(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】組織再生用医薬及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230704BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230704BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230704BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230704BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/02
C12N5/0775
G01N33/50 Z
G01N33/68
(21)【出願番号】P 2019552405
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2018041678
(87)【国際公開番号】W WO2019093481
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2017216356
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】本望 修
(72)【発明者】
【氏名】吉川 義洋
(72)【発明者】
【氏名】富井 亮
(72)【発明者】
【氏名】八尾 理文
(72)【発明者】
【氏名】西井 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】我妻 裕介
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/034708(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/094888(WO,A1)
【文献】特表2017-520537(JP,A)
【文献】特表2016-504324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0166869(US,A1)
【文献】国際公開第2017/170925(WO,A1)
【文献】特表2017-510627(JP,A)
【文献】GIUNTI, D. et al.,Mesenchymal stem cells shape microglia effector functions through the release of CX3CL1,Stem Cells,2012年,Vol.30, No.9,pp.2044-2053
【文献】CROITORU-LAMOURY, J. et al.,Human Mesenchymal Stem Cells Constitutively Express Chemokines and Chemokine Receptors That Can Be U,Journal of Interferon & Cytokine Research,2007年,Vol.27, No.1,pp.53-64
【文献】DU, W.J. et al.,Heterogeneity of proangiogenic features in mesenchymal stem cells derived from bone marrow, adipose,Stem Cell Research & Therapy,2016年,7:163,11pages
【文献】MEAD, B. et al.,Paracrine-mediated neuroprotection and neuritogenesis of axotomised retinal ganglion cells by human,PLOS ONE,2014年,Vol.9, No.10,e109305(11pages)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を含む細胞医薬の製造方法であって、
a)間葉系幹細胞を含む培養物に炎症性サイトカインを添加し、間葉系幹細胞がCX3CL1を発現していることを確認する工程、及び
b)間葉系幹細胞の90%以上がITGA4を発現していることを確認する工程
を含み、前記間葉系幹細胞がヒト骨髄由来間葉系幹細胞である、前記方法。
【請求項2】
さらに、以下の工程を含む、請求項1に記載の方法:
b’)間葉系幹細胞の90%以上がEGFRを発現していることを確認する工程。
【請求項3】
間葉系幹細胞を含む培養物中におけるBDNF、VEGF、及びHGFから選ばれるいずれか1以上の分泌能を確認する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、及びIL-18からなる群から選ばれる1以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、及びIL-6を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
間葉系幹細胞を含む細胞医薬の免疫調整能を評価する方法であって、間葉系幹細胞を炎症性サイトカインで刺激し、CX3CL1の発現を測定する工程を含み、前記間葉系幹細胞がヒト骨髄由来間葉系幹細胞であり、前記炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、及びIL-6を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2017-216356号(2017年11月9日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
技術分野
本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞医薬及びその製造方法に関する。より詳しくは、損傷部位への集積、免疫調整作用、神経保護作用に優れ、組織再生医薬に適した間葉系幹細胞を含む細胞医薬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)には、脳(実質及び血管)の保護作用があることが知られている。脳梗塞後のMSC投与は、梗塞体積を減らし、行動機能を改善することが、実験的梗塞モデルを用いて確認されている(非特許文献1~3、特許文献1)。MSCの静脈投与による脳梗塞患者の治療も多数実施され、運動機能や損傷部位の改善が報告されている(非特許文献4、特許文献2)。また、脊髄損傷患者についても、MSCの静脈投与により、機能回復、及び軸索再生の促進、損傷部位の低減が認められている。
【0003】
MSCの治療メカニズムについては、多数の作用機序が推測されており、これらは神経栄養因子による神経栄養・保護作用、血管新生作用(脳血流の回復)、神経再生の3つに分類される。神経栄養・保護作用は、神経栄養因子であるBDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor)やGDNF(Glial Derived Neurotrophic Factor)等の液性因子を介して発揮されることが予測される。
【0004】
脊髄損傷に対する神経保護作用については、BDNF、NT-3、NGF、PDGF、GDNFなど数多くの神経栄養因子や成長因子の関与が報告されており(非特許文献5)、Honmouらはin vivoにおけるBDNFの神経保護作用を確認している(非特許文献3及び6)。また、MSCの静脈投与により、錐体路及び錐体外路の軸索再生・Sprouting、大脳皮質の皮質脊髄路ニューロンの保護が認められるが、BDNFを強制発現するように遺伝子を操作したMSCを静脈内投与すると、これらの効果がさらに増強することが知られている(非特許文献7)。
【0005】
血管新生作用には、2つのメカニズムが考えられ、一つは病巣部に集積したMSCが血管新生因子等を分泌し血管新生を誘導することであり、もう一つは投与されたMSC自身が血管内皮に分化して新たな血管を形成することである。神経再生作用も、2つのメカニズムが考えられ、一つは病巣部に集積したMSCが内因性の神経形成を促進することであり、もう一つは投与されたMSC自身が神経細胞・グリア細胞へと分化することである。
【0006】
MSCの免疫調整作用については、MSCが分泌するTSG-6、TGF-β1、CX3CL1によりMicrogliaが調整され、当該MicrogliaがTNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインを分泌する細胞障害性のM1型から細胞保護作用を持つM2型に変化することが報告されている。(非特許文献8~11)。また、M2型Microgliaが分泌するIL-4、IL-13、BDNF、IGFなどにより、神経細胞及びグリア細胞での炎症が抑制され、その結果、ネクローシスやアポトーシスを伴う神経の二次的障害を抑制することが報告されている(非特許文献8~11。さらに、移植されたMSCが、脊髄の損傷部位においてIL-4、IL-13の発現を増加させ、一方でTNF-α、IL-6の減少させることにより、炎症作用を持つM1型から抗炎症作用を持つM2型のMacrophageへと誘導し、脊髄損傷後の軸索再生、機能回復が促進されることが報告されている(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2002/000849号
【文献】WO2009/002503号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Iihoshi S. et al., Brain Res. 2004;1007:1-9.
【文献】Nomura T. et al., Neuroscience. 2005;136:161-169.
【文献】Honma T. et al., Exp. Neurol. 2006;199:56-66.
【文献】Honmou O. et al., Brain. 2011;134:1790-1807.
【文献】Hervey et al., 2015, Brain Resarch 1619: 36-71
【文献】Osaka et al., 2010, Brain Research 1343: 226-235
【文献】Sasaki et al., 2009, Journal of Neuroscience 29(47): 14932-14941
【文献】Giunti et al., 2012, Stem Cells 30, 2044-53,
【文献】Yoo et al., 2013, Neurobiology of Disease 58, 249-257,
【文献】Liu et al., 2014, Journal of Neuroinflammation 11, 135,
【文献】Noh et al., 2016, Stem Cells Translational Medicine 5, 1535-1549
【文献】Nakajima et al., 2012, Journal of Neurotrauma 29, 1614-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、損傷部位への集積、免疫調整作用(炎症調整作用)、神経保護作用など、治療効果に優れたMSCを含む細胞医薬とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは上記課題を解決するために、MSCの機能を評価するための指標について検討した。そして、細胞医薬用に調製されたMSCは、サイトカイン刺激によりCX3CL1を発現すること、EGFR及び/又はITGA4の発現が90%以上であること、これらを指標としてMSCの免疫調整能(炎症調整能)や損傷部位への集積能を評価できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)~(11)を含む。
(1)間葉系幹細胞を含む細胞医薬の製造方法であって、
a)間葉系幹細胞を含む培養物に炎症性サイトカインを添加し、間葉系幹細胞がCX3CL1を発現していることを確認する工程、及び/又は
b)間葉系幹細胞の90%以上がEGFR及び/又はITGA4を発現していることを確認する工程
を含む、前記方法。
(2)間葉系幹細胞を含む培養物中におけるBDNF、VEGF、及びHGFから選ばれるいずれか1以上の分泌能を確認する工程をさらに含む、(1)に記載の方法;前記方法は、好ましくはBDNF及び/又はVEGFの分泌能を確認する工程を含み、より好ましくはBDNFの分泌能を確認する工程を含む。なお、BDNF、VEGF、HGFの分泌は、未刺激の細胞からの分泌をみてもよいし、炎症性サイトカイン刺激後の細胞からの分泌をみてもよい。
(3)炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、及びIL-18からなる群から選ばれる1以上である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、及びIL-6を含む、(1)又は(2)に記載の方法;炎症性サイトカインは、好ましくはTNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物である。
(5)間葉系幹細胞を含む細胞医薬であって、
a)前記間葉系幹細胞が炎症性サイトカインの刺激によりCX3CL1を発現するものである、及び/又は
b)前記間葉系幹細胞の90%以上がEGFR及び/又はITGA4を発現しているものである、前記細胞医薬。
(6)前記間葉系幹細胞がBDNF、VEGF、及びHGFから選ばれるいずれか1以上の分泌能を有する、(5)に記載の細胞医薬。前記間葉系幹細胞は、好ましくはBDNF及び/又はVEGFの分泌能を有し、より好ましくはBDNFの分泌能を有する。
(7)炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、及びIL-18からなる群から選ばれる1以上である、(5)又は(6)に記載の細胞医薬。
(8)炎症性サイトカインが、TNF-α、INFγ、及びIL-6を含む、(5)又は(6)に記載の細胞医薬。
(9)TNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物の刺激によるCX3CL1発現量が、TNF-α、INFγ、及びIL-6それぞれ単独の刺激によるCX3CL1発現量の総和よりも多い、(5)又は(6)に記載の細胞医薬。
(10)間葉系幹細胞を含む細胞医薬の免疫調整能を評価する方法であって、間葉系幹細胞を炎症性サイトカインで刺激し、CX3CL1の発現を測定する工程を含む、前記方法。使用する「炎症性サイトカイン」は、TNF-α、INFγ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、及びIL-18からなる群から選ばれる1以上であることが好ましく、TNF-α、INFγ、及びIL-6を含むことがより好ましく、TNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物であることがさらに好ましい。
(11)間葉系幹細胞を含む細胞医薬の損傷部位への集積能を評価する方法であって、前記間葉系幹細胞におけるEGFR及び/又はITGA4の発現が90%以上であるかを評価する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、MSCの免疫調整作用(炎症調整作用)、損傷部位への集積、神経保護作用を簡便に評価でき、機能の高いMSCを含む細胞医薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における(A)TSG-6、(B)CX3CL1、及び(C)TGF-β1の遺伝子発現(相対的発現比)をリアルタイムRT-PCR法により測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Control)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図2】
図2は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における(A)TSG-6、(B)CX3CL1、及び(C)TGF-β1の発現量(pg/1.0 x 10
4 cells)をELISAにより測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Naive)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図3-1】
図3-1は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における(A)VEGF、(B)HGF、(C)NGF、(D)GDNFの遺伝子発現(相対的発現比)をリアルタイムRT-PCR法により測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Control)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図3-2】
図3-2は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における(E)PDGF-A、(F)PDGF-B、(G)PIGF、及び(H)BDNFの遺伝子発現(相対的発現比)をリアルタイムRT-PCR法により測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Control)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図4-1】
図4-1は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における(A)proBDNF、(B)maturePDNF、(C)NGF、及び(D)GDNFの発現量(pg/1.0 x 10
4 cells)をELISAにより測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Naive)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図4-2】
図4-2は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における(E)VEGF、(F)PIGF、(G)HGF、及び(H)PDGF-ABの発現量(pg/1.0 x 10
4 cells)をELISAにより測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Naive)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図5-1】
図5-1は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)におけるケモカインレセプター(CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR7、CX3CR1)、成長因子レセプター(PDGFRa、PDGFRb、FGF-R2、EGFR、HGFR、NGFR、IGF1R、VEGFR1、VEGFR2、Tie-2)のフローサイトメトリーによる発現解析結果を示す。
【
図5-2】
図5-2は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における接着因子(NCAD、HCAM(CD44)、NCAM、ALCAM、ITGAV、ITGA4、ITGB1、ITGB4、VCAM1、ICAM2)のフローサイトメトリーによる発現解析結果を示す。
【
図6】
図6は、ケモカイン、成長因子の刺激によるMSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)のMigration Assayの結果を示す(未刺激培養に対する相対的発現比、Mean±SD、*1.5 fold-change v.s Naive)。
【
図7-1】
図7-1は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における接着因子((A)ITGB1、(B)ITGA4)及び浸潤関連タンパク質((C)MMP1)の遺伝子発現(相対的発現比)をリアルタイムRT-PCR法により測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Control)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【
図7-2】
図7-2は、MSCサンプル(KN-011、KY-14、KA-17、3 Lots)における浸潤関連タンパク質((D)MMP2、(E)TIMP1、(F)TIMP2)の遺伝子発現(相対的発現比)をリアルタイムRT-PCR法により測定した結果を示す。グラフは、左から無添加(Control)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.間葉系幹細胞を含む細胞医薬
本発明の細胞医薬は、間葉系幹細胞を含み、a)前記間葉系幹細胞がサイトカインの刺激によりCX3CL1を発現すること、及び/又はb)前記間葉系幹細胞の90%以上がEGFR及び/又はITGA4を発現していることを特徴とする。
【0014】
[間葉系幹細胞]
本発明で使用される「間葉系幹細胞」とは、間葉系組織の間質細胞の中に微量に存在する多分化能および自己複製能を有する幹細胞であり、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの結合組織細胞に分化するだけでなく、神経細胞や心筋細胞への分化能を有することが知られている。
【0015】
MSCの治療メカニズムについては、多数の作用機序が推測・提唱されている。たとえばMSCは損傷部位へ集積することで、効果的な組織再生を可能にすることが知られている。また、MSCは、細胞死の抑制作用や炎症調整作用を有すること、神経栄養因子の分泌を介して神経保護作用を有することが報告されている(前掲)。
【0016】
[CX3CL1の発現]
本発明で使用されるMSCは、炎症性サイトカインの刺激によりCX3CL1を発現することを特徴とする。
【0017】
CX3CL1は、CXXXCモチーフのケモカインで、フラクタルカインとも呼ばれ、活性化血管内皮細胞、神経細胞、樹状細胞及び腸管上皮細胞で発現し、炎症系サイトカインの刺激により発現が誘導される。ケモカインは好中球、単球、リンパ球などの白血球に対して走化活性を持ち、炎症反応において重要な役割を果たす、分子量10kDa前後の塩基性生理活性ペプチドの一群を言う。ケモカインは構造上の特徴からCXC、CC、C、CX3Cの4つのサブファミリーに分類され、これらのケモカインサブファミリーに対してCXCR、CCR、XCR、CX3CRに分類される7回膜貫通3量体Gタンパク質共役型受容体(GPCR)ファミリーが同定されている。生体内では、CX3CL1は膜結合型と分泌型の2つの形態をとり、ケモカインとしてのみならずインテグリン非依存的に細胞接着能を示す細胞接着分子としても機能する。CX3CL1の発現は関節リウマチや動脈硬化など様々な疾患に関与することが知られている。
【0018】
細胞死の抑制効果や炎症調整作用については、損傷部位でのMSCによるMicroglia及びMacrophageのModulation(調整)作用が関係することが知られているが、発明者らはリアルタイムRT-PCR及びELISA解析により、炎症性サイトカイン刺激に応答したCX3CL1の特徴的発現がMSCの炎症調整作用(免疫調整作用)の指標として有用であることを見出した。CX3CL1を発現するMSCは、Microglia/マクロファージを調整し、炎症作用をもつM1型から抗炎症性のM2型に誘導することにより、免疫調整(炎症調整)作用を発揮することが期待される。
【0019】
使用する「炎症性サイトカイン」としては、例えば、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、IL-18などのインターロイキン類、TNF-α、IFN-γが挙げられる。なかでも、IL-6、TNF-α、IFN-γが好ましく、IL-6、TNF-α、及びIFN-γの混合物を用いることがより好ましい。
【0020】
炎症性サイトカインの刺激に応じてMSCがCX3CL1を発現すれば、当該MSCは炎症調整作用(免疫調整作用)に優れることが期待できる。
【0021】
とくに、TNF-α、INFγ、及びIL-6を用いて刺激をした場合、TNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物の刺激によるCX3CL1発現量が、TNF-α、INFγ、及びIL-6それぞれ単独の刺激によるCX3CL1発現量の総和よりも多いことを、機能性(炎症調整作用に優れた)MSCの特徴的指標とすることができる。
【0022】
[EGFR及び/又はITGA4の発現]
本発明で使用されるMSCは、90%以上がEGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)及び/又はITGA4(Integrin subunit Alpha 4)を発現していることを特徴とする。
【0023】
EGFRは、チロシンキナーゼ型受容体の1種で、リガンドとして上皮成長因子(EGF) のほか、TGF-α、アンフィレギュリンなどと結合する。EGFRをはじめとする受容体型チロシンキナーゼは、細胞外の成長因子による刺激を細胞内に伝え、その刺激をシグナル伝達により核に伝える。その結果、核内の転写活性が高まり、タンパク合成や細胞の機能や構造を変化させる。EGFRは体内のさまざまな細胞の増殖、臓器の発達・形成に重要な働きを示すことが知られている。
【0024】
インテグリン(integrin)は細胞表面タンパク質の1つで、主に細胞外マトリックスへの細胞接着、細胞外マトリックスからの情報伝達に関与する細胞接着分子である。インテグリン分子は、α鎖とβ鎖が1:1で会合しているヘテロダイマーであり、α鎖には少なくとも18種類が報告されており、ITGA4はその1つである。ITGB1やITGA4は血管内皮への接着に重要であり、遊走した細胞の損傷部位への集積に関連することが報告されている(James et al., 2007, Brigitte et al., 2006))。
【0025】
損傷部位への集積には、MSCの遊走能が関与する。発明者らは、遊走性に関連するケモカインおよび成長因子について、フローサイトメトリーによるレセプター解析とMigration Assayを行い、EGFR及び/又はITGA4の発現がMSCの遊走能、損傷部位への集積能の指標として有用であることを見出した。
【0026】
外傷患者における組織の損傷部位では、EGF、NGFなどの成長因子等の分泌が増加することが知られている。また、創傷治癒過程において血液中の血小板よりEGF、bFGF、IL-6、IL-8の放出が確認されている(Ono et al., 1995, Burns 21, 352-355, Zhuang et al.,2013, Asian Pacific Journal of Tropical Medicine, 383-386, Werner et al.,2003, Physiol Rev 83, 835-870)。しかしながら、MSCにおけるEGFRやITGA4の発現と損傷部位への集積と関係について報告はない。
【0027】
MSCのEGFR及び/又はITGA4の発現が90%以上であれば、当該MSCは損傷部位への集積能に優れることが期待できる。
【0028】
[BDNFの発現]
本発明で使用されるMSCは、CX3CL1の発現、EGFR及び/又はITGA4の発現に加えて、BDNF、VEGF、及びHGFから選ばれる1以上の栄養因子を分泌することが好ましい。なかでも、BDNF及び/又はVEGFを分泌することが重要であり、BDNFを分泌することがとくに重要である。
【0029】
BDNF(Brain-derived Neurotrophic Factor)は、標的細胞表面上の特異的受容体TrkBに結合し、神経細胞の成長を調節する液性蛋白質である。BDNFは、中枢神経系や末梢神経系の一部のニューロンに作用し、その維持と成長を促し、新しいニューロンやシナプスへの分化を促す。脳において、BDNFは、海馬、大脳皮質、大脳基底核で活性化され、長期記憶に重要であるが、網膜、運動ニューロン、腎臓、唾液腺、前立腺にも作用することが知られている。
【0030】
VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)は、下垂体細胞の培養液より単離された血管内皮細胞に特異的に作用する増殖因子である。VEGFは、血管内皮細胞の増殖を始めとした血管新生過程の促進、血管透過性の亢進作用を有することから、血管新生が重要な役割を果たす各種疾患・症状(癌、糖尿病性網膜症、関節リウマチ、創傷治癒過程)との関連が推定されている。
【0031】
HGF(Hepatocyte Growth Factor)は初代培養肝細胞の増殖を強く促進する因子として精製されたサイトカインであり、肝再生を促す重要な因子である。HGFは標的細胞に発現されているc-Met受容体を介して生物活性を発揮し、肝細胞のみならず様々な細胞に対して、細胞増殖促進、細胞運動促進、抗アポトーシス(細胞死)、形態形成誘導、血管新生を促す。
【0032】
神経保護作用にはMSCが分泌する栄養因子等の関与が考えられる。発明者らはリアルタイムRP-PCR及びELISAにより、MSCが分泌する神経栄養因子の発現を調べ、BDNF、VEGF、 HGFの発現、なかでもBDNF及び/又はVEGFの発現、とくにBDNFの発現が、MSCの神経保護作用の指標として有用であることを確認した。
【0033】
MSCがBDNF、VEGF及び/又はHGF分泌能を有していれば、当該MSCは損傷領域の修復・再生能力を有し、神経保護作用に優れることが期待できる。MSCは未刺激でもBDNF、VEGF及び/又はHGFを分泌するが、分泌能の確認は、未刺激の細胞からの分泌を評価してもよいし、炎症性サイトカイン刺激後の細胞からの分泌を評価してもよい。
【0034】
後述する実施例に示されるとおり、本発明で使用されるMSCは、炎症調整作用(免疫調整作用)に関わる因子として、CX3CL1のほかTGF-β1も発現している。また、遊走能に関わる因子として、EGFR及び/又はITGA4のほか、NCAM、ALCAM、ITGAV、ITGB1の発現も認められる。
【0035】
[発現解析]
本発明において、上記CX3CL1、EGFR、ITGA4、BDNF、VEGF、HGFの発現は、当該分野で周知の方法により容易に測定することができる。たとえば、遺伝子レベルでの発現解析は、リアルタイムPCR(リアルタイムRT-PCR)、マイクロアレイ、ノザンブロットなどを利用することができる。また、タンパクレベルでの発現解析は、ELISA、フローサイトメトリー(FCM)、プロテインチップなどを利用することができる。
【0036】
とくに、タンパクレベルでの発現は、EGFRやITGA4などの細胞表面タンパクの場合は、簡便さと感受性の点からフローサイトメトリー(FCM)を用いることが好ましく、CX3CL1、BDNF、VEGF、HGFなどの分泌タンパクの場合は、簡便さと感受性の点からビーズアッセイを用いることが好ましい。
【0037】
[MSCの調製]
本発明で使用されるMSCのソースとしては、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児胚、脳などがあるが、本発明においてはヒト骨髄又は血液由来のMSC(骨髄間葉系幹細胞)、とくにヒト骨髄MSCが好ましい。
【0038】
細胞はES細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞等)から分化誘導した細胞であっても、株化された細胞であっても、生体から単離・増殖させた細胞であってもよい。細胞は、他家細胞由来でも自家細胞由来であってもよいが、自家細胞由来(患者自身の細胞に由来する)MSCが好ましい。
【0039】
本発明で使用されるMSCは、CD73、CD90、及びCD105から選ばれる少なくとも1以上の発現が90%以上、及び/又は、CD34又はCD45の発現が5%以下であることが好ましい。より好ましくは、本発明で使用されるMSCは、CD73、CD90、及びCD105から選ばれる少なくとも2以上の発現が90%以上、及び/又はCD34及びCD45の発現が5%以下であることで特徴づけられる。さらに好ましくは本発明で使用されるMSCは、CD73、CD90、及びCD105の発現が90%以上であり、かつ、CD34又はCD45の発現が5%以下であることで特徴づけられる。
【0040】
また、本発明で使用されるMSCは、分化マーカーであるCD24陰性であり、未分化状態を維持した細胞であることが好ましい。未分化状態を維持したMSCは、増殖率および生体内導入後の生存率が高いという特徴を有する。こうした未分化なMSCの取得方法も開発されており、その詳細はWO2009/034708号に記載されている。
【0041】
本発明の細胞医薬に適した機能的MSCは、例えば、骨髄液等から抗凝固剤(ヘパリン等)と実質的に接触しない条件で分離した細胞を、ヒト血清(好ましくは、自家血清)を含み、かつ、抗凝固剤(ヘパリン等)を含まないかあるいは極めて低濃度で含む培地を用いて増殖させることで調製しうる。なお、「抗凝固剤を含まないかあるいは極めて低濃度で含む」とは、抗凝固剤として有効量の抗凝固剤を含まないことを意味する。具体的には、例えばヘパリンやその誘導体であれば、通常抗凝固剤としての有効量は約20-40U/mL程度であるが、前記方法では、あらかじめ試料採取のための採血管に加える量を最小限とすることで、生体から採取された試料中の量は5U/mL未満、好ましくは2U/mL未満、さらに好ましくは0.2U/mL未満となり、細胞を培養する際に培地中に存在する量は、培地の容積に対して0.5U/mL未満、好ましくは0.2U/mL未満、さらに好ましくは0.02U/mL未満となる(WO2009/034708号参照)。
【0042】
培地における細胞の密度は、細胞の性質および分化の方向性に影響を与える。MSCの場合、培地中の細胞密度が8,500個/cm2を超えると、細胞の性質が変化してしまうため、最大でも8,500個/cm2以下で継代培養させることが好ましく、より好ましくは、5,500個/cm2以上になった時点で継代培養させる。
【0043】
前記方法ではヒト血清含有培地を使用するため、血清ドナーの負担を考慮して、培地交換はなるべく少ない回数であることが望ましく、例えば、少なくとも週1回、より好ましくは週1~2回の培地交換を行う。
【0044】
培養は、細胞の総数が108個以上になるまで継代培養を繰り返し行う。必要とされる細胞数は、使用目的に応じて変化し得るが、例えば、脳梗塞の治療のための移植に必要とされるMSCの数は、107個以上と考えられている。前記方法によれば、12日間程度で107個のMSCを得ることができる。
【0045】
増殖したMSCは、必要に応じて、使用されるまで凍結保存などの手法で(例えば、-152℃のディープフリーザーにて)保存してもよい。凍結保存には、血清(好ましくはヒト血清、より好ましくは自家血清)、デキストラン、DMSOを含む培地(RPMI等の哺乳動物細胞用の培地)を凍結保存液として使用する。例えば、通常の濾過滅菌したRPMI20.5mLと、患者から採取した自家血清20.5mL、デキストラン5mL、DMSO 5mLを含む凍結保存液に細胞を懸濁して-150℃で凍結保存することができる。例えば、DMSOとしては、ニプロ株式会社製のクライオザーブ、デキストランは大塚製薬製の低分子デキストランL注を使用できるが、これらに限定されない。
【0046】
[細胞医薬(細胞製剤)]
本発明の細胞医薬に含まれるMSCの細胞数は多い程好ましいが、対象への投与時期や、培養に要する時間を勘案すると、効果を示す最小量であることが実用的である。したがって、本発明の好ましい態様において、MSCの細胞数は、107個以上、好ましくは5x107個以上、より好ましくは108個以上、さらに好ましくは5x108個以上である。投与回数は1回に限られず、2回以上投与されてもよい。
【0047】
本発明の細胞医薬は、好ましくは非経口投与製剤、より好ましくは非経口全身投与製剤、特に静脈内投与製剤である。非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤等の注射剤や移植片などが挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であり、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、培地(とくに、RPMI等の哺乳動物細胞の培養に用いられる培地)、PBSなどの生理緩衝液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等を適宜組み合わせて、適切な単位投与形態に製剤化される。
【0048】
注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水、培地、PBSなどの生理緩衝液、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールや非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO-50等と併用してもよい。
【0049】
本発明の細胞医薬は、組織再生用医薬、とくに損傷部位(病変部)におけるシナプス形成と可塑性促進効果により、認知症、慢性期の脳梗塞、慢性期の脊髄損傷、神経変性疾患、精神疾患、高次機能障害等の治療に有用である。
【0050】
2.間葉系幹細胞を含む細胞医薬の製造方法
本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞医薬の製造方法も提供する。本発明の細胞医薬の製造方法は、a)間葉系幹細胞を含む培養物にサイトカインを添加し、間葉系幹細胞がCX3CL1を発現していることを確認する工程、及び/又は、b)間葉系幹細胞がEGFR及び/又はITGA4を発現していることを確認する工程を含むことを特徴とする。
【0051】
使用する「炎症性サイトカイン」としては、TNF-α、INFγ、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、IL-18が挙げられ、なかでもTNF-α、INFγ、及びIL-6を含むことが好ましく、TNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物を使用することがより好ましい。
【0052】
発明の細胞医薬の製造方法は、(サイトカイン未添加)培養物中におけるBDNF、VEGF、及びHGFから選ばれるいずれか1以上の存在を確認する工程をさらに含んでいてもよい。とくに、BDNF及び/又はVEGFの存在を確認することが重要であり、BDNFの存在を確認することが最も重要である。
【0053】
前述したとおり、炎症性サイトカインの添加によりMSCがCX3CL1を発現すれば、当該MSCは炎症調整作用(免疫調整作用)に優れることが期待でき、MSCの90%以上がEGFR及び/又はITGA4を発現していれば、当該MSCは損傷部位への集積能に優れることが期待できる。また、培地中にBDNF、VEGF、及びHGFなどの栄養因子のいずれかが存在すれば神経保護作用の高いMSCを含むことが期待でき、なかでもBDNF及び/又はVEGFの存在、とくにBDNFの存在は神経保護作用の高いMSCの重要な指標でありうる。MSCは未刺激でもBDNF、VEGF及び/又はHGFを分泌するが、分泌能の確認は、未刺激の細胞からの分泌を評価してもよいし、炎症性サイトカイン刺激後の細胞からの分泌を評価してもよい。
【0054】
上記CX3CL1、EGFR、ITGA4、BDNF、VEGF、HGFの発現は、遺伝子レベルよりも、タンパクレベルでの発現を指標とすることが好ましく、前項に記載した方法により測定することができる。とくに、EGFRやITGA4などの細胞表面タンパクの場合は、簡便さと感受性の点からフローサイトメトリー(FCM)を用いることが好ましく、CX3CL1、BDNF、VEGF、HGFなどの分泌タンパクの場合は、簡便さと感受性の点からビーズアッセイを用いることが好ましい。
【0055】
本発明の細胞医薬の製造方法に使用されるMSCの調製は、前項に記載のとおり、WO2009/034708号の記載に準じて、骨髄液等から抗凝固剤(ヘパリン等)と実質的に接触しない条件で分離した細胞を、ヒト血清(好ましくは、自家血清)を含み、かつ、抗凝固剤(ヘパリン等)を含まないかあるいは極めて低濃度で含む培地を用いて増殖させることで調製しうる。なお、「抗凝固剤を含まないかあるいは極めて低濃度で含む」とは、抗凝固剤として有効量の抗凝固剤を含まないことを意味する。具体的には、例えばヘパリンやその誘導体であれば、通常抗凝固剤としての有効量は約20-40U/mL程度であるが、前記方法では、あらかじめ試料採取のための採血管に加える量を最小限とすることで、生体から採取された試料中の量は5U/mL未満、好ましくは2U/mL未満、さらに好ましくは0.2U/mL未満となり、細胞を培養する際に培地中に存在する量は、培地の容積に対して0.5U/mL未満、好ましくは0.2U/mL未満、さらに好ましくは0.02U/mL未満となる。
【0056】
3.間葉系幹細胞を含む細胞医薬の免疫調整能を評価する方法
本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞医薬の免疫調整能を評価する方法も提供する。前記評価方法は、間葉系幹細胞を炎症性サイトカインで刺激し、CX3CL1の発現を測定する工程を含む。使用する「炎症性サイトカイン」、CX3CL1の発現の測定方法は、1及び2に記載したとおりである。
【0057】
サイトカインで刺激後のMSCがCX3CL1を発現していれば、当該MSCを含む細胞医薬は免疫調整能が高いと評価することができる。とくに、TNF-α、INFγ、及びIL-6を用いて刺激をした場合、TNF-α、INFγ、及びIL-6の混合物の刺激によるCX3CL1発現量が、TNF-α、INFγ、及びIL-6それぞれ単独の刺激によるCX3CL1発現量の総和よりも多い場合、免疫調整能が高いと評価することができる。
【0058】
4.間葉系幹細胞を含む細胞医薬の損傷部位への集積能を評価する方法
間葉系幹細胞を含む細胞医薬の損傷部位への集積能を評価する方法も提供する。前記評価方法は、間葉系幹細胞が90%以上EGFR及び/又はITGA4の発現していることを確認する工程を含む。
【0059】
MSCの90%以上がEGFR及び/又はITGA4を発現していれば、当該MSCを含む細胞医薬は損傷部位への集積能が高いと評価することができる。
【実施例】
【0060】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例1:免疫調整作用
MSCの細胞死の抑制効果や免疫調整作用については、損傷部位でのMSCによるMicroglia及びMacrophageのModulation(調整)作用が関係していることが知られている。そこで、MSCを含む細胞医薬における免疫調整能を検討するために、関連する因子としてTSG-6、CX3CL1、TGF-β1の発現をリアルタイムRT-PCR法とELISA法で解析した。
【0062】
1. 実験方法,評価項目
1.1細胞培養
MSCサンプルは治験用(STRO1)の異なる3ロットのサンプル(KN-011, KY-14, KA-17)を用いた。前記MSCサンプルを培養液14 mL(10% ヒト血清, 1% Penicillin-streptomysin, 1% L-Glutamine)に懸濁し、150 mmディッシュに0.7-1.0×106 cells /dishの密度で播種した。温度37 ℃、5% CO2の条件下で培養し、80% 程度のコンフルエントであることを確認後、継代作業を行い5.0×105 cells/dishの密度で播種した。引き続き継代培養を行い、継代4回目に100 mmディッシュに3.0×105 cells/dishの密度で播種した。以下の全ての実験系において継代数4回の細胞を使用した。
【0063】
1.2 炎症性サイトカインによる刺激培養上清回収とTotal RNA抽出
継代4回目を行った24時間後に通常の培養液(10 % FBS, 1% Penicillin-Streptomycin, 1% L-Glutamine)、及び炎症性サイトカイン(TNF-α(50 ng/ml), IFN-γ(50 ng/ml), IL-6(50 ng/ml), TNF-α/IFN-γ/IL-6(各50 ng/ml))を添加した10 m Lの培養液に交換した(5条件, n=3)。上記炎症性サイトカインは脊髄損傷部位で分泌され、さまざまな細胞障害を引き起こすと考えられている。交換48時間後に培養上清を回収し、遠心処理(2280 g, 20 min)した。その後、1.5 mlチューブに200μlずつ分注し、-80℃フリーザーに保存した。上清回収後、トリプシン処理で細胞をディッシュから剥離し、細胞カウントを行った。細胞カウント後、RNA抽出キット(QIAGEN)を用いてTotal RNAを抽出した。Total RNAからcDNAを合成し、それらを鋳型としてリアルタイムRT-PCRを行った。
【0064】
2. 結果の評価と判定基準
2.1 リアルタイムRT-PCR法による遺伝子発現
細胞から抽出したTotal RNAからcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型として、TSG-6、CX3CL1、TGF-β1の各因子のTaqmanプローブを用いてPCR反応を行った。各Targetと内部標準のCt値からΔΔCt法により通常の培養液と炎症性サイトカインを添加して培養した細胞の遺伝子発現量を比較定量した。
【0065】
試験検体は無添加(Naive)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加とし、培養開始から48時間後にmRNA及び培養上清を回収してリアルタイムRT-PCRを行った。
【0066】
2.2 ELISA法による分泌タンパク定量
1.1で回収、保存した培養上清をサンプルとし、培養上清中のTSG-6、CX3CL1、TGF-β1を定量した。試験検体は無添加(Naive)、TNF-α(50 ng/ml)、IFN-γ(50ng/ml)、IL-6(50ng/mL)及びTNF-α/IFN-γ/IL-6(いずれも50ng/ml)添加とし、培養開始から48時間後にmRNA及び培養上清を回収してリアルタイムRT-PCRを行った。
【0067】
3. 結果
3.1 リアルタイムRT-PCR(
図1)
グラフは対照との相対的発現比を示し、表はCt値を示す。いずれのロットでもTSG-6、CX3CL1、TGF-β1の遺伝子発現が確認され、特にTSG-6とCX3CL1の発現はTNF-α/IFN-γ/IL-6の混合添加により顕著に増加した。本結果から、MSCはMicroglia及びMacrophageへのModulation(調整)作用に関与していること、またその作用にTSG-6、CX3CL1、TGF-β1が寄与していることが示唆された。
【0068】
3.2 ELISA法による分泌タンパク定量(
図2)
TSG-6と TGF-β1はいずれのロットにおいてもサイトカイン刺激による発現量の変化は認められなかったが、CX3CL1は未刺激やサイトカイン単独での刺激ではほとんど発現が認められないのに対し、TNF-α/IFN-γ/IL-6の混合添加により顕著な発現が認められた。また、RT-PCRでもTNF-α/IFN-γ/IL-6混合刺激による発現の方が、それぞれ単独刺激による発現の総和よりも多い結果となった。
【0069】
4. 考察
CX3CL1は、ELISAではほとんど発現が認められないが、TNF-α/IFN-γ/IL-6の混合刺激により発現が確認された。また、TNF-α/IFN-γ/IL-6混合刺激による発現の方が、それぞれ単独刺激による発現の総和よりも多いというCX3CL1の発現特徴はMSCが分泌する他の免疫調整能関連因子(TSG-6、TGF-β1)では認められず、したがって、CX3CL1はMSCの免疫調整能を評価する指標として有用であると推察された。
【0070】
実施例2:神経保護作用
MSCの神経保護作用には複数の栄養因子等の関与が考えられる。MSC が分泌する栄養因子(VEGF、HGF、NGF、GDNF、PDGF-A、PDGF-A、PlGF、BDNF)の発現を解析した。
【0071】
1. 実験方法,評価項目
細胞培養及びTotal RNAの調製は実施例1に記載した方法で行った。
【0072】
2. 結果の評価と判定基準
実施例1と同様。
【0073】
3. 結果
3.1 リアルタイムRT-PCR(
図3)
グラフは対照との相対的発現比を示し、表はCt値を示す。炎症性サイトカインを添加していない培養液で培養したMSCでは、神経栄養因子であるBDNF、NGF、GDNFや、血管新生に関わるVEGF、PDGF-A、PlGF、損傷組織の修復・再生に関わるHGFの発現が確認できた。TNF-α/IFN-γ/IL-6の混合刺激では、NGFの発現に増加傾向が認められた。
【0074】
3.2 ELISA法による分泌タンパク定量(
図4)
炎症性サイトカインを添加していない培養液で培養したMSCでは、神経栄養因子であるmature-BDNFとその前駆体であるproBDNF、血管新生に関わるVEGFの分泌が確認された。また、HGF、PlGFは3検体中2検体で確認された。一方、NGF、GDNF、PDGF-ABは分泌が確認されなかった。TNF-α/IFN-γ/IL-6の混合刺激では、VEGFとHGFの分泌量に増加傾向が認められた。
【0075】
4. 考察
mRNAレベルでは、全ての栄養因子の発現が確認されたものの、タンパクレベルでは全サンプルで分泌の確認が可能であったのはBDNF、VEGFのみであった。PlGF及びHGFでは3ロット中2ロットのみで確認が可能であった。
【0076】
脊髄損傷に対する神経保護作用については、BDNF、NT-3、NGF、PDGF、GDNFなど数多くの神経栄養因子や成長因子の関与が報告されており、Honmouらのin vivo解析では、BDNFによる神経保護作用が確認されている(前掲Nomura et al., 2005; Osaka et al., 2010)。また、BDNFを強制発現するように遺伝子を操作したBDNF-MSCを静脈内投与すると、これらの効果がさらに増強することが知られている(前掲Sasaki et al., 2009,)。
【0077】
今回の結果は上記報告にも一致し、BDNFの分泌はMSCの神経保護作用の評価指標として特に重要と考えられた。VEGFやHGFについても、BDNFに加えて、MSCの機能評価に有用と考えられる。
【0078】
実施例3:MSCの遊走能
MSCの損傷部位への集積を評価するために、FCM法、Migration AssayおよびリアルタイムRT-PCR法によりMSCのin vitro 遊走能を解析した。
【0079】
1. 実験方法,評価項目
細胞培養及びTotal RNAの調製は実施例1に記載した方法で行った。
【0080】
2. 結果の評価と判定基準
2.1 フローサイトメトリー(FCM)法
まず、遊走性に関連するケモカイン及び成長因子の解析として、FCM法を用いてそれぞれ下記のレセプターの発現を解析した。
【0081】
<遊走性に係わるレセプター>
ケモカインレセプター:
CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、
CXCR5、CXCR6、CXCR7、CX3CR1
成長因子レセプター:
VEGFR1、VEGFR2、PDGFRβ、EGFR、IGF-1R、FGF-R2、HGFR、Tie-2
<接着因子>
ICAM2、VCAM、ALCAM、HCAM(CD44)、ITGAV、ITGA4、ITGB1
【0082】
2.2 Migration Assay
次に、下記に示すケモカイン、成長因子を培地に添加し、MSCの遊走能をMigration Assay法を用いて検討した。
【0083】
<ケモカイン及び成長因子>
VEGF、EGF、HGF、IGF-1、PDGF-AB、bFGF、ANGPT-1
MCP-1(CCL2)、MIP-1α(CCL3)、RANTES(CCL5)、Eotaxin-1(CCL11)、MDC(CCL22),
Eotaxin-2(CCL24)、CRO-α(CXCL1)、SDF-1(CXCL12)、Fractalkine(CX3CL1)
【0084】
Migration Assayは、FluoroBlok(コーニング社)を用いて実施した。
1)ウェルプレートに遊走因子を添加してインサートをセットし、
2)インサート上部に細胞懸濁液を添加し、
3)18時間後に遊走細胞数をCalcein AM(同仁化学研究所)で染色細胞をカウントした。
結果は、ケモカイン、成長因子無添加時の遊走細胞数を1.0とする相対的遊走比で評価した。
相対的遊走比=細胞数(遊走因子添加)/細胞数(遊走因子未添加)
【0085】
2.3 リアルタイムRT-PCR
実施例1にしたがい、細胞の血管内皮への接着や、組織への浸潤に係わる因子について、炎症性サイトカイン刺激の有無による遺伝子発現をリアルタイムRT-PCR法により解析した。
<接着因子>
ITGB1、ITGA4
<浸潤関連タンパク質>
MMP1、MMP2、TIMP1、TIMP2
【0086】
3. 結果
3.1 FCM法によるMSCのケモカインレセプター、成長因子レセプター、接着因子の解析(表1及び
図5)
ケモカインレセプターについては、一部細胞でCCR5、CXCR3などの発現が認められたものの、全ての細胞に共通して発現しているものはなかった。一方、成長因子のレセプターについては、EGFR、HGFR、NGFR、Tie2の発現が認められた。接着因子については、遊走したMSCの血管内皮細胞への接着に関与すると考えられるNCAD、CD44、NCAM、ALCAM、ITGA4、ITGB1の発現が認められた。
【0087】
【0088】
3.2 Migration Assay(
図6)
EGF、PDGF-AB、βFGF、ANGPT-1、MCP-1(CCL2)、MIP-1α(CCL3)により遊走の促進が認められ、特に、EGF、MCP-1(CCL2)では傾向が顕著であった。
【0089】
3.3 リアルタイムRT-PCR(
図7)
接着因子であるITGB1、ITGA4や浸潤に関連するMMP1、MMP2、TIMP1、TIMP2を発現していることが確認された。また、炎症性サイトカイン(TNF-α/IFN-γ/IL-6)で刺激したMSCは、MMP1の発現が大幅に増加することが確認された。ITGB1やITGA4は血管内皮への接着に重要であり、遊走した細胞の損傷部位への集積に関連することが報告されている(前掲James et al., 2007)。また、MMP、TIMPファミリーが細胞の基底膜を融解し、遊走した細胞が損傷部位へ浸潤することが知られている(Caroline et al.,2008, Mariusz et al., 2012)。これらの報告と上記結果から、MSCを含む医薬は血管内皮への接着と組織への浸潤に関連する特性を有していることが示唆された。
【0090】
4. 考察
FCMによるレセプターの解析とMigration Assayの結果から、MSCの遊走能の指標としてEGFRの発現が特に重要であることが確認された。また、FCM解析とリアルタイムRT-PCR解析の結果から、MSCの遊走能の指標としてITGA4の発現が重要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、間葉系幹細胞を含む細胞医薬の機能を適切に検定でき、組織再生に適した間葉系幹細胞を含む細胞医薬を提供できる。
【0092】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。