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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】鉛筆トップコート用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   B43K 19/00 20060101AFI20230704BHJP
   C09D 101/18 20060101ALI20230704BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230704BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
B43K19/00 B
C09D101/18
C09D7/61
C09D4/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019135698
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021017534
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】山元 さつき
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06837637(US,B1)
【文献】特表2002-544012(JP,A)
【文献】特開2005-111740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B43K 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛筆軸表面全体に亘ってトップコート層を形成するための鉛筆トップコート用塗料組成物であって、
無機粒子を含有する、ニトロセルロースラッカー又は光硬化性樹脂組成物からなり、
前記無機粒子は、粒子径が1~30μmであり、乾燥重量比で8~50重量%含有される、鉛筆トップコート用塗料組成物。
【請求項2】
前記無機粒子は、粒子径が5~25μmの炭酸マグネシウムである、請求項1に記載の鉛筆トップコート用塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉛筆トップコート用塗料組成物により鉛筆軸表面全体に亘って形成されたトップコート層を有する鉛筆。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の鉛筆トップコート用塗料組成物を、しごき塗装法又はオフセット印刷法により鉛筆軸表面全体に亘って塗装する塗装工程を含む、鉛筆の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の鉛筆トップコート用塗料組成物により鉛筆軸表面全体に亘ってトップコート層を形成する、鉛筆軸表面の滑り抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛筆トップコート用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛筆等の筆記具の表面に、滑り止めを目的とした加工を行う技術が知られている。例えば、筆記具表面に凹凸を設け、あるいはラバー様の触感を有する被覆を施す技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、表面に微細な凹凸塗膜を形成した乾漆調鉛筆として、アミド系ポリマーやアクリル系ポリマー等によるポリマー粒子を含む塗料を塗布して、鉛筆軸表面に凹凸を有する塗膜を形成する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ラバー様の触感を発現する塗膜を軸表面に有する鉛筆として、水性アクリルシリコンエマルジョン樹脂を含有する層の外層に溶剤型ポリウレタン樹脂を含有する層を備えた鉛筆に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-111740号公報
【文献】特許第4753372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、ポリマー粒子により鉛筆軸表面に凹凸を作成するものであるが、鉛筆を把持した際のグリップ感として十分なものが得られない問題がある。また、塗膜の硬化に長時間を要するため生産性が低い問題がある。
【0007】
特許文献2に開示された技術は、ラバー様の鉛筆軸表面を有するため、表面がべた付くことで埃や汚れが付着し、外観見栄えが悪化する問題がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、滑りにくく、かつべた付きが少なく、短時間でトップコート層を形成できる鉛筆トップコート用塗料組成物、上記鉛筆トップコート用塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆、及び上記鉛筆トップコート用塗料組成物を鉛筆軸に塗装する塗装工程を含む鉛筆の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無機粒子を含有する、ニトロセルロースラッカー又は光硬化性樹脂組成物からなり、前記無機粒子は、粒子径が1~30μmであり、乾燥重量比で8~50重量%含有される、鉛筆トップコート用塗料組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、前記鉛筆トップコート用塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆に関する。
【0011】
また、本発明は、前記鉛筆トップコート用塗料組成物を、しごき塗装法又はオフセット印刷法により鉛筆軸表面に塗装する塗装工程を含む、鉛筆の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、前記鉛筆トップコート用塗料組成物により鉛筆軸表面にトップコート層を形成する、鉛筆軸表面の滑り抑制方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、滑りにくく、かつべた付きが少なく、短時間でトップコート層を形成できる鉛筆トップコート用塗料組成物、上記鉛筆トップコート用塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆、及び上記鉛筆トップコート用塗料組成物を鉛筆軸表面に塗装する塗装工程を含む鉛筆の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<鉛筆トップコート用塗料組成物>
本実施形態に係る鉛筆トップコート用塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」と記載する場合がある)は、鉛筆軸のトップコートとして塗装される塗料組成物である。具体的には、製軸された鉛筆の木軸に対して、シーラー等の目止剤により下地処理を施し、用途に応じて中塗りや印刷等を行ったのち、鉛筆軸の最表面に塗装される塗料組成物である。上記塗装後、乾燥又は紫外線等の光照射が行われ、乾燥塗膜又は硬化膜としてのトップコート層が鉛筆軸表面に形成される。
【0016】
本実施形態に係る鉛筆トップコート用塗料組成物は、無機粒子を含有する、ニトロセルロースラッカー又は光硬化性樹脂組成物からなる。
【0017】
[ニトロセルロースラッカー]
ニトロセルロースラッカーは、揮発性の高い溶媒にニトロセルロースを希釈し、用途に応じてアルキド樹脂、アクリル樹脂、可塑剤等を加えて調製された塗料である。
上記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン類、2-エトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等のタール類が挙げられる。上記溶媒は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
なお、ニトロセルロースラッカーは、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を更に含有していてもよい。例えば、ニトロセルロースラッカーは、揺変剤、消泡剤、分散剤、着色剤等を含有していてもよい。
ニトロセルロースラッカーは塗装後、数十秒~数分で溶媒が揮発し、塗装表面に乾燥塗膜が形成される。
【0018】
[光硬化性樹脂組成物]
光硬化性樹脂組成物は、光反応性成分と、光重合開始剤と、を含む。
光反応性成分は、光で反応する置換基、例えば(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基等のエチレン性不飽和結合を含む置換基を有する成分である。
このような光反応性成分として、分子内にアクリロイル基又はメタクリロイル基のうち少なくともいずれか一方を含む、光重合性(メタ)アクリレートモノマーと、光重合性ポリ(メタ)アクリレートとを含む光硬化性樹脂組成物を例に挙げて、以下説明する。
【0019】
(光重合性(メタ)アクリレートモノマー)
光重合性(メタ)アクリレートモノマーは、調製される光硬化性樹脂組成物の反応性、塗工性等を付与するための反応性希釈剤として用いられる。光重合性(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーや、鎖状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー、脂環基を有する(メタ)アクリレートモノマー、芳香族基を有する(メタ)アクリレートモノマー、ヘテロ環基を有する(メタ)アクリレートモノマー等を適宜選定して用いることができる。
光重合性(メタ)アクリレートモノマーは、分子内に一つのアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する単官能モノマーであってもよいし、複数のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する多官能モノマーであってもよい。
【0020】
(光重合性ポリ(メタ)アクリレート)
光重合性ポリ(メタ)アクリレートは、共役ジエン系等の重合体の末端や側鎖にアクリロイル基又はメタクリロイル基が結合した重合体であって、例えば数平均分子量が1000~10000程度のアクリレートオリゴマー(プレポリマー)である。
このようなアクリレートオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーやエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー等を適宜選定して用いることができる。また、光重合性(メタ)アクリレートモノマーと同様、官能基数は特に制限されない。
【0021】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、紫外線等の光が照射されることによって、ラジカル等の活性種を生成し、光反応性成分の共重合反応を開始させる機能を有する。
光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チオキサントン系、フォスフィンオキサイド系等の光重合開始剤を用いることができる。
【0022】
光硬化性樹脂組成物は、上述の光重合性(メタ)アクリレートモノマー、光重合性ポリ(メタ)アクリレートから好適なものを選択し、光重合開始剤を配合して均一化することで調製できる。光重合性(メタ)アクリレートモノマー、光重合性ポリ(メタ)アクリレートとしては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
光硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分を更に含有していてもよい。例えば、酸化防止剤や、光安定剤、硬化促進剤、重合禁止剤、カップリング剤、着色剤、消泡剤等を含有していてもよい。なお、オフセット印刷法を用いて塗装する場合、溶剤を含有しないことが好ましい。
【0023】
光硬化性樹脂組成物は、後述する無機粒子と混合されて、塗料組成物として調製されたのち、鉛筆軸に塗装され、紫外光等の光が照射されて、鉛筆軸表面に硬化膜が形成される。
【0024】
光硬化性樹脂組成物と、後述する無機粒子とを混合して調製される塗料組成物は、オフセット印刷法に適する粘度に調整して用いることが好ましい。上記粘度の調整は、塗料組成物に対して、適宜好適な粘度を有する上述の光重合性(メタ)アクリレートモノマーや光重合性ポリ(メタ)アクリレートやその他の光反応性成分、あるいは、光硬化性樹脂組成物を任意の割合で配合して均一化することで行うことができる。
【0025】
光硬化性樹脂組成物と、後述する無機粒子とを混合して調製される塗料組成物は、オフセット印刷法に用いられる硬化条件において、硬化膜表面がべた付かない程度に、ほぼ完全に硬化することが好ましい。例えば、積算光量300~700mJ/cm、照射時間数秒~数十秒、硬化膜厚数μm、炉内温度50~150℃といった条件で、ほぼ完全に硬化することが好ましい。なお、紫外線照射装置は塗料組成物の硬化に適したものを適宜選定できる。
【0026】
[無機粒子]
無機粒子は、塗料組成物により形成されるトップコート層に凸部を形成し、表面を滑りにくくする機能を付与する、無機材料からなる粒子である。無機粒子は、粒子径が1~30μmであり、塗料組成物中に乾燥重量比で8~50重量%含まれる。
なお、本明細書中において、「乾燥重量比」とは、無機粒子を含有するニトロセルロースラッカーからなる塗料組成物においては、乾燥塗膜中の重量比を意味する。また、無機粒子を含有する光硬化性樹脂組成物からなる塗料組成物においては、硬化膜中の重量比を意味する。
無機粒子の粒子径及び含有量を上記範囲とすることで、塗料組成物により形成されるトップコート層表面を滑りにくくする効果が好適に得られる。
なお、本実施形態において、無機粒子の粒子径は、塗料組成物中においてはレーザー回折/散乱法により測定される粒度分布の中央値に対応するD50メジアン径として得られ、トップコート層中においては電子顕微鏡等により無機粒子の一定方向の径を代表径として測定し、任意に30個測定した数値を平均することで算出できる。
【0027】
無機粒子の粒子径が1μm未満である場合、形成されるトップコート層の滑りにくさが得られず、30μm超である場合、指触が悪化する。上記観点から、無機粒子の粒子径は5~25μmであることが好ましく、10~20μmであることがより好ましい。
【0028】
また、無機粒子の含有量を8重量%未満とした場合、形成されるトップコート層の滑りにくさが十分に得られず、50重量%超とした場合、塗料組成物の粘度等を好ましい範囲に調整することが困難になる。上記観点から、無機粒子の含有量を10~45重量%とすることが好ましく、15~35重量%とすることがより好ましい。
【0029】
無機粒子の種類は、特に制限されないが、例えば、以下の表1に示すように、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、タルク、酸化チタン、炭化珪素等が挙げられる。これらは、天然に存在するものを用いてもよいし、人工的に合成された合成品を用いてもよい。
【0030】
【表1】
【0031】
無機粒子は、屈折率が1.4~1.8程度であることが好ましい。無機粒子の屈折率を上記範囲とすることで、ニトロセルロースや光硬化性樹脂組成物により形成される乾燥塗膜又は硬化膜の屈折率と無機粒子の屈折率が近似する結果、塗料組成物により形成されるトップコート層の透明性を確保できる。これにより、トップコート層の下層に印刷層を形成する場合においても、印刷層のデザイン性や視認性等が損なわれることがない。
【0032】
無機粒子は、モース硬度が4以下であることが好ましい。例えば、オフセット印刷機を用いて塗料組成物の塗装を行う場合に、オフセット印刷機に用いられるローラーには鉄製の部材が用いられるが、鉄のモース硬度は4~5程度であるため、設備保全の観点から、無機粒子のモース硬度を上記範囲とすることが好ましい。
【0033】
上記説明した塗料組成物は、ニトロセルロースラッカー又は光硬化性樹脂組成物と無機粒子を配合して混合し、均一化することにより得られる。なお、無機粒子が塗料組成物中で沈降し分離することを防止するため、塗装の直前に上記配合等を行うことが好ましい。
【0034】
<鉛筆の製造方法>
上記塗料組成物を用いた鉛筆の製造方法は、下地処理工程と、必要により中塗り工程及び/又は印刷工程と、上記塗料組成物を鉛筆軸表面に塗装する塗装工程と、を含む。その後、乾燥又は紫外線等の光照射を行い、鉛筆軸表面にトップコート層を形成する。
下地処理工程は、製軸した木材又は合成木材製の鉛筆軸の表面を、目止剤で塗装して平滑にする工程である。目止剤としては、特に制限されず、従来のシーラーや水性目止剤等を適宜用いることができる。塗装方法としても、しごき塗装法等の従来通りの方法を用いることができる。
【0035】
中塗り工程は、下地処理後の鉛筆軸表面をさらに塗装してより平滑にする工程であり、ここで色彩を施してもよい。中塗り用塗料としては、特に制限されず、従来公知のエナメル塗料やクリア塗料等を適宜用いることができる。塗装方法もしごき塗装法等の従来通りの方法を用いることができる。
印刷工程は、鉛筆の用途に応じて鉛筆軸表面に絵柄や文字等を印刷する工程である。印刷方法としては特に制限されないが、例えばドライオフセット印刷法によりゴム版に各色のUVインキを載せ、ブランケットに転写し、鉛筆を回転させながら鉛筆軸の周面にブランケットを押し付けて印刷し、紫外線を照射して印刷されたUVインキを硬化させる方法が挙げられる。
【0036】
(塗装工程)
塗装工程は、上記下地処理がされ、必要に応じて中塗りや印刷がされた鉛筆軸表面に、上記塗料組成物を用いて塗装を行う工程である。本実施形態において、樹脂成分としてニトロセルロースラッカーが含まれる上記塗料組成物を用いて塗装を行う場合、しごき塗装法により塗装を行うことが好ましい。また、樹脂成分として光硬化性樹脂組成物が含まれる上記塗料組成物を用いて塗装を行う場合、オフセット印刷法により塗装を行うことが好ましい。
【0037】
しごき塗装法は、鉛筆を塗料の入った容器内に通し、容器を通過した鉛筆軸の周囲に付着した余剰の塗料をしごきゴムダイスにより除去する塗装方法である。しごき塗装法により、毎分250~300本程度の速度で塗装を行うことができる。また、樹脂成分としてニトロセルロースラッカーが含まれる塗料組成物を用いた場合、例えば60℃程度で20秒~30秒程度の乾燥条件で乾燥塗膜を形成できる。
【0038】
オフセット印刷法は、前述の印刷工程における方法と同様のドライオフセット印刷法であり、例えば樹脂成分として光硬化性樹脂組成物が含まれる塗料組成物をブランケットに転写し、鉛筆を回転させながら鉛筆軸の表面にブランケットを押し付けて塗料組成物を塗装する方法であり、その後紫外線を照射して硬化膜を形成できる。ドライオフセット印刷法においても、通常は数秒~数十秒で硬化膜を形成できる。
【0039】
上記しごき塗装法又はオフセット印刷法による塗装方法は、いずれも短時間で鉛筆軸表面に乾燥塗膜又は硬化膜としてのトップコート層を形成できる。そのため、短時間でトップコート層を形成できると共に、塗装された塗料のレベリングが発生する前にトップコート層を形成でき、表面に好ましい凸部が形成されたトップコート層を形成できると考えられる。
【0040】
上記鉛筆の製造方法により製造される鉛筆軸表面には、目止剤により形成された下地処理層、必要により中塗り層及び/又は絵柄や文字等が印刷された印刷層、上記塗料組成物により形成されたトップコート層からなる2層以上の層が形成される。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
表2に示した配合量で、樹脂成分及び粒子成分を配合し、実施例1~16、比較例1~8の塗料組成物を得た。なお、表2中に示す「重量%」とは、各塗料組成物により形成される乾燥塗膜又は硬化膜中の重量%を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2中の各樹脂成分として、以下の原料を使用した。
・エポキシ(エポキシ樹脂):シンクロコート#5000、#30 (アイレジン社製)
(配合比[シンクロコート#5000:#30]=[68.2:20.5])
・アクリルウレタン(アクリルウレタン樹脂):A-9クリヤー、A-9 (アイレジン社製)
(配合比[A-9クリヤー:A-9]=[60.4:30.2])
・スクリーン印刷用インク(オレフィン系塗料):POP’N (永瀬スクリーン印刷研究所社製)
【0046】
次に、上記実施例1~16及び比較例1~8の塗料組成物を用いて、それぞれ以下に示す方法で鉛筆軸への塗装及び乾燥(硬化)を行い、評価用のサンプルを作成した。
【0047】
[下地処理及び中塗り]
木材(樹種:インセンスシダー)製、六角軸(軸径約8mm、長さ約180mm)の鉛筆軸表面にシーラーをしごき塗装法により塗装し、乾燥して下地処理層を形成した上に、エナメル塗料及びクリア塗料をしごき塗装法により順次塗装・乾燥して中塗り層を形成した。
[塗装方法]
(実施例1~6、比較例1~4)
上記実施例及び比較例の塗料組成物を、上記下地処理及び中塗り層を形成した鉛筆軸表面にしごき塗装法により塗装してサンプルを作成した。鉛筆を各塗料組成物の入った容器内に通し、容器を通過した鉛筆軸の周囲に付着した余剰の塗料を鉛筆軸形状にあわせたしごきゴムにより除去して、毎分250~300本程度の速度で塗装を行った。
(実施例7~16、比較例5~8)
上記実施例及び比較例の塗料組成物を、上記下地処理及び中塗り層を形成した鉛筆軸表面にオフセット印刷法により塗装した。具体的には、鉛筆軸表面全部を覆うベタ版を使用して塗料組成物を塗装した。
【0048】
[乾燥(硬化)方法]
(実施例1、3~16、比較例4~8)
上記実施例及び比較例の塗料が塗装されたサンプルに対し、UVを照射して表面を硬化させた。UV照射条件は積算光量530mJ/cm、炉内温度100℃とした。
(実施例2、比較例1~3)
上記実施例及び比較例の塗料が塗装されたサンプルを、以下の条件で乾燥させた。
・実施例2:20℃、90秒
・比較例1:20℃、22時間
・比較例2:20℃、5時間
・比較例3:20℃、24時間
【0049】
上記実施例及び比較例の塗料組成物によりトップコート層を形成したサンプルを、1日以上養生したのち指触し、以下の基準によりそれぞれ評価を行った。結果を表3に示す。
【0050】
《滑りにくさ》
鉛筆軸を指触した際の滑りにくさについて、以下の基準により5段階の評価を行い、最も優れたものを「5」とし、「3」以上の評価を合格と判定した。
5:握るとしっかりしたグリップ感あり
4:握るとある程度のグリップ感あり
3:握るとややグリップ感あり
2:握ってもほとんどグリップ感なし
1:握っても滑り、グリップ感全くなし
【0051】
《サラサラ感》
鉛筆軸を指触した際のサラサラ感について、以下の基準により5段階の評価を行い、最も優れたものを「5」とし、「3」以上の評価を合格と判定した。
5:サラサラとした感触
4:ややサラサラとした感触
3:どちらともいえない感触
2:ややベタベタとした感触
1:ベタベタとした感触
【0052】
《凹凸感》
鉛筆軸を指触した際の凹凸感について、以下の基準により5段階の評価を行い、最も優れたものを「3」とし、「2」「3」「4」を合格と判定した。
5:ごつごつとして、凹凸感が強すぎる
4:かなり凹凸感が感じられる
3:適度に凹凸感が感じられる
2:少し凹凸感が感じられる
1:ツルツルとして、凹凸感が感じられない
【0053】
実施例及び比較例の塗料組成物の塗工性及び、形成されたトップコート層の透明性について以下の基準により評価を行った。結果を表3に示す。
《透明性》
トップコート層の透明性について、目視観察し、トップコート層の下の層(中塗り層)の色彩が見えやすいものを〇、見えにくいものを×、と評価した。
《塗工性》
塗工性について、乾燥時間、ポットライフ、トップコート層のべた付き等の観点から良好であるものを〇、不適であるものを×、と評価した。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示す通り、無機粒子を含有する実施例1~16の塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆は、無機粒子を含有しない比較例5、6の塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆と比較して、凹凸感が感じられ滑りにくい指触が得られることが確認された。
【0056】
表3に示す通り、無機粒子を含有する、ニトロセルロースラッカー又は光硬化性樹脂組成物からなる実施例1~16の塗料組成物は、ニトロセルロースラッカー又は光硬化性樹脂組成物を含有しない比較例1~3の塗料組成物と比較して、塗工性に優れることが確認された。またべた付きが少ないトップコート層を形成できることが確認された。
【0057】
表3に示す通り、粒子径が1~30μmの無機粒子を含有する実施例1~16の塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆は、粒子径が上記範囲外である比較例4の塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆と比較して、凹凸感が感じられ滑りにくい指触が得られることが確認された。
【0058】
表3に示す通り、無機粒子が乾燥重量比で8~50重量%含有される実施例1~16の塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆は、無機粒子の含有量が上記範囲外である比較例7、8の塗料組成物により形成されたトップコート層を有する鉛筆と比較して、滑りにくい指触が得られることが確認された。