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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/01 20060101AFI20230704BHJP
   H03H 7/075 20060101ALI20230704BHJP
   H03H 7/09 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H03H7/01 Z
H03H7/075 Z
H03H7/09 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019117840
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2020017944
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018134367
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 勝也
(72)【発明者】
【氏名】小島 崇
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-31965(JP,A)
【文献】特開2001-160728(JP,A)
【文献】特開平9-214276(JP,A)
【文献】国際公開第2018/25342(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/39414(WO,A1)
【文献】特開2016-119662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F17/00-27/42
H02M1/00-1/44
H03H1/00-7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端部と出力端部の間を延びている第1導電線であって、前記入力端部と分岐部の間を延びている入力側導電線と、前記出力端部と前記分岐部の間を延びている出力側導電線と、を有する第1導電線と、
前記第1導電線の前記分岐部に接続されているとともにコンデンサが介挿されている第2導電線と、
前記第1導電線の少なくとも一部の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第1磁性体と、を備えており、
前記第1磁性体は、
前記入力側導電線の少なくとも一部である第1部分の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第1磁性体部分と、
前記出力側導電線の少なくとも一部である第2部分の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2磁性体部分と、
前記第1磁性体部分と前記第2磁性体部分の間を延びている第3磁性体部分、を有しており、
前記第1磁性体は、前記入力側導電線と前記出力側導電線を磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスによって少なくとも前記コンデンサの等価直列インダクタンスと前記第2導電線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されており、
前記第3磁性体部分は、前記入力側導電線と前記出力側導電線の間の結合係数を調整するように構成されている、ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記入力側導電線の前記第1部分が、巻線を構成しておらず、
前記出力側導電線の前記第2部分が、巻線を構成していない、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記入力側導電線の前記第1部分と前記出力側導電線の前記第2部分が、直線状に並んで延びており、
前記第1磁性体は、前記分岐部上で前記第1導電線を横断し、前記第1部分の周囲の一部を取り囲むとともに、前記第2部分の周囲の一部を取り囲むように配設されている、請求項1又は2に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第1磁性体は、第1下側分割部分と第2下側分割部分と第1上側分割部分と第2上側分割部分を組み合わせて構成されており、
前記第1下側分割部分は、前記入力側導電線を横断するように、前記入力側導電線の前記第1部分の下方を延びており、
前記第2下側分割部分は、前記出力側導電線を横断するように、前記出力側導電線の前記第2部分の下方を延びており、
前記第1上側分割部分は、前記分岐部の上方で前記第1導電線を横断して前記第1下側分割部分の一方の端部と前記第2下側分割部分の一方の端部の間を延びており、
前記第2上側分割部分は、前記分岐部の上方で前記第1導電線を横断して前記第1下側分割部分の他方の端部と前記第2下側分割部分の他方の端部の間を延びており、
前記第1上側分割部分と前記第2上側分割部分は、前記分岐部の上方でねじれの位置で配置されている、請求項3に記載のノイズフィルタ。
【請求項5】
前記入力側導電線の前記第1部分と前記出力側導電線の前記第2部分が、所定距離を隔てて対向するとともに略平行となるように延びており、
前記第1磁性体は、前記第1部分と前記第2部分の各々の外側を通って一巡するように配設されている、請求項1又は2に記載のノイズフィルタ。
【請求項6】
前記第1磁性体は、第1分割部分と第2分割部分を組み合わせて構成されており、
前記第1分割部分の少なくとも一方の端部と前記第2分割部分の少なくとも一方の端部の間にギャップが設けられている、請求項5に記載のノイズフィルタ。
【請求項7】
前記第1分割部分と前記第2分割部分の各々は、コの字状の形態を有している、請求項6に記載のノイズフィルタ。
【請求項8】
前記第1磁性体は、前記第1導電線の周囲をらせん状に配設されている、請求項1又は2に記載のノイズフィルタ。
【請求項9】
前記第1導電線は、平板状のバスバーで構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のノイズフィルタ。
【請求項10】
前記第2導電線の少なくとも一部の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2磁性体をさらに備えている、請求項1~9のいずれか一項に記載のノイズフィルタ。
【請求項11】
前記第1磁性体の磁性体材料と前記第2磁性体の磁性体材料が同一である、請求項10に記載のノイズフィルタ。
【請求項12】
前記第2導電線に介挿されており、前記コンデンサに対して直列に配置されている抵抗器をさらに備えている、請求項1~11のいずれか一項に記載のノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
導電線に重畳する電磁ノイズを抑えるために、ノイズフィルタの開発が進められている。この種のノイズフィルタの多くは、電磁ノイズを導電線からGNDにバイパスさせるためのコンデンサを備えている。しかしながら、コンデンサには等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)と称される寄生インダクタンスが存在しており、さらに、そのコンデンサが接続する配線にも寄生インダクタンスが存在している。このため、このようなノイズフィルタは、これら寄生インダクタンスの影響により、高周波帯域の電磁ノイズに対して良好なフィルタ性能を発揮できないことが知られている。
【0003】
特許文献1は、導電線に直列接続させた一対のインダクタの磁気結合を利用するノイズフィルタを開示する。特許文献1に開示されるノイズフィルタでは、一対のインダクタの間に生じる相互インダクタンスによってコンデンサの等価直列インダクタンスを減じることにより、フィルタ性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6,937,115号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、磁気結合する一対のインダクタを導電線に形成するために、特定パターンで形成された導電線が用いられている。しかしながら、導電線の特定パターンによっては、ノイズフィルタの面積が大きくなるという問題がある。また、導電線の特定パターンによっては、導電線の幅が狭くなり、導電線からの放熱量が低下し、寄生抵抗が増加する。このため、ノイズフィルタのエネルギー損失に伴う発熱を抑制できなくなるという問題がある。このような問題を考慮する必要があることから、特定パターンで形成された導電線を用いる技術は、設計自由度が著しく低い。したがって、特定パターンで形成された導電線を用いる技術は、汎用性に乏しい技術といえる。本願明細書は、少なくともコンデンサの等価直列インダクタンスとコンデンサが接続される配線の寄生インダクタンスを抑えるノイズフィルタであって、汎用性が高いノイズフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するノイズフィルタの一実施形態は、第1導電線、第2導電線及び第1磁性体を備えることができる。前記第1導電線は、入力端部と出力端部の間を延びており、前記入力端部と分岐部の間を延びている入力側導電線と、前記出力端部と前記分岐部の間を延びている出力側導電線と、を有している。前記第2導電線は、前記第1導電線の分岐部に接続されているとともにコンデンサが介挿されている。前記第1磁性体は、前記第1導電線の少なくとも一部の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる。前記第1磁性体は、前記入力側導電線と前記出力側導電線を磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスによって少なくとも前記コンデンサの等価直列インダクタンスと前記第2導電線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されている。上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第1導電線の周囲に前記第1磁性体を配設することにより、少なくとも前記コンデンサの等価直列インダクタンスと前記第2導電線の寄生インダクタンスを減ずることができる。上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第1導電線に何ら特定パターンを形成する必要がない。このため、前記第1導電線に対して前記第1磁性体を配設する技術は、様々な種類の導電線に対して適用することができ、汎用性が高い技術である。
【0007】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第1磁性体が、第1磁性体部分、第2磁性体部分及び第3磁性体部分を有していてもよい。前記第1磁性体部分は、前記入力側導電線の少なくとも一部である第1部分の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる。前記第2磁性体部分は、前記出力側導電線の少なくとも一部である第2部分の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる。前記第3磁性体部分は、前記第1磁性体部分と前記第2磁性体部分の間を延びている。前記第3磁性体部分は、前記第1磁性体部分と前記第2磁性体部分に直接的に接して配設されていてもよく、離間して配設されていてもよい。ここで、第1磁性体部分、第2磁性体部分及び第3磁性体部分という表現は、各々が1つの別体として構成されていることを必ずしも意味するものではない。例えば、第1磁性体部分、第2磁性体部分及び第3磁性体部分の全体が一体的に形成されていてもよい。また、第1磁性体部分、第2磁性体部分及び第3磁性体部分の各々が、複数の部材によって構成されていてもよい。あるいは、1つの部材が複数の磁性体部分の各々の一部を構成してもよい。すなわち、前記第1磁性体は、前記第1磁性体部分、前記第2磁性体部分及び前記第3磁性体部分として機能する部分を有する限りにおいて、様々な形態で形成され得る。
【0008】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記入力側導電線の前記第1部分と前記出力側導電線の前記第2部分が、直線状に並んで延びていてもよい。この場合、前記第1磁性体は、前記分岐部上で前記第1導電線を横断し、前記第1部分の周囲の一部を取り囲むとともに、前記第2部分の周囲の一部を取り囲むように配設されていてもよい。例えば、この第1磁性体は、第1下側分割部分と第2下側分割部分と第1上側分割部分と第2上側分割部分を組み合わせて構成されていてもよい。この場合、前記第1下側分割部分は、前記入力側導電線を横断するように、前記入力側導電線の前記第1部分の下方を延びていてもよい。前記第2下側分割部分は、前記出力側導電線を横断するように、前記出力側導電線の前記第2部分の下方を延びていてもよい。前記第1上側分割部分は、前記分岐部の上方で前記第1導電線を横断して前記第1下側分割部分の一方の端部と前記第2下側分割部分の一方の端部の間を延びていてもよい。前記第2上側分割部分は、前記分岐部の上方で前記第1導電線を横断して前記第1下側分割部分の他方の端部と前記第2下側分割部分の他方の端部の間を延びていてもよい。前記第1上側分割部分と前記第2上側分割部分は、前記分岐部の上方でねじれの位置に配置されている。なお、ここでいう「下」及び「上」という表現は、便宜の上で第1導電線に対する相対的な位置関係を特定するためだけに用いられており、空間上の上下関係を特定するものではない。このような形態の前記第1下側分割部分と前記第2下側分割部分と前記第1上側分割部分と前記第2上側分割部分は、前記第1導電線に対して容易に配設することができる。また、必要に応じて、前記第1下側分割部分の両端部のうちの少なくともいずれか一方と上側分割部分の間にギャップが設けられていてもよい。同様に、前記第2下側分割部分の両端部の少なくともいずれか一方と上側分割部分の間にギャップが設けられていてもよい。このようなギャップが設けられていると、ギャップ間の距離等を調整することにより、前記入力側導電線と前記出力側導電線の間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。
【0009】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記入力側導電線の前記第1部分と前記出力側導電線の前記第2部分が、所定距離を隔てて対向するとともに略平行となるように延びていてもよい。この場合、前記第1磁性体は、前記第1部分と前記第2部分の各々の外側を通って一巡するように配設されていてもよい。例えば、このノイズフィルタでは、前記第1磁性体が、第1分割部分と第2分割部分を組み合わせて構成されていてもよい。この場合、前記第1分割部分の少なくとも一方の端部と前記第2分割部分の少なくとも一方の端部の間にギャップが設けられていてもよい。ギャップ間の距離等を調整することにより、前記入力側導電線と前記出力側導電線の間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。また、前記第1分割部分と前記第2分割部分の各々は、コの字状の形態を有していてもよい。このような形態の前記第1分割部分と前記第2分割部分は、前記第1導電線に対して容易に配設することができる。
【0010】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第1磁性体が、前記第1導電線の周囲をらせん状に配設されていてもよい。前記第1磁性体の長さやらせんのピッチなどを調整することで、前記入力側導電線と前記出力側導電線の磁気結合を調整できる。
【0011】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第1導電線が平板状のバスバーで構成されていてもよい。前記第1導電線が平板状のバスバーであっても、そのようなバスバーの周囲に前記第1磁性体を配設することにより、少なくとも前記コンデンサの等価直列インダクタンスと前記第2導電線の寄生インダクタンスを減ずることができる。
【0012】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第2導電線の少なくとも一部の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2磁性体をさらに備えていてもよい。前記第2磁性体が設けられていることにより、前記コンデンサに対してインダクタが直列接続され、前記第2導電線のインダクタンスが増加する。前記第2導電線のインダクタンスの増加分を減じるために、前記第1磁性体によって前記入力側導電線と前記出力側導電線の間に生じる相互インダクタンスを大きく調整することができる。この結果、このノイズフィルタでは、前記入力側導電線と前記出力側導電線の各々のインダクタンスが大きくなり、フィルタ性能が向上し得る。
【0013】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第1磁性体の磁性体材料と前記第2磁性体の磁性体材料が同一であってもよい。このノイズフィルタでは、より厳密な設計に基づいてフィルタ性能が大幅に向上し得る。
【0014】
上記実施形態のノイズフィルタでは、前記第2導電線に介挿されているとともに前記コンデンサに対して直列に配置されている抵抗器をさらに備えていてもよい。このノイズフィルタでは、より厳密な設計に基づいてフィルタ性能が大幅に向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】LCL構成のT型のノイズフィルタのノイズ伝達特性を説明する図である。
図2】LCL構成のT型のノイズフィルタのノイズ伝達特性を説明する図である。
図3A】本実施形態のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図3B】本実施形態のノイズフィルタの分解斜視図を模式的に示す図である。
図4A】本実施形態の他のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図4B】本実施形態の他のノイズフィルタの分解斜視図を模式的に示す図である。
図5図4A及び図4Bのノイズフィルタの変形例のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図6A】本実施形態の他のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図6B】本実施形態の他のノイズフィルタの分解斜視図を模式的に示す図である。
図7A】本実施形態の他のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図7B】本実施形態の他のノイズフィルタの分解斜視図を模式的に示す図である。
図8A】本実施例のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図8B】比較例のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図8C】比較例のノイズフィルタの斜視図を模式的に示す図である。
図9A図8Aのノイズフィルタの等価回路図である。
図9B図8Bのノイズフィルタの等価回路図である。
図9C図8Cのノイズフィルタの等価回路図である。
図10図8A図8Cのノイズフィルタのフィルタ性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願明細書が開示するノイズフィルタを説明する前に、図1を参照し、LCL構成のT型のノイズフィルタ1のノイズ伝達特性について説明する。ノイズフィルタ1は、電力導電線に直列接続されている一対のインダクタL1,L2と、電力導電線と基準導電線の間に接続されているコンデンサCと、を備えている。インダクタL1のインダクタンスがLであり、インダクタL2のインダクタンスがLである。なお、これらインダクタL1,L2は、電力導電線の寄生インダクタであってもよい。コンデンサCは、一端が一対のインダクタL1,L2の間の分岐部に接続されており、他端が基準導電線に接続されている。インダクタL3のインダクタンスLは、コンデンサCの等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)とコンデンサCが接続する分岐配線の寄生インダクタンスの和である。Zは、ノイズ源の内部インピーダンスであり、Zは負荷回路のインピーダンスである。このノイズフィルタ1では、インダクタL1とインダクタL2が磁気結合しており、インダクタL1,L2のそれぞれを流れる電流I,Iが図中の向きに流れるとすると、これらインダクタL1,L2の間に正の相互インダクタンスMが生じている。ノイズ電圧をVnoiseとすると、負荷回路に加わるノイズ電圧Vは、以下の式で表される。
【0017】
【数1】
【0018】
L1:インダクタL1のインピーダンス(jω(L1+M))
L2:インダクタL2のインピーダンス(jω(L2+M))
L3:コンデンサCの等価直列インダクタとコンデンサCが接続される分岐配線の寄生インダクタの和からなるインピーダンス(jω(L3-M))
:コンデンサCのインピーダンス(1/jωC)
ω:角周波数(2πf)
【0019】
上記数式1に示されるように、負荷回路に加わるノイズ電圧Vを低減するためには、分子のZL3+Zを低減することが重要である。
【0020】
電圧Vの振幅は絶対値で表されるので、上記数式1の絶対値をとり、その分子をVLnumとすると、以下の数式で表すことができる。
【0021】
【数2】
【0022】
上記数式2によれば、{ω(L-M)-1/ωC}が0となるように相互インダクタンスMを設定すると、フィルタ性能が最大化し得ることが分かる。しかしながら、そのような条件は、ある任意の周波数のみで実現される。このため、幅広い周波数のノイズを低減するためのノイズフィルタ回路は、そのような条件で設定されない。
【0023】
ここで、インダクタL1とインダクタL2の間に生じる相互インダクタンスMは、結合係数kを用いて以下の数式で表すことができる。
【0024】
【数3】
【0025】
結合係数kは磁気結合の度合いを示す値であり、本明細書が開示する構造では、0≦k≦1の値をとる。上記数式2及び上記数式3に示されるように、インダクタンスLと相互インダクタンスMが一致するように、k、L1、L2の値を調整すれば、上記数式1の分子にはコンデンサCのインピーダンスと負荷回路のインピーダンスの積のみが残る。角周波数ωは周波数の増加とともに大きくなることから、インダクタンスLと相互インダクタンスMを一致させれば、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能が向上する。
【0026】
即ち、図2に示されるように、インダクタL1とインダクタL2を磁気結合させることにより、インダクタL1とインダクタL2の間に生じる相互インダクタンスMによって少なくともインダクタンスLを減じさせれば、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能を向上させることができる。本明細書が開示する技術は、この現象を利用して、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能を改善する。
【0027】
以下、本明細書が開示する技術が適用されたノイズフィルタについて説明する。なお、以下で参照する各図において、実質的に機能が共通する構成要素については共通の符号を付し、その説明を省略することがある。
【0028】
図3Aにノイズフィルタ10の斜視図、図3Bにその分解斜視図を示す。ノイズフィルタ10は、入力端部11aと出力端部11bの間を直線状に延びている第1導電線11と、第1導電線11の分岐部11cに接続されているとともにコンデンサ20が介挿されている第2導電線12と、第1磁性体30を備えている。第1磁性体30は、磁性材料のフェライト粉末を樹脂に練り込んだ磁性シートで構成されており、第1磁性体部分31、第2磁性体部分32及び第3磁性体部分33を有している。なお、第1磁性体30は、Mn-Zn、Ni-Zn等の材料を焼結したフェライト等を成形した磁性プレートであってもよい。
【0029】
第1導電線11は、平板状に成形された金属のバスバーで構成されており、入力端部11aがノイズ源となるコンバータ又はインバータ等の電力変換器に接続されており、出力端部11bが任意の負荷に接続されている。第1導電線11のうちの入力端部11aと分岐部11cの間の部分を入力側導電線11Aという。第1導電線11のうちの出力端部11bと分岐部11cの間の部分を出力側導電線11Bという。入力側導電線11Aと出力側導電線11Bは、直線状に並んで配置されている。この例に代えて、第1導電線11は、回路基板上に配設された金属パターンであってもよい。
【0030】
第2導電線12は、平板状に成形された金属のバスバーで構成されており、一端が第1導電線11の分岐部11cに接続されており、他端がグランド板13に接続されている。第2導電線12は、第1導電線11に対して直交しており、第1導電線11の側面から延びている。第2導電線12には、コンデンサ20が介挿されている。この例では、コンデンサ20は、2並列のチップコンデンサとして構成されている。
【0031】
このように、ノイズフィルタ10は、入力側導電線11Aの寄生のインダクタンスと、第2導電線12に介挿されているコンデンサCと、出力側導電線11Bの寄生のインダクタンスと、で構成されているLCL構成のT型のノイズフィルタである。なお、本明細書が開示する技術は、この例に限らず、他の種類のノイズフィルタにも適用可能である。
【0032】
第1磁性体部分31は、第1導電線11の入力側導電線11Aの一部の周囲を被覆するように配設されている。この例では、第1磁性体部分31は、入力側導電線11Aの一部の周方向の全周を被覆しているが、周方向の一部を被覆するように配設されていてもよい。また、第1磁性体部分31には、この例に限らず、様々な形態を採用し得る。例えば、第1磁性体部分31は、リング状(円環状、角状等)のフェライトコアであってもよく、後述するように、第1導電線11に対してらせん状に巻回する磁性シートであってもよい。第1磁性体部分31が配設されていることにより、入力側導電線11Aのインダクタンスが調整される。なお、本願明細書では、第1磁性体部分31によって取り囲まれている第1導電線11の入力側導電線11Aの一部を「第1部分」という。
【0033】
第2磁性体部分32は、第1導電線11の出力側導電線11Bの一部の周囲を被覆するように配設されている。この例では、第2磁性体部分32は、出力側導電線11Bの一部の周方向の全周を被覆しているが、周方向の一部を被覆するように配設されていてもよい。また、第2磁性体部分32には、この例に限らず、様々な形態を採用し得る。例えば、第2磁性体部分32は、リング状(円環状、角状等)のフェライトコアであってもよく、後述するように、第1導電線11に対してらせん状に巻回する磁性シートであってもよい。第2磁性体部分32が配設されていることにより、出力側導電線11Bのインダクタンスが調整される。なお、本願明細書では、第2磁性体部分32によって取り囲まれている第1導電線11の出力側導電線11Bの一部を「第2部分」という。
【0034】
第3磁性体部分33は、第1磁性体部分31と第2磁性体部分32の間を延びるとともに第1導電線11の分岐部11cの周囲の一部を被覆するように配設されている。この例では、第3磁性体部分33は、第1磁性体部分31と第2磁性体部分32の各々に接触しているが、第1磁性体部分31と第2磁性体部分32の少なくとも一方から離間していてもよい。また、第3磁性体部分33には、この例に限らず、様々な形態を採用し得る。例えば、第3磁性体部分33は、後述するように、第1導電線11に対してらせん状に巻回する磁性シートであってもよい。第1磁性体部分31と第2磁性体部分32の間を延びるように第3磁性体部分33が配設されていることにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの磁気結合を調整できる。すなわち、第3磁性体部分33により、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間の結合係数kを調整できる。
【0035】
このノイズフィルタ10では、第1磁性体部分31と第2磁性体部分32と第3磁性体部分33の各々の材料及び形態を調整することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスが調整される。これにより、その相互インダクタンスによってコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和が減じられる。この結果、上記数式2で示したように、ノイズフィルタ10は、高周波帯域の電磁ノイズに対して高いフィルタ性能を発揮することができる。なお、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスがコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和に必ずしも一致する必要はない。相互インダクタンスを「M」とし、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和を「L」とすると、|L-M|<LとなるようにMを調整することで、ノイズフィルタ10のフィルタ性能は向上することができる。
【0036】
ノイズフィルタ10では、第1導電線11の周囲に第1磁性体30を配設するだけで、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和が減じられる。この例では、第1導電線11がバスバーであるが、他の種類の導電線であっても同様である。また、第1導電線11の形状がどのようなものであっても、その周囲に第1磁性体30を配設することで、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和を減ずることができる。特に、磁性シートで構成されている第1磁性体30は、第1導電線11に対して容易に配設することができる。このように、第1導電線11の周囲に第1磁性体30を配設するという技術は、様々な種類の導電線に適用できることから、汎用性が高い技術である。
【0037】
本明細書が開示する技術に代えて、入力側導電線と出力側導電線の各々にコイルを介挿させることも考えられる。しかしながら、磁心を有しない一般的なコイル間の磁気結合は疎であり、それを密にするためには導電線路の配策及びコイルの形状に工夫が必要となる。このため、導電線路の配策の自由度の低下、コイル重量の増加、それらに伴ってノイズフィルタ回路の構造が大きくなるという問題があることから、入力側導電線と出力側導電線の各々にコイルを介挿させる技術は汎用性に乏しい技術といえる。また、磁心を有するコイルを利用すると、相互インダクタンスの調整が難しくなり、その調整のために、コンデンサに対して直列に追加のコイルを介挿する必要がある。ノイズフィルタ回路において、本来コンデンサに対して直列にコイルを介挿させる必要がないため、部品点数が増加し、コストや体格が増加するという問題がある。一方、本明細書が開示する技術は、コイルを利用しないことから、上記のような問題を回避することができる。
【0038】
以下、本明細書が開示する技術が適用された他のノイズフィルタを説明する。図4Aにノイズフィルタ100の斜視図、図4Bにその分解斜視図を示す。ノイズフィルタ100では、第1磁性体130が、第1下側分割部分130Aと第2下側分割部分130Bと第1上側分割部分130Cと第2上側分割部分130Dを組み合わせて構成されている。これら分割部分130A,130B,130C,130Dが組み合さることにより、第1磁性体130の第1磁性体部分131、第2磁性体部分132及び第3磁性体部分133が構成される。
【0039】
これら分割部分130A,130B,130C,130Dの各々は、Mn-Zn、Ni-Zn等の材料を焼結したフェライト等を成形した磁性プレートである。第1下側分割部分130Aと第2下側分割部分130Bは、共通形態である。
【0040】
第1下側分割部分130Aは、入力側導電線11Aを短手方向に沿って横断するように、入力側導電線11Aの下方を延びている。第1下側分割部分130Aは、コの字状の形態を有しており、入力側導電線11Aの周囲の一部を取り囲んでいる。第1下側分割部分130Aの第1端部130Aaと第2端部130Abの頂面は、第1導電線11の上面よりも上側に位置している。
【0041】
第2下側分割部分130Bは、出力側導電線11Bを短手方向に沿って横断するように、出力側導電線11Bの下方を延びている。第2下側分割部分130Bは、コの字状の形態を有しており、出力側導電線11Bの周囲の一部を取り囲んでいる。第2下側分割部分130Bの第1端部130Baと第2端部130Bbの頂面は、第1導電線11の上面よりも上側に位置している。
【0042】
第1上側分割部分130Cは、第1導電線11の分岐部11cの上方で第1導電線11を横断して第1下側分割部分130Aの第1端部130Aaと第2下側分割部分130Bの第2端部130Bbの間を延びている。第1上側分割部分130Cは、一端が第1下側分割部分130Aの第1端部130Aaに接続されており、他端が第2下側分割部分130Bの第2端部130Bbに接続されている。必要に応じて、第1上側分割部分130Cは、第1下側分割部分130Aの第1端部130Aa及び/又は第2下側分割部分130Bの第2端部130Bbとの間にギャップが設けられていてもよい。このようなギャップのギャップ間の距離等を調整することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。
【0043】
第2上側分割部分130Dは、第1導電線11の分岐部11cの上方で第1導電線11を横断して第1下側分割部分130Aの第2端部130Abと第2下側分割部分130Bの第1端部130Baの間を延びている。第2上側分割部分130Dは、一端が第1下側分割部分130Aの第2端部130Abに接続されており、他端が第2下側分割部分130Bの第1端部130Baに接続されている。必要に応じて、第2上側分割部分130Dは、第1下側分割部分130Aの第2端部130Ab及び/又は第2下側分割部分130Bの第1端部130Baとの間にギャップが設けられていてもよい。このようなギャップのギャップ間の距離等を調整することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。
【0044】
第1下側分割部分130Aと第2下側分割部分130Bは、第1導電線11の短手方向に沿って平行となるように配設されている。第1上側分割部分130Cと第2上側分割部分130Dは、分岐部11cの上方でねじれの位置となるように配設されている。このような第1磁性体130が配設されていると、入力側から出力側に流れる電流を正としたとき、入力側導電線11Aから生じる磁束と出力側導電線11Bから生じる磁束が互いに強め合うため、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスの符号が正となるように磁気結合することができる。
【0045】
ノイズフィルタ100も同様に、第1導電線11の周囲に第1磁性体130を配設することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bを磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスを利用してコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスを減ずることができる。
【0046】
図5に、図4A及び図4Bに示すノイズフィルタ100の変形例を示す。このノイズフィルタ100は、第1導電線11の分岐部11cとグランド板13の間の第2導電線12の一部の周囲を取り囲むように配設された第2磁性体140を備えていることを特徴としている。第2磁性体140は、Mn-Zn、Ni-Zn等の材料を焼結したフェライト等を成形したリング状のフェライトコアである。この例では、第2磁性体140は、第2導電線12の一部の周方向の全周を取り囲むように配設されているが、周方向の一部を取り囲むように配設されていてもよい。また、第2磁性体140には、この例に限らず、様々な形態を採用し得る。例えば、第2磁性体140は、第2導電線12に対してらせん状に巻回する磁性シートであってもよい。
【0047】
ここで、上記数式1及び上記数式2を用いて説明したように、ノイズフィルタ100の基本的な特徴は、第1磁性体130によって入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンス(M)を利用してコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスを減ずることにより、フィルタ性能を改善することである。このとき、入力側導電線11Aのインダクタンス(L1+M)と出力側導電線11Bのインダクタンス(L2+M)の各々には相互インダクタンス(M)が加算されている。このため、これらの導電線11A,11Bのインダクタンス(L1+M,L2+M)の増加によって上記数式1の分母が大きくなっており、厳密には、これらのインダクタンスの増加によるフィルタ性能の改善という副次的な効果も存在している。
【0048】
図5の変形例のノイズフィルタ100では、第2磁性体140が設けられていることにより、第2導電線12のインダクタンスが増加している。この第2導電線12のインダクタンスの増加分を相殺するために、第1磁性体130によって入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスを大きくすることができる。例えば、第1磁性体130の磁性体材料及び形態等に基づいて相互インダクタンスを大きくすることができる。このように、ノイズフィルタ100では、第2磁性体140が設けられていることにより、入力側導電線11Aのインダクタンス(L1+M)と出力側導電線11Bのインダクタンス(L2+M)の各々をさらに増加させることができるので、上記数式1の分母がさらに大きくなり、フィルタ性能をさらに改善することができる。
【0049】
また、図5の変形例のノイズフィルタ100は、以下で説明する追加特徴を有している。図5の変形例のノイズフィルタ100の追加特徴を理解するために、上記数式1~数式3について、さらに考察する。
【0050】
上記数式1及び数式2の導出では、導体損失に比して分岐配線のインダクタンスのインピーダンス及びコンデンサのインピーダンスが大きいため、これらインピーダンスの虚部のみを考慮した。しかしながら、周波数が高いとき及び/又は共振したときには、導体損失及び後述の磁性体の損失成分の影響が大きくなるので、導体損失及び後述の磁性体の損失成分も考慮するのが望ましい。したがって、これらインピーダンスの実部も考慮すると、上記数式2は、以下のように書き直すことができる。
【0051】
【数4】
【0052】
ここで、Rは、分岐配線の導体損失とコンデンサの損失の合計の損失成分である。また、磁性体の損失成分、すなわち、透磁率の複素成分を考慮すると、上記数式3は、以下のように書き直すことができる。
【0053】
【数5】
【0054】
μ0:真空の透磁率
μr1:第1磁性体の比透磁率の実部
μr2:第1磁性体の比透磁率の虚部
S:第1磁性体の磁路の断面積
l:第1磁性体の平均磁路長
【0055】
上記数式5を上記数式4に導入すると、以下の数式が導かれる。
【0056】
【数6】
【0057】
上記数式6の実部の負の項には角周波数ωが含まれていることから、上記数式6の実部は周波数特性を有している。このため、上記数式6の実部は、フィルタ性能に影響を及ぼしていることが分かる。すなわち、厳密に考察すると、導体損失及び磁性体の損失成分がフィルタ性能に影響を及ぼしていることが分かる。
【0058】
したがって、フィルタ性能を改善するためには、上記数式6の実部が小さくなるように損失成分Rを調整するのが望ましい。例えば、分岐配線の配線パターンによって損失成分Rを調整することにより上記数式6の実部を小さくしてもよく、コンデンサに対して直列となるように抵抗器(例えば、チップ抵抗)を分岐配線に接続して損失成分Rを調整することにより上記数式6の実部を小さくしてもよい。このように損失成分Rを調整する技術は、上記数式6の実部が小さくすることができ、フィルタ性能を向上させ得るという点で有用な技術である。ところが、上記数式6からも明らかに、損失成分Rが周波数特性を有していない場合、特定の周波数のみで上記数式6の実部が小さくなり、フィルタ性能の向上は限定的である。
【0059】
図5の変形例のノイズフィルタ100では、第2導電線12に対して第2磁性体140が設けられている。このため、図5の変形例のノイズフィルタ100では、損失成分Rに第2磁性体140の損失成分が加算されるので、損失成分Rが周波数特性を有することができる。さらに、第2磁性体140は、第1磁性体130と同一の磁性体材料、すなわち、第1磁性体130と同一の透磁率を有している。このため、図5の変形例のノイズフィルタ100では、上記数式6の実部の正の項と負の項の損失成分の各々が周波数に比例して増加するので、それら損失成分が周波数の変動に依存することなく相殺される。このため、図5の変形例のノイズフィルタ100は、高いフィルタ性能を有することができる。
【0060】
このように、第2導電線12に第2磁性体140を設ける技術は、入力側導電線11Aのインダクタンス(L1+M)と出力側導電線11Bのインダクタンス(L2+M)の各々を増加させることによるフィルタ性能の改善に加え、より厳密な設計に基づくフィルタ性能の改善にも寄与することができる。なお、第2導電線12に第2磁性体140を設ける技術は、本明細書に開示する他の実施形態のノイズフィルタにも同様に適用可能である。
【0061】
図6Aにノイズフィルタ200の斜視図、図6Bにその分解斜視図を示す。ノイズフィルタ200では、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bが、所定距離を隔てて対向するとともに平行となるように延びている。
【0062】
第1磁性体230は、磁性シートで構成されており、入力側導電線11Aの一部の周囲を被覆するように配設されている第1磁性体部分231と、出力側導電線11Bの一部の周囲を被覆するように配設されている第2磁性体部分232と、第1磁性体部分231と第2磁性体部分232の間を延びている一対の第3磁性体部分233と、を有している。第1磁性体230は、入力側導電線11Aの一部と出力側導電線11Bの一部の各々の外側を通って一巡するように配設されている。一対の第3磁性体部分233は、ねじれの位置となるように延びている。このような第1磁性体230が配設されていると、入力側から出力側に流れる電流を正としたとき、入力側導電線11Aから生じる磁束と出力側導電線11Bから生じる磁束が互いに強め合うため、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスの符号が正となるように磁気結合することができる。
【0063】
ノイズフィルタ200も同様に、第1導電線11の周囲に第1磁性体230を配設することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bを磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスを利用してコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスを減ずることができる。
【0064】
図7Aにノイズフィルタ300の斜視図、図7Bにその分解斜視図を示す。ノイズフィルタ300では、第1磁性体330が、第1分割部分330Aと第2分割部分330Bを組み合わせて構成されている。第1分割部分330Aと第2分割部分330Bが組み合さることにより、第1磁性体330の第1磁性体部分331、第2磁性体部分332及び第3磁性体部分333が構成される。
【0065】
第1分割部分330Aと第2分割部分330Bの各々は、Mn-Zn、Ni-Zn等の材料を焼結したフェライト等を成形した磁性プレートであり、コの字状の形態を有している。第1分割部分330Aと第2分割部分330Bは、共通形態である。入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの各々は、長手方向に対して直交する上下方向(バスバーの表面に対して直交する方向でもある)に屈曲して往復する形態を有しており、その往復部分で囲まれる空間に対して第1分割部分330Aと第2分割部分330Bが挿入して配設されている。第1分割部分330Aの一方の端部と第2分割部分330Bの一方の端部の間にギャップが設けられており、第1分割部分330Aの他方の端部と第2分割部分330Bの他方の端部の間にもギャップが設けられている。これらギャップのギャップ間の距離等を調整することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。なお、第1磁性体部分331と第2磁性体部分332の各々に対応してギャップが設けられているが、この例に代えて、第3磁性体部分333にギャップが設けられていてもよい。また、ギャップに代えて、磁性体部分の一部の幅が狭くなるように構成されていてもよい。
【0066】
入力側導電線11Aのうちの第1磁性体部分331によって取り囲まれている部分111Aは、入力側導電線11Aの長手方向に対して直交する上下方向に延びている。出力側導電線11Bのうちの第2磁性体部分332によって取り囲まれている部分111Bも、出力側導電線11Bの長手方向に対して直交する上下方向に延びている。このような第1磁性体330が配設されていると、入力側から出力側に流れる電流を正としたとき、入力側導電線11Aから生じる磁束と出力側導電線11Bから生じる磁束が互いに強め合うため、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスの符号が正となるように磁気結合することができる。
【0067】
ノイズフィルタ300も同様に、第1導電線11の周囲に第1磁性体330を配設することにより、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bを磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスを利用してコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスを減ずることができる。
【実施例1】
【0068】
図8A図8C及び図9A図9Cを参照し、本明細書が開示する技術が適用されたノイズフィルタのフィルタ性能を検討した結果を示す。
【0069】
図8Aは、本明細書が開示する技術が適用されたノイズフィルタ400である。第1磁性体430は、磁性シートで構成されており、第1導電線11の周囲をらせん状に配設されている。この例では、第1磁性体430は、入力端部11aから出力端部11bに向かう方向において、入力側導電線11Aの一部から分岐部11cを通って出力側導電線11Bの一部にまで時計周りに配設されている。このノイズフィルタ400では、第1磁性体430によって入力側導電線11Aと出力側導電線11Bが磁気結合しており、これらの間に生じる相互インダクタンスによってコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスが減じられている。
【0070】
図9Aは、図8Aのノイズフィルタ400の等価回路図である。ノイズ源の内部インピーダンスが1Ωであり、負荷回路のインピーダンスが1Ωであり、コンデンサの静電容量が100μFである。入力側導電線11Aのインダクタンスが71.2nHであり、出力側導電線11Bのインダクタンスが94.4nHであり、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和が0.003nHである。このように、ノイズフィルタ400では、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの間に生じる相互インダクタンスによってコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスが減じられることにより、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和が極めて小さい値を示している。また、後述の図8Bの例と比較すると、入力側導電線11Aのインダクタンスと出力側導電線11Bのインダクタンスの各々が、第1磁性体430の配設による自己インダクタンスの増加のみならず、相互インダクタンスによっても増加している。
【0071】
図8Bは、比較例のノイズフィルタ500である。このノイズフィルタ500では、第1導電線11の周囲に何ら磁性体が配設されていない。
【0072】
図9Bは、図8Bのノイズフィルタ500の等価回路図である。このノイズフィルタ500では、磁性体が何ら配設されていないことから、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの各々は、その電線の寄生のインダクタンスのみであり、磁性体を配設したときと比べて小さい値を示している。また、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bの磁気結合は、導電線の寄生インダクタンスに影響しないほど小さい。これにより、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和も高い値を維持している。
【0073】
図8Cは、比較例のノイズフィルタ600である。このノイズフィルタ600では、入力側導電線11Aにリング状のフェライトコアである入力側磁性体631が設けられており、出力側導電線11Bにもリング状のフェライトコアである出力側磁性体632が設けられている。
【0074】
図9Cは、図8Cのノイズフィルタ600の等価回路図である。このノイズフィルタ600では、入力側磁性体631と出力側磁性体632が配設されていることから、入力側導電線11Aのインダクタンスと出力側導電線11Bのインダクタンスが大幅に増加している。一方、入力側磁性体631と出力側磁性体632が離れて配置されており、入力側導電線11Aと出力側導電線11Bが磁気結合していない。これにより、コンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスの和は、高い値を維持している。
【0075】
図10は、図8A図8Cのノイズフィルタ400,500,600の各々のフィルタ性能の結果を示す。なお、フィルタ性能は、20×log10(V/V)(dB)によって計算した。
【0076】
図10に示されるように、磁性体が何ら配設されていない比較例のノイズフィルタ500(図8B)では、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能が劣化している。一方、本実施形態のノイズフィルタ400(図8A)では、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能が大幅に向上している。なお、リング状のフェライトコアである磁性体631,632が設けられている比較例のノイズフィルタ600(図8C)では、入力側導電線11Aのインダクタンスと出力側導電線11Bのインダクタンスが増加することから、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能が改善されているものの、本実施形態のノイズフィルタ400のフィルタ性能よりも悪い。このように、ノイズフィルタのフィルタ性能を向上させるには、本実施形態のノイズフィルタ400(図8A)のように、少なくともコンデンサ20の等価直列インダクタンスと第2導電線12の寄生インダクタンスを減じることが肝要であることが確認された。
【0077】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0078】
10:ノイズフィルタ
11:第1導電線
11A:入力側導電線
11B:出力側導電線
11a:入力端部
11b:出力端部
11c:分岐部
12:第2導電線
13:グランド板
20:コンデンサ
30:第1磁性体
31:第1磁性体部分
32:第2磁性体部分
33:第3性体部分
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10