(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】水性ポリマー分散液およびそれを含む水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 230/02 20060101AFI20230703BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230703BHJP
C09D 125/08 20060101ALI20230703BHJP
C09D 133/08 20060101ALI20230703BHJP
C09D 133/10 20060101ALI20230703BHJP
C09D 133/24 20060101ALI20230703BHJP
C09D 201/02 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C08F230/02
C09D5/02
C09D125/08
C09D133/08
C09D133/10
C09D133/24
C09D201/02
(21)【出願番号】P 2021512425
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2018108307
(87)【国際公開番号】W WO2020062019
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、パオチン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、チャン
(72)【発明者】
【氏名】シュ、シュチュン
(72)【発明者】
【氏名】タン、チャ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、トン
(72)【発明者】
【氏名】ハッセ、ダニーベル ニケシャ
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0275388(US,A1)
【文献】特開2002-302640(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0058749(US,A1)
【文献】特開2003-055579(JP,A)
【文献】特開2008-280522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 230/02
C09D 5/02
C09D 125/08
C09D 133/08
C09D 133/10
C09D 133/24
C09D 201/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョンポリマーを含む水性分散液であって、前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、
(a)亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位と、
(b)5%~40%未満のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、
(c)0.8%~5%のアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位と、
(d)
スチレン、置換スチレン、C
4
-C
12
-アルキル(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物を含む疎水性モノマーの構造単位
30%~90%と、を含み、
前記エマルジョンポリマーが、30%~50%のスチレンまたは置換スチレンの構造単位を含み、かつ
前記エマルジョンポリマーが、160,000g/モル以上の重量平均分子量を有する、水性分散液。
【請求項2】
前記エマルジョンポリマーが、ウレイド、アミド、アミノ、シラン、ヒドロキシル、またはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーの構造単位をさらに含む、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
前記エマルジョンポリマーが、200,000~500,000g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1または2に記載の水性分散液。
【請求項4】
前記亜リン酸モノマーが、ホスホエチルメタクリレート、ホスホエチルアクリレート、アリルエーテルホスフェート、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項5】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.5%~3%の前記亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項6】
前記アセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーが、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アリルアセトアセテート、アセトアセトキシブチルメタクリレート、2,3-ジ(アセトアセトキシ)プロピルメタクリレート、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の水性分散液。
【請求項7】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、1.5%~4%の前記アセトアセトキまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項8】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、10%~30%の前記シクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項9】
前記シクロアルキル(メタ)アクリレートが、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、またはそれらの混合物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項10】
エポキシ官能性シランをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項11】
前記
C
4
-C
12
-アルキル(メタ)アクリレートが
、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、またはそれらの混合物か
ら選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項12】
前記エマルジョンポリマーが、0~60℃のガラス転移温度を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項13】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、
0.5%~3%の前記亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位と、
10%~30%の前記シクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、
1.5%~4%の前記アセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位と、
30%~50%のスチレンまたは置換スチレンの構造単位と、
20%~40%のC
4-C
12-アルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の水性分散液を重合プロセスによって調製するプロセスであって、前記水性分散液が、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、
(a)亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位と、
(b)5%~40%未満のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、
(c)0.8%~5%のアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位と、
(d)
スチレン、置換スチレン、C
4
-C
12
-アルキル(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物を含む疎水性モノマーの構造単位
30%~90%と、を含み、
前記エマルジョンポリマーが、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で30%~50%のスチレンまたは置換スチレンの構造単位を含み、かつ
前記エマルジョンポリマーが、160,000g/モル以上の重量平均分子量を有する、プロセス。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の水性分散液を含む、水性コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリマー分散液およびそれを含む水性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂、ポリウレタン、またはアルキド樹脂を含む溶媒系コーティング組成物は、それらの耐食性能、機械的特性、および外観のために、金属保護コーティングに広く使用されている。水性アクリルポリマー分散液は、溶媒系分散液よりもはるかに環境的に懸念が少なく、通常、軽~中程度の金属保護のために使用される。
【0003】
米国特許第6,756,459号は、重合単位として、55~58%のスチレン、35~37%の2-エチルヘキシルアクリレート、2.5~3%のメチルメタクリレート、2.5~3%のホスホエチルメタクリレート、0~0.25%のメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、および0~3.5%の2-(アセトアセトキシ)エチルメタクリレートを含む水性エマルジョンコポリマーを含む水性コーティング組成物を開示している。そのような水性エマルジョンコポリマーは、金属基材に適用したときに、改善された耐食性をコーティングに提供することができ、例えば、ASTM B-117-97に従って塩水噴霧に少なくとも7日間曝露した後、20%以下の錆びまたは「M」以下のブリスター評価を呈する。一般的な工業用仕上げおよび農業用建設機器のコーティングなどのいくつかのコーティング用途では、約40~80μmの乾燥フィルム厚さで少なくとも230時間の塩水噴霧試験を耐える、さらにより優れた耐食性能を有するコーティングが必要とされる。さらに、多くの用途における水性コーティングは、業界の要件を満たすのに十分な耐水性および耐ブロック性を有することが望まれている。
【0004】
したがって、上述の耐食性ならびに他の望ましい特性をコーティングに提供する、コーティング用途に好適な水性分散液を提供する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、新規の水性分散液を提供することによって、上述の耐食性を達成する。本発明の水性分散液は、亜リン酸モノマーおよび/またはその塩と、シクロアルキル(メタ)アクリレートと、アセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーと、疎水性モノマーとを含む、モノマーの新規の組み合わせから調製されたエマルジョンポリマーを含む。そのような水性分散液を含む水性コーティング組成物は、それから作製されたコーティングに、改善された耐食性を提供し得る。水性コーティング組成物は、良好な初期耐水性および/または十分な耐ブロック性も、コーティングに提供し得る。
【0006】
第1の態様では、本発明は、エマルジョンポリマーを含む水性分散液であり、エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、
(a)亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位と、
(b)5%~40%未満のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、
(c)0.8%~5%のアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位と、
(d)疎水性モノマーの構造単位と、を含み、
エマルジョンポリマーは、160,000g/モル以上の重量平均分子量を有する。
【0007】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の水性分散液を重合プロセスによって調製する方法である。
【0008】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の水性分散液を含む水性コーティング組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
指定されたモノマーの「重合単位」としても知られる「構造単位」は、重合後のモノマーの残留物、すなわち、重合したモノマーまたは重合した形態のモノマーを指す。例えば、メチルメタクリレートの構造単位は、
【化1】
として示され、
ここで、点線は、構造単位のポリマー骨格への結合点を表す。
【0010】
本発明における「アクリル(Acrylic)」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アルキルアクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、および(メタ)ヒドロキシアルキルアクリレートなどのそれらの改質形態を含む。この文書全体を通して、「(メタ)アクリル)」という語の断片は、「メタクリル」および「アクリル」の両方を指す。例えば、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸およびアクリル酸の両方を指し、メチル(メタ)アクリレートとは、メチルメタクリレートおよびメチルアクリレートの両方を指す。
【0011】
本明細書で使用される場合、「ガラス転移温度」または「Tg」は、例えば、示差走査熱量測定(「DSC」)またはFox方程式を使用する計算を含む様々な技術によって測定することができる。例えば、モノマーa、b、およびcの構造単位を含むエマルジョンポリマーのTgは、
1/Tg(計算)=w(Ma)/Tg(Ma)+w(Mb)/Tg(Mb)+w(Mc)/Tg(Mc)のFox方程式に従って決定され、
式中、Tg(計算)は、ポリマーについて計算されたガラス転移温度を指し、Tg(Ma)、Tg(Mb)、およびTg(Mc)は、それぞれ、モノマーaのホモポリマー、モノマーbのホモポリマー、およびモノマーcのホモポリマーのTgを指し、w(Ma)、w(Mb)、およびw(Mc)は、それぞれ、総モノマーの重量に基づく、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーa、モノマーb、およびモノマーcの重量分率を指す。ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、J.BrandrupおよびE.H.Immergut,Interscience Publishersにより編集された「Polymer Handbook」に見出すことができる。
【0012】
本発明の水性分散液は、1つ以上のエマルジョンポリマーを含む。本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上の亜リン酸モノマーおよび/またはそれらの塩の構造単位を含み得る。亜リン酸モノマーおよび/またはその塩は、エチレン性不飽和を有し得る。亜リン酸モノマーは、アルコールが重合可能なビニルまたはオレフィン基を含有するか、またはそれらで置換されているアルコールの二水素ホスフェートエステルであり得る。亜リン酸モノマーには、ホスホアルキル(メタ)アクリレート、例えば、ホスホエチル(メタ)アクリレート、ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレート、それらの塩、およびそれらの混合物;CH2=C(R)-C(O)-O-(RpO)n-P(O)(OH)2であって、式中、R=HまたはCH3、Rp=アルキレン、例えば、エチレン基、プロピレン基、またはそれらの組み合わせであるもの;ならびにn=1~20、例えば、すべてSolvayから入手可能なSIPOMER PAM-100、SIPOMER PAM-200、SIPOMER PAM-300、およびSIPOMER PAM-600;ホスホアルコキシ(メタ)アクリレート、例えば、ホスホエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジ-エチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリ-エチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジ-プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリ-プロピレングリコール(メタ)アクリレート、それらの塩、およびそれらの混合物が含まれ得る。好ましい亜リン酸モノマーは、ホスホエチルメタクリレート(PEM)、ホスホエチルアクリレート、アリルエーテルホスフェート、またはそれらの混合物からなる群から選択され、より好ましくは、ホスホエチルメタクリレートである。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.5%以上、0.6%以上、0.8%以上、1.0%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、またはさらに1.5%以上、同時に、5%以下、4.5%以下、4%以下、3.5%以下、3.2%以下、3%以下、2.8%以下、2.5%以下、2%以下、またはさらに1.8%以下の亜リン酸モノマーおよび/またはそれらの塩の構造単位を含み得る。本明細書における「エマルジョンポリマーの重量」は、エマルジョンポリマーの乾燥重量または固形分重量を指す。
【0013】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位をさらに含み得る。好適なシクロアルキル(メタ)アクリレートの例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メタシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)シクロヘキシルアクリレート、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましいシクロアルキル(メタ)アクリレートは、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、またはそれらの混合物である。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、40%未満のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位、例えば、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、またはさらに15%以上、同時に、40%以下、39%以下、38%以下、36%以下、35%以下、32%以下、30%以下、28%以下、25%以下、24%以下、22%以下、またはさらに20%以下のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位を含み得る。
【0014】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位も含み得る。アセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーは、エチレン性不飽和および
【化2】
によって表される1つ以上のアセトアセチル部分を有するモノマーであり、式中、R
1は、水素、1~10個の炭素原子を有するアルキル、またはフェニルである。
【0015】
好適なアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能基の例としては、
【化3】
が挙げられ、
式中、Xは、OまたはNであり、R
1は、2価ラジカルであり、R
2は、3価ラジカルであり、これらは、アセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能基をエマルジョンポリマーの骨格に結合させる。
【0016】
好適なアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーには、例えば、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシブチルメタクリレート、および2,3-ジ(アセトアセトキシ)プロピルメタクリレート;アリルアセトアセテート;ビニルアセトアセテート;アセトアセトアミドアルキル(メタ)アクリレート、例えば、アセトアセトアミドエチルメタクリレートおよびアセトアセトアミドエチルアクリレート;またはそれらの組み合わせが含まれ得る。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0.05%以上、0.1%以上、0.5%以上、0.8%以上、1%以上、1.2%以上、1.5%以上、1.8%以上、2%以上、2.2%以上、またはさらに2.5%以上、同時に、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4.5%以下、またはさらに4%以下のアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位を含み得る。
【0017】
本発明のエマルジョンポリマーは、1つ以上の疎水性モノマーの構造単位も含み得る。「疎水性モノマー」は、計算されたHanschパラメータが2.2を超えるモノマーを指す。本明細書で使用される場合、任意の分子の「計算されたHanschパラメータ」という用語は、ポリマーの疎水性の指標を表すパラメータを指し、Kowwin手法に従って計算される場合、値が高いほど疎水性が高いことを示す。このためのツールは、http://www.epa.gov/oppt/exposure/pubs/episuitedl.htmでダウンロードすることができる。Kowwin手法では、補正された「フラグメント定数」手法を使用して、log Pで表されるHanschパラメータを予測する。任意の分子について、分子構造は、各々が係数を有するフラグメントに分割され、構造内のすべての係数値を合計して、分子のlog P推定値を出す。フラグメントは、原子であり得るが、グループが再現性のある係数を与える場合は、より大きな官能基(例えば、C=O)になる。個々の各フラグメントの係数は、確実に測定されたlog P値の重回帰(KOWWINの「還元論」フラグメント定数手法)によって導き出され、ここで、log Pは、水および所定の疎水性有機溶媒の混合物でフラグメントを試験することによって測定される。補正されたフラグメント定数手法では、グループの係数は、グループの測定されたlog P係数値と同じグループのlog Pとの間の、グループ内のすべての原子からのみの推定されたlog P係数の合計から生じる任意の差異を説明するために補正係数によって調整される。KOWWINの計算ツールおよび推定手法は、Syracuse Research Corporationで開発された。MeylanおよびHowardによるジャーナル記事(1995)では、プログラムの手法を、「Atom/fragment contribution method for estimating octanol-water partition coefficients.」 J.Pharm.Sci.1995,84,83-92として説明している。Hanschパラメータは、列挙したウェブサイトにある係数値から計算することができる。一般的なビニルモノマーのHanschパラメータは、「Exploring QSAR: Volume 2:Hydrophobic,Electronic and Steric Constants」,Hansch,C.,Leo,A.,Hoekman,D.,1995,American Chemical Society,Washington,D.C.から入手可能である。
【0018】
本発明において有用な疎水性モノマーには、スチレン、置換スチレン、C4-C24-アルキル(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物が含まれ得る。C4-C24-アルキル(メタ)アクリレートは、4~24個の炭素原子を有するアルキルを含有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを指す。疎水性モノマーは、好ましくは、1つ以上のC4-C12-アルキル(メタ)アクリレートと組み合わせたスチレンを含む。好適な疎水性モノマーには、例えば、スチレン、置換スチレン、例えば、アルファ-メチルスチレン、トランス-ベータ-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、ブチルスチレン、およびp-メトキシスチレン;o-、m-、およびp-メトキシスチレン;ならびにp-トリフルオロメチルスチレン;2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、またはそれらの混合物が含まれ得る。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、またはさらに60%以上、同時に、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、またはさらに65%以下の疎水性モノマーの構造単位を含み得る。
【0019】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、上述の亜リン酸モノマーおよび/またはそれらの塩とは異なる1つ以上の追加の酸モノマーおよび/またはそれらの塩の構造単位も含み得る。追加の酸モノマーは、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、およびそれらの混合物であることもできる。カルボン酸モノマーは、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、生成するか、またはその後に変換可能な酸形成基を有するモノマー、例えば、酸基(例えば、無水物、(メタ)アクリル酸無水物、またはマレイン酸無水物)、およびそれらの混合物であることができる。カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、およびそれらの混合物が挙げられる。スルホン酸モノマーには、ナトリウムビニルスルホネート(SVS)、ナトリウムスチレンスルホネート(SSS)、およびアクリルアミド-メチル-プロパンスルホネート(AMPS);それらの塩;またはそれらの混合物が含まれ得る。好ましくは、追加の酸モノマーは、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、またはそれらの混合物である。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0~10%、0.5%~5%、1%~3%、または1.5%~2%の追加の酸モノマーおよび/またはそれらの塩の構造単位を含み得る。
【0020】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、ジ-、トリ-、テトラ-またはそれ以上の多官能性エチレン性不飽和モノマーを含む1つ以上のマルチエチレン性不飽和モノマーの構造単位をさらに含み得る。好適なマルチエチレン性不飽和モノマーの例としては、ブタジエン、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、またはそれらの混合物が挙げられる。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、マルチエチレン性不飽和モノマーの構造単位を、0~5%、例えば、3%以下、1%以下、0.5%以下、またはさらには0%含み得る。
【0021】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、ウレイド、アミド、アミノ、シラン、ヒドロキシル、またはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の官能基を有する1つ以上のエチレン性不飽和モノマーの構造単位も含み得る(以下、「官能基含有モノマー」)。これらの官能基含有モノマーには、例えば、アミノ-官能性モノマー、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート;アミド-官能基を有するモノマー、例えば、アクリルアミドおよびメタクリルアミド;ビニルトリアルコキシシラン、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルエトキシシランビニルメチルジエトキシシラン、もしくは(メタ)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン、例えば、(メタ)アクリルオキシエチルトリメトキシシランおよび(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン;ウレイド官能性モノマー;ヒドロキシル-官能性モノマー、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、および3-ヒドロキシブチルメタクリレート;またはそれらの混合物が含まれ得る。好ましい官能基含有モノマーは、ウレイド官能性モノマーである。本明細書で使用される場合、「ウレイド官能性モノマー」という用語は、環状ウレイド基(すなわち、イミダゾリジン-2-オン基)を含むエチレン性不飽和化合物を指す。好適なウレイド官能性モノマーの例としては、N-(2-メタクリルアミドエチル)エチレン尿素、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N-(マレアトキシジエチル)エチレン尿素、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましいウレイド官能性モノマーは、(メタ)アクリル酸の環状ウレイド基含有アルキルエステル、より好ましくは、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素である。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0以上、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.6%以上、またはさらに0.7%以上、同時に、3%以下、2.5%以下、2%以下、1.5%以下、1.1%以下、1%以下、0.9%以下、またはさらに0.8%以下の官能基含有エチレン性不飽和モノマーの構造単位を含み得る。
【0022】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上の追加のエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位も含み得る。本明細書における「非イオン性モノマー」は、pH=1~14でイオン電荷を有しないモノマーを指す。好適な追加のエチレン性不飽和非イオン性モノマーには、例えば、C1-C3-アルキル(メタ)アクリレート、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、およびエチルアクリレート;(メタ)アクリロニトリル、またはそれらの混合物が含まれ得る。エマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、0~10%、0.1%~8%、0.5%~6%、1%~5%、2%~4%の追加のエチレン性不飽和非イオン性モノマーの構造単位を含み得る。
【0023】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、
0.5%~3%の亜リン酸モノマーおよび/またはその塩の構造単位と、
10%~30%のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、
1.5%~4%のアセトアセトキシまたはアセトアセトアミド官能性モノマーの構造単位と、
30%~50%のスチレンおよび置換スチレンの構造単位と、
20%~40%のC4-C12-アルキル(メタ)アクリレートの構造単位と、
0~3%のウレイド、アミド、アミノ、シラン、ヒドロキシル、またはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーの構造単位と、を含み得る。
【0024】
エマルジョンポリマーの上記の構造単位の総重量濃度は、100%に等しくてもよい。エマルジョンポリマーを調製するための上述のモノマーのタイプおよびレベルは、様々な用途に好適なガラス転移温度(Tg)をエマルジョンポリマーに提供するように選択され得る。エマルジョンポリマーのTgは、Fox方程式で計算される場合、0℃以上、5℃以上、10℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上、またはさらに30℃以上、同時に、60℃以下、55℃以下、50℃以下、47℃以下、44℃以下、またはさらに40℃以下であり得る。
【0025】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、160,000g/モル以上、例えば、170,000g/モル以上、180,000g/モル以上、200,000g/モル以上、220,000g/モル以上、240,000g/モル以上、260,000g/モル以上、280,000g/モル以上、300,000g/モル以上、またはさらに320,000g/モル以上、同時に、700,000g/モル以下、650,000g/モル以下、600,000g/モル以下、580,000g/モル以下、550,000g/モル以下、520,000g/モル以下、500,000g/モル以下、480,000g/モル以下、460,000g/モル以下、450,000g/モル以下、440,000g/モル以下、420,000g/モル以下、400,000g/モル以下、390,000g/モル以下、またはさらに350,000g/モル以下の重量平均分子量(Mw)を有し得る。エマルジョンポリマーの重量平均分子量は、以下の実施例セクションに記載されているように、ポリスチレン標準を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定され得る。
【0026】
本発明の水性分散液は、1つ以上のエポキシ官能性シランをさらに含み得る。エポキシ官能性シランは、エポキシ官能性ポリシロキサンオリゴマー、エポキシ官能性シラン化合物、またはそれらの混合物であり得る。本発明において有用なエポキシ官能性ポリシロキサンオリゴマーは、典型的には、飽和エポキシ官能性ポリシロキサンオリゴマーである。本明細書における「オリゴマー」は、100~3000、300~2000、または350~1,000の数平均分子量を有するポリマーを指す。エポキシ官能性ポリシロキサンオリゴマーの数平均分子量(Mn)は、580~19760g/モルの範囲の分子量を有するポリスチレン標準を用いてGPCによって測定することができる。
【0027】
本発明において有用なエポキシ官能性ポリシロキサンオリゴマーは、式(I)の構造を有してもよく、
【化4】
、
式中、xは0~14、好ましくは、0~4、1~4、または1~3であり、R
3 は、-CH
2CH
2CH
2-である。市販のエポキシ官能性ポリシロキサンオリゴマーには、Momentive Performance Materials Inc.から入手可能なCoatOSil MP200ポリシロキサンオリゴマーが含まれ得る。
【0028】
本発明において有用なエポキシ官能性シラン化合物は、典型的には、エポキシ基を有する飽和アルコキシル化シランである。エポキシ官能性シラン化合物は、少なくとも1つの加水分解性シラン基を有し得る。好ましいエポキシ官能性シラン化合物は、一般式(II)を有し、
【化5】
、
式中、各R
3は独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、各OR
3基は独立して、例えば、メトキシ、エトキシ、またはそれらの組み合わせを含む、1~6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、R
4は、200以下の分子量を有す二価の有機基を表し、好ましくは、R
4は、C
1~C
10、C
1~C
5、またはC
1~C
3アルキレン基であり、R
5は、水素原子または1~20個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、もしくはアラルキル基を表し、qは、1、2、または3である。好適なエポキシ官能性シラン化合物の例としては、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、またはそれらの混合物が挙げられる。市販のエポキシ官能性シラン化合物には、Momentive Performance Materials Inc.からのSilquest A-187ガンマ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが含まれ得る。
【0029】
本発明において有用なエポキシ官能性シランは、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量で、ゼロ以上、0.05%以上、0.1%以上、0.15%以上、0.2%以上、0.25%以上、0.3%以上、またはさらに0.35%以上、同時に、5%以下、4%以下、3%以下、2.5%以下、2%以下、1.5%以下、1.2%以下、1%以下、0.8%以下、またはさらに0.5%以下の合計量で存在し得る。
【0030】
本発明の水性分散液は、水性分散液の総重量に基づく重量で、例えば、30%~90%、40%~80%、50%~70%、または55%~60%の量の水をさらに含む。
【0031】
本発明の水性分散液は、上述のモノマーの混合物のエマルジョン重合によって調製され得る。エマルジョンポリマーを調製するためのモノマーの混合物の総重量濃度は、100%に等しい。モノマーの総重量に基づくそのようなモノマーの用量は、エマルジョンポリマーの構造単位としてのこれらのモノマーの各々の重量と実質的に同じである。モノマーの混合物は、そのままもしくは水中エマルジョンとして添加され得るか、または1回以上の添加で添加され得るか、またはポリマーを調製する反応期間にわたって、連続的に、直線的に、もしくは非直線的に添加され得る。フリーラジカル重合プロセスに好適な温度は、100℃未満、10℃~95℃の範囲、または50℃~90℃の範囲であり得る。ポリマーの調製には、1つ以上の界面活性剤を使用してもよい。エポキシ官能性シランは、モノマー混合物の重合後に添加され得る。
【0032】
1つ以上のラジカル開始剤を、重合プロセスにおいて使用してもよい。重合プロセスは、熱的に開始されるか、または酸化還元により開始されるエマルジョン重合であってもよい。好適なフリーラジカル開始剤の例としては、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、アンモニウムペルスルフェートおよび/またはアルカリ金属ペルスルフェート、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸、およびそれらの塩;過マンガン酸カリウム、およびペルオキシ二硫酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩が挙げられる。フリーラジカル開始剤は、典型的には、モノマーの総重量に基づいて、0.01重量%~3.0重量%のレベルで使用され得る。好適な還元剤と結合した上述の開始剤を含む酸化還元系は、重合プロセスで使用され得る。好適な還元剤の例としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、イオウ含有酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、例えば、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸、チオ硫酸、ヒドロ亜硫酸、硫化物、硫化水素、または亜ジチオン酸、ホルムアミジンスルフィン酸、重亜硫酸アセトン、グリコール酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、および前述の酸の塩が挙げられる。鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、またはコバルトの金属塩を使用して酸化還元反応を触媒してもよい。金属用のキレート剤が、任意選択で使用されてもよい。
【0033】
エマルジョンポリマーの分子量を制御するために、1つ以上の連鎖移動剤を重合プロセスで使用してもよい。好適な連鎖移動剤の例としては、3-メルカプトプロピオン酸、メチル3-メルカプトプロピオネート、ブチル3-メルカプトプロピオネート、n-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデカンチオール、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクタデカンチオール、ベンゼンチオール、アゼラ酸アルキルメルカプタン、ヒドロキシ基含有メルカプタン、例えば、ヒドロキシエチルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、およびそれらの混合物が挙げられる。連鎖移動剤は、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーの総重量に基づく重量で、0~2%、例えば、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.3%以下、0.2%以下、またはさらに0.15%以下の量で使用され得る。
【0034】
重合が完了した後、得られた水性分散液は、中和剤としての1つ以上の塩基によって、例えば、少なくとも6、6~10、または7~9のpH値に中和され得る。塩基は、エマルジョンポリマーのイオン性基または潜在的なイオン性基の、部分的または完全な中和をもたらし得る。好適な塩基の例としては、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物;トリエチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリン、エチレンジアミン、2-ジエチルアミノエチルアミン、2,3-ジアミノプロパン、1,2-プロピレンジアミン、ネオペンタンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,9-ジオキサドデカン-1,12-ジアミン、ポリエチレンイミン、もしくはポリビニルアミンなどの第一級、第二級、および第三級アミン;水酸化アルミニウム;またはそれらの混合物が挙げられる。水性分散液中のエマルジョンポリマー粒子は、50ナノメートル(nm)~500nm、80nm~200nm、または90nm~150nmの粒子サイズを有し得る。本明細書における粒子サイズは、Z平均サイズを指し、Brookhaven BI-90 Plus粒子サイズ分析器で測定され得る。
【0035】
本発明はまた、本発明の水性分散液を含む水性コーティング組成物に関する。水性分散液は、水性コーティング組成物中に、水性コーティング組成物の重量に基づく重量で、20%~90%、30%~80%、または40%~70%の量で存在し得る。
【0036】
本発明の水性コーティング組成物は、顔料および/または増量剤をさらに含み得る。本明細書における「顔料」は、コーティングの不透明度または隠蔽能力に実質的に寄与することができる材料を指す。そのような材料は、典型的には、1.8を超える屈折率を有する。無機顔料は、典型的には金属酸化物を含む。好適な顔料の例としては、二酸化チタン(TiO
2)、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、リン酸亜鉛およびモリブデン酸亜鉛などの耐食性顔料、カーボンブラック、硫酸バリウム、炭酸バリウム、およびそれらの混合物が挙げられる。TiO
2は、典型的には、アナスターゼおよびルチルの2つの結晶形で存在する。好適な市販のTiO
2としては、例えば、Kronos Worldwide,Inc.から入手可能なKRONOS2310、Chemours(Wilmington,Del.)から入手可能なTi-Pure R-706、Cristalから入手可能なTiONA AT1、およびそれらの混合物が挙げられ得る。TiO
2は、濃縮分散形態でも入手可能であり得る。本明細書における「増量剤」は、1.8以下かつ1.3を超える屈折率を有する粒子状無機材料を指す。好適な増量剤の例としては、炭酸カルシウム、粘土、硫酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、ケイ酸塩、ゼオライト、雲母、ケイソウ土、固形または中空ガラス、セラミックビーズ、霞石閃長岩、長石、ケイソウ土、焼成ケイソウ土、タルク(水和ケイ酸マグネシウム)、シリカ、アルミナ、カオリン、パイロフィライト、パーライト、バライト、ウォラストナイト、The Dow Chemical Companyから入手可能なROPAQUE(商標)Ultra E(ROPAQUEは、The Dow Chemical Companyの商標である)などの不透明なポリマー、およびそれらの混合物が挙げられる。水性コーティング組成物は、0%~55%、5%~40%、または10%~35%の顔料体積濃度(PVC)を有し得る。PVCは、以下の式に従って決定することができる。
【数1】
【0037】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の消泡剤をさらに含み得る。本明細書における「消泡剤」は、泡の形成を減少させ、かつ妨げる化学添加剤を指す。消泡剤は、シリコーン系消泡剤、鉱油系消泡剤、エチレンオキシド/プロピレンオキシド系消泡剤、アルキルポリアクリレート、およびそれらの混合物であってもよい。好適な市販の消泡剤として、例えば、いずれもTEGOから入手可能なTEGO Airex902WおよびTEGO Foamex1488ポリエーテルシロキサンコポリマーエマルジョン、BYKから入手可能なBYK-024シリコーン変形剤、およびそれらの混合物が挙げられる。消泡剤は、一般的に、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~5%、0.05%~3%、または0.1%~2%の量で存在し得る。
【0038】
本発明の水性コーティング組成物は、「レオロジー改質剤」としても知られる1つ以上の増粘剤をさらに含み得る。増粘剤には、ポリビニルアルコール(PVA)、粘土材料、酸誘導体、酸コポリマー、ウレタン会合型増粘剤(UAT)、ポリエーテル尿素ポリウレタン(PEUPU)、ポリエーテルポリウレタン(PEPU)、またはそれらの混合物が含まれ得る。好適な増粘剤の例としては、ナトリウムまたはアンモニウムで中和されたアクリル酸ポリマーなどのアルカリ膨潤性エマルジョン(ASE);疎水性修飾アクリル酸コポリマーなどの疎水性修飾アルカリ膨潤性エマルジョン(HASE);疎水性修飾エトキシル化ウレタン(HEUR)などの会合性増粘剤;ならびにメチルセルロースエーテル、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水性修飾ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、カルボキシメチル2-ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、2-ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルメチルセルロース、2-ヒドロキシブチルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルエチルセルロース、および2-ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース増粘剤が挙げられる。好ましくは、増粘剤はHEURである。増粘剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~5%、0.05%~3%、または0.1%~1%の量で存在し得る。
【0039】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の湿潤剤をさらに含み得る。本明細書における「湿潤剤」は、コーティング組成物の表面張力を減少させ、コーティング組成物を基材の表面上により容易に広げるか、または浸透させる化学添加剤を指す。湿潤剤は、ポリカルボキシレート、アニオン性、両性イオン性、または非イオン性であり得る。好適な市販の湿潤剤としては、例えば、Evonikから入手可能なアクトアセチレンジオールに基づくSURFYNOL104およびSURFYNOL TG非イオン性湿潤剤、いずれもBYKから入手可能なBYK-346およびBYK-349ポリエーテル修飾シロキサン、またはそれらの混合物が含まれ得る。湿潤剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~5%、0.05%~3%、または0.1%~2%で存在し得る。
【0040】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の造膜助剤をさらに含み得る。本明細書における「造膜助剤」は、周囲条件下でポリマー粒子を連続フィルムに融着させる遅い蒸発性溶媒を指す。好適な造膜助剤の例としては、2-n-ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、n-ブチルエーテル、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましい造膜助剤には、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、n-ブチルエーテル、またはそれらの混合物が含まれる。造膜助剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~15%、0.5%~8%、または2%~5%で存在し得る。
【0041】
本発明の水性コーティング組成物は、1つ以上の分散剤をさらに含み得る。分散剤は、スチレン、アクリレートまたはメタクリレートエステル、ジイソブチレン、および他の親水性または疎水性コモノマーなどの、様々なモノマーを有するポリアクリル酸またはポリメタクリル酸または無水マレイン酸;それらの塩;ならびにそれらの混合物であり得る。分散剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~5%、0.05%~3%、または0.1%~1%の量で存在し得る。
【0042】
上述の成分に加えて、本発明の水性コーティング組成物は、緩衝剤、中和剤、保湿剤、防カビ剤、殺生物剤、皮張り防止剤、着色剤、流動剤、酸化防止剤、可塑剤、均染剤、接着促進剤、フラッシュ防錆添加剤、および粉砕媒剤の添加剤のうちのいずれか1つまたは組み合わせをさらに含み得る。これらの添加剤は、水性コーティング組成物の総重量に基づく重量で、0~10%または0.1%~2%の合計量で存在し得る。水性コーティング組成物はまた、水性コーティング組成物の30重量%~90重量%、40重量%~80重量%、または50重量%~70重量%の量の水を含み得る。
【0043】
本発明の水性コーティング組成物は、水性分散液を他の任意選択の成分、例えば、上述のような顔料および/または増量剤と混和することを含むプロセスによって調製され得る。水性コーティング組成物中の成分は、本発明の水性コーティング組成物を提供するために任意の順序で混合され得る。上述の任意選択の成分のうちのいずれかはまた、水性コーティング組成物を形成するために、混合中または混合前に組成物に添加され得る。水性コーティング組成物が顔料および/または増量剤を含む場合、顔料および/または増量剤は、好ましくは、顔料および/または増量剤のスラリーを形成するために、分散剤と混合される。
【0044】
本発明の水性コーティング組成物は、それから作製されたコーティングに、改善された耐食性を提供することができる。本発明はまた、金属などの腐食し易い基材の耐食性を改善する方法を提供する。この方法は、本発明の水性コーティング組成物を提供することと、水性コーティング組成物を金属基材に適用することと、水性コーティング組成物を乾燥するかまたは乾燥させてコーティングを形成することと、を含む。改善された耐食性とは、実施例セクションに記載の試験方法に従って、少なくとも48時間、少なくとも100時間、少なくとも230時間、少なくとも240時間、少なくとも250時間、少なくとも270時間、少なくとも340時間、または少なくとも400時間、塩水噴霧に曝露した後の、40~80μmの厚さのコーティングの表面錆び評価10および6Mより優れたブリスター評価を意味する。
【0045】
本発明はまた、本発明の水性コーティング組成物を使用する方法に関する。この方法は、コーティング組成物を基材に適用することと、適用したコーティング組成物を乾燥するか、または乾燥させることと、を含み得る。本発明はまた、コーティングを調製する方法も提供する。この方法は、本発明の水性コーティング組成物を形成することと、水性コーティング組成物を基材に適用することと、適用したコーティング組成物を乾燥するか、または乾燥させて、コーティングを形成することと、を含み得る。
【0046】
本発明の水性コーティング組成物は、様々な基材に適用され、接着することができる。好適な基材の例としては、木材、金属、プラスチック、発泡体、石、エラストマー基材、ガラス、布、コンクリート、またはセメント系基材が挙げられる。水性コーティング組成物は、好ましくは顔料を含み、海洋保護コーティング、一般工業用仕上げ、金属保護コーティング、自動車用コーティング、交通塗料、外断熱仕上げシステム(EIFS)、木材コーティング、コイルコーティング、プラスチックコーティング、缶コーティング、建築コーティング、および土木工学コーティングなどの様々な用途に好適である。水性コーティング組成物は、金属保護コーティングに特に好適である。水性コーティング組成物は、プライマーとして、トップコート、ワンコート直接金属コーティングとして、または他のコーティングと組み合わせて使用して、多層コーティングを形成することができる。
【0047】
本発明の水性コーティング組成物は、ブラッシング、浸漬、圧延、および噴霧を含む、義務的手段によって、基材に適用され得る。水性組成物は、好ましくは噴霧によって適用される。空気霧化噴霧、空気噴霧、無気噴霧、大容量低圧噴霧、および静電ベル適用などの静電噴霧などの噴霧のための標準噴霧技術および装置、ならびに手動または自動のいずれかの方法を使用することができる。本発明の水性コーティング組成物が基材に適用された後、水性コーティング組成物は、乾燥するか、または乾燥させて、室温(20~35℃)で、または例えば、35℃~240℃の高温でフィルム(すなわち、コーティング)を形成することができる。
【実施例】
【0048】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の実施例においてここに記載され、すべての部およびパーセンテージは、他に特定されない限り、重量による。
【0049】
シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)は、BASFから入手可能である。
【0050】
スチレン(ST)は、Langyuan Chemical Co.,Ltd.から入手可能である。
【0051】
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)は、The Dow Chemical Companyから入手可能である。
【0052】
メタクリル酸(MAA)は、Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd.から入手可能である。
【0053】
ホスホエチルメタクリレート(PEM)はSolvayから入手可能である。
【0054】
N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素(MEUR)は、Evonikから入手可能である。
【0055】
アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)は、Eastmanから入手可能である。
【0056】
ジアセトンアクリルアミド(DAAM)およびアジピン酸ジヒドラジド(ADH)は、いずれもKyowa Hakko Chemical Co.,Ltd.から入手可能である。
【0057】
Sinopharm Chemical Reagent Co.Ltd.から入手可能なn-ドデシルメルカプタン(n-DDM)は連鎖移動剤として使用される。
【0058】
Stepan Co.から入手可能なPOLYSTEP P-12A界面活性剤(P-12A)は、アルコールエトキシレート系ホスフェート界面活性剤である。
【0059】
BASFから入手可能なDisponil FES32界面活性剤(Fes32)は、アルコールエトキシレートサルフェート界面活性剤である。
【0060】
Momentive Performance Materialsから入手可能なSilquest A-187シラン(A-187)は、グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0061】
The Dow Chemical Companyから入手可能なACRYSOL(商標)RM-8Wレオロジー改質剤は、非イオン性ウレタンレオロジー改質剤である。
【0062】
The Dow Chemical Companyから入手可能なOROTAN(商標)681分散剤は、疎水性アクリルコポリマー顔料分散剤である。
【0063】
Chemours Titanium Technologiesから入手可能なTi-Pure R-706顔料は、二酸化チタン顔料である。
【0064】
SURFYNOL TG非イオン性湿潤剤およびTEGO AIREX902W消泡剤(ヒュームドシリカを含有するポリエーテルシロキサンコポリマーのエマルジョン)は、いずれもEvonikから入手可能である。
【0065】
Eastmanから入手可能なTEXANOLエステルアルコールは、造膜助剤として使用する。
【0066】
アンモニア(25%)中和剤およびNaNO2フラッシュ防錆剤は、いずれもSinopharm Chemical Reagent Co.、Ltd.から入手可能である。
【0067】
亜硝酸ナトリウム(15%)は、フラッシュ防錆添加剤として使用する。
【0068】
OROTAN、TRITON、およびACRYSOLは、すべて、The Dow Chemical Companyの商標である。
【0069】
実施例では、以下の標準的な分析装置および方法を使用する。
【0070】
耐塩水噴霧性試験
コーティングされたパネルは、100μmのアプリケータにより試験コーティング配合物をQパネル(冷間圧延鋼)上に適用することによって調製した。次に、得られたフィルムを23℃および50%の相対湿度(RH)で7日間乾燥させた。耐塩水噴霧性は、ASTM B-117(2011)に従って、調製されたままのコーティングされたパネルを塩水噴霧環境(5%の塩化ナトリウム霧)に曝露することによって試験した。曝露前に、冷間圧延鋼をテープ(3Mプラスチックテープ#471)で被覆した。カミソリ刃で作製されたスクライブマークを、曝露の直前に上記で得たパネルの下半分に刻み得る。各配合について、スクライブを含む1つのパネル(「スクライブパネル」)およびスクライブを含まない1つのパネル(「非スクライブパネル」)を、塩水噴霧環境に特定の時間曝露し、次に塩水噴霧環境から取り出して、ブリスターおよび錆びを評価した。例えば、非スクライブパネルを、230~270時間後に評価し、スクライブパネルを、400時間後に評価した。結果をブリスター/錆評価として提示した。
【0071】
ブリスター評価は、ASTM D714-02(2010)に従って実施し、表Aに示されるように、数字および/または1つ以上の文字で構成された。文字F、M、MD、またはDは、ブリスターの密度を定性的に表したものである。数字は、ブリスターのサイズを指し、2は最大サイズ、8は最小サイズ、10はブリスターなしである。数が大きいほど、ブリスターのサイズは小さくなる。錆評価は、表Bおよび表Cに示すように、ASTM D610-2001によって決定される。塩水噴霧の塩に230~270時間曝露した後の許容可能なブリスター評価は、6Mより優れており、許容可能な錆評価は
「10」である。
【表1】
【表2】
【表3】
【0072】
初期耐水性
コーティングされたパネルは、100μmのアプリケータにより試験コーティング配合物をQパネル(冷間圧延鋼)上に適用することによって調製した。次に、得られたフィルムを23℃および50%のRHで1時間乾燥させた。次に、コーティングされたパネルを脱イオン(DI)水に7日間浸してから、錆およびブリスターの程度を記録した。錆およびブリスターの程度を、それぞれASTMD610-2001およびASTMD714-02(2010)に従って評価および記録した。初期耐水性試験では、ブリスター評価が10および錆評価が10のパネルが、許容可能である。
【0073】
GPC分析
GPC分析は、一般的に、Agilent1200により実施した。試料を2mg/mLの濃度のテトラヒドロフラン(THF)/ギ酸(FA)(5%)中に溶解し、1時間を超えて撹拌し、室温(20~35℃)で一晩保管し、次に、GPC分析の前に0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。GPC分析は、次の条件を使用して実行された。
カラム:1本のPLgel GUARDカラム(10μm、50mm×7.5mm)、タンデムで2本の混合Bカラム(7.8mm×300mm);カラム温度:40℃;移動相:THF/FA(5%);流量:1.0mL/分;注入量:100mL;検出器:Agilent屈折率検出器、40℃;および検量線:ポリノム3適合度を使用した、2329000~580g/モルの範囲の分子量を有するPLポリスチレンI狭標準。
【0074】
耐ブロック性
耐ブロック性は、GB/T23982-2009に従って測定した。コーティングされたパネルは、100μmのアプリケータにより試験コーティング配合物をアルミニウム(Al)パネル上に適用し、かつパネルを23℃、50%のRHで一晩乾燥させることによって調製した。次に、2つのコーティングされたパネルは、それらの上に500gの重りを用いて向かい合わせにして(コーティングフィルム対コーティングフィルム)積み重ね、次に、50℃のオーブンに4時間入れた。次に、2つの積み重ねられたパネルを互いに分離して、耐ブロック性を評価した。
【0075】
耐ブロック性の評価は、分離力および損傷領域によって定義される。
A:力を入れずに分離、
B:わずかな衝撃で分離、
C:手の弱い力で分離、
D:手の中程度の力で分離、
E:手の強い力で分離、
F:ツールによる分離、
数字は損傷の領域を意味する:
0:損傷なし;1:≦1%;2:>1および≦5%;3:>5および≦20%;4:>20および≦50%;5:>50%
A-0が最高を表し、F-5が最低である。C-3より優れた耐ブロック性は、許容可能である。
【0076】
実施例(Ex)1
DI水(455g)、Disponil Fes32界面活性剤(31%、25g)、ST(572g)、2-EHA(462g)、CHMA(344g)、MAA(30g)、PEM(22g)、MEUR(50%、22g)、およびAAEM(75g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。
【0077】
DI水(1000g)およびPolystep P-12A界面活性剤(28%、33g)を、機械的攪拌を備えた5リットルのマルチネックフラスコに充填した。フラスコの内容物を窒素雰囲気下で90℃に加熱した。次に、DI水(5g)中のアンモニア(25%、1.3g)、85gのモノマーエマルジョン、およびDI水(16.67g)中のAPS(2.95g)を、撹拌したフラスコに添加し、続いてDI水(5g)ですすいだ。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(98.33g)中のAPS(1.75g)、およびDI水(93.33g)中のアンモニア(25%、8.0g)を、88℃で120分にわたって添加し、続いてDI水(25g)ですすいだ。重合の終わりに、DI水(5.75g)中のエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(0.0229g)と混合されたDI水(5.75g)中のFeSO4(0.0122g)と、DI水(30.83g)中のt-ブチルヒドロペルオキシド(3.89g)の溶液と、DI水(30g)中のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(2.44g)の溶液と、DI水(25g)中のt-ブチルヒドロペルオキシド(3.44g)の溶液と、DI水(27g)中のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(2.0g)の溶液とを、すべて、60℃のフラスコに添加し、次に、DI水(15g)中のアンモニア(25%、14g)を、50℃で添加して、水性分散液を得た。
【0078】
Ex2~5および7
表1に示すように、モノマー配合物およびn-DDMの用量に基づいて、Ex1の水性分散液を調製するための上述と同じ手順に従って、Ex2~5および7の水性分散液をそれぞれ調製した。
【0079】
Ex6
Ex6の水性分散液は、Ex3の水性分散液の固形分重量に基づいた重量で、Ex3の調製されたままの水性分散液を0.35%のSilquest A-187シランと混合することによって調製した。
【0080】
比較(Comp)Ex A、D、F、およびG
表1に示すように、使用される場合は、モノマー配合物およびn-DDMの用量に基づいて、Ex1の水性分散液を調製するための上述と同じ手順に従って、これらの水性ポリマー分散液をそれぞれ調製した。
【0081】
Comp Ex B
DI水(455g)、Disponil Fes32界面活性剤(31%、25g)、ST(586g)、2-EHA(401g)、CHMA(344g)、MAA(30g)、PEM(22g)、MEUR(50%、22g)、およびDAAM(23g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。
【0082】
DI水(1000g)およびPolystep P-12A界面活性剤(28%)(33g)を、機械的攪拌を備えた5リットルのマルチネックフラスコに充填した。フラスコの内容物を窒素雰囲気下で90℃に加熱した。次に、DI水(5g)中のアンモニア(25%、1.3g)、85gのモノマーエマルジョン、およびDI水(16.67g)中のAPS(2.95g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(5g)ですすいだ。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(98.33g)中のAPS(1.75g)、およびDI水(93.33g)中のアンモニア(25%、8.0g)を、88℃で120分にわたって添加し、続いてDI水(25g)ですすいだ。重合の終わりに、DI水(5.75g)中のエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(0.0229g)と混合されたDI水(5.75g)中のFeSO4(0.0122g)と、DI水(30.83g)中のt-ブチルヒドロペルオキシド(3.89g)の溶液と、DI水(30g)中のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(2.44g)の溶液と、DI水(25g)中のt-ブチルヒドロペルオキシド(3.44g)の溶液と、DI水(27g)中のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(2.0g)の溶液とを、すべて、60℃のフラスコに添加し、次に、DI水(15g)中のアンモニア(25%、14g)を、50℃で添加した。最後に、DI水(20g)中のADH(14g)を45℃で添加して、水性分散液を得た。
【0083】
Comp Ex C
DI水(455g)、Disponil Fes32界面活性剤(31%、25g)、ST(586g)、2-EHA(401g)、CHMA(344g)、MAA(30g)、PEM(22g)、MEUR(50%、22g)、およびDAAM(23g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。
【0084】
DI水(1000g)およびPolystep P-12A界面活性剤(28%)(33g)を、機械的攪拌を備えた5リットルのマルチネックフラスコに充填した。フラスコの内容物を窒素雰囲気下で90℃に加熱した。次に、DI水(5g)中のアンモニア(25%、1.3g)、85gのモノマーエマルジョン、およびDI水(16.67g)中のAPS(2.95g)を添加し、続いてDI水(5g)ですすいだ。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(98.33g)中のAPS(1.75g)、およびDI水(93.33g)中のアンモニア(25%、8.0g)を、88℃で120分にわたって添加し、続いてDI水(25g)ですすいだ。重合の終わりに、DI水(5.75g)中のエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(0.0229g)と一緒に混合されたDI水(5.75g)中のFeSO4(0.0122g)と、DI水(30.83g)中のt-ブチルヒドロペルオキシド(3.89g)の溶液と、DI水(30g)中のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(2.44g)の溶液と、DI水(25g)中のt-ブチルヒドロペルオキシド(3.44g)の溶液と、DI水(27g)中のホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(2.0g)の溶液とを、すべて、60℃のフラスコに添加し、次に、DI水(15g)中のアンモニア(25%、14g)を、50℃で添加した。最後に、DI水中(30g)中のADH(21g)を45℃で添加して、水性分散液を得た。
【0085】
Comp Ex EE
DI水(455g)、Disponil Fes32界面活性剤(31%、25g)、ST(586g)、2-EHA(401g)、CHMA(344g)、MAA(30g)、PEM(22g)、MEUR(50%、22g)、およびDAAM(23g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。
【0086】
DI水(1000g)およびPolystep P-12A界面活性剤(28%)(33g)を、機械的攪拌を備えた5リットルのマルチネックフラスコに充填した。フラスコの内容物を窒素雰囲気下で90℃に加熱した。次に、DI水(5g)中のアンモニア(25%、1.3g)、85gのモノマーエマルジョン、およびDI水(16.67g)中のAPS(2.95g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(5g)ですすいだ。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(98.33g)中のAPS(1.75g)、およびDI水(93.33g)中のアンモニア(25%、8.0g)を、88℃で120分にわたって添加し、続いてDI水(25g)ですすいだ。60分後、フラスコ内に大量の凝固物が観察され、実験を停止した。
【0087】
上記の得られた水性分散液の組成物および特性を表1に示す。
【表4】
【0088】
塗料配合物-塗料-1、Comp塗料A-I、Comp塗料B、およびComp塗料C
上記で得られた水性分散液を、表2に示す配合物に基づいて、塗料配合物を調製する際の結合剤として使用した。粉砕物段階における原料を、高速分散機(混合速度:800~1800毎分回転数(rpm))を使用して混合した。次に、得られた粉砕物を、従来のラボミキサー(混合速度:50~600rpm)を使用して結合剤と混合した。次に、レットダウン段階における他の原料を添加して、塗料組成物を得た。得られた塗料配合物を、上述の試験方法に従って評価した。得られた塗料の特性を表2に示す。
【表5】
【0089】
表2に示すように、Ex1分散液は、塗料-1に、すべての試験塗料の中で最高の耐塩水噴霧性を提供した。さらに、後架橋剤としてADHを含む結合剤を含む塗料(Comp Ex BおよびC)は、後架橋剤を含まない結合剤から調製した塗料(Comp ExA)またはAAEMの構造単位を含む結合剤を含む塗料(Ex1)よりも初期耐水性が劣っていた。
【0090】
塗料配合物-塗料-2、塗料-3-I、Comp 塗料A-II、およびComp塗料D
これらの塗料配合物を、表3に示す配合物に基づいて、上述の塗料-1と同じ手順に従って調製した。得られた塗料の特性を表3に示す。表3に示すように、すべての結合剤は、塗料に、許容可能な初期耐水性を提供した。Ex2および3分散液は、塗料に、Comp Ex D分散液よりも優れた耐塩水噴霧性を提供した。Ex3分散液は、塗料に、Ex2分散液よりもさらに優れた耐塩水噴霧性を提供した。加えて、Ex2および3分散液はいずれも、塗料に、Comp Ex AおよびComp Ex D分散液よりも優れた耐ブロック性を提供した。
【表6】
【0091】
塗料配合物-塗料-4およびComp塗料A-III
これらの塗料配合物を、表4に示す配合物に基づいて、上述の塗料-1と同じ手順に従って調製した。得られた塗料の特性を表4に示す。表4に示すように、Ex4分散液は、塗料に、Comp Ex A分散液と同等の初期耐水性と、Comp Ex A分散液よりも優れた耐塩水噴霧性を提供した。
【表7】
【0092】
塗料配合物-塗料-3-II、塗料-5、塗料-6、塗料-7、Comp塗料F、およびComp塗料G
これらの塗料配合物を、表5に示す配合物に基づいて、上述の塗料-1と同じ手順に従って調製した。得られた塗料の特性を表5に示す。表5に示すように、Ex3および5~7分散液は、Comp Ex FおよびG分散液と同等の初期耐水性と、Comp Ex FおよびG分散液よりも、パネル(スクライブなし)にコーティングした場合に、塩水噴霧に270時間曝露した後の優れた耐塩水噴霧性を塗料に提供し、Ex6分散液は、最高の耐塩水噴霧性を塗料に提供した。加えて、Ex3、6、および7分散液は、スクライブパネルにコーティングした場合に、塩水噴霧に400時間曝露された後でも、良好な耐塩水噴霧性を維持した。
【表8】