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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】止血用組成物及びこれを含む容器
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/36 20060101AFI20230704BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230704BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230704BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K38/36
A61P7/04
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/02
A61K9/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021543379
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 KR2020006945
(87)【国際公開番号】W WO2020242231
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】10-2019-0062613
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520187780
【氏名又は名称】ダリム ティッセン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク、シ ネ
(72)【発明者】
【氏名】ベ、サン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】コ、ジェ ヒョン
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532139(JP,A)
【文献】特表2017-531462(JP,A)
【文献】特開平02-218616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/36
A61P 7/04
A61K 47/00 - 47/69
A61K 9/00 - 9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層及びトロンビン粉末を含む第3層が、容器内に層分離されて充填された形態の止血用組成物であって、
前記コラーゲン粉末を含む第1層とトロンビン粉末を含む第3層とが隣接して配置され、
前記安定化剤粉末を含む第2層は、希釈液と最初に混合される位置に配置され、
前記安定化剤は、アルブミン、マンニトール、酢酸ナトリウム(C23NaO2)、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選択される1種以上であり、
前記第1層は前記安定化剤粉末及び前記トロンビン粉末を含まず、前記第2層は前記コラーゲン粉末及び前記トロンビン粉末を含まず、かつ前記第3層は前記コラーゲン粉末および前記安定剤粉末を含まないことを特徴とする止血用組成物。
【請求項2】
前記止血用組成物は、希釈液と最初に混合される位置から、安定化剤粉末を含む第2層、トロンビン粉末を含む第3層、コラーゲン粉末を含む第1層の順に、または安定化剤粉末を含む第2層、コラーゲン粉末を含む第1層、トロンビン粉末を含む第3層の順に配置されることを特徴とする請求項1に記載の止血用組成物。
【請求項3】
前記コラーゲンは、分子量が100,000~1,000,000ダルトンである架橋されたコラーゲンであることを特徴とする請求項1に記載の止血用組成物。
【請求項4】
前記止血用組成物の総重量に対して、前記コラーゲンが40~97重量%、前記安定化剤が1~30重量%、及び前記トロンビンが2~50重量%で含まれることを特徴とする請求項1に記載の止血用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の止血用組成物を含む容器。
【請求項6】
コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層及びトロンビン粉末を含む第3層を含む止血用組成物が、各々層分離されて充填された第1容器と、
希釈液が満たされた第2容器とを含む止血用キットであり、
前記第1容器においては、前記コラーゲン粉末を含む第1層とトロンビン粉末を含む第3層とが隣接して配置され、
前記安定化剤粉末を含む第2層は、希釈液と最初に混合される位置に配置され、
前記安定化剤は、アルブミン、マンニトール、酢酸ナトリウム(C23NaO2)、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選択される1種以上であり、
前記第1層は前記安定化剤粉末及び前記トロンビン粉末を含まず、前記第2層は前記コラーゲン粉末及び前記トロンビン粉末を含まず、かつ前記第3層は前記コラーゲン粉末および前記安定剤粉末を含まないことを特徴とする止血用キット。
【請求項7】
前記希釈液は、精製水、塩化カルシウム(CaCl2)溶液、塩化ナトリウム(NaCl)溶液、ヒト血清アルブミン(human serum albumin)、及び酢酸ナトリウム(C23NaO2)溶液からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の止血用キット。
【請求項8】
前記止血用キットは、
第1容器と第2容器とが互いに結合して、止血用組成物と希釈液が混合されてハイドロゲルを形成し、
前記ハイドロゲルの平均気孔サイズは50μm~200μmであることを特徴とする請求項6に記載の止血用キット。
【請求項9】
前記第1容器に、前記止血剤組成物が、希釈液と最初に混合される位置から、安定化剤粉末を含む第2層、トロンビン粉末を含む第3層、コラーゲン粉末を含む第1層の順に、または安定化剤粉末を含む第2層、コラーゲン粉末を含む第1層、トロンビン粉末を含む第3層の順に充填されていることを特徴とする請求項6に記載の止血用キット。
【請求項10】
前記コラーゲンは、分子量が100,000~1,000,000ダルトンである架橋されたコラーゲンであることを特徴とする請求項6に記載の止血用キット。
【請求項11】
前記止血用組成物の総重量に対して、前記コラーゲンが40~97重量%、前記安定化剤が1~30重量%、及び前記トロンビンが2~50重量%で含まれることを特徴とする請求項6に記載の止血用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年5月28日に出願した韓国特許出願第10-2019-0062613号に基づく優先権の利益を主張するものであり、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、止血用組成物及びこれを含む容器に関するものである。
【背景技術】
【0003】
シーラント(Sealant)と止血剤(hemostats)を含む組織接着剤分野における研究開発は、急速に進んでいる。1998年にフィブリンシーラント(Fibrin sealant)がアメリカ食品医薬品局(FDA)から許可されてから、毎年新しい組織接着剤が開発され続けている。こうした組織接着剤は、従来の外科的または内科的手術で用いられている縫合術やクリップ術、灸術といった技術に代替できる素材として脚光を浴びている。
【0004】
縫合術などといった従来の外科的な技術は、強い引張強度(strong tensile strength)を有するものの、患者の痛みを引き起こすことや術後に取り除く必要があることなどの問題を抱えている。一方、組織接着剤は、接着時間の速さ、使用の手軽さ、術後に除去不要など、多くの利点を有しているものの、接着性及び引張強度の弱さ(low adhesiveness and tensile strength)と、水分が存在する場合、接着性が著しく低下するという限界がある。こうした組織接着剤の欠点を克服するための研究が続いている。
【0005】
組織接着剤は、組織に直接接触するため、生体適合性が求められる。また、医療用接着剤の場合は、通常、生体内で使用されるため、接着が本質的に体液と血液の中に流れ込むと、生体が直接関わるため、より厳しい条件下で毒性と危害性があってはならず、より厳しい生体適合性と生分解性素材が求められる。
【0006】
現在、商用化及び/または実用化されている組織接着剤は、大きく分けてシアノアクリレート瞬間接着剤、フィブリングルー、ゼラチングルー及びポリウレタン系などがある。シアノアクリレート瞬間接着剤は、最近になって高機能性及び高性能を有する瞬間接着剤の研究で脚光を浴びている。特に、生体適合性、柔軟性及び低毒性の生体組織縫合用の医療用瞬間接着剤は、止血、抗菌効果だけでなく、縫合糸の代替も可能であるため、先進国を中心に研究が活発に進められている。
【0007】
こうしたシアノアクリレート系組織接着剤は、現在ダーマボンド(Dermabond;Johnson&Johnson社)とインダーミル(Indermil;US Surgical社)などの製品として商用化されている。こうしたシアノアクリレート系組織接着剤は、単一物質で、短時間で室温で開始剤なしで水分によって硬化し、外観が透明であり、接着強度が大きいという利点がある反面、衝撃に弱く、耐熱性に乏しいという欠点を有している。また、毒性が強いことから、現在はほとんど使用されておらず、米国を除く他の国々において、臨床で部分的に使用しているが、一部の組織の毒性と脆弱性により使用が制限されている。
【0008】
また、フィブリングルー接着剤は、1998年に初めて米国FDAによって心臓外科への応用が許可された。それ以来、フィブリン組織接着剤に関する研究開発が活発に行われ、現在Tisseel VH(Baxer社)やEvicel TM(Johnson&Johnson社)などの製品が商用化されている。フィブリン系組織接着剤は、シアノアクリレート系と並んで組織接着剤市場の大半を占めている。フィブリン組織接着剤は、フィブリンの架橋反応を利用して、フィブリノーゲン、トロンビン、塩化カルシウム及び線溶酵素の阻害剤を組織接着剤として、末梢神経の縫合、微小血管の縫合などに適用して縫合の代用または補強のための臨床応用が行われている。こうしたフィブリングルー接着剤は、接着部位の水分に影響されず、速やかに接着し、血小板や凝固の障害がなく、生体適合性に優れているという利点を有している。しかし、接着力が弱く、生分解速度が速く、血液感染の危険性があるという欠点を有している。
【0009】
また、ゼラチングルーは、生体由来の組織接着剤であり、ゼラチン-レゾルシノール-ホルマリン(GRF)で架橋させたものが開発された。その他に、ゼラチン-グルタルアルデヒドといった組織接着剤が開発されたが、組織接着性は高いが、架橋剤として使用されるホルマリンやグルタルアルデヒドが、生体内のタンパク質とも架橋反応を起こして、組織毒性を引き起こすという欠点を有している。
【0010】
また、ポリウレタン系接着剤は、硬化後、接合部の柔軟性が保たれる弾性接着剤の形で開発された。この接着剤は、生体組織表面の水を吸収して組織との密着性を高め、水と反応して数分以内に硬化し、硬化物が柔軟性を持つことが特徴であり、硬化した接着剤が適切に生分解されるという利点を有している。しかし、合成原料である芳香族ジイソシアネートが生体毒性を有するという欠点がある。
【0011】
また、「Avitene(Alcon社)」、「Helitene(トゥハメド社)」のようにコラーゲンを単独成分とする止血剤は、非血液製剤であるが、非常に高価であり、単独成分としての組織接着効果がないため、止血剤としてのみ使用されている。
【0012】
また別の従来技術として、特許文献1~4(“Fibrin monomer based tissue adhesive, US Patent 5464471, 1995”、“Hemostatic and tissue adhesive, US Patent 5883078, 1999”、“Fibrinogen/chitosan hemostatic agents, US Patent 5773033, 1998”、“Therapeu tic fibrinogen compositions, US Patent 5605887, 1997”)などが紹介されているが、これらは接着性止血剤の製品に、フィブリノーゲン、トロンビン、血液凝固剤、アプロチニンなどの血液製剤及び牛由来のタンパク質などを使用することにより、ここで生じる可能性のある特定疾患の感染への懸念及び原料確保、貯蔵、製造過程などにかかる高すぎるコストで製品価格が高価となるという問題がある。
【0013】
また、ゼラチンマトリックス成分を含むFloseal(Baxter社)は最も多く使われている製品であり、塩化カルシウム溶液に混合されたトロンビンをゼラチンマトリックスに加えることによって止血効果をもたらす製品である。これは特に目以外の部位に複数の領域の外科的手術を行う際、結紮(ligature)または一般的な手順では効果的な調節ができなかったり、調整することが不可能な出血に使用することができる。但し、これはトロンビン、ゼラチン、塩化カルシウム溶液と大きく3つに分離されており、その各溶液を一度に混合するのではなく、二つのステップに分けて混合しなければならないので、多少時間がかかる。従って、外科的手術の際、深刻な結紮及び出血が起こるような一刻を争うほどの緊迫した状態では、複雑な製品の手順書に基づいて混合する余裕がなく、順を追って進める過程は、一刻を争う出血患者の命を脅かしかねない上、使用者にとって非常に煩わしいという問題がある。
【0014】
また、前記のような止血用製品はヒトに適用されるため、最終生成物及び当該成分の品質に対する最高の安全基準、貯蔵安定性及びシンプルな使用方法を提供しなければならない。特に、2種以上の成分を混合して使用する場合は、「使用準備済み(ready-to-use)」の形態に作る必要があり、混合しやすい状態で提供しなければならない。
【0015】
そこで、毒性が非常に少なく、貯蔵及び取り扱いが容易であり、使用方法がシンプルであるため、一刻を争う出血患者に適用することができる上、生体分解性に優れた止血剤の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許第5464471号明細書
【文献】米国特許第5883078号明細書
【文献】米国特許第5773033号明細書
【文献】米国特許第5605887号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者らは、前記問題点を解決するために、コラーゲン、安定化剤、トロンビンを含む止血用組成物及びこれを含む容器を開発して、シンプルな使用方法で、一刻を争う出血患者に適用することができ、毒性がなく血液感染の恐れがない上、生体分解速度が速く、止血効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
従って、本発明の目的は、コラーゲン、安定化剤、トロンビンを含む止血用組成物及びこれを含む容器を提供することにある。
【0019】
また、本発明の別の目的は、前記止血用組成物が詰まっている第1容器と、希釈液が詰まっている第2容器とを含むキットを提供することにある。
【0020】
また、本発明のさらに別の目的は、前記止血用キットを用いて製造されたハイドロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、本発明の一側面によれば、コラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む粉末剤の形態の止血用組成物であるが、前記コラーゲンとトロンビンとが隣接して配置されるものである止血用組成物を提供する。
【0022】
より具体的には、本発明は、コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層及びトロンビン粉末を含む第3層が、容器内に層分離して充填された止血用組成物であって、前記コラーゲン粉末を含む第1層とトロンビン粉末を含む第3層とが隣接して配置及び/または前記安定化剤粉末を含む第2層は、希釈液と最初に混合される位置に配置されるものである止血用組成物を提供する。
【0023】
前記止血用組成物は、安定化剤、トロンビン、コラーゲンまたは安定化剤、コラーゲン、トロンビンの順に配置されるか、またはトロンビン、コラーゲン、安定化剤またはコラーゲン、トロンビン、安定化剤の順に配置されてもよい。
【0024】
より具体的には、前記止血用組成物は、安定化剤粉末を含む第2層、トロンビン粉末を含む第3層、コラーゲン粉末を含む第1層または安定化剤粉末を含む第2層、コラーゲン粉末を含む第1層、トロンビン粉末を含む第3層の順に配置されるか、またはトロンビン粉末を含む第3層、コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層またはコラーゲン粉末を含む第1層、トロンビン粉末を含む第3層、安定化剤粉末を含む第2層の順に配置されてもよい。
【0025】
前記止血用組成物において、前記コラーゲンは架橋されたコラーゲンであってもよい。
【0026】
前記止血用組成物において、前記架橋されたコラーゲンは、
S1)コラーゲンをエタノールまたはメタノールに処理するステップと、
S2)前記S1)ステップで処理されたコラーゲンに酸を添加して、pH2~4のコラーゲン溶液に製造するステップと、
S3)前記S2)ステップから製造されたコラーゲン溶液を中性状態にした後、遠心分離してエステル化コラーゲンを製造するステップと、
S4)前記S3)ステップから製造されたエステル化コラーゲンに架橋剤を添加して、架橋されたコラーゲンを製造するステップと、
S5)前記S4)ステップから製造された、架橋されたコラーゲンを精製水に分散させた後、凍結乾燥させるステップと
を含む製造方法により製造することができる。
【0027】
前記止血用組成物において、前記架橋されたコラーゲンの分子量は、100,000~1,000,000ダルトンであってもよい。
【0028】
前記止血用組成物において、前記止血用組成物の総重量に対して、前記コラーゲンが40~97重量%で含まれてもよい。
【0029】
前記止血用組成物において、前記安定化剤は、アルブミン(human serum albumin)、マンニトール、酢酸ナトリウム(C23NaO2)、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選ばれた1種以上であってもよい。
【0030】
前記止血用組成物において、前記安定化剤はマンニトールであってもよい。
【0031】
前記止血用組成物において、前記止血用組成物の総重量に対して、前記安定化剤が1~30重量%で含まれてもよい。
【0032】
前記止血用組成物において、前記止血用組成物の総重量に対して、前記トロンビンが2~50重量%で含まれてもよい。
【0033】
本発明の別の側面によれば、前記止血用組成物を含む容器を提供する。
【0034】
本発明の別の側面によれば、コラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む粉末剤の形態の止血用組成物が詰まっている第1容器と、希釈液が詰まっている第2容器とを含む止血用キットであるが、前記第1容器は、前記コラーゲンとトロンビンとが隣接して配置された止血用キットを提供する。
【0035】
より具体的には、コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層及びトロンビン粉末を含む第3層が、層分離して充填された止血用組成物が詰まっている第1容器と、希釈液が詰まっている第2容器とを含む止血用キットであるが、前記第1容器は、前記コラーゲン粉末を含む第1層とトロンビン粉末を含む第3層とが隣接して配置され、前記安定化剤粉末を含む第2層は、希釈液と最初に混合される位置に配置されるものである止血用キットを提供する。
【0036】
前記止血用キットにおいて、前記希釈液は、精製水、塩化カルシウム(CaCl2)溶液、塩化ナトリウム(NaCl)溶液、ヒト血清アルブミン(human serum albumin)、及び酢酸ナトリウム(C23NaO2)溶液からなる群から選ばれた1種以上であってもよい。
【0037】
前記止血用キットにおいて、前記希釈液は塩化カルシウム溶液であり、前記希釈液の総重量に対して、前記塩化カルシウムが0.001~30重量%で含まれてもよい。
【0038】
前記止血用キットにおいて、前記止血用キットは、第1容器と第2容器とが互いに結合して、止血用組成物と希釈液が混合されてハイドロゲルを形成し、前記ハイドロゲルの平均気孔サイズは50μm~200μmであってもよい。
【0039】
前記止血用キットにおいて、前記ハイドロゲルのpHは6~8であってもよい。
【0040】
前記止血用キットにおいて、前記第1容器に安定化剤、トロンビン、コラーゲンまたは安定化剤、コラーゲン、トロンビンの順に詰まっていくか、またはトロンビン、コラーゲン、安定化剤またはコラーゲン、トロンビン、安定化剤の順に詰まっていってもよい。
【0041】
より具体的には、前記第1容器に安定化剤粉末を含む第2層、トロンビン粉末を含む第3層、コラーゲン粉末を含む第1層または安定化剤粉末を含む第2層、コラーゲン粉末を含む第1層、トロンビン粉末を含む第3層の順に詰まっていくか、またはトロンビン粉末を含む第3層、コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層またはコラーゲン粉末を含む第1層、トロンビン粉末を含む第3層、安定化剤粉末を含む第2層の順に詰まっていってもよい。
【0042】
前記止血用キットにおいて、前記コラーゲンは架橋されたコラーゲンであってもよい。
【0043】
前記止血用キットにおいて、前記架橋されたコラーゲンは、
S1)コラーゲンをエタノールまたはメタノールに処理するステップと、
S2)前記S1)ステップで処理されたコラーゲンに酸を添加して、pH2~4のコラーゲン溶液に製造するステップと、
S3)前記S2)ステップから製造されたコラーゲン溶液を中性状態にした後、遠心分離してエステル化コラーゲンを製造するステップと、
S4)前記S3)ステップから製造されたエステル化コラーゲンに架橋剤を添加して、架橋されたコラーゲンを製造するステップと、
S5)前記S4)ステップから製造された、架橋されたコラーゲンを精製水に分散させた後、凍結乾燥させるステップと
を含む製造方法により製造することができる。
【0044】
前記止血用キットにおいて、前記架橋されたコラーゲンの分子量は、100,000~1,000,000ダルトンであってもよい。
【0045】
前記止血用キットにおいて、前記止血用組成物の総重量に対して、前記コラーゲンが40~97重量%で含まれてもよい。
【0046】
前記止血用キットにおいて、前記安定化剤は、アルブミン(human serum albumin)、マンニトール、酢酸ナトリウム(C23NaO2)、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選ばれた1種以上であってもよい。
【0047】
前記止血用キットにおいて、前記安定化剤はマンニトールであってもよい。
【0048】
前記止血用キットにおいて、前記止血用組成物の総重量に対して、前記安定化剤が1~30重量%で含まれてもよい。
【0049】
前記止血用キットにおいて、前記止血用組成物の総重量に対して、前記トロンビンが2~50重量%で含まれてもよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明のコラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む止血用組成物は、止血効果に優れている。
【0051】
また、本発明のコラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む止血用組成物は、トロンビンの活性を安定化させて、保管が容易であり、低荷重で組成物を混合することができるため、迅速かつ簡単に使用することができる。
【0052】
また、本発明のコラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む止血用組成物を含む容器は、迅速かつ簡単に使用することができ、毒性がなく血液感染の恐れがない上、生体分解速度が速く、血液との接触時に膨張し、その膨張率が大きいため、止血効果に優れている。
【0053】
従って、本発明の止血用組成物及びこれを含む容器は、止血キットとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】実施例1及び比較例1を塩化カルシウム溶液と混合する際、混合回数に対する必要な力を測定して得られたグラフである。
図2】実施例1及び比較例1を塩化カルシウム溶液と混合して作られた各ハイドロゲルに対するSEM(走査電子顕微鏡)画像である。
図3】実施例1及び比較例1に対するそれぞれの膨張率を測定して得られたグラフである。
図4】実施例1及び比較例1に対するそれぞれの面積変化量を測定して得られたグラフである。
図5】実施例1及び比較例1をラット腎切除モデルにそれぞれ処理して、止血にかかる時間を測定して得られたグラフである。
図6】実施例1及び比較例1をラット腎切除モデルにそれぞれ処理した後、止血能を示す画像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。但し、これは例示として提示されるものであって、これによって本発明が限定されるものではなく、本発明は後述する請求範囲の範疇により定義されるに過ぎない。
【0056】
本発明を説明するにあたって、関連する公知の構成または機能に関する具体的な説明が本発明の要旨を不明確にする虞があると判断される場合は、その詳細な説明は省略する。
【0057】
本発明の構成要素を説明するにあたって、第1、第2、A、B、(a)、(b)などの用語を使用することができる。これらの用語は、その構成要素を他の構成要素と区別するためのものであるだけで、その用語によって当該構成要素の本質や順番または順序などが限定されるものではない。
【0058】
本発明を説明するにあたって、程度を表す用語である「約」、「実質的に」、「程度」などは、言及された意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示される時、その数値でまたはその数値に近接する意味で使用され、本発明の理解を助けるために、正確であるか或いは絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0059】
本発明は、コラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む止血用組成物であるが、前記コラーゲンとトロンビンとが隣接して配置された止血用組成物を提供する。
【0060】
具体的には、前記止血用組成物は、安定化剤、トロンビン、コラーゲンまたは安定化剤、コラーゲン、トロンビンの順に詰まっていくか、またはトロンビン、コラーゲン、安定化剤またはコラーゲン、トロンビン、安定化剤の順に詰まっていってもよい。前記止血剤組成物は、使用の際、希釈液と混合して使用することができ、この場合、前記止血用組成物は、前記希釈液と最初に混合される位置に安定化剤を配置することが好ましく、これにより安定化剤、トロンビン、コラーゲンまたは安定化剤、コラーゲン、トロンビンの順に配置されることが好ましい。
【0061】
本発明の止血用組成物は、粉末剤の形態の各成分が層状に積層された形態であってもよい。具体的には、コラーゲン粉末を含む第1層、安定化剤粉末を含む第2層及びトロンビン粉末を含む第3層が、容器内に層分離して充填された止血用組成物であって、前記コラーゲン粉末を含む第1層とトロンビン粉末を含む第3層とが隣接して配置されるか、さらには前記安定化剤粉末を含む第2層は、希釈液と最初に混合される位置に配置されてもよい。これにより、前記止血用組成物は、安定化剤粉末を含む第2層-トロンビン粉末を含む第3層-コラーゲン粉末を含む第1層または安定化剤粉末を含む第2層-コラーゲン粉末を含む第1層-トロンビン粉末を含む第3層の順に配置されるか、またはトロンビン粉末を含む第3層-コラーゲン粉末を含む第1層-安定化剤粉末を含む第2層またはコラーゲン粉末を含む第1層-トロンビン粉末を含む第3層-安定化剤粉末を含む第2層の順に配置されてもよい。
【0062】
前記コラーゲンは止血用組成物に含まれ、出血部位の血液を吸収し、血小板を引きつけることで、止血効果を引き起こすことができる。また、前記コラーゲンは、血小板とくっつく時は、何もない状態で結合するのではなく、接着剤のような働きをする物質であるフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;vWF)と結合して、血小板の細胞表面上にある膜糖タンパクであるGPIb/IX複合体との結合を促進させることで、一次止血を行うことができる。
【0063】
前記コラーゲンは、様々な動物の組織を酸またはアルカリ処理するか、或いはペプシンなどの酵素を処理することで抽出されるタンパク質であってもよい。
【0064】
前記止血用組成物の総重量に対して、前記コラーゲンが40~97重量%で含まれてもよい。このとき、40重量%未満で含まれる場合、止血効果がかなり低下する虞があり、97重量%を超過して含まれる場合、前記トロンビン及び安定化剤が相対的に少なく含まれることになり、全体の止血用組成物の化学的安定性が低下したり、止血効果が低下したりする虞がある。
【0065】
また、前記コラーゲンは架橋されたコラーゲンであってもよく、このとき、架橋されたコラーゲンは、分子量が100,000~1,000,000ダルトンであることが好ましいが、これに限定されない。前記架橋されたコラーゲンの分子量が100,000ダルトン未満である場合は、血液の吸収力は早いが、血液凝固が遅くなって止血効果が低下する虞があり、1,000,000ダルトンを超過する場合は、血液の吸収力が著しく低下する虞がある。
【0066】
前記架橋されたコラーゲンは、化学的架橋法、物理的架橋法、またはそれらの組み合わせによる方法で製造されてもよく、このとき、化学的架橋法により架橋されたコラーゲンは、架橋剤を用いて自己架橋結合(crosslinking)したコラーゲンである。一方、物理的架橋法により架橋されたコラーゲンは、乾熱処理、紫外線照射、ガンマ線照射により架橋されたコラーゲンである。
【0067】
ここで、前記架橋剤は、ホルムアルデヒド(Formaldehyde)、グルタルアルデヒド(Glutaraldehyde)、カルボジイミド(Carbodiimide(EDC))、ポリエポキシ化合物(Polyepoxy compounds)からなる群から選ばれたいずれか1種以上の架橋剤であってもよい。好ましくは、カルボジイミド(Carbodiimide(EDC))であるが、これに限定されない。
【0068】
前記架橋されたコラーゲンは、機械的強度に優れているため物理的圧迫止血効果を発揮できるので、多量の出血を止血することができる。
【0069】
前記架橋されたコラーゲンは、エステル化されたコラーゲンを架橋して得られたコラーゲンであってもよい。
【0070】
本発明の一実施例において、前記架橋されたコラーゲンは、
S1)コラーゲンをエタノールまたはメタノールに処理するステップと、
S2)前記S1)ステップで処理されたコラーゲンに酸を添加して、pH2~4のコラーゲン溶液に製造するステップと、
S3)前記S2)ステップから製造されたコラーゲン溶液を中性状態にした後、遠心分離してエステル化コラーゲンを製造するステップと、
S4)前記S3)ステップから製造されたエステル化コラーゲンに架橋剤を添加して、架橋されたコラーゲンを製造するステップと、
S5)前記S4)ステップから製造された、架橋されたコラーゲンを精製水に分散させた後、凍結乾燥させるステップと
を含む製造方法により製造することができる。
【0071】
前記S1)ステップは、コラーゲンをエタノールまたはメタノールに処理するステップであって、コラーゲンをエタノールまたはメタノールに溶解して、後で架橋剤を混合する際に容易にするためのステップであり、コラーゲン溶液を製造するステップである。
【0072】
前記S1)ステップの前に、動物の皮膚組織を酸性溶液に処理してアテロコラーゲンを抽出するステップをさらに含んでもよい。
【0073】
前記S2)ステップは、前記S1)ステップで処理されたコラーゲンに酸を添加して、pH2~4のコラーゲン溶液に製造するステップであって、コラーゲン溶液に酸を添加して、コラーゲンを完全にエタノールまたはメタノールに溶解された状態を作るためのステップである。
【0074】
前記S3)ステップは、前記S2)ステップから製造されたコラーゲン溶液を中性状態にした後、遠心分離してエステル化コラーゲンを製造するステップであって、コラーゲンの両端にある約12~27個のアミノ酸からなる非らせん構造をしたテロペプチド(telopeptide)を除去し、前記テロペプチドが除去された部分をエステル化させるステップである。ここで、テロペプチドは、生体内にコラーゲンが投入されたとき、免疫反応を引き起こす主な原因として知られており、これにより、医薬品などの原料として使用する際、免疫反応を避けるために、テロペプチドを除去してアテロコラーゲンまたはエステル化コラーゲンを使用することが好ましい。
【0075】
前記S3)ステップは、中性状態になったコラーゲン溶液にペプシン酵素を処理してテロペプチドが除去され、エステル官能基を有するエステル化コラーゲンを一次的に作った後、遠心分離を利用して高純度のエステル化コラーゲンを分離させるステップであってもよい。
【0076】
このとき、前記遠心分離は、エステル化コラーゲンのみが沈降するよう、1,000rpm~30,000rpmで、5分~3時間行うことが好ましいが、これに限定されない。
【0077】
ここで、前記高純度のエステル化コラーゲンを分離する方法は、
(a)テロペプチドが除去されたアテロコラーゲンを含む試料を容器内に用意するステップと、
(b)前記アテロコラーゲンを含む試料を前記容器からろ過メンブレンが備えられたろ過モジュールへ流入させ、前記ろ過モジュールに圧力を印加して前記試料が前記ろ過メンブレンを通過しながらろ過されるようにする限外ろ過過程を行うステップと、
(c)前記限外ろ過過程を通して、前記ろ過メンブレンを通過しながらろ過されて前記ろ過モジュールから流出するエステル化コラーゲン溶液を収集するステップと、
(d)前記ろ過メンブレンを通過しながらろ過されるエステル化コラーゲン溶液の流量を測定して、限外ろ過速度を決定するステップと、
(e)前記限外ろ過速度が一定の速度以下になると、前記限外ろ過過程を中止するステップと、
(f)前記試料のうち、前記ろ過メンブレンを通過できずに前記容器に戻ってくる残留物に水を添加した後、これを前記ろ過メンブレンが備えられたろ過モジュールへ流入させて透析ろ過過程を行うステップと、
(g)前記透析ろ過過程を通して、前記ろ過メンブレンを通過しながらろ過されて前記ろ過モジュールから流出するエステル化コラーゲン溶液を収集するステップと、
(h)前記(f)ステップと前記(g)ステップを繰り返すステップと
を含んでもよい。
【0078】
前記(b)ステップで、ポンプによるポンピング作用によって前記アテロコラーゲンを含む試料を前記容器から前記ろ過メンブレンが備えられたろ過モジュールへ流入させ、前記ろ過モジュールには約10~30psiの圧力を印加することができる。
【0079】
前記(e)ステップで、前記限外ろ過速度が約1g/分以下になると、前記限外ろ過過程を中止させることができる。
【0080】
前記(f)ステップで、前記容器に戻ってくる残留物には、限外ろ過過程を通してろ過された溶液と同量の精製水を添加することができる。
【0081】
前記(f)ステップ及び(g)ステップでの透析ろ過過程は、少なくとも5回行うことが好ましい。
【0082】
これにより、前記(a)~(h)ステップを通して、アテロコラーゲンをエステル化させながら、高純度のエステル化コラーゲンを得ることができる。
【0083】
一方、前記S4)ステップは、前記S3)ステップから製造されたエステル化コラーゲンに架橋剤を添加して、架橋されたコラーゲンを製造するステップであって、エステル化コラーゲンを架橋させて、物理的圧迫止血効果を発揮できると同時に、免疫反応を起こさない、架橋されたコラーゲンを提供するためのステップである。
【0084】
また、前記S4)ステップでの架橋剤は、前述したように、ホルムアルデヒド(Formaldehyde)、グルタルアルデヒド(Glutaraldehyde)、カルボジイミド(Carbodiimide(EDC))、ポリエポキシ化合物(Polyepoxy compounds)からなる群から選ばれたいずれか1種以上の架橋剤であってもよく、以下の詳細な説明は省略する。
【0085】
前記S5)ステップは、前記S4)ステップから製造された、架橋されたコラーゲンを精製水に分散させた後、凍結乾燥させるステップであって、架橋されたコラーゲンに残っている架橋剤及びテロペプチドが除去されていないコラーゲンを除去するためのステップである。従って、前記S5)ステップは、前記S4)ステップから製造された、架橋されたコラーゲンを精製水に分散させることにより、微量の架橋剤及びテロペプチドが除去されていないコラーゲンを精製水に溶解させ、凍結乾燥によって精製水に溶解されたまま凍結されて除去されてもよい。また、このとき、凍結乾燥は、当該技術分野において用いられる通常の方法であってもよい。
【0086】
前記安定化剤は、止血用組成物に含まれて、前記トロンビンの活性を安定化させ、希釈液と混合するとき、低荷重で組成物を迅速に混合させる。従って、前記安定化剤が止血用組成物に含まれることにより、強力な止血効果を有するコラーゲンとトロンビンを希釈液と混合するとき、低荷重で迅速に混合させるだけでなく、不活性物質として止血用組成物の化学的安定性及び生物学的活性を維持させることを保証することができる。
【0087】
前記安定化剤は、アルブミン(human serum albumin)、マンニトール、酢酸ナトリウム(C23NaO2)、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選ばれた1種以上であってもよい。
【0088】
このとき、前記安定化剤は、アルブミン、マンニトール及び酢酸ナトリウムからなる群から選ばれた1種以上を含むことにより、トロンビンの化学的安定性及び生物学的活性を維持させることができる。
【0089】
また、前記安定化剤は、マンニトール、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選ばれた1種以上を含むことにより、止血時間の延長を抑制し、血液凝固活性を維持させることができる。
【0090】
また、前記安定化剤は、マンニトール、スクロース、トレハロース、ソルビトール及びグリシンからなる群から選ばれた1種以上を含むことにより、低荷重で組成物を迅速に混合することができる。
【0091】
前記安定化剤は、好ましくはマンニトールであるが、これに限定されない。
【0092】
前記マンニトールは、キノコやザクロの根など植物に広く存在する白色の針状または柱状の結晶であって、水によく溶ける上、緩下剤として使用されることもあり、グリセロールの代替剤として使用される。
【0093】
特に、前記マンニトールは、乾燥粉末の再構成速度を大幅に向上させ、再構成された粉末の一貫性を維持させ、乾燥粉末の吸湿性を減少させて粉末間の凝集力を減少させて、粉末の流れ性を高める。
【0094】
前記止血用組成物の総重量に対して、前記安定化剤が1~30重量%で含まれてもよい。このとき、1重量%未満で含まれる場合、前記コラーゲンとトロンビンの化学的安定性及び生物学的活性を維持することが難しく、希釈液と混合するとき、高い荷重が必要となって、混合の利便性が低下する虞があり、30重量%を超過して含まれる場合、前記コラーゲン及びトロンビンが相対的に少なく含まれることになり、全体の止血用組成物の止血効果が低下する虞がある。
【0095】
前記トロンビンは、止血用組成物に含まれ、これは強力な止血因子として血液凝固に関与して血液中の可溶性フィブリノーゲンを加水分解して、不溶性のフィブリンに変化させる反応において、触媒の役割をする。また、前記トロンビンは、二次止血の過程である血液凝固因子の活性化によって繊維素が形成される過程において、血小板の活性化を誘導することができる。
【0096】
前記止血用組成物の総重量に対して、前記トロンビンが2~50重量%で含まれてもよい。このとき、2重量%未満で含まれる場合、止血効果がかなり低下する虞があり、50重量%を超過して含まれる場合、前記コラーゲン及び安定化剤が相対的に少なく含まれることになり、全体の止血用組成物の化学的安定性が低下したり、止血効果が低下したりする虞がある。
【0097】
前記止血用組成物は、粉末剤の形態であってもよく、ここで、乾燥した粉末剤の形態である止血用組成物は、外部環境及び水分によって簡単に液体状態に変質しないように製造された粉末剤の形態であることが好ましい。前記止血用組成物は粉末剤の形態であって、各成分によって化学的安定性を有することができ、互いに混合されない状態で維持させることが容易となり得る。また、取り扱い及び保管が便利であるという利点を有する。
【0098】
本発明の別の実施例によれば、前記止血用組成物を含む容器を提供することができる。
【0099】
このとき、前記止血用組成物を含む容器は、止血効果を有するコラーゲン、安定化剤及びトロンビンが全て詰まっている状態であるため、使用方法が非常にシンプルなので、一刻を争う出血患者に適用できるという利点を有することができる。特に、外科的手術の際、深刻な結紮及び出血が起こるような緊迫した状態や、一刻を争う状態において、希釈液と混合してすぐに出血部位に適用することができるため、使用者の便利性はもちろん、専門的な技術者でなくても手軽に利用できるほど、使用方法が非常にシンプルであるという利点を有する。
【0100】
本発明の別の実施例によれば、コラーゲン、安定化剤及びトロンビンを含む止血用組成物が詰まっている第1容器と、希釈液が詰まっている第2容器とを含む止血用キットであるが、前記第1容器は、前記コラーゲンとトロンビンとが隣接して配置された止血用キットを提供する。
【0101】
前記止血用キットは、前述した止血用組成物を用いており、コラーゲン、安定化剤及びトロンビンも同一であるので、以下の詳細な説明は省略する。
【0102】
前記第1容器は、止血用組成物が詰まっており、コラーゲンとトロンビンとが隣接して詰まっているものであって、外部の物理的な力により、配置された順序が逆転しないようにする。また、前記第1容器に詰まっているコラーゲン、安定化剤、トロンビンが配置された順序によって、後で希釈液と混合されることによって持つ流れ性(flowability)が異なってくるだけでなく、膨張率及び膨張速度が異なってくる可能性がある。これにより、前記第1容器は安定化剤、トロンビン、コラーゲンまたは安定化剤、コラーゲン、トロンビンの順に詰まっていくか、またはトロンビン、コラーゲン、安定化剤またはコラーゲン、トロンビン、安定化剤の順に詰まっていってもよい。前記止血剤組成物は、使用の際、希釈液と混合されて使用されてもよく、この場合、前記止血用キットで止血用組成物が詰まっている第1容器と、希釈液が詰まっている第2容器とを結合して止血剤組成物と希釈液を混合し、この場合、前記第1容器で止血用組成物は、前記希釈液と最初に混合される位置に安定化剤を配置することが好ましい。これにより、第1容器において止血用組成物は、希釈液と混合される位置を考慮して、希釈液と結合する第1容器のノズルから安定化剤、トロンビン、コラーゲンまたは安定化剤、コラーゲン、トロンビンの順に配置されることが好ましい。
【0103】
前記第2容器は、希釈液が詰まっており、このときの希釈液は、前記第1容器の止血用組成物を溶解するか分散させるためのものであって、溶媒または分散媒として使用することができる。例えば、精製水、塩化カルシウム(CaCl2)溶液、塩化ナトリウム(NaCl)溶液、ヒト血清アルブミン(human serum albumin)、及び酢酸ナトリウム(C23NaO2)溶液からなる群から選ばれた1種以上であってもよい。好ましくは、塩化カルシウム溶液または塩化ナトリウム溶液であるが、これに限定されない。
【0104】
前記希釈液が塩化カルシウム溶液である場合、前記希釈液の総重量に対して、前記塩化カルシウムが0.001~30重量%で含まれてもよく、前記止血用組成物との混合がスムーズに行われる範囲の重量%であるなら特に限定されない。
【0105】
前記第1容器または第2容器の形状及び素材は特に限定されないが、医薬及びバイオテクノロジー分野で通常使用されるものであってもよい。例えば、前記第1容器または第2容器の形状は注射器であり、前記第1容器または第2容器の素材は、コラーゲン、安定化剤及びトロンビンの中から選ばれたいずれか一つと化学反応を起こさない素材である。
【0106】
一方、前記止血用キットは、第1容器と第2容器とが互いに結合して、止血用組成物と希釈液が混合されてハイドロゲルを形成することができる。
【0107】
前記第1容器と第2容器とが互いに結合できるよう、第1容器の前端部には締結突起を含み、第2容器は、第1容器の前端部にある締結突起と結合するように締結溝を含んでもよい。
【0108】
また、前記ハイドロゲルは多孔性であり、これで、止血剤として使用する際、血液の吸収率が高く、血液を吸収した後もハイドロゲルの形態が維持されるので、止血効果が低下することなく優れた止血効果を発揮できる。
【0109】
また、前記ハイドロゲルの平均気孔サイズは50μm~200μmであってもよい。平均気孔サイズが50μm未満であると、血液の吸収率が低下し、200μmを超過すると、血液を吸収した後、ハイドロゲルの形態が維持できなくなって止血効果が低下する虞がある。
【0110】
また、前記ハイドロゲルの形成時間は5秒~5分であって、一刻を争うほどの緊迫した状態で、深刻な結紮及び出血を防ぐことができる。また、短時間でハイドロゲルを形成することにより、使用者が手軽に使用することができる。
【0111】
前記ハイドロゲルは、止血用組成物と希釈液が混合されて中性状態のpHを有することにより、前記ハイドロゲルを生体に適用する際、生体適合性及び生体安全性を確保することができる。それに加えて、毒性が少なく、感染安全性を有することができる。これにより、前記ハイドロゲルのpHは6~8であってもよい。
【0112】
本発明の別の様態として、出血部位の止血または出血の傷(bleeding wound)の治療のための前記止血用組成物の用途(use)を提供する。
【0113】
本発明のさらに別の態様として、前記止血用組成物を、止血が要求される個体に処理または処置するステップを含む止血方法を提供する。本発明で「個体」は、身体の一部に出血が発生して止血が要求されるヒトを含む全ての動物を含み、本発明の止血用組成物を、前記個体に処理、処置、適用または投与することにより、効果的に止血することができる。
【発明を実施するための形態】
【0114】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは、通常の技術者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付された特許請求の範囲に属することも当然である。
【0115】
[製造例1:エステル化コラーゲン粉末の製造]
【0116】
下記の工程により、エステル化コラーゲン粉末を製造した。
【0117】
(1)エタノールにコラーゲンを添加した後、冷蔵状態で撹拌した。
【0118】
(2)0.5MのHCIを用いて試料のpHを6.7±0.3に調整した。
【0119】
(3)前記溶液を透析チューブ(dialysis tubing)に入れ、精製水を用いて透析を行った。
【0120】
(4)前記溶液を凍結及び凍結乾燥してエステル化コラーゲン粉末を得た。
【0121】
[製造例2:架橋されたコラーゲン粉末の製造]
【0122】
下記の工程により、架橋されたコラーゲン粉末を製造した。
【0123】
(1)前記製造例1から製造されたエステル化コラーゲンを精製水に入れて撹拌した。
【0124】
(2)十分に混ざったエステル化コラーゲン溶液にEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド)を入れた。
【0125】
(3)EDCがエステル化コラーゲンと十分に反応できるようによく混ぜた。
【0126】
(4)冷蔵状態で2~3日間放置した。
【0127】
(5)架橋化されて固まった、架橋されたコラーゲン溶液を精製水に入れて分散させた。
【0128】
(6)前記架橋されたコラーゲン溶液を放置して層分離が起こったとき、架橋されたコラーゲンのみを取って溶液は捨てた。
【0129】
(7)前記(6)の工程を3~5回繰り返して、架橋されたコラーゲンのみを得た。
【0130】
(8)バッファー(リン酸ナトリウム/塩化ナトリウム)に架橋されたコラーゲンを入れ、冷蔵で1~2日間放置してバッファー(Buffer)中和させた。
【0131】
(9)バッファー(Buffer)で中和させた後、精製水で洗浄し、コラーゲンを凍結及び凍結乾燥した。
【0132】
(10)凍結乾燥済みの前記試料をブレンダー(blender)に入れてすりつぶした。
【0133】
(11)前記パウダーをふるいにかけて、200~355μmサイズの粒子を選別した。
【0134】
[実験例1:流れ性(Flowability)の確認]
【0135】
止血用組成物内に安定化剤であるマンニトールとトロンビン、コラーゲンが配置された順序に応じて、希釈液である塩化カルシウム溶液との混合時における流れ性の差を確認するためのものであって、下記表1のように実施例を用意した。このとき、マンニトール及びトロンビンは、パウダータイプで市販されている製品を使用し、架橋されたコラーゲンは、前記製造例2から得られたものを使用した。
【0136】
【表1】
【0137】
前記表1のように用意された実施例1及び2、参考例3及び4、及び比較例1は、下記の方法で混合する時に必要な力を測定して、その結果を表2に示す。
【0138】
1)2本のシリンジを用意し、一本のシリンジは、シリンジのノズルから入口に向かって前記実施例1及び2、参考例3及び4、及び比較例1のような配置順で各成分を充填し、シリンジ内全体に充填された成分の重量に対して、架橋されたコラーゲンは90重量%、マンニトールは5重量%、トロンビンは5重量%で充填した。一方、残りの1本のシリンジは、10%の塩化カルシウム溶液を充填した。
【0139】
2)2本のシリンジを連結させた(筒先を回しながら差し込み合って結合する)。
【0140】
3)機械を用いて実施例1または比較例1が充填されているシリンジ(male type)を固定させた(つかむ)。
【0141】
4)機械を用いて、塩化カルシウム溶液が充填されているシリンジ(female type)のプッシュロッドを押して、塩化カルシウム溶液を、実施例1または比較例1が入っているシリンジに入れた。このとき、必要な力を測定し、これをN1とする。
【0142】
5)シリンジの位置を変更して、機械に空のシリンジを固定させた(つかむ)。
【0143】
6)混合された内容物が充填されているシリンジ(male type)のプッシュロッドを押して、混合された内容物を空のシリンジに入れた。このとき、必要な力を測定し、これをN2とする。
【0144】
7)5)~6)を繰り返して、混合時に必要な力を測定した。ここで、6)ステップを行う度に必要な力(N3、N4、…、N20)を測定した。
【0145】
【表2】
【0146】
前記表2に示すように、比較例1及び実施例1は、混合に必要な力、すなわち混合時に発生する圧力の大きさが類似していることがわかる。すなわち、比較例1と実施例1の最大値荷重は、両グループで同じく、N4で急激に減少してN20まで概ね減少する傾向を示しており、これはN4以降、内容物の全体的な混合が完了することで混合時に発生する圧力が徐々に減少して、一定してきたことを確認した。こうした試験の結果で、トロンビン-マンニトール-架橋されたコラーゲンの順に充填された比較例1だけでなく、マンニトール-トロンビン-架橋されたコラーゲンの順に配置された実施例1の場合も、混合に必要な圧力を低減させ、原材料がうまく混合されるようにすることを確認した。
【0147】
一方、実施例1だけでなく、マンニトール-架橋されたコラーゲン-トロンビンの順に配置された実施例2の場合も、実施例1と類似した結果を得ており、トロンビン-架橋されたコラーゲン-マンニトールの順に配置された参考例3と架橋されたコラーゲン-トロンビン-マンニトールの順に配置された参考例4の場合は、実施例1及び2よりは混合時に発生する圧力の大きさがやや大きいことが確認された。
【0148】
[実験例2:SEM(Scanning Electron Microscope)による微細構造の確認]
【0149】
前記実験例1を実行した後、塩化カルシウム溶液と混合した比較例1及び実施例1を、SEMを用いて、それぞれの微細構造の画像を得た。その画像は図2に示す。
【0150】
前記図2に示すように、トロンビン-マンニトール-架橋されたコラーゲンの順に充填された比較例1だけでなく、マンニトール-トロンビン-架橋されたコラーゲンの順に配置された実施例1でも、微細で密集した多孔性膜構造を確認することができる。これにより、トロンビン-マンニトール-コラーゲンの順に充填される場合だけでなく、マンニトール-トロンビン-架橋されたコラーゲンの順に充填されても、塩化カルシウム溶液と混合した後、均一な多孔性構造により、血液が吸収され、凝集して止血を助ける多孔性膜構造を有することが確認できた。
【0151】
[実験例3:膨張率及び面積変化量の確認]
【0152】
本発明に係る止血用組成物が希釈液と混合した後の膨張率と面積変化量を確認するために、まず前記実験例1の表1に記載された方法に従って、比較例1及び実施例1をそれぞれ用意した。用意した比較例1及び実施例1の粒子面積をそれぞれ測定した。その次に、各試料を塩化カルシウム溶液と混合した後、1,2,3,5,10,20,30分間隔で粒子面積を測定して、その面積変化率と膨張率を計算した。その結果を図3及び図4に示す。
【0153】
前記図3及び図4に示すように、比較例1と実施例1は、初期の1分以内に急激に膨張して2、3、5,10分まで持続的に膨張するが、10分以降は、面積変化量が飽和状態になることを確認した。
【0154】
[実験例4:分解度試験]
【0155】
本発明に係る止血用組成物内に含まれたコラーゲンの生体分解性及び分解度を測定して、生体適合性を有するのか、分解性が低くて感染の危険性はないのかを確認するために分解度試験を行った。まず、前記実施例1及び比較例1の架橋されたコラーゲンを用意して、それぞれの試料の重量を測定した。その次に、各試料をマイクロ遠心チューブ(micro-centrifuge tube)に入れて25units/mLのコラーゲン分解酵素(Collagenase)が含まれた1XPBSバッファー(buffer)1~2mLを入れて完全に充填した。試料が入っているチューブ(tube)を37℃のウォーターバス(water bath)に入れて、24~72時間放置した。24、48、72時間が経過した後、試料を取り出して凍結乾燥した後、重量を測定した。分解度試験前後に測定した試料の重量を下記の計算式を用いて、残った重量比を計算した。その結果を表3に示す。
【0156】
【表3】
【0157】
比較例1及び実施例1の架橋されたコラーゲンは、72時間以内にコラーゲン分解酵素によって試料がほとんど分解されたことを確認した。従って、本発明のようにトロンビンとコラーゲンとを隣接して配置しても、架橋されたコラーゲンが同一の条件で迅速な分解能を有することを確認して、生体分解性が高く、感染の危険性がかなり少ないことを確認した。
【0158】
[実験例5:ラット腎切除モデルでの止血性能の比較]
【0159】
本発明に係る止血用組成物の止血能を確認するために、前記実験例1と同様に、実施例1及び比較例1を用意した。止血能の比較はラットの腎切除モデルを用いた。腎臓を切断して出血を誘導した後、実施例1或いは比較例1を適用した後、30秒間圧迫止血を行って出血が起こったかどうかを確認し、出血が起こった場合、さらに30秒間の圧迫止血を繰り返した。止血にかかる時間を測定してその結果を図5に示し、止血過程を図6に示す。
【0160】
前記図5に示すように、止血にかかる時間において、実施例1は約68秒、比較例1は約45秒と測定された。これにより、本発明のようにトロンビンとコラーゲンとを隣接して配置しても、優れた止血能を有することを確認した。
【0161】
以上の説明は、本発明を例示的に説明したものに過ぎず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性から外れない範囲で変形された形態で具現化され得ることを理解できるだろう。従って、開示された実施例及び実験例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点から考慮されなければならない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にある全ての違いは、本発明に含まれたものとして解釈されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6