(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20230704BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20230704BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20230704BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C04B35/488
H01B3/12 335
H01B3/12 336
H01B3/12 338
H01G4/12 810
H01G4/12 090
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
(21)【出願番号】P 2019224830
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/043427(WO,A1)
【文献】特開2002-265261(JP,A)
【文献】特開2006-199536(JP,A)
【文献】特開2006-008460(JP,A)
【文献】特開2011-009369(JP,A)
【文献】国際公開第2006/082833(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/488
H01B 3/12
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相と、Ca-Zr-Si-O偏析相と、を含む誘電体組成物であって、
前記主相はABO
3で表される主成分を含み、
前記Aはカルシウムおよびストロンチウムから選ばれる少なくともいずれか1つであり、
前記Bはジルコニウム、チタン、ハフニウムおよびマンガンから選ばれる少なくともいずれか1つであり、
前記Bとして含まれるジルコニウム、チタン、ハフニウムおよびマンガンの合計を1モル部とした場合に、前記Bには、
チタンが0~0.2モル部含まれ、
ハフニウムが0~0.05モル部含まれ、
マンガンが0~0.05モル部含まれ、
前記Ca-Zr-Si-O偏析相には、少なくともカルシウム、ジルコニウムおよびケイ素が含まれ、
前記Ca-Zr-Si-O偏析相に含まれるカルシウム、ストロンチウム、ケイ素およびジルコニウムの合計を1モル部としたとき、
前記Ca-Zr-Si-O偏析相には
、
ジルコニウムが0.12~0.50モル部含まれ
カルシウムが0.16~0.77モル部含まれ、
ストロンチウムが0.00~0.30モル部含まれ、
ケイ素が0.08~0.45モル部含まれ、
(前記Ca-Zr-Si-O偏析相の面積/前記主相の面積)×100[%]の式で表される前記Ca-Zr-Si-O偏析相の面積比率が0.5~20%である誘電体組成物。
【請求項2】
前記Ca-Zr-Si-O偏析相の結晶系は単斜晶系である請求項
1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記Ca-Zr-Si-O偏析相の円相当径は0.05~2μmである請求項1
または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の誘電体組成物を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に組み込まれる電子回路あるいは電源回路には、誘電体が発現する誘電特性を利用する積層セラミックコンデンサのような電子部品が多数搭載される。特許文献1には、CaTiO3およびCaZrO3を主成分とする主結晶相と、CaおよびSiを主成分とする二次相とを有する誘電体組成物が開示されている。
【0003】
しかし、上記の誘電体組成物では、高温多湿の環境下におけるクラックの発生に対して抑制効果が十分ではないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高温多湿の環境下におけるクラックの発生に対して高い抑制効果を発揮できる誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る誘電体組成物は、
主相と、Ca-Zr-Si-O偏析相と、を含む誘電体組成物であって、
前記主相はABO3で表される主成分を含み、
前記Aはカルシウムおよびストロンチウムから選ばれる少なくともいずれか1つであり、
前記Bはジルコニウム、チタン、ハフニウムおよびマンガンから選ばれる少なくともいずれか1つであり、
前記Ca-Zr-Si-O偏析相には、少なくともカルシウム、ジルコニウムおよびケイ素が含まれ、
前記Ca-Zr-Si-O偏析相に含まれるカルシウム、ストロンチウム、ケイ素およびジルコニウムの合計を1モル部としたとき、
前記Ca-Zr-Si-O偏析相には、ジルコニウムが0.12~0.50モル部含まれる。
【0007】
本発明に係る誘電体組成物では、前記Ca-Zr-Si-O偏析相には、
カルシウムが0.16~0.77モル部含まれ、
ストロンチウムが0.00~0.30モル部含まれ、
ケイ素が0.08~0.45モル部含まれることが好ましい。
【0008】
本発明に係る誘電体組成物では、前記Ca-Zr-Si-O偏析相の結晶系は単斜晶系であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る誘電体組成物では、前記Ca-Zr-Si-O偏析相の円相当径は0.05~2μmであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る誘電体組成物では、(前記Ca-Zr-Si-O偏析相の面積/前記主相の面積)×100[%]の式で表される前記Ca-Zr-Si-O偏析相の面積比率が0.5~20%であることが好ましい。
【0011】
本発明の電子部品は、本発明に係る誘電体組成物を含む誘電体層を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す誘電体層を構成する誘電体組成物の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<
1.積層セラミックコンデンサ>
本実施形態に係る電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が
図1に示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0014】
1.1 誘電体層
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは30μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
【0015】
なお、本実施形態では、誘電体組成物が後述するCa-Zr-Si-O偏析相16を有することにより、誘電体層2の厚みを薄くしても、高温多湿の環境下におけるクラック発生が抑制される。このため、本実施形態では、誘電体層2を2μmまで薄くすることができる。
【0016】
誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態では、たとえば20以上であることが好ましい。
【0017】
1.2 内部電極層
本実施形態では、内部電極層3は、各端部が素子本体10の対向する2端面の表面に交互に露出するように積層してある。
【0018】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されない。導電材として用いられる貴金属としては、たとえばPd、Pt、Ag-Pd合金等が挙げられる。導電材として用いられる卑金属としては、たとえばNi、Ni系合金、Cu、Cu系合金等が挙げられる。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、Pおよび/またはS等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
1.3 外部電極
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂等公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0020】
<
2.誘電体組成物>
図2に示すように、本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物は、主相14の間にCa-Zr-Si-O偏析相16を含む。
【0021】
2.1 主相
本実施形態の主相14はABO3で表される主成分を含む。なお、主相14の主成分とは、主相100質量部に対して、80~100質量部を占める成分であり、好ましくは、90~100質量部を占める成分である。
【0022】
(Aのモル比/Bのモル比)で表されるAとBとのモル比は1であってもよいし、1でなくてもよい。AとBのモル比は0.9~1.2であることが好ましい。
【0023】
Aはカルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)から選ばれる少なくともいずれか1つを含む。本実施形態では、Aはカルシウム(Ca)であることが好ましい。
【0024】
また、Aとして含まれるカルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)の合計を1モル部とした場合に、Aにはストロンチウム(Sr)が0~0.5モル部含まれていてもよい。
【0025】
Bはジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)およびマンガン(Mn)から選ばれる少なくともいずれか1つを含む。本実施形態では、Bはジルコニウム(Zr)であることが好ましい。
【0026】
また、Bとして含まれるジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)およびマンガン(Mn)の合計を1モル部とした場合に、Bには、チタン(Ti)が0~0.2モル部含まれることが好ましく、0~0.1モル部含まれることがより好ましい。
【0027】
Bとして含まれるジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)およびマンガン(Mn)の合計を1モル部とした場合に、Bには、ハフニウム(Hf)が0~0.05モル部含まれることが好ましく、0~0.02モル部含まれることがより好ましい。
【0028】
Bとして含まれるジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)およびマンガン(Mn)の合計を1モル部とした場合に、Bには、マンガン(Mn)が0~0.05モル部含まれることが好ましく、0~0.03モル部含まれることがより好ましい。
【0029】
本実施形態では、主相14は必要に応じて、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)および希土類元素(RE)等の元素を含有してもよい。
【0030】
2.2 Ca-Zr-Si-O偏析相
図2に示すように、本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体組成物は、上記の主相14の間に、Ca-Zr-Si-O偏析相16を含む。Ca-Zr-Si-O偏析相16には、少なくともカルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)が含まれる。これにより、本実施形態の誘電体組成物は、高温多湿の環境下におけるクラックの発生に対して高い抑制効果を発揮することができる。
【0031】
Ca-Zr-Si-O偏析相16に含まれるカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ケイ素(Si)およびジルコニウム(Zr)の合計を1モル部としたとき、Ca-Zr-Si-O偏析相16には、カルシウム(Ca)が0.16~0.77モル部含まれることが好ましく、0.22~0.53モル部含まれることがより好ましい。
【0032】
Ca-Zr-Si-O偏析相16に含まれるカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ケイ素(Si)およびジルコニウム(Zr) の合計を1モル部としたとき、Ca-Zr-Si-O偏析相16には、ストロンチウム(Sr)が0.00~0.30モル部含まれることが好ましく、0~0.15モル部含まれることがより好ましい。
【0033】
Ca-Zr-Si-O偏析相16に含まれるカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ケイ素(Si)およびジルコニウム(Zr)の合計を1モル部としたとき、Ca-Zr-Si-O偏析相16には、ジルコニウム(Zr)が0.12~0.50モル部含まれることが好ましく、0.17~0.45モル部含まれることがより好ましい。
【0034】
Ca-Zr-Si-O偏析相16に含まれるカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ケイ素(Si)およびジルコニウム(Zr)の合計を1モル部としたとき、Ca-Zr-Si-O偏析相16には、ケイ素(Si)が0.08~0.45モル部含まれることが好ましく、0.11~0.40モル部含まれることがより好ましい。
【0035】
なお、Ca-Zr-Si-O偏析相16は上記の元素以外の元素を含んでいてもよく、たとえばマンガン(Mn)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、マグネシウム(Mg)等の元素を含有してもよい。
【0037】
Ca-Zr-Si-O偏析相16を構成する具体的な化合物としては、(Ca,Sr)3ZrSi2O9が好ましい。なお、ストロンチウム(Sr)は含まれなくても良い。
【0038】
本実施形態において、誘電体層2を構成する誘電体組成物がCa-Zr-Si-O偏析相16を有するか否かを判断する方法としては、特に限定されないが、以下に具体的な方法を例示する。
【0039】
まず、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて誘電体組成物の断面を撮影し、明視野(BF)像を得る。撮影する視野の広さは特に限定されないが、たとえば、1~10μm四方程度の広さである。この明視野像において主相14とは異なるコントラストを有する領域を異相であると認定する。異なるコントラストを有するか否か、すなわち異相を有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0040】
そして、上記の異相について、EDS分析により、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)の各量を測定する。
【0041】
異相の同じ位置にカルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)が存在しており、異相に含まれるジルコニウム(Zr)の含有量が、上記の範囲に含まれる場合には、その異相はCa-Zr-Si-O偏析相16であると判断する。
【0042】
この他にも、マッピング画像によりCa-Zr-Si-O偏析相16の有無を判断してもよい。具体的には、カルシウム(Ca)のマッピング画像と、ジルコニウム(Zr)のマッピング画像と、ケイ素(Si)のマッピング画像と、を比較して、同じ位置にカルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)が存在している箇所を特定する。そして、特定された箇所に含まれるジルコニウム(Zr)の含有量が、上記の範囲に含まれる場合には、その異相はCa-Zr-Si-O偏析相16であると判断する。
【0043】
本実施形態では、Ca-Zr-Si-O偏析相16の円相当径が0.05~2μmであることが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましい。なお、円相当径とは、当該形状の面積と同じ面積を有する円の径を示す。
【0044】
本実施形態では、Ca-Zr-Si-O偏析相16の面積比率を「(Ca-Zr-Si-O偏析相の面積/主相の面積)×100[%]」の式で表す。
【0045】
本実施形態では、Ca-Zr-Si-O偏析相16の面積比率が0.5~20%であることが好ましく、1~10%であることがより好ましい。
【0046】
本実施形態では、Ca-Zr-Si-O偏析相16の結晶系は単斜晶系であることが好ましい。
【0047】
本実施形態では、誘電体組成物は、Ca-Zr-O系偏析相を含んでいてもよい。Ca-Zr-O系偏析相はCa安定化ジルコニアである。また、Ca-Zr-O系偏析相の結晶系は立方晶系である。
【0048】
上記の通り、本実施形態の誘電体組成物の主相14はABO3で表される主成分を含み、Aはカルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)から選ばれる少なくともいずれか1つであり、Bはジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)およびマンガン(Mn)から選ばれる少なくともいずれか1つである。以下では、本実施形態の主相14の組成系を(Ca,Sr)ZrO3と表す。
【0049】
主相14の組成系をBaTiO3とする場合に比べて、主相14の組成系を(Ca,Sr)ZrO3とすると、電圧を加えた際の静電容量の変化が小さく、温度を変えたときの静電容量の変化が小さく、高周波電流を流しても誘電損失が少ないために発熱が抑えられるというメリットがある。このため、主相14の組成系を(Ca,Sr)ZrO3とする誘電体組成物は、たとえば共振回路に好適に利用することもできる。
【0050】
本発明者は、主相14の組成系を(Ca,Sr)ZrO3とする誘電体組成物がCa-Zr-Si-O偏析相16を有することにより、誘電体層2の厚みを薄くしても、高温多湿の環境下におけるコンデンサの抵抗劣化が抑制されることを見出した。その理由は必ずしも定かではないが、誘電体組成物に生じた軽度のクラックがCa-Zr-Si-O偏析相16に到達することにより、その軽度のクラックの進行が止まり、コンデンサの抵抗を低下させてしまう程度の大きなクラック発生が抑制されるためであると考えられる。
【0051】
このため、本実施形態では、誘電体層2の厚みを前述した厚みまで薄くすることができる。
【0052】
<
3.積層セラミックコンデンサの製造方法>
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0053】
本実施形態では、上記の誘電体組成物を構成する主相14の主成分であるABO3粒子の仮焼き粉末と、第1添加剤の仮焼き粉末と、第2添加剤の仮焼き粉末と、を用意する。
【0054】
第1添加剤の仮焼き粉末とは、焼成後にCa-Zr-Si-O偏析相16を構成するカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)の仮焼き粉末である。
【0055】
また、第2添加剤とは、焼成後にCa-Zr-O偏析相に含まれることになるカルシウム(Ca)およびジルコニウム(Zr)の仮焼き粉末である。
【0056】
上記の各元素の原料としては特に限定されず、各元素の酸化物を用いることができる。また、焼成により各元素の酸化物を得ることができる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。本実施形態では、上記の出発原料は粉末であることが好ましい。
【0057】
準備した出発原料のうち、ABO3粒子の原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において700~1300℃の範囲で熱処理を行い、ABO3粒子の仮焼き粉末を得る。また、仮焼き粉末はボールミル等を用いて所定の時間、粉砕を行ってもよい。
【0058】
焼成後にCa-Zr-Si-O偏析相16を構成するカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)の酸化物等の各種化合物等を準備し、熱処理して第1添加剤の仮焼き粉末を得る。
【0059】
第1添加剤の仮焼き粉末の粉砕条件を変えることで、Ca-Zr-Si-O偏析相16の円相当径を変えることができる。たとえばボールミルの粉砕時間を変えることで円相当径を調整することができる。
【0060】
焼成後にCa-Zr-O系偏析相を構成するカルシウム(Ca)およびジルコニウム(Zr)の酸化物等の各種化合物等を準備し、熱処理して第2添加剤の仮焼き粉末を得る。
【0061】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られたABO3粒子の仮焼き粉末と、第1添加剤の仮焼き粉末と、第2添加剤の仮焼き粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。
【0062】
誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤や分散剤等の添加物を含んでもよい。
【0063】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0064】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0065】
得られた各ペーストを用いて、グリーンシートおよび内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0066】
得られたグリーンチップに対し、必要に応じて、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、たとえば、保持温度を好ましくは200~350℃とする。
【0067】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体10を得る。本実施形態では、焼成時の雰囲気は特に限定されず、空気中であってもよいし、還元雰囲気下であってもよい。本実施形態では、焼成時の保持温度は特に限定されず、たとえば1200~1350℃である。
【0068】
焼成後、得られた素子本体10に対し、必要に応じて、再酸化処理(アニール)を行う。アニール条件は、たとえば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1150℃以下とすることが好ましい。
【0069】
上記のようにして得られた素子本体10の誘電体層2を構成する誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体10に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0070】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0071】
[変形例]
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であれば何でもよい。
【0072】
たとえば、上述した誘電体組成物に一対の電極が形成された単板型のセラミックコンデンサであってもよい。
【0073】
また、誘電体組成物には、Ca-Zr-O系偏析相が含まれていなくてもよい。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実験1>
試料番号1~26では、誘電体組成物に含まれる主相の出発原料として、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)および炭酸マンガン(MnCO3)の粉末を準備した。焼成後の主相の組成が表1に記載の通りになるように、準備した出発原料を秤量した。
【0077】
次に、秤量した各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、得られた混合原料粉末を、大気中において保持温度900℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、主相の主成分化合物の仮焼き粉末を得た。
【0078】
また、第1添加剤の原料として、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)および酸化ケイ素(SiO2)の粉末を準備した。第1添加剤を構成する各元素のモル比が表1に記載の通りとなり、なおかつ、第1添加剤の添加量が3質量部となるように、準備した出発原料を秤量した。
【0079】
なお、第1添加剤の添加量とは、主相の主成分を100質量部としたときの第1添加剤の添加量である。
【0080】
炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)および酸化ケイ素(SiO2)の粉末に対して、大気中において保持温度900℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、第1添加剤の仮焼き粉末を得た。
【0081】
得られた主相の主成分化合物の仮焼き粉末および第1添加剤の仮焼き粉末を分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式粉砕し、乾燥し、誘電体原料を得た。
【0082】
得られた誘電体原料:100質量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10質量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5質量部と、溶媒としてのメチルエチルケトン(MEK):100質量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0083】
また、Ni粒子:44.6質量部と、テルピネオール:52質量部と、エチルセルロース:3質量部と、ベンゾトリアゾール:0.4質量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0084】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、グリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、内部電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、内部電極層を有するグリーンシートを作製した。
【0085】
次いで、内部電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0086】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、素子本体を得た。
【0087】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0088】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃とし、保持時間を2時間とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN2+H2混合ガスとし、酸素分圧が10-12MPaとなるようにした。
【0089】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN2ガス(酸素分圧:10-7MPa)とした。
【0090】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0091】
次いで、得られたコンデンサ素子本体の表面をバレル研磨した。その後、外部電極としてCuを塗布した後に窒素ガス中で焼付を行い、
図1に示す積層セラミックコンデンサのコンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×1.6mmであり、誘電体層の厚み2.5μm、内部電極層の厚み1.1μm、内部電極層に挟まれた内層誘電体層の数は200とした。
【0092】
得られたコンデンサ試料の誘電体組成物(誘電体層)の断面の10μm×10μmの視野について、STEMにより異相を認定し、EDSを用いて、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)の各量を測定して、Ca-Zr-Si-O偏析相であるか否かの判断をした。
【0093】
なお、表1の各コンデンサ試料では、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)およびケイ素(Si)の第1添加剤のモル比とCa-Zr-Si-O偏析相の平均のモル比は一致していた。
【0094】
得られた誘電体組成物(誘電体層)に含まれていたCa-Zr-Si-O偏析相について、電子線回折を行い、電子線回折図形を分析することで結晶系を解析した。結果を表1に示す。
【0095】
第1PCBT試験は以下の通り行った。コンデンサ試料をFR4基板(ガラスエポキシ基板)にSn-Ag-Cu半田で実装し、プレッシャークッカー槽に投入し、121℃、湿度95%の雰囲気下で50Vの電圧印加を100時間行う加速耐湿負荷試験を実施した。各コンデンサ試料について、500個ずつ試験を実施した。各コンデンサ試料の不良数を表1に示す。
【0096】
【表1】
表1より、Ca-Zr-Si-O偏析相を有する場合(試料番号3、7~26)は、Ca-Zr-Si-O偏析相を有していない場合(試料番号1、2および4~6)に比べて、第1PCBT試験による不良数が少なく、高温多湿の環境下におけるクラックの発生に対して高い抑制効果を発揮することが確認できた。
【0097】
<実験2>
試料番号31~35では、第1添加剤の仮焼き粉末のボールミルでの粉砕時間を変えることで円相当径を調整した以外は、実験1と同様にしてコンデンサ試料を得た。
【0098】
試料番号31~35では、実験1と同様にして、Ca-Zr-Si-O偏析相の存在を判断した。結果を表2に示す。
【0099】
試料番号3および31~35では、10箇所のCa-Zr-Si-O偏析相の平均の円相当径を求めた。
【0100】
試料番号31~35では、実験1と同様にして、第1PCBT試験を実施した。結果を表2に示す。
【0101】
第2PCBT試験は以下の通り行った。コンデンサ試料をFR4基板(ガラスエポキシ基板) にSn-Ag-Cu半田で実装し、プレッシャークッカー槽に投入し、121℃、湿度95%の雰囲気下で50Vの電圧印加を500時間行う加速耐湿負荷試験を実施した。各コンデンサ試料について、100個ずつ試験を実施した。各コンデンサ試料の不良数を表2に示す。
【0102】
【0103】
表2より、Ca-Zr-Si-O偏析相の円相当径が0.1μm以上、1μm以下の場合(試料番号32、33、3および34)は、Ca-Zr-Si-O偏析相の円相当径が0.05μmの場合(試料番号31)およびCa-Zr-Si-O偏析相の円相当径が2μmの場合(試料番号35)に比べて、第2PCBT試験による不良数が少なく、高温多湿の環境下におけるクラックの発生に対してより高い抑制効果を発揮することが確認できた。
【0104】
<実験3>
試料番号41~44では、第1添加剤の添加量を変化させた以外は、実験1と同様にしてコンデンサ試料を得た。
【0105】
試料番号41~44では、実験1と同様にして、Ca-Zr-Si-O偏析相の存在を判断した。
【0106】
試料番号3および41~44では、10箇所の10μm四方の視野におけるCa-Zr-Si-O偏析相の平均の面積比率を求めた。
【0107】
試料番号41~44では、実験1と同様にして、第1PCBT試験を実施した。結果を表3に示す。
【0108】
試料番号41~44では、実験3と同様にして、第2PCBT試験を実施した。結果を表3に示す。
【0109】
【0110】
表3より、Ca-Zr-Si-O偏析相の面積比率が0.50%より大きく、20%未満の場合(試料番号42、3および43)は、Ca-Zr-Si-O偏析相の面積比率が0.50%の場合(試料番号41)およびCa-Zr-Si-O偏析相の面積比率が20%の場合(試料番号44)に比べて、第2PCBT試験による不良数が少なく、高温多湿の環境下におけるクラックの発生に対してより高い抑制効果を発揮することが確認できた。
【符号の説明】
【0111】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
14… 主相
16… Ca-Zr-Si-O偏析相
3… 内部電極層
4… 外部電極