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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】鉛筆芯
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20230704BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020537403
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029866
(87)【国際公開番号】W WO2020036059
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018153363
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隆博
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-031589(JP,A)
【文献】特開2005-314620(JP,A)
【文献】特開平10-036747(JP,A)
【文献】特開2007-246605(JP,A)
【文献】特開平09-059556(JP,A)
【文献】特開2017-115088(JP,A)
【文献】特開2009-062443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 13/00
B43K 19/00-21/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色成分と、有機結合材とを少なくとも含有した芯体を熱処理し、得られた焼成芯体の気孔中に、下記一般式(化1)で示される化合物を含有する含浸成分を有し、下記一般式(化1)において2≦n≦6であることを特徴とする鉛筆芯。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、着色成分と、有機結合材とを少なくとも含有し、熱処理によって得られた焼成芯体の気孔中に含浸成分を有する鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉛筆芯は、黒鉛や窒化ホウ素などの着色成分と、タルクなどの体質材と、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化エチレン樹脂、ビニルアルコール樹脂、アクリルアミド樹脂、塩素化パラフィン、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、ブチルゴムなどの有機結合材や、粘土などの無機結合材とを主材として使用し、必要に応じて、フタル酸エステルなどの可塑剤、メチルエチルケトン、アセトン、水などの溶剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑剤、カーボンブラックなどの充填材などを併用し、これらの原材料を分散混合、混練し、細線状に成形した後、適宜焼成温度まで熱処理を施す。焼成後の芯体(焼成芯体)は、有機結合材や無機結合材、可塑剤、溶剤などの分解物が存在していた部分が気孔となるうえ、配合材料は混練成形の際に高度に分散されているため、焼成芯体全体として比較的大きさの均一な多数の細孔を有しているものと考えられる。一般に市販されている鉛筆芯は、この細孔に、主に書き味向上を目的に、シリコーンオイル、流動パラフィン、スピンドル油、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスなどの油状物を含浸させて製造されている。
【0003】
ところで、鉛筆芯は、紙とのすべり摩擦で起こる凝着摩耗により、紙面への移着膜が形成されることで筆記線となる。しかし、この筆記線は凝着摩耗により生じた黒鉛などの着色成分を含む摩耗粉が紙面に載っているだけであるため、別の紙や手などで擦過した際には、その黒鉛などの着色成分が容易に移動し、紙面を汚してしまう。
【0004】
また近年、鉛筆芯の主なユーザーである学生において、筆記圧の低下により、鉛筆芯の硬度がより柔らかく、且つ、筆跡の濃度が濃い鉛筆芯を好む傾向が高くなっている。しかし硬度が軟らかく、筆跡の濃度が濃い鉛筆芯においては、前記の擦過による紙面汚れの度合いも大きくなるという硬度及び/又は濃度と、紙面の汚れの相関関係にあるため、筆記線を擦過しても紙面の汚れの少ない鉛筆芯の開発が求められていた。
【0005】
擦過による黒鉛などの移動を抑制して汚れの低減を図る方法としては、鉛筆芯に含浸した油状物などの含浸成分により、摩耗粉の紙面への定着性を向上させる対策が、主に知られている。特許文献1では、動粘度の高い含浸成分を使用することで、摩耗粉からなる筆記線の定着性を物理的に向上させている。特許文献2では、極性のある脂肪酸エステルを含浸成分に使用することで、含浸成分と紙面の官能基との化学的な結合により筆記線の定着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-213391号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特開2007-31589号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されている動粘度の高い含浸成分は、筆記線の定着性を向上させるが、消しゴムでの消去性が悪くなるとともに、芯体が摩耗しにくくなり、鉛筆芯の含浸成分として一般的な流動パラフィンやシリコーンオイルなどの低動粘度の含浸成分を使用した場合と比較して、筆記線の濃度が低下する。また、摩耗の大きいより軟らかい芯体とすることで筆記線の濃度が高いものとすることができるが、一般に軟らかい鉛筆芯は、折り曲げ強さが低く、筆記時に折れやすくなるという別の問題を生じてしまう。一方、特許文献2に示されている極性が大きく分子量が小さい脂肪酸エステルは、替芯容器やシャープペンシルの芯タンクなどに使用されている合成樹脂と化学反応し、ヒビや割れを生じてしまう。
【0008】
また、含浸成分のIOB値が大きいと含浸成分が吸湿し、保管時に容器の中を曇らせケース内で作動不良を起こす可能性があるため、製品としてより一層の改善が求められていた。ここで、IOB値とは、化学構造中の特定の基に決められた値の合計を無機性値として、これを化学構造中の炭素数を20倍して特定の分岐がある場合に決められた数値を引いた値を有機性値として、無機性値を有機性値で除した値であり、例えば、無機性基であるカルボキシル基の無機性値は、カルボキシル基1つにつき150と決められており、有機性値については、炭素1つにつき20と数値化されるものである。このIOB値は、分子内に占める極性の強さを表す指標となるとともに、IOB値×10はHLB値と近似できるため、親水性、親油性の判断の目安となる。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態は、濃い筆記線が得られるとともに、筆記線を擦過した際には摩耗粉の移動が抑制され、紙面の汚れが少ない、信頼性の高い鉛筆芯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明のいくつかの実施形態は、着色成分と、有機結合材とを少なくとも含有し、熱処理によって得られた焼成芯体の気孔中に、下記一般式(化1)で示される化合物を含有する含浸成分を有し、下記一般式(化1)において2≦n≦6であることを特徴とする鉛筆芯を要旨とする。
【0011】
【化1】
【発明の効果】
【0012】
上記の一般式(化1)にて示される化合物は、主鎖の炭素鎖が不飽和結合を含むため常温5~35℃(JIS Z 8703)で液体の不乾性油であり、焼成芯体の細孔中に含浸されやすく、且つ、極性のあるエステル結合により結び付いているため、黒鉛粒子や熱処理の際に樹脂が分解・再結合することで生成するヒドロキシル基やカルボキシル基、炭素のダングリングボンドなどの反応活性な官能基を複数もつ樹脂炭化物表面といった固体表面にも吸着しやすい。そのため、これを含有する含浸成分を使用することで、上記一般式(化1)にて示される化合物が潤滑膜として粒子間に存在し、芯体の凝着摩耗を促進するため、濃い筆記線を得ることができる。
【0013】
また、筆記線となった摩耗粉表面に存在する上記一般式(化1)にて示される化合物は、主鎖のエステルと二重結合部、末端のヒドロキシル基及びカルボキシル基といった極性を示す部分が、紙のセルロースなどが有する極性成分と水素結合を形成するとともに、上記一般式(化1)にて示される化合物において側鎖となる炭素鎖が摩耗粉の荒れた表面にアンカー効果で効率的に吸着するため、摩耗粉と紙面を強固に結び付けて擦過しても摩耗粉が移動し難くなるものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明する。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態で用いる上記一般式(化1)にて示される化合物は、原料の精製ヒマシ油を加水分解し、さらに縮合することで得られるリシノレイン酸の脱水縮合物である(別称:リシノール酸の脱水縮合物、12-ヒドロキシ-9-cis-オクタデセン酸の脱水縮合物)。また、近年、福澤らが成功したツノケイソウを利用して生産されたリシノレイン酸(非特許文献:Masataka Kajikawa, Tatsuki Abe, Kentaro Ifuku, Ken-ichi Furutani, Dongyi Yan, Tomoyo Okuda, Akinori Ando, Shigenobu Kishino, Jun Ogawa & Hideya Fukuzawa.,Production of ricinoleic acid-containing monoestolide triacylglycerides in an oleaginous diatom, Chaetoceros gracilis.,Scientific reports (2016), 6:36809, (Published: 10 November 2016))を縮合することでも、上記一般式(化1)にて示される化合物(リシノレイン酸の脱水縮合物)が得られる。
【0016】
このような上記一般式(化1)にて示される化合物の市販品としては、K-PON 400シリーズ(小倉合成工業(株)製)のK-PON 402、K-PON 403-S、K-PON 404-S、K-PON 405-S、K-PON 406-Sや、MINERASOL PCFシリーズ(伊藤製油(株)製)のPCF-90、PCF-45、PCF-30などのリシノレイン酸の脱水縮合物が挙げられる。
【0017】
上記一般式(化1)にて示される化合物は、2~6量体(縮合度は酸価換算)の粘度が、400mPa・s~1800mPa・s(25℃)と、鉛筆芯の含浸成分としては比較的粘度が高く、物理的な摩耗粉の移動阻害効果も見込め、焼成芯体への含浸も比較的容易であることから好ましく、6量体のものは酸化などに対する化学的な経時安定性も比較的高いことから特に好ましい。また、6量体を超えたものの場合は、公知技術である所謂、高温・高圧での加圧含浸などの技術を用いて、焼成芯体へ含浸することで、本発明の実施形態の効果が得られる。
【0018】
上記一般式(化1)にて示される化合物は単独で使用することができるが、他の成分と併用することもできる。例えば、従来公知のα-オレフィンオリゴマーや、流動パラフィンなどが挙げられる。含浸成分中の上記一般式(化1)にて示される化合物の濃度は、含浸成分全量に対して50重量%以上が好ましい。また、上記一般式(化1)にて示される化合物を含有する含浸成分の含浸量(含浸率)は、鉛筆芯の全重量に対して、10重量%以上、30重量%以下が好ましい。10重量%未満では、含浸成分が焼成芯体内の樹脂炭化物などの表面に吸着する量が少なくなり、その結果、潤滑膜としての効果が低減し、芯体の凝着摩耗が抑制されるので高い筆跡が得られなくなる。また、30重量%を超えると、焼成芯体内の含浸成分が多くなり、筆記線が消えにくくなったり、含浸成分が紙面に浸透し、筆記線の裏移りが発生しやすくなったりする。
【0019】
含浸成分を含浸させる焼成芯体は、その他の配合材料として、従来公知の着色成分、体質材、有機結合材、可塑剤、溶剤、骨材、安定剤、充填剤などを併用しても良い。これらは、1種または2種以上を混合させても良い。
【0020】
着色成分としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛や、窒化ホウ素、合成雲母などの無機粒子などが挙げられる。体質材としては、タルク、カーボンナノチューブ、炭素繊維、繊維状チタン酸カリウムなどが挙げられる。有機結合材としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン、フラン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、スチレンーブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ブチルゴムなど合成樹脂や、リグニン、セルロース、トラガントガム、アラビアガムなどの天然樹脂などが挙げられる。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、ジオクチルアジペート、ジアリルイソフタレート、トリクレジルホスフェート、アジピン酸ジオクチルなどが挙げられる。溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類や、エタノールなどのアルコール類、水などが挙げられる。滑材としては、ステアリン酸、ベヘニン酸など脂肪酸類や、脂肪酸アマイド類、ステアリン酸などが挙げられる。安定剤としては、ステアリン酸塩、有機スズ類、バリウム-亜鉛類、カルシウム-亜鉛類などが挙げられる。充填材としては、鉄、アルミニウム、チタン、亜鉛などの金属やその合金、またこれら金属や合金の酸化物や金属窒化物、二酸化ケイ素(シリカ)、カーボンブラック、フラーレンなどが挙げられる。これら充填材は、球形、無定形の粒状、針状、繊維状、板状などの形状のものが適宜使用できる。
【0021】
これら配合材料をニーダー、ヘンシェルミキサー、3本ロールなどで均一分散させた後に細線状に成形し、使用する樹脂に応じて適宜熱処理を施し、最終的に非酸化雰囲気中で800℃~1300℃の焼成処理を施し焼成芯体を得る。焼成芯体の細孔容積は、0.05cm/g~0.25cm/gであれば、所望の含浸率を得ることができる。なお、焼成芯体の細孔容積は、公知のガス吸着法や水銀圧入法により測定することができる。
【0022】
焼成芯体に含浸成分を含浸させる方法としては、加熱した含浸成分中に焼成芯体を浸漬し含浸させる方法が採用できる。含浸成分を攪拌したり、加圧処理したりすることで含浸する速度を速めることができる。より高温で加熱することで含浸成分の粘度を低下させることでも含浸速度を速めることができるが、含浸成分の熱酸化や空気中の水分による加水分解など含浸成分の劣化も早まる傾向にあるため、空気や湿気を遮断して使用するなどの工夫が必要である。含浸成分を含浸させた焼成芯体は、遠心分離機などで芯体表面の余分な含浸成分を除去して鉛筆芯とすれば良い。
本発明のいくつかの実施形態は、少なくとも着色成分と、有機結合材とを含有した芯体を熱処理し、得られた焼成芯体の気孔中に、上記一般式(化1)で示される化合物を含有する含浸成分を有することを特徴とする鉛筆芯を要旨としている。ここで、「焼成芯体」は「焼成」という熱処理を経て得られるものであるところ、一般に、合成樹脂や天然樹脂などの有機物(有機結合材)を含む組成物を焼成温度にまで熱処理すると、樹脂分子が、黒鉛などの着色成分と複雑に絡み合った状態で有機物の分解や縮合が不規則に起こり、芯体全体として複雑に体積収縮するので、熱処理後の芯体(焼成芯体)の骨格構造は微細な部分できわめて複雑なものとなり、熱処理後の個々の組成物の結合の程度や大きさなども様々であり、上記効果との関連が優位となる体系化された測定、解析を行うことは、現実的ではない回数の実験等を行うことを要するものであって、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能又はおよそ非実際的である事情が存在すると考えられる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態に係る鉛筆芯を使用する場合のシャープペンシル本体としては、従来公知のものが種々使用できる。例えば、特開平8-282182号公報に開示されているような、筆記時に、芯の摩耗と共に先端部材の先端面が紙面に擦られた状態で後退するなどして、筆記時の芯折れを防ぐ、所謂、パイプスライド式シャープペンシルは、本発明のいくつかの実施形態により得られる鉛筆芯の保護として有効であるとともに、先端部材の先端面が摩耗粉を紙面に押し付けるため、摩耗粉の紙面への定着性がより向上する。このパイプスライド式シャープペンシルを採用する場合には、特開2015-104882号公報に開示されているように、紙と接触する先端部材(ステンパイプ)の形状や素材を選定し、芯の摩耗粉を先端部材に付着しやすくする工夫を施すとより好ましい。また、特開2018-1685号公報に開示されている先端部材が紙面と接触した状態での筆記が可能で、且つ、連続した筆記が可能なシャープペンシルを使用の場合には、ノック時の衝撃による芯折れも防ぐことが可能であるため本発明のいくつかの実施形態に係る鉛筆芯を使用するシャープペンシルとして最適である。
【実施例
【0024】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、配合材料の黒鉛の平均粒子径はレーザ回折式粒度分布測定装置SALD-7000((株)島津製作所製)で測定した体積平均径である。さらに、焼成芯体の細孔容積は、定容量式ガス吸着法による比表面積/細孔分布測定装置BELSORP-miniII(マイクロトラック・ベル(株)製)で、窒素を吸着ガスとして得られた窒素吸着等温線の吸着側のデータをBJH法により計算して得た。含浸成分のIOB値は、分子式からの計算値とした。また粘度は、モジュラーコンパクトレオメータMCR302(アントンパール・ジャパン(株)製)のレオメーターを用い、測定温度25℃、ジオメトリーは1°/Φ50mmコーンプレートを用いて測定したせん断速度1/sの値とした。含浸率は、含浸前の焼成芯体の重量をX、含浸後の鉛筆芯の重量をYとしたときの、(Y-X)/Yを百分率(重量%)で求めた。
【0025】
(焼成芯体Aの作製)
鱗片状黒鉛(着色成分:体積平均径15μm) 45重量部
ポリ塩化ビニル(有機結合材) 24重量部
カーボンブラック(充填材) 1重量部
ステアリン酸塩(安定剤) 1.5重量部
ステアリン酸(滑剤) 0.5重量部
フタル酸ジオクチル(可塑剤) 18重量部
メチルエチルケトン(溶剤) 15重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる分散混合処理、3本ロールによる混合処理をした後、単軸押出機にて細線状に押出成形し、空気中で室温から350℃まで約10時間かけて昇温し、350℃で約1時間保持する加熱処理を実施し、さらに、密閉容器内で1100℃を最高とする焼成処理を施し、実寸直径0.57mmの焼成芯体Aを得た。細孔容積は0.18cm/gであった。
【0026】
(焼成芯体Bの作製)
鱗片状黒鉛(着色成分:体積平均径15μm) 33重量部
ポリ塩化ビニル(有機結合材) 23重量部
カーボンブラック(充填材) 1重量部
ステアリン酸塩(安定剤) 1.5重量部
ステアリン酸(滑剤) 0.5重量部
フタル酸ジオクチル(可塑剤) 15重量部
メチルエチルケトン(溶剤) 15重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる分散混合処理、3本ロールによる混合処理をした後、単軸押出機にて細線状に押出成形し、空気中で室温から350℃まで約10時間かけて昇温し、350℃で約1時間保持する加熱処理を実施し、さらに、密閉容器内で1100℃を最高とする焼成処理を施し、実寸直径0.57mmの焼成芯体Bを得た。細孔容積は0.13cm/gであった。
【0027】
<実施例1>
上記の焼成芯体Aを、120℃に加熱した含浸成分(K-PON 402、上記一般式(化1)にて示される化合物(n=2)、リシノレイン酸の脱水縮合物、小倉合成工業(株)製、IOB値=0.45、粘度520mPa・s)に16時間浸漬後、遠心分離機にかけて表面上の余分な含浸成分を除去することで鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.5重量%であった。
【0028】
<実施例2>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 404-S(上記一般式(化1)にて示される化合物(n=4)、リシノレイン酸の脱水縮合物、小倉合成工業(株)製、IOB値=0.31、粘度1068mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.7重量%であった。
【0029】
<実施例3>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 406-S(上記一般式(化1)にて示される化合物(n=6)、リシノレイン酸の脱水縮合物、小倉合成工業(株)製、IOB値=0.27、粘度1589mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.2重量%であった。
【0030】
<実施例4>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、PCF-90(上記一般式(化1)にて示される化合物(n=2)、リシノレイン酸の脱水縮合物、伊藤製油(株)製、IOB値=0.45、粘度580mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.2重量%であった。
【0031】
<実施例5>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、PCF-45(上記一般式(化1)にて示される化合物(n=4)、リシノレイン酸の脱水縮合物、伊藤製油(株)製、IOB値=0.31、粘度1162mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.5重量%であった。
【0032】
<実施例6>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、PCF-30(上記一般式(化1)にて示される化合物(n=6)、リシノレイン酸の脱水縮合物、伊藤製油(株)製、IOB値=0.27、粘度1782mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.5重量%であった。
【0033】
<実施例7>
上記の焼成芯体Bに、150℃に加熱した含浸成分(K-PON 402(前出))を16時間かけて、2MPaの条件で加圧含浸した後、遠心分離機にかけて表面上の余分な含浸成分を除去することで鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、14.0重量%であった。
【0034】
<実施例8>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 404-S(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、13.8重量%であった。
【0035】
<実施例9>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 406-S(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、13.5重量%であった。
【0036】
<実施例10>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、PCF-90(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、14.2重量%であった。
【0037】
<実施例11>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、PCF-45(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、13.5重量%であった。
【0038】
<実施例12>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、PCF-30(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、13.3重量%であった。
【0039】
<比較例1>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、リシノレイン酸(上記一般式(化1)にて示される化合物の縮合前の物質(n=1)、和光純薬工業(株)製、IOB値=0.72、粘度342mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、17.6重量%であった。
【0040】
<比較例2>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 406-G(重縮合ひまし油脂肪酸のグリセリンエステル、小倉合成工業(株)製、IOB値=0.29、粘度1574mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、18.3重量%であった。
【0041】
<比較例3>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、加熱溶解した12-ヒドロ酸(12-ヒドロキシステアリン酸、小倉合成工業(株)製、IOB値=0.71、常温固体(融点77℃))を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.7重量%であった。
【0042】
<比較例4>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 306(12-ヒドロキシオクタデカン酸重縮合物、小倉合成工業(株)製、IOB値=0.26、粘度3006mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.5重量%であった。
【0043】
<比較例5>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、ヒマシ油 マル特A(リシノール酸トリグリセリド、伊藤製油(株)製、IOB値=0.43、粘度696mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、17.2重量%であった。
【0044】
<比較例6>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、日石ポリブテンSV-7000(ポリブテン、JXTGエネルギー(株)製)とシンセラン4SP(α-オレフィンオリゴマー、日光ケミカルズ(株)製)とを1:1(重量比)で混合した混合物、IOB値=0、粘度1430mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、15.7重量%であった。
【0045】
<比較例7>
実施例1において、含浸成分をK-PON 402に変えて、NIKKOL Sefsol-218(モノカプリル酸プロピレングリコール、日光ケミカルズ(株)製、IOB値=0.73、粘度12.5mPa・s)を使用した他は、実施例1と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、16.5重量%であった。
【0046】
<比較例8>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、リシノレイン酸(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、15.0重量%であった。
【0047】
<比較例9>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 406-G(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、14.8重量%であった。
【0048】
<比較例10>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、加熱溶解した12-ヒドロ酸(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、12.8重量%であった。
【0049】
<比較例11>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、K-PON 306(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、11.7重量%であった。
【0050】
<比較例12>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、ヒマシ油 マル特A(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、13.0重量%であった。
【0051】
<比較例13>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、日石ポリブテンSV-7000(前出)とシンセラン4SP(前出)とを1:1(重量比)で混合した混合物(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、10.9重量%であった。
【0052】
<比較例14>
実施例7において、含浸成分をK-PON 402に変えて、NIKKOL Sefsol-218(前出)を使用した他は、実施例7と同様にして鉛筆芯を得た。含浸成分の含浸率は、12.7重量%であった。
【0053】
以上、実施例1~12及び比較例1~14で得た鉛筆芯について、下記方法により、筆記濃度、擦過に対する定着性の測定をし、加えて信頼性の試験を実施した。
【0054】
(筆記濃度の試験方法)
筆記濃度試験は、JIS S 6005に準じて実施した。
【0055】
(擦過に対する定着性(汚れ難さ)の試験方法)
擦過に対する定着性は、筆記濃度試験で画線した筆記部の濃度をAとし、前記筆記部を垂直500g荷重でティッシュペーパーで10往復する一定条件で擦り、前記筆記部外の汚れたところの濃度をBとしたときの、((A-B)/A)を百分率で求めた。値が大きい程、擦過に対して筆記線の定着性がよく、汚れ難いといえる。
【0056】
(樹脂製容器との反応性試験方法)
樹脂製容器との反応性試験は、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)製替芯容器(STEIN替芯用容器、ぺんてる(株)製)へ、実施例1~12及び比較例1~14で得られた鉛筆芯を40本入れて、ステンレス板上に置き、60℃に調整した恒温槽内に16時間静置後、取り出して室温で1時間静置し、次いで-30℃に調整した恒温槽内に16時間静置する冷熱サイクル試験を2回繰り返した後の前記替芯容器の変化を目視にて評価した。
【0057】
焼成芯体Aに含浸成分を含浸した鉛筆芯(実施例1~6及び比較例1~7)の試験結果(評価結果)を表1に示す。
【0058】
【表1】
上記表1の結果から明らかなように、実施例1~6の鉛筆芯は、比較例1~7の鉛筆芯に比べ、筆跡線が濃く、且つ、紙面の汚れが少ない鉛筆芯を得られるものである。
【0059】
実施例1~3では、含浸成分として使用している上記一般式(化1)にて示される化合物の縮合度が異なり(実施例1は2量体、実施例2は4量体、実施例3は6量体)、縮合度が大きくなるほど分子量が大きく粘度が高くなっているが、含浸成分が上記一般式(化1)にて示される化合物であれば粘度やIOB値に影響されることなく、筆記濃度の低下もなく、紙面の汚れも少ない。
【0060】
実施例4は、実施例1と製造会社が異なる含浸成分を用いているが、若干粘度は高くなっているが、上記一般式(化1)にて示される化合物であれば筆記濃度の低下もなく、紙面の汚れも少ない。
【0061】
実施例5は、実施例2と製造会社が異なる含浸成分を用いているが、若干粘度は高くなっているが、上記一般式(化1)にて示される化合物であれば筆記濃度の低下もなく、紙面の汚れも少ない。
【0062】
実施例6は、実施例3と製造会社が異なる含浸成分を用いているが、若干粘度は高くなっているが、上記一般式(化1)にて示される化合物であれば筆記濃度の低下もなく、紙面の汚れも少ない。
【0063】
比較例1、2は、筆記濃度が実施例1~6よりも濃いが、紙面の汚れが多くなっている(定着率が低くなっている)。一方で、比較例3~7は、紙面の汚れが多く、且つ、筆記濃度も低下しており、上述した課題を解決しているとはいえない。
【0064】
比較例1は、含浸成分がリシノレイン酸で、上記一般式(化1)にて示される化合物の縮合前の物質(n=1)であるが、IOB値が高く、着色成分の黒鉛との結びつきが弱いため、紙面の汚れが低減しなかったと推察される。さらに、リシノレイン酸は大気中の水分を吸湿しやすいため、樹脂製容器との反応性試験で吸湿した水分が替芯容器内で結露し、その結果芯がケースから取り出しにくくなっている。
【0065】
比較例2は、含浸成分が上記一般式(化1)にて示される化合物の6量体の末端のカルボキシル基を、グリセリル修飾したグリセリンエステルに置き換えたものであるが、極性の大きいカルボキシル基をもたないため、紙面の官能基との相互作用が不十分で、紙面の汚れが低減しなかったと推察される。
【0066】
比較例3は、含浸成分(12-ヒドロキシステアリン酸)が、比較例1の含浸成分(リシノレイン酸)における不飽和結合のない飽和脂肪酸であり、常温固体で芯体の摩耗が減少したため、非常に薄い筆記線(筆記濃度)となっている。
【0067】
比較例4は、含浸成分は、比較例3の含浸成分(12-ヒドロキシステアリン酸)の脱水縮合物であり、上記一般式(化1)にて示される化合物の不飽和結合がない物質であるが、分子間の接近が容易であり、分子内のシス型の不飽和結合により分子の動きが制限される上記一般式(化1)にて示される化合物よりも分子間の相互作用が大きいため、筆記時の芯体摩耗を阻害し、筆記濃度が低下したものと推察される。
【0068】
比較例5は、上記一般式(化1)にて示される化合物の原料である精製ヒマシ油(リシノール酸トリグリセリド)を使用しているが、分子内でエステル結合が偏在しているために、潤滑効果が上記一般式(化1)にて示される化合物よりも低く、芯体の摩耗が阻害され、筆記濃度が低下したと推測される。
【0069】
比較例6は、動粘度の高い飽和炭化水素系の含浸成分(特許文献1記載の含浸成分)を、実施例3と同等の粘度に調整し使用した鉛筆芯である。比較例6の含浸成分は、レオメーター(モジュラーコンパクトレオメータMCR302(アントンパール・ジャパン(株)製))での動的粘弾性測定(周波数1Hz、測定温度25℃))において、線形領域が存在(せん断ひずみ0.1%~100%)し、実施例3と同程度の粘度でも、線形領域をもたないニュートン流体の挙動を示す含浸成分と比較して、筆記時に含浸成分が芯体の摩耗を阻害するため、筆記濃度が低下したと推測される。
【0070】
比較例7は、極性の大きな脂肪酸エステルを含浸成分(特許文献2記載の含浸成分)とし使用した鉛筆芯であるが、筆記濃度が低下していることに加えて、炭素鎖が少なく極性の大きな含浸成分が、替芯容器のアクリロニトリル・スチレン共重合体を浸食してひび割れを起こしている。
【0071】
次に、焼成芯体Bに含浸成分を含浸した鉛筆芯(実施例7~12及び比較例8~14)の試験結果(評価結果)を表2に示す。
【0072】
【表2】
上記表2の結果においても、実施例7~12の鉛筆芯は、比較例8~14の鉛筆芯に比べて、筆跡線が濃く、且つ、紙面の汚れが少ない鉛筆芯を得られるものである。これは上記一般式(化1)にて示される化合物を含浸させる焼成芯体(焼成芯体A及び焼成芯体B)を変えても、含浸成分が上記一般式(化1)にて示される化合物であれば、鉛筆芯の摩耗量が異なっても、筆跡線が濃く、且つ、紙面の汚れが少ない鉛筆芯を得られるものである。
【0073】
以上詳述の通り、実施例1~12の鉛筆芯を使用することで、比較例1~14の鉛筆芯を使用した場合と比べて、濃い筆記線(濃い筆記濃度)が得られるとともに、筆記線を擦過した際には摩耗粉の移動が抑制され、紙面の汚れが少ない鉛筆芯が得られるものである。
【0074】
さらに、実施例1~12は、含浸成分が替芯容器を浸食してひび割れを起こしたり、吸湿して替芯容器内に結露が発生したりしないので、鉛筆芯を替芯容器から取り出す基本機能を阻害することもない。