(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】スポットサイズ変換器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20230704BHJP
G02B 6/13 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G02B6/122 311
G02B6/13
(21)【出願番号】P 2019132770
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 昌崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2004-0009325(KR,A)
【文献】特開2009-152508(JP,A)
【文献】特開2014-137496(JP,A)
【文献】特表2001-500280(JP,A)
【文献】特開平08-116135(JP,A)
【文献】国際公開第2008/114624(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を伝搬し、第1コア層を含む第1導波路と、
前記第1導波路の上に設けられ、光を伝搬し、第2コア層を含む第2導波路と、を具備し、
前記第1導波路および前記第2導波路の延伸方向に沿って連続する第1領域および第2領域が設けられ、
前記第1導波路と前記第2導波路とは、メサを形成し、
前記メサは前記第1領域および前記第2領域に延伸し、
前記第2領域における前記メサの断面形状は矩形であり、
前記第1領域における前記第2導波路の断面形状は、前記第1導波路から遠ざかるほど細くなるテーパ形状を含み、
前記第2導波路のうち前記断面形状が前記テーパ形状である部分において、前記第2導波路の側面と前記第2導波路の底面との間の角度は60°以下であるスポットサイズ変換器。
【請求項2】
前記第2導波路は、前記第1コア層と前記第2コア層との間に設けられた第1クラッド層を含み、
前記第1コア層、前記第2コア層および前記第1クラッド層は前記メサ
に含まれ、
前記第1領域における前記第1クラッド層および前記第2コア層の断面形状が前記テーパ形状
を含む請求項1に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項3】
前記第2導波路は、前記第2コア層の上に設けられた第2クラッド層を含み、
前記第1コア層、前記第2コア層、前記第1クラッド層および前記第2クラッド層は前記メサ
に含まれ、
前記第1領域における前記第2クラッド層は、前記第2領域における前記第2クラッド層に比べて薄い、または前記第1領域に前記第2クラッド層は設けられていない
請求項2に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項4】
前記第1導波路は、前記第1領域側から前記第2領域側にかけて幅が小さくなるテーパ形状を有し、
前記第2導波路は、前記第2領域側から前記第1領域側にかけて幅が小さくなるテーパ形状を有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項5】
前記第1領域は前記第2領域とは反対側に光の入出射面を有する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項6】
主面が(100)面である基板の上に、第1導波路、および第2導波路を順に形成する工程と、
前記第2導波路をエッチングすることにより、前記第2導波路の断面形状を前記第1導波路から遠ざかるほど細くなるテーパ形状とする工程と、を含み、
前記基板はインジウムリンで形成され、
前記第2導波路は、コア層と、前記コア層の上に設けられたクラッド層とを含み、
前記第2導波路の断面形状をテーパ形状とする工程は、前記クラッド層をウェットエッチングすることにより、前記クラッド層に断面形状がテーパ形状であるメサを形成する工程と、前記メサを有する前記クラッド層および前記コア層をドライエッチングする工程と、を含み、
前記クラッド層のメサは<0-11>方向に延伸し、
前記第2導波路の側面と前記第2導波路の底面との間の角度は60°以下であるスポットサイズ変換器の製造方法。
【請求項7】
前記クラッド層はエッチングストップ層を含み、
前記ウェットエッチングは、前記エッチングストップ層が露出するまで行われる請求項6に記載のスポットサイズ変換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスポットサイズ変換器およびその製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
光のスポットサイズを変換するスポットサイズ変換器が知られている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スポットサイズ変換器は、光が伝搬する導波路を例えば2つ有し、導波路間で光を遷移させる。しかし、導波路間の結合が弱く、光の変換効率が低下することがある。そこで、変換効率の向上が可能なスポットサイズ変換器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスポットサイズ変換器は、光を伝搬し、第1コア層を含む第1導波路と、前記第1導波路の上に設けられ、光を伝搬し、第2コア層を含む第2導波路と、を具備し、前記第1導波路および前記第2導波路の延伸方向に沿って連続する第1領域および第2領域が設けられ、前記第1領域における前記第2導波路の断面形状は、前記第1導波路から遠ざかるほど細くなるテーパ形状であり、前記第2導波路の側面と前記第2導波路の底面との間の角度は60°以下であるスポットサイズ変換器である。
【0006】
本発明に係るスポットサイズ変換器の製造方法は、第1導波路、および第2導波路を順に形成する工程と、前記第2導波路をエッチングすることにより、前記第2導波路の断面形状を前記第1導波路から遠ざかるほど細くなるテーパ形状とする工程と、を含み、前記第2導波路の側面と前記第2導波路の底面との間の角度は60°以下であるスポットサイズ変換器の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によれば、変換効率の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)から
図1(c)は実施例1に係るスポットサイズ変換器を例示する断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)はスポットサイズ変換器を例示する断面図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)はスポットサイズ変換器を例示する断面図である。
【
図5】
図5(a)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図であり、
図5(b)および
図5(c)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する平面図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図である。
【
図8】
図8はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図である。
【
図11】
図11(a)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する断面図であり、
図11(b)および
図11(c)はスポットサイズ変換器の製造方法を例示する平面図である。
【
図12】
図12は実施例2に係るスポットサイズ変換器を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
本願発明の一形態は、(1)光を伝搬し、第1コア層を含む第1導波路と、前記第1導波路の上に設けられ、光を伝搬し、第2コア層を含む第2導波路と、を具備し、前記第1導波路および前記第2導波路の延伸方向に沿って連続する第1領域および第2領域が設けられ、前記第1領域における前記第2導波路の断面形状は、前記第1導波路から遠ざかるほど細くなるテーパ形状であり、前記第2導波路の側面と前記第2導波路の底面との間の角度は60°以下であるスポットサイズ変換器である。これにより第1コア層と第2コア層との間における光の変換効率が向上する。
(2)前記第2導波路は、前記第1コア層と前記第2コア層との間に設けられた第1クラッド層を含み、前記第1クラッド層および前記第2コア層の断面形状が前記テーパ形状でもよい。矩形の場合に比べて第1クラッド層の有効屈折率が高くなることにより、変換効率が向上する。
(3)前記第2導波路は、前記第2コア層の上に設けられた第2クラッド層を含み、前記第1領域における前記第2クラッド層は、前記第2領域における前記第2クラッド層に比べて薄い、または前記第1領域に前記第2クラッド層は設けられていなくてもよい。第2クラッド層の有効屈折率が低下するため、変換効率が向上する。
(4)前記第1導波路は、前記第1領域側から前記第2領域側にかけて幅が小さくなるテーパ形状を有し、前記第2導波路は、前記第2領域側から前記第1領域側にかけて幅が小さくなるテーパ形状を有してもよい。導波路間における光の変換効率が向上する。また、第1導波路の幅が小さくなることで光をカットオフにする。
(5)前記第1領域は前記第2領域とは反対側に光の入出射面を有してもよい。入出射面から入射される光を、高い変換効率で第1導波路から第2導波路に遷移させることができる。また、第2導波路を伝搬する光を高い変換効率で第1導波路に遷移させ、入出射面から出射することができる。
(6)第1導波路、および第2導波路を順に形成する工程と、前記第2導波路をエッチングすることにより、前記第2導波路の断面形状を前記第1導波路から遠ざかるほど細くなるテーパ形状とする工程と、を含み、前記第2導波路の側面と前記第2導波路の底面との間の角度は60°以下であるスポットサイズ変換器の製造方法である。これにより第1導波路と第2導波路との間における光の変換効率が向上する。
(7)前記第2導波路は、コア層と、前記コア層の上に設けられたクラッド層とを含み、前記クラッド層はエッチングストップ層を含み、前記第2導波路の断面形状をテーパ形状とする工程は、前記エッチングストップ層が露出するまで前記クラッド層をウェットエッチングすることにより、前記クラッド層にメサを形成する工程と、前記メサを有する前記クラッド層および前記コア層をドライエッチングする工程と、を含んでもよい。ドライエッチングによりクラッド層のメサ形状をコア層に転写することで、コア層の断面形状をテーパ形状とすることができる。
(8)前記クラッド層のメサは<0-11>方向に延伸してもよい。ドライエッチングによりクラッド層のメサ形状をコア層に転写することで、コア層の断面形状をテーパ形状とすることができる。
【0011】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係るスポットサイズ変換器およびその製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例1】
【0012】
(スポットサイズ変換器)
図1(a)から
図3(b)は実施例1に係るスポットサイズ変換器100を例示する断面図である。X軸方向は光の伝搬方向であり、Y軸方向は幅方向であり、Z軸方向は層の積層方向である。これらは互いに直交する。また、各図における点線は下段導波路30および上段導波路32を示す仮想の線である。図が猥雑になることを避けるため、断面図においてハッチングは省略する。
【0013】
図1(a)から
図3(b)に示すように、スポットサイズ変換器100は、下段導波路30(第1導波路)および上段導波路32(第2導波路)を有する。下段導波路30および上段導波路32はX軸方向に延伸し、光学的に結合され、Z軸方向に沿って積層されている。
【0014】
下段導波路30は、コア層12(第1コア層)を含む。上段導波路32は、順に積層されたコア層16(第2コア層)およびクラッド層26(第2クラッド層)を含む。クラッド層26は、コア層16側から順に積層されたクラッド層20、エッチングストップ層22およびクラッド層24を含む。クラッド層14(第1クラッド層)はコア層12とコア層16との間に設けられ、下側の一部は下段導波路30に含まれ、上側の一部は上段導波路32に含まれる。コア層16はクラッド層14および20に接触する。コア層12は基板10およびクラッド層14に接触する。コア層12とコア層16とは光学的に結合され、これらの間で光が遷移する。
【0015】
図1(a)に示すように、スポットサイズ変換器100は、X軸方向に沿って遷移領域36(第1領域)および接続部38(第2領域)を有する。遷移領域36の長さL1は例えば800μmであり、接続部38の長さL2は例えば100μmである。
【0016】
図1(b)から
図3(b)は、
図1(a)の線A1~A7に沿った断面を図示する。
図1(c)および
図2(a)に示すように、コア層12の上側の一部はメサを有する。
図2(b)から
図3(b)に示すように遷移領域36では、基板10の上側の一部、コア層12はメサを形成する。
図2(b)では、基板10からコア層12にわたる側面がZ軸方向に対して内側に傾斜する。
図2(c)から
図3(b)では下段導波路30の側面はZ軸方向に延伸する。
【0017】
図1(a)および
図1(c)に示すように、線A2の部分では、クラッド層26のうちクラッド層24が除去され、開口部25が形成され、エッチングストップ層22が露出する。
図2(a)から
図3(a)において、クラッド層24の上側の一部は除去されており、クラッド層24が
図1(b)よりも薄い。
【0018】
図1(b)から
図3(b)に示すように、上段導波路32はメサを有する。
図1(b)に示すように、上段導波路32はZ軸方向に延伸する矩形のメサを有する。メサの幅W1は例えば1.5μmであり、高さH1は例えば2.8μmである。
【0019】
図2(b)から
図3(b)に示すように、遷移領域36における上段導波路32のYZ平面内の断面形状は、コア層12から遠ざかるほど細くなるテーパ形状(台形または三角形)である。つまりクラッド層14の上側の一部、コア層16およびクラッド層26の断面形状が先細りのテーパ形状である。
図2(b)および
図2(c)において、上段導波路32は台形の断面形状を有し、コア層16からクラッド層26にわたる側面が内側に傾斜する。
【0020】
図3(a)および
図3(b)において、上段導波路32は三角形の断面形状を有する。つまりクラッド層14、コア層16およびクラッド層26が三角形をなす。
図3(a)ではクラッド層24が三角形の頂点を形成する。
図3(b)ではクラッド層20、24およびエッチングストップ層22が除去され、コア層16が露出し、三角形の頂点を形成する。上段導波路32が形成する三角形の低角θは例えば54°などであり、60°以下である。なお、三角形は二等辺三角形である。上段導波路32の側面は、直線状の斜面でもよいし、上に凸または下に凸の曲面でもよい。底角θとは、頂点と底面の端部とを結ぶ線が、底面となす角度である。
図3(b)に示す下段導波路30のメサ部分の幅W2は例えば3.5μmである。上段導波路32のコア層16の幅W3はW2より小さく、例えば0.8μmである。クラッド層14の表面を基準とするコア層16の底面までの高さH2は例えば0.1μmである。
【0021】
接続部38側から遷移領域36側にかけて(
図1(c)から
図3(b)にかけて)、上段導波路32の幅は小さくなる。遷移領域36側から接続部38側にかけて(
図3(b)から
図1(c)にかけて)、下段導波路30のうち上段導波路32に近い側の幅は小さくなる。
【0022】
基板10は例えば鉄(Fe)がドープされたインジウムリン(InP)で形成された化合物半導体基板、およびノンドープのInPで形成されたクラッド層を含む。基板10の厚さは例えば600μmである。コア層12は、例えば交互に積層された複数のInP層およびインジウムガリウム砒素リン(InGaAsP)層を含む。屈折率の低いInP層と屈折率の高いInGaAsP層とを積層することで、コア層12の屈折率を調整する。コア層12の屈折率は、積層するInGaAsP層の膜厚および屈折率、ならびにInP層の膜厚によって決まる平均の屈折率である。InGaAsP層の屈折率は、組成(バンドギャップ波長)によって調整する。InGaAsP層の膜厚は例えば50~200nmである。コア層12に含まれるInP層の膜厚は例えば100~800nmである。積層数は例えば6~10である。
【0023】
クラッド層14は例えばシリコン(Si)がドープされたn型のInPなどで形成されており、厚さは500nmである。コア層16は例えばAlInAs層およびAlGaInAs層を積層した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造を有し、不図示の変調器のコア層としても機能する。コア層16の厚さは例えば500nmである。コア層16の屈折率はInGaAsP層の屈折率よりも高い。クラッド層20は例えばノンドープのInPで形成されており、厚さは200nmである。エッチングストップ層22は例えば亜鉛(Zn)がドープされたInGaAsPで形成され、厚さは10~20nmである。クラッド層24は例えばZnがドープされたp型のInPで形成されており、厚さは1000nmである。上段導波路32の上に絶縁膜および樹脂などを設けてもよく、上段導波路32は空気に露出しない。
【0024】
接続部38は例えば不図示の変調器に接続される部分である。遷移領域36の+X側の端面31は、光が入射または出射される入出射面である。光の波長は例えば1.55μmである。端面31から入射される光は、下段導波路30を伝搬し、遷移領域36において下段導波路30のコア層12から上段導波路32のコア層16へと遷移し、コア層16を伝搬し、変調器に入射する。不図示の変調器は
図1(a)において接続部38の-X側に接続される。接続部38から遷移領域36に向けて伝搬する光は、上段導波路32のコア層16から下段導波路30のコア層12へと遷移し、端面31から出射される。
【0025】
クラッド層14および26の屈折率はコア層12および16の屈折率よりも低い。このためコア層12および16に光を閉じ込めることができる。コア層12の屈折率は、コア層16の屈折率よりも低い。コア層間で光を遷移させるために、屈折率を調整する。例えば遷移領域36では下段導波路30の有効屈折率と上段導波路32の有効屈折率とを同程度とする。上段導波路32の有効屈折率を低下させるには、上段導波路32を下段導波路30よりも細くすればよい。しかし、コア層16とともにクラッド層14も細くすると、クラッド層14の有効屈折率も低下する。これにより、コア層間の光の変換効率が低下する恐れがある。また、上段導波路32を細くすることで強度が低下し、破損する恐れがある。
【0026】
実施例1では、上段導波路32の断面形状は上に先細りのテーパ形状であり、例えば矩形の場合に比べてクラッド層14が広い底面を有する。したがってクラッド層14の有効屈折率が高くなり、コア層間の変換効率が向上する。また、矩形の場合に比べて強度も高くなる。
【0027】
図4は変換効率の計算結果を示す図である。横軸は端面31におけるコア層16の底辺の幅を表す。端面31の構造は、
図1(a)の線A7に沿った断面の構造と同じである。縦軸は下段導波路30に入射された光が上段導波路32に移る際のコア層間の光の変換効率を表す。破線は上段導波路32の底角θが90°の例であり、上段導波路32は矩形である。点線および実線では上段導波路32がテーパ形状を有し、点線は底角θが60°の例であり、実線は底角θが54°の例である。遷移領域36の長さL1は800μmであり、下段導波路30の幅は3.5μmである。遷移領域36内において上段導波路32の底辺の幅は、端面31から離れるにつれて片側(+Y側、-Y側それぞれ)で0.32μm大きくなる。
【0028】
θが90°の例では、幅が0.5~0.7μm付近において変換効率は40%程度であるが、幅が0.8μm以上になると変換効率が急激に低下する。θが60°の例および54°の例では幅が0.8μm以上の範囲で60%程度の高い変換効率を示す。すなわち、上段導波路32をテーパ形状とし、底辺の幅を大きくすることでクラッド層14の有効屈折率が高くなり、変換効率が向上する。
【0029】
(製造方法)
図5(a)、
図6(a)から
図11(a)はスポットサイズ変換器100の製造方法を例示する断面図である。
図5(b)、
図5(c)、
図11(b)および
図11(c)はスポットサイズ変換器100の製造方法を例示する平面図である。
【0030】
図5(a)および
図5(b)に示すように、例えば有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Oxide Chemical Vapor Deposition)などにより、基板10の上にコア層12、クラッド層14、コア層16、クラッド層20、エッチングストップ層22、クラッド層24を順にエピタキシャル成長する。さらに不図示のコンタクト層を成長し、スポットサイズ変換器になる部分からはコンタクト層を除去し、変調器になる部分に残存させる。
【0031】
図5(c)に示すように、クラッド層24をエッチングする。例えば厚さ400nmのSiN膜である絶縁膜をクラッド層24の上に形成し、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成する。四フッ化炭素(CF
4)などを用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)を行い、絶縁膜にパターンを転写する。O
2アッシングによりレジストを除去する。塩酸などを用いてクラッド層24をウェットエッチングする。ウェットエッチングはエッチングストップ層22で停止する。バッファードフッ酸(BHF)などを用いて絶縁膜は剥離する。
図5(c)に示すように、クラッド層24は+X側から-X側にかけて幅広のテーパ形状となる。なお、Y軸方向から見た図は
図5(a)と同じである。
【0032】
図5(a)の線B1~B7は
図1(a)の線A1~A7と同じ場所に位置する。
図6(a)はウェットエッチング後における線B1~B3に沿った断面、
図6(b)は線B4に沿った断面、
図7(a)は線B5に沿った断面、
図7(b)は線B6に沿った断面、
図8は線B7に沿った断面をそれぞれ図示する。
図6(b)から
図8に示すように、ウェットエッチングにより上段導波路32の断面形状はテーパ形状となり、上段導波路32のメサは<0-11>方向に延びる。
図6(b)から
図7(b)に示すように断面形状は台形、または
図8に示すように三角形である。
【0033】
図9(a)に示すように、ウェットエッチングの後、クラッド層24、エッチングストップ層22、クラッド層20、コア層16およびクラッド層14をドライエッチングすることで、クラッド層24のテーパ形状をこれらの層に転写する。具体的には、例えば厚さ400nmのSiN膜である絶縁膜をクラッド層24の上に形成し、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成する。CF
4などを用いたRIEを行い、絶縁膜にレジストパターンを転写する。O
2アッシングによりレジストを除去する。ヨウ化水素(HI)および四塩化珪素(SiCl
4)を含むガスを用いたドライエッチングを行う。
【0034】
図9(a)の線C1~C7は
図1(a)の線A1~A7と同じ場所に位置する。線C1およびC2に沿った断面は
図6(a)と同じである。
図9(b)は線C3に沿った断面、
図9(c)は線C4に沿った断面、
図10(a)は線C5に沿った断面、
図10(b)は線C6に沿った断面、
図10(c)は線C7に沿った断面をそれぞれ図示する。
図9(b)から
図10(b)においてクラッド層24はドライエッチングにより薄くなり、
図10(c)においてクラッド層24は除去される。
【0035】
図9(c)から
図10(c)に示すように、クラッド層14、コア層16およびクラッド層26の断面形状がテーパ形状となる。
図9(c)および
図10(a)において、断面形状は台形である。
図10(b)および
図10(c)において断面形状は三角形である。これらの層の幅(メサの幅)は
図9(c)から
図10(c)にかけて(-X側から+X側にかけて)小さくなる。
【0036】
図11(a)および
図11(b)に示すように、ウェットエッチングにより、クラッド層24の一部を除去し、開口部25を形成する。具体的には、例えば厚さ400nmのSiN膜である絶縁膜を上段導波路32の上などに形成し、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成する。CF
4などを用いたRIEを行い、絶縁膜にレジストパターンを転写する。O
2アッシングによりレジストを除去する。例えば塩酸を含むエッチャントでクラッド層24をウェットエッチングする。
図11(b)に示すようにXY平面内での開口部25の形状は例えば平行四辺形である。
図11(a)に示すように壁面はZ軸から傾斜し、開口部25からはエッチングストップ層22が露出する。
【0037】
図11(c)に示すように、下段導波路30をドライエッチングすることで、破線で示すように下段導波路30を+X側から-X側にかけて先細りのテーパ形状とする。具体的には、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成した後、絶縁膜にRIEを行い、HIおよびSiCl
4を含むガスなどを用いたドライエッチングを行う。これにより
図1(a)から
図3(b)に示したように下段導波路30にメサが形成される。その後、例えば不図示の絶縁膜の形成、チップへの個片化などを行い、スポットサイズ変換器100を形成する。
【0038】
実施例1によれば、上段導波路32の断面形状は、Z軸方向において下段導波路30から遠ざかるほど細くなるテーパ形状である。
図3(a)および
図3(b)に示す底角θは60°以下であり、例えば54°である。これによりコア層16の屈折率を調整し、コア層12とコア層16との間における光の変換効率を向上させることができる。
【0039】
コア層12とコア層16との間に設けられたクラッド層14は、コア層16と同様にテーパ形状を有する。矩形に比べて、テーパ形状のクラッド層14の底辺が大きくなるため、有効屈折率が高くなり、コア層間における光の変換効率が向上する。有効屈折率をより高めるために、底角θは60°以下とする。
【0040】
コア層16の断面形状が三角形または台形であることにより、例えば矩形の場合に比べて強度が向上し、破損が抑制される。特に底角θが60°以下であることにより底面が広くなり、強度が向上する。
【0041】
上段導波路32はコア層16と、コア層16上のクラッド層26とを含む。
図1(a)、
図2(b)から
図3(a)に示すように、遷移領域36におけるクラッド層26は、接続部38よりも薄い。また、
図3(b)に示すように、クラッド層26が除去される部分もある。このため遷移領域36におけるクラッド層26の有効屈折率は接続部38よりも低くなる。したがってコア層間の変換効率が向上する。クラッド層26を薄くすることで有効屈折率を下げることができるため、上段導波路32を極端に細くしなくてよく、例えば
図1(b)に示す幅W1は1.5μmであり、
図3(b)に示す幅W3は0.8μmである。このため上段導波路32の強度が向上し、破損が抑制される。
【0042】
図11(c)に示すように、下段導波路30は遷移領域36側から接続部38にかけて幅が小さくなるテーパ形状を有し、上段導波路32は接続部38側から遷移領域36側にかけて幅が小さくなるテーパ形状を有する。これにより下段導波路30および上段導波路32の有効屈折率を調整し、遷移領域36において導波路間の光の変換効率を向上させる。例えば、遷移領域36において上段導波路32の有効屈折率が低下し、光が下段導波路30に遷移しやすくなる。また、下段導波路30がテーパ形状を有することにより、接続部38に近づくにつれて下段導波路30を伝搬する光がカットオフとなる。
【0043】
端面31は光の入出射面であり、光は遷移領域36において下段導波路30から上段導波路32に遷移する。接続部38は例えば変調器に接続される。端面31から入射される光を高い変換効率で下段導波路30から上段導波路32に遷移させ、変調器などに入射することができる。変調器から出射される光を、高い変換効率で上段導波路32から下段導波路30に遷移させ、端面31から出射することができる。
【0044】
図6(b)から
図8に示すように、エッチングストップ層22でウェットエッチングが停止するため、クラッド層24にテーパ型のメサが形成される。さらにドライエッチングにより、コア層16およびクラッド層14にクラッド層24のテーパ形状を転写することができる。
【0045】
ウェットエッチング後のクラッド層24のメサは<0-11>方向に延びる。主面が(100)面であるInP基板上に設けたInP層(クラッド層24)を、塩酸と水の混合エッチャント(塩酸と水の混合比2:3)でウェットエッチングすると、結晶の方向によるエッチング選択性のため、メサの斜面は(111)面あるいはその等価な面になる。(111)面の角度は、約55°である。別の角度を得る例として、塩酸とリン酸(混合比1:5)の混合液でエッチングすると、メサの斜面には(211)面あるいはその等価な面が出る。メサの側壁の斜面の角度は約35°になる。クラッド層26、コア層16およびクラッド層14のドライエッチングにより、
図9(c)から
図10(c)のように上段導波路32の断面形状をテーパ形状とすることができる。
【実施例2】
【0046】
実施例2では遷移領域36における上段導波路32の形状が実施例1と異なる。
図12は実施例2に係るスポットサイズ変換器を例示する断面図であり、
図1(a)の線A7に対応する断面を図示している。コア層16の断面形状は三角形であり、クラッド層14は矩形であり、コア層12の表面を覆う。厚さT1のコア層16がクラッド層14の表面に残存する。厚さT1は例えば0.1μmであり、クラッド層14の幅(三角形の底辺)W4は例えば0.8μmである。他の構成は実施例1と同じである。実施例2によれば、クラッド層14の幅が大きく、かつコア層16の断面形状が三角形であることにより、上段導波路32の有効屈折率を高くし、変換効率を高めることができる。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 基板
14、20、24、26 クラッド層
12、16 コア層
22 エッチングストップ層
25 開口部
31 端面
30 下段導波路
32 上段導波路
36 遷移領域
38 接続部
100 スポットサイズ変換器