(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】脂肪族カルボン酸化合物の製造方法、及び脂肪族ケトン化合物のピリジン化合物付加物
(51)【国際特許分類】
C07C 51/00 20060101AFI20230704BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20230704BHJP
C07C 51/02 20060101ALI20230704BHJP
C07D 213/20 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C07C51/00
C07C59/01
C07C51/02
C07D213/20 CSP
(21)【出願番号】P 2019181818
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2018194309
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 大成
(72)【発明者】
【氏名】謝 小毛
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04992470(US,A)
【文献】中国特許出願公開第1417190(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103694107(CN,A)
【文献】特開平08-198800(JP,A)
【文献】Dalton Transactions,2013年,Vol. 42,pp. 12293-12308
【文献】Heteroatom Chemistry,1998年,Vol. 9,pp. 333-339
【文献】Journal of the Indian Chemical Society,1985年,Vol. 62,pp. 684-686
【文献】Australian Journal of Chemistry,1967年,Vol. 20,pp. 2479-2483
【文献】Synthesis,1985年,pp. 674-675
【文献】Journal of the American Chemical Society,1944年,Vol. 66,pp. 894-895
【文献】Journal of the American Chemical Society,1951年,Vol. 73,pp. 3803-3807
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される脂肪族カルボン酸化合物の製造方法であって、
式(II)で表されるα-メチル基を有する脂肪族ケトン化合物に、酸化剤の存在下で、式(III)で表されるピリジン化合物を付加させ、式(IV)で表されるピリジン化合物付加物を得る第1工程と、
前記ピリジン化合物付加物を塩基の存在下で加水分解する第2工程と、
を含む、脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は、
ヒドロキシル基で置換された炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は
ヒドロキシル基で置換された炭素数4~8の分岐状アルキル基を表し;Mは、水素、周期表の第1族若しくは第2族に属する金属、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基を表す。)
【化2】
(式中、R
1は、式(I)におけるR
1と同じ基を表す)
【化3】
(式中、R
2~R
6は、それぞれ独立して水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基又はイソプロポキシ基を表す。)
【化4】
(式中、R
1は、式(I)におけるR
1と同じ基を表し;R
2~R
6は、式(III)におけるR
2~R
6と同じ基を表し;X
-は、ピリジニウムカチオンのカウンターアニオンを表す。)
【請求項2】
前記R
1は、カルボニル基に隣接する炭素が第2級炭素である、請求項1に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項3】
前記R
1が、2-ヒドロキシイソブチル基である、請求項1又は2に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、塩素、臭素、ヨウ素、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩及び次亜ヨウ素酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3の何れか1項に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記R
2~R
6が、水素である、請求項1~4の何れか1項に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程の後に、酸と接触させることで、前記Mが水素である前記脂肪族カルボン酸化合物を得る第3工程を含む、請求項1~5の何れか1項に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程の後に、周期表の第1族又は第2族に属する金属を含む無機塩基により中和することで、前記Mが周期表の第1族又は第2族に属する金属である前記脂肪族カルボン酸化合物を得る第4工程を含む、請求項6に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程の後に、更にエステル化を行い、前記Mがメチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基である前記脂肪族カルボン酸化合物を得る第5工程を含む、請求項6に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項9】
式(IV)で表される、脂肪族ケトン化合物のピリジン化合物付加物。
【化5】
(式中、R
1は、
ヒドロキシル基で置換された炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は
ヒドロキシル基で置換された炭素数4~8の分岐状アルキル基を表し;R
2~R
6は、それぞれ独立して水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基又はイソプロポキシ基を表し;X
-は、ピリジニウムカチオンのカウンターアニオンを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族カルボン酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族カルボン酸化合物は、香料、化粧料、食品素材、医薬品の中間体、ポリマー原料、可塑剤等の用途があり、種々の分野において需要が高く、広く市場に流通している。
【0003】
例えば、脂肪族カルボン酸化合物の一つである3-ヒドロキシイソ吉草酸(HMB)は、筋タンパク質の合成を促進し、筋タンパク質の分解を抑制する効果が示唆されており、近年、機能性食品、サプリメント等の配合成分として注目されている。
【0004】
3-ヒドロキシイソ吉草酸の製造方法としては、下記の方法が知られている。
特許文献1には、酸化剤として次亜塩素酸塩又は塩素を用い、ジアセトンアルコールを酸化する方法が記載されている。この方法によれば、クロロホルムの副生が不可避である。しかしながら、近年、クロロホルムは有害物質であることから、排出量、排出濃度等の規制が厳しく、このようなクロロホルムの発生を伴う製法は、環境上問題がある。
また、特許文献2には、酸化剤として臭素を用い、ジアセトンアルコールを酸化する方法が記載されている。しかしながら、この方法においても、有害なブロモホルムの副生が不可避であり、クロロホルムと同様の問題がある。加えて、特許文献4では、かかる方法による3-ヒドロキシイソ吉草酸の製造を再現できないと指摘されている。
特許文献3には、3-ヒドロキシ-3-メチルブタノールを水の存在下で白金系又はパラジウム系触媒により酸素酸化する方法が記載されている。しかしながら、実施例において、酸素酸化は9kg/cm2の高圧下で行われており、安全上問題があり、また、特殊な設備で行う必要もある。更には、原料の3-ヒドロキシ-3-メチルブタノールは高価であり、コストの観点からも望ましくない。
特許文献4には、ジアセトンアルコールと蒸留した過酢酸とを反応させる方法が記載されている。しかしながら、蒸留した過酢酸は、爆発する危険があり、貯蔵や取扱が難しいといった問題がある。
特許文献5には、ケテンガスとアセトンとの反応により環状ラクトンを製造し、このラクトン環を開環することにより3-ヒドロキシイソ吉草酸を製造する方法が記載されている。しかしながら、ケテンガスは反応性が高いため、取扱いが難しい上に、副反応の進行も懸念される。
このように、従来の製造方法はそれぞれ問題点を有しており、有害物質の排出、安全性、作業性等の問題のない3-ヒドロキシイソ吉草酸の製造方法の開発が望まれている。
【0005】
ところで、非特許文献1及び2には、メチルケトン化合物にピリジンを付加させ、加水分解を行うことによりカルボン酸化合物を製造する方法が記載されている。この方法によれば、クロロホルムやブロモホルムといった有害物質を発生させることなくカルボン酸化合物を製造し得る。しかしながら、非特許文献1では芳香族カルボン酸化合物の製造、非特許文献2では脂環式カルボン酸化合物の製造についてのみ検討されており、直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸化合物も同様に製造できるか否かについては不明であった。また、現在までに、かかる方法により直鎖状又は分岐状の脂肪族カルボン酸化合物の製造に成功した例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第4992470号明細書
【文献】中国特許第1417190号明細書
【文献】特開平8-198800号公報
【文献】中国特許第103694107号明細書
【文献】国際公開第2012/140276号
【非特許文献】
【0007】
【文献】L. Carroll King, J. Am. Chem. Soc., 66, 6, 894-895 (1944).
【文献】Yolanda T. Pratt, J. Am. Chem. Soc., 73, 8, 3803-3807 (1951).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、工業的に入手可能な化合物から公知手段により製造できる原料又は工業的に入手可能な原料から、ハロホルムのような有害物質を生じさせることなく、安全かつ容易に脂肪族カルボン酸化合物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、α-メチル基を有する脂肪族ケトンにピリジン化合物を付加させ、得られたピリジン化合物付加物を加水分解することにより、ハロホルムを生じることなく、種々の脂肪族カルボン酸化合物を容易に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下の通りである。
<1>式(I)で表される脂肪族カルボン酸化合物の製造方法であって、
式(II)で表されるα-メチル基を有する脂肪族ケトン化合物に、酸化剤の存在下で、式(III)で表されるピリジン化合物を付加させ、式(IV)で表されるピリジン化合物付加物を得る第1工程と、
前記ピリジン化合物付加物を塩基の存在下で加水分解する第2工程と、
を含む、脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は、置換若しくは無置換の炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は置換若しくは無置換の炭素数4~8の分岐状アルキル基を表し;Mは、水素、周期表の第1族若しくは第2族に属する金属、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基を表す。)
【化2】
(式中、R
1は、式(I)におけるR
1と同じ基を表す)
【化3】
(式中、R
2~R
6は、それぞれ独立して水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基又はイソプロポキシ基を表す。)
【化4】
(式中、R
1は、式(I)におけるR
1と同じ基を表し;R
2~R
6は、式(III)におけるR
2~R
6と同じ基を表し;X
-は、ピリジニウムカチオンのカウンターアニオンを表す。)
<2>前記R
1は、カルボニル基に隣接する炭素が第2級炭素である、<1>に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<3>前記R
1が、2-ヒドロキシイソブチル基である、<1>又は<2>に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<4>前記酸化剤が、塩素、臭素、ヨウ素、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩及び次亜ヨウ素酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<3>の何れかに記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<5>前記R
2~R
6が、水素である、<1>~<4>の何れかに記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<6>前記第2工程の後に、酸と接触させることで、前記Mが水素である前記脂肪族カルボン酸化合物を得る第3工程を含む、<1>~<5>の何れかに記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<7>前記第3工程の後に、周期表の第1族又は第2族に属する金属を含む無機塩基により中和することで、前記Mが周期表の第1族又は第2族に属する金属である前記脂肪族カルボン酸化合物を得る第4工程を含む、<6>に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<8>前記第3工程の後に、更にエステル化を行い、前記Mがメチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基である前記脂肪族カルボン酸化合物を得る第5工程を含む、<6>に記載の脂肪族カルボン酸化合物の製造方法。
<9>式(IV)で表される、脂肪族ケトン化合物のピリジン化合物付加物。
【化5】
(式中、R
1は、置換若しくは無置換の炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は置換若しくは無置換の炭素数4~8の分岐状アルキル基を表し;R
2~R
6は、それぞれ独立して水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基又はイソプロポキシ基を表し;X
-は、ピリジニウムカチオンのカウンターアニオンを表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工業的に入手可能な化合物から公知手段により製造できる原料又は工業的に入手可能な原料から、ハロホルムのような有害物質を生じさせることなく、安全かつ容易に脂肪族カルボン酸化合物を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0013】
<脂肪族カルボン酸化合物>
本発明の一実施態様である脂肪族カルボン酸化合物の製造方法によれば、脂肪族カルボン酸化合物(I)が提供される。なお、本願明細書において、脂肪族カルボン酸化合物の脂肪族基は、後述するように直鎖状又は分岐状のアルキル基を意味し、脂環式基を含まない。
【化6】
【0014】
(R1)
R1は、置換若しくは無置換の炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は置換若しくは無置換の炭素数4~8の分岐状アルキル基を表す。
なお、直鎖状又は分岐状アルキル基が置換基を有する場合、上記炭素数は、置換基の炭素数と直鎖状又は分岐状アルキル基の炭素数との合計の炭素数を意味する。
【0015】
R1で表される無置換の炭素数4~8の直鎖状アルキル基としては、例えば、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基が挙げられる。
R1で表される無置換の炭素数4~8の分岐状アルキル基としては、例えば、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、メチルブチル基、エチルプロピル基、ネオペンチル基、メチルペンチル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基、メチルヘキシル
基、ジメチルペンチル基、エチルペンチル基、メチルヘプチル基、エチルヘキシル基が挙げられる。これらのうち、R1は、カルボニル基に隣接する炭素が第2級炭素であることが好ましく、また、炭素数4~6であることも好ましい。
【0016】
前記炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は炭素数4~8の分岐状アルキル基が置換基を有する場合、前記置換基は、R1の炭素数が上記範囲内となる限り特に限定されない。具体的な置換基としては、ヒドロキシル基、炭素数1~2のアルコキシ基、ハロゲノ基、チオール基等を挙げることができる。これらのうち、置換基はヒドロキシル基又はアルコキシ基であることが好ましく、ヒドロキシル基であることがより好ましい。
【0017】
以上を総合すると、R1は、n-ブチル基、イソブチル基、1-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基、1-ヒドロキシイソブチル基、2-ヒドロキシイソブチル基、3-ヒドロキシイソブチル基、n-ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-ヒドロキシペンチル基、2-ヒドロキシペンチル基、3-ヒドロキシペンチル基、4-ヒドロキシペンチル基、5-ヒドロキシペンチル基、1-ヒドロキシ-2-メチルブチル基、2-ヒドロキシ-2-メチルブチル基、3-ヒドロキシ-2-メチルブチル基、4-ヒドロキシ-2-メチルブチル基、1-ヒドロキシ-3-メチルブチル基、2-ヒドロキシ-3-メチルブチル基、3-ヒドロキシ-3-メチルブチル基、4-ヒドロキシ-3-メチルブチル基、1-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル基、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-ヒドロキシヘキシル基、2-ヒドロキシヘキシル基、3-ヒドロキシヘキシル基、4-ヒドロキシヘキシル基、5-ヒドロキシヘキシル基、6-ヒドロキシヘキシル基、1-ヒドロキシ-2-メチルペンチル基、2-ヒドロキシ-2-メチルペンチル基、3-ヒドロキシ-2-メチルペンチル基、4-ヒドロキシ-2-メチルペンチル基、5-ヒドロキシ-2-メチルペンチル基、1-ヒドロキシ-3-メチルペンチル基、2-ヒドロキシ-3-メチルペンチル基、3-ヒドロキシ-3-メチルペンチル基、4-ヒドロキシ-3-メチルペンチル基、5-ヒドロキシ-3-メチルペンチル基、1-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基、2-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基、3-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基、4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基、5-ヒドロキシ-4-メチルペンチル基、1-ヒドロキシ-2,2-ジメチルブチル基、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルブチル基、4-ヒドロキシ-2,2-ジメチルブチル基、1-ヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル基、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル基、4-ヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル基、1-ヒドロキシ-2,3-ジメチルブチル基、2-ヒドロキシ-2,3-ジメチルブチル基、3-ヒドロキシ-2,3-ジメチルブチル基、4-ヒドロキシ-2,3-ジメチルブチル基、1-ヒドロキシ-2-エチルブチル基、2-ヒドロキシ-2-エチルブチル基、3-ヒドロキシ-2-エチルブチル基又は4-ヒドロキシ-2-エチルブチル基であることが好ましい。特に、R1は、2-ヒドロキシイソブチル基(即ち、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル基)であることが好ましい。
【0018】
(M)
Mは、水素、周期表の第1族若しくは第2族に属する金属、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基を表す。即ち、本実施態様における脂肪族カルボン酸化合物(I)には、脂肪族カルボン酸の他、脂肪族カルボン酸塩及び脂肪族カルボン酸エステルが含まれる。これらのうち、Mは、水素、周期表の第1族若しくは第2族に属する金属、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0019】
Mで表される周期表の第1族若しくは第2族に属する金属としては、例えば、リチウム
(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。これらのうち、Mは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムであることが好ましく、ナトリウム又はカルシウムであることがより好ましい。
【0020】
上述したように、本実施態様においては、R1が2-ヒドロキシイソブチル基である態様、即ち、脂肪族カルボン酸化合物が3-ヒドロキシイソ吉草酸又はその塩若しくはエステルであることが好ましい。これらのうち、筋力の増強、分解抑制のための栄養補助食品としての効果が高いと見込まれる点で、3-ヒドロキシイソ吉草酸であることが特に好ましく、臭いが少ない点で、3-ヒドロキシイソ吉草酸カルシウム塩、3-ヒドロキシイソ吉草酸メチルエステル又は3-ヒドロキシイソ吉草酸エチルエステルも好ましい。
【0021】
<脂肪族カルボン酸化合物の製造方法>
本実施態様に係る脂肪族カルボン酸化合物(I)の製造方法は、下記スキームに示すように、α-メチル基を有する脂肪族ケトン化合物(II)(以下、単に脂肪族ケトン化合物(II)ということがある)に、酸化剤の存在下においてピリジン化合物(III)を付加させ、ピリジン化合物付加物(IV)を得る第1工程と、前記ピリジン化合物付加物(IV)を塩基の存在下で加水分解する第2工程とを含む。以下に各工程について詳細に説明する。
【化7】
(式中、R
1は、置換若しくは無置換の炭素数4~8の直鎖状アルキル基又は置換若しくは無置換の炭素数4~8の分岐状アルキル基を表し;Mは、水素、周期表の第1族若しくは第2族に属する金属、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基を表し;R
2~R
6は、それぞれ独立して水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基又はイソプロポキシ基を表し;X
-は、ピリジニウムカチオンのカウンターアニオンを表す。)
【0022】
<第1工程>
第1工程では、脂肪族ケトン化合物(II)に、酸化剤の存在下においてピリジン化合物(III)を付加させ、ピリジン化合物付加物(IV)を得る。
【0023】
(α-メチル基を有する脂肪族ケトン化合物)
本実施態様におけるα-メチル基を有する脂肪族ケトン化合物は、式(II)で表される。脂肪族ケトン化合物(II)は、公知であるか、公知の製造方法に準じた方法により容易に製造し得るものである。
【化8】
【0024】
(R1)
R1は、式(I)におけるR1と同一の基であり、好ましい態様も同様である。
【0025】
(ピリジン化合物)
本実施態様におけるピリジン化合物は、式(III)で表される。ピリジン化合物(III)は、公知であるか、公知の製造方法に準じた方法により容易に製造し得るものである。
【化9】
【0026】
(R2~R6)
R2~R6は、それぞれ独立して水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基又はイソプロポキシ基を表す。
R2~R6としては、入手容易性、反応性及び生成物の精製の容易性の観点から、水素、メチル基又はエチル基であることが好ましく、水素又はメチル基であることがより好ましく、水素であることが更に好ましい。
【0027】
好ましいピリジン化合物(III)の具体例としては、下記ピリジン化合物が挙げられる。
【化10】
【0028】
ピリジン化合物(III)の使用量は、反応速度、収率の観点から、脂肪族ケトン化合物(II)1モルに対して、通常2.0モル以上、好ましくは2.5モル以上、より好ましくは3.0モル以上であり、また、ピリジン化合物(III)を付加反応の反応溶媒として用いることも好ましい。
【0029】
(酸化剤)
本実施態様における酸化剤は、ピリジン化合物の付加反応を促進できる限り、特に限定されない。具体的な酸化剤としては、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン;次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸等の次亜ハロゲン酸;次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜ヨウ素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜臭素酸マグネシウム、次亜ヨウ素酸マグネシウム、次亜ヨウ素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜臭素酸カルシウム、次亜ヨウ素酸カルシウム等の次亜ハロゲン酸塩;等を挙げることができる。これらのうち、酸化力、後処理の容易さの観点から、酸化剤は、ハロゲン又は次亜ハロゲン酸塩であることが好ましく、ヨウ素又は次亜塩素酸ナトリウムであることがより好ましい。
【0030】
酸化剤の使用量は、ピリジン化合物の付加反応を促進できる限り、特に限定されないが、脂肪族ケトン化合物1モルに対して、好ましくは0.9モル以上であり、より好ましくは1.0モル以上であり、また、好ましくは3.0モル以下であり、より好ましくは1.5モル以下である。
【0031】
(脂肪族ケトン化合物のピリジン化合物付加物)
本実施態様における脂肪族ケトン化合物のピリジン化合物付加物は、式(IV)で表される。
【化11】
【0032】
(R1~R6)
R1~R6は、それぞれ、式(I)~(III)におけるR1~R6と同一の基を表し、好ましい態様も同様である。
【0033】
(X-)
X-は、ピリジニウムカチオンのカウンターアニオンを表す。X-は、通常、酸化剤に由来するアニオンである。即ち、X-としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;次亜ハロゲン酸イオン;等が挙げられる。これらのうち、X-は、ヨウ化物イオン又は次亜塩素酸イオンであることが好ましい。
【0034】
(手順)
第1工程においては、具体的には、以下の手順によりピリジン化合物付加物(IV)を得ることができる。
まず、脂肪族ケトン化合物(II)、ピリジン化合物(III)及び酸化剤を混合し、反応液を得る。このとき、これらの化合物を反応溶媒に溶解させてもよい。反応溶媒は、反応に関与しない不活性溶媒であってもよく、過剰量のピリジン化合物(III)であってもよく、過剰量のピリジン化合物(III)と不活性溶媒との混合溶媒であってもよい。不活性溶媒としては、例えば、エタノール、ジエチルエーテル、ヘキサン、ベンゼン、
トルエンが挙げられる。
また、酸化剤の反応系への添加方法は、特に限定されないが、例えば、酸化剤を溶媒に溶解させることなく、単独で反応系に添加する方法;酸化剤を溶媒に溶解することで調製された溶液を反応系に添加する方法;を挙げることができる。酸化剤を溶解させる溶媒は、特に限定されず、反応溶媒と同じ溶媒であってもよく、異なる溶媒であってもよい。なお、酸化剤が、塩素のように気体である場合は、反応液に酸化剤を直接吹き込むことで反応系に添加される。
【0035】
次に、得られた反応液を攪拌し、ピリジン化合物(III)の付加反応によりピリジン化合物付加物(IV)を合成する。
付加反応は、常圧下で行ってもよく、加圧下で行ってもよい。また、付加反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、大気雰囲気下でも反応は十分に進行する。
反応温度は、脂肪族ケトン化合物(II)、ピリジン化合物(III)、酸化剤等の反応性にもよるが、通常5℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは50℃以上であり、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下である。
反応時間は、脂肪族ケトン化合物(II)、ピリジン化合物(III)、酸化剤等の反応性にもよるが、通常0.2時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常50時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0036】
このようにして得られたピリジン化合物付加物(IV)は、脂肪族カルボン酸化合物(I)の精製が容易となる点で、蒸留、抽出、吸着等の公知の方法によって精製することが好ましい。一方、脂肪族カルボン酸化合物(I)の収率、製造工程の簡素化の観点からは、精製を行わずに、続けて第2工程の加水分解を行うことが好ましい。この場合、特にピリジン化合物(III)を付加反応の反応溶媒として用いた場合、後述する第3工程において酸の使用量を低減する観点から、加水分解に先立って、反応液中に残存する過剰量のピリジン化合物(III)を加熱、減圧蒸留等の公知の方法により除去しておくことが望ましい。
【0037】
<第2工程>
第2工程では、第1工程で得られたピリジン化合物付加物(IV)を塩基の存在下で加水分解する。
【0038】
(塩基)
塩基は、加水分解に慣用されている塩基であってよく、有機塩基及び無機塩基の何れでもよいが、副反応の抑制、脂肪族カルボン酸化合物(I)の精製の簡易化の観点からは、無機塩基であることが好ましい。
本工程における塩基は、加水分解後に別途反応工程を設けることなく脂肪族カルボン酸塩(I)を製造できることから、式(I)におけるMを含む無機塩基、即ち、第1族又は第2族に属する金属を含む無機塩基であることが好ましい。また、反応速度、溶解性の観点から、無機塩基が水酸化物であることも好ましい。このような無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムが挙げられる。これらのうち、無機塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム又は水酸化カルシウムであることが好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムであることがより好ましい。
【0039】
無機塩基の使用量は、第1工程における付加反応の反応条件、ピリジン化合物付加物(IV)の構造、無機塩基の種類等にもよるが、例えば、第1族に属する金属の水酸化物を
使用する場合、ピリジン化合物付加物(IV)1モルに対して、通常1.9モル以上、好ましくは2.0モル以上であり、また、通常10.0モル以下、好ましくは5.0モル以下である。なお、第1工程でピリジン化合物付加物(IV)の精製を実施しなかった場合は、上記「ピリジン化合物付加物(IV)1モル」は、原料である脂肪族ケトン化合物(II)1モルに読み替える。
無機塩基は、通常水に溶解し、塩基性水溶液の態様で反応系に添加される。塩基性水溶液の濃度は、ピリジン化合物付加物(IV)の加水分解が進行する限り特に限定されず、通常0.1N以上、好ましくは1N以上、また、通常10N以下、好ましくは5N以下である。
【0040】
(手順)
第2工程では、第1工程で得られた精製後又は未精製のピリジン化合物付加物(IV)に、塩基を水に溶解させて調製した塩基性水溶液を添加し、攪拌することで、加水分解を行う。
加水分解の際、ピリジン化合物付加物(IV)は、加水分解が進行する程度に溶媒に溶解していればよく、ピリジン化合物付加物(IV)の溶解量を増やすために、反応系に加水分解に通常用いられる有機溶媒を加えてもよい。かかる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらのうち1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、加水分解物との分離、塩基の溶解度の観点から、メタノール又はエタノールが好ましい。また、反応系に有機溶媒を加える場合、有機層と水層とが混和して均一となっていてもよいし、混和せず不均一系、二相系となっていてもよい。
反応温度は特に限定されず、通常0℃以上、好ましくは50℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは90℃以下である。
また、反応時間も特に限定されず、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常30時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0041】
加水分解反応後、精製を経て脂肪族カルボン酸化合物(I)を得ることができる。精製方法としては、有機合成において公知の精製方法を採用することができ、具体的には後述する精製方法が挙げられる。
また、本工程の後に第3工程を行う場合は、精製を行うことなく、加水分解物を含む反応液をそのまま第3工程に供してもよいが、第3工程に先立って、加熱、減圧蒸留等の公知の方法により反応液を濃縮して有機溶媒及び水の一部又は全部を留去してもよい。これにより、第3工程により得られる脂肪族カルボン酸(I)の精製における抽出操作の際、より速やかな相分離を実現できるからである。
【0042】
なお、本実施態様に係る脂肪族カルボン酸化合物の製造方法により得られる脂肪族カルボン酸塩(I)には、上記第2工程により得られる脂肪族カルボン酸塩を含み、更には、後述する第4工程により得られる脂肪族カルボン酸塩も含むものとする。
【0043】
<第3工程>
第3工程では、酸との接触により、第2工程で得られた脂肪族カルボン酸塩を脂肪族カルボン酸に変換する。第3工程により、式(I)におけるMは、水素となる。
【0044】
(酸)
本工程に用いられる酸は、特に限定されず、有機酸及び無機酸の何れでもよいが、得られる脂肪族カルボン酸(I)の精製が容易となる点で、無機酸であることが好ましい。
無機酸の具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸が挙げられる。
【0045】
無機酸の使用量は、脂肪族カルボン酸化合物(I)のMを水素に変換させることができ
る限り特に限定されず、第2工程において使用した塩基の量等に応じて適宜選択すればよい。
【0046】
(手順)
第3工程では、第2工程により得られる反応液又は反応液の濃縮物に酸を供給すればよい。酸の供給方法は特に限定されず、急激な反応、反応系における局所的な反応の進行を抑制する観点から、酸は、水等の溶媒により溶解した溶液の態様で反応系に供給することが好ましい。該溶液の濃度は、通常0.1N以上、好ましくは0.5N以上、また、通常10N以下、好ましくは6N以下である。上記範囲とすることにより、反応速度を適切な範囲内としながら、Mを完全に水素に変換し得る。
【0047】
また、本工程の後に第4工程又は第5工程を行う場合は、精製を行うことなく、加水分解物を含む反応液をそのまま次工程に供してもよいが、本工程における生成物の抽出効率並びに次工程における生成物の抽出効率及び抽出容易性(相分離のしやすさ)の観点から、次の工程に先立って、加熱、減圧蒸留等の公知の方法により反応液を濃縮して有機溶媒及び水の一部又は全部を留去してもよい。
【0048】
<第4工程>
第4工程では、第3工程により得られた脂肪族カルボン酸を、更に周期表の第1族又は第2族に属する金属を含む無機塩基で中和することにより、脂肪族カルボン酸塩を得る。第4工程により、式(I)におけるMは、周期表の第1族又は第2族に属する金属となる。
【0049】
(無機塩基)
中和剤である無機塩基は、脂肪族カルボン酸を中和できる限り特に限定されず、周期表の第1族又は第2族に属する金属を含む無機塩基から適宜選択し得る。
具体的な無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素ベリリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム等の炭酸水素塩;が挙げられる。
【0050】
無機塩基の使用量は、特に第3工程で得られる脂肪族カルボン酸を精製したか否かに依存し、脂肪族カルボン酸を中和できる限り特に限定されない。例えば、反応系のpH値をpH計、pH試験紙等により中和反応の進行をモニターしながら、無機塩基の使用量を適宜調整すればよい。
【0051】
(手順)
第4工程では、第3工程により得られた脂肪族カルボン酸に無機塩基を供給すればよい。無機塩基の供給方法は、特に限定されない。固形の無機塩基を脂肪族カルボン酸の溶液に添加してもよいが、急激な中和熱の発生、反応系の中での局所的な中和反応の進行を防止する観点から、適当な溶媒に溶解して無機塩基溶液の態様で供給することが好ましい。該溶液の濃度は、通常0.1N以上、好ましくは1N以上、また、通常10N以下、好ましくは6N以下である。上記範囲とすることにより、中和熱を急激に発生させることなく穏和な条件で、Mを完全に周期表の第1族又は第2族に属する金属に変換し得る。
反応温度は、適宜最適な温度を決定すればよく、特に限定されない。溶液の温度を決定する際には、中和熱の除熱が十分になされ、溶液の大量の蒸発を回避できるように決定す
ればよい。
【0052】
<第5工程>
第5工程では、第3工程により得られた脂肪族カルボン酸のエステル化により、脂肪族カルボン酸エステルを得る。第5工程により、式(I)におけるMは、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基となる。
【0053】
本工程におけるエステル化の方法は特に限定されず、公知のエステル化反応により行うことができる。例えば、脂肪族カルボン酸(I)とアルコール化合物とを、エステル化触媒の存在又は不存在下で反応させることにより、脂肪族カルボン酸エステルを得ることができる。なお、脂肪族カルボン酸が、ヒドロキシル基のようなエステル化反応に関与する置換基を有する場合は、エステル化反応の前に、該置換基に適宜保護基を導入しておけばよい。
【0054】
<その他の工程>
本実施態様に係る脂肪族カルボン酸化合物(I)の製造方法は、上述の工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、各工程における生成物の純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。
【0055】
以下に、特に第3工程で得られる脂肪族カルボン酸(I)に適した精製方法について説明するが、かかる方法は、他の工程で得られる生成物の精製にも適用し得る。
【0056】
(精製工程)
まず、反応生成物を含む反応液から、減圧蒸留により有機溶媒を留去し、濃縮物を得る。
次に、濃縮物から生成物を抽出する。抽出は、有機溶媒を抽出溶媒とし、分液操作により行うことができる。抽出溶媒は、生成物を溶解し、かつ、生成物との分離が容易である限り、特に限定されない。具体的な抽出溶媒としては、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等が挙げられる。抽出液は、酸や塩基を低減する観点から、水で洗浄することが好ましい。
続いて、抽出液を硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の乾燥剤により乾燥し、減圧蒸留により抽出溶媒を除去する。
この段階で生成物の純度が高ければ、更なる精製を要しないが、より高い純度の生成物を得る目的で、続けて不純物の吸着除去、蒸留等による精製を行ってもよい。
【0057】
<3-ヒドロキシイソ吉草酸の製造方法>
本発明の特に好ましい実施態様として、式(IX)で表される3-ヒドロキシイソ吉草酸の製造が挙げられる。より具体的には、まず、酸化剤としてのヨウ素の存在下で、ジアセトンアルコール(V)にピリジン(VI)を付加させてピリジン付加物(VII)を合成し(第1工程)、水酸化ナトリウムの存在下でピリジン付加物(VII)を加水分解する(第2工程)。続いて、加水分解物を塩酸に接触させることで3-ヒドロキシイソ吉草酸を得る(第3工程)。かかる合成スキームを以下に示す。
【0058】
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び参考例において、ガスクロマトグラフィー(GC)は以下の条件により測定した。
【0060】
<GCの測定条件>
ガスクロマトグラフ:GC-2014(製造元:株式会社島津製作所)
カラム:DB-1ms(製造元:アジレント・テクノロジー株式会社、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:60m)
キャリアガス:ヘリウム、カラム流量2.32mL/min
注入条件:250℃、スプリット比30
カラム温度条件:50℃で5分保持後、20℃/分で280℃まで昇温
検出器:FID、320℃
【0061】
<実施例1>
(第1工程)
容量500mLの4つ口フラスコにジアセトンアルコール11.7g(0.1mol)とピリジン30mLとを投入し、混合した。得られた原料混合物にヨウ素25.4g(0.1mol)を加え、60℃に設定した水浴で加熱しながら90分攪拌し、反応液を得た。この反応液から、減圧蒸留により未反応のピリジンを概ね除去し、ピリジン付加物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第2工程)
ピリジン付加物を含有する反応混合物に、水酸化ナトリウム8.2g(0.2mol)を水100mLに溶解して調製した水溶液を加え、90℃に設定した水浴で加熱しながら1時間攪拌し、加水分解物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第3工程)
加水分解物を含有する反応混合物に、2mol/L塩酸90mLを加え、攪拌することで処理液を得た。
(精製工程)
前記処理液を減圧蒸留により濃縮し、揮発性の有機物を除去した。得られた濃縮物から目的物をジエチルエーテルで抽出し、減圧蒸留により抽出液からジエチルエーテルを除去した。その結果、6.15gの液体を生成物として得た。
東京化成工業株式会社製の3-ヒドロキシイソ吉草酸を標準試料としてGCにより生成物を分析したところ、3-ヒドロキシイソ吉草酸であることが確認された。収率は52%であった。
【0062】
<実施例2>
(第1工程)
容量500mLの4つ口フラスコにジアセトンアルコール11.7g(0.1mol)とピリジン30mLとを投入し、混合した。得られた原料混合物にヨウ素25.4g(0.1mol)を加え、60℃に設定した水浴で加熱しながら90分攪拌し、反応液を得た。この反応液から、減圧蒸留により未反応のピリジンを概ね除去し、ピリジン付加物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第2工程)
ピリジン付加物を含有する反応混合物に、水酸化ナトリウム8.4g(0.2mol)を水100mLに溶解して調製した水溶液を加え、90℃に設定した水浴で加熱しながら1時間攪拌し、加水分解物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第3工程)
加水分解物を含有する反応混合物に、2mol/L塩酸110mLを加え、攪拌することで処理液を得た。
(精製工程)
前記処理液を減圧蒸留により濃縮し、揮発性の有機物を除去した。得られた濃縮物から目的物を酢酸エチルで抽出し、減圧蒸留により抽出液から酢酸エチルを除去した。その結果、6.44gの液体を生成物として得た。
生成物は、実施例1と同様に分析し、3-ヒドロキシイソ吉草酸であることを確認した。収率は54%であった。
【0063】
<実施例3>
(第1工程)
容量500mLの4つ口フラスコにジアセトンアルコール11.6g(0.1mol)とピリジン30mLとを投入し、混合した。得られた原料混合物にヨウ素25.6g(0.1mol)を加え、60℃に設定した水浴で加熱しながら90分攪拌し、反応液を得た。この反応液から、減圧蒸留により未反応のピリジンを概ね除去し、ピリジン付加物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第2工程)
ピリジン付加物を含有する反応混合物に、水酸化ナトリウム10.0g(0.25mol)を水100mLに溶解して調製した水溶液を加え、90℃に設定した水浴で加熱しながら1時間攪拌し、加水分解物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第3工程)
加水分解物を含有する反応混合物に、2mol/L塩酸140mLを加え、攪拌することで処理液を得た。
(精製工程)
前記処理液を減圧蒸留により濃縮し、揮発性の有機物を除去した。得られた濃縮物から目的物をジエチルエーテルで抽出し、減圧蒸留により抽出液からジエチルエーテルを除去した。その結果、6.25gの液体を生成物として得た。
生成物は、実施例1と同様に分析し、3-ヒドロキシイソ吉草酸であることを確認した。収率は53%であった。
【0064】
<実施例4>
(第1工程)
容量500mLの4つ口フラスコにジアセトンアルコール11.6g(0.1mol)とピリジン30mLとを投入し、混合した。得られた原料混合物に次亜塩素酸ナトリウム水溶液70mL(0.1mol)を滴下した。滴下終了後、60℃に設定した水浴で加熱
しながら90分攪拌し、反応液を得た。得られた反応液について、GC測定を行ったところ、クロロホルムのピークは確認されなかった。この反応液から、減圧蒸留により未反応のピリジンを概ね除去し、ピリジン付加物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第2工程)
ピリジン付加物を含有する反応混合物に、水酸化ナトリウム8.0g(0.2mol)を水100mLに溶解して調製した水溶液を加え、90℃に設定した水浴で加熱しながら1時間攪拌し、加水分解物を含有する反応混合物を得た。反応混合物は、精製することなく次工程に供した。
(第3工程)
加水分解物を含有する反応混合物に、2mol/L塩酸160mLを加え、攪拌することで処理液を得た。
(精製工程)
前記処理液を減圧蒸留により濃縮し、揮発性の有機物を除去した。得られた濃縮物から目的物を酢酸エチルで抽出し、減圧蒸留により抽出液から酢酸エチルを除去した。その結果、4.86gの液体を生成物として得た。
生成物は、実施例1と同様に分析し、3-ヒドロキシイソ吉草酸であることを確認した。収率は41%であった。
【0065】
<実施例5>
ジアセトンアルコールに代えて、表1中の脂肪族ケトン(II)を原料とし、ピリジンに代えて、表1中のピリジン化合物(III)を使用する以外は、実施例1と同様にして、表1中の脂肪族カルボン酸(I)が得られる。
【0066】
【0067】
以下に、ヨードホルム法による3-ヒドロキシイソ吉草酸の合成実験を参考例として示す。実験結果から、ヨードホルム法では、ジアセトンアルコールを原料として3-ヒドロキシイソ吉草酸を製造できないことがわかった。
【0068】
<参考例1>
容量500mLの4つ口フラスコにジアセトンアルコール2.9g(0.025mol
)、水酸化ナトリウム4.1g(0.1mol)及び水100mLを投入し、混合した。得られた原料混合物にヨウ素19.1g(0.075mol)を加え、60℃に設定した水浴で加熱しながら攪拌した。反応開始から4時間後、GC測定により反応液をモニタリングし、ジアセトンアルコールに由来するピークの消失を確認した。
ろ過により反応液から黄色沈殿を分離除去した。得られたろ液が酸性となるまで1mol/L塩酸を加え、減圧蒸留により揮発性の有機物を除去した後、生成物を酢酸エチルで抽出した。減圧蒸留により抽出液から酢酸エチルを除去し、固形物を得た。
得られた固形物について、GC測定を行ったところ、3-ヒドロキシイソ吉草酸のピークを確認することができなかった。
【0069】
<参考例2>
容量500mLの4つ口フラスコにジアセトンアルコール5.8g(0.05mol)、水酸化ナトリウム8.2g(0.2mol)及び水100mLを投入し、混合した。得られた原料混合物にヨウ素38.2g(0.15mol)を加え、室温で攪拌した。反応開始から6時間後、GC測定により反応液をモニタリングし、ジアセトンアルコールに由来するピークの消失を確認した。
続いて、抽出溶媒を酢酸エチルからジエチルエーテルに変更した以外は参考例1と同様の処理を行い、固形物を得た。
得られた固形物について、GC測定を行ったところ、3-ヒドロキシイソ吉草酸のピークを確認することができなかった。