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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】イオン化装置及び質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20230704BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H01J49/04 770
H01J49/16 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022516784
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017638
(87)【国際公開番号】W WO2021214964
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤次 陽平
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2688087(EP,A2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0086784(US,A1)
【文献】特開2015-049077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/04
H01J 49/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
請求項1に記載のイオン化装置と、
前記イオン化装置で生成されたイオンを質量分析する質量分析部と
を備える質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化装置及び質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる物質を分析する装置の1つに液体クロマトグラフ質量分析装置がある。液体クロマトグラフ質量分析装置では、移動相の流れに乗せて液体試料を液体クロマトグラフのカラムに導入し、該カラムの内部で目的物質を他の物質から分離する。カラムから流出した目的物質は質量分析装置のイオン化源でイオン化された後、質量電荷比に応じて分離されて測定される。
【0003】
質量分析装置のイオン源としては、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI: ElectroSpray Ionization)源が用いられる。ESI源は、二重管構造を有するノズル(ESIノズル)に液体試料を導入し帯電させてイオン化室内に噴霧するものであり、液体試料が導入される第1流路と、該第1流路の外周に形成されネブライザガスが導入される第2流路とを有する。ESI源では、第1流路に所定の電圧(ESI電圧)を印加して液体試料を帯電させ、該第1流路の先端から流出する液体試料の帯電液滴にネブライザガスを吹き付けてイオン化室内に噴霧する。イオン化室内に噴霧された帯電液滴は、液滴内部での電荷反発による分裂と移動相の気化(脱溶媒)によってイオン化する。
【0004】
特許文献1及び2には液体試料の帯電液滴の脱溶媒を促進するためのアシストガスを供給する機構を備えたESI源が記載されている。アシストガスを供給する機構は、アシストガスが供給される第3流路と、該第3流路から供給されるアシストガスをESIノズルからの液体試料の噴流の外周に供給するアシストガスノズルを備えている。第3流路の内部にはヒータが配置されており、該ヒータで加熱したアシストガスを液体試料の帯電液滴に供給することにより脱溶媒を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-113832号公報
【文献】特開2015-049077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液体クロマトグラフ質量分析では、多種多様な物質の分析が行われており、また、その分析条件も様々である。アシストガスの最適温度は目的物質の特性や分析条件によって異なる。特許文献1及び2には、400~500℃に加熱したアシストガスを帯電液滴に吹きつけることが記載されているが、気化しにくい物質の分析や高流速で移動相を供給する分析の場合には必ずしも脱溶媒が十分でなく、より高温のアシストガスを用いて帯電液滴の脱溶媒を促進することが求められている。
【0007】
特許文献2には、アシストガスを加熱するヒータとしてマイクロシースヒータを用いることが記載されている。マイクロシースヒータの耐熱温度は600℃程度と高いものの、マイクロシースヒータは線が細いため、供給電力が少しでも大きくなるとヒータが断線する可能性がある。また、これを防止するために高耐熱性のヒータを使用するとコストが高くなる。
【0008】
ここではESI源におけるアシストガスを例に従来技術の課題を説明したが、他のイオン化源(例えばAPCI源)においても上記同様の問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで、従来よりも高温のアシストガスにより液体試料の脱溶媒を促進することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン化装置は、
イオン化室と、
前記イオン化室に液体試料を流出させる試料ノズルと、
前記イオン化室に前記液体試料の脱溶媒を促進するアシストガスを供給するアシストガス流路と、
前記アシストガス流路の内部に配置されたヒータと、
前記アシストガス流路の内部に、前記ヒータに接して配置された伝熱部材と
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るイオン化装置では、試料ノズルから流出する液体試料に対し、該液体試料の脱溶媒を促進するアシストガスを供給する。アシストガスが流れるアシストガス流路内には、ヒータに加え、該ヒータに接して伝熱部材が配置されている。従来のイオン化装置では、アシストガス流路内にヒータが配置されているのみであり、アシストガス流路内を流れるアシストガスの多くがヒータに接触することなく放出されていた。一方、本発明に係るイオン化装置では、ヒータに加えて伝熱部材を配置しているため、アシストガス流路を流れるアシストガスと熱源(ヒータ及び伝熱部材)の接触面積が従来よりも大きくなり、より高い効率でアシストガスが加熱され、従来よりも高温のアシストガスを供給することができる。また、ヒータ自体は従来同様のものを用いればよく、低コストでイオン化装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るイオン化装置の一実施例を含む質量分析装置の概略構成図。
図2】本実施例のイオン化装置であるESI用イオン化プローブの先端部の内部構造を説明する図。
図3】本実施例のイオン化装置であるESI用イオン化プローブの先端部の断面の模式図。
図4】本実施例における伝熱部材であるSUSメッシュ。
図5】本実施例における伝熱部材の配置を説明する図。
図6】本実施例における伝熱部材の配置を説明する別の図。
図7】本実施例で使用するヒータの構成を説明する図。
図8】本実施例で使用するヒータの構成を説明する別の図。
図9】本実施例で使用するヒータの構成を説明するさらに別の図。
図10】本実施例で使用するヒータの構成を説明するさらに別の図。
図11】本実施例のイオン化装置によるアシストガスの加熱効果を確認した実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るイオン化装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。本実施例のイオン化装置は質量分析装置のイオン化部として組み込まれたものであり、目的物質を含んだ液体試料をイオン化するものである。
【0014】
図1は、質量分析装置の要部構成図である。この質量分析装置は、チャンバ1の内部に、イオン化室2、第1中間真空室3、第2中間真空室4、及び分析室5を備える。イオン化室2には液体試料中の成分をイオン化するESI用イオン化プローブ60が配設されている。また、第1中間真空室3及び第2中間真空室4内にはそれぞれイオンを収束しつつ輸送するイオンガイド11、13が配設されている。さらに、分析室5内にはイオンを質量電荷比m/zに応じて分離する四重極マスフィルタ15とイオン検出器16とが配設されている。
【0015】
イオン化室2と第1中間真空室3との間は細径の加熱キャピラリ10を通して連通している。また、第1中間真空室3と第2中間真空室4との間はスキマー12の頂部に形成されたイオン通過孔を通して連通している。さらに、第2中間真空室4と分析室5の間はイオン通過開口14を通して連通している。
【0016】
イオン化室2内は略大気圧雰囲気である。一方、分析室5内は、図示しない高性能の真空ポンプにより例えば10‐3~10‐4Pa程度の高真空状態まで真空排気される。イオン化室2と分析室5とに挟まれた第1中間真空室3及び第2中間真空室4もそれぞれ真空ポンプにより真空排気され、段階的に真空度が高められた、多段差動排気系の構成となっている。
【0017】
本実施例の質量分析装置における分析動作を簡単に説明する。分析対象の液体試料は、ESI用イオン化プローブ60の液体試料供給管7に導入される。液体試料供給管7は、例えば2本のキャピラリを導電性の流路接続治具により接続した構成を有しており、該流路接続治具に所定の電圧(ESI電圧)が印加される。これによって液体試料が帯電する。
【0018】
ESI用イオン化プローブ60から流出する際に、液体試料にネブライザガス(霧化促進ガス)が吹き付けられイオン化室2内に微細な帯電液滴として噴霧される。また、イオン化室2内に噴霧される帯電液滴に対して加熱ガスであるアシストガスが供給されることにより帯電液滴から移動相(溶媒)が脱溶媒して試料中の物質がイオン化する。
【0019】
イオン化室2で生成されたイオンはイオン化室2と第1中間真空室3との間の圧力差によって加熱キャピラリ10中に引き込まれる。加熱キャピラリ10を通過する間にさらに脱溶媒が進み、イオンの発生が促進される。
【0020】
加熱キャピラリ10を経て第1中間真空室3内に導入されたイオンは、イオンガイド11により形成されている電場の作用により収束され、スキマー12頂部のイオン通過孔を経て第2中間真空室4に導入される。このイオンは第2中間真空室4においてイオンガイド13により形成されている電場の作用で収束され、イオン通過開口14を通して分析室5へと送られる。分析室5では、特定の質量電荷比を有するイオンのみが四重極マスフィルタ15の長軸方向の空間を通り抜け、イオン検出器16に到達して検出される。四重極マスフィルタ15を通過するイオンの質量電荷比は該フィルタ15に印加される直流電圧及び高周波電圧に依存するから、例えばこの印加電圧を走査することにより、イオン検出器16に入射するイオンの質量電荷比を所定範囲に亘って走査することができる。
【0021】
次に、本実施例のESI用イオン化プローブ60の構成を説明する。図2は、図1に示したESI用イオン化プローブ60の先端部の内部構造を示す断面の模式図である。図3はESI用イオン化プローブ60の先端部の断面(液体試料が流れる方向と直交する断面)の模式図である。なお、図2では、アシストガス流路61を分かりやすく示すために伝熱部材64の図示を省略している。
【0022】
このESI用イオン化プローブ60において、液体試料を噴霧するノズル65は、液体試料が流通するキャピラリ66と、その外周に該キャピラリ66と同軸に設けられたネブライザガス管67を有している。キャピラリ66の外周とネブライザガス管67の内周との間の空間が、ネブライザガスが流通するネブライザガス流路となっている。図2に示すキャピラリ66の上流側に導電部材(図示略)が配置されており、該導電部材にESI電圧が印加されることで液体試料に電荷が付与される。
【0023】
ネブライザガス管67の外側には、キャピラリ66及びネブライザガス管67と同軸にアシストガスノズル63が配設されている。アシストガスノズル63の先端部は先細り形状に加工されている。ノズル65から噴出する液体試料の帯電液滴の噴流の外側を取り囲むように、円環形状に開口したアシストガス噴出孔631からアシストガスが供給される。
【0024】
アシストガスノズル63の周囲には、円環状のハウジング68が設けられている。ハウジング68の内部にはアシストガス流路61が形成されている。アシストガス流路61の1箇所にはガス導入口611が形成され、ハウジング68の中心Oを挟んでガス導入口611と反対側に、アシストガスノズル63と連通するガス導出口612が形成されている。
【0025】
アシストガス流路61には、そのほぼ全周をカバーする略円環状のヒータ62と、伝熱部材64とが配置されている。本実施例では伝熱部材64として、図4に示すように、ステンレス(SUS)製のメッシュを、アシストガス流路61とヒータ62の間の空間、あるいはヒータ62内部の空間に合わせた形状に成形したものを用いている。図4の左上はヒータ62の内部に配置される伝熱部材64の平面図、左下は同伝熱部材64の側面図である。また、図4の右に示す伝熱部材64は、アシストガス流路61の内壁面とヒータ62の間に配置される伝熱部材64の斜視図である。
【0026】
図2における左側のアシストガス流路61の内部の伝熱部材64の配置を図5に、図2における右側のアシストガス流路61の内部の伝熱部材64の配置を図6に、それぞれ示す。伝熱部材64は、アシストガス流路61の内壁面とヒータ62の間の空間を埋めるように、ヒータ62に接して配置されている。また、伝熱部材64は、円環状のヒータ62の内部にも配置されている。なお、ヒータ62の内部には、図4左に示す伝熱部材64を折り返してU字状に成形したものが挿入されている。アシストガス流路61の内部は、ヒータ62と、該ヒータ62からの熱が伝達される伝熱部材64によって加熱される。図5及び図6では、アシストガス流路61の内壁とヒータ62の間の空間に配置した伝熱部材64をL字状又は直線状の断面を有するものとしたが、円形断面を有するものを用いるなど、適宜に変更することができる。また、図5及び図6ではヒータ62内部に配置した伝熱部材64を、断面がU字状のものとしたが、断面が円形であるものを用いるなど、適宜の変更が可能である。また、伝熱部材64は、その一部がヒータ62に接触していればよく、伝熱部材64の配置は図5及び図6に示すものに限定されない。
【0027】
本実施例では変形が容易なSUS製のメッシュを伝熱部材64として用いているため、アシストガス流路61の形状及びヒータ62の形状に対応させて隙間なく配置することができる。また、メッシュ状の伝熱部材64は多数の孔を有するため、アシストガスの流通を妨げることがない。
【0028】
図7図10を参照してヒータ62の構成を説明する。本実施例のヒータ62はマイクロシースヒータであり、図7に示すように略Y字状に加工された1本のヒータ線620の両翼部を、図8に示すようにそれぞれ巻回することによりコイル状に成型し、図9に示すような2つの加熱部621、622を形成する。そして、図10に示すように、各加熱部621、622をそれぞれ略半円環状に湾曲させ、両加熱部621、622の端部を突き合わせることで、略半円環状の2つの加熱部621、622から成るヒータ62が完成する。
【0029】
2つの加熱部621、622はそれぞれ、電流が流れる方向が逆である2本のヒータ線620を一体化してらせん状に巻回し、その外側を絶縁材で被覆したものである。そのため、密着している2本のヒータ線620に流れる電流によって誘導される磁束の方向はちょうど逆方向になり、互いに打ち消し合う。従って、加熱部621、622に加熱電流を流しても、それにより誘導される磁場による影響は生じない。また、絶縁材で被覆されているため、漏電の心配がなく安全に使用することができる。
【0030】
アシストガスはガス導入口611からアシストガス流路61に導入される。ガス導入口611からアシストガス流路61に向かうアシストガスが流れる方向は、該アシストガス流路61とほぼ直交している。また、ガス導入口611からガス導出口612までのガス流路は、図3において上側の半円環状の流路と下側の半円環状の流路との2経路があるが、両経路の流路抵抗はほぼ等しいため、アシストガスは上下の経路にほぼ半分ずつ分かれて流れる。
【0031】
2つの経路に分かれて流れるアシストガスはそれぞれ、ヒータ62及び伝熱部材64により加熱され、ガス導出口612の手前で合流してアシストガスノズル63へ流れ込む。加熱部621、622はほぼ同じ形状であり、また、2つの経路には同程度の伝熱部材64が配置されている。2つの経路を流れるアシストガスの量はほぼ等しく、またいずれの経路を通ったガスもほぼ同じ温度に加熱される。従って、アシストガスの温度にむらが生じにくく、安定して高温のアシストガスが供給される。
【0032】
上述したようにガス導入口611からアシストガス流路61に流れ込んだアシストガスは、ガス導出口612へ向かって進むに従って加熱されるため、ガス導入口611付近のアシストガスの温度は低く、ガス導出口612付近のアシストガスの温度は高い。アシストガスノズル63はガス導入口611から遠く、逆にガス導出口612に近い位置に設けられているため、ヒータ62によって加熱された高温になったアシストガスは殆ど冷却されることなく、アシストガスノズル63に流入し、アシストガス噴出孔631から噴出する。また、比較的温度が低いアシストガスが存在するガス導入口611付近のアシストガス流路61からアシストガスノズル63が離れて位置しているため、アシストガスノズル63自体も冷却されにくい。そのため、ヒータ62及び伝熱部材64からの熱を無駄なく利用し、安定した高温のアシストガスをアシストガス噴出孔631から噴出させることができる。
【0033】
従来のイオン化装置では、アシストガス流路61内にヒータ62が配置されているのみであり、アシストガス流路61内を流れるアシストガスの多くがヒータ62に接触することなく放出されていた。そのため、600℃程度まで加熱可能なマイクロシースヒータを用いても、実際に供給されるアシストガスの温度は400~500℃に留まっていた。
【0034】
これに対し、本実施例では、アシストガス流路61内に、ヒータ62に加えて伝熱部材64を配置し、アシストガス流路61を流れるアシストガスと熱源(ヒータ62及び伝熱部材64)の接触面積を従来よりも大きくしている。これにより、より高い効率でアシストガスが加熱され、従来よりも高温のアシストガスを供給することができる。また、ヒータ62自体は従来同様のものを用いればよく、低コストでイオン化装置を構成することができる。
【0035】
次に、上記実施例のイオン化装置によりアシストガスの加熱効率が向上することを確認した実験について説明する。この実験では、30mL/minの流量でアシストガス(空気)を導入し、ヒータ62に99Vの電力を供給し、アシストガス噴出孔631から噴出するアシストガスの温度変化を測定した。また、比較例として、伝熱部材64を配置せず上記同様の条件でアシストガスの温度変化を測定した。
【0036】
図11に実験結果を示す。図11のグラフから分かるように、上記実施例のイオン化装置では、伝熱部材64を配置することにより、アシストガスがより早く、またより高温に(加熱開始後15分が経過した時点で約50℃高温に)加熱された。この実験ではアシストガスの加熱温度を450℃に留めたが、従来同様の大きさの電力を供給することにより、500℃を超える温度までアシストガスを加熱可能であると考えられる。
【0037】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例ではESI用イオン化プローブ60と組み合わせて用いる場合を説明したが、大気圧化学イオン化(APCI: Atmospheric pressure chemical ionization)用イオン化プローブや、大気圧光イオン化(APPI: Atmospheric Pressure Photo Ionization)用イオン化プローブ等の他のイオン化用プローブと組み合わせ用いることもできる。また、質量分析装置等のイオン分析装置において、イオン化室で生成したイオンを後段の分析部に取り込む脱溶媒管(上記実施例では加熱キャピラリ10)を加熱するガスを供給する際にも上記同様に伝熱部材を配置した構成を用いることができる。
【0038】
上記実施例ではアシストガス流路61とヒータ62の間、及びヒータ62の内部の両方に伝熱部材64を配置したが、いずれか一方のみに配置してもよい。例えば、ヒータ62の外径がアシストガス流路61の径に近い場合は、ヒータ62の内部のみに伝熱部材64を配置した構成でも十分に加熱効率を高めることができる。
【0039】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0040】
(第1項)
一態様に係るイオン化装置は、
イオン化室と、
前記イオン化室に液体試料を流出させる試料ノズルと、
前記イオン化室に前記液体試料の脱溶媒を促進するアシストガスを供給するアシストガス流路と、
前記アシストガス流路の内部に配置されたヒータと、
前記アシストガス流路の内部に、前記ヒータに接して配置された伝熱部材と
を備える。
【0041】
第1項に記載のイオン化装置では、試料ノズルから流出する液体試料に対し、該液体試料の脱溶媒を促進するアシストガスを供給する。アシストガスが流れるアシストガス流路内には、ヒータに加え、該ヒータに接して伝熱部材が配置されている。従来のイオン化装置では、アシストガス流路内にヒータが配置されているのみであり、アシストガス流路内を流れるアシストガスの多くがヒータに接触することなく放出されていた。一方、第1項に記載のイオン化装置では、ヒータに加えて伝熱部材を配置しているため、アシストガス流路を流れるアシストガスと熱源(ヒータ及び伝熱部材)の接触面積が従来よりも大きくなり、より高い効率でアシストガスが加熱され、従来よりも高温のアシストガスを供給することができる。また、ヒータ自体は従来同様のものを用いればよく、低コストでイオン化装置を構成することができる。
【0042】
(第2項)
第1項のイオン化装置において、
前記試料ノズルが、霧化促進ガスによって前記液体試料を前記イオン化室に噴霧するものであり、
前記アシストガスが、前記試料ノズルから噴出する前記液体試料の噴流を押し出すような方向に供給される。
【0043】
第2項に記載のイオン化装置では、霧化促進ガスによりイオン化室に噴霧される液体試料の噴流の脱溶媒を促進することができる。
【0044】
(第3項)
第1項又は第2項のイオン化装置において、
前記伝熱部材がメッシュ状のものである。
【0045】
第3項のイオン化装置では、変形が容易なメッシュ状の伝熱部材を用いるため、アシストガス流路の形状に対応させて隙間なく配置することができる。また、メッシュ状の伝熱部材が多数の孔を有するため、アシストガスの流通を妨げることがない。
【0046】
(第4項)
第4項のイオン化装置は、第1項から第3項のいずれかに記載のイオン化装置において、
前記伝熱部材が、前記アシストガス流路の内壁と前記ヒータの間に配置されている。
【0047】
第4項のイオン化装置では、アシストガス流路の内壁とヒータの間を流れるアシストガスを効率よく加熱することができる。
【0048】
(第5項)
第5項のイオン化装置は、第1項から第4項のいずれかに記載のイオン化装置において、
前記ヒータが、ヒータ線をらせん状に巻回したものである。
【0049】
第5項のイオン化装置では、ヒータによりアシストガス流路の内部を均一に加熱することができる。
【0050】
(第6項)
第6項のイオン化装置は、第5項に記載のイオン化装置において、
前記伝熱部材が、前記ヒータ線が前記らせん状に巻回されてなるヒータの内部に配置されている。
【0051】
第6項のイオン化装置では、らせん状に巻回されたヒータの内部を流れるアシストガスを効率よく加熱することができる。
【0052】
(第7項)
第7項に記載のイオン化装置は、第5項又は第6項に記載のイオン化装置において、
前記ヒータ線が絶縁材で被覆されている。
【0053】
第7項のイオン化装置では、ヒータ線が絶縁されているため安全に使用することができる。また、ヒータ線の耐久性が向上する。
【0054】
(第8項)
第8項の質量分析装置は、
第1項から第7項のいずれかに記載のイオン化装置と、
前記イオン化装置で生成されたイオンを質量分析する質量分析部と
を備える。
【0055】
第1項から第7項に記載のイオン化装置は、質量分析装置のイオン化部として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…チャンバ
2…イオン化室
3…第1中間真空室
4…第2中間真空室
5…分析室
60…ESI用イオン化プローブ
61…アシストガス流路
611…ガス導入口
612…ガス導出口
62…ヒータ
620…ヒータ線
621、622…加熱部
63…アシストガスノズル
631…アシストガス噴出孔
64…伝熱部材
65…ノズル
66…キャピラリ
67…ネブライザガス管
68…ハウジング
7…液体試料供給管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11