(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】プライマー及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20230704BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230704BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20230704BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20230704BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020534651
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029753
(87)【国際公開番号】W WO2020027096
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018146892
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真吾
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-000198(JP,A)
【文献】特表2016-536981(JP,A)
【文献】BMC Biotechnol.,2013年,vol.13, No.7,p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6876
C12Q 1/6844
C12M 1/00
C12M 1/34
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の領域と第2の領域からなるプライマーであって、
前記プライマーは、対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在を検出する方法において用いるためのものであり、
5’側に前記第1の領域が位置しており、3’側に前記第2の領域が位置しており、
前記第1の領域は、対象RNAと相補的でない塩基配列からなり、
前記第2の領域は、前記対象RNAに相補的な塩基配列からなり、
前記第2の領域の配列の塩基数は、6塩基~12塩基であり、
前記第2の領域の配列は、G又はCの塩基を20~70%含み、
前記第2の領域の融解温度は20~50℃であ
り、
前記第1の領域と前記第2の領域の塩基数の合計は、20塩基~50塩基であり、
前記プライマーの全体の融解温度は、45~80℃であり、
前記対象RNAの存在を検出する方法は、
対象RNA及びDNAを含む試料に前記プライマー及び逆転写酵素を添加することと、
前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、
逆転写反応を行いcDNAを合成することと、
前記cDNAを鋳型として、前記プライマーからなるアンチセンスプライマー及び前記cDNAにハイブリダイズするセンスプライマーを用いた核酸増幅反応を行うことと、
前記核酸増幅反応による核酸の増幅を検出することと、を含み、
前記核酸増幅反応は、前記第2の領域の融解温度よりも高い温度で行われるものである、プライマー。
【請求項2】
配列番号10~13のいずれかに記載された配列からなる、請求項1に記載のプライマー。
【請求項3】
対象RNA及びDNAを含む試料に請求項1
又は2に記載のプライマー及び逆転写酵素を添加することと、
前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、
逆転写反応を行いcDNAを合成することと、を含み、
前記cDNAは、前記対象RNAのみを鋳型としたcDNAである、cDNAの製造方法。
【請求項4】
対象RNA及びDNAを含む試料に請求項1
又は2に記載のプライマー及び逆転写酵素を添加することと、
前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、
逆転写反応を行いcDNAを合成することと、
前記cDNAを鋳型として、請求項1に記載のプライマーからなるアンチセンスプライマー及び前記cDNAにハイブリダイズするセンスプライマーを用いた核酸増幅反応を行うことと、
前記核酸増幅反応による核酸の増幅を検出することと、を含み、
前記核酸増幅反応は、前記第2の領域の融解温度よりも高い温度で行われる、
対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在を検出する方法。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載のプライマーを含む、対象RNA及びDNAを含む試料から対象RNAを鋳型としたcDNAを製造するためのキット。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載のプライマーと、
対象RNAを鋳型として合成されたcDNAにハイブリダイズするセンスプライマーと、
を含む、
対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在の検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー及びその使用に関する。より詳細には、プライマー、cDNAの製造方法、RNAの存在を検出する方法、cDNAを製造するためのキット、RNAの存在の検出用キットに関する。本願は、2018年8月3日に日本に出願された特願2018-146892号に基づき優先権を主張し、それらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
対象遺伝子の発現量を解析するために、対象遺伝子から転写されたRNAの量を定量することが頻繁に行われる。細胞破砕物等から得られる対象遺伝子から転写されたRNAは、微量かつ不安定である。
【0003】
対象RNAを検出する方法としては、対象RNAにハイブリダイズするプローブを用いる、ノーザンブロッティングやin situハイブリダイゼーション等が挙げられる。
他にも、より高感度である、RT-PCRを組み合わせた方法がよく用いられる。
【0004】
RT-PCR法では、まず、細胞を破砕してRNAとDNAを含む試料を得て、この試料に対してDNA分解酵素(DNase)を添加し、DNAを分解する。これにより、試料からDNAが除去される。
【0005】
引き続いて、DNaseを失活させた後、RNAを含む試料を用いて、逆転写反応によりRNAに相補的なDNA(cDNA)を合成する。得られたcDNAを核酸増幅反応により増幅させ、試料に含まれていたRNAを検出する方法が一般的である。
【0006】
従来、DNAとRNAの混合物から、RNAを検出する場合には、DNaseでDNAのみを分解する必要があり、煩雑であった。このため、より簡便にRNAを検出する方法が検討されている。例えば、非特許文献1には、DNaseを使用せずに、DNAとRNAを含む混合物から、RT-PCR法により、試料に含まれていたRNAを検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Gadkar VJ and Filion M., Development of a versatile TaqMan real-time quantitative PCR (RT-qPCR) compliant anchor sequence to quantify bacterial gene transcripts from RNA samples containing carryover genomic DNA., BMC Biotechnol. 13:7, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の方法では、PCRにおいて用いるプライマーとして、逆転写反応において用いるプライマーとは異なるプライマーを準備する必要がある。また、PCRを行う前に、逆転写反応において用いたプライマーを除去する必要がある。したがって、非特許文献1の方法には改良の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、DNAとRNAの混合物から、RNAを簡便に検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]第1の領域と第2の領域からなるプライマーであって、5’側に前記第1の領域が位置しており、3’側に前記第2の領域が位置しており、前記第1の領域は、対象RNAと相補的でない塩基配列からなり、前記第2の領域は、前記対象RNAに相補的な塩基配列からなり、前記第2の領域の融解温度は20~50℃である、プライマー。
[2]対象RNA及びDNAを含む試料に[1]に記載のプライマー及び逆転写酵素を添加することと、前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、逆転写反応を行いcDNAを合成することと、を含み、前記cDNAは、前記対象RNAのみを鋳型としたcDNAである、cDNAの製造方法。
[3]対象RNA及びDNAを含む試料に[1]に記載のプライマー及び逆転写酵素を添加することと、前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、逆転写反応を行いcDNAを合成することと、前記cDNAを鋳型として、[1]に記載のプライマーからなるアンチセンスプライマー及び前記cDNAにハイブリダイズするセンスプライマーを用いた核酸増幅反応を行うことと、前記核酸増幅反応による核酸の増幅を検出することと、を含み、前記核酸増幅反応は、前記第2の領域の融解温度よりも高い温度で行われる、対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在を検出する方法。
[4][1]に記載のプライマーを含む、対象RNA及びDNAを含む試料から対象RNAを鋳型としたcDNAを製造するためのキット。
[5][1]に記載のプライマーと、対象RNAを鋳型として合成されたcDNAにハイブリダイズするセンスプライマーと、を含む、対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在の検出用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、DNAとRNAの混合物から、対象RNAを簡便に検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の領域と第2の領域からなるプライマーの第2の領域が、対象RNAにハイブリダイズした状態を説明する模式図である。
【
図2】(a)は、本実施形態のプライマーの第2の領域が、対象RNAにハイブリダイズし、逆転写酵素がcDNAを合成する過程を説明する模式図である。(b)は、本実施形態のプライマーの第2の領域が、DNAにハイブリダイズするが、逆転写酵素がcDNAを合成しないことを説明する模式図である。
【
図3】(a)は、cDNAにセンスプライマーがハイブリダイズした状態を説明する模式図である。(b)は、PCRの1サイクル目でcDNAを鋳型として合成されたセンス鎖に、アンチセンスプライマーがハイブリダイズした状態を説明する模式図である。(c)は、試料中に混入したDNAにセンスプライマーがハイブリダイズした状態を説明する模式図である。(d)は、試料中に混入したDNAにアンチセンスプライマーの第2の領域がハイブリダイズしない状態を説明する模式図である。
【
図4】pNL4-3 プラスミドを鋳型とした場合の、定量PCRのサイクル数と増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図5】RNAを鋳型として逆転写反応と定量PCRを行った場合の、定量PCRのサイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図6】各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(27-0)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図7】各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図8】各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(27-0)プライマーを用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、鋳型RNAのコピー数と、Cq値の関係を示すグラフである。
【
図9】各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、鋳型RNAのコピー数と、Cq値の関係を示すグラフである。
【
図10】各コピー数のpNL4-3 プラスミドDNAを鋳型とし、gag-RA(27-0)を用いて、定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図11】各コピー数のpNL4-3 プラスミドDNAを鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図12】pNL4-3 プラスミドDNAとRNAの混合物を鋳型とし、gag-RA(27-0)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、定量PCRのサイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【
図13】pNL4-3 プラスミドDNAとRNAの混合物を鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、定量PCRのサイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[プライマー]
1実施形態において、本発明は、第1の領域と第2の領域からなるプライマーであって、5’側に前記第1の領域が位置しており、3’側に前記第2の領域が位置しており、前記第1の領域は、対象RNAと相補的でない塩基配列からなり、前記第2の領域は、前記対象RNAに相補的な塩基配列からなり、前記第2の領域の融解温度は20~50℃である、プライマーを提供する。
【0014】
プライマーとは、鋳型となるDNA又はRNAに相補的な配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドである。
【0015】
プライマーと、鋳型となるDNA又はRNAが、50%の割合で2本鎖を形成する温度を融解温度(Tm)と呼ぶ。Tmは、例えば、下記式(1)にしたがって求めることができる。ここで、[Na+]は鋳型とプライマーを含む溶液のナトリウムイオンの濃度であり、%GCはプライマーに含まれるグアニン塩基又はシトシン塩基の割合を百分率で算出したものであり、Lengthはプライマーの塩基数である。
Tm=81.5+16.6×log[Na+]+0.41×(%GC)-(500/Length) (1)
【0016】
また、一般的なPCR反応液は、50mM KCl、10mM Tris-HClを含む。これを考慮して、Tmを下記式(2)に従って求めることもできる。
Tm=60.8+0.41×(%GC)-(500/Length) (2)
【0017】
Tmより高い温度下では、鋳型となるDNA又はRNAと2本鎖を形成するプライマーの割合は減少し、Tmより低い温度下では、DNA又はRNAと2本鎖を形成するプライマーの割合は増加する。
【0018】
プライマーは、鋳型となるRNA又はDNAと相補的でない配列を有していても、鋳型となるRNA又はDNAと2本鎖を形成することができる。この場合の融解温度は、プライマーが有する、鋳型となるRNA又はDNAと相補的な配列によって決まる。
【0019】
本実施形態において、第1の領域は対象RNAと相補的でない配列であり、第2の領域は対象RNAと相補的な配列である。
図1は、本実施形態のプライマーの第2の領域が、対象RNAにハイブリダイズした状態を説明する模式図である。
【0020】
図1に示すように、対象RNAと本実施形態のプライマーは第2の領域でハイブリダイズし、第1の領域はハイブリダイズしない。
【0021】
実施例において詳述するように、第2の領域の配列の塩基数は、6塩基~12塩基が好ましく、6塩基~10塩基がより好ましく、8塩基~10塩基が更に好ましい。
【0022】
第2の領域の塩基配列は、G又はCの塩基を20~70%含むことが好ましく、30~60%含むことがより好ましく、40~60%含むことが更に好ましい。本実施形態のプライマーのTmは、第2の領域の配列の塩基のみを考慮して算出する。
【0023】
上述のように第2の領域の塩基配列を決めると、第2の領域の融解温度は、20~50℃となる。融解温度は、20~40℃であることがより好ましく、20~35℃であることが更に好ましい。
【0024】
第1の領域と第2の領域の塩基数の合計は、20~50が好ましく、20~40がより好ましく、25~35が更に好ましい。上記式(2)で算出した場合、本実施形態のプライマーの全体の融解温度は、45~80℃が好ましく、50~80℃がより好ましく、55~75℃が更に好ましい。
【0025】
[製造方法]
1実施形態において、本発明は、対象RNA及びDNAを含む試料に上述のプライマー及び逆転写酵素を添加することと、前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、逆転写反応を行いcDNAを合成することと、を含み、前記cDNAは、前記対象RNAのみを鋳型としたcDNAである、cDNAの製造方法を提供する。
【0026】
本実施形態において、DNAとは、細胞を破砕してRNAを分離する際に、混入するDNAのことを指す。混入するDNAとしては、上述のプライマーの第2の領域に相補的な配列を持つゲノムDNA、その他のゲノムDNA、及びミトコンドリアDNA等が挙げられる。
【0027】
対象RNA及びDNAを含む試料としては、単細胞生物、多細胞生物の組織、動物の血液等から、AGPC(Acid Guanidine thiocyanate-Phenol-Chloroform)法等を用いて得られたものが挙げられる。
【0028】
逆転写酵素としては、第2の領域の融解温度付近、すなわち、20~40℃で逆転写活性を有するものを用いることができる。逆転写酵素としては、例えば、Moloney
Murine Leukemia Virus Reverse Transcriptase(M-MLV RT)、Avian Myeloblastosis Virus
Reverse Transcriptase(AMV RT)、変異型M-MLV
RTであるSuperScriptTM IV Reverse Transcriptase(SS RT)(Thermo Fisher Scientific社)等を用いてもよい。
【0029】
逆転写酵素としては、RNase H活性を喪失した、公知の変異体を用いることが好ましい。RNase H活性を有する逆転写酵素を用いた場合、そのRNase H活性によりRNA:DNAハイブリッドのRNAを分解するため、逆転写産物の収量が低下する。
【0030】
対象RNA及びDNAを含む試料に、上述のプライマーを加え、これを上述の第2の領域の融解温度よりも低い温度で静置することにより、上述のプライマーを対象RNAにハイブリダイズさせる。
【0031】
引き続いて、試料に逆転写酵素を加える。逆転写の反応温度は、逆転写酵素が逆転写の活性を持つ温度範囲に設定する。例えば、20~60℃に設定することが好ましい。M-MLV RTを用いる場合には、逆転写反応を20~37℃の室温付近で簡便に行うこともできる。
【0032】
対象RNA及びDNAを含む試料に対し、上述したプライマーと逆転写酵素を添加すると、20~60℃の温度範囲においては、上述したプライマーの第2の領域は、対象RNAとDNAの両者と2本鎖を維持する。
【0033】
図2(a)は、上述したプライマーの第2の領域が、対象RNAにハイブリダイズし、逆転写酵素がcDNAを合成する過程を説明する模式図である。
図2(b)は、上述したプライマーの第2の領域が、DNAにハイブリダイズするが、逆転写酵素がcDNAを合成しないことを説明する模式図である。
図2中、RTは逆転写酵素を示す。
【0034】
一般的に、逆転写酵素は、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有するが、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性は低い。そのため、一般的な逆転写酵素は、RNAを鋳型とするが、DNAを鋳型としない。この結果、対象RNAのみを鋳型としたcDNAが合成される。
【0035】
そのため、添加された逆転写酵素は、対象RNAを鋳型として、上述のプライマーの3’端から3’方向へ、対象RNAのみに特異的な相補的DNA(cDNA)を合成する。
このcDNAの5’端には、第1の領域の配列が付加される。
【0036】
[検出方法]
1実施形態において、本発明は、対象RNA及びDNAを含む試料に上述のプライマー及び逆転写酵素を添加することと、前記プライマー及び前記対象RNAを、前記第2の領域の融解温度よりも低い温度でハイブリダイズさせることと、逆転写反応を行いcDNAを合成することと、前記cDNAを鋳型として、上述のプライマーからなるアンチセンスプライマー及び前記cDNAにハイブリダイズするセンスプライマーを用いた核酸増幅反応を行うことと、前記核酸増幅反応による核酸の増幅を検出することと、を含み、前記核酸増幅反応を、前記第2の領域の融解温度よりも高い温度で行う、対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在を検出する方法を提供する。
【0037】
本明細書において、アンチセンス鎖とは、対象RNAに相補的なポリヌクレオチド鎖を指す。センス鎖とは、アンチセンス鎖と相補的な配列をもつポリヌクレオチド鎖を指す。
【0038】
[製造方法]の実施形態で上述したように、第1の領域の塩基配列を含むアンチセンスプライマーと逆転写酵素を用いて逆転写反応を行うと、対象RNAに相補的な、第1の領域の配列が付加されたcDNAが合成される。
【0039】
本実施形態の核酸増幅反応においては、プライマーセットとして、センスプライマーとアンチセンスプライマーを用いる。センスプライマーとしては、cDNAの配列に相補的なセンス鎖において、アンチセンスプライマーがハイブリダイズする位置から、例えば、5’側に50~2000塩基離れた位置の配列を使用することができる。
【0040】
本実施形態の核酸増幅反応においては、アンチセンスプライマーとして、対象RNAの逆転写に用いたプライマー、すなわち、第1の領域と第2の領域からなるプライマーを用いることができる。この結果、未反応の逆転写用プライマーを除去する必要がなく、核酸増幅反応に新たなアンチセンスプライマーを用意する必要もなくなる。
【0041】
cDNAを鋳型とした場合には、PCRにより、DNAが指数関数的に増幅する。試料中に混入したDNAを鋳型とした場合には、PCRにより、DNAは指数関数的に増幅しないか、増幅したとしても限定的である。
【0042】
アンチセンスプライマー及びセンスプライマーの塩基数は、20~50が好ましく、20~40がより好ましく、25~35が更に好ましい。アンチセンスプライマー及びセンスプライマーの融解温度としては、45~80℃が好ましく、50~80℃がより好ましく、55~75℃が更に好ましい。
【0043】
核酸増幅反応としては、Polymerase Chain Reaction(PCR)法、又はLoop-mediated isothermal amplification(LAMP)法等が挙げられる。
【0044】
PCR法では、プライマーと耐熱性DNAポリメラーゼを用いる。DNAポリメラーゼとしては、例えば、好熱菌の一種であるThermus aquaticusのDNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ)等の公知の耐熱性DNAポリメラーゼを用いることができる。
【0045】
PCR法では、2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離し(反応1)、プライマーが解離した1本鎖DNAと2本鎖を形成し(反応2)、DNAポリメラーゼが結合したプライマーの3’端から3’方向へDNA鎖を伸長させる(反応3)、という3個の反応を1サイクルとして、このサイクルを繰り返して核酸増幅反応が進む。
【0046】
サイクル数としては、20~60回が好ましく、20~40回がより好ましく、25~35回が更に好ましい。
【0047】
反応2の温度は、アンチセンスプライマーの第1の領域と第2の領域の配列のTm値より、-20℃~+20℃にすることが好ましく、-10℃~+10℃にすることがより好ましく、-5℃~+5℃にすることが更に好ましい。
【0048】
また、反応2の温度は、センスプライマーとアンチセンスプライマーのTm以下の温度に設定する。反応2の温度としては、50~70℃が好ましく、50~65℃がより好ましく、55~65℃が更に好ましい。
【0049】
続いて、1サイクル目の反応3において、反応液中のDNAポリメラーゼは、合成されたcDNAを鋳型として、センスプライマーの3’端から3’方向へDNAを伸長させて、2本鎖DNAを合成する。
図3(a)は、本実施形態の逆転写反応において合成されたcDNAにセンスプライマーがハイブリダイズした状態を説明する模式図である。
【0050】
cDNAを鋳型として合成されたDNAは、アンチセンスプライマーの第1と第2の領域に相補的な配列を有する。
図3(b)は、PCRの1サイクル目でcDNAを鋳型として合成されたセンス鎖に、アンチセンスプライマーがハイブリダイズした状態を説明する模式図である。
【0051】
図3(b)に示すように、アンチセンスプライマーがハイブリダイズした後、上述した反応3により、2本鎖DNAが合成される。
【0052】
前述のcDNAを鋳型として合成された2本鎖DNAは、センスプライマーとアンチセンスプライマーにそれぞれ相補的な配列を有する。PCRの反応サイクルを繰り返すことにより、2本鎖DNAが指数関数的に増幅する。
【0053】
図3(c)は、試料中に混入したDNAにセンスプライマーがハイブリダイズした状態を説明する模式図である。
【0054】
試料中に混入したDNAは、アンチセンスプライマーの第2の領域に相補的な配列を有するが、第1の領域に相補的な配列は有していない。また、上述した反応2は、アンチセンスプライマーの第2の領域のTmよりも高い温度で行う。
【0055】
反応2の温度は、アンチセンスプライマーの第2の領域のTmよりも、10~50℃高いことが好ましく、15~40℃高いことがより好ましく、20~40℃高いことが更に好ましい。
【0056】
cDNAを鋳型として合成されたセンスDNAは、アンチセンスプライマー全体の配列と相補的な配列を持つ。そのため、アンチセンスプライマーは、上述の温度範囲に設定された反応2において、cDNAを鋳型として合成されたセンスDNAにハイブリダイズする。
【0057】
一方、試料中に混入したDNAは、アンチセンスプライマーの第2の領域と相補的な配列を持つが、アンチセンスプライマーの第1の領域と相補的な配列は持たない。そのため、アンチセンスプライマーは、上述の温度範囲に設定された反応2において、混入したDNAにハイブリダイズすることができない。
【0058】
図3(d)は、試料中に混入したDNAにアンチセンスプライマーの第2の領域がハイブリダイズしない状態を説明する模式図である。
【0059】
図3(d)に示すように、アンチセンスプライマーは、試料中に混入したDNAと2本鎖を形成しないため、混入したDNAを鋳型とするDNAは、指数関数的に増幅しないか、増幅したとしても限定的である。その結果、対象RNA及びDNAを含む試料から、対象RNAを鋳型とするDNAが特異的に増幅される。
【0060】
増幅したDNAの存在は、このDNAと相補的な配列を有するプローブ、又は検出可能なプローブで標識したプライマー等の公知のプローブを用いることにより、検出できる。
【0061】
実施例において詳述するように、増幅したDNAを検出することにより、対象RNAの存在を検出することができる。さらに、対象RNAのコピー数は、増幅したDNAの量と相関を示すため、増幅したDNAの量から対象RNAの量を算出することができる。
【0062】
[キット]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、上述のアンチセンスプライマーを含む、対象RNA及びDNAを含む試料から対象RNAを鋳型としたcDNAを製造するためのキットを提供する。
【0063】
第2の領域は、対象RNAと相補的な配列である。塩基数としては8~10塩基であってもよい。対象RNAと第1の領域と第2の領域からなるプライマーを混合すると、第2の領域は、対象RNAと2本鎖を形成することができる。
【0064】
逆転写酵素としては、例えば、M-MLVを用いることができるが、これに限定されない。また、逆転写反応の温度としては、逆転写酵素の逆転写の活性がある温度範囲内に設定する。
【0065】
前述のように、対象RNA及びDNAを含む試料に、第1の領域と第2の領域からなるプライマー及び逆転写酵素を添加し、逆転写反応を行うと、対象RNAのみに特異的なcDNAを製造することができる。製造されたcDNAの5’端には、第1の領域の配列が付加される。
【0066】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、上述のアンチセンスプライマーと、対象RNAを鋳型として合成されたcDNAにハイブリダイズするセンスプライマーと、を含む、対象RNA及びDNAを含む試料中の前記対象RNAの存在の検出用キットを提供する。
【0067】
対象RNA及びDNAを含む試料中に、第1の領域と第2の領域からなるプライマー及び逆転写酵素を添加し、逆転写反応を行うと、5’端に第1の領域の配列が付加されたcDNAを製造することができる。
【0068】
対象RNAの存在を検出するために、cDNAを鋳型として、核酸増幅反応により2本鎖DNAを増幅させてもよい。核酸増幅反応としては、上述したものと同様であり、例えば、PCR法、LAMP法等が挙げられる。センスプライマー、アンチセンスプライマーについては、[検出方法]の実施形態において上述したものと同様である。
【0069】
上述したように、核酸増幅反応により増幅されたDNAの存在は、公知のプローブ及び定量PCR装置を用いて、検出することができる。これにより、試料中に含まれるRNAの存在を検出することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実験例1]
(鋳型DNAおよびRNAの調製)
逆転写反応と定量PCRに用いる鋳型DNAとRNAを調整した。
【0072】
まず、HIV-1のgag遺伝子が挿入されたpNL4-3 プラスミドを調製した。
このプラスミドDNAの配列のNCBIアクセッション番号はAF324493.2である。
【0073】
50ng/mLの濃度のDNAの、260nmにおける吸光度は1である。調製したプラスミドDNAの260nmにおける吸光度から、プラスミドDNAの濃度を算出した。
この濃度から、鋳型として用いるプラスミドDNAのコピー数を算出した。
【0074】
また、HIV-1が感染した8E5細胞の培養液の上清から、MinElute Virus Spin Kit(QIAGEN社)を用いて、RNAを抽出した。抽出したRNAを用いて、逆転写反応とnested PCRを行った。得られた結果についてポワソン分布式を用いて解析し、抽出したRNAのコピー数を計算した。
【0075】
[実験例2]
(プラスミドDNAを鋳型とした定量PCR)
《プライマーの作製》
定量PCRに用いるセンスプライマーと14種類のアンチセンスプライマーを作成した。使用したプライマーの配列を表1に示す。「gag-FA」はセンスプライマーの名称であり、「gag-RA」はアンチセンスプライマーの名称である。プライマーの配列及び上記式(2)に基づいて計算したTm値を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1中、「gag-RA(X-Y)」は、第1の領域と第2の領域からなるプライマーであることを表す。3’端のX個の塩基はgag mRNAに相補的であり、上述の第2の領域に相当し、5’端のY個の塩基は、gag mRNAと相補的ではない配列であり、上述の第1の領域に相当することを表す。
【0078】
《DNAを鋳型とした定量PCR》
1000コピーのpNL4-3 プラスミドを鋳型として、表1に示されるgag-FAプライマーと14種類のgag-RA(X-Y)プライマーを用いて、それぞれ定量PCRを行った。
【0079】
反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)を60サイクルとした。検出にはリアルタイムPCR装置(型式Light Cycler96、日本ジェネティクス社)を用いた。また、プローブの蛍光強度が0.05に達した時のサイクル数をCqとした。結果を
図4と表2に示す。
【0080】
図4は、pNL4-3 プラスミドを鋳型とした場合の、定量PCRのサイクル数と増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
図4中、各増幅曲線は、それぞれPCRで用いたgag-RA(X-Y)プライマーに対応する。
【0081】
その結果、プライマーに含まれる、第2の領域の塩基数が20以下になると、増幅曲線が右へシフトすることが明らかになった。すなわち、核酸増幅速度が低下することが明らかになった。また、第2の領域の塩基数が12以下になると、PCRによりDNAはほとんど増幅しないことが分かった。
【0082】
【0083】
表2中、Cqの値は、増幅されたDNAが閾値に達した時の、サイクル数を示す。第2の領域の塩基数が20以下になると、Cqの値が大きくなる傾向が確認された。また、第2の領域の塩基数が12以下になると、増幅したDNAの量は閾値に達しないことが明らかになった。
【0084】
また、プライマーの第2の領域のTmが52℃以下になるとDNAの増幅効率が低下し、36℃以下になるとDNAは増幅しないことが明らかになった。これは、第2の領域のTmが低くなると、gag-RA(X-Y)プライマーがセンスDNAと2本鎖を形成しにくくなるためであると考えられた。
【0085】
[実験例3]
(RNAを鋳型とした逆転写反応と定量PCR)
鋳型RNAとgag-RA(X-Y)プライマーを用いて、逆転写反応と定量PCRを行い、DNAの増幅効率を解析した。
【0086】
1000コピーのRNAを含む試料に、gag-RA(X-Y)プライマーとM-MLV逆転写酵素(Thermo Fisher Scientific社)を加え、37℃で10分間静置し、逆転写反応により、cDNAを合成した。
【0087】
続いて、合成したcDNAと、表1に示されるgag-FAプライマーとgag-RA(X-Y)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)を60サイクルとした。結果を
図5と表3に示す。
【0088】
図5は、RNAを鋳型として逆転写反応と定量PCRを行った場合の、定量PCRのサイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
図5中、各増幅曲線は、PCRで用いたgag-RAプライマーを示す。
【0089】
その結果、プライマーに含まれる、第2の領域の塩基数が7であっても、PCRによりDNAが指数関数的に増幅することが明らかになった。
【0090】
【0091】
表3中、Cqの値は、増幅されたDNAが閾値に達した時のサイクル数を示す。第2の領域の塩基数が10以上であれば、Cqの値はほとんど変わらないことが明らかになった。また、第2の領域の塩基数の値が7~10であっても、PCRにより増幅されたDNA量は閾値に達することが明らかになった。
【0092】
これらの結果を小括すると、第2の領域のTmが7~36℃であるプライマーを用いた場合、逆転写反応とPCRにより、プラスミドDNAを鋳型としたDNAはほとんど増幅せず、RNAが鋳型の場合には、産物DNA量は指数関数的に増幅することが明らかになった。
【0093】
すなわち、第2の領域のTmが7~36℃であるプライマーを用いた場合には、DNAとRNAの混合物中から、逆転写反応とPCRにより、対象RNAを鋳型としたDNA産物を得ることができる。
【0094】
[実験例4]
(RNAのコピー数と増幅曲線の関係)
鋳型とするRNAのコピー数及びgag-RA(X-Y)プライマーと、定量PCRによるDNAの増幅効率の関係性について解析した。
【0095】
10000、1000、100、10、0コピーのRNAを含む試料に、gag-RA(X-Y)プライマーとM-MLV逆転写酵素(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を加え、37℃で10分間静置し、逆転写反応により、cDNAを合成した。
【0096】
続いて、合成したcDNAを鋳型として、gag-FAプライマーとgag-RA(27-0)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)を60サイクルとした。各実験を3回繰り返した。結果を
図6と
図8に示す。
【0097】
図6は、各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(27-0)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。その結果、gag-RA(27-0)を用いた場合、鋳型が10コピーのRNAであっても、再現性良くPCRによりDNAが増幅できることが明らかになった。また、それぞれの曲線は、分離可能であることから、RNAのコピー数を定量的に分析できることが明らかになった。
【0098】
次に、合成したcDNAを鋳型として、gag-FAプライマーとgag-RA(9-18)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)を60サイクルとした。結果を
図7と
図9に示す。
【0099】
図7は、各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。その結果、gag-RA(9-18)を用いた場合、鋳型が10コピーのRNAであっても、再現性良くPCRによりDNAが増幅できることが明らかになった。また、それぞれの曲線は、分離可能であることから、RNAのコピー数を定量的に分析できることが明らかになった。
【0100】
図8は、各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(27-0)プライマーを用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、鋳型RNAのコピー数と、Cq値の関係を示すグラフである。
図9は、各コピー数のRNAを鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、鋳型RNAのコピー数と、Cq値の関係を示すグラフである。
【0101】
その結果、gag-RA(27-0)をプライマー用いた場合と、gag-RA(9-18)プライマーを用いた場合とで、検量線の傾きはほぼ一致することが明らかになった。この結果は、ふたつの場合で、増幅効率が同レベルであることを示す。
【0102】
[実験例5]
(鋳型DNAコピー数と増幅曲線の関係)
鋳型とするプラスミドDNAのコピー数及びgag-RA(X-Y)プライマーと、定量PCRによるDNAの増幅効率の関係性について解析した。
【0103】
10000、1000、100、10、0コピーのpNL4-3 プラスミドDNAを含む試料に、gag-FAプライマーとgag-RA(27-0)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃
5秒、60℃ 20秒)を60サイクルとした。結果を
図10に示す。
【0104】
図10は、各コピー数のpNL4-3 プラスミドDNAを鋳型とし、gag-RA(27-0)を用いて、定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。その結果、gag-RA(27-0)プライマーを用いた場合には、鋳型のpNL4-3 プラスミドDNAが10コピーであっても、PCRによりDNAが増幅することが明らかになった。
【0105】
次に、10000、1000、100、10、0コピーのpNL4-3 プラスミドDNAを含む試料に、gag-FAプライマーとgag-RA(9-18)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)を60サイクルとした。結果を
図11に示す。
【0106】
図11は、各コピー数のpNL4-3 プラスミドDNAを鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、定量PCRを行った場合の、サイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。その結果、プライマーとしてgag-FAとgag-RA(9-18)を用いた場合には、PCRによりDNAはほとんど増幅しないことが明らかになった。
【0107】
[実験例6]
(DNAとRNAの混合物を鋳型としたRT-PCR)
DNAとRNAを含む試料と、gag-RA(27-0)又はgag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応とPCRを行い、RNAの量を定量した。
【0108】
pNL4-3 プラスミドDNAとRNAの混合物に、gag-RA(27-0)又はgag-RA(9-18)プライマーとM-MLV逆転写酵素(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を加え、37℃で10分間静置し、逆転写反応により、cDNAを合成した。鋳型のコピー数は、(DNAが1000コピー、RNAが0コピー)、(DNAが960コピー、RNAが40コピー)、(DNAが800コピー、RNAが200コピー)、(DNAが0コピー、RNAが1000コピー)、(DNAが0コピー、RNAが0コピー)であった。
【0109】
続いて、合成したcDNAと、gag-FAプライマーとgag-RA(27-0)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)の60サイクルとした。結果を
図12に示す。
【0110】
図12は、pNL4-3 プラスミドDNAとRNAの混合物を鋳型とし、gag-RA(27-0)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、定量PCRのサイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【0111】
その結果、gag-RA(27-0)プライマーを用いた場合には、いずれの鋳型の組み合わせにおいても、同様の増幅曲線が得られた。
【0112】
次に、合成したcDNAと、gag-FAプライマーとgag-RA(9-18)プライマーを用いて、定量PCRを行った。反応条件は、97℃ 2分で最初の熱変性を行った後、(94℃ 5秒、60℃ 20秒)の60サイクルとした。結果を
図13に示す。
【0113】
図13は、pNL4-3 プラスミドDNAとRNAの混合物を鋳型とし、gag-RA(9-18)を用いて、逆転写反応と定量PCRを行った場合の、定量PCRのサイクル数とPCRにより増幅されたDNA量の関係を示す増幅曲線である。
【0114】
その結果、gag-RA(9-18)プライマーを用いた場合には、DNAの増幅効率は、鋳型DNAには依存せず、鋳型RNAの量に依存することが明らかになった。
【0115】
以上の結果を小括すると、gag-RA(9-18)プライマーを用いて、逆転写反応と定量PCRを行うと、DNAとRNAの混合物からRNAの量を定量することが可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、DNAとRNAの混合物から、対象RNAを簡便に検出する技術を提供することができる。
【配列表】