(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】フィルムバルク音響波共振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20230704BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H03H3/02 B
H03H9/17 F
(21)【出願番号】P 2020561682
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 CN2018111052
(87)【国際公開番号】W WO2020062364
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】201811127172.X
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516082763
【氏名又は名称】中国科学院蘇州納米技術与納米▲ファン▼生研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】張 暁東
(72)【発明者】
【氏名】林 文魁
(72)【発明者】
【氏名】張 宝順
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-302661(JP,A)
【文献】特開2006-109431(JP,A)
【文献】国際公開第2007/004435(WO,A1)
【文献】特開2002-344279(JP,A)
【文献】特開2014-239392(JP,A)
【文献】国際公開第2004/088840(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/083150(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103873010(CN,A)
【文献】特開2013-046110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器の周波数特性に対応してトップ層シリコンの厚さが制御されるとともに、SOI基板の第1面上にフォトリソグラフィによりパターン化して選択イオン注入を行い
前記トップ層シリコンを処理した高ドープ導電シリコン層により下部電極を形
成するステップと、
前記SOI基板の第1面および前記下部電極上に、圧電層としてC軸配向のAlN圧電フィルムを気相エピタキシャル成長によって形成するステップと、
前記圧電層上にトップ電極を形成するステップと、
前記SOI基板の第1面とは反対側の第2面上にエアキャビティを形成するステップとを含む、ことを特徴とするフィルムバルク音響波共振器の製造方法。
【請求項2】
前記圧電層を形成するステップは、前記SOI基板の第1面および前記下部電極上に圧電フィルムを形成した後にパターン化するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記圧電層の下部電極に対応する一部の領域に、外部と連通するスルーホールを形成するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記スルーホールを形成するステップは、誘導結合プラズマエッチング技術によって前記スルーホールを形成する、ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記トップ電極を形成するステップは、電子ビーム蒸発によって前記トップ電
極を形成した後にパターン化するステップを含み、前記トップ電極はPt電極を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記SOI基板の配向は(111)または(100)である、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記エアキャビティは前記SOI基板の裏面基板内に形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記エアキャビティの深さは50~1000μmであり、前記エアキャビティの面積は10μm×10μm~1mm×1mmである、ことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、通信電子部品の技術分野に属し、特に、フィルムバルク音響波共振器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2017年、中国のスマートフォンの出荷台数は4億6100万台に達した。共振器は、携帯電話の無線周波数のフロントエンドで広く使用されているデュプレクサ、フィルターのコアデバイスであり、通信の開発に伴い、携帯電話で同時に互換性が必要な通信帯域が増え続け、必要な共振器の数も徐々に増え、無線通信システムの多機能化、集積化の開発傾向とデバイスの増加により、共振器の小型化、集積度、高周波、高性能などが要求されるところ、従来のマイクロ波共振器は、電磁波を搬送波として使用するため、現在のアプリケーションにおける通信帯域では、共振器のサイズを非常に大きくする必要があり、現在の小型化の要求とは逆行するのに対し、音響波は電磁波より速度が4~5桁小さく、対応する音響波共振器のサイズも電磁波共振器の体積より4~5桁小さくなり、現在のデバイスの要求を満たし、同時に、現在の表面音響波共振器デバイスと比較して、バルク音響波共振器は高周波条件下でプロセスの難度が比較的に低く、集積化の実現が容易であり、一方で、表面音響波共振器は平面波伝搬であり、エネルギーが櫛歯部分に集中するため、損失が過大になる。したがって、フィルムバルク音響波共振器は、現在の携帯電話における無線周波数フロントエンドの開発傾向とより適合しやすい。
【0003】
フィルムバルク音響波共振器の原理は、圧電層の圧電効果を利用して上下の電極間に電気信号を印加するものであり、圧電層の圧電効果により音響信号が発生し、電極間で振動し、音響波全反射条件を満たす音響信号が保持され、残りの音響波信号が消失し、この音響信号を電気信号に変換して出力することで、電気信号の周波数を選択することができる。現在、圧電層に使用されている材料には、ZnO、PZT、AlNがあり、AlNは比較的に完成度が高い調製プロセスを持つことにより、適切な電気機械結合係数、およびマイクロエレクトロニックプロセスとの互換性に特徴があり、適切な圧電層の材料として選択される。
【0004】
図1に示すように、従来のフィルムバルク音響波共振器の構造は、Si基板上に、支持層、下部電極、圧電層、および上部電極が順番に配置され、音響波はエアキャビティによってデバイス内部に閉じ込められる。2017年11月頃、中国の産業情報技術省は5Gシステムのミッドバンド範囲を公式に定めて、隣接する他の周波数帯域における新たなアプリケーションの受付や承認をしなくなり、5G時代の進歩は、共振器に新たな課題をもたらす。日本の富士通が製造したFBARおよびその関連製品は構造が比較的に多様であり、同社が申請した関連特許からすると、FBARの構造は大きく、エアキャビティ型(例えば特許US7323953B2)とエアギャップ(例えば特許US20100060384A1)の2つのカテゴリーに分けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エアギャップは犠牲層を充填してから研磨する必要があり、プロセスが複雑で面倒である。従来のフィルムバルク音響波共振器では電極として金属を使用する場合、損失が大きくなり、同時に圧電フィルムはパターン化された電極に堆積またはスパッタリングされるため、段差に応力がかかり、圧電層およびその電極の膜厚がここで歪んでおり、応力が集中し、デバイス構造の信頼性に影響を与える。従来のデバイスも同様に、下部電極がパターン化された後段差が生成されるので、段差に応力がかかり、圧電層およびその電極の膜厚がここで歪んでおり、応力が集中し、デバイス構造の信頼性に影響を与える。
【0006】
本願の主な目的は、従来技術の欠点を克服するためのフィルムバルク音響波共振器およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本願は以下の技術的解決策を含む。
本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器の製造方法は、
共振器の周波数特性に対応してトップ層シリコンの厚さが制御されるとともに、SOI基板の第1面上にフォトリソグラフィによりパターン化して選択イオン注入を行い前記トップ層シリコンを処理した高ドープ導電シリコン層により下部電極を形成することと、
前記SOI基板の第1面および前記下部電極上に、圧電層としてC軸配向のAlN圧電フィルムを気相エピタキシャル成長によって形成することと、
前記圧電層上にトップ電極を形成することと、
前記SOI基板の第1面とは反対側の第2面上にエアキャビティを形成することとを含む。
【0008】
従来技術と比較すると、本願は以下の利点を有する。
1)本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器の製造方法は、基板としてSOIを使用し、デバイス製造コストを低減し、製造された共振器は低消費電力、高集積度、低コスト、良好な耐放射特性などの特徴を有する。
2)本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器の製造方法は、プロセスが簡単であり、基板上にエッチング停止層および支持層を成長させる必要がなく、停止層および支持層構造はSOI基板中の絶縁層に置き換えられる。
3)本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器の製造方法は、選択的イオン注入によって高ドープシリコンを形成し、高ドープシリコンを電極として使用し、従来の電極によって引き起こされる段差構造の影響を解消する。
4)SOI基板のトップ層Siが(111)結晶配向である場合、AlNフィルム結晶の品質を大幅に向上させ、それによってデバイスの性能を効果的に向上させることができる。
5)本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器の製造方法は、SOI基板上にグラフェン、金属Mo、金属Wなどの材料の薄層を調製してからAlNフィルムを成長させることで、AlNフィルム結晶の品質を向上させることもできる。
6)本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器は、5G技術またはより高い性能要件を備えたデバイスの将来の開発によってもたらされる技術的要件を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来技術におけるフィルムバルク音響波共振器の構造概略図である。
【
図2】本願の実施例1のフィルムバルク音響波共振器の製造方法においてSOI基板の断面図である。
【
図3】本願の実施例1のフィルムバルク音響波共振器の製造方法において選択的イオン注入されたデバイスの断面図である。
【
図4】本願の実施例1のフィルムバルク音響波共振器の製造方法においてSOI基板上に圧電層が形成されたデバイスの断面図である。
【
図5】本願の実施例1のフィルムバルク音響波共振器の製造方法において圧電層上にスルーホールが形成されたデバイスの断面図である。
【
図6】本願の実施例1のフィルムバルク音響波共振器の製造方法において圧電層上にトップ電極が形成されたデバイスの断面図である。
【
図7】
本願の実施例1において製造されたフィルムバルク音響波共振器の断面図である。
【
図8】
本願の実施例1において製造されたフィルムバルク音響波共振器の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
従来技術の欠点を考慮して、本願の発明者は、長期の研究と広範な実践の後に、本願の技術的解決策を提案する。以下、該技術的解決策、その実施過程および原理などをさらに詳細に説明する。
【0011】
本願の実施例によって提供されるフィルムバルク音響波共振器の製造方法は、
SOI基板の第1面上に下部電極を形成することと、
前記SOI基板の第1面および下部電極上に圧電層を形成することと、
前記圧電層上にトップ電極を形成することと、
SOI基板の第1面とは反対側の第2面上にエアキャビティを形成することと、を含む。
【0012】
いくつかの具体的な実施形態では、前記製造方法は、イオン注入によってSOI基板のトップ層シリコンを処理し、その結果、少なくとも選択された領域のトップ層シリコンが高ドープ導電シリコン層に形成され、その後、前記高ドープ導電シリコン層をパターン化して前記下部電極を形成することを含む。
【0013】
いくつかの具体的な実施形態では、前記製造方法は、SOI基板の第1面において選択された領域に導電フィルム層を直接形成し、その後、前記導電フィルム層をパターン化して前記下部電極を形成することを含む。
【0014】
好ましくは、前記導電フィルム層の材料は、グラフェン、モリブデン、タングステンのいずれか1つを含むが、これらに限定されない。
【0015】
いくつかの具体的な実施形態では、前記製造方法は、具体的に、気相エピタキシャル成長またはマグネトロンスパッタリング成長により前記圧電層を形成することを含む。
【0016】
好ましくは、前記圧電層の材料はAlNを含む。
【0017】
好ましくは、前記圧電層はC軸配向のAlN圧電フィルムである。
【0018】
いくつかの具体的な実施形態では、前記製造方法は、具体的に、前記SOI基板の第1面および下部電極上に圧電フィルムを形成した後にパターン化して前記圧電層を形成することを含む。
【0019】
さらに、前記圧電層の下部電極に対応する一部の領域には、外部と連通するスルーホールも形成される。
【0020】
好ましくは、誘導結合プラズマエッチング技術を使用して、前記圧電層上に前記スルーホールを形成する。
【0021】
いくつかの具体的な実施形態では、前記製造方法は、具体的に、電子ビーム蒸発によってトップ電極層を形成した後にパターン化して前記トップ電極を形成することを含む。
【0022】
好ましくは、前記トップ電極はPt電極を含む。
【0023】
さらに、前記SOI基板の配向は(111)または(100)である。
【0024】
さらに、前記エアキャビティはSOI基板の裏面基板内に形成される。
【0025】
好ましくは、前記エアキャビティの深さは50~1000μmであり、前記エアキャビティの面積は10μm×10μm~1mm×1mmである。
【0026】
本願の実施例は、前記フィルムバルク音響波共振器の製造方法によって形成されるフィルムバルク音響波共振器をさらに提供する。
【0027】
本願によって提供されるエアキャビティ型フィルムバルク音響波共振器は、SOI(Silicon-On-Insulator、絶縁基板上のシリコン)基板、圧電層、およびトップ電極を含む。該共振器は、SOIの絶縁層の上のシリコン(即ちトップ層シリコン)を使用して、イオン注入によって高ドープ導電シリコン層を共振器の下部電極として形成し、または絶縁層の上のシリコンを利用して別の導電層を下部電極として形成する。同時に下部電極上に堆積またはスパッタリングによってC軸配向のAlN圧電フィルム層を成長させ、圧電層上に上部電極層が設けられる。該新規なFBAR(フィルムバルク音響波共振器)構造の革新を使用すると、FBARの製造プロセスが簡素化され、この方法によって成長したAlNフィルム結晶は良好な品質を有し、デバイス性能の改善に寄与し、同時にシリコン酸素注入アイソレーションの位置によってトップ層シリコンの厚さを制御することで共振器の周波数を調整する。本願は、SOI材料の低消費電力、高集積度、低コスト、良好な耐放射特性などの特徴を合わせて、デバイスの製造プロセスが簡素化され、将来の5G通信システムの無線周波数フロントエンド、例えばフィルター、デュプレクサおよびマルチプレクサの製造に対して新しい方向性をもたらす。
この技術的解決策、その実施過程および原理などを以下にさらに説明する。
【0028】
(実施例1)
図7および
図8を参照して、フィルムバルク音響波共振器は、SOI基板7と、SOI基板7の第1面(表面)上に順番配置された下部電極3、圧電層6およびトップ電極1と、を含み、SOI基板7の第2面(裏面)にエアキャビティ5が設けられ、エアキャビティの深さは約200μmであり、前記エアキャビティの面積は約150μm×150μmであり、下部電極3は選択された領域のSOI基板7のトップ層シリコン71がイオン注入によって形成された高ドープ導電シリコン層であり、圧電層6の下部電極3に対応する領域に、外部と連通するスルーホール2がさらに設けられ、エアキャビティ5がSOI基板7の裏面基板73内に設けられ、SOI基板7はトップ層シリコン71、裏面基板73およびトップ層シリコン71と裏面基板73間に設けられた酸化層72を含み、トップ電極1はPt電極を使用する。実際の用途では、フィルムバルク音響波共振器の両側に2つのテストG電極4がさらに設けられる。
【0029】
具体的には、フィルムバルク音響波共振器の製造方法は以下のステップを含む。
1)SOI基板を用意し、アセトンとイソプロパノールを使用して超音波洗浄した基板構造が
図2に示され、基板の厚さが50nm~1μmである。
2)フォトリソグラフィによりパターン化し、SOI基板のトップ層シリコン上に選択イオン注入によって一部のトップ層シリコンが高ドープ導電シリコンに形成され、パターン化された高ドープ導電シリコンを下部電極として使用し、得られたデバイスの構造が
図3に示される。
3)気相エピタキシャル成長(MOVCD)またはマグネトロンスパッタリング成長によって、SOI基板のトップ層シリコンおよび下部電極上に高C軸配向のAlN圧電フィルムを圧電層として形成し、形成されたデバイス構造が
図4に示される。
4)圧電層上にICPによってスルーホールをエッチングし、形成されたデバイスの構造が
図5に示される。
5)圧電層上に電子ビーム蒸発によってトップ電極を形成しパターン化し、トップ電極はPt電極であり、形成されたデバイスの構造が
図6に示される。
6)基板の裏面をエッチングしてエアキャビティを形成し、形成されたフィルムバルク音響波共振器の構造が
図7に示される。
【0030】
本願の実施例によって提供される製造方法は、SOIの絶縁層上のシリコンSi材料に窒化アルミニウムAlNフィルムをエピタキシャル堆積させることであり、このようなSi(111)上に形成されたAlNフィルム結晶は良好な品質を有し、スパッタリングなどによって形成されたAlNフィルムよりも大幅に改善され、スパッタリングによって形成されたAlNフィルムのFWHMは約3°であるが、本願の製造方法に基づくエピタキシャルによって形成されたAlNは一般に0.5°未満である。
【0031】
なお、上記の実施例は本願の技術的思想および特徴を例示するものに過ぎず、その目的は技術に精通している人々が本願の内容を理解し、それに応じて実施できるようにすることであり、本願の保護範囲はここに限定されない。実質的に本願の精神に基づきなされた等価の変更や修正はすべて本願の保護範囲に含まれるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
1…トップ電極、2…スルーホール、3…下部電極、4…テストG電極、5…エアキャビティ、6…圧電層、7…SOI基板、71…トップ層シリコン、72…酸化層、73…裏面基板