(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】ソルターゼ(Sortase)を用いた生存細胞のタンパク質修飾
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230704BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230704BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230704BHJP
A61K 47/50 20170101ALI20230704BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230704BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230704BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230704BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230704BHJP
C12N 9/52 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
A61K35/12
A61K45/00
A61K47/50
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/00
A61K47/42
C12N5/078
C12N9/52
(21)【出願番号】P 2021043795
(22)【出願日】2021-03-17
(62)【分割の表示】P 2019079111の分割
【原出願日】2014-05-09
【審査請求日】2021-04-14
(32)【優先日】2014-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500482810
【氏名又は名称】ホワイトヘッド・インスティテュート・フォー・バイオメディカル・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】スィー,リー,キム
(72)【発明者】
【氏名】プロー,ヒッド,エル.
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】Circ. Res.,2011年,vol.109, no.4,pp.365-373
【文献】Biotechnol. Bioeng.,2012年,vol.109, no.12,pp.2955-2961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト細胞にソルターゼ認識配列を介して結合された薬剤を有するヒト細胞であって、前記薬剤が、前記ヒト細胞の内在性の
非操作ポリペプチド
の細胞外部分と結合しており、前記ヒト細胞が、ソルターゼ認識配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されておらず、前記薬剤が、サイトカイン、抗原、共刺激分子、又はアジュバントを含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項2】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記ヒト細胞が、細胞性人工抗原提示細胞(aAPC)であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項3】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記薬剤が、抗原を含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項4】
請求項3に記載のヒト細胞において、前記抗原が、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、又は寄生体抗原であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項5】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記ヒト細胞が、骨髄造血幹細胞(HSC)であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記ヒト細胞が、骨髄系前駆細胞又はリンパ球前駆細胞であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項7】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記ヒト細胞が、赤血球であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項8】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記ヒト細胞が、リンパ球、単球、樹状細胞、マクロファージ、好中球、マスト細胞、好酸球、好塩基球、及びナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択されることを特徴とするヒト細胞。
【請求項9】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記薬剤が、共刺激分子を含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項10】
請求項9に記載のヒト細胞において、前記共刺激分子が、CD28ファミリー受容体に結合する分子、CD2ファミリー受容体に結合する分子、ICOSに結合する分子、CD27に結合する分子、又は4-1BB(CD137)に結合する分子であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項11】
請求項9に記載のヒト細胞において、前記共刺激分子が、B7分子、ICOSリガンド、TNFαファミリーメンバー、4-1BBL、又はOX40Lであることを特徴とするヒト細胞。
【請求項12】
請求項11に記載のヒト細胞において、前記共刺激分子が、4-1BBLであることを特徴とするヒト細胞。
【請求項13】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記薬剤が、アジュバントを含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項14】
請求項13に記載のヒト細胞において、前記アジュバントが、CD40リガンド、抗CD40抗体、TLRのリガンド、病原体由来分子パターン(PAMP)、PAMP模倣物、免疫刺激核酸、又はカチオンポリマーであることを特徴とするヒト細胞。
【請求項15】
請求項13に記載のヒト細胞において、前記アジュバントが、TLRのリガンドを含み、前記TLRが、TLR3、TLR4、及び/又はTLR9であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項16】
請求項14に記載のヒト細胞において、前記アジュバントが、カチオンポリマーを含み、前記カチオンポリマーが、ポリ(アミノ酸)であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項17】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記薬剤が、サイトカインを含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項18】
請求項17に記載のヒト細胞において、前記サイトカインが、インターロイキン、TNFα、コロニー刺激因子、インターフェロンα2a、インターフェロンα2b、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、白血病阻害因子(LIF)、又はオンコスタチンMであることを特徴とするヒト細胞。
【請求項19】
請求項18に記載のヒト細胞において、前記サイトカインが、インターロイキンであり、前記インターロイキンが、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、膜結合IL-15、IL-15、IL-17、IL-21、IL-23、IL-27、IL-35、又はIL-38であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項20】
請求項18に記載のヒト細胞において、前記サイトカインが、インターロイキンであり、前記インターロイキンが、IL-15又は膜結合IL-15であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項21】
請求項18に記載のヒト細胞において、前記サイトカインが、コロニー刺激因子であり、前記コロニー刺激因子が、顆粒細胞コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒細胞マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、又はマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)であることを特徴とするヒト細胞。
【請求項22】
請求項1に記載のヒト細胞において、前記ソルターゼ認識配列が、配列LPXTGを含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項23】
対象の免疫反応を調節するための、請求項1乃至22の何れか1項に記載のヒト細胞。
【請求項24】
疾患を有する対象を治療するための、請求項1乃至22の何れか1項に記載のヒト細胞。
【請求項25】
請求項24に記載のヒト細胞において、前記疾患が、感染性疾患、癌、自己免疫疾患、アレルギー、炎症状態、又は免疫不全を含むことを特徴とするヒト細胞。
【請求項26】
ヒト細胞に薬剤を結合させる方法であって、当該方法が、前記ヒト細胞を、ソルターゼ認識配列及び薬剤の両方を含むソルターゼ基質と接触させるステップを備え、
前記接触させるステップが、ソルターゼの存在下で、前記ソルターゼが前記ソルターゼ基質を前記ヒト細胞の内在性の
非操作ポリペプチド
の細胞外部分と結合させるのに好適な条件下で行われ、前記ヒト細胞が、ソルターゼ認識配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されておらず、前記薬剤が、サイトカイン、抗原、共刺激分子、又はアジュバントを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に従い、2013年5月10日に提出された米国仮出願第61/822,092号明細書、及び2014年2月21日に提出された米国仮出願第61/943,094号明細書に対する優先権を主張する。尚、これら文献の各々の内容は、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0002】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所により付与された助成金第R01A1087879号を得て実現された。政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
細菌ソルターゼは、初め、細菌細胞壁にタンパク質を共有結合させる酵素として同定された。例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ソルターゼAは、ソルターゼ認識モチーフ(例えば、LPXTG)を介して1群の多様な基質を認識して、トレオニン及びグリシン同士のペプチド結合を切断し、これによって、トレオニンのC末端側の残基を放出して、細胞壁前駆体によりin vivoでもたらされるペンタグリシン求核基のN末端とのアミド結合が生じる。
【0004】
ソルターゼによって触媒されるペプチド転移反応は、タンパク質の部位特異的修飾のための汎用的方法として生み出され、in vitro反応に適用されている。この方法は、一部には、酵素が、切断部位の近傍及び求核基において、非常に多様な基質を許容することから、汎用的であることが判明している。ソルターゼを用いた多くのタンパク質修飾方法では、修飾しようとするタンパク質は、C末端又はその付近に、ソルターゼ認識モチーフ(例えば、LPXTG)を含むように改変される。ソルターゼ、及び1つ又は複数のN末端グリシン残基を含む合成ペプチドと一緒にインキュベートすると、このような人工ソルターゼ基質は、アシル基転移反応を受け、その結果、合成ペプチドによるトレオニン残基C末端側の残基の交換が起こるために、C末端のタンパク質が合成ペプチドのN末端に結合する。場合によっては、修飾しようとするタンパク質を、そのN末端付近に1つ又は複数のN末端グリシン残基を含有するように改変する。ソルターゼ、並びにソルターゼ認識モチーフ及びソルターゼを含有する合成ペプチドと一緒にインキュベートすると、アシル基転移反応によって、修飾タンパク質による、合成ペプチドのトレオニン残基C末端側の残基の交換が起こるために、合成ペプチドが、タンパク質のN末端に結合する。何れかの手法で用いられる合成ペプチドを、任意の数の異なる部分に融合又は結合させてもよい。合成ペプチドとタンパク質をソルターゼ媒介アシル基転移によって結合させると、こうした部分は、タンパク質に結合された状態になる。
【0005】
ソルターゼ触媒反応は、とりわけ、in vitroでのタンパク質及び/若しくはペプチド同士の連結、タンパク質若しくはペプチドと固体支持体若しくはポリマーとの結合、並びにタンパク質若しくはペプチドへの標識の結合のために用いられている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一部の態様は、生存動物細胞により発現されたタンパク質のソルターゼ媒介修飾に関し、前記細胞は、ソルターゼ認識配列、又はソルターゼ媒介反応において求核アクセプター配列の役割を果たすことができる配列を含むタンパク質を発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。一部の実施形態では、細胞は、免疫系細胞である。一部の実施形態では、本方法は、動物細胞を遺伝子操作する必要がなく、しかも架橋試薬の使用も必要とせずに、対象の任意の部分と生存細胞との結合を可能にする。
【0007】
様々な実施形態に従って動物細胞により発現されるタンパク質に、非常に多様な薬剤の何れかを結合させることができる。一部の実施形態では、タンパク質は、以下:アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、粒子、又は反応性化学基、例えば、クリックケミストリーハンドル(click chemistry handle)を含む部分を含むソルターゼ基質との結合によって修飾する。
【0008】
一部の実施形態では、一方法は、生存動物細胞をソルターゼ、及びソルターゼ認識モチーフを含むソルターゼ基質と接触させるステップを含み、前記動物細胞は、ソルターゼ認識配列、又はソルターゼにより触媒される反応において求核アクセプター配列の役割を果たすことができる配列を含むタンパク質を発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、接触のステップは、ソルターゼが、ソルターゼ基質及び動物細胞の表面に露出したポリペプチドをアミド基転移するのに好適な条件下で実施し、これによって、ソルターゼ基質をポリペプチドに結合させる。一部の実施形態では、ソルターゼ基質は、ソルターゼ認識モチーフと、対象の部分、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、粒子、又はクリックケミストリーハンドルとを含む。ソルターゼ基質を、動物細胞の表面に露出したポリペプチドと結合させることによって、対象の部分を、ポリペプチドを発現する細胞に結合させる。
【0009】
一部の実施形態では、ソルターゼ基質は、抗体、例えば、一本鎖抗体、例えば、ラクダ科(camelid)抗体、単一ドメイン抗体、VHHドメイン、ナノボディ(nanobody)、又はscFvを含む。一部の実施形態では、ソルターゼ基質は、結合部分を含む。一部の実施形態では、結合部分は、抗体、ポリペプチド、アフィボディ(affibody)、アドネクチン、アンチカリン(anticalin)、又はアプタマーを含んでもよい。一部の実施形態では、結合部分は、ターゲティング部分としての役割を果たし得る。一部の実施形態では、結合部分は、標的細胞の細胞表面マーカに結合する。一部の実施形態では、標的細胞は、癌細胞、感染細胞、又は別の異常細胞若しくは罹患細胞である。一部の実施形態では、標的細胞は、正常細胞である。
【0010】
一部の実施形態では、ソルターゼ基質は、クリックケミストリーハンドル(click chemistry handle)である。クリックケミストリーハンドルは、クリックケミストリー反応に参加することができる反応基を提供する化学部分である。クリックケミストリー反応及びクリックケミストリー反応に好適な化学基は、当業者には周知であり、限定はしないが、末端アルキン、アジ化物、歪みアルキン、ジエン、ジエノフィル、アルコキシアミン、カルボニル、ホスフィン、ヒドラジド、チオール、及びアルケンが挙げられる。例えば、一部の実施形態では、アジ化物及びアルキンがクリックケミストリー反応に用いられる。一部の実施形態では、ソルターゼ触媒反応により動物細胞に結合した第1クリックケミストリーハンドルの反応基を、第2の実体に結合した第2反応基と反応させ、これによって、第2の実体を動物細胞と結合させる。第2反応基は、第1クリックケミストリーハンドルと適合性の第2クリックケミストリーハンドルであってよい。実体は、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、粒子、又は細胞であってよい。一部の実施形態では、実体は、抗体、例えば、一本鎖抗体、例えば、ラクダ科(camelid)抗体、単一ドメイン抗体、VHHドメイン、ナノボディ(nanobody)、又はscFvであってよい。一部の実施形態では、上記実体は、結合部分を含む。一部の実施形態では、結合部分は、抗体、ポリペプチド、アフィボディ(affibody)、アドネクチン、アンチカリン(anticalin)、又はアプタマーを含んでよい。
【0011】
本発明の一部の態様は、N末端又はその付近で結合した薬剤を含む1つ又は複数の修飾された内在性非遺伝子操作タンパク質を含む動物細胞を提供する。一部の実施形態では、上記薬剤は、対象の部分、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、粒子、又はクリックケミストリーハンドルを含む。一部の実施形態では、修飾された内在性タンパク質は、抗原結合ドメイン、例えば、抗体、例えば、ラクダ科(camelid)抗体、単一ドメイン抗体、VHHドメイン、ナノボディ(nanobody)、又はscFvの抗原結合ドメインを含む。
【0012】
本発明の一部の態様は、被験者、例えば、ヒト被験者に、修飾哺乳動物細胞、例えば、修飾ヒト細胞を投与するステップを含む。一部の実施形態では、修飾哺乳動物細胞は、癌細胞、感染細胞、若しくは他の異常細胞に対する被験者の免疫応答を増強するか、又は癌細胞、感染細胞、若しくは他の異常細胞を直接攻撃する。一部の実施形態では、修飾哺乳動物細胞は、内在性タンパク質と結合した治療薬又は検出剤を有し、薬剤を被験者に送達する役割を果たす。
【0013】
本発明の一部の実施形態は、キメラタンパク質、例えば、2つのタンパク質の結合により作製されるキメラタンパク質であって、前記タンパク質の少なくとも1つが、生存動物細胞によって発現された内在性タンパク質を提供する。一部の実施形態は、その表面に1つ又は複数の前記キメラタンパク質が結合した生存動物細胞、例えば、哺乳動物細胞を提供する。
【0014】
一部の実施形態は、ソルターゼ認識モチーフ(例えば、LPXTG)と、ソルターゼ認識モチーフに結合した部分とを含む、修飾された内在性哺乳動物タンパク質を提供する。例えば、1部分をソルターゼ認識モチーフのアミノ酸の1つに直接結合してもよく、又はリンカーを介して結合してもよい。一部の実施形態では、修飾済み内在性哺乳動物タンパク質は、抗原結合ドメイン、例えば、抗体、又は抗原結合抗体断片を含む。本明細書に記載する修飾済み哺乳動物タンパク質の例としては、例えば、一本鎖抗体、ラクダ科(camelid)抗体、VHHドメイン、単一ドメイン抗体、ナノボディ(nanobody)、scFv、アドネクチン、アフィボディ(affibody)、アンチカリン(anticalin)、アプタマー、又はクリックケミストリーハンドルがある。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフは、内在性ポリペプチドに対してN末端側に位置する。一部の実施形態では、前記部分は、ソルターゼ認識モチーフのN末端アミノ酸又はソルターゼ認識モチーフのN末端アミノ酸に対してN末端側に位置するアミノ酸に結合させる。
【0015】
一部の態様では、本開示は、動物細胞に薬剤を結合させる方法を提供し、この方法は、以下:ソルターゼ認識配列及び薬剤を含むソルターゼ基質と動物細胞を、ソルターゼの存在下で、ソルターゼが、ソルターゼ基質を、動物細胞により発現された内在性の非操作ポリペプチドと結合させるのに好適な条件下で接触させるステップを含む。一部の実施形態では、ソルターゼ基質を、前記細胞により発現された内在性の非操作ポリペプチドの細胞外部分に結合させる。一部の実施形態では、動物細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、免疫系細胞、例えば、リンパ球(例えば、T細胞又はNK細胞)、樹状細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、細胞傷害性細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、非不死化細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、初代細胞である。一部の実施形態では、動物細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のグリシンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のアラニンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ポリペプチドをソルターゼ触媒反応で使用できるようにする配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のグリシンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドをその表面に提示するように化学的に操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のアラニンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドをその表面に提示するように化学的に操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ポリペプチドをソルターゼ触媒反応で使用できるようにする部分をその表面に提示するように化学的に操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ポリペプチドをソルターゼ触媒反応で使用できるようにする配列を含むポリペプチドをその表面に提示するように化学的に操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、ソルターゼ認識配列、求核アクセプター配列、又はその両方を含むタンパク質をコード化する核酸構築物若しくはベクターにより、安定的若しくは一時的にトランスフェクト又は感染されていない。一部の実施形態では、前記細胞は遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、対象とする疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、又は被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、前記細胞は、被験者の身体における異常若しくは過剰細胞又は病原体の存在を特徴とする疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、あるいは、被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、前記細胞は、再生医療による治療が有用と考えられる、組織又は器官の劣化又は機能不全を特徴とする疾患の治療が必要な被験者を起原とする。一部の実施形態では、前記細胞は、癌、自己免疫疾患、若しくは感染症の評価又は治療が必要な被験者、あるいは、被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、ソルターゼは、ソルターゼ(Sortase)A、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ソルターゼAである。一部の実施形態では、ソルターゼ認識配列は、LPXTGを含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、キレート剤、造影剤、触媒、ポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、標識、エピトープ、抗原、治療薬、架橋剤、毒素、放射性同位体、抗体、抗体ドメイン、クリックケミストリーハンドル、ウイルス、細胞、又は粒子を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、対象のエピトープ又は抗原に結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、腫瘍抗原又はウイルス、細菌、真菌、若しくは寄生体抗原、又は細胞マーカに結合する。一部の実施形態では、前記薬剤は、以下:(a)ターゲティング部分、(b)共刺激ドメイン、(c)シグナル伝達ドメイン、(d)受容体ドメイン、(e)活性化ドメイン、(f)抗原受容体の抗原結合部分;(g)酵素;(h)細胞溶解性ドメイン;(i)アポトーシス促進性ドメインのうちの1つ又は複数を含む。一部の実施形態では、本方法は、対象の疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、又は被験者と免疫適合性のドナーに由来する細胞又は動物細胞の原細胞を取得するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、ソルターゼ、非結合ソルターゼ基質、又はその両方から、ソルターゼ基質が結合した動物細胞を分離するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、動物細胞に結合した薬剤を検出するステップを含む。一部の実施形態では、本方法は、薬剤が結合した動物細胞を被験者に投与するステップを含む。一部の態様では、本開示は、本方法の何れかに従って調製した単離動物細胞又は単離動物細胞の集団を提供する。一部の実施形態では、前記細胞又は細胞の集団は、ヒト被験者への投与に適している。
【0016】
一部の態様では、本開示は、薬剤が結合した、ソルターゼ認識配列を含む内在性の、非操作ポリペプチドを含む単離動物細胞を提供する。一部の態様では、ソルターゼ基質は、前記細胞により発現された内在性の、非操作ポリペプチドの細胞外部分に結合される。一部の実施形態では、前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、免疫系細胞、例えば、リンパ球(例えば、T細胞)、NK細胞、樹状細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、非不死化細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、初代細胞である。一部の実施形態では、動物細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のグリシンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のアラニンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、化学的に操作されていない。一部の実施形態では、細胞は、対象とする疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、又は被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、前記細胞は、被験者の身体における異常若しくは過剰細胞又は病原体の存在を特徴とする疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、あるいは、被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、前記細胞は、癌、自己免疫疾患、若しくは感染症の評価又は治療が必要な被験者、あるいは、被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、ソルターゼ認識配列は、LPXTGを含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、キレート剤、造影剤、触媒、ポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、標識、エピトープ、抗原、治療薬、架橋剤、毒素、放射性同位体、抗体、抗体ドメイン、クリックケミストリーハンドル、ウイルス、細胞、又は粒子を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、対象のエピトープ又は抗原に結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、腫瘍抗原又はウイルス、細菌、真菌、若しくは寄生体抗原に結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、以下:(a)ターゲティング部分、(b)共刺激ドメイン、(c)シグナル伝達ドメイン、(d)受容体ドメイン、(e)活性化ドメイン、(f)抗原受容体の抗原結合部分;(g)酵素;(h)細胞溶解性ドメイン;(i)アポトーシス促進性ドメインのうちの1つ又は複数を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、細胞と結合された後、蛍光活性化細胞選別(FACS)、蛍光顕微鏡法、ウエスタンブロット、ELISA、クロマトグラフィー、又は質量分析によって検出可能である。
【0017】
一部の態様では、本開示は、被験者に、薬剤を投与する方法を提供し、この方法は、以下:(a)本明細書に記載する単離動物細胞又は動物細胞の集団を用意するステップ、及び(b)前記単離動物細胞又は動物細胞の集団を前記被験者に投与するステップを含む。
【0018】
一部の態様では、本開示は、(i)ソルターゼ媒介反応において求核基の役割を果たすことができる配列を含む内在性の非操作ポリペプチドを含む動物細胞;(ii)ソルターゼ認識モチーフを含むソルターゼ基質;及び(iii)ソルターゼを含む組成物を提供する。一部の実施形態では、動物細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。一部の実施形態では、ソルターゼは、ソルターゼAである。一部の実施形態では、動物細胞は、免疫系細胞、例えば、リンパ球(例えば、T細胞若しくはNK細胞)又は樹状細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、細胞傷害性細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、非不死化細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、初代細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のグリシンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、ソルターゼ認識配列、1つ又は複数のアラニンを含む配列、又はその両方を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、動物細胞は、化学的に操作されていない。一部の実施形態では、細胞は、対象の疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、又は被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、細胞は、被験者の身体における異常若しくは過剰細胞又は病原体の存在を特徴とする疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、あるいは、被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、前記細胞は、癌、自己免疫疾患、若しくは感染症の評価又は治療が必要な被験者、あるいは、被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。一部の実施形態では、ソルターゼは、ソルターゼ(Sortase)A、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ソルターゼAである。一部の実施形態では、ソルターゼ認識配列は、LPXTGを含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、キレート剤、造影剤、触媒、ポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、標識、エピトープ、抗原、治療薬、架橋剤、毒素、放射性同位体、抗体、抗体ドメイン、クリックケミストリーハンドル、ウイルス、細胞、又は粒子を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、対象のエピトープ又は抗原に結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、前記作用因子は、腫瘍抗原又はウイルス、細菌、真菌、若しくは寄生体抗原に結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、以下:(a)ターゲティング部分、(b)共刺激ドメイン、(c)シグナル伝達ドメイン、(d)受容体ドメイン、(e)活性化ドメイン、(f)抗原受容体の抗原結合部分;(g)酵素;(h)細胞溶解性ドメイン;(i)アポトーシス促進性ドメインのうちの1つ又は複数を含む。一部の実施形態では、前記細胞は、対象とする疾患の評価若しくは治療が必要な被験者、又は被験者と免疫適合性のドナーを起原とする。
【0019】
一部の態様では、本開示は、対象の実体に対する被験者の免疫応答を調節する方法を提供し、この方法は、薬剤が結合したソルターゼ認識配列を含む内在性の非操作ポリペプチドを含む動物細胞を前記被験者に投与するステップを含み、前記薬剤は、対象の実体の抗原若しくはエピトープ、又は対象の実体の抗原若しくはエピトープに結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、免疫系細胞、例えば、リンパ球(例えば、T細胞若しくはNK細胞)又は樹状細胞である。一部の実施形態では、対象の実体は、癌細胞、感染細胞、又は病原体である。一部の実施形態では、前記抗原は、腫瘍抗原又はウイルス、細菌、真菌、若しくは寄生体抗原である。一部の実施形態では、免疫応答の調節は、対象の実体に向けられる免疫応答の刺激を含む。一部の実施形態では、対象の実体は、自己細胞又は構造体である。一部の実施形態では、対象の実体は、環境アレルゲンである。一部の実施形態では、免疫応答の調節は、対象の実体に向けられる免疫応答の阻害を含む。一部の実施形態では、免疫応答の調節は、対象の実体に向けられる免疫寛容の増大又は誘導を含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、以下:(a)ターゲティング部分、(b)共刺激ドメイン、(c)シグナル伝達ドメイン、(d)受容体ドメイン、(e)活性化ドメイン、(f)抗原受容体の抗原結合部分;(h)細胞溶解性ドメイン;(i)アポトーシス促進性ドメインのうちの1つ又は複数を含む。
【0020】
一部の態様では、本開示は、被験者の身体における物質を中和する方法を提供し、この方法は、薬剤が結合したソルターゼ認識配列を含む内在性の非操作ポリペプチドを含む動物細胞を前記被験者に投与するステップを含み、前記薬剤は、前記物質に結合する。一部の実施形態では、前記細胞は、毒素を含む。一部の実施形態では、前記物質は、炎症性サイトカインを含む。一部の実施形態では、前記薬剤は、抗体若しくはその抗原結合断片又は前記物質に結合する受容体の一部を含む。
【0021】
一部の態様では、本開示は、タンパク質の欠損の治療が必要な被験者を治療する方法を提供し、この方法は、薬剤が結合したソルターゼ認識配列を含む内在性の非操作ポリペプチドを含む動物細胞を前記被験者に投与するステップを含み、前記薬剤は、前記タンパク質を含む。一部の実施形態では、前記タンパク質は、酵素である。一部の実施形態では、前記タンパク質は、通常、血液中に存在する。
【0022】
一部の態様では、本開示は、疾患の治療が必要な被験者を治療する方法を提供し、この方法は、薬剤が結合したソルターゼ認識配列を含む内在性の非操作ポリペプチドを含む動物細胞を前記被験者に投与するステップを含み、前記薬剤は、前記疾患を治療する上で有効な治療薬を含む。一部の実施形態では、前記治療薬は、化学療法薬、抗感染症薬(例えば、抗菌、抗ウイルス、抗真菌、若しくは抗寄生体薬)、酵素、又はモノクローナル抗体を含む。一部の実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、被験者又は免疫適合性ドナーを起原とする。
【0023】
細胞を被験者に投与するステップを含む何れかの方法の一部の実施形態では、被験者は、ヒト被験者である。
【0024】
細胞を被験者に投与するステップを含む何れかの方法の一部の実施形態では、細胞は、ヒト細胞(例えば、オートロガス細胞又は免疫適合性細胞)であり、被験者は、ヒト被験者である。
【0025】
細胞を投与するステップを含む何れかの方法の一部の実施形態では、前記細胞は、例えば、静脈内で、循環系に投与する。
【0026】
以上の概要は、本発明の一部の態様についての概観を与えることを意図するものであり、本発明を限定するものと決して解釈すべきではない。本発明の別の態様、利点及び実施形態は、本明細書に記載されており、さらに別の実施形態は、本開示に基づいて当業者には明らかであろう。本明細書に引用する参照文献は全て、その全内容を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0027】
本発明の特定の態様の実施に際しては、分子生物学、細胞培養、組み換え核酸(例えば、DNA)技術、免疫学、トランスジェニック生物学、微生物学、核酸及びポリペプチド合成、検出、操作、及び定量、並びにRNA干渉の従来技術を使用してよく、これらの技術は、当業者の技能の範囲内である。例えば、以下を参照されたい:Ausubel,F.,et al.,(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,Current Protocols in Immunology,Current Protocols in Protein Science,及びCurrent Protocols in Cell Biology、全てJohn Wiley&Sons,N.Y.,edition(2008年12月現在)、又はさらに近年の版;Sambrook,Russell,及びSambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,2001;Harlow,E.and Lane,D.,Antibodies-A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,1988。様々な疾患及び診断並びにこうした疾患のいくつかの治療に関する情報は、以下:Longo,D.,et al.(eds.),Harrison’s Principles of Internal Medicine,18th Edition;McGraw-Hill Professional,2011にみいだされる。様々な治療薬及びヒトの疾患についての情報は、以下:Brunton,L.,et al.(eds.)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,12th Ed.,McGraw Hill,2010及び/又はKatzung,B.(ed.)Basic and Clinical Pharmacology,McGraw-Hill/Appleton&Lange;11th edition(2009年7月)にみいだされる。免疫系細胞により産生される及び/又は免疫系若しくは免疫応答に特定の役割を果たす、免疫系、免疫系細胞、及びタンパク質並びに他の分子に関する情報は、標準的免疫学教本、例えば、Paul,WE(ed.),Fundamental Immunology,Lippincott Williams&Wilkins;6th ed.,2008;Murphy,K,Janeway’s Immunobiology,8th ed.,Garland Science,Taylor&Francis Group,London and New York(2012)にみいだすことができる。本明細書で述べる特許、特許出願、書籍、論文、文書、データベース、ウェブサイト、刊行物、参照文献などは全て、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。本明細書と、組み込まれた参照文献の何れかとの間に不一致が生じる場合には、本明細書(その全ての補正を含む)に従うものとする。本出願人は、例えば、組み込まれた資料の何れかに基づき、本明細書を補正する、及び/又は明らかな誤りを訂正する権利を保留している。組み込まれた資料の内容の何れも本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本特許又は出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許又は出願公開のコピーは、要請及び必要な手数料の支払い後に、特許庁から提供される。
【0029】
【
図1】(A)エピトープタグを含む基質タンパク質の一部の放出と共に、ソルターゼ基質タンパク質が求核基に結合されるソルターゼ触媒アシル基転移反応の概略図を示す。(B)ソルターゼAを用いたLPETGタグ付きタンパク質のC末端に対するG(n)-プローブのソルターゼ触媒結合の概略図を示す。(C)ソルターゼAを用いたG(n)タグ付きタンパク質のN末端に対するプローブ-LPETGのソルターゼ触媒結合の概略図を示す。(D)細胞の表面に自然に露出したN末端グリシン残基に対するLPETGタグ付きプローブのソルターゼ触媒結合の概略図を示す。
図1(B)、1(C)、及び1(D)の(G)nは、1つ又は複数のグリシンの配列を表す。
【
図2】
図2は、非遺伝子操作哺乳動物細胞に対するビオチンのソルターゼ触媒結合を示すイムノブロットである。ブロットは、ソルターゼの存在(右)又は非存在下(左)での、マウス赤血球欠失脾細胞のインキュベーション後の細胞溶解物中のビオチン化タンパク質を示す。
【
図3】
図3は、非遺伝子操作哺乳動物細胞に対するビオチンのソルターゼ触媒結合を示すフローサイトメトリー分析である。マウス赤血球欠失脾細胞を、ソルターゼの存在又は非存在下で、ビオチン-LPETGプローブとインキュベートし、PBSで洗浄した後、フィコエリスリン(PE)結合ストレプトアビジンと一緒にインキュベートした。青色のヒストグラム(矢印で示す)は、ソルターゼAと一緒に(右)又はなしで(左)インキュベートした生存細胞にゲーティングしたPEシグナルを示す。黒色のヒストグラム(矢印なし)は、対照脾細胞に対するバックグラウンド染色を示す。
【
図4】
図4は、非遺伝子操作哺乳動物細胞に対するGFP特異的VHHのソルターゼ触媒結合を示すフローサイトメトリー分析である。マウス赤血球欠失脾細胞を、ソルターゼの存在又は非存在下で、C末端LPETGを含むGFP特異的VHHとインキュベートした。次に、細胞をPBSで洗浄した後、GFPとインキュベートした。青色のヒストグラム(矢印で示す)は、ソルターゼAと一緒に(右)又はなしで(左)インキュベートした生存細胞にゲーティングしたGFPシグナルを示す。黒色のヒストグラム(矢印なし)は、対照脾細胞に対するバックグラウンド染色を示す。
【
図5】(A)~(D)タンパク質のストレプトアビジン検出により明示される非遺伝子操作サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)細胞(A)、トキソプラズマ(T.gondii)細胞(B)、HEK293T細胞(C)、及びマウス脾細胞(D)に対するビオチン含有ソルターゼ基質のソルターゼ触媒結合を示すイムノブロットである。(E)ビオチン含有ソルターゼ基質(ビオチン-LPETG)とソルタギングした後、ストレプトアビジン-フィコエリスリン(ストレプトアビジンPE)に暴露した非遺伝子操作脾細胞のフローサイトメトリー分析を示すヒストグラムである。各ヒストグラムにおいて一番右側のピークは、ストレプトアビジンPE-標識脾細胞を表す。(F)赤血球欠失脾細胞を20μMのソルターゼA及び500μMのビオチン-LPETGと一緒に、表示時間にわたってインキュベートした。細胞を洗浄した後、ストレプトアビジン-PEとインキュベートし、フローサイトメトリーにより分析した。散布図は、最大染色(120分)に対して正規化した、各時点のストレプトアビジン-PEの平均蛍光強度を示す。
【
図6】
図6は、細胞表面にSIINFEKLペプチドを呈示する脾細胞に対するOTI Rag-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞(SIINFEKLペプチドに特異的なT細胞受容体を発現する)の細胞傷害性を示すフローサイトメトリー分析である。
【
図7】
図7は、活性化CD8+T細胞へのVHHの設置と、VHH標的抗原を発現する標的細胞に対するソルターゼ標識CD8+細胞の細胞傷害性の立証を示す。表示のように、OTI Rag-/-マウス由来のin vitro活性化CD8+T細胞を、500μM、50μM、若しくは5μMのエンハンサー-LPETG若しくはVHH7-LPETGと共に又はそれなしで、20μMのソルターゼA存在又は非存在下、室温で1時間インキュベートした。(A)対照又はソルタギング済み細胞を精製GFPとインキュベートした。結合エンハンサー-LPETGを介したGFPの結合をフローサイトメトリーにより分析した。B)対照又はソルタギング済み細胞を精製GFPとインキュベートした。結合GFPの量を、GFPタンパク質に対するSDS-PAGE及びウエスタンブロットにより細胞溶解物を分析することによって推定し、シグナルをGFP標準(右側レーン)と比較した。C、D)対照(C)又はソルタギング済み細胞(D)をWTマウス由来の脾細胞と一緒に20分インキュベートした。ヒストグラムは、操作されていないOTI CD8T細胞と一緒にインキュベートした細胞と比較した、ヨウ化プロピジウム陰性CD4及びCD19細胞のパーセンテージを示す。エンハンサーVHHは、GFPに結合するVHHである。VHH7は、MHCクラスIIに結合するが、GFPに結合しないVHHである。インキュベーション後、細胞を洗浄し、GFPと接触させた後、フローサイトメトリーに付して、細胞に結合したGFPを検出した。
【
図8】(a)トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)タキゾイトを500μMのTAMRA-LPETG及び20μMのソルターゼAと15分インキュベートした。次に、寄生体を洗浄した後、ヒト包皮線維芽細胞と一緒にインキュベートした。画像は、明視野と蛍光視野の近位を示している。黒い矢印:細胞内寄生体。白い矢印:侵入寄生体。スケールバー:10マイクロメートル。右側パネル:拡大画像。(b)エンハンサー-ソルタギング又はVHH7-ソルタギング済みトキソプラズマ(T.gondii)のインキュベーション後のCD19陰性(薄いグレーのバー)又はCD19陽性(濃いグレーのバー)脾細胞内でのソルタギング済みトキソプラズマ(T.gondii)陽性細胞のパーセンテージを示すヒストグラム。(c)WT又はクラスII MHC k.o.マウス由来の精製B細胞を、トキソプラズマ(T.gondii)、又はエンハンサー若しくはVHH7とソルタギングしたトキソプラズマ(T.gondii)と一緒に、感染多重度5でインキュベートした。感染から15時間後、細胞溶解を測定し、非感染(0%)及びデタージェント溶解B細胞(100%)に対して正規化した。エラーバー:標準偏差(n=3)。
**:スチューデントのt検定で、p<0.01。
【
図9】
図9は、37℃で、細胞上での2つの基質:LPETG-ビオチン及び単一ドメイン抗GFP VHH(エンハンサー)の設置を時間の関数として示す速度論的分析である。
【
図10】
図10は、インタクトな細胞へのLPETG-ビオチンの設置の後のストレプトアビジン-PEによる染色を示す。パネルは、表示温度(右下)での酵素なし(左側パネル)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)ソルターゼA(中央パネル)及びCs2+非依存性ソルターゼヘプタミュータント(右側パネル)との反応を示す。ヘプタミュータントの突然変異は、配列番号4及び7に示す。
【
図11】
図11は、まずエンハンサー、次にLPETG-ビオチンの連続的設置を示すが、これは、エンハンサーで既に修飾された細胞上のLPETGを受容する求核基の役割を果たすことができる部位が細胞上に残っていることを明らかにしている。赤血球欠失脾細胞を、500μMのエンハンサー-LPETGと共に又はそれなしで、並びに20μMソルターゼAと一緒にインキュベートした。60分後、500μMのビオチン-LPETGを、表示した反応物に15分かけて添加した。ドットプロットは、洗浄後に、ソルタギング済み細胞によるAPC結合ストレプトアビジン及びGFPの結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
具体的な官能基及び化学用語の定義を以下に、より詳細に記載する。本発明の目的のために、化学元素は、元素の周期表(Periodic Table of the Elements)、CASバージョン、物理化学ハンドブック(Handbook of Chemistry and Physics)、第75版、内表紙(inside cover)に従って同定し、具体的な官能基は、一般に、そこに記載されている通りに定義される。さらに、有機化学の一般原理、並びに機能性部分及び反応性は、以下:Organic Chemistry,Thomas Sorrell,University Science Books,Sausalito,1999;Smith and March March’s Advanced Organic Chemistry,5th Edition,John Wiley&Sons,Inc.,New York,2001;Larock,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers,Inc.,New York,1989;Carruthers,Some Modern Methods of Organic Synthesis,3rd Edition,Cambridge University Press,Cambridge,1987に記載されている。
【0031】
本明細書で用いられる場合、「脂肪族」という用語は、飽和及び不飽和、非芳香族、直鎖(すなわち、非分岐)、分岐、非環式、及び環式(すなわち、炭素環式)炭化水素を含み、これらは、任意選択で、1つ又は複数の官能基で置換される。当業者には理解されるように、「脂肪族」は、本明細書において、これらに限定されないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、及びシクロアルキニル部分を含むことが意図される。従って、本明細書で用いられる場合、「アルキル」という用語は、直鎖、分岐及び環式アルキル基を含む。同様の取り決めが、「アルケニル」、「アルキニル」などの一般的用語にも適用される。さらに、本明細書で用いられる場合、「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」などの用語は、置換及び非置換基の両方を包含する。特定の実施形態では、本明細書で用いられる場合、「脂肪族」は、1~20個の炭素原子を有する脂肪族基(環式、非環式、置換、非置換、分岐若しくは非分岐)(C1~20脂肪族)を指すのに用いられる。特定の実施形態では、脂肪族基は、1~10個の炭素原子を有する(C1~10脂肪族)。いくつかの実施形態では、脂肪族基は、1~6個の炭素原子を有する(C1~6脂肪族)。いくつかの実施形態では、脂肪族基は、1~5個の炭素原子を有する(C1~5脂肪族)。いくつかの実施形態では、脂肪族基は、1~4個の炭素原子を有する(C1~4脂肪族)。いくつかの実施形態では、脂肪族基は、1~3個の炭素原子を有する(C1~3脂肪族)。いくつかの実施形態では、脂肪族基は、1~2個の炭素原子を有する(C1~2脂肪族)。脂肪族基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす、本明細書に記載する置換基の何れかが挙げられる。
【0032】
本明細書で用いられる場合、「アルキル」という用語は、単一の水素原子の除去により、1~20個の炭素原子を含む炭化水素部分から得られる飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。一部の実施形態では、本発明で使用されるアルキル基は、1~20個の炭素原子を含む(C1~20アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~15個の炭素原子を含む(C1~15アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~10個の炭素原子を含む(C1~10アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~8個の炭素原子を含む(C1~8アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~6個の炭素原子を含む(C1~6アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~5個の炭素原子を含む(C1~5アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~4個の炭素原子を含む(C1~4アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~3個の炭素原子を含む(C1~3アルキル)。別の実施形態では、使用されるアルキル基は、1~2個の炭素原子を含む(C1~2アルキル)。アルキルラジカルの例として、限定はしないが、以下:メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、sec-ペンチル、イソ-ペンチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、sec-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル、n-ウンデシル、ドデシルなどが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよい。アルキル基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アルキレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するアルキル基から得られるビラジカルを指す。アルキレン基は、環式又は非環式、分岐又は非分岐、置換又は非置換であってよい。アルキレン基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「アルケニル」という用語は、単一の水素原子の除去により、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖若しくは分岐鎖炭化水素部分から得られる一価の基を指す。いくつかの実施形態では、本発明で使用されるアルケニル基は、2~20個の炭素原子を含む(C2~20アルケニル)。一部の実施形態では、使用されるアルケニル基は、2~15個の炭素原子を含む(C2~15アルケニル)。別の実施形態では、使用されるアルケニル基は、2~10個の炭素原子を含む(C2~10アルケニル)。また別の実施形態では、アルケニル基は、2~8個の炭素原子を含む(C2~8アルケニル)。また別の実施形態では、アルケニル基は、2~6個の炭素を含む(C2~6アルケニル)。また別の実施形態では、アルケニル基は、2~5個の炭素を含む(C2~5アルケニル)。また別の実施形態では、アルケニル基は、2~4個の炭素を含む(C2~4アルケニル)。また別の実施形態では、アルケニル基は、2~3個の炭素原子を含む(C2~3アルケニル)。また別の実施形態では、アルケニル基は、2個の炭素を含む(C2アルケニル)。アルケニル基としては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1-メチル-2-ブテン-1-イルなどが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよい。アルケニル基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アルケニレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するアルケニル基から得られるビラジカルを指す。アルケニレン基は、環式又は非環式、分岐又は非分岐、置換又は非置換であってよい。アルケニレン基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0034】
本明細書で用いられる場合、「アルキニル」という用語は、単一の水素原子の除去により、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖若しくは分岐鎖炭化水素部分から得られる一価の基を指す。いくつかの実施形態では、本発明で使用されるアルキニル基は、2~20個の炭素原子を含む(C2~20アルキニル)。一部の実施形態では、使用されるアルキニル基は、2~15個の炭素原子を含む(C2~15アルキニル)。別の実施形態では、使用されるアルキニル基は、2~10個の炭素原子を含む(C2~10アルキニル)。また別の実施形態では、アルキニル基は、2~8個の炭素原子を含む(C2~8アルキニル)。また別の実施形態では、アルキニル基は、2~6個の炭素を含む(C2~6アルキニル)。また別の実施形態では、アルキニル基は、2~5個の炭素を含む(C2~5アルキニル)。また別の実施形態では、アルキニル基は、2~4個の炭素を含む(C2~4アルキニル)。また別の実施形態では、アルキニル基は、2~3個の炭素原子を含む(C2~3アルキニル)。また別の実施形態では、アルキニル基は、2個の炭素を含む(C2アルキニル)。代表的アルキニル基として、限定はしないが、エチニル、2-プロピニル(プロパルギル)、1-プロピニルなどが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよい。アルキニル基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アルキニレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するアルキニレン基から得られるビラジカルを指す。アルキニレン基は、環式又は非環式、分岐又は非分岐、置換又は非置換であってよい。アルキニレン基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0035】
本明細書で用いられる場合、「炭素環式」又は「カルボシクリル」という用語は、3~10個の炭素環原子を含む環式脂肪族基を指す(C3~10炭素環式)。炭素環式基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0036】
本明細書で用いられる場合、「ヘテロ脂肪族」という用語は、本明細書に定義する脂肪族部分を指し、飽和及び非飽和の、非芳香族、直鎖(すなわち、非分岐)、分岐、非環式、環式(すなわち、複素環式)、又は多環式炭化水素の両方を含み、これらは、任意選択で、1つ又は複数の官能基で置換され、さらに、炭素原子の間に、1個又は複数のヘテロ原子(例えば、酸素、イオウ、窒素、リン、又はケイ素原子)をさらに含む。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族部分は、1個又は複数の置換基による、この部分の1個又は複数の水素原子の独立した置換によって置換される。当業者には理解されるように、「ヘテロ脂肪族」は、本明細書において、限定はしないが、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルケニル、及びヘテロシクロアルキニル部分を含むものとする。従って、「ヘテロ脂肪族」という用語は、「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルケニル」、「ヘテロアルキニル」などの用語を包含する。さらに、本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルケニル」、「ヘテロアルキニル」などの用語は、置換された基及び置換されていない基の何れも包含する。いくつかの実施形態では、本明細書で用いられる場合、「ヘテロ脂肪族」は、1~20個の炭素原子と1~6個のヘテロ原子を有するヘテロ脂肪族基(環式、非環式、置換、非置換、分岐又は非分岐)(C1~20ヘテロ脂肪族)を示すために用いられる。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族基は、1~10個の炭素原子と1~4個のヘテロ原子を含む(C1~10ヘテロ脂肪族)。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族基は、1~6個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C1~6ヘテロ脂肪族)。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族基は、1~5個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C1~5ヘテロ脂肪族)。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族基は、1~4個の炭素原子と1~2個のヘテロ原子を含む(C1~4ヘテロ脂肪族)。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族基は、1~3個の炭素原子と1個のヘテロ原子を含む(C1~3ヘテロ脂肪族)。いくつかの実施形態では、ヘテロ脂肪族基は、1~2個の炭素原子と1個のヘテロ原子を含む(C1~2ヘテロ脂肪族)。ヘテロ脂肪族基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0037】
本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルキル」という用語は、1個又は複数のヘテロ原子(例えば、酸素、イオウ、窒素、リン、又はケイ素原子)を炭素原子の間に含む、本明細書に定義するアルキル基を指す。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~20個の炭素原子と1~6個のヘテロ原子を有する(C1~20ヘテロアルキル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~10個の炭素原子と1~4個のヘテロ原子を含む(C1~10ヘテロアルキル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~6個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C1~6ヘテロアルキル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~5個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C1~5ヘテロアルキル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~4個の炭素原子と1~2個のヘテロ原子を含む(C1~4ヘテロアルキル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~3個の炭素原子と1個のヘテロ原子を含む(C1~3ヘテロアルキル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキル基は、1~2個の炭素原子と1個のヘテロ原子を含む(C1~2ヘテロアルキル)。本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルキレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するヘテロアルキル基から得られるビラジカルを指す。ヘテロアルキレン基は、環式又は非環式、分岐又は非分岐、置換又は非置換であってよい。ヘテロアルキレン基の置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0038】
本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルケニル」という用語は、1個又は複数のヘテロ原子(例えば、酸素、イオウ、窒素、リン、又はケイ素原子)を炭素原子の間に含む、本明細書に定義するアルケニル基を指す。いくつかの実施形態では、ヘテロアルケニル基は、2~20個の炭素原子と1~6個のヘテロ原子を有する(C2~20ヘテロアルケニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルケニル基は、2~10個の炭素原子と1~4個のヘテロ原子を含む(C2~10ヘテロアルケニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルケニル基は、2~6個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C2~6ヘテロアルケニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルケニル基は、2~5個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C2~5ヘテロアルケニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルケニル基は、2~4個の炭素原子と1~2個のヘテロ原子を含む(C2~4ヘテロアルケニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルケニル基は、2~3個の炭素原子と1個のヘテロ原子を含む(C2~3ヘテロアルケニル)。本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルケニレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するヘテロアルケニル基から得られるビラジカルを指す。ヘテロアルケニレン基は、環式又は非環式、分岐又は非分岐、置換又は非置換であってよい。
【0039】
本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルキニル」という用語は、1個又は複数のヘテロ原子(例えば、酸素、イオウ、窒素、リン、又はケイ素原子)を炭素原子の間に含む、本明細書に定義するアルキニル基を指す。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキニル基は、2~20個の炭素原子と1~6個のヘテロ原子を有する(C2~20ヘテロアルキニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキニル基は、2~10個の炭素原子と1~4個のヘテロ原子を含む(C2~10ヘテロアルキニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキニル基は、2~6個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C2~6ヘテロアルキニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキニル基は、2~5個の炭素原子と1~3個のヘテロ原子を含む(C2~5ヘテロアルキニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキニル基は、2~4個の炭素原子と1~2個のヘテロ原子を含む(C2~4ヘテロアルキニル)。いくつかの実施形態では、ヘテロアルキニル基は、2~3個の炭素原子と1個のヘテロ原子を含む(C2~3ヘテロアルキニル)。本明細書で用いられる場合、「ヘテロアルキニレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するヘテロアルキニル基から得られるビラジカルを指す。ヘテロアルキニレン基は、環式又は非環式、分岐又は非分岐、置換又は非置換であってよい。
【0040】
本明細書で用いられる場合、「複素環式」、「複素環」又は「ヘテロシクリル」という用語は、環式ヘテロ脂肪族基を指す。複素環式基は、非芳香族で、部分的に不飽和又は完全に飽和した3~10員環系を指し、大きさが3~8原子の単環、並びに二環式及び三環式系を含み、これらは、非芳香環に融合した5-又は6員アリール又はヘテロアリール基を含んでもよい。これらの複素環は、酸素、イオウ、及び窒素から独立に選択される1~3個のヘテロ原子を有するものを含み、窒素及びイオウヘテロ原子は、任意選択で酸化されていてもよく、また窒素ヘテロ原子は、任意選択で4級化されていてもよい。いくつかの実施形態では、複素環式という用語は、非芳香族5-、6-、若しくは7員環又は多環式基を指し、少なくとも1つの環原子は、O、S、及びNから選択されるヘテロ原子であり(窒素及びイオウヘテロ原子は、任意選択で酸化されていてもよい)、残りの環原子は炭素であり、ラジカルは、環原子の何れかを介して残りの分子に結合されている。ヘテロシクリル基として、限定はしないが、酸素、イオウ、及び窒素から独立に選択される1~3個のヘテロ原子を有する二又は三環式基が挙げられ、(i)各5員環は、0~2つの二重結合を有し、各6員環は、0~2つの二重結合を有し、各7員環は、0~3つの二重結合を有しており、(ii)窒素及びイオウヘテロ原子は、任意選択で酸化されていてもよく、(iii)窒素ヘテロ原子は、任意選択で4級化されていてもよく、また(iv)前記複素環の何れかは、アリール又はヘテロアリール環に融合されていてもよい。複素環の例としては、アザシクロプロパニル、アザシクロブタニル、1,3-ジアザチジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、アゾカニル、チアラニル、チエタニル、テトラヒドロチオフェニル、ジチオラニル、チアシクロヘキサニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロプラニル、ジオキサニル、オキサチオラニル、モルホリニル、チオキサニル、テトラヒドロナフチルなどが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよい。置換基として、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0041】
本明細書で用いられる場合、「アリール」という用語は、3~20個の環原子を有する芳香族単環又は多環式環系を指し、その全ての環原子が炭素であり、これらは、置換又は非置換の何れであってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、「アリール」は、1つ、2つ、若しくは3つの芳香環を有する単環、二環、若しくは三環式C4~C20芳香環系を指し、このようなものとして、限定はしないが、フェニル、ビフェニル、ナフチルなどが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよい。アリール置換基としては、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アリレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するアリール基から得られるアリールビラジカルを指す。アリレン基は、置換又は非置換の何れであってもよい。アリレン基の置換基としては、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。さらに、アリレン基は、リンカー基として、本明細書に定義するアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、又はヘテロアルキニレン基に組み込んでもよい。
【0042】
本明細書で用いられる場合、「ヘテロアリール」という用語は、3~20個の環原子を有する芳香族単環又は多環式環系を指し、そのうち1個の環原子は、S、O、及びNから選択され;0、1、又は2個の環原子は、S、O、及びNから独立に選択される別のヘテロ原子であり;残りの環原子は炭素であり、ラジカルは、環原子の何れかを介して残りの分子に結合されている。ヘテロアリールの例として、限定はしないが、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピラダニジル、トリアジニル、テトラジニル、ピロリジニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、インダゾリル、キノリニル、イソキノリニル、キノリジニル、シンノリニル、キナゾリニル、フタラジニル、ナフトリジニル、キノキサリニル、チオフェニル、チアナフテニル、フラニル、ベンゾフラニル、ベンゾチアゾリル、チアゾリニル、イソチアゾリル、チアジアゾリニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、オキサジアジオリル、オキサジアジオリルなどが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよい。ヘテロアリール置換基としては、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。本明細書で用いられる場合、「ヘテロアリレン」という用語は、2個の水素原子の除去により、本明細書に定義するヘテロアリール基から得られるビラジカルを指す。ヘテロアリレン基は、置換又は非置換の何れであってもよい。さらに、ヘテロアリレン基は、リンカー基として、本明細書に定義するアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、又はヘテロアルキニレン基に組み込んでもよい。ヘテロアリレン基の置換基としては、限定はしないが、安定した部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0043】
本明細書で用いられる場合、「アシル」という用語は、置換アルキル基のサブセットであり、式:-C(=O)RA、-C(=O)ORA、-C(=O)-O-C(=O)RA、-C(=O)SRA、-C(=O)N(RA)2、-C(=S)RA、-C(=S)N(RA)2、及び-C(=S)S(RA)、-C(=NRA)RA、-C(=NRA)ORA、-C(=NRA)SRA、及び-C(=NRA)N(RA)2を有する基を指し、式中、RAは、水素;ハロゲン;置換又は非置換ヒドロキシル;置換又は非置換チオール;置換又は非置換アミノ;アシル;任意選択で置換された脂肪族;任意選択で置換されたヘテロ脂肪族;任意選択で置換されたアルキル;任意選択で置換されたアルケニル;任意選択で置換されたアルキニル;任意選択で置換されたアリール;任意選択で置換されたヘテロアリール、脂肪族オキシ(aliphaticoxy)、ヘテロ脂肪族オキシ(heteroaliphaticoxy)、アルキルオキシ、ヘテロアルキルオキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、脂肪族チオキシ(aliphaticthioxy)、ヘテロ脂肪族チオキシ(heteroaliphaticthioxy)、アルキルチオキシ、ヘテロアルキルチオキシ、アリールチオキシ、ヘテロアリールチオキシ、モノ若しくはジ脂肪族アミノ(aliphaticamino)、モノ若しくはジヘテロ脂肪族アミノ(heteroaliphaticamino)、モノ若しくはジアルキルアミノ、モノ若しくはジヘテロアルキルアミノ、モノ若しくはジアリールアミノ、又はモノ若しくはジヘテロアリールアミノであるか;あるいは、2つのRA基は、一緒になって5~6員ヘテロ環を形成する。アシル基の例としては、アルデヒド(-CHO)、カルボン酸(-CO2H)、ケトン、ハロゲン化アシル、エステル、アミド、イミン、炭酸塩、カルバメート、及び尿素が挙げられる。アシル置換基として、限定はしないが、安定な部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0044】
本明細書で用いられる場合、「アシレン」という用語は、置換アルキレン、置換アルケニレン、置換アルキニレン、置換ヘテロアルキレン、置換ヘテロアルケニレン、又は置換ヘテロアルキニレン基のサブセットであり、一般式:-R0-(C=X1)-R0-、-R0-X2(C=X1)-R0-、又は-R0-X2(C=X1)X3-R0-を有するアシル基を指し、式中、X1、X2、及びX3は、独立に、酸素、イオウ、又はNRrであり、NRrは、水素又は任意選択で置換された脂肪族であり、R0は、任意選択で置換された、本明細書に定義するアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、又はヘテロアルキニレン基である。R0が、アルキレンであるアシレン基の例としては、以下:-(CH2)T-O(C=O)-(CH2)T-;-(CH2)T-NRr(C=O)-(CH2)T-;-(CH2)T-O(C=NRr)-(CH2)T-;-(CH2)T-NRr(C=NRr)-(CH2)T-;-(CH2)T-(C=O)-(CH2)T-;-(CH2)T-(C=NRr)-(CH2)T-;-(CH2)T-S(C=S)-(CH2)T-;-(CH2)T-NRr(C=S)-(CH2)T-;-(CH2)T-S(C=NRr)-(CH2)T-;-(CH2)T-O(C=S)-(CH2)T-;-(CH2)T-(C=S)-(CH2)T-;又は-(CH2)T-S(C=O)-(CH2)T-などが挙げられ、これらは、1つ又は複数の置換基を担持してもよく:ここで、Tの例は各々、独立に、0~20の整数である。アシレン置換基として、限定はしないが、安定な部分の形成をもたらす本明細書に記載の置換基の何れかが挙げられる。
【0045】
本明細書で用いられる場合、「アミノ」という用語は、式(-NH2)の基を指す。「置換(された)アミノ」は、一置換アミン(-NHRh)又は二置換アミン(-NRh
2)の何れかを指し、ここで、Rh置換基は、安定な部分の形成をもたらす本明細書に記載の任意の置換基(例えば、アミノ保護基;脂肪族、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロ脂肪族、複素環式、アリール、ヘテロアリール、アシル、アミノ、ニトロ、ヒドロキシル、チオール、ハロ、脂肪族アミノ、ヘテロ脂肪族アミノ、アルキルアミノ、ヘテロアルキルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、アルキルアリール、アリールアルキル、脂肪族オキシ(aliphaticoxy)、ヘテロ脂肪族オキシ(heteroaliphaticoxy)、アルキルオキシ、ヘテロアルキルオキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、脂肪族チオキシ(aliphaticthioxy)、ヘテロ脂肪族チオキシ(heteroaliphaticthioxy)、アルキルチオキシ、ヘテロアルキルチオキシ、アリールチオキシ、ヘテロアリールチオキシ、アシルチオキシなどで、これらの各々は、さらに置換されていても、されていなくてもよい)である。いくつかの実施形態では、二置換アミン基(-NRh
2)のRh置換基は、5又は6員複素環を形成する。
【0046】
本明細書で用いられる場合、「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」という用語は、式(-OH)の基を指す。「置換(された)ヒドロキシル」は、式(-ORi)の基を指し、ここで、Riは、安定な部分の形成をもたらす本明細書に記載の任意の置換基(例えば、ヒドロキシル保護基;脂肪族、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロ脂肪族、複素環式、アリール、ヘテロアリール、アシル、ニトロ、アルキルアリール、アリールアルキルなどで、これらの各々は、さらに置換されていても、されていなくてもよい)であってよい。
【0047】
本明細書で用いられる場合、「チオ」又は「チオール」という用語は、式(-SH)の基を指す。「置換(された)チオール」は、式(-SRr)の基を指し、ここで、Rrは、安定な部分の形成をもたらす本明細書に記載の任意の置換基(例えば、チオール保護基;脂肪族、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロ脂肪族、複素環式、アリール、ヘテロアリール、アシル、スルフィニル、スルホニル、シアノ、ニトロ、アルキルアリール、アリールアルキルなどで、これらの各々は、さらに置換されていても、されていなくてもよい)であってよい。
【0048】
本明細書で用いられる場合、「イミノ」という用語は、式(=NRr)の基を指し、ここで、Rrは、水素、又は安定な部分の形成をもたらす本明細書に記載の任意の置換基(例えば、アミノ保護基;脂肪族、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロ脂肪族、複素環式、アリール、ヘテロアリール、アシル、ヒドロキシル、アルキルアリール、アリールアルキルなどで、これらの各々は、さらに置換されていても、されていなくてもよい)に相当する。
【0049】
本明細書で用いられる場合、「アジ化物」又は「アジド」という用語は、式(-N3)の基を指す。
【0050】
本明細書で用いられる場合、「ハロ」及び「ハロゲン」は、フッ素(フルオロ、-F)、塩素(クロロ、-Cl)、臭素(ブロモ、-Br)、及びヨウ素(ヨード、-I)から選択される元素を指す。
【0051】
「脱離基」は、不均一結合開裂において1対の電子と共に脱離する分子断片を指す、当技術分野で理解されている用語であり、ここで、分子断片は、アニオン又は中性分子である。例えば、Smith,March’s Advanced Organic Chemistry 6th ed.(501-502)を参照されたい。脱離基の例として、限定はしないが、ハロ(例えば、クロロ、ブロモ、ヨード)並びに例えば、式:-OC(=O)SRaa、-OC(=O)Raa、-OCO2SRaa、-OC(=O)N(Rbb)2、-OC(=NRbb)Raa、-OC(=NRbb)ORaa、-OC(=NRbb)N(Rbb)2、-OS(=O)Raa、-OSO2Raa、-OP(Rcc)2、-OP(Rcc)3、-OP(=O)2Raa、-OP(=O)(Raa)2、-OP(=O)(Rcc)2、-OP(=O)2(Rbb)2、又は-OP(=O)(Rbb)2の活性化置換ヒドロキシル基が挙げられ、上記式中、Raaは、任意選択で置換された脂肪族、任意選択で置換されたヘテロ脂肪族、任意選択で置換されたアリール、又は任意選択で置換されたヘテロアリールであり;Rbbは、水素、アミノ保護基、任意選択で置換された脂肪族、任意選択で置換されたヘテロ脂肪族、任意選択で置換されたアリール、又は任意選択で置換されたヘテロアリールであり;Rccは、水素、任意選択で置換された脂肪族、任意選択で置換されたヘテロ脂肪族、任意選択で置換されたアリール、又は任意選択で置換されたヘテロアリールである。
【0052】
本明細書で用いられる場合、「薬剤」という用語は、ソルターゼ認識モチーフに結合させることができる任意の分子、実体、又は部分を指す。例えば、薬剤は、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、ポリヌクレオチド、炭水化物、検出可能な標識、結合物質、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、合成ポリマー、認識エレメント、脂質、リンカー、又は小分子のような化学化合物などであってよい。一部の実施形態では、薬剤は、結合物質、例えば、リガンド又はリガンド結合分子、ストレプトアビジン、ビオチン、抗体又は抗体断片である。一部の実施形態では、薬剤は、遺伝子的にコード化することができない。一部の実施形態では、薬剤は、脂質、炭水化物、又は小分子である。本発明の実施形態での使用に好適な別の薬剤は、当業者には明らかであろう。本発明は、これに関して限定されない。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「アミノ酸」という用語は、あらゆる天然アミノ酸及び非天然アミノ酸を含む。アミノ酸として、限定はしないが、天然αアミノ酸、例え、ポリペプチド及びタンパク質に存在する20種類の一般的天然αアミノ酸(A、R、N、C、D、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、V;標準アミノ酸とも呼ばれる)、非標準αアミノ酸、並びにβアミノ酸が挙げられる。様々な既知の非標準(例えば、非天然)アミノ酸があり、その何れが本明細書に記載するポリペプチド又はタンパク質に含有されていてもよい。例えば、以下:S.Hunt,The Non-Protein Amino Acids in Chemistry and Biochemistry of the Amino Acids,edited by G.C.Barrett,Chapman及びHall,1985並びに/又はHughes,B.(ed.),Amino Acids,Peptides and Proteins in Organic Chemistry,Volumes 1-4,Wiley-VCH(2009-2011);Blaskovich,M.,Handbook on Syntheses of Amino Acids General Routes to Amino Acids,Oxford University Press,2010を参照されたい。アミノ酸配列に関して本明細書で用いられる場合、用語X又はXaaは、任意のアミノ酸残基、例えば、任意の天然及び/又は非天然アミノ酸残基を表す。
【0054】
本明細書で用いられる場合、「結合物質」又は「結合部分」という用語は、別の分子若しくは実体と、高い親和性で結合するあらゆる分子若しくは実体を指す。一部の実施形態では、結合物質は、高い特異性で、その結合パートナーと結合する。結合物質の例として、限定はしないが、抗体、抗体断片、受容体、リガンド、アプタマー、及びアドネクチンが挙げられる。
【0055】
「クリックケミストリー(click chemistry)」という用語は、スクリプス研究所(Scripps Research Institute)のK.Barry Sharplessにより紹介された化学哲学を指し、これは、反応基を含む小さな単位を互いに結合することにより、迅速に、しかも高い信頼性で、共有結合を生み出すように設計された化学を表す。クリックケミストリーは、特定の反応を指すものではなく、限定はしないが、天然に存在する反応を模倣する反応などの概念を指す。一部の実施形態では、クリックケミストリー反応は、モジュラー式で、範囲が広く、高い化学収率をもたらし、無害な副産物を生成し、立体特異的で、大きな熱力学的駆動力>84kJ/モルを呈示して、単一反応産物との反応に好都合であり、及び/又は生理学的条件下で実施することができる。一部の実施形態では、クリックケミストリー反応は、高いアトムエコノミー(atom economy)を示し、単純な反応条件下で実施することができ、容易に入手可能な出発材料及び試薬を使用し、毒性溶媒を使用しないか、又は無害な若しくは容易に除去される溶媒(好ましくは水)を使用し、及び/又は非クロマトグラフィー方法(結晶化又は蒸留)による単純な生成物単離を提供する。
【0056】
「クリックケミストリーハンドル(click chemistry handle)」という用語は、クリックケミストリー反応に参加することができる反応体、又は反応基を指す。例えば、歪みアルキン(例えば、シクロオクチン)は、歪促進環状付加に参加することができるため、クリックケミストリーハンドルである(例えば、表1を参照)。一般に、クリックケミストリー反応は、互いに反応することができるクリックケミストリーハンドルを含む少なくとも2つの分子を必要とする。互いに反応性のこのようなクリックケミストリーハンドルペアは、本明細書において、パートナークリックケミストリーハンドルと呼ばれる場合もある。例えば、アジ化物は、シクロオクチン又は何れか他のアルキンに対するパートナークリックケミストリーハンドルである。本発明の一部の態様に従う使用に好適なクリックケミストリーハンドルの例は、本明細書に、例えば、表1及び2に記載する。他の好適なクリックケミストリーハンドルは、当業者には周知である。
【0057】
「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」という用語は、本明細書において置き換え可能に用いられ、ペプチド(アミド)結合により互いに連結したアミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、あらゆるサイズ、構造、若しくは機能のタンパク質、ペプチド、又はポリペプチドを指す。典型的に、タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、長さが少なくとも3アミノ酸である。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、個別のタンパク質又はタンパク質の集合体を指し得る。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチド中の1つ又は複数のアミノ酸は、例えば、炭水化物基、ヒドロキシル基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、結合のためのリンカーなどの化学実体の付加、官能化、又はその他の修飾などによって、修飾してもよい。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、単一の分子であってもよく、又は多分子複合体であってよい。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、天然のタンパク質又はペプチドの断片だけであってもよい。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、天然、組み換え、若しくは合成、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。一部の実施形態では、ペプチドは、長さが3~60アミノ酸、例えば、長さが3~15、15~30、30~45、又は45~60アミノ酸であってよい。
【0058】
「結合した(conjugated)」又は「結合(conjugation)」という用語は、2つの分子、例えば、2つのタンパク質又は1つのタンパク質及び小分子又は他の実体と、別のもう1つとの結合を指し、これは、これらの分子が、直接又は間接的共有結合又は非共有結合相互作用によって連結されるように行われる。ソルターゼ媒介反応による結合に関して、結合は、共有結合を介して行われ、その形成は、ソルターゼにより触媒される。クリックケミストリーハンドルを介した結合に関して、結合は、2つのクリックケミストリーハンドルの反応により形成される共有結合を介して行われる。一部の実施形態では、タンパク質は、別の分子、例えば、第2タンパク質と、前記タンパク質が翻訳された後(また、一部の実施形態では、タンパク質が単離された後)、タンパク質と他方の分子との共有結合を形成することにより、翻訳後に結合する。一部の実施形態では、2つの分子は互いに直接結合する。一部の実施形態では、2つの分子は、両分子をつなぐリンカーを介して結合される。例えば、2つのタンパク質を互いに結合して、タンパク質融合物を形成する一部の実施形態では、2つのタンパク質は、ポリペプチドリンカー、例えば、一方のタンパク質のC末端を他方のタンパク質のN末端とつなぐアミノ酸配列を介して結合してもよい。一部の実施形態では、タンパク質N末端を第2タンパク質のC末端又はその付近に結合することにより、N-C結合キメラタンパク質を作製する。一部の実施形態では、2つのタンパク質をそれぞれのC末端で結合して、C-C結合キメラタンパク質を作製する。一部の実施形態では、2つのタンパク質をそれぞれのN末端で結合して、N-N結合キメラタンパク質を作製する。
【0059】
本明細書で用いられる場合、「検出可能な標識」は、少なくとも1つのエレメント、同位体、又は官能基が組み込まれた部分を指し、これによって、標識が結合された分子、例えば、タンパク質若しくはポリペプチド、又は他の実体の検出が可能になる。標識は、直接結合することもできる(すなわち、結合を介して)、又はテザー(例えば、任意選択で置換されたアルキレン;任意選択で置換されたアルケニレン;任意選択で置換されたアルキニレン;任意選択で置換されたヘテロアルキレン;任意選択で置換されたヘテロアルケニレン;任意選択で置換されたヘテロアルキニレン;任意選択で置換されたアリレン;任意選択で置換されたヘテロアリレン;若しくは任意選択で置換されたアシレン、又はテザーを構築することができるこれらの任意の組み合わせ)により結合することもできる。標識を分子、例えば、タンパク質、ポリペプチド、若しくは他の実体の任意の位置に結合するか、又は組み込んでもよいことは理解されよう。
【0060】
一般に、標識は、次の5つのクラスの何れか1つ(又は複数)に属するものでよい:a)限定はしないが、2H、3H、13C、14C、15N、18F、31P、32P、35S、67Ga、76Br、99mTc(Tc-99m)、111In、123I、125I、131I、153Gd、169Yb、及び186Reなどの放射性又は重同位体であってよい、同位体部分を含有する標識;b)酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ)に結合が可能な抗体又は抗原であってよい、免疫部分を含有する標識;c)着色、発光、りん光、又は蛍光部分である標識(例えば、蛍光標識フルオレセインイソチオシアネート(FITC));d)1つ又は複数の光アフィニティ部分を有する標識;並びにe)1つ又は複数の既知結合パートナーに対するリガンドである標識(例えば、ビオチン-ストレプトアビジン、FK506-FKBP)。いくつかの実施形態では、標識は、放射性同位体、好ましくは、β粒子などの検出可能な粒子を放出する同位体を含む。いくつかの実施形態では、標識は、蛍光部分を含む。いくつかの実施形態では、標識は、蛍光標識フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を含む。いくつかの実施形態では、標識は、1つ又は複数の既知結合パートナーとのリガンド部分を含む。いくつかの実施形態では、標識はビオチンである。いくつかの実施形態では、標識は、蛍光ポリペプチド(例えば、GFP若しくは増強GFP(EGFP)などのその誘導体又はルシフェラーゼ(例えば、ホタル(firefly)、ウミシイタケ(Renilla)、又はガウシア(Gaussia)ルシフェラーゼ)である。いくつかの実施形態では、標識を好適な物質(例えば、ルシフェリン)と反応させて、検出可能なシグナルを生成してもよいことは理解されよう。蛍光タンパク質の非限定的例としては、GFP及びその誘導体、赤、黄色などの様々な色の光を発する発色団を含むタンパク質、並びにシアン蛍光タンパク質などが挙げられる。蛍光タンパク質の例として、例えば、以下:シリウス(Sirius)、アジュライト(Azurite)、EBFP2、TagBFP、mTurquoise、ECFP、セルレアン(Cerulean)、TagCFP、mTFP1、mUkG1、mAG1、AcGFP1、TagGFP2、EGFP、mWasabi、EmGFP、TagYPF、EYFP、トパーズ(Topaz)、SYFP2、ビーナス(Venus)、シトロン(Citrine)、mKO、mKO2、mOrange、mOrange2、TagRFP、TagRFP-T、mStrawberry、mRuby、mCherry、mRaspberry、mKate2、mPlum、mNeptune、mTomato、T-Sapphire、mAmetrine、mKeimaが挙げられる。例えば、Chalfie,M.及びKain,SR(eds.)Green fluorescent protein:properties,applications,and protocols(Methods of biochemical analysis,v.47)を参照されたい。GFP及び多数のその他の蛍光若しくは発光タンパク質の論述については、Wiley-Interscience,Hoboken,N.J.,2006、及び/又はChudakov,DM,et al.,Physiol Rev.90(3):1103-63,2010。一部の実施形態では、標識は、ダーククエンチャー、例えば、発蛍光団からの励起エネルギーを吸収して、エネルギーを熱として消散する物質を含む。
【0061】
「アジュバント」という用語は、抗原に対する免疫応答を加速、延長、又は増強する物質を包含する。一部の実施形態では、アジュバントは、例えば、それ自体は、特定の抗原応答作用を持たずに、比較的非特異的様式で、免疫応答を増強するリンパ系活性化因子として役立つ。例えば、一部の実施形態では、アジュバントは、自然免疫系の1つ又は複数の成分を刺激する。いくつかの実施形態では、アジュバントは、特定の1つ又は複数の抗原と組み合わせて、例えば、ワクチンの成分として使用される場合、抗原特異的免疫応答を増強する。アジュバントとして、限定はしないが、以下のものが挙げられる:水酸化アルミニウム若しくはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、リソレシチンなどの界面活性物質、プルロニック(pluronic)ポリオール、アンフィゲン(Amphigen)、アビリジン(Aviridine)、細菌リポ多糖、3-O-デアシル化モノホスホリルリピドA、合成リピドA類似体若しくはアミノアルキルグルコサミンリン酸化合物(AGP)、又はこれらの誘導体若しくは類似体(例えば、米国特許第6,113,918号明細書を参照)、L121/スクアレン、ムラミルジペプチド、ポリアニオン、ペプチド、サポニン、油若しくは炭化水素及び水エマルジョン、ISCOMS(免疫刺激複合体)のような粒子など。一部の実施形態では、アジュバントは、樹状細胞成熟を刺激する。一部の実施形態では、アジュバントは、抗原提示細胞(APC)、例えば、樹状細胞による、B7又はB7などの1つ又は複数の共刺激因子の発現を刺激する。一部の実施形態では、アジュバントは、CD40アゴニストを含む。一部の実施形態では、CD40アゴニストは、抗CD40抗体を含む。一部の実施形態では、CD40アゴニストは、CD40リガンド、例えば、CD40Lを含む。一部の実施形態では、アジュバントは、トール様受容体(TLR)のリガンドを含む。一部の実施形態では、薬剤は、TLR1~13の1つ又は複数、例えば、少なくともTLR3、TLR4、及び/又はTLR9のリガンドである。一部の実施形態では、アジュバントは、病原体由来分子パターン(PAMP)又はその模倣物を含む。一部の実施形態では、アジュバントは、免疫刺激核酸、例えば、二本鎖核酸、例えば、二本鎖RNA又はその類似体を含む。例えば、一部の実施形態では、アジュバントは、ポリリボイノシン酸;ポリリボシチジル酸(ポリIC)を含む。一部の実施形態では、アジュバントは、非メチル化ヌクレオチド、例えば、一本鎖CpGオリゴヌクレオチドを含む核酸を含む。一部の実施形態では、アジュバントは、カチオンポリマー、例えば、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニン、又はポリ-L-オルニチンなどのポリ(アミノ酸)を含む。一部の実施形態では、アジュバントは、核酸(例えば、dsRNA、ポリIC)及びカチオンポリマーを含む。例えば、一部の実施形態では、アジュバントは、ポリIC及びポリ-L-リシンを含む。一部の実施形態では、アジュバントは、ポリIC、ポリ-L-リシン及びカルボキシメチルセルロース(ポリICLCと呼ばれる)を含む複合体を含む。一部の実施形態では、アジュバントは、CD40アゴニスト及びTLRリガンドを含む。例えば、一部の実施形態では、アジュバントは、(i)抗CD40抗体と(ii)免疫刺激核酸及び/又はカチオンポリマーを含む。一部の実施形態では、アジュバントは、抗CD40抗体、免疫刺激核酸、及びカチオンポリマーを含む。一部の実施形態では、アジュバントは、(i)抗CD40抗体と(ii)ポリIC又はポリ(ICLC)を含む。様々な実施形態で用いられるアジュバントの例は、例えば、国際公開第2007/137427号パンフレット及び/又は国際公開第2009/086640号パンフレット及び/又はそれらの中の1つ又は複数の参照文献に開示されている。いくつかの実施形態では、アジュバントは、ヒト被験者への投与について薬学的に許容される。いくつかの実施形態では、アジュバントは、非ヒト被験者への投与、例えば、獣医科用途について薬学的に許容される。
【0062】
本明細書で用いられる場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖タンパク質を指す。抗体及び免疫グロブリンという用語は、置き換え可能に用いられる。一部の例外を除いて、哺乳動物の抗体は、典型的に、各々が、2つの大きな重鎖と2つの小さな軽鎖とを有する基本的構造単位から構成される。複数の異なるタイプの抗体重鎖、及び複数の異なる種類の抗体があり、これらは、それらが有する重鎖に基づいて異なるアイソタイプに分類される。哺乳動物では、5つの異なる抗体アイソタイプ、IgG、IgA、IgE、IgD及びIgMが知られており、これらは、異なる役割を果たし、それらが遭遇する各々異なるタイプの異物に対して適切な免疫応答を向かわせるのを助ける。一部の実施形態では、抗体は、IgG抗体、例えば、IgG1、2、3、又は4ヒトサブクラスの抗体である。非哺乳動物種由来(例えば、鳥類、爬虫類、両生類由来)の抗体もこの用語の範囲に含まれ、例えば、IgY抗体がある。
【0063】
抗体の一部のみが、抗原の結合に関与しており、また、抗原結合抗体断片、その調製及び使用は、当業者には周知である。当技術分野で公知のように、抗体分子の小部分にすぎないパラトープが、抗体とそのエピトープの結合に関与している(概要は、Clark,W.R.(1986)The Experimental Foundations of Modern Immunology Wiley&Sons,Inc.,New York;Roitt,I.(1991)Essential Immunology,7th Ed.,Blackwell Scientific Publications,Oxfordを参照)。pFc’及びFc領域は、例えば、補体カスケードのエフェクターであるが、抗原結合には関与していない。pFc’領域が酵素により切断されているか、又はpFc’領域なしで生成された抗体は、F(ab’)フラグメント(又はF(ab’)2フラグメント)と呼ばれるが、これは、インタクトな抗体の抗原結合部位の両方を保持する。同様に、Fc領域が酵素により切断されているか、又はFc領域なしで生成された抗体は、Fabフラグメントと呼ばれるが、これは、インタクトな抗体分子の抗原結合部位の一方を保持する。Fabフラグメントは、共有結合した抗体軽鎖と、Fdを示す抗体重鎖の一部から構成される。Fdフラグメントは、抗体特異性の主要決定基であり(単一Fdフラグメントは、抗体特異性を改変することなく、最大10の異なる軽鎖と結合し得る)、Fdフラグメントは、単離に際して、エピトープ結合能力を保持する。
【0064】
当技術分野では公知のように、抗体の抗原結合部分内に、抗原のエピトープと直接相互作用する相補性決定領域(CDR)と、パラトープの三次構造を維持するフレームワーク領域(FR)がある(概略は、Clark,W.R.(1986)The Experimental Foundations of Modern Immunology Wiley&Sons,Inc.,New York;Roitt,I.(1991)Essential Immunology,7th Ed.,Blackwell Scientific Publications,Oxfordを参照)。IgG免疫グロブリンの重鎖Fd断片及び軽鎖の両方に、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)によりそれぞれ隔てられた4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)がある。CDR、特にCDR3領域、とりわけ重鎖CDR3が、主として抗体特異性を担う。
【0065】
哺乳動物抗体の非CDR領域は、元の抗体のエピトープ特異性を保持しながら、非特異的又は異種特異的抗体の類似領域により置換され得ることが、当技術分野において十分に確立されている。これは、非ヒトCDRが、ヒトFR及び/又はFc/pFcの領域に共有結合されて、機能性抗体を生成する「ヒト化」抗体の開発及び使用において、最も明瞭に証明されている。例えば、米国特許第4,816,567号明細書、第5,225,539号明細書、第5,585,089号明細書、第5,693,762号明細書、及び第5,859,205号明細書を参照されたい。
【0066】
また、完全ヒトモノクローナル抗体も、ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子座の大きな部分を形質転換したマウスを免疫することにより、調製することができる。これらのマウス(XenoMouse(Abgenix)、HuMAbマウス(Medarex/GenPharm))の免疫後、標準的ハイブリドーマ技術に従い、モノクローナル抗体を調製することができる。これらのモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有するため、ヒトに投与されたとき、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を誘発しないであろう。
【0067】
従って、当業者には明らかであるように、本発明は、以下:F(ab’)、Fab、Fv、及びFd断片;Fc及び/若しくはFR及び/若しくはCDR1及び/若しくはCDR2及び/若しくは軽鎖CDR3領域が、相同性ヒト若しくは非ヒト配列によって置換されている抗体;FR及び/若しくはCDR1及び/若しくはCDR2及び/若しくは軽鎖CDR3領域が、相同性ヒト若しくは非ヒト配列によって置換されている抗体;FR及び/若しくはCDR1及び/若しくはCDR2及び/若しくは軽鎖CDR3領域が、相同性ヒト若しくは非ヒト配列によって置換されている抗体;FR及び/若しくはCDR1及び/若しくはCDR2領域が、相同性ヒト若しくは非ヒト配列によって置換されている抗体も提供する。一部の実施形態では、本発明は、いわゆる一本鎖抗体(例えば、scFv)、(単一)ドメイン抗体(sdAb)、及び一部の実施形態では、細胞内抗体として用いられる他の抗体を提供する。一本鎖可変断片(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域を含むタンパク質であり、上記重鎖(VH)及び軽鎖(VL)は、約10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドで連結されている。二価(又は二価(bivalent))一本鎖可変断片(ジ-scFv、ビ-scFv)は、2つのscFvを連結することにより、例えば、2つのVH及び2つのVL領域を含む単一のペプチド鎖を生成して、タンデムscFvを取得することにより作製することができる。2つのsdAb又はsdAb及びscFvも、単一のポリペプチド鎖としてこれらを生成することにより、連結することができる。一部の実施形態では、2つのscFvは、ディアボディの形態で連結する。同じscFv鎖上の2つのドメイン(VH及びVL)同士の対合を可能にするには短すぎる(例えば、約10未満のアミノ酸、例えば、約5アミノ酸)リンカーを用いることにより、これらのドメインは、相互ではなく、別のscFv鎖の相補的ドメインと対合して、2つの抗原結合部位を形成する。2つの異なる抗体A及びBのVH及びVLを連結することにより、2つの異なる「クロスオーバー」鎖VHA-VLBとVHB-VLAを形成し、その結果、これらの鎖が、会合時に、抗原結合部位を新たに形成することによって、二重特異性因子を作出することができる(例えば、P.,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.1993;90(14):6444-8を参照)。ドメイン抗体、ラクダ科(camelid)及びラクダ化抗体、並びにそれらの断片、例えば、VHHドメイン、又はナノボディ、例えば、Ablynx NV及びDomantisの特許及び公開特許出願に記載されているものも、抗体という用語に包含される。さらに、軟骨魚類(cartilaginous fish)(例えば、サメ、ガンギエイ(skate)及びエイ(ray))に存在する免疫グロブリン新規(若しくは新たな)抗原受容体(IgNAR)から得られる、又はこれに由来するVHドメインも包含される。例えば、国際公開第05/18629号パンフレット;Barelle,C.,et al.,Adv Exp Med Biol.(2009)655:49-62、及び/又はAntibody Phage DisplayにおけるFlajnik及びDooleyによる章:Methods and Protocols,Methods in Molecular Biology,2009を参照されたい。本明細書で用いられる場合、「抗原結合抗体断片」という用語は、パラトープを含む抗体の断片、すなわち、インタクトな抗体と同様の特異性及び親和性で、抗体が結合する抗原に結合する抗体の断片を指す。本開示が抗体について述べる場合、本開示は、こうした抗体の抗原結合抗体断片に関する、又はそれらを使用する実施形態を提供する。
【0068】
抗体、例えば、完全ヒトモノクローナル抗体は、ファージディスプレイ(又は、酵母ディスプレイ、リボソームディスプレイ、細菌ディスプレイなどの他のディスプレイ方法)を用いて、同定することができる。ディスプレイライブラリー、ファージディスプレイライブラリーは入手可能であり(及び/又は当業者により作製することができる)、これらをスクリーニングして、例えば、パニング(panning)を用いて、対象の抗原に結合する抗体を同定することができる。例えば、Sidhu,S.(ed.)Phage Display in Biotechnology and Drug Discovery(Drug Discovery Series;CRC Press;1st ed.,2005;Aitken,R.(ed.)Antibody Phage Display:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology)Humana Press;2nd ed.,2009を参照されたい。一部の実施形態では、好適な宿主細胞、例えば、原核又は真核宿主細胞において、組み換え方法を用いて、モノクローナル抗体を生成する。一部の実施形態では、微生物宿主細胞(例えば、細菌、真菌)を用いる。抗体又はその部分をコード化する核酸を好適なベクター(例えば、プラスミド)に挿入して、例えば、発現用の宿主細胞に導入してもよい。一部の実施形態では、昆虫細胞を用いる。一部の実施形態では、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞を用いる。一部の実施形態では、抗体を産生する宿主細胞により抗体が分泌され、これを,例えば、培地から単離することができる。組み換えタンパク質の生成及び精製は、当業者には周知である。こうした方法を適用して、本明細書に記載の対象の任意のタンパク質を生成することができ、また、任意選択で、精製してもよいことは理解されよう。
【0069】
「キメラ抗原受容体」(CAR)という用語は、結合ドメイン、例えば、抗原結合部分を含むドメインに融合した細胞活性化ドメインを含むポリペプチドを指す。キメラ抗原受容体を発現する細胞は、「CAR細胞」と呼ばれる場合がある。一般に、結合ドメインは、ポリペプチドの細胞外ドメインであるか、又はそこに位置し、また、活性化ドメインは、細胞質中の細胞内部に位置する(細胞質ドメイン)。結合部分がリガンドに結合すると、活性化ドメインは、活性化シグナルをCAR細胞に伝達し、細胞は、活性化ドメインを介したシグナル伝達によって活性化された状態となる。例えば、抗原結合部分がその同種抗原(例えば、タンパク質、脂質、又は他の分子)に結合すると、活性化ドメインは、活性化シグナルをCAR細胞に伝達し、細胞は、活性化ドメインを介したシグナル伝達によって活性化された状態となる。抗原が標的細胞により発現されれば、抗原結合部分は、CAR細胞の特異性を対象の標的細胞に向かわせる。細胞媒介細胞傷害性などのCAR細胞のエフェクター機能は、標的細胞に向けられる。一部の実施形態では、CAR細胞は、T細胞である。一部の実施形態では、CAR細胞は、NK細胞である。一部の実施形態では、結合ドメイン、例えば、抗原結合ドメインは、一本鎖可変断片を含む。結合ドメインは、典型的に、シグナルペプチドに先行されて、新生CARを小胞体に向かわせた後、表面発現を指令する。一般に、任意の真核シグナルペプチド配列を用いてよい。一部の実施形態では、CARの最もアミノ末端の成分に自然に結合したシグナルペプチドを用いる。成熟型CARにおいてシグナルペプチドは切断され、従って、存在しないことは理解されよう。一部の実施形態では、細胞活性化ドメインは、T細胞受容体複合体(TCR-CD3複合体)などの抗原受容体のシグナル伝達ドメインの生物学的に活性の部分を含む。例えば、一部の実施形態では、細胞活性化ドメインは、T細胞を活性化するのに十分なT細胞受容体CDζ(ゼータ)鎖(CD247)又はCD3ε(イプシロン)鎖の細胞質ドメイン(細胞内ドメイン)の少なくとも一部を含む。一部の実施形態では、CARは、CDζ鎖の細胞質ドメインの全部又は実質的に全部を含む。一部の実施形態では、1、2、又は3つのITAMモチーフを含むCDζの少なくとも一部を用いる。CARは、典型的に、細胞外ドメインと細胞質ドメインの間に膜貫通ドメイン(TMD)を含む。一般に、TMDは、あらゆる膜貫通タンパク質、例えば、あらゆるヒト膜貫通タンパク質に存在するTMDの少なくとも一部を含む。一部の実施形態では、膜貫通タンパク質は、原形質膜にわたるタンパク質である。一部の実施形態では、CARのTMDの配列は、少なくとも天然に存在する膜貫通タンパク質のα螺旋領域の配列を含む。一部の実施形態では、TMDは、T細胞受容体のα又はβ鎖、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、又はCD154に由来する。一部の実施形態では、合成TMDを用いてもよい。当業者であれば、このようなドメインの多数の例を認識し、TMDを容易に選択するか、又は合成TMDを設計することができる(例えば、TMDの特徴及びこのようなドメインの多数の例の論述については、Sharpe,HJ,et al,Cell.2010l 142(1):158-69を参照されたい(例えば、表S2))。一部の実施形態では、CARは、CD3ゼータ膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを含む。一部の実施形態では、CARは、結合ドメインを膜貫通ドメインと連結する、1又は複数のアミノ酸長さのスペーサ領域(例えば、ポリペプチドリンカー)を含む。抗原認識を促進するために、結合ドメインを様々な方向に配向させる上で十分可変性のスペーサ領域を選択してもよい。例示的スペーサ領域は、例えば、免疫グロブリン、例えば、IgG1由来のヒンジ領域、免疫グロブリンのCH2CH3領域、又はCD3の部分を含んでもよい。一部の実施形態では、CARの細胞質ドメインは、活性化ドメインと、共刺激シグナルをもたらす少なくとも1つのドメインとを含む。このような共刺激ドメインを含むタンパク質の例として、T細胞に別のシグナルを提供するCARの細胞質部分に対する、CD28、4-1BB、DAP10、ICOS、OX40、CD30、CD40、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKNKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、並びにこれらの任意の組み合わせ)が挙げられる。一部の実施形態では、CARは、CARを発現するCAR細胞の能力及び/又は永続性/増殖を増大しうる複数の共刺激ドメインを含み、これによって、CD3ゼータ-CD28-4-1BB又はCD3ゼータ-CD28-OX40のような設計が得られる(何れの場合も、分子の名称は、具体的シグナル伝達ドメインが天然に存在するタンパク質を示す)。本明細書に記載するこうしたドメインの順序は、限定的と考えるべきではない。一部の実施形態では、CARの膜貫通ドメインは、CARの細胞質ドメインの最も膜近位にある成分の膜貫通ドメインである。例えば、CARの細胞質ドメインが、CD3ゼータ-CD28-4-1BBを含み、CD3ゼータ成分が、原形質膜の内面に最も接近して位置する(すなわち、最少のアミノ酸によって原形質膜の内面から隔てられている)場合、CARは、CD3ゼータの膜貫通ドメインを含む。CARのドメインの何れも、互いに直接融合されるのではなく、スペーサを介して連結し得ることを理解すべきである。好適な方法、例えば、レンチウイルス若しくはγレトロウイルスベクター遺伝子移入又はエレクトロポレーションによって、CARをコード化する核酸構築物を細胞に導入することができる。
【0070】
CAR、CAR細胞、CAR及びCAR細胞を作製、培養、操作、保存、及び使用する方法、CAR細胞を作製するのに有用な試薬、例えば、CARをコード化する核酸構築物及びベクターの例は、以下の刊行物に記載されている:米国特許出願公開第20040038886号明細書、同第20110158957号明細書;同第20120148552号明細書、同第20130071414号明細書、同第20130266551号明細書、同第20130280285号明細書;同第20130287748号明細書;PCT出願公開:国際公開第2012/079000号パンフレット(PCT/US11/064191)及び/又はFinney,HM,et al.,J Immunol.2004;172(1):104-13;Kalos,M.,et al.,Sci.Transl.Med.3,95ra73(2011);Porter,DL,et al.,N Engl J Med 2011;365:725-33。こうしたCAR、CAR細胞、CAR及びCAR細胞を作製、培養、操作、保存、及び使用する方法、CAR細胞を作製するのに有用な試薬、例えば、CARをコード化する核酸構築物及びベクターは、本発明のいくつかの実施形態で使用することができる。さらに、前述の参照文献の何れに記載されている方法、組成物試薬、培地、又は装置も、適用可能であればいつでも、CAR細胞に関する、又はCAR細胞に関しない本発明の実施形態で用いてよい。こうした方法、試薬、培地、又は装置は、例えば、細胞を取得、培養、維持、操作、拡大、保存、及び/又は投与することに関連し得る。一部の態様では、薬剤を、細胞により発現される内在性の非遺伝子操作ポリペプチドに結合させる、本明細書に記載の細胞のソルタギング(sortagging)方法を、前述の参照文献の何れかに記載されているCAR細胞、又はそれらに記載のように作製したCAR細胞に適用してもよい。一部の実施形態では、ソルタギング済みCAR細胞を用いて、CARが結合する抗原を発現する細胞を含む癌を治療するか、又は感染細胞が、CARが結合する抗原を発現する感染症を治療することもできる。一部の実施形態では、特定の抗原又はエピトープに結合する抗原結合部分を含む任意のCARは、同じ抗原又はエピトープに結合する異なる抗原結合部分で、前記抗原結合部分を置換することによって、修飾することができる。一部の実施形態では、特定の抗原又はエピトープに結合する抗原結合部分を含む任意のCARは、異なる抗原に結合する抗原結合部分で、前記抗原結合部分を置換することにより修飾して、こうした異なる抗原又はエピトープに結合するCARを生成することができる。このような修飾は、CARを生成するのに用いる核酸構築物を修飾することにより、例えば、異なる抗原結合部分をコード化する配列で、前記抗原結合部分をコード化する配列を置換することによって、達成され得る。様々な腫瘍抗原(例えば、CD19、CD20など)に特異的に結合するCARを発現するCAR T細胞及びCAR NK細胞が、癌(例えば、血液系悪性疾患)を有するヒト被験者の治療を目的とする臨床試験で試験されており、一部の患者において有益性が証明されている。本発明は、臨床試験において適正な安全性が判明したあらゆるCAR細胞のソルタギングを考慮する。
【0071】
本明細書で用いられる場合、「キメラ抗体」という用語は、別の分子、例えば、第2の抗体、若しくは抗原結合抗体断片に結合させた抗体、又は抗原結合抗体断片を指す。任意の抗体若しくは抗原結合抗体断片、又は抗原結合タンパク質ドメインを用いて、キメラ抗体を作製することができる。一部の実施形態では、キメラ抗体は、2つの結合した抗体、若しくは抗体断片、又は抗体断片に結合した1つの抗体を含み、結合分子の抗原結合ドメインは、同じ抗原の異なる抗原又は異なるエピトープに結合する。このようなキメラ抗体は、2つの異なる抗原/エピトープに結合することから、本明細書では「二重特異性」と呼ぶ。
【0072】
「共刺激因子」という用語は、抗原に加えて、ナイーブ免疫系細胞、例えば、ナイーブT細胞若しくはナイーブB細胞の刺激を促進するか、又はそれに必要とされ、及び/又は応答の持続若しくは修飾に寄与する刺激(又は第2のシグナル)をもたらす分子を指す。天然に存在する共刺激因子には、APCの表面に発現されるか、又はこれにより分泌される様々な分子があり、これらの分子は、例えば、T細胞の表面上の受容体に結合する。共刺激因子が結合する受容体の例としては、例えば、CD28ファミリーメンバー(例えば、CD28及び誘導性共刺激因子(ICOS)及びCD2ファミリーメンバー(例えば、CD2、SLAM)が挙げられる。共刺激因子の例としては、B7ファミリー分子の様々なメンバー、例えば、B7-1及びB7-2(CD28に結合する)及びICOSリガンド(ICOSに結合する)が挙げられる。一部の実施形態では、共刺激因子は、TNFαファミリーメンバーである。例えば、ナイーブT細胞上のその受容体CD27に結合するDC上のCD70は、共刺激シグナルを送達し;APC上の4-1BBL(CD137Lとも呼ばれる)は、T細胞上のその受容体CD137に結合することにより、共刺激シグナルを送達する。相互作用の効果は二方向性が可能であり、例えば、APCは、それらが刺激する細胞との相互作用により共刺激を受けられることは理解されよう。OX40(CD134)は、典型的に、活性化から約24~72時間後に発現される二次共刺激分子であり;そのリガンドであるOX40Lは、その活性化後にAPC上に発現される。一部の実施形態では、APCによる共刺激因子の発現は、アジュバント、例えば、CD40リガンド、PAMP若しくはPAMP模倣物、又はTLRリガンドにより刺激される。一部の実施形態では、共刺激因子は、可溶性分子である。一部の実施形態では、可溶性共刺激因子は、組み換えにより生成されるポリペプチドであり、これは、天然に存在する共刺激因子の細胞外ドメインの少なくとも機能性部分又はその機能性変異体を含む。
【0073】
「内在性ポリペプチド」という用語は、1細胞を自然に起源とするか、又はその細胞により自然に産生される天然のポリペプチド、例えば、(i)細胞の遺伝物質(核又はミトコンドリアゲノム)に存在し(「内在性遺伝子」)、かつ、(ii)人の手により、又はウイルス若しくは他のベクターによって、修飾されていないか、又は細胞若しくは細胞の原細胞に導入されていない遺伝子の発現産物であるポリペプチドを指す。特定の種(例えば、ヒト)の内在性遺伝子は、レトロウイルス、トランスポゾン、若しくは他のベクターにより導入された配列を含み得るが、内在性とみなされるのに十分長期にわたってその種の少なくとも一部のメンバーのゲノムに存在している配列も含み得ることは理解されよう。本発明の目的のために、特定の種の少なくとも一部の個体のゲノムにおいて、例えば、特定の染色体位置に、少なくとも1000年の間存在していることを証明することができる遺伝要素は、その種に内在性であるとみなされる。当業者は、動物細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞の内在性遺伝子及びポリペプチドを認識されよう。本発明の目的のために、細胞に核酸を「導入すること」は、核酸自体を導入すること、又は細胞における1又は複数ラウンドのコピー、逆転写、及び/又はプロセシングを受けて、その核酸をもたらすことができる核酸を導入することを包含する。内在性ポリペプチドは、その合成中若しくは合成後に、プロセシング又は修飾してもよい。例えば、N末端アミノ酸又は分泌シグナル配列を除去するか、又はループを切断してもよい。本開示の任意の態様のいくつかの実施形態では、「内在性ポリペプチド」はまた、以下に定義するように化学的に修飾されていない。
【0074】
「遺伝子操作された」又は「遺伝子修飾された」、又は「組み換え体」という用語は、その配列が、天然に存在しない配列、(人により発明若しくは作製され、天然に存在しないか、又は天然に存在することがわかっていない配列)を含むか、天然に存在する状態では互いに結合してみいだされない、連結された2つ以上の天然配列を含むか、あるいは、天然に存在する配列の、又は配列中の欠失、挿入、再編成、若しくは他の改変を含む(これらの欠失、挿入、再編成、若しくは他の改変は、人の手によりもたらされている)、核酸を包含する。「遺伝子操作された」又は「遺伝子改変された」、又は「組み換え」ポリペプチドという用語は、遺伝子操作された核酸によりコード化されるポリペプチドを包含する。いくつかの実施形態では、細胞により発現される遺伝子操作済み核酸の配列は、細胞に内在性であるポリペプチドとは異なる。「遺伝子操作された細胞」、「遺伝子改変された細胞」、又は「組み換え細胞」という用語は、核酸が、人の手により導入された細胞、及び導入された核酸の少なくとも一部を遺伝的に受け継いでいる細胞の子孫を包含する。一部の実施形態では、遺伝子操作された細胞は、人の手によって、例えば、内在性核酸配列の挿入及び/若しくは内在性核酸配列の欠失により、そのゲノムが改変されているか、又はそのような細胞からの子孫であり、初期改変の少なくとも一部のコピーを引き継いでいる。一部の実施形態では、核酸若しくはその一部、又は核酸のコピー若しくはその一部を細胞のゲノムに組み込んでもよい。「非遺伝子操作」、「非遺伝子改変」、及び「非組み換え体」は、遺伝子操作されていない、遺伝子改変が存在しないことなどを指す。非遺伝子操作ポリペプチドは、内在性ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、非遺伝子操作細胞、遺伝子、又はゲノムは、ベクター、別の種に由来する、又は人の手により導入された人工配列(例えば、DNA若しくはRNA)を含む非内在性核酸、例えば、DNA若しくはRNAを含有しない。いくつかの実施形態では、非遺伝子操作細胞は、細胞による核酸の取り込みに好適な条件下で、遺伝性の遺伝子改変を引き起こすことができる核酸と、意図的に接触させていない。
【0075】
「化学的に操作された」又は「化学的に修飾された」という用語は、内在性タンパク質又は細胞に、以下に記載するような「リンカー」を導入するために、内在性タンパク質又は細胞に対して実施される修飾を包含する。化学修飾は、当技術分野では公知の任意のものであってよい。こうした修飾の例は、Ta et al.Circ.Res.2011;109:365-373及び国際公開第2012/142659号パンフレットに記載されており、これらの何れも、その全体を参照により本明細書に組み込む。生体分子、例えば、ポリペプチドに実施することができる他の化学修飾は、当業者には周知である。例えば、Hermanson,G.,Bioconjugate Techniques,Academic Press;2nd edition(2008)を参照されたい。いくつかの実施形態において、細胞の化学修飾は、例えば、内在性ポリペプチドの細胞外ドメインとの結合(例えば、共有結合を介して)により、細胞表面にスルフヒドリル又はマレイミドなどの反応官能基を導入した後、反応官能基との反応により、ソルターゼ触媒反応において求核基の役割を果たすことができる部分、例えば、(G)n-又は(A)n-含有ペプチドで細胞を標識するステップを含む。いくつかの実施形態では、細胞の化学修飾は、例えば、2-イミノチオラン又はトラウト(Traut)試薬を用いて、一級アミンとの反応により細胞表面にスルフヒドリルを導入した後、細胞表面上のスルフヒドリルと、NH2-GGGマレイミドペプチド上のマレイミド基との特異的反応により、細胞をNH2-GGGタグで標識するステップを含む。
【0076】
「免疫調節物質」という用語は、それ自体で、又は他の薬剤と一緒に、免疫応答を誘導、増強、抑制、又は調製することができる物質を指す。(この用語が、一般に、病原体、腫瘍細胞、移植片、又は自己免疫疾患の場合には、自己抗原などの免疫応答の標的である実体を指すものではないことは理解されよう)。免疫調節物質は、免疫系細胞の活性化、増殖、分化、及び/又は生物学的活性を調製することができる物質を含む。例として、例えば、サイトカイン、共刺激因子、アジュバントが挙げられる。
【0077】
本明細書で用いられる場合、「リンカー」という用語は、分子、例えば、タンパク質、及び化学基若しくは部分に共有結合した化学基又は分子を指す。一部の実施形態では、リンカーは、2つの基、分子、若しくは部分の間に位置するか、又はフランキングし、共有結合を介して各々に連結することにより、両者を連結する。一部の実施形態では、リンカーは、1アミノ酸又は複数のアミノ酸である。一部の実施形態では、リンカーは、有機分子、基、又は化学部分である。一部の実施形態では、リンカーは、2つ以上のポリペプチドを連結する。一部の実施形態では、リンカーは、ポリペプチドを含むか、又はポリペプチドからなる。一部の実施形態において、リンカーは、1つ又は複数のグリシン残基、また、一部の実施形態では、1つ又は複数のセリン、及び/又はトレオニン残基を含むか、又はそれから構成されてもよい。一部の実施形態では、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は20超のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカーは、オリゴグリシン残基を含む。一部の実施形態において、リンカーは、少なくとも50%のグリシン残基を含み、また、一部の実施形態では、5~50%のアミノ酸がセリン又はトレオニンである(すなわち、S+Tは、5~50%であり、Sは、セリン残基のパーセンテージ、Tは、トレオニン残基のパーセンテージである)。リンカーの例として、例えば、(Gly-Ser)n;(Gly-Gly-Ser)n;(Gly-Gly-Gly-Ser)n;(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)nが挙げられ、ここで、nは、所望のリンカー長さ、例えば、約5~15アミノ酸、例えば、最大約25~50アミノ酸を得るのに十分な数である。前述した配列は、任意の順に変更及び/又は連結することができ、及び/又は切断してもよく、及び/又はSer残基の何れかをThrにより置換してもよく、及び/又はGly若しくはSer残基の何れかをAlaにより置換してもよい。一部の実施形態では、リンカーは、脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、ヘテロ脂環式、芳香族、又はヘテロ芳香族リンカーを含み、これは、一部の実施形態では、各末端で前記部分と連結する主鎖中に、1~6、6~12、又は12~30個の炭素原子を含む。一部の実施形態では、リンカーは、直鎖状飽和若しくは不飽和炭化水素鎖、オリゴ(エチレングリコール)鎖、1つ又は複数のアミノ酸(例えば、ペプチド)、脂環式構造、又は芳香環を含む。一部の実施形態では、リンカーは、連結されたポリペプチドが、集合して、適正な三次元構造(例えば、天然に存在するようなもの)を形成する、及び/又は結合、酵素活性などの1つ又は複数の活性、及び/又はその典型的な相互作用パートナーとの適切な相互作用を保持することができるように、十分に長く、かつ柔軟である。一部の実施形態では、リンカーは、プロテアーゼ認識部位又は不安定結合を含んでもよく、これによって、適切な条件下、例えば、プロテアーゼ認識部位を認識して、リンカー内若しくはリンカー付近で切断するプロテアーゼの存在下で、リンカー部分の一方又は両方の放出が可能になる。
【0078】
「マーカ」又は「細胞マーカ」という用語は、1つ又は複数の細胞型、組織タイプ、細胞系統、若しくは発生学的原発組織を特性決定する、示す、若しくは同定する、及び/又は特定の生理学的若しくは病理学的状態、例えば、活性化状態、細胞周期状態、代謝状態、分化状態、アポトーシス状態、罹患状態などを特性決定する、示す、若しくは識別するあらゆる分子部分(例えば、タンパク質、ペプチド、炭水化物、多糖、核酸(mRNA若しくは他のRNA種、DNA)、脂質、又はこれらの組み合わせ)を指す。一部の実施形態では、特定のマーカの存在、非存在、又は量は、被験者、器官、組織、若しくは細胞の具体的な生理学的若しくは罹患状態を示し得る。一部の実施形態では、細胞表面マーカは、「分化の群別化(cluster of differentiation)」(CD)分子である。多数のCD分子が当技術分野において知られている。例えば、以下を参照されたい:H.Zola,et al.,Leukocyte and Stromal Cell Molecules:the CD Markers,Wiley,New Jersey,2007及び/若しくはそこで引用されるデータベース;Proceedings of the 9th International Workshop on Human Leukocyte Differentiation Antigens published in Immunology Letters,Volume 134,Issue 2,Pages 103-188(30 January 2011);http://www.hcdm.org/MoleculeInformation/tabid/54/Default.aspxで入手可能なHuman Cell Differentiation Moleculesデータベース;並びに/又はhttp://www.bdbiosciences.com/documents/cd_marker_handbook.pdf(BD Biosciences,San Jose,CA,2010)で入手可能なHuman and Mouse CD Handbook。一部の実施形態では、細胞マーカは、細胞型特異的である。例えば、細胞型特異的マーカは、典型的に、多くの他の細胞型上又はその中より、特定の細胞型上又はその中に高いレベルで存在する。一部の実例では、細胞型特異的マーカは、対象の特定の細胞型上又はその中にしか、検出可能なレベルで存在しない。しかし、有用な細胞型特異的マーカが、対象の細胞型に対して完全に特異的である必要はないことは理解されよう。一部の実施形態では、特定の細胞型に対する細胞型特異的マーカは、例えば、ほぼ同量の複数(例えば、5~10若しくは10超)の異なる組織又は器官由来の細胞を含む混合物から構成され得る細胞の参照集団と比較して、少なくとも3倍高いレベルで発現される。一部の実施形態では、細胞型特異的マーカは、参照集団におけるその平均発現の少なくとも4~5倍、5~10倍、又は10倍を超える高いレベルで存在する。一部の実施形態では、細胞型特異的マーカの検出又は測定によって、多数の、ほとんどの、若しくは全ての他の細胞型の細胞から、1つ又は複数の対象の細胞型を識別することができる。一般に、ほとんどのマーカの存在及び/又は存在量は、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、RT-PCR、配列決定などの標準的技術、イムノブロッティング、免疫検出などの免疫学的方法、又は蛍光標識抗体を用いた染色後の蛍光検出、オリゴヌクレオチド若しくはcDNAマイクロアレイ又は膜アレイ、タンパク質マイクロアレイ分析、質量分析などを用いて、決定することができる。
【0079】
実体(例えば、分子、物質など)に適用される場合、「天然に存在する」という用語は、人工的に作出された、又は人為的に修飾されたものとは異なり、実体を自然界にみいだすことができることを指す。例えば、ウイルス、又は原核(細菌)若しくは真核(例えば、真菌、原生動物、昆虫、植物、脊椎動物)細胞、組織、又は器官に天然に存在する、及び/又は天然の供給源から単離することができ、しかも、人によって(例えば、実験室で)意図的に修飾されていないポリペプチド若しくはポリヌクレオチド配列は、天然に存在するものである。実体に適用される場合、「非天然の」(「合成」若しくは「人工」とも呼ばれる)は、その実体が、天然に存在しない、すなわち、人為的に生成されたものとは違って、実体を自然界にみいだすことができないことを意味する。「天然に存在する」実体は、人為的に、例えば、組み換え核酸技術若しくは化学合成により生成したり、及び/又は単離若しくは精製したりすることができることは理解されよう。あるいは、このような実体が、自然界でみいだされるままの実体と実質的に違っていない限りにおいて、実体は、やはり天然であるとみなされる。
【0080】
「精製(された)」という用語は、物質が自然に結合されている成分の一部、多く若しくはほとんどから分離されているか、又は初め生成されたときの物質を指す。一般に、こうした精製は、人の手による作用を含む。一部の実施形態では、精製された物質は、例えば、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は99%超の純度である。一部の実施形態では、核酸、ポリペプチド、又は小分子は、それが、調製物中にそれぞれ存在する全核酸、ポリペプチド、又は小分子材料の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、99.95%又はそれを超えて占めるように、精製する。一部の実施形態では、有機物質、例えば、核酸、ポリペプチド、又は小分子は、それが、調製物中に存在する全有機材料の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、99.95%又はそれを超えて占めるように、精製する。純度は、例えば、乾燥重量、クロマトグラフィー追跡(GC、HPLCなど)でのピークのサイズ、分子存在量、電気泳動法、ゲル上のバンドの強度、分光学データ(例えば、NMR)、元素分析、ハイスループット配列決定、質量分析、又は当技術分野で容認されている任意の定量方法に基づくものでよい。一部の実施形態では、精製した調製物中に、任意選択で、水、バッファー物質、イオン、及び/又は小分子(例えば、ヌクレオチド若しくはアミノ酸などの合成前駆物質)が存在してもよい。精製済物質は、他の物質(例えば、他の細胞材料)からそれを分離することにより、又は所望の純度を達成するようにそれを生成することにより、調製することができる。一部の実施形態では、細胞により産生される分子に関して、「部分的に精製された」又は「少なくとも部分的に精製された」とは、細胞により産生される分子が、細胞内にもはや存在しない、例えば、細胞が溶解され、任意選択で、細胞材料(例えば、細胞壁、細胞膜、細胞オルガネル)の少なくとも一部が除去され、及び/又は溶解物に存在した同じタイプの少なくとも一部の分子(タンパク質、RNA、DNAなど)から分離若しくは隔離されている、あるいは、細胞により分泌される分子の場合には、分子が分泌された培地若しくは環境の少なくとも一部の成分から分子が分離されることを意味する。一部の実施形態では、本明細書に開示する任意の物質を精製する。一部の実施形態では、組成物は、1種又は複数の精製済物質を含む。
【0081】
「RNA干渉」(RNAi)という用語は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)として知られる分子複合体が、例えば、真核細胞、例えば、脊椎動物細胞において、又は適切なin vitro系において、配列特異的に遺伝子発現を抑制する、又は「ノックダウン(knock down)」するプロセスを包含する。RISCは、対合して、鎖が相補性を有するRNA(例えば、mRNA)の配列特異的分解又は翻訳抑制を指令若しくは「誘導(ガイド)」する短い核酸鎖(例えば、長さ約16~約30ヌクレオチド)を取り込むことができる。この短い核酸鎖は、「ガイド鎖」又は「アンチセンス鎖」と呼ばれる場合もある。ガイド鎖が、相補性を有するRNA鎖は、「標的RNA」と呼ばれる場合もある。標的RNAとガイド鎖のハイブリダイゼーションによって形成される構造物の相補性は、この鎖が、(i)RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)における標的RNAの切断を誘導する、及び/又は(ii)標的RNAの翻訳抑制を引き起こすことができるようなものであってよい。RNAiによる発現の低減は、ほぼ完全であってもよく(例えば、遺伝子産物の量が、バックグラウンドレベルまで減少する)、又は様々な実施形態において完全より少なくてもよい。例えば、mRN及び/又はタンパク質レベルは、様々な実施形態において、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又はそれを超えて低減させることができる。当技術分野で公知のように、ガイド鎖と標的RNAとの相補性は、完全(100%)である必要はなく、遺伝子発現の阻害を起こすのに十分であればよい。例えば、一部の実施形態では、ガイド鎖の1、2、3、4、5、又はそれを超えるヌクレオチドが標的RNAとマッチしなくてもよい。一部の実施形態では、ガイド鎖は、標的RNAの少なくとも15nt、例えば、15nt~30nt、17nt~29nt、18nt~25nt、19nt~23ntの連続した区間にわたって、標的RNAに対して少なくとも約80%、85%、若しくは90%、例えば、約91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列相補性を有する。一部の実施形態では、ガイド鎖の少なくともシード領域(ガイド鎖の2~7位又は2~8位ヌクレオチド)が、標的RNAに対して完全に相補的である。本明細書で用いられるように、「RNAi因子」という用語は、真核細胞においてRNAiを達成するのに用いることができる核酸を包含する。短いRNA(siRNA)、短いヘアピンRNA(shRNA)、及びマイクロRNA(miRNA)は、RNAi因子の例である。siRNAは、典型的に、互いにハイブリダイズして、長さが少なくとも15nt、例えば、長さ約15nt~30nt、例えば、長さ17nt~27nt、例えば、長さ18nt~25nt、例えば、長さ19nt~23nt、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30ヌクレオチドの二本鎖(二重螺旋)部分を含む構造を形成する。一部の実施形態では、siRNAの鎖は、二重螺旋部分において互いに完全に相補的である。一部の実施形態では、二重螺旋部分は、1つ又は複数の非対合ヌクレオチド、例えば、1つ又は複数のミスマッチ(非相補的)ヌクレオチドペア又はバルジ(bulged)ヌクレオチドを含み得る。一部の実施形態では、siRNAの何れか一方又は両方の鎖は、二重螺旋部分に、1、2、3、又は4つの非対合ヌクレオチドを含み得る。一部の実施形態では、鎖は、15nt~35nt、例えば、17nt~29nt、例えば、19nt~25nt、例えば、21nt~23ntの長さを有し得る。鎖は、様々な実施形態で長さが等しくてもよく、又は長さが異なってもよい。一部の実施形態では、鎖は、長さが1~10nt異なり得る。鎖は、5’リン酸基及び/又は3’ヒドロキシル(-OH)基を有してよい。siRNAの何れか一方又は両方の鎖は、約1~10nt(例えば、1~5nt、例えば、2nt)の3’突出部を含んでもよい。shRNAは、ステム-ループ構造を含み、長さが典型的には、約40~150nt、例えば、約50~100nt、例えば、約60~80ntである。「ステム-ループ構造」(「ヘアピン」構造とも呼ばれる)は、(通常)主として二本鎖ヌクレオチド(ループ部分)の領域によって一端が連結された二本鎖(ステム部分;二重螺旋)を形成することがわかっている、又は推定されているヌクレオチドの領域を含む二次構造を有する核酸を指す。こうした構造は当技術分野では公知であり、この用語は、当技術分野での意味と一致して用いられる。ガイド鎖配列は、様々な実施形態において、ステムの何れかのアーム、すなわち、ループに対して5’側又はループに対して3’側に位置し得る。当技術分野では周知のように、ステム構造は、厳密な塩基対合(完全な相補性)を必要としない。従って、ステムは、1つ又は複数の非対合残基を含む場合もあれば、塩基対合が厳密である、すなわち、ミスマッチ又はバルジ(bulge)を含まない場合もある。一部の実施形態では、ステムは、15nt~30nt、例えば、17nt~29nt、例えば、19nt~25ntである。一部の実施形態では、ステムは、15nt~19ntである。一部の実施形態では、ステムは、19nt~30ntである。一部の実施形態では、ループは、長さが1nt~20nt、例えば、1nt~15nt、例えば、4~9ntである。shRNA構造は、5’側又は3’側に突出部を含んでもよい。当技術分野では周知のように、shRNAは、細胞内プロセシングを受けて、ループを除去し、siRNAを生成することができる。成熟型内在性miRNAは、短い(典型的に、18~24nt、例えば、約22nt)一本鎖RNAであり、これは、より大きな、内因的にコード化された前駆体RNA分子(miRNA前駆体と呼ばれる)から細胞内プロセシングにより生成される(例えば、Bartel,D.,Cell.116(2):281-97(2004);Bartel DP.Cell.136(2):215-33(2009);Winter,J.,et al.,Nature Cell Biology 11:228-234(2009)を参照されたい。対象の標的RNAを発現抑制する目的で、内在性RNAi経路の利点を取り入れるように人工miRNAを設計してもよい。RNAiを媒介する能力を有し、及び/又は対象のRNAの少なくとも10、12、15、17、又は19個の連続ヌクレオチドを含む配列に対して少なくとも80%、90%、95%、若しくはそれを超えて(例えば、100%)相補的である配列を含む細胞又はin vitro系において、対象のRNAの発現低減をもたらす(例えば、RNAの翻訳の低下若しくは抑制の結果として)ように、対象のRNAに対して十分に相補的な鎖を含有するRNAi因子は、対象のRNAに対して「ターゲティングさせた」ということができる。また、RNA転写物に対してターゲティングさせたRNAi因子も、転写物が転写される遺伝子に対してターゲティングさせたとみなすことができる。一部の実施形態では、RNAi因子は、細胞内でsiRNA、shRNA、又はmiRNAをもたらす1つ又は複数の転写物の細胞内発現を起こすのに適したベクター(例えば、発現ベクター)である。このようなベクターは、「RNAiベクター」と呼ばれる場合もある。RNAiベクターは、転写されると、siRNA(例えば、互いにハイブリダイズする2つの個別の鎖として)、shRNA、又はmiRNA前駆体(例えば、pri-miRNA若しくはpre-miRNA)を形成し得る転写物をもたらす鋳型を含み得る。
【0082】
本明細書で用いられる場合、「ソルタギング(sortagging)」という用語は、ソルターゼを用いて、標的実体、例えば、分子、例えば、タンパク質にタグを付ける(結合する)プロセスを指す。用語「ソルタギング(sortagging)」は、ソルターゼを用いて、生存細胞により発現されたタンパク質にタグを付けることによって、細胞にタグを付けることを包含する。「タグ」という用語は、広義に用いられて、非常に多様な実体の何れかを包含する。好適なタグの例として、限定はしないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、糖、炭水化物、ポリマー、脂質、脂肪酸、及び小分子が挙げられる。他の好適なタグは、当業者には明らかであり、本発明は、この態様に限定されない。一部の実施形態では、タグは、ウイルス、細胞、粒子、又は他の超分子複合体など、別の実体と共有結合若しくは非共有結合しているか、物理的に結合しているか、又はその一部であり、標的実体へのタグ付け(標的実体のソルタギング)により、実体を標的実体に結合させる。一部の実施形態では、タグは、ポリペプチドを精製、発現、可溶化、及び/又は検出するのに有用な配列を含む。一部の実施形態では、タグは、2つ以上の部分を含んでもよく、これらは、互いに結合していてもよい。一部の実施形態では、タグは、複数の機能を果たし得る。一部の実施形態では、タグは、相対的に小さいポリペプチドであり、例えば、長さが数個のアミノ酸から最大約100アミノ酸まである。一部の実施形態では、タグは、長さが100アミノ酸より大きく、例えば、長さが最大約500アミノ酸以上である。一部の実施形態では、タグは、いくつか例を挙げれば、HA、TAP Myc、6XHis、Flag、V5、又はGSTタグを含む。それに対する抗体、例えば、モノクローナル抗体が、入手可能である(例えば、市販されている)か、又は当技術分野において公知であるエピトープを含むタグ(例えば、前述したタグの何れか)は、「エピトープタグ」と呼ばれる場合もある。一部の実施形態では、タグは、可溶性増強タグ(例えば、SUMOタグ、NUS Aタグ、SNUTタグ、Strepタグ、又はバクテリオファージT7のOcrタンパク質)を含む。例えば、Esposito D及びChatterjee DK.Curr Opin Biotechnol.;17(4):353-8(2006)を参照されたい。一部の実施形態では、タグは、少なくともその一部を、例えばプロテアーゼによって除去することができるように切断可能である。一部の実施形態では、これは、タグ中、例えば、タグの機能性部分に隣接、又は連結したプロテアーゼ切断を含有させることよって達成される。プロテアーゼの例としては、例えば、トロンビン、TEVプロテアーゼ、Xa因子、PreScissionプロテアーゼなどが挙げられる。一部の実施形態では、「自己切断」タグを用いる。例えば、PCT/米国特許第05/05763号明細書を参照されたい。一部の実施形態では、ソルタギングは、細胞の表面上の内在性タンパク質とタグの連結を含む。
【0083】
「ソルターゼ」という用語は、トランスアミダーゼ活性を有する酵素を指す。ソルターゼ(トランスアミダーゼとも呼ばれる)は、適切なアシルドナー化合物と、N-末端グリシンなどのNH2-CH2-部分を含む求核アシルアクセプターとのペプチド結合(すなわち、アミド結合)を形成することができる。ソルターゼは、ソルターゼ認識モチーフ、例えば、アミノ酸配列LPXTGを含む基質を認識する。ソルターゼにより認識された分子(すなわち、ソルターゼモチーフを含む)は、本明細書において、「ソルターゼ基質」と呼ばれる場合もある。ソルターゼによるこうしたモチーフの認識後、酵素の活性部位における触媒残基(例えば、システイン)は、求核基として作用して、モチーフ(例えば、LPXTGにおけるトレオニン及びグリシン同士のペプチド結合)中のペプチド結合を切断する。切断と同時に、基質と酵素の間にチオアシル中間体が形成される。この中間体は、適切な求核基との反応により分解され、これによって、基質と求核基を連結する新しい結合が形成される。ソルターゼは、切断部位近傍の非常に多様な部分を許容するため、基質が、好適に露出したソルターゼ認識モチーフを含有し、かつ好適な求核基が利用可能である限りにおいて、多様な実体の汎用的結合を可能にする。「ソルターゼ媒介アシル基転移反応」、「ソルターゼ触媒アシル基転移反応」、「ソルターゼ媒介反応」、「ソルターゼ触媒反応」などの用語は、このような反応を指すために本明細書において置き換え可能に用いられる。トランスアミダーゼ又はソルターゼにより認識される配列に関して、「ソルターゼ認識モチーフ」、「ソルターゼ認識配列」、及び「トランスアミダーゼ認識配列」(時として「TRS」と略される)という用語は、本明細書において置き換え可能に用いられる。「求核アクセプター配列」という用語は、ソルターゼ触媒反応において求核基として作用することができるアミノ酸配列、例えば、N末端グリシン(例えば、1、2、3、4、若しくは5のN末端グリシン)、又は、一部の実施形態では、N末端アラニン(1、2、3、4、若しくは5のN末端アラニン)を含む配列を指す。
【0084】
ソルターゼ媒介結合に好適な基質は、容易に設計することができる。例えば、ポリペプチドを、そのC末端、若しくはその付近にソルターゼモチーフを含有させることによって、ソルターゼの基質として作用するように修飾することができる。ソルターゼ認識モチーフは、基質のC末端そのものに位置する必要はないが、酵素による接触可能性を、ソルターゼ反応に参加するのに十分にすべきである。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフの最もN末端側のアミノ酸(例えば、L)と、ポリペプチドのC末端アミノ酸との間に、5、6、7、8、9、10、12、15、20、若しくは25以下のアミノ酸が存在する場合、ソルターゼ認識モチーフは、C末端付近であるとみなされる。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフにおいてG又はAのC末端側に少なくとも1、2、3、若しくは4個の追加的アミノ酸が存在する。一部の実施形態では、少なくとも1つの追加的アミノ酸は、G又はAである。例えば、ソルターゼ基質は、LPXTGG、例えば、LPETGGを含んでもよい。一部の実施形態では、タグ(例えば、6XHisタグ又は他の小ペプチドタグ)は、ソルターゼ認識モチーフのC末端側に位置し、任意選択で、スペーサによりモチーフから隔てられている。切断後、タグは放出される。遊離タグを検出してもよく、これは、反応の進行又は範囲をモニターする上で有用となり得る。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフは、ポリペプチドの柔軟なループ中に配置する。柔軟なループは、適切に折り畳まれたポリペプチドの表面に露出していてもよい。得られる切断産物のC末端又はその付近に、ソルターゼ認識モチーフが位置するように、ループを切断することができる。ソルターゼ認識モチーフを含むポリペプチドは、非常に多様な部分の何れかをそこに組み込むか、又は結合させることによって、修飾してもよい。得られる修飾済ポリペプチドは、ソルターゼ基質として作用することができ、その結果、その部分と求核基の結合が起こる。ソルターゼ反応に用いることができる好適な求核基は、典型的に、短い区間(約1~10)のグリシン残基を含むが、アルキルアミンであっても、反応を進行させるのに十分である。ポリペプチドは、そのN末端に、求核アクセプター配列、例えば、1つ又は複数のグリシンを含む配列を含むように修飾することができ、こうして得られたポリペプチドをソルターゼ触媒反応における求核基として用いてもよい。このような反応によって、ポリペプチドのN末端に多様な実体(ソルターゼソルターゼ認識モチーフを含む)の何れかを設置することができる。
【0085】
「被験者」は、様々な実施形態において、任意の脊椎生物であってよい。被験者は、例えば、実験、診断、及び/若しくは治療のために、薬剤、細胞、物質、若しくは組成物を投与する、又は、サンプルを採取する、又は処置を施す個体であってよい。一部の実施形態では、被験者は、哺乳動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ウサギ)、有蹄動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ種)、イヌ、又はネコである。一部の実施形態では、被験者は、鳥類である。一部の実施形態では、被験者は、ヒトが罹患する疾患又は障害のモデルとして用いられる非ヒト動物である。例えば、効能及び/又は好適な用量を評価するために、例えば、前臨床試験で、任意の動物モデルを用いてよい。
【0086】
「小分子」という用語は、比較的低い分子量を有する、天然又は人工的に作製された(例えば、化学合成により)分子を指す。典型的に、小分子は、有機化合物である。小分子は、複数の炭素-炭素結合、立体中心、及びその他の官能基(例えば、アミン、ヒドロキシル、カルボニル、複素環など)を含有してもよい。一部の実施形態では、小分子は、単量体である。一部の実施形態では、小分子は、約1500g/モル未満の分子量を有する。一部の実施形態では、小分子は、約1000g/モル未満又は約500g/モル未満の分子量を有する。いくつかの実施形態では、小分子は、適切な政府機関又は取締り機関によって、ヒト若しくは動物における診断薬若しくは治療薬としての使用について安全かつ有効であるとみなされる化合物である。
【0087】
本明細書で用いられる場合、「支持体」は、物質を付着(結合)させることができるか、又は物質を載せることができる表面を有する任意の実体又は複数の実体を指す。例としては、例えば、粒子、スライド、フィルター、容器(例えば、プレート若しくはフラスコなどの培養容器、マイクロプレートのウェル、チューブ)の内壁又は底部、チップなどが挙げられる。支持体は、例えば、ガラス、金属、ゲル(例えば、アガロース)、セラミック、ポリマー、又はそれらの組み合わせから構成されるものであってよい。
【0088】
本明細書で用いられる場合、「腫瘍」という用語は、異常に増殖する細胞を含む、異常な成長を包含する。腫瘍は、典型的には、適切に調節されていない(例えば、通常、増殖を抑制する生理学的影響及びシグナルに正常に応答しない)過剰な細胞増殖を特徴とし、以下に示す特性のうちの1つ又は複数を示し得る:形成異常(例えば、未成熟細胞の数若しくは割合の増加をもたらす、正常分化の欠損);退形成(例えば、分化の喪失増大、構造組織の喪失増大、細胞多態性、大きな多染色体性核、高い核:細胞質比、異型分裂などの異常);隣接組織の侵入(例えば、基底膜の破壊);及び/又は転移。いくつかの実施形態では、腫瘍は、「癌」とも呼ばれる悪性腫瘍である。悪性腫瘍は、持続的な増殖の傾向、並びに局所的に広がる、例えば、侵入する並びに/又は領域的に及び/若しくは遠位位置まで転移する能力を有するのに対し、良性腫瘍は、一般に、発生部位に局在化した状態を維持し、増殖に関しては自己制限的であることが多い。「腫瘍」という用語は、悪性固形腫瘍(例えば、癌、肉腫)、及び検出可能な固形腫瘍塊がないこともある悪性増殖(例えば、特定の血液系悪性疾患)を含む。「癌」という用語は、一般に、本明細書において「腫瘍」と置き換え可能に用いられ、及び/又は1種又は複数の腫瘍、例えば、1種又は複数の悪性若しくは悪性の可能性がある腫瘍を指すのに用いられる。癌として、限定はしないが、以下の者が挙げられる:乳癌;胆管癌;脳腫瘍(例えば、膠芽腫、髄芽腫);頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;胃癌;急性リンパ球性白血病及び急性骨髄性白血病などの血液系腫瘍;T細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫;有毛細胞性白血病;慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫;成人性T細胞白血病/リンパ腫;ボーエン病及びパジェット病などの上内皮腫瘍;肝癌;肺癌;ホジキン病及びリンパ球性リンパ腫などのリンパ腫;神経芽細胞腫、黒色腫、扁平上皮癌などの口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞及び間葉細胞から発生する卵巣癌を含む卵巣癌;神経芽細胞腫、膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;血管肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、繊維肉腫、及び骨肉腫などの肉腫;腎細胞癌及びウィルムス腫瘍などの腎臓癌;基底細胞癌及び扁平上皮癌などの皮膚癌;精上皮腫、非精上皮腫(奇形腫、絨毛癌)、間質腫瘍、及び生殖細胞腫瘍などの胚腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌及び髄様癌などの甲状腺癌。特定の器官において、異なる様々な腫瘍が起こり得るが、これらは、例えば、臨床的及び/又は病理学的特徴及び/又は分子マーカに関して異なっている場合がある。異なる様々な器官に発生する腫瘍は、例えば、以下の文献に記載されている:DeVita,Hellman,and Rosenberg’s Cancer:Principles and Practice of Oncology Cancer:Principles&Practice),Lippincott Williams&Wilkins;Ninth,North American Edition edition May 16,2011)又はthe WHO Classification of Tumours series,4th ed,若しくは3rd ed(Pathology and Genetics of Tumours series),by the International Agency for Research on Cancer(IARC),WHO Press,Geneva,Switzerland。
【0089】
「治療する」、「治療すること」及び類似の用語は、被験者の医学的及び/又は外科的管理を提供することを指す。治療は、限定はしないが、薬剤又は組成物(例えば、医薬組成物)を被験者に投与することを含む。治療は、典型的に、被験者に対して有益な様式で、疾患の経過を改変するためになされる(この用語は、あらゆる疾患、障害、又は望ましくない状態に対処する療法を示すために用いられる)。治療の効果は、疾患又は疾患の1つ又は複数の症状若しくは発現を逆転、改善、その重症度の軽減、その発症の遅延、治癒、その進行の阻害、及び/又は発生若しくは再発の可能性の低減を含み得る。治療薬は、疾患を有するか、又は一般集団のメンバーと比較して疾患を発症するリスクが高い被験者に投与することができる。一部の実施形態では、治療薬は、疾患に罹患したことがあるが、その疾患のエビデンスをもう呈示していない被験者に投与してもよい。薬剤は、例えば、明らかな疾患の再発の可能性を低減するために投与してもよい。治療薬は、予防的に、すなわち、疾患の症状の発症又は発現前に投与してもよい。「予防的治療」は、例えば、疾患が起こる可能性を低減するため、又は起こったとしても、疾患の重症度を軽減するために、疾患を発症していないか、又は疾患のエビデンスを呈示していない被験者に、医学的及び/又は外科的管理を提供することを指す。被験者は、疾患を発症するリスクがある(例えば、一般集団と比較してリスクが高いか、疾患を発症する可能性を増すリスク因子を有するものとして識別される。
【0090】
特定のポリペプチド又はポリヌクレオチドの「変異体」は、それぞれ「オリジナルポリペプチド」又は「オリジナルポリヌクレオチド」と呼ばれることもある、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドに対して、1つ又は複数の改変(例えば、付加、置換、及び/又は欠失)を有する。付加は、挿入であってもよく、又は何れの末端に行ってもよい。変異体は、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドより短くても長くてもよい。「変異体」という用語は、「断片」を含む。「断片」は、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドより短いポリペプチド又はポリヌクレオチドの連続的部分である。一部の実施形態では、変異体は、断片を含むか、又は断片から構成される。一部の実施形態では、断片又は変異体は、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92.5%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える長さである。一部の実施形態では、断片は、基準ポリヌクレオチドのN末端及び/又はC末端部分を欠失していてもよい。例えば、断片は、一方又は両方の末端からポリペプチドの最大5%、10%、15%、20%、又は25%の長さを欠失していてもよい。断片は、N末端、C末端、又は内部断片であってもよい。一部の実施形態では、変異体ポリペプチドは、基準ポリペプチドの少なくとも1つのドメインを含むか、又はそれから構成される。一部の実施形態では、変異体ポリヌクレオチドは、基準ポリペプチドの長さの配列に関して、当技術分野で認識されるストリンジェントな条件、例えば、高度ストリンジェンシー条件下で、基準ポリヌクレオチドとハイブリダイズする。一部の実施形態では、変異体ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%にわたって、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドと、配列が少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超えて同一であるポリペプチド又はポリヌクレオチドを含むか、又はそれから構成される。一部の実施形態では、変異体ポリペプチドは、基準ポリペプチドの少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%にわたって、基準ポリペプチドと、配列が少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超えて同一であるポリペプチドを含むか、又はそれから構成されるが、ここで、同一性の割合(%)を計算する目的で、保存的アミノ酸置換は、それが置換するアミノ酸と同一とみなされる。一部の実施形態では、変異体ポリペプチドは、基準ポリペプチドの少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%にわたって、基準ポリペプチドと、配列が少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超えて同一であるポリペプチドを含むか、又はそれから構成されるが、但し、何れか1つ又は複数の置換(最大で置換の総数)は、保存的置換に限定され得る。一部の実施形態では、同一性の割合は、少なくとも100;200;300;400;500;600;700;800;900;1,000;1,200;1,500;2,000;2,500;3,000;3,500;4,000;4,500;又は5,000アミノ酸にわたって測定する。一部の実施形態では、変異体ポリペプチドの配列は、基準ポリペプチド配列に対して、N個のアミノ酸の相違を有し、ここで、(Nは、基準ポリペプチドのアミノ酸の数の1%、2%、5%、若しくは10%までの1~10又は1~20の任意の整数であり、「アミノ酸の相違」は、アミノ酸の置換、挿入、又は欠失を指す。一部の実施形態では、相違は、保存的置換である。保存的置換は、例えば、関与する残基の側鎖サイズ、極性、電荷、溶解性、親水性、疎水性及び/又は両親媒性の類似性に基づいて実施してよい。一部の実施形態では、保存的置換は、表Aに従って実施してもよく、ここで、第2列の同じブロック及び第3列の同じ行のアミノ酸は、保存的置換で互いに置換することができる。いくつかの保存的置換では、第2列のあるブロックに対応する第3列の1つの行にあるアミノ酸を、第2列の同じブロック内の第3列の別の行からのアミノ酸で置換する。
【0091】
一部の実施形態では、プロリン(P)は、個別の群に属するとみなされる。一部の実施形態では、システイン(C)は、個別の群に属するとみなされる。一部の実施形態では、プロリン(P)及びシステイン(C)は、個別の群に属するとみなされる。特定の群において、いくつかの置換、例えば、イソロイシンによるロイシンの置換(若しくはその逆)、トレオニンによるセリンの置換(若しくはその逆)、又はグリシンによるアラニンの置換(若しくはその逆)が、いくつかの実施形態において特に有利であると考えられる。
【0092】
一部の実施形態では、変異体は、機能性変異体、すなわち、変異体は、少なくともその一部が、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの少なくとも1つの活性を保持する。一部の実施形態では、変異体は、少なくともその一部が、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの2つ以上の、又は実質的に全ての既知活性を保持する。活性は、例えば、触媒活性、結合活性、生物学的機能若しくはプロセスを実施するか、又はそれに参加する能力などであってよい。一部の実施形態では、活性(又はその欠失)は、細胞又は生物の観測可能な表現型に対して検出可能な作用を有するものである。一部の実施形態では、変異体の活性は、様々な実施形態において、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれを超え、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの活性の最大約100%、約125%、若しくは約150%であってよい。一部の実施形態では、変異体、例えば、機能性変異体は、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの全長の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%若しくは100%にわたって、又は基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドの機能性断片の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、92.5%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%若しくは100%にわたって、基準ポリペプチド又はポリヌクレオチドと少なくとも80%、90%、92.5%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%若しくは100%同一であるポリペプチドを含むか、又はこれから構成される。一部の実施形態では、例えば、機能性変異体における改変、例えば、置換又は欠失は、ある活性にとって重要であることがわかっているか、若しくは推定されるアミノ酸若しくはヌクレオチド、例えば、既知若しくは推定触媒残基又は基質として作用する若しくは補因子の結合に関与する残基を改変又は欠失しない。一部の実施形態では、他のアミノ酸又は領域と比較して、種全体にわたり低い保存度を呈するヌクレオチド、アミノ酸、又は領域を、改変のために選択してもよい。変異体は、活性を評価するために1つ又は複数の好適なアッセイで試験してもよい。いくつかの実施形態では、NCBI RefSeqデータベースにおけるポリペプチド又はポリヌクレオチドを基準配列として用いてもよい。一部の実施形態では、天然に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチドの変異体又は断片は、天然に存在する変異体又は断片である。一部の実施形態では、天然に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチドの変異体又は断片は、天然に存在しない。配列同一性の計算は、以下のように実施することができる。配列を最適な比較の目的でアラインメントして、最適アラインメントのために第1及び第2配列の一方又は両方にギャップを導入することができる。第1配列における1位置が、第2配列の対応する位置と同じ残基で占められている場合には、両配列は、その位置で同一であるとみなされる。2つの配列同士の同一性(%)は、2つの配列の最適アラインメントのために導入したギャップの数、各ギャップの長さを考慮に入れた、両配列が有する同一位置の数の関数である。当技術分野では公知の様々なアルゴリズム及びコンピュータプログラムを用いて、配列をアラインメントし、及び/又は同一性(%)を決定することができる。アラインメントを作成し、及び/又は同一性(%)を取得するために、例えば、BLAST2、BLASTN、BLASTP、Gapped BLASTなどのコンピュータプログラムを用いることができる。Karlin及びAltschul,Proc.Natl.Acad Sci.USA 90:5873-5877,1993に記載のように改変されたKarlin及びAltschulのアルゴリズム(Karlin及びAltschul,Proc.Natl.Acad Sci.USA 87:22264-2268,1990)は、AltschulらのNBLAST及びXBLASTプログラム(Altschul,et al.,J.MoI.Biol.215:403-410,1990)に組み込まれている。一部の実施形態では、比較の目的でギャップ付きアラインメントを得るために、Altschulら(Altschul,et al.Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997)に記載されているように、Gapped BLASTを使用する。BLAST及びGapped BLASTプログラムを使用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータを用いてもよい。URL www.ncbi.nlm.nih.govのウェブサイト並びに/又はMcGinnis,S.及びMadden,TL,W20-W25 Nucleic Acids Research,2004,Vol.32,Web server issueを参照されたい。他の好適なプログラムとしては、CLUSTALW(Thompson JD,Higgins DG,Gibson TJ,Nuc Ac Res,22:4673-4680,1994)及びGAP(GCG Version 9.1;which implements the Needleman&Wunsch,1970 algorithm(Needleman SB,Wunsch CD,J Mol Biol,48:443-453,1970.)が挙げられる。対象の配列Aと第2配列Bとの間の同一性(%)は、配列をアラインメントして、ギャップの導入により同一性を最大化させ、同一の残基とは反対の残基(ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を決定し、TGA及びTGBの最小値(ここでは、TGA及びTGBは、アラインメント中の配列A及びBにおける残基及び内部ギャップ位置の数の和である)で割った後、100を掛けることにより計算することができる。同一性(%)は、評価ウインドウにわたって評価してよい。一部の実施形態では、評価のウインドウは、比較する配列のうち短い方の長さの少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超え、例えば、100%の長さを有してよい。一部の実施形態では、評価のウインドウは、少なくとも100;200;300;400;500;600;700;800;900;1,000;1,200;1,500;2,000;2,500;3,000;3,500;4,000;4,500;又は5,000アミノ酸である。一部の実施形態では、評価ウインドウにわたって、一方の配列又は両配列における位置の20%、10%、5%、又は1%以下をギャップが占める。一部の実施形態では、一方の配列又は両配列における位置の20%、10%、5%、又は1%以下をギャップが占める。
【0093】
「ベクター」は、様々な遺伝的環境間での、又は1細胞への、例えば、対象の核酸の進入を媒介、例えば、移入、輸送などをすることができるいくつかの核酸分子又はウイルス若しくはその部分の何れであってもよい。対象の核酸は、例えば、制限及び連結を用いて、ベクターに連結する、例えば、挿入してもよい。ベクターとしては、例えば、DNA又はRNAプラスミド、コスミド、天然に存在する、又は修飾されたウイルスゲノム若しくはその部分、ウイルスキャプシドにパッケージすることができる核酸、ミニ染色体、人工染色体、トランスポゾン(例えば、Sleeping Beautyトランスポゾン)などが挙げられる。プラスミドベクターは、典型的に、複製起点(例えば、原核細胞における複製のための)を含む。プラスミドは、ウイルスゲノムの一部若しくは全部(例えば、宿主細胞ゲノムに組み込むことができる核酸を生成させる、及び/又は感染性ウイルスを生成させるのに十分な、ウイルスプロモータ、エンハンサー、プロセシング若しくはパッケージングシグナル、及び/又は配列)を含み得る。細胞に核酸を導入するのに用いることができるウイルス若しくはその部分は、ウイルスベクターと呼ばれることもある。ウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス、γレトロウイルス)、ワクシニアウイルス及び他のポックスウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)及びその他がある。ウイルスベクターは、宿主細胞に導入されたとき、感染性ウイルスの生産に関する十分な遺伝情報を含んでいても、いなくてもよい。すなわち、ウイルスベクターは、複製可能又は複製欠損の何れであってもよい。例えば、感染性ウイルスの産生に関する十分な情報が不足している、一部の実施形態では、例えば、ウイルスの産生が望まれる場合、宿主細胞、又は細胞に導入された別のベクターによりそれを補充することもできる。一部の実施形態では、例えば、ウイルスの産生が望まれない場合、そのような情報を補充しない。移入しようとする核酸を天然に存在する、又は修飾済みウイルスゲノム若しくはその部分に組み込むか、あるいは、前記核酸は、個別の核酸分子としてウイルスキャプシド内に存在してもよい。ベクターは、ベクターを取り込んだ細胞を識別及び/又は選択するのに好適なマーカをコード化する1つ又は複数の核酸分子を含んでもよい。マーカとしては、例えば、抗生物質若しくは他の薬剤に対する耐性若しくは感受性の何れかを増大又は低減する様々なタンパク質(例えば、ピューロマイシン、ヒグロマイシン若しくはブラスチシジンなどの抗生物質に対する耐性を付与するタンパク質)、当技術分野では公知のアッセイにより活性が検出可能な酵素(例えば、βガラクトシダーゼ若しくはアルカリホスファターゼ)、並びにそれらを発現する細胞の表現型に検出可能な程度で影響するタンパク質若しくはRNA(例えば、蛍光タンパク質)が挙げられる。ベクターは、多くの場合、制限酵素について1つ又は複数の適切に配置された部位を含み、これらを用いて、核酸、例えば、発現しようとする核酸の、ベクターへの挿入を容易にすることができる。発現ベクターは、所望の核酸が挿入されたベクターであるか、又は発現ベクターは、それが調節エレメント(「調節配列」、「発現制御エレメント」、若しくは「発現制御配列」とも呼ばれる)に作動可能に連結されるように挿入してもよく、RNA転写物(例えば、タンパク質、又はshRNA若しくはmiRNA前駆体などのノンコーディングRNAに翻訳することができるmRNA)として発現させてもよい。発現ベクターとしては、少なくともある条件下で、作動可能に連結した核酸の直接翻訳に十分な調節配列、例えば、発現制御配列があり;発現に必要な、又は有用な他のエレメントを、例えば、宿主細胞若しくはin vitro発現系によって補充することもできる。こうした調節配列は、典型的に、プロモータを含み、エンハンサー配列又は上流アクチベータ配列を含んでもよい。一部の実施形態では、ベクターは、5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域をコード化する配列を含んでもよく、これは、切断及び/又はポリアデニル化シグナルを含み得る。一般に、調節エレメントは、発現が望まれる核酸の挿入前にベクターに含有させるか、又は挿入した核酸に含有させるか、又は発現が望まれる核酸の挿入後にベクターに含有させてもよい。本明細書で用いられる場合、核酸及び調節エレメントは、それらが、核酸の発現又は翻訳を、調節エレメントの影響若しくは制御下に置くように、共有結合されているとき、「作動可能に連結されている」と言われる。例えば、プロモータ領域は、プロモータ領域が、核酸の翻訳を実施することができれば、その核酸に作動可能に連結されているであろう。当業者であれば、遺伝子発現に有用な調節配列の厳密な性質は、宿主又は細胞の間で変わり得るが、一般に、必要に応じて、転写の開始、RNAプロセシング、又は翻訳の開始に関与する配列を含み得ることは認識されよう。適切なベクター及び調節エレメントの選択及び設計は、当業者の能力及び判断で、十分に実施することができる。例えば、当業者は、所望の種(例えば、哺乳動物種)又は細胞型での発現のために適切なプロモータ(又は他の発現制御配列)を選択するであろう。ベクターは、以下のような哺乳動物細胞での発現を指令することができるプロモータを含んでもよい:例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルス、シミアンウイルス(例えば、SV40)、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス若しくは哺乳動物細胞に感染する他のウイルスに由来する好適なウイルスプロモータ、又は例えば、EF1α、ユビキチン(例えば、ユビキチンB若しくはC)、グロビン、アクチン、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PKG)などの遺伝子に由来する哺乳動物プロモータ、又はCAGプロモータ(CMV早期エンハンサーエレメントとニワトリβアクチンプロモータの組み合わせ)などの複合プロモータ。一部の実施形態では、ヒトプロモータを用いてもよい。一部の実施形態では、通常、真核RNAポリメラーゼIによる転写を指令するプロモータ(「pol Iプロモータ」)、例えば、リボソームRNA(5S rRNA以外の)の転写のためのプロモータを用いてもよい。一部の実施形態では、通常、真核RNAポリメラーゼIIによる転写を指令するプロモータ(「pol IIプロモータ」)又はその機能性変異体を用いる。一部の実施形態では、通常、真核RNAポリメラーゼIIIによる転写を指令するプロモータ(「pol IIIプロモータ」)、例えば、U6、H1、7SKの転写のためのプロモータ又はtRNAプロモータ若しくはその機能性変異体)又はその機能性変異体を用いる。当業者は、対象の発現の転写を指令するのに適切なプロモータを選択するであろう。哺乳動物細胞に用いることができる発現ベクターの例としては、例えば、pcDNAベクターシリーズ、pSV2ベクターシリーズ、pCMVベクターシリーズ、pRSVベクターシリーズ、pEF1ベクターシリーズ、Gateway(登録商標)ベクターなどが挙げられる。哺乳動物細胞に用いることができるウイルスベクターの例としては、例えば、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルス及び弱毒化ポックスウイルスなどのポックスウイルス、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)、セムリキ森林熱ウイルス(Semliki Forest virus)、シンドビスウイルス(Sindbis virus)などが挙げられる。一部の実施形態では、調節可能な(例えば、誘導又は抑制可能な)発現制御エレメント、例えば、調節可能なプロモータを用いて、発現を調節する、例えば、オンにする、若しくは増大するか、又はオフにする、若しくは低減することができる。例えば、テトラサイクリン調節可能な遺伝子発現系(Gossen&Bujard,Proc.Natl.Acad.Sci.89:5547-5551,1992)又はその変異体(例えば、Allen,N,et al(2000)Mouse Genetics and Transgenics:259-263;Urlinger,S,et al.(2000).Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97(14):7963-8;Zhou,X.,et al(2006).Gene Ther.13(19):1382-1390を参照)を使用して、誘導性若しくは抑制性発現をもたらすことができる。様々な実施形態において、他の誘導/抑制系を用いてもよい。例えば、小分子により調製することができる発現制御エレメント、例えば、人工若しくは天然ホルモン受容体リガンド(例えば、天然若しくは合成エストロゲン受容体又はグルココルチコイド受容体リガンドなどのステロイド受容体リガンド)、テトラサイクリン若しくはその類似体、金属調節系(例えば、メタロチオネインプロモータ)をいくつかの実施形態に用いてもよい。一部の実施形態では、例えば、1つ又は複数の選択した組織又は細胞型における発現を指令するために、組織特異的又は細胞型特異的調節エレメントを用いてもよい。
【0094】
一部の実施形態では、ベクターを用いて、細胞のゲノムに外性DNAを挿入する。一般に、任意の好適なベクターを用いてもよい。一部の実施形態では、ベクターは、ウイルスベクター、例えば、レンチウイルスベクター若しくはγレトロウイルスベクターなどのレトロウイルスベクター、又はアデノウイルス若しくはAAVベクターである。一部の実施形態では、ベクターは、プラスミド、例えば、DNAプラスミドである。一部の実施形態では、プラスミドは、細胞のゲノムに挿入しようとするDNAを含み、DNAは、トランスポザーゼの結合部位(「トランスポザーゼ結合部位」)同士の間に配置して、DNAの組み込みが、トランスポザーゼを補充することにより、例えば、同じ若しくは異なるプラスミドからそれを発現させることにより、達成できるようにする。一部の実施形態では、トランスポザーゼは、例えば、トランスポザーゼのSleeping Beautyファミリー、トランスポザーゼのpiggyBacファミリー、又はTol2ファミリーのメンバーである(トランスポザーゼを使用するトランスポゾン、及び遺伝子操作におけるその様々な用途についての論文は、Grabundzija,I.,et al.,Molecular Therapy,vol.18 no.6,1200-1209(2010)を参照されたい)。Sleeping Beautyトランスポザーゼの例としては、SB10、SB11、及びSB100Xがある(例えば、Mates,L.,et al.,Nat Genet.(2009)41(6):753-61;Jin,Z.,et al.Gene Therapy(2011)18,849-856を参照)。一部の実施形態では、ベクターは、ヒト被験者に投与しようとする細胞、例えばヒト細胞を遺伝子操作する上で用いるのに好適である。一部の実施形態では、前記ベクターが、ヒト被験者における少なくとも1つの臨床試験で使用されており、その結果が公開されているが、ベクターに起因し得る臨床的に許容されない有害イベントは報告されていない。一部の実施形態では、ベクターは、自己不活性化レトロウイルスベクターである。このようなベクターは、3’LTRのU3部分の少なくとも一部の欠失により作出することができる。レトロウイルス及びレンチウイルスベクターの例は、米国特許出願公開第20050251872号明細書、米国特許出願公開第20040259208号明細書、及び本明細書に引用する他の様々な参照文献に記載されている。一部の実施形態では、第2又は第3世代レンチウイルスベクターを用いてもよい。
【0095】
いくつかの実施形態の詳細な説明
I.非遺伝子操作真核ペプチド及び細胞のソルタギング
本開示では、遺伝子操作されていない哺乳動物細胞は、ソルターゼを用いて、すなわち、ソルターゼ触媒アシル基転移により、有効に標識できるという意外な発見を説明する。一部の態様では、本発明は、ソルターゼを用いて、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むタンパク質を発現するように遺伝子操作されていない生存哺乳動物細胞に、薬剤を結合させる方法を提供する。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、遺伝子操作されていない。本発明の一部の態様は、ソルターゼ触媒アシル基転移反応が、生存哺乳動物細胞に内在性の1つ又は複数のポリペプチドと薬剤の結合を可能にする、すなわち、ソルターゼを用いて、ソルタギングのために遺伝子操作されていない生存哺乳動物細胞に薬剤を結合させることができるという認識に関する。本明細書で用いられる場合、ポリペプチドは、それが、ソルターゼ触媒反応においてソルターゼ基質又は求核基として作用するのを可能にするように遺伝子操作されていない、すなわち、ポリペプチドが、ソルターゼに接触可能な領域(例えば、C末端若しくはその付近)にソルターゼ認識モチーフを含むように遺伝子操作されておらず、かつ、ソルターゼ触媒反応において求核基の役割を果たし得る求核アクセプター配列、例えば、ポリペプチドのN末端に位置するか、又はポリペプチドの切断によって配列がN末端に配置されるように位置する、1つ又は複数のグリシンを含む配列などを含むように遺伝子操作されていなければ、「ソルタギングのために遺伝子操作されていない」。一部の実施形態では、ポリペプチドは、遺伝子操作されていない。1細胞は、細胞が、ソルターゼ触媒反応においてソルターゼ基質又は求核基の役割を果たすのに好適なポリペプチド(天然か、又は遺伝子操作で得られたかの何れか)を発現するように遺伝子操作されていなければ、「ソルタギングのために遺伝子操作されていない」とみなされる。一部の実施形態では、細胞は、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、細胞は、遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、細胞は、人の手により導入された、そのゲノムに対する修飾を含まない。一部の態様では、本発明は、非常に多様な薬剤の何れかを、非遺伝子操作哺乳動物細胞の表面に結合させるためのソルターゼの使用に関する。別途記載されていないか、又は文脈から明らかでない限り、本開示が哺乳動物細胞のソルタギングについて述べる場合、一般に、ソルタギングのために遺伝子操作されていない哺乳動物細胞を意味することが意図される。いくつかの実施形態では、動物細胞は、遺伝子操作されていない。
【0096】
実施例1及び2に記載するように、遺伝子操作されていないマウス脾細胞は、様々なソルターゼ基質を用いて、容易に検出可能なレベルで有効にソルタギングされた。他の実施形態では、ヒト腎細胞株(HEK293T細胞)及びイヌ腎細胞株(MDCK細胞)の非遺伝子操作細胞、並びに他の様々な非遺伝子操作真核細胞型(真菌、原生動物)のソルタギングも認められた。従って、ソルターゼは、ソルターゼ認識配列又は求核アクセプター配列を含むポリペプチドを発現するように細胞を操作することを必要とせずに、哺乳動物細胞表面及び他の真核細胞表面の修飾のためにソルターゼを用いることができる。本発明のいくつかの実施形態によれば、遺伝子操作されていない哺乳動物細胞は、求核アクセプター配列を含む1つ又は複数の内在性ポリペプチドを発現するため、これが、ソルターゼ触媒アシル基転移反応で求核基として作用することを可能にする。このようなポリペプチドは、細胞表面、例えば、N末端ドメインに、1つ又は複数のグリシンを含む配列を含み得るが、配列は、ソルターゼを用いて、ソルターゼ基質をポリペプチドに結合させる反応において求核基として利用可能である。一部の実施形態では、内在性ポリペプチドは、N末端グリシンを含み得る。一部の実施形態では、内在性ポリペプチドは、そのN末端に1~10のグリシン、例えば、1、2、3、4、若しくは5のグリシンからなる配列を含み得る。一部の実施形態では、ポリペプチドは、最初に合成されたとき、N末端グリシンを含まない場合もある(例えば、N末端アミノ酸は、メチオニンであり得る)が、共翻訳若しくは翻訳後プロセシング(例えば、切断)又は部分的分解を受けることにより、1つ又は複数のグリシンからなる配列がN末端に存在する。例えば、分泌シグナル配列を除去してもよい。このようなプロセシング又は分解は、ポリペプチドの少なくとも一部が細胞表面に露出する前に(例えば、小胞体内で)行ってもよく、又は細胞外環境にポリペプチドの少なくとも一部が露出した後に行ってもよい。このように、本発明の態様は、ソルターゼ触媒認識配列、又はソルターゼ触媒反応において求核基の役割を果たすことができる部分を細胞に結合させるように細胞を修飾することなく、真核細胞表面、例えば、哺乳動物細胞表面をソルタギングするステップを含むことは理解されよう。本発明の態様は、生存真核細胞、例えば、哺乳動物細胞により発現される内在性ポリペプチドをソルタギングするステップを含み、内在性ポリペプチドは、ソルターゼ触媒反応において求核基の役割を果たすことができる1つ又は複数のアミノ酸を自然に含む細胞外ドメインを含む。上記の態様によれば、このようなポリペプチドの細胞外ドメインをコード化する天然DNA配列は、ソルターゼ触媒反応において求核基の役割を果たすことができるアミノ酸をコード化するように、人の手により修飾されておらず、また、前記ポリペプチドは、人の手で細胞外ドメインにこのようなアミノ酸を付加することによる修飾も受けていない。例えば、ポリペプチドの細胞外ドメインは、(G)n部分、(A)n部分、又はソルターゼ触媒反応において求核基の役割を果たすことができる遊離アミノ酸を含む部分の共有若しくは非共有結合に付されていない。何れか態様のいくつかの実施形態では、ソルタギングの前に細胞を化学修飾に付さない。
【0097】
一部の態様では、本発明は、ソルターゼ修飾真核細胞、例えば、ソルターゼ修飾哺乳動物細胞を作製するのに有用な組成物を提供する。一部の実施形態では、本組成物は、ソルターゼと、1つ又は複数の生存真核細胞、例えば、哺乳動物細胞を含み、前記細胞は、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むように遺伝子操作されたポリペプチドを発現しない。一部の実施形態では、細胞は、遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、組成物はさらに、ソルターゼ基質を含む。一部の実施形態では、ソルターゼ基質は、様々な薬剤(例えば、)の何れかを含む。
【0098】
一部の態様では、本発明は、ソルターゼ修飾真核細胞、例えば、ソルターゼ修飾哺乳動物細胞を含む組成物を提供する。一部の実施形態では、組成物は、1つ又は複数のソルターゼ修飾真核細胞、例えば、ソルターゼ修飾哺乳動物細胞を含み、前記細胞は、薬剤と、細胞により発現されたポリペプチドの結合により修飾され、前記ポリペプチドは、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記真核細胞、例えば、哺乳動物細胞は、遺伝子操作されていない。
【0099】
一部の態様では、本発明は、ソルターゼ認識モチーフを介して、細胞により発現された非遺伝子操作ポリペプチドに結合した薬剤を含む、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞を提供する。一部の実施形態では、細胞は遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞により発現される2、3、4、若しくはそれを超える異なる非遺伝子操作ポリペプチドは、ソルターゼ認識モチーフを介してそれに結合した薬剤を有する。異なるポリペプチドに結合させる薬剤は同じであってもよく、又は複数の異なる薬剤で、細胞をソルタギングしてもよい。
【0100】
一部の態様では、本発明は、ソルターゼ修飾真核細胞、例えば、哺乳動物細胞を作製する哺乳動物を提供する。一部の態様では、本発明は、ソルターゼを用いて、非遺伝子操作真核ポリペプチド、例えば、哺乳動物ポリペプチドに薬剤を結合させるステップを含む方法を提供する。一部の態様では、本発明は、ソルターゼを用いて、哺乳動物ポリペプチドに薬剤を結合させるステップを含む方法であって、前記ポリペプチドが、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むように遺伝子操作されていない方法を提供する。一部の実施形態では、ポリペプチドは、生存哺乳動物細胞により発現され、前記方法は、ソルターゼ反応が起こるのに好適な条件下で、ソルターゼ、及び薬剤を含むソルターゼ基質と、前記細胞を接触させるステップを含む。一部の実施形態では、ポリペプチドは、細胞外ドメインを含み、前記方法は、ソルターゼ基質をポリペプチドの細胞外ドメインに結合させるステップを含む。一部の実施形態では、前記細胞外ドメインは、ポリペプチドのN末端を含む。一部の実施形態では、哺乳動物ポリペプチドは、ソルターゼ基質との結合前に、N末端求核アクセプター配列、例えば、N末端グリシンを含む配列を含む。一部の実施形態では、1方法は、ソルターゼ媒介アシル基転移反応が起こるのに好適な条件下で、ソルターゼ及びソルターゼ基質と、1つ又は複数の生存哺乳動物細胞を接触させるステップを含み、生存哺乳動物細胞は、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記哺乳動物細胞は、遺伝子操作されていない。
【0101】
一部の実施形態では、1方法は、ソルターゼ及び/又は細胞に結合していないソルターゼ基質から、1つ又は複数の生存哺乳動物細胞を分離するステップを含む。前記細胞は、ソルターゼ、非結合ソルターゼ基質、又はその両方に関して、選択された純度を達成するように処理してもよい。例えば、一部の実施形態では、ソルターゼの量及び/又は非結合ソルターゼ基質の量は、ソルターゼの選択濃度及び/若しくは選択割合より低く低減することができ、及び/又は非結合ソルターゼ基質を除去することもできる。例えば、ソルターゼ及び/又は非結合ソルターゼ基質の濃度は、初期濃度に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、若しくはそれを超える、99.9%、又は1つ又は複数の生存哺乳動物細胞を含む組成物中に存在したソルターゼ及び/若しくは非結合ソルターゼ基質に対して、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、若しくはそれを超えて低減させることもできるし、また、ソルターゼを除去してもよい。一部の実施形態では、ソルターゼ及び/又は非結合ソルターゼ基質の濃度は、哺乳動物細胞をソルタギングするのに用いた濃度に対して、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、若しくは1.0%以下まで低減させる。一部の実施形態では、ソルターゼ及び/又は非結合ソルターゼ基質は、ポリペプチド及び/又は薬剤に特異的に結合する抗体若しくは他のアフィニティ剤を用いた標準的イムノブロットにより測定すると、組成物中で検出限界を下回る。ソルターゼ及び/又は非結合ソルターゼ基質からソルタギング済み細胞を分離するのに好適な様々な方法を本明細書に記載するが、他の好適な方法を用いてもよい。
【0102】
一部の態様では、本発明は、ソルターゼ媒介アシル基転移反応を介して結合した薬剤を有する生存哺乳動物細胞(ソルタギング済み細胞)を提供する。一部の実施形態では、薬剤は、細胞表面に露出したドメインを含むポリペプチドと結合させる。一部の実施形態では、複数の前記細胞を含む組成物が提供される。一部の実施形態では、薬剤が結合したポリペプチドは、こうした結合の後、ソルターゼ認識モチーフを含む。一部の実施形態では、複数のこのようなソルタギング済み細胞を含む組成物は、細胞がソルタギングされた組成物と比較して、低減したレベルのソルターゼ、非結合ソルターゼ基質、又はその両方を有する。一部の実施形態では、組成物は、ソルターゼ、非結合ソルターゼ基質、又はその両方に関して、選択した純度を有する。一部の実施形態では、組成物中の少なくとも選択した割合(%)の細胞が修飾されている、すなわち、ソルターゼにより結合された薬剤を有する。例えば、一部の実施形態では、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれを超える細胞が、そこに結合した薬剤を有する。一部の実施形態では、結合した薬剤を有する細胞を、薬剤を含まない細胞から分離するステップを含み得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、内在性哺乳動物ポリペプチドは、1つ又は複数のN末端グリシンを含む。1つ又は複数のN末端グリシンを含むポリペプチドは、G(G)n-B
1(Gはグリシンであり、B
1は、アミノ酸配列を表し、nは、負ではない整数、例えば、0~10である)として表すことができ、あるいは、同様に以下のように表すこともできる:
(B
1は、アミノ酸配列を表し、nは、負ではない整数、例えば、0~10である)。いくつかの実施形態では、nは、0、1、2、3、4、若しくは5である。一般に、B
1は、任意の長さ及び配列であってよいが、いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞が、ペプチドを発現するために遺伝子操作されることなく、ペプチドを発現することができるように、B
1を含むポリペプチドは、哺乳動物細胞に内在性の配列を有するものとする。
【0104】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞表面に露出した下記構造:
のポリペプチドを含む生存哺乳動物細胞を、下記構造:
(前記トランスアミダーゼ認識配列は、トランスアミダーゼ酵素により認識されるアミノ酸配列モチーフであり;
Xは、-O-、-NR-、又は-S-であり;ここで、Rは、水素、置換若しくは非置換脂肪族、又は置換若しくは非置換ヘテロ脂肪族であり;
A
1は、アシル、置換若しくは非置換脂肪族、置換若しくは非置換ヘテロ脂肪族、置換若しくは非置換アリール、又は置換若しくは非置換ヘテロアリール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、粒子であり;
R
1は、アシル、置換若しくは非置換脂肪族、置換若しくは非置換ヘテロ脂肪族、置換若しくは非置換アリール、又は置換若しくは非置換ヘテロアリールである)
のソルターゼ基質と、トランスアミダーゼ酵素、例えば、ソルターゼの存在下で、下記式:
(nは、0~10であり、B
1は、生存哺乳動物細胞により発現されたポリペプチドの細胞外ドメインを表す)
の化合物を形成するのに好適な条件下で、接触させるステップを含む。
【0105】
得られるソルターゼ修飾細胞は、以下:
のように表すことができ、ここで、円は、細胞を表し、B
1と細胞の間の短い線は、B
1が、細胞に結合している(例えば、B
1は、内在性膜ポリペプチド又は周辺膜ポリペプチドの一部であってもよい)ことを示す。ソルターゼ基質と薬剤A
1は、細胞に結合しているということができる。ソルターゼ基質のXR
1部分が、反応副産物として放出されることは理解されよう。
【0106】
一部の実施形態では、Xは、-NR-であり、XR1は、グリシン(G)、アラニン(A)、又は天然に存在するソルターゼ認識配列のC末端で認めることができる別のアミノ酸を表す。一部の実施形態では、Xは、-NR-であり、XR1は、(G)j(Xaa)mを表し、各Xaaは、独立に任意のアミノ酸であってよく、各Xaaは、独立に任意のアミノ酸であってよく、jは、少なくとも1で、j+mは、1~5、1~10、1~20、又は1、5、10若しくは20~100である。一部の実施形態では、jは1である。一部の実施形態では、jは、2、3、4、又は5である。一部の実施形態では、jは1である。一部の実施形態では、jは、2、3、4、又は5である。一部の実施形態では、XR1は、検出可能なラベル又はエピトープタグを含む(例えば、(Xaa)mは、エピトープタグを含むか、又は側鎖に結合したタグ若しくは標識を有してもよい)ことによって、反応副産物を、細胞から検出及び/又は単離又は分離できるようにする。
【0107】
一部の実施形態では、Xは、-O-、-NR-、又は-S-であり;Rは、水素、置換若しくは非置換脂肪族、又は置換若しくは非置換ヘテロ脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、アシルである。いくつかの実施形態では、R1は、置換脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、非置換脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、置換C1~12脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、非置換C1~12脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、置換C1~6脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、非置換C1~6脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、C1~3脂肪族である。いくつかの実施形態では、R1は、ブチルである。いくつかの実施形態では、R1は、n-ブチルである。いくつかの実施形態では、R1は、イソブチルである。いくつかの実施形態では、R1は、プロピルである。いくつかの実施形態では、R1は、n-プロピルである。いくつかの実施形態では、R1は、イソプロピルである。いくつかの実施形態では、R1は、エチルである。いくつかの実施形態では、R1は、メチルである。いくつかの実施形態では、R1は、置換アリールである。いくつかの実施形態では、R1は、非置換アリールである。いくつかの実施形態では、R1は、置換フェニルである。いくつかの実施形態では、R1は、非置換フェニルである。いくつかの実施形態では、R1は、標識(例えば、発蛍光団)又はアフィニティタグを含む。いくつかの実施形態では、例えば、ソルターゼ媒介反応に参加しないソルターゼ基質を検出及び/又は除去する、XR1を含む反応副産物を検出及び/又は除去する、ソルターゼ媒介反応の進行を測定又はモニターする、あるいは、ソルターゼ基質が消費された程度を決定するために、標識又はアフィニティタグを用いてよい。
【0108】
いくつかの実施形態では、5アミノ酸トランスアミダーゼ認識配列、例えば、通常、C末端グリシン又はアラニンを第5アミノ酸として含むトランスアミダーゼ認識配列のC末端アミノ酸は、省いてもよい。例えば、グリシン、アラニン、又は天然に存在するトランスアミダーゼ認識配列のC末端にみいだされ得る他の残基ではないアシル基:
で、5アミノ酸トランスアミダーゼ認識配列のC末端を置換してもよい。一部の実施形態では、XR
1は、トランスアミダーゼから放出されると、乏しい求核性を呈示する部分であり、これによって、XR
1が、天然に存在するトランスアミダーゼ認識配列のC末端アミノ酸、例えば、グリシンである場合の効率と比較して、より効率的な連結をもたらすように、選択される。このような乏しい求核性を呈示する任意の部分をいくつかの実施形態に従って用いることができる。一部の実施形態では、アシル基:
は、アミノ酸又はペプチドではない。一部の実施形態では、アシル基は、
である。一部の実施形態では、アシル基は、
である。
【0109】
本発明の一部の実施形態は、ソルターゼ認識モチーフを含む、修飾された非遺伝子操作哺乳動物タンパク質を提供する。本発明の一部の実施形態は、薬剤が結合されたソルターゼ認識モチーフを含む、修飾された非遺伝子操作哺乳動物タンパク質を提供する。本発明の一部の実施形態は、ソルターゼ認識モチーフを含む、修飾された非遺伝子操作タンパク質を含む哺乳動物細胞を提供する。本発明の一部の実施形態は、薬剤が結合されたソルターゼ認識モチーフを含む、修飾された非遺伝子操作タンパク質を含む哺乳動物細胞を提供する。
【0110】
一部の実施形態は、ソルターゼにより設置されたN末端修飾を含む、非遺伝子操作哺乳動物タンパク質を提供し、前記非遺伝子操作哺乳動物タンパク質は、式(I):
[Xaa]y-TRS-PRT (I)
の構造を含む。
【0111】
一部の実施形態は、ソルターゼにより設置されたN末端修飾を含む、非遺伝子操作哺乳動物タンパク質を提供し、前記非遺伝子操作哺乳動物タンパク質は、式(II):
M-[Xaa]y-TRS-PRT (II)
の構造を含む。式(I)及び(II)において:
PRTは、少なくとも3アミノ酸のアミノ酸配列であり、この配列は、哺乳動物細胞に対して内在性であって、例えば、前述したB1を含むポリペプチドであり;
Xaaの各々の例は、独立して、任意のアミノ酸残基であり;
yは、0又は1~2000の整数であり
TRSは、トランスアミダーゼ認識モチーフであり;
式IIのMは、[Xaa]yに結合した薬剤であるか、又は、yが0であれば、Mは、TRSに直接結合した部分である。一部の実施形態では、Mは、アミノ酸配列、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、クリックケミストリーハンドル、又は粒子である。
【0112】
一部の態様では、哺乳動物細胞は、式(I)又は(II)の修飾タンパク質を含む。一部の態様では、[Xaa]y-TRS又はM-[Xaa]y-TRSを含むタンパク質の少なくとも一部は、細胞表面に露出している。一部の実施形態では、前記細胞は、遺伝子操作されていない。
【0113】
一部の実施形態では、ソルターゼにより修飾されたポリペプチド(例えば、前述したB1を含むポリペプチド)は、内在性膜タンパク質(IMP)又はIMPのサブユニットである。IMPは、自然に細胞の形質膜に安定に結合しているタンパク質である。哺乳動物ポリペプチドが、自然に細胞形質膜に結合している様々な様式で、ポリペプチドは細胞に結合し得る。IMPは、膜貫通(TM)ドメイン、一部の実施形態では、細胞内ドメインを含む。ポリペプチドは、形質膜内、又は細胞質中に位置するそのC末端アミノ酸を有してもよい。TMポリペプチドは、1回TM型ポリペプチド又は複数回型の何れであってもよい。一部の実施形態では、ポリペプチドは、片面から膜と結合しているが、脂質二重層を完全にはわたっておらず、膜脂質と共有結合しても、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを有してもよく、及び/又は静電若しくはイオン性相互作用により膜脂質と結合していてもよい。一部の実施形態では、ソルターゼにより修飾されたポリペプチドは、周辺膜タンパク質である。
【0114】
ソルターゼ基質は、非常に多様な薬剤、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、触媒、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、小分子、脂質、リンカー、標識、エピトープ、抗原、治療薬、毒素、放射性同位体、粒子、又はクリックケミストリーハンドルの何れを含んでもよい。いくつかの実施形態では、薬剤は、2つ以上の前記部分を含んでもよい。例えば、リンカーに、非常に多様な部分の何れを結合させてもよい。
【0115】
一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、哺乳動物細胞に薬剤A
1を結合させるために用いようとするソルターゼ基質は、以下:
(X及びR
1は、上に記載した通りである)
のように表すことができる。
【0116】
一部の実施形態では、A1は、タンパク質を含む。一部の実施形態では、A1は、ペプチドを含む。一部の実施形態では、A1は、少なくとも3個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、A1は、抗体、抗体鎖、抗体断片、抗原結合抗体ドメイン、VHHドメイン、単一ドメイン抗体、ラクダ科(camelid)抗体、ナノボディ(nanobody)、アドネクチン、アフィボディ(affibody)、アンチカリン(anticalin)、又はアプタマーを含む。一部の実施形態では、A1は、組換えタンパク質、1つ又は複数の非標準アミノ酸(例えば、D-アミノ酸)を含むタンパク質若しくはペプチド、分岐タンパク質若しくはペプチド、治療用タンパク質若しくはペプチド、酵素、マルチサブユニットタンパク質のポリペプチドサブユニット、膜貫通タンパク質、細胞表面タンパク質、メチル化ペプチド若しくはタンパク質、アシル化ペプチド若しくはタンパク質、脂質化ペプチド若しくはタンパク質、リン酸化ペプチド若しくはタンパク質、又はグリコシル化ペプチド若しくはタンパク質を含む。一部の実施形態では、A1は、抗体又はエピトープを含む。一部の実施形態では、A1は、酵素、増殖因子、サイトカイン、共刺激因子、若しくはアジュバントを含む。一部の実施形態では、A1は、小分子、クリックケミストリーハンドル、脂肪酸、ポリヌクレオチド、炭水化物、タグ、金属原子、造影剤、ペプチド、ポリペプチド、非ポリペプチドポリマー、認識エレメント、脂質、標識、又は粒子を含む。一部の実施形態では、A1は、結合部分である。一部の実施形態では、A1は、ターゲティング部分である。一部の実施形態では、当業者が考慮し得る任意の様式で、任意の位置に、1部分をA1へと導入してもよい。例えば、A1は、アミノ酸を含んでもよく、1部分を例えば、アミノ酸の中心炭素、アミノ酸の側鎖、アミノ酸のカルボキシル基、若しくは窒素に結合させてもよい。一部の実施形態では、薬剤は、一級若しくは二級アミンを含む側鎖を有するアミノ酸を含む。好適なアミノ酸の例としては、例えば、リシン、ε-アミノカプロン酸、及び当技術分野では公知の他の様々なアミノ酸がある。K-LPXTGなどのアミノ酸を含むように、ソルターゼ認識モチーフを延伸してもよい。このようなアミノ酸は、一般に、アミン基との反応による対象の部分の結合点として用いることができる。一部の実施形態では、A1は、生物学的に活性の部分、すなわち、細胞と接触させるか、又は被験者に投与されると、生物学的作用を起こすことができる部分を含む。一部の実施形態では、A1は、TRSを含むか、リンカーを介してTRSに結合されている。一部の実施形態では、リンカーは、切断部位を含み、これは、ソルタギング済み細胞を被験者に投与後に、例えば、in vivoでプロテアーゼにより切断部位が切断されると、A1の少なくとも一部の放出を可能にする。一部の実施形態では、切断によって、治療的に活性の、又は検出可能な部分と、ターゲティング部分の両方を含む薬剤が放出される。ターゲティング部分は、被験者の身体における標的細胞又は部位に対して、放出された薬剤をターゲティングさせることができる。例えば、所定の期間にわたり治療に有用なレベルの薬剤を維持する目的で、薬剤が所定の時間にわたって放出されるように、切断は、選択した時間枠にわたって実施してもよい。一部の実施形態では、期間は、12~24時間、24~48時間、2~6日、又は約1、2、4、6、10、若しくは12週間、又はそれを超える。
【0117】
一部の実施形態では、本発明は、ソルターゼ触媒アシル基転移反応を介して、薬剤が結合された生存哺乳動物細胞(ソルタギング済み哺乳動物細胞)を使用する方法を提供する。ソルタギング済み哺乳動物細胞は、研究、検出、診断又は治療のために、in vitro、in vivoで使用してよい。対象とする特定の使用について以下に詳しく説明するが、これに関して本発明が限定されると理解すべきではない。治療用途の例としては、感染症、癌、自己免疫疾患、炎症状態、酵素欠損症、又は免疫欠損症の治療がある。一部の実施形態では、ソルタギング済み生存哺乳動物細胞は、細胞療法、例えば、再生医療、養子免疫療法において、又はワクチン組成物として使用される。一部の実施形態では、ソルタギング済み生存哺乳動物細胞は、例えば、検出剤又は治療薬を被験者に送達するための送達ビヒクルとして使用してもよい。一部の実施形態では、哺乳動物細胞に結合させた薬剤は、疾患の診断、モニタリング、又は治療に有用な部分を含む。一部の実施形態では、ソルタギング済み生存哺乳動物細胞は、被験者、例えば、疾患の診断、モニタリング、又は治療が必要な被験者に投与する。一部の実施形態では、細胞は、後にそれらを投与する被験者を起原とするか、又は被験者と組織適合性であるドナーを起原とする。
【0118】
一部の態様では、本発明は、哺乳動物の身体において薬剤の循環時間又は血漿半減期を増加する方法を提供し、この方法は、以下:薬剤を用意するステップ;及びソルターゼを用いて、前記薬剤を哺乳動物細胞に結合させるステップを含む。一部の実施形態では、前記方法は、動物に、例えば、循環系に直接、例えば、静脈内に前記哺乳動物細胞を投与するステップをさらに含む。一部の実施形態では、局所的に、例えば、効果、例えば、治療効果が望まれる組織若しくは器官に、細胞を投与することができる。一部の実施形態では、薬剤を細胞、例えば、血液細胞、例えば、赤血球、白血球、リンパ球、又は赤血球若しくは白血球前駆体に結合させると、例えば、非結合薬剤が、腎臓により排出される、又はそうでなければ、循環系から除去される速度と比較して、腎臓による薬剤のクリアランスを低減する、及び/又は循環系からの薬剤の拡散若しくは輸送を抑制することができる。一部の実施形態では、哺乳動物細胞又はその原細胞は、ソルターゼ修飾済み細胞を投与する哺乳動物から得られる。一部の実施形態では、平均循環時間又は血漿半減期が、少なくとも2、3、5、10、20、50、若しくはそれを超える係数で増加し得る。一部の実施形態では、平均循環時間又は血漿半減期は、少なくとも5、10、15、20、25、50日、若しくはそれを超え、例えば、最大で薬剤を結合した細胞の平均寿命となり得る。
【0119】
一部の実施形態では、治療機能は、哺乳動物細胞に結合した治療薬、例えば、酵素又は治療用抗体又は小分子により提供され得る。一部の実施形態では、治療機能は、特定の細胞若しくは細胞型を標的部位にターゲティングさせる、特定の細胞若しくは細胞型を標的部位に誘引する、例えば、標的部位で、特定の細胞若しくは細胞型を活性化する、例えば、標的部位で、特定の細胞若しくは細胞型の1つ又は複数の生物学的活性を刺激若しくは阻害する、例えば、標的部位に触媒活性を付与する部分によって、あるいは、例えば、標的部位で、細胞に作用する治療薬によって提供され得る。一部の実施形態では、哺乳動物細胞に結合したタンパク質又は他の薬剤は、結合ドメイン、例えば、抗原結合ドメイン、又は例えば、被験者における特定の細胞、細胞型、組織、若しくは部位をターゲティングする抗体を含む。一部の実施形態では、結合ドメイン又は抗体を、治療薬、例えば、小分子、又は治療用ポリペプチドに結合させる。一部の実施形態では、結合ドメイン又は抗体を標識に結合させる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、任意の治療薬、例えば、当技術分野で公知の任意の治療薬を哺乳動物細胞に結合させることが考慮される。
【0120】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、そこに結合させた標識、例えば、発蛍光団、蛍光ポリペプチド、量子ドット、金属含有ナノ粒子、又は他の好適な標識を有する。哺乳動物細胞は、標識を検出することにより検出することができる。一部の実施形態では、細胞は、in vitroで、例えば、細胞培養系において検出してよい。一部の実施形態では、細胞を被験者に投与した後、in vivoで検出してよい。一部の実施形態では、細胞は、被験者に投与した後、被験者から採取したサンプルにおいて検出してもよい。一部の実施形態では、細胞は、そこに結合させたターゲティング部分を含む。ターゲティング部分及び標識は、個別に細胞に結合させてもよく、又はこれらは、細胞に単一薬剤の一部であってもよい。前記細胞は、標的部位で蓄積し得るため、標識を検出することによりin vivoで検出することができる。一部の実施形態では、前記細胞は、そこに結合させた治療薬をさらに含んでもよく、又はこれらの細胞は、治療機能、例えば、腫瘍細胞若しくは感染細胞に対する細胞傷害作用を提供し得る。
【0121】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、二機能性薬剤、例えば、二官能性タンパク質とソルタギングする。一部の実施形態では、二機能性薬剤は、第1の機能を有する第1ドメインと、第2の機能を有する第2ドメインを含む。2つのドメイン及び/又は機能は、同じでも異なっていてもよい。一部の実施形態では、少なくとも1つのドメインは、二機能性薬剤を標的にターゲティングさせる結合ドメインを含む。標的は、例えば、器官、細胞若しくは細胞型(例えば、腫瘍細胞若しくは感染細胞などの罹患細胞)、組織、又は疾患部位)であってよい。一部の実施形態では、少なくとも1つのドメインが、治療機能又は標識機能を提供する。非常に多様な二機能性薬剤を用いてよい。一部の実施形態では、二機能性薬剤は、二価薬剤、例えば、二価抗体を含む。二価薬剤は、2つの分子又は実体に結合することができ、これらの分子は、薬剤に応じて同じでも異なっていてもよい。
【0122】
一部の実施形態では、二機能性薬剤は、二重特異性薬剤、例えば、二重特異性タンパク質、例えば、二重特異性抗体である。一部の実施形態では、二重特異性薬剤は、細胞集団、組織、生物、又は被験者における特定の抗原、細胞、細胞型、若しくは部位をターゲティングする。例えば、一部の実施形態では、二重特異性タンパク質は、タンパク質を標的部位(例えば、器官、細胞若しくは細胞型(例えば、腫瘍細胞などの罹患細胞)、組織、又は疾患部位)にターゲティングさせる第1結合ドメイン、例えば、抗原結合ドメインと、治療機能などの機能を付与する第2結合ドメイン、例えば、第2抗原結合ドメインとを含む。一部の実施形態では、タンパク質又は結合ドメイン又は結合薬剤は、標的抗原、例えば、腫瘍抗原又は病原体の抗原に結合する。一部の実施形態では、結合ドメインを、治療薬、例えば、小分子、又は治療用ポリペプチドに結合させる。一部の実施形態では、このような結合は、クリックケミストリーを用いて実施する。例えば、2つのポリペプチド(例えば、scFv及び/又はsdAb)の各々にクリックケミストリーハンドルを設置した後、これらを、クリックケミストリー反応(例えば、以下に詳しく説明するように)により、互いに結合させることによって、ソルターゼを用いた二機能性、二価、又は二重特異性薬剤の生成を実施することができる。ソルターゼ認識モチーフを自由C末端又はその付近に含有させる、及び/又は(G)n若しくは(A)n配列を自由N末端又はその付近に含有させることにより、薬剤のソルターゼ触媒結合をさらに促進することができる。
【0123】
一部の実施形態では、薬剤は、三機能性薬剤である。三機能性薬剤は、三価薬剤、例えば、三重特異性薬剤であってもよい。三価薬剤又はこれより高い力価の薬剤は、3つ以上のscFv、sdAb、又はこれらの組み合わせを含む単一ポリペプチドとして生成することができる。単一のポリペプチド鎖に異なる特異性を有するscFv及び/又はsdAbを含有させることにより、多重特異性(例えば、二重特異性、三重特異性)薬剤が生成される。このような薬剤は、異なる分子又は実体に結合することによって付与される複数の異なる機能を有し得る。ソルターゼを用いて、二機能性薬剤について記載したように、三重機能性薬剤を生成することができる。また、二重特異性又は三重特異性薬剤を生成する他の方法を用いてもよい。例えば、様々な異なる手法の何れかを用いて、化学結合を実施してもよい(例えば、前掲のHermanson,Gを参照)。
【0124】
一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、粒子を哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、前記粒子は、検出可能な標識又は治療薬を含む。一部の実施形態では、前記粒子は、ポリマー粒子である。検出可能な標識又は治療薬は、粒子中に被包する、内部に含浸させる、又はその表面の少なくとも一部にコーティングするか、あるいは、粒子と物理的に結合させてもよい。一部の実施形態では、標識又は治療薬は、例えば、所定の期間にわたって治療に有用なレベルの薬剤を維持するように、所定の期間にわたって放出させる。一部の実施形態では、前記期間は、12~24時間、24~48時間、2~6日、又は最大約1、2、4、6、10、若しくは12週間、又はそれを超える。
【0125】
一部の実施形態では、前記粒子は、超音波マイクロバブルであるか、又は造影剤を含む。一部の実施形態では、前記粒子は、少なくとも5nm、最大約100nm、500nm、1μm、2μm、又は3μmの直径若しくは平均長径又は長さを有する。一部の実施形態では、ソルタギングを用いて、哺乳動物細胞を支持体に結合させる。支持体は、そこに結合した、例えば、支持体に直接結合しているか、又は支持体の全部若しくは一部のコーティングに結合した、TRSを含む薬剤を有してもよい。支持体は、薬剤が細胞に結合することにより、細胞を支持体に結合させるような条件下で、哺乳動物細胞及びソルターゼと接触させる。
【0126】
当業者には、ソルターゼ支持体、ソルタギング済み哺乳動物ポリマー、及びソルタギング済み細胞が、任意の薬剤、例えば、任意の結合物質、治療薬、又は検出剤を含んでよく、これらは、ソルターゼ認識配列を含むか、又は配列を含むポリペプチドに連結させることができる。一部の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法によって生成される哺乳動物細胞、及びこのような細胞を含む組成物を包含し、前記細胞は、何れの細胞型であってもよく、ソルターゼを用いて結合された任意の薬剤を有してよい。一部の態様では、本発明は、例えば、本明細書に記載する1つ又は複数の目的のために、このような細胞を使用する方法を包含する。
【0127】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞を、1つ又は複数の実体に結合することができる薬剤とソルタギングする。このような部分は、「結合部分」と呼ばれ得る。一部の実施形態では、結合部分を含む薬剤を、本明細書に記載する哺乳動物細胞に結合させ、哺乳動物細胞を1つ又は複数の実体を含む環境に置く。結合部分は、哺乳動物細胞を、結合部分と実体同士の相互作用により実体の少なくとも1つとつながった(結合した)状態にする。実体は、結合部分と物理的に相互作用する特定のドメイン、部分、又は結合部位を含有してもよい。一般に、結合部位は、対象の実体を特異的に認識することができる任意の部分であってよい。結合部分が、実体の一部のみ、例えば、タンパク質のエピトープを認識するものであってもよいことは理解されよう。一般に、特定の実体と結合する結合部分は、実体との適切な相互作用を形成することができる任意の部分であってよい。一部の実施形態では、結合部分は、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片、操作された結合タンパク質(例えば、アフィボディ、アンチカリン、若しくはアドネクチン)、核酸アプタマー、天然又は人工リガンドなどであってよい。一部の実施形態では、リガンドは、小分子である。例えば、結合部分は、受容体に結合する小分子であってもよい。一部の実施形態では、結合部分は、受容体であってもよく、これは、受容体のリガンドを含む実体に結合し得る。いくつかの実施形態では、同じ又は異なる特異性を有する2つ、3つ、若しくはそれを超える結合部分を組み合わせて(例えば、化学結合、融合タンパク質としての生成、又はソルターゼ触媒反応により)、多価薬剤、例えば、二価若しくは三価薬剤を形成してもよい。一部の実施形態では、薬剤は、3~10、10~25、25~50、50~100、100~1000、若しくはそれを超える結合部分を含む多量体又はコンカテマーを含む。一部の実施形態では、多価薬剤は、単一結合部分を含む薬剤より、標的に対して高い親和性又は結合活性を有し得る。
【0128】
一部の実施形態では、結合部分は、薬剤を対象の標的にターゲティングさせることができる。このような結合部分は、「ターゲティング部分」と呼ばれ得る。一部の実施形態では、ターゲティング部分を含む薬剤は、哺乳動物細胞に結合して、哺乳動物細胞を対象の標的にターゲティングさせる。一般に、結合部分が、対象の標的を認識して、これに結合することができれば、何れの結合部分をターゲティング部分として用いてもよい。対象の標的は、様々な実体の何れであってもよい。一部の実施形態では、対象の標的は、細胞、構造、又は分子に結合するか、これを含む。一部の実施形態では、対象の標的は、正常細胞である。一部の実施形態では、対象の標的は、異常細胞、例えば、癌細胞又は感染細胞などの罹患細胞である。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、標的細胞の表面に露出したポリペプチド、脂質、又は糖、例えば、標的細胞により発現されたポリペプチドの細胞外ドメインである。一部の実施形態では、対象の標的は、組織、器官、若しくは被験者における特定の抗原、細胞型、若しくは部位であるか、又はこれを含む。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、対象の細胞上のマーカに結合する。一部の実施形態では、罹患細胞若しくは疾患部位に特異的な標的又はマーカ。
【0129】
一部の実施形態では、少なくとも2つの異なる薬剤とソルタギングした細胞を含む組成物を生成するように、各々がソルターゼ認識モチーフ及び異なる薬剤を含む2つ以上の異なるソルターゼ基質と、哺乳動物細胞の集団を接触させる。一部の実施形態では、哺乳動物細胞の集団を複数のアリコートに区分する。アリコートの数及びアリコート当たりの細胞の数は、任意の好適な様式で選択してよい。一部の実施形態では、アリコートは、少なくとも103、104、105、106、107、又は108個の細胞を含む。一部の実施形態では、アリコートの数は、2~1,000である。後の使用のために1つ又は複数のアリコートを保存してよい。一部の実施形態では、各々が、ソルターゼ認識モチーフ、及びソルターゼ認識モチーフに結合した異なる薬剤を含む2つ以上の異なるソルターゼ基質を、2つ以上の異なるアリコートに結合させて、異なる薬剤が結合した哺乳動物細胞の2つ以上の集団を生成する。異なるアリコート、又はその部分を後に合わせてもよい。異なる薬剤は、同じ又は異なる化合物クラス(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子)であってよい。異なる薬剤は、配列若しくは構造が関連していても、していなくてもよく、又は同じ標的に結合が可能でも、可能でなくてもよい。
【0130】
一部の実施形態では、2つ、3つ、又はそれを超える配列ソルタギング反応を実施してよい。一部の実施形態では、細胞をソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列及び第1薬剤を含む第1基質と接触させた後、所定の時間にわたり、細胞を第1薬剤とソルタギングするのに適切な条件下で、ソルタギング反応を進行させる。次に、細胞を例えば、容器から細胞又は第1基質を取り出すことにより、第1基質から細胞を分離する。次いで、ソルタギング済み細胞を、ソルターゼ認識配列及び第2薬剤を含む第2基質と接触させ、所定の時間にわたり、細胞を第2薬剤とソルタギングするのに適切な条件下で、ソルタギング反応を進行させることによって、第1薬剤及び第2薬剤とソルタギングした細胞を取得する。一部の実施形態では、細胞をソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列及び第1薬剤を含む第1基質と接触させた後、所定の時間にわたり、細胞を第1薬剤でソルタギングするのに適切な条件下で、ソルタギング反応を進行させる。次に、第1ソルターゼ基質を分離せずに、第2ソルターゼ基質を反応混合物に添加して、反応を進行させる。各ソルタギング反応の時間及び条件、様々な基質を添加若しくは使用する順序などの要因は、細胞に結合させた第1及び第2薬剤の所望の割合を達成するように調節することができる。2つ以上の基質が、異なる分子量を有する一部の実施形態では、より低い分子量を有する基質の前に、より高い分子量を有する基質を使用してよい。工程は1回若しくは複数回繰り返してもよい。要望されれば、経時的ソルタギングの程度をモニターするために、時間経過分析を実施してもよい。例えば、完了(最大結合)に向かう選択部分を生じる反応をもたらす条件を決定することができる(例えば、25%、50%、75%、90%、又はそれを超える)。時間経過分析から取得した情報を用いて、細胞表面上での様々な薬剤の所望の割合を達成するために反応を最適化することができる。もちろん、ソルターゼ基質の混合物を一緒に用い、各ソルタギング反応を実施することにより、細胞に結合させた任意の数、例えば、3、4、5、6、若しくはそれを超える異なる薬剤を得ることもできる。
【0131】
一部の実施形態では、本発明のソルターゼを用いて、哺乳動物細胞に結合させる薬剤の分子の総数は、10~100;100~1,000;1,000~10,000;10,000~50,000;50,000~100,000;100,000~500,000;500,000~1,000,000;1,000,000~2,500,000;2,500,000~5,000,000;5,000,000~10,000,000、又はそれを超える。一部の実施形態では、本発明に従いソルタギングした哺乳動物細胞の調製物において、哺乳動物細胞に結合した、細胞当たりの薬物分子の平均数は、10~100;100~1,000;1,000~10,000;10,000~50,000;50,000~100,000;100,000~500,000;500,000~1,000,000;1,000,000~2,500,000;2,500,000~5,000,000;5,000,000~10,000,000、又はそれを超える。細胞当たりの分子の数、又は平均数は、必要であれば、反応条件の適切な選択、例えば、用いるソルターゼ、温度、及び/又は反応時間などの1つ又は複数の要因を制御することによって制御することができる。また、細胞当たりの分子の数、又は平均数は、利用可能な表面積又は細胞型によっても変動し得る。一部の実施形態では、本発明のソルターゼを用いて非哺乳動物細胞に結合させる薬剤の分子は、哺乳動物細胞について述べた通りである。いくつかの実施形態では、細胞調製物は、細胞調製物中の細胞のうちの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれを超えるものは、それらに結合した前述の何れかの範囲内の数の薬剤の分子を有する。
【0132】
何れの理論に拘束されるわけではないが、遺伝子操作されていない哺乳動物細胞のソルターゼ媒介修飾は、様々な目的、例えば、細胞を被験者に投与するいくつかの目的に関して、1つ又は複数の利点を有し得る。遺伝子操作されていない細胞の使用は、例えば、遺伝子操作を受けにくい細胞の修飾を可能にし、時間のかかる可能性がある遺伝子操作のステップを回避し、及び/又は核酸をゲノムに挿入するために、例えばレトロウイルスなどのウイルスベクターを用いて、ゲノム配列を修飾する場合に起こり得る安全の懸念事項を回避し得る。このような懸念事項としては、癌遺伝子の活性化又は癌抑制遺伝子の不活性化を招き得る潜在的な挿入突然変異が挙げられる。
【0133】
遺伝子操作されていない細胞の使用は、いくつかの利点を有し得るが、別途記載のない、又は文脈から明白でない限り、本明細書に記載するソルターゼ媒介動物細胞を作製又は使用する方法の何れも、いくつかの実施形態では、ポリペプチドが、ソルターゼ媒介反応におけるソルターゼ基質又は求核基としての使用に好適であるように、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作された動物細胞を使用することもある。同様に、別途記載のない、又は文脈から明白でない限り、ソルターゼ修飾済み動物細胞を含むか、又はこのような細胞を作製若しくは使用するのに有用な組成物の何れも、いくつかの実施形態では、ポリペプチドが、ソルターゼ媒介反応におけるソルターゼ基質又は求核基としての使用に好適であるように、ソルターゼ認識モチーフ又は求核アクセプター配列を含むポリペプチドを発現するように遺伝子操作された細胞を使用することもある。
【0134】
一部の実施形態では、遺伝子操作された細胞を、ソルターゼを用いて修飾することにより、ソルターゼ基質を細胞の非遺伝子操作内在性ポリペプチドに結合させる。前記細胞は、例えば、非常に多様な産物、例えば、ポリペプチド若しくはノンコーディングRNAの何れを発現するように遺伝子操作されている、1つ又は複数の遺伝子の少なくとも一部の欠失を有するように遺伝子操作されている、及び/又は1つ又は複数の内在性遺伝子の配列に1つ又は複数の的確な改変を有するように遺伝子操作されていてもよい。いくつかの実施形態では、こうした遺伝子操作細胞の非操作内在性ポリペプチドを、本明細書に記載する様々な薬剤の何れかとソルタギングする。
【0135】
本発明は、主として哺乳動物細胞に関して記載されるが、本発明は、真核細胞、例えば、任意の動物細胞、例えば、任意の脊椎動物細胞、例えば、鳥類細胞、魚類細胞、両生類細胞、若しくは爬虫類細胞、又は非脊椎動物細胞、例えば、昆虫細胞、若しくは真菌細胞(例えば、酵母)、若しくは原生動物細胞を、本明細書に記載する任意の態様に用いてもよい。従って、本開示が、哺乳動物細胞に関して述べる場合、別途記載のない、又は文脈から明白でない限り、他の真核細胞、例えば、真菌、昆虫、原生動物に関する類似の態様及び実施形態が提供されることは理解すべきである。一部の実施形態では、そのような細胞に内在性のポリペプチドをソルタギングしてもよい。
【0136】
いくつかの実施形態では、真核細胞、例えば、動物細胞のソルタギングは、ソルタギングのために遺伝子操作された細胞のソルタギングは含まず、及び/又はそのようなソルタギングに関連して実施されない。例えば、本方法は、ソルターゼ認識配列又は求核アクセプター配列を含むタンパク質を含むように遺伝子操作された細胞のソルタギングに関連する陰性対照として実施されない。いくつかの実施形態では、ソルタギングのために遺伝子操作されていないソルタギング済み動物細胞を1つ又は複数の対象目的で用いるために、本方法を実施する。いくつかの実施形態では、ソルタギングは、動物細胞に対するソルターゼ基質の非特異的結合のバックグラウンドレベルとして適切に予想されるものを超えるレベルで行われる。一部の実施形態では、生成されるソルタギング済み細胞の数は、哺乳動物被験者、例えば、ヒトに対して治療に有効な量の薬剤を投与するのに十分なものである。
【0137】
II.好適なトランスアミダーゼ酵素及びトランスアミダーゼ認識モチーフ
「ソルターゼ」として同定される酵素は、様々なグラム陽性菌から単離されている。天然には、これらの酵素は、細胞壁選り分け(cell wall sorting)反応を触媒するが、この反応では、ソルターゼ認識モチーフを含む選り分けシグナルを有する表面タンパク質が切断され、タンパク質のカルボキシル末端が、ペプチドグリカンのペンタグリカン架橋に共有結合する。グラム陽性菌としては、以下:アクチノマイセス(Actinomyces)、バチルス(Bacillus)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、セルロモナス(Cellulomonas)、クロストリジウム(Clostridium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ミクロコッカス(Micrococcus)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、ノカルディア(Nocardia)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、及びストレプトミセス(Streptomyces)属が挙げられる。いくつかの実施形態では、ソルターゼにより触媒されるペプチド転移反応によって、ソルターゼ認識モチーフを含む種と、1つ又は複数のN末端グリシン残基若しくは1つのN末端アルキルアミン基を担持する種の連結が起こる。ソルターゼ、ソルターゼ媒介アシル基転移反応、及びタンパク質操作におけるそれらの使用は、当業者には周知である(例えば、Ploegh et al.,国際特許出願:PCT/米国特許出願公開第2010/000274号明細書(国際公開第2010/087994号パンフレット)、及びPCT/米国特許出願公開第2011/033303号明細書(国際公開第2011/133704号パンフレット)を参照。ソルターゼの使用、ソルターゼ調製方法、ソルターゼ、ソルターゼ基質、ソルターゼ認識配列などについての別の記載は、以下:Popp MW,Ploegh HL.,Angew Chem Int Ed Engl,2011;50:5024-5032;Strijbis,K.,et al.,Traffic 2012;13:780-789;Witte MD,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2012;109(30):11993-8;Hess GT,et al.,Bioconjug Chem.2012 Jul 18;23(7):1478-87,Witte MD et al.(2012)PNAS 109:11993-11998;Guimaraes CP et al.(2013)Site-specific C-terminal and internal loop labeling of proteins using sortase-mediated reactions.Nat Protoc 8:1787-1799、及びこれらの文献の何れかの参照文献にみいだすことができる。
【0138】
ソルターゼは、グラム陽性菌ゲノム由来の61のソルターゼの配列アラインメント及び系統樹解析に基づいて、A、B、C、及びDと称する4クラスに分類されている(Dramsi S,Trieu-Cuot P,Bierne H,Sorting sortases:a nomenclature proposal for the various sortases of Gram-positive bacteria.Res Microbiol.156(3):289-97,2005。これらのクラスは、ソルターゼが、Comfort及びClubb(Comfort D,Clubb RT.A comparative genome analysis identifies distinct sorting pathways in gram-positive bacteria.Infect Immun.,72(5):2710-22,2004)によっても分類された以下のサブファミリー:クラスA(サブファミリー1)、クラスB(サブファミリー2)、クラスC(サブファミリー3)、クラスD(サブファミリー4及び5)に対応する。前述した参照文献は、多数のソルターゼ及び認識モチーフを開示している。また、Pallen,M.J.;Lam,A.C.;Antonio,M.;Dunbar,K.TRENDS in Microbiology,2001,9(3),97-101も参照されたい。当業者は、配列及び/又はDramsiら(前掲)に記載されているものなどの他の特徴に基づいて、正しいクラスにソルターゼを容易に割り当てることができよう。「ソルターゼA」という用語は、本明細書において、クラスAソルターゼを指すために用いられ、これは、通常、何れかの具体的細菌種のSrtA、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)又は化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)由来のSrtAと呼ばれる。同様に、「ソルターゼB」という用語は、本明細書において、クラスBソルターゼを指すために用いられ、これは、通常、何れかの具体的細菌種のSrtB、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のSrtBと呼ばれる。本開示は、当技術分野で公知のソルターゼクラスの何れか(任意の細菌種若しくは株由来のソルターゼA、任意の細菌種若しくは株由来のソルターゼB、任意の細菌種若しくは株由来のクラスCソルターゼ、任意の細菌種若しくは株由来のソルターゼB、任意の細菌種若しくは株由来のクラスDソルターゼ)に関する実施形態を包含する。一部の実施形態では、N末端グリシン、例えば、1~5のN末端グリシンを有する求核アクセプター配列を使用するソルターゼ、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のSrtAが用いられる。一部の実施形態では、2種以上のソルターゼを用いることが考慮される。一部の実施形態では、ソルターゼは、様々なソルターゼ認識配列及び/又は様々な求核アクセプター配列を使用してもよい。例えば、化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)由来のSrtAは、1つ又は複数のN末端アラニン、例えば、1~5のN末端アラニンを使用することができ、及び/又はLPXTAを含むソルターゼ認識モチーフを使用する場合もある。
【0139】
SrtA及びSrtBのアミノ酸配列、及びこれらをコード化するヌクレオチド配列は、当業者には周知であり、本明細書に引用するいくつかの参照文献に開示されている(これらは全て、その全内容を参照により本明細書に組み込む)。黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA及びSrtBのアミノ酸配列は、相同的であり、例えば、22%の配列同一性及び37%の配列類似性を有する。黄色ブドウ球菌(Streptococcus aureus)由来のソルターゼ-トランスアミダーゼのアミノ酸配列もまた、グラム陽性菌由来の酵素の配列と実質的な相同性を有し、このようなトランスアミダーゼは、本明細書に記載する連結工程に使用することができる。例えば、SrtAの場合、化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)オープンリーディングフレームの全配列決定領域にわたる最良のアラインメントの場合、約31%の配列同一性(及び約44%の配列類似性)がある。アクチノマイセス・ネスランディ(A.naeslundii)オープンリーディングフレームの全配列決定領域にわたる最良のアラインメントの場合、約28%の配列同一性がある。異なる細菌種は、特定のポリペプチドの配列に相違を呈示し得ること、また本明細書に記載する配列が例示的であることは理解されよう。
【0140】
いくつかの実施形態では、ソルターゼをコード化する黄色ブドウ球菌(S.aureus)、化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)、アクチノマイセス・ネスランディ(A.naeslundii)、ミュータンス菌(S.mutans)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)若しくは枯草菌(B.subtilis)オープンリーディングフレームと18%以上の配列同一性、20%以上の配列同一性、又は30%以上の配列同一性を有するトランスアミダーゼをスクリーニングすることができ、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のSrtA又はSrtBと同等のトランスアミダーゼ活性を有する酵素を使用することができる(例えば、同等の活性は、時としてSrtA又はSrtB活性の10%以上である)。
【0141】
従って、本発明の一部の実施形態では、ソルターゼは、ソルターゼA(SrtA)である。SrtAは、モチーフLPXTGを認識し、共通の認識モチーフは、例えば、LPXTG、LPATG、LPNTGである。一部の実施形態では、LPETGが用いられる。しかし、このコンセンサスから逸脱するモチーフが認識される場合もある。例えば、一部の実施形態では、モチーフは、4位に「T」ではなく、「A」を含み、例えば、LPXAG、例えば、LPNAGである。一部の実施形態では、モチーフは、5位に「G」ではなく、「A」を含み、例えば、LPXTA、例えば、LPNTAである。一部の実施形態では、モチーフは、2位に「P」ではなく、「G」を含み、例えば、LGXTG、例えば、LGATGである。一部の実施形態では、モチーフは、1位に「L」ではなく、「I」を含み、例えば、IPXTG、例えば、IPNTG若しくはIPETGである。
【0142】
一部の実施形態では、天然に存在するソルターゼの変異体を用いてもよい。このような変異体は、このような指向性進化、部位特異的修飾などの方法を通して作製することもできる。ソルターゼ酵素、例えば、ソルターゼA酵素に関する相当の構造関連情報が入手可能であり、これは、SrtA単独若しくはソルターゼ認識配列と結合したSrtAのNMR又は結晶構造を含む(例えば、Zong Y,et al.J.Biol Chem.2004,279,31383-31389を参照)。3次元構造情報も、他のソルターゼ、例えば、化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)SrtAについて入手可能である(Race、PR,et.,J Biol Chem.2009,284(11):6924-33)。黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの活性部位及び基質結合ポケットが同定されている。当業者は、例えば、ソルターゼの活性部位若しくは基質結合ポケットを破壊するか、又は実質的に改変する欠失若しくは置換を回避することにより、機能性変異体を作製することができる。一部の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの機能性変異体は、120位にHis、184位にCys、及び197位にArgを含み、184位のCysは、TLXTCモチーフ内に位置する。他のSrtAの機能性変異体は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA中の上記残基の位置に対応する位置に、His、Cys、Arg、及びTLXTCモチーフを有し得る。一部の実施形態では、ソルターゼ変異体は、その野生型ソルターゼA配列又はその触媒ドメインに対して、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の、例えば、配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸60~206に対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の、又は配列番号1若しくは配列番号2のアミノ酸26~206に対して少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含む。一部の実施形態では、ソルターゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸60~206に対して、あるいは、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸26~206に対して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15のアミノ酸置換を含む。
【0143】
一部の実施形態では、天然に存在するソルターゼより高いトランスアミダーゼ活性を有するトランスアミダーゼを用いてもよい。一部の実施形態では、トランスアミダーゼの活性は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの少なくとも約10、15、20、40、60、80、100、120、140、160、180、又は200倍である。一部の実施形態では、前記活性は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの約10~50倍、例えば、約10~20倍、約20~30倍、約30~50倍高い。一部の実施形態では、前記活性は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの約50~約150倍、例えば、約50~75倍、約75~100倍、約100~125倍、又は約125~150倍高い。例えば、出発野生型酵素と比較して、LPETG結合活性が最大140倍増大した黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの変異体がみいだされている(Chen,I.,et al.,PNAS 108(28):11399-11404,2011)。一部の実施形態では、このようなソルターゼ変異体を本発明の組成物又は方法に用いる。一部の実施形態では、ソルターゼ変異体は、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAに対して、次の置換の何れか1つ又は複数を含む:P94S又はP94R、D160N、D165A、K190E、及びK196T突然変異。
【0144】
当業者であれば、置換に関する以上の説明では、形態X1NX2の標準的表記法(X1及びX2は、アミノ酸を表し、Nは、アミノ酸位置を表し、X1は、第1配列(例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列)に存在するアミノ酸を表し、X2は、N位のX1を置換するアミノ酸を表し、これによって、N位にX1ではなく、X2を有する第2配列が得られる)を使用することは理解されよう。本開示は、SrtA変異体を作製するために用いられる野生型SrtA配列の特定のN位に存在し、変異体においてX2で置換される本来のアミノ酸残基X1の正体(identity)により、何ら限定されるものではないことは理解すべきである。本明細書に指定する位置に、指定のアミノ酸残基をもたらすあらゆる置換が本開示により考慮される。従って、置換は、位置及びX2の正体により決定され得るが、X1は、例えば、特定のSrtAが由来する特定の細菌種若しくは株に応じて変わり得る。従って、一部の実施形態では、ソルターゼAは、以下に挙げるもののうちの何れか1つ又は複数を含む:94位のS残基(S94)又は94位のR残基(R94)、160位のN残基(N160)、165位のA残基(A165)、190位のE残基(E190)、196位のT残基(T196)(野生型SrtA、例えば、配列番号1の番号付けに従って番号付けした)。例えば、一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA(例えば、配列番号1)に対して、2つ、3つ、若しくは4つの前記突然変異を含む。一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、94位のS残基(S94)又は94位のR残基(R94)、並びにまた、160位のN残基(N160)、165位のA残基(A165)、及び196位のT残基(T196)を含む。例えば、一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、P94S又はP94R、並びにまたD160N、D165A、及びK196Tを含む。一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、94位のS残基(S94)又は94位のR残基(R94)、並びにまた、160位のN残基(N160)、165位のA残基(A165)、190位のE残基、及び196位のT残基を含む。例えば、一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、P94S又はP94R、並びにまたD160N、D165A、K190E、及びK196Tを含む。一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、94位のR残基(S94)、160位のN残基(N160)、165位のA残基(A165)、190位のE残基、及び196位のT残基を含む。一部の実施形態では、ソルターゼA変異体は、P94R、D160N、D165A、K190E、及びK196Tを含む。
【0145】
さらに、本開示が、任意の野生型ソルターゼAの変異体を考慮することも理解すべきである。当業者は、ソルターゼAの野生型配列は変わり得るものであり、例えば、様々な種由来のSrtAは、例示的野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAのアミノ酸配列に対して、ギャップ、挿入を有し得る、及び/又は長さが変動し得ることを理解されよう。当業者は、置換又は他の改変に関して本明細書に記載する位置が、別途記載のない限り、例示的野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの配列に関すること、また、このようなギャップ、挿入、及び/又は長さの差を補うために、異なる細菌SrtA配列において対応する置換を実施する際、前記の位置を調節してもよいことは理解されよう。例えば、前述したように、いくつかのソルターゼ変異体は、アミノ酸94位に置換を含む(例えば、アミノ酸をS残基に変える)。しかし、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAにおける94位のアミノ酸は、配列をアラインメントしたとき、第2の細菌種由来のSrtAにおいて異なる位置(例えば、Z位)のアミノ酸と一致し得る。「94位」(野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)srtA番号付けに基づく)に置換を含む第2の細菌種の変異体を作製する場合、変更すべきなのは、94位のアミノ酸ではなく、第2細菌種由来のSrtAのZ位のアミノ酸である。当業者であれば、2つの配列のアラインメントにおけるギャップ及び/又は挿入を考慮に入れる場合、例示的野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列と一致するオリジナル野生型ソルターゼA配列における位置を決定するために、SrtA変異体の作製に用いようとする任意のオリジナル野生型ソルターゼA配列を、例示的野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列とアラインメントする方法は理解されよう。
【0146】
一部の実施形態では、94、160、165、190、及び/又は196位のアミノ酸は、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAにおけるこれらの位置に存在するアミノ酸と比較して、変異体において改変されており、変異体の他のアミノ酸は、野生型SrtA、例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの対応する位置に存在するアミノ酸と同じである。一部の実施形態では、変異体の1つ又は複数の他のアミノ酸、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10の他のアミノ酸が、野生型SrtA、例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの対応する位置に存在するアミノ酸と異なる。一部の実施形態では、変異体は、上の「変異体」の定義で記載した配列の特性又は同一性の割合の何れかを有し得る。
【0147】
例示的野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列(Gene ID:1125243,NCBI RefSeq Acc.No.NP_375640.1)を、前述した位置に下線を引いて、以下に示す。
【0148】
当業者は、様々な亜種、株、及び単離物が、活性に有意に影響しない位置で配列が異なることは理解されよう。例えば、別の例示的野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列(Gene ID:3238307,NCBI RefSeq Acc.No.NP_187332.1;GenBank Acc.No.AAD48437)は、以下の配列番号2に示すように、57位にK残基を、また167位にG残基を有する。
【0149】
これらのアミノ酸の何れか又は両方(すなわち、K57及び/又はG167)は、天然又は人為的に作製されたものかにかかわらず、任意のSrtA配列、例えば、任意の黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列に存在しても、又はそれに導入してもよい。さらに、本明細書に記載するように、任意のソルターゼ配列は、タグ(例えば、6XHis)、スペーサ、又はその両方をさらに含んでもよい。例えば、任意選択でスペーサにより残りの配列から分離されたタグを含有するように、N又はC末端を延伸してもよい。
【0150】
一部の実施形態では、下記の配列を含むソルターゼ変異体を用いてもよく、配列番号1又は配列番号2の野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAに対するアミノ酸置換は、下線を引いた太字で示す。
【0151】
理解されるように、前記配列のアミノ酸2~148は、完全長黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列のアミノ酸60~206に対応する(触媒ドメイン)。例えば、配列番号3の36位の「R」残基は、配列番号1又は2の94位の「P」残基に対応する。また、一部の実施形態では、94、160、165、190、及び196位(配列番号1又は2の番号付けに従って番号付けした)の1つ又は複数に他の置換を有するソルターゼ変異体を使用することも考慮され、この場合、このような置換は、配列番号3の配列と比較して、関連位置に保存的置換であるアミノ酸を使用する。
【0152】
一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼ、例えば、カルシウム非依存性ソルターゼAを用いる。一部の実施形態では、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAのカルシウム非依存性変異体を用いる。本明細書で用いられる場合、「カルシウム非依存性」という用語は、ソルターゼ酵素、例えば、ソルターゼA酵素が、少なくとも約0mM~約10mMの濃度範囲にわたって、カルシウムの非存在、存在、又は濃度に実質的に非依存的な様式で、触媒活性を発揮する能力を指す。例えば、一部の実施形態では、実質的に全てのカルシウムイオンをキレート化するのに十分な濃度で、EDTA又はEGTAなどのカルシウムキレート剤を含む水性媒体中のカルシウム非依存性ソルターゼの活性は、カルシウムキレート剤の非存在下での同じ媒体中のその活性の約80%、85%、90%、95%、若しくはそれを超える割合と等しいか、又は少なくともこれらと同等である。カルシウム非依存性ソルターゼは、より高いカルシウム濃度、例えば、最大で、酵素の適正な機能に有害ではない任意の濃度でもカルシウム非依存性活性を発揮する。一部の実施形態では、カルシウム依存性ソルターゼが触媒活性を発揮するのに必要なカルシウム濃度より低いカルシウム濃度の存在下で、ソルターゼ触媒活性を発揮する能力について、ソルターゼをアッセイすることができる。本明細書で用いられる場合、ソルターゼに関して「カルシウム依存性」という用語は、ソルターゼの触媒活性が、カルシウムの存在又は濃度に依存するか、若しくは左右されるため、カルシウムの非存在又は十分な量のカルシウムの非存在下で、カルシウム依存性ソルターゼは、ソルターゼ触媒活性を発揮しないか、又は活性が大幅に低減する(例えば、カルシウムが十分な量(例えば、5mM~約10mM)で存在する場合にそれが有する活性の約5%未満、又は約10%未満)ことを意味する。一部の実施形態では、カルシウム依存性ソルターゼ、例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA又はその触媒ドメインは、0.5mMカルシウム、例えば、少なくとも1.0mM、少なくとも2.0mM、少なくとも3.0mM、少なくとも4.0mM、又は少なくとも5.0mMカルシウムを含有する媒体中で真核細胞をソルタギングするのに用いられる。例えば、カルシウム濃度は、1.0mM~2.5mM、2.5mM~5.0mM、5.0mM~7.5mM、7.5mM~10.0mM、10.0mM~15mM、15mM~20mMであってよい。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼは、カルシウムが不足しているか、又は低いカルシウム濃度(例えば、ソルターゼが最大活性を発揮する濃度より低いカルシウム濃度)を有する媒体中で真核細胞をソルタギングするのに用いることができる。
【0153】
ソルターゼ(例えば、天然に存在するソルターゼ配列を有するソルターゼ、又は人為的に作製されたソルターゼ変異体)は、例えば、ソルターゼの存在下、カルシウムの非存在下で、C末端ソルターゼ認識モチーフを含む標的タンパク質を、タグ付きN末端オリゴグリシン誘導体と接触させて、標的タンパク質が、ソルターゼによりタグ付きN末端オリゴグリシン誘導体と連結しているかどうかを決定することにより、カルシウム非依存的にソルターゼ触媒活性を発揮する能力についてアッセイすることができる。一部の実施形態では、触媒活性は、選択した期間、例えば、約6、12、若しくは18時間の反応後に、ソルタギング済み標的タンパク質の収率によって測定することができる。一部の実施形態では、触媒活性は、kcat、Km、及び/又はkcat/Kmを測定することによって、測定することもできる。一部の実施形態では、SrtA活性の1つ又は複数の動態パラメータ(例えば、kcat、kcat/Km)を、Ton-That et al.,J Biol Chem.2000;275(13):9876-81に記載のように決定することができる。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼは、カルシウム依存性ソルターゼの変異体であり、変異体は、カルシウム依存性ソルターゼと比較して、1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼは、変異体が由来するカルシウム依存性ソルターゼのkcatと比較して、少なくとも約25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、若しくはそれを超えるkcatを有する。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼは、変異体が由来するカルシウム依存性ソルターゼのkcat/Kmと比較して、少なくとも約25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、若しくはそれを超えるkcat/Kmを有する。
【0154】
一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼは、天然に存在するソルターゼ、例えば、化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)、炭疽菌(B.anthracis)、エンテロコッカス・フェカリス(E.faecalis)、ラクトバチルス・プランタム(L.plantarum)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、又はリステリア・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)に由来するSrtAである。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA変異体である。一部の実施形態では、本発明は、任意のソルターゼA、例えば、本願と同日に提出された「カルシウム非依存性ソルターゼA変異体(Calcium-Independent Sortase A Mutants)」と題する米国特許仮特許出願、代理人整理番号:WIBR-141-001(本明細書に参照により組み込む)に記載されている黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAのあらゆる変異体の使用を考慮する。「突然変異体」という用語は、「変異体」と置き換え可能に用いられることに留意すべきであり、変異体配列を作製する何らかの特定の方法が必要である、又は何らかの特定の出発材料が必要であることを意味すると考えるべきではない。本開示は、変異体を作製するあらゆる好適な方法を考慮する。好適な方法として、限定はしないが、いくつか例を挙げると、適切な野生型コード配列に突然変異を導入する(例えば、部位特異的突然変異誘発を用いて)、変異体の配列を新たに合成する、例えば、固相ペプチド合成を使用する、並びに合成mRNAのin vitro翻訳などがある。カルシウム非依存性ソルターゼは、本明細書に記載するあらゆる方法又は組成物の様々な実施形態に用いてよい。一部の実施形態では、カルシウム非依存性黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA変異体は、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAと比較して、105位及び108位に突然変異を有する。例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列の105位及び108位のグルタミン(E)残基をカルシウム非依存性ソルターゼの対応位置に存在する残基(例えば、それぞれK又はQ)に変更することができる。いくつかの実施形態では、例えば、ソルターゼ変異体は、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列又はその機能性変異体若しくは断片にE105K及びE108A置換又はE105K及びE108Q置換を含む。
【0155】
一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼA変異体は、野生型ソルターゼAに対して、少なくとも3つのアミノ酸置換を含み、アミノ酸置換は、下記のものを含む:a)105位のK残基;b)108位のQ又はA残基;並びにc)以下:i)94位のR残基;ii)94位のS残基;iii)160位のN残基;iv)165位のA残基;v)190位のE残基;及びvi)196位のT残基からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼA変異体は、野生型ソルターゼAに対して、下記のアミノ酸置換を含む:a)105位のK残基;b)108位のQ又はA残基;c)94位のS残基又は94位のR残基;d)160位のN残基;e)165位のA残基、及び196位のT残基。一部の実施形態では、カルシウム非依存性ソルターゼA変異体は、野生型ソルターゼAに対して、下記のアミノ酸置換を含む:a)105位のK残基;b)108位のQ又はA残基;c)94位のR又はS残基;d)160位のN残基;e)165位のA残基;f)190位のE残基;及びg)196位のT残基。一部の実施形態では、ソルターゼは、下記の配列を含み、完全長黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA配列に対して、94位、105位、108位、160位、165位、190位、及び196位のアミノ酸を太字で示す。
【0156】
一部の実施形態では、天然に存在するソルターゼと比較して、改変された基質選択性を有するトランスアミダーゼを用いてもよい。例えば、芳香族アミノ酸(例えば、フェニルアラニン)、並びにソルターゼ認識モチーフの1位に(Lに代わり)Ala、Asp、Ser、Pro、及びGlyなどの小さい側鎖を有するアミノ酸を受容する黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの変異体がみいだされている(Piotukh K,et al.,J Am Chem Soc.,133(44):17536-9,2011)。一部の実施形態では、このようなソルターゼは、本発明の組成物又は方法で用いられる。ソルターゼ認識モチーフに関して改変された基質選択性を有するソルターゼは、ソルターゼにおいて、例えば、ソルターゼ認識モチーフの認識及び/又は結合に関与するタンパク質の領域、例えば、推定基質認識ループ(例えば、SrtA(Val161~Asp176)中の鎖β6とβ7をつなぐループ(β6/β7ループ)。このループを例示する黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA及び基質の結晶構造は、Zong,Y.,et al.,J Biol Chem.2004 Jul 23;279(30):31383-9.に記載されている。)に1つ又は複数の突然変異を実施することにより、作製することができる。一部の実施形態では、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、又は基質認識ループ中にランダム化された突然変異体ソルターゼライブラリーの他のスクリーンを実施して、改変された特異性を有する変異体をみいだすことができる。
【0157】
一部の実施形態では、ソルターゼは、ソルターゼB(SrtB)、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、炭疽菌(B.anthracis)、又はリステリア・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)のSrtBである。Bクラスのソルターゼにより認識されるモチーフは、多くの場合、共通配列NPXTXに属し、例えば、NPQTN又はNPKTGなどのNP[Q/K]-[T/s]-[N/G/s]である。例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)又は炭疽菌(B.anthracis)のソルターゼBは、それぞれの細菌におけるNPQTN又はNPKTGモチーフを切断する(例えば、Marraffini,L.及びSchneewind,O.,Journal of Bacteriology,189(17),p6425-6436,2007を参照)。クラスBソルターゼの推定基質にみいだされる他の認識モチーフは、NSKTA、NPQTG、NAKTN、及びNPQSSである。例えば、リステリア・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)由来のSrtBは、2位のP及び/又は3位のQ若しくはKが欠失したいくつかのモチーフ、例えば、NAKTN及びNPQSSなどを認識する(Mariscotti JF,et al.,The Listeria monocytogenes sortase-B recognizes varied amino acids at position two of the sorting motif.J Biol Chem.2009 Jan 7.[Epub ahead of print])。
【0158】
一部の実施形態では、ソルターゼは、クラスCソルターゼである。クラスCソルターゼは、認識モチーフとしてLPXTGを使用し得る。
【0159】
一部の実施形態では、ソルターゼは、クラスCソルターゼである。このクラスのソルターゼは、共通配列NA-[E/A/S/H]-TGを有するモチーフを認識すると推定される(Comfort D、前掲)。クラスDソルターゼは、ストレプトミセス属(Streptomyces)種、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)種、トロフェリマ・ウィッペリ(Tropheryma whipplei)、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)、及びビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longhum)にみいだされている。LPXTA又はLAXTGが、例えば、それぞれサブファミリー4及び5のクラスDソルターゼの認識配列の役割を果たすことができ、サブファミリー4及び5酵素は、それぞれモチーフLPXTA及びLAXTGをプロセシングする)。例えば、クラスDソルターゼである炭疽菌(B.anthracis)ソルターゼCは、炭疽菌(B.anthracis)BasI及びBasHのLPNTAモチーフを特異的に切断することが明らかにされている(Marraffini、前掲)。
【0160】
QVPTGVモチーフを認識するものからのソルターゼの記載については、Barnett及びScottを参照されたい(Barnett,TC及びScott,JR,Differential Recognition of Surface Proteins in Streptococcus pyogenes by Two Sortase Gene Homologs.Journal of Bacteriology,Vol.184,No.8,p.2181-2191,2002)。
【0161】
本発明は、本明細書及び/又は本明細書に引用する参照文献(データベースを含む)で挙げたものなどの任意のグラム陽性生物にみいだされるソルターゼの使用を考慮する。本発明はまた、グラム陰性菌、例えば、コルウェリア・サイクレリスラエ(Colwellia psychrerythraea)、ミクロブルビファー・デグラダンス(Microbulbifer degradans)、ブラディリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、及びシュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)にみいだされるソルターゼの使用も考慮する。これらは、配列モチーフLP[Q/K]T[A/S]Tを認識する。グラム陽性生物由来のソルターゼの3位に許容される変異を維持しながら、配列モチーフLPXT[A/S]、例えば、LPXTA又はLPSTSを用いることができる。いくつかの実施形態では、古細菌(Archea)(例えば、メタン生成菌(Methanobacterium thermoautotrophicum))由来のソルターゼが考慮される。
【0162】
一部の実施形態では、ソルターゼ、又はトランスアミダーゼ、認識配列は、LPXTGであり、ここで、Xは、標準的又は非標準アミノ酸である。一部の実施形態では、Xは、D、E、A、N、Q、K、又はRから選択される。一部の実施形態では、認識配列は、LPXTG、SPXTG、LAXTG、LSXTG、NPXTG、VPXTG、IPXTG、及びYPXRGから選択され、ここで、Xは、いくつかの実施形態において、D、E、A、N、Q、K、又はRから選択される。一部の実施形態では、C末端のGは、Aにより置換される。一部の実施形態では、Xは、天然に存在するトランスアミダーゼ認識配列と一致するように選択される。
【0163】
一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフのC末端アミノ酸残基は、ソルターゼからいったん放出されると乏しい求核性を呈示する部分で置換してもよい(PCT/米国特許出願公開第2010/000274号明細書;Antos,J.,et al.,J.Am.Chem.Soc.,2009,131(31),pp 10800-10801)。例えば、LPXTGのGを、ソルターゼからいったん放出されると、グリシンより乏しい求核性を呈示する部分、例えば、メチルエステルなどのアルキルエステルで置換してもよい。一部の実施形態では、トランスアミダーゼ認識配列は、以下:LPKT、LPIT、LPDT、SPKT、LAET、LAAT、LAET,LAST、LAET、LPLT、LSRT、LPET、VPDT、IPQT、YPRR、LPMT、LPLT、LAFT、LPQT、NSKT、NPQT、NAKT、及びNPQSから選択される。いくつかの実施形態では、4個のアミノ酸を有する前述したTRSの何れかは、ソルターゼからいったん放出されると、グリシンより乏しい求核性を呈示する部分をさらに含んでもよい。
【0164】
一部の実施形態では、例えば、ソルターゼAが用いられるいくつかの実施形態では、トランスアミダーゼ認識モチーフは、アミノ酸配列X1PX2X3又はX1PX2X3Gを含み、ここで、X1は、ロイシン、イソロイシン、バリン若しくはメチオニンであり;X2は、任意のアミノ酸であり;X3は、トレオニン、セリン若しくはアラニンであり;Pは、プロリンであり、Gは、グリシンである。具体的実施形態では、前述したように、X1は、ロイシンであり、X3は、トレオニンである。いくつかの実施形態では、X2は、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アラニン、グルタミン、リシン又はメチオニンである。ソルターゼBが用いられるいくつかの実施形態では、認識配列は、多くの場合、アミノ酸配列NPX1TX2を含み、ここで、X1は、グルタミン又はリシンであり;X2は、アスパラギン又はグリシンであり;Nは、アスパラギンであり;Pは、プロリンであり、Tは、トレオニンである。一部の実施形態では、Xの選択は、少なくとも一部には、認識モチーフを含む化合物に所望の特性を付与する目的に基づいて行ってもよい。一部の実施形態において、Xは、認識モチーフを含む化合物の特性を修飾する、例えば、特定の溶媒中での溶解度を増加又は低減するように選択する。一部の実施形態において、Xは、認識モチーフを含む化合物の合成に用いようとする反応条件と適合性である、例えば、合成に用いられる反応体に対して非反応性であるように選択する。
【0165】
本発明は、http://bamics3.cmbi.kun.nl/jos/sortase_substrates/help.html(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)及び/又は前述の参照文献の何れかに列挙される、実験により確認されたソルターゼ基質若しくは推定ソルターゼ基質の何れかに由来するソルターゼ認識モチーフの使用を考慮する。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフは、以下:LPKTG、LPITG、LPDTA、SPKTG、LAETG、LAATG、LAHTG,LASTG、LAETG、LPLTG、LSRTG、LPETG、VPDTG、IPQTG、YPRRG、LPMTG、LPLTG、LAFTG、LPQTSから選択され、本明細書の他所に説明するように、本発明の様々な実施形態では、5番目の残基が置換されることは理解されよう。例えば、用いられる配列は、以下:LPXT、LAXT、LPXA、LGXT、IPXT、NPXT、NPQS、LPST、NSKT、NPQT、NAKT、LPIT、LAET、又はNPQSであってもよい。本発明は、本明細書に開示されているか、又は当技術分野において公知の任意のソルターゼ認識モチーフの「X」が、任意の標準的又は非標準アミノ酸である実施形態を含む。各々のバリエーションが開示される。一部の実施形態では、Xは、生存生物に存在するタンパク質に最も一般的にみいだされる20の標準アミノ酸から選択される。例えば、認識モチーフが、LPXTG又はLPXTである一部の実施形態では、Xは、D、E、A、N、Q、K、又はRである。一部の実施形態では、特定の認識モチーフのXは、天然に存在するソルターゼ基質の3位に天然に存在するアミノ酸から選択される。例えば、一部の実施形態では、ソルターゼがソルターゼAであるLPXTG又はLPXTモチーフにおいて、Xは、K、E、N、Q、Aから選択される。一部の実施形態では、LPXTG又はLPXTモチーフにおいて、Xは、K、S、E、L、A、Nから選択され、かつ、クラスCソルターゼが用いられる。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフの1位は、芳香族アミノ酸(例えば、F若しくはW)又は比較的小さい側鎖を有するアミノ酸(例えば、A、D、S、P、及びG)であり、かつ、こうして得られるモチーフを認識することができるソルターゼが用いられる。例えば、一部の実施形態では、LPXTGのLは、A、D、S、P、G、F、又はWにより置換される。
【0166】
一部の実施形態では、認識配列は、例えば、N又はC末端に1つ又は複数の追加的アミノ酸をさらに含む。例えば、天然に存在するソルターゼ基質の5アミノ酸認識配列の、N末端、又はC末端に隣接して存在するアミノ酸との同一性を有する1つ又は複数のアミノ酸(例えば、最大5アミノ酸)を組み込んでもよい。このような追加的アミノ酸は、認識モチーフの認識を向上させる状況をもたらし得る。
【0167】
一部の実施形態では、ソルターゼ認識配列の何れかは、1つ又は複数の追加的グリシン又はアラニンをC末端に含んでもよい。ポリペプチドのC末端アミノ酸、例えば、トランスアミダーゼ認識配列を含むポリペプチドのC末端をアミド化してもよく、すなわち、いくつかの実施形態において、C末端アミノ酸は、C末端に、-COOH基の代わりに、-CONH2基を有してもよい。
【0168】
「トランスアミダーゼ認識配列」という用語は、マスク又は非マスクトランスアミダーゼ認識配列を指すこともある。非マスクトランスアミダーゼ認識配列は、トランスアミダーゼによって認識され得る。非マスクトランスアミダーゼ認識配列は、例えば、国際公開第2010087994号パンフレットに記載されていように、事前にマスキングされていてもよい。一部の実施形態では、「マスクトランスアミダーゼ認識配列」は、トランスアミダーゼにより認識されないが、容易に修飾(「アンマスキング」)して、得られる配列がトランスアミダーゼにより認識されるようにすることができる配列である。例えば、一部の実施形態では、マスクトランスアミダーゼ認識配列の少なくとも1つのアミノ酸は、対象のトランスアミダーゼによる配列の認識を阻害、例えば、実質的に阻止する部分を含む側鎖を有し、この部分を除去すると、トランスアミダーゼが前記配列を認識することが可能になる。マスキングは、いくつかの実施形態において、認識を少なくとも80%、90%、95%、若しくはそれを超えて(例えば、検出限界に満たないレベルまで)低減し得る。例えば、いくつかの実施形態では、LPXTGなどのトランスアミダーゼ認識配列中のトレオニン残基をリン酸化することにより、これを認識し難くすると共にSrtBにより切断可能にする。マスク認識配列は、ホスファターゼを用いた処理によりアンマスキングして、SrtA触媒アミド転移反応で使用可能になるようにすることができる。
【0169】
本明細書に記載する方法で、トランスアミダーゼ活性を有するトランスアミダーゼ断片を使用できることは理解されよう。PCT/米国特許出願公開第2010/000274号明細書に記載されているように、このような断片は、例えば、公知の組換え技術又はタンパク質分解技術によりトランスアミダーゼ断片を生成した後、タンパク質又はペプチド連結の割合を決定することにより、みいだすことができる。断片は、完全長トランスアミダーゼアミノ酸の約80%、また、時として、黄色ブドウ球菌(S.aureus)ソルターゼAのもの(GenBank Accession番号AAD48437)などの完全長トランスアミダーゼアミノ酸の約70%、約60%、約50%、約40%若しくは薬学的に許容される30%から構成される。一部の実施形態では、断片は、完全長配列のN末端部分を欠失しており、例えば、断片は、膜アンカー配列の終点まで延びるN末端部分(ほぼアミノ酸26まで)を欠失している。一部の実施形態では、断片は、完全長トランスアミダーゼアミノ酸配列のC末端を含む。一部の実施形態では、ソルターゼ由来の触媒コア領域が使用され、例えば、1領域は、SrtA、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAのほぼ60位~ほぼ206位まで、又はSrtAstrepのほぼ82位からほぼ249位までである。従って、ソルターゼは、完全長ソルターゼポリペプチドの触媒ドメインを含むか、又はこれからなるものでもよい。また、ポリペプチドが、N末端メチオニン残基を含んでもよいことは理解されよう。
【0170】
また、本明細書に記載する方法に、他の生物に由来するトランスアミダーゼを使用することもできる。こうしたトランスアミダーゼは、多くの場合、SrtA及びSrtBをコード化するヌクレオチドと実質的に同一であるか、又は類似するヌクレオチド配列によってコード化される。類似又は実質的に同一のヌクレオチド配列は、ネイティブ配列に対する修飾、例えば、1つ又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、若しくは挿入を含んでもよい。ネイティブ配列に対し、時として、55%、60%、65%、70%、75%、80%、若しくは85%、又はそれを超えて同一であり、往々にして、90%若しくは95%、又はそれを超えて同一であるヌクレオチド配列が含まれる(各同一性パーセンテージは、1%、2%、3%若しくは4%の分散を含み得る)。2つの核酸が実質的に同一であるかどうかを決定するための一試験は、核酸同士が共通して有する同一のヌクレオチド配列のパーセンテージを決定するものである。
【0171】
配列同一性の計算は、次のように実施することができる。配列を最適な比較の目的でアラインメントして、最適アラインメントのために第1及び第2配列の一方又は両方にギャップを導入することができる。また、非相同性配列は、比較の目的で無視することができる。比較の目的のためにアラインメントする基準配列の長さは、時として、基準配列の30%以上、40%以上、50%以上、往々にして60%以上、より一般的には、70%、80%、90%、100%である。次に、対応するヌクレオチド位置のヌクレオチドを2つの配列の間で比較する。第1配列の1位置が、第2配列の対応する位置と同じ残基で占められている場合には、両ヌクレオチドは、その位置で同一であるとみなされる。2つの配列同士の同一性(%)は、2つの配列の最適アラインメントのために導入したギャップの数、各ギャップの長さを考慮に入れた、両配列が共通して有する同一位置の数の関数である。
【0172】
配列の比較及び2つの配列同士の同一性(%)の決定は、数学アルゴリズムを用いて、達成することができる。2つのヌクレオチド同士の同一性(%)は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている、Meyers及びMillerのアルゴリズム、CABIOS 4:11 17(1989)を使用し、PAM120残基質量表、ギャップ長さペナルティ12及びギャップペナルティ4を用いて決定することができる。2つのヌクレオチド配列同士の同一性(%)は、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comから入手可能)のGAPプログラムを使用し、NWSgapdna.CMPマトリックスと、ギャップ加重40、50、60、70、又は80及び長さ加重1、2、3、4、5、又は6を用いて決定することができる。よく用いられる1組のパラメータは、ギャップオープンペナルティが12、ギャップ伸長ペナルティが4、フレームシフトギャップペナルティが5のBlossum62スコアリングマトリックスである。
【0173】
III.ソルタギング及びソルタギング済み細胞のプロセシングの方法
「ソルタギングプロセス」とは、少なくとも一部の実体(例えば、タンパク質、細胞)がソルタギングされるプロセスを指す。一般に、ソルタギングプロセスは、ソルタギングしようとする実体、例えば、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞を、トランスアミダーゼ及びソルターゼ基質と、ソルターゼ触媒反応が起こり得る条件下で、接触させるステップを含む。いくつかの実施形態では、生理学的条件下でソルターゼ反応を実施してもよい。一般に、ソルターゼ触媒結合は、アシルドナーとアシルアクセプターの結合が起こる条件下で、トランスアミダーゼ、アシルドナー(ソルターゼ基質)、及び求核アシルアクセプターを互いに接触させることにより実施してもよい。本開示の実施形態において、求核アシルアクセプターは、哺乳動物細胞により発現されるタンパク質であってもよい。前記成分を互いに接触させるのは、単一体の流体にこれらを添加する、及び/又は1つの反応容器中で、例えば、あるいは、これらの成分を互いに近接させて、これらを衝突させることにより、達成することができる。この系中の成分は、必要に応じて、容器の振盪などにより、様々な方法で混合してよい。成分は、任意の順序で前記系に添加してよい。結合は、任意の容器(例えば、マイクロチューブなどのチューブ、フラスコ、皿)、マイクロプレート(例えば、96ウェル若しくは384ウェルプレート)などで実施してよい。反応混合物は、反応を実施することができる任意の好適な温度で維持してよい。一部の実施形態では、約3又は4℃~約15℃の温度で結合を実施する。一部の実施形態では、約15℃~約50℃の温度で結合を実施する。一部の実施形態では、約23℃~約37℃の温度で連結を実施する。いくつかの実施形態では、温度は、室温である(例えば、約25℃)。任意の好適な量及び成分比を使用して、ソルターゼ基質を動物細胞に結合させることができる。一部の実施形態では、アシルドナーは、約5μM~約10mM、約10μM~約5mM、約100μM~約500μM、約200μM~約1mMの濃度で存在する。一部の実施形態では、アシルドナーは、少なくとも約0.25mM、少なくとも約0.5mM、又は少なくとも1mMである。いくつかの実施形態では、トランスアミダーゼは、約1μM~約500μM、約15μM~約150μM、約150μM~約250μM、約250μM~約500μMの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、トランスアミダーゼは、10μM超、例えば、11μM~20μM、20μM~30μM、30μM~50μM、50μM~100μMの濃度で存在する。一部の実施形態では、トランスアミダーゼは、10μM超の濃度で存在し、野生型ソルターゼ、例えば、野生型ソルターゼA、例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA、又は野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAの0.5倍~5倍の活性を有するその変異体である。いくつかの実施形態では、トランスアミダーゼは、約10μM~約1mM、約15μM~約1mM、約20μM~約1mM、約25μM~約1mM、30μM~約1mM、約50μM~約1mM、約100μM~約1mM、又は約250μM~約1mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、これらの濃度は、野生型ソルターゼA、とりわけ、例えば、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtAに適用する。
【0174】
一部の実施形態では、水性媒体を含む反応混合物中で結合を実施する。適切なバッファー及び/又は細胞生存性に適合性の塩含量を含む水を用いてよい。当業者であれば、本発明で用いることができる様々なバッファーについて精通しているであろう。一部の実施形態では、水性媒体は、カルシウムイオンを含む。例えば、水性媒体は、約1.0mM~約50mMカルシウムイオン、例えば、約2mM~約25mMカルシウムイオン、例えば、約5mM~約15mMカルシウムイオン、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mMカルシウムイオンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、水性媒体は、約1mM~約5mMカルシウムイオンを含む。別の実施形態では、水性媒体は、0.5mM超又は1mM超のカルシウムイオンを含む。いくつかの実施形態では、水性媒体は、カルシウムイオンに結合する、若しくはこれを封鎖する基質を含まないか、又はこのような基質は、遊離カルシウムイオンの濃度への影響が無視できる程度の微量でしか含有しない。いくつかの実施形態では、水性媒体は、カルシウムイオンを沈殿させる基質を含有しない。一部の実施形態では、水性媒体は、リン酸イオンを含まない。一部の実施形態では、水性媒体は、炭酸イオンを含まない。一部の実施形態では、水性媒体は、キレート剤を含有しない。例えば、一部の実施形態では、水性媒体は、カルシウムイオンをキレート化する物質、例えば、EDTA若しくはEGTAなどを含有しないか、又はこうした物質は、遊離カルシウムイオンの濃度への影響が無視できる程度の微量でしか含有しない。一部の実施形態では、媒体がカルシウムイオンに結合する物質(ソルターゼ以外)を含有する場合、このような物質の濃度は、ソルターゼの触媒活性の5%、10%、15%、20%、又は25%超の低減を招くのに十分ではない。一部の実施形態では、水性媒体は、カルシウムイオンを添加せずに調製される。一部の実施形態では、カルシウムイオンの濃度は、約1.0mM未満であり、例えば、約0.5mM、約0.25mM、0.1mM、0.05mM、又はそれ未満を下回る。一部の実施形態では、好適な連結条件は、6~8.5、6~8、6~7.5、6.5~8.5、7~8.5、7.5~8.5、7.0~8.5、7.3~7.8の範囲のpHを含む。前述した濃度、割合、及び条件は、例示的かつ非限定的であることを理解されよう。様々な実施形態において、より高い若しくは低い濃度及び/又は異なる条件を用いてもよい。
【0175】
ソルターゼ基質を哺乳動物細胞に結合させる場合、細胞生存性と適合性の、並びに一部の実施形態では、正常な細胞機能を維持するのに好適な反応条件を用いる。上に記載した条件の範囲内で適切な条件を用いてよい。例えば、温度は、哺乳動物細胞に適切な範囲内、例えば、典型的に、39又は40℃以下であるが、いくつかの実施形態では、これより高い温度、例えば、最大45℃を用いてもよい。一部の実施形態では、10~25℃の温度を用いてよい。一部の実施形態では、25~37℃の温度を用いてよい。一部の実施形態では、細胞の代謝及び/又は細胞表面タンパク質のインターナリゼーションを抑制するために、相対的に低い温度、例えば、4~10℃を用いてもよい。非哺乳動物細胞をソルタギングする実施形態では、細胞生存性と適合性の、並びに一部の実施形態では、正常な細胞機能を維持するのに好適な反応条件を用いる。上に記載した条件の範囲内で適切な条件を用いてよい。
【0176】
一部の実施形態では、細胞は、約105細胞/ml~約1012細胞/ml、例えば、約106細胞/ml~約1011細胞/mlの濃度である。必要に応じて、穏やかな揺動などの穏やかな混合手段を用いてよい。一部の実施形態では、哺乳動物細胞を培養する好適な培地を含む組成物中で、哺乳動物細胞をソルタギングする。一部の実施形態では、培地は、血清、血漿、及び/又は動物組織若しくは器官抽出物を含まないか、ほぼ含まない。一部の実施形態では、培地は、血清又は血漿を含む。一部の実施形態では、血清又は血漿は、これらがもし存在すれば、細胞の起原であるか、又は細胞を投与しようとする被験者に由来するものである。一部の実施形態では、培地は、既知組成培地である。
【0177】
ソルターゼの濃度、ソルターゼ基質の濃度、細胞の数及び/又は濃度、ソルターゼ基質及び/又はソルターゼと細胞の比、水性媒体、並びに反応時間の長さなどのパラメータは、様々な因子、例えば、特定のソルターゼの活性、ソルターゼ基質の性質(例えば、どのくらい容易にソルターゼの基質の役割を果たすか)、要望される結合の程度などに基づいて、選択してよい。一部の実施形態では、ソルターゼ反応が、少なくとも15分にわたり進行するようにしてよい。一部の実施形態では、ソルターゼ反応が、15分を超える時間にわたり進行するようにしてよい。一部の実施形態では、ソルターゼ反応が、少なくとも30分~約24時間、例えば、約1~2、2~4、4~8、8~12、12~16、又は16~24時間にわたり進行するようにしてよい。いくつかの実施形態では、サンプルを反応容器から採取した後、非結合ソルターゼ基質又は反応副産物の濃度、及び/又は細胞に結合した薬剤のレベルを試験することができる。反応は、要望されるエンドポイントに達するまで進行させてもよい。いくつかの実施形態では、細胞の数は、最大約1014細胞、例えば、約103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013若しくは1014細胞、又は任意の中間の範囲、例えば、約105~約1012細胞、約106~約1011細胞、約107~約1010細胞である。いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞のソルターゼ媒介修飾は、1~2時間、又はそれ未満(例えば、15~30分、30~60分)の時間をかけて実施することができる。一部の実施形態では、初代細胞を被験者若しくはドナーから取得し、ソルターゼを用いて、in vitroで修飾した後、修飾細胞の少なくとも一部を、細胞取得と同じ日又は翌日に被験者に投与する。一部の実施形態では、細胞採取から修飾細胞の投与までの全手順は、4~12時間、12~24時間、又は24~48時間を要し得る。いくつかの実施形態では、培地で維持する際、乏しい生存率を有する、又は機能的活性を喪失する、又はその表現型を改変する細胞をソルタギングして、生存性若しくは機能的活性を喪失する、又は改変された表現型を呈示する前に、被験者に投与してもよい。
【0178】
一部の実施形態において、1つ又は複数の生存哺乳動物細胞、ソルターゼ、及び一部の実施形態では、さらにソルターゼ基質を含む組成物は、細胞の80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又はそれを超える細胞が、少なくとも1~2時間、2~4時間、4~8時間、8~12時間、又はそれ超えて、例えば、少なくとも12~24時間にわたって組成物中において生存性を維持することを特徴とする。いくつかの実施形態では、ソルターゼで修飾した生存哺乳動物細胞は、好適な対照と比較して、最大で1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、又は25%の生存性低下を示す。一部の実施形態では、ソルターゼで修飾した生存哺乳動物細胞は、実質的な機能的活性を保持する。例えば、一部の実施形態では、ソルタギングプロセスに付した細胞は、好適な対照と比較して、最大で1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、又は25%の少なくとも1つの機能的活性低下を示す。一部の実施形態では、ソルターゼで修飾した生存哺乳動物細胞は、好適な対照と比較して、新規の機能的活性を獲得するか、又は増大した機能的活性を有する。例えば、一部の実施形態では、ソルタギングプロセスに付した細胞は、好適な対照と比較して、少なくとも1つの機能的活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%の増大を示し得る。一部の実施形態では、ソルタギングプロセスに付した細胞は、好適な対照と比較して、少なくとも1つの機能的活性の少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、又はそれを超える増大を示し得る。一部の実施形態では、新規又は増大した機能的活性は、細胞に結合した薬剤により、又はその結果として付与される。一部の実施形態では、機能的活性をin vitroで測定することができる。一部の実施形態では、機能的活性又は機能的活性の変化は、被験者への細胞の投与後に測定することもできる。一部の実施形態では、機能的活性は、結合活性、サイトカイン分泌、細胞傷害性、貪食活性、抗原提示活性、又は共刺激活性である。一部の実施形態では、ソルターゼで修飾した生存哺乳動物細胞は、好適な対照と比較して、細胞表面タンパク質(ソルターゼ媒介結合により修飾したもの以外)に対して、最小又は検出限界未満の非特異的改変(例えば、酸化、変性、分解)を示し得る。一部の実施形態では、好適な対照は、ソルターゼと接触させていない、同じ細胞型又はサブタイプの細胞である。一部の実施形態では、好適な対照は、ソルターゼ基質の非存在下で、ソルターゼと接触させた、同じ細胞型又はサブタイプの細胞である。一部の実施形態では、対照細胞は、それらと比較する細胞と同じ培養物、細胞株、又は被験者を起原とするものであってよい。一部の実施形態では、ソルターゼと接触させていない対照細胞は、細胞型又はサブタイプについて標準的な培養条件(ソルターゼは含まない)下で維持されている。一部の実施形態では、好適な対照とは、細胞をソルターゼと接触させる前に、それらの細胞について測定された値(例えば、生存性又は機能的活性の)を指す。一部の実施形態では、ソルターゼで修飾していない対照細胞は、それらと比較するソルターゼ修飾細胞とほぼ同じ時間にわたり、実質的に同一の条件下で、ソルターゼなしで組成物中でインキュベートしたものである。
【0179】
一部の実施形態では、機能的活性を有する薬剤を含むソルターゼ基質を、ソルターゼ含む生存哺乳動物細胞と結合させる。一部の実施形態では、薬剤は、非結合薬剤と比較して、その機能的活性の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%又は全部を保持する。一部の実施形態では、機能的活性は、触媒活性、阻害活性、結合活性、又は細胞傷害性である。一部の実施形態では、機能的活性は、生存する、増殖する、活性化された状態になる、分化する、移動する、1つ又は複数の物質を産生若しくは分泌する、表現型特徴(例えば、1つ又は複数の遺伝子、細胞表面マーカ表現型の発現)を呈示する、又は標的細胞を攻撃するように、細胞を刺激する能力である。一部の実施形態では、機能的活性は、細胞が、増殖する、活性化された状態になる、分化する、移動する、1つ又は複数の物質を産生若しくは分泌する、死滅する、表現型特徴(例えば、1つ又は複数の遺伝子、細胞表面マーカ表現型の発現)を改変する、又は標的細胞を攻撃することを阻害する能力である。一部の実施形態では、薬剤は、新たな細胞-細胞相互作用に参加する能力を付与する。一部の実施形態では、哺乳動物細胞に結合した薬剤は、自己分泌作用を及ぼす。例えば、薬剤は、薬剤が結合される細胞により発現される細胞表面受容体に結合して、細胞に特定の作用を及ぼし得る。一部の実施形態では、薬剤は、傍分泌作用を及ぼす。例えば、薬剤は、薬剤が結合される細胞付近に位置する細胞により発現される細胞表面受容体に結合して、細胞に特定の作用を及ぼし得る。薬剤と細胞表面受容体の結合は、シグナル伝達経路を調節する、細胞を生存、分化、分裂、移動させる、又は機能的活性などを維持又は獲得させ得る。
【0180】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞をソルタギングプロセスに付した後、少なくとも一部のソルタギング済み細胞を、ソルターゼ、非結合ソルターゼ基質、及び/又は反応副産物から分離する。異なる様々な方法を用いて、分離を実施することができ、分離は、少なくとも部分的に、サイズ、電荷、親和性、親水性、疎水性、及び/又はその他の特性に基づいて行ってよい。一部の実施形態では、哺乳動物細胞と接触させるステップの前又は後に、ソルターゼを支持体に結合させることによって、これを固定化する。固定化は、ソルターゼ又はソルターゼ含有組成物を、アフィニティ試薬、例えば、抗体と接触させて、これをソルターゼに結合させるステップを含んでよく、アフィニティ試薬は、支持体に結合している。一部の実施形態では、ソルターゼをタグ付けして、アフィニティ試薬をタグに結合させる。一部の実施形態では、支持体は、カラムの形態をしており、細胞とソルターゼを含む組成物をカラムに通過させる。細胞は通過するが、ソルターゼはカラムにより保持される。細胞は、非結合薬剤と異なる速度でカラムを通過すると考えられるため、分離が達成される。一部の実施形態では、薬剤は、反応副産物の一部としてソルタギング工程中に除去されるタグを含む。非結合ソルターゼ基質及び/又は反応副産物は、タグに結合するアフィニティ剤により除去することができる。一部の実施形態では、ソルターゼは、哺乳動物細胞と接触させる前に固定化する。例えば、ソルターゼは、タグ、例えば、6X-Hisタグを含んでもよく、これを用いて、ソルターゼを、金属イオン含有樹脂又は基質に固定化する。哺乳動物細胞を、固定化したソルターゼと、それに結合した薬剤との存在下でインキュベートする。細胞は、固定化したソルターゼから容易に分離することができる。一部の実施形態では、ソルターゼを磁気粒子に固定化する。磁気粒子は、磁性及び常磁性、例えば、超常磁性であってもよい、すなわち、磁界内でのみ磁性であってもよいことは理解されよう。
【0181】
一部の実施形態では、ソルタギングプロセスに付した細胞の集団における哺乳動物細胞のうちの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超えるものが、薬剤と結合した状態になる。一部の実施形態では、ソルタギング後に細胞の集団を処理して、哺乳動物細胞のうちの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超えるものが薬剤と結合している組成物を生成する。一部の実施形態では、ソルタギングに付した哺乳動物細胞は、ソルターゼとの接触中又は後に、2つ、3つ、4つ、若しくはそれを超える群、例えば、2~10群に分類してもよく、又は選択に付してもよい。一部の実施形態では、分類又は選択によって、分類前の出発集団と比較して、要望される特性を有する細胞が豊富な細胞集団、及び/又は不要な特性を有する細胞が少なくとも部分的に欠失した細胞集団が得られる。
【0182】
一部の実施形態では、ソルタギングプロセスに付した細胞は、ソルターゼにより結合された部分のレベルに、少なくとも部分的に基づいて2つ以上の群に分類する。一部の実施形態では、好適な対照のレベルより高い検出レベルで、結合した部分を有する少なくとも一部の細胞を、そうではない細胞から分離する。一部の実施形態では、その表面に少なくとも指定レベルの部分を呈示する細胞を、その表面にその部分をより低いレベルで呈示するか、又はそのような部分が全くない細胞から分離することができる。任意の好適な分類系を用いて、部分のレベルに基づいて各群を画定してよい。一部の実施形態では、低、中、又は高レベルを呈示するとみなされる群に細胞を区分する。一部の実施形態では、最も高レベルの結合部分を有する細胞の1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%を、集団内の残りの細胞から分離する。レベルは、絶対量、相対量、表面密度、体積密度、またその他の好適なパラメータであってよい。選択した結合度が達成された組成物を生成するように、好適な分離方法を使用してよい。例えば、一部の実施形態では、組成物は、平均して指定レベル又は範囲の部分をその表面に有する細胞を含む。指定パーセンテージは、最小パーセンテージ、例えば、少なくとも10%、又は例えば、10%~50%、50%~90%などの範囲であってよい。
【0183】
任意の好適な方法を用いて、細胞に結合した薬剤のレベルを検出又は測定する、又は必要に応じて、細胞を2つ以上の集団に分類することができる。当業者は、例えば、親和性(例えば、結合親和性)、電荷、蛍光、色、磁気特性、質量、酵素活性のような、薬剤の1つ又は複数の物理的、化学的、又は生物学的特性などの因子を考慮に入れて、適切な方法を選択することができるであろう。一部の実施形態では、一方法は、蛍光、親和性、又はその両方を使用する。例えば、一部の実施形態では、細胞に結合させようとする薬剤は、蛍光部分を含む。結合した蛍光部分を有する細胞は、例えば、フローサイトメトリー若しくは免疫蛍光顕微鏡法により検出又は測定することができ、必要に応じて、薬剤のレベルを測定してもよい。蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて、細胞を分離してもよい。一部の実施形態では、薬剤は、蛍光標識を含む試薬(例えば、抗体)に結合するか、又はこれによって結合されることができ、結合が起こるのに好適な条件下で、細胞をこのような試薬と接触させ、任意選択で、その後、洗浄して、非特異性結合試薬を除去する。次に、細胞を蛍光活性化細胞選別に付す。一部の実施形態では、親和性に基づく方法を使用する。例えば、一部の実施形態では、細胞に結合させようとする薬剤は、タグを含む。タグは、好適な試薬を用いて検出することができる。
【0184】
IV.細胞及び細胞培養
一般に、本明細書に記載するように、任意のタイプの細胞をソルタギングしてよく、又はソルタギングしようとする細胞の供給源として用いてよい。一部の実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞を含むか、それから構成される。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、霊長類細胞(ヒト細胞若しくはヒト以外の霊長類細胞)、げっ歯類細胞(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター細胞)、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、又はその他の哺乳動物細胞である。一部の実施形態では、細胞は鳥類細胞である。一部の実施形態では、細胞は、無脊椎動物細胞である。一部の実施形態では、細胞は、真菌(例えば、酵母若しくはカビ)又は原生動物細胞である。
【0185】
細胞は、様々な実施形態において、霊長類細胞、非不死化細胞、不死化細胞、正常細胞、異常細胞、腫瘍細胞、非腫瘍細胞などであってよい。細胞は、特定の組織若しくは器官に由来するもの、又は特定の細胞型のものであってもよい。一部の実施形態では、霊長類細胞は、被験者から新しく単離してもよい。一部の実施形態では、本明細書に開示する方法で使用する前に、細胞を培地に維持し、継代させるか、あるいは、被験者から単離後、一回又は複数回倍加(例えば、1~5、5~10、10~20、20~50、50~80回の継代又は集団倍加)させてもよい。一部の実施形態では、本明細書に開示する方法で使用する前に、被験者から単離した細胞を1、2、5、10、20、若しくは50回以下継代又は倍加させておく。「被験者から取得した」細胞は、最初に単離した細胞及び/又は最初に単離した細胞の培養中に生じるその子孫を含み得る。一部の実施形態では、細胞は、対象とする任意の組織又は器官から取得する。一部の実施形態では、細胞は、血液、痰、リンパ液、粘液、唾液、尿、血液、若しくはリンパ液などの液体、骨髄、又はリンパ組織(例えば、リンパ節、脾臓)から取得する。一部の実施形態では、細胞は、結合組織、筋肉組織、脂肪組織、上皮組織から取得する。一部の実施形態では、細胞は、腫瘍、感染部位、炎症部位若しくは免疫媒介性組織損傷、又はそのような部位(例えば、最近位の排出リンパ節)からリンパ液を受けるリンパ組織から取得する。
【0186】
一部の実施形態では、細胞は、細胞株のメンバーである。一部の実施形態では、細胞株は、培地中で無期限増殖が可能である(不死;不死化)。不死化細胞株は、ほぼ無制限の寿命を取得している、すなわち、細胞株は、ほぼ無期限に増殖することができると考えられる。この目的のために、培地中で少なくとも100回の集団倍加を受けた、又は受けることができる細胞株は不死とみなすことができる。多数の細胞株が当技術分野で知られており、これらを本明細書に記載する様々な方法で用いることができる。当技術分野において公知の方法を用いて、細胞株を作製するか、又は例えば、下記のような寄託機関又は細胞バンクから入手することができる:米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)、コーリエル細胞バンク(Coriell Cell Repositories)、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(ドイツ微生物及び培養細胞収集機関(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures);DSMZ)、欧州培養細胞収集機関(European Collection of Cell Cultures)(ECACC)、日本医薬基盤研細胞バンク(Japanese Collection of Research Bioresources)(JCRB)、RIKEN,Cell Bank Australia。前述した寄託機関及び細胞バンクの紙及びオンラインカタログは、参照により本明細書に組み込むものとする。
【0187】
一部の実施形態では、細胞株、細胞集団、又は培養細胞は、単一細胞に由来する。一部の実施形態では、細胞株、細胞集団、又は培養細胞は、複数の細胞に由来する。一部の実施形態では、細胞株、細胞集団、又は培養細胞は、単一のサンプル(例えば、腫瘍から得たサンプル)又は個体に由来する1つ又は複数の細胞からの子孫である。要望されれば、DNAフィンガープリンティング(例えば、縦列型反復配列(short tandem repeat;STR)分析)、一塩基多型(SNP)分析(例えば、SNPアレイ(例えば、SNPチップ)若しくは配列決定)、イソ酵素分析、ヒトリンパ球抗原(HLA)タイピング、染色体分析、核型分類、形態学など、当技術分野において公知の様々な方法の何れかにより、細胞を試験して、これらが、個体若しくは特定の細胞株に由来するものであるかどうかを確認してもよい。
【0188】
適切な細胞ドナー、細胞供給源、又は細胞株は、意図される細胞の用途、求められる細胞数、利用可能性などの様々な要因に基づいて選択することができる。一部の実施形態では、細胞を取得する時点で、健康であるか、又は健康であると適正に推定される個体から細胞を取得する。一部の実施形態では、細胞を取得する時点で、例えば、癌、感染症、自己免疫疾患などの1つ又は複数の疾患に罹患していないか、罹患していないと適正に推定される個体から細胞を取得する。一部の実施形態では、細胞は、特定の疾患の病歴がない個体から細胞を取得する。一部の実施形態では、特定の疾患に罹患しているか、罹患したことがある個体から細胞を取得する。一部の実施形態では、前記疾患は、癌、病原体に起因する疾患、又は自己免疫疾患である。一部の実施形態では、被験者は、疾患、例えば、病原体に起因する疾患に対する耐性を呈示する。一部の実施形態では、被験者は、疾患から回復中であるか、又は回復している。一部の実施形態では、被験者は、疾患、例えば、癌、病原体に起因する疾患、自己免疫疾患、又は移植が必要な疾患の治療を必要とする。一部の実施形態では、細胞は、こうした疾患の治療が必要な被験者と組織適合性の個体から取得する。
【0189】
本明細書に記載する方法で用いる細胞は、被験者から直接取得したものか、又は例えば、被験者から直接、細胞を取得した人(若しくは細胞の原細胞)を起原とする一連の一人又は複数の人から細胞(若しくは細胞の原細胞)を受けることにより、例えば、被験者に生検、採血、手術、又は他の処置を実施することにより、間接的に取得したものでもよい。一部の実施形態では、最初に単離した細胞の少なくとも一部は、1又は複数ラウンドの細胞分裂を経てもよい。一部の実施形態では、細胞は、切除生検、切開生検、若しくはコア生検;微細針吸引生検;塗抹法;又は洗浄などの組織生検から取得する。一部の実施形態では、被験者からの外科又は細胞サンプル(例えば、組織若しくは細胞を取得する目的で採取された組織若しくは細胞材料、余剰又は廃棄された組織若しくは細胞など)から取得する。外科サンプルは、例えば、罹患若しくは負傷若しくは膨張したために、被験者から除去された器官若しくは器官の一部から取得してもよい。サンプルを取得し、サンプルから細胞を単離する方法は、当技術分野において公知である。一部の実施形態では、組織サンプルから細胞を取得する。一部の実施形態では、解離、例えば、機械的若しくは酵素的解離により、組織サンプルから細胞を単離し、例えば、遠心分離により回収した後、必要に応じて、洗浄してよい。細胞は、要望される細胞型の細胞、若しくは要望される特性を有する細胞を選択又は富化するための様々な手順に付すことができる。一部の実施形態では、富化は、例えば、FACS若しくはアフィニティ試薬を用いて、少なくとも部分的に、1つ又は複数のマーカの発現(発現の欠如であってもよい)に基づいて実施する。特定のマーカを発現する細胞に対して、選択を行うことができる。一部の実施形態では、富化は、少なくとも部分的に、1つ又は複数の細胞型の分化及び/又は増殖を促進する薬剤若しくは薬剤の組み合わせ(例えば、サイトカイン)に細胞を暴露することにより、実施する。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれを超える特定タイプの細胞及び/又は特定のマーカ若しくはマーカの組み合わせを発現する細胞を含む。一部の実施形態では、被験者から得られた少なくとも一部の細胞及び/又はそのような細胞の子孫を保存、例えば、凍結乾燥する。後にアリコートを解凍し、本明細書に記載する1つ又は複数の方法若しくは組成物に用いる。一部の実施形態では、保存前、保存後、又はその両方で、細胞をin vitroで拡大してもよい。
【0190】
一部の実施形態では、細胞は、3つの胚葉:外胚葉、中胚葉、及び内胚葉の何れに由来するものでもよい。一部の実施形態では、細胞は、生物組織の4つの一般的クラス:上皮、筋肉、組織、及び神経組織の何れの生物組織に由来するものでもよい。一部の実施形態では、細胞は、上皮細胞を含む。「上皮」とは、身体内の多数の構造の空洞及び表面を覆う細胞の層を指し、多くの腺が少なくとも部分的に形成される組織のタイプである。上皮組織としては、例えば、消化管(例えば、食道、胃、小腸、結腸、直腸)、肝臓、胆管、膵臓、気道(例えば、鼻孔、咽頭、喉頭、気管、細気管支、気管支、肺、気泡)、口腔、皮膚、腎臓、卵巣、乳房、前立腺、頸部、子宮、膀胱、尿管、精巣、外分泌腺、内分泌腺、眼(網膜色素上皮、角膜上皮、結膜)、血管(血管上皮)、リンパ管(リンパ管内皮)などにみいだされる組織が挙げられる。一部の実施形態では、細胞は、筋肉細胞、例えば、骨格筋、平滑筋、又は心筋細胞若しくは筋芽細胞を含むか、又はこれらから構成される。一部の実施形態では、細胞は、結合組織細胞、例えば、線維芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞(例えば、軟骨細胞、軟骨芽細胞)、骨細胞(例えば、骨芽細胞、破骨細胞)を含むか、又はこれらから構成される。一部の実施形態では、細胞は、神経系細胞、例えば、神経細胞(例えば、ニューロン)、神経膠細胞(例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、シュワン(Schwann)細胞)を含むか、又はこれらから構成される。いくつかの実施形態では、細胞は、膵β細胞、肝細胞、角化細胞、若しくは黒色細胞を含むか、又はこれらから構成される。
【0191】
一部の実施形態では、細胞は、造血細胞を含む。造血細胞としては、他の全ての血液細胞を生成する血液細胞である造血幹細胞(HSC)、並びに骨髄の細胞(例えば、単球及びマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)及びリンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)系統が挙げられる。一部の実施形態では、造血細胞は、例えば、静脈穿刺により、末梢血から取得する。一部の実施形態では、造血細胞は、アフェレシス(apheresis)により取得するが、これは、個体の血液を装置に通過させ、この装置が1つ又は複数の成分を分離して、残りを循環に戻す技術である。例えば、赤血球を取得するためには赤血球アフェレーシスを用い、白血球を取得するためには白血球アフェレーシスを用い、血小板を取得するためには血小板アフェレーシス(トロンバフェレーシス(thrombapheresis)、トロンボシタフェレーシス(thrombocytapheresis)とも呼ばれる)を用いる。分離には、例えば、遠心分離、水簸、適切な親和性の樹脂(例えば、ビーズ)への吸着、ろ過などを用いてもよい。一部の実施形態では、例えば、骨髄由来のこうした細胞若しくはその前駆体の動態化後に末梢血から細胞を取得する。例えば、一部の実施形態では、骨髄造血幹細胞(HSC)を、例えば、顆粒細胞コロニー刺激因子(G-CSF)の注射により動態化する。一部の実施形態では、細胞、例えば、HSC又は他の造血細胞を血液、例えば、末梢血又は臍帯血から単離する。一部の実施形態では、細胞、例えば、HSCを動態化末梢血から単離する。HSCをex vivoで増殖する、及び/又はex vivoで分化させて、1つ又は複数のタイプのリンパ球及び/又は骨髄細胞を取得することもできる。
【0192】
一部の実施形態では、細胞は、赤血球及び/又はその前駆細胞を含む。赤血球(RBS)は、一般的に豊富であり、容易に入手できる。いくつかの実施形態では、RBCは、治療薬の送達用のビヒクルとして特に有利となり得る。一部の実施形態では、例えば、治療薬、例えば、タンパク質、化学療法薬、抗感染症薬などでRBCをソルタギングした後、血管系に、例えば、静脈内投与する。
【0193】
一部の実施形態では、細胞は、免疫系細胞を含む。一部の実施形態では、免疫細胞系は、リンパ球、単球、樹状細胞、マクロファージ、好中球、マスト細胞、好酸球、好塩基球、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はマスト細胞である。一部の実施形態では、リンパ球は、B細胞系又はT細胞系の細胞である。一部の実施形態では、Bリンパ球は、その重鎖(H)遺伝子を再編成している。一部の実施形態では、Bリンパ球は、膜結合抗体を発現する。一部の実施形態では、T細胞は、アルファベータ(αβ)T細胞受容体(TCR)を発現する。一部の実施形態では、T細胞は、ガンマデルタ(γδ)TCRを発現する。一部の実施形態では、T細胞は、T細胞サブセットのメンバー、例えば、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞とも呼ばれる)又はヘルパーT細胞である。細胞傷害性T細胞は、典型的に、細胞表面マーカCD8について陽性である。ヘルパーT細胞は、典型的に、細胞表面マーカCD4について陽性である。一部の実施形態では、細胞は、CD4+CD8-T細胞である。一部の実施形態では、細胞傷害性細胞は、CD4+T細胞、例えば、CD4+CD8-T細胞である。一部の実施形態では、細胞は、CD4-CD8+T細胞である。一部の実施形態では、細胞は、CD4-CD8-T細胞である。一部の実施形態では、細胞は、CD4+CD8+T細胞である。一部の実施形態では、細胞は、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、例えば、非変異NKT(iNKT)細胞である。ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞及びT細胞両方に特有のマーカを展示するT細胞のサブセットである。NKT細胞は、CD1分子に関して、脂質又は脂質含有抗原(例えば、糖脂質、リポペプチド)を認識する。NKT細胞は、非変異TCRα鎖再編成:マウスではVα14Jα18及びヒトではVα24Jα18(限られた多様性のVβ鎖と結合している)を発現し、これらは、標準又は非変異NKT(iNKT)細胞と呼ばれることがある。一般的T細胞と同様に、NKT細胞は、CD1dによる適切なシグナル伝達後に、CD4-CD8胸腺前駆細胞から発生する。ヒトNKT細胞は、これらをα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)及び様々なサイトカインと接触させることにより、刺激して、ex vivoで拡大することができる。
【0194】
一部の実施形態では、T細胞は、調節T細胞(Treg)、例えば、FoxP3+調節T細胞である。一部の実施形態では、調節T細胞は、FoxP3を発現しない1型調節(Tr1)細胞である。Tr1細胞は、典型的に、インターロイキン10(IL-10)及びトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)を、例えば、抗原刺激に応答して分泌する。Tr1細胞は、一部には、そのIL-10の分泌により、自己免疫及び組織炎症を弱めることができる。一部の実施形態では、T細胞は、濾胞性ヘルパーT細胞(TFH)である。TFHは、リンパ節、脾臓及びパイエル板(Peyer’s Patch)などの二次リンパ器官のB細胞濾胞にみいだされる抗原曝露歴のあるCD4+T細胞であり、B細胞濾胞ホーミング受容体CXCR5の構成性発現によって同定することができる。一部の実施形態では、T細胞は、1つ又は複数のサイトカインを発現し、また、一部の実施形態では、それを分泌し、及び/又は特有の細胞表面発現プロフィールを有する。例えば、一部の実施形態では、T細胞は、Tヘルパー1(Th1)、Tヘルパー2(Th2)、又はTヘルパー17(Th17)サイトカイン分泌プロフィール、及び/又は細胞表面マーカプロフィールを有する。Th1細胞は、典型的に、インターフェロン-γ及び/又はTGF-βの産生を特徴とする。Th2細胞は、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、及びIL-13を産生することを特徴とし得る。Th17細胞は、典型的に、インターロイキン-17を産生することを特徴とする。
【0195】
一部の実施形態では、リンパ球は、ナイーブ細胞(すなわち、そのB細胞受容体(BCR)又はTCRが結合する抗原に遭遇しておらず、かつ、そのBCR又はTCRが結合する抗原に遭遇したリンパ球の子孫ではない細胞)である。一部の実施形態では、免疫系細胞は、培地若しくはin vivoで、そのBCR又はTCRが結合する抗原に遭遇してり、かつ、そのような細胞の子孫である。一部の実施形態では、免疫系細胞は、培地又はin vivoで活性化されている。一部の実施形態では、免疫系細胞は、細胞のBCR又はTCRが結合する抗原を提示する抗原呈示細胞(APC)に対する曝露、及び/又は1つ又は複数のサイトカインに対する曝露により活性化されている。一部の実施形態では、前述した細胞型の何れかの特徴を有する免疫細胞系は、少なくとも一部in vitroで、例えば、未分化又はナイーブ細胞からの分化により作製することができる。こうした細胞を作製するのに有用なプロトコル及び試薬は、当技術分野において公知である。様々な免疫細胞型についてのさらなる情報は、例えば、以下の文献にみいだすことができる:Zhu,J.,et al.,Differentiation of effector CD4 T cell populations.Annu.Rev.Immunol.,28(2010),pp.445-489;S.Crotty,Follicular helper CD4 T cells(TFH),Annu.Rev.Immunol.,29(2011),pp.621-663。
【0196】
一部の実施形態では、細胞は、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK)である。LAKは、主に、NK、NKT及びT細胞からなる細胞の異種集団であり、これらは、IL-2中での末梢血単核細胞(PBMC)の培養により、in vitroで作製される(例えば、West,EJ,et al.,British Journal of Cancer(2011)105,787-795及びその参照文献、例えば、Grimm EA,et al.J Exp Med 155(6):1823-1841を参照)。LAK内の優勢なエフェクター細胞は、NK細胞であると考えられるが、LAKは、典型的な末梢血NK細胞より、腫瘍細胞(あるいは、NK耐性標的を含む)に対して、細胞傷害性であり得る(Grimm et al,1982)。一部の実施形態では、LAK又は他の免疫系細胞は、IL-2若しくは別のサイトカイン、又は細胞に自己分泌作用をもたらし得る増殖因子を含む薬剤とソルタギングすることができる。細胞のソルタギングは、サイトカイン又は増殖因子を個別に(例えば、全身)投与する方法に対する代替方法を提供すると考えられ、これは、そうでなければ、こうした投与に伴う不要な副作用を軽減し得る。
【0197】
一部の実施形態では、細胞は、抗原提示細胞(APC)である。抗原提示細胞(APC)は、その表面に主要組織適合性複合体(MHC)分子に関連して外来の抗原をプロセシング及び提示することができる細胞である。T細胞は、T細胞受容体(TCR)を用いて、これらの複合体を認識することができる。APCは、ナイーブT細胞を活性化するのに必要な他の分子(共刺激タンパク質)も提示する。一部の実施形態では、APCは、MHCクラスII分子を発現する。このようなAPCには、樹状細胞、マクロファージ、及びB細胞がある。一部の実施形態では、APCは、CD4+及びCD8+T細胞を刺激することができる。一部の実施形態では、APCは、プロフェショナルAPCを含む。一部の実施形態では、プロフェショナルAPCは、樹状細胞又はマクロファージである。樹状細胞(DC)は、身体のほとんどの組織、特に、外部と接触する組織、例えば、皮膚(ランゲルハンス(Langerhans)細胞)と呼ばれる特殊化樹状細胞型を含む)及び粘膜表面など、並びに血液に存在する白血球の1クラスである。特定の発生段階で、DCは、樹状突起として知られる膜状の突起を伸ばし、そこから細胞型はその名前を得た。DCは、末梢組織とリンパ器官との連結として作用し、他の免疫系細胞の活性を調節する上で重要な役割を果たす。未熟型DCは、トール様受容体(TLR)などのパターン認識受容体(PRR)を通して、ウイルス及び細菌などの病原体に関する周辺環境のサンプルとなる。病原体成分又は他の危険シグナル、炎症性サイトカイン、及び/又は抗原活性化T細胞などの刺激に応答して、DCは、成熟を経て、リンパ節又は脾臓のT細胞領域に移動し、そこで、MHCII複合体を用いて、以前貪食され、処理された抗原の断片をそれらの表面に提示する。成熟プロセスの一環として、DCは、T細胞活性化における共受容体として作用する細胞表面受容体、例えば、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、及び/又はCD40を上方制御する。DCは、非抗原特異的共刺激因子と一緒に、MHCII複合体に関して病原体に由来する抗原と共にヘルパーT細胞(Th細胞)を提示することにより、Th細胞を活性化する。Th細胞の表面で発現したCD+4と、MHCIIの非多型性領域との結合により、DCとTh細胞との物理的相互作用が増強されて、ヘルパーT細胞の強力な刺激が可能になり、ヘルパーT細胞は、ペプチドに結合することができるTCR分子を発現する。さらに、DCは、MHCII-ペプチド複合体及び共刺激因子の提示を通して、細胞傷害性T細胞及びB細胞を直接活性化する能力を有すると共に、抗腫瘍免疫の自然アーム、例えば、NK及びNKTエフェクター細胞を活性化することもできる。DC刺激は、Th細胞増殖、活性化並びに、エフェクターTh細胞、メモリーTh細胞、及び調節hT細胞への分化を促進する。エフェクターTh細胞は、細胞傷害性T細胞、B細胞、及びマクロファージに対して、例えば、これらの細胞型に様々な刺激作用を及ぼすサイトカインを分泌することにより、「ヘルプ(help)」をもたらす。Thヘルプは、細胞傷害性T細胞の増殖及び活性化を促進し、B細胞増殖を刺激し、B細胞抗体クラススイッチングを誘導して、抗体産生を刺激する。さらに、この刺激は、マクロファージの殺傷能力も増強する。メモリーT細胞は、被験者が依然曝露されたことがある抗原に遭遇すると、特異的で、強力な適応免疫応答の急速な開始を促進する上で重要な役割を果たす。調節Th細胞は、免疫応答の自己制限的性質において重要な役割を果たすと考えられる。一部の実施形態では、特定のペプチドを提示することができるDCは、ペプチドを含有すると共に、自然免疫系の活性を増強する標的に対する、細胞性及び体液性両系統の適応免疫応答を刺激する。一部の実施形態では、DCは、組織中に存在する成熟型DCに認められる1つ又は複数の特徴を欠失した未熟型DCを含む。例えば、未熟型DCは、樹状突起を欠失している、及び/又は成熟型DCの1つ又は複数のマーカが欠失している場合がある。一部の実施形態では、未熟型DC、例えば、未熟型ヒトDCは、CD83を発現するか、及び/又はその発現を欠失している。一部の実施形態では、DC、例えば、ヒトDCは、骨髄系DCを含む。一部の実施形態では、DC、例えば、ヒトDCは、形質細胞様DCを含む。一部の実施形態では、DCは、形質細胞様CD303+DC、骨髄系CD1+DC、及び/又は骨髄系CD141+DCを含む。一部の実施形態では、DC、例えば、未熟型DCは、血液から取得するか、又は末梢血単核細胞(PBMC)からin vitroで作製する。用いることができるDC作製、抗原ロード方法、及び/又は免疫モニタリング手法の論述については、例えば、Tuyaerts,S.,Cancer Immunol Immunother(2007)56:1513-1537を参照されたい。
【0198】
一部の実施形態では、免疫系細胞は、例えば、HSC若しくは骨髄系前駆細胞からin vitroで作製するか、又は拡大する。
【0199】
一部の実施形態では、細胞の集団は、2つ以上の型若しくは亜型の免疫系細胞、例えば、リンパ球とDC、CD4+T細胞とCD8+T細胞、リンパ球とNK細胞などを含む。任意の組み合わせが包含される。2つ以上の集団を個別に単離した後、組み合わせてもよい。1つ又は複数の集団、又は組み合わせた集団をソルタギングしてもよい。
【0200】
一部の実施形態では、細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)を含む。当技術分野において公知のように、PBMCは、リンパ球、単球、及びNK細胞などの丸い核を有する末梢血細胞である。一部の実施形態では、PBMCは、サイズ、形態、細胞表面マーカ、及び/又は機能的特徴により識別が可能な2つ以上の異なる細胞型若しくは亜型を含む混合集団としてソルタギングする。一部の実施形態では、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える細胞がPBMCであるように、血液サンプル中の他の細胞からPBMCを分離する。一部の実施形態では、サイズ、形態、細胞表面マーカ、及び/又は機能的特徴により識別が可能な2つ以上の細胞型にPBMCを最初に分離せずに、PBMCをソルタギングする。一部の実施形態では、2つ以上の異なる集団にPBMCを分類してもよく、1つ又は複数の集団は、1つ又は複数タイプのPBMCに富んでいるか、又は1つ又は複数のPBMCタイプが欠失している。一部の実施形態では、細胞をex vivoでソルタギングした後、PBMCの少なくとも一部若しくはその子孫を投与しようとする被験者からPBMCを取得する。PBMCは、当技術分野で公知の標準的方法により、例えば、Ficoll密度勾配遠心分離を用いて、単離することができ、これは、血漿及び血小板を含む上部層、次にPBMCを含有する層、そして多型核細胞(好中球及び好酸球)及び赤血球を含有する底部画分に血液を分離する。PBMC層を、例えば、ピペットで取り出した後、ソルタギングすることができる。一部の実施形態では、例えば、ソルタギングの前又はソルタギングの後に、血液から単離したPBMCを含む調製物をさらに精製して、残留赤血球を除去してもよい。血液からの、又は血液から単離したPBMCを含む調製物からの赤血球欠失は、当技術分野において公知の様々な方法により実施することができ、このような方法には、浸透圧衝撃、ろ過、密度勾配、例えば、フィコール-ハイパック(ficoll-hypaque)、パーコール(percoll)及びヒドロキシエチルデンプン並びに磁気ビーズに結合したCD34のようなモノクローナル抗体との免疫親和法がある。一部の実施形態では、T細胞をPBMCから単離してもよい。一部の実施形態では、CD4+又はCD8T細胞などのT細胞亜型をPBMCから単離してもよい。一部の実施形態では、NK細胞をPBMCから単離してもよい。一部の実施形態では、1つ又は複数のこうした細胞型からPBMCを欠失させる。一部の実施形態では、メモリーT細胞、例えば、中心メモリーT細胞をPBMCから単離する。
【0201】
一部の実施形態では、細胞は、人工APC(aAPC)である。細胞aAPCは、例えば、一次若しくは形質転換ヒト又は異種細胞、例えば、線維芽細胞又は白血病細胞に由来するものでよい。一部の実施形態では、昆虫(例えば、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster))細胞などの非哺乳動物細胞を用いてもよい。このような細胞は、例えば、レトロウイルス若しくはレンチウイルス形質導入又はトランスポゾン系などの他の手法を用いて、これらが、免疫シナプス形成に関与するTCR相互作用、共刺激、及び接着イベントをもたらす分子を発現し、天然に存在するAPCと同様に挙動するように、操作してもよい。いくつかのaAPCが、Kim,et al.,Nature Biotechnology,22(4):403-410に記載されている。一部の実施形態では、こうしたaAPCを、本明細書の実施形態に従って、使用又はソルタギングすることができる。一部の実施形態では、以下:低親和性Fc受容体(例えば、CD32)、高親和性Fc受容体(例えば、CD64)、CD40、CD40L、CD70、CD80、CD83、CD86(B7-2)、ICOSL、GITRL、CD137L(4-1BBL)、CD252(OX40L)、B7-H3、ICAM-1、LFA-3、及び/又はCD1のうちの何れか1つ又は複数を共発現するように、細胞を操作する。遺伝子操作したaAPC及びそれらの作製及び使用方法のいくつかの例が、以下の文献に記載されている:Maus,M.V.et al.Ex vivo expansion of polyclonal and antigen-specific cytotoxic T lymphocytes by artificial APCs expressing ligands for the T-cell receptor,CD28 and 4-1BB.Nat.Biotechnol.20,143-148(2002);Thomas,A.K.,et al.A cell-based artificial antigen-presenting cell coated with anti-CD3 and CD28 antibodies enables rapid expansion and long-term growth of CD4 T lymphocytes.Clin.Immunol.105,259-272(2002)。一部の実施形態では、細胞は、前述した分子の1つ又は複数を自然に発現し得るが、任意選択で、さらに1つ又は複数の前記分子を発現するように、遺伝子操作する。一部の実施形態では、細胞は、以下:CD64、B7-2(CD86)、及びCD137リガンド(CD137L)のうちの少なくとも2つ又は全部を発現する。一部の実施形態では、細胞は、1つ又は複数のサイトカイン、例えば、IL-2、IL-12、又はIL-15を発現する。一部の実施形態では、細胞は、1つ又は複数の膜結合サイトカイン、例えば、膜結合IL-15を発現する。
【0202】
一部の実施形態では、本開示は、様々な薬剤の何れかを細胞表面に結合させることにより、aAPC又はaAPCとして用いようとする細胞を修飾するためのソルタギングの使用を考慮する。一部の実施形態では、(CD137L)、膜結合IL-15、及び/又は通常、細胞表面に発現されて、別の細胞、例えば、抗原を提示させようとする細胞に発現される受容体若しくは他の分子のリガンド、又は相互作用パートナーとして作用し得る他のタンパク質とソルタギングする。ソルタギングは、細胞に、遺伝子操作の使用によってタンパク質を発現させる代わりに、又はそれに加えて、細胞表面に1つ又は複数のタンパク質を結合させる一部の実施形態において用いてもよい。ソルタギングは、遺伝子的にコード化することができない部分、例えば、脂質若しくは小分子を、MHCタンパク質、CD1、又は通常、抗原を提示する他のタンパク質に結合させる、任意選択で複合体化若しくは結合させる一部の実施形態において用いてもよい。こうした部分は、抗原として提示させるか、又はin vitro若しくはin vivoでの検出などの他の目的に用いてもよい。
【0203】
一部の実施形態では、aAPCとして用いようとする細胞を対象の抗原とソルタギングすることによって、その細胞表面に対象の抗原が結合したaAPCを取得する。一部の実施形態では、aAPCとして用いようとする細胞を、その表面に対象の抗原を発現するように遺伝子操作することによって、その細胞表面に少なくとも一部が露出した対象の抗原を有するaAPCを取得する。対象の抗原は、分泌シグナル配列及び膜貫通ドメインを含むように修飾して、これを細胞表面タンパク質として発現させることもできる。一部の実施形態では、aAPCとして用いようとする細胞は、その細胞表面にHLAクラスI及び/又はHLAクラスII分子を発現しないか、又は少なくともHLA-A、HLA-B、HLA-DQ、及びHLA-DRを発現しない。一部の態様では、このような主要組織適合性(MHC)抗原の欠如によって、aAPCを非同種異系免疫細胞と一緒に培養、及び/又は非同種異系被験者に導入した場合に、このようなMHC抗原を発現するaAPCに対して指令されるであろう免疫応答を阻止する。一部の実施形態では、aAPCとして用いようとする細胞は、HLAクラスI分子、HLAクラスII分子、又はその両方を発現するように、操作する。あるいは、一部の実施形態では、細胞は、HLAクラスI分子、HLAクラスII分子、又はその両方を発現しない。一部の実施形態では、aAPCとして用いようとする細胞を可溶性抗原と、例えば、in vitroで接触させる。一部の実施形態では、細胞は、HLAクラスI及び/又はクラスII分子に関連して、抗原若しくはその断片(例えば、ペプチド)を取り込み、プロセシングして、その表面に展示する。一部の実施形態では、aAPCとして用いようとする細胞を抗原提示分子(APM)とソルタギングする。例えば、抗原と結合することができるMHCタンパク質の少なくとも一部を含む分子と、細胞をソルタギングしてよい。一部の実施形態では、抗原提示分子は、ペプチド又は他の抗原が、APMと結合するように、ペプチド又は他の抗原と接触させてあるか、又は接触させる(例えば、in vitroで)。一部の実施形態では、AMPは、抗原と結合することができるMHCタンパク質、例えば、MHC多量体若しくはHLA-Ig融合タンパク質の少なくとも一部を含む(Oelke,2003,以下に全引用)。
【0204】
aAPCは、様々な目的、例えば、リンパ球(T及び/若しくはB細胞)、NK細胞、若しくは他の細胞の細胞性免疫応答の刺激(活性化及び/若しくは拡大)並びに/又は正及び負の調節に用いることができる。aAPCは、例えば、エフェクター機能の成熟、増殖、若しくは獲得のために、通常、抗原提示(例えば、他の細胞による共刺激シグナルの提供などの適切な状況におけるTCRの結合)により刺激されるか、又はそれを必要とする免疫細胞を活性化及び拡大する目的で、in vitroで用いてよい。例えば、被験者に投与しようとする免疫系細胞のin vitro刺激のために、aAPCを用いてもよい。一部の実施形態では、組成物は、aAPCと、刺激しようとする免疫細胞を含む。一部の実施形態では、前記組成物は、少なくとも1つのサイトカイン(例えば、IL-2、IL-12、IL-15、又はIL-21)、OKT3のような抗CD3モノクローナル抗体、及び/又は抗CD28モノクローナル抗体をさらに含む。一部の実施形態では、前記組成物は、抗CD3モノクローナル抗体及び/又は抗CD28モノクローナル抗体を含まない。一部の実施形態では、aAPCは、それらを、刺激しようとする免疫細胞と接触させる前に、OKT3のような抗CD3モノクローナル抗体、及び/又は抗CD28モノクローナル抗体の存在下で培養した後、刺激しようとする細胞の存在下、任意選択で、抗CD3モノクローナル抗体及び/又は抗CD28モノクローナル抗体の非存在下で培養する。一部の実施形態では、培養物は、支持細胞(aAPC及び/又はaAPCにより刺激しようとする細胞の集団に偶然存在し、支持細胞として作用し得る細胞以外の細胞;すなわち、支持細胞として特異的に作用するような細胞は添加しない)を含まない、さらに含む。一部の実施形態では、BCR、TCR、若しくはCARが結合する抗原を発現するaAPCを用いて、細胞を刺激することにより、これらを増殖させる、及び/又はin vitroで活性化した状態にする。一部の実施形態では、aAPCをin vivoで用いる。例えば、一部の実施形態では、例えば、内在性免疫系細胞又は被験者に投与した免疫系細胞(若しくはその子孫)を刺激するために、aAPCを被験者に投与する。
【0205】
一部の実施形態では、細胞は、食細胞を含む。食細胞は、プロフェショナル又は非プロフェショナル食細胞であってよい。プロフェショナル食細胞としては、マクロファージ、単球、樹状細胞、マスト細胞、及び好中球がある。
【0206】
一部の実施形態では、細胞は、成体幹細胞を含む。成体幹細胞は、出生後、例えば、成体の生物に存在する未分化細胞であり、多様な細胞型をもたらすことができる。成体幹細胞は、自己再生(娘細胞(少なくともその1つが未分化状態を維持する)をもたらす多数の細胞分裂周期を経ることができる能力)及び多能性又は多分化能、すなわち、複数の異なる細胞型の子孫をもたらす能力を特徴とし得る。成体幹細胞は、多系統能を有する、及び/又はそれが由来する器官若しくは組織のあらゆる細胞型を生成する能力があり、恐らく数個の細胞から器官全体を再生することができると考えられる。成体幹細胞は、対称性分裂を経ることができ、これは、何れも幹細胞特性又は非対称分裂を備えた2つの等しい娘細胞を生成し、これらは、1つの幹細胞と、自己再生能がより限定された前駆細胞を生成する。前駆細胞は、成熟型細胞に分化する前に、少なくとも1ラウンドの細胞分裂、典型的には、数ラウンドの細胞分裂を経ることができる。成体幹細胞の例としては、造血幹細胞、中性幹細胞、内皮幹細胞、腸幹細胞、乳腺幹細胞、間葉系幹細胞、神経堤幹細胞などが挙げられる。成体幹細胞は、当技術分野において公知の適切なプロトコルを用いて、さらに分化させてもよい。一部の実施形態では、細胞は、配偶子(卵若しくは精原幹細胞)又は生殖細胞を含むか、又はそれから構成される。一部の実施形態では、細胞は、多能性細胞、例えば、胚性幹細胞を含む。一部の実施形態では、間葉系幹細胞(MSC)は、接着非造血骨髄由来幹細胞を含む。一部の実施形態では、間葉系幹細胞(MSC)は、以下を特徴とし得る:増殖性接着(plastic adherence)、三系統(in vitro増殖後の骨形成、脂肪細胞、及び軟骨芽細胞分化)の維持、並びに造血マーカCD45、CD34、CD14、CD11b、CD79-a、CD19、及びHLA-DRの欠失、並びに集団の少なくとも95%での表面分子CD73、CD90、及びCD105の同時発現(Dominici Met al.,(2006)Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells.The International Society for Cellular Therapy position statement.Cytotherapy 8:315-317)。
【0207】
一部の実施形態では、細胞は、体細胞を未分化状態に再プログラムすることにより、又は体細胞を第1分化状態から第2分化状態に再プログラムする(「分化転換」と呼ばれることもある)ことにより、作製することができる。一部の実施形態では、再プログラムは、1細胞を複能性又は多能性状態に再プログラムするステップを含む。一部の実施形態では、再プログラムした細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞である。一部の実施形態では、細胞に1つ又は複数の因子(「再プログラム」因子)を発現又は含有させることにより、iPS細胞を作製することができる。再プログラム因子の好適な組み合わせは、当技術分野で公知である。一部の実施形態では、再プログラム因子は、Oct4、Sox2、Klf4、Nanog、Lin28、及びc-Mycから選択される1つ又は複数の因子を含む。好適な組み合わせの例としては、例えば、以下に挙げるものがある:(1)Oct4、Klf4、Sox2、及び任意選択でc-Myc;(2)Oct4、Sox2、Nanog及びLin28;(3)Oct4、Esrrb、Nanog;(4)Sox2、Sall4、Nanog;(5)Lin28、Sall4、Esrrb、Nanog;(6)Lin28、Sall4、Esrrb、Nanog。Nanogは、Dppa2で置換してもよい。再プログラムを増強する、及び/又は1つ又は複数の因子に代わる、若しくはその発現を誘導する様々な小分子が知られており、それらを様々な実施形態で用いることができる。このような分子は、例えば、1つ又は複数のシグナル伝達経路を活性化若しくは阻害するか、又はクロマチン構造に改変を引き起こすものであってもよい。一部の実施形態では、再プログラムしようとする体細胞は、線維芽細胞、角化細胞、又は造血細胞である。一部の実施形態では、Oct4及び少なくとも1つの小分子を用いて、体細胞を再プログラムする。一部の実施形態では、転写を指令することができる調節エレメントに作動可能に連結した1つ又は複数の再プログラム因子をコード化する核酸をウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターに導入する。コード配列のコピーをゲノムに組み込んでもよい。一部の実施形態では、その後、このような核酸を少なくとも部分的に再プログラム細胞から切除する。一部の実施形態では、細胞のゲノムの改変を含まない方法を用いて、再プログラムを実施する。例えば、1つ又は複数の再プログラム因子をコード化する翻訳可能なRNAを細胞に導入してもよく、及び/又は細胞を、再プログラムを促進する1つ又は複数の少分子と接触させてもよい。一部の実施形態では、翻訳可能なRNAは、合成修飾RNAであってもよい。合成修飾RNAを用いた再プログラムのために用いることができる方法は、例えば、以下:PCT/米国特許出願公開第2011/032679号明細書(国際公開第2011130624号パンフレット)及び/又はMandal PK,Rossi DJ.Reprogramming human fibroblasts to pluripotency using modified mRNA.Nat Protoc.2013;8(3):568-82に記載されている。一部の実施形態では、哺乳動物の体細胞の再プログラムは、例えば、低pH条件(例えば、約pH5.7)のような化学的若しくは物理的刺激への一時的曝露により、細胞にストレスを与えるステップを含み得る。これによって、細胞が刺激されて、刺激惹起性多能性獲得(STAP)を被ることから、多能性細胞を含む細胞株を、適切な条件下で取得することができる(例えば、以下の文献を参照されたい:Obokata,H.,et al.,Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency.Nature,2014;505(7485):641-647;Obokata,H.,et al.,Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency.Nature,2014;505(7485):676-680)。一部の実施形態では、STAPを介して、リンパ球を再プログラムする。一部の実施形態では、再プログラムは、外性核酸又はタンパク質を細胞に導入するステップを含まない。一部の実施形態では、未分化状態、例えば、多能性に再プログラムされた細胞を1つ又は複数の選択細胞型中に、又は1つ又は複数の選択細胞系譜に沿って、分化するように誘導する。例えば、多能性細胞は、成体幹細胞の特性を有するように誘導してもよい。こうした細胞は、当技術分野で公知の適切なプロトコルを用いて、さらに分化させてもよい。成体幹細胞又はそこから分化した細胞を本明細書に記載のようにソルタギングしてもよい。一部の実施形態では、例えば、体細胞から生成された多能性細胞を造血細胞、例えば、免疫系細胞、例えば、T細胞、B細胞、NK細胞に再プログラムしてもよい。
【0208】
任意の好適な細胞培養容器中で、又は任意の好適な細胞培養装置を用いて、細胞を培養することができる。一部の実施形態では、プレート(例えば、マルチウェルプレート)又はフラスコ、例えば、常用の組織培養プラスチック製器を用いてよい。細胞培養装置は、酸素及び/若しくは二酸化炭素濃度、pH、又はその他の細胞培養関連パラメータを調節するための手段を含み得る。一部の実施形態では、培地をガスで灌流するための機械的揺動若しくは攪拌若しくはポンピング(例えば、スパージング)を可能にする、又は連続的若しくは断続的培地流又は交換を可能にする細胞培養装置(細胞バイオリアクターと呼ばれることもある)を用いてもよい。このような装置の使用によって、細胞拡大を増強することができ、その結果、常用のプラスチック製器を用いて一般に達成されるものより高い細胞密度が達成され得る。細胞の培養に有用な様々な細胞培養装置(例えば、中空ファイバーバイオリアクター、攪拌タンクバイオリアクター、バッグなど)が当技術分野で公知である。一部の実施形態では、ガス透過膜(例えば、シリコーン膜)を含むガス透過性バッグ又は容器を用いてもよい。一部の実施形態では、Vuelife(商標)バッグ(Cellgenix,Freiburg,Germany)、WAVE Bioreactor(商標)システム(GE Health,Uppsala,Sweden)、BIOSTAT(登録商標)CultiBag RMシステム(Sartorius Stedim Biotech,Gottingen,Germany)、又はG-Rexシステム(Wilson Wolf Manufacturing,New Brighton,MN)、又は同様の技術を使用する装置を用いることができる。一部の実施形態では、例えば、細胞培養装置は、ガス透過性培養用フラスコを備えた細胞培養容器を含んでもよく、このフラスコの底部のガス透過膜を介してO2及びCO2が交換される。一部の実施形態では、細胞培養容器は、例えば、最大約5ml、10ml、15ml、20ml、25ml、30ml、40ml、50ml、75ml、100ml、200ml、300ml、400ml、500ml、750ml、又は1000mlの容量又は推奨培地容量を有してよい。一部の実施形態では、細胞培養容器は、1リットル(l)以上、例えば、最大1.5、2.0、2.5、3.0、4.5、5.0リットル、又はそれを超える容量又は推奨培地容量を有してよい。一部の実施形態では、選択した数の細胞を、単一の培養容器若しくは装置中で、又は一部の実施形態では、複数の培養容器若しくは装置を用いて、培養、生成することができる。一部の実施形態では、攪拌を必要とせずに、選択した数の細胞を培養、生成することができる。一部の実施形態では、培地の交換を必要とせずに、又は1、2、3回培地を交換するだけで、選択した数の細胞を培養、生成することができる。一部の実施形態では、選択した数の細胞は、例えば、最大約1014細胞、例えば、約103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013若しくは1014細胞、又はそれらの間の任意の範囲、例えば、約105~約1012細胞、約106~約1011細胞、約107~約1010細胞であってよい。一部の実施形態では、約105~約108細胞及び約1011~約1013細胞を培養又は生成する。一部の実施形態では、ある装置は、蓋を外さずに、培地の交換を可能にする。一部の実施形態では、細胞培養は、無菌条件下で実施する。一部の実施形態では、マイクロキャリア上で細胞を培養してもよい。
【0209】
一部の実施形態では、細胞は、被験者から取得して、in vitroで拡大する。細胞「拡大」とは、細胞の数の増加を指す。一部の実施形態では、約48時間~約12週間、例えば、2~6週間培養する。一部の実施形態では、細胞の数は、初期サンプル又は培養物中の細胞の数に対して、少なくとも2、例えば、2~100、100~500、500~1,000、1,000~5,000、5,000~10,000、10,000~50,000、50,000~100,000、又はそれを超える係数で増加する。一部の実施形態では、増殖した細胞は、対象の特定の表現型、機能的活性、又は細胞表面マーカプロフィールを実質的に保持するか、又は呈示する。一部の実施形態では、拡大した培養物は、選択した表現型を有する細胞を富化させるために、選別又は分離又は選択に付してもよい。一部の実施形態では、増殖した培養物は、選択した表現型、機能的活性、又は細胞表面マーカプロフィールについ特性決定することができる。
【0210】
様々な細胞型を培養及び/又は拡大するのに適したプロトコル並びに有用な試薬及び培養装置は当技術分野において公知である。一部の実施形態では、細胞培地、細胞培養装置、ソルターゼ調製物、ソルターゼ基質、細胞培養方法、又はソルタギング方法は、適正製造基準(Good Manufacturing Practice)(GMP)に従う。一部の実施形態では、外毒素を含まないか、又は実質的に含まない、若しくはほぼ含まないソルターゼ調製物を用いることができる。一部の態様では、本開示は、ソルターゼによって、細胞が発現する非遺伝子操作内在性ポリペプチドに結合された薬剤を有する1つ又は複数の細胞を含むGMP適合性組成物を提供する。一部の実施形態では、細胞培養、ソルタギング、又はその両方は、後に、ソルタギング済み細胞のヒト被験者への導入を可能にするのに適切な条件下で実施する。一部の実施形態では、ヒトへの投与及び/又は獣医学的目的に対する適合性を評価するために、当技術分野で用いられている任意の1つ又は複数の試験に細胞組成物を付してもよい。一部の実施形態では、細胞組成物は、ヒトへの投与及び/又は獣医学的目的に対する適合性を評価するために当技術分野で用いられている任意の1つ又は複数の基準を満たしている。一部の実施形態では、培養条件には、血清、血漿、並びに/又は細胞及び組織由来物質の抽出物を含まないか、ほぼ含まない培地の使用が含まれる。一部の実施形態では、培養条件は、支持細胞の非存在を含み得る。一部の実施形態では、1つ又は複数のこうした物質又は支持細胞が用いられる場合、これらは、ヒトの病原体及び/又はヒト被験者への投与に関して潜在的に危険又は不適にする物質を含まないことを確認するために適切に試験されている。一部の実施形態では、1つ又は複数のこうした物質又は支持細胞が用いられる場合、これは、細胞を取得した同じ被験者又は細胞を投与しようとする被験者から得られる。一部の実施形態では、1つ又は複数の組み換えにより生成されたタンパク質を用いてもよい。一部の実施形態では、タンパク質は、既知組成培地を含む。好適な培地は、様々な供給業者、例えば、Stemcell Technologies Inc.(Vancouver,BC,Canada)、Life Technologies,Inc.(Carlsbad,CA)、Lonza(Basel,Switzerland)から入手することができる。例えば、一部の実施形態では、例えば、造血細胞を培養するために、StemSpan培地を用いてよい。一部の実施形態では、例えば、リンパ球、単球、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、PBMC、マクロファージなどの免疫系細胞を培養するために、AIM V(登録商標)Mediumを用いてよい。一部の実施形態では、例えば、ヒトTリンパ球の培養のために、GIBCO OpTmizer(商標)CTS(商標)T細胞増殖無血清培地(T-Cell Expansion Serum Free Medium)(Life Technologies)を用いる。一部の実施形態では、例えば、リンパ球、単球、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、PBMC、マクロファージなどの免疫系細胞を培養するために、X-VIVO(商標)培地(Lonza)、例えば、X-VIVO(商標)10、X-VIVO(商標)15、又はX-VIVO(商標)20を用いる。一部の実施形態では、RPMI、DME、又はDMEMを用いてよい。当業者であれば、対象の細胞型に好適な培地を認識されよう。
【0211】
本明細書で用いられる場合、材料若しくは物質が、組成物に故意に添加されないか、そこに存在するとわかっていない場合、及び/又はそうした材料若しくは物質の検出のために当技術分野で用いられる標準的方法を用いて、それが検出限界に満たない場合、及び/又は前記材料若しくは物質の非存在を達成するのに十分な程度で、当技術分野で容認される条件下で調製されている場合に、組成物は、特定の材料若しくは物質を「含まない」とみなすことができる。一部の実施形態では、組成物は、任意の1つ又は複数の材料若しくは物質を実質的に含まない、又はほぼ含まないと考えられる。一部の実施形態では、「ほぼ含まない」とは、重量(例えば、乾燥重量)、体積、又はモルに基づき、そうした材料若しくは物質の0.1%、0.05%、0.01%、0.005%、0.001%、0.0005%以下の濃度を指す。一部の実施形態では、「実質的に含まない」、とは、重量(例えば、乾燥重量)、体積、又はモルに基づき、そのような材料若しくは物質が1%以下、例えば、0.5%以下、例えば、0.2%以下であることを指す。一部の実施形態では、材料若しくは物質の検出のために当技術分野で用いられる標準的検出方法を用いて、材料若しくは物質が検出可能ではない場合、組成物は、材料若しくは物質(例えば、アジュバント)を実質的に含まないとみなされる。一部の実施形態では、組成物は、物質、例えば、アジュバントを故意に含有させずに調製される。一部の実施形態では、組成物をin vitro又はin vivoで細胞と接触させる際、免疫応答を増殖するのに有効な量のアジュバントを故意に含有させずに調製される。
【0212】
一部の実施形態では、本組成物中で培養又はソルタギングした細胞は、ヒト被験者への投与のための規制要件を満たしている。一部の実施形態では、本組成物中で培養又はソルタギングした細胞は、政府機関、例えば、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)、欧州医薬品審査庁(European Medicines Evaluation Agency)、あるいは、ヒトへの投与又はヒトへの投与用に市販する前に、治療薬の安全性の審査を担当する同様の機関の規制要件を満たしている。一部の実施形態では、ソルタギングの後、例えば、被験者への投与の前に、細胞を洗浄するか、あるいは、処理することにより、培地成分を除去する。一部の実施形態では、組成物を試験して、ヒトに感染する恐れのある病原体を含まないことを確認する。一部の実施形態では、試験は、特定の病原体の存在について、PCR又は生物学的アッセイを使用する。
【0213】
様々な細胞型を培養、拡大、また一部の実施形態では、活性化する方法は当技術分野で公知である。例えば、T細胞は、任意選択で、IL-2のような1つ又は複数のサイトカインと組み合わせて、CD3に結合する抗体(例えば、ムロモナブ-CD、オルソクローン(Orthoclone)OKT3、「OKT3」としても知られる)を用いて、拡大及び活性化することができる。一部の実施形態では、可溶性、表面結合、若しくは細胞結合(例えば、APC結合)共刺激分子、例えば、CD28に、免疫系細胞を曝露してもよい。一部の実施形態では、任意選択でMHCタンパク質と結合した、抗原又はエピトープとin vitroで接触させてもよい。造血幹細胞は、例えば、米国特許出願公開第20110117061号明細書;第20110136230号明細書;及び/又は第20110196343号明細書に記載されているように培養及び/又は拡大することができる。こうした細胞は、必要に応じて、様々な造血細胞系譜に沿って分化させることができる。
【0214】
細胞を培養、また一部の実施形態では、拡大及び/又は活性化するのに、様々な実施形態において用いることができる装置及び/又はプロトコルの例は、以下の文献に記載されている:PCT/米国特許出願公開第2002/028161号明細書(国際公開第2003/024989号パンフレット);PCT/米国特許出願公開第2004/001349号明細書(国際公開第2004/065590号パンフレット);PCT/米国特許出願公開第2008/062687号明細書(国際公開第2009/136907号パンフレット);PCT/米国特許出願公開第2009/049944号明細書(国際公開第2010/006055号パンフレット);PCT/米国特許出願公開第2010/046505号明細書(国際公開第2011/028531号パンフレット);PCT/NL2006/000319号明細書(国際公開第2007/001173号パンフレット);PCT/米国特許出願公開第2010/061706号明細書(国際公開第2011/079165号パンフレット);PCT/欧州特許第2012/063034号明細書(国際公開第2013/007574号パンフレット);PCT/SE2010/050333号明細書(国際公開第2010/110734号パンフレット);Digiusto,DL and Cooper,LJN,Cytotherapy.2007;9(7):613-29;Sutlu,T.,et al.,Cytotherapy.2010 Dec;12(8):1044-55;Spanholtz J,et al.,PLoS One.2011;6(6):e20740.doi:10.1371/journal.pone.0020740,Levine,B.et al.,J Hematother.(1998)7(5):437-48;Tumaini,Cytotherapy.2013;15(11):1406-15、並びにこれらの何れかにおける参照文献)。
【0215】
一部の実施形態では、ソルタギングの前に細胞を1つ又は複数の群に分類し、1つ又はいくつか(しかし、全部ではない)の群をソルタギングプロセスに付す。例えば、一部の実施形態では、様々な型の細胞を含む出発集団から、特定の細胞型の細胞をソルタギングのために選択してもよい。出発集団に存在し得る他の型の細胞を、例えば、他の目的に用いる、保存(例えば、冷凍保存)する、廃棄する、又は後にソルタギング済み細胞と合わせることもできる。細胞は、任意の1つ又は複数の特性に基づいて選択することができる。特性は、細胞の任意の表現型特徴、細胞型、若しくは細胞状態、例えば、観察若しくは検出され得る任意の特徴、又はこうした特徴の任意の組み合わせであってよい。例としては、例えば、形態学的特徴;物理的、生化学的、又は生理学的特性;生物学的挙動、RNA若しくはタンパク質のような遺伝子発現産物の存在、非存在、又はレベルなどが挙げられる。一部の実施形態では、表現型特徴は、定量可能である。一部の実施形態では、細胞は、大きさ、光散乱、密度、1つ又は複数の物質に対する結合親和性、例えば、遺伝子の遺伝子産物のレベルにより評価される少なくとも1つの遺伝子の発現に基づいて分類することができる。
【0216】
任意の好適な分離方法を用いてよい。複数のステップの選択又は分離ステップを用いてよい。一部の実施形態では、選択は、少なくとも1つの正の選択を含み、その場合、例えば、対象の細胞に結合する結合物質を用いて、対象の細胞(要望される細胞;所望の細胞)の1つ又は複数の特性に基づいて、所望の細胞を保持又は富化する。一部の実施形態では、選択は、少なくとも1つの負の選択を含み、その場合、不要な細胞の1つ又は複数の特性に基づいて、(例えば、不要な細胞に結合する結合物質を用いて)対象としない細胞(不要な細胞;望まない細胞)を除去するか、又は欠失させる。有用な分離方法の例として、遠心分離、水簸、不要な細胞を保持若しくは除去する親和性樹脂(例えば、ビーズ)との接触、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(例えば、除去若しくは保持を望む細胞に特有の細胞表面マーカに結合する、適切に標識された試薬と、細胞を接触させた後)が挙げられる。
【0217】
一部の実施形態では、特定の細胞表面マーカ発現プロフィールを有する細胞を選択又は除去する。細胞表面マーカ発現プロフィールは、任意の1つ又は複数の細胞表面マーカの存在、非存在、及び/又はレベルを含み得る。対象とする様々な機能的特徴を有する多くの異なる細胞型若しくは細胞サブセットに特有の細胞表面マーカ発現プロフィールは、当技術分野において公知である。一部の実施形態では、細胞表面マーカは、分化クラスター(CD)分子を含む。一部の実施形態では、抗体に基づく富化手順を用いるが、これは、カラム、磁気分離、及び/又は遠心分離と組み合わせてもよい。一部の実施形態では、磁気粒子(磁気の有無にかかわらず、粒子は、「ビーズ」と呼ばれることがある)を用いてよい。こうした粒子の例として、Dyabeads(Life Technologies,Carlsbad,CA)、MACSマイクロビーズ(Miltenyi Biotech,Auburn,CA)として知られるものがある。一部の実施形態では、単一細胞懸濁液中の細胞を、適切な結合物質(例えば、抗体)が結合したビーズで磁気標識する。サンプルを磁気分離器内に配置したカラムに適用する。非標識細胞は、通過するが、磁気標識細胞はカラム内に保持される。フロースルーは非標識細胞画分として回収することができる。カラムを洗浄し、分離器から取り出した後、磁気標識された細胞をカラムから溶離する。このようにして、標識及び非標識細胞の両方を、必要に応じて単離することができる。一部の実施形態では、ビーズは、任意の適切な寸法、例えば、直径、体積を有するものであってよい。一部の実施形態では、カラムを用いず、磁石を用いずに、及び/又は抗体などの結合試薬で所望の細胞を標識せずに、所望の細胞を取得する。例えば、赤血球の表面に発現されるが、所望の細胞の表面には発現されない抗原、及び除去しようとする細胞の表面に発現される1つ又は複数の抗原に対する2つ以上の抗体を含む抗体複合体と、全血を接触させてもよい。一部の実施形態では、三量体抗体複合体を用いてもよい。抗体複合体は、不要な細胞を、全血中に存在する赤血球と架橋させ、その結果、複合体(時に、イムノロゼットと呼ばれる)を形成するが、これを、例えば、適切な密度媒体(例えば、Ficoll(商標))に対して遠心分離により除去することができる。遠心分離を用いて、イムノロゼットをペレット化してもよく、これにより、赤血球と一緒に不要な細胞を除去し、所望の細胞を残す。精製した細胞は、血漿と浮遊密度媒体との間の界面に、富化された集団として存在する。こうした分離を実施するのに好適な試薬は市販されている。例えば、RosetteSep(登録商標)試薬又はキットを用いてもよい(Stemcell Technologies)。この技術では、不要な細胞を、サンプル中に既に存在する多数の赤血球と架橋させて、イムノロゼットを形成する三量体抗体を使用する。適切な密度媒体(例えば、Ficoll)に対して遠心分離する場合、不要な(ロゼット化した)細胞は、赤血球と一緒にペレット化し、密度媒体:血漿界面に、未接触で、しかも高度に富化された所望の細胞が残る。RosetteSep(登録商標)は、標準的密度遠心分離、又は専用の細胞処理チューブ(SepMate(登録商標))と一緒に、そのまま使用してよい。好適なRBC抗原として、例えば、グリコホリン、例えば、グリコホリンAがある。一部の実施形態では、混合サンプルからの所望の細胞の単離は、所要時間が30分又は60分以下の手順を用いて実施する。一部の実施形態では、分離は、自動化装置を用いて、少なくともその一部を実施する。例えば、RoboSep(商標)(Stemcell Technologies)は、正又は負の選択により選択された細胞型の細胞を磁気標識して、実質的に分離するのに必要なステップを実施する免疫磁気細胞分離の自動化を提供する機器である。一部の実施形態では、選択手順は、選択的条件下で、細胞を培養するステップを含んでもよく、その場合、選択的条件によって、不要な特定の特徴を有する細胞を死滅させるか、又はその増殖を阻害する。一部の実施形態では、選択的条件は、不要な細胞の生存又は増殖に必要な1つ又は複数の因子の非存在下で、複数の細胞型を含む細胞集団を培養するステップを含む。
【0218】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞を、細胞を投与しようとする被験者との免疫適合性について評価することができる。細胞は、細胞が投与される被験者において有意な免疫応答、例えば、細胞の生存性及び/又は機能的活性を著しく低減する免疫応答、又は被験者において過剰な症状を生み出す免疫応答を誘発しないようであれば、免疫適合性とみなすことができる。一部の実施形態では、免疫適合性は、組織適合性を含む。組織適合性は、当技術分野において公知の任意の好適な方法を用いて、評価することができる。いくつかの実施形態では、組織適合性試験は、当業者により適正に決定されるように、レシピエント候補が、投与しようとする細胞により発現されるHLAに対する抗体を有するかどうか、及び/又はレシピエント候補が、細胞とは異なるHLA遺伝子型を、不適合とみなされるのに十分な程度まで有する(例えば、レシピエントの免疫系による攻撃を被る可能性がある、若しくはそのリスクを有する)かどうかを決定するステップを含む。一部の実施形態では、ヒト被験者に投与しようとする細胞を試験して、そのHLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、及び/若しくはHLA-DR遺伝子型を決定し、並びに/又は被験者からのサンプルを試験して、それが、ヒト被験者に投与しようとする細胞のMHCクラスI及び/又はMHCクラスII抗原に対する抗体を含むかどうかを決定する。一部の実施形態では、細胞は、それが、被験者の細胞と同じHLA-A、HLA-B、及びHLA-DR対立遺伝子を有する場合、並びに/又は被験者の血液が、細胞により発現されるMHC分子に対する抗体を保有していない場合に、被験者への投与に関して組織適合性であるとみなされる。組織適合性を試験する方法として、例えば、反応性抗体をみいだすための、HLA-型リンパ球の1群を用いて、補体-活性化IgG1/3及びIgM抗体を検出する補体依存性細胞傷害性アッセイ(CDC)を用いた前成(preformed)アロ反応性抗体のスクリーニング、ELISAなどの固相方法、並びにフローサイトメトリーに基づく技術(伝統的なフローサイトメトリー若しくはルミネックス(Luminex)を用いて)が挙げられる。例えば、ルミネックスによる抗体スクリーニング技術は、1群のマイクロビーズに固定化した精製済みHLA抗原を用いる。マイクロビーズ上のこれらのHLA分子は、所与のサンプル中のHLA特異的抗体の標的である。マイクロビーズに結合したIgGアイソタイプの抗HLA抗体は、R-フィコエリスリン(PE)などの標識と結合し得る二次IgG特異的抗体により検出される。核酸(例えば、DNA)に基づく組織分類は、例えば、配列特異的プライマー及び/又は配列特異的プローブを用いて実施することができる(例えば、Dunckley H.HLA typing by SSO and SSP methods.Methods Mol Biol.2012;882:9-25を参照)。例えば、PCRを用いて関連配列を増幅するのに、プライマーを用いてもよい。プローブは、オリゴヌクレオチド又はビーズに結合させてもよい。一部の実施形態では、ジェノタイピングのために、配列決定、例えば、ハイスループット配列決定を用いてもよい。一部の実施形態では、低解像度(すなわち2桁のHLA表記)結果又は高解像度(すなわ42桁のHLA表記)結果を用いてもよい。中間のHLA解像度は、HLA対立遺伝子の群を示す補足文字が付いた2桁のHLA表記を含む。一般に、様々な臨床用途に適したレベルのHLAタイピング解像度及び/又はHLA適合度を使用することができる。
【0219】
一部の実施形態では、免疫適合性赤血球は、このような細胞を投与しようとする個体と同じ血液型である(例えば、少なくとも、ABO血液型システムに関して、また、一部の実施形態では、D血液型システムに関して)か、又は適合性血液型であってもよい。例えば、一部の実施形態では、O型RhD陰性の血液は、何れかのABO血液型(すなわち、A、B、O若しくはAB)に投与することができ、O型RhD陰性の血液を有する人は、「ユニバーサルドナー」とみなすことができる。血液型を決定する方法は、当技術分野において公知である。一部の実施形態では、赤血球を、細胞のレシピエント候補との交差適合試験に付す。交差適合試験は、レシピエントの血清、血漿、又は血液のサンプルを、投与する可能性がある赤血球のサンプルと混合するステップと、混合物が、凝集するかどうかを調べるステップとを含む。凝集が観察されなければ、RBCはレシピエントと適合するとみなすことができる。
【0220】
一部の実施形態では、ソルタギング済みの内在性非遺伝子操作ポリペプチドを含む真核細胞は、遺伝子操作された細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、ソルタギングのために遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、前記細胞は、ソルタギングの前に、遺伝子操作されていない。一般に、前記細胞は、任意の遺伝子操作された真核細胞であってよい。前記細胞は、哺乳動物、真核細胞、昆虫細胞、原生動物細胞、又は他の真核細胞であってよい。前記細胞は、任意の細胞型、例えば、本明細書に記載する任意の細胞型であってよい。例えば、一部の実施形態では、遺伝子操作された細胞は、免疫系細胞、例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、又はマクロファージである。一般に、細胞は、あらゆる目的のために、任意の方式で、かつ当技術分野で公知の任意の方法を用いて、遺伝子操作することができる。遺伝子操作された細胞は、1つ又は複数のタイプの複数の遺伝子改変、例えば、ゲノムDNAへの1つ又は複数の挿入、ゲノムDNAの1つ又は複数の欠失、又は両方を含んでもよい。細胞のゲノムに組み込まれた外性DNAによって少なくとも一部がコード化されているか、又は遺伝子操作によりその配列が修飾された内在性遺伝子によってコード化されているポリペプチド又は非コードRNAは、「組み換え遺伝子産物」と呼ぶことができる。
【0221】
一般に、遺伝子操作は、1つ又は複数の外性核酸を細胞に導入することを含む。トランスフェクション(例えば、様々なトランスフェクション試薬の何れかを用いて)、エレクトロポレーション、ウイルス媒介核酸移入などを用いて、核酸を細胞に導入することができる。当業者は、細胞のゲノムへの所望の改変を達成する、及び/又は所望のタンパク質及び/又はRNAの発現を達成するために、適切な方法、ベクター、発現制御エレメントなどを選択することができる。例えば、ウイルスをベクターとして用いる場合、適切な方法は、ウイルスが細胞に侵入するのに適した条件下で、哺乳動物細胞をウイルスと接触させるステップを含み得る。ベクター及び具体的方法などの要因に応じて、細胞に導入する核酸は、少なくとも一部をコピーするか、又は逆転写してもよく、また、このようなコピー又はその部分をゲノムに挿入してもよいことは理解されよう。さらに、「挿入される」という用語の使用は、何れか特定の機構を含む、又は要することを意図するわけではなく、レトロウイルスインテグラーゼにより媒介されるプロセス、相同性若しくは非相同性組み換え、内在性DNA修復機構により修復されるゲノムDNAにおける切断の形成、又は細胞のゲノムへの1つ又は複数のヌクレオチドの付加、又は細胞のゲノムにおける異なるヌクレオチドによる1つ又は複数のヌクレオチドの置換を包含することも理解されよう。
【0222】
一部の実施形態では、1つ又は複数の選択したDNA配列にターゲティングされるヌクレアーゼを用いて、細胞を遺伝子的に修復する。このような方法を用いて、内在性ゲノム遺伝子座の選択部位に正確な切断を誘導することができる。ターゲティング可能なヌクレアーゼを用いて、例えば、対象の規定位置に、DNAを挿入、置換する、又はゲノムから除去する遺伝子操作は「ゲノム編集(Genome Editing)」と呼ばれることがある。このようなヌクレアーゼとしては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc Finger Nucleases)(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、操作されたメガヌクレアーゼホーミングエンドヌクレアーゼ、及びRNA指令ヌクレアーゼ、例えば、II型細菌CRISPR/Ca系(例えば、Cas9)に由来する、CRISPR(規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)-結合(Cas)ヌクレアーゼが挙げられる。
【0223】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、特定のDNA配列にヌクレアーゼをターゲティングさせるDNA切断ドメイン及びDNA結合ドメイン(DBD)を含み、これにより、ヌクレアーゼを用いて、配列特異的にゲノム改変を操作することができる。DNA切断ドメインは、それがターゲティングする配列又はその付近に二本鎖切断(DSB)若しくは切れ目を形成することができる。ZFNは、ジンクフィンガー(ZF)タンパク質のDBDに基づいて選択又は設計されたDBDを含む。ZFタンパク質のDBDは、1つ又は複数のジンクフィンガーを介して配列特異的にDNAに結合し、これは、亜鉛イオンの配位を通して構造が安定化されるアミノ酸配列の領域である。TALENは、キサントモナス属(Xanthomonas)種の転写活性化因子様(TAL)エフェクター(TALE)のDBDに基づいて選択又は設計されたDBDを含む。ZFN又はTALEN二量体は、DNA損傷応答経路を刺激する、ターゲティングされたDNA DSBを誘導する。設計されたジンクフィンガードメインの結合特異性は、ZFNを特定のゲノム部位に向かわせる。TALEは、複数の33~35アミノ酸反復配列を含み、その各々が、単一の塩基対を認識する。ZFNと同様に、TALENは、DNA損傷応答経路を活性化して、カスタム改変を可能にするDSBを誘導する。操作された部位特異的ヌクレアーゼのDNA切断部位は、天然のエンドヌクレアーゼ、例えば、Fok1エンドヌクレアーゼ又はその変異体からの触媒ドメインを含み得る。一部の実施形態では、切断特異性及び/又は切断活性を改善するように設計された突然変異を含むFokI切断ドメイン変異体を用いてもよい(例えば、以下を参照されたい:Guo,J.,et al.(2010)Journal of Molecular Biology 400(1):96-107;Doyon,Y.,et al.,(2011)Nature Methods 8:74-79。メガヌクレアーゼは、大きな認識部位(12~約40塩基対の二本差DNA配列)を特徴とする配列特異的エンドヌクレアーゼである。この部位は、一般に、所与のゲノムで多くて1回出現する。メガヌクレアーゼの特異性は、ヌクレアーゼの配列(例えば、DNA結合ドメイン)に変更を導入した後、天然の認識部位の変異体を切断することができる機能性酵素を選択することにより、又は異なるヌクレアーゼからのタンパク質ドメインを結合若しくは融合することによって、改変することができる。
【0224】
一部の実施形態では、RNA指令ヌクレアーゼを用いて、ゲノム編成を実施することができる。例えば、CRISPR/Casに基づくシステムの使用が考慮される。一部の実施形態では、Cas9(例えば、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)、若しくはナイセリア・メニングジティス(Neisseria meningiditis)、又はこれらの変異体)などのCasヌクレアーゼを、対象の配列に相補性の配列を含むガイドRNA(このRNAは、単一ガイドRNAと呼ばれることがある)と一緒に、細胞に導入する。相補性の領域は、例えば、約20ヌクレオチドの長さであってよい。Casヌクレアーゼ、例えば、Cas9は、ガイドRNAにより対象の特定のDNA配列に誘導される。ガイドRNAは、ゲノムの対象の標的配列、例えば、対象の任意の遺伝子若しくは遺伝子間領域に対して相補性を有するように操作することができる。Casタンパク質、例えば、Cas9のヌクレアーゼ活性は、DNAを切断し、これによって遺伝子を無能力化する、又は切断することができ、別のDNA配列を挿入することを可能にする。一部の実施形態では、異なる遺伝子、例えば、2、3、4、5、若しくはそれを超える遺伝子に対して相補性の配列を含む複数のsgRNAを同じ細胞に、順次又は一度に導入する。一部の実施形態では、複数の遺伝子における改変を同一ステップで生成してもよい。
【0225】
一般に、遺伝子操作、例えば、遺伝子編成のためのヌクレアーゼに基づくシステムの使用は、ヌクレアーゼを細胞に導入するステップと、ヌクレアーゼが細胞のDNAを切断するのに適した条件下で、それに適した時間にわたり細胞を維持するステップを含む。CRISPR/Cas系の場合、ガイドRNAも導入する。典型的には、ヌクレアーゼをコード化する核酸を導入することにより、ヌクレアーゼを導入する。核酸は、細胞に、発現を指令することができるプロモータに作動可能に連結し、プラスミド又は他のベクターを用いて、細胞に導入することができる。一部の実施形態では、ヌクレアーゼをコード化するmRNAを導入してもよい。一部の実施形態では、ヌクレアーゼ自体を導入してもよい。sgRNAは、直接(トランスフェクションなどの方法により)導入するか、又は発現ベクターなどの核酸構築物からこれを発現することにより導入してもよい。一部の実施形態では、sgRNA及びCasタンパク質は、細胞に導入した単一発現ベクターから、又は、一部の実施形態では、異なる様々な発現ベクターから発現させる。一部の実施形態では、異なる遺伝子、例えば、2、3、4、5、若しくはそれを超える遺伝子に対して相補性の配列を含む複数のsgRNAを、同じ細胞に、個別に若しくはRNAとして、又は細胞内転写のための細胞に、sgRNAをコード化する1つ又は複数の核酸構築物を導入することにより導入する。
【0226】
ヌクレアーゼによる切断時に、標的遺伝子座(例えば、細胞のゲノム内)は、DNA損傷修復、すなわち非相同末端結合(NHEJ)又は相同組み換え修復(HDR)のための2つの主要な経路のうちの1つを経ると考えられる。HDRを刺激する上で、切断部位とフランキングする配列に対して十分な相同性を含む好適な修復鋳型が存在しない場合、DSBは、NHEJを介して再連結し、これにより、挿入又は欠失をもたらすことができる。NHEJを用いて、例えば、遺伝子ノックアウトを実施する、又は活性が改変されたタンパク質を作製することができる。例えば、エクソンの挿入又は欠失により、フレームシフト突然変異又は未成熟終止コドンをもたらすことができる。より大きな欠失をゲノム内に生成するために、2つ以上のDSBを作製することができる。
【0227】
一部の実施形態では、ゲノム中の切断の位置に挿入しようとする配列を含む核酸(例えば、プラスミド又は線状DNA)を、ヌクレアーゼに加えて、細胞に導入する。一部の実施形態では、対象の配列を遺伝子に挿入する。対象の配列は、少なくとも一部が、遺伝子を置換し得る。一部の実施形態では、核酸は、切断部位にフランキングする配列と相同性である配列を含み、これによって、相同性組み換え修復を刺激する。一部の実施形態では、核酸は、切断部位又はその付近に、細胞のゲノムに存在する配列と比較して、所望の改変を含む。ゲノムに少なくとも一部導入しようとする配列を含む核酸、例えば、相同性配列と所望の改変を含む核酸配列は、「ドナー配列」と呼ばれることがある。ドナー配列は、少なくとも一部が、ゲノムに切断の部位で物理的に組み込まれた状態であるか、又は切断の修復用の鋳型として用いてもよく、これによって、ドナーに存在するヌクレオチド配列の全部若しくは一部が、細胞のゲノムに導入される。このように、細胞のゲノム中の配列を改変することができ、いくつかの実施形態では、これをドナー核酸に存在する配列に変換することができる。一部の実施形態では、環状DNA(例;プラスミド)、直鎖状二本鎖DNA(例えば、線状化プラスミド又はPCR産物)、又は一本鎖DNA、例えば、一本鎖オリゴヌクレオチドに、ドナー配列を含有させることができる。一部の実施形態では、ドナー配列は、ゲノム中の標的部位の片側若しくは両側で約10~25bp及び約50~100bpの相同性を有する。一部の実施形態では、より長い、例えば、約100~500bpから最大約1~2kB又はそれを超える相同性配列を用いてもよい。一部の実施形態では、遺伝子の1つの対立遺伝子に改変を導入する。一部の実施形態では、第1の改変を遺伝子の1つの対立遺伝子に導入し、別の改変を他の対立遺伝子に導入する。一部の実施形態では、同じ改変を両方の対立遺伝子に導入する。一部の実施形態では、2つの(若しくはそれを超える)対立遺伝子又は標的部位を単一のステップで遺伝子的に修復してもよい。一部の実施形態では、2つの(若しくはそれを超える)対立遺伝子又は標的部位を個別のステップで遺伝子的に修復してもよい。
【0228】
ZFN及び/又はTALENを設計、作製及び使用する方法は、例えば、以下の文献に記載されている:国際公開第2011097036号パンフレット;Urnov,FD,et al.,Nature Reviews Genetics(2010),11:636-646;Miller JC,et al.,Nat Biotechnol.(2011)29(2):143-8;Cermak,T.,et al.Nucleic Acids Research(2011)39(12):e82,Sanjana,N.E.et al.A transcription activator-like effector toolbox for genome engineering.Nat Protoc 7,171-192(2012)及びこれらの何れかにおける参照文献。ゲノム操作のためのZFN、TALEN、及びCRISPR/Casに基づく方法は、Gaj,T.,et al.,Trends Biotechnol.2013 Jul;31(7):397-405.Epub 2013 May 9に論述されている。ゲノム操作でのCRISPR/Cas系の使用については、例えば、以下の文献に記載されている: Cong L,et al.Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems.Science.2013;339(6121):819-23;Mali P,et al.,RNA-guided human genome engineering via Cas9.Science.2013;339(6121):823-6;Wang,H.et al.One-step generation of mice carrying mutations in multiple genes by CRISPR/Cas-mediated genome engineering.Cell 153,910-918(2013);Ran,F.A.et al.Double Nicking by RNA-Guided CRISPR Cas9 for Enhanced Genome Editing Specificity.Cell 154,1380-1389(2013);Mali,P.,et al.,Nat Methods.2013;10(10):957-63;Ran,FA,Nat Protoc.2013;8(11):2281-308)。一部の実施形態では、dsDNAの1本鎖だけを切断するヌクレアーゼ(ニカーゼ)を用いて、NHEJ修復経路を活性化することなく、HDRを刺激することができる。ニカーゼは、二本鎖切断に必要なZFN若しくはTALEN二量体におけるヌクレアーゼ単量体の触媒活性を不活性化するか、又はCasタンパク質の触媒活性を不活性化することにより、形成することができる。例えば、触媒残基(RuvCヌクレアーゼドメインのD10とHNHヌクレアーゼドメインのH840)の1つの、例えば、アラニン(D10A、H840A)への突然変異により、Cas9をDNAニカーゼに変換する。
【0229】
一部の実施形態では、CRISPR/Casに基づくシステムを用いて、遺伝子発現を調節することができる。例えば、エンドヌクレアーゼ活性のない触媒的に不活性のCas9と、ガイドRNAの共発現により、DNA認識複合体を作製するが、これは、転写伸長、RNAポリメラーゼ結合、又は転写因子結合を特異的に妨害することができる。このシステムは、CRISPR妨害(CRISPRi)と呼ばれることもあり、哺乳動物における標的遺伝子の発現を効率的に抑制することができる(Qi,S.,et al.,Cell.2013;152(5):1173-83;Larson,MH,et al.,Nat Protoc.2013;8(11):2180-96)。様々なエフェクタードメインの何れかを触媒的に不活性のCas9に結合させることにより、キメラCas9タンパク質を作出することができ、これを用いて、遺伝子発現及び/又はDNA修飾に対して配列特異的制御を達成することができる。好適なエフェクタードメインとして、例えば、転写活性化ドメイン(V16トランス活性化ドメイン、例えば、V64)、転写共活性化ドメイン、転写阻害又は共阻害ドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、酵素ドメインなどが挙げられる。ガイドRNAは、キメラCas9タンパク質を、ゲノム中の対象の部位(例えば、プロモータなどの発現制御エレメント内若しくはその付近)に誘導し、これにより、エフェクタードメインが、転写活性の活性化若しくは阻害などの作用を及ぼす(例えば、Gilbert LA,et al.,Cell.2013;154(2):442-51;Maeder ML,et a..,Nat Methods.2013;10(10):977-9を参照)。適切なエフェクタードメインは、対象の機能(例えば、転写の阻害又は活性化)を果たすことができる天然のタンパク質に存在するものの何れかであってよい。
【0230】
遺伝子操作プロセスに付した細胞を選択又は分析することにより、所望の組換え遺伝子産物を発現するか、又は遺伝子操作により無能力化された内在性遺伝子の発現を欠失しているか、又は任意の所望の遺伝子改変を有する細胞を同定若しくは単離することができる。例えば、一部の実施形態では、ドナー配列を送達するために用いられるドナー配列若しくはベクターは、選択マーカを含んでよく、これを用いて、そのゲノムに選択マーカを含むドナー配列の少なくとも一部が組み込まれた細胞を選択することができる。一部の実施形態では、選択を使用しない。一部の実施形態では、例えば、サザンブロットにより、細胞をスクリーニングして、所望の遺伝子改変を有する細胞又はクローンをみいだすことができる。必要に応じて、組み換え遺伝子産物若しくは内在性遺伝子産物の発現レベル若しくは活性について、又は組み換え若しくは内在性遺伝子産物と関連する、若しくはこれらにより付与された1つ又は複数の特性、又は任意の他の対象基準について、細胞を試験してもよい。好適な分析方法は、当業者には周知であり、そのような方法として、例えば、ウエスタンブロット、フローサイトメトリー、FACS、免疫蛍光顕微鏡検査、ELISAアッセイ、親和性に基づく方法(対象のタンパク質に結合することができる薬剤と細胞を接触させ、タンパク質が、これを発現する細胞を標識又は保持する)などが挙げられる。機能性アッセイは、組み換え遺伝子産物、内在性遺伝子産物、及び/又は対象の機能性若しくは特性に基づいて選択することができる。例えば、機能性は、対象の抗原に結合する能力又は対象の抗原を発現する標的細胞に対して細胞傷害性を及ぼす能力であってもよい。細胞を例えば、PCR、サザンブロッティング、若しくは配列決定により分析して、挿入されたDNA配列の数、それらの位置を決定する、及び/又は所望のゲノム改変が起こったかどうかを決定することができる。所望の改変、発現レベル、及び/又は機能性を有する1つ又は複数の細胞をみいだし、増殖、増加させることができる。細胞又はその子孫を用いて、細胞株を作製し、ソルタギングに付して、及び/又は後の使用のために保存することができる。
【0231】
一部の実施形態では、遺伝子操作した細胞は、そのゲノムに挿入された内在性DNAを含む。一部の実施形態では、内在性DNAは、ポリペプチド又はノンコーディングRNAをコード化する配列を含む。一部の実施形態では、DNAは、cDNAを含む。挿入された内在性DNAは、1つ又は複数のRNA若しくはポリペプチドをコードし得る。一部の実施形態では、ゲノムは、外性DNAの単一のコピーを含む。一部の実施形態では、ゲノムは、2つ、3つ又は4つ以下のコピーを含む。細胞は、そのゲノムに挿入された1つ、2つ、3つ、4つ若しくはそれを超える異なるDNA配列を有してもよい。RNA又はポリペプチドをコード化する配列を適切な発現制御エレメント、例えば、少なくとも、配列の転写を指令することができるプロモータに作動可能に連結してもよい。発現制御エレメントは、典型的に、ゲノムに挿入された外性DNAの一部である。組み換え遺伝子産物の発現は、構成性又は条件式(例えば、誘導性、抑制性、細胞型特異的)であってよい。組み換え遺伝子産物は、本明細書に記載する任意のタンパク質又はRNAであってよい。一部の実施形態では、タンパク質は、分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、又は細胞内タンパク質である。一部の実施形態では、細胞組み換え遺伝子産物は、選択マーカ(例えば、任意選択で検出可能なタンパク質、例えば、蛍光若しくは発光タンパク質、又は薬物に対する耐性を付与するタンパク質)、治療タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、共刺激因子、共阻害物質、増殖因子、受容体、又は接着分子を含む。いくつかの実施形態では、受容体は、キメラ抗原受容体、T細胞受容体、B細胞受容体、サイトカイン受容体、ケモカイン受容体、共刺激因子受容体、接着分子、又はこのうちの2つ以上を含む融合タンパク質である。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質、例えば、マルチサブユニットサイトカイン若しくは受容体の1つ、2つ以上、又は全てのサブユニットを産生するように、細胞を遺伝子操作する。一部の実施形態では、ノンコーディングRNAを発現するように、細胞を操作する。ノンコーディングRNAは、例えば、小ヘアピンRNA(siRNAを生成するように細胞内でプロセシングされ得る)、siRNA、マイクロRNA前駆体(miRNAを生成するように細胞内でプロセシングされ得る)、miRNA、又はロングノンコーディングRNAであってよい。一部の実施形態では、ノンコーディングRNAは、例えば、1つ又は複数のプレmRNA又はmRNAの転写、プロセシング、安定性、及び/又は翻訳に影響を与えることにより、1つ又は複数の遺伝子の発現を調節する。一部の実施形態では、ノンコーディングRNAは、RNA干渉(RNAi)経路により遺伝子発現を阻害する。細胞中の特定の遺伝子に向けてターゲティングされるRNAiを発現することにより、遺伝子の発現を安定して阻害することができる。当業者であれば、対象の遺伝子の発現を阻害するために、RNAi因子のための適切な配列を選択することができるだろう。
【0232】
組み換え遺伝子産物の配列は、様々な実施形態において、天然に存在する配列であってもよく、又は少なくともその一部が人為的に作出された(非天然の)ものであってもよい。一部の実施形態では、配列は、完全長の天然の配列(例えば、真核ゲノムにコード化されたポリペプチド若しくはRNA)又はその機能性変異体若しくは断片を含むか、又はそれから構成される。一部の実施形態では、上記配列は、天然に存在する真核ポリペプチドの1つ又は複数の機能ドメインを含むか、又はそれから構成される。一部の実施形態では、外性DNAは、キメラタンパク質を含む。例えば、一部の実施形態では、その配列は、様々な天然の真核ポリペプチドの多機能ドメインを含むか、又はそれから構成される。一部の実施形態では、組み換え遺伝子産物は、ソルターゼ認識配列、又はソルターゼ触媒反応において求核アクセプター配列として作用することができる配列を含む。一部の実施形態では、組み換え遺伝子産物は、ソルターゼ認識配列、又はソルターゼ触媒反応において求核アクセプター配列の役割を果たすことができる配列を含まない。一部の実施形態では、ソルターゼ認識配列、又はソルターゼ触媒反応において求核アクセプター配列の役割を果たすことができる配列が、組み換え遺伝子産物に存在する場合、これは、細胞内若しくは膜貫通ドメイン内に位置するか、又はそうでなければ、これは、細胞外部に位置するソルターゼに接触することができない。
【0233】
一部の実施形態では、外性DNAは、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞のゲノムの「セーフハーバー(safe harbor)」遺伝子座に組み込まれる。「セーフハーバー」遺伝子座は、ゲノム(例えば、ヒトゲノム)の遺伝子内又は遺伝子外領域であり、これは、概して、宿主細胞の表面に有意に検出可能な作用(もしあれば、挿入されたDNAによりコード化された組み換え遺伝子産物の発現により生じた作用以外)を引き起こさずに、DNAの挿入を受け入れることができ、また、好適な発現制御エレメント(例えば、プロモータ)を含む挿入DNAの転写を可能にする。一部の実施形態では、有意な作用は、細胞の生存性若しくは増殖能力、又は細胞が正常な生物学的機能を実施する能力における十分に有意な変化である。一部の実施形態では、セーフハーバー遺伝子座は、AAVSV1(染色体19上の野生型AAVの天然の組み込み部位)、ROSA26、又はCCR5遺伝子座である。これら遺伝子座の位置は、当技術分野において公知である。AAVSV1部位は、染色体19(位置19q13.42)にあり、AAVSV1遺伝子座への組み込みによって、遺伝子ホスファターゼ1調節サブユニット12C(PPP1R12C)が破壊され得る。ヒトROSA26遺伝子座は、染色体3(位置3p25.3)にある。ヒトCCR5遺伝子は、染色体3(位置3p21.31)に位置する。セーフハーバー遺伝子座として用いることができる別の部位、セーフハーバー遺伝子座をみいだす方法、及びセーフハーバー遺伝子座にDNAを挿入する方法の記載については、米国特許出願公開第20110239319号明細書を参照されたい。一部の実施形態では、外性DNAを任意の既知癌原遺伝子又は腫瘍抑制遺伝子から少なくとも100kB離れて位置する部位に組み込む。
【0234】
一部の実施形態では、内在性DNAの発現又は配列を改変するように、細胞を遺伝子操作する。例えば、一部の実施形態では、発現が不要な遺伝子を細胞において無能力化する。本明細書で用いられる場合、遺伝子産物の1つ又は複数の生物活性の正常レベルを細胞が呈示するのに必要なものに満たないレベルまでその発現が低減される場合、又はコード化された遺伝子産物の配列が、遺伝子産物の1つ又は複数の生物学的活性の正常レベルを細胞が呈示するのに必要なものに満たないレベルまで、遺伝子産物の活性を低下させるように改変される場合、遺伝子は細胞において「無能力化」される。遺伝子は、少なくとも部分的に遺伝子を欠失させることにより、適切な一の遺伝子に挿入を導入することにより、又は例えば、活性部位残基若しくは他の機能的に重要な残基を欠失若しくは変更することによって、コード化された遺伝子産物が活性を低下するように遺伝子を改変することにより、無能力化することができる。一部の実施形態では、1つ又は複数の置換、挿入、又は欠失を導入する的確な改変を実施する。このような改変は、例えば、ある疾患を引き起こすか、若しくはそれに寄与する対立遺伝子の配列を、疾患に関連しないものに変えるか、又は受容体の特異性を変化させ得る。選択した内在性遺伝子の発現を増大若しくは低減するように、発現制御エレメントを挿入又は改変してもよい。一部の実施形態では、内在性遺伝子は、受容体、膜貫通タンパク質、分泌タンパク質、共刺激因子、共阻害物質、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、又は接着分子をコード化する。一部の実施形態では、無能力化される内在性遺伝子は、免疫抑制細胞外シグナル(例えば、IL-10若しくはTGF-βなどの免疫抑制作用を及ぼし得るサイトカインの受容体)を媒介するか、又はT細胞疲弊に寄与する遺伝子産物をコード化し得る。T細胞疲弊は、様々な慢性感染症及び癌の罹患の際に起こるT細胞不全の状態である。これは、乏しいエフェクター機能、阻害受容体の持続的発現、及び/又は機能性エフェクター若しくはメモリーT細胞とは異なる転写状態によって定義される(Wherry,EJ,Nature Immunology,2011;12(6):492-9に論述されている)。T細胞疲弊は、PD-1、LAG-3、CD244(2B4)、CD160、TIM-3、及び/又はCTLA-4などの様々な細胞表面阻害受容体により促進され得る。一部の実施形態では、例えば、こうした受容体をコード化する1つ又は複数の遺伝子を無能力化することによって、1つ又は複数の上記受容体を阻害すれば、T細胞が疲弊状態に陥る可能性を低減することができる。一部の実施形態では、無能力化した内在性遺伝子は、アポトーシス促進性因子、細胞溶解性因子、細胞傷害性因子、若しくは毒素などの毒性物質の作用を媒介する遺伝子産物をコードし得る。例えば、内在性遺伝子は、毒性物質の受容体をコードし得る。内在性遺伝子の無能力化により、内在性遺伝子が発現されるか、又は機能性である細胞に関して、前記物質に対する細胞の感受性を低減することができる。
【0235】
本明細書で述べるように、いくつかの実施形態は、ソルタギング済み免疫系細胞により認識される標的細胞に対する免疫応答を高めることができる、ソルタギング済み免疫系細胞に関する。例えば、いくつかの実施形態は、標的細胞により発現される抗原に結合する結合部分を含むソルタギング済み哺乳動物免疫系細胞に関する。一部の実施形態では、こうしたソルタギング済み免疫系細胞は、標的細胞に対する傷害性活性を有する。上記細胞は、例えば、CD8+T細胞又はNK細胞であってよい。一部の実施形態では、こうした細胞は、遺伝子操作されていない。
【0236】
一部の実施形態は、免疫系細胞系は、対象の抗原、例えば、標的細胞により発現される抗原に結合する組み換え遺伝子産物を発現するように、遺伝子操作されている。例えば、一部の実施形態では、組み換え遺伝子産物は、対象の特定の抗原に結合するキメラ抗原受容体を含む。前記細胞は、さらに、本明細書に記載する様々な薬剤の何れかでソルタギングしてもよい。一部の実施形態では、組み換え遺伝子産物は、対象の特定の抗原に結合するTCR鎖を含む。TCR鎖は、選択した抗原に対する高い親和性を有するT細胞に由来するものでもよい。T細胞は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、抗原又はその一部による免疫後の)に由来するものでもよい。非ヒト哺乳動物は、ヒトTCR遺伝子(例えば、少なくともTCRα及び/又はβ鎖)を発現するように、遺伝子操作してもよい。対象の抗原に結合するT細胞をみいだし、そのTCR遺伝子を単離し、任意選択で少なくとも一部を配列決定してもよい。これに代わり、又は加えて、選択抗原に対する所望の親和性を有するヒトTCR遺伝子は、ファージディスプレイなどのディスプレイ技術を用いてみいだすことができる。一部の実施形態では、内在性TCRの結合特異性を対象の抗原に向かわせる1つ又は複数の改変を導入することにより、TCR鎖をコード化する内在性遺伝子を修飾してもよい。例えば、内在性TCR遺伝子の可変ドメインの少なくとも一部を改変することができる。一部の実施形態では、1つ又は複数のCDRを改変することができる。選択した標的抗原に対する親和性を有するTCRα及びTCRβ鎖をコード化する遺伝子をT細胞のゲノムに導入するか、又は選択した標的抗原に対する親和性を付与若しくは増加するように、内在性TCR鎖を修飾することにより、標的抗原を認識して、これに応答することができる再指令T細胞が作出される。一部の実施形態では、内在性TCRの1つ又は複数の鎖を無能力化してもよい。内在性TCRの無能力化は、例えば、CARを発現するように細胞を操作する場合、又は、外性TCR鎖をコード化する遺伝子を、対応する内在性TCRの部位以外の部位に導入する場合に、有用となり得る。同様の方法をTCRδ及びγ鎖並びに/又はBCR鎖に適用することができる。既知の染色体遺伝子座(例えば、セーフハーバー遺伝子座)に所望のTCR遺伝子を導入する、内在性TCR遺伝子を改変する、並びに/又はジンクフィンガーヌクレアーゼ(AFN)を用いて、TCR遺伝子を不活性化するのに有用ないくつか方法及び組成物が、米国特許出願公開第20110158957号明細書に記載されている。
【0237】
組み換え遺伝子産物は、本明細書に記載する1つ又は複数の目的に役立ち得る。例えば、組み換え遺伝子産物は、結合部分、ターゲティング部分、治療薬、検出剤、又は細胞の1つ又は複数の特性を改変する因子として作用し得る。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、細胞に結合した薬剤は、ターゲティング部分を含み、組み換え遺伝子産物は、キメラ抗原受容体を含む。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、細胞に結合した薬剤は、ターゲティング部分を含み、組み換え遺伝子産物は、細胞の1つ又は複数の特性を改変するタンパク質若しくはRNAを含む。細胞の1つ又は複数の特性の改変は、細胞の増殖若しくは活性を刺激若しくは阻害すること、細胞表面受容体の活性を阻害若しくは増強すること、細胞外リガンドに対する応答性を付与することを含み得る。組み換え遺伝子産物は、1つ又は複数の遺伝子の発現を増大若しくは阻害する、受容体の細胞内ドメインに結合する、細胞内タンパク質-タンパク質相互作用を増大若しくは阻害する、細胞内タンパク質転位を増大若しくは阻害することが可能である。一部の実施形態では、一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、細胞に結合した薬剤は、ターゲティング部分を含み、組み換え遺伝子産物は、別のターゲティング部分を含む。第1及び第2ターゲティング部分は、同じでも異なっていてもよい。異なる場合、これらは、同じ抗原(例えば、その異なるエピトープ)、又は異なる抗原に結合し得る。例えば、第1及び第2ターゲティング部分は、異なる腫瘍抗原に結合し得るが、これらの抗原は何れも1つの腫瘍に存在してもよい。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、細胞に結合した薬剤は、ターゲティング部分を含み、組み換え遺伝子産物は、治療用タンパク質を含む。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、身体の所望の活性部位に細胞をターゲティングさせる。
【0238】
一部の実施形態では、被験者に投与しようとする、又はex vivoで他の細胞と接触させようとする免疫系細胞は、非標的細胞に対する免疫応答を高める、及び/又は被験者の免疫系細胞が、投与された細胞に対する免疫応答を高める可能性を低減するように処理してもよい。一部の実施形態では、T細胞の共刺激を阻害する1つ又は複数の物質の存在下で、同種異系細胞とそれらを共培養することにより、T細胞を、被験者の正常細胞に存在する抗原(同種異系抗原)に対して非反応性にする。非反応性細胞は、「アネルギー化細胞」と呼ばれることがある。同種異系細胞は、アネルギー化細胞を投与しようとする被験者から取得してよい。一部の実施形態では、同種異系細胞は、同種異系PBMCである。共刺激は、例えば、共刺激シグナルの受容を阻害することにより、阻害することができる。これは、抗B7-1及び/又はB7-2モノクローナル抗体などの物質を用いて、B7ファミリーメンバー(B7-1及び/又はB7-2)と、T細胞上のそれらの受容体との結合を阻止することにより、達成することができる。アネルギー化細胞は、好ましくは、標的細胞を認識して死滅させる能力を保持するが、非標的細胞を殺傷する能力は低減しているか、又はそのような能力を持たない。一部の実施形態では。
【0239】
一部の実施形態では、内在性TCRの発現又は活性を排除又は阻害するが、これは、例えば、TCRα、TCRβ、CD3ζ、及び/又はCD3εをコード化する遺伝子に破壊若しくは挿入を実施することにより、達成することができる。一部の実施形態では、TCR又はCARを発現するように、細胞を遺伝子操作してもよい。一部の実施形態では、内在性TCR発現若しくは活性が排除又は阻害されている免疫系細胞は、TCR媒介刺激に応答する能力が欠如しているが、TCR若しくはCARが特異性を有する抗原との接触により刺激される能力は保持している。(TCRα、TCRβ遺伝子の定常領域をターゲティングするジンクフィンガーヌクレアーゼを用いた、CAR T細胞における内在性TCR発現の不可逆的破壊についての記載は、Torikai,H.,et al.,Blood(2012),119(24):5697-5705を参照されたい。CAR T細胞は、CD19に結合する部分を含むCARを発現した。TCRnegCAR+T細胞は、CD3とOKT3の架橋によるTCR媒介刺激に応答しなかったが、CD19細胞特異性は保持し、これらをCD19との接触により活性化及び刺激して、増殖させ、CD19+白血病細胞において細胞傷害性を誘導した。)このようなアプローチを用いて、例えば、1ドナーから同種異系抗原特異的T細胞を生成して、これを複数の異なるレシピエントに投与することができる。一部の実施形態では、TCRα、TCRβ、CD3ζ、及び/又はCD3εをコード化する内在性遺伝子の発現を下方制御するために、shRNA、siRNA、及び/又はmiRNA分子をコード化する1つ又は複数の核酸を発現するように、細胞を操作する。一部の実施形態では、内在性TCR発現若しくは活性が排除又は阻害されている免疫系細胞は、投与される細胞とは異なる主要及び/又は副組織適合性抗原を発現する被験者に投与してもよく、その場合、機能性内在性TCRを発現する対照細胞を投与するのと比較して、移植片対宿主病(GVHD)が起こる可能性が低い。
【0240】
一部の実施形態では、細胞、例えば、被験者に投与しようとする細胞は、HLAクラスI及び/若しくはII遺伝子、例えば、HLA-A、HLA-B、HLA-Cをコード化する遺伝子、又はHLA-DR、HLA-DP、若しくはHLA-DQをコード化する遺伝子の発現を排除又は阻害するように、遺伝子操作する。一部の実施形態では、これは、上記遺伝子に破壊若しくは挿入を実施することにより、又は上記遺伝子の発現を阻害するshRNA、siRNA、及び/又はmiRNA分子をコード化する1つ又は複数の核酸を発現するように、細胞を操作することによって達成される。一部の実施形態では、被験者に投与しようとする細胞のHLAクラスI及び/又はII遺伝子の発現若しくは活性の排除又は阻害によって、被験者の内在性免疫系細胞が、投与された細胞に対する免疫応答を開始する可能性を低減することができる。
【0241】
一部の実施形態では、1つ又は複数の内在性細胞表面タンパク質の発現を欠失するように操作された細胞を、このようなタンパク質の細胞外タンパク質に結合する1つ又は複数の物質(例えば、抗体)と接触させることにより、その表面でタンパク質を発現する残留細胞(もしあれば)を除去することができる。結合物質は、磁気ビーズなどの支持体に結合させてもよく、この支持体は、その表面に内在性タンパク質を発現するあらゆる細胞を保持する。例えば、TCRの発現を欠失するように操作された細胞を抗CD3抗体と接触させることにより、その細胞表面にTCRを発現する残留細胞を除去することができる。
【0242】
一部の実施形態では、細胞は、誘導性自殺細胞をコード化する遺伝子遺伝子を含むように遺伝子操作する。自殺遺伝子は、遺伝子の発現の誘導、又は遺伝子によりコード化された遺伝子産物の活性の誘導後に、自殺遺伝子遺伝子を含む細胞を死滅させる遺伝子産物をコード化する遺伝子である。いくつかの実施形態では、遺伝子の発現の誘導、又は遺伝子によりコード化された遺伝子産物の活性の誘導から規定時間内に少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%、又はそれを超える細胞が死滅する。規定時間は、例えば、約24~72時間であってよい。一部の実施形態では、誘導性自殺遺伝子は、誘導物質の存在下でしか発現されず、誘導物質は、ex vivoで細胞と接触させるか、又は自殺遺伝子を含む細胞を投与した被験者に投与してもよい。一部の実施形態では、誘導性自殺遺伝子は、誘導物質の非存在下でも発現させることができるが、これにより得られる遺伝子産物は、誘導物質の非存在下では不活性である。誘導性自殺遺伝子を保有する細胞を含む被験者への誘導物質の投与によって、自殺遺伝子の誘導が起こり、その結果、自殺遺伝子を保有する細胞の死滅又は少なくともその増殖の抑制がもたらされる。一部の実施形態では、自殺遺伝子によりコード化されるタンパク質は、以下に挙げる特性の1つ、2つ以上、若しくは全部を有する:非免疫原性(少なくとも、自殺遺伝子を発現する細胞が投与され得るヒト又は他の哺乳動物被験者において)、非細胞周期依存性(遺伝子の転写及び遺伝子産物の活性が、細胞周期の特定の段階に限定されないか、又は分裂細胞に限定されないか、又は休眠細胞において不活性である)、臨床適合性(遺伝子産物又は誘導物質の何れも、in vivoで許容不可能な毒性を生成しない)、誘導物質が、被験者に投与されると、遺伝子を保有する細胞に高い割合で到達するように、広い生体分布を有する誘導物質による誘導性。一部の実施形態では、ヒトタンパク質の少なくとも一部をコード化する遺伝子を用いてもよい。一部の実施形態では、誘導性自殺遺伝子は、二量体化化学誘導物質(CID)を利用する(例えば、Amara JF,Proc Natl Acad Sci U S A.1997;94(20):10618-23;Clackson T,et al.,Proc Natl Acad Sci USA.1998,95:10437-10442;Rollins CT,et al.Proc Natl Acad Sci U S A.2000;97(13):7096-7101を参照)。この手法によれば、CIDに対する1つ又は複数の結合部位を含むように、アポトーシス促進分子又は他の細胞死誘導物質を修飾する。CIDとその標的の結合により、そのオリゴマー化が起こり、これによって、アポトーシス経路又は他の細胞死誘導経路の活性化がもたらされる。一部の実施形態では、CIDに対する結合部位は、小分子リガンド(例えば、APC1510若しくはAPC1903のようなCID)の結合時に二量体化を媒介する突然変異FK506-結合タンパク質(FKBP12)を含む。一部の実施形態では、CIDは、免疫抑制物質FK506の二量体類似物である。一部の実施形態では、FK506の類似物は、FK506の免疫抑制活性を欠失している。一部の実施形態では、CIDは、それが用いられる濃度で生物学的に不活性である。アポトーシス促進ドメイン又は他の細胞死誘導ドメインへの1つ又は複数のFKBP、例えば、FKBP12若しくはその突然変異体の融合によって、その活性(アポトーシス促進活性又は他の細胞死誘導活性)をCIDにより刺激することができるタンパク質が得られる。タンパク質が細胞により発現される場合には、例えば、CIDの存在下で細胞を培養する、又は細胞を含む被験者にCIDを投与することによって、前記細胞をCIDと接触させることにより、タンパク質の活性を刺激することができる。有用な自殺遺伝子の例として、アポトーシス促進タンパク質をコード化する遺伝子があり、これらを修飾して、その活性を誘導性にすることができる。例えば、カスパーゼ1、3、8、若しくは9に基づく誘導性自殺遺伝子(Straathof KC,et al.Blood.2005;105(11):4247-4254)又はFADDを用いることができる。このような1つの遺伝子(iC9と称する)は、内在性カスパーゼ動員ドメイン(CARD)が欠失した切断型ヒトカスパーゼ9を突然変異FK506-結合タンパク質(FKBP12)と連結させる融合タンパク質をコード化する。適切なCID、例えば、AP1903の存在下で、機能的活性カスパーゼ9を生成すると、アポトーシスが起こる(例えば、Fan L,et al.,(1999)Hum Gene Ther 10:2273-2285を参照;また、20110286980も参照)。一般に、標準的遺伝子操作方法を用いて、誘導性自殺遺伝子を細胞に導入することができる。例えば、プロモータに作動可能に連結した遺伝子産物をコード化する核酸をベクター、例えば、ウイルスベクター又はプラスミドに導入してもよく、続いてこれを細胞に導入する。CARを発現するように遺伝子操作された細胞の場合には、誘導性自殺遺伝子産物をコード化する核酸を、一部の実施形態では、同じ構築物若しくはベクターに含有させてもよく、この構築物若しくはベクターは、IL-15などのサイトカインをコード化する配列をさらに含む。CARを発現するように遺伝子操作された細胞、誘導性自殺遺伝子、及びサイトカインの例は、米国特許出願公開第20130071414号明細書に記載されている。
【0243】
一部の実施形態では、異なるタンパク質、異なるノンコーディングRNA、又は少なくとも1つのタンパク質と少なくとも1つのノンコーディングRNAをコード化する2つ以上の核酸配列を単一の核酸構築物に含有させるが、構築物は、1つ又は複数の作動可能に連結した発現制御エレメントをさらに含んでもよい。何れかの理論に拘束されるわけではないが、単一の外性DNAから複数の遺伝子産物の同時発現を可能にするため、これは有利となり得る。一部の実施形態では、各核酸配列の転写は、そこに作動可能に連結したプロモータにより指令することができ、これによって、2つ以上の個別のRNAが得られる。一部の実施形態では、双方向プロモータを用いて、2つの個別のRNAの転写を指令することができる。一部の実施形態では、単一のプロモータが、複数の(例えば、2つ、3つ、4つ、若しくはそれを超える)ポリペプチドをコード化するRNAの発現を指令する。1つのRNAからの複数のポリペプチドの翻訳は、自己切断ペプチド又は配列内リボソーム進入部位(IRES)を用いることにより、達成することができる。ポリペプチドをコード化する配列は、それらの間に配列内リボソーム進入部位(IRES)、又は2Aペプチドのような「自己切断ペプチド」をコード化する配列を含んでもよい。IRESエレメントが複数のオープンリーディングフレーム(ORF)の間に含まれる場合、最初のORFは、典型的なキャップ依存性機構により翻訳されるが、残りは、キャップ非依存性機構により翻訳される(Martinez-Salas,E.Curr Opin Biotechnol.1999;10:458-464;Hellen CU,Sarnow P,Genes&Development,2001;15:1593-1612)。遺伝子は独立に翻訳されることから、必要に応じて、各ORFの上流に位置するIRESの強度を変えることにより、異なる遺伝子の相対的発現を調節することができる。IRESは、様々な異なるウイルス(例えば、ピコルナウイルス(picornavirus))及び真核mRNAに存在する。例えば、IRESは、エンテロウイルス(enterovirus)及びライノウイルス(rhinovirus)、カルジオウイルス(cardiovirus)及びアフトウイルス(aphthovirus)、並びにA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus)に存在する。脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus)(EMCV)IRESが、哺乳動物細胞における複数の遺伝子発現のために最も広く用いられているIRESエレメントに含まれる。例示的IRES配列は、EMCV-Rゲノムにおける約260~848の領域を含む(Genbank:M81861)。単一のプロモータから異なるポリペプチドをコード化する複数のオープンリーディングフレームを発現するのに有用な他のIRESは、Sasaki Y,J Biotechnol.2008;136(3-4):103-12に記載されている。IRES配列は、天然に存在するものと同じであってもよく、又はその効率を増減するように修飾することにより、連結するORFの絶対及び/又は相対量を改変してもよい。自己切断2Aペプチドは、プロリン及びグリシン残基の間の「リボソームスキッピング」を媒介し、下流翻訳に影響することなく、ペプチド結合形成を阻害する。これらのペプチドは、複数のタンパク質が、ポリタンパク質としてコード化されることを可能にし、これらは、翻訳後に構成タンパク質に解離する。2Aペプチドにより連結された配列は、単一のオープンリーディングフレーム(ORF)で発現され、翻訳と共役しながら「自己切断」が起こって、個別のポリペプチドを生成する。2Aペプチドに関して「自己切断」という用語の使用は、当技術分野において一般的であり、タンパク質分解切断反応を伴うことを意図しない。タンパク質をコード化する配列の間に2Aペプチドを含むマルチシストロン性(multicistronic)ベクターが、Szymczak AL,et al.2005;5:627-638に論述されている)。自己切断ペプチドは、ピコルナウイルス科(picornaviridae)科のメンバー、例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)などのアフトウイルス(aphthovirus)、ウマ鼻炎Aウイルス(Equine rhinitis A virus)(ERAV)、トーセア・アシグナウイルス(Thosea asigna virus)及びブタテッショウウイルス(teschovirus)-1(PTV-1)、並びにタイロウイルス(theilovirus)(例えば、タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(Theiler’s murine encephalomyelitis virus)及び脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus)などのカルジオウイルス(cardiovirus)にみいだされる(Donnelly,ML,et al.,J.Gen.Virol.,2001;82:1027-1041;Ryan,M D,et al.,J.Gen.Virol.,2001;72:2727-2732;DeFelipe,P.,et al.,Trends Biotechnol.2006;24(2):68-75)。FMDV、ERAV、PTV-1、及びTaV由来の2Aペプチドは、それぞれ、「F2A」、「E2A」、「P2A」、及び「T2A」と呼ばれることがある。アフトウイルス(aphthovirus)2Aポリペプチドは、Dx1Ex2NPG配列(配列番号5)を含み、ここで、x1は、バリン若しくはイソロイシンである。2A配列の例は、FMDV由来のVKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号6)(ここで、下線を引いた残基は、多くの2Aペプチドにおいて保存されている)である。一部の実施形態では、GCG又はSGSGなどのスペーサ配列が、2A配列の前に含まれてもよい。一部の実施形態では、フーリンの切断部位(RAKR)などのプロテアーゼ切断部位がさらに含まれていてもよい。前述した手法の何れかを用いて、何れか2つ以上の組み換え遺伝子産物を発現するように、細胞を遺伝子操作してもよい。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質の2つ以上のサブユニットを発現させる。一部の実施形態では、次の組み換え遺伝子産物の何れか2つ以上を発現させる:受容体、サイトカイン、共刺激因子、共阻害剤、自殺タンパク質。受容体は、抗原受容体(例えば、キメラ抗原受容体)、サイトカイン受容体、共刺激又は共阻害受容体であってよい。発現させようとする産物及び様々な産物の発現を達成する方法のあらゆる異なる組み合わせが包含される。一部の実施形態では、例えば、CAR及び自殺タンパク質、CAR及びサイトカイン、又はCAR、サイトカイン、及び自殺タンパク質を、細胞のゲノムに挿入外性DNAによりコード化される単一のRNAから翻訳してもよい。
【0244】
V.クリックケミストリー
一部の実施形態では、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞に結合した、又は結合させようとする薬剤は、クリックケミストリーハンドルを含んでもよい。例えば、前述したソルターゼ基質のA1は、クリックケミストリーハンドルを含み得る。クリックケミストリーは、2001年にSharplessにより導入された化学哲学であり、これは、小さな単位を互いに結合することにより、迅速に、しかも高い信頼性で、物質を生成するように設計された化学を表す(例えば、Kolb,Finn及びSharpless Angewandte Chemie International Edition(2001)40:2004-2021;Evans,Australian Journal of Chemistry(2007)60:384-395を参照)。本発明の態様に従い有用な別のクリックケミストリーハンドル、反応条件、及び関連方法の例は、Joerg Lahann,Click Chemistry for Biotechnology and Materials Science,2009,John Wiley&Sons Ltd,ISBN 978-0-470-69970-6に記載されている。一部の実施形態では、クリックケミストリーハンドルは、本明細書の参照文献の何れか及び/又は表1若しくは表2に記載されている。例えば、クリックケミストリーハンドルは、末端アルキン、アジド化物、歪みアルキン、ジエン、ジエノフィル、アルコキシアミン、カルボニル、ホスフィン、ヒドラジド、チオール、又はアルケン部分を含むか、これらから構成されるものでもよい。
【0245】
各々がクリックケミストリーハンドルを含む2つの実体、例えば、2つのタンパク質(例えば、求核(Nu)基をもたらすクリックケミストリーハンドルを含む第1タンパク質と、第1クリックケミストリーハンドルのNu基と反応することができる求電(E)基を含む第2タンパク質)をクリックケミストリーハンドル反応条件下で共有結合することができる。タンパク質へのクリックケミストリーハンドルの設置は、タンパク質にクリックケミストリー反応性を付与する。一部の実施形態では、ソルターゼ媒介結合を用いて、哺乳動物細胞により発現されたポリペプチドに第1クリックケミストリーハンドルを設置し、次に、クリックケミストリー反応性を用いて、第2クリックケミストリーハンドルを含む実体を前記第1クリックケミストリーハンドルに結合させることよって、前記実体をポリペプチドに結合させ、このようにしてこれを前記細胞に結合させる。一般に、第2クリックケミストリーハンドルは、実体の任意の位置に位置してよい。一部の実施形態では、第2クリックケミストリーハンドルを含む実体は、ポリペプチドである。一部の実施形態では、第2クリックケミストリーハンドルは、ポリペプチドのC末端若しくはN末端にあってもよく、あるいは、C末端若しくはN末端又はその付近の側鎖に結合してもよい。第2クリックケミストリーハンドルは、ソルターゼ又は他の方法を用いて、実体、例えば、ポリペプチドに組み込んでもよい。クリックケミストリーハンドルをポリペプチドに設置する方法は、PCT/米国特許出願公開第2012/044584号明細書に記載されている。一部の実施形態では、クリックケミストリーの使用により、2つのタンパク質をそれぞれのN末端で結合させて、N-N結合キメラタンパク質が生成することが可能になる。例えば、哺乳動物細胞により発現された非遺伝子操作ポリペプチドのN末端を、本明細書に記載するように、ソルターゼを用いて修飾して、第1クリックケミストリーハンドルを設置することができる。次に、適合性クリックケミストリーハンドルがそのN末端又はN末端付近に設置されたポリペプチドを、クリックケミストリーにより、第1クリックケミストリーハンドルに結合することができる。
【0246】
クリックケミストリーは、モジュラー式で、範囲が広く、高い化学収率をもたらし、無効副産物を生成し、立体特異的で、生理学的に安定しており、大きな熱力学的駆動力(例えば、>84kJ/モルで、単一反応産物との反応に好都合である)を呈示し、及び/又は高いアトムエコノミー(atom economy)を有する。このコンセプトに一致するいくつかの反応がみいだされている:
(1)ヒュスゲン(Huisgen)1,3-双極子環状付加(例えば、銅(I)触媒段階的変異体、単純に「クリック」反応と呼ばれることが多い;例えば、Tornoe et al.,Journal of Organic Chemistry(2002)67:3057-3064を参照)。銅及びルテニウムは、この反応に一般的に用いられる触媒である。触媒として銅を用いると、1,4-位置異性体が形成されるのに対して、ルテニウムの場合、1,5-位置異性体が形成される;
(2)ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応のような他の環状付加;
(3)エポキシド及びアジリジンのような小さな歪み環への求核付加;
(4)活性化カルボニル基への求核付加;
(5)炭素-炭素二重又は三重結合への付加反応。
【0247】
2つのタンパク質をクリックケミストリーによって結合させるためには、例えば、クリックケミストリーハンドルの一方の反応性部分が、第2クリックケミストリーハンドルの反応性部分と反応して共有結合を形成することができるように、タンパク質のクリックケミストリーハンドルは、互いに反応性でなければならない。クリックケミストリーハンドルのこのような反応性ペアは、当業者には公知であり、このようなものとして、限定はしないが、表Iに記載するものが挙げられる。
【0248】
一部の実施形態では、クリックケミストリーハンドル及び前記反応におけるR、R1又はR2は、生存哺乳動物細胞により発現された非遺伝子操作ポリペプチド-前記式Iの[Xaa]y-TRS-PRTであり、ポリペプチドは、それに対するクリックケミストリーハンドルのソルターゼ触媒結合により修飾されており、また、他のR、R1又はR2は、修飾ポリペプチドのクリックケミストリーハンドルに結合された部分である。
【0249】
一部の実施形態では、クリックケミストリーハンドルは、金属触媒の非存在下で反応して、共有結合を形成することができるクリックケミストリーハンドルを用いる。このようなクリックケミストリーハンドルは、当業者には周知であり、Becer,Hoogenboom,及びSchubert,Click Chemistry beyond Metal-Catalyzed Cycloaddition,Angewandte Chemie International Edition(2009)48:4900-4908に記載のクリックケミストリーハンドルが挙げられる。
Becer、Hoogenboom、及びSchubert、click Chemistry beyond Metal-Catalyzed Cycloaddition,Angewandte Chemie International Edition(2009)48:4900-4908から。
【0250】
本明細書に記載する結合方法での使用に好適な別のクリックケミストリーハンドルは、当業者には周知であり、このようなクリックケミストリーハンドルとして、限定はしないが、PCT/米国特許出願公開第2012/044584号明細書及びその中の参照文献に記載されているクリックケミストリー反応パートナー、基、及びハンドルが挙げられ、上記の文献は、クリックケミストリーハンドル及び方法の参照により本明細書に組み込むものとする。
【0251】
一部の実施形態では、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞を、ソルターゼを用いて修飾して、第1クリックケミストリーハンドルを含む部分を、細胞、例えば、非遺伝子操作真核細胞、例えば、哺乳動物細胞により発現されたポリペプチド(ポリペプチドは、細胞外ソルターゼ認識モチーフ又は細胞外グリシンを含むように遺伝子操作されていない)に結合させる。ソルターゼを用いてクリックケミストリーハンドルが設置されたら、適合性クリックケミストリーハンドルを含む任意の入手可能な実体のクリックケミストリー媒介結合によって、前記細胞をさらに修飾してもよく、その際、ソルターゼ認識モチーフを組み込むように前記実体を修飾する必要はない。この手法は、様々な実体の細胞への迅速な結合を促進し得る。一部の実施形態では、細胞により発現されたポリペプチドに、第1クリックケミストリーハンドルを含む部分を結合させるように、ソルターゼを用いて修飾した細胞の集団を、2つ以上のアリコートに分けることができる。アリコートの数及びアリコート当たりの細胞の数は、任意の常用の方法で選択してよい。一部の実施形態では、アリコートは、少なくとも103、104、105、106、又は107個の細胞を含む。一部の実施形態では、アリコートの数は、2~1,000である。後の使用のために1つ又は複数のアリコートを保存してよい。一部の実施形態では、各々が、第1クリックケミストリーハンドルと適合性の第2クリックケミストリーハンドルを含む、2つ以上の異なる部分を、2つ以上の異なるアリコートに結合させて、異なる部分が結合した哺乳動物細胞の2つ以上の集団を生成する。異なる実体が結合した異なるアリコート、又はその部分を後に合わせてもよい。
【0252】
VI.ソルタギング済み哺乳動物細胞及びその使用
本発明を限定することなく、このセクションでは、本開示、ソルタギング済み哺乳動物細胞の調製若しくは使用方法、並びに関連組成物に関して、対象とするいくつかのタンパク質、核酸、脂質、小分子、及び他の実体について述べる。本明細書に記載する実体は、様々な目的に用いることができる。例えば、様々な実施形態において、タンパク質、核酸、脂質、小分子、及び糖を、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させてもよく、ソルターゼを用いて互いに結合させて、細胞培養に使用してもよく(例えば、細胞を増殖、刺激、若しくは分化させるために)、及び/又は被験者に投与してもよい。
【0253】
一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、第1のタンパク質を第2のタンパク質に結合する。一部の実施形態では、第2タンパク質は、生存哺乳動物細胞により発現させる。例えば、前述したソルターゼ基質AのA1は、任意のタンパク質を含んでよい。一般に、適切に位置するソルターゼ認識モチーフを含むか、又はそれを含むように修飾された任意のタンパク質若しくはポリペプチドを生存哺乳動物細胞に結合させることができる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、薬剤を結合させることによりタンパク質を修飾し、得られたタンパク質を、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、2つ以上のポリペプチドを結合し、得られたタンパク質を、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、ポリペプチドは、それがソルターゼ触媒反応に参加することを可能にするために、そのC末端若しくはC末端付近にソルターゼ認識モチーフを含むように、及び/又は1つ又は複数のN末端グリシン若しくは他の適切な求核アクセプター配列を含むように、伸長してもよい。
【0254】
一部の実施形態では、タンパク質は、酵素、例えば、哺乳動物における代謝又は他の生理学的プロセスで特定の役割を果たす酵素である。一部の実施形態では、タンパク質は、タンパク質の欠損が、哺乳動物に影響を与える疾患を引き起こすことを特徴とする。一部の実施形態では、タンパク質は、炭水化物代謝、アミノ酸代謝、有機酸代謝、ポルフィリン代謝、プリン若しくはピリミジン代謝、及び/又はリソソーム蓄積に特定の役割を果たす酵素である。酵素又は他のタンパク質の欠損は、様々な疾患、中でも、例えば、炭水化物代謝、アミノ酸代謝、有機酸代謝、プリン若しくはピリミジン代謝の欠損、リソソーム蓄積障害、並びに血液凝固に関連する疾患を招き得る。その例を以下に挙げる(病名の一部になければ、欠損酵素又はその他のタンパク質の名称を括弧内に示す):グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症、α-1抗トリプシン欠損症、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼの欠損)、ファブリー(Fabry)病(αガラクトシダーゼA欠損)、ゴーシェ(Gaucher)病(グルコセレブロシダーゼ欠損)、ポンペ(Pompe)病(酸性αグルコシダーゼ欠損)、アデノシンデアミナーゼ欠損症、ムコ多糖症、例えば、MPSI(α-L-イズロニダーゼ欠損)、MPSII(イズロン酸-2-スルファターゼ欠損)、MPSIIIA(ヘパランスルミダーゼ欠損)、MPSVI(M-アセチルガアラクトサミン-4-スルファターゼ欠損)、血友病(各種凝固因子)、遺伝性血管性浮腫(C1エステラーゼ阻害因子欠損);低リン酸血症(アルカリホスファターゼの組織非特異的アイソザイム(TNDALP)。一部の実施形態では、酵素は、酵素の外性投与が、少なくとも部分的に疾患を改善するものである。一部の実施形態では、酵素は、血液中に通常存在するものである。一部の実施形態では、酵素は、通常、肝臓若しくは腎臓において細胞により産生され、血液中に分泌されるものでよい。一部の実施形態では、酵素は、血液中に増加若しくは蓄積すると疾患に寄与し得るか、又は血液によって、疾患に寄与する身体の部位に輸送され得る基質に作用する。一部の実施形態では、疾患は、遺伝性突然変異によるものである。一部の実施形態では、欠損は、一過性であり、例えば、少なくとも部分的に、酵素の過剰消費、分解、若しくは喪失(例えば、出血のために)、又は少なくとも部分的に、毒性(例えば、酵素を不活性化するか、又は酵素の要求を高める毒素への曝露)によるものであってもよい。一部の実施形態では、疾患、例えば、酵素欠損症は、米国で定義されるか、又は患者が治療を受ける関連管轄区で定義されるような希少疾患若しくは奇病である。
【0255】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞に結合した酵素は、触媒として活性である。一部の実施形態では、酵素は、触媒として不活性な形態(例えば、チモーゲン)であり、in vivoで切断されて(被験者に細胞を投与後)、活性形態を生成する。このような切断は、内在性プロテアーゼにより触媒され得る。一部の実施形態では、酵素は、in vivoで細胞から放出され得る。このような放出は、タンパク質切断により起こり得るが、この切断はまた、一部の実施形態において、酵素を活性化する。酵素欠損症を治療するのに用いられる酵素は、それが、必要な酵素活性、例えば、疾患を治療するのに必要な酵素活性をもたらす限りにおいて、欠損酵素と同じである必要はないことは理解されよう。
【0256】
一部の実施形態では、薬剤は、(i)治療的に活性のドメイン、例えば、酵素、小分子、治療タンパク質、治療薬、治療抗体、並びに(ii)標的ドメインが、細胞及び/又は薬剤を、治療活性が望まれる身体の部位にターゲティングさせる、ターゲティングドメインの両方を含む。ターゲティングドメインは、このような部位に存在する標的に結合する。任意のターゲティンドメイン、例えば、抗体を用いてよい。一部の実施形態では、薬剤は、投与後に細胞表面から放出され得るが、放出される薬剤は、ターゲティングドメインと治療ドメインの両方を含み、疾患の部位に蓄積する。この部位は、任意の器官又は組織、例えば、疾患が、破壊、分解、若しくは症状を引き起こす任意の器官又は組織であってよい。例えば、気道(例えば、肺)、骨、腎臓、肝臓、膵臓、皮膚、心血管系(例えば、心臓)、平滑若しくは骨格筋、消化管、眼、血管表面などに薬剤をターゲティングさせることができる。
【0257】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞、例えば、造血細胞、例えば、赤血球に結合した薬剤は、血液凝固又は血餅の分解(線維素溶解)を調節する部分を含む。一部の実施形態では、上記部分は、血液凝固を促進し、例えば、その部分は、凝固経路に参加するタンパク質、例えば、凝固因子(例えば、第VII、VIIa、VIII若しくはIX因子)であってよい。一部の実施形態では、凝固因子などの血液凝固を促進する部分と結合した哺乳動物細胞は、損傷した血管(例えば、物理的な傷害を被った被験者)からの止血を促進するために、被験者に投与して血液凝固を加速することができる。一部の実施形態では、血液凝固を促進する薬剤と結合した細胞を、例えば、被験者が負傷した場合に過剰な失血を予防する目的で、血液凝固に障害(例えば、血友病)を有する被験者、有意な失血のリスクがある手術を受けようとする被験者、又は過剰量の抗凝血剤を受けた被験者に予防的に投与してもよい。一部の実施形態では、前記部分は、凝固を阻害する、及び/又は線維素溶解を促進し、例えば、その部分は、凝固経路調節剤、ヘアピン、プラスミン、組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、又はこれらの何れかの変異体を含んでもよい。一部の実施形態では、凝固を阻害する、及び/又は線維素溶解を促進する部分と結合した細胞は、血餅形成のリスクがある被験者に投与してよい。例えば、被験者は、心房細動などの不整脈及び/又は病原性凝血(例えば、塞栓、血栓性静脈炎、虚血性発作)などの病歴を有していてもよい。凝固を阻害する、及び/又は線維素溶解を促進する部分は、プロテインC、抗トロンビン、組織因子経路阻害剤、若しくはプラスミンを含み得る。
【0258】
一部の実施形態では、タンパク質は、受容体又は受容体断片(例えば、細胞外ドメインの少なくとも一部)を含む。一部の実施形態では、受容体は、サイトカイン受容体、増殖因子受容体、インターロイキン受容体、又はケモカイン受容体である。いくつかの実施形態では、増殖因子受容体は、TNFα受容体(例えば、I型TNFα受容体)、VEGF受容体、EGF受容体、PDGF受容体、IFG受容体、NGF受容体、又はFGF受容体である。一部の実施形態では、タンパク質は、上記受容体の天然リガンドと結合する受容体の少なくとも十分な部分を含む。一部の実施形態では、タンパク質は、デコイ受容体、すなわちリガンドに結合して、これにより、リガンドがその正常な受容体と結合するのを阻害する受容体として作用することができる。一部の実施形態では、天然リガンドに結合するデコイ受容体と結合した細胞は、天然のリガンドの活性を阻害するために、被験者に投与する。一部の実施形態では、天然リガンドに結合するデコイ受容体と結合した細胞は、デコイ受容体又はリガンドの他の阻害剤の投与によって、及び/又はリガンドに対する天然受容体の阻害剤の投与によって有効に治療することができる疾患、例えば、少なくとも部分的に受容体の天然リガンドに起因するか、若しくはこれにより悪化する疾患に罹患した被験者に投与する。例えば、可溶性TNF受容体、例えば、エタネルセプトを含むタンパク質を、関節リウマチ、乾癬、強直性せきつい炎、及びベーチェット病などの多様な炎症性及び自己免疫疾患の治療に用いることができる。
【0259】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、尿酸オキシダーゼを含む。尿酸オキシダーゼは、例えば、化学療法を受ける患者における急性高尿酸血症の治療用のタンパク質薬(ラスブリカーゼ)として製剤化することができる。一部の実施形態では、尿酸オキシダーゼが結合した細胞は、急性高尿酸血症の治療が必要な被験者、例えば、化学療法を受ける患者に投与してよい)。急性高尿酸血症は、例えば、白血病及びリンパ腫などの血液系癌のために化学療法を受ける患者において腫瘍溶解の特徴として起こり得る。一部の実施形態では、尿酸オキシダーゼが結合した細胞は、慢性高尿酸血症の治療が必要な被験者、例えば、痛風、例えば、他の治療では難治性の痛風を有する患者に投与してもよい。
【0260】
一部の実施形態では、タンパク質は、サイトカインである。一部の実施形態では、サイトカインは、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-38の何れかである。一部の実施形態では、タンパク質は、4ヘリックスバンドルタンパク質、例えば、4ヘリックスバンドルサイトカインである。一部の実施形態では、4ヘリックスバンドルサイトカインは、IL-2サブファミリー、インターフェロン(IFN)サブファミリー、又はIL-10サブファミリーのメンバーである。4ヘリックスバンドルサイトカインの例としては、例えば、いくつかのインターフェロン(例えば、I型インターフェロン、例えば、IFN-α)、インターロイキン(例えば、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-12)及びコロニー刺激因子(例えば、G-CSF、GM-CSF、M-CSF)が挙げられる。IFNは、例えば、インターフェロンα2a又はインターフェロンα2bであってよい。これらのサイトカインのうちいくつかの詳しい論述については、例えば、Mott HR and Campbell ID.,Curr Opin Struct Biol.1995,5(1):114-21;Chaiken IM,Williams WV,Trends Biotechnol.1996,14(10):369-75;Klaus W,et al.,J Mol Biol.,274(4):661-75,1997を参照されたい。一部の実施形態では、サイトカインは、前述したサイトカインの1つ又は複数と類似の構造を有する。例えば、サイトカインは、白血病阻害因子(LIF)又はオンコスタチンMなどのIL-6クラスサイトカインであってよい。一部の実施形態では、サイトカインは、自然にGP130シグナル伝達サブユニットを含む受容体に結合するものである。他の4ヘリックスバンドルタンパク質としては、成長ホルモン(GH)及びプロラクチン(PRL)がある。一部の実施形態では、タンパク質は、やはり4ヘリックスバンドルサイトカインである、赤血球造血刺激因子、例えば、エリスロポエチン(EPO)である。一部の実施形態では、赤血球造血刺激因子は、EPO変異体、例えば、ダルベポエチンαであり、これは、新規赤血球造血刺激タンパク質(NESP)とも呼ばれ、5つのN連結炭水化物鎖(組み換えHuEPOより2つ多い)を含むように操作されている。一部の実施形態では、サイトカインは、1つ又は複数の型若しくは亜型の免疫系細胞、例えば、T細胞(例えば、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+細胞傷害性T細胞、Tregs)、NK細胞、B細胞、DC、単球、マクロファージ、若しくはこれらの何れかの前駆体の分化、活性化、生存、及び/又は増殖を刺激するものである。
【0261】
一部の実施形態では、タンパク質は、5つの螺旋を含む。例えば、タンパク質は、インターフェロンβ、例えば、インターフェロンβ-1a又はインターフェロンβ-1bであってもよく、これは(理解されるように)、多くの場合、4ヘリックスバンドルサイトカインとして分類される。
【0262】
一部の実施形態では、サイトカインは、IL-12ファミリーメンバーである。IL-12ファミリーメンバーは、ヘテロ二量体サイトカインであり、例えば、IL-12、IL-23、IL-27及びIL-35がある。IL-12及びIL-23は、主に炎症誘発性を有するのに対して、IL-27及びIL-35は、抗炎症性を有する。IL-12及びIL-23は、β鎖p40(IL-12β)を共通に有するのに対して、IL-27及びIL-35は、β鎖エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus)誘導ゲノム3(EBI3)を共通に有する。IL-12及びIL-35は、α鎖p35を共通に有するのに対して、IL-23及びIL-27は、固有のα鎖を有する。IL-12及びIL-23は、ジスルフィド結合ヘテロ二量体であるのに対して、IL-27及びIL-35は、ジスルフィド結合がない。IL-35は、主にTreg細胞により産生される。IL-12、IL-23及びIL-27は、例えば、特定の病原体関連分子パターンとの接触による刺激後に、マクロファージ及びDCなどの骨髄細胞により分泌される。IL-12は、IL-12A(p35)及びIL-12B(p40)サブユニットから構成される。IL-12は、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化に関与し、ナチュラルキラー細胞及びTリンパ球の活性を増強する上で重要な役割を果たす。IL-23は、IL-12の成分でもあるp40と、IL-23αサブユニットと考えられるp19とから構成される。IL-23は、ナイーブCD4+T細胞を刺激してTh17細胞に分化させる能力など、いくつかの炎症誘発作用を有する。IL-27は、2つのサブユニットp28及びEBI3からなる。これは、Tr1細胞の生成における分化因子として作用し、Th17細胞を阻害する。IL-35ヘテロ二量体は、EBI3及びIL-12p35サブユニットから構成される。いくつかのIL-12ファミリーメンバーの論述については、例えば、Hunter,CA,Nature Reviews Immunology 5:521-531,2005を参照されたい。
【0263】
一部の実施形態では、サイトカインは、IL-17である。一部の実施形態では、サイトカインは、IL-9、IL-10、IL-11、IL-13、IL-14、又はIL-15である。
【0264】
一部の実施形態では、タンパク質は、サイトカインの生物学的に活性の部分、例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、又はIL-21を含む。一部の実施形態では、IL-12などのマルチサブユニットサイトカインは、単一のポリペプチドとして生成される。一部の実施形態では、ポリペプチドは、連続的p40-p35融合物にIL-12のp40サブユニットのN末端を保存する。一部の実施形態では、ポリペプチドは、p35-p40融合物を含む。一部の実施形態では、サブユニットは、融合タンパク質において、スペーサ、例えば、ポリペプチドリンカーにより連結されている。IL-12のp35及びp40サブユニットを含む生体活性融合タンパク質、このようなタンパク質をコード化する核酸及びベクター、並びにタンパク質を生成する方法は、米国特許第5,891,680号明細書に記載されている。一部の実施形態では、p35及びp40は、p35及びp40サブユニットのヘテロ二量体化を可能にする個別のポリペプチドの一部として発現され、これらを用いてもよい。
【0265】
一部の実施形態では、タンパク質は、共刺激分子又は細胞接着分子の生物学的に活性の変異体若しくは断片を含み、これらの生物学的に活性の変異体若しくは断片は、こうした分子の天然に存在する受容体、リガンド、又は相互作用パートナーに結合することができる。
【0266】
一部の実施形態では、タンパク質は、マルチサブユニットタンパク質、例えば、マルチサブユニットサイトカイン又はマルチサブユニットサイトカイン受容体のサブユニットである。一部の実施形態では、サブユニットは、特定のサイトカイン又はサイトカイン受容体に固有である。一部の実施形態では、サブユニットは、複数の異なるサイトカイン又はサイトカイン受容体に存在する。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質の2つ以上のサブユニットを連結して、単一の分子を形成することができる。2つ以上のサブユニットを連結して、単一のポリペプチド、例えば、融合タンパク質を形成してもよく、又はこれらを任意の好適なリンカーにより連結してもよい。一部の実施形態では、クリックケミストリーを用いて、2つ以上のサブユニットを連結してもよい。サブセットがタンパク質の正常な四次構造を形成することを促進し得るスペーサ、例えば、ポリペプチドスペーサにより、2つ以上のサブユニットを互いに隔ててもよい。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質の2つ以上のサブユニットを個別に細胞に結合するか、又は細胞により発現させてもよい。
【0267】
一部の実施形態では、タンパク質は、1つ又は複数の細胞型の生存、増殖及び/又は分化を促進する。タンパク質は、例えば、アポトーシスを阻害することにより、必要な、又は生存を促進する細胞外シグナルを提供し得る。当業者であれば、特定の細胞型の生存因子として作用するいくつかのタンパク質を認識されよう。このようなタンパク質として、例えば、増殖因子、サイトカイン、ケモカインなどが挙げられる。
【0268】
一部の実施形態では、タンパク質は、1つ又は複数の細胞型に対する増殖因子を含む。増殖因子として、例えば、血管上皮増殖因子(VEGF、例えば、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D)、表皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF;IGF-1、IGF-2)、繊維芽増殖因子(FGF、例えば、FGF1-FGF22)、血小板由来増殖因子(PDGF)、又は神経増殖因子(NGF)が挙げられる。前述したタンパク質が、複数のメンバーを含むことは理解されよう。任意のメンバーをいくつかの実施形態で用いてもよい。一部の実施形態では、増殖因子は、1つ又は複数の造血細胞型の生存、増殖及び/又は分化を促進する。例えば、増殖因子は、CSF1(マクロファージコロニー刺激因子)、CSF2(顆粒細胞マクロファージコロニー刺激因子、GM-CSF)、又はCSF3(顆粒細胞コロニー刺激因子、G-CSF)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、又はFlt-3リガンドであってよい。一部の実施形態では、増殖因子又は増殖因子受容体アゴニストが結合した哺乳動物細胞をin vitroで細胞と接触させて、被験者に投与することにより、このような部分により増殖が刺激される細胞の増殖を促進することができる。
【0269】
一部の実施形態では、タンパク質は、ケモカインである。ケモカインは、反応性細胞において指向性走化性を誘導する能力を有する小サイトカインのファミリーである、すなわち、これらは走化性サイトカインである。タンパク質は、共通の構造的特徴、例えば、小サイズ(大きさ約8~10キロダルトン)、及びその3次元構造に重要な役割を果たす保存位置における少なくとも2つのシステイン残基、例えば、4つのシステイン残基の存在(いくつかのケモカインは、1つ又は複数の別のシステインを含む)に従い、ケモカインとして分類することができる。ケモカインファミリーは、最初の2つのシステイン残基の間隔に応じて、4つのサブファミリー:CXC、CX3C、C(又はXC)、及びCX3Cケモカインに分けることができる。ケモカインは、CCL1~CCL28、CXCL1~CXCL17、XCL1若しくはXCL2、又はCXC3L1であってよい。ケモカイン受容体は、7つの膜貫通ドメインを含むGタンパク質結合受容体である。ケモカイン受容体は、それらが結合するケモカインのタイプに応じて、4つのファミリー;CXCケモカインに結合するCXCR、CCケモカインに結合するCCR、CX3Cケモカイン(CX3CL1)に結合するCX3CR1、及び2つのXCケモカイン(XCL1及びXCL2)に結合するXCR1に分けることができる。一部の実施形態では、ケモカイン若しくはケモカイン受容体アゴニストが結合した哺乳動物細胞を細胞とin vitroで接触させるか、又は被験者に投与することにより、こうした部分により移動が刺激される細胞の移動を促進することができる。
【0270】
一部の実施形態では、タンパク質は、求核因子、すなわち、神経系統細胞(この用語は、本明細書で用いられる場合、神経前駆細胞、ニューロン、及び神経膠細胞、例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアを含む)の生存、発生及び/又は機能を促進する因子である。例えば、一部の実施形態では、タンパク質は、神経突起伸長を促進する。一部の実施形態では、タンパク質は、毛様体神経栄養因子(CNTF;4へリックスバンドルタンパク質)又はAxokineなどのその類似体(C末端の15アミノ酸切断と2つのアミノ酸置換を有するヒト毛様体神経栄養因子の修飾形態であって、in vitro及びin vivoアッセイでCNTFより3~5倍強力であり、改善された安定性を有する)である。一部の実施形態では、求核因子又は求核因子受容体アゴニストが結合した哺乳動物細胞を細胞と接触させるか、又は被験者に投与することによって、このような部分により、その生存、発生、及び/又は機能が刺激される細胞の生存、発生、及び/又は機能を促進することができる。
【0271】
一部の実施形態では、タンパク質は、Fc受容体担持細胞、例えば、単球、樹状細胞、及び天然ナチュラルキラー細胞を動員する抗体の定常ドメイン(例えば、Fcドメイン)を含む。被験者にソルタギング済み細胞を投与すると、Fc受容体担持細胞は、ソルタギング済み細胞が存在する位置(例えば、腫瘍における標的細胞の部位又は感染部位)に動員される。Fc受容体担持細胞はさらに、ソルタギング済み細胞により開始される免疫応答を促進したり、被験者の内在性免疫系細胞による免疫応答を促進したりするか、又は標的細胞に対するそれ自身の免疫応答も開始することができる。一部の実施形態では、タンパク質は、修飾されていなければFcドメインが有したであろう1つ又は複数の活性を改変(例えば、増大若しくは低減)するように、修飾された抗体の定常ドメイン(例えば、Fcドメイン)を含む。修飾によって、例えば、FcドメインがFc受容体担持細胞を動員し、及び/又は補体を固定する能力を改変することができる。一部の実施形態では、タンパク質は、Fcドメインを含まないか、又は、このようなドメインがFc受容体に結合しない、及び/若しくは補体を固定しないように、ドメインは改変されている。
【0272】
一部の実施形態では、タンパク質は、天然タンパク質若しくはポリペプチド又はそれらの断片と配列が同一であるポリペプチド、あるいは、天然タンパク質若しくはポリペプチド又はそれらの断片と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、若しくは100%同一である天然タンパク質若しくはポリペプチド又はそれらの断片の変異体である。一部の実施形態では、タンパク質は、天然の配列に対して1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10以下のアミノ酸の相違を有する。一部の実施形態では、天然タンパク質は、例えば、ヒト由来の哺乳動物タンパク質である。一部の実施形態では、タンパク質は抗体、抗体断片、又は抗原結合ドメインを含むタンパク質である。
【0273】
一部の実施形態では、タンパク質は、天然で互いに連結されていない2つ以上の異なるポリペプチドを含むキメラタンパク質である。例えば、キメラタンパク質は、2つ以上のターゲティング部分を含んでもよく、又はターゲティング部分及び治療薬を含んでもよい。一部の実施形態では、2つ以上のポリペプチドは、互いに直接、例えば、ペプチド結合により結合される。一部の実施形態では、2つ以上のポリペプチドは、1つ又は複数のリンカーを介して、互いに連結され、これらのリンカーは、1つ又は複数のアミノ酸、例えば、ポリペプチドを含むか、これから構成されてもよい。一部の実施形態では、2つ以上のポリペプチドは、連結されて、単一のポリペプチド鎖となる。一部の実施形態では、ポリペプチド鎖は、ポリペプチドの任意の2つの部分の間に、1つ又は複数のアミノ酸、例えば、ポリペプチドリンカーを含む。ポリペプチドが複数のポリペプチドリンカーを含む場合、これらは、配列が同じでも異なっていてもよい。例えば、1つ又は複数のアミノ酸、例えば、ポリペプチドリンカーを含むように、任意のポリペプチドを伸長することができる。一部の実施形態では、ポリペプチドの少なくとも2つは、同じタンパク質、例えば、同じサイトカイン又はサイトカイン受容体のサブユニットである。一部の実施形態では、キメラタンパク質をコード化する核酸を生成し、標準的方法を用いて、好適な発現系に上記核酸を発現させることにより、キメラタンパク質を作製することができる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、キメラタンパク質を作製することもできる。
【0274】
一部の実施形態では、タンパク質は、ホモ二量体若しくはヘテロ二量体(又は2つ以上のサブユニットを含むホモ若しくはヘテロオリゴマー、例えば、四量体)を形成する構造である。いくつかの実施形態では、ホモ二量体、ヘテロ二量体、又はオリゴマー構造は、第1サブユニットの末端が、第2サブユニットの末端に極めて近接しているような構造である。例えば、第1サブユニットのN末端は、第2サブユニットのC末端に極めて近接している。いくつかの実施形態では、ホモ二量体、ヘテロ二量体、又はオリゴマー構造は、第1サブユニットの末端と第2サブユニットの末端が、受容体との相互作用に関与せず、従って、生物活性に有意に影響することなく、これらの末端を、例えば、非遺伝子操作コード化ペプチドエレメントを介して連結することができるような構造である。一部の実施形態では、ホモ二量体、ヘテロ二量体、又はオリゴマー構造の末端は、本明細書に記載する方法を用いて、クリックケミストリーにより結合し、これによって、少なくとも2つのサブユニットが共有結合された二量体(又はオリゴマー)を生成する。例えば、神経栄養因子である神経成長因子(NGF);脳由来神経栄養因子(BDNF);神経栄養因子3(NT3);及び神経栄養因子4(NT4)は、約50%配列同一性を有し、二量体形態で存在する二量体分子である。例えば、Robinson RC,et al.,Biochemistry.34(13):4139-46,1995;Robinson RC,et al.,Protein Sci.8(12):2589-97,1999、及びその中の参照文献を参照されたい。一部の実施形態では、二量体タンパク質は、サイトカイン、例えば、インターロイキンである。
【0275】
一部の実施形態では、タンパク質は、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)のメンバーである。IgSFは、様々な細胞プロセス、例えば、認識、結合、及び/又は接着に関与する細胞表面及び可溶性タンパク質の1群である。タンパク質は、免疫グロブリン(抗体)に特有の共通の構造特徴に基づいて、IgSFのメンバーとして分類する。すなわち、これらタンパク質は、抗体に認められる免疫グロブリンドメイン又はフォールドとして知られるドメインを有する。IgSFのメンバーとしては、例えば、抗体、細胞表面抗原受容体、免疫系の共受容体及び共刺激分子、リンパ球に対する抗原提示に関与するいくつかのサイトカイン、細胞接着分子、いくつかのサイトカイン受容体、及び様々な細胞内筋肉タンパク質が挙げられる。Igドメインは、約70~110アミノ酸を含み、そのサイズ及び機能に応じてさらに分類することができる。Igドメインは、2シートのアンチパラレルβ鎖により形成される特徴的フォールドを有する。これらのシートは、ジスルフィド結合により互いに保持されている。細胞表面抗原受容体には、以下のものがある:(i)CD3複合体に関連する2つの鎖、すなわち、TCRα及びβ鎖又はTCRδ及びγ鎖の何れかを含むT細胞受容体(TCR);(ii)Igα及びIgβと呼ばれる抗原非特異的シグナル伝達分子に関連する細胞表面免疫グロブリンを含むB細胞受容体(BCR)。主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質は、TCRのリガンドである。MHCクラスIタンパク質は、β-2ミクログロブリン(β2M)と二量体を形成し、細胞傷害性T細胞上のTCRと相互作用する。MHCクラスIIタンパク質は、ヘルパーT細胞上のTCRと相互作用する2つの鎖(α及びβ)を有する。MHCクラスI、MHCクラスII及びβ2Mタンパク質は全て、Igドメインを有しているため、IgSFのメンバーである。MHCクラスI、MHCクラスII、及びβ2ミクログロブリンは、抗原提示分子(APM)として機能する。補助受容体には、一次受容体と一緒に機能して、細胞イベントを媒介する様々なタンパク質がある。いくつかの補助受容体は、リンパ球の表面に発現されて、TCR又はBCRの結合中にMHC分子と相互作用する。補助受容体CD4は、ヘルパーT細胞上に認められ、補助受容体CD8は、細胞傷害性T細胞上に認められる。タンパク質CD19、CD21、及びCD89を含む補助受容体は、BCRにより用いられる。いくつかの補助受容体は、異なる細胞表面受容体と相互作用することにより、T細胞機能の正(例えば、CD28)又は負(例えば、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4))の調節を行う。共刺激若しくは阻害分子には、免疫系細胞の活性化、拡大及びエフェクター機能を調節する様々なシグナル伝達受容体及びリガンドが含まれる。IgSF補助受容体の主要群は、CD28ファミリーの分子、例えば、CD28、CTLA-4、プログラム細胞死-1(PD-1)、B及びTリンパ球アテニュエータ(BTLA、CD272、またB及びT細胞関連とも呼ばれる)、並びに誘導性T細胞共刺激因子(ICOS、CD278)である。これらの分子のIgSFリガンドとしては、B7ファミリーのメンバー、例えば、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、ICOSリガンド、PD-L1(B7-H1)、PD-L2(B7-DC)、B7-H3、及びB7-H4が挙げられる。白血球免疫グロブリン様受容体(LILR)は、IgSFのメンバーである。これらはまた、CD85、ILT及びLIRファミリーとしても知られており、多様な免疫細胞に対して免疫調節作用を及ぼすことができる。
【0276】
一部の実施形態では、タンパク質は、細胞-細胞又は細胞-基質の物理的相互作用に参加するものである。例えば、タンパク質は、細胞が互いに、又は細胞外マトリックス(ECM)と結合するのを媒介し得る。細胞同士の物理的相互作用は、同じ型の細胞同士又は異なる型の細胞同士の何れであってもよい。一部の実施形態では、細胞同士、又は細胞とECM同士の物理的相互作用は、組織の構造若しくは組織化の定着又は維持に関与する細胞のように、相対的に安定していると考えられる。細胞-細胞又は細胞-基質の物理的相互作用に参加するタンパク質の例として、例えば、細胞接着分子(CAM)が挙げられる。大部分のCAMは、4つのタンパク質ファミリー:免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリー(IgSF)CAM、インテグリン、カドヘリンスーパーファミリー、及びセレクチンの何れかに属する。多くのCAMは、3つのドメイン;細胞骨格と相互作用する細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、及び他のCAM若しくはCAMリガンドと相互作用する細胞外ドメインから構成される膜貫通タンパク質である。全CAMスーパーファミリーのメンバーは、細胞-細胞相互作用を媒介するが、インテグリンは、細胞-マトリックス相互作用も媒介することができる。CAMは、厳密に同じタンパク質(同親性結合として知られる)か、異なるタンパク質(異親性結合として知られる)の何れかに結合する。IgSFCAMとしては、例えば、シナプス細胞接着分子、神経細胞接着分子(NCAM)、細胞内細胞接着分子(ICAM-1)、血管細胞接着分子(VCAM-1)、血小板上皮細胞接着分子(PECAM-1)が挙げられる。カドヘリンスーパーファミリーは、細胞内カドヘリンドメイン(ECD)を含むタンパク質から構成される。こうしたタンパク質としては、カドヘリン、プロトカドヘリン、デスモグレイン、及びデスモコリンなどが挙げられる(例えば、Hulpiau P,van Roy F(2009),“Molecular evolution of the cadherin superfamily”.Int.J.Biochem.Cell Biol.41(2):349-69を参照)。カドヘリンは、Ca2+依存性糖タンパク質である。異なるカドヘリンは、典型的には、異なるパターンの組織分布を示し、これらのタンパク質の多くは、それらが一般にみいだされる組織に因んで名付けられており、例えば、上皮(E-カドヘリン)、胎盤(P-カドヘリン)、神経(N-カドヘリン)、網膜(R-カドヘリン)、脳(B-カドヘリン及びT-カドヘリン)、並びに筋肉(M-カドヘリン)などがある。多くの細胞型は、複数のカドヘリン型を発現する。
【0277】
インテグリンは、コラーゲン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、及びビトロネクチンなどの他の細胞又はECMとの細胞の相互作用を媒介する。インテグリンは、α及びβサブユニットからなるヘテロ二量体である。哺乳動物には少なくとも18のαサブユニットと少なくとも8つのβサブユニットがあり、これらを組み合わせて、少なくとも24の異なるインテグリンタンパク質が構築される。多くのインテグリンは、RGD又はLDVトリペプチドを含むリガンドに結合する。
【0278】
一部の実施形態では、CAM又はCAMリガンドは、ソルターゼを用いた哺乳動物細胞に結合する。CAM又はCAMリガンドは、ターゲティング部分として用いることもできる。CAM又はCAMリガンドが結合した哺乳動物細胞は、対照細胞と比較して、適合性CAM又はCAMリガンドを含む細胞若しくはECMと物理的に結合する能力を増大し得る。この特性は、例えば、細胞を再生医療で用いる場合、又は特定の器官若しくは組織へ細胞の組み込みが要望される場合に有用となるだろう。適切なCAM又はCAMリガンドは、細胞の結合又は組み込みが要望される部位に基づいて選択することができる。例えば、この部位に存在するCAM又はCAMリガンドに結合することがわかっているCAM又はCAMリガンドを選択してもよい。
【0279】
セレクチンは、フコシル化炭化水素に結合する異親性CAMのファミリーである。セレクチンは、構成性リンパ球ホーミングなどの様々なプロセス、及び慢性及び急性炎症に関与する。3つのセレクチンファミリーメンバーは、Eセレクチン(内皮)、L-セレクチン(白血球)、及びP-セレクチン(血小板)である。セレクチンリガンドには、P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)があり、これは、白血球に発現されるムチン型糖タンパク質である。セレクチンリガンドとしては、シアリルルイスX(SLex)(NeuAcα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)及びシアリルルイスA(sLe(a))四糖、並びに典型的には、より広範な結合決定基に関して、構造的に類似した様々な炭水化物部分が挙げられる。中でも、内皮細胞表面に存在するセレクチンリガンドと、白血球細胞表面上のセレクチンとの相互作用は、白血球のローリング及び血管壁との結合を媒介し、例えば、炎症部位で、組織中へのその溢出を促進する。様々な細胞型、例えば、結腸、胃、膀胱、膵臓、乳房、及び前立腺癌に存在するsLe(x)及びsLe(a)に結合するセレクチンは、転移の促進に関与している。一部の実施形態では、セレクチン又はセレクチンリガンドを、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合する。一部の実施形態では、セレクチンリガンドは、標的又はターゲティング部分の役割を果たす。例えば、セレクチンリガンドを、ソルターゼを用いて、哺乳動物細胞、例えば、免疫系細胞に結合してもよい。上記細胞を被験者に、例えば、静脈内投与することができる。セレクチンは、内皮細胞がコグネイトセレクチンリガンドを発現する炎症部位に哺乳動物細胞をターゲティングすることができる。一部の実施形態では、例えば、炎症が、不要である、例えば、自己免疫疾患に関連するか、又は過剰な症状、組織損傷若しくはサイトカイン放出を引き起こす場合、免疫抑制活性を有する哺乳動物細胞(例えば、Treg、又は免疫抑制サイトカイン若しくは他の免疫抑制分子を発現するように刺激された、又はその表面に免疫抑制サイトカイン若しくは他の免疫抑制分子を有するように修飾された細胞)をその部位にターゲティングさせることができる。一部の実施形態では、例えば、炎症が、免疫応答を刺激することが有益となり得る感染又は他の状態に応答したものである場合、適切なエフェクター応答を有するか、又はこれを刺激することができる哺乳動物細胞をその部位にターゲティングさせることができる。一部の実施形態では、治療薬が結合した哺乳動物細胞をその部位にターゲティングさせてもよい。一部の実施形態では、セレクチンは、標的又はターゲティング部分の役割を果たす。例えば、セレクチンを、ソルターゼを用いて、哺乳動物細胞、例えば、免疫系細胞に結合してもよい。セレクチンは、コグネイトセレクチンリガンドを発現する腫瘍細胞に、哺乳動物細胞をターゲティングさせる。哺乳動物細胞は、抗腫瘍活性を有する免疫系細胞であってもよく、及び/又はその表面に治療薬、例えば、細胞傷害性薬剤を有してもよい。
【0280】
本発明は、本明細書に記載するタンパク質及び当業者には周知の任意のタンパク質の何れかへの本発明の方法の適用を包含する。限定はしないが、対象とするいくつかのタンパク質の配列は、例えば、以下の文献:米国特許出願第10/773,530号明細書;同第11/531,531号明細書;同第11/707,014号明細書;同第11/429,276号明細書;同第11/365,008号明細書、及び/又はTable Tに記載されるNCBIアクセッション番号でみいださるか、あるいは、Gene ID及び/又はTable TのNCBI RefSe qアクセッション番号により同定される遺伝子によりコード化され、これらは、Official Symbolにより表記され(ヒト遺伝子の場合には、HUGO Gene Nomenclature Committeeにより命名される)、及び/又は本明細書に記載の名称などで表記される。特定のタンパク質の複数のアイソフォームが存在する場合には、優性アイソフォーム、最長アイソフォーム、アイソフォーム1、又は対象とする特定の生物活性を有するアイソフォームを選択してよい。一部の実施形態では、細胞結合アイソフォームを選択してよい。一部の実施形態では、分泌アイソフォームを選択してよい。
【0281】
一部の実施形態では、(i)N末端にグリシンなどの1つ又は複数の求核残基(例えば、1~10の残基)、及び任意選択で切断認識配列、例えば、求核残基をマスキングするプロテアーゼ切断認識配列;又は(ii)C末端若しくはその付近にソルターゼ認識モチーフを含む、任意のタンパク質の修飾形態を本明細書に記載の組成物又は方法、例えば、修飾形態と哺乳動物細胞との結合に用いてもよい。一部の実施形態では、タンパク質は、(i)と(ii)の両方を含む。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の任意のタンパク質、例えば、任意の抗体、抗体断片、抗体鎖、抗体ドメイン、scFv、VHH、アフィボディ、アドネクチン、アンチカリン(anticalin)、サイトカイン、サイトカイン鎖、Igスーパーファミリータンパク質、アポトーシス促進ドメイン、若しくは抗原、又はこれらの何れかの生物学的に活性の断片若しくは変異体;並びにソルターゼ認識モチーフを含む配列を含むタンパク質を提供する。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフは、タンパク質のC末端又はその付近に位置する。
【0282】
当業者であれば、いくつかのタンパク質、例えば、分泌真核(例えば、哺乳動物)タンパク質が、細胞内プロセシング(例えば、分泌前の分泌シグナルの切断及び/又は生物活性に必要ではない他の部分の除去)を経て、成熟形態を生成することを認識されよう。このような成熟型の、生物学的に活性のタンパク質の形態は、本発明のいくつかの実施形態で用いる。
【0283】
前述したタンパク質、並びに様々な哺乳動物種由来の配列の多くに関して、相当の構造機能情報が入手可能であり、これらを用いて、有意な生物活性(例えば、天然に存在するタンパク質の少なくとも25%、75%、90%、95%、98%、99%、若しくはそれを超える活性、又は天然タンパク質より高い活性)を保持する天然タンパク質の変異体を設計することができる。例えば、一部の例では、対応する受容体を含む複合体における、いくつかのタンパク質の結晶構造又はNMR構造が入手可能である。天然タンパク質は、例えば、そのC末端若しくはその付近で、例えば、柔軟なペプチドスペーサ(例えば、本明細書に記載するポリペプチドリンカーの何れか)で、伸長することができ、これにより、そうでない場合と比較して、哺乳動物細胞に結合された後、ポリペプチドが、フォールディングする及び/又は細胞外環境における遊離若しくは細胞結合分子又は構造と相互作用若しくは結合する、より大きな自由度がもたらされる。さらに、天然に存在するN及びC末端が、ネイティブ構造において互いに極めて近接して位置していなければ、天然配列をN及び/又はC末端で、例えば、柔軟なペプチドスペーサで伸長することにより、これらの末端を近接させるようにすることができ、これは、例えば、ポリペプチドを循環させようとする場合、望ましいと考えられる。
【0284】
一部の実施形態では、タンパク質は、1つ又は複数のヒト臨床試験で試験され、一部の実施形態において、少なくとも第I相試験で許容可能であることが証明されている。一部の実施形態では、タンパク質は、ヒトにおける疾患若しくは障害における使用について、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)(又は、欧州医薬品審査庁(European Medicines Evaluation Agency)のような同等の取り締まり機関)により承認されている。一部の実施形態では、タンパク質は、タンパク質のペグ化形態である。
【0285】
一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、生存哺乳動物細胞に結合した薬剤は、抗原又は抗原に結合する結合部分を含む。一部の実施形態では、抗原は、B細胞、例えば、哺乳動物若しくは鳥類B細胞及び/又はT細胞、例えば、哺乳動物若しくは鳥類T細胞により認識される少なくとも1つのエピトープを含む。抗原は、ポリペプチド、多糖、炭水化物、脂質、核酸、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。一部の実施形態では、抗原は、タンパク質、例えば、生物によりコード化又は発現されるタンパク質、例えば、ポリペプチドを含む。ポリペプチド抗原は、完全長ポリペプチド又はその部分、例えば、長さが少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、若しくは15アミノ酸のペプチドを含むか、それから構成される。一部の実施形態では、抗原は、iNKT細胞により認識される脂質又は糖脂質、例えば、αガラクトシルセラミド(α-GalCer)を含む。抗原は、天然に存在するものでも、合成のものでもよい。一部の実施形態では、抗原は、病原体、感染細胞、若しくは新生細胞(例えば、癌細胞)により遺伝子的にコード化される。一部の実施形態では、抗原は、自己抗原(autoantigen)(「自己抗原(self antigen)」)、又は自己免疫応答を開始若しくは増強する能力を有する物質である。一部の実施形態では、抗原は、移植片関連抗原である。一部の実施形態では、抗原は、一部の実施形態において、病原体であるウイルス、細菌、真菌、又は寄生体により生成されるか、これらによって遺伝子的にコード化される。一部の実施形態では、ある物質(例えば、ウイルス、細菌、真菌、寄生体)が、少なくとも1種の哺乳動物又は鳥類種、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、及び/又はブタ種に感染し、一部の実施形態において、それらにおける疾患の原因となる。一部の実施形態では、病原体は、その生活環の少なくとも一部の間、細胞内病原体である。一部の実施形態では、病原体は細胞外である。一部の実施形態では、抗原は、病原体による感染の結果、感染細胞により産生される分子を含む。一部の実施形態では、抗原は、エンベロープタンパク質、キャプシドタンパク質、分泌タンパク質、構造タンパク質、細胞壁タンパク質若しくは多糖、莢膜タンパク質若しくは多糖、又は酵素である。一部の実施形態では、抗原は、毒素、例えば、細菌毒素である。
【0286】
一部の実施形態では、ソルターゼによって、エピトープ、抗原若しくはその一部が結合された哺乳動物細胞、例えば、造血細胞、例えば、免疫系細胞若しくは赤血球をワクチン成分として用いることができる。本明細書で用いられる場合、「ワクチン」は、対象の1つ又は複数の実体に対する被験者の免疫系又は免疫応答を調節するために、被験者に投与することができる製剤若しくは組成物を指す。ワクチンは、多くの場合、免疫応答が望まれる実体、例えば、病原微生物、寄生体、若しくは毒素などの少なくとも一部に類似する薬剤を、又は免疫応答が望まれない実体、例えば、自己抗原若しくは環境アレルゲンなどに類似する薬剤を含有する。一部の実施形態では、薬剤は、身体の免疫系を刺激して、特定の実体を異物と認識し、これを破壊し、かつこれを「記憶」して(例えば、メモリアルT及び/又はB細胞の形成を誘導することにより)、免疫系が、このような実体に次に遭遇した場合、これをより容易に認識して、破壊できるようにする。一部の実施形態では、薬剤は、身体の免疫系を刺激して、特定の実体を「自己」と認識するか、又はこの実体を認識しないようにして、免疫系が上記実体に対する免疫応答を増大しないようにする。例えば、自己抗原又は移植片関連抗原に対する免疫応答を阻害することが望ましい。ワクチンは、予防的(例えば、病原体による将来の感染を予防するか、若しくはその重症度を軽減するために)、又は治療的(例えば、癌に対するワクチン、又は自己免疫疾患若しくは既存のアレルギーを治療するためのワクチン)であってよい。一部の実施形態では、ワクチンは、適応免疫系又はその成分を調節する。一部の実施形態では、ワクチンは、抗原、微生物、又はその他の実体に対する免疫応答を調節するように設計される。一部の実施形態では、ワクチンは、同じ微生物若しくは実体の2つ以上の株、2種以上の微生物若しくは実体、あるいは腫瘍、移植片、又は自己細胞若しくは構造の2つ以上の異なる抗原に対する免疫応答を調節するように設計される。エピトープ又は抗原を含む実体に対する被験者の免疫応答を調節するために、ワクチン若しくはワクチン成分として用いられるソルタギング済み細胞を用いて、エピトープ、抗原用いて、その一部を被験者に送達することができる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、動物細胞に結合させる抗原は、当技術分野では公知の常用のワクチンに用いられる任意の抗原であってよい。
【0287】
当業者であれば、抗原又はエピトープが得られる多数の微生物(例えば、ウイルス、細菌、真菌、原生動物)及び多細胞寄生体、例えば、哺乳動物において疾患を引き起こし得る微生物及び寄生体を認識されよう。一部の実施形態では、抗原は、例えば、ウイルスキャプシド、エンベロープ、若しくはコート、又は細菌、真菌、原生動物、若しくは寄生体細胞の表面タンパク質若しくは多糖である。一部の実施形態では、抗原は、毒素、例えば、細菌により産生される毒素である。毒素は、不活性化形態で、例えば、トキソイドとしてもたらされうる。抗原又はエピトープは、例えば、化学的処理(例えば、ホルムアルデヒド)若しくは物理的処理(例えば、熱)により、及び/又は第2薬剤との結合によって、修飾してもよい。特定の微生物又は寄生体「に由来する」抗原、例えば、タンパク質は、任意の好適な方法、例えば、酵母、細菌、若しくは細胞培養における組み換えDNA技術を用いて、生成することができることは理解されよう。一部の実施形態では、変異体抗原を用いてもよい。例えば、ネイティブ配列を、それをさらに免疫原性にするように修飾してもよい。一部の実施形態では、抗原又はエピトープは少なくとも約10%、20%、30%、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はそれと同じ親和性で、天然抗原又はエピトープに結合する抗原受容体又は抗体と結合するように、天然抗原又はエピトープと十分に類似している。一部の実施形態では、抗原又はエピトープは、要望される応答を誘発する上で、天然に存在する抗原又はエピトープと十分に類似している。
【0288】
ウイルスの例として、例えば、以下のものが挙げられる:レトロウイルス科(Retroviridae)(例えば、HIV-Iのような免疫不全ウイルスなどのレンチウイルス);カリシウイルス科(Caliciviridae)(例えば、胃腸炎の病原株);トガウイルス科(Togaviridae)(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(Flaviridae)(例えば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、C型肝炎ウイルス);コロナウイルス科(Coronaviridae)(例えば、コロナウイルス);ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)(例えば、水疱性口炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(Filoviridae)(例えば、エボラ(Ebola)ウイルス);パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)(例えば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻しんウイルス、RS(Respiratory syncytial)ウイルス);オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)(例えば、インフルエンザウイルス);ブンヤウイルス科(Bunyaviridae)(例えば、ハンタン(Hantaan)ウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルス、及びナイロ(Nairo)ウイルス);アレナウイルス科(Arenaviridae)(出血熱ウイルス);レオウイルス科(Reoviridae)(例えば、レオウイルス、オルビウイルス、及びロタウイルス);ビルナウイルス科(Birunaviridae);ヘパドナウイルス(Hepadnaviridae)(B若しくはC型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(Parvoviridae)(パルボウイルス);パポバウイルス科(Papovaviridae)(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(Adenoviridae);ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)(単純ヘルペスウイルス(HSV)1及び2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、FBV、KSV);ポックスウイルス科(Poxviridae)(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);並びにピコルナウイルス(Picornaviridae)(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス)。
【0289】
細菌は、例えば、グラム陽性、グラム陰性、及び抗酸菌を含む。細菌は、球菌、桿状菌、スピロヘータの何れであってもよい。細菌の例として、例えば、以下のものが挙げられる:ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ボレリア属(Borellia)(例えば、ボレリア・ブルグドルフェリ(B.burgdorferi)、ボレリア・アフゼリ(B.afzelii)、ボレリア・ガリニ(B.garinii))、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophilia)、マイコバクテリア(Mycobacteria)(例えば、結核菌(M.tuberculosis)、マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)、マイコバクテリウム・イントラセルラーレ(M.intracellulare)、マイコバクテリウム・カンサイ(M.kansasii)、マイコバクテリウム・ゴルドナエ(M.gordonae))、スタフィロコッカス属(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)(A群レンサ球菌)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)(B群レンサ球菌)、レンサ球菌属(Streptococcus)(ビリダンス(viridans)群)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、レンサ球菌属(Streptococcus)(嫌気性菌)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、カンピロバクター属(Campylobacter)種、エンテロコッカス属(Enterococcus)種、クラミジア属(Chlamydia)種、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ボルデテラ属(Bordetella)(例えば、百日咳菌(B.pertussis)、パラ百日咳菌(B.parapertussis)、気管支敗血症菌(B.bronchiseptica))、炭疽菌(Bacillus anthracis)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)、クロストリジウム属(Clostridia)(例えば、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、破傷風菌(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasturella multocida)、バクテロイデス属(Bacteroides)種、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトバチルス・モニリホルム(Streptobacillus moniliformis)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、トレポネーマ・ペルテニュ(Treponema pertenue)、レプトスピラ属(Leptospira)、アクチノマイセス・イスラエリー(Actinomyces israelii)及び野兎病菌(Francisella tularensis)、大腸菌(E.coli)(例えば、病原性大腸菌(E.coli))。
【0290】
一部の実施形態では、真菌は、子嚢菌(Ascomycota)、担子菌(Basidiomycota)、ツボカビ(Chytridiomycota)、グロムス(Glomeromycota)、又は接合菌(Zygomycota)門のメンバーである。真菌は、以下に挙げるものからなる群から選択される属のメンバーであってもよい:アルペルギルス属(Aspergillus)、ブラストミセス属(Blastomyces)、カンジダ属(Candida)、コクシジオイデス属(Coccidioides)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、表皮菌属(Epidermophytum)、エクセロヒルム属(Exserohilum)、フサリウム属(Fusarium)、ヒストプラスマ属(Histoplasma)、マラセチア属(Malassezia)、ミクロスポルム属(Microsporum)、ケカビ属(Mucor)、パラコクシジオイデス属(Paracoccidioides)、アオカビ属(Penicillium)、ピキア属(Pichia)、ニューモシスティス属(Pneumocystis)、シュードアレシェリア属(Pseudallescheria)、クモノスカビ属(Rhizopus)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、スケドスポリウム属(Scedosporium)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、スポロトリクス属(Sporothrix)、スタキボトリス属(Stachybotrys)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、トリコフィトン属(Trichophyton)、トリコスポロン属(Trichosporon)、ビポラリス属(Bipolaris)、エクセロヒルム属(Exserohilum)、クルブラリア属(Curvularia)、アルテルナリア属(Alternaria)、又はクラドフィアロフォラ属(Cladophialophora)。真菌の例としては、例えば、以下のものが挙げられる:アルペルギルス属(Aspergillus)、例えば、アルペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)、アルペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)、アルペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アルペルギルス・クラバツス(Aspergillus clavatus)、ブラストミセス属(Blastomyces)、例えば、ブラストミセス・デルマティティディス(Blastomyces dermatitidis)、カンジダ属(Candida)、例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ・ギリエルモンディ(Candida guilliermondii)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、コクシジオイデス属(Coccidioides)、例えば、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、表皮菌属(Epidermophyton)、フサリウム属(Fusarium)、ヒストプラスマ属(Histoplasma)、例えば、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、マラセチア属(Malassezia)、例えば、マラセチア・フルフル(Malassezia furfur)、ミクロスポルム属(Microsporum)、ケカビ属(Mucor)、パラコクシジオイデス属(Paracoccidioides)、例えば、パラコクシジオイデス・ブラジリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis)、アオカビ(Penicillium)、例えば、ペニシリウム・マルネッフェイ(Penicillium marneffei)、ピキア属(Pichia)、例えば、ピキア・アノマーラ(Pichia anomala)、ピキア・ギリエルモンディ(Pichia guilliermondii)、ニューモシスティス属(Pneumocystis)、例えば、ニューモシスティス・カリニィ(Pneumocystis carinii)、シュードアレシェリア属(Pseudallescheria)、例えば、シュードアレシェリア・ボイディ(Pseudallescheria boydii)、クモノスカビ属(Rhizopus)、例えば、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、ロドトルラ属(Rhodotorula)、例えば、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、スケドスポリウム属(Scedosporium)、例えば、スケドスポリウム・アピオスペルムム(Scedosporium apiospermum)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、例えば、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、スポロトリクス属(Sporothrix)、例えば、スポロトリックス・シェンキィ(Sporothrix schenckii)、トリコスポロン属(Trichosporon)、例えば、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、トリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum)、トリコフィトン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)、紫色白癬菌(Trichophyton violaceutn)、トリコスポロン属(Trichosporon)、例えば、トリコスポロン・アサヒ(Trichosporon asahii)、トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)、トリコスポロン・インキン(Trichosporon inkin)、及びトリコスポロン・ムコイデス(Trichosporon mucoides)。一部の実施形態では、真菌は、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)、コクシジオイデス・ポサダシィ(Coccidioides posadasii)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、クリプトコッカス・ガッティ(C.gattii)、クリプトコッカス・アルビヅス(C.albidus)、クリプトコッカス・ラウレンティ(C.laurentii)、クリプトコッカス・ユニグルラーツス(C.uniguttulas)、エピデルモフィトン・フロッコースム(E.floccosum)、フサリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、フサリウム・オキスポルム f.sp.クベンス(Fusarium oxysporum f.sp.cubense)、フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)複合体のメンバー、フサリウム・オキスポルム(Fusarium oxysporum)、フサリウム・ベルチシリオイデス(Fusarium verticillioides)、フサリウム・プロリフェラツム(Fusarium proliferatum)、マラセチア・フルフル(Malassezia furfur)、ムコール・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)、パラコクシジオイデス・ブラジリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis)、ペニシリウム・マルネッフェイ(Penicillium marneffei)、ピキア・アノマーラ(Pichia anomala)、ピキア・ギリエルモンディ(Pichia guilliermondii)、ニューモシスティス・カルニィ(Pneumocystis carinii)、ニューモシスティス・イロベチィ(Pneumocystis jirovecii)、シュードアレシェリア・ボイディ(Pseudallescheria boydii)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、スケドスポリウム・アピオスペルムム(Scedosporium apiospermum)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、スポロトリックス・シェンキィ(Sporothrix schenckii)、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、トリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum)、トリコフィトン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)、トリコフィトン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)、若しくは紫色白癬菌(Trichophyton violaceum)、トリコスポロン・アサヒ(Trichosporon asahii)、トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)、トリコスポロン・インキン(Trichosporon inkin)、及びトリコスポロン・ムコイデス(Trichosporon mucoides)、エクセロヒルム・ロストラツム(Exserohilum rostratum)、エクセロヒルム・メギンニシィ(E.meginnisii)、又はエクセロヒルム・ロンギロストラツム(E.longirostratum)。
【0291】
一部の実施形態では、寄生体は、原生動物である。一部の実施形態では、寄生体は、アピコンプレックス門(Apicomplexa)に属する。寄生体の例として、例えば、以下の寄生体が挙げられる:マラリア原虫属(熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale curtisi)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale wallikeri)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、若しくは二日熱マラリア原虫(Plasmodium knowlesi))、トリパノソーマ、トキソプラズマ属(例えば、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii))、リーシュマニア属(例えば、森林型熱帯リーシュマニア(Leishmania major))、イソスポーラ属(Isospora)、マンソン住血吸虫属(Schistosoma)、又はクリプトスポリジウム属(Cryptosporidium)。一部の実施形態では、クリプトスポリジウム属(Cryptosporidium)のメンバーは、クリプトスポリジウム・パルブム(C.parvum)、クリプトスポリジウム・ホミニス(C.hominis)、クリプトスポリジウム・カニス(C.canis)、クリプトスポリジウム・フェリス(C.felis)、クリプトスポリジウム・メレアグリジス(C.meleagridis)、又はクリプトスポリジウム・ムリス(C.muris)である。一部の実施形態では、イソスポーラ属(Isospora)のメンバーは、イソスポーラ・ベリ(Isospora belli)である。一部の実施形態では、バベシア属(Babesia)のメンバーは、バベシア・ミクロチ(Babesia microti)又は多型バベシア(Babesia divergens)である。
【0292】
一部の実施形態では、原生動物は、アメーバ(amoebae)属のメンバーである。一部の実施形態では、原生動物は、体内寄生性アメーバ属(Entamoeba)のメンバーである。一部の実施形態では、体内寄生性アメーバ属(Entamoeba)のメンバーは、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、非病原性赤痢アメーバ(Entamoeba dispar)、又はエントアメーバ・モシュコフスキー(Entamoeba moshkovskii)である。一部の実施形態では、原生動物は、ネグレリア属(Naegleria)のメンバー、例えば、フォーラーネグレリア(Naegleria fowleri)である。一部の実施形態では、原生動物は、バラムチア属(Balamuthia)のメンバー、例えば、バラムチア・マンドリルリス(Balamuthia mandrillaris)である。一部の実施形態では、原生動物は、アカントアメーバ属(Acanthamoeba)のメンバーである。一部の実施形態では、ジアルジア属(Giardia)のメンバーは、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)である。いくつかの実施形態では、原生動物は、肉胞子虫属(Sarcocystis)のメンバー、例えば、サルコシスチス・ボボホミニス(Sarcocystisbovohominis)、サルコシスチス・スイホミニス(Sarcocystis suihominis)又はサルコシスチス・ボビカニス(Sarcocystis bovicanis)である。いくつかの実施形態では、原生動物は、シクロスポラ属のメンバー、例えば、シクロスポラ・カイエタネンシス(Cyclospora cayetanensis)である。いくつかの実施形態では、原生動物は、ネオスポラ属(Neospora)のメンバー、ネオスポラ・カニナム(Neospora caninum)である。いくつかの実施形態では、原生動物は、タイレリア属(Theileria)のメンバー、例えば、タイレリア・パルバ(Theileria parva)である。いくつかの実施形態では、原生動物は、トリコモナス属(Trichomonas)のメンバー、例えば、膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)である。一部の実施形態では、原生動物は、キネトプラスト類(kinetoplastid)である。一部の実施形態では、キネトプラスト類(kinetoplastid)は、トリパノソーマ類(trypanosomatid)、例えば、リーシュマニア属(Leishmania)のメンバー、例えば、ドノバンリーシュマニア(L.donovani)、森林型熱帯リーシュマニア(L,major)、熱帯リーシュマニア(L,tropica)、若しくはブラジルリーシュマニア(L.braziliensis)、又はトリパノソーマ属(Trypanosoma)のメンバー、例えば、ブルセイトリパノソーマ(T.brucii)、クルーズトリパノソーマ(T.cruzii)、トリパノソーマ・コンゴレンス(T.congolense)、又はトリパノソーマ・エキパーダム(T.equiperdum)である。
【0293】
一部の実施形態では、寄生体は、その生活環の少なくとも一部の間、細胞外に常在する。例として、線虫類、吸虫類(吸虫(flukes))、条虫類が挙げられる。一部の実施形態では、抗原は、回虫属(Ascaris)、蟯虫属(Enterobius)、鞭虫属(Trichuris)などの線虫類、及び/又は条虫属(Taenia)、膜様条虫属(Hymenolepis)、エキノコックス属(Echinococcus)、若しくは肝蛭属(Fasciola)などの条虫類、住血吸虫属(Schistosoma)などの吸虫類に由来するものでよい。一部の実施形態では、抗原は、トリキネラ属(Trichinella)、裂頭条虫属(Diphyllobothrium)、クロノルキス属(Clonorchis)、肺吸虫属(Paragonimus)、鉤虫属(Ancylostoma)、アメリカ鉤虫属(Necator)、糞線虫属(Strongyloides)、糸状虫属(Wuchereria)、オンコセルカ属(Onchocerca)、又はドラクンクルス属(Dracunculus)に由来する。一部の実施形態では、抗原は、腸内蠕虫類に由来する。様々な実施形態において、抗原は、寄生体のあらゆる成分を起原とするものでよく、又は寄生体の生活環のあらゆる段階、例えば、哺乳動物又は鳥類生物などの感染生物内に起こるあらゆる段階にある寄生体に由来するものでもよい。一部の実施形態では、抗原は、寄生体の卵、包嚢、又は寄生体により分泌される物質に由来する。
【0294】
移植片関連抗原は、移植された組織、器官、又は細胞により発現されるか、又はそこに存在するあらゆる段階抗原であってよい。一部の実施形態では、移植片関連抗原は、少なくともその一部が、移植された細胞の表面に露出している。例えば、移植片関連抗原は、移植された細胞により発現される細胞表面タンパク質であってもよい。一部の実施形態では、移植片関連抗原は、移植された組織、器官、又は細胞に存在するが、移植された組織、器官、又は細胞を受ける被験者(レシピエント)には存在しないか、又は実質的に存在しない(例えば、標準的検出方法を用いて、検出不能である)。一部の実施形態では、移植片関連抗原は、移植細胞により発現されるが、移植細胞と同じ細胞型のレシピエント細胞によっては検出可能レベルで発現されないか、又は一部の実施形態では。一部の実施形態では、移植片は、レシピエントとは異なる種のドナーに由来し(すなわち、移植片は、異種移植片である)、その場合、移植細胞により発現される多くのタンパク質は、移植片関連抗原であってもよい。一部の実施形態では、移植片関連抗原は、被験者が属する特定の種において、多型性のポリペプチドである。例えば、ヒト白血球抗原(HLA)抗原、例えば、主要組織適合性抗原クラスI(MHCI)及びクラスII(MHCII)は、高度に多型性である。
【0295】
一部の実施形態では、抗原は、腫瘍抗原(TA)である。一般に、腫瘍抗原は、腫瘍中の細胞、例えば、腫瘍細胞、又は一部の実施形態では、腫瘍間質細胞(例えば、癌関連線維芽若しくは腫瘍関連血管などの主要関連細胞)により産生されるあらゆる抗原物質であってよい。多くの実施形態では、TAは、非腫瘍と比較して、腫瘍細胞による発現が異なる分子(又はその部分)である。TAは、特定のタイプの腫瘍のサブセット及び/又は腫瘍中の細胞のサブセットにより発現され得る。TAは、腫瘍細胞又は腫瘍間質細胞の細胞表面に少なくとも部分的に露出していてもよい。一部の実施形態では、TAは、異常に改変されたタンパク質、脂質、糖タンパク質、又は糖脂質を含む。腫瘍抗原は、例えば、通常は非常に少量産生されるが、腫瘍細胞によって多量に発現されるタンパク質、通常は発生の特定の段階でしか産生されないタンパク質、その構造(例えば、配列若しくは翻訳後修飾)が、腫瘍細胞の突然変異のために改変されたタンパク質、又は免疫系から封鎖された(正常な条件下で)正常タンパク質を含んでもよい。一部の実施形態では、TAは、突然変異遺伝子、例えば、癌遺伝子若しくは突然変異した癌抑制遺伝子の発現産物、過剰発現若しくは異常発現した細胞タンパク質、癌遺伝子ウイルス(例えば、HBV;HCV;EBV、KSVなどのヘルペスウイルスファミリーメンバー;パピローマウイルスなど)によりコード化された抗原、又は癌胎児抗原である。癌胎児抗原は、通常、胚発生の早期段階で生成され、免疫系が十分に形成されるときまでにほとんど又は完全に消失する。例としては、αフェトプロテイン(AFP、例えば、生殖細胞腫瘍及び肝細胞癌に存在する)及び癌胎児性抗原(CEA、例えば、大腸癌、場合によっては肺若しくは乳癌に存在する)がある。チロシナーゼは、通常は非常に少量産生されるが、特定の細胞(例えば、黒色腫細胞)においてその産生が大幅に増大するタンパク質の例である。TAの他の例として、例えば、以下のものが挙げられる:CA-125(例えば、卵巣癌に存在する);MUC-1(例えば、乳癌、卵巣癌などに存在する);HER-2/neu(例えば、乳癌に存在する);黒色腫関連抗原(MAGE;例えば、悪性黒色腫に存在する);前立腺酸性ホスファターゼ(PAP,前立腺癌に存在する);ウィルムス腫瘍1タンパク質(WT1、悪性中皮腫、白血病、及び他の固形腫瘍に過剰発現される転写因子);CO17-1A(例えば、結腸癌に存在する);GD2(神経外胚葉起原の腫瘍、例えば、ヒト神経芽細胞腫及び黒色腫に発現されるジシアロガングリオシド)、上皮細胞接着分子(Epcam;上皮腫瘍)。一部の実施形態では、TAは、癌/精巣(CT)抗原である。CT抗原は、非常に多様な悪性疾患に頻繁に発現されるが、一般に、精巣及び胎盤以外の正常組織には存在しないタンパク質である。CT抗原には、NY-ESO-1及びLAGE-1がある。一部の実施形態では、腫瘍抗原は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を含む。hTERTは、1132アミノ酸残基のタンパク質であり、癌に広範に発現されるが、ほとんどの正常体細胞にはほとんど、又は全く発現を示さない。一部の実施形態では、TAは、NJKG2Dリガンド、例えば、MICA、MICB、又はULBP1-6などである。
【0296】
一部の実施形態では、抗原は、正常B細胞及びCD19又はCD20などの血漿細胞に存在するタンパク質であってもよい。これらのタンパク質は、このような細胞に関連する血液系悪性疾患、例えば、様々なB細胞性悪性疾患、例えば、B細胞性リンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、有毛細胞性白血病(HCL)、急性骨髄性白血病(AML)、及び多発性骨髄腫(MM)などを有する被験者における標的として有用となり得る。血液系悪性疾患における他の有用なタンパク質標的としては、例えば、HCL及びALL(例えば、B-ALL)におけるCD22、例えば、ホジキンリンパ腫におけるCD30、並びに例えば、CLLにおける未分化大細胞型リンパ腫、CD37及び例えば、MMにおけるCD38が挙げられる。
【0297】
一部の実施形態では、腫瘍抗原は、メソテリン(Gene ID:10232(MSLN;この遺伝子は、前駆体タンパク質をコード化し、このタンパク質が切断されて、2つの産物、巨核球増強因子とメソテリンを形成する);NP_001170826.1(アイソフォーム1);NP_037536.2(アイソフォーム2)である。メソテリンは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー細胞表面タンパク質であり、これは、中皮腫、卵巣癌、膵臓癌などの様々な癌に高度に発現され、また、肺腺癌、子宮漿液性癌、胆管癌、扁平上皮癌、及び急性骨髄性白血病にも発現される(Tang,Z,et al.,Anticancer Agents Med Chem.2013 February 1;13(2):276-280、及びその中の参照文献)。メソテリンは、MUC16(CA-125としても知られる)に結合して、異型細胞接着を媒介する。メソテリンに結合する様々な薬剤が、当技術分野で公知である。こうした薬剤などを結合分子又はターゲティング分子として用いてもよい。例えば、MORAb-009(アマツキシマブ)は、一本鎖マウス可変領域(scFv)(マウス抗メソテリンscFv SS1)並びにヒトIgGγ1及びk定常領域を含むキメラモノクローナル抗体である。細胞表面結合メソテリンに特異的に結合するヒトmAb、m912が、ヒトFabライブラリーから単離されている(Feng Y,et al..Mol.Cancer Ther.2009;8:1113-1118)。HN1と称する高親和性ヒトmAbが、ファージディスプレイ技術により単離されたscFvに基づいて同定されている(Ho M,et al..Int.J.Cancer.2011;128:2020-2030)。一部の実施形態では、CA-125に結合するメソテリン又はその断片若しくは変異体は、例えば、CA-125を発現する腫瘍細胞に細胞をターゲティングさせるために、結合部分として用いることができる。一部の実施形態では、メソテリンの断片は、少なくとも、細胞表面メソテリンのN末端の64アミノ酸からなる、アミノ酸296~359を含む。
【0298】
一部の実施形態では、腫瘍抗原は、グリピカン、例えば、グリピカン3(GPC3)である。グリピカンは、様々な細胞型によって発現されるGPIアンカータンパク質である。ヒトは、6つのグリピカンタンパク質;GPC1~GPC6を有する。グリピカン3(GPC3)は、いくつかの様々なタイプの腫瘍、例えば、肝細胞癌、結腸直腸癌、卵巣明細胞腺癌(CCC)、及び黒色腫などに高レベルで発現される。グリピカン1(GPC1)は、いくつかの腫瘍タイプ、例えば、特定の乳癌及び膵臓癌(例えば、膵管腺癌)などに高レベルで発現される。グリピカンに結合する様々な薬剤が、当技術分野で公知である。こうした薬剤などをターゲティング分子として用いてもよい。例えば、一部の実施形態では、GPC3発現が増大した腫瘍を有する被験者は、細胞表面GPC3の切断によって、正常レベルと比較して、増加したレベルの可溶性GPC3を有する。一部の実施形態では、結合部分が、GPC3のC末端ドメインの細胞外部分の一部(例えば、C末端内約30kDからアミノ酸560付近まで)を含むエピトープに結合して、細胞表面に結合したままのGPC3分子と結合するようにする。GPC3に結合する様々な抗体が、当技術分野では公知である。例としては、モノクローナル抗体1G12(Capurro M,et al.Gastroenterology.2003;125:89-97)並びにYP6、YP7、YP8、YP9及びYP9.1が挙げられる(Phung,Y.,et al.,MAbs.2012 September 1;4(5):592-599)。マウス抗GCP3モノクローナル抗体GC33のヒト化及び安定化形態が記載されている(Nakano,K.,et al,Anticancer Drugs.2010;21:907-16)。HN3は、GPC3のアミノ及びカルボキシ末端ドメインの両方を必要とする立体構造エピトープを認識する細胞表面結合GPC3に対して高い親和性(Kd=0.6nM)を有するヒト重鎖可変ドメイン抗体である(Feng,M.,et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2013;110(12):E1083-91)。
【0299】
一部の実施形態では、抗原は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン-4(CSPG4)である。CSPG4は、黒色腫、乳癌(トリプルネガティブ乳癌を含む)、頭部及び頸部扁平上皮癌、中皮腫、神経膠芽細胞腫、腎明細胞癌、及び肉腫に高度に発現される(Wang X,et al Curr Mol Med.2010 Jun;10(4):419-29)。CSPG4特異的完全ヒト一本鎖抗体(scFv-FcC21と称する)が、記載されている(Wang,X.,et al.,Cancer Res.(2011),71(24):7410-22)。scFv-FcC21又はその抗原結合ドメインを用いて、細胞を腫瘍にターゲティングすることができる。
【0300】
一部の実施形態では、抗原は、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)ファミリー受容体、例えば、SLAM又はSLAMf7(CS1及びCD319としても知られる)であってもよい。
【0301】
一部の実施形態では、抗原は、B細胞成熟因子(BCMA)であり、これは、B細胞成熟抗原(BCMA、CD269及びTNFRSF17としても知られる)としても知られる。BCMAは、B細胞系統の細胞、例えば、末端で分化するB細胞及び血漿細胞などに発現される腫瘍壊死ファミリー受容体(TNFR)メンバーである。BCMAは、そのリガンド、TNFファミリーのB細胞活性化因子(BAFF)及び増殖誘導リガンド(APRIL)の結合後に、生存促進性細胞シグナルを送達する。中でも、BCMAは、長期液体性免疫を維持する血漿細胞などのB系統細胞の生存の媒介に機能的活性を有する。BCMAの発現は、いくつかの癌、自己免疫疾患、及び感染症にも関連している。一部の実施形態では、細胞を、BCMAに結合する結合部分と結合させる。一部の実施形態では、BCMAに結合する結合部分と結合した細胞を用いて、BCMAを発現する細胞の生物活性を欠失させるか、又は阻害する。結合部分の例として、SG1、すなわちBCMAに結合して、その活性を阻害する抗体がある(Ryan,MC,Mol Cancer Ther.2007;6(11):3009-18)。一部の実施形態では、BCMAに結合する部分と結合した細胞は、細胞傷害性細胞、例えば、細胞傷害性T細胞又はNK細胞であり、及び/又は細胞には、細胞傷害性部分、例えば、TRAILなどのアポトーシス促進部分が結合されていてもよい。BCMAに結合する部分、細胞傷害性部分、又はその両方は、細胞、例えば、ソルターゼを用いて、細胞により発現される非遺伝子操作内在性ポリペプチドに結合されていてもよい。一部の実施形態では、BCMAを発現する細胞は、異常に反応性、及び/又は自己抗体分泌性血漿細胞及び/又はB細胞である。こうした細胞の欠失又は阻害は、非常に多様な自己免疫疾患、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、またその他の自己免疫疾患の治療に有用となり得る。一部の実施形態では、BCMAに結合する部分と結合した細胞を用いて、BCMAを発現する癌細胞を欠失させる。BCMAは、様々な血液系悪性疾患、例えば、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫並びに多発性骨髄腫などのいくつかの癌で発現され、様々な悪性細胞の生存性及び増殖の維持におけるその生物学的関連性が証明されている(例えば、Chiu,A,et al.,Blood.2007 Jan 15;109(2):729-39を参照)。BCMA発現はまた、神経膠芽細胞腫、白血病、ワルデンシュトロームマクログロブリン血症、及び神経膠芽細胞腫などの他の様々な腫瘍タイプにもみいだされている。
【0302】
一部の実施形態では、抗原は、CD19である。一部の実施形態では、細胞をCD19に結合する部分と結合させる。一部の実施形態では、結合部分は、CD19に結合する抗体を含む。こうした抗体の例としては、IgG1であるXmAb5603又はXmAb5574(Xenocor,Inc.,Monrovia,CA and Morphosys,AG,Martinsried,Germany)、ヒト化MAb(Horton HM et al Cancer Res 2008 68(19):8049-8057)が挙げられる。一部の実施形態では、マウスモノクローナル抗体FMC63又はそのヒト化形態を、CD19に結合する結合部分として用いる。いくつかの実施形態では、米国特許出願公開第20110104150号明細書に記載されている抗CD19モノクローナル抗体を用いることができる。
【0303】
一部の実施形態では、TAは、腫瘍関連間質細胞(例えば、腫瘍関連線維芽細胞若しくは腫瘍関連マクロファージ)又は腫瘍関連血管系により発現される。一部の実施形態では、TAは、修飾された内皮下腫瘍細胞外マトリックスである。このような成分は、腫瘍細胞又は腫瘍関連細胞により分泌され得る。例としては、フィブロネクチン又はテナシン-Cのいくつかのスプライスアイソフォームがある。フィブロネクチンは、哺乳動物組織及び血漿の細胞外マトリックスにみいだされる大きな糖タンパク質である。組織再モデル化条件下で、選択的スプライシングにより、フィブロネクチンへのEDB、すなわちエクストラ91アミノ酸III型相同性ドメインの挿入を達成することができる。EDBは、典型的に、健常な個体では検出不能であるが、多くの侵襲性固形腫瘍において、EDBは、腫瘍血管系の周辺に高度に発現される。L19は、高い親和性でEDBを認識する抗体であり、動物モデル及び癌患者において腫瘍血管を局在化させることが明らかにされている。テナシンは、脊椎動物の細胞外マトリックス中にみいだされる糖タンパク質である。テナシンのアイソフォームは、血管新生の部位での選択的スプライシングによって腫瘍中に発生し得る。テナシンのCドメインは、正常な成体では検出不能であるが、脳及び肺腫瘍の血管周囲パターンでは強度に発現される。F16抗体は、テナシンのエクストラドメインA1を認識し、動物及びヒトの腫瘍並びに炎症性疾患における炎症部位に選択的蓄積を示している(同じ抗原又は他の対象抗原に結合する前記及び他の抗体の論述については、List,T.and Neri,D.Clinical Pharmacology:Advances and Applications 2013:5(Suppl 1)29-45、及びそれらの参照文献を参照のこと)。
【0304】
一部の実施形態では、抗原は、細胞死の部位、例えば、腫瘍における壊死領域で放出され得る分子成分(例えば、ヒストン又はDNA)である。こうした抗原に結合する結合部分、例えば、抗体を用いて、細胞を腫瘍にターゲティングすることができる。例えば、ヒトNHS76は、壊死腫瘍細胞並びに転移に曝露された核酸を認識するファージディスプレイ由来のヒトモノクローナル抗体である(Sharifi J,et al.Hybrid Hybridomics.2001;20(5-6):305-312)。
【0305】
一部の実施形態では、抗原は、ペプチドを含む。一部の実施形態では、ペプチドは、長さが少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15アミノ酸である。一部の実施形態では、ペプチドは、長さが20~50アミノ酸である。一部の実施形態では、ペプチドは、長さが8~30、15~25、20~30、25~35、又は35~50アミノ酸である。ペプチドは、細胞表面に発現されたMHC分子と直接結合して、APCにより摂取され、プロセシングされて、MHC分子に関連するAPC細胞表面に展示され得る、及び/又は精製済みMHCタンパク質(例えば、MHCオリゴマー)に結合し得る。一部の実施形態では、ペプチドは、適切なMHCクラスIタンパク質に結合することができる少なくとも1つのエピトープ及び/又は適切なMHCクラスIIタンパク質に結合することができる少なくとも1つのエピトープを含む。一部の実施形態では、ペプチドは、CTLエピトープを含む(例えば、ペプチドは、適切なMHCクラスIタンパク質に結合すると、CTLにより認識され得る)。一部の実施形態では、ペプチドは、Thエピトープを含む(例えば、ペプチドは、適切なMHCクラスIIタンパク質に結合すると、Thにより認識され得る)。一部の実施形態では、ペプチドの配列は、病原体若しくは新生細胞により自然にコード化される、より長いポリペプチドの一部の配列を含む、又はこれから構成されるか、あるいは、感染の結果、感染細胞により産生される。一部の実施形態では、抗原は、その配列が、異なる個別のポリペプチドに由来する複数の個別の配列を含む人工ポリペプチドである。例えば、個別の抗原の部分として見いだされ得るペプチドの配列を組み合わせて、こうした個別の抗原を起原とするエピトープを含む複合抗原を作製することができる。例えば、抗原は、X1-X2・・・-Xnとして表されるポリペプチドを含んでよく、ここで、X1、X2・・・Xnは、個別のタンパク質にみいだされるペプチドを示し、nは、例えば、2から5、10、20、又はそれを超える数値までの範囲であってよい。X1、X2などは、互いに直接隣接していてもよく、又は介在するリンカーによって連結されていてもよいことは理解されよう。得られる複合抗原は、複数の個別の抗原、例えば、個別の抗原の各々に対する免疫応答を刺激する能力を有しうる。一部の実施形態では、複数のエピトープ、例えば、複数の免疫優性エピトープを組み合わせて、複合抗原を作製する。一部の実施形態では、抗原の配列は、複数の個別のポリペプチド変異体を含み、こうした変異体は、病原体の様々な株、血清型、又はサブタイプにみいだされる。例えば、抗原は、病原体の2、5、10、20、又はそれを超える株、血清型、又はサブタイプ(例えば、クレード)から得られるペプチド若しくは多糖を含んでもよい。一部の実施形態では、抗原の配列は、複数の個別のポリペプチド変異体を含み、こうした変異体は、特定の属に属する異なる病原体株又は異なる病原体の種にみいだされる。一部の実施形態では、異なるポリペプチドの少なくともいくつかは、同じ病原体により自然にコード化される。一部の実施形態では、異なるポリペプチドは、異なる病原体により自然にコード化される。一部の実施形態では、異なる病原体は、ウイルス、細菌、真菌、又は寄生体である。一部の実施形態では、抗原の配列は、異なる個別の腫瘍抗原由来の複数の個別の配列を含む。一部の実施形態では、抗原は、ワクチン又はワクチン成分として当技術分野において公知であるか、又は当技術分野で使用されている。一部の実施形態では、エピトープ又は抗原は、その配列又は構造が、天然に存在する抗原と類似する合成化合物である。例えば、一部の実施形態では、天然に存在するエピトープ又は抗原の配列を、1つ又は複数のアミノ酸の付加、欠失、若しくは置換により改変してもよい。一部の実施形態では、エピトープ又は抗原は、天然に存在するポリペプチドの少なくとも一部に対して、配列が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくはそれを超える同一である部分を含み、天然に存在するポリペプチドの前記部分は、長さが少なくとも10;20;30;40;50;100;200;500;1,000;2,000;3,000又はそれを超えるアミノ酸である。
【0306】
一部の実施形態では、エピトープは、ペプチドのプールとして提供してもよく、これらのペプチドは、1つ又は複数のタンパク質に由来するものでよい。このタンパク質は、少なくともいくつかの個体において細胞性及び/又は液体性免疫の標的であることがわかっている1つ又は複数のタンパク質を含んでよい。一部の実施形態では、ペプチドの混合物は、MHCクラスIタンパク質に結合することができる少なくとも1つのエピトープと、MHCクラスIIタンパク質に結合することができる少なくとも1つのエピトープとを含んでもよい。一部の実施形態では、ペプチドの混合物は、少なくとも1つのCTLエピトープと少なくとも1つのThエピトープを含んでもよい。ペプチドプールは、様々なMHC対立遺伝子に結合することができる複数のエピトープを含んでもよい。プール中のペプチドは、多様な遺伝子バックグラウンドの個体に由来するMHC対立遺伝子に結合し得るものでもよく、また、多様な遺伝子バックグラウンドの個体に由来するT及び/又はB細胞を刺激することができるものでもよい。ペプチドは、長さが8~30アミノ酸(aa)、例えば、9~15aa、15~25aaであってよい。一部の実施形態では、ペプチドは、より長いタンパク質の化学的及び/又は酵素的な部分的加水分解により生成され得る。一部の実施形態では、ペプチドは、オーバーラップ合成ペプチドの混合物を含む。オーバーラップ合成ペプチドは、典型的に、アミノ酸の配列区間を表し、ここで、プール内の所与のペプチドは、少なくとも1aaから最大n-1aaだけ隣接ペプチドとオーバーラップしており、ここで、nは、ペプチドの長さである。所与のペプチドの最初のaaは、隣接するペプチドの最初のaaから、1aaから最大n-1だけずれていてもよく、ここで、nは、ペプチドの長さである。一部の実施形態では、上記のずれは、2、3、4、又は5アミノ酸である。例えば、個別のペプチドは、長さ15aa(15量体)で、その隣接ペプチドと11aaオーバーラップする(ずれ=4)。30アミノ酸ポリペプチドの1位から開始し、このようなペプチドプールは、aa1~15、aa5~20、aa10~25、及びaa15~30延伸するペプチドを含み得る。別の例として、ペプチドは長さ20aaで、配列ペプチドの間に10aaオーバーラップを有してもよい(ずれ=10)。プール中のペプチドは、同じ長さであってもよいが、同じ長さである必要はない。ペプチドプールは、他のペプチドの配列に完全に含まれるいくつかのペプチドを含んでもよい。ペプチドは、ポリペプチドの全長の全部又は一部に及んでもよい。一部の実施形態では、ペプチドプールは、特定のタンパク質又はタンパク質の9つペプチド配列を合計して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は全部を包含するペプチドを含む。ペプチドプール中の異なるペプチドの数は、2から約300、約500、約1,000、又はそれを超える数値までの範囲であってよい。一部の実施形態では、異なるペプチドの数は、少なくとも10、20、30、40、50、例えば、20~100、100~200、200~300、300~400、又は400~500である。標準的固相ペプチド合成方法を用いて、ペプチドを合成してもよい。
【0307】
一般に、特定の供給源を起原とする抗原又はエピトープは、様々な実施形態において、このような供給源から単離するか、あるいは、任意の適切な手段、例えば、組み換え核酸技術若しくは化学的合成、又はその組み合わせを用いて、生成することができる。抗原又はエピトープは、例えば、別の分子若しくは実体(例えば、アジュバント)との結合、化学的若しくは物理的変性などにより、修飾してもよい。いくつかの実施形態では、抗原又は抗原組成物は、細胞若しくは組織を含むか、又は少なくとも一部がそれに由来する。例えば、腫瘍又は腫瘍サンプルを被験者から取り出し、これを用いて、腫瘍若しくは腫瘍サンプル中に存在する1つ又は複数の抗原を単離又は同定することができる。このような抗原を用いて、例えば、抗原に結合する結合物質(例えば、抗体)を産生又は選択するように、免疫細胞をex vivoで刺激することができる。
【0308】
抗原は、様々な目的について有用となり得る。特定の抗原に由来するエピトープが、いくつかの実施形態において、こうした目的のために用いられ得ることは理解されよう。例えば、ある抗原を用いて、抗原に結合する抗体若しくは他の物質を同定、作製、試験、又は使用してもよく、あるいは、抗原を別の実体、例えば、ポリペプチド若しくは細胞に結合させてもよい。抗原をin vitroで用いて、免疫系の細胞をロード又は刺激することもできる。例えば、抗原をAPCと接触させて、APCが、エピトープを取り込み、プロセシングして、これらを細胞表面に提示するようにすることができる。APCを被験者に投与するか、又はこれをin vitroで用いて、適応免疫系(例えば、ナイーブT及び/又はB細胞)の細胞を刺激した後、細胞を被験者に投与してもよい。
【0309】
病原体由来の抗原は、例えば、各種薬剤(例えば、治療薬)を病原体若しくは病原体感染細胞にターゲティングさせる目的で、及び/又は病原体若しくは病原体感染細胞に対する免疫応答を調節(例えば、指令若しくは増強)する目的で、病原体若しくは病原体感染細胞を同定若しくは検出する(例えば、感染の診断を目的として、例えば、再発試験のための、感染症の治療を受けた被験者のモニタリングを目的として)上で有用となり得る。腫瘍抗原は、例えば、治療薬若しくは細胞を腫瘍細胞若しくは腫瘍関連細胞にターゲティングさせる目的で、及び/又は腫瘍細胞若しくは腫瘍関連細胞に対する免疫応答を調節(例えば、指令若しくは増強)する目的で、腫瘍細胞若しくは腫瘍関連細胞を同定若しくは検出する(例えば、感染の診断を目的として、例えば、再発試験のための、感染症の治療を受けた被験者のモニタリングを目的として)上で有用となり得る。
【0310】
自己抗原は、例えば、各種薬剤(例えば、治療薬)を、自己免疫疾患において不適切な、例えば、有害若しくは潜在的に有害な免疫応答が向けられる自己細胞若しくは物質にターゲティングする目的で、及び/又は有害若しくは潜在的に有害な免疫応答が向けられる自己細胞若しくは物質に向かう免疫応答を調節(例えば、阻害)する目的で、自己免疫疾患に寄与し得る抗体若しくは免疫系細胞を同定若しくは検出する(例えば、自己免疫疾患の診断を目的として、例えば、再発試験のための、自己免疫疾患の治療を受けた被験者のモニタリングを目的として)上で、また、自己免疫疾患において不適切な、例えば、有害若しくは潜在的に有害な免疫応答が向けられる自己細胞若しくは物質を同定若しくは検出する(診断又は治療選択を目的として)上で有用となり得る。
【0311】
移植片関連抗原は、例えば、各種薬剤(例えば、治療薬)を、移植片を受けた被験者において有害若しくは潜在的に有害な免疫応答が向けられる移植細胞にターゲティングする目的で、及び/又は移植片を受けた被験者における移植細胞に向かう免疫応答を調節(例えば、阻害)する目的で、移植拒絶反応に寄与し得る抗体若しくは免疫系細胞を同定若しくは検出する(例えば、移植拒絶反応の診断を目的として、例えば、再発試験のための、自己免疫疾患の治療を受けた被験者のモニタリングを目的として)上で、また、移植片を受けた被験者において有害若しくは潜在的に有害な免疫応答が向けられる移植細胞を同定若しくは検出する(診断又は治療選択を目的として)上で有用となり得る。
【0312】
一部の実施形態では、抗原は、実体、例えば、細胞、検出剤、又は治療薬を、病原体、病原体に感染した細胞、腫瘍細胞、又は腫瘍関連細胞にターゲティングさせるターゲティング部分の標的である。一部の実施形態では、抗原は、実体、例えば、細胞、検出剤、又は治療薬を、寛容性が求められる自己抗原若しくは他の抗原を含む細胞若しくは物質、例えば、移植片関連細胞にターゲティングさせるターゲティング部分の標的である。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、生存哺乳動物細胞に結合した薬剤は、抗体又は抗体断片などの抗原に結合する部分を含む。
【0313】
一部の実施形態では、タンパク質は、抗体、抗体断片又は抗体ドメインを含む。一部の実施形態では、抗体、抗体断片又は抗体ドメインを含むタンパク質を、ソルターゼを用いて生存哺乳動物細胞に結合させる。この細胞は、タンパク質の送達ビヒクルとして用いてもよく、及び/又は上記タンパク質は、抗体、抗体断片又は抗体ドメインが結合する標的に前記細胞をターゲティングするためのターゲティング部分としての役割を果たすこともできる。一部の実施形態では、タンパク質は、治療抗体である。本明細書に記載する様々な実施形態において有用な治療抗体の例として、限定はしないが、以下の抗体が挙げられる(非限定的な治療適用の例と一緒に、抗体の標的を括弧内に示す):アブシキシマブ(Abciximab)(糖タンパク質IIb/IIIa:心血管疾患)、アダリムマブ(Adalimumab)(TNF-α、様々な自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ)、アレムツマブ(Alemtuzumab)(CD52;慢性リンパ性白血病)、バシリキシマブ(Basiliximab)(IL-2Rα受容体(CD25);移植拒絶反応)、ベバシツマブ(Bevacizumab)(血管内皮増殖因子A;様々な癌、例えば、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、神経膠芽細胞腫、腎臓癌;滲出型加齢黄斑変性)、ブリナツモマブ(Blinatumomab)(抗CD3/抗CD19;様々な血管系悪性疾患)、ブレツキシマブ(Brentuximab)(CD30;様々な血管系悪性疾患);カツマキソマブ(Catumaxomab)(CD3及びEpCAM;悪性腹水症)、セツキシマブ(Cetuximab)(EGF受容体、様々な癌、例えば、結腸直腸癌、頭頸部癌)、セルトリツマブ(Certolizumab)(例えば、セルトリツマブペゴール(Certolizumab pegol)(TNFα;クローン病、関節リウマチ)、ダクリツマブ(Daclizumab)(IL-2Rα受容体(CD25);移植拒絶反応)、エクリツマブ(Eculizumab)(補体タンパク質C5;発作性夜間ヘモグロビン尿症)、エファリツマブ(Efalizumab)(CD11a;乾癬)、エロツズマブ(Elotuzumab)(CD1(SLAMF7及びCD319としても知られる、多発性骨髄腫);エプラツズマブ(Epratuzumab)(CD22;非ホジキンリンパ腫;狼瘡;ALL);ゲマツズマブ(Gemtuzumab(CD33;急性骨髄性白血病(例えば、カリケアミシン(calicheamicin)と併用)、イブリツモマブチウキセタン(Ibritumomab tiuxetan)(CD20;非ホジキンリンパ腫(例えば、イットリウム-90若しくはインジウム-111と併用))、インフリキシマブ(Infliximab)(TNFα;様々な自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ)、(イピリムマブ(Ipilimumab);CTLA-4、黒色腫、前立腺癌)、ミラツズマブ(Milatuzumab)(CD74;CD74-陽性血液系悪性疾患及び固形腫瘍);ムロモナブ-CD3(T細胞CD3受容体;移植拒絶反応)、ナタリズマブ(Natalizumab)(α-4(α4)インテグリン;多発性硬化症、クローン病)、ニボルマブ(Nivolumab)(PD-1;癌、例えば、非小細胞肺癌、黒色腫、及び腎細胞癌);オマリズマブ(Omalizumab)(IgE;アレルギー性喘息);オハツムムアブ(Ofatumumuab)(CD20;非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病);オビヌツズマブ(Obinutuzumab)(CD20;非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病);パリビズマブ(Palivizumab)(RSV Fタンパク質のエピトープ;RS(Respiratory Syncytial)ウイルス感染症)、パニツムマブ(Panitumumab)(EGF受容体;癌、例えば、結腸直腸癌)、ラニビズマブ(Ranibizumab)(血管内皮増殖因子a;滲出型加齢黄斑変性)、リツキシマブ(Rituximab)(CD20;非ホジキンリンパ腫)、トシツモマブ(Tositumomab)(CD20;非ホジキンリンパ腫)、トラスツズマブ(Trastuzumab)(ErbB2;乳癌);トレメリムマブ(Tremelimumab)(CTLA-4、黒色腫);ベルツズマブ(CD20;非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病)、並びにこれらのあらゆる抗原結合断片。一部の実施形態では、抗体又は他の結合物質は、前述した抗体の何れかと同じ標的に結合する。一部の実施形態では、抗体又は他の結合物質は、その標的との結合について、前述した抗体の何れかと競合する。前述の抗体又は記載した他の抗体の何れかの抗原結合ドメインを用いてもよいことは理解されよう。例えば、Fabフラグメント又は一本鎖可変フラグメント(scFv)を用いてもよい。
【0314】
一部の実施形態では、結合部分、例えば、抗体は、哺乳動物受容体の細胞外ドメインに結合する。一部の実施形態では、受容体は、正常細胞、例えば、同じ細胞型の正常細胞と比較して、腫瘍細胞で過剰発現される、及び/又は正常細胞、例えば、同じ細胞型の正常細胞と比較して、腫瘍細胞において活性が増大している。一部の実施形態では、受容体は、突然変異した遺伝子によりコード化されるか、染色体転位により得られる融合遺伝子である、及び/又は腫瘍細胞において増幅される。一部の実施形態では、受容体は、タンパク質キナーゼ、例えば、チロシンキナーゼ又はセリン/トレオニンキナーゼである。一部の実施形態では、受容体は、発癌性タンパク質キナーゼである。
【0315】
一部の実施形態では、治療用モノクローナル抗体と、同じ疾患を治療するのに有用であるか、又はターゲティング部分を含む第2薬剤とを、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、第2薬剤は、ポリペプチド、ペプチド、小分子、又は第2抗体を含む。
【0316】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体と、サイトカイン、例えば、インターフェロン、例えば、インターフェロンαとを、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させる。任意選択で、モノクローナル抗体とサイトカインの両方が、同じ疾患を治療するのに有用である。
【0317】
一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質(この用語は、多重鎖タンパク質と置き換え可能に用いる)の1つ又は複数のサブユニットを、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、受容体(例えば、細胞表面受容体)である。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、酵素である。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、サイトカインである。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質は、チャネル又は輸送体である。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質の少なくとも1つのサブユニットは、ソルターゼ認識モチーフを含み、これを用いて、サブユニットを哺乳動物細胞に結合させるか、又はある部分を前記ポリペプチドに結合させることができる。様々なマルチサブユニットポリペプチド、並びにソルターゼを用いてそれらを修飾する方法は、国際公開第2011/133704号パンフレットに記載されている。一部の実施形態では、ソルターゼ認識モチーフは、柔軟なループ中に位置し、これをプロテアーゼで切断して、得られる切断産物のC末端又はその付近にソルターゼ認識モチーフを位置させることができる。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質の第1サブユニットを哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、次に、より多くの別のサブユニットの1つを第1サブユニットと結合させて、完全なマルチサブユニットタンパク質を形成してもよい。一部の実施形態では、このような結合は、in vitroで行ってもよい。1つ又は複数の別のサブユニットを培養容器に添加してもよく、又は容器中の細胞に産生させてもよい。一部の実施形態では、結合は、被験者への細胞の投与後にin vivoで行ってもよい。一部の実施形態では、1つ又は複数の別のサブユニットは、投与した細胞、被験者の身体の他の細胞に産生させてもよく、又はサブユニットを被験者に投与してもよい。一部の実施形態では、2つ以上のサブユニット(その少なくとも1つは、ソルターゼ認識モチーフを含む)が集合して、マルチサブユニットタンパク質を形成した後、哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、2つ以上のサブユニットを互いに直接共有結合させた後、タンパク質を哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、こうした連結は、マルチサブユニットタンパク質の適正な折り畳みを促進する(例えば、折り畳みを加速するか、又は正しく折り畳まれた機能性タンパク質の割合を増加する)。一部の実施形態では、マルチサブユニットタンパク質のサブユニットを、ソルターゼを用いて修飾した後、タンパク質のサブユニット又は別のサブユニットを哺乳動物細胞に結合させる。例えば、ソルターゼを用いて、標識を第1サブユニットに結合させ、第2サブユニットを細胞に結合させてもよい。様々な実施形態において、様々な結合及び/又は会合ステップを任意の順に行ってよい。
【0318】
一部の実施形態では、タンパク質は、標的に結合するペプチドを含む。一部の実施形態では、ディスプレイ技術、例えば、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、リボソームディスプレイ、細菌ディスプレイ、又は指向性進化を用いて、ペプチドを選択する。一部の実施形態では、ペプチドは、ペプチドライブラリーから選択する。一部の実施形態では、タンパク質は、例えば、プロテインZ、フィブロネクチン、アンキリン反復タンパク質;システイン-ノットミニタンパク質、アルマジロ(Armadillo)リピートタンパク質、リポカリン、又はステフィンA由来の1つ又は複数のタンパク質フォールド又はドメインに基づくものか、又はこれを取り込んだものなど、当技術分野では公知の様々なポリペプチドスカフォールドを含んでもよい。一部の実施形態では、タンパク質は、アフィボディ、アドネクチン、DARPin、ノッティン(knottin)、アンチカリン、又はステフィンを含む。タンパク質、例えば、アフィボディ、アドネクチン、DARPin、ノッティン(knottin)、アンチカリン、又はステフィンは、対象の標的に結合するように、設計又は選択することができる。このような操作された結合タンパク質は、一部の実施形態では、典型的抗体と同等か、又は一部の実施形態では、それより優れた特異性及び/又は親和性を有する。一部の実施形態では、標的に結合するペプチドは、ポリペプチドスカフォールドに分泌される。様々なタンパク質及びポリペプチドスカフォールドの論述については、例えば、Hoffmann,T.,et al.Protein Eng Des Sel.,23(5):403-13,2010、及びその参照文献を参照されたい。一部の実施形態では、こうした任意のタンパク質又はスカフォールドを、例えば、結合部分、ターゲティング部分、免疫調節剤、若しくは治療薬として用いる。
【0319】
一部の実施形態では、結合物質又は部分、例えば、抗体は、約10-6M未満、約10-7M未満、約10-8M未満、約10-9M未満、約10-10M未満、約10-11M未満、約10-12M未満、若しくは約10-13M未満のKDで、標的抗原、標的実体、又は結合パートナーに結合する。いくつかの実施形態において、結合物質又は部分は、約10-6M~約10-13M、例えば、約10-6M~約10-7M、約10-7M~約10-8M、約10-8M~約10-9M、約10-9M~約10-10M、約10-10M~約10-11M、若しくは約10-11M~約10-12M、又は約10-12M~約10-13MのKDで、標的抗原又は標的実体又は結合パートナーに結合する。いくつかの実施形態では、結合相互作用は、約10-16M~約10-12MのKDを有し得る。
【0320】
一部の実施形態では、核酸、例えば、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はアプタマーを、ソルターゼを用いて哺乳動物細胞に結合させてもよく、あるいは、細胞の増殖、活性化、若しくは分化を促進又は阻害するのにin vitroで用いてもよい。一部の実施形態では、核酸アプタマーが、例えば、結合部分、ターゲティング部分、免疫調節剤、治療薬、リガンドとして有利である。アプタマーは、その標的(例えば、タンパク質標的)と特異的に、かつ高い親和性で結合するオリゴヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、一本鎖である(しかし、一部の実施形態では、分子内相補性によって二本鎖の二次構造の領域を形成する場合もある)。アプタマーは、例えば、試験管内人工進化法(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)(SELEX)、ファージディスプレイ、又は様々な指向性進化技術を用いた選択方法によりみいだすことができる。例えば、以下:Turek,C.and Gold,L.,Science 249:505-10,1990;Brody EN and Gold LJ,Biotechnol.J,74(1):5-13,2000;L.Cerchia and V.de Franciscis,Trends Biotechnol.,28:517-525,2010;Keefe,A.Nat.Rev.Drug Discov.9:537-550,2010を参照されたい。アプタマーは、DNA又はRNA骨格を用いて作製することができ、その何れかは、2’-アミノ、2’-フルオロ、又は2’-O-アルキルヌクレオチドの置換などの多様な修飾の何れかを含んでもよい。アプタマーは、ほとんどの標的に対して作製することができ、これらが結合するタンパク質の機能を阻害するか、又はこれらが結合する受容体を活性化するアゴニストとして作用し得る。アプタマーは、例えば、約25~80ntの長さであってよく、化学的に合成することができる。
【0321】
一部の実施形態では、例えば、ターゲティング部分、免疫調節剤、検出剤、治療薬、又は受容体を活性化若しくは阻害するリガンドとして、小分子を用いてもよい。
【0322】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞に結合させようとする薬剤は、抗癌剤(「化学療法薬」とも呼ばれる)を含む。いくつかの実施形態では、抗癌剤及びターゲティング部分の両方と細胞を結合させ、ターゲティング部分は、細胞を癌にターゲティングさせるが、この癌は、一部の実施形態では、典型的に、抗癌剤で治療されるタイプの癌である。いくつかの実施形態では、抗癌剤及び/又は細胞を癌にターゲティングさせるターゲティング部分と結合した細胞を、癌の治療が必要な被験者に投与する。様々な実施形態において、任意の抗癌剤を用いてよい。一部の実施形態では、抗癌剤は、タンパク質、例えば、モノクローナル抗体である。一部の実施形態では、抗癌剤は、酵素、例えば、アスパラギナーゼである。用いることができる化学療法薬の非限定的例として、例えば、以下のものが挙げられる:ナイトロジェンマスタード(例えば、クロランブシル、クロルメチン、シクロホスファミド、イソスファミド、及びメルファラン)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、フォテムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン)などのアルキル化剤及びアルキル化様薬剤;プラチナ系薬剤(例えば、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、BBR3464、サトラプラチン)、ブスルファン、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミド、チオTEPA、トレオスルファン、及びウラムスチン;葉酸などの代謝抵抗物質(例えば、アミノプテリン、メトトレキセート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド);クラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントサチン、チオグアニンなどのプリン;カペシタビン、シタラビン、フルオロウラシル、フロクスウリジン、ゲムシタビンなどのピラミジン;タキサン(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル)、ビンカス(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビン)、エポチロンなどの紡錘体阻害剤/有糸分裂阻害剤;アントラシクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ピキサトロン、及びバルルビシン)、ストレプトミセス(Streptomyces)の様々な種により自然に産生される化合物(例えば、アクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン)及びヒドロキシウレアなどの細胞傷害性/抗腫瘍抗生物質;カンプトテカ(例えば、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン)及びポドフィラム(例えば、エトポシド、テニポシド)などのトポイソメラーゼ阻害剤;抗受容体チロシンキナーゼ(例えば、セツキシマブ、パニツムマブ、トラスツズマブ)、抗CD20(例えば、リツキシマブ及びトシツモマブ)、並びにその他、例えば、アレムツズマブ、アエバシズマブ、ゲムツズマブなどの癌治療用のモノクローナル抗体;アミノレブリン酸、アミノレブリン酸メチル、ポルフィマーナトリウム、及びベルテポルフィンなどの光増感剤;チロシン及び/又はセリン及び/又はトレオニンキナーゼ阻害剤、例えば、Abl、Kit、インスリン受容体ファミリーメンバー、VEGF受容体ファミリーメンバー、EGF受容体ファミリーメンバー、PDGF受容体ファミリーメンバー、FGF受容体ファミリーメンバー、mTOR、Rafキナーゼファミリー、ホスファチジルイノシトール(PI)キナーゼ、例えば、PI3キナーゼ、PIキナーゼ様キナーゼファミリーメンバー、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)ファミリーメンバー、オーロラ(Aurora)キナーゼファミリーメンバー(例えば、市販されているか、又は腫瘍において少なくとも第III相試験で効力が証明されたキナーゼ阻害剤、例えば、セジラニブ、クリゾチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、バンデタニブ)、成長因子受容体アンタゴニスト、並びにレチノイド(例えば、アリトレチノイン及びトレチノイン)、アルトレタミン、アムサクリン、アナグレリド、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ(例えば、ペガスパラガーゼ)、ベキサロテン、ボルテゾミブ、デニロイキンジフチトクス、エストラムスチン、イキサベピロン、マソプロコール、ミトタン、及びテストラクトン、Hsp90阻害剤、プロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)、血管新生阻害剤、例えば、ベバシツマブ(Avastin)若しくはVEGF受容体アンタゴニスト若しくは可溶性VEGF受容体ドメイン(例えば、VEGF-Trap)などの抗血管内皮増殖因子剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、各種アポトーシス促進剤(例えば、アポトーシス誘導剤)、Ras阻害剤、抗炎症剤、癌ワクチン、又はその他の免疫調節治療薬、癌遺伝子に対してターゲティングさせるRNAi剤など。前述の分類が非限定的であることは理解されよう。いくつかの抗腫瘍剤は、複数の活性又は作用機構を有しているため、複数のカテゴリー若しくはクラスに分類することができ、あるいは、さらに別の作用機構又は標的を有し得る。
【0323】
一部の実施形態では、哺乳動物に結合しようとする薬剤は、抗微生物剤を含む。本明細書で用いる場合、抗微生物剤は、細菌、ウイルス、真菌、寄生体(例えば、原生動物、蠕虫(微小であるなし関係なく)の増殖若しくは活性を阻害する、無力化する、破壊する、又は死滅させる化合物;ウイルス、細菌、若しくは寄生体による細胞への侵入を阻害する化合物;ウイルス、細菌、若しくは寄生体生活環の1つ又は複数のステップを阻害する化合物を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、細菌、ウイルス、若しくは寄生体に対する使用に適した抗微生物剤、及びターゲティング部分と結合させ、ターゲティング部分は、細菌、ウイルス、若しくは寄生体に対して前記細胞をターゲティングさせるか、又は細菌、ウイルス、若しくは寄生体に感染した細胞に対して前記細胞をターゲティングさせる。
【0324】
当業者は、本明細書に記載するタンパク質又は対象の他のタンパク質の配列を認識しており、あるいは容易に取得することができるであろう。ヒトを含む多様な種に由来する天然に存在する配列、例えば、ゲノム、mRNA、及びポリペプチド配列は、当技術分野では公知であり、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)(www.ncbi.nih.gov)又はUniversal Protein Resource(www.uniprot.org)から入手可能なものなど、一般に閲覧可能なデータベースで入手可能である。データベースとしては、例えば、GenBank、RefSeq、Gene、UniProtKB/SwissProt、UniProtKB/Tremblなどが挙げられる。一般に、NCBIリファレンス配列(Reference sequence)データベースにおける配列、例えば、核酸(例えば、mRNA)及びポリペプチド配列を基準配列として用いてよい。同じ種の個体間には、1遺伝子の複数の対立遺伝子が存在することは理解されよう。例えば、所与の種の個体間で、特定のタンパク質をコード化する核酸の1つ又は複数のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチドの最大約1%、2%、3~5%)に相違が存在し得る。遺伝子コードの縮重のために、このような変異は、多くの場合、コード化アミノ酸配列を改変しないが、コード化タンパク質の配列に変異をもたらすDNA多型性が存在することもある。多型性変異体の例は、例えば、NCBIウェブサイト:www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/で入手可能なSingle Nucleotide Polymorphism Database(dbSNP)にみいだすことができる。(Sherry ST,et al.(2001).”dbSNP:the NCBI database of genetic variation”.Nucleic Acids Res.29(1):308-311;Kitts A,and Sherry S,(2009)。The NCBI Handbook[Internet]におけるヌクレオチド配列変異の単一ヌクレオチド多型性データベース(dbSNP)(The single nucleotide polymorphism database(dbSNP)of nucleotide sequence variation)。McEntyre J,Ostell J,editors.Bethesda(MD):National Center for Biotechnology Information(US);2002(www.ncbi.nlm.nih.gov/bookshelf/br.fcgi?book=handbook&part=ch5)。選択的RNAスプライシング又は編成の結果、特定のタンパク質の複数のアイソフォームが存在し得る。一般に、本開示の態様が、遺伝子又は遺伝子産物に関する場合、特に記載されていない限り、対立遺伝子変異体又はアイソフォームに関する実施形態も包含される。特定の実施形態は、特定の配列、例えば、特定の対立遺伝子又はアイソフォームを対象とし得る。遺伝子コードの縮重のために、ポリペプチドは、多数の異なる核酸配列の何れかによってコード化され得る。ポリペプチドを組み換えにより生成する場合には、必要に応じて、特定の種における発現のために、ポリペプチドをコード化する核酸配列を選択するか、又はコドン最適化してよい。本明細書において、タンパク質又はポリペプチド、例えば、天然に存在するタンパク質又はポリペプチドについて述べる場合にはいつでも、本明細書は、変異体若しくは断片、例えば、機能性変異体若しくは断片を用いることができる実施形態を提供する。(前述の変異体若しくは断片についての説明を参照)。例えば、欠失しているか、又は不十分な量で存在する酵素を補充又は置換する目的で、哺乳動物細胞に結合させる酵素は、それが適切な触媒活性を提供する限りにおいて、欠失又は不十分な天然酵素と配列が同一である必要はない。
【0325】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞に結合させるタンパク質又は他の部分をペグ化する。一部の実施形態では、ペグ化は、例えば、タンパク質又は他の部分を哺乳動物細胞に結合させる前に、ソルターゼを用いて達成され得る。例えば、タンパク質をそのN末端でペグ化した後、そのC末端を介して哺乳動物細胞に結合する。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、ペグを含む部分を哺乳動物細胞に結合させる。
【0326】
本明細書に記載するソルタギング済み細胞、例えば、ソルタギング済み哺乳動物細胞は、いくつかの用途を有する。これらの用途の一部を本明細書に記載するが、本発明は、本明細書に記載の用途に限定されるものではない。一部の実施形態では、ソルタギング済み哺乳動物細胞は、細胞療法で用いることができる。本明細書で用いる場合、「細胞療法」、「細胞に基づく療法」、又は「細胞療法」という用語は、置き換え可能に用いられて、治療を目的とする、被験者への真核細胞、例えば、哺乳動物細胞の投与を指す。一部の実施形態では、細胞療法は、細胞に基づく免疫療法を含み、これは、治療を目的として、被験者の免疫系又は免疫応答を調節若しくは増大するための被験者への細胞の投与を指す。細胞に基づく免疫療法は、被験者への免疫系細胞の投与を含み、投与された細胞若しくはその子孫は、それ自身のエフェクター機構及び/又は被験者の免疫系の細胞若しくは物質との相互作用により、治療利益を被験者に付与し得る。本開示が、投与された細胞の効果について述べる場合には、このような効果は、投与細胞及びin vivoで産生されるその子孫の効果を包含する。一部の実施形態では、細胞療法は、癌、感染症、自己免疫疾患、又は酵素欠損の治療のために投与される。いくつかの実施形態では、投与細胞は、それらが投与される個体を起原とするもの(オートロガス)でも、同じ種の遺伝的に同一の別の個体を起原とするもの(同質遺伝子)でも、同じ種の遺伝的に同一ではない別の個体を起原とするもの(同種異系)でも、又は異なる種の個体を起原とするものでもよい。いくつかの実施形態では、同種異系細胞は、細胞を投与する被験者と免疫適合性である個体を起原とするものであってよい。
【0327】
一部の実施形態では、薬剤のソルターゼ媒介結合により修飾した生存哺乳動物細胞を薬剤の送達ビヒクルとして用いる。例えば、表面に結合したタンパク質を有する生存哺乳動物細胞は、タンパク質の送達ビヒクルとして役立ち得る。このような細胞は、上記タンパク質の欠損を患う被験者又はタンパク質のレベル増加から利益を受け得る被験者に投与してよい。一部の実施形態では、例えば、注入により細胞を循環系に投与する。一部の実施形態では、細胞を静脈内投与する。例えば、造血細胞、例えば、RBC、WBC、血小板を循環系に投与することができる。一部の実施形態では、例えば、注入により、上記細胞をリンパ系に投与する。一部の実施形態では、タンパク質は、血液中に通常存在するもの、例えば、肝臓により、又は造血細胞若しくは内皮細胞生成されるタンパク質である。一部の実施形態では、タンパク質は、酵素である。酵素は、触媒として活性であってもよく、又は投与後に触媒として活性になってもよい。一部の実施形態では、酵素は、血液中の基質に対して作用し得る。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞に結合したタンパク質の少なくとも一部を細胞からin vivoで放出させてもよい。放出は、切断により行ってよく、このことも、一部の実施形態では、タンパク質を活性化する。例えば、タンパク質を不活性酵素前駆体(チモーゲン)として結合させてもよい。一部の実施形態では、ソルターゼ修飾細胞を局所的に、例えば、タンパク質若しくはタンパク質が、通常、生成されるか、又は活性である組織又は器官に投与する。様々なタンパク質、例えば、酵素の欠損に関連する多様な疾患の例は、前文に記載している。
【0328】
いくつかの実施形態では、抗微生物剤及び/又は微生物若しくは寄生体に細胞をターゲティングさせるターゲティング部分と結合した哺乳動物細胞を、前記微生物若しくは寄生体による感染のリスクを有するか、又はそれらに感染している被験者、例えば、前記微生物若しくは寄生体に最近曝露され、検出可能レベルの微生物若しくは寄生体を(例えば、血液中に)保有すると判断されたか、又は前記微生物若しくは寄生体に起因する感染症に臨床的に罹患した状態の被験者に投与することができる。細胞は、循環系に投与してもよく、又は感染部位若しくはその付近に局所投与してもよい。
【0329】
いくつかの実施形態では、毒性若しくは有害物質を阻害する薬剤と結合した哺乳動物細胞を、前記毒性若しくは有害物質に曝露され、これらの物質からの毒性若しくは損傷のリスクを有する被験者、暴露の症状を呈する被験者、又は暴露のリスクを有する被験者に投与することができる。例えば、毒素を阻害する薬剤と結合された細胞で治療することができる毒素生成病原体に感染しているか、又は病原体に曝露された被験者。
【0330】
一部の態様では、ソルターゼを用いて、細胞免疫療法に用いることができる哺乳動物細胞を修飾する。例えば、一部の実施形態では、1つ又は複数のエピトープ又は抗原(例えば、病原体又は腫瘍のエピトープ若しくは抗原)を、ソルターゼを用いて、哺乳動物細胞に結合させることができる。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、造血細胞、例えば、RBCである。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、線維芽細胞である。一部の実施形態では、抗原、又は抗原を含む細胞、例えば、病原体、病原体感染細胞、腫瘍細胞、毒性物質などに対する免疫応答を誘導若しくは増強するために、ソルターゼ修飾細胞を被験者に投与することができる。一部の実施形態では、他の細胞、例えば、T細胞、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ)、B細胞、NK細胞、又はこれら細胞の何れかの前駆体などの免疫系細胞を刺激又は活性化するために、ソルターゼ修飾細胞をex vivoで用いてもよい。一部の態様では、本開示は、細胞の人工APCを生成又は修飾する方法を提供する。例えば、一部の実施形態では、細胞は、それがAPCとして役立つことを可能にするか、又はAPCとして役立つ、例えば、共刺激をもたらすその能力を改善する1つ又は複数の部分(例えば、抗原、TCR結合分子、共刺激分子)とソルタギングする。一部の実施形態では、例えば、病原体、病原体感染細胞、腫瘍、毒性物質などに向けられる免疫応答を誘導又は増強するために、ソルターゼ修飾細胞との接触によりex vivoで刺激した細胞を被験者に投与する。
【0331】
一部の実施形態では、ソルターゼ修飾哺乳動物免疫系細胞を養子免疫療法に用いる。「養子免疫療法」は、「養子細胞移入」(ATC)とも呼ばれ、例えば、治療を目的とする、被験者への免疫系細胞の投与(移入)を指す。一部の実施形態では、投与された免疫系細胞は、腫瘍、病原体、又は病原体感染細胞に対して免疫応答を及ぼす。例えば、細胞傷害性T細胞(例えば、CD8+T細胞)、NK細胞、又は食細胞(例えば、好中球、マクロファージ)は、標的細胞に直接的細胞傷害作用を及ぼし得る。一部の実施形態では、標的細胞は、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、病原体感染細胞、又はその他の不要細胞であってよい。一部の実施形態では、標的細胞は、自己細胞若しくは組織に異常若しくは損傷作用をもたらす免疫系細胞であってもよい。例えば、標的細胞は、自己反応性T細胞クローン、自己抗体を生成する血漿細胞などであってもよい。
【0332】
いくつかの実施形態では、免疫系細胞(例えば、細胞傷害性T細胞、NK細胞、CD4+T細胞、DC、好中球、マクロファージ)を、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、病原体感染細胞、又はその他の不要細胞に前記細胞をターゲティングするターゲティング部分とソルタギングする。ターゲティング部分は、標的に結合する任意の部分であってよい。ターゲティング部分は、例えば、抗体、抗体断片、操作ポリペプチド、アプタマー、又はリガンド(例えば、小分子リガンド)を含んでもよい。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、腫瘍抗原に結合する。ターゲティング部分は、前記細胞を、腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞に対してターゲティングさせる。様々な異なる腫瘍抗原に特異的に結合する結合物質(例えば、モノクローナル抗体)は、当技術分野では公知であり、また、当技術分野では公知の方法を用いて、別の結合物質をみいだすことができる。例えば、トラスツズマブは、Her2/Neuに結合するため、Her2/Neuを発現する腫瘍(例えば、いくつかの乳癌)をターゲティングするためのターゲティング部分として用いることができる。リツキシマブは、CD20に結合するため、CD20を発現する悪性疾患(例えば、非ホジキンリンパ腫(例えば、濾胞性リンパ腫)、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫)をターゲティングするためのターゲティング部分として用いることができる。いくつかの実施形態では、ソルタギング済み細胞は、それらがターゲティングされる腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、病原体感染細胞、又はその他の不要細胞若しくは物質に対する免疫応答を開始するか、又はそれらに対する内在性免疫応答を促進する。免疫応答は、細胞性細胞傷害性、抗体産生、サイトカイン又は標的細胞を損傷させる他の物質の放出などを含み得る。一部の実施形態では、投与する細胞は、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、又は病原体感染細胞により発現される1つ又は複数の抗原に対してin vitroで露出させておいてもよい。細胞は、ソルタギングの前又は後の何れに露出させてもよい。一部の実施形態では、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、又は病原体感染細胞により発現される抗原のエピトープを提示するAPCに対して細胞をex vivoで露出させておいてもよい。一部の実施形態では、細胞は、細胞が増殖、分化する、又は活性化状態になるようにこれを刺激する薬剤、例えば、抗CD3抗体、共刺激因子などに対してin vitroで露出させる。一部の実施形態では、APC、例えば、DCを腫瘍、病原体、病原体感染細胞、又は他の標的にターゲティングさせることによって、APCによる標的関連抗原の提示が増大し、これにより、内在性又は投与された免疫系細胞により開始された免疫応答が増大し得る。一部の実施形態では、CD4+T細胞を腫瘍、病原体、病原体感染細胞、又は他の標的にターゲティングさせることによって、これらの細胞による「ヘルパー」機能の提供が増大し、これにより、内在性又は投与された免疫系細胞により開始された免疫応答が増大し得る。
【0333】
一部の実施形態では、標的細胞、例えば、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、又は病原体感染細胞に対して毒性作用を及ぼすことができる物質を含む薬剤と、哺乳動物細胞をソルタギングする。一部の実施形態では、前記細胞を被験者に投与して、毒性物質を腫瘍などの標的に送達する。一部の実施形態では、毒性物質は、アポトーシス促進剤、細胞溶解剤、細胞傷害剤、又は毒素を含む。一部の実施形態では、標的細胞は、ソルタギング済み細胞に比べ、毒性物質の毒性作用に対して比較的感受性が高い。例えば、ソルタギング済み細胞は、毒性物質とソルタギングした際、概して生存性を維持し、しかも標的細胞に対して致命的な量で標的細胞に毒性物質を送達することができる。標的細胞は、標的細胞を毒性物質の作用に対して感受性にする1つ又は複数の様式で、ソルタギング済み細胞とは相違し得る。大部分の非腫瘍細胞と比較して、腫瘍細胞の代謝、増殖速度、又は癌遺伝子発現の違いを利用して、腫瘍細胞に対して選択的に毒性の薬剤を選択することができる。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞は、自然に、又は操作の結果、毒性物質の受容体が欠失しているか、又は毒性物質が作用する分子標的又は機能性生物学的経路を欠失していてもよく、あるいは、そうでない場合、毒性物質の作用に対して比較的低感受性にすることもできる。
【0334】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞、例えば、免疫系細胞を、細胞溶解ドメインを含む薬剤とソルタギングしてもよい。例えば、パーホリン、グランザイム、グラニュライシン又は生物学的に活性のそれらのドメインと細胞をソルタギングすることができる。このような細胞溶解ドメインは、細胞の細胞傷害活性を増大する(例えば、細胞が細胞傷害性細胞である場合)か、あるいは、それが欠如している細胞に細胞傷害活性を付与し得る。一部の実施形態では、細胞溶解ドメインは、被験者に天然に存在する細胞溶解物質、例えば、細胞を溶解するために被験者の免疫系細胞によって通常用いられるものを含むか、又はそれに由来する。一部の実施形態では、細胞溶解ドメインは、被験者に天然に存在する細胞溶解物質を含むか、又はそれに由来する。例えば、様々な細胞溶解毒素、例えば、多様な微生物により産生されるサイトリシンが知られている(例えば、以下の説明を参照のこと)。薬剤は、溶解しようとする標的細胞、例えば、腫瘍細胞、感染細胞、病原体などに前記細胞をターゲティングさせるターゲティング部分をさらに含んでもよい。一部の実施形態では、ターゲティング部分を細胞に個別に結合する。
【0335】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞、例えば、免疫系細胞を、アポトーシス促進剤とソルタギングしてもよい。一部の実施形態では、アポトーシス促進剤は、アポトーシスを促進するドメイン(アポトーシス促進ドメイン)を含む薬剤である。一部の実施形態では、アポトーシス促進剤は、細胞に導入されるか、又はそこで活性化されると、アポトーシス経路を開始若しくは増強することができる薬剤である。当技術分野では公知のように、アポトーシスは、多細胞生物、例えば、哺乳動物において起こるプログラムされた細胞死のプロセスである。アポトーシスドメインは、アポトーシス経路を開始若しくは増強する細胞外シグナルを送達することができる任意のドメインであってよい。一部の実施形態では、アポトーシス経路は、カスパーゼ、例えば、イニシエータカスパーゼの活性化を引き起こし、次に、これがエフェクターカスパーゼを活性化する。エフェクターカスパーゼは、様々な細胞内タンパク質をタンパク質分解により分解して、細胞死プログラムを実施する。アポトーシス促進ドメインとしては、例えば、哺乳動物細胞においてTNFα受容体(例えば、TNF-R1)又はFasに結合するリガンドがある。一部の実施形態では、アポトーシス促進ドメインは、TNF-R1又はFasを活性化することができる任意の部分を含んでもよい。一部の実施形態では、アポトーシス促進ドメインは、FasL、Trail、Tweak、リンホトキシン(Lymphotoxin)、TNFα、又はその生物学的に活性のドメインを含む。アポトーシス促進ドメイン又は他のアポトーシス促進剤は、細胞の細胞傷害活性を増大する(例えば、細胞が細胞傷害性細胞である場合)か、あるいは、そうでなければ、細胞傷害活性が欠失している細胞に細胞傷害活性を付与し得る。一部の実施形態では、アポトーシス促進ドメイン又は他のアポトーシス促進剤は、被験者に天然に存在するタンパク質、例えば、被験者の免疫系細胞により通常、又は発生中、若しくはアポトーシスを伴う他の生理学的プロセス中に、用いられるタンパク質を含むか、又はそれに由来する。アポトーシス促進ドメイン又は他のアポトーシス促進剤は、被験者に天然に存在するタンパク質を含むか、又はそれに由来する。一部の実施形態では、アポトーシス促進ドメイン又は他のアポトーシス促進剤は、被験者に天然に存在しない物質を含むか、又はこれに由来する。一部の実施形態では、アポトーシス促進剤は、Trail受容体アゴニストを含む。Trail受容体には、Trail-R1(細胞死受容体4(DR4)としても知られる)及びTrail-R2(細胞死受容体5(DR5)としても知られる)がある。Trail受容体アゴニストとしては、天然リガンドTrail、並びにTrail受容体に結合して、Trailの作用を模倣する他の物質がある。一部の実施形態では、Trail受容体アゴニストは、Trail-R1及び/又はTrail-R2に結合するモノクローナル抗体、例えば、マパツムマブ(ヒト抗DR4mAb)、ティガツズマブ(ヒト化抗DR5mAb)、レクサツムマブ(ヒト抗DR5mAb)、コナツムマブ(ヒト抗DR5mAb)、アポマブ(ヒト抗DR5mAb)である。一部の実施形態では、TRAIL又はTRAIL受容体アゴニストは、乳癌、結腸癌、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌、甲状腺癌、神経膠腫、多発性骨髄腫又は白血病の治療に有用である。一部の実施形態では、アポトーシス促進剤は、Bcl-2、Bcl-xL、若しくはBcl-wなどの抗アポトーシスタンパク質を阻害することにより、又は細胞内部のBAX、BID、BAK、若しくはBADなどのアポトーシス促進タンパク質を活性化することにより、アポトーシスを誘導する。例えば、アポトーシス促進剤は、BH3-onlyタンパク質ファミリーのメンバー又はその生物学的に活性のドメインであってよい。BH3-onlyタンパク質は、Bcl-2ファミリーの抗アポトーシスメンバーを阻害する。こうしたタンパク質の例として、NOXA又はその生物学的に活性のドメイン(例えば、BH3ドメイン又はミトコンドリアターゲティングドメイン)がある。一部の実施形態では、アポトーシス促進剤は、ABT-737、ABT-263(ナビトクラックス(navitoclax))又はABT-199などの小分子BH3模倣物を含む(Vandenberg CJ and Cory,S.,Blood.2013;121(12):2285-8及びその中の参照文献)。一部の実施形態では、アポトーシス促進ドメインは、非癌細胞と比較して、抗アポトーシスタンパク質の発現若しくは活性が増大した癌を治療するのに有用である。一部の実施形態では、アポトーシス促進ドメインは、細胞傷害性化学療法に対して耐性になった癌を治療する上で、又はそのような耐性の出現を阻害する上で有用である。アポトーシス促進剤は、そのアポトーシスが望まれる標的細胞、例えば、腫瘍細胞、感染細胞に前記細胞をターゲティングさせるターゲティング部分をさらに含む。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、細胞に個別に結合させる。
【0336】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞、例えば、免疫系細胞を、免疫調節剤とソルタギングする。一部の実施形態では、免疫調節剤は、投与した細胞の少なくとも一部の生存、増殖、分化及び/又は1つ又は複数の活性を促進する。一部の実施形態では、免疫調節剤は、刺激性サイトカイン、共刺激分子(例えば、OX40、OX40L、CD137L)、又はアジュバント(例えば、CD40リガンド、抗CD40抗体、TLRリガンド)を含む。いくつかの実施形態では、免疫系細胞は、ターゲティング部分及び免疫調節剤とソルタギングする。ターゲティング部分及び免疫調節剤は、個別の薬剤として提供してもよく、又は二機能性薬剤の一部であってもよい。
【0337】
一部の実施形態では、投与した免疫細胞は、被験者に共投与した免疫系細胞、又は被験者に既に存在する免疫系細胞を調節することができる。例えば、投与した免疫細胞は、被験者に存在する免疫系細胞の増殖、活性化、分化、移動、及び/又は成熟を刺激又は阻害することができる。刺激又は阻害は、少なくとも部分的に、移入細胞によるサイトカインの分泌及び/又は細胞-細胞相互作用(例えば、移入細胞によるCD28/CTLA-4ファミリーメンバー(例えば、CTLA-4又はPD-1リガンド)などの共刺激分子又は阻害分子の提示)によって起こり得る。一部を免疫系細胞に結合した部分は、共刺激因子を含んでもよい。このような細胞は、腫瘍部位又は感染の部位に共刺激を提供し得るが、これは、例えば、腫瘍特異的又は病原体特異的T細胞が、腫瘍細胞又は感染細胞を排除する能力を増強し得る。移入細胞が被験者の免疫系細胞を刺激又は阻害するかは、移入される具体的な細胞型の特性及び/又は移入細胞に結合する薬剤の正体(identity)及び/又は量などの様々な要因に依存し得る。こうした要因は、細胞の要望される作用に応じて選択することができる。移入したCD4+T細胞は、内在性又は共投与した細胞傷害性細胞に「ヘルプ(help)」を提供し得るが、これにより、細胞傷害性細胞が標的細胞を排除する能力が拡大及び/又は増加し得る。移入したTreg細胞は、被験者自身の細胞若しくは組織に対して、又は移植細胞若しくは組織に対して、そうでなければ不要若しくは有害な活性を及ぼし得る内在性免疫系細胞の免疫応答を抑制することができる。このような抑制は、自己免疫疾患を治療する上で、又は移植片の拒絶反応の可能性を低減する上で有用となり得る。
【0338】
一部の実施形態では、免疫細胞は、ポリクローナル集団を含み、集団は、様々な異なる標的、抗原、又はエピトープに特異的なTCR若しくはBCRを発現する細胞の複数の亜集団を含む。例えば、ポリクローナル集団は、合計して少なくとも103、104、105、又はそれを超える異なるTCR若しくはBCRを発現するT及び/又はB細胞を含み得る。リンパ球のポリクローナル集団は、例えば、末梢血から得ることができる。一部の実施形態では、免疫系細胞は、T又はB細胞のモノクローナル集団を含み、集団中の細胞は、特定のエピトープに特異的なTCR若しくはBCRを保有するが、上記エピトープは、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体、病原体感染細胞、又はその他の不要細胞などの標的中、若しくは標的上に存在するエピトープであってよい。一部の実施形態では、例えば、標的抗原の様々なエピトープ又は標的実体の様々な抗原に特異的なTCR若しくはBCRを有する集団などの2つ以上のモノクローナル集団を組み合わせてもよい。
【0339】
一部の実施形態では、抗腫瘍活性を有するオートロガス若しくは同種異系T細胞を取得し、任意選択で増殖及び/又はin vitroで活性化した後、ソルタギングする(例えば、ターゲティング部分、生物学的に活性の部分、又はその両方と)。一部の実施形態では、ソルタギング済みT細胞を癌の治療が必要な被験者に導入する。一部の実施形態では、T細胞は、オートロガス腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を含む。オートロガスTILは、被験者からの腫瘍の生検又は摘出後の腫瘍から、当技術分野では公知の方法を用いて得ることができる。一部の実施形態では、同種異系T細胞は、T細胞株、例えば、NK-92細胞株又はその誘導体である。
【0340】
一部の実施形態では、抗腫瘍活性を有するオートロガス又は同種異系NK細胞を取得し、任意選択で増殖及び/又はin vitroで活性化した後、ソルタギングする(例えば、ターゲティング部分、生物学的に活性の部分、又はその両方と)。一部の実施形態では、ソルタギング済みNK細胞を、癌の治療が必要な被験者に導入する。一部の実施形態では、同種異系NK細胞は、NK細胞株、例えば、NK-92細胞株又はその誘導体である。
【0341】
一部の実施形態では、免疫系細胞を1つ又は複数のエピトープとin vitroで接触させることにより、例えば、このようなエピトープを認識する細胞を活性化することもできる。一部の実施形態では、免疫系細胞は、微生物若しくは寄生体、腫瘍細胞、腫瘍組織、病原体感染細胞、腫瘍細胞株の細胞、このような細胞若しくは組織に由来する材料(例えば、タンパク質、RNA、膜画分、溶解物)、あるいは精製済み若しくは合成抗原又はエピトープ(例えば、ペプチドプール)とin vitroで接触させてよい。一部の実施形態では、前記細胞又は物質に結合するか、又はそれに応答して増殖する免疫系細胞(例えば、T細胞)を単離してもよい。免疫系細胞(例えば、T細胞)は、例えば、これらを腫瘍若しくは病原体にターゲティングさせるターゲティング部分とソルタギングした後、腫瘍の治療が必要な被験者、又は病原体に感染しているか、若しくは感染のリスクを有する被験者に投与してもよい。一部の実施形態では、免疫系細胞を刺激又は単離するために用いる細胞若しくは物質は、特定の患者の腫瘍に由来するか、又は特定の患者の腫瘍に存在する(又は、そのタイプの腫瘍に一般に存在する)TA若しくはTAエピトープを含み、ソルタギング済み細胞を患者に投与する。
【0342】
一部の実施形態では、一方法は、被験者から得られた、若しくは被験者を起原とする腫瘍細胞若しくは腫瘍関連細胞により発現される1つ又は複数の抗原若しくはエピトープを単離するか、又はその正体(identity)を決定するステップと、前記抗原又はエピトープの少なくとも1つに結合するターゲティング部分を、哺乳動物細胞にin vitroで結合させるステップを含み得る。抗原又はエピトープは、当技術分野では公知の様々な方法の何れかを用いて、同定若しくは単離することができる。腫瘍、腫瘍細胞、若しくは腫瘍組織サンプルからのRNA(例えば、mRNA)又はタンパク質は、RNA又はタンパク質検出及び定量のための標準的方法を用いて、分析することができる。例えば、免疫組織化学又はELISAなどの免疫学的方法を用いて、タンパク質を分析してよい。一部の実施形態では、細胞は、免疫系細胞、例えば、細胞傷害性細胞、例えば、細胞傷害性T細胞又はNK細胞を含む。一部の実施形態では、細胞傷害性細胞は、標的細胞の溶解を誘導するタンパク質(例えば、細胞溶解タンパク質)を放出する。一部の実施形態では、細胞傷害性細胞は、標的細胞にアポトーシスを誘導することができる。一部の実施形態では、細胞は、Tヘルパー細胞を含む。この方法は、被験者に細胞を投与するステップをさらに含み得る。一部の実施形態では、一方法は、被験者から得られた、若しくは被験者を起原とする腫瘍細胞若しくは腫瘍関連細胞により発現される1つ又は複数の抗原を単離するか、又はその正体(identity)を決定するステップと、前記抗原の少なくとも1つに結合するターゲティング部分を、免疫系細胞にex vivoで結合させるステップを含み得る。この方法は、被験者に細胞を投与するステップをさらに含み得る。
【0343】
一部の実施形態では、腫瘍サンプルを分析して、治療細胞をターゲティングしようとする腫瘍により発現される1つ又は複数のTAを同定する。腫瘍細胞は、手術時に摘出した腫瘍から、生検、血液サンプル(例えば、血液系悪性疾患の細胞又は固形腫瘍からの循環腫瘍細胞)からのものであってよい。細胞表面TAを同定するために、一群の抗体又は他の結合物質を用いてもよい。一部の実施形態では、腫瘍の治療を受けた患者又は腫瘍若しくは腫瘍再発を有することが疑われる患者は、定期的な血液検査を実施して、可溶性腫瘍抗原又は循環腫瘍細胞を検出することにより、モニターすることができる。試験結果が、可溶性TA又は循環腫瘍細胞の存在の増加若しくは異常に高いレベルを示す場合には、TAにターゲティングさせる細胞を含む本発明の治療細胞組成物を投与してよい。例えば、CA-125を発現する腫瘍の治療を受けたことがあるか、又は受けている患者をモニターして、CA-125の血中レベル増加を検出する。このような増加レベルが検出されたら、腫瘍により発現されるCA-125及び/又は異なるTAにターゲティングさせる細胞を含む本発明の治療細胞組成物を投与してよい。
【0344】
一部の実施形態では、第1腫瘍抗原に結合する第1ターゲティング部分及び第2腫瘍抗原に結合する第2ターゲティング部分と細胞を結合させ、第1及び第2腫瘍抗原は、同じ腫瘍の細胞(腫瘍細胞及び/又は腫瘍関連細胞)により発現される。第1及び第2TAは、腫瘍中の異なる細胞集団により発現されるものでも、又は腫瘍の同じ細胞の少なくとも一部に発現されるものでもよい。ターゲティング部分は、同じ物質、例えば、二重特異性抗体の一部であってもよく、又は2つの個別の物質であってもよい。一部の実施形態では、2つの細胞集団を腫瘍の治療が必要な被験者に投与するが;第1細胞集団は第1TAにターゲティングされ、第2細胞集団は第2TAにターゲティングされる。例えば、前述したように、いくつかの腫瘍は、CA125及びメソテリンを発現する。癌の治療が必要な被験者に投与しようとする細胞を、CA125に結合する第1ターゲティング部分及び/又はメソテリンに結合する第2ターゲティング部分に結合させてもよく、メソテリンにターゲティングさせる第1細胞集団及び/又はCA125にターゲティングさせる第2細胞集団を投与してもよい。一部の実施形態では、2つ以上の異なる腫瘍抗原にターゲティングさせた細胞の投与は、相加効果、又は相加効果より大きな効果を有し得る。一部の実施形態では、各々が異なる腫瘍抗原にターゲティングされた2つの細胞集団の投与は、相加効果、又は相加効果より大きな効果を有し得る。
【0345】
一部の実施形態では、細胞、例えば、免疫細胞を、細胞を循環腫瘍細胞(CTC)にターゲティングさせるターゲティング部分を含む薬剤とソルタギングする。CTCは、循環(血管系及び/又はリンパ系)中に血管内侵入する腫瘍(例えば、固形腫瘍)由来の細胞である。CTCは、循環により運搬されて複数の部位に浸出し、そこで生存し、転移を形成する。CTCは、炎症及びリンパ球ホーミングにおけるリンパ球浸出に類似した方式で、内皮細胞上の受容体と相互作用することができる。多くのタイプの原発腫瘍由来のCTCは、白血球のそれと類似したシアリル化炭水化物リガンドを発現し、これは、内皮上のセレクチンとの相互作用を媒介する。一部の実施形態では、循環腫瘍細胞(CTC)に細胞、例えば、免疫系細胞をターゲティングさせるためのターゲティング部分として、セレクチンを用いる。一部の実施形態では、細胞をセレクチン及び1つ又は複数の別の薬剤の両方とソルタギングする。一部の実施形態では、1つ又は複数の別の薬剤は、細胞傷害性部分、検出可能な部分、第2ターゲティング部分(例えば、腫瘍により発現されるTAに結合するターゲティング部分)、又はこれらの任意の組み合わせを含む。一部の実施形態では、細胞傷害性部分は、アポトーシス促進剤、例えば、TRAILなどのアポトーシス促進タンパク質若しくはその生物学的に活性の部分又はTRAIL受容体アゴニストを含む。
【0346】
一部の実施形態では、検出可能な部分とソルタギングされ、かつCTCにターゲティングさせる細胞は、被験者から又はin vivoで得られたサンプル(例えば、血液サンプル)中のCTCの存在を検出する上で有用となり得る。被験者は、癌を有することが疑われる者か、又は癌の治療を受けた者でもよい。何れの理論にも拘束されるわけではないが、検出可能な部分の多数の個別分子で細胞をソルタギングし得ることは、検出をより信頼できるものとし(例えば、偽陽性及び/若しくは偽陰性結果が少ない)並びに/又は他の様々な方法より少数のCTCの検出を可能にすることによって、CTCの検出を容易にし得る。
【0347】
癌幹細胞(CSC)は、正常幹細胞に関連する特徴と類似の特徴を有する腫瘍又は血液癌にみいだされる癌細胞である。CSCは、腫瘍を開始し、自己再生し、表現型が多様な癌細胞に分化する能力を有する。CSCは、化学療法及び放射線に対して比較的耐性であることが多く、新たな腫瘍を生み出すことにより、持続し、かつ再生及び転移を引き起こすと言われている。CSCは、細胞表面マーカを発現し得るが、これは、非CSC癌細胞及び/又はほとんどの正常細胞からそれらが区別されるレベルで行われる。例えば、CD133、CD44、及びEpCAMが、様々な上皮癌におけるCSCマーカとして同定されている。一部の実施形態では、CSCマーカと結合する結合部分、例えば、抗体を、細胞、例えば、免疫系細胞をCSCにターゲティングさせるターゲティング部分として用いる。一部の実施形態では、CSCマーカ及び1つ又は複数の別の薬剤の両方と一緒に細胞をソルタギングする。一部の実施形態では、1つ又は複数の別の薬剤は、細胞傷害性部分、検出可能な部分、第2ターゲティング部分(例えば、非CSC腫瘍細胞又は腫瘍関連細胞により発現されるTA細胞に結合するターゲティング部分)、又はこれらの任意の組み合わせを含む。一部の実施形態では、細胞傷害性部分は、アポトーシス促進剤、例えば、TRAILなどのアポトーシス促進タンパク質若しくはその生物学的に活性の部分又はTRAIL受容体アゴニストを含む。
【0348】
一部の実施形態では、APCを腫瘍細胞、腫瘍組織、病原体感染細胞、このような細胞若しくは組織に由来する材料(例えば、タンパク質、RNA、膜画分、溶解物)、あるいは精製済み若しくは合成抗原又はエピトープ(例えば、ペプチドプール)とin vitroで接触させた後、リンパ球をin vitroで刺激するために用いる。一部の実施形態では、刺激したリンパ球をソルタギングして(例えば、これらを腫瘍にターゲティングするターゲティング部分、腫瘍に対して潜在的に活性の化学療法薬、及び/又は免疫調節剤で)、腫瘍の治療が必要な被験者、又は腫瘍を発生する、若しくは腫瘍再生のリスクを有する被験者に投与することができる。一部の実施形態では、刺激したリンパ球をソルタギングして(例えば、これらを病原体若しくは病原体感染細胞にターゲティングするターゲティング部分、病原体に対して潜在的に活性の化学療法薬、及び/又は免疫調節剤で)、感染症の治療が必要な被験者、又は病原体による感染のリスクを有する被験者に投与することができる。
【0349】
T細胞化合物及び/又は増殖のプロトコルとしては、例えば、インターロイキン-2(IL-2)のような適切なサイトカイン及び/又は適切な共刺激分子を含む培地中で細胞を培養するステップを含み得る。一部の実施形態では、抗CD3抗体を介したIL-2及び/又はCD3結合を用いた増殖プロトコルを用いてもよい(いわゆる「急速拡大法」、例えば、Dudley ME,et al.,Generation of tumor-infiltrating lymphocyte cultures for use in adoptive transfer therapy for melanoma patients.J Immunother 2003,26:332-342に記載の通り)。サイトカインは、単離タンパク質として、又は自然にそれらを分泌する細胞、若しくは遺伝子操作によって得られる細胞の何れかとの共培養により取得することができる。一部の実施形態では、抗CD3抗体及び抗CD28抗体の存在下で細胞を培養する。一部の実施形態では、抗体をビーズ(例えば、常磁性ビーズ)又は他の支持体、例えば、細胞培養容器の内側及び底部に付着させる。一部の実施形態では、抗CD3抗体及び抗CD28抗体の混合物をビーズに付着させる(共固定化)(例えば、Levine,B.,et al.、Tumaini,B.,et al.(何れも前掲)、並びに本明細書で引用されるその他の様々な参照文献を参照されたい。一部の実施形態では、細胞をPBMCと一緒に共培養するが、これは、活性化及び/又は拡大を促進する1つ又は複数の分子をもたらす細胞を含む。一部の実施形態では、細胞をPBMC及び抗CD28抗体(例えば、ビーズなどの支持体に付着した)と一緒に培養する。一部の実施形態では、PBMCは、T細胞と免疫適合性である。一部の実施形態では、T細胞及びPBMCの何れも、T細胞を導入しようとする被験者に由来する。一部の実施形態では、100:1~1:100のビーズ:細胞比を用いる。一部の実施形態では、10:1~1:10、5:1~1:5、3:1~1:3、又は約1:1のビーズ:細胞比を用いる。
【0350】
一部の実施形態では、APCと接触させることにより、リンパ球をin vitroで活性化する。一部の実施形態では、人工APCを用いてもよい。様々な細胞aAPCが当技術分野では公知である。例えば、K562細胞(ATCC,Manassas,VAから入手可能)は、人工APCの役割を果たすことができる。このような細胞を、様々な共刺激分子を発現するように操作されて、ポリクローナル及び抗原特異的細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞、及び抗原曝露歴のある腫瘍浸潤リンパ球のex vivo拡大のために使用されている(Maus MV,et al.Nat Biotechnol 2002,20:143-148;Suhoski MM,et al.Mol Ther 2007,15:981-988;Fujisaki,H.,Cancer Res 2009;69:4010-4017;Ye Q,et al.,J Transl Med 2011,9:131;Butler,MO,et al.,Clin Cancer Res March 15,2007 13;1857)。細胞aAPC(遺伝子操作された、及び/又はソルタギングされた、若しくはソルタギングしようとする細胞aAPC)は、放射線(例えば、いくつかの実施形態では、ガンマ線、例えば、約100Gy)を照射するか、あるいは、そうでなければ、増殖ができないようにしてもよい。一部の実施形態では、非細胞aAPCを用いてもよい。非細胞aAPCは、抗原提示分子(APM)が結合した粒子であってもよい。このような粒子は、それらをaAPCとして用いることができるようにするために、抗原又は抗原断片(例えば、ペプチド)と接触させてもよい。一部の実施形態では、非細胞aAPCは、リポソーム、ビーズ(例えば、常磁性ビーズ)、少なくとも一部が有機ポリマーからなる粒子、量子ドットなどの粒子であってもよい。このような粒子は、その細胞表面に結合した様々な異なる分子の何れか、例えば、細胞aAPCに関して述べた分子の何れかを有していてもよい。非細胞aAPCは、以下の文献に記載されているように作製することもできる:Oelke M,et al.,Ex vivo induction and expansion of antigen-specific cytotoxic T cells by HLA-Ig-coated artificial antigen-presenting cells.Nat Med.2003,9:619-625;Webb,T,et.al.,J Immunol Methods,2009,346(1-2):38-44;Oelke M.and Schneck,JP,Immunol Res(2010);47:248-256;East,JE,J Vis Exp.Artificial antigen presenting cell(aAPC)mediated activation and expansion of natural killer T cells.2012 Dec 29;(70).pii:4333.doi:10.3791/4333。一部の実施形態では、APMは、支持体、例えば、ビーズ(例えば、常磁性ビーズ)、ウェル又はプレートなどの内面に結合させてもよい。APCには、支持体に結合させる前、又はその後に抗原をロードしてよい。抗原を提示させようとする細胞を支持体と接触させることにより、抗原提示が起こるのを可能にする。一部の実施形態では、支持しようとするAPMに結合するリンカーとして役立ち得るIgGドメイン又は他の部分にAPMを結合又は融合させる。
【0351】
一部の実施形態では、リンパ球、例えば、T細胞をAPC、例えば、DC又はaAPCと一緒に共培養することにより、これらをin vitroで刺激する。一部の実施形態では、APCは、結合するT細胞の増殖及び/又はエフェクター活性を刺激する少なくとも1つのエピトープを提示する。一部の実施形態では、例えば、ソルターゼを用いて、1つ又は複数のエピトープを含む薬剤をAPCに結合させる。一部の実施形態では、1つ又は複数のエピトープを含む薬剤を、APCにより発現される細胞表面分子又は複合体に共有結合させる。一部の実施形態では、細胞表面分子又は複合体は、Dec-205、DC-SIGNのようなC型レクチン、又はMHCクラスII(MHCII)タンパク質である。一部の実施形態では、細胞は、ソルタギングされているか、あるいは、後に、細胞及び/又はその子孫を本明細書に記載の方法に従いソルタギングする。一部の実施形態では、ソルタギングした哺乳動物細胞を被験者に投与する。
【0352】
一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、免疫系細胞に結合された部分は、そうでなければ細胞免疫療法の治療効果を制限するか、又は被験者の内在性免疫系の有効性を制限する恐れがある、被験者に存在し得る機構を阻害若しくは解消することができる。癌の治療の場合、このような機構は、腫瘍の微小環境においてトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)などの免疫抑制物質により媒介される、及び/又は調節T細胞の蓄積により媒介される免疫回避を含み得るが、これらの何れも、例えば、移入された腫瘍反応性CD8+T細胞のin vivo活性化、拡大、及び腫瘍ホーミングを弱めることができる。病原体に起因する疾患の治療の場合、このような機構は、病原体により生成若しくはコード化若しくは誘導される様々な免疫回避又は免疫抑制物質の何れかを含み得る。細胞に結合した部分は、例えば、物質に結合する、物質の受容体においてアンタゴニスト若しくは競合者として作用する、又は物質により活性化された経路に拮抗することにより、免疫回避又は免疫抑制物質の作用を阻害することができる。一部の実施形態では、細胞に結合した部分は、そうでなければ腫瘍、病原体、又は病原体感染細胞に対する免疫応答を弱め得るTregの発生若しくは活性を阻害することができる。
【0353】
「免疫チェックポイント経路」又は「免疫チェックポイント」は、免疫応答を開始する個体の組織に対する損傷を最小限にする目的で、寛容性を維持すると共に、生理学的免疫応答のエフェクターアウトプット(T細胞の場合には、サイトカイン産生、増殖若しくは標的殺傷能力のレベル)の持続時間及びレベルを調節する上で重要な役割を果たす免疫系の天然に存在する阻害経路である。このような経路は、例えば、T細胞活性を下方制御するか、又は調節T細胞免疫抑制活性を増大することができる。免疫チェックポイント経路の例として、例えば、PD-1経路及びCTLA-4経路があり、これについては以下に詳しく記載する。腫瘍は、例えば、腫瘍抗原に特異的なT細胞に対する、免疫耐性の主要機構として、いくつかの免疫チェックポイント経路を頻繁に選出(co-opt)する。本発明のいくつかの態様では、免疫チェックポイント機構を阻害するために、ソルターゼ修飾細胞を使用する。一部の態様では、本発明は、ソルターゼを用いて、免疫チェックポイント調節剤を含む部分に結合させた哺乳動物細胞を提供する。一部の実施形態では、免疫チェックポイント調節剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。「免疫チェックポイント阻害剤」は、免疫チェックポイント経路を阻害する(抑制する、その活性を低減する)あらゆる物質を指す。一部の実施形態では、免疫チェックポイント調節剤は、免疫チェックポイント活性剤である。「免疫チェックポイント活性剤」は、免疫チェックポイント経路を活性化する(刺激する、その活性を増大する)あらゆる物質を指す。一部の実施形態では、細胞は、遺伝子操作されていない細胞である。一部の実施形態では、細胞は、癌の治療が必要な被験者又は免疫適合性ドナーに由来する。一部の実施形態では、細胞は、PBMC又はRBCを含む。一部の実施形態では、細胞は、リンパ球を含む。「免疫チェックポイントタンパク質」は、免疫チェックポイント経路の成分であるタンパク質を指し、膜結合、可溶性(例えば、分泌)、及び細胞内タンパク質を含む。多くの免疫チェックポイント経路は、膜結合受容体と可溶性若しくは膜結合リガンドとの相互作用により開始される。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント経路の成分である受容体若しくはリガンドに結合する物質である。前記物質と受容体若しくはリガンドとの結合は、リガンド-受容体相互作用を遮断することにより、免疫チェックポイント経路を阻害する。例えば、一部の実施形態では、1部分が、例えば、PD-1又はPD-1リガンドの何れかと結合することにより、PD-1及びPD-1リガンド同士の相互作用を阻害する。
【0354】
一部の実施形態では、ある薬剤は、PD-1経路の調節剤を含む。PD-1は、活性化T細胞、B細胞、ナチュラルキラーT細胞、単球、及び樹状細胞(DC)などの多様な細胞により発現される阻害性表面受容体である。PD-1は、2つの天然に存在するリガンド、すなわち、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)及びプログラム細胞死リガンド2(PD-L2)を含み、これらは、それぞれB7-H1及びB7-DCとも呼ばれる。「PD-L」という用語は、PD-L1及びPD-L2の何れか、又は両方を指す。本明細書で用語「PD-L」を用いる場合、いくつかの実施形態は、PD-L1に関し、いくつかの実施形態は、PD-L2に関し、またいくつかの実施形態は、PD-L1及びPD-L2の両方に関する。「PD-1経路」という用語は、PD-Lが、細胞により発現されるPD-1に結合したとき、細胞、例えば、免疫系細胞に起こる生物学的プロセスを指す。免疫系細胞、例えば、ヘルパー若しくは細胞傷害性T細胞上でのPD-LとPD-1の結合は、特に抗原による刺激に関連して、上記細胞の増殖及び/又は活性に対する阻害作用を有するため、T細胞疲弊に寄与し得る。しかし、PD-1経路は、T調節細胞の発生及び活性を促進することができ、これによって、そうでなければ腫瘍、感染細胞、病原体、若しくは自己抗原(例えば、自己免疫疾患を有する被験者において)に対して、免疫応答を開始し得る他の免疫系細胞(例えば、ヘルパー及び/又は細胞傷害性T細胞)の活性を抑制することができる。腫瘍は、PD-1経路を用いて、そうでなければ腫瘍に対して免疫応答を開始し得る免疫系細胞を阻害することができる。特定の腫瘍は、PD-1を発現するが、恐らくこうした腫瘍に対する自然抗腫瘍免疫が阻害されるために、その発現は、腫瘍攻撃性と相関し、患者の生存とは逆相関している。PD-1経路はまた、インフルエンザウイルス感染、HIV感染、HCV感染、及びマイコバクテリア(Mycobacterial)感染などの様々な感染症における免疫機能を障害することも明らかにされている。一部の実施形態では、PD-1経路の阻害は、PD-1経路が、投与された免疫系細胞(若しくはその子孫)又は腫瘍、病原体、感染細胞に対する内在性免疫系細胞の免疫応答を阻害する状態、並びに/又はPD-1経路の活性が異常に若しくは不適切に高い状態、あるいは、Tregの異常に若しくは不適切に高い数及び/若しくは活性が存在する状態の治療に有用である。一部の実施形態では、PD-1経路の活性化は、PD-1経路の活性が、異常に若しくは不適切に高い状態、Tregの異常に若しくは不適切に低い数及び/若しくは活性が存在する状態、並びに/又は例えば、自己免疫疾患、GVHD、及び/若しくは移植拒絶反応などのリスクを有するか、又はそれを患う被験者において、Tregの数若しくは活性の増加が有益である状態の治療に有用である。細胞の数又は活性のレベルは、絶対的に、又は1つ又は複数の他のタイプ若しくはサブタイプ、例えば、Th1、Th2、Th17、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞の免疫系細胞の数若しくは活性に対して、若しくは不適切に高いか、又は低いかの何れであってもよい。一部の実施形態では、PD-1経路の調節剤は、Tregと他の免疫系細胞との適切な均衡を回復するために有用である。
【0355】
一部の実施形態では、PD-1経路の調節剤は、PD-1経路の阻害剤である。PD-1経路のある阻害剤は、阻害剤の非存在下の経路の活性と比較して、PD-1経路の活性を低減する。阻害剤の作用は、(阻害剤の非存在下で)PD-1に結合して、これを活性化するリガンドの存在下だけでも観察され得ることは理解されよう。PD-1経路の阻害剤は、PD-1アンタゴニストと呼ばれる場合もある。一部の実施形態では、PD-1アンタゴニストは、PD-1又はPD-Lと結合して、PD-1及びPD-L同士の相互作用を阻止する。一部の実施形態では、PD-1アンタゴニストは、PD-1、PD-L1、若しくはPD-L2に結合する核酸(例えば、核酸アプタマー)、タンパク質、ペプチド、又は小分子を含み、PD-1アンタゴニストがPD-1に結合すれば、PD-1は、PD-1シグナル伝達を有意に刺激しない。一部の実施形態では、抗PD-1、抗PD-L1、又は抗PD-L2抗体をPD-1アンタゴニストとして用いる。ニボルマブ(完全ヒトIgG4モノクローナル抗体)、CT-011(ヒト化IgG1モノクローナル抗体)、及びラムブロリズマブ(MK-3475としても知られる、ヒト化IgG4モノクローナル抗体)は、抗PD-1抗体の例である。BMS-936559(完全ヒトIgG4モノクローナル抗体)、MPDL3280A(ヒトモノクローナル、Genentech)、及びMEDI4736(Medimmune)は、抗PD-L1抗体の例である。
【0356】
一部の実施形態では、PD-1アンタゴニストは、PD-1の細胞外ドメインの少なくとも一部又はPD-Lに結合するその変異体若しくは断片を含む。細胞が、PD-1の変異体又は断片を発現するように遺伝子操作されている場合、それを発現する細胞を阻害する能力が実質的に欠失した変異体又は断片を用いてもよい。例えば、変異体又は断片は、その細胞内シグナル伝達ドメインの突然変異又は少なくとも部分的な欠失を有し得る。前記変異体又は断片は、膜貫通ドメインと、任意選択で、細胞内ドメインの少なくとも一部を含むか、又は可溶性タンパク質として分泌されるのではなく、細胞表面に結合した状態を維持するように、別のタンパク質由来の膜貫通ドメイン又は合成膜貫通ドメインを含んでもよい。PD-1の細胞外ドメイン又はその変異体若しくは断片は、細胞、例えば、T細胞若しくはNK細胞を、PD-L(例えば、PD-L1)を発現する細胞を含む腫瘍にターゲティングさせるターゲティング部分として役立ち得る。これに代わり、又は加えて、PD-Lを発現する腫瘍細胞若しくは腫瘍関連細胞若しくは感染細胞の表面でPD-Lに結合することにより、PD-1細胞外ドメインは、PD-1を発現する免疫系細胞に対するPD-Lの作用を阻止する役割を果たし得る。このようにして、腫瘍又は感染細胞に発現されるPD-L、例えば、PD-L1の免疫抑制作用を低減することができる。多様なPD-1アンタゴニスト、例えば、PD-1、PD-L1、若しくはPD-L2に結合する抗体が、なかでも、以下の文献に記載されている:米国特許出願公開第20040213795号明細書、同第20110195068号明細書、同第20120039906号明細書、同第20120114649号明細書、同第20130095098号明細書、同第20130108651号明細書、同第20130109843号明細書、同第20130237580号明細書、同第20130291136号明細書。
【0357】
一部の実施形態では、PD-1経路の調節剤は、例えば、PD-1に結合して、これを活性化することにより、PD-1経路の活性を増大する。PD-1に結合して、これを活性化するPD-1経路の調節剤は、PD-1アゴニストと呼ばれる場合がある。PD-1アゴニストは、PD-L1又はPD-L2の細胞外ドメインの生物学的に活性の断片若しくは変異体を含んでもよく、PD-L1又はPD-L2とPD-1との結合により誘導される作用を模倣するものでもよい。PD-1アゴニストとソルタギングした細胞は、免疫応答を阻害することが求められる状態において有用となり得る。
【0358】
PD-1又はPD-Lに結合する薬剤は、ターゲティング部分の役割を果たすことができる。例えば、PD-Lに結合する薬剤は、薬剤を発現する細胞、又は薬剤とソルタギングした細胞を、PD-1を発現する細胞にターゲティングさせる。様々な実施形態で、前記薬剤は、PD-1アゴニスト又はアンタゴニストとしても役立ち得る。PD-1に結合する薬剤は、物質を発現する細胞、又は薬剤とソルタギングした細胞を、PD-Lを発現する細胞にターゲティングする。前記薬剤は、様々な実施形態において、PD-1アゴニスト又はアンタゴニストとしても役立ち得る。
【0359】
一部の実施形態では、ある薬剤は、T細胞共刺激受容体の調節剤、例えば、抗炎症性受容体細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)を含む。CTLA-4は、T細胞活性化の重要な負の調節剤である。一部の実施形態では、CTLA-4の調節剤は、CTLA-4活性を阻害し、「CTLA-1アンタゴニスト」と呼ばれる場合もある。CTLA-4により媒介される負の調節の阻害は、適応免疫の刺激及びT細胞活性化の増強を促進することが明らかにされている。CTLA-4リガンド(例えば、B7-1又はB7-2)とCTLA-4の結合により、T細胞増殖及び機能的活性を低減して、寛容性を促進することができ、これにより、投与された免疫系細胞及び/又は被験者の内在性免疫系細胞が腫瘍、病原体、又は感染細胞に対する免疫応答を開始する能力を低減し得る。従って、一部の実施形態では、CTLA-4アンタゴニストは、CTLA-4による負の調節を制限又は阻止する上で有用である。CTLA-4アンタゴニストは、CTLA-4に結合して、CTLA-4リガンドがCTLA-4と結合するのを阻止する物質を含む。例えば、抗CTLA-4抗体、例えば、イピリムマブ又はトレメリムマブを用いてよい。一部の実施形態では、CTLA-4アンタゴニストは、CTLA-4リガンドに結合する抗体を含む。CTLA-4以外にも、B7ファミリーメンバーB7-H3、B7-H4、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(Tim-3)、並びにリンパ球活性化遺伝子‐3(LAG-3)などの他のT細胞共阻害性受容体が、様々な細胞型(APC、調節T細胞(Treg)、及び非造血細胞など)上のそれらのコグネイトリガンドと相互作用することにより、T細胞増殖及び機能的活性の低減をもたらす。BTLAは、T細胞上の阻害受容体である。そのリガンドは、ヘルペスウイルス侵入メディエータ(HVEM)であり、これは、黒色腫などのいくつかの腫瘍細胞型及び腫瘍関連内皮細胞に発現される。
【0360】
一部の実施形態では、ある薬剤は、アデノシンの生成又は免疫抑制作用を阻害する。このような物質は、抗アデノシン剤と呼ばれる場合もある。アデノシンは、2つのエクトヌクレオチダーゼ:ATP及びADPをAMPに加水分解するCD39と、AMPをアデノシンに変換するCD73により、細胞外コンパートメント内で生成される。アデノシンは、死滅細胞、例えば、腫瘍中の死滅細胞からも放出されることもある。CD73は、腫瘍細胞、並びにTreg及び骨髄系由来サプレッサー細胞などのヒト免疫細胞に発現され、T細胞増殖を阻害すると共に、A2a受容体(A2aR)サブタイプ活性化により、サイトカイン生成、及び活性化T細胞の細胞傷害性を抑制して、腫瘍を免疫媒介性破壊から保護することがわかっている。そのリガンドが、アデノシン(腫瘍中の死滅細胞から放出され得る)である、アデノシンA2a受容体(A2aR)は、Treg細胞になるようにCD+T細胞を駆動することにより、T細胞応答の一部を阻害する。一部の実施形態では、抗アデノシン剤は、CD73又はCD39の阻害剤である。一部の実施形態では、抗アデノシン剤は、CD73又はCD39に結合する抗体又は他の結合部分を含む。CD73の選択的阻害剤である小分子には、例えば、アデノシン5’-(α,β-メチレン)二リン酸(APCP)及びZM241365がある。一部の実施形態では、抗アデノシン剤は、A2aRに結合する抗体又は他の結合部分を含み、例えば、アデノシンの結合を阻止することにより、その活性を阻害する。
【0361】
一部の実施形態では、任意のT細胞共刺激受容体の生物活性を阻害する薬剤を細胞に結合させて、T細胞増殖の喪失を低減する、及び/若しくは機能的活性を保存する、並びに/又は任意の免疫チェックポイント経路を阻害することができる。例えば、B7-H3、BTLA、A2aR、B7-H4、Tim-3、又はLAG-3に結合する抗体又は他の結合部分を、被験者、例えば、癌を有する被験者に投与しようとする細胞に結合させることができる。一部の実施形態では、B7-H3、BTLA、A2aR、B7-H4、Tim-3、若しくはLAG-3のアンタゴニスト、例えば、B7-H3、BTLA、A2aR、B7-H4、Tim-3、若しくはLAG-3又はB7-H3、BTLA、A2aR、B7-H4、Tim-3、若しくはLAG-3のリガンドに結合する抗体又は他の結合部分を、被験者、例えば、癌を有する被験者に投与しようとする細胞に結合させてもよい。例えば、抗体又は他の結合部分は、ガレクチン-9(Tim-3のリガンド)、HVEM、又はアデノシンに結合し得る。一部の実施形態では、細胞は、2つ以上の異なる免疫チェックポイント阻害剤とソルタギングする。阻害剤は、様々な免疫チェックポイント経路を阻害し得る。例えば、PD-1アンタゴニスト、CTLA-4アンタゴニスト、B7-H3アンタゴニスト、BTLAアンタゴニスト、A2aRアンタゴニスト若しくは他の抗アデノシン剤、B7-H4アンタゴニスト、Tim-3アンタゴニスト、又はLAG-3アンタゴニストから選択される少なくとも2つの阻害剤と、細胞をソルタギングすることができる。
【0362】
細胞は、薬剤、例えば、前述した免疫チェックポイント阻害剤の何れかの混合物とソルタギングするか、又は細胞のアリコートを各々単一の免疫チェックポイント阻害剤とソルタギングした後、被験者、例えば、癌の治療が必要な被験者に、組み合わせて投与してもよい。一部の実施形態では、細胞を第1免疫チェックポイント阻害剤、続いて第2免疫チェックポイント阻害剤とソルタギングするか、又は1つ又は複数の免疫チェックポイント阻害剤と同時にソルタギングする。一部の実施形態では、細胞を第1免疫チェックポイント阻害剤とソルタギングした後、第2免疫チェックポイント阻害剤と併用して投与する。例えば、細胞をPD-1アンタゴニストとソルタギングした後、細胞に結合していないCTLA-4アンタゴニストと併用して投与してもよい。一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤とソルタギングした細胞を、タンパク質キナーゼ阻害剤、例えば、VEGF受容体阻害剤、RAF阻害剤、ALK阻害剤、EGF受容体阻害剤、ERB-B1阻害剤、ERB-B2阻害剤、EGF受容体阻害剤、PDGF受容体阻害剤などの標的治療薬と併用して投与する。
【0363】
何れの理論にも拘束されることなく、また、本発明を何ら限定することなしに、1つ又は複数の免疫チェックポイント阻害剤を送達するために、腫瘍抗原に結合する、又は腫瘍抗原に結合する抗原受容体(例えば、キメラ抗原受容体)を発現するターゲティング部分と結合した細胞、例えば、RBC若しくはT細胞の使用は、例えば、細胞に結合させずに免疫チェックポイント阻害剤を投与する場合と比較して、より有効に免疫チェックポイント阻害剤を腫瘍へと向かわせ、局所活性を高め、並びに/又は不要な全身曝露及び関連副作用を軽減することができる。例えば、腫瘍関連抗原に対する抗体を1つ又は複数の免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることにより、より有効にチェックポイント阻害剤を腫瘍へと向かわせ、局所活性を高めると同時に、不要な全身曝露及び関連副作用を軽減することができる。やはり何れの理論にも拘束されることなく、また、本発明を何ら限定することなしに、こうした薬剤を送達するために、腫瘍関連抗原に対する1つのアームと、CD3に対するもう1つのアームを含む二重特異性物質などの薬剤とソルタギングした細胞、例えば、RBC、T細胞、NK細胞などの使用により、前記薬剤の半減期が延長され、これにより、投与量若しくは頻度を増加することなく、その効力を改善することができ、並びに/又は効力を低下することなく、投与量若しくは頻度の減少を可能にすることができる。一部の実施形態では、二重特異性物質を送達するために用いる細胞は、腫瘍関連抗原に1つ又は複数の抗体を運搬するように、ソルターゼにより修飾してもよい。
【0364】
一部の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤とソルタギングした細胞で治療しようとする被験者は、免疫チェックポイントタンパク質、例えば、免疫チェックポイント経路の成分である受容体又はリガンドの発現について試験された癌を有する。一部の実施形態では、腫瘍細胞、腫瘍間質中の非形質転換細胞、又はその両方は、腫瘍外部の正常細胞中の発現と比較して、免疫チェックポイントタンパク質を発現するか、又は免疫チェックポイントタンパク質を過剰発現する。一部の実施形態では、腫瘍又は腫瘍サンプル(例えば、生検若しくは外科サンプル)を分析して、腫瘍間質中の腫瘍細胞、非形質転換細胞、又はその両方により、正常細胞と比較して、発現若しくは過剰発現される1つ又は複数の免疫チェックポイントタンパク質を同定する。一部の実施形態では、腫瘍において活性であるとして同定される特定の免疫チェックポイント経路の阻害剤とソルタギングした細胞を、被験者に投与する。一部の実施形態では、腫瘍において発現若しくは過剰発現されるものとして同定される特定の免疫チェックポイントタンパク質のアンタゴニストとソルタギングした細胞を、被験者に投与する。一部の実施形態では、腫瘍において発現若しくは過剰発現されるものとして同定される特定の免疫チェックポイントタンパク質の受容体若しくはリガンドのアンタゴニストとソルタギングした細胞を、被験者に投与する。一部の実施形態では、一方法は、腫瘍又は腫瘍サンプルにおいて活性である免疫チェックポイント経路又はそこに発現される免疫チェックポイントタンパク質を同定するステップと、免疫チェックポイント経路又は免疫チェックポイントタンパク質を阻害する薬剤とソルタギングした細胞を、腫瘍の治療が必要な被験者に投与するステップを含む。免疫チェックポイントタンパク質の発現又は免疫チェックポイント経路の活性は、当技術分野では公知の任意の方法を用いて測定することができる。一部の実施形態では、免疫チェックポイントタンパク質をコード化するmRNAのレベルを測定してもよい。一部の実施形態では、前記タンパク質のレベルは、例えば、ELISAアッセイ、免疫組織化学、又は他の好適な方法を用いて、免疫学的アッセイを用いて、測定することができる。
【0365】
一部の実施形態では、CTLA-4の調節剤は、CTLA-4を活性化し、「CTLA-4アゴニスト」と呼ばれる場合がある。一部の実施形態では、CTLA-4アゴニストは、例えば、自己免疫疾患、GVHD、又は移植拒絶反応のリスクを有するか、又はそれを患う被験者におけるT細胞増殖及び/又は機能的活性を低減する、及び/又は寛容性を促進する上で有用である。
【0366】
一部の実施形態では、ある薬剤は、CD137の活性剤(CD137アゴニスト)を含む。腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバーである、CD137(4-1BBとしても知られる)は、T細胞共刺激分子である。特定の抗CD137モノクローナル抗体は、CD137を活性化し、CD8+T細胞を活性化することができ、これらの細胞にインターフェロン(INF)-γを産生させて、細胞溶解マーカを誘導する。ヒト化抗CD137抗体である、BMS-663513(Urelumab)は、CD-137アゴニストの一例である。
【0367】
一部の実施形態では、細胞は、その表面にターゲティング部分と第2薬剤を含むように修飾する。ターゲティング部分、第2薬剤の何れか、又はその両方を、ソルターゼを用いて細胞に結合させてもよい。一部の実施形態では、ターゲティング部分を発現するように、細胞を遺伝子操作した後、ソルターゼを用いて、第2薬剤と結合させる。一部の実施形態では、第2薬剤を発現するように、細胞を遺伝子操作した後、ソルターゼを用いて、ターゲティング部分と結合させる。一部の実施形態では、ターゲティング部分、第2薬剤、又はその両方を、ソルターゼ認識配列を介して、細胞により発現される内在性の非遺伝子操作ポリマーに結合させる。一部の実施形態では、細胞は、ソルターゼ触媒反応においてソルターゼ基質又は求核基の役割を果たすことができる細胞外ドメインを含むポリペプチドを発現するように遺伝子修飾されていない。一部の実施形態では、細胞は、特定の標的細胞、例えば、腫瘍細胞、感染細胞、又は他の不要な細胞に前記細胞をターゲティングする抗原結合部分を含むキメラ抗原受容体を含む。第2薬剤は、一般に、本明細書に記載する各種薬剤の何れを含んでもよい。一部の実施形態では、第2薬剤は、ターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、第2薬剤は、サイトカイン又はケモカインの少なくとも生物学的に活性の部分を含む。一部の実施形態では、第2薬剤は、例えば、被験者の身体における標的細胞(例えば、腫瘍細胞又は感染細胞)に対する、投与細胞の生物活性を増強する生物活性を有する。一部の実施形態では、生物活性は、抗腫瘍活性、内在性免疫系細胞若しくは投与免疫系細胞若しくはその子孫に対する共刺激活性、又は自己免疫疾患若しくは移植拒絶反応のような不要な免疫応答に寄与する内在性免疫系細胞に対する阻害活性である。一部の実施形態では、第2薬剤は、それ以外の場合に、例えば、被験者の身体における標的細胞(例えば、腫瘍細胞又は感染細胞)に対する、投与細胞又は内在性細胞の活性を阻害若しくは抑制し得る生物活性を阻害する。
【0368】
一部の実施形態では、ターゲティング部分は、腫瘍血管系において発現される分子(「腫瘍血管系マーカ」)に結合する。一部の実施形態では、「腫瘍血管系マーカは、正常血管系と比較して、腫瘍血管系に過剰発現される。一部の実施形態では、腫瘍血管系マーカは、腫瘍血管系における内皮細胞の管腔表面で発現される。一部の実施形態では、腫瘍血管系上に発現される分子は、PD-1、VEGFR1、VEGFR2、腫瘍内皮マーカ1(TEM1:エンドシアリン若しくはCD248としても知られる)、又はインテグリンαvβ3である。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、PD-1、VEGFR1、VEGFR2、TEM1、又はインテグリンαvβ3に結合する、1つ又は複数の結合部分、例えば抗体を含む。
【0369】
一部の実施形態では、癌治療に用いようとする細胞は、腫瘍血管系に結合するターゲティング部分を含む薬剤とソルタギングした後、被験者に投与してもよい。一部の実施形態では、細胞は、免疫系細胞であり、これは、一部の実施形態では、第2薬剤でソルタギングしてもよく、第2薬剤は、免疫チェックポイント阻害剤など、抗腫瘍活性を有する。一部の実施形態では、細胞は、赤血球であり、これを、免疫チェックポイント阻害剤などの、抗腫瘍活性を有する薬剤とソルタギングする。一部の実施形態では、細胞は、CAR細胞である。
【0370】
一部の実施形態では、本開示は、以下:(a)標的細胞上の分子に結合する第1結合部分;(b)免疫系細胞、例えば、T細胞、NK細胞、又はプロフェショナル食細胞(例えば、単球、マクロファージ、若しくは樹状細胞)上の分子に結合する第2結合部分;及び(c)ソルターゼ認識モチーフを含む二重特異性薬剤を提供する。一部の実施形態では、SMRは、薬剤がソルターゼ触媒反応に参加することができるように、適切に配置される。一部の実施形態では、本開示は、このような二重特異性薬剤とソルタギングした哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞を提供する。一部の実施形態では、標的細胞は、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、病原体感染細胞、又は病原体である。一部の実施形態では、標的細胞は、腫瘍細胞又は腫瘍関連細胞であり、第1結合部分は、腫瘍抗原に結合する。一部の実施形態では、第2部分は、T細胞の表面上の分子、例えば、CD3(例えば、CD3δ鎖、CD3ε鎖、CD3γ鎖、CD3ζ鎖、又はTCR-CD3複合体の他の成分、例えば、TCRα若しくはTCRβ鎖)又はCD28に結合する。一部の実施形態では、第2結合部分は、NK細胞、樹状細胞、又はマクロファージの表面上の分子、例えば、Fc受容体、例えば、Fcγ受容体、例えば、FcγRI(CD64)若しくはFcγRIIIA(CD16a)に結合する。T細胞、NK細胞、及び/又は食細胞の表面に発現されるその他の分子は、当業者には周知である。
【0371】
一部の実施形態では、二重特異性薬剤は、ソルタギング済み細胞を免疫系細胞及び標的細胞に連結する。これにより、免疫系細胞は、ソルタギング済み細胞を介して標的細胞に連結される。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞を介した免疫系細胞と標的細胞との連結によって、免疫系細胞の1つ又は複数のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性)が標的細胞に向けられる。これに代わり、又は加えて、ソルタギング済み細胞が、免疫系細胞であるいくつかの実施形態では、ソルタギング済み細胞の1つ又は複数のエフェクター機能を標的細胞に向かわせることもできる。一部の実施形態では、免疫系細胞、ソルタギング済み細胞、又はその両方による攻撃の個別若しくは複合効果によって、標的細胞が死滅する。一部の実施形態では、2つ以上の免疫系細胞を、ソルタギング済み細胞に結合した二重特異性薬剤を介してソルタギング済み細胞に連結させる。このように、個別のソルタギング済み細胞は、複数の免疫系細胞を、標的細胞につなぎとめることができる。複数の標的細胞が、互いに非常に近接して位置し得ることは留意すべきである。例えば、腫瘍細胞は、多くの場合、互いに近接して、及び/又は腫瘍中に腫瘍関連細胞に近接して位置する。例えば、ソルタギング済み細胞を介して標的細胞に連結された免疫系細胞は、それが連結された標的細胞に近接する他の標的細胞を攻撃することもできる。
【0372】
一部の実施形態では、第2結合部分と、T細胞、NK細胞、又は食細胞上の分子との結合は、このような細胞を刺激する。例えば、第2結合部分と、T細胞上のCD3又はCD28との結合は、T細胞を刺激して、増殖する、活性化状態になる、サイトカインを分泌する、貪食する、又は、例えば、細胞毒素の放出及び/若しくはアポトーシスの誘導により、標的細胞に細胞傷害性作用を及ぼすことができる。第2結合部分と、NK細胞、樹状細胞、又はマクロファージ上のFc受容体との結合は、このような細胞を刺激し得る。例えば、NK細胞は刺激されて、標的細胞に細胞傷害性作用を及ぼすことができる;DC細胞は刺激されて、サイトカインを分泌する及び/又は他の免疫系細胞を刺激する細胞-細胞相互作用をもたらす;マクロファージは刺激されて、標的細胞を貪食することができる。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞は、それが結合する免疫系細胞を刺激するか、又はその逆もまた同様である。例えば、何れかの細胞は、1つ又は複数のサイトカインを分泌するか、又は細胞-細胞接触を介した刺激をもたらし得る(例えば、一方の細胞が、他方の細胞上の共刺激受容体に対するリガンドを発現し得る)。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞はまた、免疫系細胞を刺激するか、又は免疫系細胞を阻害する薬剤とソルタギングされる。一部の実施形態では、活性化は、第1結合部分が結合する標的抗原を発現する細胞の存在に少なくとも部分的に依存する。例えば、T細胞、NK細胞、又は食細胞と、ソルタギング済み細胞が標的細胞の部位に局在化されると、刺激が起こり得る。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞を2つ以上の個別の二重特異性薬剤とソルタギングするが、個別の二重特異性薬剤の第2結合部分は、それらが結合する細胞型又は分子に関して異なる。従って、個々のソルタギング済み細胞は、標的細胞以外に、2つ以上の異なる細胞型の細胞、例えば、T細胞と樹状細胞、又はT細胞とマクロファージにも結合することができる。
【0373】
一部の実施形態では、本開示は、以下:(a)標的細胞上の分子に結合する第1結合部分;(b)免疫系細胞、例えば、T細胞、NK細胞、又は食細胞(例えば、単球、マクロファージ、若しくは樹状細胞)上の分子に結合する第2結合部分;(c)免疫系細胞、例えば、T細胞、NK細胞、又はプロフェッショナル食細胞(例えば、単球、マクロファージ、若しくは樹状細胞)上の分子に結合する第2結合部分;及び(d)ソルターゼ認識モチーフを含む三価薬剤を提供する。一部の実施形態では、SMRは、薬剤がソルターゼ触媒反応に参加することができるように、適切に配置される。一部の実施形態では、本開示は、このような三価薬剤とソルタギングした哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞を提供する。第1結合部分は、腫瘍細胞上の分子に結合する任意の結合部分であってよい。第2及び第3結合部分は、同じでも異なっていてもよく、T細胞、NK細胞、又はプロフェッショナル食細胞に結合する任意の結合部分であってよい。三価薬剤は、ソルタギング済み細胞を2つの他の細胞及び標的細胞に連結させることができる。ソルタギング済み細胞は、第1結合部分を介して標的細胞に連結され、また、第2及び第3結合部分が結合する2つの細胞は、ソルタギング済み細胞を介して標的細胞に連結される。
【0374】
一般に、二重特異性又は三価薬剤とソルタギングしようとする哺乳動物細胞は、様々な実施形態において何れの細胞型若しくはタイプであってもよい。一部の実施形態では、細胞は、PBMC、リンパ球、NK細胞、APC、赤血球、又は血小板を含む。細胞は、精製集団であってもよく、又は混合集団であってもよい。一部の実施形態では、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、又は50%の細胞が、CD4+T細胞である。一部の実施形態では、約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、又は50%以下の細胞が、細胞傷害性細胞である。一部の実施形態では、細胞は、エフェクター細胞になるようにex vivoで活性化されていない。一部の実施形態では、細胞は、遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、細胞は、遺伝子操作されており、例えば、細胞は、CAR細胞であってもよく、これらは、TCR、サイトカイン、サイトカイン受容体、共刺激因子、若しくは共刺激因子受容体、又は腫瘍、病原体、若しくはTregにより産生される免疫抑制物質の作用若しくは生成を阻害する因子を含む組み換え遺伝子産物を発現し得る。いくつかの実施形態では、ソルタギング済み細胞は、二重特異性又は三価薬剤とソルタギングされる以外に、腫瘍、病原体、若しくはTregにより産生される免疫抑制物質の作用若しくは生成を阻害する1つ又は複数の薬剤ともソルタギングされる。好適な薬剤を本明細書に記載する。
【0375】
一部の実施形態では、二重特異性又は三価薬剤とソルタギングした哺乳動物細胞を被験者に投与するが、この場合、第2結合部分(及び、任意選択で、もし存在すれば、第3結合部分)は、免疫系細胞にin vivoで結合する。一般に、第2又は第3結合部分が結合する免疫系細胞は、被験者の内在性免疫系細胞であってもよく、又は被験者に投与した外性細胞であってもよい。免疫系細胞が、内在性細胞である場合、細胞は、一部の実施形態において、本明細書に記載するように、ソルタギング及び/又は遺伝子操作されている。例えば、細胞は、CAR細胞であってもよく、これらは、サイトカイン、サイトカイン受容体、共刺激因子、若しくは共刺激因子受容体、接着分子などを含む組み換え遺伝子産物を産生し得る。
【0376】
一般に、結合部分は、任意のタイプ、例えば、タンパク質(例えば、抗体、抗体断片)、核酸アプタマー、小分子などであってよい。一部の実施形態では、第1結合部分、第2部分、又はその両方が、抗体、抗体断片、scFv、一本鎖ドメイン抗体、又は抗原結合ドメインを含む任意の他の部分を含む。一部の実施形態では、二重特異性薬剤は、二重特異性抗体である。一部の実施形態では、二重特異性抗体は、2つのscFvを含み、第1scFvは、標的細胞上の分子に結合し、第2scFvは、免疫系細胞、例えば、T細胞、NK細胞、又はプロフェッショナル食細胞の表面上の分子に結合する。一部の実施形態では、二重特異性抗体は、2つの単一ドメイン抗体(sdAb)を含み、第1sdAbは、標的細胞上の分子に結合し、第2sdAbは、免疫系細胞、例えば、T細胞、NK細胞、又はプロフェッショナル食細胞の表面上の分子に結合する。一部の実施形態では、二重特異性抗体は、scFvとsdAbを含み、scFv又はsdAbの何れかが標的細胞に結合し、他方が免疫系細胞に結合する。一部の実施形態では、2つのscFv、2つのsdAb、又はscFv及びsdAbは、クリックケミストリーを用いて互いに結合されて、二重特異性薬剤を形成し、ソルターゼを用いて、二重特異性薬剤を前記細胞に結合させる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、2つのscFv、2つのsdAb、又はscFv及びsdAbにクリックケミストリーハンドルを設置し、クリックケミストリーハンドルを反応させることによって、二重特異性薬剤を生成する。一部の実施形態では、2つのscFv、2つのsdAb、又はscFv及びsdAbを融合タンパク質として生成して、二重特異性薬剤を形成し、ソルターゼを用いて、二重特異性薬剤を前記細胞に結合させる。一部の実施形態では、任意選択でスペーサ領域により隔てられている、2つのVH及び2つのVL領域を含むポリペプチド一本鎖を生成し、ソルターゼを用いて、二重特異性薬剤を前記細胞に結合させる。ソルターゼ認識モチーフは、前記薬剤のC末端又はその付近に位置してよく、これを用いて、薬剤を前記細胞に結合させる。いくつかの実施形態では、二重特異性薬剤は、二重特異性抗体であり、一部の実施形態では、2つのsdAbを含む二重特異性抗体であり、これを、一部の実施形態では、クリックケミストリーを用いて、互いに結合させた後、ソルターゼを用いて、前記細胞に結合させることができる。一部の実施形態では、二重特異性薬剤の一方のアームは、T細胞上の活性化分子、例えば、T細胞上のCD3を認識し、他方のアームは、標的細胞、例えば、腫瘍細胞上の抗原を認識する。一部の実施形態では、二重特異性薬剤は、CD3ε鎖に結合する第1scFvと、CD19、EpCam、又は他の腫瘍抗原に結合する第2scFvとを含む。一部の実施形態では、例えば、二重特異性抗体ビナツモマブ(抗CD3/抗CD19)、MT103(抗CD3/抗EpCam)、又はAMG330を、ソルターゼ認識モチーフを含むように修飾して、哺乳動物細胞、例えば、ヒト免疫系細胞をソルタギングするのに用いることができる。一部の実施形態では、前述した二重特異性抗体の何れかに由来するscFvを、任意の腫瘍抗原に結合するscFv又は他の結合部分と組み合わせてもよい。一部の実施形態では、ヒト化抗CD3scFv、例えば、ヒト化OKT3scFvを用いてもよい(例えば、Woodle ES,et al.J Immunol 1992;148:2756-63;Kipriyanov SM,et al.Protein Eng 1997;10:445-53を参照)。一部の実施形態では、完全ヒト抗CD3scFvを用いてもよい。一部の実施形態では、二重特異性薬剤は、2つの免疫チェックポイント阻害剤を含み、これらは、任意選択で、異なる免疫チェックポイントタンパク質を阻害する。一部の実施形態では、二重特異性薬剤は、免疫チェックポイント阻害剤及びターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、前記細胞を腫瘍血管系にターゲティングさせる。
【0377】
一部の実施形態では、細胞は、腫瘍への免疫系細胞浸潤、例えば、T細胞浸潤を増強する薬剤とソルタギングするか、又は薬剤と併用して投与する。一部の実施形態では、薬剤は、抗血管新生薬、例えば、VEGF受容体に結合して、例えば、VEGFの結合を阻止することにより、これを阻害する抗体若しくは他の結合部分などのVEGF受容体阻害剤;VEGFファミリーの1つ又は複数のメンバーに結合する抗体若しくは他の結合部分;可溶性VEGF受容体細胞外ドメイン(例えば、VEGF-Trap)を含む薬剤である。一部の実施形態では、薬剤は、内皮細胞でのICAM-1、ICAM-2、又はVCAM-1の発現を増強する。一部の実施形態では、薬剤は、内皮バリアを介した免疫系細胞、例えば、リンパ球の移動を阻害し得る内在性分子に結合する。このような分子の例として、エンドセリンB受容体がある。一部の実施形態では、薬剤は、エンドセリンB受容体阻害剤である。一部の実施形態では、エンドセリンB受容体阻害剤は、エンドセリンB受容体に結合する抗体又は他の結合部分である。一部の実施形態では、エンドセリンB受容体阻害剤は、BQ-788などの小分子である。一部の実施形態では、細胞は、免疫系細胞であり、これらは、一部の実施形態では、第2薬剤とソルタギングしてもよく、その場合、第2薬剤は、免疫チェックポイント阻害剤のような抗腫瘍活性を有する。一部の実施形態では、細胞は、赤血球であり、これは、免疫チェックポイント阻害剤のような抗腫瘍活性を有する薬剤とソルタギングされる。一部の実施形態では、細胞は、CAR細胞である。
【0378】
一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載する任意の2つ以上の細胞又は細胞集団を含む組成物を提供し、前記細胞又は細胞集団の少なくとも1つは、ソルターゼにより薬剤が結合された非遺伝子操作ポリペプチドを含む。一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載する任意の2つ以上の細胞又は細胞集団を同じ方法で用いるステップ、例えば、本明細書に記載する任意の2つ以上の細胞又は細胞集団を被験者に投与するステップを含む方法を提供し、前記細胞又は細胞集団の少なくとも1つは、ソルターゼにより薬剤が結合された非遺伝子操作ポリペプチドを含む。あらゆる異なる組み合わせが考慮される。一部の実施形態では、前記細胞又は細胞集団は、同じ細胞型、例えば、別の薬剤と結合した2つ以上の赤血球若しくは赤血球集団、又は別の薬剤と結合した2つ以上のT細胞若しくはT細胞集団である。一部の実施形態では、前記細胞又は細胞集団は、異なる細胞型、例えば、赤血球とリンパ球(例えば、T細胞)である。一部の実施形態では、前記2つ以上の細胞又は細胞集団は、個別に同じ目的、例えば、抗腫瘍治療に用いられる。一部の実施形態では、前記2つ以上の細胞又は細胞集団は、相加又は相乗効果を有し得る。一部の実施形態では、組み合わせは、第1薬剤とソルタギングした非遺伝子操作ポリペプチドを含む赤血球と、同じ又は別の薬剤とソルタギングした免疫系細胞、例えば、リンパ球、PMBC、NK細胞との組み合わせを含んでもよい。本発明を何ら限定することなく、癌治療に有用ないくつかの実施形態は、以下を含み得る:(1)免疫チェックポイント阻害剤若しくは血管新生阻害剤とソルタギングした赤血球、及び腫瘍抗原に結合する結合部分を含む薬剤とソルタギングした免疫系細胞、例えば、T細胞若しくはPBMCの組み合わせ;(2)免疫チェックポイント阻害剤若しくは血管新生阻害剤とソルタギングした赤血球、及び腫瘍への免疫系細胞浸潤を増強する薬剤とソルタギングしたCAR細胞の組み合わせ;(3)免疫チェックポイント阻害剤若しくは血管新生阻害剤とソルタギングした赤血球、及び第1腫瘍抗原に結合するCARを含み、かつ第2腫瘍抗原に結合する薬剤とソルタギングしたCAR細胞の組み合わせ。
【0379】
ソルタギング済み細胞の投与前に、被験者を様々な前処置で被験者を治療してもよい。例えば、養子細胞の移入前に、患者のリンパ球を枯渇(lymphodepletion)させて、T調節細胞及び他のリンパ球を排除することは、多くの癌ACT療法の構成要素である(Dudley ME,et al.Adoptive cell transfer therapy following non-myeloablative but lymphodepleting chemotherapy for the treatment of patients with refractory metastatic melanoma.J.Clin.Oncol.2005;23:2346-2357)。このようなリンパ球は、そうでなければ、インターロイキン-7(IL-7)及びIL-15などの恒常性サイトカインについて移入細胞と競合する可能性がある。ACT前のリンパ球枯渇では、患者のリンパ系コンパートメントを枯渇させるために、全身照射又は細胞傷害性薬物を用いてもよい。移入T細胞は、その生存及び拡大をin vivoで刺激するために適切な増殖因子と一緒に投与してもよく、及び/又は前記細胞を投与の前又は後に、このような増殖因子を患者に個別に投与してもよい。一部の実施形態では、内在性抗原提示細胞を刺激することができる分子、例えば、トール様受容体アゴニストを投与してよい。一部の実施形態では、T細胞及びAPCの何れも投与する。
【0380】
一部の実施形態では、細胞を検出可能な標識とソルタギングして、これらが、in vivoで、又は後に被験者から採取したサンプル中で検出できるようにしてもよい。
【0381】
一部の実施形態では、哺乳動物被験者の免疫系を調節する方法が本明細書において提供される。一部の実施形態では、免疫系を調節する方法は、生存哺乳動物細胞を哺乳動物被験者に投与するステップを含み、免疫調節剤、抗原、又はエピトープを含む部分を、ソルターゼを用いて生存哺乳動物細胞に結合させる。一部の実施形態では、免疫系を調節する方法は、免疫調節剤、抗原、又はエピトープを含む部分を、ソルターゼを用いて生存哺乳動物細胞に結合させるステップ、及び前記生存哺乳動物細胞を哺乳動物被験者に投与するステップを含む。
【0382】
一部の実施形態では、免疫系の調節は、1つ又は複数の免疫系細胞の1つ又は複数の生物活性を調節するステップを含む。一部の実施形態では、免疫系の調節は、抗原に対する免疫応答を調節するステップを含む。一部の実施形態では、免疫系の調節は、抗原に曝露された1つ又は複数のタイプの免疫系細胞の1つ又は複数の生物活性を調節するステップを含む。一部の実施形態では、免疫応答は、1つ又は複数のタイプの免疫系細胞の移動、増殖、又は活性化を含む。一部の実施形態では、免疫応答は、未成熟免疫系細胞の成熟型機能性細胞への発育を含む。一部の実施形態では、免疫応答は、ある抗原に特異的なヘルパー(CD4+)T細胞の増殖及び/又は活性化を含む。一部の実施形態では、免疫応答は、ある抗原に特異的な細胞傷害性(CD8+)Tリンパ球(CTL)の増殖及び/又は活性化を含む。一部の実施形態では、抗原に対する免疫応答は、例えば、抗原に特異的な免疫系細胞によるサイトカインの産生を含む。一部の実施形態では、免疫応答は、抗体産生細胞(血漿細胞)の増殖及び/若しくは活性化並びに/又はそのような細胞による抗体の産生を含み、抗体は、抗原に結合する。一部の実施形態では、免疫応答は、後に抗原(その生成を誘発する)に曝露されると、抗原に対する迅速な免疫応答をもたらすことができるメモリーT及び/又はB細胞の生成を含む。一部の実施形態では、免疫系の調節は、免疫系細胞の任意の1つ又は複数の生物活性を調節するステップを含む。一部の実施形態では、抗原に対する免疫系の調節は、抗原に特異的な免疫系細胞の何れかの1つ又は複数の生物活性を調節するステップを含む。一部の実施形態において、一部の実施形態では、抗原に対する免疫応答を調節することにより、抗原を含む実体に対する免疫応答を調節する。例えば、病原体由来の抗原に対する免疫応答を調節することにより、抗原を含む病原体、又は抗原を発現するか、若しくはその表面に抗原を提示する細胞に対する免疫応答を調節する。「病原体由来抗原」という用語は、病原体、例えば、本明細書に記載する多様な病原体の何れかにより自然に産生される抗原、及び/又は病原体により自然に遺伝的にコード化されるポリペプチド若しくはペプチドを含む抗原を包含する。一部の実施形態では、病原体由来抗原は、病原体により自然に産生されるポリペプチド、多糖、炭水化物、脂質、核酸、又はこれらの組み合わせである。一部の実施形態では、病原体由来抗原は、病原体により自然にコード化され、また、抗原をコードする病原体の遺伝材料が感染細胞に導入された結果として、感染細胞により産生される。一部の実施形態では、病原体由来抗原は、細胞膜、細胞壁、又は莢膜の表面に少なくとも一部が露出する。一部の実施形態では、病原体由来抗原は、病原体の分泌病原性因子である。一部の実施形態では、病原体由来抗原は、宿主細胞への病原体の侵入に特定の役割を果たす抗原である。例えば、抗原は、感染される細胞の細胞表面分子に結合し得る。一部の実施形態では、病原体由来抗原は、毒素である。一部の実施形態では、病原体は、免疫状態に問題がない健常な個体にはごく稀にしか疾患を起こさないが、少なくとも一部の感受性の高い個体、例えば、免疫が欠損した個体には疾患を引き起こす因子であってもよい。
【0383】
一部の実施形態では、免疫系の調節は、免疫応答を刺激する(増強、増加、誘発する)ステップを含む。一部の実施形態では、「免疫応答を刺激する」とは、免疫応答の発生を引き起こす、被験者が免疫応答を開始する能力を増強する、又は現在免疫応答を開始している被験者における免疫応答を増大することを包含する。一部の実施形態では、被験者が免疫応答を開始する能力を増強することによって、より迅速又はより頑健な免疫応答が得られる。一部の実施形態では、免疫応答は、抗原を含む外来の実体(例えば、病原体)、感染細胞、癌細胞、又は他の不要な(例えば、有害な)細胞若しくは物質に向けられる。
【0384】
一般に、ターゲティング部分は、任意の好適な方法を用いて得ることができる多様な異なる部分の何れを含んでもよい。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、抗体、抗体鎖、抗体断片、scFv、VHHドメイン、単一ドメイン抗体、タンパク質、又はアプタマーを含み、抗体、抗体鎖、抗体断片、scFv、VHHドメイン、単一ドメイン抗体、タンパク質、又はアプタマーは、標的に結合する。
【0385】
一部の実施形態では、免疫応答を調節する本明細書に開示する方法は、病原体、感染細胞、腫瘍細胞、又は他の不要な細胞若しくは物質に対する適応免疫応答を増強する。一部の実施形態では、免疫応答を調節する本明細書に開示する方法は、病原体、感染細胞、腫瘍細胞、又は他の不要な細胞若しくは物質に対する自然免疫応答を増強する。一部の実施形態では、免疫応答を調節する本明細書に開示する方法は、適応免疫及び自然免疫の両方を増強する。一部の実施形態では、本明細書に開示する方法は、ウイルス(例えば、HIV)、細菌(例えば、ミクロバクテリウム(Mycobacterium)))、真菌(例えば、アスペルギルス(Aspergillus))若しくは寄生体(例えば、マラリア原虫(Plasmodium))などの病原体に対する、又は腫瘍細胞若しくはその他の不要な細胞に対するT細胞性免疫応答を増強する。一部の実施形態では、本明細書に開示する方法は、病原体、感染細胞、又は腫瘍細胞に対する細胞媒介細胞傷害性を増強する。例えば、一部の実施形態では、本明細書に開示する方法は、病原体、感染細胞、又は腫瘍細胞に対するCD8+細胞傷害性T細胞の活性を増強する。
【0386】
一部の実施形態では、組成物は、ソルタギング済み哺乳動物細胞を含み、細胞は、任意の対象の部分とソルタギングされる。一部の実施形態では、組成物は、哺乳動物細胞、ソルターゼ、及びソルターゼ基質を含む。一部の実施形態では、組成物は、最大約1014細胞、例えば、約10、102、103、104、105、5×105、106、5×106、107、5×107、108、5×108、109、5×109、1010、5×1010、1011、5×1011、1012、5×1012、1013、5×1013、若しくは1014細胞を含む。一部の実施形態では、細胞の数は、前述した数の任意の2つの間の範囲であってよい。一部の実施形態では、組成物は、増殖因子、サイトカイン、アジュバント又は共刺激因子をさらに含む。一部の実施形態では、1つ又は複数の増殖因子若しくはサイトカインは、前記細胞の少なくとも一部の成熟、生存、増殖、又は活性化を促進する。一部の実施形態では、サイトカインは、IL-2である。一部の実施形態では、サイトカインは、IL-7、IL-12、IL-15、又はIL-21である。一部の実施形態では、サイトカインは、TNF-αである。一部の実施形態では、免疫系細胞が培養又は維持される組成物は、T細胞受容体若しくはその一部の抗体又はリガンド、例えば、CD3に対する抗体を含む。一部の実施形態では、免疫系細胞が培養又は維持される組成物は、1つ又は複数のアジュバントを含む。一部の実施形態では、免疫系細胞を含む組成物は、免疫系細胞の少なくとも一部による共刺激因子の発現を誘導する1つ又は複数のアジュバントを含む。一部の実施形態では、1つ又は複数のアジュバントは、TLRリガンド、RAMP若しくはRAMP模倣物、CD40リガンド、又は抗CD40抗体を含む。一部の実施形態では、免疫系細胞が培養又は維持される組成物は、1つ又は複数の共刺激因子を含む。一部の実施形態では、共刺激因子は、APC、例えば、DCの表面に発現される。一部の実施形態では、共刺激因子は、可溶性である。一部の実施形態では、共刺激因子を表面、例えば、粒子に結合させる。
【0387】
一部の実施形態では、免疫応答は、抗原に特異的な、すなわち、高い親和性で、抗原に結合する受容体(TCR、BCR)を発現するリンパ球、例えば、CD4+ヘルパーT細胞の成熟、増殖及び/又は活性化を含む。一部の実施形態では、細胞活性化により、1つ又は複数のサイトカイン遺伝子の発現増大が起こる。
【0388】
細胞、例えば、ソルタギング済み哺乳動物細胞を特性決定又は評価して、例えば、これらが、1つ又は複数の対象の特性を有するかどうかを決定する、ソルタギングの作用を決定する、及び/又は被験者に投与したときの細胞の効果を決定することができる。一部の実施形態では、1つ又は複数のサイトカインの分泌、活性化状態に特有の細胞表面マーカの存在、及び/又は細胞傷害活性などの1つ又は複数の機能的活性の有無について評価することもできる。一部の実施形態では、リンパ球のエフェクター機能(例えば、T細胞)は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞、感染細胞、又は標的抗原をロードした、若しくは標的抗原を発現させた細胞)と共培養した後、IFNγ分泌により証明することができる。一部の実施形態では、リンパ球のエフェクター機能は、CD107a(LAMP-1)の発現増大により証明することができ、これは、CD8+T細胞及びナチュラルキラー細胞活性(例えば、脱顆粒)の同定についての機能性マーカとして役立ち得る。サイトカイン分泌は、例えば、ELISAアッセイ、サイトカイン抗体アレイなどを用いて評価することができる。一部の実施形態では、特定の抗原に対する特異性を有するT細胞の存在又は増殖は、ペプチドに対して特異的なT細胞を同定若しくは単離するのに用いることができるペプチド-NHC多量体(例えば、二量体、四量体、五量体など)により、又は一部の実施形態では、脂質に対して特異的なナチュラルキラーT細胞を同定若しくは単離するのに用いることができるCD1脂質多量体によって、評価することができる。ペプチド-NHC又はCD1脂質多量体を作製するための方法は、当技術分野において公知である。
【0389】
細胞生存性及び/又は増殖を評価するために、多様なアッセイが利用可能である。例えば、細胞膜完全性アッセイ(例えば、生存細胞から一般に除外される化合物を排除する能力、例えば、トリパンブルー若しくは7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)、細胞ATBアッセイ、ミトコンドリアレダクターゼ活性アッセイ、カルセイン染色、核酸色素を用いるDNA含量アッセイ、細胞代謝アッセイ、例えば、レサズリン(時として、AlamarBlueなどとしても知られる)、MTT、XTT、及びCellTitre Gloなど、タンパク質含量アッセイ、例えば、SRB(スルホルホダミンB)アッセイ;核断片化アッセイ;細胞質ヒストン関連DNA断片化アッセイ;PARP切断アッセイ;TUNEL染色;アネキシン染色、CyQUANT(登録商標)細胞増殖アッセイ(Life Techologies)。一部の実施形態では、フローサイトメトリーによるアッセイを用いて、細胞傷害性を評価することができ、この場合、蛍光色素又は他の検出可能な標識を用いて、細胞集団中の非生存又は生存細胞を染色してから、細胞をフローサイトメトリーに付した後、定量する。
【0390】
一部の実施形態では、細胞傷害性(例えば、ソルタギング済み哺乳動物細胞の細胞傷害作用)を、必要に応じ、任意の好適なアッセイを用いて評価することができる。一部の実施形態では、クロミウム51(51Cr)リリースアッセイを用いてもよい。51Crアッセイでは、標的細胞を51Crでロードした後、細胞溶解が起こり得る条件下で維持する。その後、細胞溶解により、標識が標的細胞から放出され得る。標識は、サンプルを遠心分離し、上清を回収することにより単離することができる。遠心分離からの上清は、ガンマカウンターで直接計数するか、又はシンチレーションフルイド(scintillation fluid)と混合する、若しくはLumaPlate(商標)などの固体シンチラントを含む基質上で乾燥させた後、シンチレーションカウンターで計数することができる。クロミウム51リリースアッセイと同様の原理を用いる細胞傷害性アッセイ(化合物若しくは化合物前駆体を細胞にロードした後、溶解した細胞から放出される化合物を検出する)を用いてもよく、例えば、DELFIA(登録商標)細胞傷害性アッセイ(Perkin Elmer)がある。DELFIAは、蛍光増強リガンドのアセトキシメチルエステルを細胞にロードすることに基づく。リガンドが細胞膜を貫通した後、エステル結合が細胞内で加水分解されて、親水性リガンドを形成するが、これは、もはや細胞膜を通過しない。細胞溶解後、放出されたリガンドをユウロピウム溶液に導入して、蛍光キレートを形成する。測定されるシグナルは、溶解細胞の量と直接相関する。一部の実施形態では、細胞傷害性アッセイを用いて、細胞媒介細胞傷害性、例えば、T細胞若しくはNK細胞の細胞傷害活性を測定する。一部の実施形態では、細胞が、特定のペプチド又は他の抗原を発現する標的細胞を溶解する能力は、標的細胞として、このようなペプチド若しくは抗原をロードした、又はこれらを発現させた細胞を用いて、試験することができる。一部の実施形態では、細胞傷害性細胞は、それがパーホリン、グランザイム(例えば、グランザイムA、グランザイムB、グランザイム3/K)、及び/又はグラニュライシンを産生することを特徴とする。一部の実施形態では、こうした酵素の産生をフローサイトメトリーにより検出することができる。一部の実施形態では、細胞傷害性は、例えば、経時的顕微鏡検査法を用いて観測することができる。
【0391】
一部の実施形態では、アポトーシス促進活性(例えば、ソルタギング済み哺乳動物細胞のアポトーシス促進作用)を、必要に応じ、任意の好適なアッセイを用いて評価することができる。一部の実施形態では、TUNELアッセイ、DNA断片化、アネキシン(Annexin)Vアッセイ、カスパーゼアッセイ、ミトコンドリア膜電位差アッセイなど。
【0392】
投与したソルタギング済み哺乳動物細胞が有用な効果を生み出す能力は、細胞が治療しようとする特定の疾患の治療効果を評価するための標準的方法を用いて、評価することができる。例えば、抗腫瘍効果は、多様な非ヒト動物腫瘍モデル、例えば、異種移植モデル、自然に、若しくは遺伝子操作の結果発生する腫瘍を有する非ヒト動物などで評価することができる。一部の実施形態では、腫瘍を身体から摘出した(例えば、死体解剖で)後、評価することができる(例えば、腫瘍を計数、計量する、及び/又はサイズ(寸法)を測定してよい)。一部の実施形態では、腫瘍のサイズ及び/又は数を非侵襲的に決定することができる。例えば、いくつかの腫瘍モデルにおいて、蛍光標識(例えば、GFPなどの蛍光タンパク質を発現することにより)した腫瘍細胞を、様々な腫瘍イメージング技術又は機器、例えば、二光子顕微鏡法のような非侵襲的蛍光法によりモニターすることができる。皮下に移植した、又は発生する腫瘍のサイズは、皮下でモニターし、測定することができる。動物又はヒト被験者においてin vivoで腫瘍を評価するために、多様な方法及び/又は装置の何れを用いてもよい。腫瘍の数、サイズ、増殖速度、若しくは転移は、例えば、様々なイメージング法、例えば、1、2、若しくは3次元イメージング(例えば、X線、CTスキャン、超音波、又は磁気共鳴イメージングなど)を用いて、評価することができ、及び/又は機能イメージング(例えば、PETスキャン)を用いて、病変(局部若しくは転位)を検出若しくは評価して、例えば、解剖学的腫瘍負荷を測定する、新たな病変(例えば、転移)を検出する、などが可能である。ヒト被験者において、オリジナル版又は改訂版Response Evaluation Criteria In Solid Tumors(RECIST)(Therasse P,et al.J Natl Cancer Inst(2000)92:205-16;Eisenhauer,E.,et al.,Eur J Cancer.(2009)45(2):228-47)などの客観的基準、又はリンパ腫若しくは白血病の場合には、Cheson BD,et al.J Clin Oncol 2007;10:579-86に記載されている応答基準を用いてよい。理解されるように、臨床的応答は、治療から数週間又は数カ月しないとはっきりしない場合もある。例えば、免疫チェックポイント阻害剤療法に対する応答の場合には、病変のサイズの退縮は、標準的化学療法薬に対する応答の症例で典型的にみられるタイミングと比較して、緩徐であり得る(例えば、治療の開始から約6カ月の遅延)。病原体に対する治療効果は、例えば、病原体に曝露された動物若しくはヒト被験者における感染の症状に基づいて、及び/又は対照と比較して、治療を受けた感染被験者の体液(例えば、血液)、組織、若しくは組織中の病原体又は病原体感染細胞の存在の低減を検出することにより、評価することができる。
【0393】
様々な自己免疫疾患に関して動物モデルが存在する。例えば、コラーゲン誘発性関節炎(Collagen Induced Arthritis)(CIA)モデルは、一般に用いられるモデルであり、ヒト関節リウマチとの免疫学的及び病理学的類似性を有する。例えば、げっ歯類において、完全フロイントアジュバント(CFA)中で乳濁させたタイプIIコラーゲン(CII)の内皮注射によって、CIIに対する抗体を生成する免疫応答を引き起こすことにより、関節炎を開始する。疾患に対するT細胞及びB細胞成分の両方が存在する。実験自己免疫脳脊髄炎は、中枢神経系(CNS)の炎症性脱髄疾患であり、多発性硬化症及び急性播種性脳脊髄炎を含む、ヒトCNS脱髄疾患の動物モデルとして用いられている。EAEは、一般的なT細胞媒介性自己免疫疾患のプロトタイプとして役立つ。EAEは、マウス、ラット、モルモット、ウサギ及び霊長類などの様々な種に誘導することができる。げっ歯類で一般に用いられる抗原は、脊髄ホモジネート(SCH)、精製ミエリン、MBP、PKP及びMOGなどのミエリンタンパク質、若しくはこれらタンパク質のペプチドである。これはまた、これらのミエリン抗原に特異的に反応性のT細胞の受動移入により誘導することもできる。治療効果は、例えば、臨床的症状及び徴候、組織病理学(例えば、病変、組織破壊)、自己反応性T細胞の存在などに基づいて評価することができる。I型糖尿病の動物モデルとしては、例えば、非肥満糖尿病(NOD)、BDC2.5トランスジェニック、並びにヒト化マウス、例えば、マウス由来のMHCIを欠失しているが、その代わりヒトHLA-A2.1分子を遺伝子導入により発現するNOD.β2mnull.HHDマウスがある。
【0394】
細胞は有効量で投与してよく、これは、生体応答又は対象の作用を達成する、例えば、疾患若しくは病状の1つ又は複数の症状若しくは発症を低減する、又は免疫応答を調節するのに十分な量を意味する。一部の実施形態では、被験者に投与する組成物は、最大約1014細胞、例えば、約103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013若しくは1014細胞、又はこれらの間の任意の数値又は範囲を含む。一部の実施形態では、約105~約1012細胞を投与する。一部の実施形態では、約105~約108細胞及び約1011~約1013細胞を投与する。一部の実施形態では、被験者は、単一用量の細胞を受ける。一部の実施形態では、被験者は、治療コースにわたって、複数用量の細胞、例えば、2~5、10、20、又はそれを超える用量を受ける。一部の実施形態では、用量又は総細胞数は、細胞/m2又は細胞/kgとして表すことができる。例えば、用量は、約103、104、105、106、107、108、109、若しくは1010細胞/m2又は細胞/kg、これらの間の任意の数の範囲であってよい。一部の実施形態では、治療コースは、約1~2カ月、2~6カ月、6~12カ月、又はそれを超えて、例えば、無期限、若しくは被験者が治療を必要としなくなるまで継続する。一部の実施形態では、被験者は、約2~6週間毎に治療してよい。当業者であれば、細胞の数、用量、及び/又は投与間隔は、被験者の体重、表面積、及び/又は血液量、治療対象の病状、被験者の応答などの様々な要因に基づいて選択することができる。要求される厳密な細胞数は、被験者間で、被験者の種、年齢、体重、性別、及び健康状態、疾患若しくは障害の重症度、具体的な細胞、細胞に結合させる薬剤の正体(identity)及び活性、投与方法、同時療法などの要因に応じて変動し得る。この量は、担当医により、正しい判断の範囲内で、決定され得ることは理解されよう。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞及び非ソルタギング細胞の両方を投与してもよい。
【0395】
一部の実施形態では、細胞を投与する以外に、さらに1つ又は複数の化合物を1回又は複数回被験者に投与する。一部の実施形態では、化合物は、細胞の投与前に少なくとも1回及び/又は投与後に少なくとも1回投与する。一部の実施形態では、サイトカインを投与するが、サイトカインは、免疫系細胞の生存、増殖、成熟、活性化、又は活性を増強することができる。一部の実施形態では、サイトカインは、IL-2である。一部の実施形態では、サイトカインは、IL-7、IL-12、IL-15、又はIL-21である。一部の実施形態では、アジュバントを投与する。一部の実施形態では、アジュバントは、APCを誘導して、共刺激因子を発現させることができる。一部の実施形態では、アジュバント及び/又はサイトカインは、細胞と同時に投与する。一部の実施形態では、アジュバント、サイトカイン、及び/又は細胞は、異なる組成物として投与する。
【0396】
一般に、任意の好適な投与経路を用いて、細胞を投与してよい。一部の実施形態では、細胞は、例えば、注入により、循環系に投与する。一部の実施形態では、細胞は、静脈内投与する。一部の実施形態では、腫瘍若しくはその近傍、又は腫瘍細胞を保有すると考えられる部位(例えば、腫瘍が摘出されたか、若しくは治療により検出不能になった部位、又は腫瘍が転移しやすい部位)、感染部位、又は感染の可能性がある部位(例えば、外傷などの皮膚の損傷、留置デバイス、手術部位など)、又は、例えば、治療効果などの効果が求められる任意の部位に投与する。一部の実施形態では、細胞が治療効果を有する条件に影響される器官中又はその近傍に、細胞を投与する。一部の実施形態では、上記器官は、腫瘍が存在するか、又は腫瘍を摘出した、又は腫瘍が転移しやすい器官である。一部の実施形態では、上記腫瘍は、原発腫瘍である。一部の実施形態では、上記腫瘍は、転移性腫瘍である。当業者であれば、特定の腫瘍タイプが、特定の器官に転移しやすい、すなわち、これらの腫瘍は、こうした器官に一般に、又は多くの若しくは大部分の他の器官より少なくとも高い頻度で転移することを認識されよう。例えば、乳房の腫瘍は、骨、肝臓、肺及び脳に転移しやすく;結腸直腸癌は、肝臓及び肺に転移しやすい。一部の実施形態では、前記器官は、個体が有する特定の腫瘍タイプが転移する1番目、2番目、3番目、又は4番目に一般的な器官である。一部の実施形態では、腫瘍は、転移である。一部の実施形態では、肝臓の病状、例えば、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)又は肝臓感染症を治療するために、門脈又は肝動脈に投与する。一部の実施形態では、膵臓を侵す病状、例えば、膵臓癌を治療するために、膵動脈に細胞を投与する。一部の実施形態では、腹膜を侵す病状、例えば、腫瘍を治療するために、腹腔中に細胞を投与する。原発性腹膜癌は、腹膜を覆う細胞の癌であり、中皮腫の形態である。腹腔は、卵巣癌の拡散又は再発の一般的部位である。腹膜播種性転移は、消化器癌などの多様な原発性癌から起こり得る。一部の実施形態では、肺又は胸膜を侵す病状、例えば、肺癌又は胸膜中皮腫を治療するために、胸膜腔又は胸腔に細胞を投与する。一部の実施形態では、脳又は髄膜を侵す病状、例えば、腫瘍を治療するために、脊柱管に投与する。一部の実施形態では、眼を侵す病状、例えば、腫瘍を治療するために、眼内に投与する。一部の実施形態では、感染が検出された、又は存在することが疑われる器官中若しくはその近傍に細胞を投与する。器官における感染の存在は、例えば、少なくとも部分的に、被験者が知覚又は呈示する症状若しくは徴候、器官から得たサンプル中の感染因子若しくはその成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質)の検出、又は感染因子がこうしたタイプの器官に感染する既知の傾向に基づいて疑うことができる。一部の実施形態では、ある部位又は器官の「近傍」は、その部位又は器官から外側の所定位置内、並びにその部位又は器官の端から、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm以内を指す。一部の実施形態では、ある部位又は器官の「近傍」は、その器官又は部位内、あるいは、血管(又はその血管から生じる1つ又は複数の血管)がその器官又は部位に進入する地点から5cm、10cm、15cm、20cm、若しくは25cm以内の位置の何れかで、前記器官又は部位に供給する血管への投与を指す。いくつかの実施形態では、血液を前記器官から外部又は遠位に運搬する血管中に細胞を導入してもよい。一部の実施形態では、こうした投与は、器官内の腫瘍から生じて、循環系又はリンパ系に侵入する腫瘍細胞をターゲティングする上で有用である。
【0397】
一部の実施形態では、マイクロバブル造影剤の存在下での集束超音波(FUS)を用いて、例えば、脳における腫瘍若しくは感染症の治療のために、感染細胞により、又は感染因子により腫瘍に発現された抗原にターゲティングさせる免疫系細胞を用いて、ソルタギング済み細胞を脳に送達することができる。FUSは、血液-脳関門(BBB)を破壊して、脳への細胞の送達を促進する。一部の実施形態では、免疫系細胞は、ソルタギング済みCAR細胞である。一部の実施形態では、細胞は、ターゲティング部分でソルタギングする。
【0398】
任意の生理学的に許容されるビヒクルで細胞を投与してもよい。細胞生存性に適合性で、しかも、被験者に投与した際、有害な作用を生じないビヒクルは、当業者により選択することができる。一部の実施形態では、ビヒクルは、水、適切な塩濃度を含み、生理学的に適合性のバッファー物質、例えば、HEPESを含んでもよい。
【0399】
一部の実施形態では、予防を必要とする被験者、存在する癌の治療を必要とする、又は癌の再発を遅らせる、阻害する、若しくは予防する必要がある被験者に、免疫系細胞を投与する。一部の実施形態では、導入した細胞(又はその子孫)の少なくとも一部が、癌に対する、又は身体に残留若しくは発生する癌細胞に対する免疫応答を開始し、癌又は癌細胞は、腫瘍抗原を含む。一部の実施形態では、導入した細胞(又はその子孫)の少なくとも一部が、被験者の少なくとも一部の内在性免疫系細胞、例えば、内在性T細胞の成熟、増殖、及び/又は活性化を刺激し、内在性免疫系細胞は、癌に対する、又は身体に残留若しくは発生する癌細胞に対する免疫応答を開始し、この場合、前記癌又は癌細胞は、腫瘍抗原を含む。
【0400】
一部の実施形態では、一方法は、被験者が治療を必要とする腫瘍により発現される抗原を同定する。腫瘍から得られる腫瘍又は細胞を、免疫組織化学、フローサイトメトリーなどの標準的方法を用いて、腫瘍抗原の発現について分析することができる。一部の実施形態では、上記抗原に結合するターゲティング部分を含む薬剤と、免疫系細胞をソルタギングする。続いて、免疫系細胞及び/又はその子孫を被験者に投与する。一部の実施形態では、化学療法又は放射線による被験者の治療の前に、免疫系細胞を被験者から取得する。免疫系細胞の少なくとも一部は、被験者に投与しようとする1つ又は複数の細胞製剤の製造において、後に使用するために保存してよい。
【0401】
一部の実施形態では、被験者、例えば、ソルターゼ修飾細胞を投与する被験者は、免疫適格性であり、例えば、被験者は、正常に機能する免疫系を有する。一部の実施形態では、被験者は、免疫無防備状態である。被験者は、多様な理由の何れかのために免疫無防備状態である。このような理由として、例えば、以下のものが挙げられる:年齢(乳児若しくは高齢の個体)、自然及び/又は適応免疫系の1つ又は複数の成分を侵す遺伝性免疫不全障害、HIV感染症などの免疫系を侵す癌若しくは感染症、例えば、癌(癌化学療法)治療目的、又は移植拒絶反応の予防若しくは阻害、又は自己免疫疾患の治療を目的とする免疫抑制剤若しくは細胞傷害薬による治療。免疫抑制剤として、例えば、癌の治療に用いられる各種化学療法薬、移植拒絶反応の可能性を低減する、又は自己免疫疾患を治療するために投与される各種薬剤など、細胞傷害性若しくは細胞増殖抑制性薬剤がある。例として、例えば、グルココルチコイド、ラパマイシン若しくはラパマイシン類似体などのイムノフィリン相互作用剤、TNFαアンタゴニストなど)が挙げられる。一部の実施形態では、被験者は、例えば、入院、手術、慢性疾患(例えば、糖尿病、癌、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症)、留置医療デバイス(例えば、カテーテル、IV線)、インプラント若しくは人工器官(例えば、心臓弁置換術)、身体の外傷、熱傷、栄養失調などにより、正常な一般の健康な個体と比較して、感染のリスクが高い。一部の実施形態では、ソルターゼ修飾細胞を用いて、化学療法又は放射線療法を受けた、受けている、又は受けようとしている被験者における免疫応答を誘導又は増大する。一部の実施形態では、被験者は、約1歳未満か、又は約60、65、70、75、若しくは80歳を超えているため、感染のリスクが高い。
【0402】
一部の実施形態では、免疫応答を調節することは、免疫応答を阻害することを含む。本明細書で用いる場合、免疫応答を「阻害する」ことは、現在そのような応答を示していない被験者において免疫応答の発生を阻止するか、若しくは遅らせること、又は現在若しくは将来の潜在的免疫応答を低減することを含む。一部の実施形態では、免疫応答は、例えば、それが起こる被験者に有害な免疫応答などの不要な免疫応答である。一部の実施形態では、不要な免疫応答は、自己組織若しくは細胞、移植された組織若しくは細胞、診断若しくは治療目的で身体に導入された非生存材料、又はアレルゲンに対して向けられる。
【0403】
一部の実施形態では、不要な免疫応答は、被験者に有害となるほど過剰であるか、又は不適切に持続される免疫応答である。例えば、被験者に感染した病原体に由来する抗原に対して向けられる免疫応答は、病原体を制御する点で、初めは有益であるが、被験者に組織損傷(例えば、細胞媒介性又は抗体媒介性組織損傷)、又は過剰なサイトカイン放出による症状を引き起こすほど強すぎるか、又は長く持続しすぎることがある。
【0404】
不要な免疫応答は、血液細胞、幹細胞、血管、骨髄、固形臓器(例えば、心臓、肺、腎臓、肝臓、膵臓)、皮膚、腸、又はこれらの何れかに由来する細胞などの移植組織又は器官若しくは細胞に対して、被験者により開始され得る。例えば、膵臓、例えば、膵島、又は単離された膵臓β細胞をドナーから、糖尿病、例えば、I型糖尿病の治療が必要な被験者に移植することができる。一部の実施形態では、移植片(「移植片(graft)」とも呼ばれる)は、同種異系細胞又は組織を含む(すなわち、ドナーとレシピエントは、同じ種の異なる個体である)。一部の実施形態では、移植片は、異種間細胞又は組織を含む(すなわち、ドナーとレシピエントは、異なる種である)。免疫応答は、1つ又は複数のドナー抗原、例えば、ドナーの組織適合性タンパク質(例えば、主要若しくは副組織適合性タンパク質)に対して向けられる場合もある。移植片に対して向けられる免疫応答は、「拒絶反応」と呼ばれ得る。拒絶反応は、移植片に損傷をもたらすことがあり、これにより、その機能が低下し、移植片不全が起こり、最終的に移植片の除去が必要となり得る。一部の実施形態では、ソルタギング済み哺乳動物細胞は、拒絶反応、例えば、急性移植片拒絶反応のリスクを有するか、又はそのエビデンスを示す細胞、組織、若しくは器官に、調節T細胞をターゲティングさせる部分が結合した調節T細胞を含む。
【0405】
不要な免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)を含んでよい。GvHDは、例えば、同種異系幹細胞移植後に起こり得る。GvHDでは、移植されたドナー免疫細胞又はその子孫が、レシピエント(例えば、レシピエントの細胞)を異物と認識して、それに対して免疫応答、例えば、T細胞媒介免疫応答を開始する。同種異系造血幹細胞移植は、多様な造血障害、免疫不全、及び白血病の治療処置となり得るものであり、化学療法によって患者の免疫系が切除された場合、多様な癌の治療に使用される。GvHDは、こうした移植片の重篤な合併症となり得る。一部の実施形態では、GvHDを、例えば、予防的に治療するために、ソルタギング済み哺乳動物細胞を用いることができる。一部の実施形態では、ソルタギング済み哺乳動物細胞は、GvHDのリスクを有するか、又はそのエビデンスを示す細胞、組織、若しくは器官に、調節T細胞をターゲティングさせる部分が結合した調節T細胞を含む。一部の実施形態では、調節T細胞は、例えば、ソルターゼを用いて、移植片由来の免疫細胞及び/又はそのような免疫細胞が活性な部位にそれらをターゲティングさせるターゲティング部分で修飾してもよい。間葉系幹細胞は、移植片対宿主病(GvHD)の治療に様々な有益な作用を有することが報告されている。例えば、これらは、移植片由来のT細胞の増殖を低減し、アロ反応性T細胞応答を阻害し、また造血幹細胞(HSC)生着を支持することが報告されている。一部の実施形態では、MSCは、ソルターゼを用いて、移植片由来のT細胞及び/又はそのようなT細胞が活性な部位にそれらをターゲティングさせるターゲティング部分で修飾してもよい。一部の実施形態では、MSCは、ソルターゼを用いて、GvHDのリスクを有するか、又はそのエビデンスを示す細胞、組織、若しくは器官に、それらをターゲティングさせる部分と結合させてもよい。一部の実施形態では、調節T細胞及び/又はMSCは、皮膚、肝臓、又は消化管にターゲティングさせる。一部の実施形態では、調節T細胞及び/又はMSCは、GvHDに関与するドナー免疫系細胞に阻害作用を及ぼす薬剤、例えば、サイトカインと結合させてもよい。一部の実施形態では、調節T細胞及び/又はMSCは、初め移植された細胞と同じドナーに由来するものであってもよい。
【0406】
一部の実施形態では、不要な免疫応答は、例えば、自己免疫疾患を患う被験者における、自己抗原(自己抗原とも呼ばれる)に対する免疫応答を含む。このような不適切な免疫応答は、自己反応性T細胞、自己抗体、又はその両方を含み得る。当業者であれば、特定の自己免疫疾患に関与する様々な自己抗原を認識されよう。自己免疫疾患としては、例えば、以下のものが挙げられる:急性散在性脳脊髄炎、円形脱毛症、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、多腺性自己免疫症候群、自己免疫性ブドウ膜炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、I型糖尿病(例えば、若年発症糖尿病)、多発性硬化症、強皮症、強直性脊椎炎、類肉腫症、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、乾癬、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、ベーチェット(Behcet’s)症候群、ライター(Reiter’s)病、バージャー(Berger’s)病、皮膚筋炎、多発筋炎、抗好中球細胞質抗体関連血管炎(例えば、多発血管炎性肉芽腫症(また、ウェゲナー(Wegener’s)肉芽腫症とも呼ばれる)、顕微鏡的多発血管炎、及びチャーグ・ストラウス(Churg-Straus)症候群)、強皮症、シェーグレン症候群、抗糸球体基底膜病(例えば、グッドパスチャー(Goodpasture’s)症候群)、拡張型心筋症、原発性胆汁性肝硬変、甲状腺炎(例えば、橋本病、グレーブス(Graves’)病)、横断性脊髄炎、及びギラン・バレー(Guillain-Barre)症候群。これらの疾患のいくつかに関与する特定の自己抗原の例は、以下に述べる。一部の実施形態では、ソルタギング済み哺乳動物細胞は、自己免疫疾患のリスクを有するか、又はそのエビデンスを示す細胞、組織、若しくは器官に、調節T細胞をターゲティングさせる部分が結合した調節T細胞を含む。
【0407】
一部の実施形態では、免疫寛容を誘導する方法は、免疫寛容誘導性DC、例えば、自己反応性T細胞を欠失させるか、又は調節T細胞(Treg)細胞を誘導するDC、例えば、CD4+CD25-Foxp3+を含む。一部の実施形態では、一方法によって、Th17細胞の数及び/又は活性の低減が起こる。一部の実施形態では、一方法は、免疫寛容誘導性DCをin vitroで作製した後、被験者に投与する。一部の実施形態では、(a)DC細胞表面タンパク質に結合するターゲティング部分及び(b)抗原を含む薬剤に、DC、例えば、未成熟DCをin vivoで曝露するステップを含む哺乳動物により、免疫寛容誘導性DCを作製するが、前記抗原は、自己抗原又はアレルゲン性抗原を含む。一部の実施形態では、免疫応答の阻害、例えば、免疫寛容又は寛容誘導性状態の誘導は、好適な濃度及び/又は量の薬剤を用いて、及び/又は細胞若しくは被験者を適切なサイトカインに曝露することにより、達成される。一部の実施形態では、有効量のアジュバントの非存在下で、抗原をDCにターゲティングすると、そうでなければ起こる抗原に対する免疫応答を阻害するため、抗原に対する寛容性が増大する。一部の実施形態では、免疫応答を阻害する方法は、DCに結合するターゲティング部分と抗原とを含む薬剤を被験者に投与するステップを含み、前記抗原は、自己抗原又はアレルゲン性抗原を含む。一部の実施形態では、前記抗原は、被験者が、それに対して、不要な、例えば、有害な免疫応答を以前呈示したことがあるか、又は引き続き呈示している、又は呈示するリスクを有するものである。一部の実施形態では、有効量のアジュバントを投与せずに、抗原を投与する。例えば、薬剤は、実質的にアジュバントを含まない組成物として投与してもよい。
【0408】
一部の実施形態では、免疫寛容を誘導又は促進する方法は、ソルターゼを用いて、修飾した哺乳動物Treg細胞(「Treg」)を作製するステップ、この細胞を被験者に投与するステップを含む。当技術分野では公知のように、Tregは、例えば、エフェクターT細胞を抑制することにより、免疫応答を調節、例えば、阻害することができる。一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、ターゲティング部分をその表面に結合させることにより、Tregを修飾するが、ターゲティング部分は、免疫応答の調節、例えば、阻害が求められる被験者の身体における器官、組織、又は部位にTregをターゲティングさせる。一部の実施形態では、前記器官、組織、又は部位は、移植片である。一部の実施形態では、Tregを被験者から取得した後、ソルターゼを用いて、Tregをex vivoで修飾することにより、Tregを作製する。一部の実施形態では、被験者から取得したTregをex vivoで拡大した後、ソルターゼによる修飾に付す。一部の実施形態では、修飾済みTregを移植片とex vivoで接触させた後、移植片をレシピエントに移植してもよい。Tregは、移植片に浸潤して、移植後の免疫応答の発生を阻害するか、又はその範囲を制限する。一部の実施形態では、Tregは、移植片と一緒に、及び/又は移植片の後に投与することができる。Tregは、移植片の部位若しくはその付近に局所的に投与してもよく、及び/又は血流若しくはリンパ系に細胞を導入することにより投与してもよい。一部の実施形態では、Tregと併用して、少なくとも1種のサイトカインを被験者に1回又は複数回投与する。サイトカインとTregは、同じ部位、異なる部位、又はその両方に投与することができる。サイトカインは、Tregの投与前、同時、及び/又は投与後に投与することができる。同時に投与する場合には、Tregとサイトカインは、Tregと同じ組成物中、又は異なる組成物中の何れであってもよい。一部の実施形態では、サイトカインは、抗炎症性を有するサイトカイン、例えば、IL-2、IL-10、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、IL-27、IL-35又はIL-37である。こうした抗炎症性は、例えば、エフェクター免疫系細胞の形成、成熟、拡大若しくは活性を阻害する;調節T細胞などの形成、成熟、拡大若しくは活性を刺激することを含み得る。
【0409】
Tregは、単離して、必要に応じ、当技術分野では公知の方法(例えば、こうした方法の例については、例えば、並びにその参照文献を参照のこと)を用いて、ex vivoで拡大してもよい。Tregは、CD4+CD25+CD127loの細胞表面マーカ発現パターンに基づいて同定することができる。一部の実施形態では、Tregは、CD25、FoxP3、CTLA-4、GITR、及びCD62Lの高レベルの発現と、CD127の非常に低い、又は検出限界に満たない発現を特徴とする。
【0410】
一部の実施形態では、不要な免疫応答の阻害は、不要な免疫応答の1つ又は複数の細胞成分に対する免疫応答を刺激することを含む。例えば、一部の実施形態では、自己反応性免疫系細胞、例えば、自己反応性T細胞に対する免疫応答を刺激する。一部の実施形態では、少なくとも一部が免疫媒介性障害、例えば、アレルギーの原因である免疫系細胞に対する免疫応答を刺激する。一部の実施形態では、不要な免疫応答の1つ又は複数の細胞成分に対する免疫応答は、少なくとも部分的にこうした細胞を排除し、これによって不要な免疫応答の低減又は阻害をもたらす。
【0411】
一部の実施形態では、組成物、例えば、被験者に免疫寛容を誘導するのに用いる組成物は、何れか1つ又は複数の物質、例えば、何れか1つ又は複数の特定のアジュバント、例えば、前述した、若しくは当技術分野では公知のアジュバント若しくはアジュバントのクラスの何れか1つ又は複数を実質的に含まないか、又はほぼ含まない。一部の実施形態では、もしあったとしても、存在するアジュバントの濃度又は量は、免疫応答を増強する上で無効である。一部の実施形態では、アジュバントの濃度又は量は、免疫応答を刺激するのに有効な濃度又は量、例えば、ワクチン成分において、抗原に対する免疫応答を生成若しくは増強するために当業者により用いられる量の1%、5%、10%、15%、20%、若しくは25%以下である。一部の実施形態では、組成物は、組成物は、何れか1つ又は複数の特定のアジュバント、例えば、前述した、若しくは当技術分野では公知のアジュバント若しくはアジュバントのクラスの何れか1つ又は複数を実質的に含まないか、又はほぼ含まない。
【0412】
一部の実施形態では、一方法は、被験者がアレルギー性又は反応性である抗原を同定するステップと、ソルターゼを用いて、上記抗原を哺乳動物細胞に結合するステップを含む。一部の実施形態では、前記細胞は、前記抗原に対して免疫寛容を誘導することができる。一部の実施形態では、前記細胞は、Treg細胞である。一部の実施形態では、前記細胞は、アレルギーの治療が必要な被験者、又は前記抗原に対する免疫応答の阻害が必要な被験者に投与する。一部の実施形態では、抗原の同定は、試験料の1種又は複数の抗原を被験者に投与する、例えば、皮膚試験を実施することを含む。一部の実施形態では、同定のステップは、試験量の1つ又は複数のアレルゲン若しくは抗原に対する被験者の応答を決定するステップを含む。一部の実施形態では、アレルゲンに対する応答が異常に強い場合、その抗原は、被験者がアレルギー性又は自己反応性である抗原として同定される。一部の実施形態では、被験者は、前記抗原を認識するTCR又はBCRを含む自己反応性T細胞又はB細胞を保有する。一部の実施形態では、被験者は、抗原に結合する抗体を産生する。一部の実施形態では、一方法は、被験者が、アレルギー性抗原又は自己抗原に結合する抗体を産生するかどうかを決定するステップを含む。一部の実施形態では、アレルギー又は自己免疫疾患の少なくとも一部の原因となる1つ又は複数のアレルゲン性抗原又は自己抗原を同定するために、被験者由来の細胞若しくは血清を含むサンプルを、1群のアレルゲン性抗原又は自己抗原候補に対して試験する。
【0413】
一部の実施形態では、被験者がアレルギー性又は自己反応性である抗原と、細胞をソルタギングする。一部の実施形態では、細胞の少なくとも一部を被験者に投与する。一部の実施形態では、前記細胞は、前記抗原に対する免疫寛容を促進又は誘導する。例えば、一部の実施形態では、免疫寛容を誘導又は促進する方法は、ソルターゼを用いて、修飾された哺乳動物細胞(細胞は、ソルタギングのために遺伝子操作されていない)を作製するステップと、それを必要とする被験者、例えば、自己免疫疾患を患う、又はそのリスクを有する被験者に前記細胞を投与するステップを含む。哺乳動物細胞は、対象とする任意の自己抗原若しくはアレルゲン又はそれらの断片とソルタギングしてもよい。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、被験者又は免疫適合性ドナーから取得してもよい。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、リンパ球、PBMC、脾細胞、又は赤血球を含む。一部の実施形態では、抗原は、T細胞エピトープを含む。一部の実施形態では、T細胞エピトープは、CD4+エピトープである。一部の実施形態では、T細胞エピトープは、CD8+エピトープである。細胞は、単一のエピトープ又は複数のエピトープを含む薬剤とソルタギングしてもよく、前記エピトープは、同じ又は異なる抗原の何れに由来するものでもよい。一部の実施形態では、異なるエピトープを含む薬剤とソルタギングした複数の細胞集団を投与してもよい。一部の実施形態では、自己抗体を同定して、どの抗原とそれらが反応性するかを決定するために、被験者を試験してもよい。特定の抗原に由来する1つ又は複数のエピトープを含む1つの薬剤(又は複数の薬剤)を、後に被験者に投与するために、ソルターゼを用いて、細胞に結合させてもよい。一部の実施形態では、自己抗原に対する免疫寛容を誘導することによって、臨床的重症度の軽減(例えば、1つ又は複数の症状の重症度の軽減)、進行速度の低下、再燃回数の減少、寛解の誘導、疾患の1つ又は複数のバイオマーカ又は他の指標のレベルの低下、あるいは有益な作用のエビデンスの呈示がもたらされ得る。
【0414】
一部の実施形態では、治療しようとする自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)である。MSは、CNS白質の血管周囲及び脳室周囲における多発性離散炎症性病変及び局所脱髄の形成を特徴とするCNSの炎症性脱髄疾患である(Nylander,A.&Hafler,D.A.(2012)J.Clin.Invest.122,1180-1188)。これらの脱髄病変は、活性化した単核細胞を特徴とし、神経障害の出現に関連する。MSは、少なくとも一部が、ミエリンの免疫優性自己エピトープ又は他のCNS抗原に特異的なT細胞を原因とする自己免疫障害であると考えられている。こうした自己反応性T細胞は、CNSに移動して、内在性CNSエピトープのT細胞抗原認識時に再活性化を経て、炎症誘発性サイトカイン及びケモカインを分泌するが、これらは、炎症性マクロファージ及び他の白血球を血液から動員して、局部脱髄及びCNS不全を開始する。一部の実施形態では、自己抗原は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、又はミエリン希突起神経膠細胞糖タンパク質(MOG)などの中枢神経系(CNS)のミエリンタンパク質である。一部の実施形態では、哺乳動物細胞、例えば、RBC若しくはPBMCを、前記タンパク質の何れか、又はこれらのタンパク質の何れかに存在するエピトープを含む薬剤、例えば、ペプチドとソルタギングした後、MSの治療が必要な被験者に投与することができる。一部の実施形態では、前記ペプチドは、MBPアミノ酸89~99を含む。
【0415】
一部の実施形態では、治療しようとする自己免疫疾患は、I型糖尿病(T1D)である。一部の実施形態では、細胞、例えば、RBC若しくはPBMCを、インスリン(INS)、膵島特異的G6Pase触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、ヒートショックタンパク質60(HSP60)、膵島細胞抗原512(IA-2)、若しくは他の膵島細胞抗原を含む薬剤、又はこれらのタンパク質の何れかのエピトープを含む薬剤、例えば、ペプチドとソルタギングする。例えば、前記抗原は、インスリンBアミノ酸9~23を含んでもよい。一部の実施形態では、前記細胞は、T1Dの治療が必要な被験者に投与することができる。一部の実施形態では、前記細胞は、膵島細胞、例えば、単離された膵島細胞、膵島、若しくは膵島を含む膵臓組織などの移植片を受けようとする、又は受けたことがある、T1Dを有する被験者に投与することができる。
【0416】
一部の実施形態では、治療しようとする自己免疫疾患は、自己免疫性水疱形成性皮膚疾患であり、この用語は、皮膚の構造成分に対する自己抗体を特徴とする1群の疾患を指す。これらの疾患、並びにそれらの発病に関与する特定の自己抗原及びエピトープに関してさらに詳しくは、Otten,JV,et al.,Curr Mol Med.Jan 2014;14(1):69-95、及びそこで引用される参照文献にみいだすことができる。尋常性天疱瘡(PV)自己抗体は、主にデスモグレイン3(Dsg3)のみと、及び/又はデスモグレイン1(Dsg1)との組み合わせと反応する。水疱性類天疱瘡(BP)では、自己抗体は、多くの場合、2つのヘミデスモゾームタンパク質、BP180(コラーゲンXVII)及びBP230をターゲティングするが、プレクチン及びα6インテグリンなどの他のタンパク質もターゲティングすることできる。粘膜類天疱瘡の場合、自己抗体は、真皮表皮接合部のいくつかの自己抗原をターゲティングし、これは、BP180、BP230、ラミニン332、α6β4インテグリン、及びコラーゲンVIIを含む。コラーゲンVIIに対する自己免疫性は、典型的に、水疱形成性皮膚疾患の後天性表皮水疱症(EBA)に関連するが、たまに全身性エリテマトーデス又は炎症性腸疾患を有する患者にも起こる。抗p200類天疱瘡は、自己免疫性表皮下水疱形成性疾患であり、表皮基底膜の200kDaタンパク質(p200)(ラミニンγ1鎖として同定されている)に対する自己抗体を特徴とする。一部の実施形態では、細胞、例えば、RBC若しくはPBMCを、Dsg1、Dsg3、BP180、BP230、ラミニンγ1、コラーゲンVII、ペクチン、α6インテグリン、ラミニン332、若しくはα6β4インテグリンを含む薬剤、又は、例えば、Dsg1、Dsg3、BP180、BP230、ラミニンγ1、コラーゲンVII、ペクチン、α6インテグリン、ラミニン332、若しくはα6β4インテグリンに存在するエピトープを含む薬剤、例えば、ペプチドと、ソルタギングする。一部の実施形態では、前記エピトープは、関連タンパク質のエクトドメインに存在する。前記細胞は、関連自己免疫性水疱形成性疾患、SLE、IBD、又はその他の自己免疫疾患の治療が必要な被験者に投与することができる。
【0417】
一部の実施形態では、治療しようとする自己免疫疾患は、炎症性腸疾患、例えば、クローン病及び潰瘍性大腸炎である。膵臓外分泌に対する自己抗体(PAb)は、クローン病(CD)に特徴的なマーカであることが報告されている。例えば、糖タンパク質CUZD1及びGP2は、クローン病患者におけるPAbの標的である。一部の実施形態では、細胞、例えば、RBC若しくはPBMCを、CUZD1若しくはGP2を含む薬剤、又はCUZD1若しくはGP2に存在するエピトープを含む薬剤、例えば、ペプチドとソルタギングする。前記細胞は、クローン病の治療が必要な被験者に投与することができる。
【0418】
一部の実施形態では、治療しようとする自己免疫疾患は、炎症性関節炎、例えば、関節リウマチ(RA)である。II型コラーゲン(CII)、免疫グロブリン結合タンパク質(BiP)のようなヒートショックタンパク質、シトルリン化ペプチド(抗CCP)並びにビメンチン及びフィラグリンなどのその他のシトルリン化タンパク質に対する自己抗体が、RAを有する患者にみいだされる。一部の実施形態では、細胞、例えば、RBC若しくはPBMCを、II型コラーゲン(CII)、ヒートショックタンパク質免疫グロブリン結合タンパク質(BiP)、ヒト軟骨細胞糖タンパク質39、シトルリン化ペプチド(抗CCP)及びシトルリン化フィラグリン若しくはシトルリン化ビメンチンなどのシトルリン化タンパク質を含む薬剤、又はこれらの何れかに存在するエピトープを含む薬剤、例えば、ペプチドとソルタギングする。前記細胞は、炎症性関節炎、例えば、関節リウマチの治療が必要な被験者に投与することができる。
【0419】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞を、被験者の身体、例えば、血液中に存在し得る毒性物質の作用を阻害又は軽減する(中和する)ことができる薬剤とソルタギングする。毒性物質は、十分な量が、生存生物中若しくは生物上に導入されるか、又は生物によって吸収されると、生物に死滅、傷害、損傷、若しくはその他の生理学的障害を引き起こすか、又は引き起こすことができる物質である。毒性物質は、当技術分野においてそのように認識されている物質を含む。毒性物質の作用は、分子スケールでの化学反応又は他の活性によるものであってよい。一部の実施形態では、毒性物質は、血液中に存在するとき、又は循環系を介して身体の1つ又は複数の位置に輸送されると、その作用を及ぼす。前記薬剤は、例えば、抗体、毒性物質に結合する受容体の少なくとも一部、又は毒性物質に結合する任意の他の結合薬剤であってもよい。
【0420】
本明細書で用いる場合、「毒素」は、生存細胞又は生物内に産生される毒性物質である。一部の実施形態では、毒素は、微生物、例えば、病原体により産生されるか、若しくは遺伝的にコード化される、及び/又は病原体による感染の結果、身体中に生成されるものであってもよい。毒素は、例えば、細菌、真菌、植物、原生動物、及び寄生体により産生されるものであってよい。一部の実施形態では、毒素は、外毒素である。すなわち、毒素は、これを産生する細胞により放出、例えば、分泌される。毒素の例として、ABn毒素、例えば、AB1毒素、AB5毒素などがある。本明細書で用いる場合、「AB1毒素」は、AサブユニットとBサブユニットを含む毒素である。サブユニット、例えば、Aサブユニットは、切断されて、2つのポリペプチド鎖を生成し得るが、これらは、1つ又は複数のジスルフィド結合により連結され得ることは理解されよう。ジフテリア毒素(ジフテリア菌(C.diphtheriae))は、AB1毒素の1例である。ヘパリン結合表皮増殖因子様増殖因子は、ジフテリア毒素の受容体として役立つ。もう1つの細菌AB1毒素であるシュードモナス(Pseudomonas)外毒素Aは、細胞に侵入するために、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(a2マクログロブリン受容体としても知られる)を使用する。AB1毒素はまた、リシン、アブリン、シナノミン(cinnanomin)、ビスキュミン、エブリン、及びニグリンbなどのいくつかのII型リボソーム不活性化植物毒素も含む(Hartley,MR&Lord,JM,Cytotoxic ribosome-inactivating lectins from plants,Biochim Biophys Acta,1701(1-2):1-14,2004;Xu H,et al.,Cinnamomin-a versatile type II ribosome-inactivating protein.Acta Biochim Biophys Sin(Shanghai)36(3):169-76)。完全なAB5毒素複合体は、6つのタンパク質ユニット、すなわち、構造が類似若しくは同一の5つのBサブユニットと、単一のAサブユニットを含む。AB5毒素のAサブユニット(又はその一部)は、毒性の原因となる複合体の部分である。Bサブユニットは、五量体(5員)環を形成し、その中にAサブユニットが延びて、保持されている。Bサブユニットは、Aサブユニットを保護し、細胞との結合を媒介し得る。AB5毒素の例(及びそれらを産生する細菌名)としては、例えば、以下のものが挙げられる:カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)エンテロトキシン(カンピロバクター・ジェジュニ(C.jejuni))、コレラ毒素(コレラ菌(V.cholerae))、熱不安定性エンテロトキシンLT及びLT-II(大腸菌(Escherichia coli))、百日咳毒素(百日咳菌(B.pertussis))、志賀毒素(志賀赤痢菌(S.dysenteriae))、志賀様毒素(ベロ毒素としても知られる)SLT1及びSLT2(特定の大腸菌(E.coli))。対象とする他の毒素には、例えば、ボツリヌス(Botulinum)神経毒素(ボツリヌス菌(C.botulinum))、破傷風神経毒素(破傷風菌(C.tetani))、及びA毒素及びB毒素と呼ばれる大型クロストリジウム毒素(クロストリジウム・ディフィシル(C.difficile)がある。
【0421】
一部の実施形態では、毒性物質、例えば、毒素は、細胞溶解素であり、この用語は、例えば、細胞膜を損傷させることにより、細胞の溶解を引き起こす物質、例えば、タンパク質及び脂質を指す。一部の実施形態では、毒素は、溶血素であり、この用語は、赤血球の溶解を引き起こす物質を指す。溶血素は、赤血球をin vitroで溶解させる能力により識別することができる。一部の実施形態では、溶血素は、赤血球に作用する以外に、白血球などの他の細胞にも作用し得る。一部の実施形態では、毒素は、膜孔形成毒素(PFT)である。PFTは、いくつかの細胞溶解素を含み、次のサブカテゴリーに分けることができる:α膜孔形成毒素(例えば、大腸菌(E.coli)の細胞溶解素A、アエロリシン(アエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila))、及びクロストリジウム・イプシロン(Clostridial Epsilon)毒素)、β膜孔形成毒素(例えば、α溶血素、パントン・バレンタイン型ロイコシジン(Panton-Valentine leukocidin)、コレラ菌(Vibrio cholerae)細胞溶解素、並びに黄色ブドウ球菌(S.aureus)γ溶血素、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)エンテロトキシン)。他の細胞溶解素としては、例えば、炭疽菌(anthrax)毒素、ニューモリシンなどのコレステロール依存性細胞溶解素、及びグラミシジンAなどの小型膜孔形成毒素が挙げられる。
【0422】
いくつかの実施形態では、毒素は、宿主細胞分子又は組織を分解するか、又は直接損傷させるタンパク質、例えば、酵素である。例として、例えば、ヒアルロニダーゼ、プロテアーゼ、コアグラーゼ、リパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼが挙げられる。いくつかの実施形態では、毒性物質は、スーパー抗原、スーパー抗原様タンパク質である。スーパー抗原(SAg)は、T細胞の非特異的活性化を引き起こすことにより、ポリクローナルT細胞活性化及び大量サイトカイン放出を招く抗原のクラスである。T細胞活性化は、主要組織適合性複合体(MHC)クラスII抗原とT細胞受容体(TCR)のSAg媒介による架橋によって起こると考えられている。SAgは、MHCII及びTCRに結合することが可能な個別のドメインである。SAgは、病原性微生物(例えば、特定の細菌)により産生されるか、又は内在性で、病原性微生物(例えば、特定のウイルス)による感染に応答して産生され得る。多くのSAgは外毒素であり、そのいくつかは、グラム陽性生物の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び化膿レンサ球菌(Staphylococcus pyrogenes)により産生される。SAgは、中でも、毒素性ショック症候群の病原体である。多くのスーパー抗原は、共通のアーキテクチャを有しており、これは、もう1つの菌毒性因子群であるスーパー抗原様タンパク質(SSL)も共有している。いくつかのSag及びSLLが、Fraser JD,Proft T.The bacterial superantigen and superantigen-like proteins.Immunol Rev.2008;225:226-43で論述されている。
【0423】
一部の実施形態では、毒素は、内毒素であり、これは、それらを産生する細胞から一般に放出されない毒素を指す(但し、細胞に対する破壊又は損傷、例えば、細菌細胞表面壁の破壊の場合を除く)。内毒素の例として、様々なグラム陽性菌の外膜に存在するリポ多糖(LPS)又はリポオリゴ糖(LOS)がある。脊椎生物に対する内毒素の毒性作用は、免疫系細胞上の受容体との相互作用により媒介され、これによって、サイトカイン、一酸化窒素、及びエイコサノイドなどの免疫媒介物質の合成及び/又は放出が起こり、その過剰量が生物を損傷させ得る。
【0424】
前述した特定の毒素及びその他の多くに関する詳細な情報は、例えば、Alouf,JE&Popoff,MR,(eds.)The Comprehensive Sourcebook of Bacterial Protein Toxins,Third Edition,Academic Press,2006;Schmitt,MJ&Schaffrath,R(eds.)Microbial Protein Toxins,Topics in Current Genetics 1 1,Berlin,New York:Springer-Verlag,2005;Pro ft,T.(ed.)Microbial toxins:molecular and cellular biology,Norfolk,England:BIOS Scientific,c2005にみいだすことができる。
【0425】
一部の実施形態では、ある毒素は、直接には毒性ではないが、毒性物質の作用を増強するか、又はその活性に必要とされるものであってもよい。例えば、こうした物質は、細胞への毒性物質の侵入を媒介し得る。一部の実施形態では、ある物質は、身体において、毒性物質に変換され得る。
【0426】
一部の実施形態では、被験者は、偶然又は故意に毒性物質に曝露される者であってもよい。一部の実施形態では、毒性物質は、農薬(例えば、殺虫剤若しくは除草剤)、工業工程で使用又は製造される化学物質であってもよい。一部の実施形態では、毒性物質は、過剰量で被験者に投与された、及び/又は物質を代謝若しくは排泄する能力が低い(例えば、正常を下回る)被験者に投与された治療薬であってもよい。
【0427】
一部の実施形態では、毒性物質は、被験者自身の細胞により、例えば、感染に応答して、又は疾患過程の一環として、産生されるものであってもよい。例えば、感染若しくは外傷に応答して、又は特定の疾患において、産生される特定のサイトカイン及び炎症性媒介物質は、過剰量存在すると、損傷作用を有し得る。例として、例えば、インターフェロンγ、TNF-α、IL-1(例えば、IL-1β)、IL-6、及びIL-17などの炎症誘発性サイトカイン、並びにロイコトリエンなどの炎症誘発性媒介物質が挙げられる。
【0428】
一部の実施形態では、毒性物質は、病原性因子又はその成分である。病原性因子は、感染を定着させる、及び/又は維持する上で特定の役割を果たす病原体(細菌、ウイルス、真菌、原生動物、若しくは多細胞寄生体)により産生又はコード化される物質である。病原性因子は、病原体が、下記事項の1つ又は複数を達成する能力を可能にするか、又は増大し得る:宿主におけるニッチのコロニー形成、免疫回避、宿主免疫応答の回避、免疫抑制、細胞若しくは細胞コンパートメント内への侵入及び/又はそこからの脱離(病原体が、その生活環の少なくとも一部の間に、細胞内のものである場合)、宿主からの栄養の獲得。病原性因子としては、例えば、病原体生成毒素、接着分子(例えば、アドヘシン)、エンドサイトーシスを刺激する分子、免疫グロブリン結合タンパク質、免疫グロブリン又は免疫応答において役割を果たす他の宿主細胞分子を分解するプロテアーゼ、宿主免疫細胞による細菌の食作用を阻害し得る細菌莢膜、線毛若しくはフィンブリンなどの分子、構造を不活性化す補体が挙げられる。一部の実施形態では、病原性因子は、バイオフィルム成分である。一部の実施形態では、病原性因子は、プラスミド又はバクテリオファージによりコード化される。
【0429】
細胞は、毒性物質又は病原性因子に結合する、及び/又はそれを阻害することができる任意の好適な部分とソルタギングしてもよい。一部の実施形態では、毒性物質又は病原性因子の阻害剤は、物質若しくは構造に結合して、これにより、それがその標的に作用する、又は標的と相互作用するのを阻止し、(例えば、切断することにより)前記物質若しくは構造を不活性化することなどができる。阻害は、部分的又は完全の何れでもよいことは理解されよう。好適な阻害部分の例として、例えば、前記物質若しくは構造に結合することができるタンパク質、アプタマー、若しくはその他の部分、前記物質若しくは構造を切断することができる酵素などがある。一部の実施形態では、毒性物質の阻害剤は、物質の天然の受容体又は受容体の断片若しくは変異体を含み、前記変異体若しくは断片は、前記物質と結合するのに十分なものである。毒性物質を阻害することができる多様な薬剤が当技術分野では公知であり、これらを、哺乳動物細胞をソルタギングするのに用いる薬剤に組み込むことができる。
【0430】
一部の実施形態では、細胞は、病原体又は病原体分泌分子、例えば、対象とする任意の病原体又は病原体分泌分子とソルタギングしてもよい。一部の実施形態では、病原体は、典型的に、病原体の生活環の全部又は少なくとも一部の間に、脊椎動物(例えば、哺乳動物)宿主の血液中に存在するものである。一部の実施形態では、病原体分泌分子は、病原体に感染した脊椎動物(例えば、哺乳動物)宿主の血液中に分泌されるか、又は血液中への侵入を獲得する。
【0431】
一部の実施形態では、生存哺乳動物細胞を、検出可能な標識とソルタギングしてもよい。ソルタギング済み細胞を被験者に投与した後、in vivoで、又は被験者から採取したサンプル中で検出することができる。検出可能な標識は、例えば、超音波、PETスキャン、MRI、蛍光検出法(例えば、近赤外)などのイメージング技術によって、in vivo検出を可能にするように選択することができる。一部の実施形態では、生存哺乳動物細胞を、検出可能な標識、及び例えば、被験者の身体において、前記細胞を対象の標的にターゲティングすることができるターゲティング部分とソルタギングしてもよい。細胞は、標的に結合した状態になるため、標的に検出可能な部分が濃縮する。検出可能な標識の検出により、標的の検出が可能になる。標的は、被験者の身体の任意の分子、細胞、又は構造であってよい。一部の実施形態では、標的は、病原体、病原体成分、又は病原体分泌物質であってもよい。一部の実施形態では、標的は、毒性物質であってもよい。
【0432】
一部の実施形態では、検出可能な標識とソルタギングした生存哺乳動物細胞を、ソルタギングしていない同じ細胞型の別の細胞と一緒に、被験者に投与してもよい。ソルタギング済み細胞の分布及び/又は濃度は、投与した集団の分布及び/又は濃度を表し得る。こうしたソルタギング済み細胞は、追跡物質として役立ち得る。例えば、ソルタギング済み細胞の検出及び/又は定量により、投与した集団の分布及び/又は濃度の指標が得られる。例えば、養子免疫療法のために細胞を投与する場合、こうした細胞がどこに局在化するか、及び/又は体内のその平均滞留時間を決定することが有利となり得る。一部の実施形態では、細胞の集団は、任意の1つ又は複数の基準若しくは対象の特性、例えば、特定の細胞表面マーカ発現パターン、遺伝子発現プロフィール、機能的活性に基づき、あるいは、それらが特定のプロトコルを通して作製されたのか、若しくはプロトコルに付されたのか、又は特定の薬剤に曝露されたかに応じて、単離することができる。細胞は、検出可能な標識とソルタギングした後、1つ又は複数の他の細胞集団(これは、例えば、異なる検出可能な標識若しくは他の部分とソルタギングしても、しなくてもよい)と混合するか、又は被験者に投与することができる。標識を用いて、細胞をin vitro又はin vivoで検出することができる。例えば、細胞移動、細胞-細胞の物理的相互作用、細胞分裂、又は細胞分布をモニターするのが有利であろう。
【0433】
一部の実施形態では、ソルターゼ修飾細胞を再生医療で用いることができる。本明細書で用いる場合、再生医療は、被験者に細胞を投与することにより、及び/又は内在性細胞若しくは組織に、それらの治癒若しくは再生を促進するように作用する生物学的に活性の物質を投与することによって、機能を改善する、例えば、正常な機能及び/又は構造を回復若しくは定着させるように、哺乳動物(例えば、ヒト)細胞、組織若しくは器官を置換又は再生するステップを含む治療法を指す。再生医療治療法の例としては、中でも、移植軟骨細胞(例えば、軟骨細胞)を用いて、軟骨を復元するもの、例えば、成体幹細胞、多能性幹細胞、又は心筋細胞を用いて、損傷心臓を再筋肉化する計画、後に被験者に移植することができる組織若しくは器官のex vivoでの生成が挙げられる。
【0434】
ソルターゼ修飾細胞は、非常に多様な組織及び器官の何れかの再生に用いることができる。対象の組織及び器官として、例えば、以下:軟骨、骨、心臓、心臓弁、血管、食道、胃、肝臓、膀胱、膵臓、腸、直腸、肛門、内分泌腺(例えば、甲状腺、副甲状腺、副腎、膵臓の内分泌部分、例えば、ランゲルハンス島)、皮膚、毛包、歯、歯茎、口唇、鼻、口、胸腺、脾臓、骨格筋、平滑筋、関節、脳、脊髄、抹消神経、卵巣、卵管、子宮、膣、乳腺、精巣、精管、精嚢、前立腺、陰茎、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺、腎臓、尿管、膀胱、尿道、眼(例えば、結膜、網膜、網膜色素上皮、角膜)、又は耳(例えば、コルチ器官)が挙げられる。一部の実施形態では、組織は、上皮層、例えば、中空器官の内部を覆う上皮層である。再生医療は、組織再生工学(tissue engineering)、すなわち、天然又は合成細胞外基質上に接種した生存細胞を用いて、移植可能な構造、例えば、器官の部分を形成するものも包含する。
【0435】
一部の実施形態では、ソルターゼを用いて、ある部分を1細胞に結合させた後、これを、例えば、組織又は器官の再生を必要とする被験者に投与する。一部の実施形態では、細胞は、再生が求められる組織又は器官中、それに隣接して、若しくはその付近(例えば、5cm、10cm、20cm、若しくは25cm以内)に投与してよい。例えば、心臓再生が求められる場合、心臓に細胞を投与してよい。一部の実施形態では、循環系に細胞を投与してよい。一部の実施形態では、1部分は、再生が求められる身体の位置にある標的に結合するターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、標的は、再生しようとする組織又は器官の細胞に発現される細胞型特異的マーカであってもよい。ターゲティング部分は、再生が求められる部位と投与細胞との結合を促進するか、又は再生が求められる組織又は器官への投与細胞の組み込みを強化し得る。一部の実施形態では、1部分は、投与細胞の生存、増殖、又は機能的活性を促進し得る。一部の実施形態では、再生が求められる組織又は器官に存在する細胞の生存、増殖、又は機能的活性を促進し得る。一部の実施形態では、前記部分は、再生が求められる組織又は器官への循環若しくは常在成体幹細胞の移動を促進するか、あるいは、そのような成体幹細胞の保持、機能性組み込み、及び/又は分化を促進し得る。再生医療に有用となり得る部分の例として、例えば、増殖因子、生存因子、細胞接着分子が挙げられる。
【0436】
一部の実施形態では、ソルターゼ修飾細胞(例えば、細胞生存、増殖、機能的活性、若しくは組織組み込みを促進する薬剤と結合させた)を組織又は器官のex vivo生成に用いて、次にこれを被験者に投与することができる。例えば、これらは、任意選択で非修飾細胞と併用して、ex vivoでの2次元若しくは3次元スカフォールド(「マトリックス」若しくは「構築物」と呼ばれることもある)を接種するのに用いてもよく、又は組織又は器官のex vivo生成に用いられる細胞に適切な刺激シグナル(例えば、増殖若しくは生存シグナル)をもたらすのに用いてもよい。スカフォールドは、細胞-生体材料相互作用、細胞接着、及びECM付着を促進し、細胞生存、増殖、及び分化を達成するためのガス、栄養素、及び調節因子の十分な輸送を可能にし、また、一部の実施形態では、対象の培養条件又はin vivo条件下での組織再生速度に近似した速度で生分解することができる。一部の実施形態では、スカフォールドは、in vivoでの炎症又は毒性を誘発しないか、最小限にする材料からなる。スカフォールドは、例えば、無細胞化血液若しくは器官などの無細胞化構造を含んでもよく、又は各種合成ポリペプチドを用いて製造されるものなどの合成スカフォールドを含んでもよい。ポリマースカフォールドは、いくつかの実施形態では、多孔性及び/又は生分解性であってよい。スカフォールドの形成に用いられる天然起原のポリマー又はポリマー組成物の例としては、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、及びキトサンが挙げられる。スカフォールドの形成に用いられる合成ポリマーとしては、ポリグリコリド、ポリ(L-乳酸)、ポリ(l-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(ε-カプロラクトン)が挙げられる。天然及び/又は合成ポリマーの誘導体、コポリマー、及びブレンドを用いてもよいことは理解されよう。無細胞化によって、無細胞性の3次元生物学的スカフォールドが得られ、これを、選択した細胞集団と一緒に接種することができる。スカフォールドは、身体に一般にみいだされるECMタンパク質から構成されるものであってもよい。3次元アーキテクチャは、オリジナルの組織又は器官のそれと類似するものであってもよく、これによって、適切な機械的及び物理的特性を付与することができる。ソルターゼ修飾細胞に結合させた薬剤は、例えば、スカフォールドへの細胞の結合を促進する、細胞-細胞接着を促進する、細胞生存、増殖、及び/又は分化を促進することができる。
【0437】
VII.哺乳動物細胞及び/又は他の真核細胞のソルタギングのためのキット及びサービス
一部の態様では、本発明は、ソルタギング済み哺乳動物細胞を作製するのに有用なキットを提供し、前記細胞は、ソルタギングのために遺伝子操作されていない。一部の実施形態では、キットは、以下:(i)ソルターゼポリペプチド、ソルターゼポリペプチドをコード化する核酸若しくはベクター、又はソルターゼポリペプチドを発現する細胞系;及び(ii)ソルタギング済み哺乳動物細胞の調製、特性決定、及び/又は精製に有用な1つ又は複数の品目を含む。sでは、1つ又は複数の品目は、ソルタギングのために遺伝子操作されていないソルタギング済み生存哺乳動物細胞を調製、特性決定、及び/又は精製する方法に関して本明細書に記載する品目の何れであってもよい。一部の実施形態では、1つ又は複数の別の品目は、以下から選択される:(a)トランスアミダーゼ認識配列;(b)ソルタギングのために遺伝子操作されていない哺乳動物細胞;(c)生存哺乳動物細胞をソルタギングするための反応バッファーとしての使用に好適な液体組成物、又はその成分;(d)ソルターゼからソルタギング済み細胞を分離するのに有用な1つ又は複数の試薬;及び(e)対照物質から選択される。一部の実施形態では、キットは、ソルタギングのために遺伝子操作されていない哺乳動物細胞を調製するための説明書を含む。一部の実施形態では、説明書は、キットとは別に入手できるようにしてもよい。例えば、説明書は、インターネットを介して、例えば、ワールドワイドウェブ(「ウェブ」)から提供されるか、又はそこで閲覧することができる。一部の実施形態では、トランスアミダーゼ認識配列を含む薬剤は、腫瘍抗原に結合する結合部分を含む。前記薬剤を用いて、例えば、TAを発現する腫瘍の治療が必要な被験者に投与しようとする細胞をソルタギングすることができる。一部の実施形態では、前述したキットの何れかは、ソルターゼを含まなくてもよい。例えば、トランスアミダーゼ認識配列を含む薬剤は、単独で、又は前述した別の品目の1つ又は複数と一緒に提供してもよい。
【0438】
一部の実施形態では、キットは、各々トランスアミダーゼ認識配列を含む複数の異なる薬剤を含み、各薬剤は、それぞれ異なる結合部分を含む。一部の実施形態では、キット内の薬剤に存在する複数の異なる部分は各々、異なる腫瘍抗原に結合する。腫瘍の治療が必要な被験者を治療する医療施設、例えば、病院は、こうしたキットを入手し、患者に投与しようとする細胞をソルタギングするために、現地で用いることができる。細胞に結合させる特定の薬剤は、特定の患者の腫瘍についての腫瘍抗原の発現を分析した結果に少なくとも部分的に基づいて、キットに存在するものから選択することができる。一部の実施形態では、キットは、少なくとも5、10、15、20、25、30、40、若しくは50の異なる抗原、例えば、最大約100、200、500、若しくはそれを超える薬剤を含み、各々は、異なるTAに結合する結合部分を含む。前述したTAの任意の1つ又は複数は、任意の組み合わせで、キット内の薬剤によって提示され得る。一部の実施形態では、キットには、ソルターゼが、任意選択で、前述した別の薬剤の任意の1つ又は複数と一緒に提供される。一部の実施形態では、ソルターゼは、個別に提供され得る。
【0439】
一部の実施形態では、本発明は、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞のソルタギングがサービスとして実施され得る方法を提供する。例えば、要請に応じて、他の組織及び/又は個人のためにソルタギングを実施する組織又は個人は、「ソルタギングサービスプロバイダー」と呼ぶことができる。一部の実施形態では、ソルタギングサービスプロバイダーは、例えば、研究サービス、製造サービスなどのサービスを製薬業、バイオテクノロジー産業、生物医学研究団体などに提供する業務に従事するものであってもよい。一部の実施形態では、ソルタギングサービスプロバイダーは、ウェブサイトを有してもよく、そのウェブサイトでソルタギングサービスを提供することもできる。一部の実施形態では、ソルタギングサービスプロバイダーは、要請者からソルタギング済み哺乳動物細胞の要請(「注文」とも呼ばれる)を受けるが、この要請者は、ソルタギング済み哺乳動物細胞の取得を求める何れの団体又は個人であってもよい。組織は、営利組織、非営利組織、会社、法人、受託研究機関、研究機関、学術研究機関などであってよい。要請書は、少なくともその一部は、コンピュータを用いて若しくは電子フォーマットで、提出、送信、受領され、及び/又は保存される。一部の実施形態では、要請書は、ウェブページから提出され、インターネットで送信される。要請書は、細胞のタイプ及び/又は細胞に結合させようとする薬剤を明示してよい。一部の実施形態では、要請書は、細胞の数、製造条件(例えば、研究グレード、臨床グレード(例えば、GMP準拠)、保存条件、発送条件などの1つ又は複数の追加明細を明示してもよい。一部の実施形態では、要請者は、細胞を提供してもよく、及び/又は細胞に結合させようとする1つ又は複数の薬剤、又は細胞に結合させる薬剤に組み込もうとする1つ又は複数の部分を提供してもよい。例えば、一部の実施形態では、要請者は、特定の被験者を起原とする、及び/又は被験者への投与のために用意される細胞を提供してもよい。ソルタギングサービスプロバイダーは、要請に応じてソルタギングを実施するか、又はそのための手配をし、要請者に、又は要請者の指示通りにソルタギング済み哺乳動物細胞を供給する。ソルタギングサービスプロバイダーは、ソルタギング及び/又はそれ自体の提供を実施してもよく、及び/又は他の組織若しくは個人との取り決めを介して行ってもよい。一部の実施形態では、ソルタギングは、契約の下で、又は見積り額に応じて、有償で実施され得る。ソルタギングサービスプロバイダーは、ソルタギング済み哺乳動物細胞の作製若しくは使用を促進若しくは支持し得るか、又はそれに関して有用となり得る、1つ又は複数の付随サービスを提供してもよい。例として、例えば、細胞拡大サービス、哺乳動物細胞に結合させようとする薬剤の調製、ソルタギング済み細胞の特性決定(例えば、細胞に結合させようとする薬剤の細胞機能若しくは生体活性のアッセイ)が挙げられる。一部の実施形態では、ソルタギングサービスプロバイダーは、腫瘍の治療が必要な被験者からの腫瘍サンプルを分析して、治療細胞をターゲティングさせようとする、腫瘍の細胞により発現される1つ又は複数の腫瘍抗原を同定する。ソルタギングサービスプロバイダーは、被験者に投与しようとする細胞を、腫瘍抗原に結合する1つ又は複数のターゲティング部分とソルタギングしてもよい。ソルタギング済み細胞は、それらが被験者に投与される場所に輸送することができる。
【0440】
一部の実施形態では、哺乳動物細胞に加えて、又はこれに代わり、非哺乳動物真核細胞、例えば、哺乳動物以外の脊椎若しくは非脊椎動物、真菌、又は原生動物のソルタギングのために、前述したキット及びサービスの何れを用いてもよい。従って、キット及びサービスの記述が哺乳動物に関するものである場合、本発明は、非哺乳動物真菌細胞を包含する実施形態を提供する。
【0441】
VIII.いくつかの態様及び実施形態
ソルターゼ修飾細胞、例えば、ソルターゼ修飾哺乳動物細胞を用いて、非常に多様な疾患及び障害を治療することができる。一部の実施形態では、治療薬と結合したソルターゼ修飾細胞を用いて、非結合治療薬が有用なあらゆる疾患又は病状を治療することができる。このような治療方法は、本発明の一態様である。
【0442】
一部の実施形態では、ソルターゼ修飾細胞を、細胞が必要とされる疾患若しくは障害の徴候若しくは症状を示していない(しかし、上記疾患を発症するリスクが高くなり得るか、又は疾患若しくは障害を発症することが予想される)被験者に、予防的に投与することができる。一部の実施形態では、ソルターゼ修飾細胞を、疾患若しくは障害の1つ又は複数の徴候若しくは症状を発現している被験者、例えば、疾患若しくは障害を有すると診断された被験者に投与する。任意選択で、一方法は、ソルターゼ修飾細胞が任意の好適な治療である疾患又は障害を有するとして被験者を診断するステップを含む。
【0443】
当業者であれば、哺乳動物細胞に結合することができる治療薬の様々な適応症を認識されよう。例えば、インターフェロンは、例えば、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症)及び特定の感染症(例えば、特定のウイルス感染症)の治療において、並びに(多くの場合、化学療法及び放射線と併用して)多くの癌の治療薬として、多様な用途を有する。
【0444】
一部の実施形態では、疾患の治療のために投与されるソルタギング済み細胞又は他のソルタギング済み真核細胞(例えば、ソルタギング済み真核微生物)は、その疾患を治療するのに有用な任意の他の療法と組み合わせて用いてもよい。複数の実体を「組み合わせて」投与する場合、これらは、様々な実施形態において、同じ組成物(適合性であれば)又は異なる組成物として投与してよい。異なる組成物として投与する場合、あらゆる治療順序が考慮される。ソルタギングされた細胞の1回以上の用量の間に、1つ又は複数の他の薬剤の1回又は複数回用量の投与を介在させてもよい。分、時間、日、週、又は月単位の間隔毎の時点で、連続的用量を投与することができる。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞の少なくとも1回用量を、異なる治療実体、例えば、疾患を治療するのに有用な任意の治療薬の1回又は複数回用量の投与前又は後の1、2、3、4、6、8、10、12、16、20、22、24、26、30、36、42、48、若しくは52週間以下の時間以内に投与する。一部の実施形態では、細胞の1回用量と、細胞傷害性又は抗増殖薬物の1回用量との間の間隔は、前記細胞に対する細胞傷害性又は抗増殖薬物の有意な作用、例えば、細胞傷害若しくは抗増殖作用を回避するように選択する。
【0445】
一部の実施形態では、癌の治療のために投与されるソルタギング済み哺乳動物細胞は、化学療法薬及び/又は放射線療法と組み合わせて用いてもよい。前記細胞を前記薬物とは別に投与してもよい。一部の実施形態では、薬物及び/又は放射線療法のサイクルの間に細胞療法を介在させてもよい。いくつかの実施形態では、任意の標準的癌治療法、例えば、任意の標準的化学療法及び/又は放射線療法に加えて、あるいは、このような療法の1つ又は複数の成分の代わりに、ソルタギング済み細胞を投与することが考慮される。一部の実施形態では、癌の治療が必要な被験者は、腫瘍の少なくとも一部を除去する手術を受けてもよい。手術によって、全腫瘍(腫瘍が検出可能である範囲まで)を摘出するか、又は腫瘍のサイズを縮小するが、全腫瘍は摘出しない場合もある(例えば、腫瘍があまりに広範囲に及ぶため、手術による全摘出が望ましくない場合、又はそれ以外に、当業者の判断で、そのような手術による摘出が望ましくない場合)。一部の実施形態では、ソルタギング済み細胞は、手術前に1回又は複数回、手術中に1回又は複数回、及び/又は手術後に1回又は複数回被験者に投与してよい。ソルタギング済み細胞は、腫瘍のサイズを縮小する、及び/又は手術の際に除去されなかった腫瘍細胞(手術部位に位置するか、又は身体の他の位置に散在している場合がある)を排除することができる。
【0446】
EPOなどの赤血球生成刺激剤は、様々な原因から起こり得る貧血を治療するのに有用である。例えば、貧血は、慢性疾患の貧血、医療(例えば、癌化学療法)に関連する貧血、放射線、腎臓病(例えば、糖尿病)、感染症、又は失血であってよい。G-CSF、GM-CSF、及び/又はM-CSFなどのコロニー刺激因子は、例えば、医療(例えば、癌化学療法)、放射線、感染症、又は失血により起こり得る白血球減少症、例えば、好中球減少症、リンパ球減少症を治療するのに用いることができる。
【0447】
好中球因子タンパク質は、例えば、神経変性疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病)、中枢若しくは抹消神経系傷害を治療するのに用いることができる。
【0448】
インターロイキンは、非常に多様な目的のために免疫応答を調節する、例えば、感染因子若しくは癌に対して免疫応答を刺激する、又は、自然及び/若しくは適応免疫応答の強度及び/若しくは持続時間を制限する上で有用である。インターロイキンは、異常又は過剰活性化免疫応答が有害となり得る自己免疫疾患、敗血症、又は他の条件の治療において有用である。
【0449】
ウイルス、グラム陽性若しくはグラム陰性菌、マイコバクテリア、真菌、又は寄生体を原因とする疾患は、いくつかの実施形態における対象の疾患である。例えば、免疫系細胞は、ウイルス、細菌、真菌、若しくは寄生体に結合する薬剤とソルタギングするか、又はウイルス、細菌、真菌、若しくは寄生体に感染した哺乳動物細胞に結合する薬剤とソルタギングしてもよい。ウイルス、細菌、真菌、又は寄生体の例は前文に記載している。
【0450】
一般に、ソルタギング済み真菌細胞は、このような細胞の表面に結合する薬剤を有することが有用なあらゆる目的に用いることができる。一部の実施形態では、薬剤は、検出可能な標識を含むため、ソルタギング済み真核細胞の検出を容易にする。一部の実施形態では、細胞は、哺乳動物又は鳥類宿主の細胞内寄生体としてその生活環の少なくとも一部を過ごす微生物である。このような微生物の例として、多様な真菌及び原生動物がある。一部の実施形態では、ソルターゼで標識した細胞内寄生体を宿主細胞、例えば、哺乳動物又は鳥類細胞とin vitroで接触させる。微生物と細胞の結合、微生物の侵入、微生物の細胞内移動、又は微生物の他の活動などのプロセスは、標識を検出することにより、モニターすることができる。一部の実施形態では、ソルタギング済み微生物は、微生物に起因する疾患を治療するための治療薬候補をみいだす方法において有用である。例えば、一部の実施形態では、候補化合物を細胞と接触させ、候補化合物が1つ又は複数のそのような活性を阻害する能力を評価する。一部の実施形態では、候補化合物が、1つ又は複数の前記活性を阻害する場合、候補化合物は、前記微生物に起因する疾患を治療するための治療薬候補として識別される。
【0451】
一部の実施形態では、ソルタギング済み微生物、例えば、ソルタギング済み真核微生物を用いて、薬剤を標的細胞、例えば、腫瘍細胞、腫瘍関連細胞、又は病原体感染細胞に送達する。一部の実施形態では、前記薬剤、標的細胞上の分子に結合するターゲティング部分、又はその両方と、微生物をソルタギングする。一部の実施形態では、微生物は、標的細胞に自然に侵入することができるものである。例えば、微生物は、細胞内寄生体(その生活環の少なくとも一部の間)、例えば、トキソプラズマ(T.gondii)、トリパノソーマ類(Trypanosomatid)、マラリア原虫(Plasmodium)などのアピコンプレックス門(Apicomplexa)の寄生体、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)若しくはクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)などの真菌であってよく、また、標的細胞は、微生物による侵入を受けやすい脊椎動物細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞であってよい。当業者であれば、様々な微生物株、並びに微生物を取得し、増殖させる好適な方法を認識されよう。一部の実施形態では、腫瘍抗原に結合して、TAをその表面に発現する細胞に微生物の結合を増大させ、また、一部の実施形態では、後に微生物の侵入を増大させるターゲティング部分と、微生物をソルタギングする。微生物をターゲティング部分とソルタギングする実施形態では、ターゲティング部分は、本明細書に記載する様々なタイプの結合部分の何れであってもよい。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、一本鎖抗体(例えば、scFv)又は単一ドメイン抗体を含む。例えば、一部の実施形態では、ターゲティング部分は、VHHを含み、一部の実施形態では、ターゲティング部分は、一本鎖抗体(例えば、scFv)又は単一ドメイン抗体を含む。例えば、一部の実施形態では、ターゲティング部分は、VHHを含む。一部の実施形態では、細胞の表面又は標的細胞の内部に送達されると、標的細胞又は標的細胞の内部に対して毒性となる物質を含む薬剤と、微生物をソルタギングする。一部の実施形態では、標的細胞表面と接触させると、標的細胞に対して毒性となる物質を含む薬剤と、微生物をソルタギングする。一部の実施形態では、毒性物質は、化学療法薬、例えば、小分子化学療法薬、毒素、グランザイム若しくはパーホリンなどの細胞溶解性ドメインを含むタンパク質、アポトーシス促進ドメインを含むタンパク質のようなアポトーシス促進剤である。一部の実施形態では、1つ又は複数の分子、例えば、標的細胞に対して毒性である物質、サイトカイン、共刺激因子、ターゲティング部分を生成するように、微生物を遺伝子操作する。一部の実施形態では、微生物は、前記分子を分泌するか、又はその細胞表面にこれを発現する。一部の実施形態では、1つ又は複数の内在性遺伝子産物の発現若しくは活性を欠失するように、微生物を遺伝子操作する。当業者であれば、遺伝子操作した微生物を作出するのに有用な方法及びベクターを認識されよう。一部の実施形態では、欠損非相同末端結合経路を有する株(例えば、トキソプラズマ(T.gondii))を用いてもよい(Fox BA,Eukaryot Cell.2009;8(4):520-9)。例えば、株は、例えば、KU80又はその相同体をコード化する遺伝子の破壊若しくは欠失によって、機能性KU80又はその相同体の発現を欠失していてもよい。一部の実施形態では、微生物は、非病原性である、及び/又は適切な治療薬で被験者を治療することにより有効に排除され得る。
【0452】
一部の実施形態では、標的細胞は、腫瘍細胞又は病原体感染細胞ではない。標的細胞は、例えば、正常な、健常細胞又は異常細胞であってもよい。一部の実施形態では、正常又は異常細胞の1つ又は複数の生体活性若しくは特性を、例えば、細胞を投与する、又は細胞が存在する被験者にとって有益である方式で、調節する薬剤と一緒に、微生物をソルタギングすることができる。一部の実施形態では、前記細胞は、免疫系細胞であってよく、前記薬剤は、例えば、免疫調節剤であってもよい。一部の実施形態では、物質、例えば、タンパク質を産生するように、微生物を遺伝子操作する。前記物質は、治療薬、酵素、又はその産生が求められる任意の他の物質であってよい。一部の実施形態では、前記物質は、前記物質の1つ又は複数の生体活性又は特性を調節する。一部の実施形態では、前記細胞は、疾患に罹患しており、前記物質は、前記細胞に対する疾患の作用を緩和する。一部の実施形態では、正常又は異常細胞に結合するターゲティング部分と一緒に、微生物をソルタギングする。
【0453】
一部の実施形態では、微生物は、弱毒化株である。「弱毒化」は、弱毒化株を作製する野生型株又は親株に対して、毒性が低減された株を指す。弱毒化株は、野生型株又は親株(すなわち、弱毒化株が由来する株)と比較して、弱毒化している、及び/又は頑健性が低い。一部の実施形態では、弱毒化株は、無毒性である。弱毒化株は、天然に発生するものでもよく、試験系(例えば、試験細胞若しくは試験動物)中の株の毒性を試験することによって、みいだすこともできるし、あるいは、例えば、微生物の天然の宿主若しくは宿主細胞ではない宿主若しくは宿主細胞において前記生物を継代させることにより、突然変異誘発及び選択により、放射線により、化学薬品への曝露により、又は改変により、人為的に作製することもできる。一部の実施形態では、弱毒化株は、宿主若しくは宿主細胞に対する損傷を加える能力が実質的に低減されているか、又はなく、特定の宿主若しくは宿主細胞(例えば、ヒト若しくはヒト細胞)において複製する、又はその生活環の1つ又は複数の段階を完了する能力が実質的に低減されているか、又はなく、並びに/あるいは、野生型株と比較して、又は親株と比較して、1つの宿主から別の宿主への伝達性が実質的に低減されているか、又はない。一部の実施形態では、弱毒化株は、野生型株と比較して、又は親株と比較して、複製能力が、少なくとも10倍、102倍、103倍、104倍、105倍、106倍、107倍、又は108倍低い。一般に、複製能力は、任意の方法を用いて測定することができる。一部の実施形態では、複製能力は、産生された新しい個々の生物の数、又は生物若しくはその子孫により合成されるDNAの量として測定することができる。一部の実施形態では、弱毒化株は、野生型株と比較して、又は親株と比較して、宿主若しくは宿主細胞を死滅させる能力が、少なくとも10倍、102倍、103倍、104倍、105倍、106倍、107倍、又は108倍低い。一部の実施形態では、弱毒化株は、代謝的に活性である。一部の実施形態では、弱毒化株は、宿主細胞、例えば、哺乳動物宿主細胞、例えば、ヒト宿主細胞に侵入する能力を保持する。必要であれば、侵入アッセイを用いて、侵入を定量することができる。当業者は、好適なアッセイを認識されよう。前記株が宿主細胞に侵入する能力は、野生型株若しくは親株のそれと同等であっても、同等でなくてもよい。一部の実施形態では、侵入能力は、野生型株又は親株のそれの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、若しくは100%である。一部の実施形態では、弱毒化株は、特定の条件下、又は特定の宿主において、正常又はほぼ正常レベルの毒性を有し得るが、他の条件下、例えば、被験者、例えば、ヒト被験者にin vivoで存在する条件下では、無毒性であるか、又は実質的に低減された毒性を有する。一部の実施形態では、例えば、弱毒化株は、1つ又は複数の栄養素について栄養要求性であってもよい。前記株は、栄養素が利用可能な(例えば、培地に供給される)条件下では正常に複製し得るが、栄養素の量が複製を支持するのに不十分なin vivo条件下では複製することが不可能となり得る。一部の実施形態では、栄養素は、ヌクレオチド生合成のための前駆体、例えば、プリン又はピリミジンの合成のための前駆体である。弱毒化株は、当技術分野では公知である。例えば、弱毒化トキソプラズマ(T.gondii)株が、米国特許出願公開第20100203085号明細書及び/又は同第20120045477号明細書に記載されており、これらは、トキソプラズマ(T.gondii)の遺伝子操作に有用な方法及びベクターについても記載している。一部の実施形態では、弱毒化トキソプラズマ(T.gondii)株は、de novoピリミジン合成、ピリミジンサルベージ、及び/又はピリミジン塩基若しくはヌクレオシドの輸送に欠損を有する。例えば、de novoピリミジン合成、ピリミジンサルベージ経路、及び/又はピリミジン塩基若しくはヌクレオシドの輸送体における1つ又は複数の遺伝子が、例えば、ターゲティングされた挿入突然変異誘発により、無能力化されていてもよい。一部の実施形態では、前記遺伝子は、カルバモイルリン酸シンテターゼII、アスパラギン酸トランスアルバミラーゼ、ジヒドロオロターゼ、ジヒドロオロターゼデヒドロゲナーゼ、オロット酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、又はオロチジン5’-リン酸デカルボキシラーゼ、ウリジンホスホリラーゼ(UP)、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ、又はプリンヌクレオシドホスホリラーゼをコード化する。一部の実施形態では、弱毒化株は、トキソプラズマ(T.gondii)のcps株であり、これは、カルバモイルリン酸シンテターゼIIをコード化する遺伝子のノックアウトを有し、ウラシル栄養要求性及び極めて低減された毒性を呈示する(B.A.Fox,D.J.Bzik.Nature.2002;415:926-929)。cps株は、ウラシルが培地中に供給されれば、侵入し、in vitroで正常に複製する。哺乳動物又は哺乳動物細胞において、ウラシルは、cps株の複製を支持するのに適切な濃度では存在しないことから、cps株は哺乳動物宿主細胞に正常に侵入するが、複製しないため、非常に低減された毒性を呈示する。一部の実施形態では、ソルタギング済み弱毒化微生物を投与する被験者は、非弱毒化微生物株に感染した個体である。多様な微生物が、例えば、非弱毒化微生物株による感染に対する防御のために、弱毒化生ワクチンとして用いられ、また使用することが提案されており、これらは、当技術分野では公知である。本開示は、このようなあらゆる微生物のソルタギングを考慮する。
【0454】
一部の実施形態では、ソルタギング済み微生物を標的細胞とex vivoで接触させる。一部の実施形態では、ソルタギング済み微生物は、被験者に投与され、被験者において標的細胞と遭遇する。一部の実施形態では、ソルタギング済み弱毒化微生物を投与する被験者は、非弱毒化微生物株に感染した個体である。一部の実施形態では、腫瘍の治療が必要な被験者にソルタギング済み微生物を投与する。腫瘍中の腫瘍細胞により発現される腫瘍抗原に結合するターゲティング部分と、微生物をソルタギングする。一般に、腫瘍細胞及び腫瘍は、あらゆるタイプのものであってよい。一部の実施形態では、腫瘍は、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、前立腺癌、肺癌、膀胱癌、乳癌、脳腫瘍、リンパ腫、又は黒色腫である。一部の実施形態では、ソルタギング済み微生物を投与する被験者は、微生物が侵入することができる細胞から少なくとも一部が構成される腫瘍を有する。
【0455】
一部の実施形態では、腫瘍細胞又は病原性生物、例えば、病原性真核生物を、抗原提示細胞により発現される細胞表面分子に結合する結合部分を含む薬剤とソルタギングする。一部の実施形態では、APCは、プロフェッショナルAPC、例えば、樹状細胞又はマクロファージである。一般に、腫瘍細胞は、あらゆる腫瘍タイプの腫瘍に由来するものであってよい。一般に、病原性生物は、哺乳動物、例えば、ヒトに疾患を引き起こすことができるあらゆる生物であってよい。一部の実施形態では、生物は、真菌細胞又は寄生体である。一部の実施形態では、生物は、微生物である。一部の実施形態では、微生物は、トキソプラズマ(T.gondii)である。当業者であれば、様々な株、並びに病原性生物を取得し、増殖する好適な方法を認識されよう。一部の実施形態では、結合部分は、腫瘍細胞又は病原性生物をAPCにターゲティングさせるターゲティング部分として役立つ。一部の実施形態では、APCは、食細胞である。一部の実施形態では、細胞表面分子は、APCにより発現される受容体である。一部の実施形態では、細胞表面分子は、MHCクラスII分子、CD205(DEC205)、DNGR-1(CLEC9A)、CD207(Langerin)、CD11c、CD141、CD303、CD103、CD209(DC-SIGN)、CD68、又はCD163である。一般に、結合部分は、本明細書に記載する様々なタイプの結合部分の何れのものであってもよい。一部の実施形態では、結合部分は、一本鎖抗体(例えば、scFv)又は単一ドメイン抗体を含む。例えば、一部の実施形態では、結合部分は、VHH、例えば、ヒトMHCクラスIIに結合するVHH、又はヒトDEC205に結合するVHHを含む。VHH4は、ヒトMHCクラスIIに結合するVHHの一例である(国際公開第2013/155526号パンフレットに記載されている)。ヒトDEC205に結合する例示的モノクローナル抗体は、Park,CJ,et al.,J Immunol Methods.2012;377(1-2):15-22に記載されている。一部の実施形態では、腫瘍細胞は、腫瘍を有する被験者から取得する。腫瘍細胞は、生検により、又は腫瘍の少なくとも一部を摘出する手術により、又は被験者から取得した血液サンプル若しくは他の生体サンプルから得ることができる。一部の実施形態では、腫瘍細胞は、腫瘍細胞株に由来し、これは、腫瘍の治療が必要な被験者から得られた腫瘍細胞に由来するものであっても、又は被験者と同じタイプの腫瘍に由来するものであってもよい。一部の実施形態では、腫瘍細胞は、少なくとも1つの腫瘍抗原を発現し得る。
【0456】
一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又は病原体を処理する。一部の実施形態では、処理により、腫瘍細胞を非生存性、低生存性(短い寿命)、又は増殖不可能にする。一部の実施形態では、処理により、病原体を非生存性、低生存性、弱毒化、非感染性、及び/又は増殖不能にする。例えば、腫瘍細胞若しくは病原体を放射線又はアポトーシス促進剤などの毒性物質に曝露してもよい。一部の実施形態では、処理は、物理的若しくは化学的断片化、溶解、又は分画を含んでよい。例えば、細胞をビーズ法に付す、ダウンス(dounce)する、せん断する、細胞溶解を誘導するのに十分な高若しくは低浸透圧に付す、洗剤に曝露する、及び/又は溶解剤に曝露することができる。一部の実施形態では、ソルタギング済み腫瘍細胞又は病原体から細胞膜画分を単離してもよい。一部の実施形態では、ソルタギングの前に、前述した方法の何れかで腫瘍細胞又は病原体を処理してもよい。何れの理論にも拘束されることなく、断片化、溶解、又は分画によって、全細胞より容易に貪食又は飲食される細胞の部分を生成することができる。
【0457】
一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又は病原体を用いて、腫瘍細胞又は病原体により発現される抗原を、細胞表面分子を発現するAPCに送達する。APCに結合することにより、結合部分は、ソルタギング済み腫瘍細胞又は病原体をAPCに極めて近接して維持し、その後、APCは、腫瘍細胞若しくは病原体又はその部分、あるいは腫瘍細胞若しくは病原体から流出若しくは放出された分子などのその産物をインターナライズすることができる。例えば、APCは、食作用若しくは飲食作用により、腫瘍細胞、病原体、又はその部分若しくは産物を内在化する。一部の実施形態では、病原体は、APCに侵入することができ、これによってインターナライズされる。APCは、腫瘍細胞、病原体、又はその部分若しくは産物をプロセシングして、腫瘍細胞、病原体、又はその部分若しくは産物に由来する1つ又は複数の抗原を、MHCクラスI若しくはクラスII分子に関連して、その表面に提示し得る。例えば、APCは、腫瘍細胞、病原体、又はその部分若しくは産物に由来する1つ又は複数のエピトープを含むペプチドを提示し得る。一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又は病原体を被験者に投与するが、これによって、結合部分が、被験者のAPCに結合する。一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又は病原体をAPCと、例えば、これらを同じ容器中に導入することによって、ex vivoで接触させるが、これによって、腫瘍細胞又は病原体に結合していた結合部分が、APCに結合する。一部の実施形態では、APCを後に被験者に投与するか、又は後に被験者に投与するT細胞とex vivoで接触させてもよい。APCは、ex vivoで、又は被験者において抗原をT細胞に対して提示し得る。APCによる抗原の提示は、被験者において、又はex vivoでT細胞応答を誘発又は増強し得る。この応答は、抗原を発現する細胞、例えば、被験者の腫瘍細胞又は病原体に向けて指令され得る。従って、APCは、被験者の腫瘍細胞又は病原体に対して免疫応答を誘発又は促進することができる。一部の実施形態では、APCは、ソルタギング済み腫瘍細胞又は病原体由来の抗原を提示することによって、T細胞を刺激することができる。一部の実施形態では、T細胞はナイーブT細胞である。一部の実施形態では、APCは、細胞傷害性T細胞応答、ヘルパーT細胞応答、又はその両方を刺激することができる。
【0458】
一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又は病原体はまた、第2薬剤と一緒にソルタギングする。一部の実施形態では、第2薬剤は、APCの機能性成熟又は少なくとも1つの生体活性を刺激することができる。一部の実施形態では、第2薬剤は、アジュバントを含む。一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又は病原体は、アジュバントと組み合わせて投与する。アジュバントは、同じ組成物の形態であってもよく、又は個別に投与してもよい。
【0459】
一部の実施形態では、ソルタギング済み腫瘍細胞若しくはその部分、ソルタギング済み病原体若しくはその部分、又はソルタギング済み腫瘍細胞、病原体、若しくはその部分と接触させたAPCを投与する被験者は、腫瘍の治療が必要であるか、又は病原体に起因する感染症の治療を必要とする。一部の実施形態では、ソルタギング済み腫瘍細胞若しくは腫瘍細胞部分は、被験者の腫瘍に由来するか、又は被験者がその治療を必要とするものと同じタイプの腫瘍に由来する。例えば、黒色腫の治療が必要な被験者は、ソルタギング済み黒色腫細胞で治療することができ;結腸癌の治療が必要な被験者は、ソルタギング済み結腸癌細胞で治療することができる。一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分と一緒にソルタギングした腫瘍細胞又は病原体を処理した後、被験者に投与するか、又はそれらをAPCとin vitroで接触させる。一部の実施形態では、腫瘍細胞又は病原体を処理して、得られた部分をソルタギングした後、被験者に投与するか、又はそれらをAPCとin vitroで接触させる。処理は、前述したように、物理的若しくは化学的断片化、溶解、又は分画を含んでよい。一部の実施形態では、APCに結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞若しくは病原体又はその部分の投与により、リンパ系組織、例えば、リンパ節若しくはリンパ系器官において、腫瘍細胞、病原体又はその部分の蓄積が起こる。腫瘍細胞、病原体又はその部分は、リンパ系組織において、別のAPC、又は他の免疫系細胞と接触し得る。一部の実施形態では、APCにより発現される細胞表面分子に結合する結合部分とソルタギングした腫瘍細胞又はその部分の1回又は複数回用量を、腫瘍治療のための手術、放射線療法、又は化学療法の前、それと同時、若しくはその後に、被験者に投与する。
【0460】
一部の実施形態では、APCに結合する結合部分を含む薬剤と一緒に、真核生物をソルタギングする前述の方法は、病原性ではないが、病原性真核生物によっても発現される1つ又は複数のタンパク質を発現するか、又はそのようなタンパク質の1つ又は複数のエピトープを含む真核生物を用いて適用される。一部の実施形態では、多細胞病原性真核生物に由来する細胞を用いる。腫瘍細胞又は病原性真核生物は、一部の実施形態において、1つ又は複数の分子、例えば、サイトカイン、ターゲティング部分、共刺激因子、抗原、及び/又は毒性物質を産生するように、遺伝子操作してもよい。
【0461】
ソルタギング済み腫瘍細胞、微生物、病原体、又はその部分は、得られる調製物が、哺乳動物被験者、例えば、ヒト被験者への投与に好適であるように、適切な条件下で(例えば、適正製造基準(Good Manufacturing Practiceに準拠して)調製することができる。ソルタギング済み腫瘍細胞、微生物、病原体、又はその部分は、薬学的に許容される担体と混合してもよい。ソルタギング済み腫瘍細胞又はその部分、ソルタギング済み真核生物病原体又はその部分は、任意の好適な経路を用いて、被験者に投与することができる。一部の実施形態では、こうした細胞又はその部分は、静脈内、経口、吸入により、又は局所投与する。一部の実施形態では、こうした細胞又はその部分は、局所的に、例えば、腫瘍への注射により、若しくは腹膜腫瘍の場合には、腹腔内注射により、例えば、腫瘍に直接投与するか、又は感染部位(例えば、肺、肝臓など)に局所的に投与する。1用量で投与しようとする細胞の数、及び投与しようとする用量の数は、当業者には周知である常用の手順を用いて決定することができる。いくつかの実施形態では、ソルタギング済み腫瘍細胞又はその部分、ソルタギング済み真核生物病原体又はその部分は、ソルタギング済み免疫系細胞、例えば、ソルタギング済みT細胞と組み合わせて、被験者に投与する。
【0462】
以下の実施例は、本明細書に記載する特定の方法、試薬、及び組成物を実施するための例示的概略を説明することを意図し、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0463】
実施例1:ビオチンプローブと非遺伝子操作哺乳動物細胞のソルテーゼ触媒結合
標準的方法を用いて、マウス赤血球欠失脾細胞を単離した。約2百万個の細胞を、血清を含まない100マイクロリットルのDME中で、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼA(150μM)含有又は非含有何れかのビオチン-LPETGプローブ(1mM)と一緒に、4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで5回洗浄した後、レムリ(Laemmli)バッファー中で溶解させた。サンプルをSDS-PAGEゲル上に泳動させた。各インキュベーションからの溶解物の約1/4をレーン毎にロードした。標準的方法を用いたストレプトアビジン-HRPとのブロッティングにより、ビオチン化タンパク質を視覚化した。得られた免疫ブロットを
図2に示す。ブロットは、ビオチン-LPETGプローブによるいくつかのタンパク質の標識を示している。他の実験に基づき、約30kDの顕著なバンドが、ビオチン-LPETGで標識されたソルターゼ自体であると考えられ、約60kDのバンドは、ビオチン標識ソルターゼ二量体であると思われる。
【0464】
フローサイトメトリー分析を用いて、ビオチン-LPETGプローブ(1mM)による非遺伝子操作哺乳動物細胞のソルターゼ触媒標識を確認した。標準的方法を用いて単離した、マウス赤血球欠失脾細胞を、血清を含まないDME中、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼA(200μM)含有又は非含有何れかのビオチン-LPETGプローブと一緒に、4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで5回洗浄した後、フィコエリスリン(PE)結合ストレプトアビジンとインキュベートし、フローサイトメトリーに付した。結果を
図3に示す。青色のヒストグラム(矢印で示す)は、ソルターゼAと一緒に(右)又はそれなしで(左)インキュベートした生存細胞にゲーティングしたPEシグナルを示す。黒色のヒストグラム(矢印なし)は、対照脾細胞に対するバックグラウンド染色を示す。これらの結果は、ソルターゼの存在下でビオチン-LPETGプローブと一緒にインキュベートした細胞だけに対するPE結合ストレプトアビジンの特異的結合を示しており、従って、細胞へのプローブのソルターゼ触媒結合による前記細胞の標識を立証するものである。
【0465】
この実験に使用するソルターゼの生成及び精製は、Popp,MW,et al.,Nat Chem Biol.2007;3(11):707-8.Epub 2007 Sep 23に記載されている。
【0466】
ビオチン-LPETGプローブは、下記のプロトコルに従って調製したが、これは、TAMRA-LPETGプローブの調製も記載している。これらのプローブは、C末端に2つのGを有する(すなわち、ビオチン-LPETGG及びTAMRA-LPETGG)。
【0467】
A)TAMRA-LPETGGプローブ
注:化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)ソルターゼAのプローブを作製するために、Fmoc-Gly-OHの代わりにFmoc-Ala-OHを使用する。
【0468】
樹脂調製タイミング:15分
i 100μモルのリンク(Rink)アミド樹脂(167mg、0.6mモル/g)を、焼結ガラスフィルター底を備える、キャップしたガラスカラムに添加し、手首作用振盪機で15分間振盪することによって、ジクロロメタン(DCM)(7mL)中で樹脂を溶媒和させた後、真空ろ過によりDCMを除去する。
【0469】
脱保護タイミング:30分
ii N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(7mL)に20%ピペリジン溶液を添加し、15分間振盪することにより、樹脂のFmoc保護基を除去する。
注:全ステップで、NMPの代わりにDMFを用いてもよい。
iii 真空ろ過によりピペリジン溶液を除去した後、樹脂を、NMP(7mL、1分)で3回、DCM(7mL、1分)で3回洗浄した後、NMP(1分)でさらに1回洗浄する。
【0470】
カップリング反応タイミング:ポーズポイント(pause point)まで2~3時間、カップリングサイクル当たり3.5時間
iv NMP(7mL)中に、Fmoc-Gly-OH(89mg、300μモル)、HBTU(114mg、300μモル)、及びDIPEA(104μL、600μモル)を溶解させた後、樹脂に添加する。懸濁液を2時間室温で振盪する。
v 真空ろ過により反応溶液を除去し、NMP(7mL、1分)で3回、続いてDCM(7mL、1分)で3回、樹脂を洗浄する。カップリング反応は、カイザー(Kaiser)テストを実施することにより確認することができる。
注:反応が不完全であれば、標準的カップリングに使用する試薬の量を半分にして、ステップiv~vを繰り返し、1時間振盪する。
ポーズポイント:樹脂を真空下で乾燥させた後、4℃で保存することができる。この段階では、保存が要望される場合、Fmoc保護形態でペプチドを保存する。
vi Fmoc-Gly-OH(89mg、300μモル)、Fmoc-Thr(OtBu)-OH(119mg、300μモル)、Fmoc-Glu(OtBu)-OH(127mg、300μモル)、Fmoc-Pro-OH(101mg、300mol)、Fmoc-Leu-OH(106mg、300μモル)、Fmoc-ε-(85mg、300μモル)を用いて、ステップi~vを繰り返す。
注:ProのN末端が2級アミンであるため、Leuカップリングの範囲を確認するのにカイザーテストは効果がない。このカップリング反応を試験するために、クロロアニル試験又は微小切断を用いることができる。直交性保護基は、この短縮切断の間に完全に除去されなくてもよいことに留意されたい。
vii εアミノカプリン酸残基でのFmocの除去後、NMP(7mL)中、5(6)-TAMRA(52mg、120μモル)、PyBOP(63mg、120μモル)、及びDIPEA(42μL、240μモル)の溶液を添加した後、室温で一晩振盪する。発蛍光団の光退色を防止するために、カラムをアルミホイルで包む。
viii ステップvを繰り返した後、カイザーテストを実施して、TAMRAカップリングを確認する。
【0471】
樹脂からの切断
ix 95%TFA、2.5%H2O、及び2.5%TIS(5mL)から構成される切断溶液に樹脂を室温で2時間懸濁させる。
x 90mLの氷冷(-0℃)ジエチルエーテルに切断溶液を溶出させた後、さらに3mLの切断溶液でエーテル中に樹脂をすすぎ流す。
xi このエーテル溶液を-20℃で20分保存して、ペプチドを沈殿させる。懸濁液を1,900gで15分4℃にて遠心分離し、上清を静かに移し、残ったエーテルを減圧下で穏やかに蒸発させる。
ジメチルエーテルは、可燃性かつ揮発性であるため、スパークフリー冷凍庫及び遠心分離機を使用するのが望ましい。
ポーズポイント:粗ペプチドは、-20℃で固体として保存することができる。
重要なステップ:同一性及び純度は、LC/MS分析(10分にわたる線形勾配5→45%LC/MSバッファーB)により確認することができる。LC/MSによって、粗ペプチドが十分な純度であることが判明した場合には、次のステップ(xii~xiv)は省いてもよく、ペプチドをソルターゼ反応に直接用いてもよい。
【0472】
HPLC精製
xii 乾燥ペプチドをH2O(2mL)に溶解させ、卓上遠心分離機を用いて、14,000rpmで10分遠心分離することにより、粒子状物質を除去する。
注:純粋H2O中に溶解しないペプチドに、最大50%のtert-ブタノールを添加してもよい。また、粒子状物質を除去するために、スピンフィルター又はシリンジフィルターを用いてもよい。
xiii 遠心分離した上澄みを、10~70%バッファーB勾配を用いたC18カラムでの逆相HPLCにより15分間精製した後、90%バッファーBで5分フラッシュする。予め少量の100μLを注入してから、ペプチド純度及び分離しやすさの目的に応じて、勾配を調節することが推奨される。良好な勾配が確立されたら、残った粗材料を400~600μLの注入により精製することができる。
xiv LC/MSにより産物の画分を分析した後、所望の画分を乾燥まで凍結乾燥させる。
注:TAMRA含有プローブは、位置異性体の混合物から構成され、これは、恐らく、逆相HPLC精製の間に2つの産物ピークを生じるであろう。異なる異性体は、標識に一切影響をもたらさない。
同一性及び純度は、LC/MS分析(10分にわたる線形勾配5→45%LC/MSバッファーB)及びNMR分光法により確認することができる。
ポーズポイント:凍結乾燥したペプチドは、-20℃で無期限に保存することができる。
【0473】
B)ビオチン-LPETGGプローブ
i Leu残基のFmoc脱保護ステップによるTAMRA-LPETGGプローブの合成と同じ反応条件を用いる。この時点で、NMP(7mL)中、ビオチン(74mg、300μモル)、HBTU(114mg、300μモル)及びDIPEA(104μL、600μモル)の溶液を添加し;2時間振盪する。
ii 真空ろ過により反応溶液を除去し、樹脂を洗浄した後、カイザーテストでビオチンカップリングが成功したか(残留する遊離アミン)を確認する。
iii TAMRAプローブについてステップix~xiに記載したように、樹脂から産物を切断する。
iv TAMRAプローブについてステップxii~xivに記載したように、逆相HPLCにより精製する。
同一性及び純度は、LC/MS分析(10分にわたる線形勾配5→45%B)及びNMR分光法により確認することができる。
ポーズポイント:凍結乾燥したペプチドは、-20℃で無期限に保存することができる。
【0474】
実施例2:VHHタンパク質と非遺伝子操作哺乳動物細胞のソルターゼ触媒結合
標準的方法を用いて単離した約2百万個のマウス赤血球欠失脾細胞を、無血清のDME中、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼA(200μM)と共に又はそれなしの何れかで、C末端LPETG(100μM)(C末端LPETGを含まないオリジナルGFP特異的VHHの説明については、Kirchhofer,A.,et al.,Nat Struct Mol Biol.2010 Jan;17(1):133-8.doi:10.1038/nsmb.1727.Epub 2009 Dec 13を参照)を含むGFP特異的VHHと一緒に、4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで5回洗浄した後、GFPと30分インキュベートし、フローサイトメトリーに付した。結果を
図4に示す。青色のヒストグラムは、ソルターゼAと共に(右)又はそれなしで(左)インキュベートした生存細胞にゲーティングしたPEシグナルを示す。黒色のヒストグラムは、GFPと一緒にインキュベートした対照脾細胞に対するバックグラウンド染色を示す。左側パネルの青色及び黒色ヒストグラムは、ほぼ重なり合う。右側パネルの青色ヒストグラムは、矢印で示す。これらの結果は、ソルターゼの存在下で、GFP特異的VHHとインキュベートした細胞のみに対するGFPの特異的結合を示しており、細胞へのVHHのソルターゼ触媒結合による前記細胞の標識を立証するものである。
【0475】
実施例3:VHHタンパク質と非遺伝子操作哺乳動物細胞のソルターゼ触媒結合
標準的方法を用いて、マウスからリンパ球を単離し、適切な抗体(例えば、可溶性若しくは固定化抗CD3mAb)並びに/又はT細胞拡大及び活性化のためのサイトカイン(例えば、IL-2)を用いて、in vitroで拡大及び活性化する。拡大及び活性化した細胞のアリコートを、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAと共に又はそれなしの何れかで、C末端LPETGを含むヒト腫瘍抗原(TA)特異的VHH(抗TA-VHH)、あるいは、C末端LPETGを含む抗GFP VHHを含有する培地中で、4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで5回洗浄してから、蛍光イソチオシアネート(FITC)蛍光色素で標識した組み換え腫瘍抗原とインキュベートした後、フローサイトメトリーに付した。FITCについて細胞の染色を、標識組み換え腫瘍抗原と一緒に、しかしVHHなしでインキュベートした対照細胞の染色と比較する。(i)ソルターゼの非存在下で腫瘍抗原特異的VHHとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートしたか;又は(ii)ソルターゼの存在下で抗GFP VHHとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートした対照リンパ球の染色と比較して、腫瘍抗原特異的VHH及びソルターゼとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートした細胞からのFITCシグナルの増加は、腫瘍抗原特異的VHHと前記細胞とのソルターゼ触媒結合の成功を示すものである。
【0476】
腫瘍抗原をその表面に発現する標的細胞に対する、抗TA VHH又は抗GFP VHHの何れかで標識したリンパ球の細胞傷害性を、クロミウム放出アッセイなどの標準的方法を用いてin vitroで評価し、対照リンパ球の細胞傷害活性と比較する。
【0477】
腫瘍抗原をその表面に発現するヒト腫瘍細胞の移植片を担持する個別のマウス群に、抗TA VHH又は抗GFP VHHの何れかで標識したリンパ球を投与する。2~6週間後に腫瘍を単離し、そのサイズ及び重量を決定し、群同士で比較した。
【0478】
実施例4:VHHタンパク質と非遺伝子操作哺乳動物細胞のソルターゼ触媒結合
標準的方法を用いて、マウスからリンパ球を単離し、適切な抗体(例えば、可溶性若しくは固定化抗CD3mAb)並びに/又はT細胞拡大及び活性化のためのサイトカイン(例えば、IL-2)を用いて、in vitroで拡大及び活性化した後、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAと共に又はそれなしの何れかで、C末端HA-LPETGを含むヒト腫瘍抗原特異的VHH、あるいは、C末端HA-LPETGを含むGFP特異的VHHを含有する培地中で、4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで5回洗浄してから、蛍光イソチオシアネート(FITC)蛍光色素で標識した抗HA抗体とインキュベートした後、フローサイトメトリーに付した。FITCについて細胞の染色を、標識組み換え腫瘍抗原と一緒に、しかしVHHなしでインキュベートした対照細胞の染色と比較する。ソルターゼの非存在下で腫瘍抗原特異的VHHとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートした対照細胞のバックグラウンド染色と比較して、腫瘍抗原特異的VHH及びソルターゼとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートした細胞からのFITCシグナルの増加は、腫瘍抗原特異的VHHと前記細胞とのソルターゼ触媒結合の成功を示すものである。
【0479】
腫瘍抗原をその表面に発現する標的細胞に対する、HA標識抗TA VHH又はHA標識抗GFP VHHの何れかによるリンパ球の細胞傷害性を、クロミウム放出アッセイなどの標準的方法を用いてin vitroで評価し、比較する。
【0480】
腫瘍抗原を発現するヒト腫瘍細胞の移植片を担持するマウスに、HAタグ付き抗TA VHH又はHAタグ付き抗GFP VHHの何れかが結合したリンパ球を投与する。2時間後に腫瘍を採取し、免疫組織化学を用い、HAタグ、CD3(T細胞を検出するため)の何れか、又はその両方に対して抗体を染色して、投与したリンパ球の存在について分析した。HAタグ付き抗GFP VHHとソルタギングしたリンパ球を投与したマウスの腫瘍中のT細胞の数と比較して、HAタグ付き抗TA VHHとソルタギングしたリンパ球を投与したマウスの腫瘍中のT細胞の数の増加は、リンパ球の腫瘍ターゲティングを立証するものである。
【0481】
別の実験では、腫瘍抗原をその表面に発現するヒト腫瘍細胞の移植片を担持する個別の免疫欠損マウス群に、HAタグ付き抗TA VHH又はHAタグ付き抗GFP VHHの何れかが結合したリンパ球を投与する。2~6週間後に腫瘍を単離し、その平均及び合計サイズ及び重量を決定し、群同士で比較する。抗GFP VHHとソルタギングしたリンパ球を投与したマウスと比較して、抗TA VHHとソルタギングしたリンパ球を投与したマウスの平均及び/又は合計腫瘍サイズ及び重量の減少は、腫瘍ターゲティング部分とのソルタギングが、養子抗腫瘍免疫療法の効果を改善できることを示している。
【0482】
実施例5:VHHタンパク質と非遺伝子操作ヒトリンパ球のソルターゼ触媒結合
標準的方法を用いて、ヒトドナーから末梢血液単核細胞(PBMC)を単離し、適切な抗体(例えば、可溶性若しくは固定化抗CD3mAb)並びに/又はT細胞拡大及び活性化のためのサイトカイン(例えば、IL-2)を用いて、in vitroで拡大及び活性化した。拡大及び活性化させた細胞のアリコートを、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAと共に又はそれなしの何れかで、C末端LPETGを含むヒト腫瘍抗原特異的VHH、あるいは、C末端LPETGを含む抗GFP VHHを含有する培地中で、4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで5回洗浄してから、蛍光イソチオシアネート(FITC)又はCy7.5近赤外蛍光色素の何れかで標識した組み換え腫瘍抗原とインキュベートした後、フローサイトメトリーに付した。FITC又はCy7.5について細胞の染色を、標識組み換え腫瘍抗原と一緒に、しかしVHHなしでインキュベートした対照細胞の染色と比較する。ソルターゼの非存在下で腫瘍抗原特異的VHHとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートした対照細胞のバックグラウンド染色と比較して、腫瘍抗原特異的VHH及びソルターゼとインキュベートした後、標識腫瘍抗原とインキュベートした細胞からのFITC又はCy7.5シグナルの増加は、腫瘍抗原特異的VHHと前記細胞とのソルターゼ媒介結合の成功を示している。
【0483】
腫瘍抗原をその表面に発現する標的細胞(例えば、ヒト腫瘍細胞)に対する、ヒト抗TA VHH又は抗GFP VHHの何れかで標識したリンパ球の細胞傷害性を、クロミウム放出アッセイなどの標準的方法を用いてin vitroで評価する。
【0484】
TAをその表面に発現するヒト腫瘍移植片を担持する免疫欠損マウスに、ヒト抗TA VHH又は抗GFP VHHの何れかで標識したリンパ球を投与する。2~6週間後に腫瘍を単離し、その平均及び合計サイズ及び重量を決定し、群同士で比較する。抗GFP VHHとソルタギングしたリンパ球を投与したマウスと比較して、抗TA VHHとソルタギングしたリンパ球を投与したマウスの平均及び/又は合計腫瘍サイズ及び重量の減少は、腫瘍ターゲティング部分とのソルタギングが、養子抗腫瘍免疫療法の効果を改善できることを示している。
【0485】
実施例6:抗体と非遺伝子操作哺乳動物リンパ球のソルターゼ触媒結合
VHHの代わりに、ソルターゼ認識配列を有する鎖を含む一般的ヒト抗体を用いる以外は、実施例3~5を繰り返した。
【0486】
実施例7:抗体と非遺伝子操作哺乳動物リンパ球のソルターゼ触媒結合
VHHの代わりに、ソルターゼ認識配列を含むscFvを用いる以外は、実施例3~5を繰り返した。
【0487】
実施例8:抗体と非遺伝子操作哺乳動物リンパ球のソルターゼ触媒結合
実施例3~7を繰り返すが、以下:(i)ソルタギングの前にMACSビーズ(例えば、CD8+T細胞単離キット(Cell Isolation Kit)、ヒト(♯130-096-495)、Miltenyi Biotecを使用)を用いて、CD8+細胞を富化するステップ;(ii)ソルタギング済みリンパ球の投与前に、CD28に対する抗体を用いて、共刺激を加えるステップ;並びに/又は(iii)グランザイム及び/若しくはパーホリンの分泌を測定することにより、及び/又は抗CD107mAbを用いて、CD107細胞表面を評価することにより、ソルタギング済みリンパ球のサンプルの細胞傷害活性をin vitroで評価するステップをさらに追加する。
【0488】
実施例9:ソルターゼ基質と、様々な種の非遺伝子操作真核細胞のソルターゼ触媒結合
実施例9、10、11、及び/又は28で用いる抗体:抗PGK(クローン22C5D8、Invitrogen)、抗マウス/ヒトアクチン(クローンAb-5、BD biosciences)、抗トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)アクチン、セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIg(Southern Biotech、品番4041-05)、セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIg(GE Healthcare、品番NXA931)、抗TCRbeta(クローンH57、BD Pharmingen)、抗CD4(クローンGK1.5、ebiosciences)、抗CD19(クローン1D4、BD Pharmingen)、抗TER119(クローンTER-119、BD Pharmingen)、アロフィコシアニン結合ストレプトアビジン(ebiosciences、品番17-4317)、フィコエリスリン結合ストレプトアビジン(Southern Biotech、品番7100-09S)、ヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich、品番P4864)。
【0489】
結果:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(W303)、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)、HEK293T細胞、又はWTC57BL/6マウス由来の全マウス脾細胞を500μMのビオチン-LPETGと共に又はそれなしで、並びに20μMのCa2+非依存性ソルターゼAと共に又はそれなしで、室温で1時間インキュベートした(実施例11の説明を参照)。HEK293T細胞は、ミリリットル当たり2千万個、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)は、ミリリットル当たり2千万~4千万個、また酵母は、ミリリットル当たり6OD280で、インキュベートした。ビオチン-LPETGプローブの結合を、SDS page、続いてウエスタンブロッティングにより分析した。結果を
図5(A)~(D)に示す。各ブロットの右側レーンは、各細胞型における複数のタンパク質のソルターゼ触媒標識をはっきりと示すいくつかのバンドを含んでいる。
【0490】
WTC57BL/6マウス由来の全マウス脾細胞(ミリリットル当たり2千万~1億個)を500μMのビオチン-LPETGと一緒に、並びに20μMのソルターゼAと共に(濃いグレーのヒストグラム)又はそれなしで(薄いグレーのヒストグラム)、室温で1時間インキュベートした。ビオチン-LPETGプローブの結合は、T(TCRb)、B(CD19)、又は赤血球(Ter119)に特異的な抗体と一緒に、蛍光色素標識したストレプトアビジンを用いたフローサイトメトリーにより分析した。結果を
図5(E)に示すが、これは、各細胞型の標識細胞の存在をはっきりと示している。ビオチン-LPETGプローブは、T及びB細胞を等しく良好に標識し、赤血球はやや低い効率で標識した。
【0491】
フローサイトメトリーによりビオチン-LPETGが赤血球欠失脾細胞に結合した反応速度をフローサイトメトリーにより測定した。結合は、5分後に最大の約30%に達し、15分後に最大の約60%に達した(
図5(F))。総合すると、本発明者らのデータは、試験した全ての細胞が、多くの生物学的プロセスの研究に適合する時間枠内で効率的にソルタギングされたことを示している。恐らく、ほとんどの細胞は、その細胞表面に自然に露出したグリシンを有するため、直接ソルタギングを被りやすいのであろう。
【0492】
実施例10:特定の標的細胞に対する免疫系細胞媒介細胞傷害性の測定
この実施例では、OTI Rag-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞が、刺激時に適切な標的細胞に対して細胞媒介傷害性を及ぼすことができる細胞集団を含むことを立証すると共に、細胞傷害性を定量する方法を示す。脾細胞は、リンパ球、NK細胞、マクロファージなどの多様な細胞集団を含む免疫系細胞の混合集団である。OTI Rag-/-マウスは、Ragを欠失しており、H2bに関連して、SIINFEKLペプチドを認識するT細胞受容体のトランスジェニックマウスである。これらのマウスは、SIINFEKLに特異的なCD8+細胞を産生する。上記マウスは、Rag欠失状態であるために、B細胞及びCD4+T細胞を欠失している。
【0493】
OTI Rag-/-マウスから脾細胞を単離した後、標準的方法を用いた浸透圧衝撃により、脾細胞を枯渇させた。抗CD3及び抗CD28抗体(PBS中2μg/ml、37℃で30分)でコーティングした24ウェルプレートにおいて、完全RPMI(10%(体積比)不活性化FCS、βメルカプトエタノール、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム及びペニシリン-ストレプトマイシンで補充したRPMI1640)中で、OTI Rag-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞をインキュベートして、T細胞集団を刺激した。72時間後、DMSO又はDMSO+SIINFEKLペプチド(最終濃度1μg/ml)を含む完全RPMI中、37℃で30分プレインキュベートしておいた赤血球欠失C57BL/6脾細胞(Rag突然変異以外は、OTI Rag-/-マウスと同質遺伝子である)と、前記細胞を混合した。SIINFEKLの存在下でのプレインキュベーションの目的は、C57BL/6脾細胞集団において、細胞にSIINFEKLをロードし、これを細胞表面に提示させることである。これらの細胞を96U底ウェルプレートにおいて、200ml完全RPMI中、1:1比(各々200,000)で混合した。24時間後、CD19に対する抗体(B細胞上に発現されるマーカ)及びヨウ化プロピジウム(PI)で細胞集団を染色した後、細胞をフローサイトメトリーに付すことにより、B細胞生存性を測定した。PI染色に対して陰性の細胞は、生存細胞である。
【0494】
図6は、OTI Rag-/-マウス由来の脾細胞(SIINFEKLに特異的なCD8+細胞を含有)との、生存C57BL/6B細胞(CD19+、PI-)(SIINFEKLロードのインキュベーション後に残る四角で囲んだ領域に表示(左側パネル)又は対照(右側パネル、SIINFEKLロードなし)C57BL/6脾細胞を示す。SIINFEKLのロードがない場合、検出されたC57BL/6脾細胞(生存及び非生存細胞を含む)の約7.5%が、生存B細胞であったのに対し、SIINFEKLをロードすると、C57BL/6脾細胞の約1.1%のみが生存B細胞であった。従って、SIINFEKLをロードすることにより、SIINFEKLをロードしない場合の7.5%(左側パネル)に対して、OTI Rag-/-マウス由来の脾細胞とのインキュベーション後に、生存B細胞であったC57BL/6脾細胞の割合に顕著な減少をもたらした(SIINFEKLをロードした場合、1.1%(右側パネル))。この実験によって、OTI Rag-/-マウス由来の脾細胞は、その表面に特定の標的抗原(この場合には、ペプチドSIINFEKL)を担持する標的細胞に対して細胞媒介細胞傷害性を及ぼす能力を有する細胞の集団を含むこと、そして、ここに記載した手法が、対象とする標的細胞に対する細胞媒介細胞傷害性を測定する上で好適なであることが確認される。
【0495】
実施例11:ターゲティング部分とソルタギングした非遺伝子操作免疫系細胞は、標的細胞に特異的な細胞傷害性を発揮する
この実施例は、ソルターゼを用いて、ターゲティング部分を非遺伝子操作免疫系細胞に結合させると、ターゲティング部分が結合する標的を担持する細胞に特異的に向かう細胞傷害性が増大することを立証する。実施例10と同様に、本実施例に記載する実験でも、OTI Rag-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞を使用する。この脾細胞をマウスMHCクラスIに結合するVHH(VHH7)とソルタギングした後、これらの細胞が、MHCクラスIを発現するマウスB細胞に対して細胞傷害性を及ぼす能力を、実施例9に記載したのと同様の手法を用いて評価した。
【0496】
実施例10に記載したように、抗CD3及び抗CD28抗体でコーティングした24ウェルプレートにおいて、完全RPMI中で、OTI Rag
-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞をインキュベートした。72時間後、細胞を洗浄した後、総量200μlのPBS中で、ソルターゼA(最終濃度20μMの突然変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)srtA、Ca2+非依存性)を含む、若しくは含まない、エンハンサーVHH若しくはVHH7(500μM、50μM、若しくは5μM)と一緒に又はそれなしで、1回の反応につき5×10
6細胞で、室温にて1時間インキュベートすることにより、関連VHHを細胞表面に結合させた。この実験に用いたCa2+非依存性ソルターゼは、下記配列を有する6XHisタグ付きバージョンである。
【0497】
エンハンサーVHHは、GFPに結合し、そのC末端でLPETG配列を含むように修飾されているため、VHHがソルターゼ基質の役割を果たすことを可能にするVHHである(実施例2も参照)。前述したように、VHH7は、マウスMHCクラスII分子に結合するVHHである(PCT/第2013/036630号明細書(国際公開第2013/155526号パンフレット;Witte,MD et al.(2012)PNAS,109(30):11993-11998)。本実験では、C末端LPETGを含むVHH7の形態を使用するため、VHHはソルターゼ基質の役割を果たすことが可能である。「エンハンサーVHH」及び「VHH7」という用語を以下及び
図7(本実験からのデータを表示する)で用いる場合、C末端LPETG配列を含む形態が使用されたと想定すべきである。
【0498】
何れの場合もソルターゼと共に又はそれなしの何れかで、VHH7若しくはエンハンサーVHHとのインキュベーション後(又はVHHなしでの対照インキュベーション後)、OTI Rag
-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞を、様々な濃度の精製GFPタンパク質と一緒に、又はGFP(対照)なしでインキュベートした。結合したエンハンサー-LPETGを介したGFPの結合をフローサイトメトリーにより分析した。
図7(A)に示すように、GFPは、ソルターゼの存在下でエンハンサーに曝露された細胞に結合する(下方左側パネル)が、ソルターゼの非存在下でエンハンサーに曝露された細胞、又はソルターゼの存在若しくは非存在下でVHH7に曝露された細胞(他の3つのパネル)には結合しない。VHHと細胞表面とのソルターゼ触媒結合をさらに証明するために、各条件下で(すなわち、ソルターゼの非存在若しくは存在下で、何れの場合もエンハンサー又はVHH7の何れかと一緒に)インキュベートした細胞に結合したGFPの量を、GFPタンパク質に対するSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにより細胞溶解物を分析して、シグナルをGFP標準と比較することにより、評価した(
図7(B)の右側レーン)。
図7(B)に示すように、GFPは、ソルターゼの存在下でエンハンサーと一緒にインキュベートした細胞にしか結合しない。設置されたVHHの数は、反応に用いたVHHの濃度にほぼ比例した。
【0499】
本発明者らは、標準として既知濃度のGFPの溶液を用いて、SDSPAGE及びイムノブロッティングにより結合GFP分子の数を測定することにより、1細胞当たり設置されたVHHの数を推定した(
図7(B))。500μMのVHH及びソルターゼAの存在下でのT細胞のソルタギングによって、1細胞当たり約百万VHHの結合が達成された。
【0500】
何れの場合もソルターゼと共に又はそれなしの何れかで、VHH7若しくはエンハンサーVHHとのインキュベーション後(又はVHHなしでの対照インキュベーション後)、OTI Rag-/-マウス由来の赤血球欠失脾細胞を洗浄してから、赤血球欠失野生型C57BL/6脾細胞と、96U底ウェルプレートにおいて、200μlの完全RPMI中、1:1比(各々200,000)で24時間混合した。24時間後、CD19抗体及びヨウ化プロピジウム(PI)で染色した後、細胞をフローサイトメトリーに付すことにより、赤血球欠失野生型C57BL/6脾細胞におけるB細胞生存性を測定した。対照として、赤血球欠失野生型脾細胞におけるCD4+T細胞の生存性を、CD4抗体及びびヨウ化プロピジウム(PI)で染色することにより測定した。
【0501】
図7(C)及び7(D)は、ソルターゼの非存在下(左側パネル)又はソルターゼの存在下(右側パネル)の何れかで、VHH7を用いて実施した代表的実験における生存C57BL/6T細胞(CD4+)及びB細胞(CD19
+、PI
-)のパーセンテージを示す棒グラフである。データは、OTI Rag
-/-マウス由来の非ソルタギング脾細胞が、C57BL/6B細胞若しくはT細胞の何れに対しても細胞傷害性ではない、すなわち、C57BL/6B細胞の約100%及びC57BL/6T細胞の約100%が、OTI Rag
-/-マウス由来の非ソルタギング脾細胞とのインキュベーション後に生存性を維持する(OTI Rag
-/-マウス由来の非ソルタギング脾細胞を、VHH7、エンハンサーVHHと一緒に、又はVHHなしでインキュベートしたかどうかにかかわらず)ことを示している。
図7(C)に示すデータは、ソルターゼのみとインキュベートしたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞(対照)が、C57BL/6B細胞若しくはT細胞の何れに対しても細胞傷害性ではない、すなわち、C57BL/6B細胞の約100%及びC57BL/6T細胞の約100%が、ソルターゼとインキュベートしておいたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞とのインキュベーション後に生存性を維持することを示している。
図7(D)に示すデータは、ソルターゼ及びエンハンサーVHHとインキュベートしたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞が、C57BL/6B細胞若しくはT細胞の何れに対しても細胞傷害性ではない、すなわち、C57BL/6B細胞の約100%及びC57BL/6T細胞の約100%が、ソルターゼ及びエンハンサーVHHとインキュベートしておいたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞とのインキュベーション後に生存性を維持することを示している。
図7(D)に示すデータはまた、ソルターゼ及びVHH7(500マイクロモル若しくは50マクロモル)とインキュベートしたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞が、C57BL/6B細胞に対しては細胞傷害性であるが、C57BL/6T細胞に対しては細胞傷害性ではないことも示している。従って、ソルターゼ及びエンハンサーVHHとインキュベートしておいたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞とのインキュベーション後に、C57BL/6T細胞の約100%が生存性を維持するのに対し、500マイクロモル若しくは50マクロモルのVHH7とインキュベートしたOTI Rag
-/-マウス由来の脾細胞とのインキュベーション後には、それぞれC57BL/6B細胞の約40%若しくは60%しか生存性を維持しない。これらの結果は、ソルターゼを用いて、非遺伝子操作細胞傷害性免疫系細胞をターゲティング部分(この場合、VHH7)に結合させることができ、細胞は、この結合の結果、その細胞表面に結合部分の特定の標的(この場合、MHCクラスII)を発現する標的細胞に対して特異的に細胞傷害作用を及すことができることを立証している。
【0502】
実施例11A:ソルターゼを用いた2つの異なる薬剤の設置
2つの異なるプローブをリンパ球に設置することができるかどうかを調べるために、ソルターゼAの存在下で、エンハンサー-LPETGと共に又はそれなしで赤血球欠失脾細胞を60分インキュベートした後、ビオチン-LPETGを反応物に15分かけて添加した(
図11)。ビオチン-LPETGの前にエンハンサー-LPETGとインキュベートした細胞は、ビオチン-LPETGのみとインキュベートした細胞と比較して、同様の量の表面結合ビオチンを有した(
図11)。これらのデータは、細胞に対するVHHのソルタギングは、後のビオチン-LPETGの結合にわずかにしか影響しないことを示唆している。より小さいLPETGタグ付けプローブの方が、より大きなLPETGタグ付けタンパク質によって占められずに残った表面提示求核基に容易に接触し得る可能性がある。
【0503】
実施例12:CAR修飾T細胞と抗PD-L1薬剤のソルターゼ結合
B細胞慢性リンパ芽球性白血病を有する患者から取得したヒトT細胞を、キメラ抗原受容体(CD3-ζ及びCD28のシグナル伝達ドメインを含む、CD3-ζの膜貫通及び細胞内ドメインに融合した抗CD20一本鎖Fv領域)を発現するように、遺伝子改変する。抗CD3/抗CD28ビーズとの培養で細胞を10日間拡大してから、ソルターゼ、並びに(i)PD-1の細胞外ドメインと、(ii)ソルターゼ認識配列とを含む薬剤と一緒にインキュベートした後、前記被患者に戻して移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0504】
実施例13:CAR修飾T細胞と抗PD-L1薬剤のソルターゼ結合
B細胞慢性リンパ芽球性白血病を有する患者から取得したヒトT細胞を、キメラ抗原細胞受容体(CD3-ζ及びCD28のシグナル伝達ドメインを含む、CD3-ζの膜貫通及び細胞内ドメインに融合した抗CD20一本鎖Fv領域)を発現するように、遺伝子改変する。抗CD3/抗CD28ビーズとの培養で細胞を10日間拡大しから、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾されたPD-1に結合するscFvを含む薬剤と一緒にインキュベートした後、前記患者に移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0505】
実施例14:抗CS1又は抗BCMA結合NK細胞による多発性骨髄腫の治療
骨髄腫患者からNK細胞を単離して、培養により拡大する。これらの細胞を、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾された抗CS-1又は抗BCMA抗体とインキュベートした後、患者に移入する。この治療を12週間にわたって毎週繰り返す。多発性骨髄腫に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0506】
実施例15:TRAIL-ES結合PMBCによる転移の予防
III期結腸癌と最近診断された患者からPMBCを単離する。これらの細胞を、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾された抗CS-1又は抗BCMA抗体とインキュベートした後、患者に移入する。この治療を12週間にわたって毎週繰り返す。局所再発又は転移の存在について患者をモニターする。
【0507】
実施例16:メソテリンターゲティングT細胞によるマウスモデルの中皮腫成長の阻害
SS1Fvの修飾形態である、メソテリンに特異的なFvを作製する。修飾Fvは、C末端にソルターゼ認識配列を有する。ヒトT細胞(遺伝子改変していない)をソルターゼ及び修飾SS1Fvと一緒にインキュベートした。
【0508】
定着した中皮腫に対するSS1Fv結合細胞の治療効果を評価するために、記載されている(Feng M,et al.,J Cancer 2:123-131)ように、8週齢の雌胸腺欠損ヌードマウス(ATHYMIC NCr-nu/nu)の下腹部又は脇腹への、200μlの増殖培地中の5百万個のLMB-H226-GL細胞の腹腔内(i.p.)注射により中皮腫腫瘍を定着させた。LMB-H226-GL細胞は、RNAポリメラーゼIIプロモータにより駆動されるルシフェラーゼGFP(Luc/GFP)融合遺伝子を保有するレンチウイルスベクターによりNCI-H226ヒト中皮腫細胞株を蛍光標識することによって、Fengらにより作製されたヒト中皮腫細胞株LMB-H226-GLである。フローサイトメトリーによる単細胞クローニングの後、高レベルのLuc/GFPを安定して発現するクローン(LMB-H226-GLと呼ぶ)を取得した。標識細胞は、in vivoでイメージングして、例えば、腫瘍成長をモニターすることができる。中皮腫細胞を導入してから、その翌日、及びその後に毎週1回マウスをイメージングする。マウスを次の5群に分ける:(1)ビヒクル、(2)SS1P(0.4mg/kg)、(3)メソテリンターゲティングT細胞、(4)IL12-SS1(Fv)(1.6mg/kg体重);(5)IL12-SS1(Fv)(1.6mg/kg体重)+細胞。IL12-SS1(Fv)は、IL12を抗メソテリン抗体scFv(SS1)に融合させた組み換え免疫サイトカインである。マウスIL12のp40及びp35サブユニットを柔軟なリンカー(Ser4Gly)3により連結する。IL12-SS1については、Kim,H.,et al.,PLoS One.2013 Nov 15;8(11):e81919.doi:10.1371/journal.pone.00819190に詳しく記載されている。
【0509】
腫瘍担持マウスをそれぞれの治療薬又はビヒクルで1日置きに治療する。マウスに腫瘍細胞を注射した日を第1日とみなす。SS1P、すなわちシュードモナス(Pseudomonas)毒素と結合した抗MSLNscFvを陽性対照として用いる。治療群及び対照群は各々5匹のマウスを含む。治療群の各マウスは、0.4mg/kg体重のSS1P、0.4mg/kg(低用量群)、又は1.6mg/kg(高用量群)のIL12-SS1(Fv)を1日置きに受ける。対照群は、ビヒクル対照としてPBSを受ける。体重及び腫瘍成長を毎週2回評価する。
【0510】
腫瘍成長の評価は次の通りである:PBS中15mg/mLD-ルシフェリン(Caliper Life Sciences,Hanover,MD)を200マイクロリットルi.p.注射した後、イメージングする。腫瘍のルシフェラーゼ活性を、Living Image 3.1.0ソフトウェア(Caliper Life Sciences,Hanover,MD)を用いて計算する。腹腔内の腫瘍成長は、記載されている(本実施ですでに引用したFeng,et al)ように、光子強度、すなわち、ルシフェラーゼ活性としての毎秒光子(ph/秒)を用いて評価する。治療の終了時に、各群の3匹のマウスを安楽死させる。全血球数(CBC)及び血清化学分析のために採血する。完全な剖検を行い、器官及び組織を計量し、検査して、総合的所見を記録する。WindowsのPrism(バージョン5)(GraphPad Software,La Jolla,CA)を用いて、統計分析を実施する。ダンネット(Dunnett)及びニューマン・コイルス(Newman-Keuls)多重比較ポストテストを用いた「分散分析」によって、生データを分析する。p値<0.05は、統計的に有意とみなされる。
【0511】
実施例17:抗CA125抗体結合NK細胞によるマウスモデルの卵巣癌の治療
ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾した抗CA-125抗体と一緒に、ヒトNKをインキュベートする。結合後、NK細胞をOVCAR細胞(CA125及びメソテリンを発現する上皮卵巣癌細胞(EOC)株)と一緒に培養する。細胞をヨウ化プロピジウムで染色した後、FACSにより分析する。CA125ターゲティングNK細胞が、OVCAR細胞をin vitroで死滅させる能力を確認する。
【0512】
単一薬剤として、又はドセタキセル(卵巣癌を治療するのに用いられる標準的化学療法薬)と併用して、CA125ターゲティングNK細胞療法の効力を、OVCAR-3と称するOVCAR細胞株の亜系を使用する腹腔内(i.p.)EOCマウスモデルにおいて評価する。(OVCAR3細胞及びモデルのさらに詳細については、Pourgholami MH,et al.Clin Cancer Res 12:1928-1935及びWang L,et al.PLoS ONE 6(9):e24405.doi:10.1371/journal.pone.0024405.を参照されたい)。OVCAR-3細胞を雌胸腺欠損ヌードマウスに腹腔内移植して、腫瘍及び腹水を成長させる。次に、様々な数のCA-125ターゲティングNK細胞、様々な濃度のDTX、組み合わせテスト(CA-125ターゲティングNK細胞とDTX)、組み合わせ対照(非結合ヒトNK細胞とDTX)又はビヒクル対照で3週間にわたり(i.p.)治療する。治療から4週間後に処置マウスを死なせる。腹水量、腫瘍重量、腹水からのCA125レベル、及びマウスの生存を評価する。腫瘍移植片におけるMUCI(OVCAR細胞により発現される腫瘍抗原)、CD31、Ki-67(増殖マーカ)、TUNEL及びアポトーシス促進タンパク質を免疫組織化学により評価する。CA-125ターゲティングNK細胞が、用量依存的に、i.p.での腫瘍発生、成長、及び腹水生成を阻害する能力を評価する。
【0513】
実施例18:抗CA125抗体結合T細胞によるマウスモデルの卵巣癌の治療
患者から得たヒトT細胞を用いて、前記実施例を繰り返し、培養により拡大する。
【0514】
実施例19:抗CA125及び抗メソテリン抗体結合NK細胞による卵巣癌の治療
III期原発性卵巣癌を有する患者からNK細胞を単離し、培養して拡大する。細胞のアリコートを、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾した抗CA-125抗体と一緒にインキュベートする。第2アリコートを、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾した抗メソテリン抗体と一緒にインキュベートする。
【0515】
各ソルタギング済み集団を患者に戻して移入する。手術後12週間にわたって毎週治療を繰り返す。残留する癌及び転移に対する投与細胞の効果をモニターする。CA-125の血中レベルについて患者をモニターし、高いCA-125レベルが検出されたら、CA-125ターゲティングNK細胞で再治療する。
【0516】
実施例20:抗CA125及び抗メソテリン抗体結合PBMCによる卵巣癌の治療
患者から得たPBMCを用いる以外は、前記実施例を繰り返す。
【0517】
実施例21:抗CA125及び抗メソテリン抗体結合同種異系NK細胞による卵巣癌の治療
NK細胞、この場合、NK-92細胞を用いる以外は、前記実施例を繰り返す。
【0518】
実施例22:IL-12結合CAR T細胞による卵巣癌の治療
III期原発性卵巣癌を有する患者から得たヒトT細胞を、キメラT細胞受容体(CD3-ε及びCD28のシグナル伝達ドメインを含む、TCRの膜貫通及び細胞内ドメインに融合した抗CA125一本鎖Fv領域)を発現するように、遺伝子改変する。抗CD3-抗CD28ビーズとの培養で細胞を10日間拡大してから、ソルターゼ、並びにC末端にソルターゼ認識配列を有する単一ポリペプチドとしてヒトインターロイキン-12の2つのサブユニットを含む融合タンパク質と一緒にインキュベートした後、手術後の患者に戻して移入する。12週間にわたって毎週治療を繰り返す。残留する癌及び転移に対する投与細胞の効果をモニターする。CA-125の血中レベルについて患者をモニターし、高いCA-125レベルが検出されたら、再治療する。
【0519】
実施例23:二重特異性薬剤とソルタギングしたT細胞による卵巣癌の治療
CA-125及びCD3εに特異的な単一ドメイン抗体を組み換え細胞発現系において作製する。C末端にソルターゼ認識配列を組み込んだCD3εに特異的なsdAbを作製する。ソルターゼを用いて、クリックケミストリーハンドルを各sdAbのN末端に設置する。次に、2つのsdAbを互いに結合させて、二重特異性抗体を作製する。III期原発性卵巣癌を有する患者から取得したヒトT細胞を、CD3-CD28ビーズと一緒に培養して拡大した後、ソルターゼ及び二重特異性抗体と一緒にインキュベートした後、手術後の患者に戻して移入する。12週間にわたって毎週治療を繰り返す。残留する癌及び転移に対する投与細胞の効果をモニターする。CA-125の血中レベルについて患者をモニターし、高いCA-125レベルが検出されたら再治療する。
【0520】
実施例24:ソルタギング済みT細胞による白血病の治療
B細胞急性リンパ芽球性白血病を有する患者から取得したヒトT細胞を、抗CD3/抗CD28ビーズとの培養で10日間拡大してから、CD19に結合するscFvとソルタギングした後、患者に戻して移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0521】
実施例25:ソルタギング済みT細胞による白血病の治療
B細胞急性リンパ芽球性白血病を有する患者から取得したヒトT細胞を、キメラ抗原細胞受容体(CD3-ζ及びCD28のシグナル伝達ドメインを含む、TCRの膜貫通及び細胞内ドメインに融合した抗CD19一本鎖Fv領域)を発現するように、遺伝子改変する。抗CD3/抗CD28ビーズとの培養で細胞を10日間拡大しから、CD22に結合するscFvとソルタギングした後、患者に移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0522】
実施例26:ソルタギング済みT細胞による白血病の治療
B細胞急性リンパ芽球性白血病を有する患者から取得したヒトT細胞を、キメラ抗原細胞受容体(CD3-ζ及びCD28のシグナル伝達ドメインを含む、TCRの膜貫通及び細胞内ドメインに融合した抗CD22一本鎖Fv領域)を発現するように、遺伝子改変する。抗CD3/抗CD28ビーズとの培養で細胞を10日間拡大しから、CD19に結合するscFvとソルタギングした後、患者に移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0523】
実施例27:抗CA125抗体結合T細胞による卵巣癌治療の臨床試験
進行性卵巣癌を有する患者に対し、手術後、以下:(1)プラチナ-タキサンを単独で用いた標準的アジュバント化学療法;(2)プラチナ-タキサンによる標準的アジュバント化学療法に加えて、遺伝子改変はせずに、ソルターゼを用いて抗CA-125抗体と結合させたオートロガスT細胞の静脈内投与による治療;又は(3)プラチナ-タキサンによる標準的アジュバント化学療法に加えて、遺伝子改変はせずに、ソルターゼを用いて抗CA-125抗体と結合させたオートロガスT細胞の静脈内及び腹腔内投与の両方による治療の何れかをランダムに受けさせる。3つの治療群における無増悪生存期間及び5年生存率をモニターし、比較する。
【0524】
実施例28:赤血球と抗PD-L1剤のソルターゼ結合
B細胞慢性リンパ芽球性白血病を有する患者及び免疫適合性ドナーからヒト赤血球を取得し、ソルターゼ、並びに(i)PD-1の細胞外ドメイン及び(ii)ソルターゼ認識配列を含む薬剤と一緒にインキュベートする。ソルタギングの後、赤血球を患者に移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0525】
実施例29:赤血球と抗PD-L1剤のソルターゼ結合
B細胞慢性リンパ芽球性白血病を有する患者及び免疫適合性ドナーから取得したヒト赤血球を、ソルターゼ、並びにPD-1に結合し、かつ、ソルターゼ認識配列を含むように修飾されたscFvを含む薬剤と一緒にインキュベートする。ソルタギングの後、赤血球を患者に移入する。白血病に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0526】
実施例30:抗CS1又は抗BCMA結合赤血球による多発性骨髄腫の治療
骨髄腫患者又は免疫適合性ドナーから赤血球を取得する。これらの細胞を、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾された抗CS-1又は抗BCMA抗体と一緒にインキュベートした後、患者に移入する。この治療を12週間にわたって毎週繰り返す。多発性骨髄腫に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0527】
実施例31:TRAIL-ES結合PMBCによる転移の予防
赤血球をIII期結腸癌と最近診断された患者から単離するか、又は免疫適合性ドナーから取得する。これらの細胞を、ソルターゼ、並びにソルターゼ認識配列を含むように修飾された抗CS-1又は抗BCMA抗体とインキュベートした後、患者に移入する。この治療を12週間にわたって毎週繰り返す。局所再発又は転移の存在について患者をモニターする。
【0528】
実施例32:ミエリン塩基性タンパク質のペプチド断片とソルタギングした赤血球を用いたEAEの治療
ソルターゼを用いて、ソルターゼ認識配列を含むように修飾されたミエリン塩基性タンパク質(MBP)又はソルターゼ認識配列を含むように修飾されたオボアルブミンの何れかを、SJLマウスから得られた非遺伝子操作RBCに結合させる。
【0529】
8匹のSJLマウスに、マウスMBPに結合した1×108個のRBC(MBP-RBC)を、尾静脈を介して静脈内(iv)注射する。対照マウスには、やはりソルターゼを用いて調製した、1×108個のオボアルブミン結合RBC(OV-RBC)を投与する。1週間後、標準的方法に従い、全てのマウスを、完全フロイントアジュバントのエマルジョン中の同系脊髄で免疫して、EAEを誘導する。
【0530】
第7日から毎日マウスを計量及び試験する。次のスケールに従って、神経学的障害を等級付けする:軽度、体重減を伴う2日以上の尾部弛緩;又は重症、多くの場合、後肢の前後運動(scissoring)を伴う明確な麻痺。初期免疫から27日後に動物を死なせる。脳を摘出し、10%ホルマリンに固定する。切片を調製し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した後、髄膜炎症及びリンパ球浸潤の程度に応じ、盲検式に1~5のスケールで評点する。
【0531】
EAEの臨床的重症度、EAEの病理学的重症度、及び体重減をMBP-RBC及び対照群間で比較する。対照群と比較して、MBP-RBC治療群における低い臨床的重症度、低い病理学的重症度、及び/又は少ない体重減(若しくは体重減ではなく体重増)は、EAEの有効な阻害のエビデンスである。
【0532】
実施例33:ソルタギング済みT細胞を用いた黒色腫の治療
黒色腫と診断された患者から単離するか、又は免疫適合性ドナーから取得したT細胞を拡大し、黒色腫に対する抗体、例えば、MART-1、並びに2つのチェックポイント阻害剤、例えば、イピリムマブ(抗CTLA4)及び抗PD1ニボルマブとソルタギングする。ソルタギング済みT細胞を、黒色腫患者に投与する。黒色腫に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0533】
実施例34:ソルタギング済み赤血球を用いたHER2陽性乳癌の治療
HER2陽性乳癌と診断された患者から単離するか、又は免疫適合性ドナーから取得したRBC細胞をハーセプチン(Herceptin)、抗PD1抗体、及び抗VEGFR2抗体とソルタギングして、HER2陽性乳癌の患者に投与する。癌に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0534】
実施例35:ソルタギング済み赤血球を用いたHER2陽性乳癌の治療
HER2陽性乳癌と診断された患者から単離するか、又は免疫適合性ドナーから取得したRBC細胞をTRAIL及びハーセプチン(Herceptin)とソルタギングして、HER2陽性乳癌の標準的化学療法/ハーセプチン療法の補助薬として投与する。癌に対する投与細胞の効果をモニターする。
【0535】
実施例36:再発性/難治性前駆B細胞性ALLの治療
成人患者の再発性/難治性前駆B細胞性ALLは、予後不良で、しかもアンメット・メディカル・ニーズ(unmet medical need)の侵襲性悪性疾患である。ブリナツモマブ(B細胞とT細胞を連結させて、T細胞活性化及びCD19発現細胞に対する傷害性T細胞応答をもたらすように設計された二重特異性一本鎖抗体構築物)を担持するようにソルタギングした赤血球を、再発性/難治性前駆B細胞性ALLの成人患者に投与する。患者は、最大5カ月サイクルの静脈内RBC-ブリナツモマブ治療を受ける。
【0536】
実施例37:トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)へのVHHのソルターゼ触媒設置は、細胞特異的ターゲティングを可能にする
前述したように、ソルタギングによるCD8T細胞の修飾は、細胞傷害機能を顕著には妨害しない。寄生体による宿主細胞への侵入は、別のタイプの細胞-細胞相互作用を表している。ソルターゼを用いて修飾したトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)タキゾイト(tachyzoite)が、細胞に侵入することができるかどうかを調べるために、寄生体をTAMRA-修飾LPETGペプチドでソルタギングしてから、これらをヒト包皮線維芽細胞と一緒にインキュベートした。タキゾイト(ミリリットル当たり2千万~4千万個)をHHE(ハンクス(Hanks)バッファー+Hepes+EDTA)中の500μMのTAMRA-LPETG及び20μMのCa2+非依存性ソルターゼA(実施例11で用いるものと同じ)と15分インキュベートした。次に、寄生体を洗浄した後、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)と一緒にインキュベートした。ソルタギングした寄生体を蛍光顕微鏡検査により視覚化して、線維芽細胞に侵入するそれらの能力をモニターし、記録した。ソルタギングした寄生体は、線維芽細胞に完全に侵入することができることが認められた(
図8(A);要請に応じてビデオ閲覧可能)。
【0537】
トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)を特定の細胞にターゲティングさせることができるかどうかを調べるために、ビオチン又はビオチン及びエンハンサー若しくはVHH7と一緒に寄生体をソルタギングした後、野生型脾細胞とインキュベートした。トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)タキゾイトを、HHE中の50μMのエンハンサー-LPETG若しくはVHH7-LPETG及び20μMのCa2+非依存性ソルターゼA(実施例11で用いたのと同じ)と共に、又はそれなしでインキュベートした。20分後、ビオチン-LPETGを15分かけて添加した。続いて、寄生体を洗浄し、感染多重度5で赤血球欠失脾細胞と1時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、CD19特異的抗体及び蛍光標識ストレプトアビジンで染色した。ビオチン陽性(ソルタギング済みトキソプラズマ(T.gondii)による侵入を示す)であったCD19
+及びCD19
-細胞のパーセンテージをFACSにより定量した。
図8(B)のヒストグラムは、CD19陰性又は陽性集団内でのソルタギング済みトキソプラズマ(T.gondii)について陽性であった細胞のパーセンテージを示す。トキソプラズマ(T.gondii)に対するVHH7のソルタギングによって、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)がターゲティングさせるB細胞の顕著な増加と共に、非B細胞の結合の有意な減少が起こるが、これは、非常に選択的なターゲティングを示唆するものである。加えて、これにより、感染時に溶解したB細胞のパーセンテージが増加した(
図8(C))。B細胞溶解アッセイを次のように実施した:トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)タキゾイトを、HHEバッファー中の50μMのエンハンサー-LPETG若しくはVHH7-LPETGと共に又はそれなしで、及び20μMのソルターゼAと、室温にて15分インキュベートした。洗浄後、96平底ウェルプレートにおいて100μl若しくは完全RPMI中、感染多重度5で、WT又はクラスIIMHCk.o.マウス由来の50万個の磁気ビーズ精製脾臓B細胞と、トキソプラズマ(T.gondii)をインキュベートした。15時間後、上清を回収して、CytoTox 96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assayキット(Promega,cat.G1781)を用いて、製造者の指示に従い細胞溶解を測定した。
【0538】
これらの結果は、病原体(例えば、細胞溶解性病原体)を対象の細胞、例えば、癌細胞にターゲティングさせることを目的とする、ソルタギングの使用の実現可能性を支持するものである。
【0539】
以上記載した明細書は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに十分であると考えられる。本明細書で示し、かつ説明したもの以外の本発明の様々な改変は、以上の説明から当業者には明らかになると考えられ、またこれらの改変は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。本発明の利点及び目的は、本発明の各実施形態に必ずしも含まれているわけではない。当業者は、常用の実験を用いるだけで、特許請求の範囲に含まれる、本発明に記載の具体的実施形態に対する多くの同等物を認識するか、又は確認することができよう。本発明の範囲は、上に記載した実施形態若しくは実施例によって限定されず、又はそれらに限定されない。
【0540】
本明細書で用いるセクションの見出しは、何ら限定的と解釈すべきではない。何れのセクションの見出しの下に示す主題も、本明細書に記載するあらゆる態様若しくは実施形態に適用可能であることが明らかに意図される。
【0541】
本明細書に記載の実施形態又は態様は、本明細書に記載する任意の薬剤、組成物、物品、キット、及び/又は方法に向けられ得る。何れか1つ又は複数の実施形態又は態様は、必要な場合にはいつでも、何れか1つ又は複数の他の実施形態又は態様と自由に組み合わせできることが意図される。例えば、互いに不整合ではない2つ以上の薬剤、組成物、物品、キット、及び/又は方法のあらゆる組み合わせが提供される。
【0542】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」などの冠詞は、反対の記載がないか、又は文脈から他の解釈が明らかではない限り、1つ又は複数を意味し得る。
【0543】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられる場合、「及び/又は」というフレーズは、そのように接続される要素の「何れか又は両方」と意味すると理解すべきである。「及び/又は」を用いて列挙される複数の要素は、同じ様式で、すなわち、そのように接続される要素の「1つ又は複数」と解釈すべきである。「及び/又は」の節により具体的に示される要素以外の他の要素も任意選択で存在し得る。本明細書及び特許請求の範囲で用いられる場合、「又は」は、上に定義する「及び/又は」と同じ意味を有すると理解すべきである。例えば、要素のリストで用いられる場合、「又は」若しくは「及び/又は」は、包括的である、すなわち、要素のリストのうちの少なくとも1つ、しかし任意選択で2つ以上、並びに任意選択で、列挙されていない別の要素を含むものとして解釈すべきである。「ただ1つの」又は「厳密に1つの」のように、明らかに反対を示す用語だけが、いくつかの、又はリストの要素の厳密に1つの要素の包含を指すものとする。従って、1群の1つ又は複数のメンバー間に「又は」を含むクレームは、反対の記載がない限り、所与の製品若しくは方法において、あるいはそれに関して、上記群メンバーの1つ、2つ以上、又は全部が存在し、使用される場合に、満たされたとみなされる。所与の製品若しくは方法において、あるいはそれに関して、前記群の厳密に1つのメンバーが存在し、使用される実施形態が提供される。所与の製品若しくは方法において、あるいはそれに関して、前記群メンバーの2つ以上、又は全部が存在し、使用される実施形態が提供される。任意の実施形態、態様、特徴、要素、若しくは特性、又はこれらの任意の組み合わせを明示的に排除するために、何れか1つ又は複数のクレームを修正することができる。任意の薬剤、ソルターゼ基質、ソルターゼ、組成物、量、用量、投与経路、細胞型、種、標的、細胞マーカ、抗原、エピトープ、ターゲティング部分、又はこれらの組み合わせを排除するために、何れか1つ又は複数のクレームを修正することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、CHO細胞ではない。いくつかの実施形態では、細胞は、HEK239T細胞ではない。いくつかの実施形態では、ソルターゼ反応に用いられるソルターゼ基質は、強化緑色蛍光タンパク質を含まない。一部の実施形態では、ソルターゼ反応に用いられるソルターゼ基質は、強化シアン蛍光タンパク質(ECFP)を含まない。いくつかの実施形態では、ソルターゼ反応に用いられるソルターゼ基質は、AlexaFluorを含まない。いくつかの実施形態では、ソルターゼの存在下でソルターゼ基質と接触させる前に、細胞をソルターゼとプレインキュベートしない。いくつかの実施形態では、ソルターゼの存在下でソルターゼ基質と接触させる前に、求核アクセプター配列、例えば、オリゴグリシン、例えば、トリグリシンと細胞をプレインキュベートしない。いくつかの実施形態では、ソルターゼの存在下でソルターゼ基質と接触させる前に、ソルターゼ及び/又は求核アクセプター配列、例えば、オリゴグリシン、例えば、トリグリシンと細胞をプレインキュベートする場合、このようなプレインキュベーションは、15分未満、30分未満、60分未満、又は120分未満にわたって行う。
【0544】
任意のクレーム(又は本明細書の他所からの関連記載事項)の何れか1つ又は複数の限定、要素、条項、記述条項などが別のクレームに導入された実施形態が提供される。例えば、別のクレームに従属するクレームは、同じ基本クレームに従属する任意の他のクレームにみいだされる1つ又は複数の要素若しくは限定を含むように修正してもよい。属又は属概念のクレームに対するあらゆる修正が、属クレームを組み入れる、又はこれに従属する属のあらゆる種又はあらゆる種クレームに適用され得ることは明示的に考慮される。
【0545】
1クレームが、1組成物を記載する場合、本明細書に開示する組成物を用いる方法が提供され、また、本明細書に開示される製造方法の何れかに従って前記組成物を製造する方法が提供される。1クレームが、1方法を記載する場合、方法を実施するための1組成物が提供される。複数の要素がリスト又は群として提示される場合、各亜群も開示される。一般に、実施形態又は態様が、本明細書において、特定の要素、特徴、薬剤、物質、ステップなど(又はそれらの組み合わせ)を含むものとして述べられる場合、いくつかの実施形態又は態様は、このような要素、特徴、薬剤、物質、ステップなど(又はそれらの組み合わせ)から構成されるか、又はほぼ構成され得ることを理解すべきである。また、反対の意味が明らかに示されていない限り、2つ以上のステップ又は行為を含む本明細書に記載される任意の方法において、方法のステップ又は行為の順序は、前記方法のステップ又は行為が記載される順序に必ずしも限定されるわけではない。あらゆる治療方法は、そのような治療が必要な被験者に提供するステップを含み得る。あらゆる治療方法は、そのような治療が対処する疾患を有する被験者に提供するステップを含み得る。あらゆる治療方法は、そのような治療が必要であるとして被験者を診断するステップを含み得る。あらゆる治療方法は、そのような治療が対処する疾患を有する被験者を診断するステップを含み得る。
【0546】
本明細書において、範囲が記載される場合、終点が含まれる実施形態、両終点が含まれていない実施形態、並びに一方の終点が含まれ、かつ他方が含まれていない実施形態が提供される。他の記載のない限り、両終点が含まれると想定すべきである。他の記載がないか、又は文脈、及び当業者の理解から別の意味が明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈が別のことを明らかに指示していない限り、前記範囲の下限の単位の十分の一まで、様々な時において、表示範囲内のあらゆる具体的値若しくは部分範囲を想定することができる。数値に関して「約」は、他の記載がないか、文脈から別の意味が明らかでない限り、±10%以内に含まれる値の範囲、一部の実施形態では、±5%以内に含まれる値の範囲、一部の実施形態では、±1%以内に含まれる値の範囲、一部の実施形態では、±0.5%以内に含まれる値の範囲を一般に指す。数値の前に「約」が付けられたあらゆる実施形態において、厳密な数値が記載される実施形態が提供される。数値の前に「約」が付いていない実施形態が提供される場合、数値の前に「約」が付けられた実施形態も提供される。範囲の前に「約」が置かれている場合、文脈が明らかに別の意味を指示していない限り、「約」が、範囲の上限及び下限に、又は上限及び下限の何れかに適用される実施形態が提供される。一連の数字の前に、「少なくとも」、「最大」、「~以下の」などのフレーズ、又は類似のフレーズが置かれている場合、文脈が明らかに別の意味を指示していない限り、このようなフレーズが、様々な実施形態におけるリスト中の各数字に適用されることは理解すべきである(文脈に応じて、数値、例えば、パーセンテージとして表される数値の100%が、上限となり得ることは理解されよう)。例えば、「少なくとも1つ、2つ、又は3つ」とは、様々な実施形態において、「少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は少なくとも3つ」を意味することを理解すべきである。また、あらゆる適正な下限及び上限が明示的に考慮されることも理解されよう。
【配列表】