(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】経編地の編成方法及び経編機
(51)【国際特許分類】
D04B 23/22 20060101AFI20230704BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20230704BHJP
D04B 21/14 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
D04B23/22
D04B21/00 A
D04B21/14 Z
(21)【出願番号】P 2022064458
(22)【出願日】2022-04-08
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】320001879
【氏名又は名称】カール マイヤー ストール アールアンドディー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】太田 稔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 和寛
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 友一
(72)【発明者】
【氏名】北川 梨恵子
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0063301(US,A1)
【文献】特開2008-169533(JP,A)
【文献】特開2002-4158(JP,A)
【文献】特開2016-196725(JP,A)
【文献】特開2018-178291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 23/22
D04B 21/00
D04B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の編針の列としてフロント側編針列及びバック側編針列を備え、
複数のジャカードガイドが並んだジャカードバーとして一対のフロント側ジャカードバー及び一対のバック側ジャカードバーを備え、前記フロント側ジャカードバー及び前記バック側ジャカードバーがそれぞれハーフゲージジャカードバーであり、
複数のガイドが並んだ地ガイドバーとして、前記フロント側ジャカードバーよりもフロント側に設けられた少なくとも1枚のフロント側地ガイドバーと、前記バック側ジャカードバーよりもバック側に設けられた少なくとも1枚のバック側地ガイドバーとを備えるダブルラッシェル経編機において、
4枚の前記ハーフゲージジャカードバーが編機幅方向の同じ位置にジャカードガイドを備えることを特徴とする、ダブルラッシェル経編機。
【請求項2】
請求項1のダブルラッシェル経編機が用いられ、
前記フロント側地ガイドバーによりフロント側基布が編成され、
前記バック側地ガイドバーによりバック側基布が編成され、
所定場所において、4枚の前記ハーフゲージジャカードバーのうち1枚が選択され、選択された前記ハーフゲージジャカードバーにより、糸がバック側基布の2以上のウェールにわたり、かつ、バック側基布に編目を形成する編組織が編成され、
同じ所定場所において、選択されなかった3枚の前記ハーフゲージジャカードバーのそれぞれにより、糸が前記フロント側基布に挿入される編組織が編成される、
ダブルラッシェル経編地の編成方法。
【請求項3】
前記所定場所が少なくとも4つ存在し、前記所定場所毎に異なる前記ハーフゲージジャカードバーが選択される、請求項2に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【請求項4】
糸が前記フロント側基布と前記バック側基布とに編目を形成する編組織が、前記の選択されたハーフゲージジャカードバーにより編成される、請求項2又は3に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【請求項5】
糸が前記バック側基布にのみ編目を形成し、その糸における編目と編目の間の部分が前記フロント側基布に挿入される編組織が、前記の選択されたハーフゲージジャカードバーにより編成される、請求項2又は3に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【請求項6】
糸が前記バック側基布に2針オーバーラップする編組織が、前記の選択されたハーフゲージジャカードバーにより編成される、請求項2又は3に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【請求項7】
前記ダブルラッシェル経編機に複数の前記バック側地ガイドバーが設けられ、
前記バック側ジャカードバーに最も近い前記バック側地ガイドバーにより、前記フロント側基布に編目が形成される、請求項2又は3に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経編地の編成方法及び経編機に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルラッシェル経編機として、特許文献1に記載されているような、一対のフロント側ジャカードバー及び一対のバック側ジャカードバーを備えるものが知られている。フロント側ジャカードバー及びバック側ジャカードバーは、それぞれ、ハーフゲージのジャカードバー(以下「ハーフゲージジャカードバー」とする)である。
【0003】
従来周知のダブルラッシェル経編機においては、
図11に示されるように、それぞれのハーフゲージジャカードバーJB-F1、JB-F2、JB-B1、JB-B2が、編針の半数のジャカードガイド(図中の1本の縦線が1本のジャカードガイドに相当する)を備えている。
【0004】
フロント側ジャカードバーJB-F1、JB-F2に注目すると、一方のハーフゲージジャカードバーJB-F1と他方のハーフゲージジャカードバーJB-F2ではジャカードガイドの位置(編機幅方向の位置)が異なる。詳細には、これら2枚のハーフゲージジャカードバーJB-F1、JB-F2のジャカードガイドが交互に配置されている。
【0005】
バック側ジャカードバーJB-B1、JB-B2においても、フロント側と同様に、2枚のハーフゲージジャカードバーJB-B1、JB-B2のジャカードガイドが交互に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の従来周知のダブルラッシェル経編機において、4枚のハーフゲージジャカードバーにそれぞれ異なる色の糸を供給することが検討されている。そして、経編地の中の場所毎に、いずれか1枚のハーフゲージジャカードバーにのみ編目を形成させ、その場所をそのハーフゲージジャカードバーの糸の色とする方法が検討されている。
【0008】
しかし、上記のようにハーフゲージジャカードバー毎にジャカードガイドの位置(編機幅方向の位置)が異なるため、この方法では糸の色毎にその糸が経編地表面に現れる場所(ウェール)が異なることとなる。そのため、ある色の領域と別のある色の領域とにズレが生じてしまう。このようなズレは経編地の美しさに影響する。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、表面の美しい経編地の編成方法を提供し、また、その編成方法を可能とする経編機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態のダブルラッシェル経編機は次の[1]のものである。
【0011】
[1] 実施形態のダブルラッシェル経編機は、複数の編針の列としてフロント側編針列及びバック側編針列を備え、複数のジャカードガイドが並んだジャカードバーとして一対のフロント側ジャカードバー及び一対のバック側ジャカードバーを備え、前記フロント側ジャカードバー及び前記バック側ジャカードバーがそれぞれハーフゲージジャカードバーであり、複数のガイドが並んだ地ガイドバーとして、前記フロント側ジャカードバーよりもフロント側に設けられた少なくとも1枚のフロント側地ガイドバーと、前記バック側ジャカードバーよりもバック側に設けられた少なくとも1枚のバック側地ガイドバーとを備えるダブルラッシェル経編機において、4枚の前記ハーフゲージジャカードバーが編機幅方向の同じ位置にジャカードガイドを備えることを特徴とする。
【0012】
また、実施形態のダブルラッシェル経編地の編成方法は次の[2]~[7]のものである。
【0013】
[2] 実施形態のダブルラッシェル経編地の編成方法は、上記のダブルラッシェル経編機が用いられ、前記フロント側地ガイドバーによりフロント側基布が編成され、前記バック側地ガイドバーによりバック側基布が編成され、所定場所において、4枚の前記ハーフゲージジャカードバーのうち1枚が選択され、選択された前記ハーフゲージジャカードバーにより、糸がバック側基布の2以上のウェールにわたり、かつ、バック側基布に編目を形成する編組織が編成され、同じ所定場所において、選択されなかった3枚の前記ハーフゲージジャカードバーのそれぞれにより、糸が前記フロント側基布に挿入される編組織が編成されることを特徴とする。
【0014】
[3] 前記所定場所が少なくとも4つ存在し、前記所定場所毎に異なる前記ハーフゲージジャカードバーが選択される、[2]に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【0015】
[4] 糸が前記フロント側基布と前記バック側基布とに編目を形成する編組織が、前記の選択されたハーフゲージジャカードバーにより編成される、[2]又は[3]に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【0016】
[5] 糸が前記バック側基布にのみ編目を形成し、その糸における編目と編目の間の部分が前記フロント側基布に挿入される編組織が、前記の選択されたハーフゲージジャカードバーにより編成される、[2]又は[3]に記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【0017】
[6] 糸が前記バック側基布に2針オーバーラップする編組織が、前記の選択されたハーフゲージジャカードバーにより編成される、[2]~[5]のいずれかに記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【0018】
[7] 前記ダブルラッシェル経編機に複数の前記バック側地ガイドバーが設けられ、前記バック側ジャカードバーに最も近い前記バック側地ガイドバーにより、前記フロント側基布に編目が形成される、[2]~[6]のいずれかに記載のダブルラッシェル経編地の編成方法。
【発明の効果】
【0019】
上記の経編機及び編成方法によれば、表面の美しい経編地を編成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】経編機を横から見たときの、ダブルラッシェル経編機におけるガイドバーの配列を示す図。
【
図2】経編機を上から見たときの、編針及びガイドの配置を示す図。
【
図3】地ガイドバー及びジャカードバーによる組織図。
【
図4】バック側基布にいずれかのジャカード糸の編目を形成するときのジャカードバーによる組織図。
【
図5】全てのジャカード糸をフロント側基布に挿入するときのジャカードバーによる組織図。
【
図7】バック側基布にいずれかのジャカード糸の編目を形成するときのジャカードバーによる組織図の変更例。
【
図8】バック側基布にいずれかのジャカード糸の編目を形成するときのジャカードバーによる組織図の変更例。
【
図11】従来周知のダブルラッシェル経編機を上から見たときの、編針及びガイドの配置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態について図面に基づき説明する。なお、本実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0022】
本実施形態の経編機は
図1に示される構造を有している。
図1の紙面に垂直な方向は、経編機の幅方向(以下「編機幅方向」とする)である。また、
図1の左右方向は、経編機の前後方向(以下「編機前後方向」とする)である。
図1において、左が前(フロント)、右が後ろ(バック)である。
【0023】
本実施形態の経編機は、
図1に示されるようにフロント側編針列FNとバック側編針列BNとを備えるダブルラッシェル経編機である。フロント側編針列FN及びバック側編針列BNは、それぞれ、多数の編針が編機幅方向に一列に並んだものである。フロント側編針列FNはフロント側基布を編成するための編針の列であり、バック側編針列BNはバック側基布を編成するための編針の列である。
【0024】
また、本実施形態のダブルラッシェル経編機は、フロント側の一対のジャカードバーJB2、JB3(以下、「フロントジャカードバーJB2、JB3」)と、バック側の一対のジャカードバーJB4、JB5(以下、「バックジャカードバーJB4、JB5」)とを備える、いわゆるダブルジャカードダブルラッシェル経編機である。ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のそれぞれにおいて、複数本のジャカードガイドが編機幅方向に並んでいる。
【0025】
ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5はそれぞれ基本組織を編成するための基本運動をする。それに伴い、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5にそれぞれ設けられている複数のジャカードガイドは、基本組織を編成するための基本運動をする。
【0026】
基本組織を編成するための基本運動に加えて、これらのジャカードガイドは、それぞれジャカード機構の作用により独立して変位可能となっている。そのため、複数のジャカードガイドはそれぞれ異なる運動をすることができる。ジャカード機構が作用すると、ジャカードガイドは基本組織の編成中の位置よりも1Gの距離(隣接する2本の編針の間隔)だけ編機幅方向に変位する。ジャカード機構は、オーバーラップの時だけ作用させることも、アンダーラップの時だけ作用させることも、オーバーラップとアンダーラップの両方の時に作用させることもできる。
【0027】
また、本実施形態の経編機は、フロントジャカードバーJB2、JB3よりもフロント側に少なくとも1枚の地ガイドバー(フロント側地ガイドバー)を備え、バックジャカードバーJB4、JB5よりもバック側に少なくとも1枚の地ガイドバー(バック側地ガイドバー)を備えている。
【0028】
図1では、フロントジャカードバーJB2、JB3よりもフロント側の地ガイドバーとして、1枚の地ガイドバーGB1を備えている。また、バックジャカードバーJB4、JB5よりもバック側の地ガイドバーとして、3枚の地ガイドバーGB6、GB7、GB8を備えている。地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8のそれぞれにおいて、複数本のガイドが編機幅方向に並んでいる。
【0029】
地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8はそれぞれ編組織を編成するための基本運動をする。地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8にそれぞれ設けられている複数のガイドは、ジャカードガイドと異なり、同じ地ガイドバーに設けられている他のガイドと異なる運動をすることができない。
【0030】
図2に、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8のガイド等の配置が示されている。
図2において、左右方向は編機幅方向であり、上下方向は編機前後方向である。また、
図2において、GB1、GB6、GB7、GB8の列に描かれた縦線はそれぞれガイドを意味する。また、JB2~JB5の列に描かれた縦線はそれぞれジャカードガイドを意味する。また、FN及びBNの列に描かれた丸はそれぞれ編針を意味する。実際の経編機においては、
図2よりも多くのガイド及び編針が設けられている。
【0031】
図2に示されるように、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8はそれぞれフルゲージのガイドバーである。すなわち、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8のそれぞれにおいて、1インチあたりのガイドの本数が1インチあたりの編針の本数と同じであり、かつ、各編針に対応する位置に各ガイドが配置されている。
【0032】
一方、
図2に示されるように、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5は、それぞれハーフゲージのジャカードバーである。ここで、1インチあたりのジャカードガイドの本数が1インチあたりの編針の本数の半数であり、編針2本に対してジャカードガイド1本の割合でジャカードガイドが配置されたジャカードバーのことを「ハーフゲージのジャカードバー」と言う。
【0033】
2枚のジャカードバーJB2、JB3を合わせると編針の本数と同数のジャカードガイドが揃う。また、2枚のジャカードバーJB4、JB5を合わせると編針の本数と同数のジャカードガイドが揃う。
図2からわかるように、4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のそれぞれにおいて、編針2本毎にジャカードガイドが1本配置されている。
【0034】
そして、4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のそれぞれのジャカードガイドは編機幅方向における同じ位置に配置されている。そのため、4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のジャカードガイドが編機前後方向に列をなして並んでいることになる。
【0035】
図1の配列において、少なくとも地ガイドバーGB1から地ガイドバーGB6までがフロント側編針列FNにオーバーラップ可能である。また、少なくともフロントジャカードバーJB2、JB3から地ガイドバーGB8までがバック側編針列BNにオーバーラップ可能である。ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5にはそれぞれ不図示のクリールから引き出された糸が通糸(通糸とは、ガイドに糸が通されること)される。
【0036】
フロント側編針列FN、バック側編針列BN、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8及びジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の基本運動は制御部によって制御される。また、ジャカード機構の作用は、基本運動を制御する前記制御部と同一の又は異なる制御部によって制御される。
【0037】
本実施形態の経編機は、他に、周知のダブルラッシェル経編機と同様の構造を有している。
【0038】
以上の構造の経編機により経編地が編成される。編成方法の概略は次の通りである。
【0039】
まず、経編地の編成に際し、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8の全てのガイドにそれぞれ糸が通糸される。それにより、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8のそれぞれに、1つの編針列が有する編針の数と同じ本数の糸が通糸される。また、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の全てのジャカードガイドにそれぞれ糸が通糸される。それにより、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のそれぞれに、1つの編針列が有する編針の数の半数の糸が通糸される。
【0040】
このように糸が通糸された地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8の各ガイド及びジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の各ジャカードガイドが、フロント側編針列FN及びバック側編針列BNの各編針に対して動作することにより、経編地の編成が行われる。
【0041】
経編地の編成時には、フロント側の地ガイドバーGB1により、フロント側基布が編成される。なお、後述するように地ガイドバーGB6から供給される糸がフロント側基布に編み込まれるため、地ガイドバーGB6もフロント側基布の編成を行うとも言える。また、フロント側基布の編成と並行して、バック側の地ガイドバーGB7、GB8によりバック側基布が編成される。
【0042】
さらに、フロント側基布及びバック側基布の編成と並行して、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5による組織が形成される。ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のそれぞれのジャカード機構が場所により異なる作用をすることによって、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5から供給される糸(以下「ジャカード糸」とする)が場所により異なる組織を形成する。異なる組織としては、ジャカード糸が、フロント側基布とバック側基布の両方に編目を形成する組織や、いずれの基布にも編目を形成せずフロント側基布に挿入される組織等が挙げられる。
【0043】
フロント側基布及びバック側基布に編み込まれたジャカード糸は、これらの基布の表面に現れてジャカード柄を形成する。ここで、ジャカード柄とは、経編地の表面に現れるジャカード糸によって形成される柄のことである。また、フロント側基布及びバック側基布の両方に編み込まれたジャカード糸はこれらの基布を連結する。
【0044】
また、地ガイドバーGB6(バックジャカードバーJB4、JB5に一番近いバック側地ガイドバー)から供給される糸は、フロント側基布に編目を形成してフロント側基布に編み込まれる。そのため、地ガイドバーGB6よりフロント側にあるジャカード糸のうち、挿入組織となっている部分は、地ガイドバーGB6から供給される糸によってフロント側基布に押さえ込まれる。そのようにフロント側基布に押さえ込まれた挿入糸は、フロント側基布に挿入されていると言える。
【0045】
次に説明するのは、編成方法のより詳細な例である。
図3~
図5は本実施形態の具体的な組織図である。各組織図において、Fはフロント側編針列FNにより編成されるコースを示し、Bはバック側編針列BNにより編成されるコースを示している。
【0046】
図3には、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8による編組織が示されている。また、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5による編組織の基本組織も示されている。基本組織とは、ジャカード機構が作用しない場合の編組織のことである。
【0047】
図3(a)に示されるように、地ガイドバーGB1の編組織はフロント側基布の編目を形成する編組織である。
図3(a)の編組織をチェーン番号で表すと0-1-1-1/3-2-2-2//である。このようにしてフロント側基布は地ガイドバーGB1によって編成される。
【0048】
なお、このようなチェーン番号の表記において、「/」で区切られた範囲内の4つの数字のうち最初の2つ(上の例では0-1及び3-2)はフロント側編針列FNの編針への作用を示し、後の2つ(上の例では1-1及び2-2)はバック側編針列BNの編針への作用を示している。
【0049】
また、
図3(d)に示されるように、地ガイドバーGB6の編組織はフロント側基布に編目を形成する編組織である。
図3(d)の編組織をチェーン番号で表すと1-0-0-0/0-1-1-1//である。地ガイドバーGB6から供給された糸がこのようにフロント側基布に編み込まれることによって、地ガイドバーGB6よりフロント側にあるジャカード糸がフロント側基布に押さえ込まれる。
【0050】
また、
図3(e)に示されるように、地ガイドバーGB7の編組織はバック側基布に編目を形成する編組織である。
図3(e)の編組織をチェーン番号で表すと0-0-0-1/1-1-1-0//である。また、
図3(f)に示されるように、地ガイドバーGB8の編組織はバック側基布に編目を形成する編組織である。
図3(f)の編組織をチェーン番号で表すと2-2-0-1/1-1-3-2//である。
【0051】
このようにしてバック側基布は2枚の地ガイドバーGB7、GB8によって編成される。2枚の地ガイドバーGB7、GB8によって編成されるこの編組織はクインズコード(鎖編組織と、2針以上アンダーラップするコード組織とからなり、コード組織の糸が鎖編糸に押さえ込まれる組織)の一種である。クインズコードは伸縮性の小さい安定した組織として知られている。
【0052】
図3には、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5による基本組織も示されている。
図3(b)に示されるように、フロントジャカードバーJB2、JB3による基本組織はフロント側基布及びバック側基布に編目を形成する編組織である。また、フロントジャカードバーJB2、JB3による基本組織は、ジャカード糸が編針2本にわたり編み込まれる編組織である(そのため経編地10においてはジャカード糸が2ウェールにわたる)。
図3(b)の基本組織のチェーン番号は、1-0-1-0/1-2-1-2//である。
【0053】
図3(c)に示されるように、バックジャカードバーJB4、JB5による基本組織はフロント側基布及びバック側基布に編目を形成する編組織である。また、バックジャカードバーJB4、JB5による基本組織は、ジャカード糸が編針2本にわたり編み込まれる編組織である(そのため経編地10においてはジャカード糸が2ウェールにわたる)。
図3(c)の基本組織のチェーン番号は、1-0-1-0/1-2-1-2//である。
図3(b)、(c)の基本組織のそれぞれの糸は、フロント側基布及びバック側基布に市松模様を形成する。
【0054】
図4及び
図5にはジャカード機構が作用したときの編組織が示されている。
図4及び
図5には、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5による上記の基本組織が破線で示され、ジャカード機構が作用したときのジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5による編組織の例が実線で示されている。
【0055】
なお、各編組織図において、図中のHはジャカード機構を作用させないことを表している。この場合、ジャカードガイドは基本組織を編成するときと同じ位置にある。また図中のTはジャカード機構を作用させることを表している。この場合、ジャカードガイドは基本組織を編成する位置から変位することになる。TとHは1つのニードル位置の上下段に記載されているが、上段のT又はHはオーバーラップ時にジャカード機構を作用させること又はさせないことを表し、下段のT又はHはアンダーラップ時にジャカード機構を作用させること又はさせないことを表している。
【0056】
図4の編組織は、いずれか1枚のジャカードバーの糸をバック側基布に編み込んでバック側基布の表面(経編地のバック側の表面)に出現させるための編組織である。
図4(a)の編組織は、ジャカード機構が作用せずに実現される編組織であり、
図3(b)、(c)の基本組織と同じである。また、
図4(b)の編組織は、基本組織の全コースにおいてアンダーラップ時及び/又はオーバーラップ時にジャカード機構を作用させたときの編組織である。
図4(b)の編組織のチェーン番号は、1-1-1-1/2-2-2-2//である。
【0057】
図から明らかなように、
図4(a)の編組織のジャカード糸は、フロント側基布とバック側基布の両方に編み込まれて、フロント側基布の表面及びバック側基布の表面に現れる。また、このジャカード糸は、編針2本にわたり編み込まれる。また、このジャカード糸は、フロント側基布及びバック側基布に市松模様を形成する。
【0058】
図4(a)の編組織のジャカード糸は、フロント側基布とバック側基布の両方に編み込まれるため、フロント側基布とバック側基布とを連結する。詳細には、フロント側基布に形成されるニードルループとバック側基布に形成されるニードルループとが、それらのニードルループを形成するジャカード糸のシンカーループによって連結される。このように、フロント側基布とバック側基布にニードルループを形成しつつ両基布を連結する糸のことを「両面ループパイル」とも言う。
【0059】
また、
図4(b)の編組織のジャカード糸は、フロント側基布に挿入され、フロント側基布の表面にもバック側基布の表面にも現れない。
図4(b)の編組織となるとき、ジャカード糸はフロント側基布とバック側基布とを連結しない。
【0060】
また、
図5は、全てのジャカード糸がフロント側基布に挿入されるときのジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の編組織である。
図5の編組織は、
図4(b)の編組織と同じである。
図5の編組織のジャカード糸は、フロント側基布に挿入され、フロント側基布の表面にもバック側基布の表面にも現れない。また、
図5の編組織のジャカード糸は、フロント側基布とバック側基布とを連結しない。
【0061】
なお、ジャカード糸がフロント側基布とバック側の基布との間に挿入されると、その挿入部分がそのままでは不安定となる。しかし、上記のように地ガイドバーGB6から供給された糸がフロント側基布に編み込まれることによって、ジャカード糸の挿入部分がフロント側基布に押さえ込まれて安定することとなる。
【0062】
本実施形態の編成時には、以上で説明された
図3~
図5の編組織の編成が行われる。具体的には、地ガイドバーGB1、GB6、GB7、GB8により、
図3の編組織が編成される。
【0063】
それと並行して、経編地の所定の場所において、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のいずれか1枚が選択され、その選択されたジャカードバーの編組織が
図4(a)の編組織とされる。そして、残りの3枚のジャカードバーの編組織が
図4(b)の編組織とされる。すると、
図4(a)の編組織のジャカード糸のみが、フロント側基布とバック側基布の両方に編み込まれて、フロント側基布の表面及びバック側基布の表面に現れる。経編地には複数の場所が設けられ、場所毎に4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のいずれかが選択され、その選択されたジャカードバーにより
図4(a)の編組織が編成される。
【0064】
本実施形態の編成時には、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5にはそれぞれ異なる色の糸が通糸される。また、バック側基布を編成する地ガイドバーGB7、GB8には、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5とは異なる糸の糸が通糸される。このとき、地ガイドバーGB7と地ガイドバーGB8には同じ色の糸が通糸される。なお、各糸の素材や太さ(繊度)は限定されない。糸の素材としては、絹や綿等の天然繊維や、ポリエステル製やナイロン製の合成繊維等が採用され得る。また、糸として、フィラメント糸やスパン糸等の様々なものが採用され得る。
【0065】
このように通糸された状態で、上記のように、経編地の場所毎に、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の中から選択された1つのジャカードバーのジャカード糸が
図4(a)の編組織に編成され、その他のジャカードバーのジャカード糸が
図4(b)の編組織に編成される。そのことにより、フロント側基布及びバック側基布におけるその部分の色が、選択されたジャカードバーのジャカード糸の色となる。
【0066】
そのような場所が経編地の中に少なくとも4箇所設けられ、場所毎に4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のいずれかが選択されて
図4(a)の編組織を編成する。そして、4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5がそれぞれ少なくとも1回は選択される。
【0067】
また、経編地の一部においては、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の編組織が
図5の編組織とされる。
図5の編組織の糸はフロント側基布の表面にもバック側基布の表面にも現れない。そのため、
図5の編組織の部分では、フロント側基布の表面の色が地ガイドバーGB1、GB6の糸の色となり、バック側基布の表面の色が地ガイドバーGB7、GB8の糸の色となる。
【0068】
このようにして、経編地の中に、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のいずれかのジャカード糸がバック側基布の表面に現れる部分や、いずれのジャカードもバック側基布の表面に現れない部分が形成される。その結果、バック側基布において、部分毎に色の異なるジャカード柄が形成される。
【0069】
上記の通りジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5にはそれぞれ異なる色の糸が通糸され、地ガイドバーGB7、GB8にはさらに異なる糸の糸が通糸されるため、バック側基布には5色からなるジャカード柄が形成される。また、フロント側基布においても、部分毎に色の異なるジャカード柄が形成される。
【0070】
図6の経編地10は、上記のダブルラッシェル経編機で編成された
図3~
図5の編組織からなる経編地10である。
図6には経編地10のバック側基布の表面が描かれている。この経編地10は、シューズのアッパーに用いられるアッパー部分11とその周辺部分12とが一体として編成されたものである。アッパー部分11には、シューズのタンに近い部分から順に、第1部分21、第2部分22、第3部分23及び第4部分24が設けられている。
【0071】
第1部分21~第4部分24及び周辺部分12はそれぞれ色が異なる。本実施形態では、第1部分21は黄色、第2部分22は白色、第3部分23は水色、第4部分24は青色である。また、周辺部分12はグレーに近い色である。
【0072】
図6の経編地10の編成のとき、地ガイドバーGB1には半透明の糸、ジャカードバーJB2には黄色の糸、ジャカードバーJB3には白色の糸、ジャカードバーJB4には水色の糸、ジャカードバーJB5には青色の糸、地ガイドバーGB6~GB8には半透明の糸がそれぞれ通糸される。ここで、地ガイドバーGB1、GB6~GB8に通糸される半透明の各糸はモノフィラメント糸である。また、ジャカードバーJB2~JB5に通糸される糸(ジャカード糸)は加工糸である。
【0073】
経編地10の全体において、地ガイドバーGB1、GB6~GB8により
図3の編組織の編成が行われる。一方、ジャカードバーJB2~JB5による編組織は場所により異なる。
【0074】
第1部分21の編成時は、黄色の糸が通されたジャカードバーJB2により、フロント側基布及びバック側基布に編目を形成する
図4(a)の編組織が編成される。また、他のジャカードバーJB3~JB5により、ジャカード糸をフロント側基布に挿入する
図4(b)の編組織が編成される。そのため、ジャカード糸のうち黄色の糸のみがバック側基布の表面に現れ、第1部分21が黄色となる。
【0075】
第2部分22の編成時は、白色の糸が通されたジャカードバーJB3により、フロント側基布及びバック側基布に編目を形成する
図4(a)の編組織が編成される。また、他のジャカードバーJB2、JB4及びJB5により、ジャカード糸をフロント側基布に挿入する
図4(b)の編組織が編成される。そのため、ジャカード糸のうち白色の糸のみがバック側基布の表面に現れ、第2部分22が白色となる。
【0076】
第3部分23の編成時は、水色の糸が通されたジャカードバーJB4により、フロント側基布及びバック側基布に編目を形成する
図4(a)の編組織が編成される。また、他のジャカードバーJB2、JB3及びJB5により、ジャカード糸をフロント側基布に挿入する
図4(b)の編組織が編成される。そのため、ジャカード糸のうち水色の糸のみがバック側基布の表面に現れ、第3部分23が水色となる。
【0077】
第4部分24の編成時は、青色の糸が通されたジャカードバーJB5により、フロント側基布及びバック側基布に編目を形成する
図4(a)の編組織が編成される。また、他のジャカードバーJB2、JB3及びJB4により、ジャカード糸をフロント側基布に挿入する
図4(b)の編組織が編成される。そのため、ジャカード糸のうち青色の糸のみがバック側基布の表面に現れ、第4部分24が青色となる。
【0078】
このようにして、バック側基布の表面に、色分けされた第1部分21~第4部分24からなるジャカード柄が形成される。なお、第1部分21~第4部分24では、ジャカード糸がフロント側基布とバック側基布の両方に編目を形成するため、フロント側基布とバック側基布とが連結される。
【0079】
また、ジャカード糸がフロント側基布とバック側基布との両方に編目を形成するため、経編地10のフロント側基布の表面にもバック側と同じジャカード柄が形成される。
【0080】
また、周辺部分12の編成時には、ジャカードバーJB2~JB5による編組織は原則として
図5の挿入組織となる。ただし、周辺部分12においてもフロント側基布とバック側基布とが連結されることが好ましい。そこで、周辺部分12の所々において、いずれかのジャカード糸によって
図4(a)の編組織が編成される。
【0081】
以上の方法で編成された後の経編地に対し、熱セット等の仕上げ加工が行われる。実際に経編機で編成される経編地は、複数のアッパー部分11が縦横に並んだものである。編成後の適当な工程において、1枚の経編地から複数のアッパー部分11が切り離されて採取される。採取されたアッパー部分11はシューズのアッパーとして使用される。
【0082】
以上で説明されたダブルラッシェル経編機及びそれによる編成方法によれば、表面の美しい経編地を編成することが可能となる。
【0083】
詳細には、本実施形態のダブルラッシェル経編機では、一対のフロント側ジャカードバーJB2、JB3及び一対のバック側ジャカードバーJB4、JB5が設けられており、それらのジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5がそれぞれハーフゲージジャカードバーである。そのため、所定場所において、選択されたいずれか1枚のハーフゲージジャカードバーでバック側基布に編目を形成し、残りの3枚のハーフゲージジャカードバーでジャカード糸をフロント側の基布に挿入する編組織を編成することができる。
【0084】
そして、4枚のハーフゲージジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5に異なる色のジャカード糸が通糸され、上記の編組織の編成がなされることにより、場所毎に異なる色の糸のみをバック側基布の表面に出現させることができ、美しいジャカード柄を形成することができる。
【0085】
さらに、本実施形態のダブルラッシェル経編機では、4枚のハーフゲージジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5が
図2のように編機幅方向の同じ位置にジャカードガイドを備えている。そのため、いずれのハーフゲージジャカードバーのジャカード糸もバック側基布の同じウェールに編目を形成することができる。そのため、4枚のハーフゲージジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5に異なる色のジャカード糸が通糸され、上記のように場所毎に異なる色の糸のみをバック側基布の表面に出現させる編成がなされたときに、異なる色の場所の境界にズレが生じない。従って、ズレのない美しいジャカード柄を形成することができる。
【0086】
また、ハーフゲージジャカードバーでは編針2本に対してジャカードガイド1本しか設けられていない。そのため、それぞれのジャカード糸がバック側基布の1つのウェールのみに編み込まれた場合、ジャカード糸が編み込まれるウェールと編み込まれないウェールが交互に存在することになり、経編地にジャカード糸の色からなる縦縞ができてしまう。
【0087】
しかし、本実施形態の編成方法においてはジャカード糸がバック側基布の2以上のウェールにわたり編み込まれるため、ジャカード糸が全てのウェールに編み込まれることになる。そのため、経編地にジャカード糸の色からなる縦縞ができることなく、ジャカード糸が編目を形成する場所の全体がそのジャカード糸の色に見える。
【0088】
ここで、ジャカード糸がバック側基布の2以上のウェールにわたり編み込まれる編組織として、バック側基布に市松模様を形成する編組織が編成される。従って、経編地の所定場所において、特定の色のジャカード糸がバック側基布に市松模様を形成するように現れ、バック側基布を遠目に見るとその所定場所の全体がその色になっているように見える。
【0089】
また、本実施形態の編成方法において、ジャカード糸がバック側基布に編目を形成する所定場所が少なくとも4つ存在し、所定場所毎に異なるハーフゲージジャカードバーが選択される。そのため、経編地に4色からなるジャカード柄を形成することができる。さらに、バック側地ガイドバーGB7、GB8にいずれのジャカード糸とも異なる色の糸が通糸されることにより、経編地のバック側基布を5色とすることができる。
【0090】
また、本実施形態の編成方法において、ハーフゲージジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のいずれかによって、ジャカード糸がフロント側基布とバック側基布とに編目を形成する編組織が編成される。これにより、フロント側基布とバック側基布の両方にジャカード柄を形成できるだけでなく、ジャカード糸でフロント側基布とバック側基布とを連結することもできる。
【0091】
また、バック側ジャカードバーJB4、JB5に最も近いバック側地ガイドバーGB6によりフロント側基布に編目が形成されるため、ジャカード糸をフロント側基布に向かって押さえることができ、ジャカード糸を安定させることができる。
【0092】
また、本実施形態の編成方法において、バック側基布の編組織として2枚の地ガイドバーGB7、GB8によってクインズコードが編成される。そのため、経編地全体が伸縮性の小さい安定した経編地になる。
【0093】
以上の実施形態に対して、以下に説明する複数の変更例のうちいずれか1つを適用することができる。また、上記の実施形態に対して、可能な範囲で、以下に説明する複数の変更例のうちいずれか2つ以上を組み合わせて適用することもできる。また、以下の変更例の他にも様々な変更が可能である。
【0094】
<変更例1>
図7に示されるのは、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の編組織の変更例である。
図7(a)、(b)共にジャカード機構が作用して行われる編成の編組織である。
【0095】
図7(a)の編組織は、バック側基布に編目を形成し、フロント側基布には編目を形成しない編組織である。この編組織のチェーン番号は、1-1-1-0/2-2-1-2//である。
図7(a)の編組織のジャカード糸は、バック側基布にのみ編み込まれてバック側基布の表面にのみ現れる。また、
図7(a)の編組織のジャカード糸における編目と編目との間の部分(
図7(a)においてこの部分を矢印で指す)は、フロント側基布に挿入される。また、
図7(b)の編組織は、
図4(b)の編組織と同じである。
図7(b)の編組織のジャカード糸は、フロント側基布に挿入され、バック側基布の表面にもフロント側基布の表面にも現れない。
【0096】
この変更例の編成時には、経編地の所定の場所において、4枚のジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のうちいずれか1枚の編組織が
図7(a)の編組織とされ、残りの3枚のジャカードバーの編組織が
図7(b)の編組織とされる。すると、その所定の場所において、
図7(a)の編組織のジャカード糸のみがバック側基布の表面に現れ、その他のジャカード糸はバック側基布の表面に現れない。場所毎に異なるジャカードバーが選択されることにより、バック側基布に多色のジャカード柄が形成される。
【0097】
また、フロント側基布の表面には、いずれのジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のジャカード糸も現れない。そのため、この変更例の編組織を利用した経編地においては、バック側基布の表面にはジャカード柄が形成されるが、フロント側基布の表面にはジャカード柄が形成されない。フロント側基布の表面は地ガイドバーGB1とGB6の糸の色となる。
【0098】
この変更例の場合、
図7(a)の編組織のジャカード糸における編目と編目との間の部分は、フロント側基布に挿入される。この挿入部分を押さえて安定させるためと、フロント側基布とバック側基布とを連結するために、地ガイドバーGB6の編組織は変更例3(
図9参照)の編組織とされる。変更例3の編組織によれば、地ガイドバーGB6の糸がフロント側基布に編み込まれることとなるため、地ガイドバーGB6の糸が
図7(a)の編組織のジャカード糸の挿入部分をフロント側基布に押さえ込むこととなる。さらに、変更例3の編組織によれば、地ガイドバーGB6の糸がフロント側基布とバック側基布とを連結することとなる。
【0099】
<変更例2>
図8に示されるのは、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5の編組織の変更例である。
図8(a)、(b)共にジャカード機構が作用して行われる編成の編組織である。
【0100】
図8(a)の編組織は、フロント側基布及びバック側基布に編目を形成する編組織である。この編組織のチェーン番号は、1-0-2-0/1-2-1-3//である。チェーン番号からもわかるように、
図8(a)の編組織を編成するジャカードバーは、フロント側編針列FNの編針に1針分オーバーラップし、バック側編針列BNの編針に2針分オーバーラップする。また、
図8(b)の編組織は、
図4(b)の編組織と同じである。
図8(b)の編組織のジャカード糸は、フロント側基布に挿入され、バック側基布の表面にもフロント側基布の表面にも現れない。
【0101】
この変更例の編成時には、経編地の所定の場所において、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のうちいずれか1枚の編組織が
図8(a)の編組織とされ、残りの3枚のジャカードバーの編組織が
図8(b)の編組織とされる。すると、
図8(a)の編組織のジャカード糸のみがフロント側基布の表面及びバック側基布の表面に現れ、その他のジャカード糸はバック側基布の表面に現れない。そして、経編地の場所毎に異なるジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5が選択される。
【0102】
図2に示される経編機においては、ジャカードバーJB2、JB3、JB4、JB5のそれぞれにおいて編針2本に対してジャカードガイドが1本だけ配置されている。そのため、いずれか1つのジャカードバーがバック側編針列BNの編針に1針分だけオーバーラップする編組織(例えば
図4(a)の編組織)の編成が行われた場合、バック側基布において、ジャカード糸が現れる編目の隣の編目にはジャカード糸が現れない。
【0103】
しかし、この変更例によれば、ジャカード糸が1つのコースにおいて2ウェールにわたり編目を形成するため、バック側基布においてジャカード糸が現れる編目の隣の編目にもジャカード糸が現れ、ひいてはバック側基布における全ての編目にジャカード糸が現れることとなる。そのためバック側基布における色が濃くなり、ジャカード柄が鮮やかになる。
【0104】
なお、
図8(a)の編組織の変更例として、ジャカードバーがフロント側編針列FNの編針にはオーバーラップしない編組織もある。この編組織の場合、ジャカード糸における編目と編目の間の部分はフロント側基布に挿入されることとなる。
【0105】
<変更例3>
図9に示されるのは、地ガイドバーGB6の編組織の変更例である。
図9からわかるように、地ガイドバーGB6の編組織は、フロント側基布においては全コースに編目を形成し、バック側基布においては1コースおきに編目を形成する編組織である。
図9の編組織をチェーン番号で表すと1-0-0-1/0-1-1-1//である。
【0106】
このように地ガイドバーGB6の糸がフロント側基布及びバック側基布に編み込まれることにより、フロント側基布とバック側基布とが連結され、フロント側基布とバック側基布との間の中間層が安定する。また、ジャカード糸がフロント側基布に押さえ込まれることとなる。
【0107】
<変更例4>
図10に示されるのは、地ガイドバーGB8の編組織の変更例である。この変更例における地ガイドバーGB8の編組織は、上記実施形態と同様に、バック側基布に編目を形成する編組織である。ただし、上記実施形態における地ガイドバーGB8の編組織では糸が3ウェールにわたって編み込まれている(つまり、糸が、編組織の1つの繰り返し単位の中でウェール方向(緯方向)へ3針間往復している)のに対し、この変更例における地ガイドバーGB8の編組織では糸が2ウェールのみにわたって編み込まれている(つまり、糸が、編組織の1つの繰り返し単位の中でウェール方向(緯方向)へ2針間往復している)。
【0108】
図10の編組織をチェーン番号で表すと1-1-0-1/1-1-2-1//である。このように糸が2ウェールのみにわたって編み込まれており、ウェール方向(緯方向)への振り幅が小さいため、バック側基布が薄くなる。
【0109】
<変更例5>
経編地は、シューズのアッパーの他にも、衣料、インテリア、小物等の素材として使用される。
【符号の説明】
【0110】
FN…フロント側編針列、BN…バック側編針列、JB2、JB3…フロントジャカードバー、JB4、JB5…バックジャカードバー、GB1、GB6、GB7、GB8…地ガイドバー、10…経編地、11…アッパー部分、12…周辺部分、21…第1部分、22…第2部分、23…第3部分、24…第4部分
【要約】
【課題】表面の美しい経編地の編成方法を提供する。
【解決手段】ジャカードバーとして一対のフロント側ジャカードバーJB2、3及び一対のバック側ジャカードバーJB4、5を備え、フロント側ジャカードバーJB2、3及びバック側ジャカードバーJB4、5がそれぞれハーフゲージジャカードバーであり、地ガイドバーとして、フロント側ジャカードバーJB2、3よりもフロント側に設けられた少なくとも1枚のフロント側地ガイドバーGB1と、バック側ジャカードバーJB4、5よりもバック側に設けられた少なくとも1枚のバック側地ガイドバーGB6、7、8とを備えるダブルラッシェル経編機において、4枚のハーフゲージジャカードバーが編機幅方向の同じ位置にジャカードガイドを備えることを特徴とする、ダブルラッシェル経編機。
【選択図】
図2