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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】エンジンの排気処理装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/023 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
F01N3/023 Z
F01N3/023 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019205250
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021076100
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松澤 悠也
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-312333(JP,A)
【文献】特開平07-004226(JP,A)
【文献】特開2005-214084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気処理装置であって、
前記エンジンの排気通路に設けられ前記エンジンの排気を浄化する排気浄化装置と、
前記排気通路における前記排気浄化装置の上流側の部分に前記排気浄化装置に隣接して設けられるスリット板と、
前記排気の流れに沿う方向を回転軸として前記スリット板または前記排気浄化装置を回転させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御する制御装置とを備え、
前記スリット板は、前記排気の流れと交わる方向に延在し、一部が切り欠かれた形状を有し、
前記制御装置は、前記排気浄化装置の劣化に関する劣化評価値に基づいて前記スリット板または前記排気浄化装置を回転させるタイミングを決める第1回転制御、あるいは、前記劣化評価値に基づいて前記スリット板または前記排気浄化装置を回転させる速度を変更する第2回転制御を実行し、
前記制御装置は、前記排気浄化装置の浄化機能を再生する再生制御を実行し
前記再生制御は、前記排気通路における前記スリット板の上流側の部分に配置された燃料供給弁、もしくは前記エンジンの気筒に設けられる燃料噴射弁から、前記排気浄化装置に堆積した粒子状物質を燃焼除去するための燃料を噴射させる処理である、エンジンの排気処理装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1回転制御に実行中において、
前記エンジンの状態に基づいて、前記スリット板が回転していない状態が継続している期間における排気流量の積算値を前記劣化評価値として算出し、
前記排気流量の積算値がしきい値に達するまでは前記スリット板を回転させず、
前記排気流量の積算値が前記しきい値に達した場合に前記スリット板を所定角度回転させる、請求項1に記載のエンジンの排気処理装置。
【請求項3】
前記排気浄化装置は、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを含み、
前記制御装置は、前記第1回転制御に実行中において、
前記エンジンの状態に基づいて、前記スリット板が回転していない状態が継続している期間における前記フィルタへの前記粒子状物質の堆積量の積算値を前記劣化評価値として算出し、
前記堆積量の積算値がしきい値に達するまでは前記スリット板を回転させず、
前記堆積量の積算値が前記しきい値に達した場合に前記スリット板を所定角度回転させる、請求項1に記載のエンジンの排気処理装置。
【請求項4】
前記排気浄化装置は、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを含み、
前記排気処理装置は、前記フィルタの上流側の排気と下流側の排気との圧力差を検出する差圧センサを含み、
前記制御装置は、前記第1回転制御に実行中において、
前記スリット板が回転していない状態が継続している期間における前記圧力差の増加量を前記劣化評価値として算出し、
前記圧力差の増加量がしきい値に達するまでは前記スリット板を回転させず、
前記圧力差の増加量が前記しきい値に達した場合に前記スリット板を所定角度回転させる、請求項1に記載のエンジンの排気処理装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第2回転制御に実行中において、前記劣化評価値が大きいほど速い回転速度で前記スリット板を回転させる、請求項1に記載のエンジンの排気処理装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記エンジンの排気流量を前記劣化評価値として算出する、請求項に記載のエンジンの排気処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンの排気処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンの排気通路には、エンジンの排気を浄化する排気浄化装置(排気中の炭化水素および一酸化炭素などを酸化させる酸化触媒、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタなど)が設けられる。
【0003】
特開2013-122228号公報(特許文献1)には、排気浄化装置の耐久性および浄化効率を向上させることができる排気パイプを備える排気処理装置が開示されている。この排気パイプは、排気浄化装置の上流側に連続して形成された複数の屈曲部と、複数の屈曲部の下流側に配置され、複数の屈曲部の長さ以上の長さを有する直線部とを備える。このような構造を有する排気パイプを排気浄化装置の上流側に設けることにより、排気パイプ内の排気に旋回流が生じ、この旋回流によって排気が排気浄化装置の全域に均等に配風されるようになる。これにより、排気の流れが排気浄化装置の一部に集中することが抑制されるため、排気浄化装置の耐久性および浄化効率の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-122228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された排気処理装置においては、排気浄化装置の上流側に複雑な形状の排気パイプを設けることを要するため、レイアウト上の制約がある車両には搭載できない場合も想定される。そのため、排気の流れが排気浄化装置の一部に集中することを簡易な構造で抑制することができる技術の開発が望まれる。
【0006】
さらに、特許文献1に開示された排気処理装置においては、排気パイプの形状が固定されており、排気の流れ(旋回流)を制御などによって意図的に変更することはできない。そのため、仮に、エンジンの運転状態の変化などに起因して排気の偏りが生じて排気の流れが排気処理装置の一部に集中している状況にあっても、特許文献1に開示された排気処理装置においては、排気の流れを意図的に変更することはできない。そのため、排気の流れが排気浄化装置の一部に集中することをより適切に抑制することができる技術の開発が望まれる。
【0007】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、排気の流れが排気浄化装置の一部に集中することを簡易な構造で適切に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本開示によるエンジンの排気処理装置は、エンジンの排気通路に設けられエンジンの排気を浄化する排気浄化装置と、排気通路における排気浄化装置の上流側の部分に排気浄化装置に隣接して設けられるスリット板と、排気の流れに沿う方向を回転軸としてスリット板または排気浄化装置を回転させるアクチュエータと、アクチュエータを制御する制御装置とを備える。スリット板は、排気の流れと交わる方向に延在し、一部が切り欠かれた形状を有する。制御装置は、排気浄化装置の劣化に関する劣化評価値に基づいてスリット板または排気浄化装置を回転させるタイミングを決める第1回転制御、あるいは、劣化評価値に基づいてスリット板または排気浄化装置を回転させる速度を変更する第2回転制御を実行する。
【0009】
上記の排気処理処理によれば、一部が切り欠かれたスリット板が、排気浄化装置の上流側の部分に排気浄化装置に隣接して設けられる。そのため、排気の流れが、排気浄化装置におけるスリット板の切り欠きの下流領域に集中する。このような簡易な構造を有するスリット板を設けてスリット板または排気浄化装置を回転させることによって、排気浄化装置における排気の通過領域を意図的に変更することができる。そして、排気浄化装置の劣化に関する劣化評価値に基づいてスリット板または排気浄化装置を回転させるタイミングを決める第1回転制御、あるいは、劣化評価値に基づいてスリット板または排気浄化装置を回転させる速度を変更する第2回転制御が実行される。これにより、たとえば劣化評価値に応じてスリット板または排気浄化装置を回転させるタイミングを決めたり、劣化評価値に応じてスリット板または排気浄化装置の回転速度を変更したりすることで、排気浄化装置における排気の通過領域を劣化評価値に応じて適切に変更することができる。その結果、排気の流れが排気浄化装置の一部に集中することを簡易な構造で適切に抑制することができる。
【0010】
(2) ある態様においては、制御装置は、第1回転制御の実行中において、エンジンの状態に基づいて、スリット板が回転していない状態が継続している期間における排気流量の積算値を劣化評価値として算出する。制御装置は、排気流量の積算値がしきい値に達するまではスリット板を回転させず、排気流量の積算値がしきい値に達した場合にスリット板を所定角度回転させる。
【0011】
(3) ある態様においては、排気浄化装置は、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを含む。制御装置は、第1回転制御の実行中において、エンジンの状態に基づいて、スリット板が回転していない状態が継続している期間におけるフィルタへの粒子状物質の堆積量の積算値を劣化評価値として算出する。制御装置は、堆積量の積算値がしきい値に達するまではスリット板を回転させず、堆積量の積算値がしきい値に達した場合にスリット板を所定角度回転させる。
【0012】
(4) ある態様においては、排気浄化装置は、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを含む。排気処理装置は、フィルタの上流側の排気と下流側の排気との圧力差を検出する差圧センサを含む。制御装置は、第1回転制御の実行中において、スリット板が回転していない状態が継続している期間における圧力差の増加量を劣化評価値として算出する。制御装置は、圧力差の増加量がしきい値に達するまではスリット板を回転させず、圧力差の増加量がしきい値に達した場合にスリット板を所定角度回転させる。
【0013】
(5) ある態様においては、制御装置は、第2回転制御の実行中において、劣化評価値が大きいほど速い回転速度でスリット板を回転させる。
【0014】
(6) ある態様においては、制御装置は、エンジンの排気流量を劣化評価値として算出する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、排気の流れが排気浄化装置の一部に集中することを簡易な構造で適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】排気処理装置の全体構成の一例を概略的に示す図(その1)である。
図2】スリット板の形状を模式的に示す図である。
図3】エンジンの燃料噴射量Qおよび回転速度NEの変化の一例を示す図である。
図4】排気流量ΔRの算出に用いられる排気流量マップの一例を示す図である。
図5】流量積算値Rの変化の一例を示す図である。
図6】第1回転制御によるスリット板の回転位置の変化の一例を示す図である。
図7】ECUの処理手順の一例を示すフローチャート(その1)である。
図8】排気処理装置の全体構成の一例を概略的に示す図(その2)である。
図9】堆積量ΔDの算出に用いられる堆積量マップの一例を示す図である。
図10】堆積量積算値Dの変化の一例を示す図である。
図11】ECUの処理手順の一例を示すフローチャート(その2)である。
図12】排気処理装置の全体構成の一例を概略的に示す図(その3)である。
図13】ECUの処理手順の一例を示すフローチャート(その3)である。
図14】ECUの処理手順の一例を示すフローチャート(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0018】
<全体構成>
図1は、本実施の形態による排気処理装置1の全体構成の一例を概略的に示す図である。この排気処理装置1は、エンジン10の排気を浄化する処理を行なう装置である。排気処理装置1は、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)14と、フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)15と、スリット板60と、モータ62と、電子制御装置(Electronic Control Unit、以下「ECU」という)100とを備える。
【0019】
本実施の形態においては、エンジン10は、車両に搭載される一般的なディーゼルエンジンである場合を想定している。なお、エンジン10はガソリンエンジンであってもよい。
【0020】
エンジン10は、複数の気筒を有する。エンジン10の各気筒には、燃料噴射弁20が設けられる。各燃料噴射弁20には、図示しない燃料ポンプによって燃料タンクからの燃料が供給されている。各燃料噴射弁20は、ECU100からの制御信号によって作動(開弁)し、各気筒に燃料を噴射する。
【0021】
エンジン10の各気筒は吸気通路11と排気通路12とに接続されている。排気通路12の内部には、酸化触媒14と、フィルタ15とが設けられる。酸化触媒14は、排気中の炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)を酸化して浄化する。フィルタ15は、排気通路12における酸化触媒14よりも下流の部分に設けられる。フィルタ15は、排気中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集する。酸化触媒14およびフィルタ15は、どちらも、エンジン10の排気を浄化する排気浄化装置として機能する。
【0022】
排気通路12における酸化触媒14よりも上流側の部分には、燃料添加弁30が設けられる。燃料添加弁30には、図示しない燃料ポンプによって燃料タンクからの燃料が供給されている。燃料添加弁30は、ECU100からの制御信号によって作動(開弁)し、排気通路12における酸化触媒14よりも上流の部分に燃料を噴射する。
【0023】
スリット板60は、排気通路12における酸化触媒14の上流側の部分に酸化触媒14に隣接して設けられる。スリット板60は、排気の流れと交わる方向に延在し、一部が切り欠かれた形状を有する。スリット板60は、排気の流れに沿う方向を回転軸C0として回転可能に構成される。モータ62は、回転軸C0回りにスリット板60を回転させるアクチュエータである。モータ62は、ECU100からの制御信号に基づいて作動する。
【0024】
図2は、スリット板60の形状を模式的に示す図である。スリット板60は、酸化触媒14の上流側に設けられている。スリット板60は、排気の流れと略直交する方向(交わる方向)に延在しており、円の一部が切り欠かれた形状を有する。排気は、スリット板60の切り欠き部分を通過して酸化触媒14およびフィルタ15に供給される。言い換えれば、排気の流れは、スリット板60の切り欠き部分の下流側の領域に集中する。そのため、スリット板60を回転させてスリット板60の切り欠き部分の回転位置を変更することによって、酸化触媒14およびフィルタ15における排気の通過領域を意図的に変更することが可能である。
【0025】
図1に戻って、エンジン10には、エンジン回転速度センサ50が設けられている。エンジン回転速度センサ50は、エンジン10の回転速度NEを検出し、検出結果をECU100に出力する。
【0026】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。ECU100は、各センサおよび機器からの信号、並びにメモリに格納されたプログラムなどに基づいて、各機器の制御を行なう。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0027】
ECU100が実行する処理の一例として、たとえばPM再生処理がある。PM再生処理とは、フィルタ15に堆積したPMを燃焼除去するための燃料を燃料添加弁30から噴射させる処理である。PM再生処理の実行によって、フィルタ15に堆積したPMが燃焼除去されることによって、フィルタ15の捕集機能が再生される。なお、PM再生用の燃料噴射は、必ずしも燃料添加弁30を用いて行なうことに限られるものではない。たとえば、PM再生用の燃料噴射を燃料噴射弁20を用いて行なうことも可能である。つまり、燃料添加弁30を備えない構成においても、PM再生処理を実行することができる。
【0028】
<スリット板の回転制御>
排気の流れが酸化触媒14およびフィルタ15の一部に常時集中すると、酸化触媒14およびフィルタ15の耐久性が低下したり浄化効率が低下したりすることが懸念される。そこで、本実施の形態によるECU100は、スリット板60を以下のように回転させることによって、酸化触媒14およびフィルタ15への排気の流れを均一にする。
【0029】
ECU100は、エンジン10の状態に基づいて、酸化触媒14およびフィルタ15の劣化に関するパラメータ(以下「劣化評価値」ともいう)を算出する。そして、ECU100は、劣化評価値に基づいてスリット板60を回転させるタイミングを決める制御を行なう。以下、この処理について詳しく説明する。なお、酸化触媒14およびフィルタ15を通過する排気量が多いほど酸化触媒14およびフィルタ15が劣化することに鑑み、以下では、劣化評価値として、排気流量の積算値を用いる場合について説明する。
【0030】
図3は、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEの変化の一例を示す図である。図3に示すように、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEは時間の経過とともに変化し、これに伴って単位時間あたりに流れる排気量(以下「排気流量ΔR」ともいう)も変化する。そこで、ECU100は、エンジン10の状態を示すパラメータとしてエンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEを用いて、排気流量ΔRを算出する。
【0031】
図4は、排気流量ΔRの算出に用いられる排気流量マップの一例を示す図である。排気流量マップには、予め実験等によって得られた、燃料噴射量Qおよび回転速度NEと排気流量ΔRとの対応関係が予め規定されている。なお、排気流量ΔRの単位は、たとえば「L/h」である。排気流量マップは、ECU100のメモリに予め記憶されている。ECU100は、この排気流量マップを参照して、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEに対応する排気流量ΔRを算出する。なお、回転速度NEはエンジン回転速度センサ50から取得することができる。また、燃料噴射量Qは、ECU100自身が各燃料噴射弁20に対して出力した制御信号に基づいて取得(算出)することができる。なお、図4に示す数値は、あくまで例示であって、これに限定されるものではない。
【0032】
ECU100は、スリット板60が回転していない状態が継続している期間において排気流量ΔRを逐次算出し、算出された排気流量ΔRの積算値を「流量積算値R」として算出する。
【0033】
図5は、流量積算値Rの変化の一例を示す図である。図5に示すように、流量積算値Rは、エンジン10が運転されることによって徐々に増加する。ECU100は、流量積算値Rがしきい値Rthに達する毎にスリット板60を所定角度ずつ回転させる。具体的には、ECU100は、流量積算値Rがしきい値Rthに達するまでは、スリット板60を回転させずに停止状態に維持するようにモータ62を制御する。一方、流量積算値Rがしきい値Rthに達した場合には、ECU100は、スリット板60を所定角度回転させるようにモータ62を制御する。これらの一連の処理が、本実施の形態によるスリット板60の回転制御(以下「第1回転制御」ともいう)である。
【0034】
図6は、第1回転制御によるスリット板60の回転位置の変化の一例を示す図である。図6に示すように、たとえば、スリット板60の切り欠き部分は、中心角を略90度とする扇形の形状を有している。ECU100は、流量積算値Rがしきい値Rthに達する毎に、スリット板60を所定角度(たとえば略90度)ずつ回転させる。このようなスリット板60の回転が繰り返されることによって、酸化触媒14およびフィルタ15に排気が均一に供給されるようになる。
【0035】
図7は、ECU100が第1回転制御を実行する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件が成立する毎(たとえば所定周期毎)に繰り返し実行される。
【0036】
まず、ECU100は、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEを取得する(ステップS10)。
【0037】
次いで、ECU100は、図4に示した排気流量マップを参照して、ステップS10で取得した燃料噴射量Qおよび回転速度NEに対応する排気流量ΔRを算出する(ステップS12)。
【0038】
次いで、ECU100は、ステップS12で算出された排気流量ΔRを流量積算値Rの前回値に加えた値を、流量積算値Rの今回値として算出する(ステップS14)。なお、本ステップで算出された流量積算値Rの今回値はメモリに記憶され、次回の演算サイクルにおいて流量積算値Rの前回値として用いられる。
【0039】
次いで、ECU100は、流量積算値Rがしきい値Rthに達したか否かを判定する(ステップS20)。流量積算値Rがしきい値Rthに達していない場合(ステップS20においてNO)、ECU100は、スリット板60を回転させることなく、処理を終了してリターンに戻す。これにより、スリット板60は停止状態に固定される。
【0040】
一方、流量積算値Rがしきい値Rthに達した場合(ステップS20においてYES)、ECU100は、スリット板60を所定角度回転させる(ステップS30)。なお、スリット板60が所定角度回転された時点で、流量積算値Rはリセットされる。
【0041】
以上のように、本実施の形態による排気処理装置1によれば、一部が切り欠かれたスリット板60が、酸化触媒14の上流側の部分に酸化触媒14に隣接して設けられる。このような簡易な構造を有するスリット板60を設けて回転させることによって、酸化触媒14およびフィルタ15における排気の通過領域を意図的に変更することができる。そして、ECU100は、酸化触媒14およびフィルタ15の劣化評価値として流量積算値Rを算出し、流量積算値Rがしきい値Rthに達する毎にスリット板60を所定角度ずつ回転させる。これにより、排気の流れが酸化触媒14およびフィルタ15の一部に集中することを簡易な構造で適切に抑制することができる。その結果、酸化触媒14およびフィルタ15の耐久性および浄化効率の向上を図ることができる。また、排気がフィルタ15に均一に流れることによってフィルタ15の機能を最大限に発揮させることができるため、PM再生制御が頻繁に実行されることが抑制され、燃費も改善し得る。
【0042】
<変形例1>
上述の実施の形態においては、酸化触媒14およびフィルタ15を通過する排気量が多いほど酸化触媒14およびフィルタ15が劣化することに鑑み、劣化評価値として、流量積算値Rを用いる場合について説明した。
【0043】
しかしながら、フィルタ15へのPMの堆積量が多いほどフィルタ15の捕集機能が低下することに鑑み、劣化評価値として、フィルタ15へのPMの堆積量の積算値を用いるようにしてもよい。
【0044】
図8は、本変形例1による排気処理装置1Aの全体構成の一例を概略的に示す図である。排気処理装置1Aは、上述の図1に示す排気処理装置1のスリット板60およびモータ62を、それぞれスリット板60Aおよびモータ62Aに変更したものである。スリット板60Aは、排気通路12におけるフィルタ15の上流側の部分(酸化触媒14とフィルタ15との間の部分)に、フィルタ15に隣接して設けられる。モータ62Aは、回転軸C0回りにスリット板60Aを回転させるアクチュエータである。その他の構造は、上述の実施の形態と同じであるため、ここでの詳細な説明は繰返さない。
【0045】
排気流量はエンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEに応じて変化し、これに伴って単位時間あたりにフィルタ15に堆積されるPMの質量も変化する。そこで、本変形例1によるECU100は、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEに基づいて、単位時間あたりにフィルタ15に堆積されるPMの質量(以下「堆積量ΔD」ともいう)を算出する。
【0046】
図9は、堆積量ΔDの算出に用いられる堆積量マップの一例を示す図である。堆積量マップには、予め実験等によって得られた、燃料噴射量Qおよび回転速度NEと堆積量ΔDとの対応関係が予め規定されている。なお、堆積量ΔDの単位は、たとえば「g/s」である。堆積量マップは、ECU100のメモリに予め記憶されている。ECU100は、この堆積量マップを参照して、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEに対応する堆積量ΔDを算出する。なお、図9に示す数値は、あくまで例示であって、これに限定されるものではない。
【0047】
ECU100は、スリット板60Aが回転していない状態が継続している期間において堆積量ΔDを逐次算出し、算出された堆積量ΔDの積算値を「堆積量積算値D」として算出する。
【0048】
図10は、堆積量積算値Dの変化の一例を示す図である。図10に示すように、堆積量積算値Dは、エンジン10が運転されることによって徐々に増加する。ECU100は、堆積量積算値Dがしきい値Dthに達する毎にスリット板60Aを所定角度ずつ回転させる。具体的には、ECU100は、堆積量積算値Dがしきい値Dthに達するまでは、スリット板60Aを回転させずに停止状態に維持するようにモータ62Aを制御する。一方、堆積量積算値Dがしきい値Dthに達した場合には、ECU100は、スリット板60Aを所定角度回転させるようにモータ62Aを制御する。これらの一連の処理が、変形例1による第1回転制御である。
【0049】
図11は、ECU100が本変形例1による第1回転制御を実行する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。図11に示すフローチャートは、上述の図7に示すフローチャートのステップS12,S14,S20を、それぞれS12A,S14A,S20Aに変更したものである。
【0050】
ECU100は、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEを取得し(ステップS10)、図9に示した堆積量マップを参照して、取得した燃料噴射量Qおよび回転速度NEに対応する堆積量ΔDを算出する(ステップS12A)。
【0051】
次いで、ECU100は、ステップS12Aで算出された堆積量ΔDを堆積量積算値Dの前回値に加えた値を、堆積量積算値Dの今回値として算出する(ステップS14A)。
【0052】
次いで、ECU100は、堆積量積算値Dがしきい値Dthに達したか否かを判定する(ステップS20A)。堆積量積算値Dがしきい値Dthに達していない場合(ステップS20AにおいてNO)、ECU100は、スリット板60Aを回転させることなく、処理を終了してリターンに戻す。これにより、スリット板60は停止状態に固定される。
【0053】
一方、堆積量積算値Dがしきい値Dthに達した場合(ステップS20AにおいてYES)、ECU100は、スリット板60Aを所定角度回転させる(ステップS30)。なお、スリット板60が所定角度回転された時点で、堆積量積算値Dはリセットされる。
【0054】
以上のように、フィルタ15の劣化評価値として堆積量積算値Dを算出し、堆積量積算値Dがしきい値Dthに達する毎にスリット板60Aを所定角度ずつ回転させるようにしてもよい。
【0055】
<変形例2>
上述の変形例1においては、フィルタ15へのPMの堆積量が多いほどフィルタ15の捕集機能が低下することに鑑み、劣化評価値として、フィルタ15へのPMの堆積量の積算値を用いる場合について説明した。
【0056】
しかしながら、フィルタ15へのPMの堆積量が多いほどフィルタ15の上流側の排気と下流側の排気との圧力差が大きくなることに鑑み、劣化評価値として、フィルタ15の上流側の排気と下流側の排気との圧力差の増加量を用いるようにしてもよい。
【0057】
図12は、本変形例2による排気処理装置1Bの全体構成の一例を概略的に示す図である。排気処理装置1Bは、上述の図8に示す排気処理装置1Aに対して、差圧センサ70を追加したものである。排気処理装置1Bのその他の構造は、上述の排気処理装置1Aと同じであるため、ここでの詳細な説明は繰返さない。
【0058】
差圧センサ70は、スリット板60Aの切り欠き部分の上流側の排気とフィルタ15の下流側の排気との圧力差(以下「差圧Pd」ともいう)を検出し、その検出結果をECU100に出力する。
【0059】
図13は、ECU100が本変形例2による第1回転制御を実行する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。ECU100は、差圧センサ70によって検出された差圧Pdを取得し(ステップS10B)、スリット板60Aが回転していない状態が継続している期間における差圧Pdの増加量(以下「差圧増加量ΔPd」ともいう)を算出する(ステップS12B)。具体的には、ECU100は、ステップS10Bで取得された差圧Pdから差圧初期値Pd0を差し引いた値を、差圧増加量ΔPdとして算出する。差圧初期値Pd0とは、スリット板60Aを前回回転させた時の差圧Pdであり、メモリに記憶されている。
【0060】
次いで、ECU100は、差圧増加量ΔPdがしきい値Pthに達したか否かを判定する(ステップS20B)。差圧増加量ΔPdがしきい値Pthに達していない場合(ステップS20BにおいてNO)、ECU100は、スリット板60Aを回転させることなく、処理を終了してリターンに戻す。これにより、スリット板60Aは停止状態に固定される。
【0061】
一方、差圧増加量ΔPdがしきい値Pthに達した場合(ステップS20BにおいてYES)、ECU100は、スリット板60Aを所定角度回転させる(ステップS30B)。なお、ECU100は、スリット板60Aが所定角度回転された時の差圧Pdを、差圧初期値Pd0としてメモリに記憶する。差圧初期値Pd0は、次回以降の演算サイクルにおいて、差圧増加量ΔPdの算出に用いられる。
【0062】
以上のように、劣化評価値として、フィルタ15の上流側の排気と下流側の排気との圧力差の増加量(差圧増加量ΔPd)を用いるようにしてもよい。
【0063】
<変形例3>
上述の実施の形態で説明した第1回転制御においては、スリット板60を回転させていない状態で劣化評価値(流量積算値R)を算出し、劣化評価値がしきい値に達したタイミングでスリット板60を所定角度回転させる。
【0064】
しかしながら、スリット板60を常時回転させた状態で劣化評価値を算出し、劣化評価値に応じてスリット板60の回転速度を変更する制御(以下「第2回転制御」ともいう)を実行するようにしてもよい。
【0065】
図14は、本変形例3によるECU100が第2回転制御を実行する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件が成立する毎(たとえば所定周期毎)に繰り返し実行される。
【0066】
ECU100は、エンジン10の燃料噴射量Qおよび回転速度NEを取得し(ステップS10)、燃料噴射量Qおよび回転速度NEに対応する排気流量ΔRを劣化評価値として算出する(ステップS12)。
【0067】
次いで、ECU100は、排気流量ΔRに基づいて、スリット板60の回転速度Vを算出する(ステップS40)。たとえば、ECU100は、排気流量ΔRが大きいほど、回転速度Vを高い値に設定する。そして、ECU100は、ステップS40で算出された回転速度Vでスリット板60を回転させる(ステップS50)。これにより、排気流量ΔRが大きいほど、速い回転速度でスリット板60が回転される。そのため、排気が酸化触媒14およびフィルタ15に均一に供給され易くなる。
【0068】
以上のように、スリット板60を常時回転させ、劣化評価値(排気流量ΔR)に応じてスリット板60の回転速度を変更する「第2回転制御」を実行するようにしてもよい。このような第2回転制御を実行することによっても、排気が酸化触媒14およびフィルタ15に均一に供給され易くすることができる。そのため、上述の実施の形態と同様、排気の流れが酸化触媒14およびフィルタ15の一部に集中することを簡易な構造で適切に抑制することができる。
【0069】
<変形例4>
上述の実施の形態においてはスリット板60を回転させる例を示したが、回転させる対象を、スリット板60ではなく排気浄化装置(酸化触媒14およびフィルタ15)としてもよい。すなわち、排気の流れに沿う方向を回転軸として排気浄化装置(酸化触媒14およびフィルタ15)を回転させるモータ(アクチュエータ)を設け、このモータを上述の第1回転制御あるいは第2回転制御において作動することによって排気浄化装置を回転させるようにしてもよい。このように変形しても、上述の実施の形態と同様、排気の流れが酸化触媒14およびフィルタ15の一部に集中することを簡易な構造で適切に抑制することができる。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B 排気処理装置、10 エンジン、11 吸気通路、12 排気通路、14 酸化触媒、15 フィルタ、20 燃料噴射弁、30 燃料添加弁、50 エンジン回転速度センサ、60,60A スリット板、62,62A モータ、70 差圧センサ、100 ECU(電子制御装置)、C0 回転軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14