(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】電波センサ、電波センサの制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20230704BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20230704BHJP
G01S 13/92 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G01S7/40 113
G01S13/34
G01S13/92
(21)【出願番号】P 2019191378
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】小河 昇平
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224936(JP,A)
【文献】特開2018-038140(JP,A)
【文献】特開2006-285447(JP,A)
【文献】特開2019-023595(JP,A)
【文献】特開2019-158589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0372528(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が時間的に変化するチャープ信号として送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサであって、
発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整するコントローラを備え
、
前記消費電力の調整は、前記チャープ信号を調整することを含む
電波センサ。
【請求項2】
前記コントローラは、前記バッテリに対する未来の充電量を推定するよう構成され、
前記未来のバッテリ残量は、前記未来の充電量に基づき算出される
請求項1に記載の電波センサ。
【請求項3】
前記コントローラは、前記未来のバッテリ残量に影響を与えるデータに基づいて、前記未来のバッテリ残量を推定する
請求項1又は請求項2に記載の電波センサ。
【請求項4】
前記未来のバッテリ残量に影響を与えるデータは、天気予報データを含む
請求項3に記載の電波センサ。
【請求項5】
前記コントローラは、前記消費電力の調整のために、前記電波の送信パラメータを調整する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項6】
前記コントローラは、前記消費電力の調整のために、外部装置との通信パラメータを調整する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項7】
前記電波センサは、交通監視用であり、
前記コントローラは、前記電波センサ周辺の交通情報に更に基づき、前記消費電力を調整する
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項8】
前記交通情報は、前記電波センサによる車両の検知結果を含む
請求項7に記載の電波センサ。
【請求項9】
前記交通情報は、前記電波センサ以外の他のセンサによる車両の検知結果を含む
請求項7又は請求項8に記載の電波センサ。
【請求項10】
前記コントローラは、前記消費電力の調整のために調整される前記電波の送信パラメータを、前記交通情報に応じて選択する
請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項11】
前記コントローラは、前記消費電力を下げる調整をする場合において、前記電波センサ周辺の車両の速度に応じて前記消費電力を調整する
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項12】
前記チャープ信号を調整することは、チャープ時間の調整を含む
請求項
1から請求項11のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項13】
前記チャープ信号を調整することは、チャープ数の調整を含む
請求項
1から請求項12のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項14】
前記コントローラは、前記消費電力を下げる調整をする場合において、前記電波センサ周辺の車両の数に応じて前記消費電力を調整する
請求項7から請求項
11のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項15】
前記コントローラは、前記消費電力の調整に伴う前記電波センサの性能の変化を示す通知データを、前記電波センサ外部へ送信する
請求項1から請求項
14のいずれか1項に記載の電波センサ。
【請求項16】
前記通知データは、前記電波センサの性能がどのように変化したかを示すデータを含む
請求項
15に記載の電波センサ。
【請求項17】
周波数が時間的に変化するチャープ信号として送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサの制御方法であって、
発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整することを含
み、
前記消費電力の調整は、前記チャープ信号を調整することを含む
電波センサの制御方法。
【請求項18】
周波数が時間的に変化するチャープ信号として送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサのコントローラとしてコンピュータを動作させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コントローラは、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整
し、
前記消費電力の調整は、前記チャープ信号を調整することを含む
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波センサ、電波センサの制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサを開示している。また、特許文献1は、物体の検知処理の実行間隔を、バッテリ残量に基づいて変更することで消費電力を抑制することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリ残量に応じて電波センサの消費電力を調整することで、電源切れによる電波センサの動作停止を回避し易くなる。しかし、現在のバッテリ残量が多い場合であっても、将来見込まれる充電量が少ない場合には、消費電力を低下させたほうが好ましいことがある。また、現在のバッテリ残量が少ない場合であっても、将来見込まれる充電量が多い場合には、消費電力を低下させる必要がないことがある。このため、現在のバッテリ残量に基づいても、適切に消費電力を調整できないことがある。
【0005】
したがって、電波センサの消費電力を、より適切に調整することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある側面は、電波センサである。開示の電波センサは、送信した電波の反射によって物体を検知する。電波センサは、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整するコントローラを備える。
【0007】
本開示の他の側面は、制御方法である。開示の制御方法は、送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサに関する方法である。制御方法は、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整することを含む。
【0008】
本開示の他の側面は、コンピュータプログラムである。開示のコンピュータプログラムは、送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサのコントローラとしてコンピュータを動作させる。前記コントローラは、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、未来のバッテリ残量に基づき、電波センサの消費電力を、より適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、電波センサが設置される道路の斜視図である。
【
図3】
図3は、コントローラのハードウェア構成図である。
【
図4】
図4は、消費電力調整処理のフローチャートである。
【
図6】
図6は、チャープ時間の短縮を示す図である。
【
図7】
図7は、チャープ時間の減少を示す図である。
【
図8】
図8は、消費電力調整処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
【0012】
(1)実施形態に係る電波センサは、送信した電波の反射によって物体を検知する。電波センサは、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整するコントローラを備える。未来のバッテリ残量に基づいて消費電力を調整することで、消費電力が未来の状況に応じた適切なものとなる。
【0013】
(2)前記コントローラは、前記バッテリに対する未来の充電量を推定するよう構成され、前記未来のバッテリ残量は、前記未来の充電量に基づき算出されるのが好ましい。この場合、未来のバッテリ残量は、未来の充電量から算出される。
【0014】
(3)前記コントローラは、前記未来のバッテリ残量に影響を与えるデータに基づいて、前記未来の充電量を推定するのが好ましい。この場合、未来のバッテリ残量に影響を与えるデータに基づいて、未来のバッテリ残量を容易に推定できる。
【0015】
(4)前記未来のバッテリ残量に影響を与えるデータは、天気予報データを含むのが好ましい。天気による発電量の変動を考慮してバッテリ残量を推定することができる。
【0016】
(5)前記コントローラは、前記消費電力の調整のために、前記電波の送信パラメータを調整するのが好ましい。送信パラメータは消費電力に影響を与えるため、送信パラメータの調整により消費電力を調整できる。
【0017】
(6)前記コントローラは、前記消費電力の調整のために、外部装置との通信パラメータを調整するのが好ましい。外部装置との通信パラメータは消費電力に影響を与えるため、通信パラメータの調整により消費電力を調整できる。
【0018】
(7)前記電波センサは、交通監視用であるのが好ましい。前記コントローラは、前記電波センサ周辺の交通情報に更に基づき、前記消費電力を調整するのが好ましい。この場合、交通状況に応じて適切に消費電力を調整することができる。
【0019】
(8)前記交通情報は、前記電波センサによる車両の検知結果を含むことができる。この場合、電波センサ自身の検知結果を利用して、消費電力を調整できる。
【0020】
(9)前記交通情報は、前記電波センサ以外の他のセンサによる車両の検知結果を含むことができる。この場合、他のセンサから得られる検知結果を利用して、消費電力を調整できる。他のセンサによる検知結果を利用することで、電波センサ自身の検知エリアにおける未来の交通状況を推定して、適切に消費電力を調整できる。
【0021】
(10)前記コントローラは、前記消費電力の調整のために調整される前記電波の送信パラメータを、前記交通情報に応じて選択することができる。交通状況に応じて、調整される送信パラメータを異ならせることで、消費電力が交通状況に応じた適切なものとなる。
【0022】
(11)前記コントローラは、前記消費電力を下げる調整をする場合において、前記電波センサ周辺の車両の速度に応じて前記消費電力を調整するのが好ましい。この場合、車両の速度に応じた適切な消費電力調整が行える。
【0023】
(12)前記電波は、周波数が時間的に変化するチャープ信号として送信され、前記消費電力の調整は、前記チャープ信号を調整することを含むのが好ましい。チャープ信号を調整することで、消費電力の調整が可能である。
【0024】
(13)前記チャープ信号を調整することは、チャープ時間の調整を含むことができる。例えば、車両の速度に応じて、チャープ時間を短くすることができる。一例として、速度が、所定速度より小さい又は所定速度より大きい場合には、チャープ時間を短くすることができる。チャープ時間を短くすると最大検出速度を大きくすることができる。したがって、チャープ時間を短くすることは、消費電力を抑えつつも、高速の車両を検出したい場合に有利である。
【0025】
(14)前記チャープ信号を調整することは、チャープ数の調整を含むことができる。チャープ数を小さくしても、距離分解能及び最大検出距離を維持できる。したがって、チャープ数を小さくすることは、消費電力を抑えつつも、距離分解能及び最大検出距離を確保したい場合に有利である。
【0026】
(15)前記コントローラは、前記消費電力を下げる調整をする場合において、前記電波センサ周辺の車両の数に応じて前記消費電力を調整することができる。この場合、車両数に応じた適切な消費電力調整が行える。
【0027】
(16)前記コントローラは、前記消費電力の調整に伴う前記電波センサの性能の変化を示す通知データを、前記電波センサ外部へ送信するのが好ましい。この場合、電波センサ外部へ、電波センサの性能の変化を知らせることができる。
【0028】
(17)前記通知データは、前記電波センサの性能がどのように変化したかを示すデータを含むのが好ましい。この場合、電波センサ外部へ、電波センサの性能がどのように変化したかを知らせることができる。
【0029】
(18)実施形態に係る制御方法は、送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサの制御方法である。制御方法は、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整することを含む。
【0030】
(19)実施形態に係るコンピュータプログラムは、送信した電波の反射によって物体を検知する電波センサのコントローラとしてコンピュータを動作させる。前記コントローラは、発電装置によって充電され前記電波センサへ電力を供給するバッテリにおける未来のバッテリ残量に基づき、前記電波センサの消費電力を調整する。コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な、非一時的な記憶媒体に格納される。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
【0032】
図1は、実施形態に係る電波センサ200が設置された道路110を示している。電波センサ200は、送信した電波の反射によって物体を検知する。実施形態の電波センサ200は、ミリ波レーダセンサとして構成されており、交通監視用として用いられる。電波センサ200は、道路110に設定された検知エリア201内に存在する車両11を検知する。
【0033】
図2に示すように、電波センサ200は、物体検知のための電波を送信する送信器331を備える。実施形態において、送信器331から電波として送信される信号は、チャープ(Chirp)信号である。チャープ信号は、周波数が時間的に変化する信号である。チャープ信号については後述する。
【0034】
電波センサ200は、送信した電波の反射波を受信する受信器332を備える。受信器332は、反射波の受信信号を出力する。
【0035】
電波センサ200は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)333及びCPU334を備える。DSP333は、反射波の受信信号に対する信号処理を実行し、車両等の物体の位置、速度、及び角度などの検知データを生成する。
【0036】
CPU334は、必要に応じて、検知データの補正処理を実行する。補正処理では、例えば、並走車両の分離が行われる。並走車両の分離等の補正処理は、例えば、カルマンフィルタにより行われる。
【0037】
電波センサ200は、電波センサ200の消費電力の調整等のためのコントローラ310を備える。なお、コントローラ310の機能は、CPU334によって担われてもよい。コントローラ310による消費電力の調整については後述する。
【0038】
電波センサ200は、外部装置との間で通信をするための通信器340を備える。通信器340は、無線通信又は有線通信用である。電波センサ200は、通信器340を介して、外部装置との間でデータを送受信することができる。外部装置は、例えば、ネットワーク上のサーバであってもよいし、他の電波センサ又は電波センサ以外の路側センサであってもよいし、電波センサ200に接続された機器であってもよい。
【0039】
電波センサ200は、電波センサ200の動作のための電力を供給するバッテリ400を備える。バッテリ400は、太陽発電装置等の発電装置500に接続されている。発電装置500は、太陽発電装置に限られず、風力発電装置など、自然エネルギーにより発電する他の形式の発電装置であってもよい。なお、バッテリ400は、可能である場合には、商用電源から充電されてもよい。
【0040】
バッテリ400は、バッテリの状態を監視するバッテリ測定器410を備える。バッテリ測定器410は、バッテリ400の充放電量を測定し、バッテリ残量を求めることができる。バッテリ測定器410は、充電量(実績充電量)及び現在のバッテリ残量SoCpを、コントローラ310へ出力する。なお、バッテリ測定器410は、放電量(実績放電量)を、コントローラ310へ出力してもよい。
【0041】
以上のように、実施形態に係る電波センサ200は、バッテリ駆動型であり、動作に商用電源を必要としない。したがって、実施形態に係る電波センサ200は、商用電源から供給される商用電力が得られない場所又は安定的に得るのが困難である場所に設置することができる。
【0042】
バッテリ駆動型である電波センサ200の電源切れを防止するため、コントローラ310は、電波センサ200の消費電力の調整をする。状況に応じて、電波センサ200の動作の仕方、すなわち動作モード、を変更することで、消費電力を抑制して、電源切れを抑制することができる。
【0043】
図3に示すように、コントローラ310は、プロセッサ311及び記憶装置312を備えるコンピュータによって構成されている。記憶装置312は、プロセッサ311に接続されている。記憶装置312には、コンピュータをコントローラ310として動作させるためのコンピュータプログラム330が格納されている。プロセッサ311は、記憶装置312に格納されたコンピュータプログラム330を読み出して実行する。コンピュータプログラム330は、プロセッサ311によって実行される消費電力調整処理350に関するプログラムコードを有する。
【0044】
図4は、コントローラ310によって実行される消費電力調整処理350の手順を示している。ステップS11において、コントローラ310は、バッテリ440への未来の充電量C
fを推定する。ステップS12において、コントローラ310は、未来の充電量C
fに基づいて、未来のバッテリ残量SoC
fを算出する。コントローラ310は、未来のバッテリ残量SoCfが少なくなると判断した場合、消費電力を低くする(ステップS13からステップS18)。消費電力を低くすることによって、電波センサ200の性能が変化することがあるため、コントローラ310は、性能変化を外部へ知らせるための通知データを送信する(ステップS19)。
【0045】
ステップS11において、充電量Cfが推定される未来の具体的な時点は、バッテリ容量等に応じて、適宜設定される。未来の具体的な時点は、例えば、現時点から数時間後又は数日後に設定される。
【0046】
未来の充電量Cfは、充電量推定用データに基づいた演算により推定される。充電量推定用データは、未来の充電量Cfに影響を与えるデータであり、例えば、天気予報データである。発電装置500が、太陽発電装置のように天気によって発電量が左右される場合、天気予報データは、未来の発電量、すなわち、未来の充電量に影響を与えるデータとなる。充電量Cfは、未来の時点までの天気が晴であるか、雨であるか、によって、異なるものとなる。
【0047】
図5に示すように、天気予報データは、例えば、天気情報サーバ700から提供される。天気情報サーバ700は、ネットワークを介して、コントローラ310へ、天気予報データを提供する。天気予報データは、少なくとも、充電量C
fが推定される未来の時点までの天気予報を含む。
【0048】
コントローラ310は、ステップS11において、天気予報データに基づいて、未来の充電量Cfを推定する。コントローラ310は、例えば、充電量推定テーブル320を参照して、充電量Cfを推定する。充電量推定テーブル320が天気と充電量との関係を規定している場合、コントローラ310は、充電量推定テーブル320を参照し、天気予報データに対応する充電量を取得することができる。取得された充電量が、未来の充電量Cfの推定値になる。
【0049】
充電量推定用データは、天気予報データに限られず、バッテリ400への過去の実績充電量であってもよい。過去の実績充電量も、未来の充電量Cfに影響を与える。コントローラ310は、バッテリ測定器410から、過去の実績充電量を取得する。充電量の急激な変化が生じない場合、直近の実績充電量は、近い未来の充電量Cfの推定に有用である。また、長期的な過去の実績充電量パターンと直近の実績充電量パターンとのマッチングから、未来の充電量Cfを推定することもできる。
【0050】
例えば、充電量推定テーブル320が、長期的な過去の実績充電量パターンを有する場合、充電量推定テーブル320の実績充電量パターンにおいて、直近の実績充電量パターンにマッチするパターンが検出される。この場合、充電量推定テーブル320の実績充電量パターンにおいて、マッチしたパターンに続く充電量パターンに基づいて、未来の充電量Cfが推定される。
【0051】
充電量推定用データは、時刻情報であってもよい。時刻情報は、日及び時の情報を含むことができる。時刻が昼であるか夜であるかによって、また、日の属する季節によって、充電量は影響を受ける。つまり、時刻情報は、未来の充電量Cfに影響を与えるデータである。
【0052】
コントローラ310は、計時器630から時刻情報を取得する。計時器630は、電波センサ200が備えていても良いし、電波センサ200外に設けられていてもよい。
【0053】
コントローラ310は、時刻情報に基づいて、未来の充電量Cfを推定することもできる。充電量推定テーブル320が、時刻と充電量との関係を規定している場合、コントローラ310は、充電量推定テーブル320を参照し、時刻情報に対応する充電量を取得することができる。取得された充電量が、未来の充電量Cfの推定値になる。
【0054】
充電量推定用データは、照度及び温度の少なくともいずれか一方であってもよい。照度又は温度によって、充電量は影響を受ける。つまり、照度及び温度は、未来の充電量Cfに影響を与えるデータである。
【0055】
コントローラ310は、照度計610から照度を取得し、温度計620から温度を取得する。照度計610及び温度計620は、電波センサ200が備えていても良いし、電波センサ200外に設けられていてもよい。
【0056】
コントローラ310は、照度及び温度の少なくともいずれか一方に基づいて、未来の充電量Cfを推定することもできる。充電量推定テーブル320が、照度及び温度の少なくともいずれか一方と充電量との関係を規定している場合、コントローラ310は、充電量推定テーブル320を参照し、照度又は温度に対応する充電量を取得することができる。取得された充電量が、未来の充電量Cfの推定値になる。
【0057】
未来の充電量Cfを推定する際には、充電量推定用データとして前述したものを組み合わせて用いてもよい。複数種類の充電量推定用データを用いることで推定精度を向上させることができる。
【0058】
また、上記の例では、充電量推定用データから未来の充電量Cfを演算するために、充電量推定テーブル320を参照する方式を用いたが、これに限られない。例えば、充電量推定用データと、充電量と、の関係が機械学習された充電量推定モデルを用いて、充電量推定用データから未来の充電量Cfを求めてもよい。
【0059】
以上のようにして、未来の充電量Cfが求まると、コントローラ310は、ステップS12において、未来のバッテリ残量SoCfを算出する。未来のバッテリ残量SoCfは、例えば、現在のバッテリ残量SoCp、現在の消費電力(バッテリ400の実績放電量)、及び未来の充電量Cfから算出できる。現在のバッテリ残量SoCp及び現在の消費電力(バッテリ400の実績放電量)は、バッテリ測定器410から取得される。
【0060】
なお、上記の例では、未来の充電量Cfを算出してから、未来のバッテリ残量SoCfを求めたが、未来の充電量Cfを算出することなく未来のバッテリ残量SoCfを求めてもよい。例えば、前述の充電量推定用データとして例示した各種データ(天気予報データ等)は、未来のバッテリ残量に影響を与えるデータでもあるため、前述の充電量推定用データとして例示した各種データ(天気予報データ等)を、未来のバッテリ残量推定用データとして利用することができる。推定用データとバッテリ残量との関係を規定したバッテリ残量推定テーブル、又は、推定用データとバッテリ残量との関係を機械学習したバッテリ残量推定モデルを用意しておくことで、コントローラ310は、バッテリ残量推定用データからバッテリ残量を推定できる。
【0061】
未来のバッテリ残量SoCfが求まると、コントローラ310は、消費電力の調整の要否の判断のため、ステップS13の判断を行う。ステップS13の判断は、未来のバッテリ残量SoCfに基づいて行われる。未来のバッテリ残量SoCfが基準値Sより少ない場合、すなわち、未来のバッテリ残量SoCfが不足すると判断された場合、コントローラ310は、消費電力が少なくなるよう、電波センサ200の動作パラメータを調整する(ステップS14からステップS17)。一方、未来のバッテリ残量SoCfが基準値Sより多い場合、すなわち、未来のバッテリ残量SoCfに一定以上の余裕があると判断された場合には、少なくしていた消費電力を元に戻すか、消費電力を増加させる(ステップS18)。
【0062】
消費電力の制御のため調整される動作パラメータは、例えば、送信器331における送信パラメータである。消費電力が小さくなるように送信パラメータを調整すると、多くの場合、電波センサとしての検知精度が低下する。一方、消費電力が大きくなるように送信パラメータと調整すると、多くの場合、検知精度が向上する。バッテリ残量SoCfが少ない場合には、検知精度を多少犠牲にしても、消費電力を抑えることで、電源切れを抑制できる。なお、消費電力の制御のため調整される動作パラメータは、外部装置と通信を行う通信器340の通信パラメータを含んでもよい。通信パラメータは、例えば、送信頻度又は送信電力である。
【0063】
送信器331における送信パラメータは、例えば、送信電力である。送信電力を小さくすると、反射波の受信信号におけるSN比が低下する。この結果、検知エリア201が狭くなり、検知精度も低下する。しかし、送信電力を小さくすると、消費電力を下げることができる。
【0064】
送信器331における送信パラメータは、物体検知のために送信器331から送信されるチャープ信号に関するパラメータであってもよい。チャープ信号に関するパラメータは、例えば、チャープ時間(FMチャープ時間)又はチャープ数(FMチャープ数)である。以下、
図6に基づいてチャープ時間の調整を説明し、
図7に基づいてチャープ数の調整を説明する。
【0065】
図6に示すように、チャープ信号は、周波数が時間の経過とともに変化する信号である。チャープ信号は、例えば、
図6に示すように、周波数が時間の経過とともに増加し所定の周波数になると一気に周波数が元に戻る信号の繰り返しである。この繰り返し数をチャープ数(FMチャープ数)という。繰り返しが継続される時間をチャープ時間(FMチャープ時間)という。また、周波数の変化幅を、チャープ帯域幅という。実施形態において、チャープ信号には、周波数変化の繰り返しが生じるチャープ時間の後に、繰り返しが生じない停止期間が存在する。停止期間後に再び周波数変化の繰り返しが生じる。チャープ信号の1周期は、チャープ時間と停止期間との和である。
【0066】
図6及び
図7には、消費電力を小さくする前における通常のチャープ信号Ch1の例(
図6及び
図7の上側)が示されている。通常のチャープ信号Ch1におけるチャープ数は、N
1であり、チャープ時間はT
1であり、チャープ帯域幅は、F
1である。なお、周波数変化の繰り返しの1単位分の時間長さはt
1である。
【0067】
電波センサ200において、車両などの検知物体の速度の分解能は、チャープ時間T1に反比例する。つまり、チャープ時間T1が長いほど、速度を細かく検出できる。検知物体までの距離の分解能は、チャープ帯域幅F1に反比例する。つまり、チャープ帯域幅F1が大きいほど、距離を細かく検出できる。最大検出速度は、速度の分解能×チャープ数によって決まる。また、最大検出距離は、距離分解能×サンプリング数によって決まる。サンプリング数は、周波数変化の繰り返しの1単位内における周波数のサンプリングポイントの数である。サンプリング周波数が一定である場合、周波数変化の繰り返しの1単位分の時間長さt1が大きくなると、サンプリング数が多くなり、最大検出距離が大きくなる。
【0068】
図6には、消費電力を小さくするためにチャープ時間を短くした場合のチャープ信号Ch2の例(
図6下側)も示されている。チャープ信号Ch2では、チャープ時間T
2が、チャープ信号Ch1のチャープ時間T
1よりも短くなっている。チャープ信号Ch2では、チャープ信号Ch1におけるチャープ数N
1=(N
2)を維持したまま、チャープ時間T
2を短くするため、チャープ帯域幅F
2が、チャープ信号Ch1のチャープ帯域幅F
1よりも小さくなっている。その結果、周波数変化の繰り返しの単位の時間長t
2が、チャープ信号Ch1における繰り返し単位の時間長さt
1よりも短くなっている。
【0069】
チャープ信号Ch2のようにチャープ時間T2が短くなると、停止期間が長くなる分、消費電力は小さくなるが、速度分解能が劣化する。また、チャープ帯域幅F2が小さくなったことにより、距離分解能も劣化し、最大検出距離が小さくなる。さらに、SN比も劣化する。ただし、速度分解能が劣化して大きくなることにより、最大検出速度は増加する。
【0070】
図7には、消費電力を小さくするためにチャープ数N
3を少なくしたチャープ信号Ch3の例(
図7下側)も示されている。チャープ信号Ch3では、チャープ帯域幅F
3及び周波数変化の繰り返し単位の時間長さt
3は、チャープ信号Ch1と同じであり、チャープ数N
3だけが、チャープ信号Ch1よりも小さくなっている。その結果、チャープ信号Ch3のチャープ時間T
3は、チャープ信号Ch1よりも短くなっている。
【0071】
チャープ信号Ch3のようにチャープ数N3を小さくすると、停止時間が長くなる分、消費電力は小さくなるが、チャープ時間T3が短くなったことにより、速度分解能が劣化する。さらに、SN比も劣化する。ただし、チャープ帯域幅F3及び繰り返し単位の時間長さt3は、チャープ信号Ch1と同じなので、距離分解能及び最大検出距離は維持される。
【0072】
チャープ信号に関するパラメータは、チャープ時間及びチャープ数以外に、停止期間の長さであってもよい。停止期間を長くすると、消費電力が下がる。ただし、停止期間においては、物体を検知できないため、検出性能が劣化する。また、電波センサ200が、停止期間において、過去の検知結果から推測される推測検知結果を出力する場合、停止期間が長くなるほど、推測検知結果の精度が低下する。
【0073】
図4に戻り、ステップS13において、未来のバッテリ残量SoC
fが不足すると判断された場合、コントローラ310は、消費電力が少なくなるよう調整する。ステップS114からステップS17は、消費電力調整の一例を示している。この例では、コントローラ310は、電波センサ200周辺の交通情報に基づいて、消費電力を調整する。電波センサ200がどのように動作すべきか否かは、交通状況によって影響を受ける。例えば、検知エリア201及びその周辺に走行車両が存在しなければ、電波センサ200が動作する必要性は低い。また、渋滞又は速度規制により、車両速度が一定以下であれば、速度の分解能及び最大検出速度は低くてもよい。逆に、車両速度が、制限速度以上など一定以上であれば、速度分解能を劣化させて最大検出速度を大きくしたほうがよい。
【0074】
消費電力調整に用いられる交通情報は、電波センサ200自身の車両検知結果(検知データ)であってもよいし、電波センサ200以外の他のセンサによる車両検知結果であってもよい。他のセンサは、
図5に示すように、他の電波センサ810であってもよいし、電波センサ以外の他の種類の路側センサ820であってもよい。コントローラ310は、通信器340を介して、交通情報を、他の電波センサ810及び路側センサ820から取得してもよいし、交通情報を提供するサーバ、例えばITSサーバ830、から取得してもよい。また、複数個所から得られる交通情報を総合して、消費電力調整を行ってもよい。
【0075】
交通情報は、電波センサ200の検知エリア201の走行車両の数及び車両走行速度の少なくとも一方に関連する情報を含むのが好ましい。より具体的には、交通情報は、例えば、走行車両の有無、又は走行車両の速度を含むことができる。交通情報は、交通規制情報、例えば、速度規制情報を含んでも良いし、渋滞情報を含んでもよい。
【0076】
コントローラ310は、取得した交通情報に基づき、検知エリア201及び周辺エリアの走行車両数を判定する(ステップS14)。車両数が、閾値TAより小さい場合、すなわち、走行車両が存在しない又は非常に少ない場合、コントローラ310は、物体検知のための電波送信を停止したり、消費電力が小さくなる送信パラメータに設定したりすることができる(ステップS15)。設定される送信パラメータは、前述したパラメータのいずれでもよい。
【0077】
車両数が、閾値TAより大きい場合、すなわち、走行車両数がある程度存在する場合、車両検知の必要性は大きい。したがって、交通情報から得られる車両速度によって、検知性能を変えることで、適切に消費電力を調整することができる(ステップS16及びステップ17)。例えば、走行車両の数が多く、走行速度も高い場合には、検知エリア201をある程度大きく確保する必要があるため、送信電力を小さくしても、大幅に小さくすることはできない。一方、走行車両の数が多いとしても、渋滞などで、走行速度が所定の閾値よりも低い場合には、検知エリア201が小さくなってもよいため、送信電力を、大幅に小さくすることができる。また、走行速度が低い場合には、速度分解能が劣化しても問題がないため、チャープ時間又はチャープ数などのチャープ信号に関するパラメータを調整してもよい。このように、消費電力を下げるとしても、車両走行速度を考慮することで、交通状況に応じて適切に消費電力を調整できる。
【0078】
また、走行速度が、制限速度オーバーなど一定以上に大きければ、速度分解能が下がるように、チャープ時間を短くしてもよい(
図6参照)。速度分解能が下がると、最大検出速度が大きくなるため、消費電力を抑えつつ、走行速度が大きいことに対処できる。
【0079】
このように、走行速度が、非常に小さい場合、及び、逆に非常に大きい場合には、チャープ時間を短くするのが有効である。また、走行速度が、通常想定される速度である場合には、速度分解能を損なわないように、送信電力など別の送信パラメータを調整するのが有効である。
【0080】
本実施形態では、消費電力の調整のために調整可能な動作パラメータ(例えば、電波の送信パラメータ)が複数存在する。したがって、消費電力を小さくするにしても、交通情報から得られる交通状況に応じて、調整されるパラメータを適切に選択することで、消費電力を小さくすることによる悪影響を抑えることができる。
【0081】
電波センサ200の性能は、消費電力の調整のために動作パラメータを調整すると変化する。動作パラメータ調整により変化する性能は、例えば、物体の検知性能を含む。検知性能は、例えば、送信電力、速度分解能、距離分解能、最大検出速度、最大検出距離、検知エリアの大きさなどである。性能は、外部装置との通信性能(送信頻度、通信距離)を含んでもよい。電波センサ200の性能がどのように変化するかは、どのパラメータがどの程度調整されるかによって決まる。
【0082】
電波センサ200の性能の変化は、電波センサ200と連携して動作する外部装置(例えば、他の路側装置又は車両)が把握することが望まれる。そこで、コントローラ310は、電波センサ200の性能の変化を示す通知データを、通信器340を介して、電波センサ外部へ送信する処理を実行する(ステップS19)。
【0083】
通知データは、電波センサ200の検知性能等の性能がどのように変化したかを示すデータを含むのが好ましい。性能がどのように変化したかを示すデータは、例えば、物体検知のための電波の送信が停止されていることを示したり、送信電力がどの程度低下しているかを示したり、変化した速度分解能、距離分解能、最大検出速度、最大検出距離を示したりすることができる。また、通知データは、未来のバッテリ残量が非常に小さく、電波センサ200が停止する可能性があることを示してもよい。なお、通知データの送信タイミングは、性能変化のタイミングに限られず、定期的又は必要なタイミングであってもよい。
【0084】
図8は、消費電力調整処理350の他の例を示している。
図8に示す例において、電波センサ200は、複数の異なる検知動作(例えば、渋滞検知動作と逆走検知動作)を実行しており、それぞれの検知動作の送信パラメータが異なるものとする。
図8に示す例において、未来のバッテリ残量SoC
fを算出するまでの処理(ステップS11,S12)は、
図4に示す例と同じである。
図8に示す例において、未来のバッテリ残量SoC
fが求まると、コントローラ310は、消費電力の調整の要否の判断のため、未来のバッテリ残量SoC
fに基づいてステップS13の判断を行う。
【0085】
未来のバッテリ残量SoCfが基準値Sより少ない場合、すなわち、未来のバッテリ残量SoCfが不足すると判断された場合、複数の検知動作のうち優先度の低い検知動作のための電波送信を停止するか、優先度の低い検知動作のための送信パラメータを、消費電力が小さくなるように調整する(ステップS21)。優先度の低い動作の実行を停止又は消費電力が小さくなるよう送信パラメータを調整することで、消費電力を抑えることができる。一方、未来のバッテリ残量SoCfが基準値Sより多い場合、すなわち、未来のバッテリ残量SoCfに一定以上の余裕があると判断された場合には、優先度の低い動作の実行を復活又は継続させる(ステップS22)。
【0086】
なお、ステップS21において、送信パラメータを調整する場合、
図4に示す例のように、交通情報を考慮するのが好ましい。
【0087】
図8の例では、外部へ送信される通知データは、検知動作の削減又は制限を示すことができる。
【0088】
[付記]
【0089】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
11 :車両
110 :道路
200 :電波センサ
201 :検知エリア
310 :コントローラ
311 :プロセッサ
312 :記憶装置
320 :充電量推定テーブル
330 :コンピュータプログラム
331 :送信器
332 :受信器
333 :DSP
334 :CPU
340 :通信器
350 :消費電力調整処理
400 :バッテリ
410 :バッテリ測定器
440 :バッテリ
500 :発電装置
610 :照度計
620 :温度計
630 :計時器
700 :天気情報サーバ
810 :電波センサ
820 :路側センサ
830 :ITSサーバ