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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】照明装置
(51)【国際特許分類】
   F21S 2/00 20160101AFI20230704BHJP
   F21V 23/00 20150101ALI20230704BHJP
   F21V 9/08 20180101ALI20230704BHJP
   F21W 131/406 20060101ALN20230704BHJP
   F21Y 113/10 20160101ALN20230704BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230704BHJP
【FI】
F21S2/00 311
F21S2/00 350
F21V23/00 140
F21V9/08
F21W131:406
F21Y113:10
F21Y115:10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019163945
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2020043071
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018167640
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003757
【氏名又は名称】東芝ライテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】東 洋邦
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 有美
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-065555(JP,A)
【文献】特開2017-208158(JP,A)
【文献】特開2014-093344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00
F21V 23/00
F21V 9/08
F21W 131/406
F21Y 113/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が500nm以下となる分光分布を含む光を発光する第1のLEDと、ピーク波長が500から600nm以下となる分光分布の光を発光する第2のLEDと、ピーク波長が600から650nm未満となる分光分布の光を発光する第3のLEDと、等色関数において相対値がピークとなる最も長い波長よりもさらに長い波長の領域である680nm以上にピーク波長となる分光分布の光を発光する第4のLEDと、を備える光源部と、
前記光源部の光源を発光させる点灯制御部と、を具備する照明装置。
【請求項2】
前記光源部は、さらに、白色LEDを有し、
前記点灯制御部は、前記白色LEDのみを点灯させる第1の点灯制御と、前記白色LEDを含む複数のLEDを点灯させる第2の点灯制御とを切替える機能を有する、
請求項に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舞台あるいはスタジオ等に設置される照明装置(以下、舞台向け照明装置とも称する)は、カラーフィルタを装着することで得られる色の光によって空間を演出する。従来の舞台向け照明装置としては、ハロゲンランプを光源とするものが多い。一方、近年では、ハロゲンランプに替えてLED(Light Emitting Diode)を光源とする照明装置が増えてきており、舞台向け照明装置としてもLEDを光源とする照明装置が開発されている。LEDを光源とする舞台向け照明装置についても、色で空間を演出のために色を変化させる機能が必須であるため、ハロゲンランプからの光にカラーフィルタをかけて得られる光と同様な色合いの光を出力させたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-077491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のLEDを光源とする照明装置の光は、人間が色を知覚できる光を効率良く出力するように構成されるが、ハロゲンランプを光源とする照明装置の光とは分光分布が同一ではない。このため、LEDを光源とする照明装置とハロゲンランプを光源とする照明装置とでは、同じ物体を照明した場合であっても異なる色で視認されることがある。例えば、ハロゲンランプを光源とする照明装置は、青のカラーフィルタを装着することで、空間(舞台)全体を青く照明しつつ、舞台上の人物などが自然な色合いで視認されるような演出を実現できる。これに対して、従来のLEDを光源とする照明装置は、青のカラーフィルタを装着すると、舞台全体が青くなるとともに、舞台上の人物なども青色の不自然な色合いで視認されることが多い。
本発明は、上述した問題を解決するものであり、物体が自然な色合いで視認されるような光を出力できる照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、照明装置は、光源部と点灯制御部とを具備する。前記光源部は、ピーク波長が500nm以下となる分光分布を含む光を発光する第1のLEDと、ピーク波長が500から600nm以下となる分光分布の光を発光する第2のLEDと、ピーク波長が600から650nm未満となる分光分布の光を発光する第3のLEDと、等色関数において相対値がピークとなる最も長い波長よりもさらに長い波長の領域である680nm以上ピーク波長となる分光分布の光を発光する第4のLEDと、を備える。前記点灯制御部は、前記光源部の光源を発光させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、LEDなどのハロゲンランプとは異なる光源に用いた場合であっても、物体が自然な色合いで視認されるような光を出力できる照明装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態に係る照明装置の外観構成例を示す図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る照明装置の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、ハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタ(ブルーのフィルタ)を装着した場合の光の分光分布を示す図である。
図4図4は、白色のLEDを光源とする照明装置にカラーフィルタを装着した場合の光の分光分布を示す図である。
図5図5は、等色関数を示す図である。
図6図6は、肌色に対する分光反射率の例を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る照明装置の光源からの光の分光分布を示す図である。
図8図8は、第1の実施形態に係る照明装置の光源にカラーフィルタを装着した場合の分光分布を示す図である。
図9図9は、第2の実施形態に係る照明装置の構成例を示すブロック図である。
図10図10は、基準室の分光分布を示す図である。
図11図11は、テスト室の分光分布を示す図である。
図12図12は、評価サンプルの測量値を示す図である。
図13図13は、インストラクションなどを示す図である。
図14図14は、鮮やかさの主観評価の結果を示す図である。
図15図15は、明るさの主観評価の結果を示す図である。
図16図16は、鮮やかさの主観評価の結果を示す図である。
図17図17は、明るさの主観評価の結果を示す図である。
図18図18は、肌色の主観評価の結果を示す図である。
図19図19は、ヒアリングの結果を示す図である。
図20図20は、評価サンプルの色差ΔEを示す図である。
図21図21は、基準室及びテスト室の照明条件を示す図である。
図22図22は、基準室の分光分布を示す図である。
図23図23は、テスト室の分光分布を示す図である。
図24図24は、基準室及びテスト室の照明条件を示す図である。
図25図25は、鮮やかさの主観評価の結果を示す図である。
図26図26は、明るさの主観評価の結果を示す図である。
図27図27は、鮮やかさの主観評価の結果を示す図である。
図28図28は、明るさの主観評価の結果を示す図である。
図29図29は、好ましさの主観評価の結果を示す図である。
図30図30は、健康さの主観評価の結果を示す図である。
図31図31は、ヒアリングの結果を示す図である。
図32図32は、解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下で説明する実施形態に係る照明装置は、光源を有する光源部(11、111)と前記光源部の光源を発光させる点灯制御部(12、112)とを具備し、前記光源部(11、111)は、等色関数において相対値がピークとなる最も長い波長よりもさらに長い波長の領域においてピークを有する分光分布の光を発光する光源(11B、111D)を含む。これにより、LEDなどのハロゲンランプとは異なる光源を用いた照明装置であっても、等色関数への寄与が小さい波長領域の光を付加した照明を提供でき、物体が自然な色合いで視認されるような光を出力できる。
【0009】
また、以下で説明する実施形態に係る照明装置において、光源部(11、111)は、ピーク波長が650nm以上となる分光分布を含む光を発光する光源(11B、111D)を含む。これにより、LEDなどのハロゲンランプとは異なる光源を用いた照明装置であっても、等色関数への寄与が小さい波長が650nm以上となる光を付加した照明を実現でき、物体が自然な色合いで視認されるような光を出力できる。
【0010】
また、以下で説明する実施形態に係る照明装置において、光源部(11、111)は、白色の光を発光する白色LED(11A)を含む複数のLEDを有し、前記点灯制御部は、白色LED(11A)のみを点灯させる第1の点灯制御と白色LED(11A)を含む複数のLEDを点灯させる第2の点灯制御とを切替える機能を有する。これにより、LEDなどのハロゲンランプとは異なる光源を用いた照明装置において、物体が自然な色合いで視認されるような光を出力できる点灯制御と発光効率を重視した点灯制御とを切替えて実施できる。
【0011】
また、以下で説明する実施形態に係る照明装置において、光源部(111)は、ピーク波長が500nm以下となる分光分布を含む光を発光する第1のLED(111A)と、ピーク波長が500から600nm以下となる分光分布の光を発光する第2のLED(111B)と、ピーク波長が600から650nm未満となる分光分布の光を発光する第3のLED(111C)と、ピーク波長が650nm以上となる分光分布の光を発光する第4のLED(111D)とを含み、点灯制御部(112)は、第1乃至第4のLED(111A~111D)の点灯を制御することにより光源部(111)が出力する光の色を制御する。これにより、カラーフィルタ無しでも、物体が自然な色合いで視認されるような光を出力できる照明装置を提供できる。この結果、カラーフィルタ無しであっても、カラーフィルタを装着したハロゲンランプの光源からの光と同様な見え方となるような光を出力できる照明装置を提供できる。
【0012】
以下、図面を参照しながら、第1及び第2の実施形態について詳細に説明する。
以下に説明する第1及び第2の実施形態に係る照明装置は、舞台あるいはスタジオ等の色を変化させることが必要な空間を照明するための照明装置であることを想定するものとする。第1及び第2の実施形態に係る照明装置は、舞台あるいはスタジオ等の色を変化させることが必要な空間を照明するものであれば良く、天井や壁などに固定するものであっても良いし、スタンドにセットされるものであっても良い。なお、一般に、人間の目で感じとれることが可能な可視光線は波長が380nm~780nmの範囲とされている。このため、第1および第2実施形態においては、波長が380nm~780nmの範囲の光について説明するものとする。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る照明装置1の外観構成例を示す図である。
図1に示す構成例において、照明装置1は、光源や点灯制御部を具備する筐体を有する。照明装置1の筐体は、天井または壁などに固定される。第1の実施形態では、照明装置1は、光源からの光がカラーフィルタを介して出力されることを想定して説明するものとする。すなわち、第1の実施形態に係る照明装置1は、舞台あるいはスタジオ等の空間における色を演出するため、カラーフィルタを装着して出力する光の色を変化させるものとする。図1に示す構成例において、照明装置1は、光源からの光をカラーフィルタを介して出力させるために、カラーフィルタを装着するための構成を有する。
【0014】
図2は、第1の実施形態に係る照明装置1の構成例を示すブロック図である。
図2に示す構成例において、照明装置1は、光源部11(第1光源11A、第2光源11B)、点灯制御部12、および、フィルタ装着部13を有する。
光源部11は、1又は複数の光源により構成する。光源部11は、白色の光源を含むものであれば良い。第1の実施形態において、光源部11は、光源として単数または複数のLEDを有するものとする。
【0015】
図2に示す構成例において、光源部11は、第1光源11Aと第2光源11Bとを有する。第1光源11Aは、白色の光を発するLED(白色LED)により構成する。第2光源11Bは、特定波長の光を発するLED(特定波長のLED)を有する。第2の光源11Bとしての特定波長のLEDは、特定波長の光として、後述する等色関数において相対値がピークとなる最も長い波長(例えば、600nm)よりもさらに長い波長の領域においてピークを有する分光分布の光を発光する。また、特定波長のLEDは、特定波長の光として、後述する等色関数において相対値がピークとなる最も長い波長よりもさらに長い波長の光が所定の割合以上となるような分光分布の光を発光するものとしても良い。
【0016】
光源部11としては、第1光源11Aとしての白色LEDが発光する光と第2光源11Bとしての特定波長のLEDが発光する光とを合わせた光を出力する。すなわち、光源部11が出力する光は、白色LEDが発光する光の分光分布と特定波長のLEDが発光する光の分光分布とを合わせた分光分布となる。
【0017】
点灯制御部12は、光源部11の各光源が発する光を制御する。点灯制御部12は、第1光源11Aおよび第2光源11Bとしての各LEDにPWM波形または直流波形の電流を入力して光源の点灯を制御する。点灯制御部12は、各光源の調光制御だけでなく、時間的に徐々に明るくしたり、暗くしたりする制御も可能である。
【0018】
また、点灯制御部12は、第1光源11Aのみを点灯させる第1の点灯制御と第1光源11Aおよび第2光源11Bの2つの光源を点灯させる第2の点灯制御とを切替えることも可能である。光源の発光効率は、「ルーメン/入力電力」で表される。このため、上述したような特定波長の光を発する第2光源11Bを点灯させても、ルーメンは大きく上昇せず、入力電力が増加するため、発光効率が低下する。従って、点灯制御部12は、第2光源11Bからの特定波長の光による照明が不要な状況では、第2光源11Bを消灯して第1光源11Aのみを点灯させる第1の点灯制御によって発光効率が良い照明制御が実現でき、第2光源11Bからの特定波長の光による照明が必要な状況(人物の肌色などの物体を自然な見え方としたい状況)では、第1光源11Aに加えて第2光源11Bを点灯させる第2の点灯制御によって人物の肌色などの物体を自然な見え方となるような照明制御が実現できる。
【0019】
また、光源部11は、白色の光を発光する第1光源11Aとして色温度が異なる2つの白色LED(第1白色LEDおよび第2白色LED)を有するものであっても良い。第1光源11Aとして色温度が異なる第1白色LEDおよび第2白色LEDを有する場合、点灯制御部12は、第1白色LEDの出力と第2白色LEDの出力との比率を変化させることで色温度を制御する。この場合、点灯制御部12は、上述した第1の点灯制御および第2の点灯制御において、さらに色温度を変化させることが可能となる。
【0020】
フィルタ装着部13は、光源部11からの光にかけるカラーフィルタCFを保持する。
フィルタ装着部13は、オペレータが選択する色のカラーフィルタCFが光源部11から発する光に対してかけられるようにカラーフィルタCFを保持する。すなわち、照明装置1は、光源部11からの光がフィルタ装着部13に装着されたカラーフィルタCFを介して出力されるように構成される。
【0021】
次に、第1の実施形態に係る照明装置1が出力する光の分光分布について説明する。
図3および図4は、照明装置1に対する比較例としての照明装置が発光する光の分光分布を示す図である。図3は、ハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタ(青のカラーフィルタ)を装着した場合の光の分光分布を示す図である。また、図4は、白色LEDを光源とする照明装置に青のカラーフィルタを装着した場合の光の分光分布を示す図である。
【0022】
図3に示す分光分布の光(ハロゲンランプを光源とする照明装置に青のカラーフィルタを装着した場合の光)を照射した空間では、自然な色合いで観察される物体(人物等)が、図4に示す分光分布の光(白色LEDのみを光源とする照明装置に青のカラーフィルタを装着した場合の光)で照射した場合には不自然な色合いで観察されることが確認されている。具体例としては、人物の肌は、図3に示す分光分布の光を照射した場合には自然な色合いで観察されるが、図4に示す分光分布の光で照射した場合には不自然な色合いで観察(例えば、青っぽく視認)される。
【0023】
図3図4とを比較すると、図3に示す分光分布は、図4に示す分光分布に比べて、650nm以上の波長の領域において相対値が大きい。従って、白色LEDを光源する照明装置には、波長が650nm以上となる光を追加すれば、青のカラーフィルタを装着しても、図3に示す分光分布と類似した分光分布を再現でき、自然な色合いで空間が観察できる光が得られると推測される。
【0024】
ここで、上述した現象を踏まえ、人物が照明装置によって照明される物体の色を知覚することについて考察する。
人間が視認する物体の色は、人間の目の感度と物体が発する色(物体が反射する光の波長)とが関連する。人間の目の感度を示す情報としては、等色関数と呼ばれるものが知られている。等色関数は、人間の目に対応する分光応答度を示すものである。
【0025】
図5は、等色関数を示す図である。
図5に示すように、等色関数は、3つの曲線z(λ)、曲線y(λ)および曲線x(λ)を有する。各曲線は、人間が知覚する色を数値化する指標として用いられる。図5に示す等色関数において、曲線x(λ)は、等色関数における最も長い波長での相対値のピークを有する。等色関数の曲線x(λ)では、約600nmの波長において、最も大きい波長での相対値のピークを形成する。すなわち、等色関数において、相対値がピークとなる最も長い波長は約600nmである。このような等色関数に従えば、600nm以上の波長領域においては光の波長が長くなればなるほど、色として数値化するのが困難となる(つまり、等色関数への寄与が小さくなる)。
【0026】
一方、人が知覚する物体の色は、等色関数で表されるような人間の目に対応する分光応答度だけでなく、物体の分光反射率(分光反射率係数)にもよる。一般に、色の見え方はカラーチャートを用いて確認される。カラーチャートの例としては、マクベスチャートと呼ばれるものがある。例えば、マクベスチャート(マクベスチャートのNO.2)では人間の肌色としての色票が示されている。図6は、マクベスチャートで示される肌色の分光反射率を示す図である。図6によれば、肌色の分光反射率は、580nmから780nmまでの間で相対値が大きくなる。
【0027】
上述したような等色関数と色としての物体の分光反射率とを用いると、光の分光分布から色の見え方を数値化できる。言換えると、光源からの光あるいはフィルタを透過した光の分光分布が分かれば、基準とする色(物体)の見え方を数値化でき、光源を変えた場合の色の見え方の相違を判定するための指標(色差)を得ることができる。従って、LEDの光源とハロゲンランプの光源とによる色の見え方の差異を小さくするには、LEDの光源は、等色関数と色としての物体の分光反射率とを用いて算出する色差が小さくなるように設計すればよいと考えられる。
【0028】
一般に、LEDを光源とする照明装置は、等色関数で数値化できる色の光を再現することを想定して設計されることが多い。言換えると、等色関数で数値化できる光色を再現することを目的として設計されたLEDを光源とする照明装置は、等色関数では数値化が困難である可視域の波長の光(等色関数への寄与が小さい波長の光)を出力するようには設計されていない。すなわち、等色関数で数値化できる光色を再現することを目的として設計されたLEDを光源とする照明装置は、等色関数への寄与が小さい波長(例えば、650乃至680nm以上の波長)の光の出力を大きくすることが困難である。
【0029】
第1の実施形態に係る照明装置1の光源部11は、特定波長のLEDからなる第2光源11Bを有する。上述した等色関数における相対値のピークのうち最も長い波長が約600nmであるから、第2光源11BとしてのLEDは、600nmよりも長い波長の領域においてピーク波長を有する分光分布(あるいは、600nmよりも長い波長の光が所定の割合以上となるような分光分布)の光を発光する。第2光源11Bは、ハロゲンランプの光源に対する色差を小さくするために、等色関数に対する寄与が少なくなる長い波長領域の光を付加するための光源である。
【0030】
例えば、第2光源11Bは、等色関数において相対値がピークとなる600nmよりも長い波長の領域(好ましくは、650乃至680nm以上の波長の領域)においてピークを有する分光分布の光を発光するものとする。また、第2光源11Bは、等色関数に対する寄与率が所定値(例えば10%~5%)となる波長よりも長い波長の領域にピーク波長を有する分光分布の光を発光するものとしても良い。例えば、等色関数に対する寄与率は波長が650nmでは26.6%であり、680nmでは4.4%であるから、等色関数に対する寄与率が5%程度以上となる波長の光を付加するには、第2光源11Bは、ピーク波長が680nm以上となる分光分布の光を付加するものとすれば良い。
【0031】
以上のように、第1の実施形態に係る照明装置1は、等色関数に対する寄与が小さい波長(650乃至660nm以上)の領域においてピークを形成する分光分布の光を発光するLED(特定波長のLED)からなる第2光源11Bを光源部11に設ける。これにより、照明装置1の光源部11は、図4に示す分光分布の光(第1光源11Aからの光)とピーク波長が650乃至660nm以上となる光(第2光源11Bからの光)とを合わせた光を出力する。
【0032】
図7は、第1光源11Aと第2光源11Bとを有する光源部11からの光の分光分布を示す図である。
上述したように、第1光源11Aは、発光素子として白色LEDを有する。白色LEDは、等色関数で数値化できる光色の光を発光するものである。第2光源11Bは、発光素子としてピーク波長が650乃至660nm以上となる光を発光する特定波長のLEDを有する。特定波長のLEDは、等色関数への寄与が小さく等色関数では数値化が困難な波長(650乃至660nm以上)がピーク波長となる光を発光するものである。図7に示す例においては、680nm付近でピークとなる波長の光が特定波長のLEDから発光される光である。また、図7に示す例において、650nm未満でピークとなる波長の光が白色LEDから発光される光である。
【0033】
図8は、第1光源11Aと第2光源11Bとを有する光源部11にカラーフィルタを装着した場合の分光分布を示す図である。
図8は、図7に示す分光分布の光に青のカラーフィルタをかけた場合の分光分布を示す図である。図7に示す分光分布の光は、500nm以下でピークとなる波長の光と680nm付近でピークとなる波長の光とがカラーフィルタを通じて出力される。図8に示す分光分布は、図3に示すハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタを装着した場合の分光分布と類似するものとなる。
【0034】
従って、光源部11を有する照明装置1は、カラーフィルタを装着した場合、ハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタを装着した場合と近い見え方となる照明を実現できる。すなわち、光源部11を有する照明装置1は、ピーク波長が650乃至660nm以上となる光を含む光を出力することで、カラーフィルタを装着した場合であっても、照明する空間にある物体(人物の肌など)が自然な見え方となる照明を実現できる。
【0035】
以上のように、第1の実施形態に係る照明装置は、等色関数で数値化しやすい波長(等色関数への寄与が大きい波長)の光を出力するだけでなく、ピーク波長が650~680nm以上となる光(等色関数への寄与が小さい波長の光)も所定割合以上を出力するように構成する。例えば、図1に示す構成例の照明装置は、白色LEDなどの等色関数で数値化しやすい色の光を出力することを目的するLEDに加えて、ピーク波長が650~680nm以上となる光を出力するLEDを光源に追加する。このような構成によって、第1の実施形態に係る照明装置は、等色関数で数値化しやすい色の光とともに、ピーク波長が650~680nm以上となる光(等色関数への寄与が小さい波長の光)を出力することができる。
【0036】
これにより、第1の実施形態に係る照明装置は、等色関数で数値化しやすい色の光だけでなく、等色関数への寄与が小さい波長の光の出力を多くすることによって、LEDを光源する照明装置であっても、ハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタを装着した場合と近い見え方を実現できる光を出力できる。
【0037】
なお、上述した第1の実施形態例では、光源部11として白色LEDと特定波長のLEDとを有する照明装置1にカラーフィルタを装着した場合について説明した。ただし、本実施形態に係る照明装置は、等色関数に基づく特定波長の光を含む光を発光するものであれば良い。例えば、照明装置は、等色関数への寄与が小さい波長の光(ピーク波長が650乃至680nm以上の光)を含む白色の光を発光する白色LEDの光源を有するものであっても良い。また、照明装置の光源は、複数のLEDを含む光源を有するものであっても良い。
【0038】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、照明装置1にカラーフィルタを装着することを想定して説明した。これに対して、第2の実施形態では、カラーフィルタを装着することを前提とせずに、光源部に設けた複数のLEDを組合わせて制御することにより所望の光を発光する照明装置について説明する。
【0039】
仮に、等色関数で数値化しやすい光を再現することを目的として、白、赤、緑及び青の4色のLEDを光源とする照明装置を設計したものとする。このような4色のLEDを光源とする照明装置は、それぞれのLEDの出力比を制御することにより、様々な色や相関色温度の光を出力できる。しかしながら、等色関数で数値化しやすい光を再現することを目的する4色のLEDでは、等色関数で数値化が困難である可視域の波長の光(例えば、ピーク波長が650~680nm以上となる光)を出力できず、図3又は図8に示すような分光分布の光を出力することができない。
【0040】
そこで、第2の実施形態では、様々な色や相関色温度の光を出力できる複数のLEDと等色関数では数値化が困難である可視域の波長(等色関数への寄与が小さい波長)の光を発光する特定波長のLEDとを光源部に設けた照明装置について説明する。
図9は、第2の実施形態に係る照明装置101の構成例を示す図である。
図9に示す構成例において、照明装置101は、光源部111(第1光源111A、第2光源111B、第3光源111C、第4光源111D)および点灯制御部112を有する。
【0041】
光源部111は、複数の光源により構成する。第2の実施形態において、光源部111は、様々な色や相関色温度の光を出力するための複数の光源と等色関数では数値化が困難である可視域の波長の光を発光する光源とを含むものであれば良い。図9に示す構成例において、光源部111は、第1光源111A、第2光源111B、第3光源111C、および、第4光源111Dを有する。例えば、第1光源111A、第2光源111B、第3光源111C、および、第4光源111Dは、それぞれが異なる分光分布の光を発光するLEDで構成される。
【0042】
第1光源111Aは、青系の光を発する光源である。例えば、第1光源111Aは、分光分布におけるピーク波長が500nm以下となる光(青色の光)を発するLED(青系LED)で構成する。第2光源111Bは、緑系の光を発する光源である。例えば、第2光源111Bは、分光分布におけるピーク波長が500nmから600nm未満となる光(緑色の光)を発するLED(緑系LED)で構成する。第3光源111Cは、赤系の光を発する光源である。例えば、第3光源111Cは、分光分布におけるピーク波長が600nmから650nm未満となる光(赤色の光)を発するLED(赤系LED)で構成する。第1光源111A、第2光源111Bおよび第3光源111Cは、それぞれが発光する光を制御することにより等色関数で数値化できる様々な色や相関色温度の光が作成できるように設計する。
【0043】
第4光源111Dは、等色関数では数値化が困難な波長領域(等色関数への寄与が少ない波長領域)の光を発するLED(特定波長のLED)で構成する。例えば、第4光源111Dは、分光分布におけるピーク波長が650乃至680nm以上となる光(特定波長の光)を発するLED(特定波長のLED)で構成する。第4光源111Dは、第1の実施形態で説明した第2光源11Bと同様に、等色関数において相関値がピークとなる波長よりも長い波長の領域にピーク波長を有する分光分布の光を発光する。
【0044】
点灯制御部112は、第1光源111A、第2光源111B、第3光源111Cおよび第4光源111Dが発する光を制御する。点灯制御部112は、第1光源111A、第2光源111Bおよび第3光源111Cが発する光を制御することにより、光源部111として出力する光の色および相関色温度などを制御する。点灯制御部112は、第1の実施形態で説明した点灯制御部12と同様に、光源部111を構成する複数の光源としての各LEDにPWM波形または直流波形の電流を入力して各光源の点灯を制御する。
【0045】
また、点灯制御部112は、点灯制御部12と同様な機能として、第1光源111A、第2光源111Bおよび第3光源111Cの3つの光源による第1の点灯制御と、第1光源111A、第2光源111Bおよび第3光源111Cとともに第4光源111Dを点灯させる第2の点灯制御と、を切替える機能も有する。この機能により、点灯制御部112は、第4光源111Dを消灯させて第4光源111Dを除く3つの光源111A、111Bおよび111Cによる発光効率の良い点灯制御と、3つの光源111A、111Bおよび111Cに加えて第4光源111Dを点灯させることによる物体(人物の肌色など)が自然な見え方となる点灯制御と、を切替えて実施することができる。
【0046】
図9に示すような第2の実施形態に係る照明装置101は、点灯制御部112が第1光源111A、第2光源111B、第3光源111Cおよび第4光源111Dが発する光を制御することにより、図8に示すような分光分布の光を出力できる。すなわち、第2の実施形態に係る照明装置101は、カラーフィルタを装着しなくても、図3に示すハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタを装着した場合の分光分布と類似する分光分布の光を出力できる。
【0047】
以上のように、第2の実施形態に係る照明装置は、等色関数で数値化できる様々な色や相関色温度を再現するための光源群と等色関数への寄与が小さい波長の光(ピーク波長が650~680nm以上となる分光分布の光)を出力する光源とを具備する。これにより、第2の実施形態に係る照明装置101は、カラーフィルタ無しで、ハロゲンランプを光源とする照明装置にカラーフィルタを装着した場合と近い見え方となる照明を実現でき、空間にある物体が自然な見え方となる照明を実現できる。
【0048】
(実験結果)
以下、特定波長の光と白色光とを照射した場合における色の見え方についての実験結果について説明する。
可視域の端部である680~780 nmの光を以下、Deep-Redと称する。
【0049】
(実験環境)
照明実験室に実験BOX(幅800 mm×奥行700 mm×高1200 mm)を設置して実験を行った。実験BOXは、基準室とテスト室に分け、各室の天井にLED照明装置が設置できるような構成とし、各室の内装と評価対象となるサンプルは同一にした。LED照明装置からの光は拡散板を通してそれぞれの実験BOXとしての部屋に照射されるようになっており、照度を下げる際はLED照明装置と拡散シートの間に黒い布製のフィルタを挟み実験を行った。これは、LED照明装置の入力電流を変えたことにより光色が変化することを防ぐためである。2つの部屋を同時に観察できないように、各部屋を黒のスチレンボードでマスキングし、150 mm角の窓から観察できるようにして実験を行った。
【0050】
(被験者)
被験者は7名(女性、全員色覚正常、26歳~49歳、平均36.6歳)である。なお、被験者を女性中心としたのは、遺伝学的に色覚特性者が非常に少ないためである。
【0051】
(照明条件)
図10及び図11に、それぞれ基準室及びテスト室に設置したLED照明装置の分光分布を示す。基準室に設置したLED照明装置の光源は、紫LEDと蛍光体の構成であり、Deep-Redを含まない白色光を発する。テスト室に設置したLED照明装置の光源は、青色LEDと蛍光体とピーク波長が690nmのLEDとの構成であり、Deep-Redを含む白色光を発する。そして両光源の、色の見え方の代表的な評価指標である相関色温度、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数R9、色域面積比Gaをほぼ同等の値とした。具体的には、基準室の光源の相関色温度、Ra、R9、Gaは、それぞれ2802K、98、92、101、テスト室の光源の相関色温度、Ra、R9、Gaは、それぞれ2806K、98、95、101とした。
【0052】
実験では照度によるDeep-Redの効果を確認するために、3段階の照度条件(13、70、500lx。部屋内中央の位置の床面照度)を設定した。なお、テスト室を白色光とピーク波長690nmのLEDのみとしたのは、事前確認でピーク波長740nmと780nmのLEDの有無による白色光での色の見え方に差異がなかったためである。
【0053】
(評価サンプル)
評価サンプルは、実験BOX内の各室に同じように配置した。評価サンプルは、ちりめん布地(青、緑、赤、黄及び紫)、マクベスチャート(青、緑、赤、黄及び紫)、ワイン、ウィスキー、青磁及び白色票である。図12は、実験で使用した評価サンプルのCIE1976L*a*b*の測色値を示す。測定は二次元色彩輝度計を用いて500lx時に行い、測色値は、各評価サンプルの三刺激値と、各評価サンプルの位置でのN9.5色票(白色票)の基準白色面の三刺激値とから求めた。実際の実験での肌色の評価は被験者自身の手の甲を用いて評価を行ったが、表中には特殊演色評価用試験色R15(日本人の肌色)の測色値を示した。なお、光が透過する「ワイン」や「ウィスキー」、光沢が非常にある「青磁」は測定が困難であったために、測色値の計算は見送った。
【0054】
(手順)
手順1から手順7の流れで被験者7名に対して主観評価を行い、各照度条件各評価サンプルに対して24個の実験データを得た。なお、LED照明装置からの出力を安定させるために、実験はLED照明装置を2時間エージングした後に開始した。
1. 被験者は椅子に座り、実験者が室内照明を消灯する。
2. 被験者は実験方法について実験者から説明を受ける。
3. 実験者から実験開始の合図。
4. 被験者は実験BOXの窓から、基準室とテスト室を交互に観察。
5. 実験者が支持する評価サンプルに対して、被験者は評価を行う。主観評価は基準室の評価サンプルを基準にしたときの見え方について口頭回答する方式とした。
6. 各評価サンプルについて手順4と手順5を繰り返し行う。なお、各評価サンプルは、(マクベスチャート)青→緑→赤→黄→紫→(ちりめん布地)青→緑→赤→黄→紫→肌色→白色票→「ワイン」、「ウィスキー」、「青磁」の順で評価を行った。
7. 照度条件を変更して、30秒間順応した後再び手順4に戻る。なお、照度条件は
500lx →70lx →13lx →500lx →70lx →13lx →500lx →70lx →13lxの順に変更した。
【0055】
色の見え方は、色順応を考慮して、左右の部屋が同時に視界に入らないような形で比較評価した。評価はSD(Semantic Differential)法を用いた。図13は、前節で示した主観評価のインストラクション(実験者が被験者に伝える実験に関する教示)と、評価項目及び尺度と、を示す。
【0056】
(結果)
評価サンプル11種類に対する主観評価の結果と、自由回答とした「ワイン」、「ウィスキー」、「青磁」の見え方に関する主なコメントを示す。
【0057】
(色票(マクベスチャート))
図14は、鮮やかさの主観評価の結果を示す。また、図15は、明るさの主観評価の結果を示す。横軸は色票の色、縦軸は主観評価の値(図14参照)である。また、棒グラフは、左から順に照度が13lx、70lx及び500lxである場合における主観評価の値をそれぞれ示す。棒グラフの高さは、被験者7名の平均値、誤差棒は標準誤差を表す。色票の色よって多少異なるが、鮮やかさ、明るさ共に平均値は全体的に0以上となっており、Deep-Redを含む白色光の方が含まない白色光に比べて、鮮やか及び明るい方向にシフトする傾向がみられた。また、照度に注目すると、色票の色によって多少のばらつきはみられるが、傾向としては照度が高くなるほど、鮮やかさと明るさ共に評価が高くなることが示された。
【0058】
図14及び図15の結果に統計的な差異があるかどうかWelchのt検定で解析を行うと、照度別にみた場合、13lxではDeep-Redの有無による差異が少なく、70lx以上になると差異がみられる傾向であった。評価サンプルの色別にみると、5色共に比較的影響を受ける傾向がみられた。評価項目別にみると、規則的な傾向はみられなかった。これらの結果からDeep-Redの有無は白色光での色の見え方に影響を及ぼすと考えられる。
【0059】
色票の色と照度を因子とした二元配置の分散分析を行うと、鮮やかさの解析結果からは、色票の色と照度ともに統計的な有意な差異はみられなかった。
【0060】
一方、明るさの解析結果をみると、色票の色と照度ともに統計的な有意差がみられた。Tukeyの多重比較法により各水準間を比較したところ、紫色とそのほかの色、および、黄色と緑との間に有意差がみられた。また、13lxとそのほかの照度条件との間に有意差がみられた。解析結果から、色票の色や照度はマクベスチャートの鮮やかさに影響を与えないが、マクベスチャートの明るさに影響を与えるといえる。特に紫や黄色を明るく見せる傾向や70lx以上の場合に色票を明るく見せる傾向があると考えられる。この傾向は、Deep-Redを含んでいない白色光を基準としたときのDeep-Redを含む白色光下での同照度条件間の比較から得られた知見であるので、Deep-Redを含む白色光はマクベスチャートの特定の色の明るさに影響を与えると推測できる。
【0061】
(色票(ちりめん布地))
図16は、鮮やかさの主観評価の結果を示す。また、図17は、明るさの主観評価の結果を示す。横軸、縦軸、棒グラフの見方は前節と同様である。マクベスチャートよりは全体的に若干低い評価の方向にシフトおり、ばらつきもややみられるが、鮮やかさ、明るさ共に大多数の条件で平均値は0以上となり、照度が高くなるほど、鮮やかさと明るさ共に評価が高くなる傾向がみられた。
【0062】
図16及び図17の結果に統計的な差異があるかどうかWelchのt検定で解析を行うと、照度別にみると、規則的な傾向はみられなかった。評価サンプルの色別にみると、紫、黄色、赤、青は影響を受けるが、緑は受けない傾向がみられた。評価項目別にみると、赤の鮮やかさと明るさに異なる傾向がみられた(赤の鮮やかさは影響を受けるが、赤の明るさは影響を受けない)。これらの結果からDeep-Redの有無は白色光での色の見え方に影響を及ぼすと考えられる。
【0063】
色票の色と照度を因子とした二元配置の分散分析を行うと、鮮やかさの解析結果からは照度には有意差はみられなかったが、色票の色にはみられた。Tukeyの多重比較法により各水準間を比較したところ、紫色と緑、および、赤と緑との間に有意差がみられた。一方、明るさの解析結果をみると、色票の色と照度ともに有意差がみられた。上記同様に多重比較を行ったところ、紫色とそのほかの色に有意差がみられ(黄色のみ有意傾向)、黄色と緑、黄色と青との間に有意差がみられた。また、照度条件では13lxと500lxとの間に有意な差異がみられた。解析結果から、色票の色はちりめん布地の鮮やかさに影響を与え、色票の色や照度はちりめん布地の明るさに影響を与えるといえる。特に紫や赤を鮮やかに見せる傾向、紫や黄色を明るく見せる傾向、500lxでは色票を明るく見せる傾向があると考えられる。Deep-Redを含む白色光は、ちりめん布地の特定の色の鮮やかさや明るさに影響を与えると推測できる。
【0064】
(肌色)
図18は、肌色の主観評価の結果を示す。横軸は評価の種類、縦軸は主観評価の値(図13参照)である。また、棒グラフは、左から順に照度が13lx、70lx及び500lxである場合における主観評価の値をそれぞれ示す。棒グラフの高さは被験者7名の平均値、誤差棒は標準誤差を表す。照度条件によらず、好ましさ、健康さ共に平均値は全体的に0以上となっており、Deep-Redを含む白色光の方が含まない白色光に比べて、好印象にシフトする傾向がみられた。特に照度が高くなるほど評価が高くなることが示された。
【0065】
図18の結果に統計的な差異があるかどうかの解析をWelchのt検定で行うと、13lxではDeep-Redの有無による差異が少なく、70lx以上になると差異がみられる傾向であったが、評価項目別にみると、規則的な傾向は見られなかった。これらの結果からDeep-Redの有無は、所定の照度以上での肌色の見え方に影響を及ぼすと考えられる。
【0066】
(ワイン、ウィスキー、青磁)
図19は、被験者7名からヒアリングをした主な結果を示す。これらは自由回答での意見であるが、少なくともDeep-Redを含んだ白色光が含んでいない白色光とは見え方が異なるといえる。特にDeep-Redを含んだ白色光は「ワイン」や「ウィスキー」については透明感や赤みに影響を与え、「青磁」については白さに影響を与える可能性がある。
【0067】
(評価サンプルの測色値からの考察)
Deep-Redを含む白色光(テスト室の照明)と含まない白色光(基準室の照明)を比較すると、色の見え方が異なることが実験からわかった。この主観評価の結果と測色値の違いとの整合性について、評価サンプルの色差から考察した。
【0068】
図20は、評価サンプルの色差ΔEを示す。ΔEは、図12に示す基準とテストのCIE1976L*a*b*の値とから求めた。図20をみると、色の差異が主観的に識別できる閾値ΔE=2.2よりも大きい値はマクベスチャートの黄色と紫、ちりめん布地の青という結果となり、そのほかの評価サンプルは全てΔE<2.2となった。このΔEの結果から主観評価の結果を予測すると、マクベスチャートの黄色と紫、ちりめん布地の青でしか差異しか生じないと考えられるが、実際は上で述べたように、ちりめん布地の緑以外は全てDeep-Redの有無による色の見え方には差異が生じる結果となった。このことからDeep-Redを含む白色光と含まない白色光の色の見え方の違いは単純にL*a*b*の明度や色度からだけでは予測できないと考えられる。
【0069】
(演色に関する評価指標からの考察)
実験に使用した2種類のLED照明装置は相関色温度とRa、R9、Gaを主観的な色の見え方に影響がないようにほぼ同等の値にしたが、その他の演色に関する数値は制御していなかった。図21は、Deep-Redを含まない白色光(基準室の照明)とDeep-Redを含む白色光(テスト室の照明)との演色に関する数値を示す。数値は、実験BOXの部屋内中央の位置で(500lx時。2時間エージング後)、分光放射照度計を使用して測定した値である。図21を見ると、実験で注意した指標以外も比較的差が小さくなっているが、特殊演色評価用試験色R12(青色の試験色)とDuvは大きくずれていることがわかる。R12の影響やDuvの影響8)は図12又は図20に示した測色値にも表れる可能性が高いため、純粋なDeep-Redを含む白色光の効果を取り出すには、R12やDuvも同等にした条件間での比較をする必要がある。
【0070】
次に、Duv及びR12の値を揃えて、見え方に差が生じるか実験した結果について説明する。 ここでは、照明条件及び結果以外は、前述の実験と同様である。
【0071】
(照明条件)
図22及び図23は、それぞれ基準室及びテスト室に設置したLED照明装置の分光分布を示す。評価指標である相関色温度、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数R9、色域面積比Ga、特殊演色評価数R12、Duvをほぼ同等の値とした照明条件を用意した。なお、図24に基準室およびテスト室の照明条件での色度座標を示す。両者の色度座標は一致しないものの、MacAdam1step内に収まる違いとなっている。
【0072】
(結果)
上記と同様に実験を行い、主観評価の結果を示す。
【0073】
(色票(マクベスチャート(色紙)))
図25は、鮮やかさの主観評価の結果を示す。また、図26は、明るさの主観評価の結果を示す。横軸は色票の色、縦軸は主観評価の値である。また、棒グラフは、左から順に照度が13lx、70lx及び500lxである場合における主観評価の値をそれぞれ示す。
【0074】
(色票(ちりめん布地))
図27は、鮮やかさの主観評価の結果を示す。また、図28は、明るさの主観評価の結果を示す。横軸、縦軸、棒グラフの見方は前節と同様である。
【0075】
(肌色)
図29は、好ましさ主観評価の結果を示す。また、図30は、健康さの主観評価の結果を示す。横軸、縦軸、棒グラフの見方は前節と同様である。
(ワイン、ウィスキー、青磁)
図31は、被験者7名からヒアリングをした主な結果を示す。
【0076】
(結果の分析)
図32は、実験結果の分析を示す。図32では、結果に有意差が存在する項目に「+」、「-」の記号を付している。「+」は結果にプラス方向に(つまり、ポジティブな方向)有意差が存在し、「-」は結果にマイナス方向(つまり、ネガティブな方向)に有意差が存在することを示している。
【0077】
色差ΔEが2.2以下であればあまり色の差異が識別されにくいが、図32が示すように、色差ΔEが2.2以下であっても変化が感じ取られている。
また、青緑は規則的な変化はせずに、赤黄紫と手肌はポジティブに変化している。
【0078】
以上の結果から、評価指標である相関色温度Tc、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数R9、色域面積比Ga、特殊演色評価用試験色R12、Duvをほぼ同等の値とした照明条件においても、Deep-Redの効果が確認できる。よって、相関色温度、Ra、R9、Ga、R12、Duv、に加えて特殊演色評価数Ri、L*a*b*色空間色度図には表れないDeep-Redの効果が示唆されていると言える。
【0079】
以上をまとめると、相関色温度やRa、R9、Gaがほぼ同等のDeep-Redを含む白色光(青励起LED+ピーク波長690nmのLED)と含まない白色光(紫励起LED)で評価サンプルを照らしたときの色の見え方の比較を行った結果は次のとおり。Deep-Redを含む白色光はDeep-Redを含まない白色光に比べ、肌色を好ましく、健康的に見せる。また、赤の色票を鮮やかに見せる、紫や黄色の色票を明るく見せる傾向である。Deep-Redを含む白色光による色の見え方は、照度が高い方がより影響が強い。Deep-Redを含む白色光は、ワインやウィスキーの色や透明度に影響を与える可能性が有る。ピーク波長690nmの単色光を白色光に付加すると、白色照明下での色の見え方に影響を与えるが、ピーク波長740nmや780nmの単色光の付加は白色照明下での色の見え方に与える影響が非常に小さい。
【0080】
よって、相関色温度、Ra、R9、Gaが同等でもDeep-Redを含まれる白色光は、肌色、赤、紫、黄色の色の見え方に影響を与えることが示された。
【0081】
相関色温度やRa、R9、Ga、R12、Duvがほぼ同等のDeep-Redを含む白色光(青励起LED+ピーク波長690 nmのLED)と含まない白色光(紫励起LED)で評価サンプルを照らしたときの色の見え方の比較を行った結果は次のとおりである。Deep-Redを含む白色光による色の見え方は、照度が高い方がより影響が強い。Deep-Redを含む白色光は、赤色を鮮やかに、紫色を明るく見せる。Deep-Redを含む白色光は、肌の色を好ましく健康的に見せる。Deep-Redを含む白色光は、透過性の高い物体にもポジティブな効果を生じさせる。
【0082】
よって、相関色温度、Ra、R9、Ga、R12、Duvが同等でもDeep-Redを含まれる白色光は、肌色、赤系統などの色の見え方に影響を与えることが示された。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]
光源を有する光源部と、
前記光源部の光源を発光させる点灯制御部と、を具備し、
前記光源部は、等色関数において相対値がピークとなる最も長い波長よりもさらに長い波長の領域においてピークを有する分光分布の光を発光する光源を含む、
照明装置。
[C2]
前記光源部は、ピーク波長が650nm以上となる分光分布を含む光を発光する光源を含む、
C1に記載の照明装置。
[C3]
前記光源部は、白色の光を発光する白色LEDを含む複数のLEDを有し、
前記点灯制御部は、白色LEDのみを点灯させる第1の点灯制御と白色LEDを含む複数のLEDを点灯させる第2の点灯制御とを切替える機能を有する、
C1又は2の何れか1項に記載の照明装置。
[C4]
前記光源部は、ピーク波長が500nm以下となる分光分布を含む光を発光する第1のLEDと、ピーク波長が500から600nm以下となる分光分布の光を発光する第2のLEDと、ピーク波長が600から650nm未満となる分光分布の光を発光する第3のLEDと、ピーク波長が650nm以上となる分光分布の光を発光する第4のLEDとを含み、
前記点灯制御部は、前記第1乃至第4のLEDの点灯を制御することにより前記光源部が出力する光の色を制御する、
C1に記載の照明装置。
【符号の説明】
【0084】
1、101…照明装置、11、111…光源部、12、112…点灯制御部、11A…第1光源、11B…第2光源、111A…第1光源(第1のLED)、111B…第2光源(第2のLED)、111C…第3光源(第3のLED)、111D…第4光源(第4のLED)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32