(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】超吸水速乾樹脂繊維、不織布及び超吸水速乾樹脂繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/86 20060101AFI20230704BHJP
D01D 5/253 20060101ALI20230704BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20230704BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20230704BHJP
D04H 1/4391 20120101ALI20230704BHJP
【FI】
D01F6/86 301A
D01D5/253
D01F6/62 303D
D04H1/435
D04H1/4391
(21)【出願番号】P 2019235202
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2020-07-14
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019193557
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503247791
【氏名又は名称】アクトインテリア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519381458
【氏名又は名称】青島拜倫湾科技有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】519381469
【氏名又は名称】青島紗支紡織科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 康之
(72)【発明者】
【氏名】孫 石林
(72)【発明者】
【氏名】王 曉東
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】中野 裕之
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-273115(JP,A)
【文献】特表2003-515000(JP,A)
【文献】特開平6-99511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを79~96wt%及びポリエーテルグリコールを3~20wt%反応させた反応物を紡糸して得られる超吸水速乾樹脂繊維を含む不織布であって、
繊維の表面から窪んで紡糸方向に沿って形成され、かつ周方向に3乃至20並設された複数の凹部を有し、
前記超吸水速乾樹脂繊維には、10~150ppmのチタニウム塩が添加されており、
前記超吸水速乾樹脂繊維の太さが0.9~10Dであり、
前記超吸水速乾樹脂繊維の長さが20~200mmであり、
前記超吸水速乾樹脂繊維を20%~100%を含む
ことを特徴とする超吸水速乾樹脂繊維を含有する不織布。
【請求項2】
前記ポリエーテルグリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール、ポリテトラメチレングリコールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレートを79~96wt%及びポリエーテルグリコールを3~20wt%反応させた反応物を紡糸して得られる超吸水速乾樹脂繊維を含む中綿であって、
前記超吸水速乾樹脂繊維は、
繊維の表面から窪んで紡糸方向に沿って形成され、かつ周方向に3乃至20並設された
複数の凹部を有し、
前記超吸水速乾樹脂繊維には、10~150ppmのチタニウム塩が添加されており、
前記超吸水速乾樹脂繊維の太さが0.9~10Dであり、
前記超吸水速乾樹脂繊維の長さが20~200mmであり、
前記超吸水速乾樹脂繊維を20%~100%を含む
ことを特徴とする超吸水速乾樹脂繊維を含有する中綿。
【請求項4】
前記ポリエーテルグリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール、ポリテトラメチレングリコールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の中綿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維、その繊維を用いた不織布及び超吸水速乾樹脂繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、例えば、不織布とされて、寝具、敷物、衣類などの生地や中綿として用いられている。ポリエステル繊維を用いた不織布としては、ポリエステル繊維及び熱接着性繊維からなる繊維ウェブを高圧水流により三次元的に交絡させた不織布が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリエステル繊維は疎水性であるため、ポリエステル繊維を用いた不織布は吸水性が低い。このため、不織布の表面に親水性助剤を塗布することによって、不織布に吸水性を付加させることが行われている。親水性助剤は、耐洗濯性が低いため、洗濯によって不織布の吸水性が低下することが課題の1つとして挙げられる。
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、耐洗濯性があり、かつ優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維を提供することを課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の超吸水速乾樹脂繊維は、ポリエチレンテレフタレート及びポリエーテルグリコールの反応物を含むことを特徴とする。
【0007】
ポリエーテルグリコールは親水性を有する。このため、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールの反応物は、親水性を有する。従って、当該反応物を含む超吸水速乾樹脂繊維は、優れた吸水性を有する。すなわち、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールの反応物が親水基を有することによって、耐洗濯性があり、かつ優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維を提供することが可能となる。
【0008】
さらに、繊維の表面から窪んで形成された1又は複数の凹部を有し、前記1又は複数の凹部は、紡糸方向に沿って形成されているようにするとよい。
【0009】
紡糸方向に沿って表面から窪んで形成された凹部は、当該凹部に入り込んだ水の通り道となる。従って、凹部に入り込んだ水は、凹部に沿って重力方向に向かって進行し、繊維の外部に排水される。よって、超吸水速乾樹脂繊維の速乾性を高めることが可能となる。
【0010】
さらにまた、前記複数の凹部は、周方向に並設されているようにするとよい。
【0011】
複数の凹部が周方向に並設されていることによって、凹部に入り込んだ水を繊維の外部に効率的に排水させることができる。
【0012】
また、前記複数の凹部は、3乃至20配置されているようにするとよい。
【0013】
ポリエーテルグリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール、ポリテトラメチレングリコールから選択される少なくとも1種であるとよい。
【0014】
ポリエーテルグリコールがポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール、ポリテトラメチレングリコールから少なくとも1種選択されることにより、吸水性に優れた超吸水速乾樹脂繊維を提供することが可能となる。
【0015】
本発明の不織布は、請求項1乃至7に記載の超吸水速乾樹脂繊維を含有することを特徴とする。
【0016】
超吸水速乾樹脂繊維は優れた吸水性を有するため、優れた吸水性を有する不織布を提供することが可能となる。
【0017】
本発明の超吸水速乾樹脂繊維の製造方法は、ポリエチレンテレフタレート及びポリエーテルグリコールを反応させる反応工程と、前記反応によって得られた化合物を紡糸する紡糸工程と、を含み、前記反応工程は、前記ポリエチレンテレフタレートを溶解してスラリー状にする溶解工程と、前記スラリー状の前記ポリエチレンテレフタレート、前記ポリエーテルグリコール、前記反応の促進剤及び前記ポリエーテルグリコールの熱分解を抑制する熱分解抑制剤を混合して加熱する加熱工程を含み、前記紡糸工程は、前記反応工程によって得られた反応物を溶融させ、ノズルから前記反応物を射出する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
ポリエーテルグリコールは親水性を有する。このため、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールの反応物は、親水性を有する。従って、超吸水速乾樹脂繊維は、優れた吸水性を有する。すなわち、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールの反応物が親水基を有することによって、耐洗濯性があり、かつ優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維を製造することが可能となる。
【0019】
また、前記加熱工程において、前記ポリエチレンテレフタレートが全体の重量に対して79~96wt%、前記ポリエーテルグリコールが全体の重量に対して3~20wt%の割合で添加されるようにするとよい。
【0020】
このような割合でポリエチレンテレフタレート及びポリエーテルグリコールが添加されることにより、優れた耐久性を有し、かつ優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリエチレンテレフタレート及びポリエーテルグリコールの反応物が親水性を有するため、耐洗濯性があり、かつ優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、超吸水速乾樹脂繊維の紡糸方向に対して垂直な断面を示した拡大断面図である。
【
図2】
図2は、超吸水速乾樹脂繊維の紡糸方向に対して垂直な断面を示した拡大断面図である。
【
図3】
図3は、超吸水速乾樹脂繊維の紡糸方向に対して垂直な断面を示した拡大断面図である。
【
図4】
図4は、超吸水速乾樹脂繊維の紡糸方向に対して垂直な断面を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る不織布の一実施形態について説明する。
【0024】
不織布は、超吸水速乾樹脂繊維を含む多数の繊維よりなる。この繊維には、超吸水速乾樹脂繊維以外に他の繊維が含まれていてもよく、例えば、ポリエステルや、ナイロンやレーヨンやコットンなどの繊維が含まれていてもよい。不織布における超吸水速乾樹脂繊維の構成比率は、20%~100%とするとよい。
【0025】
尚、不織布は、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等を含んでいてもよい。
【0026】
不織布は、このような組成を有する多数の繊維に対して、ニードルパンチ、スパンレース、ホットプレス、ホットボンド(サーマルボンド)、スプレーボンド(ケミカルボンド)などの公知の加工が施されることによって作製される。
【0027】
尚、不織布は、2層以上積層してなる多層不織布であってもよい。その場合、表面の滑らかさの観点から、多層不織布の外層を構成する不織布の、少なくとも1層が上述の繊維からなる不織布であることが好ましい。
【0028】
図1は、不織布に用いられる超吸水速乾樹脂繊維10の紡糸方向に垂直な断面を示している。超吸水速乾樹脂繊維10は、
図1に示すように、繊維の表面から窪んで形成された6つの凹部11a~11fを有している。
【0029】
凹部11a~11fは、各々が紡糸方向に沿って形成されかつ、繊維の表面から窪んで形成されている。凹部11a~11fは、周方向に並設されている。凹部11a~11fは、
図1に示した態様では周方向において等間隔に並設されている。
【0030】
従って、凹部11a~11fに入り込んだ水は、凹部11a~11fを伝って重力方向に向かって進行し、超吸水速乾樹脂繊維10の外部に排水される。これにより、超吸水速乾樹脂繊維10の速乾性が高まる。
【0031】
また、凹部11a~11fが周方向に等間隔に配置されていることによって、凹部11a~11fに入り込んだ水を超吸水速乾樹脂繊維の外部に効率的に排水させることができる。
【0032】
尚、凹部は、超吸水速乾樹脂繊維10に少なくとも1つ形成されるとよく、好ましくは、3~20形成されているとよい。例えば、
図2に示すように、凹部は、周方向の3カ所に並設されるようにしてもよい。言い換えれば、超吸水速乾樹脂繊維10の断面は、Y字状に形成されている。
【0033】
また、凹部は、必ずしも周方向に等間隔に配置されている必要はない。例えば、
図3に示すように、超吸水速乾樹脂繊維10の断面は、W字状に形成されているようにしてもよい。
【0034】
さらに、超吸水速乾樹脂繊維10の断面は、これらの形状に限られず、例えば
図4に示すように、複数の円が一の方向に沿って並置され、かつ互いに隣接する円を接続するように凹部11a~11hが形成されたものであってもよい。
【0035】
さらにまた、超吸水速乾樹脂繊維10の断面は、例えば、十字形や双十字形であってもよい。
【0036】
超吸水速乾樹脂繊維10に形成される凹部の数が、20より多くなると凹部の形成が困難になるためである。より好ましくは、凹部は、8~12形成されているとよい。凹部が8以上形成されることによって、凹部に入り込んだ水を超吸水速乾樹脂繊維10の外部に効率的に排水させることが可能となる。また、凹部が12以下であると、凹部の形成が容易となる。
【0037】
超吸水速乾樹脂繊維10の糸径(太さ)は、0.9~10Dとするとよい。また、超吸水速乾樹脂繊維10は、その長さを20~200mmとするとよい。
【0038】
超吸水速乾樹脂繊維10は、ポリエチレンテレフタレート及びポリエーテルグリコールの反応物を含む。当該反応物は、例えば、1又は複数のベンジル位がアセタール化され、アセタールの1のエーテルがポリエーテルグリコールに由来する構造、を有する構造を繰り返し単位とする樹脂である。
【0039】
このような反応物としては、例えば、下記の分子構造が挙げられる。
【0040】
【0041】
また、当該反応物の他の例としては、例えば、下記の分子構造が挙げられる。
【0042】
【0043】
尚、上記の分子構造において、2つベンジル位がアセタール化され、かつアセタールの1のエーテルがポリエーテルグリコールに由来する構造を有するものが繰り返し単位となっている。しかし、1つベンジル位がアセタール化され、かつ当該アセタールのエーテルがポリエーテルグリコールに由来する構造を有するものが繰り返し単位となってもよい。
【0044】
さらに、2つベンジル位がアセタール化され、かつアセタールの1のエーテルがポリエーテルグリコールに由来する構造を有するものを繰り返し単位としたもの及び1つベンジル位がアセタール化され、かつ当該アセタールのエーテルがポリエーテルグリコールに由来する構造を有するものを繰り返し単位としたものが混在してもよい。
【0045】
また、当該反応物には、ポリエーテルグリコールとの反応において、未反応のポリエチレンテレフタレートが残存していてもよい。
【0046】
さらに、当該反応物は、上記の反応物に限られず、例えば、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールとのブロック共重合体であってもよい。
【0047】
当該反応物は、ポリエチレンテレフタレート(以下、原料ポリエステルと称する)と、ポリエーテルグリコールとを反応させることによって生成される。
【0048】
原料ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)を用いることができる。
【0049】
ポリエーテルグリコール(poly ether glycol)は、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、ポリプロピルグリコール(polypropylene glycol)、ポリテトラメチレングリコール(polytetramethylene glycol)から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0050】
原料ポリエステルとポリエーテルグリコールとの反応には、当該反応を促進する触媒としてチタニウム塩を用いることができる。
【0051】
チタニウム塩は、オルトチタン酸テトラエチル(tetraethyl titanate)、オルトチタン酸テトライソプロピル(tetraisopropyl titanate)、オルトチタン酸テトラブチル(tetrabutyl titanate)、オルトチタン酸テトラ-tert-ブチル(tetratert-butyl titanate)から選択される少なくとも1つを用いることができる。尚、チタニウム塩は、超吸水速乾樹脂繊維の黄ばみの発生を抑止することができる。
【0052】
原料ポリエステルとポリエーテルグリコールとの反応には、当該反応において、ポリエーテルグリコールの熱分解を抑制する熱分解抑制剤を用いることができる。熱分解抑制剤としては、例えば、リン化合物、ストップフェノール及び酢酸塩を用いることができる。尚、熱分解抑制剤は、後述する紡糸工程においてノズルが詰まることを防止することも可能である。
【0053】
リン化合物は、亜りん酸トリフェニル(triphenyl phosphite)、亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)(tri[2.4-di-tert-butylphenyl] phosphite)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(bis(2,4-di-tert-butylphenyl)pentaerythritoldiphosphite)、ビス[2-メチル-4,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェノール]エチルホスフェート(bis[2-methyl-4,6-bis (1,1'-dimethylethyl) phenol] ethyl phosphate)、ビス(2,4-ジ-p-イソプロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(bis(2,4-di-p-isopropylphenyl)pentaerythritoldiphosphite)のうち少なくとも1種類を用いることができる。
【0054】
ストップフェノールとしては、N,N’-ビス-(3-(3,5-ジーtert-ブチル-4―ヒドロキシフェニル)プロピオニル)N,N'-bis-(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionyl)、ジアミノヘキサン(hexanediamin)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジーtert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(1,3,5-trimethyl-2,4,6-tris(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxybenzyl)benzen)、テトラ[ベータ-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸]ペンタエリスリトールエーテル(tetra[beta-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl) propionic acid] pentaerythritol ester)、プロピオン酸オクタデカノールエステルオブベータ-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)(octadecanolesterofbeta-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl) propionate)から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0055】
酢酸塩は、酢酸ナトリウム(sodium acetate)、酢酸マグネシウム(magnesium acetate)、酢酸カルシウム(calcium acetate)、酢酸マンガン(manganese acetate)、酢酸亜鉛(zinc acetate)、酢酸コバルト(cobalt acetate)から選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0056】
超吸水速乾樹脂繊維10は、次のようにして生成することができる。
【0057】
(ステップ1)原料ポリエステル及びポリエーテルグリコールの反応(反応工程)
原料ポリエステル、ポリエーテルグリコール、反応促進剤、熱分解抑制剤を混合しつつ、反応温度まで加熱することにより、原料ポリエステル及びポリエーテルグリコールの反応物(化合物)、すなわち超吸水速乾樹脂のマスターバッチを生成する。
【0058】
具体的には、反応工程は、原料ポリエステルを溶媒に溶解してスラリー状にする(溶解工程)。
【0059】
スラリー状の原料ポリエステル、ポリエーテルグリコール、反応促進剤及び熱分解抑制剤を混合して加熱する(加熱工程)。
【0060】
原料ポリエステルは、全体の重量に対して79~96wt%の割合で添加されるとよい。また、ポリエーテルグリコールが全体の重量に対して3~20wt%の割合で添加されるとよい。
【0061】
尚、チタニウム塩は、10~150ppmの割合で添加されるとよい。リン化合物は、3~1500ppmの割合で添加されるとよい。ストップフェノールは、15~1500ppmの割合で添加されるとよい。酢酸塩は、10~100ppmの割合で添加されるとよい。
【0062】
(ステップ2)超吸水速乾樹脂溶融体の生成
ステップ1の超吸水速乾樹脂・マスターバッチを空気乾燥した後、スクリュー押出機において溶融させて超吸水速乾樹脂溶融体を作成する。
【0063】
(ステップ3)超吸水速乾樹脂繊維10の生成(紡糸工程)
ステップ2の超吸水速乾樹脂溶融体は、例えば、スクリュー押出機の紡糸コンポーネントに導入される。紡糸コンポーネントは、超吸水速乾樹脂溶融体を射出するノズル(糸吹き板)を有する。
【0064】
スクリュー押出機のノズルは、上述の超吸水速乾樹脂繊維10の凹部11a~11fの形状に沿って形成されている。言い換えれば、超吸水速乾樹脂溶融体がノズルから射出されることによって超吸水速乾樹脂繊維10の凹部11a~11fが形成される。
【0065】
超吸水速乾樹脂溶融体は、糸吹き板から射出され、凝縮性気体の吸い上げ装置(例えば、減圧乾燥機)で揮発成分が除かれ超吸水速乾樹脂繊維10となる。
【0066】
(ステップ4)紡糸加工処理
親水性ポリエステルの短繊維を製造する場合には、ステップ3で得られた超吸水速乾樹脂繊維10に対して、紡糸加工処理が行われる。紡糸加工処理の条件は、紡糸スピードが600~1500m/min、一級ドラフティング温度が50~80℃、ドラフティング倍率が2~4倍、二級ドラフティング温度が110~150℃、ドラフティング倍率が1.05~2倍とするとよい。また、ホットセッティング温度を110~160℃とするとよい。紡糸加工処理後の超吸水速乾樹脂繊維10は、糸径(太さ)が0.5dtex~20dtex、長さが10mm~200mmとなるようにする
とよい。
【0067】
親水性繊維の全引張糸FDY(Fully Draw Yarn)を製造する場合には、ステップ3の後続の紡糸加工条件は、紡糸速度が3500~5200m/min、熱ローラ1の速度が800~3000m/min、温度が50~90℃、熱ローラ2の速度が3550~5250 m/min、温度は100~160℃にするとよい。
【0068】
親水性繊維の変形糸(延伸加工糸)DTY(Draw Textured Yarn)を製造する場合には、ステップ3の後続の紡糸加工条件を紡糸速度が2400~3600m/minとして、プレオリエント・ヤーン(POY:Preoriented Yarn又はPartially Oriented Yarn)を作成する。
プレオリエント・ヤーン(POY)は、加弾加工(延伸・仮撚り加工)を施して、擬捻変形糸DTY(延伸加工糸、配向糸)を作成する。加弾加工の条件は、加工速度が500~1000m/minで、引張倍数が1.3~2.3倍で、変形温度が120~190℃で、定型温度が100~180℃で、D/Y(解撚張力/加撚張力)比は1.5~2.5とするとよい。
【0069】
上記ステップ(1)における原料ポリエステルとポリエーテルグリコールの反応は、例えば、原料ポリエステルをポリエチレンテレフタレートとし、ポリエーテルグリコールをポリプロピルグリコールとした場合、以下の通りである。
【0070】
【0071】
また、上記ステップ(1)における原料ポリエステルとポリエーテルグリコールの反応は、例えば、原料ポリエステルをポリエチレンテレフタレートとし、ポリエーテルグリコールをポリエチレングリコールとした場合、以下の通りである。
【0072】
【0073】
以上のように、ポリエーテルグリコールは親水性を有する。このため、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールの反応物は、親水性を有する。従って、当該反応物を含む超吸水速乾樹脂繊維は、優れた吸水性を有する。すなわち、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルグリコールの反応物が親水基を有することによって、耐洗濯性があり、かつ優れた吸水性を有する超吸水速乾樹脂繊維を提供することが可能となる。
【0074】
また、この超吸水速乾樹脂繊維10を含む不織布は、優れた吸水性を有する。尚、超吸水速乾樹脂繊維10は、例えば、敷きパッド、布団、ラグ、クッション、衣類など、紡織品全般に用いることが可能である。
【実施例1】
【0075】
(超吸水速乾樹脂の生成)
上述した超吸水速乾樹脂繊維の製造工程であるステップ1~ステップ4を実施し、超吸水速乾樹脂繊維を紡糸した。紡糸した超吸水速乾樹脂繊維の糸径(太さ)は5Dであり、長さは51mmであった。
【0076】
(不織布の作製)
原料繊維として、低融点ポリエステル、普通ポリエステル、超吸水速乾樹脂を用いた。原料繊維の組成は、融点が140℃以下の低融点ポリエステル30%、融点が140℃よりも高い普通ポリエステル20%、超吸水速乾樹脂50%とした。
【0077】
尚、普通ポリエステルは、融点が250~280℃のものを用いた。低融点のポリエステルは、低融点のポリエチレンテレフタレート及びと普通のポリエチレンテレフタレートを混合したもので、その表面融点が110~180℃のものを用いた。
【0078】
また、超吸水速乾樹脂は、ポリエチレンテレフタレート85%、ポリエーテルグリコール14%の割合で反応させたものを用いた。当該超吸水速乾樹脂の融点は、140℃よりも高く、普通ポリエステルの融点とほぼ同じであった。
【0079】
原料繊維の各々を混合した後、原料繊維をカード機においてカード(繊維をくしけずる)し網状のシートを形成(ウェブ形成)した。ホットボンド(サーマルボンドボンド)法によって形成したウェブをホット溶融の中綿(不織布)とした。中綿の坪量は120g/m2であった。
【0080】
(吸水率の測定)
作製した中綿を水中に30分間浸した後、洗濯バサミ等の適当な手段で重力落下により中綿から水が滴るように干した。干してからの時間が1分経過したときの中綿の重量を測定した。その結果、干してからの時間が1分経過したときの中綿の重量は、水に浸す前の中綿の120%であった。
【実施例2】
【0081】
(超吸水速乾ポリエステルの生成)
上述した超吸水速乾樹脂繊維の製造工程であるステップ1~ステップ4を実施し、超吸水速乾樹脂繊維を紡糸した。
【0082】
ステップ2において、超吸水速乾樹脂・マスターバッチはドライエアで乾燥処理された後、スクリュー押出機に導入された。超吸水速乾樹脂・マスターバッチは、265℃の条件下で溶融され、超吸水速乾樹脂溶融体とした。
【0083】
ステップ3において、超吸水速乾樹脂溶融体は、紡糸コンポーネントに入れて、温度が265℃とする条件下で糸吹き板より射出された。
【0084】
ステップ4において、凝縮性気体の吸い上げ装置(例えば、減圧乾燥機)で揮発成分を除いた後、リング精紡機でリング(加撚)した。リング・スピードは1000m/minとした。これによって、超吸水速乾樹脂の生糸UDY(未延伸糸:Undrawn Yarn)が作製された。
【0085】
紡糸加工処理の条件は、一級ドラフティング温度が60℃、ドラフティング倍率が3倍、二級ドラフティング温度が130℃、ドラフティング倍率が1.2倍とした。また、ホットセッティング温度を140℃とした。紡糸加工処理後の超吸水速乾樹脂繊維は、糸径(太さ)が0.5dtex~20dtex、長さが10mm~200mmとなるようにするとよい。
【0086】
生糸UDYは60℃で一級ドラフティングした。ドラフティング倍率は、3倍で、130℃で二級ドラフティングした。ドラフティング倍率が1.2倍、140℃でホットセッティングし、カール(巻き取り)し、所望の長さに切断し、切断した繊維を所定量毎に包装した。
【0087】
紡糸した超吸水速乾樹脂繊維(超吸水速乾樹脂スパン糸)の糸径(太さ)は5.56Dであり、長さは51mmであった。
【0088】
(不織布の作製)
原料繊維として、低融点ポリエステル、普通ポリエステル、超吸水速乾樹脂を用いた。原料繊維の組成は、融点が140℃以下の低融点ポリエステル30%、融点が140よりも高い普通ポリエステル20%、超吸水速乾樹脂50%とした。超吸水速乾樹脂繊維、普通ポリエステル繊維及び超長綿の物性を以下の表1に示す。
【0089】
尚、超吸水速乾樹脂は、ポリエチレンテレフタレート90%、ポリエーテルグリコール9%の割合で反応させたものを用いた。また、超長綿は、コットンで作成された繊維である。
【0090】
【0091】
ここで、糸の密度(dtex)は、中国の国家標準のGB/T14335-2に準じて測定した。破断強さCN(dtex)と破断伸びは、中国の国家標準GBT14337-2008に準じて測定した。滴り拡散時間(S)は中国の国家標準GB/T21665.1-2008に準じて測定した。
【0092】
原料繊維の各々を混合した後、原料繊維をカード機においてカード(繊維をくしけずる)し網状のシートを形成(ウェブ形成)した。ホットボンド(サーマルボンドボンド)法によって形成したウェブを熱融点綿(不織布)とした。作製した熱融綿の坪量は120g/m2であった。
【0093】
(吸水率の測定)
作製した中綿を水中に30分間浸した後、洗濯バサミ等の適当な手段で重力落下により中綿から水が滴るように干した。干してからの時間が1分経過したときの中綿の重量を測定した。その結果を表2に示す。表2においては、本実施例の熱融綿を吸水熱融綿として示している。
【0094】
尚、表2においては、普通ポリエステル繊維のみで本実施例と同様に熱融綿を作製し、当該熱融綿(普通熱融綿)のデータも併せて示している。
【0095】
【0096】
(吸水性の測定)
寸法が1cm×5cmであり、目付が80g/m2の試験片1及び2を作成し、吸水試験を行った。試験片1は、普通ポリエステル繊維70:超吸水ポリエステル繊維30の割合で作成した。試験片2は、普通ポリエステル繊維のみで作成した。
JIS-L-1907に規定されている沈降法により、試験片1及び2の吸水性を試験した。試験片1及び2を収容可能なシャーレ状の容器に水を張り、この容器に試験片1及び2を載置してから試験片1及び2が湿潤して沈降し始めるまでの時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
表3に示したように、超吸水ポリエステル繊維を含む試験片1は、これを含まないポリエステル繊維で構成した試験片2よりも少なくとも30倍の吸水性があることが分かった。
【0098】
(速乾性の測定)
次の要領で試験片3を作成した。また、普通ポリエステル繊維のみで試験片4を作成した。
・試験片の作成
(1)マスターバッチの作成
フタルサンエチレングリコール及びポリエーテルグリコールを重合してマスターバッチを作成した。この重合にあったっては、チタン金属アルコール塩、多ヒドロキシル化合物、リン化合物、ストップフェノール、酢酸塩を用いた。
(2)親水性ポリエステル溶融体の作成
作成したマスターバッチの切片を空気乾燥させた後、スクリュー押し出し機で温度280℃の条件下で溶融させて、親水性ポリエステル溶融体を得た。
(3)紡糸
作成した親水性ポリエステル溶融体をガス吸引装置によって揮発成分を除去し、紡糸を行った。紡糸条件は、紡糸スピードが1500m/min、一級ドラフティング温度が80℃、ドラフティング倍率が2倍、二級ドラフティング温度が125℃、ドラフティング倍率が1.2倍とした。また、ホットセッティング温度を160℃とし、糸径(太さ)が7dtex、長さが61mmとした。
【0099】
・測定
次式に従って残留水分率(%)を求めた。その結果を表4に示す。
残留水分率(%)={(W2-W0)/(W1-W0)}×100
【0100】
尚、1gの試験片3及び4の質量を(W0)とした。試験片3及び4を水に濡らした後、試験片3及び4中に含まれる水分が0.25g程度になるまで脱水した際の質量を(W1)とした。標準状態(20度、かつ湿度65%)下で吊干して5分ごとに測定した試験片3及び4の質量を(W2)とした。
【0101】
【0102】
表4に示すように、超吸水ポリエステル繊維を含む試験片3は、これを含まないポリエステル繊維で構成した試験片4よりも乾く時間が10分速いことが分かった。すなわち、試験片3は、試験片4よりも優れた速乾性を有することが分かった。