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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】NMR測定プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
G01N24/00 560F
G01N24/00 510D
G01N24/00 510F
G01N24/00 510C
G01N24/00 560G
G01N24/00 100Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020061797
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162375
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】戸田 充
(72)【発明者】
【氏名】中井 利仁
(72)【発明者】
【氏名】根本 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】山腰 良晃
(72)【発明者】
【氏名】清水 禎
(72)【発明者】
【氏名】最上 祐貴
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-135944(JP,A)
【文献】特開2003-194904(JP,A)
【文献】特開2012-202995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0030029(US,A1)
【文献】特表平8-506176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N24/00-24/14
G01R33/28-33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック本体と、
前記ブロック本体に設けられ、前記ブロック本体を介して冷却されるNMR検出用のコイルと、
前記ブロック本体の表面に密着し、前記コイルの送信動作後に前記ブロック本体を伝わるアコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成された制振部材と、
を含むことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項2】
請求項1記載のNMR測定プローブにおいて、
前記ブロック本体は縦方向に伸長しており、
前記ブロック本体は、前記縦方向の一方側に存在する先端部と、前記縦方向の他方側に存在する基端部と、を有し、
前記コイルは前記先端部に設けられ、
前記基端部を支持する支持部材が設けられた、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項3】
請求項2記載のNMR測定プローブにおいて、
前記制振部材は、前記先端部から隔てられつつ前記基端部の表面に設けられている、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項4】
請求項2記載のNMR測定プローブにおいて、
前記基端部は、
前記縦方向に直交する横方向において第1幅を有する第1表面及び第2表面と、
前記縦方向及び前記横方向に直交する厚み方向において前記第1幅よりも小さい第2幅を有する第3表面及び第4表面と、
を有し、
前記制振部材は、
前記第1表面に密着した第1制振板と、
前記第2表面に密着した第2制振板と、
を有する、ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項5】
請求項4記載のNMR測定プローブにおいて、
前記第1制振板、前記基端部及び前記第2制振板からなる積層体を貫通する複数のねじを含み、
前記複数のねじにより前記積層体が前記支持部材に固定されている、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項6】
請求項5記載のNMR測定プローブにおいて、
前記複数のねじは、それぞれ、前記アコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成されている、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項7】
請求項2記載のNMR測定プローブにおいて、
前記支持部材は、前記アコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成されている、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項8】
請求項1記載のNMR測定プローブにおいて、
前記アコースティック・リンギングを抑圧する材料は、前記制振部材の冷却温度において、反強磁性又は反磁性を呈し且つ0.01以上の対数減衰率を有する、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【請求項9】
請求項1記載のNMR測定プローブにおいて、
前記アコースティック・リンギングを抑圧する材料は、マンガンを主成分とする双晶型制振材料である、
ことを特徴とするNMR測定プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMR(nuclear magnetic resonance)測定プローブに関し、特に、冷却型NMR測定プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
NMR測定に当たっては、NMRプローブが用いられる。特許文献1には、固体試料の測定を行う冷却型NMR測定プローブが開示されている。そのNMR測定プローブは、検出モジュール(検出ブロックとも言い得る。)を有している。検出モジュールは、貫通孔を有するブロック本体、及び、貫通孔の内面に形成されたコイル、を有する。ブロック本体は、極低温で良好な熱伝導性を有し且つ磁性を有しない絶縁材料で構成される。ブロック本体は、支持部材を介して、熱交換器に連結されている。熱交換器内をヘリウムガス等の冷媒が流通している。支持部材及びブロック本体が熱伝導体として機能し、コイルの温度が極低温に維持される。
【0003】
上記NMR測定プローブにおいては、コイルの内部を通過するように試料管が配置されている。具体的には、試料管は、静磁場方向に対して所定角度(いわゆるマジック角度)傾斜した姿勢を有し、その傾斜姿勢のまま試料管が回転駆動される(magic-angle spinning方式)。検出モジュールは、真空空間内に配置されており、一方、試料管は大気空間内に配置されている。NMR測定時には、試料管内の固体試料に対してコイルから電磁波が照射される。これにより固体試料で生じるNMRがコイルで検出される。コイル(及び他の電気部品)を冷却することにより、高感度でNMR信号を検出できる。冷却型NMR測定プローブは、クライオコイルMASプローブとも呼ばれる。
【0004】
なお、特許文献2には、制振部材を備える核磁気共鳴イメージング装置が記載されている。特許文献3には、コイルを備える冷却型検出ブロックに相当する部材は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-41104号公報
【文献】国際公開第2006/062028号公報
【文献】特許第2849698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NMR測定時に電磁波の照射を行うと、導体(特にコイル)の表面に弾性表面波が生じる。弾性表面波は、電磁場の照射で生じた電場に起因するものであり、それは、アコースティック・リンギング(acoustic ringing)と呼ばれている。特に、搬送波周波数が低周波数(例えば100MHz以下)であり、かつ、数テスラ以上の磁束密度を有する高磁場環境下において、アコースティック・リンギングが問題となりやすい。
【0007】
アコースティック・リンギングが受信信号の観測期間に入り込んでくると、NMRスペクトルにアーチファクトが生じる。アコースティック・リンギングを避けるために、受信信号の観測期間の開始時期を遅らせると、つまり送信後に設けられるデッドタイムを長くすると、送信直後の受信信号成分を観測できなくなって感度が低下してしまい、また、送信直後の重要な現象を観測できなくなる。
【0008】
冷却型検出モジュールを有するNMRプローブにおいて、コイルはブロック本体に密に接触しており、あるいは、コイルはブロック本体と一体化されている。ブロック本体は、熱伝導性の良好な絶縁材料で構成され、且つ、冷却されており、通常、ブロック本体は非常に硬い。コイルからブロック本体へ振動が伝わると、その振動は減衰し難い。しかも、ブロック本体が片持ち方式で支持されている場合、ブロック本体に振動が留まりやすくなる。冷却型NMRプローブを用いる場合、アコースティック・リンギングが大きな問題となる。
【0009】
本発明は、NMR測定プローブにおいて、ブロック本体に伝わるアコースティック・リンギングを抑圧することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るNMR測定プローブは、ブロック本体と、前記ブロック本体に設けられ、前記ブロック本体を介して冷却されるNMR検出用のコイルと、前記ブロック本体の表面に密着し、前記コイルの送信動作後に前記ブロック本体に伝わるアコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成された制振部材と、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、NMR測定プローブにおいて、ブロック本体に伝わるアコースティック・リンギングを抑圧できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るNMR測定プローブを備えるNMR測定システムを示す模式図である。
図2】実施形態に係るNMR測定プローブの断面図である。
図3】検出モジュール及びその周囲の部材を示す斜視図である。
図4】検出モジュールの第1実施例を示す斜視図である。
図5】検出モジュールの第2実施例を示す斜視図である。
図6】検出モジュールの第2実施例を示す断面図である。
図7】検出モジュールの第1変形例を示す斜視図である。
図8】検出モジュールの第2変形例を示す斜視図である。
図9】実験対象となった3つの検出モジュールを示す図である。
図10】実験結果を示す図である。
図11】アコースティック・リンギングを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係るNMR測定プローブは、ブロック本体、NMR検出用のコイル、及び、制振部材、を有する。コイルは、ブロック本体に形成され、ブロック本体を介して冷却される。制振部材は、ブロック本体の表面に密着し、コイルの送信動作後にブロック本体に伝わるアコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成される。
【0015】
ブロック本体の表面に制振部材が密着しているので、ブロック本体を伝搬する弾性表面波であるアコースティック・リンギングを制振部材により抑圧し得る。ブランク期間を短くしても、アコースティック・リンギングに起因するアーチファクトが生じ難くなる。
【0016】
アコースティック・リンギングを抑圧する材料は、当然ながら、ブロック本体を構成する材料よりも、高い制振作用を発揮する材料であり、別の観点から見て、熱伝導材料として一般的に用いられる銅よりも、高い制振作用を発揮する材料である。アコースティック・リンギングを抑圧する材料として、制振部材の冷却温度において、反磁性又は反強磁性を呈し且つ0.01以上の対数減衰率を有する材料を使用し得る。あるいは、アコースティック・リンギングを抑圧する材料として、マンガンを主成分とする双晶型制振材料を使用し得る。
【0017】
実施形態において、ブロック本体は縦方向に伸長している。ブロック本体は、縦方向の一方側に存在する先端部と、縦方向の他方側に存在する基端部と、を有する。コイルは先端部に設けられている。基端部が支持部材により支持される。
【0018】
ブロック本体、コイル、及び、制振部材により、検出モジュールが構成される。検出モジュールは、検出ブロック又は検出用組立体として観念される。一般に、検出モジュールは、片持ち方式で支持される。上記の縦方向は、ブロック本体の長手方向及び伸長方向である。
【0019】
実施形態において、制振部材は、先端部から隔てられつつ基端部の表面に設けられる。制振部材が僅かでも常磁性を呈する場合(例えば、残留磁化により常磁性を呈する場合)、そのような制振部材をコイル近傍に配置すると、制振部材が磁界を乱し、NMR検出に悪影響を及ぼす。制振部材をコイルから隔てて配置すれば、具体的には、基端部に配置すれば、制振部材の磁性に由来する問題を解消又は軽減できる。常磁性をまったく有しない制振部材であれば、その制振部材を先端部つまりコイル近傍に設けてもよい。
【0020】
実施形態において、基端部は、縦方向に直交する横方向において第1幅を有する第1表面及び第2表面と、縦方向及び横方向に直交する厚み方向において第1幅よりも小さい第2幅を有する第3表面及び第4表面と、を有する。制振部材は、第1表面に密着した第1制振板と、第2表面に密着した第2制振板と、を有する。
【0021】
基端部における比較的に広い2つの表面に2つの制振板を設ければ、アコースティック・リンギングを効果的に抑圧し得る。それらの制振板に加えて、基端部における他の2つの平面(第3平面及び第4平面)にそれぞれ制振板を設けてもよい。棒状のブロック本体に対して、それを取り囲む筒状の制振板を設けてもよい。
【0022】
実施形態において、厚み方向はコイルの中心軸に並行である。ブロック本体において厚み方向に直交する2つの面には電極層が設けられる。そのような構成を採用する場合、それらの2つの面(基端部の第1平面及び第2平面を含む2つの面)には、アコースティック・リンギングが伝わり易いと考えられる。第1平面に第1制振板を設け、第2平面に第2制振板を設ければ、ブロック本体を伝わるアコースティック・リンギングを効果的に抑圧できる。
【0023】
実施形態においては、第1制振板、基端部及び第2制振板からなる積層体を貫通する複数のねじが設けられる。複数のねじにより、積層体が支持部材に固定される。この構成によれば、支持部材への検出モジュールの取り付けと一緒に、基端部への2つの制振板の取り付けを行える。2つの制振板が接着材により基端部に貼り付けられる場合であっても、更に、2つの制振板を複数のねじで固定すれば、基端部における第1平面及び第2平面に対して第1制振板及び第2制振板を確実に密着させることが可能となる。特に、冷却型検出モジュールにおいては、熱収縮により接着作用が低下することもあるので、上記構成を採用する意義は大きい。
【0024】
実施形態において、複数のねじは、それぞれ、アコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成されている。この構成によれば、アコースティック・リンギングをより効果的に抑圧できる。実施形態において、支持部材は、アコースティック・リンギングを抑圧する材料で構成されている。この構成によれば、アコースティック・リンギングをより効果的に抑圧できる。特に、他の部材(電子部品等)へのアコースティック・リンギングの伝搬を防止できる。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係るNMR測定システムが示されている。図示されたNMR測定システム10は、図示されていない分光計、静磁場発生装置12、NMR測定プローブ14、冷却装置16、及び、循環装置18を有する。分光計は、送信回路、受信回路、NMRスペクトル生成回路、等を有する。
【0026】
静磁場発生装置12により静磁場が生成される。静磁場発生装置12は、中空孔としてのボアを有する。NMR測定プローブ14は、ボアに挿入される挿入部20、及び、挿入部の下端に連なる基部22を有する。NMR測定プローブ14は、ハウジングとしての隔壁23を有する。隔壁23の内部は真空空間である。
【0027】
挿入部20の中には、検出ブロック又は検出用組立体としての検出モジュール24が設けられている。検出モジュール24は、NMR信号検出用のコイルを有する。コイルの内部を試料管26が通過している。試料管26の内部には、固体試料が収容されている。固体試料は粉体であってもよい。コイル、可変コンデンサ等により第1検出回路が構成される。
【0028】
挿入部20の中には、第1熱交換器32が設けられている。第1熱交換器32内を冷媒が流通している。冷媒は、具体的には、極低温に冷却されたヘリウムガスである。液体ヘリウム、液体窒素、窒素ガス等を冷媒として使用してもよい。第1熱交換器32により第1検出回路が冷却される。特に、コイルを含む検出モジュール24の全体が冷却される。コイル等の電気部品の冷却により熱雑音を低減してSN比を上げられる。換言すれば、NMR検出感度を高められる。
【0029】
試料管26は、静磁場方向(図1において上下方向)に対して所定角度(いわゆるマジック角)傾いた姿勢を有し、その姿勢のまま、回転機構28により回転駆動される。回転機構28はスピナーとも言われる。回転機構28は、シールド30内に収容されている。コイルは、真空空間内に配置されており、コイルの温度は、例えば、20K以下とされる。一方、試料管は、大気圧下の外界(エア空間)に配置されており、外界の温度は、室温である。
【0030】
基部22の中には、第2検出回路34が設けられている。第2検出回路34には、例えば、プリアンプ、デュプレクサ等が含まれる。第2検出回路34には、第2熱交換器36が連結されている。第1熱交換器32を通過した冷媒が第2熱交換器36の中を流通している。第2熱交換器36により第2検出回路34が冷却される。隔壁23内には、冷媒を循環させるための配管が設けられている。
【0031】
冷却装置16とNMR測定プローブ14との間には、トランスファーチューブ38が設けられている。その中には、送り配管及び戻し配管が設けられている。戻し配管は、冷却装置16を通って循環装置18まで伸びている。循環装置18は、冷媒循環用のポンプ40を有する。ポンプ40から送り出された冷媒が冷却装置16内の冷却設備42により極低温に冷却される。冷却された冷媒が送り配管を通じてNMR測定プローブ14へ輸送される。冷却設備42は、冷凍機、コールドベンチ等により構成される。
【0032】
図2には、挿入部における上部周辺が示されている。第1熱交換器32にはステージ44が連結されており、ステージ上に複数の電気部品60,62が搭載されている。複数の電気部品60,62は、例えば、複数の可変コンデンサである。コイル54及び複数の電気部品60,62により、第1検出回路が構成される。第1熱交換器32は、第1検出回路を冷却するためのものである。第1熱交換器32に対し、支持部材58を介して、検出モジュール24が連結されている。
【0033】
検出モジュール24には、ブロック本体46、コイル54、及び、制振部材(後述する制振板86,88)が含まれる。ブロック本体46は、縦方向(長手方向)に伸長しており、縦方向に並ぶ先端部48及び基端部50を有する。先端部48には、貫通孔としての開口52が形成されている。開口52における円筒状の内面にコイル54が形成されている。コイル54は、ソレノイド形を有する帯状且つ膜状の電極層である。その電極層は、例えば、メッキにより形成され、それを構成する材料は例えば銅である。
【0034】
ブロック本体46は、図示された第1実施例において、極低温下で熱伝導性が良好であり、磁性を有しない絶縁材料で構成され、特に、つなぎ目のない単一の部材で構成されている。具体的には、サファイヤの単結晶で構成されている。ブロック本体が水晶の単結晶で構成されてもよい。ブロック本体46は、コイル支持体及び熱伝導体として機能する。
【0035】
試料管26が開口52内を非接触で通過している。具体的には、隔壁23の上部23Aには、円筒状の空洞23Bが形成されている。空洞23B内に試料管が非接触で挿通されている。隔壁23の内部は真空空間であり、空洞23Bの内部は大気空間である。回転機構28により、傾斜姿勢を有する試料管26が回転駆動される。なお、図2においては、回転機構28の外形のみが示されている。
【0036】
基端部50が有する2つの表面に対して、制振部材としての2つの制振板86,88が密着状態で接合されている。制振板86,88は、それぞれ、平板状の形態を有し、ブロック本体46を伝搬するアコースティック・リンギングを抑圧する材料により構成されている。実施形態においては、その材料として、M2052合金が採用されている。M2052合金は、Mnを主成分とする合金であり、Mnの他、Cu,Ni,Feを含む。M2052合金は、双晶構造を有し、機械的なエネルギーを熱エネルギーに変換する作用を発揮する(特許文献3を参照)。当該材料は、液体ヘリウム又はヘリウムガスの温度において、具体的には4K~20Kにおいて、良好な制振性を発揮する。M2052合金は、左記の4K~20Kの温度範囲において、基本的に反強磁性を呈し、且つ、0.01以上の対数減衰率を発揮する。そのような材料で構成された2つの制振板86,88が基端部50に接合されている。
【0037】
なお、全体として見て反強磁性を有するM2052合金であっても、その材料は僅かに常磁性を有し、具体的には、その材料中の残留磁化が常磁性を呈する。よって、図2に示した第1実施例では、コイル54から隔てられた位置に、M2052合金からなる2つの制振板86,88が配置されている。具体的には、磁場中心(コイル中心)から20mm以上離間した位置に2つの制振板86,88が配置されている。
【0038】
制振部材を構成する材料として、M2052合金以外の材料を用いてもよい。例えば、極低温下において、反磁性又は反強磁性を呈し且つ0.01以上の対数減衰率を有する材料を用いて制振部材を構成してもよい。その場合、20×10-6 [emu/g/Oe]以下の残留磁化率を有する材料を用い得る。
【0039】
実施形態においては、後に説明するように、2つの制振板86,88及び基端部50からなる積層体が、その積層体を貫通する2つのねじによって、支持部材58に取り付けられている。2つのねじ及び支持部材58も、上記材料つまりM2052合金により構成されている。これにより、アコースティック・リンギング低減作用がより高められている。
【0040】
コイル54の両端は、ブロック本体46の表面上に形成された2つの電極層に電気的に接続されている。各電極層はメッキにより形成された銅の膜である。2つの電極層は、2つの銅箔(2つの銅リボン)及び2つのリード(2つの銅線)を介して、電気部品60,62等に接続されている。ブロック本体46の一方側及び他方側において、電極層及び銅箔を電気的且つ機械的に連結するために、クランプ56が設けられている。クランプ56は、挟持作用を発揮するものである。なお、コイル54の中心軸と検出モジュール24の中心軸は直交している。符号64は輻射シールドを示している。
【0041】
図3には、検出モジュール24及びその周辺が示されている。y方向が縦方向(長手方向、伸長方向)であり、x方向が横方向であり、z方向が厚み方向である。3つの方向は直交関係にある。
【0042】
検出モジュール24は、既に説明したように、縦方向に伸長したブロック本体46、ブロック本体46に形成されたコイル54、及び、2つの制振板86,88を有する。ブロック本体46は、極低温においても良好な熱伝導性を有する絶縁材料、具体的には、上記のとおり、サファイヤの単結晶で構成されている。
【0043】
ブロック本体46は、先端部48と基端部50とを有する。先端部48は、基端部50に比べて、厚み方向に肥大している。先端部48には、貫通孔としての開口52が形成され、その内面にソレノイド状のコイル54が形成されている。コイル54の中心軸は厚み方向に平行である。コイルの両端には、一対の電極層が接続されているが、図3においては、その内で一方の電極層70のみが示されている。
【0044】
基端部50は、板状の形態を有する。基端部50における2つの幅広の平面に2つの制振板86,88が密着状態で取り付けられている。各制振板86,88は、z方向から見て台形を有する。その形状は、他の部材との物理的な干渉を避けつつ、できるだけ広い接触面積となるように、工夫した結果として生じたものである。よって、その形状は一例に過ぎないものである。各制振板86,88を構成する材料は、上記のようにM2052合金である。その厚みは例えば0.5~2mmの範囲内であり、例えば、1mmである。各制振板86,88のx方向の大きさは、例えば、10mmであり、各制振板86,88のy方向の大きさ(最大値)は、例えば、15mmである。各数値はいずれも例示である。積層された複数の層からなる制振板が利用されもよい。
【0045】
制振板86、基端部50及び制振板88がz方向に積層され、これにより積層体が構成されている。積層体は、2つのねじ89,90により、支持部材58に固定されている。支持部材58は、図示の例では、傾斜部分58A及び水平部分58Bを有する。傾斜部分58Aの端面に積層体が固定されている。水平部分58Bは、図示されていない2つのねじにより、第1熱交換器の天井壁に固定される。支持部材58も、上記のように、M2052合金により構成される。ねじ89,90におけるねじ径は、およそ3mmである。ねじ89,90の長さは、およそ10~20mmの範囲内である。試料管の外径に応じて、検出モジュールにおける各数値を定められる。試料管の外径は例えば4mmである。
【0046】
ブロック本体46の表面と各制振板86,88の表面との間に生じる空隙を小さくし、それらの表面の密着度を高めるため、各表面の算術平均粗さRaを0.8未満とするのが望ましい。各表面の算術平均粗さRaを0.1未満とするのが特に望ましい。
【0047】
先端部48と基端部50との間は中間部である。もっとも、先端部48と基端部50とが連なっていると理解することも可能である。その場合、基端部50に中間部が包含される。図示の構成例では、先端部48は、z方向に肥大しており、先端部48のxy断面は多角形である。先端部48に連なっている板状の部分が中間部である。
【0048】
中間部には、クランプ56が取り付けられている。クランプ56は、第1クリップ部材72及び第2クリップ部材74を有し、また、それらを連結する2つのねじ76,78を有する。第1クリップ部材72及び第2クリップ部材74により、ブロック本体46の中間部が挟持されている。第1クリップ部材72及び第2クリップ部材74は、いずれも、非磁性の絶縁材料で構成される。2つのねじ76,78も、非磁性の絶縁材料で構成される。
【0049】
第1クリップ部材72及び第2クリップ部材74による中間部の挟持により、中間部の一方側において、電極層70と銅箔80とが物理的に結合する。中間部の反対側においても、電極層と銅箔82とが物理的に結合する。銅箔80には、銅からなるリード84が連結されている。銅箔82には、銅からなるリード85が連結されている。なお、図3においては、2つのリード84、85が部分的に描かれている。
【0050】
コイル54の送信動作後、コイル54等においてアコースティック・リンギングが生じる。それはブロック本体46を伝搬する。ブロック本体46を伝搬したアコースティック・リンギングは、ブロック本体46に密着する2つの制振板86,88において吸収される。つまり、アコースティック・リンギングが長い時間にわたって残留することが防止され、且つ、アコースティック・リンギングの振幅それ自体が抑圧される。その結果、送信直後に設けるべきタイムラグを短時間にすることが可能となる。タイムラグが短時間になれば、より多くの受信信号、特に送信直後に生じる受信信号を観測することが可能となる。
【0051】
ブロック本体46は、非常に硬い材料で構成され、しかもそれは極低温に冷却されている。検出モジュール24は、片持ち方式で支持されている。検出モジュール24において振動が生じ易く、しかも、生じた振動が外界に逃げ難い。2つのリード84,85は、柔軟性を有する銅箔80,82を介して、検出モジュール24に接しており、それらの部材は、有意な制振作用を発揮するものではない。
【0052】
実施形態に係る構成によれば、制振材料で構成された2つの制振板86,88により、検出モジュール24それ自体においてアコースティック・リンギングを抑圧することが可能である。2つのねじ89,90及び支持部材58も制振材料で構成されているので、アコースティック・リンギングをより効果的に抑圧でき、同時に、アコースティック・リンギングがプローブ下部部材へ伝達することも防止される。
【0053】
図4には、第1実施例に係る検出モジュール24が示されている。上述したクランプは図示されていない。検出モジュール24は、基端部50を有し、その基端部50は、相対的に見て幅の広い第1表面50a及び第2表面50bと、相対的に見て幅の狭い第3表面50c及び第4表面50dと、を有している。第1表面50a及び第2表面50bは、z方向に直交しており、第3表面50c及び第4表面50dは、x方向に直交している。実施形態においては、それらの表面の中で、第1表面50a及び第2表面50bに制振板86,88が設けられている。
【0054】
コイルの中心軸はz方向に平行であり、ブロック本体46においてz方向に直交する2つの表面(第1表面50a及び第2表面50bを含む2つの平面)に、2つの電極層が形成されている。かかる構成においては、z方向に直交する2つの表面においてアコースティック・リンギングが伝搬しやすいものと考えられる。それらの表面に対して制振板86,88を設けることにより、アコースティック・リンギングをより効果的に抑圧することが可能である。更に、第3表面50c及び第4表面50dに対して制振板を設けてもよく、下面に対して制振板を設けてもよい。
【0055】
図5には、第2実施例に係る検出モジュール92が示されている。検出モジュール92は、ブロック本体94を有する。ブロック本体94は、縦方向に連なる第1部分96及び第2部分98からなる。第1部分96は先端部に相当し、それは第1係合部100を有している。第2部分98は基端部及び中間部に相当し、それは第2係合部102を有している。第1係合部100と第2係合部102が係合し、係合部分としての連結部分が生じている。連結部分がクランプによって挟持される。図5においては、クランプにより囲まれる部分が破線103で示されている。
【0056】
図6には、第2実施例に係る検出モジュール92の断面が示されている。上記のように、第1部分96は第1係合部100を有し、第2部分98は第2係合部102を有する。具体的には、第1係合部100は、第1凸部とそれに隣接する第1段差とにより構成され、第2係合部102は、第2凸部とそれに隣接する第2段差とにより構成される。第1凸部が第2段差に嵌り込んでおり、第2凸部が第2段差に嵌り込んでいる。第1係合部100は、先端面104、側面106及び引っ込み面108を有する。第2係合部102は、先端面109、側面110及び引っ込み面112を有する。側面106と側面110とが密着している。熱伝導性を良好にするために、少なくとも側面106,110に対して、鏡面加工が施される。図示の構成例では、先端面104と引っ込み面112とが接合しており、引っ込み面108と先端面109とが接合している。それらの面に対して鏡面加工が施されてもよい。
【0057】
なお、W1は、側面106,110のy方向の幅を示している。W2は、クランプ作用が及ぶy方向の幅を示している。図示の構成例では、W1よりもW2の方が大きいが、それらを同じにしてもよく、あるいは、W1よりもW2の方を小さくしてもよい。
【0058】
第2実施例においては、ブロック本体が別体化された2つの部分により構成される。よって、コイルを備える第1部分96において生じるアコースティック・リンギングの周波数(共振周波数)が自然に高くなる。一般に、周波数が高くなればなるほど、時間の経過に伴う振動減衰量が大きくなる。片持ち方式の場合、共振周波数が低くなり、アコースティック・リンギングが残り易いが、第2実施例によれば、周波数操作により、アコースティック・リンギングの自然な減衰を促進できる。同時に、残留するアコースティック・リンギングが2つの制振板により抑圧される。
【0059】
図7には、第1変形例に係る検出モジュール114が示されている。ブロック本体116において、基端部120には2つの制振板122,124が接着材により接着されている。先端部118においては複数の表面が存在する。それらの全部又は一部に制振片群(制振板群)126が貼付されている。制振片群126は複数の制振片126a~126gからなる。個々の制振片126a~126gはそれぞれM2052合金により構成される。第1変形例を採用すると、冷却に伴う熱収縮により、制振片群126がブロック本体116から剥がれるおそれがある。そのような場合には、以下に説明する第2変形例を採用され得る。
【0060】
図8には、第2変形例に係る検出モジュール114Aが示されている。制振片群126の内で主な複数の制振片がクリップ128により押さえ込まれている。クリップ128は弾性作用により複数の制振片を先端部側へ押圧する作用を発揮するものである。クリップ128で覆われていない複数の制振片に対しても別のクリップ等により押圧作用を及ぼしてもよい。
【0061】
図7及び図8に示した第1変形例及び第2変形例は、制振部材が残留磁化を有しない場合において採用し得るものである。制振部材が無視し得ない常磁性を呈する場合、制振部材をコイルから隔てて配置した方がよい。例えば、既に説明したように、基端部に制振部材が配置される。
【0062】
続いて、図9図11を用いて実施形態の効果を説明する。図9には、3つの検出モジュール130,132,134が示されている。検出モジュール130は、制振部材を備えないものである。検出モジュール132は先端部に制振部材136を備えている。検出モジュール132は、先端部に制振部材136を備え、且つ、基端部に制振板138,140を備えている。
【0063】
図10には、実験結果が示されている。横軸は送信直後からの経過時間を示しており、それはアーチファクト信号の観測時間である。縦軸はアーチファクト信号の振幅を示している。アーチファクト信号はアコースティック・リンギングに相当する信号である。特性142は検出モジュール130に対応するものであり、特性144は検出モジュール132に対応するものであり、特性146は検出モジュール134に対応するものである。実験結果は、ブロック本体に対して制振部材をより多く設ける方がアコースティック・リンギングをより早期に抑圧できることを示している。図10には示されていないが、分割型ブロック本体に対して2つの制振板を設けた構成(図5に示す構成)によれば、特性146よりも、より良好な特性を得られることが確認されている。
【0064】
図11の上段には、制振部材を利用しない比較例に係る構成で生じるアコースティック・リンギング150が模式的に示されている。符号148は送信パルスを示している。比較例においては、比較的に長いデッドタイム152を設定する必要があり、その後に受信期間154が設けられる。
【0065】
図11の下段には、実施形態に係る構成で生じるアコースティック・リンギング156が示されている。制振部材の採用によりアコースティック・リンギング156が生じる期間を短くでき、その振幅も抑えられる。その結果、デッドタイム158を比較例に比べてかなり短くすることが可能である。つまり、受信期間160の開始時期をより早期に定めることが可能である。これにより、送信パルス直後の現象を観測することが可能となり、受信感度を向上できる。
【符号の説明】
【0066】
10 NMR測定システム、12 静磁場発生装置、14 NMR測定プローブ、16 冷却装置、18 循環装置、24 検出モジュール、28 試料管、46 ブロック本体、54 コイル、56 クランプ、58 支持部材、86 制振板、88 制振板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11