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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20230704BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20230704BHJP
   B41J 2/19 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/18
B41J2/19
B41J2/14 605
B41J2/14 607
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019069685
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020168752
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 寛
(72)【発明者】
【氏名】小出 祥平
(72)【発明者】
【氏名】平井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 啓太
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154490(JP,A)
【文献】特開2019-034561(JP,A)
【文献】特開2017-185792(JP,A)
【文献】特開2008-290292(JP,A)
【文献】特開2014-144561(JP,A)
【文献】特開2014-076605(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181733(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152798(WO,A1)
【文献】米国特許第05574486(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体が流通し、上下に重なるように配置された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、
前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとの間を接続する複数の個別流路と、を備え、
前記個別流路は、前記供給マニホールドと接続された供給絞りと、前記帰還マニホールドと接続された帰還絞りと、前記液体を吐出するノズルと、前記供給絞りと前記帰還絞りとを連結すると共に前記ノズルと連結されたディセンダとを有し、
前記供給絞りの前記供給マニホールドとの接続口である供給マニホールド側開口が、前記供給マニホールドの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置され、前記帰還絞りの前記帰還マニホールドとの接続口である帰還マニホールド側開口が、前記帰還マニホールドの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置され
前記供給マニホールド側開口の径方向に垂直な方向から見て、前記供給マニホールドの幅方向中央が、前記供給マニホールド側開口内に位置し、
前記帰還マニホールド側開口の径方向に垂直な方向から見て、前記帰還マニホールドの幅方向中央が、前記帰還マニホールド側開口内に位置している、液体吐出装置。
【請求項2】
前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとの上下間に配置されて前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとの各内部の前記液体の震動を減衰させる少なくとも1つの長尺状のダンパを更に備え、
前記供給マニホールド、前記帰還マニホールド、及び前記ダンパが、上下に対向して配置され、
前記供給マニホールド側開口の径方向に垂直な方向から見て、前記ダンパの幅方向中央が、前記供給マニホールド側開口内に位置し、
前記帰還マニホールド側開口の径方向に垂直な方向から見て、前記ダンパの幅方向中央が、前記帰還マニホールド側開口内に位置している、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのダンパは、前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとの上下間において、前記供給マニホールド寄りの位置に配置された供給側ダンパと、前記帰還マニホールド寄りの位置に配置された帰還側ダンパとを含む、請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記帰還マニホールド側開口の内径寸法が、前記供給マニホールド側開口の内径寸法以下に設定されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記個別流路は、前記供給絞りと前記ディセンダとの間に配置され且つ前記供給絞りから供給される前記液体に圧力を付与して前記液体を前記ディセンダに供給する圧力室を更に有し、
前記供給絞りの最大流路抵抗値が前記帰還絞りの最大流路抵抗値以上となる、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記供給絞りの最小流路断面積が、前記帰還絞りの最小流路断面積よりも小さい、請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記供給絞りの流路長が、前記帰還絞りの流路長よりも長い、請求項5又は6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記ディセンダは、前記供給絞り側に位置する上流側端部と前記供給マニホールド側開口との間の最短距離が、前記帰還絞り側に位置する下流側端部と前記帰還マニホールド側開口との間の最短距離よりも長く、前記上流側端部から前記下流側端部へ向かうに従って前記帰還マニホールドに近づくように傾斜して延びている、請求項5~7のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記供給マニホールド側開口の径方向に垂直な方向から見て、前記供給絞りが、前記帰還絞りよりも長い、請求項5~8のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置として、例えば特許文献1に開示されるように、上下方向に重なるように配置された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、これらの各マニホールドを接続する複数の個別流路とを備えるものが知られている。
【0003】
例えば、個別流路は、供給マニホールドから供給される液体に圧力を付与する圧力室と、圧力室から供給される液体を流通させる通路と、当該通路の途中に配置されたノズルとを有する。個別流路の上流端は、供給マニホールドの幅方向一端に接続され、下流端は、帰還マニホールドの幅方向一端に接続される。
【0004】
この液体吐出装置では、装置外に設けられた外部のポンプから供給マニホールドに付与される正圧により、装置内の流路を供給マニホールドから帰還マニホールドに向けて液体が循環する。その状態で圧力室内の液体に圧力が付与されると、循環中の液体の一部がノズルから吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-290292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記液体吐出装置は、供給マニホールド内の幅方向一端では液体の流速が遅く、供給マニホールド内にエアが一旦混入すると、エアが供給マニホールドから排出されにくい。また、帰還マニホールドの幅方向一端でも液体の流速が遅く、帰還マニホールドの幅方向一端から帰還マニホールド内にエアが混入すると、エアが帰還マニホールドから排出されにくい。このため、装置内の流路に長期にわたってエアが残留する場合がある。また装置内では、液体の流速が一様でないため、液体に含まれる色材成分等の所定成分が沈降して流路内に堆積することで、流路内が閉塞する場合がある。このようなエアの混入や所定成分の沈降により、装置の液体吐出性能が低下する場合がある。
【0007】
そこで本発明は、上下方向に重なるように配置された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、これらの各マニホールドを接続する複数の個別流路とを備える液体吐出装置において、エアの混入や液体に含まれる所定成分の沈降により液体吐出性能が低下するのを良好に防止可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る液体吐出装置は、内部に液体が流通し、上下に重なるように配置された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとの間を接続する複数の個別流路と、を備え、前記個別流路は、前記供給マニホールドと接続された供給絞りと、前記帰還マニホールドと接続された帰還絞りと、前記液体を吐出するノズルと、前記供給絞りと前記帰還絞りとを連結すると共に前記ノズルと連結されたディセンダとを有し、前記供給絞りの前記供給マニホールドとの接続口である供給マニホールド側開口が、前記供給マニホールドの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置され、前記帰還絞りの前記帰還マニホールドとの接続口である帰還マニホールド側開口が、前記帰還マニホールドの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置されている。
【0009】
上記構成によれば、供給絞りの供給マニホールド側開口が、供給マニホールド内で液体の流速が比較的速い位置に配置されているので、当該開口を通じて、供給マニホールド内のエアを個別流路へ排出し易くすることができる。また、帰還絞りの帰還マニホールド側開口が、帰還マニホールド内で液体の流速が比較的速い位置に配置されているので、当該開口を通じて帰還マニホールド内に排出されたエアを下流側に流通させて、外部に排出し易くすることができる。また各マニホールドの上記開口付近では、液体の流速が比較的速いため、液体に含まれる所定成分が堆積するのを防止できる。よって、装置の良好な液体吐出性能を維持できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上下方向に重なるように配置された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、これらの各マニホールドを接続する複数の個別流路とを備える液体吐出装置において、エアの混入や液体に含まれる所定成分の沈降により液体吐出性能が低下するのを良好に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るプリンタの概略構成図である。
図2図1の液体吐出ヘッドの部分的な断面図である。
図3図2のIII-III線矢視断面図である。
図4】第1実施形態の第1変形例に係る液体吐出ヘッドの各マニホールドの長手方向から見た部分的な断面図である。
図5】第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの各マニホールドの長手方向から見た部分的な断面図である。
図6】第3実施形態に係る液体吐出ヘッドの積層方向から見た部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して各実施形態を説明する。
【0013】
(第1実施形態)
[プリンタの全体構成]
図1は、第1実施形態に係るプリンタ1の概略構成図である。プリンタ1は、液体吐出システムの一例であって、ここではライン式であるが、これに限定されない。図1に示すように、プリンタ1は、液体吐出ヘッド3、プラテン4、搬送ローラ5,6、加圧タンク11、負圧タンク12、エアポンプP1,P2、液体ポンプP3、タンク14、及び制御部15を備える。プリンタ1が吐出する液体は、一例として、色材成分を含むインクであるが、これに限定されず、所定成分を含むその他の液体であってもよい。
【0014】
液体吐出ヘッド3は、液体吐出装置の一例であり、プラテン4と間隔をおいて、プラテン4と対向するように配置されている。液体吐出ヘッド3には、詳細を後述するように、液体を吐出する複数個のノズル31a、供給口3a、及び排出口3bが設けられている。
【0015】
供給口3aには、配管7の一端が接続され、排出口3bには、配管7の他端が接続されている。配管7の途中には、供給口3a側から排出口3b側へ向かって、加圧タンク11、液体ポンプP3、及び負圧タンク12がこの順序で接続されている。加圧タンク11には液体が貯留されている。加圧タンク11には、空気により液体を加圧するエアポンプP1と、液体を加圧タンク11へ供給する供給タンク14とが接続されている。エアポンプP1が加圧タンク11内の空気の圧力を高めることにより加圧タンク11内の液体が加圧され、加圧タンク11に貯留された液体は、配管7に供給される。
【0016】
負圧タンク12には液体が貯留されている。負圧タンク12には、空気により液体を減圧するエアポンプP2が接続されている。エアポンプP2が負圧タンク12内の空気の圧力を減圧することにより、配管7を流通する液体の一部が、負圧タンク12内へ吸い上げられる。
【0017】
液体ポンプP3は、配管7のタンク11,12の間の部分に配置されている。液体ポンプP3は、負圧タンク12から加圧タンク11へ液体を供給する。プリンタ1では、ポンプP1~P3の駆動に伴い、液体が配管7及び液体吐出ヘッド3の各内部を循環する。
【0018】
プラテン4は、液体吐出ヘッド3のノズル31aと対向して配置され、走査方向と、走査方向に垂直な所定の搬送方向とに延びている。プラテン4には、記録シートMが載置される。搬送ローラ5,6は、搬送方向に記録シートMを搬送する。搬送ローラ5は、液体吐出ヘッド3よりも搬送方向上流側に配置され、搬送ローラ6は、液体吐出ヘッド3よりも搬送方向下流側に配置されている。
【0019】
制御部15は、ポンプP1~P3、ローラ5,6、及び後述するアクチュエータ41(図2参照)をそれぞれ個別に制御する。このように制御部15は、一例として、ポンプP1~P3を制御するポンプ制御部と、アクチュエータ41を制御するアクチュエータ制御部とを兼ねている。なお、ポンプP1~P3とアクチュエータ41とは、別々の制御部により制御されてもよい。
【0020】
プリンタ1では、制御部15の制御により、記録シートMが搬送ローラ5,6により搬送方向に所定距離ずつ搬送される毎に、液体吐出ヘッド3の複数個のノズル31aから液体(インク)が吐出される。これにより、記録シートMに印刷が行われる。なおプリンタ1は、種類の異なる液体(例えば色が異なるインク)を吐出する複数の液体吐出ヘッド3を備えていてもよい。
【0021】
[液体吐出ヘッド]
図2は、図1の液体吐出ヘッド3の部分的な断面図である。図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。図3の紙面上下方向は、図1の紙面左右方向(主走査方向)に相当する。図1~3に示す液体吐出ヘッド3は、一例としてインクジェットヘッドである。液体吐出ヘッド3は、上下方向に複数のプレート31~40を重ねてなる流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置されたアクチュエータ41とを有する。
【0022】
最も下方に位置するプレート31は、ノズルプレートであり、厚み方向に貫通する複数のノズル31aを有する。本実施形態のプレート31には、それぞれ所定の個数のノズル31aで構成される複数のノズル列Qが、副走査方向(搬送方向であり、図2及び3では左右方向)に間隔をおいて互いに平行に配置されている。1つのノズル列Q中の各ノズル31aは、主走査方向(図2では紙面に垂直な方向であり、図3では上下方向)に間隔をおいて配置されている。
【0023】
以下、1つのノズル列Q中の各ノズル31aが並ぶ方向をノズル列方向と称する。ノズル列方向は、主走査方向と同じ方向である。また、プレート31~40の積層方向(以下、単に積層方向とも称する。)は、上下方向と同じ方向である。また、液体吐出ヘッド3の幅方向(以下、単に幅方向とも称する。)は、積層方向とノズル列方向とに垂直な方向である。
【0024】
流路ユニット30は、供給マニホールド30a、帰還マニホールド30b、及び複数の個別流路30cを有する。供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bは、長尺状であり、内部に液体が流通し、積層方向に重なるように配置されている。一例として、供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bは、ノズル列方向に沿って延び、ノズル列方向上流側で積層方向に連通路(不図示)により接続されている。供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとの流路断面形状は、本実施形態では同様であり、幅方向寸法Wが高さ方向寸法よりも大きい矩形状である。供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとは、前記接続位置以外においては、プレート35により隔てられている。
【0025】
個別流路30cは、各ノズル31aに対応して個別に設けられ、供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとに接続されている。個別流路30cは、供給絞り30d、帰還絞り30e、ディセンダ30f、及び圧力室30gを有する。
【0026】
供給絞り30dは、供給マニホールド30aと接続されている。供給絞り30dは、供給マニホールド30aの上方に配置され、供給マニホールド30aの幅方向内側から外側に向けて(幅方向に)延びている。一例として、供給絞り30dの上流端は、供給マニホールド側開口30hを介して供給マニホールド30aに接続され、下流端は、開口30jを介して圧力室30gに接続されている。開口30hは、隣接するプレート37,38により画定されている。開口30jは、隣接するプレート38,39により画定されている。
【0027】
帰還絞り30eは、帰還マニホールド30bと接続されている。帰還絞り30eは、帰還マニホールド30bの下方に配置され、帰還マニホールド30bの幅方向内側から外側に向けて(幅方向に)延びている。一例として、帰還絞り30eの上流端は、開口30lを介してディセンダ30fに接続され、下流端は、帰還マニホールド側開口30iを介して帰還マニホールド30bに接続されている。開口30lは、隣接するプレート31~33により画定されている。開口30iは、プレート32,33により画定されている。
【0028】
ディセンダ30fは、供給絞り30dと帰還絞り30eとを連結する。ディセンダ30fには、ノズル31aが連結されている。一例として、ディセンダ30fは、供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとの幅方向外側で積層方向に延びている。ディセンダ30fの上流端は、開口30kを介して圧力室30gに接続され、下流端は、ノズル31aと接続されている。ディセンダ30fの下流端側の側部は、開口30lと連通している。開口30kは、プレート38により画定されている。
【0029】
圧力室30gは、供給絞り30dとディセンダ30fとの間に配置され且つ供給絞り30dから供給される液体に圧力を付与して液体をディセンダ30fに供給する。圧力室30gは、供給絞り30dの上方に配置され、供給マニホールド30aの幅方向内側から外側に向けて(幅方向に)延びている。圧力室30gは、ここではディセンダ30fと積層方向に重なっている。圧力室30gの上端は、厚み方向に弾性変形可能なプレート(振動板)40により画定されている。
【0030】
アクチュエータ41は、プレート40の上面において圧力室30gと積層方向に重なる位置に配置されている。アクチュエータ41は、共通電極42、圧電層43、及び個別電極44を有する。共通電極42、圧電層43、及び個別電極44は、プレート40の上面にこの順に重ねて配置されている。共通電極42と圧電層43とは、1つのノズル列Qに共通して配置され、個別電極44は、各圧力室30gに個別に対応して配置されている。圧電層43は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含む圧電材料からなる。
【0031】
共通電極42は、グランド電位に保持されている。個別電極44は、プリンタ1が備える不図示のドライバICに接続されている。各個別電極44の電位は、このドライバICにより個別に、グランド電位又は所定の駆動電位に設定される。圧電層43の共通電極42と個別電極44とに挟まれた各部分は、個別電極44の通電時には積層方向に分極された活性部として機能する。
【0032】
アクチュエータ41では、ノズル31aから液体を吐出させないとき(待機状態)には、全個別電極44が共通電極42と同様にグランド電位に保持される。またアクチュエータ41では、特定のノズル31aから液体を吐出させるときには、この特定のノズル31aに接続された圧力室30gに対応する個別電極44の電位が、制御部15により所定の駆動電位に切り換えられる。これにより当該アクチュエータ41は、圧力室30g側に凸となるように変形する。
【0033】
その結果、圧力室30gの容積が縮小して圧力室30g内の液体の圧力(正圧)が上昇し、上記特定のノズル31aから液体が吐出される。液体の吐出後、個別電極44の電位はグランド電位に戻される。これにより当該アクチュエータ41は、変形前の状態に戻る。
【0034】
また制御部15は、全てのノズル31aのうち、液体を吐出しないノズル31aに対応するアクチュエータ41を、液体に対して後退状態に変形させる。このときアクチュエータ41は、圧力室30g側に凹部となるように変形する。
【0035】
その結果、圧力室30gの容積が拡大して圧力室30g内の液体の圧力が負圧となる。これにより、液体を吐出させたくないノズル31aから液体が吐出されるのが抑制される。なお、ノズル31aから液体を吐出させるときにアクチュエータ41に印加する電圧の制御態様は様々のものが公知である。従って、本実施形態に係るプリンタ1に適用可能な制御態様は上記したものに限られず、公知の他の制御態様を採用してもよい。
【0036】
ここで流路ユニット30では、供給絞り30dの供給マニホールド30aとの接続口である供給マニホールド側開口30hが、供給マニホールド30aの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置されている。また、帰還絞り30eの帰還マニホールド30bとの接続口である帰還マニホールド側開口30iが、帰還マニホールド30bの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置されている。
【0037】
ここで言う「供給マニホールド30aの幅方向中央領域」とは、供給マニホールド30aの幅方向において、供給マニホールド30aの中央位置から当該位置の両側に向けて開口30hの内径の1/2だけ離隔した各位置の間の領域を指す。そして、供給マニホールド側開口30hの開口中心はこの領域内に位置している。また「帰還マニホールド30bの幅方向中央領域」とは、帰還マニホールド30bの幅方向において、帰還マニホールド30bの中央位置から当該位置の両側に向けて開口30iの内径の1/2だけ離隔した各位置の間の領域を指す。そして、帰還マニホールド側開口30iの開口中心はこの領域内に位置している。
【0038】
図2中の直線L1は、液体吐出ヘッド3のノズル列方向から見てマニホールド30a,30bの幅方向中央を通る直線を示し、図3中の直線L2は、液体吐出ヘッド3の積層方向から見てマニホールド30a,30bの幅方向中央を通る直線を示す。図2及び3に示すように、開口30h,30iは、直線L1,L2と重なる位置にそれぞれ配置されている。
【0039】
本実施形態では、供給マニホールド側開口30hの径方向に垂直な方向から見て、供給マニホールド30aの幅方向中央が、供給マニホールド側開口30h内に位置している。また帰還マニホールド側開口30iの径方向に垂直な方向から見て、帰還マニホールド30bの幅方向中央が、帰還マニホールド側開口30i内に位置している。一例として、帰還マニホールド側開口30iの内径寸法は、供給マニホールド側開口30hの内径寸法以下に設定されている。
【0040】
また流路ユニット30は、少なくとも1つの長尺状のダンパ35aを有する。ダンパ35aは、供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとの上下間に配置されている。ダンパ35aは、供給マニホールド30a及び帰還マニホールド30bの液体が振動すると、厚み方向に弾性変形し、この液体の振動を減衰させる。これによりダンパ35aは、各マニホールド30a,30b内のインクの圧力変動を抑制し、あるノズル31aからの液体の吐出が隣接するノズル31aからの液体の吐出特性に与える影響(クロストーク)を抑制する。本実施形態のダンパ35aは、金属材料からなるプレート35の一部により構成されている。
【0041】
本実施形態の流路ユニット30では、供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとが、ダンパ35aを挟んで、上下方向に対向して配置されている。供給マニホールド側開口30hの径方向に垂直な方向から見て、ダンパ35aの幅方向中央は、供給マニホールド側開口30h内に位置している。また、帰還マニホールド側開口30iの径方向に垂直な方向から見て、ダンパ35aの幅方向中央は、帰還マニホールド側開口30i内に位置している。ダンパ35aの幅方向中央は、ダンパ35aの最大変位位置に相当する位置である。
【0042】
上記構成を有する液体吐出ヘッド3では、ポンプP1~P3を駆動することにより、供給マニホールド30a内の液体に正圧が付与され、帰還マニホールド30b内の液体に負圧が付与される。これにより、供給マニホールド30aから帰還マニホールド30bに向けて液体が流通すると共に、個別流路30cを介して、供給マニホールド30aから帰還マニホールド30bに向けて液体が流通する。帰還マニホールド30b内の液体は、外部に排出されて再び供給マニホールド30a内に供給される。
【0043】
この状態で、特定のアクチュエータ41が駆動されると、このアクチュエータ41に対応する圧力室30g内の液体に正圧が付与される。これにより、ディセンダ30f内の液体に正圧が付与され、上記特定のアクチュエータ41に対応する特定のノズル31aから液体が吐出される。
【0044】
ここで従来、液体吐出ヘッド内において、供給マニホールド又は帰還マニホールドの内部にエアが混入した場合、マニホールド内の液体の流速が比較的遅い領域にエアが留まり、エアがマニホールド内から排出されにくくなる場合がある。これにより、液体吐出システムの正常な吐出動作が妨げられるおそれがある。
【0045】
また従来、液体に所定成分(液体がインクであるときは色材成分)が含まれている場合、液体吐出ヘッド内において、液体の所定成分が、液体の流速が比較的遅い領域に沈降したり、液体吐出システムの停止状態において流路内に沈降する場合がある。これにより、液体の所定成分が流路内に堆積して流路が狭くなり、液体の流通が妨げられたり、流路が閉塞されるおそれがある。
【0046】
発明者の検討により、供給マニホールド30aの幅方向中央領域は、供給マニホールド30a内において液体の流速が比較的速い領域であり、帰還マニホールド30bの幅方向中央領域は、帰還マニホールド30b内において液体の流速が比較的速い領域であることが明らかになった。これらの領域は、マニホールド30a,30b内において、マニホールド30a,30bの幅方向両側の内壁か相当に離隔した位置に存在しており、流体がマニホールド30a,30bの当該内壁と接触することにより生ずる摩擦の影響を受けにくい。従って、仮にマニホールド30a,30b内にエアが混入した場合、例えば、マニホールド30a,30bの幅方向両側の領域に比べて、エアが流通し易い領域となる。
【0047】
本実施形態の液体吐出ヘッド3は、このような知見に基づいて構成されており、前述したように、供給マニホールド側開口30hが、供給マニホールド30aの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置され、帰還マニホールド側開口30iが、帰還マニホールド30bの幅方向中央領域と上下方向に重なる位置に配置されている。
【0048】
この構成により、例えば供給マニホールド30a内にエアが混入した場合、エアは開口30hを通じて迅速に個別流路30cへ案内され、供給マニホールド30aから排出される。また、例えば個別流路30cから開口30iを通じて帰還マニホールド30b内にエアが混入した場合、エアは帰還マニホールド30b内を迅速に流通し、帰還マニホールド30bから排出される。
【0049】
また、供給マニホールド30a内の開口30h付近、及び、帰還マニホールド30b内の開口30i付近では、液体が比較的速く流通する。このため、当該各領域において、液体の所定成分が沈降するのが防止されると共に、流路内に形成された堆積物が流通する液体に曝されて減少する。これにより、液体吐出ヘッド3内では液体が安定して流通可能となる。
【0050】
以上説明したように、液体吐出ヘッド3によれば、供給絞り30dの供給マニホールド側開口30hが、供給マニホールド30a内で液体の流速が比較的速い位置に配置されているので、当該開口30hを通じて、供給マニホールド30a内のエアを個別流路30cへ排出し易くすることができる。また、帰還絞り30eの帰還マニホールド側開口30iが、帰還マニホールド30b内で液体の流速が比較的速い位置に配置されているので、当該開口30iを通じて帰還マニホールド30b内に排出されたエアを下流側に流通させて、外部に排出し易くすることができる。また各マニホールド30a,30bの上記開口30h,30i付近では、液体の流速が比較的速いため、液体に含まれる所定成分が堆積するのを防止できる。よって、液体吐出ヘッド3の良好な液体吐出性能を維持できる。このような効果は、例えば、色材成分を多く含む高粘度インクを液体吐出ヘッド3から吐出する場合に特に良好に得ることができる。
【0051】
また液体吐出ヘッド3によれば、液体に微細な異物が混入している場合にも、各マニホールド30a,30b内から異物を迅速に排出できる。これにより、例えば、異物によって流路が狭められたり閉塞するのを防止できる。
【0052】
また液体吐出ヘッド3では、上記のように安定した液体吐出性能を維持できるので、例えばエアが流路内に混入した場合に、液体吐出ヘッド3内の液体をパージして廃棄する操作が不要である。これにより、メンテナンスの負担が軽減されると共に、液体の廃棄量を削減できる。
【0053】
また供給マニホールド側開口30hの径方向に垂直な方向から見て、供給マニホールド30aの幅方向中央が、供給マニホールド側開口30h内に位置し、帰還マニホールド側開口30iの径方向に垂直な方向から見て、帰還マニホールド30bの幅方向中央が、帰還マニホールド側開口30i内に位置している。これにより、各開口30h,30iを液体の流速が速くなる領域に配置し、液体吐出ヘッド3の液体吐出性能を更に向上し易くすることができる。
【0054】
また、液体吐出ヘッド3では、供給マニホールド30a、帰還マニホールド30b、及びダンパ35aが、上下に対向して配置され、供給マニホールド側開口30hの径方向に垂直な方向から見て、ダンパ35aの幅方向中央が、供給マニホールド側開口30h内に位置し、帰還マニホールド側開口30iの径方向に垂直な方向から見て、ダンパ35aの幅方向中央が、帰還マニホールド側開口30i内に位置している。これにより、ダンパ35aが最も大きく変形する最大変位位置に合わせて各開口30h,30iの位置を配置でき、ダンパ35aによる液体の震動の減衰効果を確実に得易くすることができる。
【0055】
また、帰還マニホールド側開口30iの内径寸法が、供給マニホールド側開口30hの内径寸法以下に設定されている。これにより、帰還絞り30e内を流通する液体中に混入したエアが帰還絞り30eの内壁に引っ掛かるのを防止し、帰還マニホールド30b側に排出し易くできる。
【0056】
なお、供給絞り30dと帰還絞り30eとの内径寸法は、適宜設定可能であるが、圧力損失が許容される範囲において比較的小さい値とすることで、液体の流速を増大させ、エアの排出速度を向上させ易くすることができる。
【0057】
[変形例]
以下、第1実施形態の各変形例について説明する。図4は、第1実施形態の第1変形例に係る液体吐出ヘッド103の各マニホールド30a,30bの長手方向から見た部分的な断面図である。図4は、図2に対応する。図4では、液体吐出ヘッド103の断面構造を簡略化して示している。
【0058】
図4に示すように、液体吐出ヘッド103が備えるダンパは、供給マニホールド30aと帰還マニホールド30bとの上下間において、供給マニホールド30a寄りの位置に配置された供給側ダンパ135aと、帰還マニホールド30b寄りの位置に配置された帰還側ダンパ144aとを含む。ダンパ135a,144aは、ここでは同様の構成を有するが、異なる構成を有していてもよい。供給側ダンパ135aの下方には、供給側ダンパ135aの振動を許容するための空間145が配置されている。帰還側ダンパ144aの上方には、帰還側ダンパ144aの振動を許容するための空間146が配置されている。
【0059】
上記構成によれば、流路ユニット130内においてマニホールド30a,30bに個別に対応してダンパ135a,144aを配置することで、ダンパ135a,144aによる液体の震動の減衰効果を更に向上できる。
【0060】
第2変形例に係る液体吐出ヘッドが備える個別流路30cは、液体吐出ヘッド3と同様に圧力室30gを有する。そして供給絞り30dの最大流路抵抗値が、帰還絞り30eの最大流路抵抗値以上に設定されている。
【0061】
ここで本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体の供給側に圧力室30gが設けられているため、供給絞り30d内の液体には圧力室30gからの圧力が及び易い一方、帰還絞り30e内の液体には当該圧力が比較的及びにくい場合も考えられる。
【0062】
そこで第2変形例では、供給絞り30dの最大流路抵抗値を、帰還絞り30eの最大流路抵抗値以上に設定することにより、供給絞り30dと帰還絞り30eとの圧力損失差を縮小する。これにより、圧力室30gが供給絞り30dの近傍位置に配置されている場合でも、液体中に混入したエアを帰還マニホールド30b側から排出し易くすると共に各開口30h,30i付近での液体の沈降を防止し易くできる。
【0063】
具体的に第2変形例の液体吐出ヘッドは、供給絞り30dの最小流路断面積が、帰還絞り30eの最小流路断面積よりも小さい構成とすることにより実現できる。或いは、第2変形例の液体吐出ヘッドは、供給絞り30dの流路長が、帰還絞り30eの流路長よりも長い構成とすることにより実現できる。
【0064】
このような各構成によれば、供給絞り30dの最大流路抵抗値を帰還絞り30eの最大流路抵抗値以上に設定でき、絞り30d,30eの圧力損失差を抑制できる。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0065】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る液体吐出ヘッド203の各マニホールド30a,30bの長手方向から見た部分的な断面図である。図5は、図2に対応する。図5では、液体吐出ヘッド203の断面構造を簡略化して示している。
【0066】
図5に示すように、ディセンダ230fは、供給絞り230d側に位置する上流側端部と供給マニホールド側開口30hとの間の最短距離が、帰還絞り230e側に位置する下流側端部と帰還マニホールド側開口30iとの間の最短距離よりも長く、上流側端部から下流側端部へ向かうに従って帰還マニホールド30bに近づくように傾斜して延びている。これにより流路ユニット230では、供給絞り230dの長さ寸法D1が、帰還絞り230eの長さ寸法D2とほぼ同等に(ここでは長さ寸法D2よりやや長く)設定されている。図5に示す例では、ディセンダ230fは、圧力室230gの下方において、長手方向が圧力室230gの長手方向と交差するように延びている。液体吐出ヘッド203のノズル31aは、積層方向に沿って延びるようにディセンダ30fが配置された液体吐出ヘッド3のノズル31aに比べて、帰還マニホールド30bの幅方向中央寄りに配置される。
【0067】
上記構成によれば、幅方向寸法D1,D2を同等に設定することにより、ディセンダ230fの上流側端部と開口30hとの間の接続路と、ディセンダ230fの下流側端部と開口30iとの間の接続路との圧力損失差を抑制できる。よって、圧力室230gが供給絞り230dの近傍位置に配置されている場合でも、液体中に混入したエアを帰還マニホールド30b側から排出し易くすると共に各開口30h,30i付近での液体の沈降を防止し易くすることができる。
【0068】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係る液体吐出ヘッド303の積層方向から見た部分的な断面図である。図6は、図3の一部に対応する。図6に示すように、この液体吐出ヘッド303の流路ユニット330では、供給マニホールド側開口30hの径方向に垂直な方向から見て、供給絞り330dが、帰還絞り330eよりも長い。ここでは同方向から見て、供給絞り330dは直線状に延びているが、曲線状又は屈曲線状に延びていてもよい。
【0069】
上記構成によれば、供給絞り330dの流路長を帰還絞り330eの流路長と同等に設定することにより、ノズル31aの上流側と下流側とをそれぞれ流通する液体に同等の圧力を負荷し易くでき、上記各接続路の圧力損失差を抑制できる。よって、圧力室30gが供給絞り330dの近傍位置に配置されている場合でも、液体中に混入したエアを帰還マニホールド30b側から排出し易くすると共に各開口30h,30i付近での液体の沈降を防止し易くできる。
【0070】
また上記構成によれば、例えば供給絞り330d及び帰還絞り330eの流路断面積を調整する方法に比べて、供給絞り330d及び帰還絞り330eの流路抵抗値のばらつきを抑制できる。なお、供給マニホールド側開口30hの径方向に垂直な方向から見て、供給絞り330dの幅寸法を帰還絞り330eの幅寸法よりも小さくしてもよい。
【0071】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成を変更、追加、又は削除できる。流路ユニット30を構成するプレートの枚数は限定されず、適宜変更可能である。また、供給絞り30dと帰還絞り30eとは、流路断面積を同一に設定してもよい。これにより、液体中に混入したエアが供給絞り30dと帰還絞り30eとに引っ掛かりにくくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように本発明は、上下方向に重なるように配置された長尺状の供給マニホールド及び帰還マニホールドと、これらの各マニホールドを接続する複数の個別流路とを備える液体吐出装置において、エアの混入や色材成分の沈降により液体吐出性能が低下するのを良好に防止できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる液体吐出装置に本発明を広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0073】
3,103,203,303 液体吐出ヘッド
30a 供給マニホールド
30b 帰還マニホールド
30c 個別流路
30d,230d,330d 供給絞り
30e,230e,330e 帰還絞り
30f,230f ディセンダ
30g,230g 圧力室
30h 供給マニホールド側開口
30i 帰還マニホールド側開口
31a ノズル
35a,135a,144a ダンパ
図1
図2
図3
図4
図5
図6