.65であり、前記式(2)の構成比率(モル比)が0.35~0.50であり、前記式(1)の構成比率(モル比)と前記式(2)の構成比率(モル比)の合計が1.00であり、RおよびRは「-SOM」を表し、Mは金属元素を表し、
半透膜の全体における前記ポリエーテルスルホン/スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体/ポリビニルピロリドンの含有率比(質量比)は75~90/7~22/3~18である、持続的腎機能代替療法用に適したサイトカイン吸着能を有する半透膜。
【請求項2】
厚み方向に不均一な構造を有する、請求項1に記載の半透膜。
【請求項3】
内表面側に緻密層を有する、請求項1または2に記載の半透膜。
【請求項4】
前記半透膜の全体におけるNaOH滴定量は1.2~3.0mLである、請求項1~3のいずれか1項に記載の半透膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
急性腎不全患者、敗血症患者などに対して、通常の血液透析や血液ろ過の治療条件よりも長時間かけて緩やかに(循環流量を少なくして)体液補正を行う持続的腎機能代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)が知られている。CRRTでは、例えば、血液流量50~150mL/分の条件で24~48時間の単回治療が実施される。
【0003】
敗血症は、細菌、ウイルスなどの病原体に感染した場合に、病原体の血管内への侵入などにより血液中に炎症性サイトカインが増加することが主な原因であり、全身に炎症性サイトカインによる炎症反応が広がるサイトカインストームが発生すると、重症化する。このため、CRRTによる敗血症等の治療では、血液中の炎症性サイトカインを除去する必要がある。
【0004】
CRRTに用いられる持続緩徐式血液ろ過器には、サイトカイン吸着能を有する半透膜が使用される。このような持続緩徐式血液ろ過器として、例えば、バクスター株式会社製のセプザイリス(登録商標)が知られている。セプザイリスに使用される半透膜は、図8に示されるように、アクリロニトリルとメタクリルスルホン酸ナトリウムの共重合体を構成材料として含む。この半透膜は、陰性荷電のスルホネート基が陽性荷電サイトカインのアミノ基とイオン結合するため、主に陽性荷電サイトカインの吸着能を有すると考えられる(非特許文献1(人工臓器43巻3号、pp.233-237、2014年)参照)。
【0005】
また、特許文献1(特開2011-62282号公報)には、血液適合性とサイトカイン吸着能を有する血液浄化用中空糸膜が開示されている。この中空糸膜は、ポリメチルメタクリレートとパラスチレンスルホン酸ナトリウムとを含み、陰性荷電のスルホネート基を有するため、主に陽性荷電サイトカインの吸着能を有すると考えられる。
【0006】
なお、特許文献2(特開2001-70767号公報)には、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドンおよびスルホン化ポリエーテルスルホンを含む組成物からなる、表面水処理用の限外ろ過膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-62282号公報
【文献】特開2001-70767号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】人工臓器43巻3号、pp.233-237、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来のサイトカイン除去用の半透膜は、インターロイキン-8(IL-8)などの陽性荷電サイトカインに対する吸着能は高いものの、インターロイキン-6(IL-6)などの陰性荷電サイトカインに対する吸着能が低いという問題があった。
【0010】
したがって、本発明は、陰性荷電サイトカインと陽性荷電サイトカインの両方に対して高い吸着能を有するサイトカイン除去用の半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1] ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体、および、ポリビニルピロリドンを含み、
前記スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体は、下記式(1)で表される疎水性セグメントの繰返し単位と下記式(2)で表される親水性セグメントの繰返し単位とを共重合成分として含み、
【0012】
【化1】
【0013】
【化2】
【0014】
前記式(1)の構成比率(モル比)が0.50~0.65であり、前記式(2)の構成比率(モル比)が0.35~0.50であり、前記式(1)の構成比率(モル比)と前記式(2)の構成比率(モル比)の合計が1.00であり、RおよびRは「-SOM」を表し、Mは金属元素を表し、
半透膜の全体における前記ポリエーテルスルホン/スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体/ポリビニルピロリドンの含有率比(質量比)は75~90/7~22/3~18である、持続的腎機能代替療法用に適したサイトカイン吸着能を有する半透膜。
【0015】
[2] 厚み方向に不均一な構造を有する、[1]に記載の半透膜。
【0016】
[3] 内表面側に緻密層を有する、[1]または[2]に記載の半透膜。
【0017】
[4] 前記半透膜の全体におけるNaOH滴定量は1.2~3.0mLである、[1]、[2]または[3]のいずれか1項に記載の半透膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、陰性荷電サイトカインと陽性荷電サイトカインの両方に対して高い吸着能を有するサイトカイン除去用の半透膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態のサイトカイン除去用半透膜を説明するための模式図である。
図2】SPN含有率とIL-8吸着率との関係を示すグラフである。
図3】SPN含有率とIL-6吸着率との関係を示すグラフである。
図4】PVP含有率と血小板残存率との関係を示すグラフである。
図5】NaOH滴定量とIL-8吸着率との関係を示すグラフである。
図6】ろ過安定性評価の結果を示すグラフである。
図7】PVP含有率とCLmyoのMBEとの関係を示すグラフである。
図8】従来のサイトカイン除去用半透膜を説明するための模式図である。
図9】実施形態の中空糸膜のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<サイトカイン除去用半透膜>
本実施形態の半透膜は、ポリエーテルスルホン(疎水性ポリマー)、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体(陰性荷電ポリマー)、および、ポリビニルピロリドン(親水性ポリマー)を含む、サイトカイン除去用の半透膜である。
【0022】
サイトカインとしては、陽性荷電サイトカインと陰性荷電サイトカインが挙げられる。陽性荷電サイトカインとしては、例えば、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-10(IL-10)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、単球走化性促進因子(MCP1)、血小板由来成長因子(PDGF)などが挙げられる。陰性荷電サイトカインとしては、例えば、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-1β(IL-1β)、HMGB1(High Mobility Group Box 1)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などが挙げられる。サイトカインは、例えば、生体内における様々な炎症症状を引き起こす原因因子となり得る炎症性サイトカインである。
【0023】
図1を参照して、IL-8等の陽性荷電サイトカインは、陰性荷電ポリマーであるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体(SPN)とのイオン結合により、半透膜に吸着されると考えられる。
親水化剤(親水性ポリマー)であるポリビニルピロリドンにより、半透膜への血小板等の蛋白の吸着が抑制されると考えられる。
そして、作用機序は明らかではないものの、本実施形態の半透膜は従来の半透膜よりもIL-6等の陰性荷電サイトカインの吸着能が向上している。
【0024】
(ポリエーテルスルホン)
ポリエーテルスルホンは、下記式(3)で示される構造単位を含む化合物である。ポリエーテルスルホンは、疎水性相互作用により炎症性サイトカインを吸着する作用が期待される。
【0025】
【化3】
【0026】
スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体は、下記式(1)で表される疎水性セグメントの繰返し単位と下記式(2)で表される親水性セグメントの繰返し単位とを含む化合物である。
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
上記式(1)の構成比率(モル比)が0.50~0.65であり、上記式(2)の構成比率(モル比)が0.35~0.50であり、上記式(1)の構成比率(モル比)と上記式(2)の構成比率(モル比)の合計が1.00であり、RおよびRの各々は独立に「-SOM」または「-SOH」を表し、Mは、金属元素を表す。
【0030】
上記スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体などのいずれであってもよい。
【0031】
M(金属元素)としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられる。
【0032】
上記スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体において、上記式(1)の構成比率(モル比)が0.50~0.60であり、上記式(2)の構成比率(モル比)が0.40~0.50であることがより好ましく、式(2)中のRおよびRは「-SONa」または「-SOK」であることがより好ましい。
【0033】
尚、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体は、膜の長期使用の際に経時変化が小さい材料である。
【0034】
上記のスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体は、従来公知の方法などにより得ることができる。例えば、2,6-ジクロロベンゾニトリル、3,3’-ジスルホ-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン金属塩、4,4’-ビフェノールを塩基性化合物の存在下で反応させ、芳香族求核置換反応により重合し、上記式(1)で示される疎水性セグメントと上記式(2)で示される親水性セグメントとからなる共重合体を得ることができる。
重合は、0~350℃の温度範囲で行うことができるが、50~250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解が起こり始める傾向がある。
反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどが挙げられるが、これらに限定されず、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5~50質量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5質量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50質量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマー(スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体)が得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0035】
(ポリビニルピロリドン)
ポリビニルピロリドンとは、少なくともN-ビニルピロリドンを含むモノマーの重合体である。
【0036】
ポリビニルピロリドンは、下記式(4)で示される構造単位を含むことが好ましい。
【0037】
【化6】
【0038】
上記ポリビニルピロリドンは、例えば、BASF社の重量平均分子量9,000(K17)、450,000(K60)、1,200,000(K90)のものを用いることができる。
【0039】
半透膜の全体におけるポリエーテルスルホン/スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体/ポリビニルピロリドンの含有率比は75~90/7~22/3~18質量%であることが好ましい。
【0040】
半透膜の全体におけるNaOH滴定量は1.2~3.0mLであることが好ましい。
【0041】
半透膜の構造としては、厚み方向に不均一な構造(非対称構造)を有することが好ましい。内表面側に緻密層を有し、内表面から外表面に向かって連続的または不連続に孔径が拡大する構造(非対称構造)を有することがより好ましい。
【0042】
非対称構造を有する半透膜(非対称膜)としては、上記緻密層が実質的に半透膜の孔径を規定する分離活性層となっている膜が挙げられる。緻密層の孔径を直接測定することはできないが、緻密層を有する半透膜を用いて測定したSCデキストランの分画分子量をもって、緻密層と定義する。本発明においては、このようにして測定したSCデキストランの分画分子量が100kDa以下であるのが好ましい。膜の耐久性(ろ過安定性)の観点から、半透膜は非対称膜であることが好ましい。
【0043】
非対称構造を有する中空糸膜では、内表面の開孔率と外表面の開孔率とが異なることが好ましい。中空糸膜の外表面開孔率は29%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。なお、中空糸膜の外表面開孔率は後述する走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像にて決定される。
【0044】
なお、半透膜としては、例えば、ナノろ過膜(NF膜:Nanofiltration Membrane)、限外ろ過膜(UF膜:Ultrafiltration Membrane)、精密ろ過膜(MF膜:Microfiltration Membrane)と呼ばれる半透膜が挙げられる。半透膜は、好ましくは限外ろ過膜、精密ろ過膜である。
【0045】
通常、NF膜の孔径は約1~2nmであり、UF膜の孔径は約2~100nm、MF膜の孔径は0.1μm以上である。
【0046】
なお、半透膜の形状は特に限定されない。半透膜は、平膜であってもよく、中空糸膜(中空糸型半透膜)であってもよいが、好ましくは中空糸膜である。中空糸膜は、平膜に比べて、膜厚が小さく、さらにモジュール当たりの膜面積を大きくすることができるため、サイトカインの除去効率を高めることができる点で有利である。
【0047】
なお、上記の中空糸膜を用いた半透膜モジュール(持続緩徐式血液ろ過器)において、中空糸膜の外側に透析液が流され、中空糸膜の内側(中空部)に血液が流されることが好ましい(図1参照)。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体の調製)
3,3′-ジスルホ-4,4′-ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩、2,6-ジクロロベンゾニトリル、4,4′-ビフェノール、炭酸カリウム、およびモレキュラーシーブを四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。NMPを加えて、150℃で50分撹拌した後、反応温度を195℃~200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた。その後、放冷し、放冷後、沈降しているモレキュラーシーブを除去し、ポリマーを水中に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、純水で丁寧に水洗することで、残留した炭酸カリウムを完全に除去した。その後、炭酸カリウムを除去した後のポリマーを乾燥させることによって、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体を得た。
【0050】
(実施例1の中空糸膜の作製)
ポリエーテルスルホン(PES 住友化学製)16.0質量%、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体(SPN 東洋紡製)4.0質量%、ポリビニルピロリドン K-90(PVP 日本触媒製)3.0質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱ケミカル社製)46.2質量%、およびトリエチレングリコール(TEG、三菱ケミカル社製)30.8質量%を加熱して均一に溶解した。得られた紡糸原液を55℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材(NMP/TEG/水=12/8/80)とともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された200mmの乾式部を通過させた後、74℃の凝固浴中(NMP/TEG/水=24/16/60)で凝固させ、80℃の水洗浴を経た後、かせ取り機にて紡糸速度37m/minで巻き上げた。
得られた中空糸膜は、内表面側に緻密層を有し、0.240mmの内径を有し、0.350mmの外径を有していた。
なお、ここで用いたSPNは、上記式(1)および式(2)の共重合体であり、(1)の構成モル比率は0.56、(2)の構成モル比率0.44である。
【0051】
(実施例2の中空糸膜の作製)
PVPK-90を2.0質量%、NMPを46.8質量%、およびTEGを31.2質量%に変更する以外は、実施例1と同様の条件で内表面側に緻密層を有し、中空糸膜を得た。
【0052】
(実施例3の中空糸膜の作製)
PES(住友化学社)16.0質量%、SPN(東洋紡製)3.0質量%、PVPK-90(日本触媒性)1.0質量%、NMP(三菱化学社製)48.0質量%、およびTEG(三井化学社製)32.0質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして内表面側に緻密層を有する中空糸膜を得た。
【0053】
(実施例4の中空糸膜の作製)
PES(住友化学社)16.0質量%、SPN(東洋紡製)2.0質量%、PVPK-90(日本触媒性)2.0質量%、NMP(三菱化学社製)48.0質量%、およびTEG(三井化学社製)32.0質量%に変更する以外は、実施例1と同様にして内表面側に緻密層を有する中空糸膜を得た。
【0054】
(比較例2の中空糸膜の作製)
PES(住友化学社)16.0質量%、SPN4.0質量%、NMP48.0質量%、およびTEG32.0質量%を加熱して均一に溶解した。得られた紡糸原液を用いて実施例1と同様の条件にて中空糸膜を製造した。
得られた中空糸膜は、0.240mmの内径を有し、0.350mmの外径を有していた。
【0055】
(比較例3の中空糸膜の作製)
紡糸原液の作製において、PES(BASF社製、6020P)を17.0質量%、PVPK90(BASF社製)を3.0質量%、溶媒としてジメチルアセトアミドを75.0質量%、非溶媒としてRO水5.0質量%を60℃で混練、溶解し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を60℃に加温した二重管ノズルから芯液(50質量%のジメチルアセトアミド水溶液)とともに吐出させ、紡糸管により外気と遮断された400mmの乾式部を通過後、70℃の30質量%ジメチルアセトアミド水溶液中で凝固させ、75℃の水洗浴を通過後に30m/minの速度で綛に捲き上げた。
【0056】
(比較例4の中空糸膜の作製)
PES(住友化学製)21.0質量%、NMP(三菱化学社製)35.55質量%、およびTEG(三井化学社製)43.45質量%を加熱して均一に溶解した。得られた紡糸原液を70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材(NMP/TEG/水=36/24/40)とともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された40mmの乾式部を通過させた後、75℃の凝固浴中(NMP/TEG/水=3.6/2.4/94)で凝固させ、80℃の水洗浴を経た後、かせ取り機にて紡糸速度44m/minで巻き上げた。
得られた中空糸膜は、0.210mmの内径を有し、0.340mmの外径を有していた。
【0057】
(半透膜モジュールの作製)
上記の各実施例の中空糸膜を用いて、中空糸膜(8080本)を束ねた状態で両端部をモジュールケースに接着固定してなる半透膜モジュールを作製した。この半透膜モジュール(持続緩徐式血液ろ過器)を用いて、後述の各評価試験を行った。
【0058】
(比較例1)
比較例1の半透膜モジュールとして、バクスター株式会社製の持続緩徐式血液ろ過器〔セプザイリス(登録商標):sepXiris150〕を用意した。なお、この持続緩徐式血液ろ過器に用いられる中空糸膜の主な構成材料は、アクリロニトリルとメタリルスルホン酸ナトリウムの共重合体である(図8)。
【0059】
<評価試験>
(外表面の開孔率の測定)
中空糸膜表面を10,000倍で撮影する。その画像を画像解析ソフトで処理して、中空糸膜表面の開孔率を求める。
面積率の算出方法は、画像解析を用いた方法で算出する。具体的には、画像解析ソフトWinROOF2013を用いて測定する。明度を基準に空孔部とポリマー部を識別し、識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正する。空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別する。測定範囲の面積(A)、および測定範囲内の孔の面積の累計(B)を求めて外表面開孔率(%)=B/A×100を求める。実施例1で得られた中空糸膜の外表面開孔率と、(外表面、内表面および断面の)SEM写真と、をそれぞれ表2と図9に示す。
【0060】
H-NMRによる中空糸膜の測定方法)
以下の装置および条件にて測定を行った。
(装置):フーリエ変換核磁気共鳴装置(ブルカー・バイオスピン製AVANCENEO600
(測定溶液):試料5~50mgを0.6mLの重水素化ジメチルスルホキシドに溶解した。
(1H共鳴周波数):600.13MHz
(検出パルスのフリップ角):30°
(データ取り込み時間):4.0秒
(遅延時間):1.0秒
(積算回数):5~200回
(測定温度):室温または40℃
上記の実施例1,2および比較例2~5の中空糸膜について、NMRを用いて、PES、SPNの疎水性セグメント(疎水部)、SPNの親水性セグメント(親水部)、およびPVPの各々の組成比率(中空糸膜の全体における含有率)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0061】
(サイトカイン吸着率)
ヘパリンを添加した豚全血1000mLに、IL-6およびIL-8を各々24μg添加することにより、試料血液が調製された。
上記の実施例1,2および比較例1~5の半透膜モジュール(持続緩徐式血液ろ過器)を用いて、試料血液を血液流量(Qb)=100mL/分、ろ液流量(Qf)=10mL/分の条件で1時間循環した。
循環後に、試料血液を全て回収し、試料血液中のIL-6およびIL-8を酵素結合免疫吸着法(ELISA法)を用いて測定した。その測定値と試料血液への添加量から、IL-6およびIL-8の各々の減少率を算出し、その値をIL-6およびIL-8の各々の吸着率とした。得られたIL-6およびIL-8の吸着率を表1に示す。
【0062】
(NaOH滴定量)
実施例1,2および比較例2,5について、得られた中空糸を0.1g秤量し、純水にて洗浄する。洗浄した中空糸のスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体のスルホン基を5mLの1M HCl水溶液に浸漬させてプロトン化する。中空糸を純水で洗浄後、1M NaCl水溶液80mLに移し、1%フェノールフタレイン溶液を1mL加える。スターラーで攪拌しながら、0.01M NaOH水溶液で滴定することで、NaOH滴定量を測定した(参考文献:J. Chromatogr. A 1559(2019)152-160)。NaOH滴定量の測定結果を表1に示す。
【0063】
(血小板残存率)
実施例1,2および比較例1~5について、ヘパリンを添加した豚全血1000mLを血液流量(Qb)=100mL/分、ろ液流量(Qf)=10mL/分の条件で1時間循環した。循環後に試料血液を全て回収した。血球カウンターを用いて1時間循環後の血液と、循環前血液の血小板を測定した。得られた測定値より、血小板残存率=1時間循環後血液/循環前血液から算出した。血小板残存率の測定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、実施例1~4では、陰性荷電サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)の吸着率は、比較例1(従来品)よりも高く、74%以上であった。
また、陽性荷電サイトカインであるインターロイキン8(IL-8)の吸着率は、実施例において比較的高く、実施例1および2においては80%以上であり、実施例1においては比較例1(従来品)よりも高かった。
【0066】
図2に、実施例1~4および比較例2~4について、SPN含有率とIL-8吸着率との関係を示す。図2に示されるように、IL-8吸着率は、SPN含有率の増加に伴って上昇する。ここで、図2のグラフから、IL-8吸着率を60%以上とするためにはSPN含有率を7.0~22.0質量%にすることが好ましいと考えられる。
これらの結果から、陽性荷電サイトカインであるIL-8の吸着は、陰性荷電を有するSPNの含有率と関係していることが推測されるが、実施例1、2と比較例2との関係、および比較例3と4との関係からすれば、PVPがIL-8吸着に何等か影響を与えている可能性(すなわち、PVP添加によるIL-8吸着抑制)が示唆される。
【0067】
一方、図3に、実施例1~4および比較例2~4について、SPN含有率とIL-6吸着率との関係を示す。図3に示されるように、IL-6吸着率は、SPN含有率が増加してもあまり変動しないが、表1の比較例4に示されるように、ポリエーテルスルホンのみの中空糸だとIL-6が吸着することが分かる。
これらの結果から、陰性荷電サイトカインであるIL-6の吸着は、SPNの疎水性セグメントやPESとの疎水性相互作用の影響が大きいと推測されるが、IL-6の吸着の具体的な作用機序は明らかではない。
【0068】
図4に、実施例1~4および比較例2、4について、PVP含有率と血小板残存率との関係を示す。図4に示されるように、PVP含有率が6.0%以上である実施例1、2、4では、血小板残存率は70%以上であり、血小板残存率を45%(市場で要求される目安値)以上にするためには、PVP含有率が3.0%より高いことが好ましいと考えられる。
CRRT等に用いられる半透膜としては、血小板等の血液成分の吸着が少ないことが望ましく、血小板残存率が高いことが望ましい。
【0069】
(陰性荷電量)
実施例1~4および比較例2,4の中空糸膜について、陰性荷電量の指標として、下記のNaOH滴定量を測定した。
【0070】
(1)NaOH滴定量
中空糸膜について、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体のスルホン基をHClでプロトン化し、洗浄後にNaOHで滴定することで、NaOH滴定量を測定した(参考文献:J. Chromatogr. A 1559(2019)152-160)。
【0071】
図5に、実施例1~4および比較例2,4におけるNaOH滴定量とIL-8吸着率との関係を示す。
図5に示される結果から、陰性荷電量(NaOH滴定量およびスルホン基量)の増加に応じて陽性荷電サイトカイン(IL-8)の吸着率が増加することが分かる。ここで図5のグラフからIL-8吸着率を50%以上とするためには、NaOH滴定量を1.2mL以上にすることが好ましいと考えられる。
【0072】
(ろ過安定性:ΔTMP)
実施例1および比較例1の中空糸膜モジュールを用いて、クエン酸を添加して凝固を抑制し、ヘマトクリット30±2%、タンパク濃度6~7g/dLに調製した牛血液を使用し、血液流量(Qb)400mL/分、ろ過流量(Qf)100mL/分の条件で150分まで循環した。TMP(150分後までの所定時間における測定値)-15分後のTMP=ΔTMPとした。なお、TMP(膜間圧力差)は、後述するとおりである。測定結果を図6に示す。また、150分後の実施例1および比較例1におけるΔTMPの測定結果を表2に示す。
【0073】
(水系性能)
実施例1および比較例1,2,5について、以下の(1)~(3)の性能(水系性能)を測定した。測定結果を表2に示す。
【0074】
(1) (純水の限外ろ過係数UFRの測定)
中空糸膜モジュールの血液出口部回路を封止して、デッドエンドろ過とした。加圧タンクを37℃に保温した純水で満たし、レギュレーターで圧力を制御しながら、37℃に保温した恒温槽内の中空糸膜モジュールの中空糸膜内側へ純水を送り、中空糸膜外側から流出したろ液量をメスシリンダーで測定した。膜間圧力差(TMP)は、TMP=(Pi+Po)/2とした。ここで、Piはモジュール入口圧力、Poはモジュール出口側圧力である。TMPを変化させて4点のろ過流量を測定し、それらの直線の傾きからモジュールの透水性UFR(mL/hr/m/mmHg)を算出した。このときTMPとろ過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また、回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定した。
【0075】
(2) (クリアランス(CL)の測定)
「血液浄化器の性能評価法2012」に従い、尿素(UN)、ビタミンB12(Vb)、ミオグロビン(myo)クリアランス(CL)を測定した。各クリアランス(CL)および、そのマスバランスエラー(MBE)を表2に示す。クリアランス(CL)とは物質除去を表す指標であり、マスバランスエラー(MBE)とは測定誤差を表す指標である。
生理食塩液に、0.1%尿素(ナカライテスク社製)、0.002%ビタミンB12(ナカライテスク社製)、0.01%ミオグロビン(キシダ化学社製)を溶かした溶液を調整し、生理食塩液でプライミングし湿潤化した血液浄化器(膜面積1.5m2)の血液流路側に、上記調整した液を流量(QBin)200mL/minで濾過をかけずにシングルパスで流しつつ、透析液側流路に透析液を流量(Qd)500mL/minで流す。中空糸膜の入口における測定原液の溶質濃度、出口における測定原液の溶質濃度および供給液量を測定してクリアランス(CL)を算出した。
クリアランス(CL)は次式で表される。
CL(mL/min)=((入口濃度-出口濃度)/入口濃度)×供給液量
マスバランスエラー(MBE)は次式で表される。
MBE=(MB-MD)/MB
※MB=血液側入口流量×(入口濃度―出口濃度)、MD=透析液流量×透析液濃度
【0076】
(3) (タンパクリーク量(TPL)の計算)
クエン酸添加牛血漿をタンパク濃度6~7g/dLに調製し、37℃で中空糸膜モジュールに200mL/minで送液し、ろ過流量15mL/minで血漿をろ過した。このとき、ろ液は血漿に戻し循環系とした。15分毎にろ過流量を測定し、中空糸膜モジュールのろ液を採取した。ろ液に含有するタンパクの濃度を測定した。血漿中のタンパク濃度の測定は、体外診断用のキット(マイクロTP-テストワコー、和光純薬工業社製)を用いて行った。2時間までのデータをもとに、平均タンパクリーク量を求め、3L除水換算時のタンパクリーク量(TPL)を算出して、これを評価値とした。なお、血液中のTPLの減少は少ないことが望ましいため、透析液中へのTPLの漏出が少ない(透析液中のTPL濃度が低い)ことが好ましい。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示される結果から、実施例1は、比較例1に比べてΔTMPが小さいことが分かる。また、図6に示される結果から、実施例1は、比較例1に比べてΔTMPの経時的な上昇が少ないことが分かる。これらの結果から、実施例1は、ろ過安定性に優れることが分かる。
なお、ΔTMPの150分後の測定値は15mmHg以下(従来のPES膜の値以下)であることが好ましい。
【0079】
また、実施例1は、比較例1に比べてUFRが高く、CRRT等に用いるために適した特性を有すると考えられる。
【0080】
上記のいずれのクリアランス(CL)のMBEも少ないことが好ましい(透析会誌45(5):435~445、血液浄化器の性能評価法2012に記載)。例えば、CLun(尿素クリアランス)のMBEは±5%の範囲内であることが好ましい。CLvb(ビタミンB12クリアランス)のMBEは、±10%の範囲内であることが好ましい。CLmyo(ミオグロビンクリアランス)のMBEは、±30%の範囲内であることが好ましい。実施例1は、比較例1と同様に、各種のクリアランス(CLun、CLvbおよびCLmyo)が上記の好ましい範囲内にあり、CRRT等に用いるために適した特性を有すると考えられる。
なお、図7に、実施例1および比較例1,2について、PVP含有率とCLmyoのMBEとの関係を示す。図7に示されるように、PVP含有率が多いほど、CLmyoのMBEは低下することが分かる。
【0081】
また、実施例1は、比較例に比べてTPL漏出量が少なく、CRRT等に用いるために適した特性を有すると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9