IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-永久磁石電動機の制御方法及び制御装置 図1
  • 特許-永久磁石電動機の制御方法及び制御装置 図2
  • 特許-永久磁石電動機の制御方法及び制御装置 図3
  • 特許-永久磁石電動機の制御方法及び制御装置 図4
  • 特許-永久磁石電動機の制御方法及び制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】永久磁石電動機の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/34 20160101AFI20230704BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20230704BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20230704BHJP
   H02P 25/024 20160101ALI20230704BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20230704BHJP
【FI】
H02P21/34
H02P27/06
H02P21/24
H02P25/024
H02P21/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020027605
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021132502
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 康祐
(72)【発明者】
【氏名】松岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091185(JP,A)
【文献】特開2004-072906(JP,A)
【文献】特開2013-230035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/34
H02P 27/06
H02P 21/24
H02P 25/024
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石電動機を駆動させるインバータ回路と、前記永久磁石電動機の回転子の位置を推定しながら前記インバータ回路の動作を制御する通常制御を実行する制御回路とを備える制御装置における、前記永久磁石電動機の制御方法であって、
前記制御回路は、
前記永久磁石電動機の起動時、前記回転子のd軸を回転磁界に追従させたまま前記回転子を回転させる強制同期を複数回実行するとともに、前記強制同期の実行回数が増加するほど、前記回転子の加速度を大きくし、
前記回転子の回転速度が所定速度以上になると、前記通常制御を実行し、
前記強制同期の実行回数が2回であり、
1回目の第1強制同期ではd軸電流指令値を、所定電流まで上昇させるとともにq軸電流指令値をゼロにさせ、
2回目の第2強制同期では前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を出力する
ことを特徴とする永久磁石電動機の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石電動機の制御方法であって、
前記制御回路は、前記回転子の回転速度が前記所定速度以上になると、前記d軸電流指令値を徐々に小さくして、マイナスの値にするとともに前記q軸電流指令値を徐々に大きくした後、前記通常制御を実行する
ことを特徴とする永久磁石電動機の制御方法。
【請求項3】
永久磁石電動機を駆動させるインバータ回路と、
前記永久磁石電動機の回転子の位置を推定しながら前記インバータ回路の動作を制御する通常制御を実行する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記永久磁石電動機の起動時、前記回転子のd軸を回転磁界に追従させたまま前記回転子を回転させる強制同期を複数回実行するとともに、前記強制同期の実行回数が増加するほど、前記回転子の加速度を大きくし、前記回転子の回転速度が所定速度以上になると、前記通常制御を実行し、
前記強制同期の実行回数が2回であり、
1回目の第1強制同期ではd軸電流指令値を、所定電流まで上昇させるとともにq軸電流指令値をゼロにさせ、
2回目の第2強制同期では前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を出力する
ことを特徴とする永久磁石電動機の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の永久磁石電動機の制御装置であって、
前記制御回路は、前記回転子の回転速度が前記所定速度以上になると、前記d軸電流指令値を徐々に小さくして、マイナスの値にするとともに前記q軸電流指令値を徐々に大きくした後、前記通常制御を実行する
ことを特徴とする永久磁石電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子の位置を検出する機能を備えていない永久磁石電動機の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石電動機の制御方法として、永久磁石電動機の起動時、基準の相に対応するコイルに電流を流すことで回転子のd軸を所定の相に吸い付かせてd軸の位置を初期位置に合わせる位置合わせを実行した後、強制同期を実行し、回転子の回転速度が所定速度以上になると、回転子の位置を推定しながら永久磁石電動機を制御する通常制御に移行するものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
しかしながら、上記制御方法では、位置合わせにかかる時間が比較的長くなるため、起動から通常制御に移行するまでの時間が比較的長くなるという懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-054663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一側面に係る目的は、回転子の位置を検出する機能を備えていない永久磁石電動機の起動時間の短縮化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一つの形態である永久磁石電動機の制御方法は、永久磁石電動機を駆動させるインバータ回路と、永久磁石電動機の回転子の位置を推定しながらインバータ回路の動作を制御する通常制御を実行する制御回路とを備える制御装置における、永久磁石電動機の制御方法であって、制御回路は、永久磁石電動機の起動時、回転子のd軸を回転磁界の基準の相に追従させたまま回転子を回転させる強制同期を複数回実行するとともに、強制同期の実行回数が増加するほど、回転子の加速度を大きくし、回転子の回転速度が所定速度以上になると、通常制御を実行する。
【0007】
これにより、永久磁石電動機の起動時、位置合わせと強制同期を同時に実行することができるため、位置合わせを実行した後、強制同期を実行する場合に比べて、起動時間の短縮化を図ることができる。
【0008】
また、制御回路は、回転子の回転速度が所定速度以上になると、d軸電流指令値を徐々に小さくするとともにq軸電流指令値を徐々に大きくした後、通常制御を実行するように構成してもよい。
【0009】
これにより、強制同期から通常制御に移行する際、d軸電流及びq軸電流が急峻に変化することを防止することができるため、永久磁石電動機の制御性低下を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る一つの形態である永久磁石電動機の制御装置は、永久磁石電動機を駆動させるインバータ回路と、永久磁石電動機の回転子の位置を推定しながらインバータ回路の動作を制御する通常制御を実行する制御回路とを備え、制御回路は、永久磁石電動機の起動時、回転子のd軸を回転磁界の基準の相に追従させたまま回転子を回転させる強制同期を複数回実行するとともに、強制同期の実行回数が増加するほど、回転子の加速度を大きくし、回転子の回転速度が所定速度以上になると、通常制御を実行する。
【0011】
これにより、永久磁石電動機の起動時、位置合わせと強制同期を同時に実行することができるため、位置合わせを実行した後、強制同期を実行する場合に比べて、起動時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転子の位置を検出する機能を備えていない永久磁石電動機の起動時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の永久磁石電動機の制御装置の一例を示す図である。
図2】実施形態の強制同期を説明するための図である。
図3】推定部の一例を示す図である。
図4】起動時の制御回路の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】d軸電流指令値、q軸電流指令値、及び回転速度指令値の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0015】
図1は、実施形態の永久磁石電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0016】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される永久磁石電動機Mを制御するものであって、インバータ回路2と、制御回路3とを備える。なお、永久磁石電動機Mは、例えば、表面磁石型同期モータ(Surface Permanent Magnetic Synchronous Motor)などであって、以下、電動機Mとする。
【0017】
インバータ回路2は、直流電源Pから供給される電力により電動機Mを駆動するものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1、Se2とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が直流電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が直流電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0018】
コンデンサCは、直流電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される電圧を平滑する。
【0019】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子Sw1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、直流電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に印加され電動機Mの回転子が回転する。
【0020】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのU相に流れるU相電流Iuを検出して制御回路3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、電動機MのV相に流れるV相電流Ivを検出して制御回路3に出力する。
【0021】
制御回路3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。
【0022】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成される。また、記憶部4は、後述する、所定電流や所定速度などを記憶している。
【0023】
ドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部6から出力される電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。例えば、ドライブ回路5は、電圧指令値Vu*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、電圧指令値Vu*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値Vv*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、電圧指令値Vv*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路5は、電圧指令値Vw*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、電圧指令値Vw*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0024】
なお、ドライブ回路5は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が搬送波の振幅値より小さい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期においてスイッチング素子SW1~SW6が繰り返しオン、オフする制御、すなわち、パルス幅変調制御(PWM制御)を行うものとする。
【0025】
また、ドライブ回路5は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が搬送波の振幅値より大きい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期のうちの一部の期間においてスイッチング素子SW1~SW6が繰り返しオン、オフし、残りの期間においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフする制御、すなわち、過変調制御を行うものとする。
【0026】
また、ドライブ回路5は、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅値が搬送波の振幅値よりさらに大きい場合、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の半周期においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフし、残りの半周期においてスイッチング素子SW1~SW6が常にオンまたは常にオフする制御、すなわち、矩形波制御を行うものとする。
【0027】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、速度演算部7と、減算部8と、トルク制御部9と、トルク/電流指令値変換部10と、減算部11、12と、電流制御部13と、座標変換部14と、座標変換部15と、推定部16とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、速度演算部7、減算部8、トルク制御部9、トルク/電流指令値変換部10、減算部11、12、電流制御部13、座標変換部14、座標変換部15、及び推定部16が実現される。
【0028】
速度演算部7は、推定部16により推定される電動機Mの回転子の推定位置θ^により回転速度ωを演算する。例えば、速度演算部7は、推定位置θ^を演算部6の制御周期で除算することにより回転速度ωを求める。
【0029】
減算部8は、外部から入力される回転速度指令値ω*と速度演算部7から出力される回転速度ωとの差Δωを算出する。
【0030】
トルク制御部9は、減算部8から出力される差Δωを用いて、トルク指令値T*を求める。例えば、トルク制御部9は、記憶部4に記憶されている、電動機Mの回転子の回転速度と電動機Mのトルクとが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、差Δωに相当する回転速度に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0031】
トルク/電流指令値変換部10は、電動機Mの起動時、回転磁界を強制的に発生させつつ回転子のd軸を回転磁界の基準の相に追従させたまま回転子を回転させる強制同期を複数回実行するとともに、強制同期の実行回数が増加するほど、回転子の加速度を大きくし、回転子の回転速度が所定速度以上になると、推定位置θ^に基づいてインバータ回路2の動作を制御するための通常制御を実行する。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、電動機Mの起動時、図2に示すように、回転子のd軸(N極)を回転磁界のU相に吸い付かせたまま回転子を加速度a1で回転させる第1強制同期を実行しているとき、回転速度ωが所定速度ωth1以上になると、回転子を加速度a1より大きい加速度a2で回転させる第2強制同期を実行する。また、トルク/電流指令値変換部10は、第2強制同期を実行しているとき、回転速度ωが所定速度ωth2以上になると、通常制御に移行する。また、トルク/電流指令値変換部10は、通常制御時、推定位置θ^により演算される回転速度ωと回転速度指令値ω*との差Δωに対応するトルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、記憶部4に記憶されている、電動機Mのトルクとd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を求める。
【0032】
図1に示す減算部11は、トルク/電流指令値変換部10から出力されるd軸電流指令値Id*と、推定部16から出力される推定d軸電流Id^との差ΔIdを算出する。
【0033】
減算部12は、トルク/電流指令値変換部10から出力されるq軸電流指令値Iq*と、推定部16から出力される推定q軸電流Iq^との差ΔIqを算出する。
【0034】
電流制御部13は、減算部11から出力される差ΔId及び減算部12から出力される差ΔIqを用いたPI(Proportional Integral)制御により、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。例えば、電流制御部13は、下記式1を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式2を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、KpはPI制御の比例項の定数とし、KiはPI制御の積分項の定数とし、Lqは電動機Mを構成するコイルのq軸インダクタンスとし、Ldは電動機Mを構成するコイルのd軸インダクタンスとし、ωは回転速度とし、Keは誘起電圧定数とする。
【0035】
d軸電圧指令値Vd*=Kp×差ΔId+∫(Ki×差ΔId)-ωLqIq・・・式1
q軸電圧指令値Vq*=Kp×差ΔIq+∫(Ki×差ΔIq)+ωLdId+ωKe・・・式2
【0036】
座標変換部14は、推定部16から出力される推定位置θ^を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vu*、及びW相電圧指令値Vw*に変換する。
【0037】
例えば、座標変換部14は、下記式3に示す変換行列C1を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【0038】
【数1】
【0039】
座標変換部15は、電流センサSe1により検出されるU相電流Iu及び電流センサSe2により検出されるV相電流Ivを用いて、電動機MのW相に流れるW相電流Iwを求める。なお、座標変換部15及び電流センサSe1、Se2により、電流取得部が構成されるものとする。
【0040】
また、座標変換部15は、推定部16から出力される推定位置θ^を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id(弱め界磁を発生させるための電流成分)及びq軸電流Iq(トルクを発生させるための電流成分)に変換する。
【0041】
例えば、座標変換部15は、下記式4に示す変換行列C2を用いて、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0042】
【数2】
【0043】
なお、電流センサSe1、Se2により検出される電流は、U相電流Iu及びV相電流Ivの組み合わせに限定されず、V相電流Iv及びW相電流Iwの組み合わせ、または、U相電流Iu及びW相電流Iwの組み合わせでもよい。電流センサSe1、Se2によりV相電流Iv及びW相電流Iwが検出される場合、座標変換部15は、V相電流Iv及びW相電流Iwを用いて、U相電流Iuを求める。また、電流センサSe1、Se2によりU相電流Iu及びW相電流Iwが検出される場合、座標変換部15は、U相電流Iu及びW相電流Iwを用いて、V相電流Ivを求める。
【0044】
また、インバータ回路2において、電流センサSe1、Se2の他に、電動機MのW相に流れる電流を検出する電流センサSe3をさらに備える場合、座標変換部15は、推定部16から出力される推定位置θ^を用いて、電流センサSe1~Se3により検出されるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換するように構成してもよい。この場合、座標変換部15及び電流センサSe1~Se3により、電流取得部が構成されるものとする。
【0045】
また、座標変換部15は、ドライブ回路5がパルス幅変調制御を行っているとき、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期において、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをすべて求めることができ、d軸電流Id及びq軸電流Iqを出力することができるものとする。
【0046】
また、座標変換部15は、ドライブ回路5が過変調制御を行っているとき、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期の一部の期間において、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwを求めることができず、d軸電流Id及びq軸電流Iqを出力することができないものとする。
【0047】
また、座標変換部15は、ドライブ回路5が矩形波制御を行っているとき、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1周期において、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをすべて求めることができず、d軸電流Id及びq軸電流Iqを出力することができないものとする。
【0048】
推定部16は、速度演算部7から出力される回転速度ωと、電流制御部13から出力されるd軸電圧指令値Vd*及q軸電圧指令値Vq*と、座標変換部15から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqとを用いて、推定d軸電流Id^、推定q軸電流Iq^、及び推定位置θ^を出力する。
【0049】
図3は、推定部16の一例を示す図である。
【0050】
図3に示す推定部16は、電流推定部161と、減算部162と、パラメータ推定部163と、位置推定部164とを備える。
【0051】
電流推定部161は、電動機Mに流れる電流を推定する。
【0052】
すなわち、電流推定部161は、座標変換部14からd軸電流Id及びq軸電流Iqが出力される場合(電流取得部により電動機Mに流れる電流が取得される場合)、d軸電流Idを推定d軸電流Id^として減算部11に出力するとともに、q軸電流Iqを推定q軸電流Iq^として減算部12に出力する。
【0053】
また、電流推定部161は、座標変換部15からd軸電流Id及びq軸電流Iqが出力されない場合(電流取得部により電動機Mに流れる電流が取得されない場合)、速度演算部7から出力される回転速度ωと、電流制御部13から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、パラメータ推定部163により推定される電動機Mの固有のパラメータ(誘起電圧定数Ke^、巻線抵抗R^、d軸インダクタンスLd^、及びq軸インダクタンスLq^など)とを下記式5に代入して、推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を算出し、その算出した推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^を減算部11、12に出力する。なお、下記式5は電動機Mのモデルとしての電圧方程式であり、Pは微分演算子とする。
【0054】
【数3】
【0055】
減算部162は、座標変換部15から出力されるd軸電流Idと電流推定部161から出力される推定d軸電流Id^との差ΔId^を算出するとともに、座標変換部15から出力されるq軸電流Iqと電流推定部161から出力される推定q軸電流Iq^との差ΔIq^を算出する。
【0056】
パラメータ推定部163は、減算部162から出力される差ΔId^、ΔIq^がゼロになるように、電動機Mの固有のパラメータを制御タイミング毎に繰り返し推定する。これにより、パラメータ推定部163によりパラメータが繰り返し推定されているとき、差ΔId^、ΔIq^が徐々にゼロに近づいていき、パラメータが推定され始めてから所定時間以上が経過すると、差ΔId^、ΔIq^がゼロになり、パラメータ推定部163により推定されるパラメータが同定する。
【0057】
例えば、パラメータ推定部163は、下記式6~式9を用いて、逐次最小二乗法により電動機Mの固有のパラメータを推定するように構成してもよい。なお、yは下記式10とする。また、θ及びZ を下記式11及び式12に示すように定義する場合、下記式10を下記式13に示すように表されるものとする。rは減算部152の出力値(差ΔId^、ΔIq^)とし、a及びbは電動機Mの固有のパラメータとし、yN-iは座標変換部15の出力値(d軸電流Id及びq軸電流Iq)とし、uN-1は電流制御部13の出力値(d軸電圧指令値Vd*及q軸電圧指令値Vq*)とする。また、φ及びψはzとし、ρは忘却係数とする。
【0058】
【数4】
【0059】
【数5】
【0060】
【数6】
【0061】
【数7】
【0062】
【数8】
【0063】
【数9】
【0064】
【数10】
【0065】
【数11】
【0066】
位置推定部164は、速度演算部7から出力される回転速度ωと、電流制御部13から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、座標変換部15から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqまたは電流推定部161から出力される推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^と、パラメータ推定部163から出力されるパラメータとを用いて、電動機Mの回転子の推定位置θ^を推定する。
【0067】
例えば、位置推定部164は、電流制御部13から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をγ軸電圧Vγ及びδ軸電圧Vδに変換するとともに、電流推定部161から出力される推定d軸電流Id^及び推定q軸電流Iq^をγ軸電流iγ及びδ軸電流iδに変換する。次に、位置推定部164は、下記式14に、回転速度ω、γ軸電圧Vγ、δ軸電圧Vδ、γ軸電流iγ、δ軸電流iδ、誘起電圧定数Ke^、巻線抵抗R^、d軸インダクタンスLd^、及びq軸インダクタンスLq^を代入することにより求められるΔθを、推定位置θ^とする。なお、下記式14は電動機Mのモデルとしての電圧方程式であり、Pは微分演算子とする。
【0068】
【数12】
【0069】
図4は、電動機Mの起動時の制御回路3の動作の一例を示すフローチャートである。
【0070】
まず、制御回路3は、車両のイグニッションオンなどに伴う電動機Mの起動指示が入力されると(ステップS1:Yes)、第1強制同期を実行する(ステップS2)。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、第1強制同期を開始すると、d軸電流指令値Id*を、記憶部4に記憶されている所定電流まで上昇させるとともにq軸電流指令値Iq*をゼロにさせる。なお、所定電流は、回転磁界を強制的に発生させているときで、かつ、回転子のd軸を回転磁界の基準の相に追従させながら回転子を第1加速度で回転させているときに推定部16から出力される推定d軸電流Id^とする。これにより、回転子のd軸を初期位置に合わせながら、回転速度ωを徐々に上昇させることができる。
【0071】
次に、制御回路3は、回転速度ωが所定速度ωth1以上になると(ステップS3:Yes)、第2強制同期を実行する(ステップS4)。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、第2強制同期を開始すると、回転子のd軸が回転磁界の基準の相に追従しながら回転子が第1加速度より大きい第2加速度で回転するように、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。なお、第2加速度は、回転子のd軸を回転磁界の基準の相に追従させることが可能で、かつ、強制同期から通常制御に移行する際に回転速度ωの変動幅を比較的小さくすることが可能な値に設定されているものとする。また、制御回路3は、第1強制同期を開始してから所定時間が経過すると、第2強制同期を実行するように構成してもよい。例えば、所定時間は、第1強制同期が開始されてから回転速度ωが所定速度ωth1以上になるまでの時間とする。
【0072】
次に、制御回路3は、回転速度ωが所定速度ωth2以上になると(ステップS5:Yes)、切替制御を実行する(ステップS6)。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、切替制御を開始すると、d軸電流指令値Id*を徐々に小さくするとともにq軸電流指令値Iq*を徐々に大きくする。これにより、第2強制同期から通常制御に移行する際、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*の変動幅を比較的小さくすることができるため、電動機Mの制御性低下を抑制することができる。なお、ステップS6の切替制御を省略してもよい。この場合、制御回路3は、第2強制同期時、回転速度ωが所定速度ωth2以上になると、第2強制同期から通常制御に移行する。また、強制同期の実行回数は3回以上でもよく、強制同期の実行回数が増加するほど、回転子の加速度を大きくする。
【0073】
そして、制御回路3は、切替制御を実行した後、回転子の位置を推定しながらインバータ回路2の動作を制御する通常制御を実行する(ステップS7)。例えば、トルク/電流指令値変換部10は、推定位置θ^により演算される回転速度ωと回転速度指令値ω*との差Δωに対応するトルク指令値T*に基づいてd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を出力する。
【0074】
図5(a)は、従来の制御装置における電動機Mの起動時のd軸電流指令値Id*とq軸電流指令値Iq*と回転速度指令値ω*との関係を示す図である。また、図5(b)は、実施形態の制御装置1における電動機Mの起動時のd軸電流指令値Id*とq軸電流指令値Iq*と回転速度指令値ω*との関係を示す図である。なお、図5(a)及び図5(b)に示す2次元座標の横軸は時間を示し、縦軸は電流または回転速度を示している。また、実線はd軸電流指令値Id*を示し、破線はq軸電流指令値Iq*を示し、一点鎖線は回転速度指令値ω*を示している。
【0075】
従来の制御装置では、図5(a)に示すように、電動機Mの起動時、回転子を回転させずに回転子のd軸と固定子の基準の相との位置合わせを行った後、回転子のd軸と基準の相との位置合わせを保ったまま回転子を回転させる強制同期を行っている。位置合わせでは、d軸電流指令値Id*を所定電流まで徐々に大きくする必要があり、かつ、d軸が基準の相へ回転した後、d軸の振動が基準の相で収束するまで待機する必要があるため、位置合わせに比較的長い時間がかかる。
【0076】
一方、実施形態の制御装置1では、図5(b)に示すように、電動機Mの起動時、位置合わせを行わずに、回転磁界を強制的に発生させて回転子のd軸と回転磁界の基準の相との位置合わせを行いつつ回転子を加速度a1で回転させる第1強制同期を実行した後、回転子のd軸と基準の相との位置合わせを保ったまま回転子を加速度a1より大きい加速度a2で回転させる第2強制同期を実行する。第1強制同期では、d軸電流指令値Id*を急峻に大きくすることが可能で、かつ、d軸の振動が基準の相で収束するまで待機する必要がないため、第1強制同期にかかる時間を、従来の制御装置における位置合わせにかかる時間より短くすることができる。また、第2強制同期の開始時、回転速度指令値ω*が少なくとも所定速度ωth1まで上昇しているため、第2強制同期にかかる時間を、従来の制御装置における強制同期にかかる時間より短くすることができる。
【0077】
このように、実施形態の電動機Mの制御装置1は、電動機Mの起動時、各強制同期において、位置合わせと強制同期を同時に実行することができるため、位置合わせを実行した後、強制同期を実行する場合に比べて、起動時間の短縮化を図ることができる。
【0078】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 速度演算部
8 減算部
9 トルク制御部
10 トルク/電流指令値変換部
11 減算部
12 減算部
13 電流制御部
14 座標変換部
15 座標変換部
16 推定部
161 電流推定部
162 減算部
163 パラメータ推定部
164 位置推定部
図1
図2
図3
図4
図5