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特許7306274ジシアノシクロヘキサン、及びビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】ジシアノシクロヘキサン、及びビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/22 20060101AFI20230704BHJP
   C07C 255/46 20060101ALI20230704BHJP
   C07C 211/18 20060101ALI20230704BHJP
   C07C 209/48 20060101ALI20230704BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C07C253/22
C07C255/46
C07C211/18
C07C209/48
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019562095
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047809
(87)【国際公開番号】W WO2019131746
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017252013
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】中野 絵美
(72)【発明者】
【氏名】塩見 法行
(72)【発明者】
【氏名】飯田 昭文
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-082039(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046782(WO,A1)
【文献】特公昭47-023535(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 253/22
C07C 255/46
C07C 211/18
C07C 209/48
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩と、アンモニア源とのシアノ化反応により、ジシアノシクロヘキサンを得るシアノ化工程を有し、
前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩が単離されていて、
前記シアノ化工程において、少なくとも、酸化亜鉛、酸化スズ、または酸化鉄を含む触媒を使用する、ジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項2】
前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸が、2-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、3-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、又は4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を含む、請求項1に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項3】
前記シアノ化工程において、前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩100質量%に対して、0.05~20質量%の前記触媒を使用する、請求項1又は2に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項4】
前記アンモニア源が、アンモニア、尿素、炭酸水素アンモニウム、または炭酸アンモニウムを含む、請求項1~のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項5】
前記シアノ化工程に用いる前記アンモニア源と、前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩とのモル比であって、前記アンモニア源のモル数/前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び又はその塩のモル数の比が0.1~5である、請求項1~のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項6】
前記シアノ化工程において、使用する溶媒のうち少なくとも1種の沸点が600℃以下である、請求項1~のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項7】
前記シアノ化工程に用いる、前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩に対する前記溶媒の重量比が10以下である、請求項に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項8】
前記シアノ化工程における反応温度が150℃~350℃である、請求項1~のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項9】
前記シアノ化工程における反応圧力が0.001MPa~10MPaである、請求項1~のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項10】
前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の塩が、アンモニウム塩を含む、請求項1~のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法により得られた前記ジシアノシクロヘキサンに対する水素添加反応により、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得るアミノ化工程を有する、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジシアノシクロヘキサン等のジシアノシクロヘキサン、及び、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等のビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、エポキシ硬化剤、ポリアミド、ポリウレタン等の原料として使用される工業的に重要な化合物である。このようなビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、ジシアノシクロヘキサンの水素添加反応により得られるため、このジシアノシクロヘキサンを効率よく製造する方法が検討されている。例えば、シクロヘキサンジカルボン酸ジエステルをアンモニア源存在下でシアノ化する方法(例えば特許文献1)、シクロヘキサンジアミドを加熱する方法(例えば特許文献2)、及び、シクロヘキサンジカルボン酸を溶媒なしで、アンモニア源存在下で加熱してシアノ化する方法(例えば特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-010752号公報
【文献】中国特許公開第105016944号
【文献】国際公開第2012/046782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の製法によっては、ジシアノシクロヘキサンを効率的に製造できないという問題があった。例えば、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル等のジエステルを、アンモニア源との反応によりシアノ化する工程を用いた場合、目的化合物であるジシアノシクロヘキサンの生成と共にメタノール等のアルコールが副生する。このアルコールはアンモニア源と反応してメチルアミン等のアルキルアミン類を生成し、さらにはアルキルアミン類と原料のエステルからアミドが副生するため、目的化合物の収率低下や、分離困難な副生物を生じる。
【0005】
また、原料として融点の高いシクロヘキサンジカルボキサミド(例としてtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボキサミドの融点:345~350℃)等を用いてジシアノシクロヘキサンを製造する場合、原料の溶融及び溶解が困難であるため、製法の効率化や省エネ化が妨げられる。そしてシクロヘキサンジカルボキサミドと同様に融点の高いシクロヘキサンジカルボン酸(例としてtrans-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の融点:285~321℃)を原料として溶媒なしで用いた場合においても、同じ問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、主として上述の課題に鑑みてなされたものであり、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの前駆体であるジシアノシクロヘキサン、及び、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの有用かつ新規な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、溶媒を用いない、もしくは必要に応じて溶媒を用いつつ特定の化合物を原料とし、分離の困難な副生物を生じさせずに工程数を抑えて効率的に、ジシアノシクロヘキサン及びビス(アミノメチル)シクロヘキサンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩と、アンモニア源とのシアノ化反応により、ジシアノシクロヘキサンを得るシアノ化工程を有する、ジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(2)前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸が、2-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、3-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、又は4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を含む、上記(1)に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(3)シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩とジシアノシクロヘキサンを加熱することにより、前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩、および、ジシアノシクロヘキサンの混合物を得る原料製造工程をさらに有する、上記(1)又は(2)に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(4)前記原料製造工程において、前記シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩に対する前記ジシアノシクロヘキサンの重量比が0.3~7.8である混合物を加熱する、上記(3)に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(5)前記原料製造工程において、加熱により生じる前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の生成量が、加熱前の前記シクロヘキサンジカルボン酸に対して20~100モル%となる、上記(3)~(4)に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(6)前記シアノ化工程において、少なくとも、酸化亜鉛、酸化スズ、又は酸化鉄を含む触媒を使用する、上記(3)~(5)に記載のジシアノシクロヘキサン製造方法。
(7)前記アンモニア源が、アンモニア、尿素、炭酸水素アンモニウム、又は炭酸アンモニウムを含む、上記(1)~(6)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(8)前記シアノ化工程に用いる前記アンモニア源と前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩とのモル比が0.1~5である、上記(1)~(7)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(9)前記シアノ化工程において、使用する溶媒のうち少なくとも1種の沸点が600℃以下である、上記(1)~(8)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(10)前記シアノ化工程に用いる、前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩に対する前記溶媒の重量比が10以下である、上記(1)~(9)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(11)前記シアノ化工程における反応温度が150℃~350℃である、上記(1)~(10)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(12)前記シアノ化工程における反応圧力が0.001MPa~10MPaである、上記(1)~(11)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(13)前記シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の塩が、アンモニウム塩を含む、上記(1)~(12)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(14)前記シクロヘキサンジカルボン酸の塩が、アンモニウム塩を含む、上記(3)~(13)のいずれかに記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法。
(15)上記(1)~(14)のいずれか1項に記載のジシアノシクロヘキサンの製造方法により得られた前記ジシアノシクロヘキサンに対する水素添加反応により、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得るアミノ化工程を有する、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反応系からの分離が困難である副生物を生じさせず、また、比較的、融点の低い原料物質を取り扱うことによる反応の効率化、及び/又は収率の向上を可能にするジシアノシクロヘキサンの製造方法、及び、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
1.シアノ化工程
本実施形態のジシアノシクロヘキサンの製造方法は、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸とアンモニア源とのシアノ化反応により、ジシアノシクロヘキサンを得るシアノ化工程を含む。シアノ化工程の概略は、以下の式(I)によって表される。
【化1】
【0012】
シアノ化工程に用いるシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸としては、2位、3位、又4位にシアノ基を有するもの、すなわち、下記式(a)に示される2-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、下記式(b)に示される3-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、又は下記式(c)に示される4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸が好ましい。シアノ化工程においては、2-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、3-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、及び、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸又はこれらの塩のうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いても良い。さらにまた、本実施形態における下記式(a)~(c)のシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸として、シス体、トランス体、シス体とトランス体との混合物のいずれを用いてもよい。
【化2】
【0013】
シアノ化工程に用いるシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の塩の好ましい具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、より好ましい具体例としては、アンモニウム塩が挙げられる。
シアノ化工程においては、2-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、3-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、及び、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸のいずれの塩を用いても良く、これらの塩の混合物を用いても良い。また、2-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、3-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸、及び、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の少なくともいずれかと、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の上述の塩の少なくともいずれかを含む混合物をシアノ化工程において用いても良い。
なおこのように、本実施形態におけるシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸には塩の形態も包含され得るため、以下、「シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩」を単に「シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸」とも記載する。
【0014】
アンモニア源としては、アンモ二ア、尿素、炭酸水素アンモニウム、及び炭酸アンモニウム等が好適に用いられる。これらのうちいずれか一種、又は複数を混合して使用しても良い。アンモニア源としてアンモニアを用いる場合、アンモニアガスの使用が好ましい。
【0015】
シアノ化工程に用いられるアンモニア源とシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩とのモル比(アンモニア源のモル数/シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸のモル数)は、0.1~5であることが好ましく、より好ましくは0.3~4であり、特に好ましくは0.5~3の範囲内である。なお、アンモニアガス等の気体をアンモニア源として用いる場合、1時間当たりの合計流量のモル数を上記アンモニア源のモル数とする。
【0016】
シアノ化工程においては無溶媒、もしくは溶媒を用いても良く、好ましくは沸点が600℃以下の溶媒、より好ましくは沸点が500℃以下の溶媒、さらに好ましくは沸点が420℃以下の溶媒が使用される。また、シアノ化反応の反応温度以上である溶媒の沸点は、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは270℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。沸点が300℃以上であることにより、シアノ化反応が円滑に進行し、且つ、ジシアノシクロヘキサンの三量体といったような不純物の生成を抑えることができる傾向にある。
シアノ化工程において用いられる溶媒として、ヘプタデカン、ノナデカン、ドコサン等の脂肪族アルカン;ヘプタデセン、ノナデセン、ドコセン等の脂肪族アルケン;ヘプタデシン、ノナデシン、ドコシン等の脂肪族アルキン;ウンデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン等のアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン及びアルキルナフタレン等のアルキル置換芳香族;2,5-ジクロロ安息香酸、テトラクロロフタル酸無水物等の酸または酸無水物;ウンデカンアミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド等のアミド化合物;テトラデカンニトリル、ヘキサデカンニトリル、2-ナフチルアセトニトリル、ステアロニトリル、1,4-ジシアノシクロヘキサン等のニトリル化合物;p-クロロジフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等のリン化合物;1,2-ジフェニルエチルアミン、トリオクチルアミン等のアミン;2,2’-ビフェノール、トリフェニルメタノール等の水酸化物;安息香酸ベンジル、フタル酸ジオクチル等のエステル;4-ジブロモフェニルエーテル等のエーテル;1,2,4,5-テトラクロロ-3-ニトロベンゼン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン等のハロゲン化ベンゼン;2-フェニルアセトフェノン、アントラキノン等のケトン並びにトリフェニルメタン;等が挙げられる。
これらのうち、アルキルナフタレン、トリフェニルメタン、ジシアノシクロヘキサン等がシアノ化反応の進行を妨げない点で好ましい。
シアノ化工程における溶媒量は、シアノ化反応が十分に進行する量であれば良いが、無溶媒、もしくは溶媒と原料であるシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸及び/又はその塩との重量比(溶媒(ただし後述するジシアノシクロヘキサンを除く)の重量(g)/シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の重量(g))が、10以下であることが好ましく、0.01~10であることがより好ましく、さらに好ましくは0.05~5であり、特に好ましくは0.1~3の範囲内である。
なお、シアノ化工程における原料であるシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸やその塩を溶解させるために、目的物でもあるジシアノシクロヘキサンを溶媒として用いても良い。また、溶媒として使用するジシアノシクロヘキサンの重量比(溶媒の重量(g)/シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の重量(g))算出には、原料製造工程に使用されるジシアノシクロヘキサンを含めず、これを溶媒量として扱わない。
【0017】
シアノ化工程における反応温度は、150℃~350℃であることが好ましく、より好ましくは200℃~340℃であり、さらに好ましくは230℃~330℃であり、特に好ましくは250℃~320℃の範囲内である。
また、シアノ化工程における反応圧力は、陰圧であっても常圧であっても陽圧であってもよいが、0.001MPa~10MPaであることが好ましく、より好ましくは0.05MPa~5MPaであり、さらに好ましくは0.08MPa~0.12MPaの範囲内、例えば常圧(0.1MPa)である。
【0018】
シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸やその塩からジシアノシクロヘキサンを得るシアノ化反応のために、触媒を使用することが好ましい。触媒は、均一系触媒でも不均一系触媒でも使用することができる。
触媒としては、通常のシアノ化反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化マンガン、酸化タングステン、五酸化バナジウム、五酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化スカンジウム等の金属酸化物であり、これらは単体でも複合酸化物でも担持したものでも良い。担持成分としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、スズ、レニウム、マンガン、モリブデン、タングステン、バナジウム、鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、ホウ酸、塩酸、リン酸等が挙げられる。
上記の活性成分としての金属触媒を、カーボン、ハイドロタルサイト、MgO、Al、SiO、SiO-Al、TiO、及びZrOのような通常用いられる1種又は2種以上の担体上に担持した触媒を用いても良い。担体を用いた場合の活性成分である金属触媒の担持量は、担体100質量%に対して、0.1~10質量%であると好ましい。
また、触媒としては、過レニウム酸や酸化レニウム等のレニウム化合物、酸化ジブチルスズ等の有機スズ化合物、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)等のルテニウム化合物、及び酸化コバルト等も挙げられる。
これらの中では、シアノ化反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、酸化亜鉛、酸化スズ、又は、酸化鉄を含む触媒が好ましい。触媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。さらに、触媒の使用量は、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸もしくはシクロヘキサンジカルボン酸もしくはそれらの塩100質量%に対して、好ましくは0.05~20質量%である。触媒を上記の範囲内の量とすることにより、得られるジシアノシクロヘキサンの収率を高めることができる。なお、上記触媒はシアノ化工程に限らず、原料製造工程において存在していても良い。
【0019】
2.原料製造工程
本実施形態のジシアノシクロヘキサンの製造方法においては、原料として単離されているシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を用いても良い一方、単離されていないシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸やその前駆体を用いても良い。すなわち、シクロヘキサンジカルボン酸と、そのシアノ化によりシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を生成するためのニトリル化合物等、または、ジシアノシクロヘキサンとそのカルボキシル化によりシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を生成するためのカルボキシ基を有する化合物等を用いても良い。また、好ましくは、シクロヘキサンジカルボン酸とジシアノシクロヘキサンを加熱させつつ、シクロヘキサンジカルボン酸をシアノ化する下記式(II)に示す反応により、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を得る原料製造工程を設けても良い。
【0020】
【化3】
【0021】
このように、原料製造工程において、あえて目的化合物であるジシアノシクロヘキサンを溶媒として原料のシクロヘキサンジカルボン酸とともに用いることにより、シクロヘキサンジカルボン酸よりも融点の低いシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸が生成し、単離工程も必要としないため、ジシアノシクロヘキサンを得る反応の効率化が可能である。
原料製造工程に用いるシクロヘキサンジカルボン酸としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のいずれかが好ましい。原料製造工程においては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸又はこれらの塩のうち1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いても良い。さらにまた、本実施形態におけるシクロヘキサンジカルボン酸として、シス体、トランス体、シス体とトランス体との混合物のいずれを用いてもよい。
【0022】
なお、シアノ化工程においては、上述のようにシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の塩を用いることもできるが、原料製造工程においても、シクロヘキサンジカルボン酸の塩を用いても良く、モノ塩、及び、ジ塩のいずれであっても良い。シクロヘキサンジカルボン酸の塩の好ましい具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、より好ましい具体例としては、アンモニウム塩が挙げられる。
原料製造工程においては、シクロヘキサンジカルボン酸の上述のいずれの塩を用いても良く、また、これらの塩の混合物を用いても良い。また、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の少なくともいずれかと、シクロヘキサンジカルボン酸の上述の塩の少なくともいずれかを含む混合物を原料製造工程において用いても良い。
原料製造工程において、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩と、ジシアノシクロヘキサンとを加熱することにより、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸および/またはその塩、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩、及び、ジシアノシクロヘキサンの混合物を得ることができる。
なおこのように、本実施形態におけるシクロヘキサンジカルボン酸には塩の形態も包含され得るため、以下、「シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩」を単に「シクロヘキサンジカルボン酸」とも記載する。
【0023】
このように、原料製造工程においては、シクロヘキサンジカルボン酸とジシアノシクロヘキサンとを予め混合し、これらの混合物を加熱しつつシクロヘキサンジカルボン酸をシアノ化することが好ましい。
原料製造工程におけるこのような混合物において、ジシアノシクロヘキサンとシクロヘキサンジカルボン酸との重量比(ジシアノシクロヘキサンの重量(g)/シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はその塩の重量(g))は、0.3~7.8であることが好ましく、0.5~3.9であることがより好ましく、0.7~2.4であることが特に好ましい。
ただし、原料製造工程において、ジシアノシクロヘキサンとは別途に他の溶媒を用いても良い。
【0024】
原料製造工程における反応温度は、150℃~350℃であることが好ましく、より好ましくは200℃~340℃であり、さらに好ましくは230℃~330℃であり、特に好ましくは250℃~320℃の範囲内である。
また、原料製造工程における反応圧力は、陰圧であっても常圧であっても陽圧であってもよいが、0.001MPa~10MPaであることが好ましく、より好ましくは0.05MPa~5MPaであり、さらに好ましくは0.08MPa~0.12MPaの範囲内、例えば常圧(0.1MPa)である。
【0025】
また、原料製造工程を設ける場合においては、下記式(III)に示すように、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を単離することなしに一連の連続した反応プロセスに沿ってジシアノシクロヘキサンを製造することもできる。このように、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を単離することなしにジシアノシクロヘキサンの生成が可能であるため、本実施形態のジシアノシクロヘキサンの製造方法によれば、製造効率を一段と向上させることができる。
【化4】
【0026】
3.アミノ化工程
本実施形態のビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造方法は、上記製法により得られたジシアノシクロヘキサンに対する水素添加反応(以下、「ニトリル水添反応」ともいう)により、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを得る下記式(IV)のアミノ化工程を有する。1,2-ジシアノシクロヘキサンからは1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが得られ、1,3-ジシアノシクロヘキサンからは1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが得られ、1,4-ジシアノシクロヘキサンからは1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが得られる。
【化5】
【0027】
アミノ化工程においては、まず、反応器内にジシアノシクロヘキサンと、溶媒と、触媒とを仕込み、系内の圧力が所定の圧力になるまで水素ガスを導入する。その後、反応器内を所定の温度になるまで加熱して、反応器内の圧力が一定の範囲内を維持するよう、適宜水素ガスを反応器内に導入しつつ、ニトリル水添反応を進行させる。
【0028】
溶媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる溶媒を採用することもでき、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、及びtert-ブタノール等のアルコール、メタキシレン、メシチレン、及びプソイドキュメンのような芳香族炭化水素、液体アンモニア、及びアンモニア水が挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
また、アミノ化工程における触媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、Ni及び/又はCoを含有する触媒を用いることができる。一般には、Ni及び/又はCoを、Al、SiO、けい藻土、SiO-Al、及びZrOに沈殿法で担持した触媒、ラネーニッケル、あるいはラネーコバルトが触媒として好適に用いられる。これらの中では、ニトリル水添反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、ラネーコバルト触媒及びラネーニッケル触媒が好ましい。触媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
上記触媒の使用量は、ジシアノシクロヘキサン100質量%に対して、0.1~150質量%であることが好ましく、0.1~20質量%であることがより好ましく、0.5~15質量%であることがさらに好ましい。触媒を上記の範囲内の量となるように用いることで、得られるビス(アミノメチル)シクロヘキサンの収率を高めることができる。
【0031】
アミノ化工程における、ジシアノシクロヘキサンの濃度は、反応効率の観点から、反応液の全体量に対して、1~50質量%であることが好ましく、2~40質量%であることがより好ましい。
【0032】
アミノ化工程における反応温度は、40~150℃であることが好ましく、60~130℃であることが好ましく、より好ましくは80~120℃の範囲内である
また、アミノ化工程における反応圧力は、水素分圧で0.5MPa~15MPaであることが好ましく、より好ましくは0.7MPa~10MPaであり、さらに好ましくは1MPa~8MPaの範囲内である
なお、アミノ化工程におけるニトリル水添反応の反応時間は、水素添加が十分に進行する時間であれば良い。
反応条件を上述の範囲内に調整することで、得られるビス(アミノメチル)シクロヘキサンの収率、及び、選択率を高めることができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0034】
[実施例1]
実施例1では、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸をシアノ化してジシアノシクロヘキサンを得た。
【0035】
(シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を用いたジシアノシクロヘキサンの製造)
撹拌羽根、供給高さが可変であるガス供給管、熱電対及び脱水装置を付帯した300mL五ツ口セパラブルフラスコに、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸88.9g(ごくわずかな不純物として以外、塩を含まない)、酸化亜鉛(関東化学株式会社製)0.2g、及び1,4-ジシアノシクロヘキサン50.0gを仕込んだ。昇温を開始し、300rpm攪拌下に170℃で窒素ガス(供給速度34ml/min)、およびアンモニアガス(供給速度174ml/min)を液面より上に設置したガス供給管からフラスコに導入した。反応系の温度が270℃まで昇温したところでガス供給口を反応液内へ下降させてバブリングを開始し、このときをシアノ化反応の開始時とした。反応系をさらに昇温し、反応温度300℃で7時間攪拌した。
反応終了後、反応系を室温まで放冷し、メタノールを用いて反応生成物を溶解させ、ガスクロマトグラフィー(以下、GCとも記載する)により分析した。その結果、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の転化率は99.9%、1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は91.0%であった。
【0036】
<GC分析条件>
分析装置:島津製作所社製型式名「GC2010 PLUS」
カラム:製品名「HP-5ms」(アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ30m×内径0.25mm、膜厚0.25μm)
キャリアーガス:He(constant pressure:73.9kPa)
注入口温度:300℃
検出器:FID
検出器温度:300℃
カラムオーブン温度:100℃で開始し、10℃/minで300℃まで昇温し300℃で30分間保持
【0037】
[実施例2]
実施例2では、シクロヘキサンジカルボン酸を反応系内でシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸に変換した後に、単離することなく、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸をさらにシアノ化してジシアノシクロヘキサンを得た。
【0038】
(ワンポットでのジシアノシクロヘキサンの製造)
撹拌羽根、供給高さが可変であるガス供給管、熱電対及び脱水装置を付帯した500mL五ツ口フラスコに、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(ごくわずかな不純物として以外、塩を含まない:東京化成工業株式会社)100g、酸化亜鉛1.6g、及び1,4-ジシアノシクロヘキサン100gを仕込んだ。300rpm攪拌下に170℃で窒素ガス(供給速度68ml/min)、およびアンモニアガス(供給速度348ml/min)を液面より上に設置したガス供給管からフラスコに導入した。反応系の温度が270℃まで昇温したところでガス供給口を反応液内へ下降させてバブリングを開始し、このときをシアノ化反応の開始時とした。反応系をさらに昇温し、反応温度300℃で7時間攪拌した。
反応終了後、反応系を室温まで放冷し、メタノールを用いて反応生成物を溶解させ、GCにより分析した。その結果、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の転化率は99.9%、1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は90.8%であった。
【0039】
(ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの製造)
300mLのSUS316製耐圧容器内に、1,4-ジシアノシクロヘキサン24.4g、溶媒としてのメタノール37.3gと28%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)28.4g、及び、触媒としてラネーコバルト触媒(和光純薬工業株式会社製)0.56gを仕込み、水素ガスを4.5MPaの反応圧力になるまで導入した。次いで、容器内を80℃の反応温度まで加熱し、温度を一定に保持し、容器内を電磁式攪拌羽根にて750rpmで撹拌しながら、水素添加によるアミノ化反応(ニトリル水添反応)を240分間、進行させた。その結果、1,4-ジシアノシクロヘキサンの転化率は100%、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの選択率は97.0%、収率は97.0%であった。
【0040】
[実施例3]
実施例3では原料に1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩を用いた以外は実施例2と同様にシアノ化反応を行った。
【0041】
(シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩を用いたワンポットでのジシアノシクロヘキサンの製造)
撹拌羽根、供給高さが可変であるガス供給管、熱電対及び脱水装置を付帯した300mL五ツ口セパラブルフラスコに、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩51.6g(1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中のアンモニアの含有量が、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸アンモニウム塩中の1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量に対して、モル比で0.34であるもの)、触媒としての酸化亜鉛0.20g、及び、1,4-ジシアノシクロヘキサン50gを仕込んだ。300rpm攪拌下に170℃で窒素ガス(供給速度34ml/min)、およびアンモニアガス(供給速度174ml/min)を液面より上に設置したガス供給管からフラスコに導入した。反応系の温度が270℃まで昇温したところでガス供給口を反応液内へ下降させてバブリングを開始し、このときをシアノ化反応の開始時とした。反応系をさらに昇温し、反応温度300℃で7時間攪拌した。
反応終了後、反応系を室温まで放冷し、メタノールを用いて反応生成物を溶解させ、GCにより分析した。その結果、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のアンモニウム塩の転化率は99.9%、1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は90.8%であった。
なお、実施例2で用いられたシクロヘキサンジカルボン酸の代わりにそのアンモニウム塩を用いた実施例3でも良好な結果が得られたことから明らかであるように、実施例1で用いたシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の代わりに、シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の塩、例えば、アンモニウム塩を用いても、実施例1と同様に1,4-ジシアノシクロヘキサンを高い収率で得ることができる。
【0042】
[実施例4]
実施例4では、溶媒を用いない条件でシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸をシアノ化してジシアノシクロヘキサンを得た。
【0043】
(無溶媒下でのシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を用いたジシアノシクロヘキサンの製造)
撹拌羽根、供給高さが可変であるガス供給管、熱電対及び脱水装置を付帯した300mL五ツ口セパラブルフラスコに、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸88.8g、及び、酸化亜鉛0.2gを仕込んだ。その後、窒素ガス(供給速度34ml/min)を液面より上に設置したガス供給管からフラスコに導入しながら、昇温を開始した。300rpm攪拌下に反応系の温度が300℃まで昇温したところでガス供給口を反応液内へ下降させてアンモニアガス(供給速度174ml/min)バブリングを開始し、このときをシアノ化反応の開始時とした。反応温度300℃を維持しながら7時間攪拌した。
反応終了後、反応系を室温まで放冷し、メタノールを用いて反応生成物を溶解させ、GCにより分析した。その結果、4-シアノシクロヘキサン-1-カルボン酸の転化率は99.9%、1,4-ジシアノシクロヘキサンの収率は90.2%であった。
【0044】
[比較例1]
比較例1では、無溶媒下での1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のシアノ化を行った。
【0045】
(無溶媒下での1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を用いたジシアノシクロヘキサンの製造)
撹拌羽根、供給高さが可変であるガス供給管、熱電対及び脱水装置を付帯した300mL五ツ口セパラブルフラスコに、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸50.1g、及び、酸化亜鉛0.2gを仕込んだ。その後、窒素ガス(供給速度34ml/min)を液面より上に設置したガス供給管からフラスコに導入しながら、昇温を開始した。300rpm攪拌下に反応系の温度が300℃まで昇温したところでガス供給口を反応液内へ下降させてアンモニアガス(供給速度174ml/min)バブリングを開始し、このときをシアノ化反応の開始時とした。アンモニアガスの供給によって水が副生したことから、反応の進行が確認されたものの、300℃で2時間攪拌を行った時点で析出固体によって攪拌が困難となったため、反応を中止した。この攪拌不良は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が加熱によって融点300℃を超えるトランス体へと異性化したことが原因だと推察される。
【0046】
以上の結果から、特に、実施例4と比較例1との結果を比べることにより、融点が反応温度以下のシアノシクロヘキサン-1-カルボン酸を原料とすることで、溶媒を用いなくとも円滑にシアノ化が進行し、効率的にジシアノシクロヘキサンを製造可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、新規なジシアノシクロヘキサンの製造方法であって、分離が困難な副生物の発生を抑制でき、原料物質の溶解等の工程が不要であって効率的、かつ収率の向上を可能にするジシアノシクロヘキサンの製造方法を提供することができる。そして、ジシアノシクロヘキサンは、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基板、フィルター等の光学材料に用いるポリアミド、ポリウレタン等の前駆体として有用なビス(アミノメチル)シクロヘキサンの原料となるため、そのような分野において、産業上の利用可能性が認められる。