(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/16 20060101AFI20230704BHJP
C25D 11/24 20060101ALI20230704BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230704BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C25D11/16 301
C25D11/24
B32B5/18 101
B32B15/20
(21)【出願番号】P 2020548531
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036453
(87)【国際公開番号】W WO2020059728
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2018174947
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕太
(72)【発明者】
【氏名】榎 修平
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146681(WO,A1)
【文献】特開2018-080373(JP,A)
【文献】特開2002-293055(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046114(WO,A1)
【文献】特表2002-526755(JP,A)
【文献】特開2006-076281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00-11/38
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウムにより構成された母材と、前記母材の表面を被覆する酸化アルミニウムを含む皮膜と、を含む多孔質層を備え、
前記皮膜は5nm~1000nmの厚さを有し、
前記皮膜は表面に形成された複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方を有し、
前記複数の凹部に含まれる各凹部の深さは10nm~100nmであり、
前記複数の凸部に含まれる各凸部の高さは10nm~100nmであり、
前記多孔質層は複数の空孔を有し、前記複数の空孔の平均細孔径が0.1μm~10μmである、アルミニウム部材。
【請求項2】
前記各凹部の径は10nm~200nmであり、かつ、前記多孔質層の平均細孔径よりも小さい、請求項1に記載のアルミニウム部材。
【請求項3】
前記各凸部の径は10nm~200nmである、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項4】
前記皮膜と、前記複数の凹部及び前記複数の凸部の少なくともいずれか一方とによって形成された一次粗面構造と、
前記母材と前記複数の空孔とによって形成された二次粗面構造と、
前記一次粗面構造と前記二次粗面構造との集合からなる三次粗面構造と、
を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項5】
算術平均粗さSaが、0.1μm~30μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項6】
L
*a
*b
*表色系におけるL
*値が80以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項7】
毛細管現象による水の吸い上げ高さが3cm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項8】
MIT型折り曲げ試験法に準じた折り曲げ試験において、100回以上折り曲げても破断しない、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項9】
金属アルミニウムにより構成された基板をさらに備え、
前記基板の少なくとも一方の面側には、前記多孔質層が設けられる、請求項1~8のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項10】
クロマトグラフィーに用いられる、請求項1~9のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項11】
多孔質構造を有するアルミニウム板を陽極酸化し、前記アルミニウム板に酸化アルミニウムを含む皮膜を形成する皮膜形成工程と、
前記皮膜が形成されたアルミニウム板を減極処理し、前記皮膜の表面の一部を除去する減極処理工程と、を備え
るアルミニウム部材の製造方法であって、
前記皮膜形成工程と前記減極処理工程とを交互に繰り返し、
前記アルミニウム板は金属アルミニウムにより構成されており、
前記皮膜形成工程と前記減極処理工程とによって、前記皮膜の表面に複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方を形成し、
前記皮膜は5nm~1000nmの厚さを有し、
前記複数の凹部に含まれる各凹部の深さは10nm~100nmであり、
前記複数の凸部に含まれる各凸部の高さは10nm~100nmであり、
前記アルミニウム部材は複数の空孔を有し、前記複数の空孔の平均細孔径が0.1μm~10μmである、アルミニウム部材の製造方法。
【請求項12】
前記皮膜形成工程の前に、前記アルミニウム板をエッチングし、前記アルミニウム板に前記多孔質構造を形成するエッチング工程をさらに有する、請求項11に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項13】
前記皮膜形成工程の前に、前記アルミニウム板を水和処理し、前記多孔質構造を有するアルミニウム板に水和皮膜を形成する水和処理工程をさらに有する、請求項11又は12に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項14】
前記皮膜形成工程と前記減極処理工程とによって、前記皮膜の表面に複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方を形成し、
前記複数の凹部及び前記複数の凸部の少なくともいずれか一方は、前記皮膜形成工程と前記減極処理工程とを交互に2回以上繰り返すことによって形成される、請求項11~13のいずれか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項15】
前記複数の凹部及び前記複数の凸部の少なくともいずれか一方は、前記皮膜形成工程と前記減極処理工程とを交互に5回以上繰り返すことによって形成される、請求項11~14のいずれか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項16】
前記皮膜形成工程と前記減極処理工程とを交互に繰り返す際の、前記減極処理工程における、前記減極処理の1回分の処理時間は、20分~60分である、請求項11~15のいずれか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばインフルエンザウイルスなどの感染を迅速かつ簡易に検査する体外診断用医薬品として、イムノクロマトグラフィーを利用した検査キットが知られている。この検査キットは、例えば、生体などから採取した検体を所定の位置に滴下し、テストラインとコントロールラインの両方が目視にて確認できた場合に陽性であり、コントロールラインのみが目視にて確認できた場合には陰性であることを示すものである。
【0003】
検査キットは、例えば特許文献1に示されるように、検体を展開するための展開部材として、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを備えている。採取した検体は、毛細管現象によってメンブレンフィルター内を流れ、テストラインとコントロールラインまで展開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ニトロセルロース製メンブレンフィルターは、一般的に白色度が高いため、テストライン及びコントロールラインを目視にて確認することが比較的容易であり、多くの検査キットで使用されている。
【0006】
しかしながら、ニトロセルロース製メンブレンフィルターは、生産日、製造場所及び製造ロットなどによって、空孔のサイズが不均一であったり、厚さが不均一であったりし、品質のばらつきが大きい傾向にある。このような品質のばらつきが大きいと、毛細管現象により流れる液体の流速が不均一になりやすく、検査結果に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
また、ニトロセルロース製メンブレンフィルターは、一般的に保存性が良好でない。そのため、白色度及び保存性の高い、ニトロセルロース製メンブレンフィルターに代わる展開部材が望まれている。
【0008】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、白色度及び水の吸い上げ性能が高いアルミニウム部材及びその製造方法を提供することである。
【0009】
本発明の態様に係るアルミニウム部材は、金属アルミニウムにより構成された母材と、母材の表面を被覆する酸化アルミニウムを含む皮膜と、を含む多孔質層を備える。皮膜は5nm~1000nmの厚さを有し、皮膜は表面に形成された複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方を有する。複数の凹部に含まれる各凹部の深さは10nm~100nmであり、複数の凸部に含まれる各凸部の高さは10nm~100nmである。多孔質層は複数の空孔を有し、複数の空孔の平均細孔径が0.1μm~10μmである。
各凹部の径は10nm~200nmであり、かつ、多孔質層の平均細孔径よりも小さくてもよい。
各凸部の径は10nm~200nmであってもよい。
アルミニウム部材は、皮膜と、複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方とによって形成された一次粗面構造と、母材と複数の空孔とによって形成された二次粗面構造と、一次粗面構造と二次粗面構造との集合からなる三次粗面構造と、を有していてもよい。
アルミニウム部材は、算術平均粗さSaが、0.1μm~30μmであってもよい。
アルミニウム部材は、L
*
a
*
b
*
表色系におけるL
*
値が80以上であってもよい。
アルミニウム部材は、毛細管現象による水の吸い上げ高さが3cm以上であってもよい。
アルミニウム部材は、MIT型折り曲げ試験法に準じた折り曲げ試験において、100回以上折り曲げても破断しなくてもよい。
アルミニウム部材は、金属アルミニウムにより構成された基板をさらに備え、基板の少なくとも一方の面側には、多孔質層が設けられてもよい。
アルミニウム部材は、クロマトグラフィーに用いられてもよい。
【0010】
本発明の態様に係るアルミニウム部材の製造方法は、多孔質構造を有するアルミニウム板を陽極酸化し、アルミニウム板に酸化アルミニウムを含む皮膜を形成する皮膜形成工程を備える。アルミニウム部材の製造方法は、皮膜が形成されたアルミニウム板を減極処理し、皮膜の表面の一部を除去する減極処理工程を備える。皮膜形成工程と減極処理工程とを交互に繰り返す。アルミニウム板は金属アルミニウムにより構成されている。皮膜形成工程と減極処理工程とによって、皮膜の表面に複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方を形成する。皮膜は5nm~1000nmの厚さを有する。複数の凹部に含まれる各凹部の深さは10nm~100nmである。複数の凸部に含まれる各凸部の高さは10nm~100nmである。アルミニウム部材は複数の空孔を有し、複数の空孔の平均細孔径が0.1μm~10μmである。
アルミニウム部材の製造方法は、皮膜形成工程の前に、アルミニウム板をエッチングし、アルミニウム板に多孔質構造を形成するエッチング工程をさらに有していてもよい。
アルミニウム部材の製造方法は、皮膜形成工程の前に、アルミニウム板を水和処理し、多孔質構造を有するアルミニウム板に水和皮膜を形成する水和処理工程をさらに有していてもよい。
皮膜形成工程と減極処理工程とによって、皮膜の表面に複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方を形成し、複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方は、皮膜形成工程と減極処理工程とを交互に2回以上繰り返すことによって形成されてもよい。
複数の凹部及び複数の凸部の少なくともいずれか一方は、皮膜形成工程と減極処理工程とを交互に5回以上繰り返すことによって形成されてもよい。
皮膜形成工程と減極処理工程とを交互に繰り返す際の、減極処理工程における、減極処理の1回分の処理時間は、20分~60分であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る多孔質層の一部を拡大した多孔質層の三次粗面構造を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の枠で囲んだ部分を拡大した多孔質層の一次粗面構造及び二次粗面構造を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、多孔質層の一次粗面構造及び二次粗面構造の別の例を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、多孔質層の一次粗面構造及び二次粗面構造の別の例を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るアルミニウム部材の一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るアルミニウム部材を用いた検査キットの一例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、エッチング後のアルミニウム板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図8】
図8は、実施例3に係るアルミニウム部材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図9】
図9は、実施例10に係るアルミニウム部材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図10】
図10は、比較例3に係るアルミニウム部材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本実施形態に係るアルミニウム部材及びその製造方法について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
[アルミニウム部材]
本実施形態では、ニトロセルロース製メンブレンフィルターの代替として、多孔質構造を有しているアルミニウム部材を用いることができないか検討した。しかしながら、通常、アルミニウム部材は、イムノクロマトグラフィーに適用できるほどの毛細管現象を発現させることが困難であると考えられている。また、アルミニウム部材は、通常、灰色をしており、テストライン及びコントロールラインなどの発色を確認し難い。
【0014】
しかしながら、以下で詳述する本実施形態に係るアルミニウム部材は、白色度が高く、水の吸い上げ性能が高いことが分かった。このようなアルミニウム部材は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターの代替としてだけではなく、様々な用途に有用であると期待される。
【0015】
図1は、本実施形態に係る多孔質層40の一部を拡大した模式的な断面図である。
図2~
図4は、
図1の枠で囲んだ部分を拡大した多孔質層40の一次粗面構造10及び二次粗面構造20を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るアルミニウム部材100は、多孔質層40を備える。また、
図2~
図4に示すように、多孔質層40は、母材11と、皮膜12と、を含んでいる。そして、多孔質層40では、この母材11に皮膜12が接するとともに、アルミニウム部材100の外表面側に皮膜12が配されている。皮膜12は、その表面に凹部13(第1凹部)及び凸部14(第1凸部)の少なくともいずれか一方を有する。また、多孔質層40は、複数の空孔15を有している。
【0016】
<粗面構造>
アルミニウム部材100は、その表面に粗面構造を有している。粗面構造とは、表面に凹凸を複数有することで、平滑な面よりも表面が粗くなっている表面構造をいう。好ましくは、粗面構造は、凹部13及び凸部14の少なくともいずれか一方がアルミニウム部材100の表面上に分散して配置されているものをいう。アルミニウム部材100の表面上の粗面構造には、針状又は板状の凹凸構造物が配置されていないことが好ましい。アルミニウム部材100の粗面構造は、表面粗度のスケールが大きくなる順に、一次粗面構造10、二次粗面構造20、及び三次粗面構造30によって表すことができる。すなわち、二次粗面構造20の表面粗度のスケールは一次粗面構造10の表面粗度のスケールより大きく、三次粗面構造30の表面粗度のスケールは二次粗面構造20の表面粗度のスケールより大きい。後述するように、アルミニウム部材100は、一次粗面構造10と、二次粗面構造20と、三次粗面構造30とを有することによって白色度が高まるものと推測される。
【0017】
図2~
図4に示すように、一次粗面構造10は、皮膜12と、皮膜12の表面に存在する複数の凹部13及び複数の凸部14の少なくともいずれか一方とによって形成される微細な粗面構造である。一次粗面構造10は、皮膜12の表面に形成されている。一次粗面構造10は、表面粗度のスケールが数nm~数100nm程度のオーダーの構造である。
【0018】
図2~
図4に示すように、二次粗面構造20は、多孔質層40のうち、母材11と複数の空孔15とによって形成される粗面構造である。すなわち、二次粗面構造20は、凸部21(第2凸部、突出部)と、凹部22(第2凹部、陥入部)とによって形成されている。凸部21は、母材11と皮膜12とによって形成され、多孔質層40の外側に向かって突出している。凹部22は、母材11と皮膜12とによって形成され、多孔質層40の内側に向かって陥入している。空孔15は、凹部22を形成する母材11と皮膜12とにより囲まれた多孔質層40の内部空間によって形成されている。言い換えれば、二次粗面構造20は、母材11及び皮膜12自体によって、アルミニウム部材100の表面に形成されている。二次粗面構造20は、表面粗度のスケールが数100nm~数10μm程度のオーダーの構造である。
【0019】
このようにして、多孔質層40は、外部に連通する空孔15を内部に有する多孔体となっている。このとき、空孔15は皮膜12に囲われている。すなわち、一次粗面構造10の凹部13及び凸部14が多孔質層40の表面における皮膜12に形成されているのに対して、二次粗面構造20の空孔15は多孔質層40の内部における母材11とその表面を覆う皮膜12に囲われて形成されている。皮膜12に囲われた1つのセル構造を形成する空孔15は、他のセル構造を形成する空孔15と連通していてもよい。具体的には、多孔質層40は、オープンセル型構造であってもよい。また、空孔15は、多孔質層40の一方の面から他方の面までを貫通していてもよく、貫通していなくてもよい。
【0020】
図1に示すように、三次粗面構造30は、多孔質層40の外表面により構成される。三次粗面構造30は、一次粗面構造10及び二次粗面構造20による凹凸が複数集まることで形成される粗大な粗面構造である。三次粗面構造30は、アルミニウム部材100の表面において、一次粗面構造10及び二次粗面構造20の集合からなる集合体である。なお、後述するが、三次粗面構造30は、エッチング工程後に、皮膜形成工程及び減極処理工程を繰り返すことで、一次粗面構造10と二次粗面構造20の集合体からなる凹凸構造が発達することで形成される。三次粗面構造30は、表面粗度のスケールが数10μm~数100μm程度のオーダーの構造である。
【0021】
図1に示すように、一次粗面構造10と二次粗面構造20との集合体からなる三次粗面構造30によって、アルミニウム部材100の表面に凹凸構造が形成されている。具体的には、三次粗面構造30は、一次粗面構造10と二次粗面構造20との集合体によって、凸部31(第3凸部、山部)と、凹部32(第3凹部、谷部)とが形成されている。凸部31はアルミニウム部材100の表面の厚み方向に対して山のように盛り上がり、凹部32はアルミニウム部材100の表面の厚み方向に対して谷のように落ち窪んでいる。そして、これらの凸部31と凹部32とが繰り返し間隔を空けて現れることで、三次粗面構造30は、一次粗面構造10及び二次粗面構造20よりもスケールの大きい周期的な山谷構造を有している。
【0022】
三次粗面構造30の周期は10μm~500μmであることが好ましく、30μm~200μmであることがさらに好ましい。三次粗面構造30の周期とは、アルミニウム部材100の平面方向において、凹部32を挟んで隣り合って周期的に現れる凸部31同士、または凸部31を挟んで隣り合って周期的に現れる凹部32同士の間隔をいう。三次粗面構造30の周期がこのような範囲であることにより、白色度がより良好なアルミニウム部材100を提供することができる。三次粗面構造30の周期は、光学顕微鏡などで、アルミニウム部材100の断面を観察して測定することができる。
【0023】
アルミニウム部材100は、上述のような三次粗面構造30を有することで、表面のグロス感が減じてマット感が向上する。これにより、アルミニウム部材100の表面に生じる光沢が抑えられて、アルミニウム部材100に提示される色、模様、図形、記号、文字等の情報の視認性が良好になる。このような視認性の向上は、例えばアルミニウム部材100を試験シートまたはクロマトグラフィー用の展開部材として用いて、アルミニウム部材100上に生じる試験結果を目視または光学的に確認する場合に有効である。
【0024】
<母材>
母材11は、金属アルミニウムにより構成されている。母材11を構成する金属アルミニウムは、純度が99%以上の純アルミニウムであることが好ましく、純度が99.9%以上の純アルミニウムであることがより好ましく、純度が99.98%以上の純アルミニウムであることがさらに好ましい。
【0025】
母材11は、不可避不純物を含有していてもよい。本実施形態において、不可避不純物とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、アルミニウム中の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。アルミニウム中に含有される可能性がある不可避不純物は、アルミニウム(Al)以外の元素である。アルミニウム中に含有される可能性がある不可避不純物としては、例えば、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)などが挙げられる。不可避不純物の量としては、アルミニウム中に合計で1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
母材11の形状は特に限定されず、多孔質状、樹状、繊維状、塊状及び海綿状などであってもよい。
【0027】
<皮膜>
皮膜12は、母材11の表面を被覆している。具体的には、皮膜12は、母材11の表面及び空孔15と接しており、母材11が腐食するのを抑制している。
【0028】
皮膜12は、酸化アルミニウムを含む。本実施形態においては、皮膜12は陽極酸化皮膜であり、陽極酸化皮膜はバリア型の陽極酸化皮膜であることが好ましい。また、皮膜12は、水酸化アルミニウムを含んでいてもよい。皮膜12は、水酸化アルミニウムを含む水和皮膜を有していてもよい。
【0029】
例えば、皮膜12は、母材11側から、陽極酸化皮膜と、水和皮膜とがこの順で積層されたものであってもよいが、母材11の表面を被覆する陽極酸化皮膜の表面側の一部において、水和皮膜が設けられていることが好ましい。または、皮膜12は、母材11の表面に、陽極酸化皮膜と水和皮膜とが海島状に分布するものであってもよいが、母材11の表面に、陽極酸化皮膜が海状に分布するとともに、水和皮膜が島状に分布していることが好ましい。具体的には、皮膜12の外表面全体に対する水和皮膜の割合は、5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましく、15%以上30%以下であることがさらに好ましい。なお、皮膜12が水酸化アルミニウムを含み、母材11及び多孔質層40の最表面の一部に水酸化アルミニウムが存在する場合、水酸化アルミニウムが凸部14を形成していることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る多孔質層40は、母材11及び多孔質層40を被覆する水和皮膜を最表面全体に含んでいないことが好ましい。多孔質層40が最表面全体に水和皮膜を含んでいないことにより、拡散反射が優位になり、アルミニウム部材100の白色度をより向上させることができる。水酸化アルミニウムは一般式Al(OH)3で表される。
【0031】
皮膜12の最表面が針状又は板状の水和皮膜によって覆われている場合には、アルミニウム部材100は黒色又は灰色に観察されることがある。これは、このような水和皮膜は、表面近傍が鋭利な先端形状を有しており、この先端部分が入射光の拡散反射に寄与するものの、拡散反射をすることのできる部分が、先端部分に限られ、面積的に少ないことが影響していると考えられる。また、このような皮膜は、先端部分から付け根部分に向かうにつれて、隣接する針状又は板状の水和皮膜同士の間が次第に狭まる内部形状を有している。そのため、この内部に入り込んだ入射光が、反射を繰り返すうちに水和皮膜に吸収され、光が外部に出射しにくいことも、アルミニウム部材100が黒色又は灰色に観察されることに影響していると考えられる。
【0032】
さらに、水和皮膜が存在すると一次粗面構造10と二次粗面構造20が目詰まりしてしまうことが多いため、アルミニウム部材100の外観が黒色又は灰色になる傾向にある。それゆえ、陽極酸化皮膜からなる皮膜12が多孔質層40の表面に設けられており、凹部13及び空孔15が皮膜12の最表面に存在していることが好ましい。一方、水酸化アルミニウムが多孔質層40の最表面全体を被覆して水和皮膜を形成せずに、多孔質層40の最表面の一部に粒状又は塊状に存在して凸部14を形成する場合には、凸部14によって白色度を向上させることができる。さらに、凸部14と、水和皮膜に覆われずに多孔質層40の最表面に露出する凹部13とによって、白色度を向上させることもできる。また、水酸化アルミニウムが多孔質層40の最表面全体を被覆して水和皮膜を形成するとともに、多孔質層40の最表面に粒状又は塊状に存在して凸部14を形成する場合には、凸部14によって白色度を向上させることができる。
【0033】
皮膜12は、通常、5nm~1000nmの厚さを有する。皮膜12の厚さは、20nm~800nmであることが好ましく、30nm~500nmであることがより好ましく、50nm~300nmであることがさらに好ましい。皮膜12の厚さをこのような範囲とすることによって、多孔質層40に入射した光を拡散反射させるだけの十分な厚さを確保しやすくなり、白色度がより良好なアルミニウム部材100を提供することができる。さらに、十分に耐食性の高いアルミニウム部材100を提供することができる。皮膜12の厚さは、例えば、皮膜12の断面を走査型電子顕微鏡などで観察することにより測定することができる。なお、本明細書において、皮膜12の厚さは、凹部13及び凸部14を含まない厚さを意味する。
【0034】
皮膜12は、表面に形成された複数の凹部13及び複数の凸部14の少なくともいずれか一方を有している。具体的には、
図2に示すように、皮膜12は、皮膜12の表面に複数の凹部13を有していてもよい。または、
図3に示すように、皮膜12は、皮膜12の表面に複数の凸部14を有していてもよい。または、
図4に示すように、皮膜12は、皮膜12の表面に凹部13及び凸部14を有していてもよい。すなわち、皮膜12は、凹部13又は凸部14のいずれか一方を有していてもよく、凹部13及び凸部14の両方を有していてもよい。凹部13又は凸部14の有無は、皮膜12の表面を走査型電子顕微鏡などによって観察することで判別することができる。
【0035】
凹部13及び凸部14は、アルミニウム部材100の白色度に寄与している。皮膜12の表面に凹部13及び凸部14の少なくともいずれか一方が形成されることで、アルミニウム部材100の白色度が向上する理由は必ずしも明らかではないが、以下の通り推察される。まず、アルミニウム部材に対して光が入射した場合には、入射光がアルミニウム部材の表面で反射する。このとき、アルミニウム部材の表面が平滑である場合には、鏡面状の光沢を示すことになる。ここで、アルミニウム部材の表面に微細な凹凸がある場合には、この凹凸による入射光の拡散反射が生じるが、通常は白色に視認できるほどの凹凸は存在していない。
【0036】
これに対して、本実施形態に係るアルミニウム部材100は、凹部13及び凸部14によって、皮膜12表面での拡散反射を増加させることができる。すなわち、皮膜12が凹部13を有する場合には、入射光を拡散反射できる面積が凹部13によって増大するため、アルミニウム部材100は白色を示すように観察される。同様に、皮膜12が凸部14を有する場合には、入射光を拡散反射できる面積が凸部14によって増大するため、アルミニウム部材100は白色を示すように観察される。
【0037】
凹部13は、皮膜12の露出した表面から母材11に向かって窪んで形成されていることが好ましい。凹部13の底部は母材11まで貫通しておらず、凹部13と母材11との間には皮膜12が形成されていることが好ましい。凹部13の形状は、特に限定されないが、母材11と皮膜12の積層方向(皮膜12の厚さ方向)において、断面視で略U字状又は略V字状であることが好ましい。後述するように、エッチングされたアルミニウム板が陽極酸化処理及び減極処理されることで、母材11の表面に陽極酸化皮膜からなる皮膜12が生じる。凹部13は、この陽極酸化皮膜に形成される。凸部14は、皮膜12の露出した表面から外方に向かって張り出して形成されていることが好ましい。凸部14の形状は、特に限定されないが、粒状又は塊状であることが好ましい。
【0038】
複数の凹部に含まれる各凹部13の径は、10nm~200nmであることが好ましく、20nm~150nmであることがより好ましく、50nm~100nmであることがさらに好ましい。また、複数の凸部に含まれる各凸部14の径は、10nm~200nmであることが好ましく、20nm~150nmであることがより好ましく、50nm~100nmであることがさらに好ましい。凹部13及び凸部14の径をこのような範囲とすることによって、多孔質層40に入射した光を凹部13及び凸部14によって拡散反射させやすくなり、白色度がより良好なアルミニウム部材100を提供することができる。凹部13の径は、皮膜12の表面を走査型電子顕微鏡などによって観察し、凹部13の入口部分の直径を測定することにより得ることができる。凸部14の径は、皮膜12の表面を走査型電子顕微鏡などによって観察し、凸部14の径が最も大きくなる部分の直径を測定することにより得ることができる。
【0039】
ここで、複数の凹部13が近接している場合における、凹部13及びその径の認定について説明する。まず、凹部13の位置は、凹部13の最も深い位置(ボトム側のピーク位置)によって定められる。隣接する凹部13同士の間隔は、それぞれの凹部13のボトム側のピーク位置の間の距離によって定めることができる。ある凹部13が、周囲の凹部13と50nm以上の間隔を空けて存在する場合には、この凹部13は独立した凹部13とみなされる。一方、複数の凹部13が50nm未満の間隔をおいて集合している集団であって、当該集団に含まれない周囲の凹部13と50nm以上の間隔を空けて存在する集団を形成している場合には、この集団は一つの凹部13とみなされる。そして、この集団全体の径を凹部13の径として測定する。なお、窪みの周縁部を共有している複数の凹部13であって、これら複数の凹部13のボトム側のピーク位置が50nm以上空いている場合には、これら複数の凹部13は別個に独立した凹部13とみなされる。このとき、周縁部を共有している窪みに対して、複数の凹部13のボトム側のピーク位置を母点としたボロノイ分割をすることによって、それぞれの凹部13に属する領域を画定することができる。
【0040】
同様に、複数の凸部14が近接している場合における、凸部14及びその径の認定について説明する。まず、凸部14の位置は、凸部14の最も高い位置(トップ側のピーク位置)によって定められる。隣接する凸部14同士の間隔は、それぞれの凸部14のトップ側のピーク位置の間の距離によって定めることができる。ある凸部14が、周囲の凸部14と50nm以上の間隔を空けて存在する場合には、この凸部14は独立した凸部14とみなされる。一方、複数の凸部14が50nm未満の間隔をおいて集合している集団であって、当該集団に含まれない周囲の凸部14と50nm以上の間隔を空けて存在する集団を形成している場合には、この集団は一つの凸部14とみなされる。そして、この集団全体の径を凸部14の径として測定する。なお、張り出しの周縁部を共有している複数の凸部14であって、これら複数の凸部14のトップ側のピーク位置が50nm以上空いている場合には、これら複数の凸部14は別個に独立した凸部14とみなされる。このとき、周縁部を共有している張り出しに対して、複数の凸部14のトップ側のピーク位置を母点としたボロノイ分割をすることによって、それぞれの凸部14に属する領域を画定することができる。
【0041】
複数の凹部に含まれる各凹部13の深さは、母材11と皮膜12の積層方向において、通常、断面視で10nm~100nmであり、20nm~80nmであることが好ましく、30nm~50nmであることがより好ましい。凹部13の深さは、皮膜12の断面を走査型電子顕微鏡などによって観察し、凹部13の入口部分から底部までの距離を測定した平均値を算出することにより得ることができる。
【0042】
複数の凸部に含まれる各凸部14の高さは、母材11と皮膜12の積層方向において、通常、断面視で10nm~100nmであり、20nm~80nmであることが好ましく、30nm~50nmであることがより好ましい。凸部14の高さは、皮膜12の断面を走査型電子顕微鏡などによって観察し、皮膜12の平坦部の表面から凸部14の最頂部までの距離を測定した平均値を算出することにより得ることができる。
【0043】
凹部13の深さ及び凸部14の高さが上記範囲の下限を上回ると、凹部13及び凸部14による入射光を拡散反射できる面積が増加して、拡散反射が増大しやすくなる。また、凹部13の深さ及び凸部14の高さが上記範囲の上限を下回ると、凹部13及び凸部14が例えば針状又は板状の凹凸構造物となることにより生じる、拡散反射の減少を抑えることができる。当該拡散反射の減少は、針状又は板状の凹凸構造物によって、入射光を拡散反射できる面積が減少すること及び入射光の吸収が生じることなどによると考えられる。このようにして、凹部13の深さ及び凸部14の高さが上記範囲内であると、アルミニウム部材100は白色を示すように観察される傾向にある。
【0044】
皮膜12における凹部13及び凸部14の密度は、3個/μm2~500個/μm2であることが好ましく、5個/μm2~200個/μm2であることがより好ましく,10個/μm2~100個/μm2であることがさらに好ましい。凹部13及び凸部14の密度をこのような範囲とすることによって、多孔質層40に入射した光を凹部13及び凸部14によって拡散反射させやすくなり、白色度がより良好なアルミニウム部材100を提供することができる。凹部13及び凸部14の密度は、走査型電子顕微鏡などによって、皮膜12の表面における単位面積当たりの凹部13及び凸部14の合計の数をカウントすることによって得ることができる。
【0045】
皮膜12における凹部13及び凸部14の面積率は、5%~80%であることが好ましく、20%~70%であることがより好ましく、30%~60%であることがさらに好ましい。凹部13及び凸部14の面積率をこのような範囲とすることにより、多孔質層40に入射した光を凹部13及び凸部14によって拡散反射させやすくなり、白色度がより良好なアルミニウム部材100を提供することができる。凹部13及び凸部14の面積率は、多孔質層40の表面において、皮膜12の表面積に対する凹部13及び凸部14が占める面積の割合をパーセンテージで表したものである。凹部13及び凸部14の面積率は、走査型電子顕微鏡などによって、皮膜12の表面における単位面積当たりの凹部13及び凸部14が占める合計の面積を算出することによって得ることができる。
【0046】
多孔質層40は複数の空孔を有し、複数の空孔の平均細孔径が0.1μm~10μmである。多孔質層40における空孔15の平均細孔径は、0.5μm~8μmであることが好ましく、1μm~5μmであることがより好ましい。多孔質層40における平均細孔径d(μm)はアルミニウム部材100が水を4cm吸い上げるのに要する時間をt秒とした場合、以下の式で表される範囲であることが好ましい。
平均細孔径d=k/t
ここでkは定数であり、具体的にはkは200~2000であることが好ましく、より好ましくは500~1500である。このような空孔15により、毛細管現象による水を吸い上げるための適切な径を確保しやすくなり、アルミニウム部材100の水の吸い上げ性能を向上させることができる。空孔15の平均細孔径は、例えば、水銀圧入法によって測定することができる。なお、凹部13又は凸部14の径は、上述した所定の範囲であり、かつ、多孔質層40における平均細孔径よりも小さいことが好ましい。具体的には、凹部13の径は、10nm~200nmであり、かつ、多孔質層40における平均細孔径よりも小さいことが好ましい。凸部14の径は、10nm~200nmであり、かつ、多孔質層40における平均細孔径よりも小さいことが好ましい。
【0047】
多孔質層40の厚さは、30μm~10cmであることが好ましい。多孔質層40の厚さをこのような範囲とすることにより、毛細管現象により水を吸い上げるための十分な厚みを確保しやすくなり、白色度と水の吸い上げ性能がより良好なアルミニウム部材100を提供することができる。多孔質層40の厚さは、40μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。多孔質層40の厚さは、1000μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。
【0048】
<基板>
図5に示すように、アルミニウム部材100は、基板50をさらに備えていてもよい。基板50は、多孔質層40を支持することができ、アルミニウム部材100の剛性を向上させることができる。基板50は、層状の形状をしていてもよい。
【0049】
多孔質層40は、基板50の少なくとも一方の面側に設けられていてもよい。具体的には、多孔質層40は、基板50の一方の面側にのみ設けられていてもよく、基板50の両方の面側に設けられていてもよい。多孔質層40は、アルミニウム部材100の最表面に配置されていることが好ましい。
【0050】
アルミニウム部材100は、必ずしも基板50を備えている必要がないため、基板50の厚さは0μm超である。基板50の厚さは、用途にもよるが、例えば、1mm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、1μm以下であってもよい。
【0051】
基板50を構成する材料は、母材11と実質的に同一の材料であってもよい。基板50と母材11とが同一の材料である場合には、基板50と母材11とが一体として形成されていてもよい。この場合、基板50と、多孔質層40の母材11とが連続して形成されていてもよい。基板50は金属アルミニウムにより構成されていてもよい。基板50を構成する金属アルミニウムは、純度が99%以上の純アルミニウムであることが好ましく、純度が99.9%以上の純アルミニウムであることがより好ましく、純度が99.98%以上の純アルミニウムであることがさらに好ましい。
【0052】
アルミニウム部材100の厚さは、用途にもよるが、例えば、50μm以上であってもよく、100μm以上であってもよく、150μm以上であってもよい。また、アルミニウム部材100の厚さは、300μm以下であってもよく、250μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。アルミニウム部材100の厚さをこのような範囲とすることにより、折り曲げ強度が良好なアルミニウム部材100を提供することができる。
【0053】
アルミニウム部材100における算術平均粗さSaは、0.1μm~30μmであることが好ましく、0.6μm~20μmであることがより好ましく、1μm~10μmであることがさらに好ましい。算術平均粗さSaをこのような範囲とすることによって、L*値が上昇する傾向にあり、白色度がより良好なアルミニウム部材100を提供しやすくなる。算術平均粗さSaは、アルミニウム部材100における多孔質層40側の表面をISO25178に準じて測定して得ることができる。なお、本明細書において、アルミニウム部材100における算術平均粗さSaとは、主に二次粗面構造20による粗さを反映したものである。
【0054】
アルミニウム部材100は、L*a*b*表色系におけるL*値が80以上であることが好ましく、85以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましく、95以上であることが特に好ましい。L*a*b*表色系におけるL*値は、JIS Z8722:2009(色の測定方法-反射及び透過物体色)に準じて求めることができる。具体的には、L*値は色彩色差計などを用いて測定することができ、拡散照明垂直受光方式(D/0)、視野角2°、C光源のような条件で測定することができる。
【0055】
アルミニウム部材100は、毛細管現象による水の吸い上げ高さが3cm以上であることが好ましく、4cm以上であることがより好ましく、5cm以上であることがさらに好ましい。このようにすることにより、例えば、クロマトグラフィーなどに適したアルミニウム部材100を提供することができる。吸い上げ高さは、例えば、アルミニウム部材100の平面方向が液面に対して垂直となるように、アルミニウム部材100を、純水に浸し、10分放置した後、毛細管現象によって水が吸い上げられた高さを測定することにより得ることができる。なお、純水は、30℃で測定した比抵抗が10kΩmの純水である。
【0056】
アルミニウム部材100は、MIT型折り曲げ試験法に準じた折り曲げ試験において、100回以上折り曲げても破断しないことが好ましい。アルミニウム部材100がこのような要件を満たす場合、アルミニウム部材100をロール状にした保管及び搬送が容易になる。なお、MIT型折り曲げ試験法はEIAJ RC-2364Aで規定されており、MIT型折り曲げ試験装置はJIS P8115(紙及び板紙-耐折強さ試験方法-MIT試験機法)で規定された装置を使用することができる。
【0057】
以上の通り、本実施形態に係るアルミニウム部材100は、金属アルミニウムにより構成された母材11と、母材11の表面を被覆する酸化アルミニウムを含む皮膜12と、を含む多孔質層40を備える。皮膜12は5nm~1000nmの厚さを有し、皮膜12は表面に形成された複数の凹部13及び複数の凸部14の少なくともいずれか一方を有している。複数の凹部13に含まれる各凹部13の深さは10nm~100nmであり、複数の凸部14に含まれる各凸部14の高さは10nm~100nmである。多孔質層40は複数の空孔15を有し、複数の空孔15の平均細孔径が0.1μm~10μmである。
【0058】
また、アルミニウム部材100は、金属アルミニウムにより構成された基板50をさらに備え、基板50の少なくとも一方の面側には、多孔質層40が設けられていてもよい。
【0059】
本実施形態に係るアルミニウム部材100は、高い白色度及び水の吸い上げ性能を有するが、これらの特性のいずれもが要求されている用途に限らず、いずれか一方の特性が要求されている用途にも用いることができる。
【0060】
本実施形態に係るアルミニウム部材100の有用な用途の例としては、例えば、気体又は液体の分離膜;吸湿材料;吸水材料;花粉、粒子状物質、細菌、臭い成分、重金属などの異物を吸着する吸着材料;拭き取りシート;濃硫酸などの薬品用、検尿用及びpH試験用などの試験シート;薄層クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー用の展開部材;除菌及び殺菌用材料;反射材:標準白色板;電池及び電気二重層キャパシタなどのセパレータ;触媒担体;合成反応等の反応場;断熱素材;などが挙げられる。上記分離膜の例としては、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜などが挙げられる。上記吸着材料の例としては、マスク、濾過膜、フィルターなどが挙げられる。
【0061】
アルミニウム部材100は、白色度が高いことから、試験シート、クロマトグラフィー用の展開部材、反射材及び標準白色板として用いることが好ましい。また、アルミニウム部材100は、多孔質であることから、分離膜、吸湿材料、吸水材料、吸着材料、クロマトグラフィー用の展開部材、セパレータ、触媒担体、反応場、及び断熱素材として用いることが好ましい。
【0062】
これらのなかでも、アルミニウム部材100は、白色度及び水の吸い上げ性能が高いことから、クロマトグラフィーに用いられることがより好ましい。クロマトグラフィーの中でも、ラテラルフロー型のクロマトグラフィーに用いられることがさらに好ましい。また、クロマトグラフィーはイムノクロマトグラフィーであることが好ましい。イムノクロマトグラフィーの中でも、ラテラルフローイムノアッセイに用いられることがより好ましい。そのため、アルミニウム部材100はクロマトグラフィー用の展開部材であってもよい。クロマトグラフィー用の展開部材は、クロマトグラフィー用のテストストリップであってもよい。また、アルミニウム部材100は、イムノクロマトグラフィーを利用した検査キットなどの体外診断用医薬品に用いられることも好ましい。なお、検査キットは、診断キットとも称されることもある。
【0063】
[検査キット]
次に、アルミニウム部材100を用いた検査キット200の一例について説明する。
図6に示すように、検査キット200は、アルミニウム部材100を備える。具体的には、検査キット200は、アルミニウム部材100と、検体供給部110と、判定部120と、吸収部130と、を備える。
【0064】
検体供給部110には、例えば、インフルエンザウイルスなどの検出対象と特異的に結合する標識抗体が含まれていてもよい。生体などから採取した検体は、検体供給部110に供給され、標識抗体と混合され、混合液となる。混合液は、アルミニウム部材100の毛細管現象により、判定部120まで展開され、余剰の検体が吸収部130に吸収される。
【0065】
判定部120は、例えば、テストラインとコントロールラインを有する。テストラインには、例えば、検出対象に特異的に結合する抗体が固定されている。検体中に検出対象が含まれている場合には、標識抗体が検出対象を介してテストラインの抗体に固定される。コントロールラインには、例えば、標識抗体と特異的に結合する抗体が固定されている。検体と標識抗体を含む混合液がコントロールラインまで展開されると、標識抗体は、コントロールラインに固定された抗体と結合する。
【0066】
標識抗体は、一般的に、着色粒子又は金コロイド粒子などのような標識と、この標識と結合して複合体を形成するとともに、検出対象と特異的に結合する抗体と、を含んでいる。そのため、標識抗体の濃度又は密度が高い箇所がある場合、標識が密集することで、この箇所を目視にて確認することができる。したがって、検査キット200によって、テストラインとコントロールラインの両方が目視にて確認できた場合に陽性であり、コントロールラインのみが目視にて確認できた場合には陰性であることを検査することができる。
【0067】
検査キット200は、例えば、感染症検査;遺伝子解析;妊娠検査;畜産用検査;食品、動物、植物、金属、ハウスダストなどのアレルゲン検査;などに用いることができる。
【0068】
検査キット200による検査対象としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、蛋白質、遺伝子、糖、脂質、細胞、またはこれらの複合体が挙げられる。より具体的には、PCT(プロカルシトニン)などのペプチド;尿中アルブミンなどの蛋白質;HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、LH(黄体形成ホルモン)などのホルモン;HBs抗原、ロタウイルス抗原、アデノウイルス抗原、RSV(Respiratory Syncytialウイルス)抗原、インフルエンザウイルス抗原、ノロウイルス抗原、ムンプウイルス抗原、サイトメガロウイルス抗原、単純ヘルペスウイルス抗原、水痘・帯状疱疹ウイルス抗原、SARS(重症急性呼吸器症候群)抗原、HBs抗体、HCV(C型肝炎ウイルス)抗体、HIV抗体、EBV抗体、RSV抗体、風疹ウイルス抗体、麻疹ウイルス抗体、エンテロウイルス抗体、デングウイルス抗体、SARS抗体などのウイルス感染症の抗原又は抗体;肺炎球菌抗原、マイコプラズマ抗原、A群溶血性連鎖球菌抗原、レジオネラ抗原、結核菌抗原、淋菌抗原、破傷風抗原、マイコプラズマ抗体、ヘリコバクター・ピロリ抗体、結核菌抗体などの細菌感染症の抗原又は抗体;クラジミア抗原などのクラミジア感染症の抗原又は抗体;梅毒トレポネーマ抗体などのスピロヘータ感染症の抗原又は抗体;マラリア抗体、トキソプラズマ抗体などの原虫性疾患の抗原又は抗体;などが挙げられる。
【0069】
[アルミニウム部材の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルミニウム部材100の製造方法について説明する。本実施形態のアルミニウム部材100の製造方法は、特に限定されないが、例えば、エッチング工程と、皮膜形成工程と、減極処理工程と、を有している。また、アルミニウム部材100の製造方法は、必要に応じて、水和処理工程を有していてもよい。以下、各工程について詳細に説明する。
【0070】
(エッチング工程)
エッチング工程では、皮膜形成工程の前に、アルミニウム板をエッチングし、アルミニウム板に多孔質構造を形成する。エッチング工程により、複数のピットを有する多孔質構造を有するアルミニウム板を形成することができる。エッチング工程では、アルミニウム板をエッチングすることにより、母材11が形成される。アルミニウム板は、上述した基板50と同様の材料を使用することができる。すなわち、アルミニウム板は、金属アルミニウムにより構成されていてもよい。
【0071】
エッチング工程では、アルミニウム板にピットを形成して、アルミニウム板を多孔質化する。これにより、アルミニウム板を、多孔質構造を有する多孔体とすることで、その表面積を拡大することができる。エッチング工程は、例えば、電解エッチング、化学エッチングなどにより行うことができる。電解エッチングとしては、直流電解エッチング、交流電解エッチングが挙げられる。また、化学エッチングとしては、酸性溶液を用いる化学エッチング、アルカリ性溶液を用いる化学エッチングが挙げられる。これらのエッチング手法は、単独で行ってもよく、複数の手法を組み合わせてもよい。
【0072】
ここでは、電解エッチングを例に挙げて説明する。エッチング工程では、直流電解エッチングを行うことで、アルミニウム板の表面にピットが形成され、アルミニウム板の表面に対して垂直方向である深さ方向にピットがトンネル状に成長するとともに、ピットの径が拡大する。また、交流電解エッチングを行うことで、ピットが三次元方向に形成されて海綿状に成長するとともに、ピットの径が拡大する。アルミニウム板の中心部にまでピットが成長した場合には、多孔質層40からなるアルミニウム部材100が形成される。また、アルミニウム板の中心部までピットが成長せず、多孔質層40が形成されない中心部を有する場合には、多孔質層40と基板50とからなるアルミニウム部材100が形成される。
【0073】
本実施形態において、基板50のエッチングは、交流方式の電気化学的エッチングであることが好ましい。エッチング条件は特に限定されないが、例えば、エッチング時間は1分~60分であり、エッチング温度は20℃~80℃である。電気化学的エッチングの場合には、例えば、電流密度が50mA/cm2~500mA/cm2である。
【0074】
エッチングに用いられるエッチング溶液は、塩酸を含む水溶液であることが好ましい。塩酸水溶液の濃度は、6質量%~25質量%であることが好ましい。塩酸水溶液は、アルミニウムの過剰な溶解を抑制するため、塩化アルミニウムなどに由来するアルミニウムイオンが含まれていてもよい。塩化アルミニウムの濃度は、0.1質量%~10質量%であることが好ましい。
【0075】
エッチング工程は、一段階の工程で実施されてもよく、異なる複数分かれた多段階の工程で実施されてもよい。例えば、エッチング工程は、エッチング溶液に含まれる化学種、エッチング溶液の濃度、エッチング時間、エッチング温度、及び電流密度などが異なる複数のエッチング工程を有していてもよい。
【0076】
(皮膜形成工程)
皮膜形成工程では、多孔質構造を有するアルミニウム板を陽極酸化し、アルミニウム板の表面に酸化アルミニウムを含む皮膜12を形成する。皮膜形成工程では、エッチング工程による多孔質化を受けた母材11の表面に、陽極酸化によって皮膜12が形成される。このとき、アルミニウム板において、外部に露出した母材11の表面と、内部のピットを形成する母材11の表面とに皮膜12が形成される。皮膜形成工程では、例えば、基板50が設置された陽極と、ステンレス鋼(SUS)が設置された陰極とを電解液に浸漬し、電解処理される。
【0077】
皮膜形成に用いられる電解液は特に限定されない。例えば、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、リン酸、ピロリン酸、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、硫酸、又は蓚酸などの水溶液を用いることができる。皮膜形成の条件は特に限定されないが、例えば、電圧は5V~500Vである。皮膜形成は、一段階の工程で実施されてもよく、異なる複数の工程に分けて実施されてもよい。
【0078】
(減極処理工程)
減極(デポラリゼーション)処理工程では、皮膜12が形成されたアルミニウム板を減極処理し、皮膜12の表面の一部を除去する。減極処理工程では、皮膜形成工程で形成された皮膜12の一部が除去され、皮膜12中に残ったボイド及びクラックが露出する。また、減極処理工程では、皮膜12の除去(浸食)により皮膜12の表面を粗面化し、皮膜12の表面に凹部13を形成することができる。減極処理では、例えば、皮膜形成工程で皮膜12が形成された部材であるアルミニウム板を、減極処理液に浸漬させることにより実施される。
【0079】
減極処理液は、酸化アルミニウム皮膜の表面を除去(浸食)することができれば特に限定されないが、リン酸類、リン酸類の金属塩、酒石酸、塩酸、及び塩酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一種が溶解された溶液、又は、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液の少なくともいずれか一方であることが好ましい。リン酸類には、例えば、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの混合物などが含まれる。金属塩を形成する金属には、例えば、アルミニウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛などが含まれる。
【0080】
減極処理液として、リン酸類及びリン酸類の金属塩を用いる場合、リン酸類及びリン酸類の金属塩の含有量は、例えば、0.1g/L~50g/Lであることが好ましい。リン酸処理の処理温度は、例えば50℃~80℃であることが好ましい。また、リン酸処理の処理時間は、1分~60分であることが好ましい。
【0081】
本実施形態に係るアルミニウム部材100の製造方法では、皮膜形成工程と減極処理工程とによって、皮膜の表面に複数の凹部13及び複数の凸部14の少なくともいずれか一方を形成する。すなわち、本実施形態に係るアルミニウム部材100の製造方法では、上記エッチング工程と、上記皮膜形成工程と、上記減極処理工程とをこの順で、少なくとも各工程を1回行うことができる。各工程の実施回数は特に限定されないが、上記エッチング工程の後に、上記皮膜形成工程と上記減極処理工程とを交互に繰り返して実施することが好ましい。これにより、皮膜12の浸食と浸食された皮膜12の修復が繰り返されることで、良好な多孔質層40が形成される。複数の凹部13及び複数の凸部14の少なくともいずれか一方は、皮膜形成工程と減極処理工程とを交互に2回以上繰り返すことによって形成されることが好ましい。上記皮膜形成工程と上記減極処理工程の繰り返し回数は特に限定されないが、例えば、20回以下であってもよく、15回以下であってもよい。上記皮膜形成工程と上記減極処理工程の繰り返し回数は、2回~10回であることが好ましく、3回~8回であることがより好ましい。上記皮膜形成工程と上記減極処理工程の繰り返し回数は、5回以上であることがさらに好ましい。皮膜形成工程と減極処理工程を繰り返すことによって、皮膜12に複数の凹部13を形成することができるため、アルミニウム部材100の白色度を向上させることができる。
【0082】
(水和処理工程)
本実施形態に係るアルミニウム部材100の製造方法は、水和処理工程を有していてもよいが、水和処理工程を行った場合には、その後に、皮膜形成工程と減極処理工程とを繰り返し行うことが好ましい。アルミニウム部材100の製造方法は、皮膜形成工程の前に、アルミニウム板を水和処理し、多孔質構造を有するアルミニウム板に水和皮膜を形成する水和処理工程をさらに有していてもよい。水和処理工程とは、一般的には、エッチング工程の後に金属アルミニウムの表面に水酸化アルミニウムによる水和皮膜を形成する工程であり、表面が多孔質化されたアルミニウムを沸騰水などの温水で熱処理する工程である。表面の微細な凹凸が水酸化アルミニウムによって覆われると、光の拡散反射が阻害され、アルミニウム部材の白色度が低下する場合がある。さらに、アルミニウム部材の多孔質部分が水酸化アルミニウムで目詰まりしやすくなることで光の拡散反射が阻害されてアルミニウム部材の白色度が低下する。
【0083】
水和処理工程が省略されることにより、アルミニウム部材100の白色度をより向上させることができる。また、水和処理工程によって水和皮膜を形成した場合には、さらに陽極酸化と減極処理とを施すことで、水和皮膜を溶かすことができる。これにより、水和皮膜を減少又は消失させて、皮膜12の表面に凸部14を形成することができる。そして、この凸部14によって、白色度を向上させることができる。このとき、残存した水和皮膜、又は陽極酸化皮膜により凸部14を形成することができると考えられる。
【0084】
具体的には、陽極酸化と減極処理とを施すことで、内層側の水和皮膜から順に陽極酸化皮膜に取り込まれ、母材11の表面に陽極酸化皮膜と水和皮膜の残部とからなる皮膜12が生じる。言い換えれば、母材11と陽極酸化皮膜と水和皮膜の残部とがこの順で積層される層構造が生じる。この層構造が、さらに陽極酸化処理及び減極処理を受けることで、皮膜12に凸部14が形成される。
【0085】
なお、陽極酸化処理及び減極処理の条件に応じて、皮膜12に凸部14とともに凹部13を形成することができる。また、水和皮膜が残存しない程度に陽極酸化処理及び減極処理を行うことで、皮膜12の表面に凹部13を形成することができる。凸部14は、水和皮膜(の残部)又は陽極酸化皮膜によって形成される。
【0086】
上述の通り、エッチング工程による母材11へのピット生成による多孔質化と、皮膜形成工程及び減極処理工程による陽極酸化皮膜の形成及び除去とを経て、多孔質層40に空孔15が生じることによって、二次粗面構造20が形成される。また、皮膜形成工程及び減極処理工程によって、皮膜12の表面に凹部13が生じ、一次粗面構造10が形成される。また、水和処理工程後の皮膜形成工程及び減極処理工程によって、皮膜12の表面に凸部14が生じ、一次粗面構造10が形成される。さらに、エッチング工程後に、皮膜形成工程及び減極処理工程を繰り返すことで、一次粗面構造10と二次粗面構造20の集合体からなる凹凸構造が発達し、三次粗面構造30が形成される。
【0087】
以上の通り、アルミニウム部材100の製造方法は、多孔質構造を有するアルミニウム板を陽極酸化し、アルミニウム板に酸化アルミニウムを含む皮膜12を形成する皮膜形成工程を有する。アルミニウム部材100の製造方法は、皮膜12が形成されたアルミニウム板を減極処理し、皮膜12の表面の一部を除去する減極処理工程を有する。皮膜形成工程と減極処理工程とを交互に繰り返す。アルミニウム板は金属アルミニウムにより構成されている。さらに、アルミニウム部材100の製造方法は、皮膜形成工程と減極処理工程とによって、皮膜12の表面に複数の凹部13及び複数の凸部14の少なくともいずれか一方を形成する。また、皮膜12は5nm~1000nmの厚さを有する。複数の凹部13に含まれる各凹部13の深さは10nm~100nmであり、複数の凸部14に含まれる各凸部14の高さは10nm~100nmである。アルミニウム部材100は複数の空孔15を有し、複数の空孔15の平均細孔径が0.1μm~10μmである。
【0088】
本実施形態では、電気化学的エッチングなどにより、多孔質層40を備えるアルミニウム部材100の製造方法について説明した。しかしながら、アルミニウム部材100の製造方法は上記実施形態に限られず、例えば、アルミニウム粉体を焼結させて多孔質層40を形成してもよい。
【実施例】
【0089】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
150μmの厚さを有するアルミニウム箔を、3mol/Lの塩酸と0.2mol/Lの硫酸を含有する水溶液中で交流電解エッチングして、アルミニウム箔の表面を多孔質化した後、水で十分に洗浄した。アルミニウム箔は、純度が99.98%の高純度アルミニウムを使用した。
【0091】
図7は、エッチング後のアルミニウム板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した様子を示す写真である。
図7に示すように、エッチングされたアルミニウム板は、0.1μm~1μm程度の径を有し、内部に進行するピットを複数有する多孔質構造となっている。また、アルミニウム板の表面には、0.1μm~1μm程度の径を有するピットが複数形成されて外部に露出しており、アルミニウム板が粗面化されている。
【0092】
次に、電解エッチングしたアルミニウム箔を陽極酸化し、純アルミニウムからなる母材の表面に皮膜を形成した。具体的には、陽極に設置されたアルミニウム箔と、陰極に設置されたステンレス鋼(SUS)とを、濃度が80g/L、電解液の温度が70℃であるホウ酸電解液に浸漬させた。そして、電圧200Vで10分間陽極酸化処理した。
【0093】
次に、皮膜を形成したアルミニウム箔を水で十分に洗浄した後、濃度が50g/L、温度が60℃であるリン酸水溶液に、20分間浸漬させ、減極処理した。
【0094】
そして、上記陽極酸化と上記減極処理を、この順番で、上記と同様の条件にて5回繰り返し、アルミニウム部材を作製した。
【0095】
[実施例2]
陽極酸化処理に用いたホウ酸電解液をリン酸二水素アンモニウム1g/L水溶液に変更し、陽極酸化処理電圧を50Vに変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0096】
[実施例3]
陽極酸化処理に用いたホウ酸電解液をアジピン酸アンモニウム100g/L水溶液に変更し、陽極酸化処理電圧を150Vに変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0097】
[実施例4]
陽極酸化処理に用いたホウ酸電解液を蓚酸50g/L水溶液に変更し、陽極酸化処理温度を30℃、陽極酸化処理電圧を20Vに変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0098】
[実施例5]
陽極酸化処理を施す前に、前処理として濃度が50g/L、温度が60℃であるリン酸水溶液に10分間浸漬させて減極処理を行い、陽極酸化処理の電圧を150Vに変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0099】
[実施例6]
減極処理を繰り返した後の試料に、後処理として、親水性コーティング剤を塗布した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0100】
[実施例7]
減極処理を繰り返した後の試料の一方の面を、後処理として、20μm厚のナイロン樹脂で被覆した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0101】
[実施例8]
リン酸水溶液による減極処理の内の1回を熱処理に変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。なお、熱処理は空気中、500℃で5分間実施した。
【0102】
[実施例9]
減極処理に用いたリン酸水溶液を水酸化ナトリウム5g/L水溶液に変更し、減極処理温度を40℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0103】
[実施例10]
陽極酸化処理前に、電解エッチングしたアルミニウム箔を沸騰した純水に10分間浸漬して水和処理を施して、その後に陽極酸化処理と減極処理を実施し、陽極酸化処理と減極処理の繰り返し回数を7回に変更した。上記以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0104】
[比較例1]
電解エッチングしたアルミニウム箔に対し、陽極酸化処理を1回だけ実施し、減極処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0105】
[比較例2]
電解エッチングを実施せずに陽極酸化処理と減極処理を実施した以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0106】
[比較例3]
陽極酸化処理と減極処理の繰り返し回数を1回に変更した以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0107】
[評価]
実施例3、実施例10及び比較例3に係るアルミニウム部材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡写真を、
図8、
図9及び
図10にそれぞれ示す。
【0108】
各例で得られたアルミニウム部材において、皮膜厚さ、一次構造の凹部又は凸部の径、凹部の深さ又は凸部の高さ、空孔の平均細孔径、折り曲げ試験、算術平均粗さSa、三次粗面構造の周期、L*値及び水の吸い上げ高さをそれぞれ以下の通り評価した。
【0109】
(皮膜厚さ)
アルミニウム部材を切断した後に、日本電子株式会社製のクロスセクションポリッシャ(登録商標)で切断面を鏡面仕上げして、皮膜厚さ測定用のサンプルを得た。この皮膜厚さ測定用のサンプルの断面をカールツァイス株式会社製の走査型電子顕微鏡ULTRA plusで観察して皮膜の厚さを測定した。
【0110】
(一次構造の凹部の径)
皮膜の表面をカールツァイス株式会社製の走査型電子顕微鏡ULTRA plusによって観察し、凹部の入口部分の直径を平均して凹部の径を求めた。
【0111】
(一次構造の凸部の径)
皮膜の表面をカールツァイス株式会社製の走査型電子顕微鏡ULTRA plusによって観察し、凸部が最も大きくなる部分の直径を平均して凸部の径を求めた。
【0112】
(凹部の深さ)
皮膜の断面を走査型電子顕微鏡によって観察し、凹部の入口部分から底部までの距離を測定した平均値を算出することにより凹部の深さを求めた。
【0113】
(凸部の高さ)
皮膜の断面を走査型電子顕微鏡によって観察し、皮膜の平坦部の表面から凸部の最頂部までの距離を測定した平均値を算出することにより凸部の高さを求めた。
【0114】
(空孔の平均細孔径)
水銀圧入法によって空孔の平均細孔径を測定した。
【0115】
(折り曲げ試験)
折り曲げ試験は、日本電子機械工業会が規定するMIT型折り曲げ試験法(EIAJ RC-2364A)に従って実施した。MIT型折り曲げ試験装置は、JIS P8115(紙及び板紙-耐折強さ試験方法-MIT試験機法)で規定された装置を使用した。折り曲げ試験では、アルミニウム部材を90°折り曲げて元の形状に戻すまでの工程を1回の曲げ回数とし、アルミニウム部材を100回折り曲げ、アルミニウム部材が破断しなかった場合を「良」、破断した場合を「否」として評価した。
【0116】
(算術平均粗さSa)
アルミニウム部材における多孔質層側の表面の算術平均粗さSaをISO25178に準じて測定した。なお、算術平均粗さSaの測定条件は以下の通りである。
【0117】
算術平均粗さSaの測定条件
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社 3次元白色干渉型顕微鏡 ContourGT-I
測定範囲:60μm×79μm
対物レンズ:115倍
内部レンズ:1倍
【0118】
(三次粗面構造の周期)
光学顕微鏡で、得られたアルミニウム部材の断面を観察し、三次粗面構造の周期を測定した。
【0119】
(L*値)
JIS Z8722に準拠し、アルミニウム部材の表面を色彩色差計で測定し、L*値を求めた。なお、測色条件は以下の通りである。
【0120】
L*値の測定条件
色彩色差計:コニカミノルタジャパン株式会社製 CR400
照明・受光光学系:拡散照明垂直受光方式(D/0)
観察条件:CIE2°視野等色関数近似
光源:C光源
表色系:L*a*b*
【0121】
(水の吸い上げ高さ)
アルミニウム部材の平面方向が、液面に対して垂直となるようにアルミニウム部材を純水に浸し、10分放置した後、毛細管現象によって水が吸い上げられた高さを水の吸い上げ高さとした。
【0122】
図8、
図9及び
図10は、それぞれ、実施例3、実施例10及び比較例3に係るアルミニウム部材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。実施例3に係るアルミニウム部材は、水和処理がされていないことから水和皮膜を含まず、アルミニウム部材の表面に、矢印で示すように、径が10nm~200nmの凹部による一次粗面構造が形成されていた。実施例10に係るアルミニウム部材は、沸騰純水によるボイルによって水和皮膜を形成した後に、陽極酸化処理と減極処理とを繰り返し実施している。そのため、矢印で示すように、アルミニウム部材の表面に径が10nm~200nmの凸部による一次粗面構造が形成されていた。これらの凹部及び凸部が、アルミニウム部材の白色度に寄与していると推測される。これに対して、比較例3のアルミニウム部材では、水和処理後の陽極酸化処理と減極処理とが不十分であったため、凹部又は凸部が形成されず、多孔質化されたアルミニウム板の表面が、針状又は板状の構造を有する水酸化アルミニウムで覆われていた。これにより、比較例3では、アルミニウム部材の白色度が低下していると推測される。
【0123】
次に、各例で得られたアルミニウム部材の評価結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
表1に示すように、実施例1~実施例10のアルミニウム部材は、比較例1~3のアルミニウム部材と比較し、白色度(L*値)及び水の吸い上げ性能が良好であった。一方、比較例1では、陽極酸化処理後に減極処理が実施されなかったため、凹部又は凸部が形成されず、白色度が低いものであった。また、比較例2では、電解エッチングが実施されなかったため、空孔が形成されず、水の吸い上げ性能が不十分であった。また、比較例3では、水和処理後の陽極酸化処理と減極処理との繰り返し回数が少なかったため、表面全てが水和皮膜で覆われた状態となり、白色度が低かった。
【0126】
なお、図示しないエッチング前のアルミニウム板における算術平均粗さSaは0.37μmであり、L
*値は49.5である。また、
図7に示すエッチング後のアルミニウム板における算術平均粗さSaは0.336μmであり、L
*値は71.4である。そのため、アルミニウム板を単にエッチングしただけでは、アルミニウム板は白色度が高くなっていない。
【0127】
特願2018-174947号(出願日:2018年9月19日)の全内容は、ここに援用される。
【0128】
以上、本実施形態を実施例及び比較例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、白色度及び水の吸い上げ性能が高いアルミニウム部材及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
10 一次粗面構造
11 母材
12 皮膜
13 凹部
14 凸部
15 空孔
20 二次粗面構造
30 三次粗面構造
40 多孔質層
50 基板
100 アルミニウム部材