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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】楽譜又は楽器
(51)【国際特許分類】
   G10G 3/00 20060101AFI20230704BHJP
   G09B 15/02 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
G10G3/00
G09B15/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018028817
(22)【出願日】2018-02-21
(65)【公開番号】P2019144424
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-10-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】518061317
【氏名又は名称】特定非営利活動法人アジェンダやまがた
(74)【代理人】
【識別番号】100184767
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100137501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 百合子
(72)【発明者】
【氏名】児玉 千賀子
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】木方 庸輔
【審判官】渡辺 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-161429(JP,A)
【文献】特開昭49-105519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10G 1/00 - 3/04,
G09B 15/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音符に色を付けた楽譜であって、ドレミファソラシが、「赤、緑、橙、紫、黄、桃、青」、「橙、緑、赤、紫、黄、桃、青」、「赤、青、橙、紫、黄、桃、緑」、「橙、青、赤、紫、黄、桃、緑」のいずれか1に対応した、楽譜。
【請求項2】
各音名に色を対応させ、操作部と音名が1:1に対応し、該操作部に音名の色を配した楽器であって、ドレミファソラシが、「赤、緑、橙、紫、黄、桃、青」に対応した、操作部と音名が1:1に対応し、該操作部に音名の色を配した楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれの音に色を対応させた色付き楽譜、及びそれぞれの音に色を対応させた楽器に関する。さらに詳しくは、それぞれの音に対し従来と異なる色を対応させることで、よりわかりやすくした色付き楽譜、演奏しやすくした楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
知的障害、発達障害、精神障害、及び認知症などの老年障害等をもつ人に対し、音楽を聴いたり演奏したり歌唱したりすることで、心身の健康を回復したり向上させる音楽療法が広く行われている。音楽療法は音楽を演奏、歌唱する際に、楽譜を読んだり、楽器を演奏するが、知的障害児者等は集中することが苦手な場合も多く、より読みやすい楽譜や演奏しやすい楽器が求められている。
【0003】
楽譜を読む場合、ドレミファソラシドといった階名を使用して読むことになるが、この階名に色を対応させると、楽譜がわかりやすくなる。例えば、ドは赤、レは橙に対応させ、音符をその色に着色すれば、より視覚的に楽譜を捉えることができるようになり、楽譜がわかりやすくなる。楽器の場合、例えばピアノの鍵盤や木琴の音板を楽譜と同様に着色すれば、どの鍵盤や音板がどの階名に相当するか、視覚的に捉えることができるようになり、より簡単に楽曲を演奏できるようになる。
【0004】
ここで、音に色を対応させる方法は、階名を音階の順に並べたとき、すなわちドレミファソラシドと並べたときに、波長の近い色を隣に配するなどして徐々に色を変える、いわゆるグラデーション配色とか虹色配色とかいわれるものであることが多い(非特許文献1、2、3)。グラデーション配色でない場合も、それに準じたものか、少なくとも波長の近い色同士、例えば暖色同士を隣に配している。
【0005】
例えば、非特許文献1は、ドが赤、レが橙色、ミが黄色、ファが緑色、ソが青色、ラが紫色であり、ここまでは虹色配色で徐々に波長が短くなっており、シは赤と青を同時に見た桃色である。そして、1オクターブ上がってドの赤に戻っている。これは、桃色をどう考えるかの問題はあるが、少なくとも虹色配色に準じた配色であり、ドレミの部分は、暖色同士が隣り合っている。特許文献1は、音符の玉部分をドは赤色、シは橙色、ラは黄色、ソは緑色、ファは青色、ミは藍色、レは紫色としており、波長の最も長い赤色から、最も短い藍色まで、完全にグラデーション状に配置された虹色配色である。またドシラの部分は暖色同士が隣り合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-15640号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】横山真一郎の楽譜書庫、「online」、http://shin-itchiro.seesaa.net/article/205676012.html
【文献】たなかすみこ、「いろおんぷばいえる上巻」第5頁、株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント、2006年
【文献】遠藤 蓉子、「たのしいレッスンのために キッズ・ピアノ5」第5頁、株式会社サーベル、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、色付き音符の楽譜や色付き鍵盤の楽器などにおいて、階名に対応させる色を工夫し、より読みやすい楽譜、演奏しやすい楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために種々検討の結果、驚くべきことに、階名を音階の順にならべたとき従来のように波長の長いものから短いものまでグラデーション状に配色するよりも、暖色と、中間色・寒色を交互に並べるなど、波長の近い色は隣に並べないことで、より楽譜が読みやすく、楽器が演奏しやすくなることを見出し、本発明に到達した、すなわち本発明は以下の通りである。
【0010】
1.各階名に色を対応させた楽譜、又は操作部と階名が1:1に対応し、該操作部に階名の色を配した楽器であって、階名に対応する色を音階の順に並べた場合に、暖色を含み、かつ、寒色、中性色のいずれか又は両方を含み、かつ、暖色同士が連続せず、かつ、異なる階名にはそれぞれ異なる色を配した、楽譜又は操作部と階名が1:1に対応し、該操作部に階名の色を配した楽器。
2.各階名に色を対応させた楽譜、又は操作部と階名が1:1に対応し、該操作部に階名の色を配した楽器であって、階名に対応する色を音階の順に並べた場合に、暖色、第一中性色、寒色、第二中性色の全てを含み、かつ、暖色同士、第一中性色同士、寒色同士、第二中性色同士が連続せず、かつ、異なる階名にはそれぞれ異なる色を配した、楽譜又は操作部と階名が1:1に対応し、該操作部に階名の色を配した楽器。
3.各階名に色を対応させた楽譜、又は操作部と階名が1:1に対応し、該操作部に階名の色を配した楽器であって、ドレミファソラシが、「赤、緑、橙、紫、黄、桃、青」、「橙、緑、赤、紫、黄、桃、青」、「赤、青、橙、紫、黄、桃、緑」、「橙、青、赤、紫、黄、桃、緑」のいずれか1に対応した、楽譜又は操作部と階名が1:1に対応し、該操作部に階名の色を配した楽器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に、知的障害、発達障害、精神障害、及び認知症などの老年障害等をもつ人に対し、読みやすい楽譜、演奏しやすい楽器を提供することができる。さらに、ひとつのことに集中することが苦手なひとが、読みやすい楽譜、演奏しやすい楽器を使うことで、より早く読譜でき、より正確に楽器を演奏できるようになるので、音楽の上達が早まり、その結果上達の度合いが評価しやすくなることもあり、効果的に音楽療法を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ト音記号の楽譜6種類を示した(1~6)。この楽譜の符頭(タマ)をそれぞれの色で塗りつぶしたものを試験に使用する。
図2】へ音記号の楽譜6種類を示した(1~6)。この楽譜の符頭(タマ)をそれぞれの色で塗りつぶしたものを試験に使用する。
図3】ト音記号の楽譜を使用したときの、ピアノ鍵盤の正打鍵数の平均を、比較例A、実験例B、比較例Cの間で比較した結果を示した(a)。また正打鍵数から正打鍵率を計算した結果も示した(b)。
図4】ト音記号の楽譜を使用したときの、ピアノの演奏開始から終了までの読譜時間の平均を、比較例A、実験例B、比較例Cの間で比較した結果を示した。
図5】ヘ音記号の楽譜を使用したときの、ピアノ鍵盤の正打鍵数の平均を、比較例A、実験例B、比較例Cの間で比較した結果を示した。
図6】ヘ音記号の楽譜を使用したときの、ピアノの演奏開始から終了までの読譜時間の平均を、比較例A、実験例B、比較例Cの間で比較した結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の階名は、移動ド唱法で楽譜を読んだときの階名でもよいし、固定ド唱法で楽譜を読んだときの階名でもよいが、固定ド唱法で楽譜を読んだときの階名であればより好ましい。固定ド唱法で楽譜を読むことは、音名で楽譜を読むことと同じで、この場合「階名」は「音名」に置き換えることができる。
本発明の楽譜には例えばト音記号、ヘ音記号、ハ音記号の楽譜が含まれる。階名に色を対応させた楽譜とは、音符に色を付けた楽譜である。音符は、符尾(はた)、符幹(ぼう)、符頭(たま)のいずれか1又は2以上を着色するが、少なくとも符頭(たま)を着色するのが好ましい。符頭(たま)の着色方法は、全音符や2分音符の場合は輪郭線を着色し、4分音符、8分音符、16分音符の場合は、符頭(たま)を塗りつぶす。塗りつぶす方法は、ベタ塗りでもよいし、複数の線例えば斜線を引いてもよいが、ベタ塗りがより好ましい。さらに、ペンを使用する場合に限らず、符頭(たま)に色付きシールを貼ってもよい。
加えて、色音符に階名を表示してもよい。例えば、音符の下や、輪郭線を着色する場合は符頭(たま)の中に、階名を表示してもよい。
【0014】
操作部と階名が1:1に対応した楽器とは、ひとつひとつの鍵盤や音板と各階名が1:1に対応した楽器で、例えばピアノ、鍵盤ハーモニカなどの鍵盤楽器、木琴、鉄琴などの音程が明確な打楽器が挙げられる。操作部に階名の色を配するとは、鍵盤や音板のひとつひとつに、対応する階名の色をそれぞれ付すことである。例えば、ドの鍵盤に赤色を付し、レの鍵盤に緑色を付す。色の付し方は、色付きシールを貼ってもよいし、鍵盤や音板自体を着色してもよい。
【0015】
色は光の波長の違いによって、赤から紫まで連続的に変化するが、これを円環上に配したものを色相環という。暖色、寒色、中性色は、この色相環の1つであるマンセル色相環を用いて示すと、暖色は赤(R)~橙(RY)~黄色(Y)の範囲、中性色は黄緑(GY)~緑(G)の範囲、寒色は青緑(BG)~青(B)~青紫(PB)の範囲、再び中性色は紫(P)~赤紫(RP)の範囲である。なお、便宜的に、上記、最初に出てくる黄緑(GY)~緑(Y)の範囲の中性色を第一中性色、再び出てくる紫(P)~赤紫(RP)の範囲の中性色を第二中性色とする。また、桃色は、赤色と青色を同時に見たときの色であり、少なくとも暖色には属さない。
本願発明は、暖色同士が連続しないが、例えば、ドレミファソラシを赤、緑、橙、紫、黄、桃、青に対応させれば、暖色の赤、橙、黄はとびとびに配されるので暖色が連続しないこととなる。
また、波長の近い、第一中性色同士、寒色同士、第二中性色同士も連続しないことがより好ましい。
さらに、暖色のみを取り出した際に、色の変化が連続的であることがより好ましい。前述の例では、暖色を取り出すと、赤、橙、黄となり、だんだん波長が短くなるように色の変化が連続している。
具体的な配色の例としては、例えば、ドレミファソラシを「赤、緑、橙、紫、黄、桃、青」、「橙、緑、赤、紫、黄、桃、青」、「赤、青、橙、紫、黄、桃、緑」、「橙、青、赤、紫、黄、桃、緑」とすることが挙げられる。
【0016】
異なる階名にはそれぞれ異なる色を配する。例えば、ドレミファソラシを「赤、緑、橙、紫、黄、桃、青」に対応させれば、重複する色はない
オクターブ異なる階名にも同じ色を配するのがより好ましいが、全く同じ色でなく、やや濃い、やや薄い、ごく少量他の色を混ぜるなど、オクターブ異なる階名が区別できる配色であればさらに好ましい。やや濃い、やや薄い、ごく少量他の色を混ぜるなど色がずれる方向は、オクターブ異なるドレミファソラシで統一すれば特に好ましい。例えば、ドレミファソラシを「赤、緑、橙、紫、黄、桃、青」に対応させた場合、1オクターブ上の階名は例えば、「やや濃い赤、やや濃い緑、・・・、やや濃い青」とやや濃い方向へ統一してもよい。
【0017】
本発明の楽譜、楽器の使い方としては、本発明の楽譜を見て、本発明の楽器を演奏したり、楽譜のみを見て歌唱したり、色のついていない通常の楽譜を見て、本発明の楽器を演奏したりすることがある。
【実施例
【0018】
知的障害児に、本発明の色付き音符の楽譜を見せて本発明の色付き鍵盤のピアノで音をだしてもらい、16音符のうち正しく打鍵できた数(以下、正打鍵数)、16音符の演奏開始から終了までの所要時間(以下、読譜時間)を調べ、虹色配列の楽譜、楽器や色を付さない楽譜、楽器の比較例と比べた。
【0019】
1.試験機材の準備
ト音記号について、6種類の楽譜(図1 1~6)を3セット用意した。1セット目は符頭(たま)を虹色配色(ドレミファソラシド:赤橙黄緑青紫桃)で塗りつぶしたもの(A1~A6、比較例A)、2セット目は本発明の配色(ドレミファソラシド:赤緑橙紫黄桃青)でぬりつぶしたもの(B1~B6、実験例B)、3セット目は塗りつぶさず図1のまま白いもの(C1~C6、比較例C)である。
ピアノは、比較例A、実験例Bでは、その鍵盤に対応する色のシールを貼り、比較例Cでは、鍵盤に階名を書いた付箋を貼った。
へ音記号についても6種類の楽譜(図2)を3セット準備した(ト音記号のA1~A6比較例A、B1~B6実験例B、C1~C6比較例C)。また、ピアノの鍵盤も同様に準備した。
【0020】
2.試験方法
48名の被験者に、楽譜を見せて、ピアノで音をだしてもらい、正打鍵数、読譜時間を測定した。ト音記号の楽譜は準備した6種類×3セットを使用し、比較例Aは6枚(A1~A6)、実験例Bは6枚(B1~B6)、比較例Cは6枚(C1~C6)を見せて、被験者にピアノの音を出してもらい、正打鍵数、読譜時間を測定した。そして、比較例A、実験例B、比較例C、それぞれ6回×48名の、正打鍵数、読譜時間の平均をとり、これを比較した。
ヘ音記号の楽譜についても同様に試験を行い、ヘ音記号の比較例A、実験例B、比較例Cそれぞれの正打鍵数、読譜時間を測定、平均を計算し、これを比較した。正打鍵率は、正打鍵数を楽譜の音符総数16で割って100をかけたものである。
【0021】
3.結果
図3にト音記号の正打鍵数の平均値(a)と正打鍵率の平均値(b)を、図4に読譜時間の平均値を示した。図5にヘ音記号の正打鍵数の平均値、図6に読譜時間の平均値を示した。
結果は、正打鍵数は、ト音記号では、実験例B 15.6に対し比較例A 15.3でわずかではあるものの、向上した(図3)。読譜時間は、実験例B 19.7秒に対し、比較例A 22.6秒であり、大幅に短縮できた(図4)。ヘ音記号の結果も同様に正打鍵数はわずかに向上し(図5)、読譜時間は大幅に短縮できた(図6)。
集中することが苦手な人にとって、正しく打鍵することと、演奏開始から終了までの所要時間を短くすることでは、後者がより重要と思われるので、読譜時間を大幅に短縮できたことは好ましい結果と考えられる。
【0022】
またこの結果は、単に、楽譜と同じ色の鍵盤であれば目で追いやすいということでなく、その音のセット(例えばドレミファソラシ)と色のセット(例えば、赤、緑、橙、紫、黄、桃、青)を本発明のように対応させれば、各音と各色(例えばドの音と赤)が被験者の中で結びつきやすくなって、楽譜が読みやすく、楽器が演奏しやすくなっていると考えられる。単に目で追いやすいのではないと考えるのは、本発明をいろいろな並びの楽譜で評価したので、楽譜上で波長の近い暖色同士が連続することも、寒色・中間色が連続することもあるが、それでも、平均すると本発明の実験例は、比較例より好ましい結果が得られているからである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の楽譜、楽器によれば、知的障害、発達障害、精神障害、及び認知症などの老年障害等をもつ人にとって、より読みやすい楽譜、演奏しやすい楽器を提供できるので、音楽の上達が早くなり、その結果上達の度合いも評価しやすくなることもあって、音楽療法を行うのに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6